(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】鉄損測定方法および鉄損測定システム
(51)【国際特許分類】
G01R 33/12 20060101AFI20230329BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
G01R33/12 Z
G01R33/02 V
(21)【出願番号】P 2019189701
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018232572
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】溝上 雅人
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特公昭45-030796(JP,B1)
【文献】特開2009-074813(JP,A)
【文献】特開昭59-108970(JP,A)
【文献】特開昭62-282281(JP,A)
【文献】実開平03-057660(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体板の鉄損を測定する鉄損測定方法であって、
前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面に、前記第1の方向に垂直な第2の方向において互いに所定の距離を隔てて、第1の電極、第2の電極を接触させると共に、前記軟磁性体板の前記第1の方向の他方の側面に、前記第2の方向に所定の距離を隔てて、第3の電極、第4の電極を接触させ、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、前記第4の電極、および前記軟磁性体板を用いて構成される回路であって、前記第1の電極および前記第2の電極を入力端とし、前記第3の電極および前記第4の電極が電気的に接続された回路を構成する回路構成工程と、
前記入力端に交流電力を供給し、前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される交流電圧と、前記回路に流れる交流電流とを用いて、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出する鉄損導出工程と、を有し、
前記軟磁性体板の測定領域は、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極の前記軟磁性体板との接触位置により定まり、
前記回路に交流電流が流れることにより前記軟磁性体板は、板厚方向に磁化されることを特徴とする鉄損測定方法。
【請求項2】
前記軟磁性体板の測定領域と磁気的に結合されるヨークを配置するヨーク配置工程を更に有し、
前記ヨークは、第1の磁極面と、前記第1の磁極面と間隔を有して対向する位置にある第2の磁極面とを有し、
前記第1の磁極面は、前記軟磁性体板の測定領域の一方の表面と、接触または間隔を有して対向する状態になり、
前記第2の磁極面は、前記軟磁性体板の測定領域の他方の表面と、接触または間隔を有して対向する状態になることを特徴とする請求項1に記載の鉄損測定方法。
【請求項3】
前記ヨーク配置工程では、前記軟磁性体板の板厚方向から見た場合に、前記第1の磁極面、前記第2の磁極面、および前記軟磁性体板の測定領域が略一致するように、前記ヨークを配置することを特徴とする請求項2に記載の鉄損測定方法。
【請求項4】
前記鉄損導出工程では、前記第1の方向において、前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間に第1の領域と第2の領域とが存在する状態で、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出し、
前記軟磁性体板が励磁された際に前記第1の領域を通る磁束の閉磁路の磁路長の方が、前記第2の領域を通る磁束の閉磁路の磁路長よりも短く、且つ、前記第1の領域の方が、前記第2の領域よりも、前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔が長いことを特徴とする請求項2または3に記載の鉄損測定方法。
【請求項5】
前記第1の方向における何れの領域を前記第1の領域としても、前記第1の領域よりも前記第2の領域側の全ての領域における前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔が、前記第1の領域における前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔を下回らないことを特徴とする請求項4に記載の鉄損測定方法。
【請求項6】
前記ヨークを駆動する駆動工程を更に有し、
前記ヨークは、前記第1の磁極面を有する第1のヨーク部と、前記第2の磁極面を有する第2のヨーク部とを有し、
前記第1のヨーク部と前記第2のヨーク部は、磁気的に結合され、
前記駆動工程では、前記第1のヨーク部と前記第2のヨーク部との少なくとも一方を動かすことにより、前記第1の方向において、前記第1の領域と前記第2の領域とが形成されるようにすることを特徴とする請求項4または5に記載の鉄損測定方法。
【請求項7】
前記第1の方向に間隔を有して並ぶように、前記第1の磁極面と第2の磁極面との間に、複数のサーチコイルを配置するサーチコイル配置工程を更に有し、
前記駆動工程では、前記入力端に交流電力が供給されることにより前記複数のサーチコイルに電磁誘導によって発生する誘導電圧に基づいて、前記第1のヨーク部と前記第2のヨーク部との少なくとも一方を動かすことにより、前記第1の方向において、前記第1の領域と前記第2の領域とが形成されるようにすることを特徴とする請求項6に記載の鉄損測定方法。
【請求項8】
前記鉄損導出工程では、平坦な状態の前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出することを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項9】
前記鉄損導出工程では、搬送中の前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出し、
前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極は、それらの位置が略変わらないように、前記軟磁性体板に対して摺動することを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項10】
前記入力端に直流電力を供給し、前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される直流電圧と、前記回路に流れる直流電流とに基づく、前記回路の直流抵抗を導出する直流抵抗導出工程と、
前記入力端に前記交流電力が供給されたときの前記回路に流れる交流電流または前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される交流電圧と、前記回路の直流抵抗とに基づいて、前記回路のジュール損を導出するジュール損導出工程と、を更に有し、
前記鉄損導出工程では、前記回路のジュール損を更に用いて、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出することを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項11】
前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面から他方の端面までの距離に対する、前記所定の距離の比は、6以上であることを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の鉄損測定方法。
【請求項12】
軟磁性体板の鉄損を測定する鉄損測定システムであって、
前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面に、前記第1の方向に垂直な第2の方向において互いに所定の距離を隔てて接触される、第1の電極、第2の電極と、
前記軟磁性体板の前記第1の方向の他方の側面に、前記第2の方向に所定の距離を隔てて接触される、第3の電極、第4の電極と、
前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、前記第4の電極、および前記軟磁性体板を用いて構成される回路であって、前記第1の電極および前記第2の電極を入力端とし、前記第3の電極および前記第4の電極が電気的に接続された回路に交流電力を供給する交流電力供給手段と、
前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される交流電圧と、前記回路に流れる交流電流とを用いて、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出する鉄損導出手段と、を有し、
前記軟磁性体板の測定領域は、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極の前記軟磁性体板との接触位置により定まり、
前記回路に交流電流が流れることにより前記軟磁性体板は、板厚方向に磁化されることを特徴とする鉄損測定システム。
【請求項13】
前記軟磁性体板の測定領域と磁気的に結合されるヨークを更に有し、
前記ヨークは、第1の磁極面と、前記第1の磁極面と間隔を有して対向する位置にある第2の磁極面とを有し、
前記第1の磁極面は、前記軟磁性体板の測定領域の一方の表面と、接触または間隔を有して対向する状態になり、
前記第2の磁極面は、前記軟磁性体板の測定領域の他方の表面と、接触または間隔を有して対向する状態になることを特徴とする請求項12に記載の鉄損測定システム。
【請求項14】
前記軟磁性体板の板厚方向から見た場合に、前記第1の磁極面、前記第2の磁極面、および前記軟磁性体板の測定領域が略一致することを特徴とする請求項13に記載の鉄損測定システム。
【請求項15】
前記鉄損導出手段は、前記第1の方向において、前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間に第1の領域と第2の領域とが存在する状態で、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出し、
前記軟磁性体板が励磁された際に前記第1の領域を通る磁束の閉磁路の磁路長の方が、前記第2の領域を通る磁束の閉磁路の磁路長よりも短く、且つ、前記第1の領域の方が、前記第2の領域よりも、前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔が長いことを特徴とする請求項13または14に記載の鉄損測定システム。
【請求項16】
前記第1の方向における何れの領域を前記第1の領域としても、前記第1の領域よりも前記第2の領域側の全ての領域における前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔が、前記第1の領域における前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔を下回らないことを特徴とする請求項15に記載の鉄損測定システム。
【請求項17】
前記ヨークを駆動する駆動手段を更に有し、
前記ヨークは、前記第1の磁極面を有する第1のヨーク部と、前記第2の磁極面を有する第2のヨーク部とを有し、
前記第1のヨーク部と前記第2のヨーク部は、磁気的に結合され、
前記駆動手段は、前記第1のヨーク部と前記第2のヨーク部との少なくとも一方を動かすことにより、前記第1の方向において、前記第1の領域と前記第2の領域とが形成されるようにすることを特徴とする請求項15または16に記載の鉄損測定システム。
【請求項18】
前記駆動手段は、前記入力端に交流電力が供給されることにより複数のサーチコイルに電磁誘導によって発生する誘導電圧に基づいて、前記第1のヨーク部と前記第2のヨーク部との少なくとも一方を動かすことにより、前記第1の方向において、前記第1の領域と前記第2の領域とが形成されるようにし、
前記複数のサーチコイルは、前記第1の方向に間隔を有して並ぶように、前記第1の磁極面と第2の磁極面との間に配置されることを特徴とする請求項17に記載の鉄損測定システム。
【請求項19】
前記鉄損導出手段は、平坦な状態の前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出することを特徴とする請求項12~18の何れか1項に記載の鉄損測定システム。
【請求項20】
前記鉄損導出手段は、搬送中の前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出し、
前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極は、それらの位置が略変わらないように、前記軟磁性体板に対して摺動することを特徴とする請求項12~19の何れか1項に記載の鉄損測定システム。
【請求項21】
前記回路に直流電力を供給する直流電力供給手段と、
前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される直流電圧と、前記回路に流れる直流電流とに基づく、前記回路の直流抵抗を導出する直流抵抗導出手段と、を更に有し、
前記鉄損導出手段は、前記入力端に前記交流電力が供給されたときの前記回路に流れる交流電流または前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される交流電圧と、前記回路の直流抵抗とに基づくジュール損を更に用いて、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出することを特徴とする請求項12~20の何れか1項に記載の鉄損測定システム。
【請求項22】
前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面から他方の端面までの距離に対する、前記所定の距離の比は、6以上であることを特徴とする請求項12~21の何れか1項に記載の鉄損測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄損測定方法および鉄損測定システムに関し、特に、軟磁性体板の板厚方向の鉄損を測定するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板に代表される軟磁性体板は、その鉄損によって評価が決まる。電磁鋼板を例に挙げて説明すると、素材特性としての鉄損は、通常、電磁鋼板の圧延方向に励磁されて測定される。しかしながら、電磁鋼板が用いられる電気機器の鉄心構造は複雑であるため、励磁される方向は圧延方向のみに限定されることはない。例えば、特許文献1では、変圧器鉄心の接合部の構造が示されている。特許文献1において、接合部の断面の磁束の流れを示す第5図および第6図では、磁束が電磁鋼板の板面の垂直方向に向くことが示されている。このように電磁鋼板の板面の垂直方向に向く磁束が発生すると一般的に鉄損が増加してしまうことが知られている。以下の説明では、このような板面の垂直方向に向く磁束を必要に応じて垂直磁束と称する。
【0003】
また、特許文献2には、垂直磁束に対する対策として、回転電機の鉄心構造が提案されている。特許文献2では、ステータコアやロータコアを回転軸の方向に分割して巻線からステータコアへの漏れ電流を防ぐことを主目的としている。特許文献2では、その際に問題となるのが、コアを分割したことによって発生する磁束のアンバランスから生じる垂直磁束であると指摘されている。そこで、特許文献2では、絶縁板を設けて垂直磁束を低減させるという構造を提案している。
特許文献2では、鉄心構造の工夫で鉄損の低減を図るが、垂直磁束による鉄損は、電磁鋼板内部の構造によっても変化する。このため、垂直磁束が発生しても低鉄損が得られる電磁鋼板を開発することが一つの技術課題である。その遂行のためには、まず垂直磁束による鉄損特性を正確に測定することが必要となる。
【0004】
垂直磁束による鉄損特性を測定するための励磁方法として、非特許文献1、2に記載の技術がある。
非特許文献1では、まず積層されたサンプルを準備し、一部にギャップを有する額縁状のコアの磁極面に、当該サンプルの表面が接触するように、当該ギャップに当該サンプルを挿入して閉磁路を形成して励磁することにより、当該サンプルの板厚方向の鉄損特性を測定する方法が開示されている。
また、非特許文献2では、まず積層されたサンプルを準備し、複数のU字形のコアを組み合わせて閉磁路を形成させる際に、当該コアの磁極面に、当該サンプルの表面が接触するように、当該ギャップに当該サンプルを挿入して、当該サンプルの板厚方向の鉄損特性を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-10507号公報
【文献】特開2012-253918号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】"Characteristics of transformer core materials for flux normal to the sheet plane", T. Booth, H. Pfutzner, Journal of Magnetism and Magnetic Materials Vol.133 (1994) p183-186
【文献】"Experimental Method for Characterizing Electrical Steel Sheets in the Normal Direction", N. Hihat, J.P. Lecointe, S. Duchesne, E. Napieralska, T. Belgrand, Sensors 2010, Vol.10, p9053-9064
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1、2に記載の技術では、以下の理由で測定精度に問題が生じると考えられる。電磁鋼板の絶縁皮膜部分は非磁性のため、積層されたサンプルをコアで挟むと、サンプル1枚ずつの表面に磁極が生じて反磁界が発生する。この反磁界でサンプルの磁束密度が低下する。従って、コアの磁極面から出た磁束の全てがサンプルを通過するのではなく、膨らんでサンプルの外側を通過する。これはフリンジング磁束と呼ばれ、非特許文献2の
図6に示されている。このためサンプル内に非特許文献2の
図8に示されるような磁束密度の不均一分布が生じる。また、
図7に示すように、磁束701a、701bの膨らみは積層方向での中心に近いほど大きくなる。このため、コアに近いサンプルと積層方向の中心部にあるサンプルとに磁束密度の差が生じる。鉄損は一般的に磁束密度をパラメータとして整理されるため、前記磁束密度の不均一分布は、鉄損の誤差の要因になり得る。また、非特許文献1、2に記載の技術では、サンプルとは別のコアに巻き回されたコイルに励磁電流を流す(即ち、外部励磁を行う)。このため、以上のようなフリンジング磁束が発生することによる問題点は、測定対象の電磁鋼板が積層されていない場合(即ち、測定対象の電磁鋼板が1枚の場合)にも起こり得る。
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、軟磁性体板の板面に垂直な方向における鉄損特性を、正確に測定することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鉄損測定方法は、軟磁性体板の鉄損を測定する鉄損測定方法であって、前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面に、前記第1の方向に垂直な第2の方向において互いに所定の距離を隔てて、第1の電極、第2の電極を接触させると共に、前記軟磁性体板の前記第1の方向の他方の側面に、前記第2の方向に所定の距離を隔てて、第3の電極、第4の電極を接触させ、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、前記第4の電極、および前記軟磁性体板を用いて構成される回路であって、前記第1の電極および前記第2の電極を入力端とし、前記第3の電極および前記第4の電極が電気的に接続された回路を構成する回路構成工程と、前記入力端に交流電力を供給し、前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される交流電圧と、前記回路に流れる交流電流とを用いて、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出する鉄損導出工程と、を有し、前記軟磁性体板の測定領域は、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極の前記軟磁性体板との接触位置により定まり、前記回路に交流電流が流れることにより前記軟磁性体板は、板厚方向に磁化されることを特徴とする。
【0009】
本発明の鉄損測定システムは、軟磁性体板の鉄損を測定する鉄損測定システムであって、前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面に、前記第1の方向に垂直な第2の方向において互いに所定の距離を隔てて接触される、第1の電極、第2の電極と、前記軟磁性体板の前記第1の方向の他方の側面に、前記第2の方向に所定の距離を隔てて接触される、第3の電極、第4の電極と、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、前記第4の電極、および前記軟磁性体板を用いて構成される回路であって、前記第1の電極および前記第2の電極を入力端とし、前記第3の電極および前記第4の電極が電気的に接続された回路に交流電力を供給する交流電力供給手段と、前記第1の電極および前記第2の電極の間に印加される交流電圧と、前記回路に流れる交流電流とを用いて、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出する鉄損導出手段と、を有し、前記軟磁性体板の測定領域は、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極の前記軟磁性体板との接触位置により定まり、前記回路に交流電流が流れることにより前記軟磁性体板は、板厚方向に磁化されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軟磁性体板の板面に垂直な方向における鉄損特性を、正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】鉄損測定システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】電極の構成の一例と、電磁鋼板の測定領域の一例を示す図である。
【
図3】ヨークの構成の一例を示す図(
図1のI-I断面図)である。
【
図4】ヨークを、その側方から見た様子の一例を示す図である。
【
図6】鉄損測定方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図8】第1の実施形態のヨーク内を流れる磁束の一例を概念的に示す図である。
【
図9】ヨークおよびヨークに付随する部分の構成の一例を示す図である。
【
図10】可動ヨーク部を構成する軟磁性体板の一例を示す図である。
【
図11】固定ヨーク部を構成する軟磁性体板の一例を示す図である。
【
図12】可動ヨーク部および固定ヨーク部の一端面(摺動側端面)の一例を示す図である。
【
図13】可動ヨーク部の摺動側端面と固定ヨーク部の摺動側端面とが嵌め合わされる様子の一例を示す図である。
【
図14】可動ヨーク部が回動したときのヨークおよびヨークに付随する部分の構成の一例を示す図である。
【
図15】サーチコイルの配置の一例を示す図である。
【
図16】可動ヨーク部の回動動作を制御するための構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の実施形態では、軟磁性体板の鉄損として、電磁鋼板の製造ラインにおいて搬送中の電磁鋼板の鉄損を測定する場合を例に挙げて説明する。尚、各図に示すX-Y-Z座標は、各図における向きの関係を示すものである。また、X-Y-Z座標を表す記号であって、○の中に●が付されている記号は、紙面の奥側から手前側に向かう方向を表し、○の中に×が付されている記号は、紙面の手前側から奥側に向かう方向を表す。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態を説明する。
図1は、鉄損測定システムの構成の一例を示す図である。各図において、電磁鋼板Sは、平坦な状態で、白抜き矢印線の方向(X軸の正の方向)に搬送されるものとする。
図1において、鉄損測定システムは、直流電源10、交流電源20、切替スイッチ30、電流計40、電圧計50、電力計60、電極70a、70a'、70b、70b'、接続媒体80a~80c、ヨーク90、演算装置100、およびセンサ110、120を有する。
直流電源10は、直流電力を出力する。交流電源20は、交流電力を出力する。
切替スイッチ30は、直流電源10から出力される直流電力と、交流電源20から出力される交流電力との何れかを選択して電磁鋼板S側に出力する。
【0014】
電流計40は、直流電源10から出力された直流電流、および、交流電源20から出力された交流電流を測定する。このように電流計40は、直流電流および交流電流の何れの電流の測定も可能である(即ち、交直両用の電流計である)。本実施形態では、電流計40は、切替スイッチ30(直流電源10および交流電源20)と、電極70aとの間を流れる電流(直流電流および交流電流)を測定する。また、電流計40は、交流電流の測定に際し、少なくとも実効値を測定することができるものを用いる。
電圧計50は、電極70a、70a'間(電極70aとグランドとの間)に配置され、直流電源10により電極70a、70a'間に印加される直流電圧、および、交流電源20により電極70a、70a'間に印加される交流電圧を測定する。このように電圧計50は、直流電圧および交流電圧の何れの電圧の測定も可能である(即ち、交直両用の電圧計である)。また、電圧計50は、交流電圧の測定に際し、少なくとも平均値を測定することができるものを用いる。後述するようにジュール損の導出の際に電圧計50で交流電圧の実効値を測定してもよい。この場合、電圧計50として、平均値の測定と実効値の測定とを切り替えられるものを用いる。
【0015】
電力計60は、交流電源20から出力された交流電流により電極70a、70a'間に印加される交流電圧と、交流電源20から出力された交流電流とに基づく電力(有効電力)を導出する。
図1に示すように本実施形態では、電力計60は、交流電源20と電極70aとの間を流れる交流電流と、電極70a、70a'間の交流電圧(電極70aの電位とグランド電位との電位差)とを入力する。
【0016】
電極70a、70a'、70b、70b'は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の端面(側面)に接触される。接続媒体80aは、電圧計50および電力計60の出力端子と電極70aとの間に接続され、電圧計50および電力計60の出力端子と電極70aとを相互に電気的に接続する。接続媒体80bは、電極70a'と接地端子との間に接続され、電極70a'と接地端子とを相互に電気的に接続する。接続媒体80cは、電極70b、70b'間に接続され、電極70b、70b'を相互に電気的に接続する(即ち、電極70b、70b'は短絡される)。尚、後述するように、接続媒体80a、80bは、撚った状態になっている部分を有するが(
図5を参照)、
図1では、表記の都合上、当該部分の図示を省略している。
【0017】
図2は、電極70a、70a'、70b、70b'の構成の一例と、電磁鋼板Sの測定領域WRの一例を示す図である。具体的に
図2(a)は、電極70a、70a'、70b、70b'および電磁鋼板Sを、電磁鋼板Sの第1の端面側の側方から見た様子の一例を示す図であり、
図2(b)は、電極70a、70a'、70b、70b'および電磁鋼板Sを、電磁鋼板Sの第2の端面側の側方から見た様子の一例を示す図である。
図1および
図2に示すように、電極70a、70a'は、それぞれ、電磁鋼板Sの板幅方向の端面のうち一方の端面の一箇所に接触される(電気的に接続される)。以下の説明では、電磁鋼板Sの板幅方向の端面のうち、電極70aが接触する側の端面を、電磁鋼板Sの第1の端面と称し、電磁鋼板Sの板幅方向の端面のうち、当該端面とは反対側の端面を、必要に応じて、電磁鋼板Sの第2の端面と称する。電極70a、70a'は、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)において間隔を有した状態(所定の距離を隔てた状態)で配置される。電極70b、70b'は、それぞれ、電磁鋼板Sの第2の端面の一箇所に接触される(電気的に接続される)。電極70b、70b'は、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)において間隔を有した状態(所定の距離を隔てた状態)で配置される。
【0018】
本実施形態では、電極70a、70a'、70b、70b'の形状は、円柱形状であるものとする。従って、電極70a、70a'、70b、70b'と、電磁鋼板Sの板幅方向の端面との接触領域a、a'、b、b'の形状は、電磁鋼板Sの板厚方向(Z軸方向)に延びる直線状になる。電磁鋼板Sの領域のうち、電極70a、70a'、70b、70b'と、電磁鋼板Sの板幅方向の端面との接触領域a、a'、b、b'の端部(電磁鋼板Sの板厚方向(Z軸方向)の両端)を頂点とする直方体の領域が、電磁鋼板Sの測定領域WRになる。
図2(a)では、電磁鋼板Sの測定領域WRをグレーで示す(実際には、
図2のような色分けはなされていない)。
【0019】
電極70a、70a'、70b、70b'は、それらの位置が略変わらないように、電磁鋼板Sに対して摺動する。本実施形態では、電極70a、70a'、70b、70b'は、その軸(円柱の中心軸)を回転軸71a、71a'、71b、71b'として回転自在となっている。また、電極70a、70a'、70b、70b'の回転軸71a、71a'、71b、71b'の位置は動かない。このようにすることで、
図2(a)~
図2(c)に示すように、白抜きの矢印線の方向(X軸の正の方向)に電磁鋼板Sが搬送されるのに伴い、電極70a、70a'、70b、70b'は、回転軸71a、71a'、71b、71b'周りの回転を行う(電極70a、70a'、70b、70b'に対して付している矢印線を参照)。白抜きの矢印線の方向(X軸の正の方向)に電磁鋼板Sが搬送されても、電極70a、70a'、70b、70b'の位置(X-Y-Z座標)は、
図2(a)~
図2(c)に示す位置で固定される。
【0020】
以上のようにして電極70a、70a'、70b、70b'を構成することによって、電磁鋼板Sを搬送しながら電磁鋼板Sを通電する際に、電極70a、70a'、70b、70b'と電磁鋼板Sとの間に生じる摩擦力を低減することができる。従って、電磁鋼板Sおよび電極70a、70a'、70b、70b'の損耗を抑制することができる。
【0021】
また、電極70a(接触領域a)および電極70b(接触領域b)は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において、(電磁鋼板Sを挟んで)相互に対向する位置に配置され、同様に、電極70a'(接触領域a')および電極70b'(接触領域b')は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において、(電磁鋼板Sを挟んで)相互に対向する位置に配置される。
【0022】
即ち、電極70a(接触領域a)および電極70b(接触領域b)の、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)および板厚方向(Z軸方向)から定まる位置(X-Z座標)は、近ければ近いほど好ましく、略同じであるのがより好ましく、同じであるのが最も好ましい(実際には完全に同じにするのは容易ではないので、略同じであればよい)。同様に、電極70a'(接触領域a')および電極70b'(接触領域b')の、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)および板厚方向(Z軸方向)から定まる位置(X-Z座標)は、近ければ近いほど好ましく、略同じであるのがより好ましく、同じであるのが最も好ましい(実際には完全に同じにするのは容易ではないので、略同じであればよい)。
以上のようにすれば、
図2(a)に示すように、一般的な鉄損の測定方法と同様に、相互に対向する二辺が圧延方向に沿う長方形(に近い形状)の領域を、電磁鋼板Sの測定領域WRとすることができる。
【0023】
ここで、直流電源10による直流電圧または交流電源20による交流電圧が電極70a、70a'間に印加されることにより、接続媒体80a→電極70a→電磁鋼板S→電極70b→接続媒体80c→電極70b'→電磁鋼板S→電極70a'→接続媒体80→接地端子の経路または当該経路と逆向きの経路に電流(直流電流または交流電流)が流れる。
電極70a、70a'(接触領域a、a')の間隔xおよび電極70b、70b'(接触領域b、b')の間隔xが小さ過ぎると、電極70a、70a'間を、電極70b、接続媒体80c、および電極70b'を経由せずに電流が流れる虞がある。この電流が、鉄損の測定精度に影響を与えるほど大きな電流にならないようにするのが好ましく、この電流が0(ゼロ)になるようにするのが最も好ましい。このような観点から、電磁鋼板Sの板幅をyとすると、電磁鋼板Sの板幅yに対する、電極70a、70a'(接触領域a、a')の間隔xの比(=x/y)は6以上であるのが好ましく、20以上であるのがより好ましい。
【0024】
図1の説明に戻り、ヨーク90は、電磁鋼板Sの測定領域WRと磁気的に結合される。交流電源20による交流電圧が電極70a、70a'間に印加されることにより、接続媒体80a→電極70a→電磁鋼板S→電極70b→接続媒体80c→電極70b'→電磁鋼板S→電極70a'→接続媒体80b→接地端子の経路または当該経路と逆向きの経路に電流(交流電流)が流れる。ヨーク90は、この電流により電磁鋼板Sから発生する磁束が、電磁鋼板Sの測定領域WRの一方の板面からヨーク90を経由して電磁鋼板Sの測定領域WRの他方の板面に戻る閉磁路を流れるように、電磁鋼板Sと磁気的に結合される。
図1では、電磁鋼板S、電極70b、70b'、および接続媒体80cのうち、ヨーク90に隠れている部分(透視することにより見える部分)を破線で示す。
【0025】
図3は、ヨーク90の構成の一例を示す図であり、
図1のI-I断面図である。
図4は、ヨーク90を、その側方から見た様子の一例を示す図である。具体的に
図4(a)は、ヨーク90を、
図1に示す矢印線Aの方向から見た図であり、
図4(b)は、ヨーク90を、
図1に示す矢印線Bの方向から見た図である。
【0026】
ヨーク90は、電磁鋼板Sの測定領域WRの一方および他方の板面と相互に対向する面を磁極面90a、90bとして有する。
磁極面90a、90bの方が、電磁鋼板Sの測定領域WRよりも、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)の長さが長く、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)において、磁極面90a、90bが、電磁鋼板Sの測定領域WRからはみ出すようになっている場合、電磁鋼板Sの領域のうち、電磁鋼板Sの測定領域WRよりも広い領域を磁束が貫く。このため、電磁鋼板Sの測定領域WRよりも広い領域の鉄損を測定していることになり、電磁鋼板Sの測定領域が不明確になる。
【0027】
これとは逆に、磁極面90a、90bの方が、電磁鋼板Sの測定領域WRよりも、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)の長さが短く、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)において、電磁鋼板Sの測定領域WRが、磁極面90a、90bからはみ出すようになっている場合、電磁鋼板Sの測定領域WRのうち、当該はみ出している領域の磁束密度は、電磁鋼板Sの測定領域WRのうち、磁極面90a、90bと重なっている領域の磁束密度よりも低くなる。このため、磁束密度が不均一になる。
【0028】
また、磁極面90a、90bの方が、電磁鋼板Sの測定領域WRよりも、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の長さが短く、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において、電磁鋼板Sの測定領域WRが、磁極面90a、90bからはみ出すようになっている場合にも、電磁鋼板Sの測定領域WRのうち、当該はみ出している領域の磁束密度は、電磁鋼板Sの測定領域WRのうち、磁極面90a、90bと重なっている領域の磁束密度よりも低くなる。このため、磁束密度が不均一になる。
【0029】
磁極面90a、90bの方が、電磁鋼板Sの測定領域WRよりも、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の長さが長く、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において、磁極面90a、90bが、電磁鋼板Sの測定領域WRからはみ出すようになっている場合、当該はみ出している領域の間に電磁鋼板Sはない。この場合には、磁気特性上、大きな問題は生じない。ただし、ヨーク90を小型化する観点からは、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において、磁極面90a、90bと、電磁鋼板Sの測定領域WRとが一致するようにするのが好ましい。
【0030】
以上のことから、本実施形態では、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、磁極面90a、90bと、電磁鋼板Sの測定領域WRとが一致する(X-Y座標が同じになる)ように、磁極面90a、90bの大きさ、形状、および位置が定められる。即ち、磁極面90a、90bの形状と、電磁鋼板Sの測定領域WRの平面形状は、同じであり、磁極面90a、90bの大きさと、電磁鋼板Sの測定領域WRの平面の大きさは、同じであり、電磁鋼板Sの長手方向および板幅方向により定められる磁極面90a、90bの位置(XY座標)と、電磁鋼板Sの長手方向および板幅方向により定められる電磁鋼板Sの測定領域WRの位置(XY座標)は、同じである。
尚、ここでいう同じ(一致)とは、完全に同じである(完全に一致する)のが最も好ましいが、実際には完全に同じにする(完全に一致する)のは容易ではないので、略同じ(略一致)していればよい(このことは、その他の説明においても同じである)。例えば、
図3に示すように、電極70a、70a'、70b、70b'とヨーク90とが電気的および磁気的に結合しないように、電極70a、70a'、70b、70b'とヨーク90との間に隙間を設けるようにしてもよい。また、電極70a、70a'、70b、70b'の、ヨーク90と接触する領域を、非磁性且つ非導電性の材料で構成することにより、電極70a、70a'、70b、70b'とヨーク90との間に隙間を設けないようにしてもよい。
【0031】
また、磁極面90a、90bは、電磁鋼板Sの板面と間隔を有した状態で配置される。磁極面90a、90bと、電磁鋼板Sの板面との間隔は、短いほど好ましい。磁極面90a、90bと、電磁鋼板Sの板面との間の磁気抵抗を小さくすることができるからである。ただし、電磁鋼板Sが搬送された状態で測定が行われるため、磁極面90a、90bは、電磁鋼板Sに接触しないのが好ましい。電磁鋼板Sの板面に疵が形成される虞があるからである。
ヨーク90は、例えば、板面が、
図3に示す(ヨーク90を構成する部分の)形状を有する軟磁性体板(例えば、無方向性電磁鋼板または方向性電磁鋼板)を積層することにより構成することができる。
【0032】
図5は、接続媒体80a~80cの構成の一例を示す図である。接続媒体80a~80cは、導電体を用いて構成されていれば、その形態は特に限定されない。例えば、電線を用いて接続媒体80a~80cを構成してもよい。電線は単線であっても撚線であってもよい。また、導電体製の板(例えば銅板)を用いて接続媒体80a~80cを構成してもよい。導電体製の板と電線とを電気的に接続したものを接続媒体80a~80cとして用いてもよい。また、導電体は、絶縁材で覆われていてもよい。また、接続媒体80a~80cは、その位置が固定されるようにするのが好ましい。接続媒体80a~80cの位置を固定するために、接続媒体80a~80cを構成する導電体を保持部材で保持してもよい。当該保持部材は、非絶縁性および非磁性の、撓まない材料で構成されるのが好ましい。接続媒体80a~80cを構成する導電体と電磁鋼板Sとの間の領域に、当該保持部材の一部の領域が配置されるように当該保持部材を構成すれば、当該保持部材は、接続媒体80a~80cと電磁鋼板Sとの絶縁を確保する機能も有することになる。
【0033】
前述したように接続媒体80aは、電圧計50および電力計60の出力端子と電極70aとの間に接続され、電圧計50および電力計60の出力端子と電極70aとを相互に電気的に接続する。接続媒体80bは、電極70a'と接地端子との間に接続され、電極70a'と接地端子とを相互に電気的に接続する。接続媒体80cは、電極70b、70b'間に接続され、電極70b、70b'を相互に電気的に接続する。
【0034】
また、交流電源20による交流電圧が電極70a、70a'間に印加されることにより、接続媒体80a→電極70a→電磁鋼板S→電極70b→接続媒体80c→電極70b'→電磁鋼板S→電極70a'→接続媒体80b→接地端子の経路または当該経路と逆向きの経路に電流(交流電流)が流れる。接続媒体80a~80cと、電磁鋼板Sとの間に空間がある場合、当該電流が流れることにより発生する磁束は、電磁鋼板Sを貫かずに当該空間を貫くことになる。後述するように、交流入力調整部103は、電圧計50で測定される交流電圧の平均値および周波数が目標値になるように、交流電源20から出力される交流電圧の値を調整する。この目標値は、鉄損の測定条件となる磁束密度に応じて定められる。従って、接続媒体80a~80cと、電磁鋼板Sとの間の空間が大きくなると、電磁鋼板Sを貫かずに当該空間を貫く磁束が多くなり、鉄損の測定条件となる磁束密度よりも、実際に電磁鋼板Sを貫く磁束密度が小さくなる。よって、交流電源20から出力される交流電圧の値を目標値に合わせて調節しても、実際に電磁鋼板Sを貫く磁束密度は、鉄損の測定条件となる磁束密度よりも小さくなる。以上のことから、接続媒体80a~80cと、電磁鋼板Sとの間の空間は、接続媒体80a~80cと、電磁鋼板Sとの絶縁が確保される範囲で狭い方が好ましい。
【0035】
接続媒体80aの一端は、例えば、電極70aの回転軸71aに接続される。接続媒体80bの一端は、例えば、電極70bの回転軸71bに接続される。接続媒体80cの一端、他端は、電極70b、70b'の回転軸71b、70b'に接続される。
接続媒体80cは、電磁鋼板Sとの絶縁が確保される範囲で、電磁鋼板Sの第2の端面に可及的に近い位置で、電磁鋼板Sの第2の端面に沿って配置されるようにするのが好ましい。
【0036】
同様に、接続媒体80a、80bも、電磁鋼板Sとの絶縁が確保される範囲で、電磁鋼板Sの第1の端面に可及的に近い位置で、電磁鋼板Sの第1の端面に沿って配置されるようにするのが好ましい。ただし、接続媒体80a、80bの他端は、電圧計50および電力計60の出力端子に接続される。従って、接続媒体80a、80bの他端側の領域を、電線で構成し、接続媒体80aを構成する電線と、接続媒体80bを構成する電線とを、当該電線が絶縁された状態で撚るようにするのが好ましい。このようにすれば、撚られた当該電線の間にできる空間に生じる磁束が相互に相殺されるからである。
【0037】
図1の説明に戻り、切替スイッチ30により、直流電源10から出力される直流電力が選択された場合、直流電源10から、切替スイッチ30、電流計40、電力計60、電極70a、接点a、電磁鋼板S、接点b、電極70b、電極70b'、接点b'、電磁鋼板S、接点a'、電極70a'を経由して直流電源10に戻る経路(閉路)に直流電流が流れる。以下の説明では、この直流電流が流れる回路を、必要に応じて第1の測定回路と称する。
【0038】
一方、切替スイッチ30により、交流電源20から出力される交流電力が選択された場合、交流電源20から、切替スイッチ30、電流計40、電力計60、電極70a、接点a、電磁鋼板S、接点b、電極70b、電極70b'、接点b'、電磁鋼板S、接点a'、電極70a'を経由して交流電源20に戻る経路と、交流電源20から、電極70a' 、接点a'、電磁鋼板S、接点b' 電極70b'、電極70b、接点b、電磁鋼板S、接点a、電極70a、電力計60、電流計40、切替スイッチ30を経由して交流電源20に戻る経路(閉路)に交流電流が流れる。以下の説明では、この交流電流が流れる回路を、必要に応じて第2の測定回路と称する。
【0039】
演算装置100は、以上のようにして配置される直流電源10、交流電源20、および切替スイッチ30に対する動作の指示を行うと共に、電流計40、電圧計50、および電力計60の測定値を入力して、測定領域の鉄損を導出する。演算装置100は、例えば、CPU、ROM、RAM、HDD、および各種のインターフェースを備える情報処理装置を用いることにより実現することができる。以下に、演算装置100が有する機能の一例を説明する。尚、演算装置100が有する機能の一部または全部を、検査者が行うようにしてもよい。また、
図1において、各構成を相互に繋ぐ線のうち、一点鎖線は、演算装置100内、および、演算装置100と外部との間の情報の伝達経路を示し、実線は、直流電源10から出力される直流電流および交流電源20から出力される交流電流が流れる経路(電線等の導電体)を示す。
【0040】
制御部101は、直流電源10、交流電源20、および切替スイッチ30に対して動作指示を行う。
第2の測定回路において交流電流が流れる経路には、接続媒体80a~80cを含む導電体が使用される。電力計60で測定される有効電力には、この導電体の直流抵抗や、電極70a、70a'、70b、70b'と電磁鋼板Sとの接触抵抗や、電極70a、70a'、70b、70b'および電磁鋼板が持つ電気抵抗によって測定誤差が生じる。
【0041】
そこで、本実施形態では、当該直流抵抗を事前に測定しておき、電力計60で測定された有効電力から、当該直流電流に基づくジュール熱を減算した値を、電磁鋼板Sの測定領域WRの質量で割った値を電磁鋼板Sの測定領域の鉄損として導出する。
そのために、制御部101は、切替スイッチ30に対して、直流電源10から出力される直流電力を選択することを指示する。これにより、切替スイッチ30は、交流電源20と電流計40とが非導通の状態となり、直流電源10と電流計40とが導通状態となるように、スイッチの切り替え動作を行う。
【0042】
そして、制御部101は、直流電源10に対して所定の直流電力を供給することを指示する。これにより、直流電源10から、第1の測定回路に直流電力が出力される。
直流抵抗導出部102は、直流電源10から、第1の測定回路に直流電力が出力された後、電圧計50で測定される直流電圧の値を、電流計40で測定される直流電流の値で割った値を、
図1において、電極70a、70a'を入力端とする回路における直流抵抗として導出して記憶する。尚、この電極70a、70a'を入力端とする回路は、電極70a、70a'、70b、70b'および電磁鋼板Sを用いて構成される回路であって、電極70b、70b'が電気的に接続された(
図1では短絡された)回路である。
【0043】
その後、制御部101は、直流電源10に対して、直流電力の出力を停止することを指示する。そして、制御部101は、切替スイッチ30に対して、交流電源20から出力される交流電力を選択することを指示する。これにより、切替スイッチ30は、直流電源10と電流計40とが非導通の状態となり、交流電源20と電流計40とが導通状態となるように、スイッチの切り替え動作を行う。
【0044】
その後、制御部101は、交流電源20に対して所定の交流電力を出力することを指示する。これにより、交流電源20から、第2の測定回路に交流電力が出力される。
交流入力調整部103は、交流電源20から、第2の測定回路に交流電力が出力された後、電圧計50で測定される交流電圧の平均値および周波数が目標値になるように、交流電源20から出力される交流電圧の値を調整する。目標値は、電磁鋼板Sの測定領域WRの、磁束が貫く方向に垂直な方向における面積(
図1や
図2(a)等に示す例では、接点a、a'、b、b'を頂点とする四角形の面積)と、鉄損の測定条件となる磁束密度とを用いて、当該磁束密度に対応する電極70a、70a'間の電圧を、電磁誘導の法則により導出することにより得られる。
【0045】
鉄損導出部104は、交流入力調整部103により、交流電源20から出力される交流電圧の平均値および周波数が目標値に調整された後、電力計60で測定される交流電力(有効電力)の値と、電流計40で測定される交流電流の値と、直流抵抗導出部102により事前に導出されている直流抵抗と、電磁鋼板Sの測定領域WRの質量とに基づいて、電磁鋼板Sの測定領域の板厚方向(Z軸方向)における鉄損(鉄損の板厚方向(Z軸方向)成分)を導出する。電磁鋼板Sの測定領域の質量は、電磁鋼板Sの測定領域WRの体積と、電磁鋼板の密度との積で表される。
【0046】
鉄損導出部104における鉄損の具体的な導出方法の一例を説明すると、まず、鉄損導出部104は、直流抵抗導出部102により事前に導出されている直流抵抗と、電流計40で測定される交流電流の実効値の2乗との積をジュール損として導出する。尚、電圧計50で測定される交流電圧の実効値の2乗を、直流抵抗で割った値をジュール損として導出してもよい。
そして、鉄損導出部104は、電力計60で測定される交流電力(有効電力)の値からジュール損を引いた値を、電磁鋼板Sの測定領域WRの質量で割った値を、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損として導出する。更に、鉄損導出部104は、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損と、当該電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損を導出した時刻と、当該電磁鋼板Sの測定領域WRの位置と、を相互に関連付けて記憶する。
【0047】
鉄損導出部104は、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損を導出した時刻として、当該電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損を導出する際に用いた、電力計60における交流電力(有効電力)の測定時刻または電流計40における交流電流の測定時刻(測定値を取得した制御周期に対応する時刻)を用いることができる。例えば、電力計60における交流電力(有効電力)の測定値と、電流計40における交流電流の測定値が、同一の制御周期で取得される場合、鉄損導出部104は、当該制御周期に対応する時刻を、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損を導出した時刻として用いることができる。尚、制御周期に対応する時刻とは、例えば、当該制御周期の開始時刻である。
【0048】
また、鉄損導出部104は、電磁鋼板Sの測定領域WRの位置を、例えば以下のようにして導出する。
センサ110は、センサ110の設置位置に電磁鋼板Sがあるか否かを検出する。鉄損導出部104は、センサ110により電磁鋼板Sが初めて検出された時刻(センサ110により電磁鋼板Sが検出されたことを示す信号を初めて取得した制御周期に対応する時刻)を、電磁鋼板Sの先端がセンサ110の設置位置を通過した時刻とする。また、センサ120は、電磁鋼板Sの搬送速度を検出する。鉄損導出部104は、電磁鋼板Sの先端がセンサ110の設置位置を通過した時刻と、電磁鋼板Sの搬送速度とに基づいて、各時刻(各制御周期)において、センサ110の設置位置と、電磁鋼板Sの先端の位置との間の、電磁鋼板Sの搬送方向(X軸方向)における距離X1を導出する(
図5を参照)。
【0049】
また、センサ110の設置位置と、電極70a'、70b'(接触領域a'、b')との間の、電磁鋼板Sの搬送方向(X軸方向)における距離X2と、電極70b、70b'(接触領域b、b')との間の、電磁鋼板Sの搬送方向(X軸方向)における距離X3は、既知である。尚、センサ110の設置位置と、電極70a、70b(接触領域a、b)との間の、電磁鋼板Sの搬送方向(X軸方向)における距離もX2であり、電極70a、70a'(接触領域a、a')との間の、電磁鋼板Sの搬送方向(X軸方向)における距離も、X3である。
【0050】
鉄損導出部104は、各時刻(各制御周期)において、距離X1から、距離X2と距離X3とを加算した距離を減算した距離X4を導出する。鉄損導出部104は、各時刻(各制御周期)において、電磁鋼板Sの先端の位置から尾端側に、電磁鋼板Sの搬送方向(X軸方向)に沿って距離X4だけ離れた位置を、電磁鋼板Sの測定領域WRの先端の位置として導出する。また、鉄損導出部104は、各時刻(各制御周期)において、電磁鋼板Sの先端の位置から尾端側に、電磁鋼板Sの搬送方向(X軸方向)に沿って距離X3と距離X4とを加算した距離だけ離れた位置を、電磁鋼板Sの測定領域WRの尾端の位置として導出する。
【0051】
鉄損導出部104は、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損を導出した時刻(制御周囲)と、当該時刻(制御周期)と同じ時刻(制御周期)における、電磁鋼板Sの測定領域WRの位置(先端および尾端の位置)とを相互に関連付けて記憶する。
鉄損導出部104は、以上のようにして、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損と、当該電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損を導出した時刻と、当該電磁鋼板Sの測定領域WRの位置と、を相互に関連付けて記憶することができる。
制御部101は、電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について前述したようにして鉄損が導出された後、交流電源20に対して、交流電力の供給を停止することを指示する。
【0052】
尚、センサ110、120としては、例えば、電磁鋼板Sの製造ラインに既存のものを使用することができる。センサ110は、例えば、発光部と受光部とを有する。発光部と受光部を電磁鋼板Sの搬送経路を挟むように、電磁鋼板Sの板厚方向(Z軸方向)において相互に対向する位置に配置する場合、受光部が発光部から発光された光を受光しなくなると、電磁鋼板Sが、センサ110の設置位置を通過したことが検出されることになる。また、受光部を、発光部から発光された光の反射光を受光する位置に配置する場合、受光部が発光部から発光された光を受光すると、電磁鋼板Sが、センサ110の設置位置を通過したことが検出されることになる。また、センサ120としては、不図示の搬送ロールに接続されるパルスジェネレータを用いることができる。この場合、パルスジェネレータから出力される単位時間当たりのパルスの数により、電磁鋼板Sの搬送速度が検出される。また、センサ110、120を新たに設置してもよい。
【0053】
出力部105は、鉄損導出部104で導出された電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損の情報を出力する。出力部105は、例えば、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損の時系列データを出力する。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、演算装置100の内部または外部の記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうちの少なくとも何れか1つを採用することができる。
【0054】
次に、
図6のフローチャートを参照しながら、本実施形態の鉄損測定方法の一例を説明する。本実施形態では、ステップS601の処理が行われた後、ステップS602~S606の処理が、所定の制御周期で繰り返し行われるものとする。
【0055】
まず、ステップS601において、直流電源10、交流電源20、切替スイッチ30、電流計40、電圧計50、電力計60、電極70a、70a'、70b、70b'演算装置100、およびセンサ110、120を、
図1に示すように配置し、第1の測定回路および第2の測定回路が構成されるように回路を構成する。また、ヨーク90を配置する。この回路の構成の少なくとも一部は人手で行われもよい。また、ヨーク90の配置も人手で行われてもよい。尚、センサ110、120として既存のセンサを利用する場合、センサ110、120を改めて配置する必要はない。
【0056】
次に、ステップS602において、制御部101は、電極70a、70a'、70b、70b'に電磁鋼板Sが接触するまで待機し、電極70a、70a'、70b、70b'に電磁鋼板Sが接触すると、直流電源10に対して第1の測定回路に直流電力を出力することを指示する。この制御部101からの指示に基づいて、直流電源10から、第1の測定回路に直流電力が出力された後、直流抵抗導出部102は、電圧計50で測定される直流電圧の値を、電流計40で測定される直流電流の値で割った値を、電極70a、70a'を入力端とする回路における直流抵抗として導出して記憶する。
【0057】
電極70a、70a'、70b、70b'に電磁鋼板Sが接触したか否かの判定は、例えば、当該接触の有無を検出するセンサにより、電極70a、70a'、70b、70b'に電磁鋼板Sが接触したことが検出されたか否かを判定することにより行うことができる。また、電極70a、70a'、70b、70b'に電磁鋼板Sが接触する前から、直流電源10に対して第1の測定回路に直流電力を出力して、電流計40で測定される直流電流の値を監視し、電流計40で測定される直流電流の測定ができるようになる(直流電流の値が0(ゼロ)を上回る閾値を超える)と、電極70a、70a'、70b、70b'に電磁鋼板Sが接触したと判定することができる。また、電磁鋼板Sの先端の位置(X軸方向の位置)が電極70a、70a'の設置位置(X軸方向の位置)に一致したときに電磁鋼板Sが接触したと判定することができる。
【0058】
次に、ステップS603において、制御部101からの指示に基づいて、直流電源10から直流電力の出力が停止され、交流電源20から、第2の測定回路に交流電力が出力されると、交流入力調整部103は、電圧計50で測定される交流電圧の平均値および周波数が目標値になるように、交流電源20から出力される交流電圧の値を調整する。
【0059】
次に、ステップS604において、鉄損導出部104は、ステップS602で導出された直流抵抗と、電流計40で測定される交流電流の実効値の2乗との積をジュール損として導出する。
次に、ステップS605において、鉄損導出部104は、電力計60で測定される交流電力(有効電力)の値からステップS604で導出されたジュール損を引いた値を、電磁鋼板Sの測定領域の質量で割った値を、電磁鋼板Sの測定領域の鉄損として導出する。また、鉄損導出部104は、現在の制御周期における電磁鋼板Sの測定領域WRの位置を導出する。そして、鉄損導出部104は、電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損と、現在の制御周期に対応する時刻と、現在の制御周期における電磁鋼板Sの測定領域WRの位置と、を相互に関連付けて記憶する。
【0060】
次に、ステップS606において、演算装置100は、電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS602~S605の処理が行われたか否かを判定する。この判定の結果、電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS602~S605の処理が行われていない場合、処理は、ステップS602に戻る。そして、電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS602~S605の処理が行われるまで、ステップS602~S606の処理が繰り返し実行される。
【0061】
前述したように本実施形態では、ステップS601の処理が行われた後、ステップS602~S606の処理が、所定の制御周期で繰り返し行われるものとする。ただし、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、検査者による測定指示に基づいて、ステップS602~S606の処理が、実行されるようにしてもよい。また、電極70a、70a'を入力端とする回路における直流抵抗を、制御周期毎に更新しなくてもよい。このようにする場合、ステップS606においては、電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS603~S605の処理が行われたか否かを判定し、当該処理が行われた場合、処理はステップS603に戻るようにする。
【0062】
電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS602~S605の処理が行われたか否かの判定は、例えば、電極70a、70a'と電磁鋼板Sとの接触の有無を検出するセンサにより、電極70a、70a'に電磁鋼板Sが接触していないことが検出されたか否かを判定することにより行うことができる。また、電流計40で測定される交流電流の測定ができなくなる(交流電流の実効値が0(ゼロ)または0(ゼロ)を上回る閾値未満になる)と、電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS602~S605の処理が行われたと判定することができる。また、電磁鋼板Sの尾端の位置(X軸方向の位置)が電極70b、70b'の設置位置(X軸方向の位置)に一致したときに電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS602~S605の処理が行われたと判定することができる。
【0063】
そして、電磁鋼板Sの全ての測定可能領域について、ステップS602~S605の処理が行われたと判定されると、処理は、ステップS607に進む。処理がステップS607に進むと、出力部105は、ステップS603で導出された電磁鋼板Sの測定領域WRの鉄損の情報を出力する。また、制御部101は、交流電源20に対して、交流電力の供給を停止することを指示する。そして、
図6のフローチャートを終了する。
【0064】
以上のように本実施形態では、電磁鋼板Sの第1の端面に電極70a、70a'を電気的に接続(接触)させ、電磁鋼板Sの第2の端面に電極70b、70b'を電気的に接続(接触)させた状態とし、電極70a、電極70a'、電極70b、電極70b'、および電磁鋼板Sを用いて構成される回路であって、電極70a、70a'間を入力端とし、電極70bおよび電極70b'が電気的に接続された回路を構成し、当該回路に交流電流が流れることにより発生する磁束が電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)に貫き、電磁鋼板Sが板厚方向に磁化されるようにする。そして、当該回路に流れる交流電流と、電極70a、70a'間の交流電圧とに基づいて、電磁鋼板Sの測定領域WRにおける鉄損を導出する。このように、励磁電流を電磁鋼板Sに直接流すため、フリンジング磁束が発生しない。従って、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向における鉄損特性を、正確に測定することができる。
【0065】
また、本実施形態では、電磁鋼板Sの測定領域WRの一方および他方の板面と相互に対向する面を磁極面90a、90bとして有するヨーク90を用いて、電磁鋼板Sを励磁する。従って、電圧計50で測定される交流電圧の平均値および周波数を目標値にするための交流電源20の電力量を小さくすることができる(即ち、当該目標値にするための励磁電流の実効値を小さくすることができ、励磁し易くなる)。また、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の端部付近における磁束密度が高くなることによる、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の磁束密度の分布を低減することができる。この効果は、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、電磁鋼板Sの測定領域WRと、磁極面90a、90bとが略一致するようにすることによって、より顕著になる。
また、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)において、磁極面90a、90bと、電磁鋼板Sの測定領域WRとが略一致するようにすることによって、電磁鋼板Sの測定領域を明確化することができる。
【0066】
また、本実施形態では、電極70a、70a'、70b、70b'は、その位置が略変わらないように、電磁鋼板Sに対して摺動するので、電磁鋼板Sを搬送しながら測定する場合に、電磁鋼板Sおよび電極70a、70a'、70b、70b'が損耗することを抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態では、鉄損の測定前に、前述した回路における直流抵抗を導出して記憶しておく。そして、当該回路に流れる交流電流と、電極70a、70a'間の交流電圧とに基づく有効電力から、当該直流抵抗に基づくジュール損を引いた値を、電磁鋼板Sの測定領域における鉄損として導出する。従って、電磁鋼板Sの測定領域WRにおける鉄損をより高精度に導出することができる。
【0068】
<変形例>
本実施形態では、電磁鋼板Sが測定対象である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、鉄損の測定対象は、軟磁性体板であれば、電磁鋼板に限定されない。
また、本実施形態では、電磁鋼板Sを搬送させながら(電磁鋼板Sの搬送を止めずに)鉄損を測定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしも、このようにする必要はない。例えば、一辺の長さが数十mm(例えば50mm)の正方形の平面形状を有する電磁鋼板の鉄損を測定するような場合には、当該電磁鋼板を搬送させる必要はない。このようにする場合、ヨークの磁極面を電磁鋼板の測定領域の表面に接触させるのが好ましい。また、電極を摺動させる必要はない。また、前述したようにヨークを用いれば、励磁し易くなると共に磁束密度の分布を低減することができるので好ましい。しかしながら、例えば、鉄損の測定対象が小さい場合や、鉄損の測定対象を電磁鋼板以外の磁性体板(例えば、ストリップ)とする場合には、ヨークを用いなくても、励磁が容易であり、且つ、鉄損の測定精度に影響を与えるほど磁束密度の分布が生じない場合がある。このような場合には、必ずしもヨークを用いる必要はない。
【0069】
また、本実施形態では、電磁鋼板Sが平坦な状態で鉄損が測定される場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない(電磁鋼板の表面が曲げられていてもよい)。このようにする場合、ヨークの磁極面の形状を、電磁鋼板の板面の形状に合わせて変更する(ヨークの磁極面と電磁鋼板の板面とが略平行になるようにする)のが好ましい。また、コイル状に巻き取られた状態の電磁鋼板Sを測定対象としてもよい(以下、コイル状に巻き取られた状態の電磁鋼板Sを必要に応じてコイルと称する)。コイルを測定対象とする場合、電極70a、70a'、70b、70b'とコイルとが接触するコイルの径方向(電磁鋼板の巻厚方向)の位置が同じになるようにするのが好ましい。コイルの径方向(電磁鋼板の巻厚方向)の位置が同じであることは、コイルを構成する電磁鋼板の層が同じであることを意味するものとする。例えば、コイルの最外周の層において、当該コイルを構成する電磁鋼板の板幅方向の端面に電極を接触させるようにする。また、コイルを測定対象とする場合、コイルを構成する電磁鋼板の板幅方向の端面のうち、電極を接触させる必要がある端面のみに電極が接触するように、電極の形状を例えば針形状にするのが好ましい。また、コイルを測定対象とする場合、磁束は、測定領域以外の電磁鋼板も貫く。例えば、コイルの最外周の層の領域を測定対象とする場合、磁束は、最外周の層の電磁鋼板だけでなく、最外周の層よりも内側にある層の電磁鋼板も貫く。このため、測定される鉄損には、測定領域以外の電磁鋼板の磁気特性による影響も含まれる。しかしながら、例えば、鉄損の簡易的な測定を行う場合や、コイル間の相対的な鉄損の大小関係を評価する場合には、コイルを測定対象とすることは有用である。
【0070】
更に、測定対象の電磁鋼板が平板でない場合には、電磁鋼板の曲率に応じて鉄損を補正してもよい。例えば、電磁鋼板の種類(鋼種)および励磁条件毎に、電磁鋼板の曲率半径と鉄損劣化率との関係を予め調査する。励磁条件には、磁束密度と励磁周波数とが含まれる。鉄損劣化率Xは、例えば、或る曲率半径で曲げられた電磁鋼板(のサンプル)の鉄損WRの測定値から平坦な当該電磁鋼板(のサンプル)の鉄損WFの測定値を引いた値を、当該平坦な電磁鋼板の鉄損WFの測定値で割った値(を百分率で表したもの)として導出される(X={(WR-WF)/WF}×100)。或る曲率半径で曲げられた電磁鋼板の鉄損劣化率Xが30[%]であることは、当該曲率半径で曲げられた電磁鋼板の鉄損は、平坦な当該電磁鋼板の鉄損に、当該平坦な電磁鋼板の鉄損の30[%]の値を加算した値になることを表す。ここでの鉄損の測定方法は、特に限定されない。或る曲率半径で曲げられた電磁鋼板の鉄損を測定する際には、当該電磁鋼板の曲率半径と略同じ曲率半径の先端面を有する継鉄(ヨーク)を用いればよい。
【0071】
或る鋼種の平坦な電磁鋼板(のサンプル)を或る励磁条件で励磁した場合の鉄損を測定することと、或る曲率半径で曲げた状態の当該鋼種の電磁鋼板(のサンプル)を当該励磁条件で励磁した場合の鉄損を測定することとを、当該曲率半径を異ならせて行う。これにより、或る鋼種および或る励磁条件における電磁鋼板の曲率半径と鉄損劣化率Xとの関係が得られる。このような電磁鋼板の曲率半径と鉄損劣化率との関係の導出を、鋼種および励磁条件を異ならせて行うことにより、電磁鋼板の種類(鋼種)および励磁条件毎に、電磁鋼板の曲率半径と鉄損劣化率Xとの関係が得られる。電磁鋼板の曲率半径と鉄損劣化率Xとの関係は、当該関係を示す式であっても、電磁鋼板の曲率半径と鉄損劣化率Xとを相互に関連付けて記憶したテーブルであってもよい。鉄損導出部104は、電磁鋼板の種類(鋼種)および励磁条件毎の、電磁鋼板の曲率半径と鉄損劣化率Xとの関係を示す情報を、電磁鋼板の測定領域の鉄損に先立って(
図6のフローチャートが開始する前の段階で)記憶しておく。かかる情報の取得の形態としては、例えば、外部装置からの受信、可搬型の記憶媒体からの読み出し、または、検査者による入力操作が挙げられるが、特に限定されない。
【0072】
電磁鋼板の測定領域の鉄損に先立って(
図6の1回目のステップS602よりも前の段階で)、検査者は、測定対象の電磁鋼板を構成する電磁鋼板の種類(鋼種)、励磁条件、および電磁鋼板の曲率半径を示す情報を、演算装置100のユーザーインターフェースを操作することにより、演算装置100に入力する。鉄損導出部104は、演算装置100に入力された情報に対応する鉄損劣化率Xを、予め記憶しておいた情報から読み出す。そして、ステップS605において、鉄損導出部104は、電力計60で測定される交流電力(有効電力)の値からステップS604で導出されたジュール損を引いた値を、電磁鋼板の測定領域の質量で割った値をW'[W/kg]とし、電磁鋼板の測定領域の鉄損をW[W/kg]とし、読み出した鉄損劣化率をX[%]とすると、以下の(1)式により、電磁鋼板の測定領域の鉄損Wを導出する。
W=W'×{1/(1+X/100)} ・・・(1)
【0073】
尚、電磁鋼板が曲率を有することにより平坦である場合に比べて鉄損がどの位変化するかの指標値であって、或る曲率半径で曲げられた電磁鋼板の鉄損WRと平坦な当該電磁鋼板の鉄損WFとを用いて定められる指標値であれば、必ずしも前述したようにして鉄損劣化率Xを定めなくてもよい。例えば、鉄損劣化率Xは、平坦な電磁鋼板の鉄損WFから或る曲率半径で曲げられた当該電磁鋼板の鉄損WRを引いた値を、当該曲率半径で曲げられた電磁鋼板の鉄損WRで割った値(を百分率で表したもの)であってもよい(X={(WF-WR)/WR}×100)。この場合、(1)式に代えて、以下の(1)'式 により、電磁鋼板Sの測定領域の鉄損Wが導出される。
W=W'×(1+X/100)・・・(1)'
【0074】
また、本実施形態では、1枚の電磁鋼板Sを測定対象とする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、積層された複数枚の電磁鋼板を測定対象としてもよい。このようにする場合、4つの電極のそれぞれが、積層された複数枚の電磁鋼板の板幅方向の端面の全てと接触するようにすることができる。また、1つまたは複数の層毎に電極を配置してもよい。
【0075】
例えば、4枚の電磁鋼板を測定対象とする場合であって、1つの層毎に電極を配置する場合には、1層目の電磁鋼板の板幅方向の端面に接触する4つの電極と、2層目の電磁鋼板の板幅方向の端面に接触する4つの電極と、3層目の電磁鋼板の板幅方向の端面に接触する4つの電極と、4層目の電磁鋼板の板幅方向の端面に接触する4つの電極と、を用いることができる。このようにする場合、例えば、電圧計50および電力計60の出力端子に接続媒体80aを介して4つの電極が電気的に接続され、接地端子に接続媒体80bを介して4つの電極が電気的に接続され、当該4つの電極の反対側に配置される4つの電極同士が接続媒体80cを介して電気的に接続されるようにすることができる。
【0076】
また、4枚の電磁鋼板を測定対象とする場合であって、2つの層毎に電極を配置する場合には、1層目と2層目の電磁鋼板の板幅方向の端面に接触する4つの電極と、3層目と4層目の電磁鋼板の板幅方向の端面に接触する4つの電極と、を用いることができる。このようにする場合、例えば、電圧計50および電力計60の出力端子に接続媒体80aを介して2つの電極が電気的に接続され、接地端子に接続媒体80bを介して2つの電極が電気的に接続され、当該2つの電極の反対側に配置される2つの電極同士が接続媒体80cを介して電気的に接続されるようにすることができる。
以上のようにしても本実施形態では、励磁電流を電磁鋼板に直接流すことができる。
【0077】
また、本実施形態では、板面方向のうち圧延方向に垂直な方向(板幅方向)の端面に電極70a、70a'、70b、70b'を電気的に接触させる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、板面方向における一方向の一方の端面と他方の端面に電極を電気的に接続していれば、必ずしもこのようにする必要はない。
【0078】
また、前述したように、前述した閉回路に流れる交流電流と、電極70a、70a'間の交流電圧とに基づく有効電力(電力計60で測定される有効電力)からジュール損を引くことにより、鉄損をより高精度に導出することができるので好ましい。しかしながら、例えば、回路の直流抵抗が小さい場合には、必ずしも、ジュール損を導出しなくてもよい。
【0079】
また、本実施形態では、電極70a(接点a)および電極70a'(接点a')を、電圧測定と電流測定とで共用とし、電圧および電流を二端子法で測定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、電極70a(接点a)および電極70a'(接点a')を、電圧測定用と電流測定用のそれぞれのために設け、電圧および電流を四端子法で測定してもよい。
【0080】
また、電流計40および電圧計50として交直両用のものを用いれば、構成が簡単になるので好ましいが、電流計40に代えて、直流電流計と交流電流計との双方を用いてもよいし、電圧計50に代えて、直流電圧計と交流電圧計との双方を用いてもよい。また、直流電源10および交流電源20を、交直両用の電源に置き替えることもできる。
【0081】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、ヨーク90の形状が、
図3および
図4に示す状態から変化しない場合を例に挙げて説明した。このようにする場合の課題について説明する。
図8は、第1の実施形態のヨーク90内を流れる磁束の一例を概念的に示す図である。
図8は、
図3と同様に、
図1のI-I断面図である。ただし、
図8では、表記の都合上、ハッチングを省略する。
【0082】
第1の実施形態で説明したように、電磁鋼板Sから発生する磁束が、電磁鋼板Sの測定領域WRの一方の板面からヨーク90を経由して電磁鋼板Sの測定領域WRの他方の板面に戻る閉磁路を流れる。このようにすると、当該閉磁路を流れる磁束の磁路長が、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において異なる。このことは、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において、磁気抵抗が異なることに対応する。従って、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において、磁束密度が異なる。
【0083】
図8において、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域を通る磁束の磁路801aと、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の負の方向側(電極70a側)の領域を通る磁束の磁路801bと、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の中央に近い領域を通る磁束の磁路801cの磁路長を比べると、磁路801aの磁路長が最も短くなり、磁路801bの磁路長が最も長くなる。この場合、磁路801bにおける磁気抵抗が最も高くなり、磁路801aにおける磁気抵抗が最も低くなる。従って、磁路801bにおける磁束密度が最も低くなり、磁路801aにおける磁束密度が最も高くなる。このように、
図8に示す例では、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において電極70bに近い領域ほど磁束密度が高くなり、電極70aに近い領域ほど磁束密度が低くなる。鉄損の測定をより高精度に行うためには、電磁鋼板Sにおいて一定の磁束密度の下で鉄損を測定するのが好ましい。従って、前述した電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度の差異は、鉄損の測定誤差の要因になり得る。
【0084】
そこで、本実施形態では、以上のような電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度の差異が低減するように、ヨークの磁極面の間隔(電磁鋼板Sを介して相互に対向する2つの磁極面の間の距離)を、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において調整することができるようにする。このように本実施形態と第1の実施形態とは、ヨークの磁極面の間隔を調整することができるようにするための構成が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、
図1~
図7に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0085】
図9は、ヨーク910およびヨーク910に付随する部分の構成の一例を示す図である。
図9において、ヨーク910は、電磁鋼板Sの測定領域WRの一方および他方の板面と相互に対向する面を磁極面910a、910bとして有する。磁極面910a、910bの形状および大きさは、第1の実施形態の磁極面90a、90bと同じである。
【0086】
ヨーク910は、可動ヨーク部911と固定ヨーク部912とを有する。可動ヨーク部911および固定ヨーク部912は、積層された複数の軟磁性体板を用いることにより実現される。可動ヨーク部911および固定ヨーク部912を構成する軟磁性体板は、例えば、無方向性電磁鋼板または方向性電磁鋼板である。
図10は、可動ヨーク部911を構成する軟磁性体板の一例を示す図である。
可動ヨーク部911は、板面が
図10(a)に示す形状を有する第1の軟磁性体板1010と、板面が
図10(b)に示す形状を有する第2の軟磁性体板1020とを、1枚ずつ交互に積層し、固定することにより構成される。
【0087】
第1の軟磁性体板1010には、貫通孔1010aが形成される。貫通孔1010aは、第1の軟磁性体板1010の角部のうち、電極70aに最も近い位置に配置される角部の内側の領域に形成される。第2の軟磁性体板1020にも、貫通孔1020aが形成される。貫通孔1020aは、第2の軟磁性体板1020の角部のうち、電極70aに最も近い位置に配置される角部の内側の領域に形成される。貫通孔1010a、1020aの形状および大きさは同じである。また、貫通孔1010aの重心と、第1の軟磁性体板1010の角部のうち、電極70aに最も近い位置に配置される角部の頂点との距離と、貫通孔1020aの重心と、第2の軟磁性体板1020の角部のうち、電極70aに最も近い位置に配置される角部の頂点との距離と、は同じである。
【0088】
第1の軟磁性体板1010と、第2の軟磁性体板1020とを、1枚ずつ交互に積層する際には、貫通孔1010a、1020aおよび貫通孔1010a、1020aに最も近い位置の角部とが相互に合うようにする。このようにすることにより、可動ヨーク部911には、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)に貫通する貫通孔が形成される。
【0089】
図9に示すように、可動ヨーク部911に形成される貫通孔には、シャフト920が挿入される。シャフト920の長手方向(X軸方向)の一方側の領域と他方側の領域は、シャフト920が回動できる状態で不図示の支持部材により支持される。シャフト920の回動軸は、シャフトの軸と一致する。シャフト920の外周面は、シャフト920の回動に伴い可動ヨーク部911が回動するように、可動ヨーク部911と電気的および磁気的に絶縁された状態で、可動ヨーク部911の貫通孔の面と接触する。例えば、シャフト920の外周面のうち、可動ヨーク部911の貫通孔と接触する領域と、可動ヨーク部911の貫通孔の面とは、電気的および磁気的に絶縁された状態で接着される。シャフト920は、例えば、非磁性且つ非導電性の材料で構成される。
【0090】
図11は、固定ヨーク部912を構成する軟磁性体板の一例を示す図である。
固定ヨーク部912は、板面が
図11(a)に示す形状を有する第3の軟磁性体板1110と、板面が
図11(b)に示す形状を有する第4の軟磁性体板1010とを、1枚ずつ交互に積層し、固定することにより構成される。
【0091】
第3の軟磁性体板1110は、第1の軟磁性体板1010に対し貫通孔1010aを形成しないもので実現することができる(第3の軟磁性体板1110と第1の軟磁性体板1010との違いは、貫通孔1010aの有無のみとすることができる)。第4の軟磁性体板1120は、第2の軟磁性体板1020に対し貫通孔1020aを形成しないもので実現することができる(第4の軟磁性体板1120と第2の軟磁性体板1020との違いは、貫通孔1020aの有無のみとすることができる)。
【0092】
図12は、可動ヨーク部911および固定ヨーク部912の一端面の一例を示す図である。具体的に
図12(a)は、可動ヨーク部911の一端面の一例を示し、
図12(b)は、固定ヨーク部912の一端面の一例を示す。
図12に示す可動ヨーク部911および固定ヨーク部912の一端面は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の2つの端面のうち、磁極面910a、910bと繋がっていない端面(
図9において最も電極70b側(Y軸の正の方向側)に位置する端面)である。以下の説明では、
図12に示す可動ヨーク部911および固定ヨーク部912の一端面を、必要に応じて摺動側端面と称する。
【0093】
図10(a)および
図10(b)に示す第1の軟磁性体板1010および第2の軟磁性体板1020を前述したようにして1枚ずつ交互に積層することにより、
図12(a)に示すように、可動ヨーク部911の摺動側端面の形状は、櫛歯状になる。同様に、
図11(a)および
図11(b)に示す第3の軟磁性体板1110および第4の軟磁性体板1120を前述したようにして1枚ずつ交互に積層することにより、
図12(b)に示すように、固定ヨーク部912の摺動側端面の形状は、櫛歯状になる。
【0094】
図9に示すように、固定ヨーク部912は、固定ヨーク部912の磁極面910bを構成する面が電磁鋼板Sの下側(Z軸の負の方向側)の測定領域WRと平行な状態で対向するように、位置決めがなされ、位置決めされた位置に固定される。ここでいう平行とは、完全に平行であるのが最も好ましいが、実際には完全に平行にするのは容易ではないので、略平行であればよい(このことは、その他の説明においても同じである)。
【0095】
可動ヨーク部911の摺動側端面の櫛歯状の凸部が、固定ヨーク部912の摺動側端面の櫛歯状の凹部の領域に完全に嵌め合わされると、可動ヨーク部911の磁極面910aを構成する面が電磁鋼板Sの上側(Z軸の正の方向側)の測定領域WRと平行な状態で相互に対向し、且つ、固定ヨーク部912の磁極面910bを構成する面と電磁鋼板Sを介して平行な状態で相互に対向するように、可動ヨーク部911の貫通孔に挿入されたシャフト920の位置決めがなされ、位置決めされた位置で、可動ヨーク部911の貫通孔に挿入されたシャフト920が不図示の支持部材により支持される。
【0096】
図13は、可動ヨーク部911の摺動側端面と固定ヨーク部912の摺動側端面とが嵌め合わされる様子の一例を示す図である。具体的に
図13(a)は、可動ヨーク部911の摺動側端面の櫛歯状の凸部が、固定ヨーク部912の摺動側端面の櫛歯状の凹部の領域に完全に嵌め合わされた状態の一例を示す。
図9に示す状態のときに、可動ヨーク部911の摺動側端面と固定ヨーク部912の摺動側端面は、
図13(a)に示す状態になる。以下の説明では、この状態を、必要に応じて初期状態と称する。初期状態では、ヨーク910と第1の実施形態のヨーク90の位置、大きさ、および形状は同じである。
【0097】
図9に示す初期状態からシャフト920が
図9の紙面に向かって反時計回りの方向(Y軸からZ軸に向かう方向)に回動すると、当該回動に伴い、可動ヨーク部911も回動する。そうすると、
図13(b)に示すように、可動ヨーク部911の摺動側端面の櫛歯状の凸部が、固定ヨーク部912の摺動側端面の櫛歯状の凹部に対して摺動し、可動ヨーク部911の摺動側端面の櫛歯状の凸部の一部の領域が、固定ヨーク部912の摺動側端面の櫛歯状の凹部よりも上方(Z軸の正の方向側)に移動する。このように
図13(b)は、可動ヨーク部911が回動した状態の一例を示す。以下の説明では、このような状態を、必要に応じて回動状態と称する。
【0098】
図14は、可動ヨーク部911が回動したときのヨーク910およびヨーク910に付随する部分の構成の一例を示す図である。可動ヨーク部911が回動すると、
図9に示す初期状態から
図14に示す回動状態ようになる。
図14に示す状態のときに、可動ヨーク部911の摺動側端面と固定ヨーク部912の摺動側端面は、
図13(b)に示す状態になる。
【0099】
図9に示す初期状態では、第1の実施形態と同様に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度に大きな差異が生じる虞がある。これに対し、
図14に示す回動状態では、ヨーク910の磁極面910a、910bの間隔は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において電極70bに近い領域ほど大きくなる。従って、
図14に示す回動状態では、
図9に示す初期状態に比べ、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域であるほど、磁束の磁路長の増加分が大きくなると共に磁路に含まれる空気の領域が長くなる。従って、
図14に示す回動状態では、
図9に示す初期状態に比べ、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域における磁気抵抗が高くなり、磁束密度が低減される。よって、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度の差異が低減する。
【0100】
本実施形態では、以上のように可動ヨーク部911を回動させることにより、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度の差異を低減させることができるようにする。以下に、可動ヨーク部911を回動させるための構成の一例について説明する。
【0101】
図9において、駆動装置930は、基台部930aと、可動部930bと、保持部930cとを有する。
基台部930aは、可動部930bと保持部930cとを支持する。基台部930aは、可動部930bと保持部930cとの接続点930dの動く軌跡が、可動ヨーク部911の回動方向と略平行になるように可動部930bを動かすための機構(モータ等)を有する。
図9では、可動ヨーク部911の回動方向を、破線の両矢印線で表す。可動部930bは、
図9の紙面に向かって反時計回りの方向および時計回りの方向の何れの方向にも回動することができる。本実施形態では、説明を簡単にするため、可動ヨーク部911の回動範囲は大きくないものとし、可動部930bは、直線運動をする(
図9に示す可動ヨーク部911の回動方向を示す破線の両矢印線を直線に近似できる)場合を例に挙げて説明する。このようにする場合、可動部930bを動かすための機構は、例えば、モータと、当該モータの回転運動を直線運動に変換するボールねじとを有する。
【0102】
可動部930bの下側(Z軸の負の方向側)の一部の領域は、基台部930aが有する前述した機構(可動部930bを動かすための機構)に取り付けられている。本実施形態では、可動部930bの下側(Z軸の負の方向側)の一部の領域は、例えば、ボールねじのねじ軸に取り付けられている。基台部930aの上側(Z軸の正の方向側)の面の一部の領域は開口している。可動部930bの上側(Z軸の正の方向側)の領域は、基台部930の上側の面の開口している領域を介して、基台部930bの外部に配置される。
【0103】
保持部930cは、接続点930dを含む領域で可動部930bと接続され、可動部930bに固定される。保持部930cと可動部930bは、例えば、接着される。保持部930cの先端面は、可動ヨーク部911の摺動側端面と磁気的および電気的に絶縁された状態で接続され、可動ヨーク部911に固定される。保持部930cと可動ヨーク部911は、例えば、接着される。保持部930cは、例えば、非磁性且つ非導電性の材料で構成される。
【0104】
次に、可動ヨーク部911の回動動作を制御するための構成の一例を説明する。
図9において、サーチコイル940a、940bは、ヨーク910の磁極面910aと電磁鋼板Sとの間の領域に配置される。このとき、サーチコイル940a、940bは、ヨーク910の磁極面910a、910bおよび電磁鋼板Sと離隔した状態であるのが好ましい。サーチコイル940aは、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の負の方向側(電極70a側)に配置され、サーチコイル940bは、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)に配置される。また、サーチコイル940a、940bは、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において間隔を有した状態で配置される(サーチコイル940a、940bは、相互に重なり合わない)。
【0105】
図15は、サーチコイル940a、940bの配置の一例を示す図である。
図15では、電磁鋼板Sの測定領域WRをグレーで示す(実際には、
図15のような色分けはなされていない)。尚、
図15では、表記の都合上、
図5に示した構成の一部の図示を省略する。
サーチコイル940a、940は、電磁鋼板Sの板面と平行な仮想面において周回するコイルである。本実施形態では、説明を簡単にするため、サーチコイル940a、940の巻回数、大きさ、および形状は同じであるものとする。サーチコイル940a、940は、例えば、同じもので実現することができる。
【0106】
図15では、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、サーチコイル940a、940bが、電磁鋼板Sの測定領域WRからはみ出さないようにする場合を例に挙げて示す。また、
図15では、サーチコイル940a、940bは、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の中心を通り、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)に伸びる仮想線を対称軸として軸対称となる位置に配置される場合を例に挙げて説明する。
【0107】
尚、サーチコイルの、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)における長さは、電磁鋼板Sの測定領域WRの、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)における長さに近ければ近いほど好ましく、略同じであるのがより好ましく、同じであるのが最も好ましい(実際には完全に同じにするのは容易ではないので、略同じであればよい)。電磁鋼板Sの測定領域WRを貫く磁束を検出することができるからである。このことは、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)においても同じである。
また、例えば、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、サーチコイルが、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)において、電磁鋼板Sの測定領域WRからはみ出していてもよい。このことは、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)においても同じである。
【0108】
本実施形態では、電磁鋼板Sが励磁された際に以上のようにして配置されるサーチコイル940a、940bに電磁誘導によって発生する誘導電圧(誘導起電力)に基づいて、可動ヨーク部911の回動動作を制御する。
図16は、可動ヨーク部911の回動動作を制御するための構成の一例を示す図である。尚、
図16において、各構成を相互に繋ぐ線のうち、一点鎖線は、演算装置160内、および、演算装置160と外部との間の情報の伝達経路を示し、実線は、サーチコイル940a、940bと、サーチコイル940a、940b間およびサーチコイル940a、940bと電圧計1610、1620との間において交流電流が流れる経路(電線等の導電体)と、を示す。尚、表記を簡単にするため、
図16では、サーチコイル940a、940bの巻回数が1である場合を例示するが、サーチコイル940a、940bの巻回数は2以上であってもよい。
【0109】
電圧計1610は、サーチコイル940aの両端の間に配置され、電磁鋼板Sが励磁されることによりサーチコイル940aに電磁誘導によって発生する誘導電圧vaを測定する。電圧計1620は、サーチコイル940bの両端の間に配置され、電磁鋼板Sが励磁されることによりサーチコイル940bに電磁誘導によって発生する誘導電圧vbを測定する。このように、本実施形態では、説明を簡単にするため、サーチコイル940a、940bに電磁誘導によって発生する誘導電圧va、vbを電圧計1610、1620で個別に測定する場合を例に挙げて説明する。
【0110】
演算装置1630は、電圧計1610、1620で測定された誘導電圧va、vbに基づいて、駆動装置930に対する動作の指示を行う。演算装置1630のハードウェアは、例えば、第1の実施形態で説明した演算装置100のハードウェアと同じもので実現することができる。以下に、演算装置1630が有する機能の一例を説明する。尚、演算装置1630が有する機能を、第1の実施形態で説明した演算装置100に含めてもよい。
【0111】
偏差導出部1631は、誘導電圧va、vbの同時刻における値の差を導出する。偏差導出部1631は、誘導電圧vaから誘導電圧vbを減算した値(=va-vb)を導出する。以下の説明では、誘導電圧va、vbの同時刻における値の差を、必要に応じて誘導電圧va、vbの偏差と称する。
前述したように、本実施形態では、サーチコイル940a、940bの巻回数、大きさ、および形状は同じであるものとする。また、誘導電圧va、vbの絶対値は、サーチコイル940a、940bを貫く磁束量に比例する。従って、サーチコイル940a、940bを貫く磁束量が同じときには、誘導電圧va、vbの偏差は0になる。
【0112】
また、誘導電圧v
bの絶対値が誘導電圧v
aの絶対値よりも大きいことは、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域における磁束密度が、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の負の方向側(電極70a側)の領域における磁束密度よりも大きいことに対応する。この場合、
図14に示すように、
図14の紙面に向かって左上の方向に可動ヨーク部911を移動させることにより、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域における磁束密度を低減させる必要がある。
【0113】
一方、これとは逆に、誘導電圧v
aの絶対値が誘導電圧v
bの絶対値よりも大きいことは、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の負の方向側(電極70a側)の領域における磁束密度が、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域における磁束密度よりも大きいことに対応する。この場合、
図14の紙面に向かって右下の方向に可動ヨーク部911を移動させることにより、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域における磁束密度を増加させる必要がある。
尚、以上の説明において、厳密には、左上の方向、右下の方向は、それぞれ、反時計回りの方向、時計回りの方向であるが、前述したように本実施形態では、可動部930bが直線運動をするものとするので、ここでは左上の方向、右下の方向としている。このことは、以降の説明においても同じである。
【0114】
偏差導出部1631が、誘導電圧v
aから誘導電圧v
bを減算した値(=v
a-v
b)を、誘導電圧v
a、v
bの偏差として導出する場合、誘導電圧v
a、v
bの偏差が負の値(v
a<v
b)のときには、
図14の紙面に向かって反時計回りの方向に可動ヨーク部911を回動させる必要がある。一方、誘導電圧v
a、v
bの偏差が正の値(v
a>v
b)のときには、
図14の紙面に向かって時計回りの方向に可動ヨーク部911を回動させる必要がある。
【0115】
負帰還制御部1632は、誘導電圧v
a、v
bの偏差が目標値(例えば0)になるような、モータの駆動電圧Vmを、負帰還制御を行うことにより導出する。ここで、モータは、可動部930bを動かすための機構に含まれるものであり、ボールねじのナットを回転させる。負帰還制御部1632は、負帰還制御として、例えば、PI制御を行うことができる。目標値を0とする場合、時刻tにおけるモータの駆動電圧Vm(t)は、例えば、以下の(2)式で導出される。
Vm(t)=K
p×(0-(v
a(t)-v
b(t)))+K
I∫(0-(v
a(τ)-v
b(τ)))dτ ・・・(2)
K
pは、比例ゲインである。K
Iは、積分ゲインである。∫は、積分区間を0からtまでとする積分記号である。Vmが正の値であることは、
図14の紙面に向かって左上の方向に可動ヨーク部911を回動させることを示す。Vm(t)が負の値であることは、
図14の紙面に向かって右下の方向に可動ヨーク部911を回動させることを示す。
尚、負帰還制御の手法は、PI制御に限定されず、公知の負帰還制御の手法を用いることができる。
【0116】
負帰還制御部1632は、負帰還制御により導出したモータの駆動電圧Vmをモータの励磁電圧として印加させることを指示する信号を、駆動装置930に出力する。駆動装置930は、当該信号を受信し、可動部930bと保持部930cとの接続点930dの動く軌跡が、当該信号に基づく回動角度だけ回動するように、モータを動かす。
【0117】
ここで、
図9に示す初期状態よりも、
図9の紙面に向かって右下の方向に可動ヨーク部911が移動しないようにすることと、可動ヨーク部911と固定ヨーク部912とが分離しないようにすることとを実現するために、可動ヨーク部911の移動可能範囲の上限値と下限値とが駆動装置930に予め設定される。駆動装置930は、負帰還制御部1632から出力される信号に基づく駆動電圧Vm(t)に従って可動ヨーク部911を移動させると、可動ヨーク部911の位置が、可動ヨーク部911の移動可能範囲の上限値および下限値により定まる範囲から外れる場合には、可動ヨーク部911を動かさないようにすることができる。
【0118】
また、可動ヨーク部911の可動範囲の上限値と下限値を演算装置1630に予め設定し、演算装置1630が、駆動電圧Vm(t)の履歴から可動ヨーク部911の現在位置を特定してもよい。このようにする場合、演算装置1630は、負帰還制御により導出した駆動電圧Vm(t)に従って可動ヨーク部911を移動させると、可動ヨーク部911の位置が、可動ヨーク部911の移動可能範囲の上限値および下限値により定まる範囲から外れる場合には、可動ヨーク部911の位置を動かさないようにする信号を、駆動装置930に出力することができる。
【0119】
また、この場合、演算装置1630は、誘導電圧va、vbの偏差が目標値にならないことを示す情報を出力してもよい。当該情報の出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、演算装置1630の内部または外部の記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうちの少なくとも何れか1つを採用することができる。
【0120】
本実施形態の鉄損測定方法は、
図6のフローチャートに対し、例えば、以下の変更を行うことにより実現される。
ステップS601において、第1の実施形態で説明した配置に加えて、サーチコイル940a、940bの配置も行われる。ただし、ヨーク90の配置に代えてヨーク910を初期状態にすることが行われる。また、駆動装置930の配置を行われる。
【0121】
また、ステップS603において、交流電源20から、第2の測定回路に交流電力が出力されると、演算装置1630による可動ヨーク部911の動作の制御と、交流入力調整部103による交流電圧の値の調整とが行われる。尚、このようにせずに、ステップS601が終了してからステップS603が開始される前の間に、交流電源20から、第2の測定回路に交流電力を出力し、演算装置1630による可動ヨーク部911の動作の制御を実施し、可動ヨーク部911の位置を固定してもよい。
【0122】
以上のように本実施形態では、可動ヨーク部911を動かして、可動ヨーク部911の位置を調整することにより、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度の差異を低減させる。従って、第1の実施形態で説明した効果に加え、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度の差異に起因する鉄損の測定誤差を低減することができるという効果を奏する。
【0123】
<変形例>
本実施形態では、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)に2つのサーチコイル940a、940bを配置する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)に配置するサーチコイルの数は3以上であってもよい。
【0124】
また、本実施形態では、誘導電圧va、vbの偏差が0になるように負帰還制御する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、誘導電圧va、vbから、ファラデーの電磁誘導の法則に従って磁束密度を導出し、導出した磁束密度の差が目標値(例えば0)になるように負帰還制御してもよい。このようにする場合、サーチコイル940a、940bの巻回数、大きさ、および形状の少なくとも1つが異なっていてもよい。
【0125】
また、本実施形態では、可動部930bが直線運動をする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はなく、可動部930bが、回動軸920の回動方向と一致するように回動するようにしてもよい。このようにする場合、例えば、可動部930bの下側(Z軸の負の方向側)の領域が、回転軸が回動軸920と平行になるように配置されたモータの径方向に延設されるように可動部930bの上側の領域に対して屈曲した領域となるようにする。当該屈曲した領域の先端側の領域には、当該モータの回転軸が取り付けられる。このようにして当該モータの回転角度に応じて、可動部930bが、回動軸920の回動方向と一致するように回動する。尚、可動部930bの回転半径が、可動ヨーク部911の回転半径と同じになるように、当該屈曲した領域の長手方向の長さを定めるのが好ましい。
【0126】
また、本実施形態では、可動ヨーク部911を自動制御により自動的に動かす場合を例に挙げて説明した。このようにすれば、例えば、異なる鋼種の電磁鋼板Sが連続して搬送されても、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁束密度の差異を可及的に低減することができるので好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、測定対象の電磁鋼板Sの鋼種毎に、誘導電圧va、vbの偏差が0になるような可動ヨーク部911の位置を予め調査しておき、鉄損の測定対象の電磁鋼板Sの鋼種に応じて、調査しておいた位置となるように可動ヨーク部911を回動させてもよい。この場合、可動ヨーク部911の回動は、自動で行っても手動で行ってもよい。
【0127】
また、本実施形態では、ヨーク910が、磁気的に相互に結合される2つのヨーク部(可動ヨーク部911および固定ヨーク部912)を有する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもヨークが複数のヨーク部を有するようにする必要はない。例えば、鉄損の測定対象の電磁鋼板Sが一種である場合には、以下のようにしてもよい。まず、鉄損の測定対象の電磁鋼板Sについて、誘導電圧v
a、v
bの偏差が0になるような電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁極面の間隔を調査する。そして、磁極面となる領域の形状が当該間隔となるように、
図3に示す(ヨーク90を構成する部分の)形状を変更した形状を板面の形状とする複数の軟磁性体板を積層することによりヨークを構成する。
【0128】
また、本実施形態では、磁気的に相互に結合される2つのヨーク部(可動ヨーク部911および固定ヨーク部912)のうち1つのヨーク部(可動ヨーク部911)のみを動かして、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁極面の間隔を調整する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、2つのヨーク部を動かして、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における磁極面の間隔を調整してもよい。
【0129】
また、本実施形態では、ヨーク910の磁極面910a、910bの間隔が、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において連続的に変化する(電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の全ての位置で異なる)ように、ヨーク910の磁極面910a、910bの間隔を調整する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の複数の位置において、ヨーク910の磁極面910a、910bの間隔を同じようにしてもよい。
【0130】
即ち、以下の第1の条件および第2の条件を満たすような、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の第1の領域と、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の第2の領域とが含まれていればよい。第1の条件は、電磁鋼板Sを励磁した際に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の第1の領域を通る磁束の閉磁路の磁路長の方が、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の第2の領域を通る磁束の閉磁路の磁路長よりも短いという条件である。第2の条件は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の第1の領域の方が、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の第2の領域よりも、ヨークの磁極面の間隔が長いという条件である。
【0131】
また、以下の第3の条件を満たすようにするのがより好ましい。第3の条件は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)における何れの領域を第1の領域としても、第1の領域よりも第2の領域側の全ての領域における磁極面の間隔が、第1の領域における磁極面の間隔を下回らないという条件である。
図14に示した例は、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の何れの領域を第1の領域および第2の領域としても、第1の条件および第2の条件を満たす例である。この場合、第3の条件は自動的に満たす。
また、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0132】
(その他の変形例)
尚、以上説明した本発明の実施形態のうち、演算装置100、1630が行う処理は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0133】
(請求項との関係)
以下に、請求項の記載と、前述した実施形態との関係の一例を説明する。尚、請求項の記載が実施形態の記載に限定されないことは、各実施形態の変形例等において説明した通りである。
<請求項1>
回路構成工程は、例えば、
図1に示すような配置で回路を構成すること(
図6のステップS601)により実現される。
前記軟磁性体板の第1の方向は、例えば、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)を用いることにより実現される。
前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面は、例えば、電磁鋼板Sの第1の端面(電磁鋼板Sの板幅方向の端面のうち、電極70aが接触する側の端面)を用いることにより実現される。
前記第1の方向に垂直な第2の方向は、例えば、電磁鋼板Sの長手方向(X軸方向)を用いることにより実現される。
所定の距離は、例えば、間隔xを用いることにより実現される。
第1の電極、第2の電極は、例えば、電極70a、70a'を用いることにより実現される。
前記軟磁性体板の前記第1の方向の他方の側面は、例えば、電磁鋼板Sの第2の端面(電磁鋼板Sの板幅方向の端面のうち、第1の端面とは反対側の端面)を用いることにより実現される。
前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、前記第4の電極、および前記軟磁性体板を用いて構成される回路であって、前記第1の電極および前記第2の電極を入力端とし、前記第3の電極および前記第4の電極が電気的に接続された回路は、例えば、電極70a、電極70a'、電極70b、電極70b'、および電磁鋼板Sを用いて構成される回路であって、電極70a、70a'間を入力端とし、電極70bおよび電極70b'が電気的に接続された回路を用いることにより実現される。
鉄損導出工程は、例えば、
図6のステップS603~S605により実現される。
前記コイルの測定領域は、前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極の前記軟磁性体板との接触位置により定まることは、例えば、電磁鋼板Sの鉄損の測定領域が、
図2においてグレーで示す領域になることに対応する。
<請求項2、13>
ヨーク配置工程は、例えば、
図3~
図4に示すようにヨーク90を配置すること(
図6のステップS601)により実現される。
第1の磁極面、第2の磁極面は、例えば、磁極面90a、90bを用いることにより実現される。
尚、磁極面が、軟磁性体板の測定領域の表面と接触してもよいことは、第1の実施形態の変形例で示した通りである。
<請求項3、14>
前記軟磁性体板の板厚方向から見た場合に、前記第1の磁極面、前記第2の磁極面、および前記軟磁性体板の測定領域が略一致するように、前記ヨークを配置することは、例えば、電磁鋼板Sの板面に垂直な方向(Z軸方向)から見た場合に、磁極面90a、90bと、電磁鋼板Sの測定領域WRとが略一致する(X-Y座標が略同じになる)ように、磁極面90a、90bの大きさ、形状、および位置が定められることに対応する。
<請求項4、15>
前記第1の方向において、第1の領域と第2の領域とが存在する状態で、前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出することは、例えば、ステップS603において、交流電源20から、第2の測定回路に交流電力が出力されると、演算装置1630による可動ヨーク部911の動作の制御と、交流入力調整部103による交流電圧の値の調整とが行われ、その後のステップS605において、電磁鋼板Sの測定領域の鉄損が導出されることに対応する。
第1の領域・第2の領域は、例えば、磁極面910a、910b間における、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の領域であって、相対的に、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の正の方向側(電極70b側)の領域・負の方向側(電極70a側)の領域に対応する。尚、磁極面間の領域を
図9のように構成することに限定されないことは、第2の実施形態の変形例で示した通りである。
<請求項5、16>
前記第1の方向における何れの領域を前記第1の領域としても、前記第1の領域よりも前記第2の領域側の全ての領域における前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔が、前記第1の領域における前記第1の磁極面と前記第2の磁極面との間隔を下回らないことは、例えば、
図14において、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の何れの領域においても、当該領域における磁極面910a、910bの間隔が、当該領域よりも電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)の負の方向側における磁極面910a、910bの間隔を下回っていないことに対応する。尚、電磁鋼板Sの板幅方向(Y軸方向)において磁極面910a、910bの間隔が同じ領域があってもよいことは、第2の実施形態の変形例で示した通りである。
<請求項6>
駆動工程は、例えば、ステップS603において、演算装置1630による可動ヨーク部911の動作の制御が行われることに対応する。
第1のヨーク部、第2のヨーク部は、例えば、可動ヨーク部911、固定ヨーク部912を用いることにより実現される。尚、2つのヨーク部の双方を動かしてもよいことは、第2の実施形態の変形例で示した通りである。
<請求項7、18>
サーチコイル配置工程は、例えば、
図9、
図15、
図16に示すようにサーチコイル940a、940bを配置すること(
図6のステップS601)により実現される。尚、サーチコイルの数が2つに限定されないことは、第2の実施形態の変形例で示した通りである。
前記入力端に交流電力が供給されることにより前記複数のサーチコイルに電磁誘導によって発生する誘導電圧に基づいて、前記第1のヨーク部と前記第2のヨーク部との少なくとも一方を動かすことは、例えば、ステップS603において、交流電源20から、第2の測定回路に交流電力が出力されると、演算装置1630による可動ヨーク部911の動作の制御が行われることに対応する。
<請求項8、19>
平坦な状態の前記軟磁性体板の測定領域の板厚方向における鉄損を導出することは、例えば、電磁鋼板Sが、平坦な状態で、白抜き矢印線の方向(X軸の正の方向)に搬送されながら通電され、鉄損の測定が行われることに対応する。
<請求項9、20>
前記第1の電極、前記第2の電極、前記第3の電極、および前記第4の電極は、それらの位置が略変わらないように、前記軟磁性体板に対して摺動することは、例えば、電極70a、70a'、70b、70b'が、それらの位置(X-Y-Z座標)が略変わらないように、電磁鋼板Sに対して摺動することに対応する。
<請求項10>
直流抵抗導出工程は、例えば、
図6のステップS602により実現される。
ジュール損導出工程は、例えば、
図6のステップS604により実現される。
<請求項11、22>
前記軟磁性体板の第1の方向の一方の側面から他方の端面までの距離に対する、前記所定の距離の比は、6以上であることは、例えば、電磁鋼板Sの板幅yに対する、電極70a、70a'(接触領域a、a')の間隔xの比(=x/y)が、6以上であることに対応する。
<請求項12>
交流電力供給手段は、例えば、交流電源20を用いることにより実現される。
鉄損導出手段は、例えば、鉄損導出部104を用いることにより実現される。
<請求項17>
駆動手段は、例えば、駆動装置930を用いることにより実現される。
<請求項21>
直流電力供給手段は、例えば、直流電源10を用いることにより実現される。
直流抵抗導出手段は、例えば、直流抵抗導出部102を用いることにより実現される。
【符号の説明】
【0134】
10:直流電源、20:交流電源、30:切替スイッチ、40:電流計、50:電圧計、60:電力計、70a・70a'・70b・70b':電極、90,910:ヨーク、100、1630:演算装置、101:制御部、102:直流抵抗導出部、103:交流入力調整部、104:鉄損導出部、105:出力部、911:可動ヨーク部、912:固定ヨーク部、920:シャフト、930a,930b:サーチコイル、930:駆動装置、1631:偏差導出部、1632:負帰還制御部、a~b:接点