(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】バイオディーゼル燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 3/00 20060101AFI20230329BHJP
C10L 1/02 20060101ALI20230329BHJP
B01J 21/14 20060101ALI20230329BHJP
B01J 23/04 20060101ALN20230329BHJP
【FI】
C10G3/00 Z
C10L1/02
B01J21/14 M
B01J23/04 M
(21)【出願番号】P 2022510712
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012757
(87)【国際公開番号】W WO2021193887
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020055203
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510238627
【氏名又は名称】バイオ燃料技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005854
【氏名又は名称】丸紅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】梶間 央士
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-37916(JP,A)
【文献】特表2013-506031(JP,A)
【文献】特開平2-34692(JP,A)
【文献】特開2013-241612(JP,A)
【文献】特開2005-60587(JP,A)
【文献】特開2013-153734(JP,A)
【文献】特表2019-515060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
C10L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料を製造する方法であって、
遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸
とを
1価アルコールの存在下で反応させ、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
得られた前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、前記第一の油分と1価のアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを得るエステル化工程と、
前記脂肪酸アルキルエステルを、触媒と接触させて炭化水素を得る接触分解工程と、
を備えることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記エステル化工程において、前記第二の油分を前記第一の油分と合わせて反応させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程
を備え、
前記エステル化工程における前記1価のアルコールとして、前記アルコール分離工程で分離された1価のアルコールを用いる、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
バイオディーゼル燃料を製造する方法であって、
遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸
とを
1価アルコールの存在下で反応させ、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
得られた前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
前記第一の油分を、触媒と接触させて炭化水素を得る接触分解工程と、
を備えることを特徴とする、製造方法。
【請求項5】
前記接触分解工程において、前記第二の油分を前記第一の油分と合わせて前記触媒に接触させる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料と前記無機酸との
反応液のpHが3以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
バイオディーゼル燃料を製造する方法であって、
遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを1価アルコールの存在下で反応させ、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、前記第一の油分と1価のアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを得るエステル化工程と、
前記脂肪酸アルキルエステルを、触媒と接触させて炭化水素を得る接触分解工程と、
を備え、
前記第一の分離工程における前記反応は、反応液のpHが3以下であり、反応時間が4時間以上である
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項8】
バイオディーゼル燃料を製造する方法であって、
遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸とを1価アルコールの存在下で反応させ、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一の油分を、触媒と接触させて炭化水素を得る接触分解工程と、
を備え、
前記第一の分離工程における前記反応は、反応液のpHが3以下であり、反応時間が4時間以上である
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
前記第一の分離工程における前記原料は、酸価10mgKOH/g以上の高酸価油、および脂肪酸アルキルエステルの製造過程で副生される廃グリセリン、の少なくとも1種を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記無機酸が濃硫酸である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記接触分解工程における触媒が、酸化マグネシウムを含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記接触分解工程において、回転軸が水平面に対して傾斜する状態で配置された回転するドラム内で反応させる、請求項1~
11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記接触分解工程における反応温度が200~600℃である、請求項1~
12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
電磁誘導加熱により前記反応温度を調整する、請求項
13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオディーゼル燃料の製造方法に関するものであり、より詳細には、油脂含有廃棄物、廃食油や廃グリセリン等の廃棄物を原料として用いることができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素の発生を削減し、資源のリサイクルに繋がるような、従来の化石燃料に替わる燃料の開発が進められており、その一つとして、植物油や廃食油等を原料とするバイオディーゼル燃料が注目されている。バイオディーゼル燃料の合成方法としては、動植物の油脂および1価アルコールを原料とし、水酸化カリウム等のアルカリ性物質を触媒としてエステル交換反応により、脂肪酸アルキルエステルを合成する方法が主流である(例えば、非特許文献1)。ただし、近年、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料が、いわゆる「次世代バイオディーゼル燃料」として注目されている。
【0003】
このような次世代バイオディーゼル燃料として、特許文献1には、植物油や廃食油等の油脂を原料として、接触分解法により炭化水素を製造する方法が提案されている。かかる方法によれば、脂肪酸グリセリンエステルのうち脂肪酸の炭化水素基に由来する炭化水素、グリセリン部分に由来するプロパン、エステル基に由来する二酸化炭素や一酸化炭素等が生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本マリンエンジニアリング学会誌,2012年,第47巻,第1号,第45-50頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭化水素を主成分とする、いわゆる「次世代バイオディーゼル燃料」の製造においては、使用し得る原料が限られており、例えば、脂肪酸アルキルエステルの製造等で副生される廃グリセリン等の脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物や、廃食油の中でも酸価の極めて高い高酸価油等の遊離脂肪酸含有廃棄物などについては、原料として用いることが困難である。近年、このような廃棄物の処理が喫緊の課題となっており、次世代バイオディーゼル燃料の製造においても、これらの廃棄物を原料として利用できる方法の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料の製造方法であって、遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料を用いることのできる新たな製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料に無機酸または酵素を加えて分離させ、得られた油分を用いるか、当該油分をさらにエステル化反応させて得られる脂肪酸アルキルエステルを用い、上記油分または脂肪酸アルキルエステルを接触分解法に付すことで、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕 バイオディーゼル燃料を製造する方法であって、
遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸または酵素とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、前記第一の油分と1価のアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを得るエステル化工程と、
前記脂肪酸アルキルエステルを、触媒と接触させて炭化水素を得る接触分解工程と、
を備えることを特徴とする、製造方法。
〔2〕 前記第一の分離工程において無機酸を用い、得られた前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程とを備え、
前記エステル化工程において、前記第二の油分を前記第一の油分と合わせて反応させる、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 前記第一の分離工程において無機酸を用い、得られた前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程と、
前記第二の油分および前記無機塩が分離されたグリセリン液から1価のアルコールを分離するアルコール分離工程とを備え、
前記エステル化工程における前記1価のアルコールとして、前記アルコール分離工程で分離された1価のアルコールを用いる、
〔1〕または〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 バイオディーゼル燃料を製造する方法であって、
遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸または酵素とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と、
前記第一の油分を、触媒と接触させて炭化水素を得る接触分解工程と、
を備えることを特徴とする、製造方法。
〔5〕 前記第一の分離工程において無機酸を用い、得られた前記第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する中和工程と、
前記中和されたグリセリン液から、第二の油分および析出した無機塩を分離する第二の分離工程とを備え、
前記接触分解工程において、前記第二の油分を前記第一の油分と合わせて前記触媒に接触させる、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕 前記第一の分離工程における前記原料は、酸価10mgKOH/g以上の高酸価油、および脂肪酸アルキルエステルの製造過程で副生される廃グリセリン、の少なくとも1種を含む、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔7〕 前記第一の分離工程において無機酸を用い、前記無機酸が濃硫酸である、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔8〕 前記第一の分離工程において無機酸を用い、前記原料と前記無機酸との混合液のpHが3以下である、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔9〕 前記接触分解工程における触媒が、酸化マグネシウムを含む、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔10〕 前記接触分解工程において、回転軸が水平面に対して傾斜する状態で配置された回転するドラム内で反応させる、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔11〕 前記接触分解工程における反応温度が200~600℃である、〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔12〕 電磁誘導加熱により前記反応温度を調整する、〔11〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料の製造方法において、遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料を用いることができるようになり、例えば遊離脂肪酸含有廃棄物や脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を有効に再資源化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第一の実施形態において、第一の油分を得るためのフローを表す図である。
【
図2】本発明の第二の実施形態において、脂肪酸アルキルエステルを得るためのフローを表す図である。
【
図3】本発明の一実施形態における接触分解工程のフローを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸または酵素とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを分離する第一の分離工程と;油分または脂肪酸アルキルエステルを含む原料を、触媒と接触させて炭化水素を得る接触分解工程と;を備える。
そして:
(a)上記接触分解工程において、上記第一の油分を用いてもよく(以下、「第一の実施形態」という);
(b)アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、第一の分離工程で得られた第一の油分と1価のアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを得るエステル化工程をさらに備え、得られた脂肪酸アルキルエステルを、上記接触分解工程における原料として用いてもよい(以下、「第二の実施形態」という)。
【0013】
〔第一の実施形態〕
図1は、第一の実施形態において、第一の油分を得るためのフローを表す図である。
図1においては、第一の油分を得るための第一の分離工程(第一の分離工程)の他、任意工程として、中和工程、第二の分離工程、アルコール分離工程が、第一の分離工程の後に実施されるよう図示されている。
【0014】
後述するように、遊離脂肪酸や脂肪酸グリセリンエステルを含有する廃棄物には、これら以外の成分が含まれている。そのため、これらをそのままバイオディーゼル燃料の製造反応(接触分解法)に適用しようとすると、接触分解反応を阻害し、あるいは生成物に不純物が多く残る問題が生じる。しかし、本実施形態によれば、(第一の)分離工程により、グリセリンや無機塩等の不純物の含有量が低減されているため、接触分解法に好適に適用することができる。また、脂肪酸アルキルエステルや遊離脂肪酸等の製造方法は多様なものがあり、これに応じて遊離脂肪酸や脂肪酸グリセリンエステルを含有する廃棄物の品質も一定しないという問題があるが、本実施形態によれば、品質が安定化されたバイオディーゼル燃料(炭化水素を主成分とする)を製造することが可能となる。
【0015】
さらに、本実施形態においては、無機酸または酵素を用いた(第一の)分離工程を行うことで、遊離脂肪酸含有廃棄物だけでなく、脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を含む多様な原料を本方法にて処理することができる。
従来、廃食油をはじめとする、脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物についても、接触分解法により炭化水素を製造する方法が提案されてきた(例えば、前述した特許文献1等)。脂肪酸グリセリンエステルをそのまま接触分解法に供する場合、グリセリン部分に由来するプロパン等の低級炭化水素(炭素数4以下の炭化水素)が生じるが、このような低級炭化水素を回収するためには設備投資が必要となり、コスト高であった。一方で、低級炭化水素の回収設備を設けない場合には、グリセリン部分を再資源化できないという問題が生じていた。
これに対し、本実施形態によれば、(第一の)分離工程においてエステル交換反応が起こり、グリセリンが生成する。かかるグリセリンは別途回収することができ、多様な用途に適用することが可能である。そのため、本実施形態によれば、低級炭化水素の回収設備を設けない場合であっても、脂肪酸グリセリンエステルのうちグリセリン部分を有効に再資源化することができる。
【0016】
(1)原料
本実施形態において用いる原料は、遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含むものであれば、特に限定されない。
遊離脂肪酸を含む原料としては、例えば、遊離脂肪酸を含有する廃棄物が例示される。また、脂肪酸グリセリンエステルを含む原料は、脂肪酸グリセリンエステルを含有する廃棄物が例示される。
以下、遊離脂肪酸含有廃棄物および脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物についてやや詳しく説明する。
【0017】
(1-1)遊離脂肪酸含有廃棄物
本実施形態において使用し得る遊離脂肪酸含有廃棄物には、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリン、甘水、脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水などが例示される。
【0018】
ここで、脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水は、バイオディーゼル燃料をはじめとする脂肪酸アルキルエステルの製造過程において、反応物を洗浄したときに生じる廃水であり、水分の他、未反応の遊離脂肪酸およびその塩が含まれ、さらに脂肪酸アルキルエステルの製造反応において副生されるグリセリン、また未反応の1価アルコール等が含まれる。
また、甘水は、油脂を鹸化(アルカリ加水分解)して脂肪酸塩を生成させる場合(例えば、石鹸の製造過程など)における副生成物であり、グリセリン、水分、アルカリ等を含む。
【0019】
次に、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンについて、やや詳しく説明する。
バイオディーゼル燃料となる脂肪酸アルキルエステルは、植物油などの原料油脂に、メタノール等の1価アルコールと、水酸化カリウム等のアルカリ触媒とを加え、エステル交換反応を行うことで得られる。
【0020】
バイオディーゼル燃料の原料油脂としては、菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、大麻油等の植物油;魚油、豚脂、牛豚等の動物油;天ぷら油等の廃食油;などを用いることができる。
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、エチルヘキサノール等を用いることができ、メタノールおよびエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム等を用いることができるが、本実施形態で分離回収される無機塩の析出性や再利用容易性等の観点から、水酸化カリウムが好ましい。
【0021】
上記エステル交換反応においては、原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリンエステルが1価アルコールと反応し、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンが生成する。得られる反応液は、脂肪酸アルキルエステル相と、廃グリセリン相とに液々分離し、バイオディーゼル燃料の製造においては、得られた脂肪酸アルキルエステル相を回収して洗浄等を行い、バイオディーゼル燃料とする。
【0022】
一方、廃グリセリン相は、グリセリンを高濃度に含む他、未反応の1価アルコール、未反応の油脂、脂肪酸およびその塩、アルカリ触媒、さらには原料油脂に由来する夾雑物などが含まれる。廃グリセリンとしては、液状の廃グリセリンであっても良いし、また、固体状の廃グリセリンであっても良いが、作業性、取り扱い等の観点から、液状の廃グリセリンであることが好ましい。
廃グリセリンにおけるグリセリン、1価アルコール、油脂ならびに遊離脂肪酸およびその塩の含有量は特に限定されないが、通常、廃グリセリン全体に対して、グリセリンは25質量%以上65質量%以下、1価アルコールは2質量%以上20質量%以下、油脂ならびに遊離脂肪酸およびその塩の合計は30質量%以上50質量%以下となる場合が多い。本実施形態に係るバイオディーゼル燃料の製造方法をより安定的に実施可能とする観点から、廃グリセリン全体に対して、それぞれ、グリセリンは30質量%以上65質量%以下、1価アルコールは3質量%以上15質量%以下、油脂ならびに遊離脂肪酸およびその塩の合計含有量は25質量%以上55質量%以下、であってよい。
【0023】
廃グリセリンはアルカリ触媒を多量に含むため、pHは9以上であることが多く、本実施形態においては、9~13であってよい。
第一の分離工程において無機酸を用いる場合には、廃グリセリンに含まれる未反応の油脂および1価アルコールによる酸触媒エステル化反応を進行させやすくする観点から、廃グリセリンにおける水分の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。廃グリセリンにおける水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0024】
本実施形態においては、後述する第一の分離工程における利用のしやすさの観点から、以上述べた遊離脂肪酸含有廃棄物の中でも、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを用いることが特に好ましい。
【0025】
(1-2)脂肪酸グリセリンエステル含有組成物
本実施形態においては、脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物も原料として用いることができる。本実施形態においては、無機酸または酵素を用いた(第一の)分離工程にて行うため、脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物を用い、第一の分離工程におけるエステル化反応等が起こる。これにより、遊離脂肪酸を回収することができるとともに、グリセリンを分離することができる。
脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物としては、例えば、廃食油、動物油(牛脂、豚油、鳥油、バター、廃牛乳、魚油、肝油等)、植物油(菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、大麻油、マーガリン等)、高酸価油(グリストラップ油、下水油、地溝油、廃液処理再生油、マヨネーズ、ドレッシング等)の脂肪酸グリセリンエステルを主成分とする油脂;油滓、石鹸等の脂肪酸塩を主成分とする組成物;遊離脂肪酸の製造工程で副生される廃液;などが挙げられる。
なお、本明細書において「主成分とする」とは、当該組成物において含有量が最も多い成分(ただし最も多い成分が水である場合には2番目に含有量が多い成分)であることを意味する。好ましくは含有量が40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0026】
ここで、高酸価油は、酸価10mgKOH/g以上の油脂をいい、油脂の主成分である脂肪酸グリセリンエステルの他、遊離脂肪酸等を含む。酸価は20mgKOH/g以上であってよく、さらには50mgKOH/g以上であってもよい。なお、酸価の上限は、通常は200mgKOH/g以下である。
油滓は、植物油脂の精製における脱酸工程において油脂(原油)から分離される副生成物であり、脂肪酸塩、脂肪酸グリセリンエステル、アルカリ、水分等を含む。
【0027】
遊離脂肪酸の製造工程で副生される廃液とは、動植物の油脂を加水分解して遊離脂肪酸を製造する場合に副生される廃棄物である。加水分解による遊離脂肪酸の製造方法としては、高温高圧分解法、酵素分解法等が挙げられる。かかる製造工程で副生される廃液には、未反応の油脂の他、加水分解により生じたグリセリン、部分的に加水分解された油脂等が含まれる。
【0028】
(2)第一の分離工程
分離工程(以下、後述する第二の分離工程との対比において、本工程を「第一の分離工程」ということがある。)は、遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料と、無機酸または酵素とを混合し、第一の油分と第一のグリセリン液とを相分離する工程である。
本工程で分離される油分には、脂肪酸アルキルエステルの他、遊離脂肪酸、脂肪酸グリセリンエステルが含まれる。
【0029】
遊離脂肪酸を含む原料を用いる場合、無機酸または酵素を触媒とし、廃グリセリンに含まれる未反応の1価アルコールとのエステル化反応により、脂肪酸アルキルエステルを生成する。
脂肪酸が塩として存在している場合には、本工程において無機酸を用いると、脂肪酸の塩が、無機酸により遊離脂肪酸に変換され、グリセリンと分離しやすくなるため、好ましい。
【0030】
また、原料として脂肪酸グリセリンエステル含有組成物を用いる場合には、1価アルコールとのエステル交換反応により、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを生成する。かかるグリセリンは、後述するように別途回収することができるため、脂肪酸グリセリンエステルのうちグリセリン部分についても、低級炭化水素の回収設備を設けることなく、有効に再資源化することができる。
上記エステル交換反応における1価アルコールは、別途添加することができ、例えば、後述するアルコール分離工程において回収した1価アルコールを用いることができる。また、脂肪酸グリセリンエステル含有組成物と同時に廃グリセリンを処理することにより、廃グリセリンに含まれる未反応の1価アルコールを利用してもよい。
1価アルコールの存在下で第一の分離工程を行う場合、本工程は、エステル化工程ということもできる。なお、後述する第二のエステル化反応との対比において、第一の分離工程を「第一のエステル化工程」という場合がある。
【0031】
なお、1価アルコールが含まれない場合であっても、脂肪酸グリセリンエステルは、第一の分離工程において酸の存在下で遊離脂肪酸、グリセリン、部分的に加水分解された脂肪酸グリセリンエステル(モノグリセリド,ジグリセリド)を生成する。また、原料に脂肪酸塩が含まれる場合は、酸により脂肪酸塩が遊離脂肪酸に変換され、グリセリンと分離しやすくなる。
そのため、原料に1価アルコールが含まれない場合であっても、本実施形態を好適に適用することができる。
【0032】
本実施形態においては、無機酸または酵素の存在下で第一の分離工程を行うため、多様な原料を同時に処理することができる。また、第一の分離工程を行うことにより、廃グリセリン、廃食油、高酸価油など、遊離脂肪酸や脂肪酸グリセリンエステルを含有する廃棄物を有効活用できるため、環境負荷の低減にも寄与することができる。
なかでも高酸価油は、酸価が10mgKOH/g以上と高いことから前述したアルカリ触媒によるエステル交換反応の原料としての利用は困難である。しかし、エステル化反応ともいうべき第一の分離工程においては、高酸価油も原料として好適に用いることができ、特に無機酸を用いる場合に好適である。
【0033】
廃グリセリンや脂肪酸グリセリンエステル含有組成物などを原料として用いる場合には、第一の分離工程で生じる脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸は、第一の油分からなる油相に移行するため、第一のグリセリン液と分離することができる。
【0034】
第一の分離工程において使用し得る原料は、水分含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。水分含有量が低い原料(例えば、水分含有量の少ない廃グリセリン等)を用いることで、後述する反応液の水分含有量を低くすることが容易となる。なお、原料の水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0035】
第一の分離工程で無機酸を用いる場合、無機酸としては、濃硫酸、リン酸、濃硝酸、塩化水素等が挙げられるが、水分含有量の低い濃硫酸およびリン酸が好ましく、濃硫酸が特に好ましい。
【0036】
第一の分離工程においては、上記原料と上記無機酸との混合液(反応液)のpHを3以下にすることが好ましく、1以下にすることが特に好ましい。反応液のpHは、上記無機酸の添加量により調整することができる。
反応液は、水分含有量を10質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。反応液の水分含有量は、各原料の水分含有量および投入量の調整、反応液への乾燥剤の使用などにより適宜調整することができる。
反応液のpHおよび水分含有量を上記範囲とすることで、酸触媒エステル化反応の効率を高めることができ、また第一の油分と第一のグリセリン液(酸性グリセリン相、無機塩を含む)とを良好に分離させることができる。
【0037】
第一の分離工程における反応液の温度は、30~64℃とすることができ、さらには50~60℃とすることができる。また、反応時間は、0.5~12時間とすることができ、さらには4~12時間とすることができ、さらには8~12時間とすることができる。この間は反応液を攪拌することが好ましい。
上記反応(あるいは攪拌)が終了したのち、0.2~12時間静置することで、脂肪酸アルキルエステルや未反応の油脂等を含む第一の油分と、酸性グリセリン相や無機塩を含む第一のグリセリン液とが分離する。
【0038】
一方、第一の分離工程で酵素を用いる場合、酵素としては、エステル交換反応を触媒することのできる酵素であれば特に制限されず、例えば、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アシルトランスフェラーゼ等を用いることができる。中でもリパーゼが特に好ましい。酵素は、担体に固定化されていることが好ましい。
反応液のpH、反応温度、反応時間等は、用いる酵素に応じて適宜調整することができる。反応後、0.2~12時間静置することで、脂肪酸アルキルエステルや未反応の油脂等を含む第一の油分と、グリセリンおよび酵素を含む第一のグリセリン液とが分離する。
【0039】
油相を回収して得られた第一の油分(脂肪酸アルキルエステル,遊離脂肪酸等)は、後述する接触分解工程における原料として用いることができる。
第一の分離工程において無機酸を用いる場合、得られた第一の油分は、酸触媒エステル化反応によりpHが酸性に傾いているため、中性となるようpHを調整することが好ましく、具体的には、pHが4.0~7.5となるように、さらには4.5~7.0となるように、特に5.0~6.5となるように調整することが好ましい。油分のpHがかかる範囲となるように調整することで、後述する接触分解工程において、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料の製造を安定的に実現することができる。
【0040】
pHを調整するためには、アルカリ性物質を用いる。かかるアルカリ性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物、を用いることができる。また、本実施形態においては、pH調整後に分離して油分を回収することもできるため、アルカリ性物質として多様な物質を用いることができる。
【0041】
例えば、上記アルカリ性物質として、遊離脂肪酸を含有するアルカリ性物質を用いることができる。例えば、上記廃グリセリン等、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応による副生成物;油滓、アルカリ石鹸等、脂肪酸塩を主成分とする組成物;などが挙げられる。これらは、酸性油分を中和できるのみならず、遊離脂肪酸の収量を高めることができるため、かかる観点からも好ましい。
【0042】
以上のようにして得られた第一の油分は、後述する接触分解工程における原料として用いることができる。一方、第一のグリセリン液は、後述する中和工程や第二の分離工程を経ることにより、さらに油分を回収してもよく、アルコール分離工程により、1価アルコールを回収してもよい。
【0043】
(3)中和工程
中和工程は、第一の分離工程において無機酸を用いた場合に、得られた第一のグリセリン液を、アルカリ性物質により中和する工程である。なお、
図1に示すように、第一の分離工程において酵素を用いた場合には、本工程を省略することができる。
かかるアルカリ性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物、を用いることができる。また、本実施形態においては、中和工程の後に第二の分離工程を行うことから、アルカリ性物質として多様な物質を用いることができる。
【0044】
例えば、上記アルカリ性物質として、グリセリンを含有する物質を用いることができる。かかるグリセリン含有アルカリ性物質としては、例えば、上記廃グリセリン等、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応による副生成物;などが挙げられる。これらは、酸性グリセリンを中和できるのみならず、グリセリンの収量を高めることができるため、かかる観点からもグリセリン含有アルカリ性物質の使用は好ましい。かかるグリセリン含有アルカリ性物質は、脂肪酸塩や脂肪酸グリセリンエステルを含有するものでもよい。
上記グリセリン含有アルカリ性物質は、グリセリン含有量が25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば99質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。
また、上記グリセリン含有アルカリ性物質は、pHが9以上であることが好ましく、9~13であることが特に好ましい。
【0045】
さらに、上記アルカリ性物質として、脂肪酸塩を主成分とする組成物を用いてもよい。脂肪酸塩を主成分とするアルカリ性物質としては、例えば、油滓、アルカリ石鹸などが挙げられる。
【0046】
上記中和工程においては、グリセリン液のpHが4.0~7.5となるように、さらには4.5~7.0となるように、特に5.0~6.5となるように中和することが好ましい。グリセリン液のpHがかかる範囲となるように中和することで、続く第二の分離工程において、油分が分離しやすくなり、また無機塩も析出しやすくなる。グリセリン液のpHは、上記アルカリ性物質の添加量を制御することで適宜調整することが可能である。
【0047】
中和工程で得られるグリセリン液は、水分含有量が10質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。中和工程においては、水分による反応阻害といった問題は生じないが、続く第二の分離工程において無機塩を十分に析出させて分離効率を高める観点から、水分含有量の上限値を上述のように規定することが好ましい。なお、水分含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、0.5質量%以上であってもよい。
【0048】
中和工程においては、液性が酸性から中性付近に移行するよう、酸性グリセリン液を撹拌しながら上記アルカリ性物質を添加することが好ましい。前述したとおり、中和に用いるアルカリ性物質として脂肪酸塩を含有する物質を用いてもよいところ、上記のような添加順序とすることで、脂肪酸塩が酸により遊離脂肪酸に変換される。遊離脂肪酸は、グリセリン液から相分離した油相に移行し、グリセリン液のpHが高くなってもグリセリン液に再溶解し難くなる。これにより、続く第二の分離工程における分離がより一層容易となる。なお、脂肪酸塩は、上述した脂肪酸の塩を主成分とする物質のほか、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応やアルカリ加水分解による副生成物にも含まれる。
【0049】
上記アルカリ性物質により、第一の分離工程で得られた第一のグリセリン液は中和される。中和されたグリセリン液は、続く第二の分離工程に付される。
【0050】
(4)第二の分離工程
第二の分離工程は、上記の工程にて得られたグリセリン液から、第二の油分および固形分を分離する工程である。本工程により、第二の油分および固形分を分離して得られるグリセリン液を、第二のグリセリン液ということがある。
【0051】
ここで、第一の分離工程において無機酸を用いた場合には、
図1に示すように、上述した中和工程を行い、中和されたグリセリン液を、第二の分離工程に付す。
この場合、分離される第二の油分には、第一の分離工程でも分離されず第一のグリセリン液に残った油脂や脂肪酸の他、中和工程において添加されたアルカリ性物質に由来する油脂や遊離脂肪酸などが含まれる。
また、第二の分離工程において分離される固形分は、析出した無機塩である。当該無機塩は、第一の分離工程において添加された無機酸(濃硫酸等)と、アルカリ(カリウム、ナトリウム等)との塩であり、好ましくは硫酸カリウムである。上記アルカリは、第一の分離工程に投入される原料(廃グリセリン等)や、中和工程において添加されたアルカリ性物質に含まれるものであり、無機塩は第一の分離工程や中和工程において析出している。
【0052】
一方、第一の分離工程において酵素を用いた場合には、
図1に示すように、第一の分離工程で得られた第一のグリセリン液を、そのまま第二の分離工程に付す。
この場合、第一のグリセリン液には、第一の分離工程でも分離されずに残った油脂や脂肪酸等が含まれ、これらが本工程において第二の油分として分離される。また、固定化酵素を用いた場合には、第二の分離工程において固形分として分離される。
【0053】
本工程で分離される第二のグリセリン液には、グリセリンの他、廃グリセリンに由来する1価アルコールが含まれ、水分等が含まれる場合もある。かかる第二のグリセリン液に対し、油分や無機塩は溶解度が低いため、第二のグリセリン液と分離する。
【0054】
第二の分離工程においては、グリセリン液(無機酸を用いた場合は、中和グリセリン液;酵素を用いた場合は第一のグリセリン液)を3~12時間ほど静置後、上部液(油分)、下部液(第二のグリセリン液)を別々に回収し、下部液となる第二のグリセリン液を得ることができるが、遠心分離等により分離速度を高めることが好ましい。かかる遠心分離においては、軽液(すなわち油分)、重液(すなわち第二のグリセリン液)および固形物を分離することのできる三相分離型の遠心分離機を好適に用いることができる。また、第一の分離工程において無機酸を用いた場合は無機塩が多量に析出するため、デカンタ型等の固液分離が可能な遠心分離機により一定程度の無機塩をあらかじめ分離した後、液相部分をさらに三相分離型遠心分離機により分離することも好ましい。
【0055】
第二の分離工程において得られる第二の油分は、例えば、第一の分離工程において分離された第一の油分と合わせ、後述する接触分解工程に付すことができる。この場合、油分のpH調整を行うことが好ましく、具体的な方法は第一の油分において前述したとおりである。
また、第二の油分は、第一の油分と合わせ、さらなるエステル化反応(後述する第二のエステル化工程)に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。かかる方法は第二の実施形態において詳述する。
【0056】
本工程で無機塩が回収される場合、無機塩は、例えば、洗浄工程等を経て無機肥料等の原料とすることができる。一方、本工程で固定化酵素が回収される場合、固定化酵素は、第一の分離工程に再利用することができる。
また、第二のグリセリン液は、アスファルトの剥離剤、セメントの離型剤、脱窒剤や硝化促進剤(生物学的硝化脱窒処理の有機炭素源)などとして用いることができ、さらには精製を行うことにより化粧品等の用途に用いることもできる。
なお、第一の分離工程において、1価アルコールを含む原料(例えば、バイオディーゼル燃料(脂肪酸アルキルエステル)の製造工程で副生される廃グリセリン等)を用いている場合には、第二のグリセリン液に1価アルコールが含まれる場合がある。かかる1価アルコールは、第二の実施形態における(第二の)エステル化工程の原料として用いることができるため、さらにアルコール分離工程に付して1価アルコールを回収してもよい。
【0057】
(5)アルコール分離工程
アルコール分離工程は、第二の分離工程で得られた第二のグリセリン液から1価アルコールを分離する工程である。
【0058】
上記第二のグリセリン液には、廃グリセリンに由来し、第一の分離工程(エステル化反応)においても残存した1価アルコールが含まれ得る。かかる1価アルコールは、後述する(第二の)エステル化工程の原料として用いることができる。
【0059】
アルコール分離工程においては、減圧蒸留法、気液接触法、膜分離法などを採用することができる。
減圧蒸留法は、グリセリン液を加温(例えば、60℃程度)して1価アルコール等を蒸発させ、その後減圧することで1価アルコール等を分離する方法である。分離した1価アルコール等は冷却して回収することができる。
気液接触法は、グリセリン液を微細な液滴として気相と接触させ、沸点の低い1価アルコールを気相に移行させて分離する方法であり、具体的にはスプレードライ法等を好適に採用することができる。
膜分離法は、1価アルコールを優先的に透過させる膜を用いる方法である。
【0060】
なお、第二のグリセリン液には水分がさらに含まれている場合がある。かかる水分はグリセリン液に残存していてもよいが、例えば減圧蒸留法や気液接触法等においては、1価アルコールとともに気相に移行するため水分を除去することもできる。
また、上記1価アルコールを分離するアルコール分離工程の前または後に、イオン交換法や、活性白土、珪藻土、炭素、ゼオライト等を用い、さらなる精製処理を行ってもよい。
【0061】
分離された1価アルコールは、そのまま、あるいは必要に応じて再蒸留等により精製し、エステル交換反応の原料として再利用することができる。
【0062】
なお、本工程で得られたグリセリン液は、グリセリンの純度が85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることがとりわけ好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。本実施形態においては、上述した分離工程およびアルコール分離工程を介することにより、グリセリン含有廃棄物が原料であるにも関わらず、比較的簡便な方法でありながら、上記数値範囲のような高純度のグリセリン液を得ることができる。なお、グリセリンの純度はガスクロマトグラフィーにより測定した値とする。
【0063】
以上述べた方法によれば、遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料から、第一の油分、さらには第二の油分を分離することができ、これらは後述する接触分解工程の原料として用いることができる。
【0064】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態は、上述した第一の実施形態と工程が一部重複するものの、(第一の)分離工程で得られた第一の油分を原料として、
脂肪酸アルキルエステルを製造し、かかる脂肪酸アルキルエステルを、後述する接触分解工程における原料として用いる。
なお、本実施形態においては、上記第一の油分に加え、上記第二の分離工程で得られた第二の油分をさらに用いてもよい。また、上記アルコール分離工程で回収した1価アルコールを原料として用いてもよい。
【0065】
上述した第一および第二の分離工程においては、分離した油相より第一および第二の油分がそれぞれ回収される。また、上述したアルコール分離工程においては、分離した1価アルコールが回収される。これらは、アルカリ触媒法による脂肪酸アルキルエステルの製造における原料として循環供給することも考えられるが、純度が必ずしも高くないため、そのままの状態で原料として用いようとすると、脂肪酸アルキルエステルを効率的に製造することが困難な場合がある。また、第一および/または第二の油分には、遊離脂肪酸等の酸価の高い油脂が含まれており、とりわけ第一の分離工程において無機酸を用いた場合の第一の油分は、酸触媒を用いたエステル化反応ともいうことができる第一の分離工程(第一のエステル化工程)にて分離されたものであるため、酸性の油分となっている。そのため、第一および第二の油分をそのままアルカリ触媒による脂肪酸アルキルエステルの製造の原料として用いることはより一層困難となる。
【0066】
しかし、アルカリ触媒法以外の方法であれば、酸価の高い油脂であっても、脂肪酸アルキルエステルを製造することが可能である。そこで、本実施形態においては、アルカリ触媒法以外の方法により脂肪酸アルキルエステルを製造する、エステル化工程を備える。なお、本工程は、前述した第一の分離工程が第一のエステル化工程とも言い得ることから、これとの対比で「第二のエステル化工程」ということがある。
【0067】
第二のエステル化工程においては、第一の分離工程で分離された第一の油分を用いる。
さらに、上記第二の分離工程で分離された第二の油分を原料として用いることが好ましい。また、上記アルコール分離工程で1価のアルコールが回収されている場合には、かかる回収された1価のアルコールを原料として用いることもまた好ましい。
なお、その他の原料としては、上記第一の分離工程(第一のエステル化工程)と同様の原料(高酸価油等)をさらに併用してもよい。
【0068】
これらを原料とすることにより、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料の製造において、産業廃棄物をより一層効率的に再資源化することが可能となる。アルカリ触媒法以外の方法であれば、これらの原料であっても好適に用いることができる。
【0069】
第二のエステル化工程で採用し得る方法は、アルカリ触媒法以外の方法であり、より具体的には、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法が例示される。これらの方法であれば、酸価の高い廃食油や油脂であっても、さらには未反応の遊離脂肪酸を含む油脂であっても、メタノールなどの1価アルコールとエステル交換反応を行うことができる。
【0070】
第二のエステル化工程においては、脂肪酸アルキルエステルを含有する油分とともに、グリセリンが副生される。第二のエステル化工程で得られる油分と、グリセリン液とは、静置、遠心分離等により、相分離させることができる。分離した油分は、脂肪酸アルキルエステルを回収し、バイオディーゼル燃料等とすることができる。一方、副生されたグリセリンは、例えば、上記第一の分離工程(第一のエステル化工程)で得られた第一のグリセリン液とともに中和工程に供給することができる。このように構成すると、第二のエステル化工程で副生されたグリセリンについても、中和工程、第二の分離工程等を経てグリセリン液の一部とすることができるため、より一層効率的に再資源化することができる。
【0071】
第二のエステル化工程として、上述したアルカリ触媒法以外の方法の中でも、特に酸触媒法を採用することが好ましい。
図2に示すように、第二のエステル化工程として酸触媒法を採用する場合には、上記第一の油分および/または第二の油分を原料として用いる。その他の原料としては、アルコール分離工程で回収された1価のアルコールを用いることができ、さらには、第一の分離工程(第一のエステル化工程)と同様の原料(高酸価油等)を用いても良い。
第二のエステル化工程で得られた反応液は、脂肪酸アルキルエステルを含む油分と、副生したグリセリンや酸触媒およびその塩等を含むグリセリン液とに分離させる。得られる油分およびグリセリン液はいずれも酸性となっており、このうち酸性グリセリン液は上記中和工程などに供給することができる。
【0072】
一方、脂肪酸アルキルエステルを含む油分については、中和や脱水等を行うことが好ましい。ここで、中和・脱水の方法としては、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを用いる方法が好ましく例示される。具体的には、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを脱アルコール化してタンク等に貯留しておき、当該タンクの下部から、中和させる油分を投入して廃グリセリンと接触させる。これにより、酸性の油分は廃グリセリンのアルカリにより中和され、さらに油分に含まれる水および1価アルコールは廃グリセリン液に吸収される。そして、下部から投入された油分は比重差により上部からオーバーフローされるため、容易に回収することができる。このような方法により、中和、脱水および脱アルコールを同時に行うことができ、高品質な油分を簡便に得ることができる。なお、水および1価アルコールを吸収した廃グリセリン液は、上述した中和工程に供給することができ、第二の分離工程等を経て第二のグリセリン液の一部とすることができる。
【0073】
なお、第二のエステル化工程において、酸触媒法以外の方法としては、生体触媒法、超臨界法、亜臨界法を好ましく例示することができる。
生体触媒法は、エステル交換反応の触媒活性を備えたリパーゼやホスホリパーゼを用いて、エステル交換反応を促す方法である。生体触媒法は、反応条件が穏やかであるが、酸価値の高い油脂であってもエステル交換反応を促進でき、副生成物が少ないという特性がある。
超臨界法や亜臨界法は、温度や圧力を調整して、原材料を超臨界状態または亜臨界状態に変えることで、物質の相状態を気液二相から液液二相、さらに誘電率を下げて一相へと変化させて、本来触媒を用いる必要があった反応系を無触媒系へと変えて、加水分解を促進する方法である。
【0074】
このような第二のエステル化工程を行うことにより、産業廃棄物をより一層効率的に再資源化することが可能となる。
【0075】
〔接触分解工程〕
本工程は、第一の実施形態で得られた第一の油分、または第二の実施形態で得られた脂肪酸アルキルエステルを、触媒と接触させ、接触分解法により、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料を得る工程である。
【0076】
本工程で用いる触媒は、炭化水素を生成する接触分解法において一般的に用いられる接触分解触媒であれば、特に限定されず使用することができる。例えば、アルカリ土類金属の酸化物、ゼオライト、セピオライト、アルミナ、シリカ、粘土鉱物等を例示することができ、タングステンジルコニア、FCC触媒等を用いてもよい。
【0077】
上記の中でも、アルカリ土類金属の酸化物として、酸化マグネシウムを好適に例示することができる。酸化マグネシウムとしては、高純度の酸化マグネシウムを用いてもよく、高炉スラグ等の酸化マグネシウム含有組成物を用いてもよい。
【0078】
また、本工程で用いる触媒は、多孔質の担体に担持されていると、原料と触媒との接触面積が拡大するため、特に好適である。多孔質の担体としては、例えば、シリカゲル等を例示することができる。
上記触媒と多孔質担体との使用比率は、質量比で触媒1に対し、多孔質担体が5~20であることが好ましく、7~15であることがさらに好ましく、9~10であることが特に好ましい。
【0079】
接触分解工程においては、得られる炭化水素を回収するためのキャリアガスとして、不活性ガスを反応系に送入および送出させることが好ましい。かかる不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等を用いることができ、窒素が好ましい。なお、キャリアガスの流量は、原料となる油分や脂肪酸アルキルエステルの分解時間に合わせて適宜調整することができる。具体的には、キャリアガスの流量を多くすると、反応時間が短くなって炭素鎖が長い炭化水素を得ることができる。一方、キャリアガスの流量を少なくすると、反応時間が長くなって炭素鎖の短い炭化水素を得ることができる。
【0080】
接触分解工程においては、回転軸が水平面に対して傾斜する状態で配置された回転するドラム内で反応させることが好ましい。
接触分解法で用いられる反応器は、反応槽が固定され、鉛直な回転軸を有するプロペラ等により接触分解触媒を撹拌するタイプが一般的である。しかし、このような反応器を用いる場合、接触分解触媒がプロペラ等との摩擦で摩耗し、接触分解触媒が消耗しやすくなるという問題がある。
これに対し、回転軸が水平面に対して傾斜する状態で配置された回転するドラムを反応器として用い、当該ドラム内で反応させることで、接触分解触媒はドラムの回転によって転動する。これにより、原料(第一の油分または脂肪酸アルキルエステル)と触媒との接触が十分に確保されるとともに、触媒の消耗を抑制することができ、触媒の交換時期を延長することができる。
上記回転ドラムを用いる場合、原料およびキャリアガスは、ドラムの回転軸に沿ってドラムの一方の側から送入される。また、反応産物である炭化水素およびキャリアガスは、ドラムの他方の側(すなわち、送入とは反対側)から送出される。このように反応器を構成することで、ドラムが回転している間も原料の送入および反応産物の送出が可能となり、本工程を連続的に実施することが可能となる。
【0081】
接触分解工程においては、反応温度が200~600℃、好ましくは300℃~500℃となるように、反応器内部の温度を調整する。なお、反応温度が430℃を超えると軽質分が増えるため、かかる観点から反応温度を調整してもよい。なお、反応温度の確認は、反応器から送出されるキャリアガスの温度で確認することができる。
上記反応温度は、電磁誘導加熱により調整することが好ましい。電磁誘導加熱によれば、エネルギー効率の観点で優れている。
【0082】
接触分解工程においては、反応器に触媒を投入し、ついで反応器内部の温度を調整した後、原料(第一の油分、および/または脂肪酸アルキルエステルを含む)を投入する。これにより、第一の油分に含まれる遊離脂肪酸、あるいは脂肪酸アルキルエステルが、触媒の存在下で接触分解法により分解され、炭化水素が生成する。
【0083】
生成した炭化水素は、キャリアガスとともに反応器からガスとして送出されるため、これをコンデンサー等により冷却して凝縮し、炭化水素を含む組成物を液体として回収する。
なお、特定の鎖長の炭化水素を得ようとする場合は、前述したキャリアガスの流量を適宜調整する他、回収した炭化水素油をさらに蒸留または分画蒸留することにより、所望の鎖長の炭化水素を回収することができる。
【0084】
回収された組成物は、炭化水素を主成分として含んでおり、軽油品質の良好な、バイオディーゼル燃料として利用することができる。
【0085】
以上の方法によれば、遊離脂肪酸および脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料、とりわけ遊離脂肪酸や脂肪酸グリセリンエステルを含む廃棄物から、炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料を効率良く製造することができる。そのため、遊離脂肪酸や脂肪酸グリセリンエステルを含む廃棄物を有効に再資源化することができる。また、脂肪酸グリセリンエステルのうちグリセリン部分についてはエステル交換反応によりグリセリンとして別途回収できるため、低級炭化水素の回収設備を別途設けることなく、グリセリン部分を有効に再資源化することができる。
【0086】
なお、第一の実施形態で得られる第一の油分は、第一の分離工程(第一のエステル化工程)により、エステル交換反応が1回行われたものである。一方、第二の実施形態で得られる脂肪酸アルキルエステルは、第一および第二のエステル化工程により、エステル交換反応が2回行われたものである。脂肪酸グリセリンエステルのうちグリセリン部分を再資源化する観点からは、第二の実施形態がより好ましいということができる。また、第二の実施形態においては、脂肪酸アルキルエステルの純度が比較的高く、接触分解工程に付す原料の性状が安定しているため、接触分解工程において灰分の蓄積が少なく、接触分解触媒を繰り返し利用しても反応阻害が生じにくい。このため、長期間連続的に接触分解工程を実施できるという観点からも、第二の実施形態がより好ましいということができる。
【0087】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0088】
以下、実施例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0089】
(廃グリセリンの準備)
水酸化カリウムを触媒とするアルカリ触媒法により、廃食油とメタノールとをエステル交換させてバイオディーゼル燃料を製造した。このとき生成したグリセリンを含む副生成物を廃グリセリンとして回収した。
【0090】
この廃グリセリンにゼオライトを廃グリセリン1kgあたり20g添加して水分を除去した。ゼオライトが添加された廃グリセリンは、250メッシュのフィルターを通過させて、ゼオライトおよび固体状の不純物を除去した。
こうして得られた原料としての廃グリセリン(以下、「原料廃グリセリン」という。)の組成および物性は表1に示すとおりであった。
【0091】
【0092】
(第一の分離工程)
加温冷却機能を有する容量1000Lの反応タンクに、原料廃グリセリン500kg、高酸価油(150mgKOH/g)300kgを投入し、攪拌(120rpm)しながら55℃まで加温した。この状態で、濃硫酸32Lを反応容器中に15分かけて添加した。濃硫酸の添加にあたり、反応容器中の混合物の温度が65℃を超えないように留意した。濃硫酸を全量添加した後の反応液のpHは1であった。濃硫酸の添加終了後、240分間攪拌を継続した。その後10時間静置し、油相(第一の油分)と酸性グリセリン相(第一のグリセリン液)とに分離させ、第一のグリセリン液(酸性グリセリン相,析出した硫酸カリウムを含む)を回収した。以上の操作を繰り返すことにより、第一のグリセリン液5000kgを得た。
【0093】
(中和工程)
容量15000Lの反応タンクに、攪拌しながら第一のグリセリン液5000kg、廃グリセリン5000kgを投入した。pHは5.0であった。その後も4時間攪拌を継続し、その後24時間静置した。
【0094】
(第二の分離工程)
中和されたグリセリンを、デカンタ型遠心分離機(製品名:Z18H-V,タナベウィルテック社製)にて5500rpm、180分間処理し、析出した硫酸カリウムを分離回収した。液相について、さらに三相分離型遠心分離機(アルファ・ラバル社製)にて8000rpm、180分間処理し、第二の油分、第二のグリセリン液、硫酸カリウムをそれぞれ分離回収した。
【0095】
(アルコール分離工程)
三相分離により得られた第二のグリセリン液を蒸留してメタノールおよび水を分離して回収した。なお、メタノールおよび水を分離したグリセリンは、純度99質量%(ガスクロマトグラフィーにて測定)であった。
【0096】
(再生油分の回収)
第一の分離工程で得られた第一の油分、および第二の分離工程で得られた第二の油分を混合したのち、廃グリセリンを用いてpH6程度に中和し、分離した油分を回収した。回収した油分を「再生油分」とし、後述する接触分解工程に供した。
【0097】
((第二の)エステル化工程)
第一の分離工程で得られた第一の油分、および第二の分離工程で得られた第二の油分を混合し、アルコール分離工程で回収したメタノールを添加し、濃硫酸を反応容器中に添加した。濃硫酸の添加にあたり、反応容器中の混合物の温度が65℃を超えないように留意した。濃硫酸を全量添加した後の反応液のpHは1であった。濃硫酸の添加終了後、240分間攪拌を継続した。その後10時間静置し、油相と酸性グリセリン相とに分離させ、油相を回収した。得られた油相は、脂肪酸メチルエステルを主成分(90質量%以上)とする組成物であった。得られた組成物を中和し、後述する接触分解工程に供した。
【0098】
(接触分解工程)
以上のようにして得られた再生油分と、脂肪酸メチルエステルとをそれぞれ用い、接触分解法に付した。なお、原料として用いた脂肪酸メチルエステルおよび再生油分の性状を表2に示す。
【0099】
【0100】
接触分解工程におけるリアクターとしては、回転軸が水平面に対して約45°に傾斜する状態で配置された回転ドラムを有する回転ドラム型リアクター(容積200L)を用いた。
二酸化ケイ素粉末(富士シリシア社製,キャリアクトQ-3,粒径:1.18~2.36mm)を12.5kgと、酸化マグネシウム(タテホ化学社製,純度99.99質量%)を1.25kgとを、リアクターに投入し、リアクターの攪拌を開始した。窒素流量2070L/hに設定し、電磁誘導加熱装置(アメリサーム社製,EKOHEAT20/10)によりリアクター温度400℃を保持させた。
【0101】
排出窒素温度が380℃となったことを確認した後、脂肪酸メチルエステルを毎分130mLの流量でリアクターに投入開始した。
しばらくすると、リアクター出口に接続したコンデンサーによって排出ガスが冷却され、コンデンサー下のタンクに液体として貯まり始めたので、排出バルブを開きサンプル瓶に回収した(実施例1)。
また、脂肪酸メチルエステルに代えて再生油分を投入する以外は、実施例1と同様にして、凝縮した液体を得た(実施例2)。
【0102】
得られた液体について、ガスクロマトグラフィー(使用カラム:アジレントテクノロジー社製DB1,内径=0.25mm,長さ=30m,膜厚=0.25μm)に供し、水素炎イオン化検出器(FID)にて検出した。
脂肪酸メチルエステルを原料として用いた実施例1、再生油分を原料として用いた実施例2のいずれにおいても、ペンタデカン(C15)の炭化水素を主成分とし、さらにC14、C13、C19、C17、C16のアルカンを含み、軽油品質として良好な組成物であることが確認された。
具体的には、実施例1においては、C15が17.86%(ピーク面積%,以下同様)、C14が9.02%、C13が6.78%、C16が4.60%、C17が3.34%、C19が4.98%等であった。
一方、実施例2においては、C15が23.62%、C14が7.45%、C13が3.50%、C17が4.01%、C20が8.37%等であった。
【0103】
なお、実施例1は、脂肪酸メチルエステルを2000L/1日投入して180日以上連続運転した場合であっても、接触分解触媒が良好な触媒活性を保持していた。一方、実施例2は、再生油分を2000L/1日投入すると、リアクター内に灰分が蓄積し、10日程度で触媒活性の低下が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、遊離脂肪酸や脂肪酸グリセリンエステルを含有する産業廃棄物を有効に再資源化することができるだけでなく、付加価値の高い次世代バイオディーゼル燃料(炭化水素を主成分とするバイオディーゼル燃料)を製造することができるため、産業上の利用価値は大なるものがある。