(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】プレコート金属板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230329BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230329BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B32B15/08 G
C23C28/00 C
C23C2/06
(21)【出願番号】P 2022562878
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014585
(87)【国際公開番号】W WO2022203063
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2021051427
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平井 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-121323(JP,A)
【文献】特開2000-301659(JP,A)
【文献】特開2001-323358(JP,A)
【文献】特開平09-122578(JP,A)
【文献】特開2004-209720(JP,A)
【文献】特開2010-005545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
C23C 28/00
C23C 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、
前記金属板上に位置する着色皮膜層と、
を備え、
前記金属板の少なくとも前記着色皮膜層が位置する側の表面には、下記の算術平均面粗さSaの測定方法により特定される第1領域と第2領域とが存在し、
前記着色皮膜層は、厚みが1~10μ
mであり、かつ、当該厚み以上の粒子径を有する粒子を含有する、プレコート金属板。
[算術平均面粗さSaの測定方法]
前記金属板の表面に、0.5mm間隔で仮想的な格子線を設定し、前記仮想的な格子線によって区間される複数の領域のそれぞれにおいて、ISO 25178で規定される算術平均面粗さSaを測定する。得られた算術平均面粗さSaが1μm以上である領域を前記第1領域とし、得られた算術平均面粗さSaが1μm未満である領域を前記第2領域とする。
【請求項2】
前記金属板の表面における前記第1領域の面積率は、片面当たり10~90%である、請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項3】
前記第2領域の面積率に対する前記第1領域の面積率の比率は、0.3~3.0である、請求項1又は2に記載のプレコート金属板。
【請求項4】
前記着色皮膜層における前記粒子の含有量は、前記着色皮膜層の造膜成分と前記粒子との合計含有量に対し、5~50質量%である、請求項1~3の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項5】
前記粒子の平均粒子径は、1~15μmである、請求項1~4の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項6】
前記粒子の平均粒子径は、前記着色皮膜層の厚みに対して0.3~2.5倍である、請求項1~5の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項7】
前記粒子は、シリカ、セラミックもしくは金属化合物の少なくとも何れかである無機粒子、又は、樹脂粒子の少なくとも何れかである、請求項1~6の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項8】
前記粒子は、アクリル系樹脂粒子である、請求項1~7の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項9】
前記金属板は、アルミニウム板、亜鉛板、ステンレス板、チタン板、又は、鋼板である、請求項1~8の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項10】
前記金属板は、表面にめっき層が設けられためっき鋼板である、請求項1~9の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項11】
前記めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板である、請求項10に記載のプレコート金属板。
【請求項12】
前記めっき層は、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物であるめっき層である、請求項10又は11に記載のプレコート金属板。
【請求項13】
前記めっき層の付着量は、前記鋼板の両面での合計で、30~600g/m
2である、請求項10~12の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項14】
前記着色皮膜層は、着色顔料として、アルミ顔料、カーボンブラック又はTiO
2の少なくとも何れかを含有する、請求項1~13の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項15】
前記着色皮膜層は、防錆顔料を更に含有する、請求項1~14の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【請求項16】
前記金属板と、前記着色皮膜層との間に、化成処理皮膜層を更に備える、請求項1~15の何れか1項に記載のプレコート金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用などに、従来の成形加工後に塗装されていたポスト塗装製品に代わって、亜鉛系めっき鋼板の表層に有機樹脂被膜を被覆した有機樹脂被覆めっき鋼板(プレコート鋼板とも呼ばれる。)が使用されるようになってきた。このプレコート鋼板は、防錆処理を施した鋼板やめっき鋼板に対し、着色した有機皮膜を被覆したものであり、美麗さを有しながら、加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。この有機樹脂被覆めっき鋼板は、プレス加工された後、更なる塗装などが施されずに、家電、建材、自動車等の材料として用いられる場合が多い。そのため、このような有機樹脂被覆めっき鋼板は、加工時に美麗さを失わないように、耐疵付き性に優れることが求められる。そのため、プレコート鋼板の耐疵付き性をはじめとする諸特性を向上させるために、従来様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、金属板の少なくとも片面に、所定の平均粒子径を有する2種類の粒子と、着色顔料とを含有させた着色塗膜を設ける技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術は、膜厚が2~10μmの着色皮膜中に、平均粒子径が5~50nmの球状シリカ粒子を含有させることで耐疵付き性を得るものであり、本技術では鉛筆硬度で評価されるような引っ掻き疵への耐性は得られるものの、板面同士が擦れるような面接触疵への耐性は十分ではなく、未だ改良の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、更なる耐疵付き性の向上として、面接触疵への耐性を向上させたプレコート金属板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、プレコート金属板の表面粗度を所望の状態とするとともに、特定の粒子径を有する粒子を含有させることで、面接触に対する耐疵付き性を更に向上させることが可能なのではないかとの着想を得て、本発明を完成させるに至った。
かかる着想に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0008】
(1)金属板と、前記金属板上に位置する着色皮膜層と、を備え、前記金属板の少なくとも前記着色皮膜層が位置する側の表面には、下記の算術平均面粗さSaの測定方法により特定される第1領域と第2領域とが存在し、前記着色皮膜層は、厚みが1~10μmであり、かつ、当該厚み以上の粒子径を有する粒子を含有する、プレコート金属板。
[算術平均面粗さSaの測定方法]
前記金属板の表面に、0.5mm間隔で仮想的な格子線を設定し、前記仮想的な格子線によって区間される複数の領域のそれぞれにおいて、ISO 25178で規定される算術平均面粗さSaを測定する。得られた算術平均面粗さSaが1μm以上である領域を前記第1領域とし、得られた算術平均面粗さSaが1μm未満である領域を前記第2領域とする。
(2)前記金属板の表面における前記第1領域の面積率は、片面当たり10~90%である、(1)に記載のプレコート金属板。
(3)前記第2領域の面積率に対する前記第1領域の面積率の比率は、0.3~3.0である、(1)又は(2)に記載のプレコート金属板。
(4)前記着色皮膜層における前記粒子の含有量は、前記着色皮膜層の造膜成分と前記粒子との合計含有量に対し、5~50質量%である、(1)~(3)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(5)前記粒子の平均粒子径は、1~15μmである、(1)~(4)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(6)前記粒子の平均粒子径は、前記着色皮膜層の厚みに対して0.3~2.5倍である、(1)~(5)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(7)前記粒子は、シリカ、セラミックもしくは金属化合物の少なくとも何れかである無機粒子、又は、樹脂粒子の少なくとも何れかである、(1)~(6)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(8)前記粒子は、アクリル系樹脂粒子である、(1)~(7)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(9)前記金属板は、アルミニウム板、亜鉛板、ステンレス板、チタン板、又は、鋼板である、(1)~(8)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(10)前記金属板は、表面にめっき層が設けられためっき鋼板である、(1)~(9)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(11)前記めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板である、(10)に記載のプレコート金属板。
(12)前記めっき層は、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物であるめっき層である、(10)又は(11)に記載のプレコート金属板。
(13)前記めっき層の付着量は、前記鋼板の両面での合計で、30~600g/m2である、(10)~(12)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(14)前記着色皮膜層は、着色顔料として、アルミ顔料、カーボンブラック又はTiO2の少なくとも何れかを含有する、(1)~(13)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(15)前記着色皮膜層は、防錆顔料を更に含有する、(1)~(14)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
(16)前記金属板と、前記着色皮膜層との間に、化成処理皮膜層を更に備える、(1)~(15)の何れか1つに記載のプレコート金属板。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、面接触に対する更なる耐疵付き性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の実施形態に係るプレコート金属板の構造を模式的に示した説明図である。
【
図1B】同実施形態に係るプレコート金属板の構造を模式的に示した説明図である。
【
図2】同実施形態に係るプレコート金属板における金属板の表面形状について説明するための説明図である。
【
図3】同実施形態に係るプレコート金属板における着色皮膜層について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
(プレコート金属板について)
以下では、
図1A及び
図1Bを参照しながら、本発明の実施形態に係るプレコート金属板について、詳細に説明する。
図1A及び
図1Bは、本実施形態に係るプレコート金属板の構造を模式的に示した説明図である。
【0013】
図1Aに模式的に示したように、本実施形態に係るプレコート金属板1は、基材となる金属板10と、金属板10の片方の面上に位置する着色皮膜層20と、を有している。また、
図1Aに示したように、金属板10と、着色皮膜層20と、の間に、化成処理皮膜層30を更に有していることが好ましい。
【0014】
また、かかる着色皮膜層20及び化成処理皮膜層30は、
図1Bに模式的に示したように、金属板10の両面に設けられていても良い。
【0015】
<金属板10について>
基材として用いられる金属板については、プレコート金属板1に求められる機械的強度等に応じて、各種の金属板を用いることが可能である。このような金属板としては、例えば、アルミニウム板、亜鉛板、ステンレス板、チタン板、鋼板等を挙げることができる。
【0016】
また、本実施形態に係る金属板10の厚みについても、プレコート金属板1に求められる機械的強度等に応じて適宜設定すればよく、例えば0.2mm~10.0mm程度とすることができる。
【0017】
また、金属板10として鋼板を用いる場合、例えば、Alキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼等のような種々の鋼板を用いることが可能である。
【0018】
また、鋼板の表面に各種のめっき層が形成されためっき鋼板を用いてもよい。この場合、鋼板上に形成されるめっきの種別としては、例えば亜鉛系めっきを採用することが簡便である。かかる亜鉛系めっきとしては、例えば、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、亜鉛-ニッケル合金めっき、合金化溶融亜鉛めっき、アルミニウム-亜鉛合金めっき、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき、亜鉛-バナジウム複合めっき、亜鉛-ジルコニウム複合めっき等が挙げられる。
【0019】
このような亜鉛系めっきの中でも、特に、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっきが好ましく、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Si:0.0001~2.0000質量%を含有し、残部がZn及び不純物である、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金めっきがより好ましい。
【0020】
[Al:4~22質量%]
Alの含有量を4質量%以上22質量%以下とすることで、鋼板の耐食性が向上する。Alの含有量が4質量%未満である場合には、耐食性が低下する可能性がある。Alの含有量は、好ましくは5質量%以上である。一方、Alの含有量が22質量%を超える場合には、めっき層20の耐食性向上効果が飽和する可能性がある。Alの含有量は、好ましくは16質量%以下である。
【0021】
[Mg:1~10質量%]
Mgの含有量を1質量%以上10質量%以下とすることで、鋼板の耐食性が向上する。Mgの含有量が1質量%未満である場合には、鋼板の耐食性向上効果が不十分となる可能性がある。Mgの含有量は、好ましくは2質量%以上である。一方、Mgの含有量が10質量%を超える場合には、めっき浴でのドロス発生が著しくなり、安定的に溶融めっき鋼板を製造するのが困難となる可能性がある。Mgの含有量は、好ましくは5質量%以下である。
【0022】
[Si:0.0001~2.0000質量%]
Siの含有量を0.0001質量%以上2.0000質量%以下とすることで、めっき層の密着性を担保することが可能となる。Siの含有量が2.0000質量%を超える場合には、めっき層20の密着性向上効果が飽和する可能性がある。Siの含有量は、より好ましくは1.6000質量%以下である。
【0023】
更に、本実施形態に係るめっき層では、残部のZnの一部に換えて、Fe、Sb、Pb等の元素を単独又は複合で1質量%以下含有してもよい。
【0024】
上記のような化学成分を有するめっき層が設けられためっき鋼板として、例えば、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき層を有するめっき鋼板のような、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金めっき鋼板(例えば、日本製鉄株式会社製「スーパーダイマ(登録商標)」)等を挙げることができる。
【0025】
以上説明したようなめっき層は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、準備した鋼板の表面に対して、洗浄、脱脂等の前処理を必要に応じて実施する。その後、必要に応じて前処理を実施した鋼板を、所望の化学成分を有する溶融めっき浴に浸漬させ、かかるめっき浴から鋼板を引き上げる。かかるめっき操作に際して、コイルの連続めっき法、あるいは、切板単体のめっき法のいずれによってめっきを行ってもよい。
【0026】
溶融めっき浴の温度は、組成によって異なるが、例えば、400~500℃の範囲が好ましい。
【0027】
また、上記のようなめっきの付着量は、鋼板の引き上げ速度や、めっき浴の上方に設けられたワイピングノズルより噴出するワイピングガスの流量や、流速調整などにより制御することが可能である。めっきの付着量は、鋼板の両面での合計で、30g/m2以上である(すなわち、片面あたり、15g/m2以上である)ことが好ましい。付着量が30g/m2未満の場合、耐食性が低下する可能性があるので好ましくない。めっきの付着量は、より好ましくは、40g/m2以上である。一方、めっきの付着量は、鋼板の両面での合計で、600g/m2以下である(すなわち、片面あたり、300g/m2以下である)ことが好ましい。付着量が600g/m2超の場合、鋼板に付着した溶融金属の垂れが発生して、溶融めっき層の表面を平滑にすることができなくなる可能性があるため、好ましくない。めっき層の付着量は、より好ましくは、鋼板の両面での合計で、550g/m2以下である。溶融めっき層の付着量を調整した後、鋼板を冷却する。この際、冷却条件は、特に限定する必要はない。
【0028】
≪金属板10の表面形状について≫
続いて、
図2を参照しながら、本実施形態に係るプレコート金属板1における金属板10の表面形状について、詳細に説明する。
図2は、本実施形態に係るプレコート金属板における金属板の表面形状について説明するための説明図である。
【0029】
本実施形態に係る金属板10において、着色皮膜層20が位置する側の表面には、下記の算術平均面粗さSaの測定方法により特定される第1領域と第2領域とが存在している。
【0030】
≪算術平均面粗さSaの測定方法≫
金属板10の表面に、
図2に模式的に示したような、0.5mm間隔で仮想的な格子線を設定し、仮想的な格子線によって区間される複数の領域のそれぞれにおいて、表面粗度計を用いISO 25178で規定される算術平均面粗さSaを測定する。得られた算術平均面粗さSaが1μm以上である領域を、第1領域とし、得られた算術平均面粗さSaが1μm未満である領域を、第2領域とする。なお、既に皮膜が存在している場合においては、有機溶剤(例えばMEK(メチルエチルケトン)等)を染みこませたガーゼを用いラビングして、塗膜を除去した上で、上記粗さを測定することが可能である。なお、金属板10としてめっき層の形成されためっき鋼板を用いる場合、めっき層の表面で、上記のような算術平均粗さSaを測定するものとする。
【0031】
上記測定方法において、算術平均面粗さSaの測定は、3Dレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて行う。本実施形態では、20倍の標準レンズを用いて、仮想格子線によって区画される複数の領域のそれぞれにおいて、測定間隔50μmで領域内の高さAを測定する。格子上に測定した場合は、領域内には100点の測定点(領域内の測定点81点+領域外枠の格子線のうち2辺上の点19点)が得られる。得られた高さA100点を高さA1~高さA100としたとき、下記の式を用いてSaを算出する。Aaveは高さA100点の平均とする。
Sa=1/100×Σ[x=1→100](|高さAx-Aave|)
【0032】
上記のような測定で特定される第1領域は、金属板10の表面における凹凸部とも考えることができ、上記のような測定で特定される第2領域は、金属板10の表面における平坦部とも考えることができる。金属板10の表面に上記のような2種類の領域が存在することに加え、着色皮膜層20内に存在している粒子が、後述するような粒子径を有していることにより、着色皮膜層20内の粒子が、このような第2領域によって固定されるようになり、粒子の移動や欠落を防止する。固定される粒子の中には、後述するように、着色皮膜層20の厚みよりも大きな粒子径を有しているものが存在する。その結果、プレコート金属板1の面接触疵への耐性が向上する。
【0033】
ここで、第1領域における算術平均面粗さSaの上限値は、特に規定するものではないが、算術平均面粗さSaが着色皮膜層の厚さを超える場合には、部分的に着色皮膜層が薄くなることで耐食性が低下する可能性がある。そのため、第1領域における算術平均面粗さSaは、着色皮膜層の厚さ以下であることが好ましい。また、第2領域における算術平均面粗さSaの下限値は、特に規定するものではなく、小さければ小さいほど良いが、0.05μm未満とする場合には、製造上の困難が生じることが多い。そのため、第2領域における算術平均面粗さSaの下限値は、実質的には0.05μm程度である。
【0034】
金属板10の表面における第1領域の面積率は、片面当たり10%以上であることが好ましい。片面当たりの第1領域の面積率が10%以上となることによって、第1領域中の皮膜が薄い部分の面積が減少し、耐食性をより一層向上させることができる。第1領域の面積率は、より好ましくは、片面当たり20%以上であり、更に好ましくは30%以上である。一方、金属板10の表面における第1領域の面積率は、片面当たり90%以下であることが好ましい。片面当たりの第1領域の面積率が90%以下となることによって、面接触疵への耐性をより一層向上させることができる。金属板10の表面における第1領域の面積率は、より好ましくは、80%以下であり、更に好ましくは70%以下である。
【0035】
第2領域の面積率に対する第1領域の面積率の比率は、0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。また、第2領域の面積率に対する第1領域の面積率の比率は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。面積率の比率が上記の範囲内となることで、着色皮膜層20の粒子をより確実に固定することが可能となり、面接触疵への耐性をより一層向上させることができる。
【0036】
なお、以上説明したような表面形状は、着目する金属板10の表面に対して、物理的又は化学的な表面加工処理(例えば、表面研磨、表面研削、化学エッチング等)を施すことで実現してもよいし、金属板10を製造した結果、表面加工処理を行うことなく金属板10の表面に既に実現されているものであってもよい。なお、表面加工処理によって上記のような表面形状を実現する場合、表面加工処理の諸条件を調整することで、上記のような第1領域の面積率を制御することができる。
【0037】
<着色皮膜層20について>
以下、
図3を参照しながら、本実施形態に係るプレコート金属板が有する着色皮膜層20について説明する。
図3は、本実施形態に係るプレコート金属板が有する着色皮膜層20について説明するための説明図である。
【0038】
着色皮膜層20は、着色顔料を有することで、所望の色に着色された皮膜層である。かかる着色皮膜層20は、
図3に模式的に示したように、造膜成分201と、粒子203と、を含有しており、かかる粒子203の少なくとも一部は、着色皮膜層20の厚み以上の粒子径を有している。換言すれば、かかる粒子203は、少なくとも一部の粒子径が着色皮膜層20の厚み以上であるような、粒子径のバラつきを有している。着色皮膜層20の厚み以上の粒子径を有している粒子を含有する着色皮膜層20を設けることで、金属板10の表面に存在する凹凸が粒子203の物理的な移動を妨げる壁として機能することによって粒子203の移動が制限される結果、粒子203が固定されるようになる。また、着色皮膜層20が何らかの面と接触する際に、着色皮膜層20の表面から突出している粒子203が存在することで、着色皮膜層20の全体での接触ではなく、粒子203との接触となる(換言すれば、何らかの面との接触が、着色皮膜層20全体との面接触ではなく、着色皮膜層20から突出している粒子203との点接触となる)。これにより、本実施形態に係るプレコート金属板10の耐疵付き性(より詳細には、面接触疵への耐性)を向上させることが可能となる。なお、
図3では、金属板10の表面に凸部が存在する場合について記載しているが、金属板10の表面に凹部が存在する場合についても、同様のことが言える。
【0039】
本実施形態に係るプレコート金属板1において、かかる着色皮膜層20の厚みは、1μm以上である。着色皮膜層20の厚みが1μm未満である場合には、所望の耐疵付き性を発現させることができない。着色皮膜層20の厚みは、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。一方、着色皮膜層20の厚みは、10μm以下である。着色皮膜層20の厚みが10μmを超える場合には、コストがかかる上に、ワキ等の塗膜欠陥が発生することがあり、安定した外観を得ることが難しくなる可能性がある。着色皮膜層20の厚みは、好ましくは8μm以下であり、より好ましくは7μm以下である。
【0040】
なお、かかる着色皮膜層20の厚みは、断面観察により厚みを測定することができる。任意の複数の位置(例えば、10箇所)で厚みを測定し、得られた複数の厚みの平均値を、着色皮膜層20の厚みとすればよい。また、かかる断面観察によって、着色皮膜層20の厚み以上の粒子径を有する粒子203の存在も確認することが可能である。
【0041】
本実施形態に係る着色皮膜層20において、粒子203の含有量は、造膜成分201と粒子203との合計含有量に対して、5質量%以上であることが好ましい。これにより、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。着色皮膜層20における粒子203の含有量は、より好ましくは10質量%以上である。一方で、粒子203の含有量は、造膜成分201と粒子203との合計含有量に対して、50質量%以下である。これにより、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。粒子203の含有量が50%質量%超であると、着色被膜に占める造膜成分の比率が低くなり、皮膜としてのバリア性が低下して、所望の耐食性を発現させることが困難となる。着色皮膜層20における粒子203の含有量は、より好ましくは45質量%以下である。
【0042】
本実施形態に係る着色皮膜層20の造膜成分201は、粒子203のバインダーとして機能するものであれば、任意の素材を用いることが可能であるが、製造の簡便性及びコスト性の観点からは、各種の有機樹脂を用いることが好ましい。このような造膜成分201として、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。また、粒子203として、有機樹脂を素材とする樹脂粒子を用いる場合には、かかる樹脂粒子と同種の樹脂を、造膜成分201として選択することが好ましい。これにより、造膜成分201と粒子203との親和性が向上し、着色皮膜層20の密着性をより向上させることが可能である。
【0043】
本実施形態に係る着色皮膜層20の粒子203は、シリカ、セラミックもしくは金属化合物の少なくとも何れかである無機粒子、又は、有機樹脂を素材とする樹脂粒子の少なくとも何れかであることが好ましい。中でも、樹脂粒子を用いることで、樹脂粒子が有する靭性、展延性によって、着色皮膜層20に加わる衝撃を緩和させることが可能となり、耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。かかる樹脂粒子としては、アクリル系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子、フッ素系樹脂粒子、シリコン樹脂粒子、ポリオレフィン系樹脂粒子等を挙げることができるが、アクリル系樹脂粒子を用いることがより好ましい。また、着色皮膜層20に含有されている着色顔料自体が、上記のような粒子203として機能してもよい。
【0044】
本実施形態において、粒子203は、着色皮膜層20の厚みよりも大きな粒子径を有しているものが存在するが、その平均粒子径は、1~15μmであることが好ましい。粒子203が上記のような平均粒子径を有することで、プレコート金属板の耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。
【0045】
ここで、粒子203の平均粒子径は、断面からの直接観察により測定することが可能である。具体的には、常温乾燥型エポキシ樹脂中に塗装金属板を塗膜厚み方向と垂直に埋め込み、その埋め込み面を機械研磨した後に、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察する。その際、任意の複数の位置(例えば、10箇所)で観察される粒子203の粒径を測定し、得られた複数の粒径の平均値を、粒子径203の平均粒子径とすればよい。
【0046】
また、かかる粒子203は、皮膜厚みよりも大きな粒径を有し、かつ、平均粒子径は、着色皮膜層20の厚みに対して0.3~2.5倍であることが好ましい。粒子203の平均粒子径と、着色皮膜層20の厚みとが、上記のような関係となることで、プレコート金属板の耐疵付き性をより一層向上させることが可能となる。
【0047】
なお、着色皮膜層20が含有する着色顔料については、特に限定されるものではなく、着色皮膜層20に求める色合いに応じて、公知の各種の顔料を適宜用いることが可能である。このような着色顔料として、例えば、アルミ顔料、カーボンブラック、TiO2等を挙げることができる。また、その含有量についても、適宜設定すればよく、例えば、3~60質量%程度とすればよい。
【0048】
かかる着色皮膜層20は、上記のような着色皮膜層20を構成する成分を含む塗料組成物を金属板10の表面上、めっき表面上、化成処理皮膜30を有した金属板10の表面上、又は、化成処理皮膜30を有しためっき表面上に塗布したあと、150℃以上300℃未満の温度で焼き付け、硬化乾燥させることで、形成することが可能である。焼き付け温度が150℃未満である場合には、焼付硬化が不十分で、塗膜の耐食性や耐疵付き性が低下する可能性があり、焼き付け温度が300℃以上である場合には、樹脂成分の熱劣化が起こり、加工性が低下する可能性がある。
【0049】
なお、上記のような塗料組成物の塗布は、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。
【0050】
また、着色皮膜層20は、上記の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、防錆顔料、表面修飾した金属粉やガラス粉、分散剤、レベリング剤、ワックス、骨材等の添加剤や、希釈溶剤等を、更に含むことができる。
【0051】
ここで、防錆顔料を含有させる場合、その含有量は、例えば、1~15質量%とすることが好ましい。また、用いる防錆顔料には、公知の各種の防錆顔料を用いることが可能である。
【0052】
<化成処理皮膜層30について>
本実施形態に係る化成処理皮膜層30は、金属板10と、着色皮膜層20との間に位置しうる皮膜層であり、金属板10の表面に付着した油分などの不純物及び表面酸化物を、公知の脱脂工程及び洗浄工程で取り除いた後、化成処理により形成される層である。
【0053】
本実施形態に係る化成処理皮膜層30の詳細な構成としては、例えば、樹脂、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、バナジウム化合物、並びに、タンニン又はタンニン酸からなる群より選択される何れか一つ以上を含有する構成を挙げることができる。これら物質を含有することで、更に、化成処理液塗布後の成膜性、水分や腐食性イオン等の腐食因子に対する皮膜のバリア性(緻密性)、及び、めっき面への皮膜密着性などが向上し、皮膜の耐食性の底上げに寄与する。
【0054】
特に、化成処理皮膜層30が、シランカップリング剤、又は、ジルコニウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、化成処理皮膜層30内に架橋構造を形成し、めっき表面との結合についても強化するため、皮膜の密着性やバリア性を更に向上させることが可能となる。
【0055】
また、化成処理皮膜層30が、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、又は、バナジウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、インヒビターとして機能し、めっきや鋼表面に沈殿皮膜や不動態皮膜を形成することで、耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0056】
以下では、上記のような化成処理皮膜層30が含みうる各構成成分の詳細について、例を挙げながら説明する。
【0057】
[樹脂]
樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等といった、公知の有機樹脂を使用することができる。プレコート鋼板用めっき鋼板との密着性を更に高めるためには、分子鎖中に強制部位や極性官能基をもつ樹脂(ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)の少なくとも一つを使用することが好ましい。樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
化成処理皮膜層30における樹脂の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、化成処理皮膜層30における樹脂の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、85質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。樹脂の含有量が、85質量%を超える場合には、その他の皮膜構成成分の割合が低下して、耐食性以外の皮膜として求められる性能が低下する場合がある。
【0059】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。化成処理皮膜層30を形成するための化成処理剤中のシランカップリング剤の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。シランカップリング剤の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、シランカップリング剤の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜層の凝集力が不足し、塗膜層の加工密着性が低下する可能性がある。上記に例示したようなシランカップリング剤は、1種で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
[ジルコニウム化合物]
ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモ二ウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム等を挙げることができる。化成処理皮膜層30を形成するための化成処理剤中のジルコニウム化合物の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。ジルコニウム化合物の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、ジルコニウム化合物の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜層の凝集力が不足し、塗膜層の加工密着性が低下する可能性がある。かかるジルコニウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
[シリカ]
シリカとしては、例えば、日産化学株式会社製の「スノーテックスN」、「スノーテックスC」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS」、株式会社ADEKA製の「アデライトAT-20Q」等の市販のシリカゲル、もしくは、日本アエロジル株式会社製のアエロジル#300等の粉末シリカ、又は、これら市販のシリカと同等のものを用いることができる。シリカは、必要とされるプレコートめっき鋼板の性能に応じて、適宜選択することができる。化成処理皮膜層30を形成するための化成処理剤中のシリカの添加量は、例えば、1~40g/Lとすることが好ましい。シリカの添加量が1g/L未満である場合には、皮膜層の加工密着性が低下する可能性があり、シリカの添加量が40g/Lを超える場合には、加工密着性及び耐食性の効果が飽和する可能性が高いことから、不経済である。
【0062】
[リン酸及びその塩]
リン酸及びその塩としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類及びそれらの塩、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びそれらの塩、フィチン酸等の有機リン酸類及びそれらの塩等が挙げられる。なお、リン酸の塩として、アンモニウム塩以外の塩としては、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Ni、Zn、Fe等との金属塩が挙げられる。リン酸及びその塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
なお、リン酸及びその塩の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、リン酸及びその塩の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。リン酸及びその塩の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、プレコートめっき鋼板を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。
【0064】
[フッ化物]
フッ化物としては、例えば、ジルコンフッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、チタンフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸等を挙げることができる。かかるフッ化物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
なお、フッ化物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、フッ化物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。フッ化物の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、プレコート金属板を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。
【0066】
[バナジウム化合物]
バナジウム化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム等の5価のバナジウム化合物を還元剤で2~4価に還元したバナジウム化合物、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、オキシ蓚酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸、硫酸バナジウム、二塩化バナジウム、酸化バナジウム等の酸化数4~2価のバナジウム化合物等を挙げることができる。かかるバナジウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
なお、バナジウム化合物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、バナジウム化合物の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。バナジウム化合物の含有量が20質量%を超える場合には、皮膜が脆くなり、プレコート金属板を成形加工する際の皮膜の加工追従性が低下する場合がある。
【0068】
[タンニン又はタンニン酸]
タンニン又はタンニン酸は、加水分解できるタンニン、縮合タンニンのいずれも用いることができる。タンニン及びタンニン酸の例としては、ハマメタタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランのタンニン、ジビジビのタンニン、アルガロビラのタンニン、バロニアのタンニン、カテキン等を挙げることができる。化成処理皮膜30を形成するための化成処理剤中のタンニン又はタンニン酸の添加量は、2~80g/Lとすることができる。タンニン又はタンニン酸の添加量が2g/L未満である場合にはめっき表面との密着性が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。また、タンニン又はタンニン酸の添加量の添加量が80g/Lを超える場合には、化成処理皮膜の凝集力が不足し、塗膜の加工密着性が低下する可能性がある。
【0069】
また、化成処理皮膜30を形成するための化成処理剤中には、性能が損なわれない範囲内で、pH調整のために酸、アルカリ等を添加してもよい。
【0070】
上記のような各種の成分を含有する化成処理剤は、金属板10の片面又は両面上に塗布されたのち、乾燥されて化成処理皮膜層30を形成する。本実施形態に係るプレコート金属板では、片面あたり10mg/m2以上の化成処理皮膜層30をめっき層上に形成することが好ましい。化成処理皮膜層40の付着量は、より好ましくは20mg/m2以上であり、更に好ましくは50mg/m2以上である。また、本実施形態に係るプレコート金属板では、片面あたり1000mg/m2以下の化成処理皮膜層30をめっき層上に形成することが好ましい。化成処理皮膜層40の付着量は、より好ましくは800mg/m2以下であり、更に好ましくは600mg/m2以下である。なお、かかる付着量に対応する化成処理皮膜層30の膜厚は、化成処理剤に含まれる成分にもよるが、概ね0.01~1μm程度となる。なお、かかる化成処理皮膜層30の膜厚は、粒子203の平均粒子径の測定方法と同様に、断面の直接観察により測定することが可能である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係るプレコート金属板について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係るプレコート金属板の一例にすぎず、本発明に係るプレコート金属板が下記の例に限定されるものではない。
【0072】
(1)金属板
以下の表1に示す、A1~A7の7種類の金属板を準備した。準備した金属板に対し、表7-1、表7-2に示す表面形状を得るべく、表2に記載のような加工条件にて、樹脂ショット又は表面研磨を実施した。なお、表面形状は、下記手法により分析し決定した。また、A1~A4のめっき付着量は、以下の表7-1、表7-2に示す付着量とした。更に、これら金属板に対して、クロメートフリー系化成処理(CT-E300/日本パーカライジング社製と同等のもの)を60mg/m2施しためっき鋼板も準備した。化成処理に用いた処理液は、その成分としてシランカップリング剤を含有するものであり、かかる化成処理により形成される皮膜層は、化成処理皮膜層として機能する。なお、化成処理の有無は、以下の表7-1、表7-2に記載した。
【0073】
【0074】
【0075】
<金属板の表面形状>
着色皮膜層を形成した後の金属板を用い、MEKを染みこませたガーゼを用いて着色皮膜層をラビングして、着色皮膜層を除去した。その上で、金属板の第一領域の面積率を、下記手法により算出した。金属板の表面に、0.5mm間隔で仮想格子線を描き、仮想格子線によって区画される複数の領域を設定し、各領域の算術平均面粗さSaを算出した。そして、算術平均面粗さSaが1μm以上の領域を第1領域と判別し、算術平均面粗さAが1μm未満の領域を第2領域と判別した。算術平均面粗さSaの測定は、3Dレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-9710)を用いて行った。20倍の標準レンズを用いて、仮想格子線によって区画される複数の領域のそれぞれにおいて、測定間隔50μmで領域内の高さAを測定した。得られた高さA100点を高さA1~高さA100とし、下記の式を用いてSaを算出した。Aaveは、高さA100点の平均とした。
Sa=1/100×Σ[x=1→100](|高さAx-Aave|)
【0076】
(2)着色塗料の調整
着色皮膜層の形成に用いる着色塗料を調製した。
造膜成分として機能するバインダー樹脂として、以下の表3に示す樹脂と同等のものを用意した。各樹脂溶液に対し、硬化剤としてメラミン系硬化剤(サイメル303/オルネクス社製と同等のもの)を、固形分割合で15質量%添加した。更に、以下の表4に示す粒子と同等のものを準備し、以下の表7-1、表7-2に示した所定粒径・所定量で添加した。また、着色顔料として、以下の表5に示したアルミ顔料、酸化チタン、カーボンブラック(CB)と同等のものを準備し、以下の表7-1、表7-2に示した所定量で添加した。また、防錆顔料として、以下の表6に示す化合物を準備し、以下の表7-1、表7-2に示した所定量で添加し、着色塗料を調製した。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
(3)サンプル作製
上記のようにして調製した着色塗料を、バーコータを用いてめっき鋼板に塗布し、60秒で最高到達板温度(PMT)が200℃になるように加熱して、着色皮膜層を形成した。なお、作成した着色皮膜層の厚みは、先だって説明した方法に即して断面観察により測定し、得られた結果を、表7-1、表7-2に示した。
【0082】
【0083】
【0084】
(4)サンプルの評価
上記方法により作製した各サンプルについて、以下のような基準に基づき性能を評価した。得られた評価結果を、以下の表8-1、表8-2にあわせて示した。
【0085】
<外観>
作製したサンプルの外観を以下の基準により評価し、評点2以上を合格とし、評点1を不合格とした。
評価基準
3:評価面において、均一な着色皮膜外観が95%以上である。
2:評価面において、均一な着色皮膜外観が80%以上95%未満である。
1:ワキ発生等により、評価面において、均一な着色皮膜外観が80%未満である。
【0086】
<耐面接触疵性>
以下のような手法により、耐面接触疵性を評価した。作製したサンプルを50mm角に切断して、塗装面を上にした状態で固定した。その上に、50mm角に切断した電気亜鉛めっき鋼板を重ね、8.5kgf/cm2(1kgfは、約9.8Nである。)の条件で加圧した状態で90度回転させた後に、塗装面の状態を以下のような基準で評価し、評点3以上を合格とした。
評価基準
7:塗膜剥離・加圧による光沢変化とも、ほとんど認められない。
(接触部からの剥離が2%未満)
6:塗膜剥離はほとんど認められず、加圧による光沢変化が一部認められる。
(接触部からの剥離が2%未満)
5:極僅かに塗膜剥離が認められ、加圧による光沢変化が一部認められる。
(接触部からの剥離が2%以上5%未満)
4:僅かに塗膜剥離が認められ、加圧による光沢変化が一部認められる。
(接触部からの剥離が5%以上10%未満)
3:僅かに塗膜剥離が認められ、加圧による光沢変化が認められる。
(接触部からの剥離が5%以上10%未満)
2:塗膜剥離が認められ、加圧による著しい光沢変化が認められる。
(接触部からの剥離が10%以上20%未満)
1:塗膜剥離が著しい。
(接触部からの剥離が20%以上)
【0087】
<加工部密着性>
参考性能として、以下のような基準に基づき加工部密着性を評価した。作製したサンプルに対して、20℃雰囲気中で内R1mmの条件で90°折り曲げ加工を施した後、折り曲げ加工部外側のテープ剥離試験を実施した。テープ剥離部の外観を下記の評価基準で評価した。
評価基準
4:塗膜剥離はほぼ認められない(曲げ加工部からの剥離面積2%未満)。
3:僅かに塗膜剥離が認められる(曲げ加工部からの剥離面積2%以上5%未満)。
2:部分的に塗膜剥離が認められる(曲げ加工部からの剥離面積5%以上20%未満)。
1:全体的に塗膜剥離が認められる(曲げ加工部からの剥離面積20%以上)。
【0088】
<耐食性>
参考性能として、以下のような基準に基づき耐食性を評価した。試験板の端面をテープシールした後、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験(SST)を72時間行い、錆発生状況を観察し、下記の評価基準で評価した。
評価基準
6:白錆発生面積が1%未満で赤錆発生なし。
5:錆発生面積が1%以上2%未満で赤錆発生なし。
4:錆発生面積が2%以上3%未満で赤錆発生なし。
3:錆発生面積が3%以上4%未満で赤錆発生なし。
2:錆発生面積が4%以上5%未満で赤錆発生なし。
1:錆発生面積が5%以上、又は、赤錆発生。
【0089】
【0090】
【0091】
上記表8-1、表8-2から明らかなように、本発明の実施例に対応するプレコート金属板は、優れた外観、及び、耐面接触疵性を兼ね備えていることがわかる。一方、本発明の比較例に対応するプレコート金属板は、外観、又は、耐面接触疵性の少なくとも何れかの性能が劣ることがわかる。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0093】
1 プレコート金属板
10 金属板
20 着色皮膜層
30 化成処理皮膜層
201 造膜成分
203 粒子