(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】脱水機
(51)【国際特許分類】
D06F 33/48 20200101AFI20230329BHJP
D06F 37/42 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
D06F33/48
D06F37/42 A
(21)【出願番号】P 2018220728
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】512128645
【氏名又は名称】青島海爾洗衣机有限公司
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO HAIER WASHING MACHINE CO.,LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】宮地 成佳
【審査官】沖田 孝裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-112136(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107099973(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/30
D06F 37/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
洗濯物を収容する回転槽と、前記回転槽を収容する水槽とを有し、前記筐体内に配置される脱水槽と、
前記回転槽を回転させるモータと、
前記脱水槽と前記筐体とをつなぎ、前記脱水槽を弾性支持する支持部材と、
前記回転槽の回転中における前記脱水槽の振動を検出する加速度センサと、
前記回転槽内の洗濯物を脱水するために、前記モータの回転数を所定の脱水回転数まで上昇させてから前記脱水回転数で定常回転するように前記モータを制御するモータ制御手段と、
前記脱水回転数での前記モータの定常回転中において、前記回転槽の一回転周期よりも長く、かつ、前記回転槽の二回転周期よりも短い所定のサンプリング期間を複数回設定する手段と、
前記複数回のサンプリング期間のそれぞれにおいて、前記加速度センサの検出値におけるピークピーク値を取得する取得手段と、
前記ピークピーク値が所定の閾値以上であれば、初期値が零のカウント値をインクリメントするカウント手段と、
前記カウント値が所定値に到達すると、前記回転槽に所定以上の大きさのアンバランスが存在すると判断するアンバランス判断手段とを含む、脱水機。
【請求項2】
前記回転槽に所定以上の大きさのアンバランスが存在すると前記アンバランス判断手段が判断すると、前記モータ制御手段は、前記モータの回転を停止する、請求項1に記載の脱水機。
【請求項3】
前記サンプリング期間において、前記加速度センサの検出値の増減が所定回数以上切り替わると、前記脱水槽に第1不規則振動が発生したと判断する第1不規則振動判断手段をさらに含む、請求項1
または2に記載の脱水機。
【請求項4】
前記ピークピーク値の増減が所定回数以上繰り返されると、前記脱水槽に
不規則振動が発生したと判断する
不規則振動判断手段をさらに含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の脱水機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脱水機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されたドラム式洗濯機は、洗濯機筐体と、洗濯機筐体内に揺動自在に配設された水槽と、水槽内に回転自在に配設された回転ドラムと、回転ドラムを回転駆動させるモータと、モータを制御する制御部とを含む。水槽、回転ドラムおよびモータは、水槽ユニットを構成する。ドラム式洗濯機は、水槽ユニットの振動を検知する振動検知部を含む。ドラム式洗濯機の脱水運転において、制御部は、回転ドラムの回転数を段階的に上昇させた後に回転ドラムを最高脱水回転数で定常回転させる。回転ドラムの回転数の上昇途中において、回転ドラム内の洗濯物の偏り、いわゆるアンバランスが大きいと、所定の検知周期において振動検知部が検知した振動値の上昇幅と当該検知周期との比率が、所定値を超える。すると、制御部は、水槽ユニットの異常振動を検知して、回転ドラムの回転数の上昇を停止し、上昇停止時の回転数を最高脱水回転数に決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最高脱水回転数での回転ドラムの定常回転中には、回転ドラム内の洗濯物からの水分の抜け具合に応じて、アンバランスが大きくなることがある。アンバランスが大きくなると、水槽ユニットが異常振動するおそれがある。特許文献1のドラム式洗濯機の脱水運転では、回転ドラムの回転数の上昇途中における異常振動は監視されるが、その後に最高脱水回転数で回転ドラムが定常回転する間では、異常振動は監視されない。
【0005】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、洗濯物を脱水するための回転槽の定常回転中における異常振動を監視できる脱水機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筐体と、洗濯物を収容する回転槽と、前記回転槽を収容する水槽とを有し、前記筐体内に配置される脱水槽と、前記回転槽を回転させるモータと、前記脱水槽と前記筐体とをつなぎ、前記脱水槽を弾性支持する支持部材と、前記回転槽の回転中における前記脱水槽の振動を検出する加速度センサと、前記回転槽内の洗濯物を脱水するために、前記モータの回転数を所定の脱水回転数まで上昇させてから前記脱水回転数で定常回転するように前記モータを制御するモータ制御手段と、前記脱水回転数での前記モータの定常回転中における複数のサンプリング期間のそれぞれにおいて、前記加速度センサの検出値におけるピークピーク値を取得する取得手段と、前記ピークピーク値が所定の閾値以上であれば、初期値が零のカウント値をインクリメントするカウント手段と、前記カウント値が所定値に到達すると、前記回転槽に所定以上の大きさのアンバランスが存在すると判断するアンバランス判断手段とを含む、脱水機である。
【0007】
また、本発明は、前記回転槽に所定以上の大きさのアンバランスが存在すると前記アンバランス判断手段が判断すると、前記モータ制御手段が、前記モータの回転を停止することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記脱水機が、前記モータの回転数を検出する回転数センサをさらに含み、前記取得手段が、それぞれの前記サンプリング期間を、前記回転数センサが検出した回転数から得られる前記回転槽の回転周期よりも長くなるように設定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記脱水機が、いずれかの前記サンプリング期間において、前記加速度センサの検出値の増減が所定回数以上切り替わると、前記脱水槽に第1不規則振動が発生したと判断する第1不規則振動判断手段をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記脱水機が、前記ピークピーク値の増減が所定回数以上繰り返されると、前記脱水槽に第2不規則振動が発生したと判断する第2不規則振動判断手段をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脱水機では、脱水槽を構成する回転槽が、モータの脱水回転数に対応する高回転数で定常回転することによって、回転槽内の洗濯物が脱水される。回転槽の定常回転中における複数のサンプリング期間のそれぞれにおいて、脱水槽の振動が加速度センサによって検出され、加速度センサの検出値におけるピークピーク値が取得される。定常回転中の回転槽のアンバランスが小さければ、ピークピーク値はほぼ一定で推移する。一方、回転槽のアンバランスが大きくなると、ピークピーク値も大きくなる。ピークピーク値が所定の閾値以上に大きくなると、カウント値がインクリメントされる。カウント値が所定値に到達するまでインクリメントされると、脱水槽を異常振動させる所定以上の大きさのアンバランスが回転槽に存在すると判断される。このように、回転槽の定常回転中におけるアンバランスによる脱水槽の異常振動を、ピークピーク値によって監視できる。
【0012】
また、本発明によれば、脱水機では、回転槽に所定以上の大きさのアンバランスが存在すると判断されると、モータの回転が停止するので、異常振動が解消されないまま回転槽の高速回転が継続されないように適切に処理できる。
【0013】
また、本発明によれば、それぞれのサンプリング期間は、回転数センサが検出したモータの瞬間回転数から得られる回転槽の回転周期よりも長くなるように設定される。これにより、それぞれのサンプリング期間では、回転槽が1回転以上する間における脱水槽の振動が加速度センサによって検出されるので、所定以上の大きさのアンバランスの存在を判断するのに有効なピークピーク値を取得できる。
【0014】
また、本発明によれば、例えば、脱水槽を弾性支持する支持部材が劣化すると、脱水槽には、いずれかのサンプリング期間において加速度センサの検出値の増減が所定回数以上切り替わるような第1不規則振動が発生する。第1不規則振動は、異常振動の一種である。そのため、脱水機では、回転槽の定常回転中において、支持部材の劣化などによる脱水槽の異常振動を、サンプリング期間における加速度センサの検出値の増減の切り替わり回数によって監視できる。
【0015】
また、本発明によれば、回転槽の定常回転中において、例えば、脱水槽を構成する水槽が何かしらの異常によって筐体に周期的に接触すると、脱水槽には、連続して取得されるピークピーク値がほぼ一定で推移せずに増減を所定回数以上繰り返すような第2不規則振動が発生する。第2不規則振動は、異常振動の一種である。脱水機では、回転槽の定常回転中において、何かしらの異常による脱水槽の異常振動を、ピークピーク値の増減の繰り返し回数によって監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、この発明の一実施形態に係る脱水機の模式的な縦断面右側面図である。
【
図2】
図2は、脱水機の電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、脱水運転における脱水機のモータの回転数の状態を示すタイムチャートである。
【
図4】
図4は、脱水運転中に脱水槽に生じる振動を示すタイムチャートである。
【
図5】
図5は、脱水運転中に脱水槽に生じる振動を示すタイムチャートである。
【
図6】
図6は、加速度センサの検出値のピークピーク値についての閾値とモータの回転数との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、脱水運転における初期の処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、脱水運転における検知1の処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、脱水運転における検知2の処理を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、脱水運転中に脱水槽に生じる第1不規則振動を示すタイムチャートである。
【
図11】
図11は、第1変形例に係る検知2の処理を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、脱水運転中に脱水槽に生じる第2不規則振動を示すタイムチャートである。
【
図13】
図13は、第2変形例に係る検知2の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る脱水機1の模式的な縦断面右側面図である。
図1の紙面に直交する方向を脱水機1の左右方向Xといい、
図1における左右方向を脱水機1の前後方向Yといい、
図1における上下方向を脱水機1の上下方向Zという。左右方向Xと、前後方向Yと、上下方向Zとは、直交し合って三次元を構成する。左右方向XをX軸方向といい、前後方向YをY軸方向といい、上下方向ZをZ軸方向ということがある。左右方向Xのうち、
図1の紙面の奥側を脱水機1の左側X1といい、
図1の紙面の手前側を脱水機1の右側X2という。前後方向Yのうち、
図1における左側を前側Y1といい、
図1における右側を後側Y2という。上下方向Zのうち、上側を上側Z1といい、下側を下側Z2という。
【0018】
脱水機1には、洗濯物Qの脱水運転が可能な全ての装置が含まれる。そのため、脱水機1には、脱水運転のみを実行する装置だけでなく、洗い運転、すすぎ運転および脱水運転といった洗濯運転を実行する洗濯機や、洗濯運転に加えて乾燥運転も実行する洗濯乾燥機も含まれる。以下では、洗濯機を例に取って脱水機1について説明する。
【0019】
脱水機1は、筐体2と、筐体2内に配置される水槽3と、水槽3内に収容される回転槽4と、回転槽4内の下部に配置される回転翼5と、回転槽4や回転翼5を回転させる電動のモータ6と、モータ6の駆動力を回転槽4や回転翼5に伝達する伝達機構7とを含む。
【0020】
筐体2は、例えば金属製であり、ボックス状に形成される。筐体2の上面部2Aは、例えば、後側Y2に向かうに従って上側Z1に延びるように、前後方向Yに対して傾斜して形成される。上面部2Aには、筐体2の内外を連通させる開口2Bが形成される。上面部2Aには、開口2Bを開閉する扉8が設けられる。上面部2Aにおいて例えば開口2Bよりも前側Y1の領域には、スイッチや液晶パネルなどで構成された表示操作部9が設けられる。使用者は、表示操作部9のスイッチなどを操作することによって、脱水機1の運転条件を自由に選択したり、脱水機1に対して運転開始や運転停止などを指示したりすることができる。表示操作部9の液晶パネルなどには、脱水機1の運転に関する情報が目視可能に表示される。
【0021】
水槽3は、例えば樹脂製であり、有底円筒状に形成される。水槽3は、ばねおよび減衰機構を有する吊棒やショックアブソーバなどの支持部材10を介して筐体2に連結され、支持部材10によって弾性支持される。水槽3は、上下方向Zに沿って配置された略円筒状の円周壁3Aと、円周壁3Aの中空部分を下側Z2から塞ぐ底壁3Bと、円周壁3Aの上側Z1側の端縁を縁取りつつ円周壁3Aの円中心側へ張り出したリング状の環状壁3Cとを有する。環状壁3Cの内側には、円周壁3Aの中空部分に上側Z1から連通する出入口3Dが形成される。出入口3Dは、筐体2の開口2Bに対して下側Z2から対向し、連通した状態にある。環状壁3Cには、出入口3Dを開閉する扉11が設けられる。底壁3Bは、略水平に延びる円板状に形成され、底壁3Bの円中心位置には、底壁3Bを貫通する貫通孔3Eが形成される。
【0022】
水槽3内には、水が溜められる。水槽3には、水道水の蛇口につながった給水路12が上側Z1から接続され、水道水が給水路12から水槽3内に供給される。給水路12の途中には、給水を開始したり停止したりするために開閉される給水弁13が設けられる。水槽3には、排水路14が下側Z2から接続され、水槽3内の水は、排水路14から機外に排出される。排水路14の途中には、排水を開始したり停止したりするために開閉される排水弁15が設けられる。
【0023】
回転槽4は、例えば金属製であり、水槽3よりも一回り小さい有底円筒状に形成され、内部に洗濯物Qを収容することができる。回転槽4は、上下方向Zに沿って配置された略円筒状の円周壁4Aと、円周壁4Aの中空部分を下側Z2から塞ぐ底壁4Bとを有する。
【0024】
円周壁4Aの内周面は、回転槽4の内周面である。円周壁4Aの内周面の上端部は、円周壁4Aの中空部分を上側Z1に露出させる出入口4Cである。出入口4Cは、水槽3の出入口3Dに対して下側Z2から対向し、連通した状態にある。出入口3Dおよび出入口4Cは、扉11によって一括開閉される。脱水機1の使用者は、開放された開口2B、出入口3Dおよび出入口4Cを介して、回転槽4に対して洗濯物Qを出し入れする。
【0025】
回転槽4は、水槽3内に同軸状で収容される。水槽3および回転槽4は、脱水槽16を構成する。脱水槽16の全体は、支持部材10によって弾性支持される。水槽3内に収容された状態の回転槽4は、その中心軸をなして上下方向Zに延びる軸線Jを中心として回転可能である。また、回転槽4の円周壁4Aおよび底壁4Bの少なくともいずれかには、図示しない貫通孔が複数形成され、水槽3内の水は、当該貫通孔を介して、水槽3と回転槽4との間で行き来できる。そのため、水槽3内の水位と回転槽4内の水位とは、一致する。
【0026】
回転槽4の底壁4Bは、水槽3の底壁3Bに対して上側Z1に間隔を隔てて略平行に延びる円板状に形成され、底壁4Bにおいて軸線Jと一致する円中心位置には、底壁4Bを貫通する貫通孔4Dが形成される。底壁4Bには、貫通孔4Dを取り囲みつつ軸線Jに沿って下側Z2へ延び出た管状の支持軸17が設けられる。支持軸17は、水槽3の底壁3Bの貫通孔3Eに挿通されて、支持軸17の下端部は、底壁3Bよりも下側Z2に位置する。
【0027】
回転翼5は、いわゆるパルセータであり、軸線Jを円中心とする円盤状に形成され、回転槽4内において底壁4Bに沿って回転槽4と同心状に配置される。回転翼5において回転槽4の出入口4Cを臨む上面部には、放射状に配置される複数の羽根5Aが設けられる。回転翼5には、その円中心から軸線Jに沿って下側Z2へ延びる回転軸18が設けられる。回転軸18は、支持軸17の中空部分に挿通されて、回転軸18の下端部は、水槽3の底壁3Bよりも下側Z2に位置する。
【0028】
モータ6は、例えばインバータモータによって構成される。モータ6は、筐体2内において、水槽3の下側Z2に配置される。モータ6は、軸線Jを中心として回転する出力軸19を有する。伝達機構7は、支持軸17および回転軸18のそれぞれの下端部と、出力軸19の上端部との間に介在される。伝達機構7は、モータ6が出力軸19から出力する駆動力を、支持軸17および回転軸18の一方または両方に対して選択的に伝達する。伝達機構7として、公知のものが用いられる。この実施形態ではモータ6および伝達機構7が水槽3に固定されるが、モータ6および伝達機構7が筐体2に固定されて、モータ6の駆動力がベルトなどの伝達部材を介して伝達機構7から支持軸17や回転軸18に伝達されてもよい。
【0029】
図2は、脱水機1の電気的構成を示すブロック図である。脱水機1は、モータ制御手段、取得手段、カウント手段、アンバランス判断手段、第1不規則振動判断手段および第2不規則振動判断手段の一例としての制御部21を含む。制御部21は、例えば、CPU22と、ROMやRAMなどのメモリ23と、計時用のタイマ24とを含むマイコンとして構成され、筐体2内に内蔵される(
図1も参照)。メモリ23は、後述する様々なカウント値などを記憶する。
【0030】
脱水機1は、水位センサ25と、回転数センサ26と、加速度センサ27とをさらに含む。モータ6、伝達機構7、給水弁13、排水弁15、表示操作部9、水位センサ25、回転数センサ26および加速度センサ27のそれぞれは、制御部21に対して電気的に接続される。
【0031】
制御部21は、モータ6の回転を制御してモータ6に駆動力を発生させたり、モータ6の回転を停止したりする。制御部21は、伝達機構7を制御することによって、モータ6の駆動力の伝達先を支持軸17および回転軸18の一方または両方へと切り替える。モータ6の駆動力が支持軸17に伝達されると、回転槽4が支持軸17まわりに回転する。モータ6の駆動力が回転軸18に伝達されると、回転翼5が回転軸18まわりに回転する。制御部21は、給水弁13および排水弁15の開閉を制御する。制御部21が排水弁15を閉じた状態で給水弁13を開くと、脱水槽16に給水されて水が溜まる。制御部21が排水弁15を開くと、脱水槽16が排水される。使用者が表示操作部9を操作して洗濯物Qの脱水条件などについて選択すると、制御部21は、その選択を受け付ける。制御部21は、表示操作部9の表示を制御する。
【0032】
水位センサ25は、脱水槽16の水位、つまり水槽3および回転槽4の水位を検知するセンサであり、水位センサ25の検出結果は、リアルタイムで制御部21に入力される。回転数センサ26は、モータ6の回転数、厳密には、モータ6における出力軸19の回転数を検出する装置であり、例えば、ホールICで構成される。回転数センサ26が瞬間的に読み取った回転数は、リアルタイムで制御部21に入力される。制御部21は、入力された回転数に基いて、例えば、モータ6に印加する電圧のデューティ比を制御することによって、モータ6を所望の回転数で回転させる。この実施形態では、回転槽4の回転数は、モータ6の回転数と同じであり、回転翼5の回転数は、伝達機構7での減速比などの所定の定数をモータ6の回転数に乗じて得られる値である。いずれにせよ、回転数センサ26は、モータ6の回転数を検出することによって、回転槽4および回転翼5のそれぞれの回転数も検出する。
【0033】
回転槽4が回転すると、脱水槽16が、回転翼5、モータ6および伝達機構7を伴って振動する。加速度センサ27は、例えば水槽3の外周面部に取り付けられ(
図1参照)、回転槽4の回転中における脱水槽16の振動を検出する。具体的に、加速度センサ27は、振動する脱水槽16におけるX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向という三次元の加速度を、検出値として検出する。左右方向Xの加速度は、脱水槽16の振動におけるX軸方向の振動成分である。前後方向Yの加速度は、脱水槽16の振動におけるY軸方向の振動成分である。上下方向Zの加速度は、脱水槽16の振動におけるZ軸方向の振動成分である。加速度センサ27の検出値は、モータ6の回転数に応じて変化し、具体的には、モータ6の回転数の二乗に応じて増加する。
【0034】
洗い運転では、制御部21は、脱水槽16に所定時間給水し、モータ6によって回転翼5を回転させる。これにより、回転槽4内の洗濯物Qは、回転する回転翼5によって撹拌されたり、洗い運転開始前に回転槽4内に投入された洗剤によって汚れが分解されたりすることによって洗浄される。洗い運転後のすすぎ運転では、制御部21は、脱水槽16に所定時間給水し、モータ6によって回転翼5を回転させる。これにより、回転槽4内の洗濯物Qは、回転する回転翼5が回転槽4内に発生させる水道水の水流によってすすがれる。すすぎ運転は、複数回実行されてもよい。
【0035】
次に、脱水運転について詳しく説明する。
図3は、脱水機1で実施される1回の脱水運転におけるモータ6の回転数の状態を示すタイムチャートである。
図3のタイムチャートでは、横軸が経過時間(単位:分)を示し、縦軸がモータ6の回転数(単位:rpm)を示す。
【0036】
脱水運転の開始に伴い、制御部21は、回転槽4の回転を開始する。具体的には、まず、制御部21は、例えば120rpmという所定の初期回転数までモータ6の回転数を上昇させてから、初期回転数で定常回転するようにモータ6を制御する。これにより、回転槽4も初期回転数で定常回転する。その後、制御部21は、モータ6を、120rpmから、例えば240rpmという所定の中間回転数まで上昇させてから中間回転数で定常回転するようにモータ6を制御する。これにより、回転槽4も中間回転数で定常回転する。脱水運転の際、モータ6の回転数が例えば50rpm以上60rpm以下であるときに回転槽4において横共振が発生し、モータ6の回転数が例えば200rpm以上220rpm以下であるときに回転槽4において縦共振が発生する。そのため、初期回転数および中間回転数は、横共振や縦共振が発生するときのモータ6の回転数を避けた値になるように設定される。
【0037】
中間回転数でのモータ6の定常回転の後、制御部21は、モータ6の回転数を240rpmから例えば800rpm以上1000rpm以下という所定の脱水回転数まで上昇させてから、脱水回転数で定常回転するようにモータ6を制御する。これにより、回転槽4も脱水回転数で定常回転する。脱水回転数での回転槽4の定常回転で生じた遠心力により、回転槽4内の洗濯物Qが本格的に脱水される。脱水運転中の排水弁15は開いた状態にあり、脱水によって洗濯物Qから染み出た水分は、排水路14を通って排出される。脱水回転数での回転槽4の定常回転が所定時間継続すると、制御部21は、モータ6の回転を停止する。これにより、脱水運転が終了する。脱水運転には、洗い運転とすすぎ運転との間に実行される中間脱水運転や、最後のすすぎ運転の後に実行される最終脱水運転がある。初期回転数、中間回転数および脱水回転数の少なくともいずれかでの定常回転時間が、中間脱水運転と最終脱水運転とで異なる。具体的には、最終脱水運転での定常回転時間が、中間脱水運転での定常回転時間よりも長く設定されるが、この実施形態では、中間脱水運転と最終脱水運転とを区別せずに脱水運転について説明する。
【0038】
図4および
図5は、脱水運転において回転槽4の回転中に脱水槽16に生じる振動を示すタイムチャートである。
図4および
図5のタイムチャートでは、横軸が経過時間(単位:ミリ秒)を示し、縦軸が、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のいずれかにおける加速度センサ27の検出値(単位:例えばmm/ミリ秒
2)を示す。回転槽4内の洗濯物Qが回転槽4の周方向に偏って配置された状態にあると、回転槽4内において洗濯物Qの偏りがある。この偏りをアンバランスという。アンバランスが小さいと、回転槽4が安定して回転するので、加速度センサ27の検出値は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のいずれの方向における検出値であっても、
図4に示すような連続波形を描く。この連続波形における1周期分の波形Wにおける検出値についての最大値maxと最小値minとの差を、ピークピーク値(Peak-to-peak value)ppという。アンバランスが小さい場合には、加速度センサ27の検出値が正弦波を描くことにより、各波形Wの最大値maxおよび最小値minがそれぞれ一定なので、ピークピーク値ppは、ほぼ一定で推移する。
【0039】
一方、アンバランスが大きくなると、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向における少なくともいずれの方向についての加速度センサ27の検出値が変化し、
図5に示すように、波形Wが、波形W1から波形W2へと大きく変化する。波形W2のピークピーク値ppは、波形W1のピークピーク値ppよりも大きい。つまり、アンバランスが大きくなると、ピークピーク値ppが大きくなる。
【0040】
ピークピーク値ppには、実験などによって閾値が設定される。ピークピーク値ppは、閾値未満であれば正常である。
図6は、ピークピーク値ppについての閾値とモータ6の回転数との関係を示すグラフである。
図6のグラフでは、横軸がモータ6の回転数(単位:rpm)を示し、縦軸が、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のいずれかにおけるピークピーク値ppについての閾値(単位:例えばmm/ミリ秒
2)を示す。閾値は、例えば、モータ6の回転数を変数とする関数によって得られ、回転数の増加に応じて閾値が大きくなる。
図6は、この関数のグラフを示す。この関数は、例えば一次関数であり、メモリ23に記憶される。なお、加速度センサ27の精度上、モータ6の回転数が120rpm未満の状態では、正確なピークピーク値ppを取得することが困難なので、閾値は、モータ6の回転数が120rpm以上である場合に設定される。この関数は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれのピークピーク値ppに応じて三種類設定されてもよいし、全ての方向のピークピーク値についての閾値を一種類の関数で算出できてもよい。
【0041】
ピークピーク値ppが繰り返し閾値以上になる位に回転槽4のアンバランスが大きい状態で脱水運転が行われると、回転槽4が異常振動することにより、脱水機1では騒音などの不具合が発生するおそれがある。そこで、制御部21は、脱水運転中において、ピークピーク値ppを監視することによって回転槽4における異常振動の有無を検知する。制御部21は、このような検知として、検知1および検知2という2種類の電気的な検知を実行する。検知1は、モータ6の回転数が初期回転数以上で脱水回転数未満の範囲にある立ち上がり期間において実行され、検知2は、立ち上がり期間後にモータ6が脱水回転数で定常回転する本格脱水期間において実行される(
図3参照)。
【0042】
図7は、脱水運転における初期の処理を示すフローチャートである。脱水運転が開始されると、制御部21は、これから用いるカウント値iおよびカウント値Fを初期化つまり零にリセットして(ステップS1)、モータ6の回転を開始する(ステップS2)。カウント値iおよびカウント値Fの初期値は零である。モータ6の回転数が上昇して初期回転数(この実施形態では120rpm)に到達すると(ステップS3でYES)、制御部21は、前述した立ち上がり期間内においてモータ6の回転数を段階的に上昇させながら、検知1を実行する(ステップS4)。初期回転数で定常回転中するときのモータ6の回転数は、初期回転数で常に一定という訳ではなく、初期回転数を基準として若干変動する。中間回転数や脱水回転数で定常回転するときのモータ6の回転数についても同様である。
【0043】
図8は、検知1を示すフローチャートである。検知1の開始に伴い、制御部21は、現時点におけるモータ6の瞬間回転数Aを回転数センサ26によって取得し、公知の方法によってモータ6の回転周期Tを瞬間回転数Aから算出し、回転周期Tからサンプリング期間Sを算出する(ステップS11)。回転周期Tは、回転槽4の回転周期でもある。サンプリング期間Sは、1以上の定数αを回転周期Tに乗じて得られる。そのため、サンプリング期間Sは、回転周期Tよりも長い(
図4参照)。この実施形態では、定数αは、2未満、具体的には1.5に設定されるので、サンプリング期間Sは、1.5周期分の長さである。
【0044】
次に、制御部21は、タイマ24および加速度センサ27をリセットする(ステップS12)。これにより、タイマ24の計測値tと、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおける加速度センサ27の検出値の最大値maxおよび最小値minとが初期化されて零になる。なお、X軸方向の検出値について、最大値maxを最大値Xmaxといい、最小値minを最小値Xminということがある。同様に、Y軸方向の検出値について、最大値maxを最大値Ymaxといい、最小値minを最小値Yminといい、Z軸方向の検出値について、最大値maxを最大値Zmaxといい、最小値minを最小値Zminということがある。
【0045】
次に、制御部21は、タイマ24による計時を開始する(ステップS13)。これにより、タイマ24の計測値tが1ミリ秒ずつ増加する。計時開始後に、制御部21は、加速度センサ27の検出値、具体的には、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれの加速度を1ミリ秒毎に取得する(ステップS14)。タイマ24の計測値tがサンプリング期間Sに到達すると、つまり、ステップS13での計時開始からサンプリング期間Sが経過すると(ステップS15でYES)、制御部21は、サンプリング期間S内に1ミリ秒毎に取得し続けた多数の検出値の中から、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおける最大値maxおよび最小値min、つまり、最大値Xmax、最小値Xmin、最大値Ymax、最小値Ymin、最大値Zmaxおよび最小値Zminを取得する(ステップS16)。
【0046】
そして、制御部21は、ステップS16で取得した最大値maxおよび最小値minなどに基いて、フィードバック制御を実行する。具体的には、まず、制御部21は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおけるピークピーク値ppおよび閾値を取得する(ステップS17)。制御部21は、最大値maxおよび最小値minに基いてX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおけるピークピーク値ppを取得する。X軸方向におけるピークピーク値Xppは、最大値Xmaxから最小値Xminを差し引くことによって得られる。Y軸方向におけるピークピーク値Yppは、最大値Ymaxから最小値Yminを差し引くことによって得られる。Z軸方向におけるピークピーク値Zppは、最大値Zmaxから最小値Zminを差し引くことによって得られる。制御部21は、ステップS11で取得した瞬間回転数Aを前述した関数(
図6参照)に代入することによって、当該瞬間回転数Aに対応する閾値を取得する。なお、閾値は、ステップS11で取得されてもよい。
【0047】
ピークピーク値Xpp、ピークピーク値Yppおよびピークピーク値Zppのそれぞれが、対応する閾値未満であれば、回転槽4のアンバランスは、問題にならない程度に小さい。この場合(ステップS18でYES)、制御部21は、現時点におけるモータ6の回転数が目標脱水回転数(ここでは1000rpm)に到達したか否かを確認する(ステップS19)。モータ6の回転数が目標脱水回転数に到達したのであれば(ステップS19でYES)、制御部21は、検知1を終了して検知2を実行する(ステップS20)。これにより、目標脱水回転数と同じ脱水回転数でモータ6が定常回転した状態で、検知2が実行される。モータ6の回転数が目標脱水回転数未満であれば(ステップS19でNO)、制御部21は、ステップS11からS19の処理を繰り返す。これにより、ピークピーク値ppと閾値との比較が新たなサンプリング期間S毎に繰り返される。
【0048】
ピークピーク値Xpp、ピークピーク値Yppおよびピークピーク値Zppの少なくともいずれかが、対応する閾値以上であれば、回転槽4には、見過ごせない大きさのアンバランスが存在する。そのため、いずれかのピークピーク値ppが閾値以上であれば(ステップS18でNO)、制御部21は、注意すべき大きさのアンバランスが存在すると判断する。そして、制御部21は、現時点におけるモータ6の回転数が所定の下限脱水回転数以上になったか否かを確認する(ステップS21)。下限脱水回転数は、脱水回転数の下限値であって、この実施形態では800rpmである。モータ6の回転数が目標脱水回転数より低くても下限脱水回転数以上であれば、本格脱水期間(
図3参照)を延長することによって、回転槽4内の洗濯物Qを十分に脱水できる。現時点におけるモータ6の回転数が下限脱水回転数以上であれば(ステップS21でYES)、制御部21は、脱水槽16の振動が大きくなり始めた現時点の回転数を脱水回転数に決定し、この脱水回転数でモータ6を定常回転させて脱水運転を継続し(ステップS22)、検知2を実行する(ステップS20)。ただし、現時点の回転数は、目標脱水回転数より低い値であるとは限らないので、目標脱水回転数に到達済みであってもよい。
【0049】
現時点におけるモータ6の回転数が下限脱水回転数未満であれば(ステップS21でNO)、制御部21は、前述したカウント値iをインクリメント(+1)する(ステップS23)。インクリメント後のカウント値iが所定値未満であれば(ステップS24でYES)、制御部21は、モータ6の回転を停止する(ステップS25)。この実施形態における当該所定値は、2である。制御部21は、ステップS25でモータ6の回転を停止することによって脱水運転を中断する。この場合、制御部21は、ステップS2(
図7参照)からの処理をやり直すことによって、脱水運転の再立ち上げを実行する。脱水運転の再立上げとは、制御部21が、モータ6の回転を停止して脱水運転を一旦中断した直後に、再びモータ6を回転させて脱水運転を再開することである。カウント値iは、脱水運転の再立ち上げの回数である。この実施形態では、脱水運転の再立ち上げを既に1回実行済みであれば(ステップS24でNO)、制御部21は、次の再立ち上げを実行せずに、モータ6の回転を停止して(ステップS26)、アンバランス修正を実行する(ステップS27)。
【0050】
アンバランス修正において、制御部21は、脱水槽16を一旦排水した後に所定水位まで脱水槽16内に給水することで、回転槽4内の洗濯物Qを水に浸してほぐれやすくする。この状態で、制御部21は、回転槽4および回転翼5を回転させることで回転槽4の内周面に張り付いた洗濯物Qを剥がして撹拌し、これによって回転槽4内における洗濯物Qの偏り、つまりアンバランスを小さくする。このように、脱水運転において、再立ち上げを1回実行済みであるのに再びピークピーク値ppが閾値以上になると、2回目の再立ち上げを実行してもアンバランスが解消される見込みが低いので、2回目の再立ち上げの代わりに、脱水運転が中止されてアンバランス修正が実行される。アンバランス修正後に、脱水運転が最初のステップS1からあらためて実行される。
【0051】
図9は、検知2を示すフローチャートである。検知2の開始に伴い、制御部21は、ステップS11と同様に、現時点におけるモータ6の瞬間回転数Aを回転数センサ26によって取得し、モータ6の回転周期Tとサンプリング期間Sとを算出する(ステップS31)。検知2でのサンプリング期間Sは、検知1と同様に、1.5周期分の長さである。つまり、制御部21は、1回あたりのサンプリング期間Sを、対応する回転周期Tよりも長くなるように設定する。そして、制御部21は、ステップS12と同様にタイマ24および加速度センサ27をリセットしてから(ステップS32)、タイマ24による計時を開始する(ステップS33)。計時開始後に、制御部21は、ステップS14と同様に、タイマ24の計測値tがサンプリング期間Sに到達するまで、加速度センサ27の検出値を1ミリ秒毎に取得する(ステップS34)。
【0052】
ステップS33での計時開始からサンプリング期間Sが経過すると(ステップS35でYES)、制御部21は、ステップS16と同様に、サンプリング期間S内に1ミリ秒毎に取得し続けた多数の検出値の中から、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおける最大値maxおよび最小値minを取得する(ステップS36)。そして、制御部21は、ステップS17と同様に、ステップS36で取得した最大値maxおよび最小値minに基いてX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおけるピークピーク値ppを取得し、ステップS31で取得した瞬間回転数Aに基いて閾値を取得する(ステップS37)。
【0053】
ステップS37で取得されたピークピーク値Xpp、ピークピーク値Yppおよびピークピーク値Zppのそれぞれが、対応する閾値未満であれば、脱水回転数で高速回転中の回転槽4のアンバランスは、問題にならない程度に小さい。この場合(ステップS38でYES)、前述した本格脱水期間(
図3参照)が経過するまでの間は(ステップS39でNO)、制御部21は、新たなサンプリング期間S毎にステップS31からS38の処理を繰り返す。つまり、制御部21は、脱水回転数でのモータ6の定常回転中における複数のサンプリング期間Sのそれぞれにおいて、加速度センサ27の検出値におけるピークピーク値ppを取得してピークピーク値ppと閾値とを比較する。本格脱水期間が経過すると(ステップS39でYES)、制御部21は、モータ6の回転を停止して(ステップS40)、検知2を終了する。これにより、一連の脱水運転が終了する。
【0054】
脱水回転数で定常回転中の回転槽4では、洗濯物Qからの水分の抜け具合に応じて、アンバランスが大きくなることがある。アンバランスが大きくなると、加速度センサ27の検出値の波形Wが大きくなって、ピークピーク値ppが大きくなることがある(
図5参照)。ピークピーク値Xpp、ピークピーク値Yppおよびピークピーク値Zppの少なくともいずれかが、対応する閾値以上であれば、脱水回転数で高速回転中の回転槽4には、見過ごせない大きさのアンバランスが存在する可能性がある。
【0055】
そこで、いずれかのピークピーク値ppが閾値以上であれば(ステップS38でNO)、制御部21は、前述したカウント値Fをインクリメント(+1)する(ステップS41)。インクリメント後のカウント値Fが所定値未満であれば(ステップS42でYES)、制御部21は、ステップS31からの処理を繰り返す。この実施形態における当該所定値は、10である。インクリメント後のカウント値Fが10に到達すると(ステップS42でNO)、制御部21は、脱水槽16を異常振動させる所定以上の大きさのアンバランスが回転槽4に存在すると判断し(ステップS43)、モータ6の回転を停止して脱水運転を中止し(ステップS44)、前述したアンバランス修正を実行する(ステップS45)。アンバランス修正後に、脱水運転があらためて実行される。
【0056】
このように、脱水回転数での回転槽4の定常回転中におけるアンバランスによる脱水槽16の異常振動を、それぞれのサンプリング期間Sのピークピーク値ppによって監視できる。特に、それぞれのサンプリング期間Sは、回転数センサ26が検出したモータ6の瞬間回転数Aから得られる回転槽4の回転周期Tよりも長くなるように設定される。これにより、それぞれのサンプリング期間Sでは、回転槽4が1回転以上する間における脱水槽16の振動が加速度センサ27によって検出されるので、所定以上の大きさのアンバランスの存在を判断するのに有効なピークピーク値ppを取得できる。さらに、脱水機1では、回転槽4に所定以上の大きさのアンバランスが存在すると判断されると、モータ6の回転が停止するので、異常振動が解消されないまま回転槽4の高速回転が継続されないように適切に処理できる。つまり、脱水機1では、脱水回転数での回転槽4の定常回転中における脱水槽16の振動状態を検知し、振動状態の悪化に応じて脱水運転を中止することによって、確実な脱水性能を確保できる。
【0057】
図10は、脱水運転において回転する脱水槽16に生じる第1不規則振動を示すタイムチャートである。
図10のタイムチャートでは、横軸が経過時間(単位:ミリ秒)を示し、縦軸が、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のいずれかにおける加速度センサ27の検出値(単位:例えばmm/ミリ秒
2)を示す。アンバランスの大小にかかわらず、回転槽4の回転中における加速度センサ27の検出値の連続波形では、回転周期Tと同じ1周期分の波形Wにおいて、最小値minを始点とすると、通常では、加速度センサ27の検出値が最小値minから最大値maxまで連続増加した後に次の最小値minまで連続減少する(
図4参照)。そのため、通常の波形Wでは、加速度センサ27の検出値の増減は、回転周期T内で1回だけ切り替わるはずである。
【0058】
例えば、脱水槽16を弾性支持する支持部材10が劣化すると、支持部材10の動作に引っ掛りが生じ、支持部材10がスムーズに動作しなくなる。すると、この引っ掛りに応じて、それぞれの波形Wの途中には、
図10に示すような凹凸W3が発生するので、それぞれの波形Wでは、加速度センサ27の検出値の増減が、回転周期T内で3回切り替わる。つまり、それぞれの波形Wにおける検出値の増減切替回数rが所定回数(この実施形態では2回)以上になる。増減切替回数rは、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれについて存在する。X軸方向の増減切替回数rを増減切替回数Xrといい、Y軸方向の増減切替回数rを増減切替回数Yrといい、Z軸方向の増減切替回数rを増減切替回数Zrという。このように増減切替回数rが所定回数以上になる波形Wを伴う異常振動を、第1不規則振動という。第1変形例に係る検知2では、第1不規則振動を早期に検出することができる。
【0059】
図11は、第1変形例に係る検知2を示すフローチャートである。
図11では、
図9の処理ステップと同じ処理ステップには、
図9と同じステップ番号を付し、その処理ステップについての詳細な説明を省略する。後述する
図13においても同様である。第1変形例に係る検知2の開始に伴い、制御部21は、現時点におけるモータ6の瞬間回転数Aを取得し、モータ6の回転周期Tとサンプリング期間Sとを算出する(ステップS31)。サンプリング期間Sは、これまでの実施形態と同様に、回転周期Tよりも長い。そして、制御部21は、タイマ24および加速度センサ27をリセットする(ステップS32)。第1変形例では、このリセットにより、タイマ24の計測値tと、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおける加速度センサ27の検出値の最大値maxおよび最小値minとが初期化されるのに加えて、前述した増減切替回数rも初期化されて零になる。そして、制御部21は、タイマ24による計時を開始し(ステップS33)、加速度センサ27の検出値を1ミリ秒毎に取得する(ステップS34)。
【0060】
制御部21は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおける加速度センサ27の検出値について増減が切り替わったか否かを監視する(ステップS51)。これまで連続減少中だった加速度センサ27の検出値が増加したり、これまで連続増加中だった加速度センサ27の検出値が減少したりする度に、制御部21は、検出値の増減が1回切り替わったと判断する。加速度センサ27の検出値が切り替わる度に(ステップS51でYES)、制御部21は、増減切替回数Xr、増減切替回数Yrおよび増減切替回数Zrのうち対応する増減切替回数rをインクリメント(+1)する(ステップS52)。
【0061】
回転周期T内における増減切替回数rが、前述した所定回数(この実施形態では2回)未満であれば、加速度センサ27の波形Wには、前述した凹凸W3(
図10参照)が存在せず、脱水回転数で定常回転する回転槽4には第1不規則振動が存在しない。この場合には(ステップS53でYES)、制御部21は、前述したステップS35以降の処理(
図9参照)を実行して、脱水回転数での回転槽4の定常回転中において、所定以上の大きさのアンバランスの有無を検知する。すなわち、所定以上の大きさのアンバランスが存在すれば、制御部21は、アンバランス修正を実行する(ステップS45)。このようなアンバランスが存在しなければ、制御部21は、本格脱水期間の経過に応じて(ステップS39でYES)、脱水運転を終了する。
【0062】
本格脱水期間が経過するまでは、制御部21は、ステップS31~S34およびS51~S53の処理を繰り返すことにより、複数のサンプリング期間S毎に、回転周期T内における増減切替回数rと所定回数とを比較する。そして、いずれかのサンプリング期間Sにおいて、回転周期T内における増減切替回数Xr、増減切替回数Yrおよび増減切替回数Zrのいずれかが所定回数以上になると、つまり加速度センサ27の検出値の増減が所定回数以上切り替わると(ステップS53でNO)、制御部21は、脱水槽16に第1不規則振動が発生したと判断する(ステップS54)。このように、脱水機1では、回転槽4の定常回転中において、支持部材10の劣化などによる脱水槽16の第1不規則振動を、サンプリング期間Sにおける加速度センサ27の検出値の増減切替回数rによって監視できる。制御部21は、第1不規則振動が発生したと判断した場合には、表示操作部9による表示やブザー(図示せず)による警報によって、第1不規則振動の発生を使用者に報知してもよい。さらに、制御部21は、モータ6の回転を停止することによって脱水運転を中止してもよい。
【0063】
図12は、脱水運転において回転する脱水槽16に生じる第2不規則振動を示すタイムチャートである。
図12のタイムチャートでは、横軸が経過時間(単位:ミリ秒)を示し、縦軸が、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のいずれかにおける加速度センサ27の検出値(単位:例えばmm/ミリ秒
2)を示す。回転槽4の回転中における加速度センサ27の検出値の連続波形では、通常、各波形Wの最大値maxおよび最小値minがそれぞれ一定であり、ピークピーク値ppは、ほぼ一定で推移する(
図4参照)。
【0064】
回転槽4の定常回転中において、脱水槽16を構成する水槽3が何かしらの異常によって筐体2の内面部に周期的に接触することが想定される。当該異常として、支持部材10の減衰機能の低下などが挙げられる。なお、筐体2の内面部において水槽3が接触し得る位置には、クッション(図示せず)が設けられる。水槽3が筐体2の内面部に周期的に接触すると、
図12に示すように、各波形Wの最大値maxおよび最小値minのそれぞれが周期的に増減するので、最大値max同士または最小値min同士をつなぐ仮想線が、凹凸を繰り返す連続波形Uを描く。この場合には、連続して取得されるピークピーク値ppが、ほぼ一定で推移せずに周期的な増減を所定回数以上繰り返す。このようにピークピーク値ppの増減が所定回数以上繰り返される異常振動を、第2不規則振動という。第2変形例に係る検知2では、第2不規則振動を早期に検出することができる。
【0065】
図13は、第2変形例に係る検知2を示すフローチャートである。第2変形例に係る検知2の開始に伴い、制御部21は、現時点におけるモータ6の瞬間回転数Aを取得し、モータ6の回転周期Tとサンプリング期間Sとを算出する(ステップS31)。そして、制御部21は、タイマ24および加速度センサ27をリセットする(ステップS32)。このリセットにより、タイマ24の計測値tと、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおける加速度センサ27の検出値の最大値maxおよび最小値minとが初期化される。そして、制御部21は、タイマ24による計時を開始し(ステップS33)、加速度センサ27の検出値を1ミリ秒毎に取得する(ステップS34)。サンプリング期間Sが経過すると(ステップS35でYES)、制御部21は、このサンプリング期間Sについての最大値maxおよび最小値minを取得し(ステップS36)、これらの値に基づくピークピーク値ppと、瞬間回転数Aに対応する閾値とを取得する(ステップS37)。
【0066】
制御部21は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおけるピークピーク値ppについて、ステップS37で取得した最新のピークピーク値ppと、1つ前のサンプリング期間Sにおける直前のピークピーク値ppとを比較する(ステップS61)。なお、検知2を開始してから1回目のサンプリング期間Sでは、直前のピークピーク値ppが存在しないので、ステップS61の処理は、検知2を開始してから2回目以降のサンプリング期間Sで取得されたピークピーク値ppについて実行される。この場合、最新のピークピーク値ppと、メモリ23に一時記憶された直前のピークピーク値ppとが比較される。メモリ23に一時記憶された直前のピークピーク値ppは、検知2の開始時には、ステップS31よりも前のタイミングにメモリ23から消去される。
【0067】
X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のいずれかにおける最新のピークピーク値ppが、対応する直前のピークピーク値ppよりも大きい場合には(ステップS61でNO)、制御部21は、初期値が零のカウント値V1をインクリメント(+1)する(ステップS62)。なお、ピークピーク値ppの誤差を考慮してもよく、その場合には、最新のピークピーク値ppが直前のピークピーク値ppよりも大きくて、ピークピーク値pp同士の差が当該誤差よりも大きい場合には(ステップS61でNO)、制御部21は、カウント値V1をインクリメントする(ステップS62)。カウント値V1をインクリメントした制御部21は、直前のピークピーク値ppを、最新のピークピーク値ppに差し替えることによって更新してから(ステップS66)、前述したステップS38以降の処理(
図9参照)を実行して、脱水回転数での回転槽4の定常回転中において、所定以上の大きさのアンバランスの有無を検知する。すなわち、所定以上の大きさのアンバランスが存在すれば、制御部21は、アンバランス修正を実行する(ステップS45)。このようなアンバランスが存在しなければ、制御部21は、本格脱水期間の経過に応じて(ステップS39でYES)、脱水運転を終了する。
【0068】
本格脱水期間が経過するまでは、制御部21は、ステップS31~S37およびS61~S66の処理を繰り返すことにより、複数のサンプリング期間S毎に、最新のピークピーク値ppと直前のピークピーク値ppとを比較する。そして、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれにおける最新のピークピーク値ppが、対応する直前のピークピーク値pp以下である場合には(ステップS61でYES)、制御部21は、現在のカウント値V1を参照する(ステップS63)。最新のピークピーク値ppが直前のピークピーク値pp以下であるのに現時点のカウント値V1が1以上であることは、ピークピーク値ppの増減が1回発生したことを表わす。カウント値V1が零であることは、ピークピーク値ppが増減せずにほぼ一定で推移中であること(
図4参照)を表わす。
【0069】
カウント値V1が零でなければ、つまりカウント値V1が1以上であれば(ステップS63でNO)、制御部21は、カウント値V1を初期値の零にリセットするとともに、初期値が零のカウント値V2をインクリメント(+1)する(ステップS64)。カウント値V2は、ピークピーク値ppが増減した回数、換言すれば、前述した連続波形U(
図12)における凹または凸の数を表わす。カウント値V2は、検知2の開始時には、ステップS31よりも前のタイミングにおいて零に初期化される。ステップS64の後、制御部21は、直前のピークピーク値ppを更新してから(ステップS66)、ステップS38以降の処理を実行する。
【0070】
参照時のカウント値V1が零である場合には(ステップS63でNO)、制御部21は、現在のカウント値V2を参照する(ステップS65)。カウント値V2が所定値未満である場合、つまり、ピークピーク値ppが繰り返し増減した回数が所定回数未満である場合には(ステップS65でYES)、脱水回転速度で定常回転する回転槽4に第2不規則振動が存在しない。そこで、制御部21は、直前のピークピーク値ppを更新してから(ステップS66)、ステップS38以降の処理を実行する。
【0071】
ピークピーク値ppの増減が所定回数以上繰り返されると(ステップS65でNO)、制御部21は、脱水槽16に第2不規則振動が発生したと判断する(ステップS67)。このように、脱水機1では、回転槽4の定常回転中において、何かしらの異常による脱水槽16の第2不規則振動を、ピークピーク値ppの増減の繰り返し回数によって監視できる。制御部21は、第2不規則振動が発生したと判断した場合には、表示操作部9による表示やブザー(図示せず)による警報によって、第2不規則振動の発生を使用者に報知してもよい。さらに、制御部21は、モータ6の回転を停止することによって脱水運転を中止してもよい。
【0072】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項に記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0073】
例えば、第1変形例の検知2と第2変形例の検知2とは組み合わされて実行されてもよい。
【0074】
また、以上の実施形態の回転槽4は、上下方向Zに延びる軸線Jを中心として回転可能となるように縦に配置されるが、ドラム式洗濯機のように、軸線Jが上下方向Zに対して斜めになったり水平になったりするように回転槽4が配置されてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 脱水機
2 筐体
3 水槽
4 回転槽
6 モータ
10 支持部材
16 脱水槽
21 制御部
26 回転数センサ
27 加速度センサ
A 回転数
F カウント値
pp ピークピーク値
Q 洗濯物
S サンプリング期間
T 回転周期