(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】高強度Ir合金
(51)【国際特許分類】
C22C 5/04 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
C22C5/04
(21)【出願番号】P 2019161962
(22)【出願日】2019-09-05
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 恭徳
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 陽介
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/189826(WO,A1)
【文献】特開2015-159000(JP,A)
【文献】特表2010-517248(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021028(WO,A1)
【文献】特開2021-39911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/04
C22C 30/00-30/06
H01T 13/00-13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rhを5~35mass%、
Ruを0.1~25mass%、
Nbを0.1~3mass%、
Niを0~4mass%含有し、
残部がIrである、
ことを特徴とするIr合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温強度に優れるIr合金に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素であるIrは、融点が高く、酸化による消耗も少ないことから、優れた高温材料として、単結晶育成用るつぼ、耐熱器具、ガスタービンなどの広い分野で用いられている。一方で、Irの高温での耐酸化性は、WやMoなどの他の高融点金属に比べて優れるものの十分でなく、1000℃以上の高温域では揮発性の酸化物を生じて徐々に消耗することが知られている。したがって、これまでの合金開発においては、主にその耐酸化性の改善に主眼が置かれてきた。
【0003】
特許文献1には、耐熱材料であって、イリジウムをベースとし、第二元素としてロジウムを0.1~30wt%の範囲内で添加し、更に第三元素として白金、ルテニウム、レニウム、クロム、バナジウム、モリブデンこれらいずれか一種を0.1~20wt%の固溶範囲内で添加し、この第三元素と前記第二元素との添加総量が0.2~50wt%の固溶範囲内であることを特徴とするイリジウム基合金が開示されている。大気中1050℃における耐酸化性に優れていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IrRh合金は、高融点であり良好な耐酸化性を示すものの、機械的強度が十分ではない。例えば、るつぼやガスタービンなどに使用する場合、るつぼの内容物の膨張に耐えられなければならず、また、高速回転するタービンの遠心力に耐えられる機械的強度が必要である。よって、これらの分野では常に高い高温強度を有するIr合金が求められている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高温強度に優れるIr合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
IrRh合金の高温強度を向上させるための研究を鋭意重ねた結果、Ruと少量のNbを同時に添加することで、高温強度に優れたIr合金を開発するに至った。また、Irの一部に代えてNiを4mass%以下含有させてもよい。
【0008】
本発明は、Rhを5~35mass%、Ruを0.1~25mass%、Nbを0.1~3mass%、Niを0~4mass%含有し、残部がIrであることを特徴とするIr合金である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温強度に優れたIr合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、Rhを5~35mass%、Ruを0.1~25mass%、Nbを0.1~3mass%、Niを0~4mass%含有し、残部がIrであることを特徴とするIr合金である。ここで、Niを0~4mass%含むとは、Niを含まないか、または4mass%以下含むことを意味する。
【0012】
本発明のIr合金は、合金を構成する全成分の中、Irを40mass%以上、好ましくは45mass%以上、より好ましくは50mass%以上、さらに好ましくは55mass%以上含有する。
【0013】
RhとRuとの含有量の合計は55mass%以下が好ましい。RhとRuとの含有量の合計は50mass%以下がより好ましい。RhとRuとの含有量の合計は45mass%以下がさらに好ましい。
【0014】
Rhの含有量が5mass%を下回る場合には、Ir合金の耐酸化消耗性が不十分である。一方、Rhの含有量が35mass%を超えると、Ir合金の耐酸化消耗性は良いが、融点及び再結晶温度が低下する。
【0015】
IrRh合金にRuを加えると、耐酸化消耗性が改善されるが、高温強度が不十分であった。
【0016】
Ruに加えNbを上記含有量で添加することで、耐酸化消耗性を確保しつつRuとNbとの相乗的な固溶硬化を発現させ、高温強度が著しく向上した合金が得られる。Nbの添加は合金の再結晶温度を上昇させ、高温での使用時の結晶成長を抑制する効果も発揮する。これにより加工組織を高温まで維持でき、耐熱材料として好適な高温強度の高い合金となる。
【0017】
Ruの含有量が0.1mass%を下回ると、耐酸化消耗性が低下する。また、Ruの含有量が25mass%を超えると、塑性変形能が低下し、加工が困難になるだけでなく、耐酸化消耗性も低下する。Ruの含有量は0.5mass%以上が好ましい。Ruの含有量は1mass%以上がより好ましい。
【0018】
Nbの含有量が0.1mass%を下回るとRuとの相乗的な固溶硬化が少なく高温強度が不十分である。一方、Nbの含有量が3mass%を超えると塑性変形能が低下して加工が困難になるとともに、Nbの酸化が顕著になり耐酸化消耗性が低下する。Nbの含有量は2.5mass%以下が好ましい。一方、Nbの含有量は0.2mass%以上が好ましい。さらに、Nbの含有量は0.3mass%以上がより好ましい。
【0019】
合金の強度を向上させる元素として、Niを4mass%以下の範囲で添加してもよい。Niの含有量が4mass%を超えると、Niの酸化消耗が顕著となり、耐酸化消耗性が低下する。Niの含有量は3.5mass%以下が好ましい。一方、Niの含有量は0.1mass%以上が好ましく、0.3mass%以上がより好ましい。また、Niの含有量は0.5mass%以上がさらに好ましい。
【0020】
上記の組成範囲の合金とすることで、単相の固溶体合金を得ることができる。そのため、本発明による合金は展延性を有し、圧延加工や伸線加工など、既知の加工法を用いて様々な形状を得ることができる。また、機械加工及び溶接などの加工方法も適用できる。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例について説明する。実施例及び比較例の合金の組成を表1に、試験結果を表2に示す。
まず、各原料粉末(Ir粉末、Rh粉末、Ru粉末、Nb粉末、Ni粉末)を所定の割合で混合し、混合粉末を作製した。次いで、得られた混合粉末を、一軸加圧成形機を用いて成形し圧粉体を得た。得られた圧粉体をアーク溶解法により溶解し、インゴットを作製した。
【0022】
次いで、作製したインゴットを熱間鍛造し、厚さ4mmの板材とした。この板材を熱間圧延して厚さ1mmの板材とした。高温強度測定の試験片作成に対しては、さらに厚さ0.6mmになるよう熱間圧延した。
【0023】
加工性は、インゴットから圧延までの上記加工工程にて評価した。厚さ0.6mmの板材が得られたものを○、途中で割れが発生して厚さ0.6mmの板材が得られなかったものを×として表2に示した。
【0024】
耐酸化消耗性の評価は、厚さ1mmの板材から円柱状に切り出した各試験片を用いて高温酸化試験により行った。高温酸化試験は、電気炉内に試験片をセットし、大気中、1200℃の条件で20時間保持した。耐酸化消耗性は、前記高温酸化試験における質量変化と定義した。質量変化ΔM(mg/mm2)は、試験片の試験前の質量をM0(mg)、試験後の質量をM1(mg)、試験片の試験前の表面積をS(mm2)とし、ΔM=(M1-M0)/Sの式から求めた。また、試験片の表面積S(mm2)は、試験片の寸法から算出した。
【0025】
1200℃での耐酸化消耗性の評価は、質量変化ΔMが-0.05までの合金は耐酸化消耗性が特に良好(酸化消耗量が少ない)とし、表2に記号Aで示した。質量変化ΔMが-0.05未満、-0.20以上の合金は耐酸化消耗性が良好とし、表2に記号Bで示した。質量変化ΔMが-0.20未満の合金は耐酸化消耗性が悪い(酸化消耗量が多い)とし、表2に記号Cで示した。
【0026】
再結晶温度は、試験片をAr雰囲気の電気炉中で950℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃、1200℃にて30min処理し、その試験片の断面を研磨し、研磨面をエッチングして金属顕微鏡(倍率200倍)で組織観察して決定した。一つの試験片について一つの温度で熱処理した。
【0027】
組織観察の結果、再結晶粒が認められた試験片の熱処理温度をその合金の再結晶温度と定義した。例えば,1050℃で再結晶粒が認められず、1100℃で再結晶粒が認められた場合、再結晶温度を1100℃とした。再結晶温度の評価は、1100℃以上の合金を表2に記号A、1000℃以上1100℃未満を表2に記号B、1000℃未満を表2に記号Cで示した。
【0028】
図1は、実施例7の合金を、1100℃にて30min熱処理した場合の組織写真、
図2は、比較例1の合金を、
図1と同一の条件で熱処理した場合の組織写真である。図に示すように、比較例1では再結晶化が起きているが、実施例7の合金は加工組織を維持していることが分かる。
【0029】
高温強度は、添加元素の効果を明確にするため、Nbを添加していないIrRhRu合金の代表として比較例1を基準とし、以下の手順で評価した。0.6mm厚みの板材からワイヤ放電加工により平行部が□0.5×0.6、長さ3mmとなるよう試験片を切り出し、温度1200℃、大気中、クロスヘッドスピード5mm/minで引張強さを算出した。得られた比較例1の引張強さをT0、実施例の引張強さをTx(xは実施例の番号)
とし、高温強度比T(%)を、T=Tx/T0×100の式から求め、表2に示した。ここで、高温強度に優れるとは、具体的には、上述する式に従って算出される高温強度比T(%)が、130以上、好ましくは140以上であることを意味する。
【0030】
表2に示す結果から、比較例であるIrRhRu合金に比べ、RuとNbを同時に添加した実施例は、高温強度が顕著に高くなることがわかる。具体的には、Rh、Ru濃度が同じである比較例1と実施例6及び実施例7とを比較すると、実施例6及び実施例7の高温強度比T(%)は、それぞれ195と221であり、高温強度比が比較例1の1.95倍及び2.21倍と大きく向上している。また、Rh、Ru、Nb濃度が同じである実施例1と実施例2、実施例6と実施例10を比較すると、高温強度比T(%)は、実施例1が197に対し実施例2が239、実施例6が195であるのに対し実施例10が229であり、Niを添加することでNbのみを添加した場合よりも、更に高温強度が向上している。高温強度が向上している一方で、実施例の合金は再結晶温度及び耐酸化性は比較例1に劣らない特性を示している。このように、実施例の合金は耐熱材料として好ましい特性を有することが確認された。
【0031】
また、実施例の合金は厚さ0.6mmの板材にまで塑性加工ができたことから、比較例1と変わらない加工性を有することが示された。
【0032】
【0033】