(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】変形可能で伝導性の擬固体電極を有する形状適合性アルカリ金属-硫黄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230329BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230329BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230329BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230329BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230329BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230329BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230329BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230329BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20230329BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20230329BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230329BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230329BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230329BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230329BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230329BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20230329BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20230329BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20230329BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20230329BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/58
H01M10/054
H01M4/485
H01M4/60
H01M4/36 A
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/058
H01M4/139
H01G11/06
H01G11/30
H01G11/60
H01G11/62
(21)【出願番号】P 2019572147
(86)(22)【出願日】2018-05-08
(86)【国際出願番号】 US2018031528
(87)【国際公開番号】W WO2019005299
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-02-15
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06194099(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/052
H01M 10/054
H01M 10/0569
H01M 10/0568
H01M 10/058
H01G 11/06
H01G 11/30
H01G 11/60
H01G 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属-硫黄セルにおいて:
(a)30体積%~95体積%の硫黄含有カソード活性材料と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含み前記溶媒中に溶解又は分散したイオン伝導性ポリマーは含まない5体積%~40体積%の第1の電解質と、0.01体積%~30体積%の伝導性添加剤とを含む擬固体カソードにおいて、前記硫黄含有カソード活性材料が、硫黄、金属-硫黄化合物、硫黄-炭素複合物、硫黄-グラフェン複合物、硫黄-黒鉛複合物、有機硫黄化合物、硫黄-ポリマー複合物、又はそれらの組合せを含み、前記擬固体カソードが10
-6S/cm~300S/cmの電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む前記伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成する、擬固体カソードと;
(b)アノードと;
(c)前記アノードと前記擬固体カソードとの間に配置されたイオン伝導膜又は多孔質のセパレータと、
を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項2】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記アノードが、1.0体積%~95体積%のアノード活性材料と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含む5体積%~40体積%の第2の電解質と、0.01体積%~30体積%の伝導性添加剤とを含む擬固体アノードを含み、擬固体電極が10
-6S/cm~300S/cmの電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む前記伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成することを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項3】
アルカリ金属-硫黄セルにおいて:
A)1.0体積%~95体積%のアノード活性材料と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含み前記溶媒中に溶解又は分散したイオン伝導性ポリマーは含まない5体積%~40体積%の電解質と、0.01体積%~30体積%の伝導性添加剤とを含む擬固体アノードにおいて、前記擬固体アノードが10
-6S/cm~300S/cmの電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む前記伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成する、擬固体アノードと;
B)硫黄、金属-硫黄化合物、硫黄-炭素複合物、硫黄-グラフェン複合物、硫黄-黒鉛複合物、有機硫黄化合物、又は硫黄-ポリマー複合物から選択されるカソード活性材料を含むカソードと;
C)前記擬固体アノードと前記カソードとの間に配置されたイオン伝導膜又は多孔質セパレータと、
を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項4】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記伝導性フィラメントが、炭素繊維、黒鉛繊維、カーボンナノファイバ、黒鉛ナノファイバ、カーボンナノチューブ、ニードルコークス、炭素ウィスカ、伝導性ポリマー繊維、伝導性材料被覆繊維、金属ナノワイヤ、金属繊維、金属ワイヤ、グラフェンシート、膨張黒鉛プレートレット、それらの組合せ、又はそれらと非フィラメント状伝導性粒子との組合せから選択されることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項5】
請求項3に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記伝導性フィラメントが、炭素繊維、黒鉛繊維、カーボンナノファイバ、黒鉛ナノファイバ、カーボンナノチューブ、ニードルコークス、炭素ウィスカ、伝導性ポリマー繊維、伝導性材料被覆繊維、金属ナノワイヤ、金属繊維、金属ワイヤ、グラフェンシート、膨張黒鉛プレートレット、それらの組合せ、又はそれらと非フィラメント状伝導性粒子との組合せから選択されることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項6】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記擬固体カソードが10
-3S/cm~10S/cmの電気伝導率を有することを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項7】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記擬固体カソードが0.1体積%~20体積%の伝導性添加剤を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項8】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記擬固体カソードが1体積%~10体積%の伝導性添加剤を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項9】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記硫黄含有カソード活性材料の量が前記
擬固体カソードの40体積%~90体積%であることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項10】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記硫黄含有カソード活性材料の量が前記
擬固体カソードの50体積%~85体積%であることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項11】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記第1の電解質が過飽和状態であることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項12】
請求項2に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記第1の電解質又は第2の電解質が過飽和状態であることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項13】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記溶媒が、水、有機溶媒、イオン液体、又は有機溶媒とイオン液体との混合物から選択されることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項14】
請求項2に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記第1の電解質又は第2の電解質が、水、有機溶媒、イオン液体、又は有機溶媒とイオン液体との混合物から選択される溶媒を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項15】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記アノードが:
(a)リチウム金属又はリチウム金属合金の粒子、薄膜、又は箔;
(b)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;
(c)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd);
(d)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdと別の元素との合金又は金属間化合物において、化学量論的又は非化学量論的である合金又は化合物;
(e)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにそれらの混合物又は複合物;
(f)プレリチウム化Si;
(g)プレリチウム化されたグラフェンシート;並びに
それらの組合せ、
からなる群から選択されるアノード活性材料を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項16】
請求項15に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記プレリチウム化されたグラフェンシートが、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ホウ素がドープされたグラフェン、窒素がドープされたグラフェン、化学官能化グラフェン、それらの物理的若しくは化学的に活性化若しくはエッチングされたバージョン、又はそれらの組合せのプレリチウム化されたバージョンから選択されることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項17】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記アルカリ金属-硫黄セルが、ナトリウム金属-硫黄セル又はナトリウムイオン硫黄セルであり、前記アノードが、ナトリウム金属を含む、又は石油コークス、非晶質炭素、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、鋳型炭素、中空炭素ナノワイヤ、中空炭素球、チタネート、NaTi
2(PO
4)
3、Na
2Ti
3O
7、Na
2C
8H
4O
4、Na
2TP、Na
xTiO
2(x=0.2~1.0)、Na
2C
8H
4O
4、カルボキシレート系材料、C
8H
4Na
2O
4、C
8H
6O
4、C
8H
5NaO
4、C
8Na
2F
4O
4、C
10H
2Na
4O
8、C
14H
4O
6、C
14H
4Na
4O
8、若しくはそれらの組合せから選択されるアルカリインターカレーション化合物を含むアノード活性材料を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項18】
請求項2に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記アルカリ金属-硫黄セルがナトリウム-硫黄セル又はナトリウムイオン硫黄セルであり、前記アノードが:
a)ナトリウム金属又はナトリウム金属合金の粒子、箔、又は薄膜;
b)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;
c)ナトリウムがドープされたケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びそれらの混合物;
d)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物のナトリウムを含有する合金又は金属間化合物;
e)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物若しくは複合物のナトリウムを含有する酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物;
f)ナトリウム塩;
g)ナトリウムイオンがあらかじめ充填されたグラフェンシート;並びにそれらの組合せ、
からなる群から選択されるアノード活性材料を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項19】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記硫黄含有カソード活性材料が:
A)ソフトカーボン、ハードカーボン、ポリマー炭素若しくは炭化樹脂、メソフェーズカーボン、コークス、炭化ピッチ、カーボンブラック、活性炭、ナノ発泡(nanocellular)炭素発泡体、又は部分黒鉛化炭素の粒子から選択されるナノ構造化された又は多孔質の不規則な炭素材料;
B)単層グラフェンシート又は多層グラフェンプレートレットから選択されるナノグラフェンプレートレット;
C)単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブから選択されるカーボンナノチューブ;
D)カーボンナノファイバ、ナノワイヤ、金属酸化物ナノワイヤ若しくは繊維、伝導性ポリマーナノファイバ、又はそれらの組合せ;
E)カルボニル含有有機又はポリマー分子;
F)硫黄を可逆的に捕捉するためのカルボニル基、カルボン酸基、又はアミン基を含む官能性材料;
並びにそれらの組合せ、
からなる群から選択される官能性材料又はナノ構造化材料によって担持されることを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項20】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄
セルにおいて、前記第1の電解質が、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピレンカーボネート(PC)、ガンマ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、アリルエチルカーボネート(AEC)、ハイドロフロロエーテル(hydrofloroether)、及びそれらの組合せからなる群から選択される有機溶媒を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄
セル。
【請求項21】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄
セルにおいて、前記第1の電解質が、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、ホウフッ化リチウム(LiBF
4)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(lithium trifluoro-metasulfonate)(LiCF
3SO
3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF
3SO
2)
2
)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF
2C
2O
4)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF
2C
2O
4)、硝酸リチウム(LiNO
3)、Li-フルオロアルキル-ホスフェート(LiPF3(CF
2CF
3)
3)、ビスパーフルオロエチスルホニルイミドリチウム(lithium bisperfluoroethysulfonylimide)(LiBETI)、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)、過塩素酸カリウム(KClO
4)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF
6)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF
6)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF
4)、ホウフッ化カリウム(KBF
4)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(sodium trifluoro-metasulfonate)(NaCF
3SO
3)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(potassium trifluoro-metasulfonate)(KCF
3SO
3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CF
3SO
2)
2)、トリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム(NaTFSI)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CF
3SO
2)
2)、又はそれらの組合せから選択されるアルカリ金属塩を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄
セル。
【請求項22】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄
セルにおいて、前記第1の電解質が、テトラアルキルアンモニウム、ジ、トリ、若しくはテトラアルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピロリジニウム、ジアルキルピペリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、トリアルキルスルホニウム、又はそれらの組合せから選択されるカチオンを有する室温イオン液体から選択されるイオン液体溶媒を含むことを特徴とするアルカリ金属-硫黄
セル。
【請求項23】
請求項22に記載のアルカリ金属-硫黄
セルにおいて、前記イオン液体溶媒が、BF
4
-、B(CN)
4
-、CH
3BF
3
-、CH
2CHBF
3
-、CF
3BF
3
-、C
2F
5BF
3
-、n-C
3F
7BF
3
-、n-C
4F
9BF
3
-、PF
6
-、CF
3CO
2
-、CF
3SO
3
-、N(SO
2CF
3)
2
-、N(COCF
3)(SO
2CF
3)
-、N(SO
2F)
2
-、N(CN)
2
-、C(CN)
3
-、SCN
-、SeCN
-、CuCl
2
-、AlCl
4
-、F(HF)
2.3
-、又はそれらの組合せから選択されるアニオンを有する室温イオン液体から選択されることを特徴とするアルカリ金属-硫黄
セル。
【請求項24】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記硫黄含有カソード活性材料が15mg/cm
2を超える電極活性材料質量負荷を構成することを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項25】
請求項2に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記アノード活性材料が20mg/cm
2を超える電極活性材料質量負荷を構成することを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項26】
請求項1に記載のアルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記硫黄含有カソード活性材料が30mg/cm
2を超える電極活性材料質量負荷を構成することを特徴とするアルカリ金属-硫黄セル。
【請求項27】
擬固体電極を有するアルカリ金属-硫黄セルの製造方法において:
(a)ある量のカソード活性材料と、ある量の電解質と、伝導性添加剤とを組み合わせて、変形可能で電気伝導性のカソード材料を形成するステップにおいて、前記カソード活性材料が、硫黄、金属-硫黄化合物、硫黄-炭素複合物、硫黄-グラフェン複合物、硫黄-黒鉛複合物、有機硫黄化合物、硫黄-ポリマー複合物、又はそれらの組合せから選択される硫黄含有材料を含み、伝導性フィラメントを含む前記伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成し、前記電解質が、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含み、前記溶媒中に溶解又は分散したイオン伝導性ポリマーは含まないステップと;
(b)前記カソード材料から擬固体カソードを形成するステップにおいて、前記形成するステップが、前記
擬固体カソードが10
-6S/cm以上の電気伝導率を維持するように前記電子伝導経路の3Dネットワークを中断することなく前記カソード材料を電極形状に変形させることを含むステップと;
(c)アノードを形成するステップと;
(d)前記擬固体カソードと前記アノードとを組み合わせることによってアルカリ金属-硫黄セルを形成するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、前記擬固体カソードが、30体積%~95体積%の前記カソード活性材料と、5体積%~40体積%の前記電解質と、0.01体積%~30体積%の前記伝導性添加剤とを含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項27に記載の方法において、前記伝導性フィラメントが、炭素繊維、黒鉛繊維、カーボンナノファイバ、黒鉛ナノファイバ、カーボンナノチューブ、ニードルコークス、炭素ウィスカ、伝導性ポリマー繊維、伝導性材料被覆繊維、金属ナノワイヤ、金属繊維、金属ワイヤ、グラフェンシート、膨張黒鉛プレートレット、それらの組合せ、又はそれらと非フィラメント状伝導性粒子との組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法において、前記擬固体電極が10
-3S/cm~10S/cmの電気伝導率を維持することを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項27に記載の方法において、前記擬固体カソードが0.1体積%~20体積%の伝導性添加剤を含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項27に記載の方法において、前記擬固体カソードが1体積%~10体積%の伝導性添加剤を含むことを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項27に記載の方法において、前記カソード活性材料の量が、前記カソード材料の40体積%~90体積%であることを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項27に記載の方法において、前記
カソード活性材料の量が、前記カソード材料
の50体積%
~85体積%であることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項27に記載の方法において、前記組み合わせるステップが、前記伝導性フィラメントを液体溶媒中に分散させて均一懸濁液を形成することを、前記カソード活性材料を前記
均一懸濁液に加える前、及び前記アルカリ金属
の塩を前記
均一懸濁液の前記液体溶媒中に溶解させる前に行うステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項27に記載の方法において、前記組み合わせるステップ及び前記カソード材料から擬固体カソードを形成するステップが、リチウム塩又はナトリウム塩を液体溶媒中に溶解させて、第1の塩濃度を有する電解質を形成するステップと、続いて前記液体溶媒の一部を除去して前記
第1の塩濃度を増加させて、前記第1の
塩濃度よりも高く2.5Mを超える第2の塩濃度を有する擬固体電解質を得るステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法において、前記除去するステップによって、前記塩の沈殿も、結晶化も起こらず、前記電解質は過飽和状態にあることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法において、前記液体溶媒が、少なくとも第1の液体溶媒及び第2の液体溶媒の混合物を含み、前記第1の液体溶媒が前記第2の液体溶媒よりも揮発性が高く、前記液体溶媒の一部を前記除去するステップが、前記第1の液体溶媒を除去するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項27に記載の方法において、前記アノードを形成する前記ステップが、(A)ある量のアノード活性材料と、ある量の電解質と、伝導性添加剤とを組み合わせて、変形可能で電気伝導性のアノード材料を形成するステップにおいて、伝導性フィラメントを含む前記伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成し、前記電解質が、溶媒中に溶解又は分散したアルカリ塩を含むステップと;(B)前記変形可能で伝導性のアノード材料から擬固体アノードを形成するステップにおいて、前記形成するステップが、前記アノードが10
-6S/cm以上の電気伝導率を維持するように前記電子伝導経路の3Dネットワークを中断することなく前記変形可能で伝導性のアノード材料を電極形状に変形させることを含むステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項40】
請求項27に記載の方法において、前記溶媒が、水、有機溶媒、イオン液体、又は有機溶媒とイオン液体との混合物から選択されることを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項27に記載の方法において、前記アルカリ金属-硫黄セルがリチウムイオン硫黄セルであり、前記アノードが:
(h)リチウム金属又はリチウム金属合金の粒子;
(i)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;
(j)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd);
(k)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdと別の元素との合金又は金属間化合物において、化学量論的又は非化学量論的である合金又は金属間化合物;
(l)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにそれらの混合物又は複合物;
(m)それらのプレリチウム化されたバージョン;
(n)プレリチウム化されたグラフェンシート;並びに
それらの組合せ、
からなる群から選択されるアノード活性材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項42】
請求項41に記載の方法において、前記プレリチウム化されたグラフェンシートが、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ホウ素がドープされたグラフェン、窒素がドープされたグラフェン、化学官能化グラフェン、それらの物理的若しくは化学的に活性化若しくはエッチングされたバージョン、又はそれらの組合せのプレリチウム化されたバージョンから選択されることを特徴とする方法。
【請求項43】
請求項27に記載の方法において、前記アルカリ金属-硫黄セルがナトリウムイオン硫黄セルであり、前記アノードが、石油コークス、カーボンブラック、非晶質炭素、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、鋳型炭素、中空炭素ナノワイヤ、中空炭素球、チタネート、NaTi
2(PO
4)
3、Na
2Ti
3O
7、Na
2C
8H
4O
4、Na
2TP、Na
xTiO
2(x=0.2~1.0)、Na
2C
8H
4O
4、カルボキシレート系材料、C
8H
4Na
2O
4、C
8H
6O
4、C
8H
5NaO
4、C
8Na
2F
4O
4、C
10H
2Na
4O
8、C
14H
4O
6、C
14H
4Na
4O
8、又はそれらの組合せから選択されるアルカリインターカレーション化合物を含むアノード活性材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項44】
請求項27に記載の方法において、前記アルカリ金属-硫黄セルがナトリウムイオン硫黄セルであり、前記アノードが:
a)ナトリウム金属又はナトリウム金属合金の粒子;
b)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;
c)ナトリウムがドープされたケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びそれらの混合物;
d)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物のナトリウムを含有する合金又は金属間化合物;
e)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物若しくは複合物のナトリウムを含有する酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物;
f)ナトリウム塩;
g)ナトリウムイオンがあらかじめ充填されたグラフェンシート;並びにそれらの組合せ、
からなる群から選択されるアノード活性材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項45】
請求項27に記載の方法において、前記カソード活性材料が15mg/cm
2を超える電極活性材料質量負荷を構成することを特徴とする方法。
【請求項46】
請求項27に記載の方法において、前記カソード活性材料が25mg/cm
2を超える電極活性材料質量負荷を構成することを特徴とする方法。
【請求項47】
請求項27に記載の方法において、前記カソード活性材料が45mg/cm
2を超える電極活性材料質量負荷を構成することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2017年6月30日に出願された米国特許出願第15/638,811号明細書、及び2017年6月30日に出願された米国特許出願第15/638,854号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、充電式リチウム金属-硫黄電池、ナトリウム金属-硫黄電池、リチウムイオン-硫黄電池、及びナトリウムイオン-硫黄電池などのアルカリ金属-硫黄電池の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
充電式リチウムイオン(Liイオン)及びリチウム金属電池(Li-硫黄電池及びLi金属-空気電池など)は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、並びに携帯用電子デバイス、例えばラップトップコンピュータ及び携帯電話の将来性のある電源と考えられている。金属元素としてのリチウムは、アノード活性材料としてあらゆる他の金属又は金属がインターカレートされた化合物と比較すると最も高い容量(3,861mAh/g)を有する(比容量が4,200mAh/gであるLi4.4Siは除く)。したがって、一般に、Li金属電池は、リチウムイオン電池よりもはるかに高いエネルギー密度を有する。
【0004】
歴史的には、充電式リチウム金属電池は、TiS2、MoS2、MnO2、CoO2、及びV2O5などの比較的高い比容量を有する非リチウム化化合物がカソード活性材料として使用され、これらをリチウム金属アノードと組み合わせることで製造された。電池が放電すると、リチウムイオンはリチウム金属アノードから電解質を介してカソードまで移動し、カソードはリチウム化される。残念ながら、充電/放電を繰り返すと、リチウム金属はアノードにおいてデンドライトを形成し、これは最終的には成長してセパレータを貫通し、内部短絡及び爆発を引き起こす。この問題に関連する一連の事故の結果、1990年代の初期にこれらの種類の二次電池の製造は停止され、リチウムイオン電池に取って代わられた。
【0005】
リチウムイオン電池中では、純リチウム金属のシート又はフィルムの代わりに、アノードとして炭質物が使用された。リチウムイオン電池の動作の再充電及び放電の段階中にそれぞれ、炭質物は、(例えばグラフェン面間のリチウムのイオン又は原子のインターカレーションによって)リチウムを吸収し、リチウムイオンを脱着する。炭質物は、リチウムがインターカレートすることができる黒鉛を主として含むことができ、結果として得られる黒鉛インターカレーション化合物はLixC6で表すことができ、ここでxは典型的には1未満である。
【0006】
リチウムイオン(Liイオン)電池は、電気駆動自動車の将来性のあるエネルギー貯蔵装置であるが、最先端技術のLiイオン電池は、コスト及び性能の目標にまだ適合していない。Liイオンセルでは、典型的には、炭素負極(アノード)に対して高い電位でLi+がデインターカレート/再インターカレートする正極(カソード)としてリチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩が使用される。リチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩をベースとするカソード活性材料の比容量は、典型的には140~170mAh/gの範囲内である。結果として、市販のLiイオンセルの比エネルギーは、典型的には120~250Wh/kgの範囲内、最も典型的には150~220Wh/kgの範囲内である。これらの比エネルギー値は、電池式電気自動車が広く許容されるために必要となる値の1/2~1/3である。
【0007】
ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(HEV)、及び全電池電気自動車(EV)の急速な開発とともに、はるかに高い比エネルギー、高いエネルギー密度、高いレート能力、長いサイクル寿命、及び安定性を有する蓄電池が得られるアノード材料及びカソード材料が緊急に必要とされている。最も期待できるエネルギー貯蔵装置の1つはリチウム-硫黄(Li-S)セルであり、その理由はLiの理論容量が3,861mAh/gであり、Sの理論容量が1,675mAh/gであるためである。最も単純な形態では、Li-Sセルは、正極としての元素硫黄と、負極としてのリチウムとからなる。このリチウム-硫黄セルは、Li+/Lioを基準としてほぼ2.2Vの反応S8+16Li←→8Li2Sで表される酸化還元対で動作する。この電気化学ポテンシャルは、従来のリチウムイオン電池中の従来の正極(例えばLiMnO4)が示す電気化学ポテンシャルの約2/3である。しかし、この欠点は、Li及びSの両方の非常に高い理論容量によって相殺される。したがって、従来のインターカレーションベースのLiイオン電池と比較すると、Li-Sセルは、はるかに高いエネルギー密度(容量と電圧との積)が得られる可能性がある。Li2Sへの完全な反応を仮定すると、エネルギー密度値は、Li及びSの合計の重量又は体積を基準としてそれぞれ2,500Wh/kg及び2,800Wh/Lに近づくことができる。全セル重量又は体積に基づく場合は、エネルギー密度は、それぞれ1,000Wh/kg及び1,100Wh/Lに近づくことができる。しかし、硫黄カソード技術の業界の先導者によって報告される現在のLi-硫黄セルは、最大セル比エネルギーが250~400Wh/kg及び500~650Wh/L(全セル重量又は体積を基準としている)であり、これらは実現可能な値よりもはるかに低い。
【0008】
要約すると、その大きな利点にもかかわらず、Li-Sセルには幾つかの大きな技術的問題があり、そのためその広範な商業化が大きく妨げられている:
(1)従来のリチウム金属セルには、デンドライトの形成及び関連する内部短絡の問題が依然として存在する。
(2)硫黄又は硫黄含有有機化合物は、電気的及びイオン的の両方で高い絶縁性である。高い電流密度又は充電/放電率における可逆的電気化学反応を可能にするためには、硫黄と電気伝導性添加剤との密接な接触を維持する必要がある。種々の炭素-硫黄複合物がこの目的で使用されているが、接触面積の規模が限定されるために限定的にのみ成功している。報告される典型的な容量は、中程度のレートにおいて300~550mAh/gの間である(カソード炭素-硫黄複合物の重量を基準としている)。
(3)セルは、放電-充電サイクル中に大きな容量の低下を示す傾向にある。これは主として、放電及び充電の両方のプロセス中に反応中間体として形成されるリチウムポリスルフィドアニオンの、電解質中に使用される極性有機溶媒に対する高い溶解性のためである。サイクル中、リチウムポリスルフィドアニオンは、セパレータを通過してLi負極まで移動することができ、そこでそれらは還元されて固体析出物(Li2S2及び/又はLi2S)となり、それによって活性質量が減少する。さらに、放電中に正極表面上に析出する固体生成物は、電気化学的に不可逆的となり、これも活性質量の減少の一因となる。
(4)より一般的に言うと、元素硫黄、有機硫黄、及び炭素-硫黄材料を含むカソードを含むセルの大きな欠点は、可溶性の硫化物、ポリスルフィド、有機硫化物、炭素-硫化物、及び/又は炭素-ポリスルフィド(以降ではアニオン還元生成物と呼ぶ)の溶解、及びカソードからセルの残りの部分への過剰な外方拡散と関連している。この減少は一般にシャトル効果と呼ばれる。この方法では、幾つかの問題が生じ、高い自己放電率、カソード容量の減少、活性セル成分への電気的接触の減少につながる集電体及び電気リードの腐食、アノードの故障を引き起こすアノード表面の付着物、並びにイオン移動の減少及びセル中の内部抵抗の大幅な増加につながるセル膜セパレータ中の細孔の詰まりが生じる。
【0009】
これらの課題に対して、新しい電解質、リチウムアノード用保護フィルム、及び固体電解質が開発されている。リチウムポリスルフィドを含む幾つかの興味深いカソードの開発が最近報告されているが、それらの性能は実際の用途に必要な性能には依然として到達していない。
【0010】
例えば、Jiらは、ナノ構造化硫黄/メソポーラス炭素材料をベースとするカソードによって、これらの課題をかなりの程度克服でき、安定で高い可逆容量を良好なレート特性及びサイクル効率とともに示すことを報告している[Xiulei Ji,Kyu Tae Lee,& Linda F.Nazar,“A highly ordered nanostructured carbon-sulfur cathode for lithium-sulfur Batteries,” Nature Materials 8,500-506(2009)]。しかし、提案されている高度に配向したメソポーラス炭素構造の製造には、時間と費用がかかるテンプレートを用いた方法が必要となる。物理蒸着又は溶液沈殿法を用いて大きな比率の硫黄をこれらのメソスケールの細孔中に充填することも困難である。
【0011】
Zhangら(米国特許出願公開第2014/0234702号明細書;08/21/2014)は、単離された酸化グラフェン(GO)シートの表面上にS粒子を堆積する化学反応方法を使用している。しかし、この方法では、大きな比率のS粒子をGO表面上に形成することができない(すなわち、典型的にはGO-Sナノコンポジット組成物中<66%のS)。結果として得られるLi-Sセルも低いレート能力を示し;例えば0.02Cのレートにおいて1,100mAh/g(S重量を基準とする)の比容量が、1.0Cのレートにおいて<450mAh/gまで減少する。実現可能な最大比容量の1,100mAh/gは、このような低い充電/放電率においてさえもわずか1,100/1,675=65.7%の硫黄利用効率であることに留意されたい(0.02Cは、充電又は放電プロセスが1/0.02=50時間で完了することを意味し;1C=1時間、2C=1/2時間、及び3C=1/3時間などとなる)。さらに、このようなS-GOナノコンポジットカソードベースのLi-Sセルは、非常に低いサイクル寿命を示し、典型的には容量は、40未満の充電/放電サイクルでその元の容量の60%未満まで低下する。このような短いサイクル寿命のため、このLi-Sセルはあらゆる実際的な用途で有用とならない。酸化グラフェン表面上にS粒子を堆積する別の化学反応方法がWangらによって開示されている(米国特許出願公開第2013/0171339号明細書;07/04/2013)。このLi-Sセルには依然として同じ問題がある。
【0012】
Li-Sセル中のカソード材料として使用するためのグラフェン-硫黄ナノコンポジット(GO表面上に吸着させた硫黄粒子を有する)を製造するための溶液沈殿法が、Liuらによって開示されている(米国特許出願公開第2012/0088154号明細書;04/12/2012)。この方法は、GOシートとSとを溶媒(CS2)中で混合して懸濁液を形成することを伴う。次に溶媒を蒸発させることで固体ナノコンポジットが得られ、次にこれを粉砕することで、約50nm未満の平均直径を有する一次硫黄粒子を有するナノコンポジット粉末が得られる。残念ながら、この方法では40nm未満のS粒子を製造できるとは思われない。結果として得られるLi-Sセルは、非常に低いサイクル寿命を示す(わずか50サイクル後に容量が50%低下する)。これらのナノコンポジット粒子がポリマー中に封入される場合でさえも、Li-Sセルは、100サイクル後にその元の容量の80%未満を維持する。このセルは低いレート能力も示す(0.1Cのレートにおける1,050mAh/g(S重量)の比容量が、1.0Cのレートにおける<580mAh/gまで低下する)。この場合もこれは、大きな比率のSがリチウム貯蔵に寄与していないことを示しており、その結果S利用効率が低くなっている。
【0013】
高エネルギー密度のLi-Sセルを製造するために種々の方法が提案されているにもかかわらず、電気活性カソード材料の利用(S利用効率)が改善され、大きなサイクル数にわたって高容量の充電式Li-Sセルが得られるカソード材料及び製造方法が依然として必要とされている。
【0014】
最も顕著なことには、リチウム金属(純リチウム、他の金属元素との高リチウム含有量のリチウム合金、又は高リチウム含有量のリチウム含有化合物を含む;例えば>80重量%、若しくは好ましくは>90重量%のLi)によって、実質的に全ての他のアノード活性材料と比較して最も高いアノード比容量が依然として得られる(純ケイ素を除くが、ケイ素には粉砕の問題がある)。デンドライトに関連する問題に対処できるのであれば、リチウム金属はリチウム-硫黄二次電池における理想的なアノード材料である。
【0015】
ナトリウム金属(Na)及びカリウム金属(K)は、Liと同様の化学的特性を有し、室温ナトリウム-硫黄セル(RTNa-S電池)又はカリウム硫黄-セル(K-S)における硫黄カソードも、(i)低い活性材料利用率、(ii)短いサイクル寿命、及び(iii)低いクーロン効率などのLi-S電池において観察されるものと同じ問題に直面している。この場合も、これらの欠点は、主として、Sの絶縁性、SとNa又はKポリスルフィド中間体との液体電解質中への溶解(及び関連するシャトル効果)、及び充電/放電中の大きな体積変化によって生じる。
【0016】
公開文献報告(学術論文)及び特許文献の大部分では、科学者又は発明者らは、硫黄又はリチウムポリスルフィドの重量のみ(全カソード複合物の重量ではなく)を基準としてカソード比容量を表すことを選択しているが、残念ながら大きな比率の非活性材料(伝導性添加剤及びバインダーなどのリチウムを貯蔵できないもの)が典型的にはそれらのLi-Sセル中に使用されていることに留意されたい。実際的な使用目的では、カソード複合物重量を基準とした容量値を使用することがより有意義となる。
【0017】
低容量のアノード又はカソード活性材料は、リチウム-硫黄電池、又はナトリウム-硫黄電池に関連する唯一の問題ではない。電池業界が認識していないと思われる、又はほとんど無視している重大な設計上及び製造上の問題がある。例えば、公開されている文献及び特許文献で頻繁に主張されているように(アノード又はカソード活性材料の重量のみに基づく)電極レベルでの重量容量が一見すると高いにもかかわらず、これらの電極は、残念ながら、(総電池セル重量又はパック重量に基づく)電池セル又はパックレベルでの高い容量を電池に提供することができない。これは、これらの報告では電極の実際の活性材料質量負荷が低すぎるという見解によるものである。ほとんどの場合、アノードの活性材料質量負荷(面密度)は、15mg/cm2よりもかなり低く、大抵は<8mg/cm2である(面密度=電極の厚さ方向に沿った電極断面積あたりの活性材料の量)。カソード活性材料の量は、典型的にはセル内のアノード活性材料の量の1.5~2.5倍である。その結果、Naイオン-硫黄電池セル、又はLiイオン-硫黄電池セルにおけるアノード活性材料(例えば、炭素)の重量比は、典型的には15%~20%であり、カソード活性材料の重量比は、20%~35%(大抵は<30%)である。カソード活性材料及びアノード活性材料の複合の重量分率は、典型的には、セル重量の35%~50%である。
【0018】
低い活性材料質量負荷は、主として、従来のスラリーコーティング手順を使用して比較的厚い電極(100~200μmよりも厚い)を得ることができないことが原因である。これは、思うほど簡単な作業ではなく、現実には、電極の厚さは、セル性能を最適化するために任意に且つ自由に変えることができる設計パラメータではない。これに反して、より厚い試料は、非常に脆くなりやすく、又は構造的完全性が低くなりやすく、また大量の粘結剤樹脂の使用を必要とする。硫黄の低融点で軟らかい特性のため、100μmを超える厚さの硫黄カソードの製造は事実上不可能であった。さらに、実際の電池製造設備において、150μmを超える厚さの被覆電極には、被覆されたスラリーを完全に乾燥させるために100メートルの長さの加熱ゾーンが必要となる。このため設備費が大幅に増加し、製造処理量が減少する。低い面密度及び低い体積密度(薄い電極及び低い充填密度に関連する)により、電池セルの体積容量は比較的低く、体積エネルギー密度は低い。
【0019】
よりコンパクトでポータブルなエネルギー貯蔵システムに対する需要の高まりと共に、電池の体積の利用率を高めることに強い関心が持たれている。セルの体積容量及びエネルギー密度の改良を実現するために、高い体積容量及び高い質量負荷を可能にする新規の電極材料及び設計が不可欠である。
【0020】
したがって、本発明の目的の1つは、従来のLi-Sセル及びNa-Sセルに一般に関連する以下の問題の:(a)デンドライトの形成(内部短絡)と;(b)硫黄の非常に低い電気伝導性及びイオン伝導性のために、大きな比率(典型的には30~55%)の不活性伝導性フィラーが必要となり、顕著な比率の利用できない又は再充電できない硫黄又はアルカリ金属ポリスルフィドを有することと);(c)S及びアルカリ金属ポリスルフィドの電解質中への溶解、並びにポリスルフィドのカソードからアノードへの移動(これはアノードのLi又はNa金属と不可逆的に反応する)によって、活性材料の減少及び容量の低下(シャトル効果)が生じることと;(d)短いサイクル寿命と;(e)アノード及びカソードの両方における低い活性質量負荷と、を克服又は顕著に軽減する合理的な材料及び電池設計に基づいた充電式アルカリ金属-硫黄セルを提供することである。
【0021】
本発明の具体的な目的の1つは、非常に高い比エネルギー又は高いエネルギー密度を示す充電式アルカリ金属-硫黄電池(例えば主としてLi-S電池及び室温Na-S電池)を提供することである。本発明の特定の技術目標の1つは、セルの比エネルギーが400Wh/kgを超え、好ましくは500Wh/kgを超え、より好ましくは600Wh/kgを超え、最も好ましくは700Wh/kgを超える(全て全セル重量を基準としている)アルカリ金属-硫黄セル又はアルカリイオン-硫黄セルを提供することである。好ましくは、体積エネルギー密度は600Wh/Lを超え、さらに好ましくは800Wh/Lを超え、最も好ましくは1,000Wh/Lを超える。
【0022】
本発明の別の目的の1つは、硫黄重量を基準として1,200mAh/gを超え、又はカソード複合物重量(硫黄、伝導性添加剤、又は基材を含み、バインダー重量が加えられるが、カソード集電体の重量は除外される)を基準として1,000mAh/gを超える高いカソード比容量を示すアルカリ金属-硫黄セルを提供することである。比容量は好ましくは、硫黄重量のみを基準として1,400mAh/gを超え、又はカソード複合物重量を基準として1,200mAh/gを超える。これは、高い比エネルギー、デンドライト形成に対する良好な抵抗性、及び長く安定なサイクル寿命を伴うことが必要である。
【0023】
電子デバイスがより小型化され、電気自動車(EV)がより軽量になることで、デバイス又は乗物の中の一部の特殊な形状又は限定された空間に適合できるように形状適合性である高エネルギー密度の電池が緊急に必要とされている。他の場合には空いたままの(使用されない又は「無駄になる」)空間(例えば車のドア又はルーフトップの一部)となる空間内に電池を組み込むことによって、デバイスをより小型にすることができ、又はEVがより多くの電力を貯蔵できるようにすることができる。電池を形状適合性にするために、電極は変形可能で、可撓性で、形状適合性である必要がある。
【0024】
したがって、伝導率、高レート能力、高い電力密度、及び高いエネルギー密度を損なうことなく高い活性材料質量負荷(高い面密度)、大きな電極厚さ又は体積を有するリチウム電池及びナトリウム電池が明らかに緊急に必要とされている。これらの電池は、環境に優しい方法で製造される必要がある。さらに電池は形状適合性である必要がある。
【発明の概要】
【0025】
本発明は、高い活性材料質量負荷、非常に少ないオーバーヘッド重量及び体積(活性材料の質量及び体積を基準とする)、高容量、並びに前例のない高いエネルギー密度及び電力密度を有する、リチウム-硫黄電池、ナトリウム-硫黄電池、又はカリウム-硫黄電池の製造方法を提供する。このLi-S電池、Na-S電池、又はK-S電池は、一次電池(非充電式)又は二次電池(充電式)、例えば充電式リチウム金属-硫黄電池又はナトリウム金属-硫黄電池(リチウム又はナトリウム金属のアノードを有する)、並びにリチウムイオン硫黄電池又はナトリウムイオン硫黄電池(例えば第1のリチウムインターカレーション化合物をアノード活性材料として有する)であってよい。この電池はカリウム-硫黄電池も含む。
【0026】
ある実施形態では、本発明は:(a)約30体積%~約95体積%の硫黄含有カソード活性材料(好ましくは硫黄、金属-硫黄化合物、硫黄-炭素複合物、硫黄-グラフェン複合物、硫黄-黒鉛複合物、有機硫黄化合物、硫黄-ポリマー複合物、又はそれらの組合せから選択される)と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含む(しかし、この溶媒中に溶解した、この溶媒中に分散した、及びこの溶媒が含浸したイオン伝導性ポリマーは含まない)約5体積%~約40体積%の第1の電解質と、約0.01体積%~約30体積%の伝導性添加剤とを含む擬固体カソードにおいて、擬固体電極が約10-6S/cm~約300S/cmの電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成する、擬固体カソードと;(b)アノードと;(c)アノードと擬固体カソードとの間に配置されたイオン伝導膜又は多孔質のセパレータと、を含むアルカリ-硫黄セルにおいて;上記擬固体カソードが200μm以上の厚さを有するアルカリ-硫黄セルを提供する。擬固体カソードは、好ましくは10mg/cm2以上、好ましくは15mg/cm2以上、さらに好ましくは25mg/cm2以上、より好ましくは35mg/cm2以上、さらにより好ましくは45mg/cm2以上、最も好ましくは65mg/cm2を超えるカソード活性材料質量負荷を有する。
【0027】
このセル中、アノードは、約1.0体積%~約95体積%のアノード活性材料と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含む(この溶媒中に溶解した、この溶媒中に分散した、又はこの溶媒が含浸したある程度のイオン伝導性ポリマーを含む、又はイオン伝導性ポリマーは全く含まない)約5体積%~約40体積%の第2の電解質と、約0.01体積%~約30体積%の伝導性添加剤とを含む擬固体アノードを含むことができ、擬固体電極が約10-6S/cm~約300S/cmの電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む上記伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成し;上記擬固体アノードは200μm以上の厚さを有する。擬固体アノードは、好ましくは10mg/cm2以上、好ましくは15mg/cm2以上、さらに好ましくは25mg/cm2以上、より好ましくは35mg/cm2以上、さらにより好ましくは45mg/cm2以上、最も好ましくは65mg/cm2を超えるアノード活性材料質量負荷を有する。第1の電解質は第2の電解質と組成及び構造が同じ場合も異なる場合もあり得る。
【0028】
ある実施形態では、本発明は:(A)約1.0体積%~約95体積%のアノード活性材料と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含む(この溶媒中に溶解した、この溶媒中に分散した、及びこの溶媒が含浸したイオン伝導性ポリマーは含まない)約5体積%~約40体積%の電解質と、約0.01体積%~約30体積%の伝導性添加剤とを含む擬固体アノードにおいて、擬固体電極が約10-6S/cm~約300S/cmの電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成する、擬固体アノードと;(B)硫黄、金属-硫黄化合物、硫黄-炭素複合物、硫黄-グラフェン複合物、硫黄-黒鉛複合物、有機硫黄化合物、硫黄-ポリマー複合物、又はそれらの組合せから選択される硫黄含有カソード活性材料を含むカソードと;(C)擬固体アノードとカソードとの間に配置されたイオン伝導膜又は多孔質のセパレータと、を含むアルカリ-硫黄セルにおいて;上記擬固体アノード及びカソードが好ましくはそれぞれ200μm以上の厚さを有する、アルカリ-硫黄セルを提供する。
【0029】
本発明による擬固体電極は、変形可能で、可撓性で、形状適合性であり、これによって形状適合性の電池が可能となる。
【0030】
本発明は、擬固体電極を有するアルカリ-硫黄セルの製造方法において:(a)ある量の活性材料(アノード活性材料又はカソード活性材料)と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含むある量の電解質と、伝導性添加剤とを組み合わせて、変形可能で電気伝導性の電極材料を形成するステップにおいて、伝導性フィラメントを含む伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成するステップと;(b)上記電極材料から擬固体電極(第1の電極)を形成するステップにおいて、この形成するステップが、電極が10-6S/cm以上(好ましくは10-5S/cm以上、より好ましくは10-3S/cm以上、さらに好ましくは10-2S/cm以上、さらにより好ましく典型的には10-1S/cm以上、さらにより典型的で好ましくは1S/cm以上、さらにより典型的で好ましくは10S/cm以上で、最大300S/cm)の電気伝導率を維持するように、電子伝導経路の3Dネットワークを中断することなく電極材料を電極形状に変形させることを含むステップと;(c)第2の電極(第2の電極も同様に擬固体電極であってよい)を形成するステップと;(d)2つの電極の間にイオン伝導性セパレータが配置されるように、擬固体電極と第2の電極とを組み合わせることによってアルカリ-硫黄セルを形成するステップとを含む、方法も提供する。
【0031】
「フィラメント」は、ある最大寸法(例えば長さ)及びある最小寸法(例えば直径又は厚さ)を有する固体材料の物体であり、最大寸法対最小寸法の比は3を超え、好ましくは10を超え、さらに好ましくは100を超える。典型的には、これは、幾つかの例を挙げると、ワイヤ状、繊維状、針状、棒状、プレートレット状、シート状、リボン状、又は円板状の物体である。ある実施形態では、伝導性フィラメントは、炭素繊維、黒鉛繊維、カーボンナノファイバ、黒鉛ナノファイバ、カーボンナノチューブ、ニードルコークス、炭素ウィスカ、伝導性ポリマー繊維、伝導性材料被覆繊維、金属ナノワイヤ、金属繊維、金属ワイヤ、グラフェンシート、膨張黒鉛プレートレット、それらの組合せ、又はそれらと非フィラメント状伝導性粒子との組合せから選択される。
【0032】
ある実施形態では、電極は10-5S/cm~約100S/cmの電気伝導率を維持する。
【0033】
ある実施形態では、変形可能な電極材料は、1,000s-1の見かけの剪断速度において測定して約10,000Pa-s以上の見かけの粘度を有する。ある実施形態では、変形可能な電極材料は、1,000s-1の見かけの剪断速度において約100,000Pa-s以上の見かけの粘度を有する。
【0034】
この方法では、活性材料の量は、典型的には約20体積%~約95体積%の電極材料、より典型的には約35体積%~約85体積%の電極材料、最も典型的には約50体積%~約75体積%の電極材料である。
【0035】
好ましくは、活性材料、伝導性添加剤、及び電解質(リチウム塩又はナトリウム塩を液体溶媒中に溶解させるステップを含む)を組み合わせるステップは、特定の順序に従う。このステップは、最初に伝導性フィラメントを液体溶媒中に分散させて均一な懸濁液を形成するステップと、続いてこの懸濁液中に活性材料を加え、リチウム塩又はナトリウム塩を液体溶媒中に溶解させるステップとを含む。言い換えると、活性材料などの別の成分を加える前、及びリチウム塩若しくはナトリウム塩を溶媒中に溶解させる前に、最初に伝導性フィラメントを液体溶媒中に均一に分散させる必要がある。この順序は、より低い伝導性フィラメント体積分率(より低い閾値体積分率)において電子伝導経路の3Dネットワークを形成するために、伝導性フィラメントの浸透を実現することが重要である。このような順序に従わない場合、伝導性フィラメントの浸透が起こらない場合があり、又は過度に大きな比率の伝導性フィラメント(例えば>10体積%)が加えられる場合にのみ起こる場合があり、これによって活性材料の分率が減少し、したがってセルのエネルギー密度が低下する。
【0036】
ある実施形態では、組み合わせるステップ及び電極材料から擬固体電極を形成するステップは、リチウム塩(又はナトリウム塩)を液体溶媒中に溶解させて、第1の塩濃度を有する電解質を形成するステップと、続いて液体溶媒の一部を除去して塩濃度を増加させて、第1の濃度よりも高く、好ましくは塩が2.5Mを超える(より好ましくは3.0M~14Mの)第2の塩濃度を有する擬固体電解質を得るステップとを含む。結果として得られる電解質は、電解質からの塩の沈殿も、結晶化も起こらない飽和又は過飽和の状態である。
【0037】
溶媒の一部を除去するステップは、塩の沈殿も、結晶化も引き起こさず、電解質が飽和又は過飽和の状態となるような方法で行うことができる。ある好ましい実施形態では、液体溶媒は、少なくとも第1の液体溶媒と第2の液体溶媒との混合物を含み、第1の液体溶媒は第2の液体溶媒よりも揮発性が高く、液体溶媒の一部を除去するステップは、第1の液体溶媒を部分的又は完全に除去することを含む。結果として得られる電解質は、電解質からの塩の沈殿も、結晶化も起こらない飽和又は過飽和の状態である。
【0038】
本発明の実施に使用できるアノード活性材料の種類に対する制限はない。ある好ましい実施形態では、アルカリ金属セルは、リチウム金属電池、リチウムイオン電池、又はリチウムイオンキャパシタであり、アノード活性材料は:(a)リチウム金属又はリチウム金属合金の粒子;(b)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子(ソフトカーボン及びハードカーボンなど)、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;(c)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd);(d)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdと別の元素との合金又は金属間化合物において、化学量論的又は非化学量論的である上記合金又は化合物;(e)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにそれらの混合物又は複合物;(f)それらのプレリチウム化されたバージョン;(g)プレリチウム化されたグラフェンシート;並びにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0039】
ある実施形態では、アルカリ金属セルは、ナトリウム金属-硫黄セル又はナトリウムイオン硫黄セルであり、活性材料は、石油コークス、非晶質炭素、活性炭、ハードカーボン(黒鉛化が困難な炭素)、ソフトカーボン(容易に黒鉛化可能な炭素)、鋳型炭素、中空炭素ナノワイヤ、中空炭素球、チタネート、NaTi2(PO4)3、Na2Ti3O7、Na2C8H4O4、Na2TP、NaxTiO2(x=0.2~1.0)、Na2C8H4O4、カルボキシレート系材料、C8H4Na2O4、C8H6O4、C8H5NaO4、C8Na2F4O4、C10H2Na4O8、C14H4O6、C14H4Na4O8、又はそれらの組合せから選択されるナトリウムインターカレーション化合物を含むアノード活性材料である。
【0040】
ある実施形態では、アルカリ金属セルは、ナトリウム金属-硫黄セル又はナトリウムイオン硫黄セルであり、活性材料は:(a)ナトリウム金属又はナトリウム金属合金の粒子;(b)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;(c)ナトリウムがドープされたケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びそれらの混合物;(d)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物のナトリウムを含有する合金又は金属間化合物;(e)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物若しくは複合物のナトリウムを含有する酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物;(f)ナトリウム塩;並びに(g)ナトリウムイオンがあらかじめ充填されたグラフェンシート;並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアノード活性材料である。
【0041】
電解質は、水、有機液体、イオン液体(100℃未満、好ましくは室温25℃未満の溶融温度を有するイオン性塩)、又は1/100~100/1の比率のイオン液体と有機液体との混合物を含むことができる。有機液体が望ましいが、イオン液体が好ましい。電解質は、典型的で好ましくは、結果として得られる電極(アノード又はカソード)中で溶質が飽和又は過飽和の状態となる高溶質濃度(リチウム/ナトリウム塩の濃度)を有する。このような電解質は、変形可能又は適合性の固体のように挙動する実質的に擬固体の電解質である。この新しい種類の電解質は、液体電解質、ポリマーゲル電解質、又は固体電解質とは本質的に異なる。
【0042】
好ましい一実施形態では、擬固体電極の厚さは200μm~1cm、好ましくは300μm~0.5cm(5mm)、さらに好ましくは400μm~3mm、最も好ましくは500μm~2.5mm(2,500μm)である。活性材料がアノード活性材料の場合、アノード活性材料は、25mg/cm2以上(好ましくは30mg/cm2以上、より好ましくは35mg/cm2以上)の質量負荷を有し、及び/又は電池セル全体の重量若しくは体積を基準として少なくとも25%(好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%)を占める。活性材料がカソード活性材料の場合、カソード活性材料は、好ましくは20mg/cm2以上(好ましくは25mg/cm2以上、より好ましくは30mg/cm2以上、最も好ましくは40mg/cm2以上)の質量負荷をカソード中に有し、及び/又は電池セル全体の重量若しくは体積を基準として少なくとも45%(好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%)を占める。
【0043】
電極厚さ、アノード活性材料の面積質量負荷若しくは電池セル全体を基準とした質量分率、又はカソード活性材料の面積質量負荷若しくは電池セル全体を基準とした質量分率に対する上記の要求は、従来のスラリーコーティング及び乾燥のプロセスを用いた従来のリチウム電池又はナトリウム電池では実現できなかった。
【0044】
幾つかの実施形態では、アノード活性材料は、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、ホウ素がドープされたグラフェン、窒素がドープされたグラフェン、化学官能化グラフェン、それらの物理的若しくは化学的に活性化若しくはエッチングされたバージョン、又はそれらの組合せから選択されるグラフェンシートのプレリチウム化されたバージョンである。驚くべきことに、プレリチウム化されないと、得られるリチウム電池セルは、十分なサイクル寿命を示さない(すなわち容量が急速に低下する)。
【0045】
リチウム金属電池中、カソード活性材料は15mg/cm2を超える(好ましくは25mg/cm2を超える、より好ましくは35mg/cm2を超える、最も好ましくは50mg/cm2を超える)電極活性材料負荷を構成し、及び/又は電極は300μm以上の厚さを有する(好ましくは400μm以上、より好ましくは500μm以上であり、100cm以上が可能である)。本発明によるアルカリ金属電池の電極厚さに対する理論的制限はない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1A】
図1(A)は、アノード集電体と、アノード集電体の2つの主面上にコーティングされた1つ又は2つのアノード活性材料層(例えば薄いSiコーティング層)と、多孔質セパレータ及び電解質と、1つ又は2つのカソード電極層(例えば硫黄層)と、カソード集電体とから構成される従来技術のリチウムイオン電池セルの概略図である。
【
図1B】
図1(B)は、電極層が、活性材料のばらばらの粒子(例えばアノード層中の黒鉛又は酸化スズの粒子、又はカソード層中の硫黄/炭素)と、伝導性添加剤(図示せず)と、樹脂バインダー(図示せず)とから構成される、従来技術のリチウムイオン電池の概略図である。
【
図1C】
図1(C)は、擬固体アノード(電解質中に直接混合又は分散されたアノード活性材料粒子及び伝導性フィラメントからなる)と、多孔質セパレータと、擬固体カソード(電解質中に直接混合又は分散されたS含有カソード活性材料粒子及び伝導性フィラメントからなる)とを含む本発明によるリチウム硫黄電池セルの概略図である。この実施形態では、樹脂バインダーは不要である。
【
図1D】
図1(D)は、アノード(Cu箔表面上に堆積されたリチウム金属層を含む)と、多孔質セパレータと、擬固体カソード(電解質中に直接混合又は分散されたS含有カソード活性材料粒子及び伝導性フィラメントからなる)とを含む本発明によるリチウム金属-硫黄電池セルの概略図である。この実施形態では、樹脂バインダーは不要である。
【
図2A】
図2(A)は、固体電解質の密接に充填された高秩序構造の概略図である。
【
図2B】
図2(B)は、カチオン(例えばLi
+又はNa
+)が容易に通過できる自由体積を大きな比率で有する全体的に非晶質の液体電解質の概略図である。
【
図2C】
図2(C)は、遊離の(クラスター化していない)カチオンが容易に移動する非晶質ゾーンを形成するために塩種を分離する溶媒分子を有する擬固体電解質の不規則又は非晶質の構造の概略図である。リチウム塩又はナトリウム塩は、実質的に非晶質のままで飽和又は過飽和の状態になる。
【
図3A】
図3(A)は、ナトリウム塩の分子比xに対する電解質(例えば(DOL+DME)溶媒中の(NaTFSI塩))のNa
+イオン輸率である。
【
図3B】
図3(B)は、ナトリウム塩の分子比xに対する電解質(例えば(EMImTFSI+DOL)溶媒中の(NaTFSI塩))のNa
+イオン輸率である。
【
図4】
図4は、剥離黒鉛、膨張黒鉛フレーク(厚さ>100nm)、及びグラフェンシート(厚さ<100nm、より典型的には<10nmであり、0.34nmの薄さでもよい)を製造するための一般に使用されている方法の概略図である。
【
図5A】
図5(A)は、伝導性フィラメント(カーボンナノファイバ)の体積分率の関数としてプロットした擬固体電極中の伝導性フィラメントの電気伝導率(浸透挙動)である。
【
図5B】
図5(B)は、伝導性フィラメント(還元酸化グラフェンシート)の体積分率の関数としてプロットした擬固体電極中の伝導性フィラメントの電気伝導率(浸透挙動)である。
【
図6A】
図6(A)は、カソード活性材料としてのS/CB複合粒子と伝導性フィラメントとしてのカーボンナノファイバとを含むLi-SセルのRagoneプロット(重量電力密度対エネルギー密度)である。4つのデータ曲線のうちの3つは本発明の一実施形態により作製したセルのものであり、残りの1つは従来の電極のスラリーコーティング(ロールコーティング)によって作製したセルのものである。
【
図6B】
図6(B)は、従来のLi-Sセル及び擬固体電解質と擬固体カソードとを含むLi-Sセルのサイクル挙動である。
【
図7A】
図7(A)は、カソード活性材料としてのグラフェン担持S粒子(グラフェン表面上に電気化学的に堆積されたS)と伝導性フィラメントとしてのRGOとを含むLi-SセルのRagoneプロット(重量電力密度対エネルギー密度)である。4つのデータ曲線のうち3つは本発明の一実施形態により作製したセルのものであり、残りの1つは従来の電極のスラリーコーティング(ロールコーティング)によって作製したセルのものである。
【
図7B】
図7(B)は、従来のLi-Sセル及び擬固体電解質と擬固体カソードとを含むLi-Sセルのサイクル挙動である。
【
図8】
図8は、従来の電解質と比較される、Siナノ粒子アノードと、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)カソードと、擬固体電解質(S1、S3)とを有するセルのRagoneプロットである。
【
図9】
図9は、従来の電解質を有するSICと比較される、擬固体電解質を有するナトリウムイオンキャパシタ(SIC)のRagoneプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、これまで達成されていない非常に高いエネルギー密度を示すリチウム-硫黄電池又はナトリウム-硫黄電池を対象とする。この電池は、一次電池であってよいが、好ましくは、リチウムイオン硫黄電池、リチウム金属-硫黄二次電池(例えばアノード活性材料としてリチウム金属が使用される)、ナトリウムイオン硫黄電池、又はナトリウム金属-硫黄電池(例えばアノード活性材料としてナトリウム金属、カソード活性材料として炭素担持硫黄が使用される)から選択される二次電池である。この電池は、水、有機溶媒、イオン液体、又は有機及びイオン液体の混合物中に溶解したリチウム塩又はナトリウム塩を含む擬固体電解質をベースとする。好ましくは、電解質は、所望の量の伝導性フィラメント及び活性材料が電解質中に加えられる場合でさえも固体と同様に挙動するが変形可能のままである程度まで溶媒中に高濃度の溶質(リチウム塩又はナトリウム塩)を含む「擬固体電解質」である(したがって、「変形可能な擬固体電極」と呼ばれる)。電解質は、液体電解質ではなく、固体電解質でもない。リチウム電池の形状は、円筒形、正方形、ボタン状などであってよく、特殊な形状又は不規則な形状であってよい。本発明は、なんらかの電池形状及び構成に限定されるものではない。
【0048】
図1(A)中に示されるように、Li-Sセル又は室温Na-Sセルなどの従来技術のリチウム電池セル又はナトリウム電池セルは、典型的には、アノード集電体(例えばCu箔)、アノード電極又はアノード活性材料層(例えばLi金属箔、ナトリウム箔、又はCu箔の一方若しくは両方の側に堆積されたプレリチウム化されたSiコーティング)、多孔質セパレータ及び/又は電解質成分、カソード電極又はカソード活性材料層(又はAl箔の両側にコーティングされた2つのカソード活性材料層)、並びにカソード集電体(例えばAl箔)から構成される。
【0049】
より一般的に使用される従来技術のセル構成(
図1(B))において、アノード層は、アノード活性材料(例えば、黒鉛、ハードカーボン、又はSi)、導電性添加剤(例えば、カーボンブラック粒子)、及び樹脂粘結剤(例えば、SBR又はPVDF)の粒子から構成される。カソード層は、カソード活性材料の粒子(例えばLiイオンセル中のLFP粒子、及びLi-Sセル中のリチウムポリスルフィド/炭素複合粒子)、伝導性添加剤(例えばカーボンブラック粒子)、及び樹脂バインダー(例えばPVDF)から構成される。アノード層及びカソード層はどちらも典型的には100~200μmまでの厚さであり、単位電極面積当たりでおそらく十分な量の電流を生じさせる。この厚さ範囲は、電池設計者が通常的に作業を行う、業界で受け入れられている制約と考えられる。この厚さの制約は、以下のような幾つかの理由によるものである:(a)既存の電池電極コーティング機は、非常に薄い又は非常に厚い電極層をコーティングするようには装備されていない;(b)リチウムイオン拡散経路長の短縮を考慮すると、より薄い層が好ましい;しかし、層が薄すぎると(例えば、<100μm)、十分な量の活性リチウム貯蔵材料を含まない(したがって、不十分な電流出力となる);(c)より厚い電極は、ロールコーティング後の乾燥又は取扱い時に層間剥離又は亀裂が生じやすい;及び(d)最小オーバーヘッド重量及び最大リチウム貯蔵容量、したがって最大エネルギー密度(セルのWk/kg又はWh/L)を得るために、電池セル内の全ての非活性材料層(例えば、集電体及びセパレータ)を最小に保たなければならない。
【0050】
あまり一般的に使用されていないセル構成では、
図1(A)に示されるように、アノード活性材料(例えば、Siコーティング)又はカソード活性材料が、銅箔又はAl箔などの集電体上に直接、薄膜の形態で堆積される。しかし、厚さ方向の寸法が非常に小さい(典型的には500nmよりもはるかに小さく、しばしば必要であれば100nmよりも薄い)そのような薄膜構造は、(電極又は集電体の表面積を同じと仮定して)電極に少量の活性材料しか組み込むことができないことを示唆し、総リチウム貯蔵容量を低減し、単位電極表面積当たりのリチウム貯蔵容量を低減する。そのような薄膜は、(アノードに関する)サイクリングにより誘発される割れに対する耐性をより高くするため、又はカソード活性材料の完全な利用を容易にするために、厚さを100nm未満にしなければならない。そのような制約は、総リチウム貯蔵容量、及び単位電極表面積当たりのリチウム貯蔵容量をさらに減少させる。そのような薄膜電池は、適用範囲が非常に限られている。
【0051】
アノード側では、100nmよりも厚いSi層は、電池の充放電サイクル中に割れ抵抗性が低いことが判明している。Si層は、わずか数サイクルで破砕されてしまう。カソード側では、100nmよりも厚いリチウム金属酸化物のスパッタ層は、リチウムイオンが完全に浸透してカソード層全体に達することを可能にせず、カソード活性材料利用率が低くなる。望ましい電極厚さは少なくとも100μmであり、個々の活性材料コーティング又は粒子は、望ましくは100nm未満の寸法を有する。したがって、集電体上に直接堆積されたこれらの薄膜電極(<100nmの厚さを有する)は、必要な厚さに3桁足りない。さらなる問題として、カソード活性材料は全て、電子とリチウムイオンの両方に対して伝導性ではない。大きな層厚さは、非常に高い内部抵抗、及び低い活性材料利用率を示唆する。ナトリウム電池は同様の問題を有する。
【0052】
すなわち、材料のタイプ、サイズ、電極層の厚さ、及び活性材料の質量負荷の面で、カソード又はアノード活性材料の設計及び選択に際して同時に考慮しなければならない幾つかの相反する因子がある。これまでのところ、これらのしばしば相反する問題に対して任意の先行技術の教示によって提供されている有効な解決策は存在していない。本明細書に開示されるように、本発明者らは、リチウム電池又はナトリウム電池を製造する新規の方法を開発することによって、電池設計者及びまた電気化学者を30年超にわたって悩ませてきたこれらの難題を解決した。
【0053】
従来技術のリチウム電池セルは、典型的には、以下のステップを含む方法によって製造される:(a)第1のステップは、アノード活性材料(例えば、Siナノ粒子又はメソカーボンマイクロビーズ、MCMB)、導電性フィラー(例えば、黒鉛フレーク)、及び樹脂粘結剤(例えば、PVDF)の粒子を溶媒(例えば、NMP)中で混合して、アノードスラリを形成することである。それとは別に、カソード活性材料(例えば、LFP粒子)、導電性フィラー(例えば、アセチレンブラック)、及び樹脂粘結剤(例えば、PVDF)の粒子を溶媒(例えば、NMP)中で混合して分散させて、カソードスラリを形成する。(b)第2のステップは、アノード集電体(例えば、Cu箔)の一方又は両方の主面にアノードスラリをコーティングし、溶媒(例えば、NMP)を蒸発させることによってコーティングされた層を乾燥させて、Cu箔上にコーティングされた乾燥アノード電極を形成することである。同様に、カソードスラリをコーティングして乾燥させて、Al箔上にコーティングされた乾燥カソード電極を形成する。実際の製造状況では、スラリーコーティングは通常、ロールツーロール方式で行われる;(c)第3のステップは、アノード/Cu箔シート、多孔質セパレータ層、及びカソード/Al箔シートを積層し合わせて、3層又は5層アセンブリを形成し、これを所望のサイズに切断して又は細く裂いて積層し、(形状の一例として)矩形の構造を形成するか、又は巻いて円筒形のセル構造にすることを含む。(d)次いで、矩形又は円筒形の積層構造を、アルミニウムプラスチック積層エンベロープ又はスチールケーシングに収容する。(e)次いで、液体電解質を積層構造に注入して、リチウム電池セルを製造する。
【0054】
方法及び結果として得られるリチウム電池セルに関連する幾つかの重大な問題がある。
1)200μmよりも厚い電極層(アノード層又はカソード層)を製造することは非常に難しい。その理由は幾つかある。厚さ100~200μmの電極は、典型的には、スラリーコーティング施設において長さ30~50メートルの加熱区域を必要とし、これは、時間がかかりすぎ、エネルギーを消費しすぎ、費用対効果が良くない。金属酸化物粒子など幾つかの電極活性材料に関しては、100μmよりも厚い良好な構造的完全性を備える電極を実際の製造環境で連続的に製造することはできていない。得られる電極は、非常に壊れやすくて脆い。より厚い電極は、層間剥離及び割れが生じる傾向が高い。
2)
図1(A)に示されるような従来の方法では、電極の実際の質量負荷、及び活性材料に関する見掛けの密度は、200Wh/kgを超える重量エネルギー密度を実現するには低すぎる。大抵は、比較的大きい黒鉛粒子に関してさえ、電極のアノード活性材料質量負荷(面密度)は25mg/cm
2よりもかなり低く、活性材料の見掛けの体積密度又はタップ密度は典型的には1.2g/cm
3未満である。電極のカソード活性材料質量負荷(面密度)は、リチウム金属酸化物系の無機材料に関しては45mg/cm
2よりも実質的に低く、有機又はポリマー材料に関しては15mg/cm
2よりも実質的に低い。さらに、電池容量に寄与せずに電極に追加の重量及び体積を加える非常に多くの他の非活性材料(例えば、導電性添加剤及び樹脂粘結剤)が存在する。これらの低い面密度及び低い体積密度は、比較的低い重量エネルギー密度及び低い体積エネルギー密度をもたらす。
3)従来の方法は、電極活性材料(アノード活性材料及びカソード活性材料)を液体溶媒(例えば、NMP)中で分散させてスラリにする必要があり、集電体表面にコーティングした後に液体溶媒を除去して電極層を乾燥させなければならない。アノード及びカソード層をセパレータ層と共に積層し合わせて、ハウジング内にパッケージングして電池セルを形成した後、セル内に液体電解質を注入する。実際には、2つの電極を濡らし、次いで電極を乾燥させ、最後に再び濡らす。そのような乾燥-湿潤-乾燥-湿潤プロセスは、全く良好なプロセスではない。
4)現在のリチウムイオン電池は、重量エネルギー密度が比較的低く、体積エネルギー密度が低いという欠点が依然としてある。市販のリチウムイオン電池は、約150~220Wh/kgの重量エネルギー密度及び450~600Wh/Lの体積エネルギー密度を示す。
【0055】
文献では、活性材料重量のみ又は電極重量に基づいて報告されたエネルギー密度データから、実用的な電池セル又はデバイスのエネルギー密度を直接導くことはできない。「オーバーヘッド重量」、すなわち他のデバイス構成要素(粘結剤、導電性添加剤、集電体、セパレータ、電解質、及びパッケージング)の重量も考慮に入れる必要がある。従来の製造方法では、リチウムイオン電池中のアノード活性材料(例えば黒鉛又は炭素)の重量比は典型的には12%~17%となり、カソード活性材料の重量比は20%~35%(LiMn2O4などの無機の場合)又は7~15%(有機又はポリマーカソード材料の場合)となる。
【0056】
本発明は、大きな電極厚さ、高い活性材料質量負荷、低いオーバーヘッド重量及び体積、高い容量、並びに高いエネルギー密度を有するリチウム硫黄電池又は室温ナトリウム-硫黄電池セルを提供する。ある実施形態では、本発明は:(a)約30体積%~約95体積%のカソード活性材料(硫黄、金属-硫黄化合物、硫黄-炭素複合物、硫黄-グラフェン複合物、硫黄-黒鉛複合物、有機硫黄化合物、硫黄-ポリマー複合物、又はそれらの組合せから選択される硫黄含有カソード活性材料を含む)と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含む約5体積%~約40体積%の第1の電解質と、約0.01体積%~約30体積%の伝導性添加剤とを含む擬固体ポリマーカソードにおいて、擬固体電極が約10-6S/cm~約300S/cm(より高くなり得る)の電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成する擬固体ポリマーカソードと;(b)アノード(従来のアノード又は擬固体電極であってよい)と;(c)アノードと擬固体カソードとの間に配置されたイオン伝導膜又は多孔質のセパレータと、を含むアルカリ金属セルにおいて;上記擬固体カソードが200μm以上の厚さを有するアルカリ金属セルを提供する。擬固体カソードは、好ましくは10mg/cm2以上、好ましくは15mg/cm2以上、さらに好ましくは25mg/cm2以上、より好ましくは35mg/cm2以上、さらにより好ましくは45mg/cm2以上、最も好ましくは65mg/cm2を超えるカソード活性材料質量負荷を有する。
【0057】
このセル中、アノードはまた、約30体積%~約95体積%のアノード活性材料と、溶媒中に溶解したアルカリ塩を含む約5体積%~約40体積%の第2の電解質と、約0.01体積%~約30体積%の伝導性添加剤とを含み、擬固体ポリマーを含まないアノードを含むことができ、擬固体電極が約10-6S/cm~約300S/cmの電気伝導率を有するように、伝導性フィラメントを含む上記伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成し;上記擬固体アノードは200μm以上の厚さを有する。擬固体アノードは、好ましくは10mg/cm2以上、好ましくは15mg/cm2以上、さらに好ましくは25mg/cm2以上、より好ましくは35mg/cm2以上、さらにより好ましくは45mg/cm2以上、最も好ましくは65mg/cm2を超えるアノード活性材料質量負荷を有する。第1の電解質は第2の電解質と組成及び構造が同じ場合も異なる場合もあり得る。
【0058】
幾つかの実施形態では、アルカリ金属電池は、擬固体アノードを含むが、従来のカソードを含む。しかし、好ましくは、カソードも擬固体電極である。
【0059】
本発明は、アルカリ金属電池の製造方法も提供する。ある実施形態では、この方法は:
(a)ある量の活性材料(アノード活性材料又はカソード活性材料)と、ある量の擬固体電解質(好ましくは2.5M~14Mの塩濃度を有する、溶媒中に溶解したアルカリ金属塩を含む)と、伝導性添加剤とを組み合わせて、変形可能で及び電気伝導性の電極材料を形成するステップにおいて、伝導性フィラメントを含む伝導性添加剤が電子伝導経路の3Dネットワークを形成するステップと;(活性材料の粒子及び電解質と混合される前は、カーボンナノチューブ及びグラフェンシートなどのこれらの伝導性フィラメントは、不規則に凝集したフィラメントの集合体である。混合手順は、活性材料の粒子を含む高粘稠性電解質中にこれらの伝導性フィラメントを分散させることを伴う。これについては後の項でさらに議論される)
(b)上記電極材料から擬固体電極を形成するステップにおいて、この形成ステップが、電極が10-6S/cm以上(好ましくは10-5S/cm以上、より好ましくは10-4S/cm以上、さらに好ましくは10-3S/cm以上、さらにより好ましく典型的には10-2S/cm以上、さらにより典型的で好ましくは10-1S/cm以上、さらにより典型的で好ましくは1S/cm以上であり;最大300S/cmが観察された)の電気伝導率を維持するように、電子伝導経路の3Dネットワークを中断することなく電極材料を電極形状に変形させることを含むステップと;
(c)第2の電極(第2の電極は、擬固体電極又は従来の電極であってよい)を形成するステップと;
(d)2つの電極の間にイオン伝導性セパレータが配置されるように、擬固体電極と第2の電極とを組み合わせることによってアルカリ金属セルを形成するステップと、
を含む。
【0060】
図1(C)中に示されるように、本発明の好ましい一実施形態は、伝導性擬固体アノード236と、伝導性擬固体カソード238(硫黄含有カソード活性材料を含む)と、アノードとカソードとを電子的に分離する多孔質セパレータ240(又はイオン透過膜)とを有するアルカリイオン硫黄セルである。これら3つの構成要素は、典型的には保護ハウジング(図示せず)中に入れられ、この保護ハウジングは、典型的にはアノードに接続されたアノードタブ(端子)、及びカソードに接続されたカソードタブ(端子)を有する。これらのタブは、外部負荷(例えば電池によって電力が供給される電子デバイス)に接続するためのものである。この特定の実施形態では、擬固体ポリマーアノード236は、アノード活性材料(例えばLi、Si、又はハードカーボンの粒子、
図1(C)中には示されていない)と、電解質相(典型的には溶媒中に溶解したリチウム塩又はナトリウム塩を含む);これも
図1(C)中には示されていない)と、電子伝導経路の3Dネットワーク244を形成する伝導性添加剤(伝導性フィラメントを含む)とを含む。同様に、擬固体カソードは、硫黄含有カソード活性材料と、電解質と、電子伝導経路の3Dネットワーク242を形成する伝導性添加剤(伝導性フィラメントを含む)とを含む。
【0061】
本発明の別の好ましい一実施形態は、
図1(D)中に示されるように、集電体280(例えばCu箔)に堆積され/取り付けられたリチウム又はナトリウム金属被覆/箔282から構成されるアノードと、擬固体カソード284と、セパレータ又はイオン伝導膜282とを有するアルカリ金属-硫黄セルである。擬固体カソード284は、カソード活性材料272(例えば、S又はリチウムポリスルフィドを含浸させた多孔質炭素粒子、又はグラフェンシート上に担持されたSを含む複合粒子)と、電解質相274(典型的には溶媒中に溶解したリチウム塩又はナトリウム塩を含む)と、電子伝導経路の3Dネットワーク270を形成する伝導性添加剤相(伝導性フィラメントを含む)とを含む。
【0062】
電解質は好ましくは、1.5M以上、好ましくは2.5Mを超え、より好ましくは3.5Mを超え、さらに好ましくは5Mを超え、さらにより好ましくは7Mを超え、さらにより好ましくは10Mを超える塩濃度で溶媒中に溶解したリチウム塩又はナトリウム塩を含む擬固体電解質である。ある実施形態では、電解質は、3.0M~14Mの塩濃度で液体溶媒中に溶解したリチウム塩又はナトリウム塩を含む擬固体電解質である。リチウム塩若しくはナトリウム塩及び溶媒の選択は、以下の項で詳細に議論される。
【0063】
擬固体アノード及び擬固体カソードの両方は、厚さが好ましくは200μmを超える(好ましくは300μmを超え、より好ましくは400μmを超え、さらに好ましくは500μmを超え、さらにより好ましくは800μmを超え、さらに好ましくは1mmを超え、5mmを超えることができ、1cmを超えることができ、又はより厚くなることができる。本発明による電極厚さに対する理論的制限はない。本発明によるセルでは、アノード活性材料は、典型的にはアノード中で10mg/cm2以上(より典型的で好ましくは20mg/cm2以上、より好ましくは30mg/cm2以上)の電極活性材料負荷を構成する。カソード活性材料は、カソード活性材料としての無機材料の場合45mg/cm2以上(典型的で好ましくは50mg/cm2を超え、より好ましくは60mg/cm2を超える)(有機又はポリマーのカソード活性材料の場合25mg/cm2以上)の電極活性材料質量負荷を構成する。
【0064】
このような構成(
図1(C)~
図1(D))においては、電子は、電子伝導経路の3Dネットワークを構成し、擬固体電極(アノード又はカソード)全体にわたってあらゆるところに存在する伝導性フィラメントによって集められる前に、短距離(例えば数マイクロメートル以下)のみの移動が必要となる。さらに、全ての電極活性材料粒子は電解質溶媒中にあらかじめ分散し(ぬれ性の問題がない)、湿式コーティング、乾燥、パッキング、及び電解質注入の従来方法によって作製される電極中に一般に存在する乾燥ポケットが存在しなくなる。したがって、本発明によるプロセス又は方法は、従来の電池セル製造法に勝る全く予想外の利点を有する。
【0065】
活性材料の粒子及び電解質と混合される前、これらの伝導性フィラメント(カーボンナノチューブ及びグラフェンシートなど)は、供給された状態では、本来は不規則に凝集したフィラメントの集合体である。混合手順は、活性材料の粒子を含む高粘稠性固体状電解質中にこれらの伝導性フィラメントを分散させることを伴うことができる。これは考えられるようなありふれた作業ではない。ナノ材料(特に、ナノフィラメント材料、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、及びグラフェンシート)の高流動性(非粘稠)液体中の分散は困難であることがよく知られており、高負荷の活性材料(例えば固体粒子、例えば、アノードのSiナノ粒子、及びカソードのコバルト酸リチウム)を含有する電解質などの高粘稠性擬固体中ではなおさらである。この問題は、幾つかの好ましい実施形態では、電解質自体が、溶媒中に高濃度のリチウム塩若しくはナトリウム塩及びポリマーを含む擬固体電解質であるという考えによってさらに悪化する。
【0066】
本発明のある実施形態では、以下のステップの順序を用いることによって、電極層の形成を実現することができる:
順序1(S1):最初に、リチウム塩又はナトリウム塩(例えばLiBF4)とイオン伝導性ポリマー(例えばPEO)とをPC及びDOLの混合物中に溶解させて、所望の全塩/ポリマー濃度を有する電解質を形成することができる。次に、伝導性フィラメント(例えばカーボンナノファイバ、還元酸化グラフェンシート、又はCNT)をこの電解質中に分散させることで、フィラメント-電解質懸濁液が形成される。均一な分散体の形成を促進するために機械的剪断を使用することができる。(このフィラメント-電解質懸濁液は1.0Mの低い塩濃度でさえも非常に粘稠性である)。次に、カソード活性材料の粒子(例えばS/炭素複合粒子)をフィラメント-電解質懸濁液中に分散させることで、擬固体電極材料が形成される。
【0067】
順序2(S2):最初に、リチウム塩又はナトリウム塩をPC及びDOLの混合物中に溶解させることで、所望の塩濃度を有する電解質が形成される。次に、カソード活性材料の粒子をこの電解質中に分散させることで、活性粒子-電解質懸濁液が形成される。均一な分散体の形成を促進するために機械的剪断を使用することができる。次に伝導性フィラメントを活性粒子-電解質懸濁液中に分散させることで、擬固体電極材料が形成される。
【0068】
順序3(S3):これは好ましい順序の1つである。最初に、所望の量の伝導性フィラメントを、リチウム塩が溶解していない液体溶媒混合物(例えばPC+DOL)中に分散させる。溶媒中の伝導性フィラメントの均一な懸濁液の形成を促進するために機械的剪断を使用することができる。次に、リチウム塩又はナトリウム塩をこの懸濁液中に加え、懸濁液の溶媒混合物中に塩を溶解させることで、所望の全塩/ポリマー濃度を有する電解質が形成される。同時に、又はこれに続いて、活性材料粒子を上記電解質中に分散させることで、変形可能な擬固体電極材料が形成され、これは擬固体電解質(液体電解質ではなく固体電解質でもない)中に分散した活性材料粒子及び伝導性フィラメントから構成される。この擬固体電極材料中で、伝導性フィラメントが浸透して電子伝導経路の3Dネットワークが形成される。電極材料が電池の電極に成形されるときに、この3D伝導性ネットワークは維持される。
【0069】
幾つかの好ましい実施形態では、電解質が、0.01kPa未満又は溶媒単独の蒸気圧の0.6(60%)未満の蒸気圧を示し(20℃で測定される場合)、第1の有機液体溶媒単独(リチウム塩が存在しない場合)の引火点よりも少なくとも20℃高い引火点を示す、150℃を超える引火点を示す、又は検出可能な引火点を全く示さないために十分高いアルカリ金属塩濃度で有機又はイオン液体溶媒中に溶解したアルカリ金属塩(リチウム塩及び/又はナトリウム塩)を電解質が含む。
【0070】
最も驚くべきことで大きな科学的及び技術的重要性は、揮発性有機溶媒の引火性は、十分多い量のアルカリ金属塩をこの有機溶媒中に加えて溶解させて固体状又は擬固体の電解質を形成するのであれば、効果的に抑制できるという本発明者らの発見である。一般に、このような擬固体電解質は、0.01kPa未満、多くの場合0.001kPa未満(20℃で測定した場合)、及び0.1kPa未満、多くの場合0.01kPa未満(100℃で測定した場合)の蒸気圧を示す(アルカリ金属塩が溶解していない対応するニートの溶媒の蒸気圧は、典型的にははるかに高くなる)。擬固体電解質を特徴とする多くの場合、気体分子は実際には少なすぎて検出されない。
【0071】
非常に重要な観察の1つは、他の場合には高い揮発性の溶媒に対するアルカリ金属塩の高い溶解性(アルカリ金属塩の大きな分子比又はモル分率、典型的には>0.2、より典型的には>0.3、多くの場合>0.4、又はさらには>0.5)によって、熱力学的平衡条件の気相中に逃れることができる揮発性溶媒分子の量を大幅に減少可能なことである。多くの場合、これによって、非常に高い温度(例えばトーチの使用)においてさえも引火性溶媒の気体分子が火炎を生じるのが効果的に防止される。擬固体ポリマー電解質の引火点は、ニートの有機溶媒単独の引火点よりも、典型的には少なくとも20度(多くの場合>50度又は>100度)高い。ほとんどの場合、引火点が150℃を超えるか、引火点を検出できないかのいずれかである。この電解質は全く火がつかない。さらに、偶発的に発生したあらゆる火炎は数秒を超えて持続することがない。火災及び爆発の問題が電池式の電気自動車の広範な受け入れに対する主要な障害となっていたことを考慮すると、これは非常に大きな発見である。この新しい技術は、活気のあるEV産業の出現を促進するのに非常に役立ち得る。
【0072】
安全性を考慮するための超高濃度電池電解質(高い分子分率、例えば>0.2又は>0.3のアルカリ金属塩、又はおおよそ>2.5M又は3.5Mの塩濃度を有する)の蒸気圧に関して報告されている従来の研究は存在しない。これはまさに予期せぬことであり、最も技術的及び科学的に重要なことである。
【0073】
本発明者らは、伝導性ナノフィラメントによって構成される電子伝導経路の3Dネットワークの存在が、臨界蒸気圧の抑制を実現するために必要なアルカリ金属塩の閾値濃度をさらに低下させる働きをするというさらに予期せぬ発見をした。
【0074】
本発明の別の驚くべき要素の1つは、本発明者らは、充電式アルカリ金属電池中での使用に適切な擬固体電解質を形成するために、高濃度のアルカリ金属塩をほぼあらゆる種類の一般に使用される電池グレードの有機溶媒中に溶解させることができると考えていることである。より容易に理解できる用語で表現すると、この濃度は、典型的には2.5M(モル/リットル)を超え、より典型的で好ましくは3.5Mを超え、さらにより典型的で好ましくは5Mを超え、さらにより好ましくは7Mを超え、最も好ましくは10Mを超える。2.5M以上の塩濃度では、電解質はもはや液体電解質ではなく、むしろこれは擬固体電解質である。リチウム電池又はナトリウム電池の分野では、溶媒中のこのような高濃度のアルカリ金属塩は、一般に不可能又は望ましくないと考えられてきた。しかし本発明者らは、顕著に改善された安全性(不燃性)、改善されたエネルギー密度、及び改善された電力密度から、これらの擬固体電解質がリチウム電池及びナトリウム電池の両方で驚くほど良好な電解質となることを見出した。
【0075】
前述の議論のような不燃性及び高いアルカリ金属イオン輸率に加えて、本発明による擬固体電解質の使用に関連する幾つかのさらなる利点が存在する。一例として、擬固体電解質は、少なくともアノード中に使用される場合は、おそらくは以下の理由でデンドライトの成長が効果的に抑制されることによって充電式アルカリ金属-硫黄電池のサイクル性能及び安全性能を顕著に向上させることができる:
1)めっきが起こる電極の近傍でアニオンが欠乏すると、非水性液体電解質中でデンドライトが成長し始めることが一般に認められている。超高濃度電解質中では、カチオン(Li+又はNa+)と、金属リチウム又はナトリウムのアノードの近くのアニオンとのバランスを維持するための大量のアニオンが存在する。
2)さらに、アニオンの欠乏によって生じる空間電荷が最小限となり、これはデンドライトの成長の原因とはならない。
3)伝導性フィラメントによって構成される電子伝導経路の3Dネットワークの存在によって、より均一な電界がアノード中に形成されて、より均一なリチウム又はナトリウムの堆積が促進される。
4)さらに、超高Li又はNa塩濃度と高Liイオン又はNaイオン輸率との両方のために、擬固体電解質によって、多量の利用可能なリチウムイオン又はナトリウムイオン流束が供給され、電解質とリチウム電極又はナトリウム電極との間のリチウムイオン又はナトリウムイオンの物質移動速度が上昇し、それによって充電/放電プロセス中のリチウム又はナトリウムの堆積均一性と溶解とが向上する。
5)さらに、高濃度によって生じる局所的な高粘度によって、電解質からの圧力が上昇してデンドライトの成長が阻害され、場合によりアノード表面上により均一な堆積が行われる。高粘度であることによって、堆積領域付近のアニオンの対流も制限することができ、ナトリウムイオンのより均一な堆積を促進することができる。同じ推論がリチウム金属電池にも適用可能である。
【0076】
これらの理由は、別々に又は組合せで、本発明者らがこれまで研究してきた多数の充電式アルカリ金属-硫黄セルのいずれにおいてもデンドライト状の特徴が観察されていないことと関与していると考えられる。
【0077】
さらに、化学又は材料科学の分野の当業者は、このような高い塩濃度では、電解質は非常に高い粘度で固体のように挙動するはずであり、したがって、この電解質は内部でのアルカリ金属イオンの迅速な拡散には適していないはずであると予想していた。その結果、当業者は、このような固体状電解質を含むアルカリ金属電池は、高い充電-放電率において、又は高電流密度条件下で高い容量を示さず、示すことができない(すなわち電池は不十分なレート能力を有するはずである)と予想していた。当技術分野において通常の技能又はさらには非常に高い技能を有する人によるこれらの予想とは逆に、このような擬固体電解質を含む全てのアルカリ金属-硫黄セルでは、長いサイクル寿命で高いエネルギー密度及び高い電力密度が得られる。本発明による本明細書に開示される擬固体電解質では、アルカリ金属イオンの移動が容易になると思われる。この驚くべき観察は2つの主要な要因によるものと思われ:一方は電解質の内部構造に関連し、他方は高いNa+又はLi+イオン輸率(TN)に関連する。
【0078】
理論によって束縛しようと望むものではないが、
図2(A)~
図3(C)を参照することによって、3つの本質的に異なる種類の電解質の内部構造を視覚化することができる。
図2(A)は、典型的な固体電解質の密接に充填された高秩序構造を概略的に示しており、アルカリ金属イオンの拡散のための自由体積がわずかに存在する。このような結晶構造中の任意のイオンの移動は非常に困難であり、非常に低い拡散係数(10
-16~10
-12cm
2/秒)及び非常に低いイオン伝導率(典型的には10
-7S/cm~10
-4S/cm)が得られる。対照的に、
図2(B)中に概略的に示されるように、液体電解質の内部構造は、全体的に非晶質であり、高い比率の自由体積を有し、それを通ってカチオン(例えば又はLi
+又はNa
+)が容易に移動することができ、それによって高い拡散係数(10
-8~10
-6cm
2/秒)及び高いイオン伝導率(典型的には10
-3S/cm~10
-2S/cm)を得ることができる。しかし、低濃度のアルカリ金属塩を含む液体電解質は、引火性であり、デンドライトが形成されやすく、火災及び爆発の危険性が生じる。
図2(C)には、遊離の(クラスター化していない)カチオンが容易に移動する非晶質ゾーンを形成するために塩種を分離する溶媒分子を有する擬固体電解質の不規則又は非晶質の構造が概略的に示されている。このような構造は、高いイオン伝導率値の実現に適しており(典型的には10
-4S/cm~8×10
-3S/cm)、さらに依然として不燃性が維持される。比較的少ない溶媒分子が存在し、これらの分子は、圧倒的多数の塩種、ポリマー鎖セグメント、及び伝導性フィラメントのネットワークによって保持される(蒸発が防止される)。
【0079】
本発明によるLi-Sセル又はNa-Sセルでは、アノードは典型的には、集電体(例えばCu箔又は3Dグラフェンナノ構造)の上に堆積された金属箔、薄膜、又は薄いコーティング(<50μmの厚さ)の形態のLi金属又はNa金属を含む。
【0080】
幾つかの実施形態では、アノード活性材料は、純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、又はそれらの組合せから選択されるプレリチウム化された又はプレナトリウム化されたバージョンのグラフェンシートである。上記のグラフェン材料の任意の1つを製造するための出発グラフェン材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズカーボン、メソフェーズピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、コークス、炭素繊維、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、又はそれらの組合せから選択することができる。グラフェン材料は、リチウム電池のアノード活性材料とカソード活性材料の両方のための良好な導電性添加剤でもある。
【0081】
面間ファンデルワールス力を克服することができると仮定して、天然又は人造黒鉛粒子中の黒鉛結晶の構成グラフェン面を剥離し、抽出又は単離して、六角形を成す炭素原子の個々のグラフェンシートを得ることができ、これらのシートは単原子厚である。炭素原子の単離された個々のグラフェン面は、一般に、単層グラフェンと呼ばれる。厚さ方向で約0.3354nmのグラフェン面間隔でファンデルワールス力によって結合された複数のグラフェン面の積層は、一般に多層グラフェンと呼ばれる。多層グラフェンプレートレットは、最大300層のグラフェン面(100nm未満の厚さ)、しかしより典型的には最大30層のグラフェン面(10nm未満の厚さ)、さらにより典型的には最大20層のグラフェン面(7nm未満の厚さ)、及び最も典型的には最大10層のグラフェン面(科学界では一般に数層グラフェンと呼ばれる)を有する。単層グラフェン及び多層グラフェンシートは、総称して「ナノグラフェンプレートレット」(NGP)と呼ばれる。グラフェンシート/プレートレット(総称してNGP)は、0Dフラーレン、1D CNT又はCNF、及び3D黒鉛とは異なる新しいクラスのカーボンナノ材料(2Dナノカーボン)である。特許請求の範囲を定義する目的で、また当技術分野で一般に理解されるように、グラフェン材料(単離されたグラフェンシート)は、カーボンナノチューブ(CNT)又はカーボンナノファイバ(CNF)ではない(それらを含まない)。
【0082】
1つの方法では、
図5に示されるように、グラフェン材料は、天然黒鉛粒子を強酸及び/又は酸化剤でインターカレーションして黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は酸化黒鉛(GO)を得ることによって得られる。GIC又はGO中のグラフェン面間の間隙空間に化学種又は官能基が存在することが、グラフェン間隔(d
002;X線回折によって決定される)を増加させる働きをし、それにより、通常であればc軸方向に沿ってグラフェン面を一体に保持するファンデルワールス力を大幅に減少させる。GIC又はGOは、硫酸、硝酸(酸化剤)、及び別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム又は過塩素酸ナトリウム)の混合物中に天然黒鉛粉末を浸漬することによって生成されることが最も多い。インターカレーション手順中に酸化剤が存在する場合、得られるGICは、実際には、ある種の酸化黒鉛(GO)粒子である。次いで、このGIC又はGOを繰り返し洗浄し、水中ですすいで余剰の酸を除去すると、酸化黒鉛懸濁液又は分散液が得られ、これは、水中に分散された、離散した視覚的に区別可能な酸化黒鉛粒子を含む。グラフェン材料を製造するために、このすすぎステップ後に2つの処理ルートの一方をたどることができ、以下に簡単に説明する。
【0083】
ルート1は、本質的に乾燥GIC又は乾燥酸化黒鉛粒子の塊である「膨張黒鉛」を得るために懸濁液から水を除去することを含む。膨張黒鉛を典型的には800~1,050℃の範囲内の温度に約30秒~2分間曝すと、GICは、30~300倍に急速に体積膨張して、「黒鉛ワーム」を形成する。黒鉛ワーム(104)はそれぞれ、剥離されてはいるがほとんど分離されておらず、相互接続されたままの黒鉛フレークの集合である。
【0084】
ルート1Aでは、これらの黒鉛ワーム(剥離された黒鉛又は「相互接続された/分離されていない黒鉛フレークのネットワーク」)を再び圧縮して、典型的には0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲内の厚さを有する可撓性黒鉛シート又は箔を得ることができる。代替として、100nmよりも厚い(したがって定義によりナノ材料ではない)黒鉛フレーク又はプレートレットを主として含むいわゆる「膨張黒鉛フレーク」を製造する目的で、低強度エアミル又はせん断機を使用して黒鉛ワームを単に破砕することを選択することもできる。
【0085】
ルート1Bでは、同一出願人の米国特許出願第10/858,814号明細書(2004年3月6日)(米国特許出願公開第2005/0271574号明細書)に開示されているように、剥離された黒鉛は、(例えば、超音波装置、高せん断ミキサ、高強度エアジェットミル、又は高エネルギーボールミルを使用した)高強度の機械的せん断を受けて、分離された単層及び多層グラフェンシート(総称してNGPと呼ぶ)を形成する。単層グラフェンが0.34nmの薄さであり得る一方、多層グラフェンは、最大100nm、しかしより典型的には10nm未満の厚さを有することがある(一般に数層グラフェンと呼ばれる)。複数のグラフェンシート又はプレートレットが、製紙法を使用して1枚のNGP紙として形成されることがある。このNGP紙は、本発明による方法で利用される多孔質グラフェン構造層の一例である。
【0086】
ルート2は、個々の酸化グラフェンシートを酸化黒鉛粒子から分離/単離する目的で、酸化黒鉛懸濁液(例えば、水中に分散された酸化黒鉛粒子)を超音波処理することを含む。これは、グラフェン面の離間距離が天然黒鉛での0.3354nmから高度に酸化された酸化黒鉛での0.6~1.1nmに増加されており、隣接する面を一体に保持するファンデルワールス力を大幅に弱めるという見解に基づいている。超音波出力は、完全に分離された、単離された、又は離散した酸化グラフェン(GO)シートを形成するために、グラフェン面シートをさらに分離するのに十分なものでよい。次いで、これらの酸化グラフェンシートを化学的又は熱的に還元して、「還元酸化グラフェン」(RGO)を得ることができ、これは、典型的には、0.001重量%~10重量%、より典型的には0.01重量%~5重量%の酸素含有量を有し、最も典型的には且つ好ましくは2重量%未満の酸素を含む。
【0087】
本出願の特許請求の範囲を定義する目的で、NGP又はグラフェン材料は、単層及び多層(典型的には10層未満)の純粋なグラフェン、酸化グラフェン、還元酸化グラフェン(RGO)、フッ化グラフェン、塩化グラフェン、臭化グラフェン、ヨウ化グラフェン、水素化グラフェン、窒素化グラフェン、化学官能化グラフェン、ドープされた(例えば、B又はNをドープされた)グラフェンの離散シート/プレートレットを含む。純粋なグラフェンは、本質的に0%の酸素を有する。RGOは、典型的には0.001重量%~5重量%の酸素含有量を有する。酸化グラフェン(RGOを含む)は、0.001重量%~50重量%の酸素を有することができる。純粋なグラフェンを除き、全てのグラフェン材料が、非炭素元素(例えば、O、H、N、B、F、Cl、Br、Iなど)を0.001重量%~50重量%含む。本明細書では、これらの材料を不純グラフェン材料と呼ぶ。
【0088】
純粋なグラフェンは、より小さい離散グラフェンシート(典型的には0.3μm~10μm)として、黒鉛粒子の直接超音波処理(液相剥離又は生成としても知られている)又は超臨界流体剥離によって製造することができる。これらの方法は、当技術分野でよく知られている。
【0089】
酸化グラフェン(GO)は、反応容器内で、ある期間(出発材料の性質及び使用される酸化剤のタイプに応じて典型的には0.5~96時間)にわたって所望の温度で、出発黒鉛材料の粉末又はフィラメント(例えば、天然黒鉛粉末)を酸化性液体媒体(例えば、硫酸、硝酸、及び過マンガン酸カリウムの混合物)中に浸漬することによって得ることができる。上述したように、次いで、得られた酸化黒鉛粒子に熱剥離又は超音波誘発剥離を施して、単離GOシートを生成することができる。次いで、これらのGOシートは、OH基を他の化学基(例えば、BrやNH2など)で置換することによって様々なグラフェン材料に変換することができる。
【0090】
本明細書では、ハロゲン化グラフェン材料群の一例として、フッ素化グラフェン又はフッ化グラフェンが使用される。フッ素化グラフェンを生成するために採用されている2つの異なる手法がある。(1)あらかじめ合成されたグラフェンのフッ素化:この手法は、機械的剥離又はCVD成長によって用意されたグラフェンをXeF2又はFベースのプラズマなどのフッ素化剤で処理することを必要とする。(2)多層フッ化黒鉛の剥離:フッ化黒鉛の機械的剥離と液相剥離の両方を容易に達成することができる。
【0091】
低温で黒鉛インターカレーション化合物(GIC)CxF(2≦x≦24)が生成されるのに対し、高温でのF2と黒鉛との相互作用は、共有結合性フッ化黒鉛(CF)n又は(C2F)nをもたらす。(CF)nでは、炭素原子はsp3混成であり、したがって、フルオロカーボン層は波形であり、トランスリンクされたシクロヘキサンのいす型立体配座からなる。(C2F)nでは、C原子の半分のみがフッ素化され、隣接する炭素シートの対はどれもC-C共有結合により結合される。フッ素化反応に関する系統的研究から、得られたF/C比が、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素の分圧、並びに黒鉛前駆体の物理的特性、例えば黒鉛化度、粒度、及び比表面積に大きく依存することが示された。フッ素(F2)に加え、他のフッ素化剤も使用することができるが、入手できる文献のほとんどは、時としてフッ化物の存在下で、F2ガスによるフッ素化を含む。
【0092】
層状の前駆体材料を個々の層又は数層の状態に剥離するためには、隣接する層間の引力を克服すること、及び層をさらに安定させることが必要である。これは、官能基によるグラフェン表面の共有結合修飾によって、又は特定の溶媒、界面活性剤、ポリマー、若しくはドナー-アクセプタ芳香族分子を使用する非共有結合修飾によって実現されることがある。液相剥離のプロセスは、液体媒体中のフッ化黒鉛の超音波処理を含む。
【0093】
グラフェンの窒素化は、酸化グラフェンなどのグラフェン材料を高温(200~400℃)でアンモニアに曝すことによって行うことができる。窒素化グラフェンは、水熱法によって、より低温で生成することもできる。これは、例えば、オートクレーブ内にGO及びアンモニアを封止し、次いで温度を150~250℃に上昇させることによって行われる。窒素ドープされたグラフェンを合成する他の方法は、グラフェンに対する窒素プラズマ処理、アンモニアの存在下での黒鉛電極間のアーク放電、CVD条件下での酸化グラフェンのアンモノリシス、及び様々な温度での酸化グラフェン及び尿素の水熱処理を含む。
【0094】
本発明の実施に使用できるアノード活性材料の種類に対する制限は存在しない。好ましくは、本発明によるリチウム-硫黄セルでは、電池が充電される場合、Li/Li+(すなわち標準電位としてのLi→Li++e-を基準として)よりも、1.0ボルト未満(好ましくは0.7ボルト未満)高い電気化学ポテンシャルにおいて、アノード活性材料はリチウムイオンを吸収する。好ましい一実施形態では、リチウム電池のアノード活性材料は:(a)リチウム金属又はリチウム金属合金の粒子;(b)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子(ソフトカーボン及びハードカーボンなど)、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;(c)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd);(d)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdと別の元素との合金又は金属間化合物において、化学量論的又は非化学量論的である上記合金又は化合物;(e)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにそれらの混合物又は複合物;(f)それらのプレリチウム化されたバージョン;(g)プレリチウム化されたグラフェンシート;並びにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0095】
ある実施形態では、アルカリ金属-硫黄セルはナトリウムイオン硫黄セルであり、活性材料は、石油コークス、カーボンブラック、非晶質炭素、活性炭、ハードカーボン(黒鉛化が困難な炭素)、ソフトカーボン(容易に黒鉛化可能な炭素)、鋳型炭素、中空炭素ナノワイヤ、中空炭素球、チタネート、NaTi2(PO4)3、Na2Ti3O7、Na2C8H4O4、Na2TP、NaxTiO2(x=0.2~1.0)、Na2C8H4O4、カルボキシレート系材料、C8H4Na2O4、C8H6O4、C8H5NaO4、C8Na2F4O4、C10H2Na4O8、C14H4O6、C14H4Na4O8、又はそれらの組合せから選択されるナトリウムインターカレーション化合物を含むアノード活性材料である。
【0096】
ある実施形態では、アルカリ金属-硫黄セルはナトリウム金属-硫黄セル又はナトリウムイオン硫黄セルであり、活性材料は:(a)ナトリウム金属又はナトリウム金属合金の粒子;(b)天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素粒子、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、炭素繊維、及び黒鉛繊維;(c)ナトリウムがドープされたケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びそれらの混合物;(d)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物のナトリウムを含有する合金又は金属間化合物;(e)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びそれらの混合物若しくは複合物のナトリウムを含有する酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物;(f)ナトリウム塩;並びに(g)ナトリウムイオンがあらかじめ充填されたグラフェンシート;並びにそれらの組合せからなる群から選択されるアノード活性材料である。
【0097】
本発明によるリチウム硫黄セル又はナトリウム-硫黄セルを実施するために、多種多様の硫黄ベースのカソード活性材料を使用することができる。このような硫黄含有カソード活性材料は、硫黄、金属-硫黄化合物(例えばリチウムポリスルフィド)、硫黄-炭素複合物(例えばボールミル粉砕によって作製したカーボンブラック-S複合物、又はSを含浸させた多孔質炭素粒子)、硫黄-グラフェン複合物、硫黄-黒鉛複合物、有機硫黄化合物、硫黄-ポリマー複合物、又はそれらの組合せから選択することができる。
【0098】
幾つかの実施形態では、カソード活性材料は、官能性材料又はナノ構造化材料によって担持された、又はそれらに結合した硫黄又は硫黄化合物から選択することができる。官能性材料又はナノ構造化材料は、(a)ソフトカーボン、ハードカーボン、ポリマー炭素若しくは炭化樹脂、メソフェーズカーボン、コークス、炭化ピッチ、カーボンブラック、活性炭、ナノ発泡(nanocellular)炭素発泡体、又は部分黒鉛化炭素から選択されるナノ構造化された又は多孔質の不規則な炭素材料;(b)単層グラフェンシート又は多層グラフェンプレートレットから選択されるナノグラフェンプレートレット;(c)単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブから選択されるカーボンナノチューブ;(d)カーボンナノファイバ、ナノワイヤ、金属酸化物ナノワイヤ若しくは繊維、伝導性ポリマーナノファイバ、又はそれらの組合せ;(e)カルボニル含有有機又はポリマー分子;(f)カルボニル基、カルボン酸基、又はアミン基を含む官能性材料;並びにそれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0099】
機能性材料又はナノ構造材料は、ポリ(2,5-ジヒドロキシ-1,4-ベンゾキノン-3,6-メチレン)、NaxC6O6(x=1~3)、Na2(C6H2O4)、Na2C8H4O4(テレフタル酸Na)、Na2C6H4O4(trans-trans-ムコン酸Na)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)スルフィドポリマー、PTCDA、1,4,5,8-ナフタレン-テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラヒドロキシアントラキノン(anthraquinon)、テトラヒドロキシ-p-ベンゾキノン、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。望ましくは機能性材料又はナノ構造材料は、-COOH、=O、-NH2、-OR、又は-COORから選択される官能基を有し、ここでRは炭化水素基である。
【0100】
単層又は数層(最大20層)の非グラフェン2Dナノ材料は、以下のような幾つかの方法によって製造することができる。機械的切断、レーザーアブレーション(例えば、レーザパルスを使用してTMDを単一層までアブレーションする)、液相剥離、及び薄膜技法の合成、例えば、PVD(例えば、スパッタリング)、蒸着、気相エピタキシ、液相エピタキシ、化学蒸着エピタキシ、分子線エピタキシ(MBE)、原子層エピタキシ(ALE)、及びそれらのプラズマ型。
【0101】
広範な電解質を本発明の実施に使用することができる。非水性有機及び/又はイオン液体電解質が最も好ましい。本明細書で採用される非水電解質は、電解質塩を非水溶媒に溶解することによって生成されることがある。リチウム二次電池の溶媒として採用されている任意の既知の非水溶媒を採用することができる。主として、炭酸エチレン(EC)と、上記炭酸エチレンよりも融点が低く、ドナー数が18以下の非水溶媒の少なくとも1種とを含む混合溶媒からなる非水溶媒(本明細書では以後、第2の溶媒と呼ぶ)を好ましくは採用することができる。この非水溶媒は、(a)黒鉛構造で良好に生じた炭質物を含む負電極に対して安定であり、(b)電解質の還元又は酸化分解を抑制するのに効果的であり、且つ(c)導電率が高いという利点がある。炭酸エチレン(EC)のみから構成される非水電解質は、黒鉛化炭質物による還元により、分解に対して比較的安定であるという利点がある。しかし、ECの融点は39~40℃と比較的高く、ECの粘度も比較的高く、そのためECの導電率は低く、したがって、EC単独では、室温以下で動作させる二次電池用電解質として使用するには不適切である。ECとの混合物中で使用される第2の溶媒は、溶媒混合物の粘度をEC単独の粘度よりも低くし、それにより混合溶媒のイオン導電率を高める働きをする。さらに、ドナー数が18以下(炭酸エチレンのドナー数は16.4)の第2の溶媒を用いると、上記炭酸エチレンを容易に且つ選択的にリチウムイオンで溶媒和することができ、したがって、十分に黒鉛化して生成された炭質物との第2の溶媒の還元反応は抑制されると仮定される。さらに、第2の溶媒のドナー数が18以下に制御されるとき、リチウム電極への酸化分解電位を4V以上に容易に上昇させることができ、それにより高電圧のリチウム二次電池を製造することが可能になる。
【0102】
好ましい第2の溶媒は、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、蟻酸プロピル(PF)、蟻酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、及び酢酸メチル(MA)である。これらの第2の溶媒は、単独で採用されても、2種以上の組合せで採用されてもよい。より望ましくは、この第2の溶媒は、16.5以下のドナー数を有するものから選択されるべきである。この第2の溶媒の粘度は、好ましくは、25℃で28cps以下にすべきである。
【0103】
混合溶媒中の上記炭酸エチレンの混合比は、好ましくは、10~80体積%にすべきである。炭酸エチレンの混合比がこの範囲外になる場合、溶媒の導電率が低下されることがあり、又は溶媒がより分解しやすくなる傾向があり、それにより充放電効率が悪化する。炭酸エチレンのより好ましい混合比は、20~75体積%である。非水溶媒中の炭酸エチレンの混合比が20体積%以上に増加されるとき、リチウムイオンに対する炭酸エチレンの溶媒和効果が促進され、溶媒分解抑制効果を向上させることができる。
【0104】
好ましい混合溶媒の例は、EC及びMECを含む組成物;EC、PC、及びMECを含む組成物;EC、MEC、及びDECを含む組成物;EC、MEC、及びDMCを含む組成物;並びにEC、MEC、PC、及びDECを含む組成物であり、MECの体積比は30~80%の範囲内で制御される。MECの体積比を30~80%、より好ましくは40~70%の範囲から選択することによって、溶媒の導電率を向上させることができる。溶媒の分解反応を抑制する目的で、二酸化炭素を溶解した電解質を採用し、それにより電池の容量とサイクル寿命の両方を効果的に改良することができる。非水電解質中に取り込まれる電解質塩は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、トリフルオロ-メタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]などのリチウム塩から選択されることがある。それらの中でも、LiPF6、LiBF4、及びLiN(CF3SO2)2が好ましい。非水性溶媒中の上記電解質塩の含有量は、好ましくは0.5~2.0mol/lである。
【0105】
ナトリウムセルの場合、電解質(不燃性擬固体電解質を含む)は、好ましくは過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF4)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(sodium trifluoro-metasulfonate)(NaCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CF3SO2)2)、イオン液体塩、又はそれらの組合せから選択されるナトリウム塩を含むことができる。
【0106】
イオン液体はイオンのみから構成されている。イオン液体は、所望の温度を超えたときには融解状態又は液体状態になる低融解温度の塩である。例えば、塩は、その融点が100℃未満である場合にイオン液体とみなされる。融解温度が室温(25℃)以下である場合、塩は室温イオン液体(RTIL)と呼ばれる。IL塩は、大きなカチオンと電荷非局在化アニオンとの組合せによる弱い相互作用によって特徴付けられる。これは、可撓性(アニオン)及び非対称性(カチオン)による結晶化の傾向を低減する。
【0107】
典型的なよく知られているイオン液体は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI)カチオンと、N,N-ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミド(TFSI)アニオンとの組合せによって形成される。この組合せにより、最大約300~400℃で、多くの有機電解質溶液と同等のイオン導電率、並びに低い分解性及び低い蒸気圧を有する流体が得られる。これは、一般に低い揮発性及び非引火性、したがって電池に関してはるかに安全な電解質を示唆する。
【0108】
イオン液体は、基本的には、多様な成分の調製が容易であることにより、本質的に無制限の数の構造変化を生じる有機イオンから構成される。したがって、様々な種類の塩を使用して、所与の用途に合わせて所望の特性を有するイオン液体を設計することができる。これらは、とりわけ、カチオンとしてのイミダゾリウム、ピロリジニウム、及び第四級アンモニウム塩と、アニオンとしてのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、及びヘキサフルオロホスフェートとを含む。それらの組成に基づいて、イオン液体は、基本的には非プロトン性型、プロトン性型、及び双性イオン型を含む異なるクラスに入り、それぞれが特定の用途に適している。
【0109】
室温イオン液体(RTIL)の一般的なカチオンとしては、限定はしないが、テトラアルキルアンモニウム、ジ-、トリ-、及びテトラ-アルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピロリジニウム、ジアルキルピペリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、並びにトリアルキルスルホニウムが挙げられる。RTILの一般的なアニオンとしては、限定はしないが、BF4
-、B(CN)4
-、CH3BF3
-、CH2CHBF3
-、CF3BF3
-、C2F5BF3
-、n-C3F7BF3
-、n-C4F9BF3
-、PF6
-、CF3CO2
-、CF3SO3
-、N(SO2CF3)2
-、N(COCF3)(SO2CF3)-、N(SO2F)2
-、N(CN)2
-、C(CN)3
-、SCN-、SeCN-、CuCl2
-、AlCl4
-、F(HF)2.3
-などが挙げられる。相対的に言えば、イミダゾリウム又はスルホニウムベースのカチオンと、AlCl4
-、BF4
-、CF3CO2
-、CF3SO3
-、NTf2
-、N(SO2F)2
-、又はF(HF)2.3
-などの錯体ハロゲン化物アニオンとの組合せが、良好な動作伝導率を有するRTILをもたらす。
【0110】
RTILは、高い固有のイオン導電率、高い熱安定性、低い揮発性、低い(実質的にゼロの)蒸気圧、非引火性、室温よりも上及び下の広い温度範囲で液体を維持する機能、高い極性、高い粘度、及び広い電気化学的窓など、典型的な特性を有することができる。高い粘度を除いて、これらの特性は、スーパーキャパシタにおける電解質成分(塩及び/又は溶媒)としてRTILを使用する際に望ましい特性である。
【0111】
以下では、本発明を実施する最良の形態を示すために、幾つかの異なるタイプのアノード活性材料、硫黄ベースのカソード活性材料、及びイオン伝導性ポリマーの幾つかの例を提供する。これらの例示的な実施例、並びに本明細書及び図面の他の箇所は、個別に又は組合せて、当業者が本発明を実施できるようにするのに十分すぎるものである。しかし、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0112】
実施例4:天然黒鉛粉末からの酸化グラフェン(GO)及び還元酸化グラフェン(RGO)ナノシートの調製
Huadong Graphite Co.(中国、青島)製の天然黒鉛を出発材料として使用した。よく知られているmodified Hummers法に従うことによってGOが得られた。この方法は、2つの酸化段階を含んでいた。典型的な手順において、以下の条件で第1の酸化を実現した。1100mgの黒鉛を1000mLの沸騰フラスコに入れた。次いで、K2S2O8、20gのP2O5、及び400mLの濃縮H2SO4水溶液(96%)をフラスコに加えた。混合物を還流下で6時間加熱し、次いで室温で20時間安置した。酸化黒鉛を濾過し、中性pHになるまで多量の蒸留水ですすいだ。この最初の酸化の終わりに、ウェットケーキ状物質が回収された。
【0113】
第2の酸化プロセスでは、前に収集されたウェットケーキを、69mLの濃縮H2SO4水溶液(96%)を含む沸騰フラスコに入れた。9gのKMnO4をゆっくりと加えながら、フラスコを氷浴内で保った。過熱を避けるように注意した。得られた混合物を35℃で2時間撹拌し(試料の色が暗い緑色に変わった)、続いて140mLの水を加えた。15分後、420mLの水及び15mLの30wt%H2O2水溶液を加えることによって反応を停止させた。この段階での試料の色は、明るい黄色に変わった。金属イオンを除去するために、混合物を濾過し、1:10HCl水溶液ですすいだ。収集した物質を2700gで穏やかに遠心分離し、脱イオン水ですすいだ。最終生成物は、乾燥抽出物から推定されるように、1.4wt%のGOを含むウェットケーキであった。その後、脱イオン水で希釈したウェットケーキ物質を軽く超音波処理することによって、GOプレートレットの液体分散液を得た。
【0114】
純水の代わりに界面活性剤水溶液でウェットケーキを希釈することによって、界面活性剤で安定化されたRGO(RGO-BS)を得た。Sigma Aldrichによって提供されているコール酸ナトリウム(50wt%)とデオキシコール酸ナトリウム(50wt%)の塩の市販の混合物を使用した。界面活性剤の重量画分は、0.5wt%であった。全ての試料に関してこの画分を一定に保った。13mmステップディストラクタホーンと、3mmテーパ付きマイクロチップとを備え、20kHzの周波数で動作するBranson Sonifier S-250Aを使用して超音波処理を行った。例えば、0.1wt%のGOを含む水溶液10mLを10分間超音波処理し、その後、2700gで30分間遠心分離して、溶解していない大きな粒子、凝集物、及び不純物を除去した。0.1wt%のGO水溶液10mLを50mL沸騰フラスコに入れることを含む方法に従うことによって、RGOを生成するために、上記のようにして得られたGOの化学的還元を行った。次いで、界面活性剤によって安定化させた混合物に、35wt%のN2H4(ヒドラジン)水溶液10μL及び28wt%のNH4OH(アンモニア)水溶液70mLを加えた。溶液を90℃に加熱し、1時間還流させた。反応後に測定されたpH値は約9だった。還元反応中、試料の色は暗黒色に変わった。
【0115】
本発明による幾つかのリチウム-硫黄電池では、アノード活性材料及びカソード活性材料のいずれか又は両方での導電性添加剤としてRGOを使用した。プレリチウム化RGO(例えばRGO+リチウム粒子、又はリチウムコーティングをあらかじめ堆積したRGO)も、選択されたリチウム-硫黄セルにおいてアノード活性材料として使用した。
【0116】
比較のために、従来の電極を製造するためにスラリーコーティング及び乾燥手順を行った。次いで、1つのアノード及び1つのカソードと、2つの電極間に配設されたセパレータとを組み立てて、Al-プラスチック積層パッケージングエンベロープ内に入れ、続いて液体電解質を注入して、従来技術のリチウム電池セルを形成した。
【0117】
実施例2:純粋なグラフェンのシート(本質的に、酸素0%)の調製
GOシート中の高欠陥集団が個々のグラフェン面の導電率を低下させるように作用する可能性を認識して、本発明者らは、純粋なグラフェンのシート(例えば、酸化されておらず、酸素を含まない、ハロゲン化されておらず、ハロゲンを含まない)を使用することで、高い導電率及び熱伝導率を有する導電性添加剤を得ることができるかどうか研究することにした。プレリチウム化された純粋なグラフェンも、アノード活性材料として使用した。直接超音波処理又は液相製造法を使用することによって、純粋なグラフェンのシートを製造した。
【0118】
典型的な手順では、約20μm以下のサイズに粉砕した5グラムの黒鉛フレークを1,000mLの脱イオン水(0.1重量%の分散剤を含む。DuPont社製のZonyl(登録商標)FSO)中に分散させて、懸濁液を得た。グラフェンシートの剥離、分離、及びサイズ減少のために、85Wの超音波エネルギーレベル(Branson S450 Ultrasonicator)を15分~2時間の期間にわたって使用した。得られたグラフェンシートは、一度も酸化されておらず、酸素を含まず、比較的欠陥のない純粋なグラフェンである。純粋なグラフェンは、非炭素元素を本質的に含まない。
【0119】
次に、発泡体の細孔中にスラリーを注入する本発明による手順と、従来のスラリーコーティング、乾燥、及び積層の手順との両方を用いて電池中に、伝導性添加剤としての純粋なグラフェンシートをアノード活性材料(又はカソード中のカソード活性材料)とともに組み込んだ。リチウムイオン硫黄電池とリチウム金属-硫黄電池との両方について調べた。
【0120】
実施例3:リチウムイオン電池のアノード活性材料としてのプレリチウム化フッ化グラフェンシートの調製
GFを製造するために本発明者らは数種類の方法を使用してきたが、例としてただ1つの方法を本明細書に記載する。典型的な手順の一つでは、インターカレート化合物С2F・xClF3から、大きく剥離された黒鉛(HEG)を調製した。HEGを三フッ化塩素の蒸気によってさらにフッ素化して、フッ素化された大きく剥離された黒鉛(FHEG)を得た。あらかじめ冷却したTeflon反応器に20~30mLの液体のあらかじめ冷却したClF3を入れ、反応器を閉じ、液体窒素温度まで冷却した。次に、ClF3ガスが通るための穴を有する容器中に1g以下のHEGを入れ、反応器内に配置した。7~10日間で、概略的な式がC2Fである灰色-ベージュ色の生成物が形成された。
【0121】
続いて、少量のFHEG(約0.5mg)を20~30mLの有機溶媒(別々に、メタノール及びエタノール)と混合し、超音波処理(280W)を30分間行って、均一な黄色がかった分散体を形成した。溶媒を除去すると、分散体は茶色がかった粉末になった。このフッ化グラフェン粉末を表面安定化されたリチウム粉末と液体電解質中で混合して、プレリチウム化を行った。
【0122】
実施例4:擬固体ポリマー電解質を形成するための好ましい塩、溶媒、及びポリマーの幾つかの例
好ましいナトリウム金属塩としては:過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF4)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(sodium trifluoro-metasulfonate)(NaCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CF3SO2)2)が挙げられる。選択された有機又はイオン液体溶媒中で十分に溶解する傾向があるリチウム塩の良好な選択は以下のものである:ホウフッ化リチウム(LiBF4)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(lithium trifluoro-metasulfonate)(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2又はLITFSI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF2C2O4)、及びビスパーフルオロエチスルホニルイミドリチウム(lithium bisperfluoroethy-sulfonylimide)(LiBETI)。Li金属の安定化を促進するための良好な電解質添加剤の1つはLiNO3である。特に有用なイオン液体系リチウム塩としては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)が挙げられる。
【0123】
水性電解質の場合、ナトリウム塩又はカリウム塩は、好ましくはNa2SO4、K2SO4、それらの混合物、NaOH、KOH、NaCl、KCl、NaF、KF、NaBr、KBr、NaI、KI、又はそれらの混合物から選択される。この研究に使用される塩濃度は、0.3M~3.0M(ほとんどの場合0.5M~2.0M)であった。
【0124】
好ましい有機液体溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、アセトニトリル(AN)、ビニレンカーボネート(VC)、アリルエチルカーボネート(AEC)、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、ハイドロフロロエーテル(hydrofloroether)(例えばTPTP)、スルホン、及びスルホランが挙げられる。
【0125】
好ましいイオン液体溶媒は、テトラアルキルアンモニウム、ジアルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピロリジニウム、又はジアルキルピペリジニウムから選択されるカチオンを有する室温イオン液体(RTIL)から選択することができる。対アニオンは、好ましくはBF4
-、B(CN)4
-、CF3CO2
-、CF3SO3
-、N(SO2CF3)2
-、N(COCF3)(SO2CF3)-、又はN(SO2F)2
-から選択される。特に有用なイオン液体ベースの溶媒としては、N-n-ブチル-N-エチルピロリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(BEPyTFSI)、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP13TFSI)、及びN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが挙げられる。
【0126】
実施例5:種々のナトリウム塩分子比を有する幾つかの溶媒及び対応する擬固体電解質の蒸気圧
ホウフッ化ナトリウム(NaBF4)、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム(NaTFSIなどのナトリウム塩を広い分子比範囲で加える前及び加えた後の、数種類の溶媒(イオン液体系共溶媒PP13TFSIを有する又は有しないDOL、DME、PC、AN)の蒸気圧を測定した。塩濃度が2.3Mを超える場合は、非常に早い速度で蒸気圧が低下し、塩濃度が3.0Mを超える場合は急速に最小限又は実質的にゼロに近づく。非常に低い蒸気圧では、電解質の気相は、発火できないか、発火した後に3秒を超えて火炎を持続することができないかのいずれかとなる。
【0127】
実施例6:幾つかの溶媒と、3.0Mのナトリウム又はリチウム塩濃度を有する対応する擬固体電解質との引火点及び蒸気圧
幾つかの溶媒と、3MのNa又はLi塩濃度を有するそれらの電解質との引火点及び蒸気圧を以下の表1に示している。OSHA(労働安全衛生局(Occupational Safety & Health Administration))の分類に準拠すると、引火点が38.7℃未満のあらゆる液体は引火性であることに留意されたい。しかし、安全性を保証するために、本発明者らは、38.7℃よりもはるかに高い(大きな余裕をもって、例えば少なくとも50°だけ高く、好ましくは150℃を超える)引火点を示すように本発明者らの擬固体ポリマー電解質を設計した。表1中のデータは、3.0Mのアルカリ金属塩濃度の添加が、通常はこれらの基準を満たすために十分であることを示している(多くの場合、2.3Mで十分である)。本発明者らの全ての擬固体電解質が引火性ではない。
【0128】
実施例7:数種類の電解質中のアルカリ金属イオン輸率
リチウム塩分子比に対する数種類の電解質(例えば(EMImTFSI+DME)溶媒中の(PEO+NaTFSI塩))のNa
+イオン輸率を調べ、代表的な結果を
図3(A)~
図3(B)中にまとめている。一般に、x=0からx=0.2~0.30まで濃度が増加するにつれて、低塩濃度電解質中のNa
+イオン輸率は低下する。しかし、x=0.2~0.30の分子比を超えると、塩濃度の増加とともに輸率が増加し、これはNa
+イオン移動機構の根本的な変化を示している。リチウムイオンの場合も同様の傾向が観察された。
【0129】
Na+イオンが低塩濃度電解質(例えばx<0.2)中を移動する場合、Na+イオンは複数の溶媒和分子をそれと一緒に引っ張ることができる。このような荷電種のクラスターの協調した移動は、溶媒中により多くの塩が溶解することで流体粘度が増加する場合には、さらに妨害され得る。対照的に、x>0.2の超高濃度のナトリウム塩が存在する場合は、他の場合にはナトリウムイオンとクラスターを形成して多重イオン錯体種を形成し、それらの拡散プロセスが遅くなる利用可能な溶媒和分子よりも、Na+イオンの数がはるかに多くなることができる。この高いNa+イオン濃度によって、より多くの「遊離のNa+イオン」(クラスター化していない)を有することが可能となり、それによって、より高いNa+輸率(したがって容易なNa+移動)が得られる。ナトリウムイオン移動機構は、多重イオン錯体が支配的な機構(全体的により大きな流体力学半径を有する)から、多数の利用可能な遊離のNa+イオンを有する単一イオンが支配的な機構(より小さな流体力学半径を有する)に変化する。この観察は、十分な数のNa+イオンの迅速な擬固体電解質の通過又は擬固体電解質からの移動によって、それらがカソード(放電中)又はアノード(充電中)との相互作用又は反応に容易に利用されることができ、それによってナトリウム二次セルの良好なレート能力が保証されることをさらに示している。最も顕著なことには、これらの非常に高濃度の電解質は不燃性であり安全である。安全性、容易なナトリウムイオンの移動、及び電気化学的性能特性を併せ持つことは、あらゆる種類のナトリウム二次電池及びリチウム二次電池でこれまで困難であった。
【0130】
実施例8:リチウム硫黄電池のカソード用の硫黄/カーボンブラック(S/CB)複合粒子の調製
硫黄粉末及びCB粒子を混合し(70/30の比率)、2時間ボールミル粉砕して、S/CB粒子を得た。この実施例では、カソード活性材料としてのS/CB粒子と電解質(有機溶媒中に溶解したリチウム塩を含む)とを含む電極中の伝導性フィラメントとして、グラフェンシート(RGO)及びカーボンナノファイバ(CNF)を別々に含めた。この実施例で使用したリチウム塩はホウフッ化リチウム(LiBF4)を含み、有機溶媒はPC、DOL、DEC、及びそれらの混合物である。この研究では0.1%~30%の広範囲の伝導性フィラメント体積分率を含んだ。以下のステップの順序を用いて電極層の形成を行った:
【0131】
順序1(S1):最初にLiBF4塩及びPEOをPC及びDOLの混合物中に溶解させて、それぞれ1.0M、2.5M、及び3.5Mの全塩/ポリマー濃度を有する電解質を形成した。(2.3M以上の濃度では、得られる電解質はもはや液体電解質ではなかった。これは実際に固体のように挙動し、したがって「擬固体」と呼ばれる。)次に、RGO又はCNTフィラメントを電解質中に分散させてフィラメント-電解質懸濁液を形成した。均一な分散体の形成を促進するために機械的剪断を使用した。(このフィラメント-電解質懸濁液も1.0Mの低い塩濃度でさえ非常に粘稠性であった)。次にカソード活性材料のS/CB粒子をフィラメント-電解質懸濁液中に分散させて擬固体電極材料を形成した。
【0132】
順序2(S2):最初にLiBF4塩をPC及びDOLの混合物中に溶解させて、それぞれ1.0M、2.5M、及び3.5Mの塩濃度を有する電解質を形成した。次に、カソード活性材料のS/CB粒子を電解質中に分散させて活性粒子-電解質懸濁液を形成した。均一な分散体の形成を促進するために機械的剪断を使用した。(この活性粒子-電解質懸濁液も1.0Mの低い塩濃度でさえ非常に粘稠性であった)。次にRGO又はCNTフィラメントを活性粒子-電解質懸濁液中に分散させて擬固体電極材料を形成した。
【0133】
順序3(S3):最初に、所望の量のRGO又はCNTフィラメントを、リチウム塩が溶解していない液体溶媒混合物(PC+DOL)中に分散させた。溶媒中の伝導性フィラメントの均一な懸濁液の形成を促進するために機械的剪断を使用した。次にLiBF4塩、PEO、及びS/CB粒子を懸濁液中に加え、LiBF4塩を懸濁液の溶媒混合物中に溶解させて、それぞれ1.0M、2.5M、及び3.5Mの塩濃度を有する電解質を形成した。同時に、又はこれに続いて、S/CB粒子を電解質中に分散させて、擬固体電解質(液体電解質ではなく固体電解質でもない)中に分散した活性材料粒子及び伝導性フィラメントから構成される変形可能な擬固体電極材料を形成した。この擬固体電極材料中で、伝導性フィラメントが浸透して、電子伝導経路の3Dネットワークが形成される。電極材料が電池の電極に成形されるときに、この3D伝導性ネットワークは維持される。
【0134】
4点プローブ法を用いて電極の電気伝導率を測定した。結果を
図5(A)及び
図5(B)中にまとめている。これらのデータは、典型的には、順序3(S3)に従って作製した電極を除けば、伝導性フィラメント(CNF又はRGO)の浸透による電子伝導経路の3Dネットワークの形成は、伝導性フィラメントの体積分率が10~12%を超えるまで起こらないことを示している。言い換えると、リチウム塩、ナトリウム塩、又はイオン伝導性ポリマーが液体溶媒中に溶解する前、及び活性材料粒子が溶媒中に分散される前に、伝導性フィラメントを液体溶媒中に分散させるステップ行う必要がある。このような順序によって、浸透閾値が0.3%~2.0%まで低くなることもでき、最小量の伝導性添加剤、したがってより高い比率の活性材料(及びより高いエネルギー密度)を使用することによって伝導性電極を製造することが可能となる。これらの観察は、これまで調べてきた活性材料粒子、伝導性フィラメント、及び電解質を含むあらゆる種類の電極に対して言えることも分かった。これは、高いエネルギー密度及び高い電力密度の両方を有する高性能アルカリ金属電池を製造するための非常に重要で予期せぬプロセス要求である。
【0135】
次に擬固体カソード、多孔質セパレータ、及び擬固体アノード(同様の方法で作製されるが、アノード活性材料として人造黒鉛粒子を有する)を互いに組み合わせて単位セルを形成し、次にこれを外部に突出する2つの端子を有する保護ハウジング(積層アルミニウム-プラスチックパウチ)中に入れて電池を作製した。液体若しくはポリマーゲルの電解質(1M)及び擬固体電解質(2.5M及び3.5M)を含む電池を製造して試験を行った。
【0136】
比較の目的で、スラリーコーティング及び乾燥の手順を行って従来の電極を製造した。1つのアノード及び1つのカソード、並びに2つの電極の間に配置されたセパレータを次に組み合わせて、Al-プラスチック積層パッケージングエンベロープ中に入れ、続いて液体電解質を注入して、従来技術のリチウム電池セルを形成した。電池試験結果は実施例18にまとめている。
【0137】
実施例9:Li-S電池及びNa-S電池用の種々のウェブ又は紙の構造上のSの電気化学的堆積
カソード活性材料をアルカリ金属-硫黄電池セル(Li-Sセル又はNa-Sセル)中に組み込む前に、電気化学的堆積を行うことができる。この方法では、アノード、電解質、及び互いに凝集したグラフェンシートの層(カソード層として機能する)を電気化学的堆積チャンバー中に配置する。必要な装置は、当技術分野において周知の電気めっきシステムと同様である。
【0138】
典型的な手順の1つでは、金属ポリスルフィド(MxSy)を溶媒(例えば1:3~3:1の体積比のDOL/DMEの混合物)中に溶解させて電解質溶液を形成する。ある量のリチウム塩を場合により加えることができるが、これは外部の電気化学的堆積では不要である。多種多様の溶媒をこの目的に使用することができ、どの種類の溶媒を使用できるかに関して理論的制限はなく、この所望の溶媒中で金属ポリスルフィドがある程度の溶解性を有するのであれば、あらゆる溶媒を使用することができる。より高い溶解性は、より多くの量の硫黄が電解質溶液に由来し得ることを意味する。
【0139】
次に、乾燥し制御された雰囲気条件(例えばHe又は窒素ガス)下で、この電解質溶液をチャンバー又は反応器中に注ぐ。アノードとして金属箔を使用し、多孔質グラフェン構造の層をカソードとして使用することができ;両方が電解質溶液中に浸漬される。この構造が、電気化学的堆積システムを構成する。ナノスケールの硫黄粒子又はコーティングをグラフェンシート表面上に電気化学的に堆積するステップは、多孔質グラフェン構造の層の重量を基準として、好ましくは1mA/g~10A/gの範囲内の電流密度で行われる。
【0140】
この反応器中で生じる化学反応は:MxSy→MxSy-z+zS(典型的にはz=1~4)の式で表すことができる。非常に驚くべきことに、析出したSは、大きなグラフェン表面上で優先的に核を形成し成長して、ナノスケールのコーティング又はナノ粒子を形成する。コーティングの厚さ又は粒径、並びにSコーティング/粒子の量は、比表面積、電気化学反応の電流密度、温度、及び時間によって制御することができる。一般に、より低い電流密度及びより低い反応温度では、Sのより均一な分布が得られ、反応の制御がより容易になる。より長い反応時間では、グラフェン表面上に堆積されるSの量がより多くなり、硫黄源が消費されたとき、又は所望の量のSが堆積したときに、反応を停止させる。これらのSがコーティングされた紙又はウェブの構造は、次に、Li-Sセル又はNa-Sセルのカソード活性材料として使用するために、粉砕して微粒子にした。
【0141】
実施例10:カソード層を形成する前の、単離グラフェンシート上の化学反応によって誘発される硫黄粒子の堆積
単離酸化グラフェンシートからS-グラフェン複合物を形成するために、従来技術の化学的堆積方法がここで使用される(すなわち、GOシートの表面上にSを化学的に堆積する前には、これらのGOシートは、多孔質グラフェンの一体構造に密集していない)。この手順は、25mlの蒸留水が入ったフラスコ中に0.58gのNa2Sを加えてNa2S溶液を形成することから始めた。次に、Na2S溶液中に0.72gの元素Sを懸濁させ、マグネチックスターラーを用いて室温で約2時間撹拌した。硫黄が溶解するにつれて、溶液の色がオレンジ色-黄色にゆっくりと変化した。硫黄が溶解した後、ナトリウムポリスルフィド(Na2Sx)溶液が得られた(x=4~10)。
【0142】
続いて、水溶液中の化学的堆積方法によって酸化グラフェン-硫黄(GO-S)複合物を作製した。最初に、180mgの酸化黒鉛を180mlの超純水中に懸濁させ、次に50℃で5時間の音波処理を行って、安定な酸化グラフェン(GO)分散体を調製した。続いて、5重量%の界面活性剤の臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)の存在下で、上記のように調製したGO分散体にNa2Sx溶液を加え、調製されたGO/Na2Sx混合溶液をさらに2時間音波処理し、続いて30~40滴/分の速度で2mol/LのHCOOH溶液100ml中に滴定し、2時間撹拌した。最後に、沈殿物を濾過し、アセトン及び蒸留水で数回洗浄して、塩及び不純物を除去した。濾過後、沈殿物を乾燥オーブン中50℃で48時間乾燥させた。この反応は:Sx
2-+2H+→(x-1)S+H2Sの反応で表すことができる。
【0143】
実施例11:カソード層を形成する前の、単離グラフェンシート及び活性炭(AC)粒子の上の酸化還元化学反応によって誘発される硫黄粒子の堆積
この化学反応に基づく堆積方法では、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)を硫黄源として使用し、HClを反応物として使用した。GO-水又は活性炭-水の懸濁液を調製し、次に、この懸濁液中に2つの反応物(HCl及びNa2S2O3)を注いだ。反応を25~75℃で1~3時間進行させると、GOシートの表面上、又はAC粒子の細孔内に堆積したS粒子の沈殿が得られた。この反応は:2HCl+Na2S2O3→2NaCl+S↓+SO2↑+H2Oの反応で表すことができる。
【0144】
実施例12:溶液堆積によるS/GOナノコンポジットの調製
GOシート及びSを溶媒(CS2)中で混合し分散させて懸濁液を形成した。十分撹拌した後、溶媒を蒸発させると固体ナノコンポジットが得られ、次にこれを粉砕してナノコンポジット粉末を得た。これらのナノコンポジット粒子中の一次硫黄粒子は約40~50nmの平均直径を有する。
【0145】
実施例13:アノード用支持層としての静電紡糸PAAフィブリルからのフィラメントの伝導性ウェブ
テトラヒドロフラン/メタノール(THF/MeOH、重量基準で8/2)の混合溶媒中でピロメリット酸二無水物(Aldrich)と4,4’-オキシジアニリン(Aldrich)とを共重合させることによって、紡糸用のポリ(アミド酸)(PAA)前駆体を調製した。静電紡糸装置を用いてこのPAA溶液を紡糸して繊維ウェブを得た。この装置は、ポリマー溶液が押し出される正に帯電したキャピラリーと、繊維を収集するための負に帯電したドラムとを備えた15kVの直流電源からなった。空気流下、40℃で12時間、100℃で1時間、250℃で2時間、及び350℃で1時間の段階的な熱処理によって、溶媒の除去とPAAからのイミド化とを同時に行った。熱硬化したポリイミド(PI)ウェブ試料を1,000℃で炭化させて、平均フィブリル直径が67nmの炭化ナノファイバを得た。このようなウェブは、アノード活性材料の伝導性基材として使用することができる。本発明者らは、Li-Sセルのアノードにおいて伝導性ナノフィラメントのネットワークを使用することで、他の場合には内部短絡の原因となり得るリチウムデンドライトの開始及び成長を効果的に抑制できることを確認している。
【0146】
実施例14:ナトリウム-硫黄電池のアノード活性材料としてのプレナトリウム化フッ化グラフェンシートの調製
フッ化グラフェン(GF)を製造するために本発明者らは数種類の方法を使用してきたが、例としてただ1つの方法を本明細書に記載する。典型的な手順の1つでは、インターカレート化合物С2F・xClF3から、大きく剥離された黒鉛(HEG)を調製した。HEGを三フッ化塩素の蒸気によってさらにフッ素化して、フッ素化された大きく剥離された黒鉛(FHEG)を得た。あらかじめ冷却したTeflon反応器に20~30mLの液体のあらかじめ冷却したClF3を入れ、反応器を閉じ、液体窒素温度まで冷却した。次に、ClF3ガスが通るための穴を有する容器中に1g以下のHEGを入れ、反応器内に配置した。7~10日間で、概略的な式がC2Fである灰色-ベージュ色の生成物が形成された。
【0147】
続いて、少量のFHEG(約0.5mg)を20~30mLの有機溶媒(別々に、メタノール及びエタノール)と混合し、超音波処理(280W)を30分間行って、均一な黄色がかった分散体を形成した。溶媒を除去すると、分散体は茶色がかった粉末になった。アノード集電体の細孔内に注入する前又は後に、このフッ化グラフェン粉末をナトリウムチップと液体電解質中で混合してプレナトリウム化することができる。
【0148】
実施例15:リチウムイオン硫黄電池のアノード活性材料としてのグラフェン強化ナノシリコン
Angstron Energy Co.,Dayton,Ohio)より、グラフェンで包まれたSi粒子が入手可能であった。純粋なグラフェンシート(伝導性フィラメントとして)をPC-DOL(50/50の比率)混合物中に分散させ、続いてグラフェンで包まれたSi粒子(アノード活性材料)を分散させ、3.5Mのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を混合物溶媒中に60℃で溶解させることによって、擬固体アノード電極を作製した。次に、DOLを除去して、PC中に約5.0MのLiPF6を含む擬固体電解質を得た。PC中のLiPF6の最大溶解度は室温において3.0M未満であることが知られているので、これによってLiPF6は過飽和状態となる。
【0149】
実施例16:アノード活性材料としてのグラフェン強化酸化スズ微粒子
以下の手順を使用して、制御下でのSnCl4・5H2OとNaOHの加水分解によって酸化スズ(SnO2)ナノ粒子を得た:SnCl4・5H2O(0.95g、2.7m-mol)とNaOH(0.212g、5.3m-mol)をそれぞれ50mLの蒸留水中に溶解した。激しく撹拌しながら塩化スズ溶液にNaOH溶液を1mL/分の速度で滴下して加えた。この溶液を、超音波処理により5分間均質化した。その後、得られたヒドロゾルをGO分散液と3時間反応させた。この混合溶液に0.1MのH2SO4を数滴加えて生成物を凝集させた。沈殿した固体を遠心分離によって収集し、水及びエタノールで洗浄し、真空乾燥させた。この乾燥した生成物を、Ar雰囲気下において400℃で2時間熱処理し、アノード活性材料として利用した。
【0150】
実施例17:様々な電池セルの用意と電気化学的試験
調べたアノード及びカソード活性材料のほとんどについて、本発明による方法と従来の方法との両方を使用して、リチウムイオンセル又はリチウム金属セルを用意した。
【0151】
従来の方法では、典型的なアノード組成物は、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)中に溶解された、85wt%の活性材料(例えば、Si被覆グラフェンシート)と、7wt%アセチレンブラック(Super-P)と、8wt%ポリフッ化ビニリデン粘結剤(PVDF、5wt%固形分)とを含む。Cu箔上にスラリーをコーティングした後、電極を120℃で2時間真空乾燥させて溶媒を除去した。この方法により、典型的には、粘結剤樹脂が必要とされず、又は使用されず、8重量%節約する(非活性材料の量が減少する)。カソード層も、従来のスラリーコーティング及び乾燥手順を使用して、(カソード集電体としてAl箔を使用して)同様に形成される。次いで、アノード層、セパレータ層(例えば、Celgard 2400膜)、及びカソード層を積層し合わせて、プラスチックAlエンベロープ内に収容する。一例として、次いで、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)との混合物(EC-DEC、1:1v/v)中に溶解された1M LiPF6電解質溶液をセルに注入する。幾つかのセルでは、液体電解質としてイオン液体を使用した。アルゴン充填グローブボックス内にセルアセンブリを形成した。
【0152】
本発明による方法では、好ましくは擬固体ポリマーアノード、多孔質セパレータ、及び擬固体ポリマーカソードは保護ハウジング中で組み立てられる。次にパウチを封止した。
【0153】
Arbin電気化学ワークステーションを使用して、1mV/sの典型的な走査速度でサイクリックボルタンメトリ(CV)測定を行った。さらにまた、定電流充電/放電サイクルによって、様々なセルの電気化学的性能を50mA/g~10A/gの電流密度で評価した。長期のサイクル試験には、LAND製のマルチチャネル電池テスタを使用した。
【0154】
実施例18:典型的な試験結果
各試料ごとに、電気化学的応答を決定するために幾つかの電流密度(充電/放電速度を表す)を課し、Ragoneプロット(電力密度対エネルギー密度)の構築に必要なエネルギー密度及び電力密度値の計算を可能にした。
図6(A)中には、アノード活性材料としてのLi箔と、カソード活性材料としてのカーボンブラック-硫黄複合粒子とを含むリチウム硫黄セルのRagoneプロット(重量電力密度対エネルギー密度)が示されている。4つのデータ曲線のうちの3つは本発明の一実施形態により作製したセルのものであり(それぞれ順序S1、S2、及びS3を使用)、残りの1つは従来の電極のスラリーコーティング(ロールコーティング)によって作製したセルのものである。これらのデータから幾つかの重要な所見を得ることができる。
【0155】
本発明による方法によって用意されたリチウムイオン電池セルの重量エネルギー密度及び電力密度は、従来のロールコーティング法(「従来の」と表される)によって用意された相当物のものよりもかなり高い。150μmのカソード厚さ(平坦な固体Al箔上にコーティングした)から、擬固体ポリマー電解質を有する525μmの厚さへの変化の結果として、重量エネルギー密度は325Wh/kgから415Wh/kg(S1)、430Wh/kg(S2)、及び530Wh/kg(S3)までそれぞれ増加する。また驚くべきことに、電子伝導経路の3Dネットワーク(伝導性フィラメントの浸透による)を有する本発明による擬固体電極を含む電池では、はるかに高いエネルギー密度(
図6(A))及びより安定なサイクル挙動(
図6(B))が得られる。
【0156】
これらの大きな相違は、単に電極の厚さ及び質量負荷の増加に起因するだけではない。この相違は、おそらくは、本発明によるセルに関連する非常に高い活性材料質量負荷(単なる質量負荷ではない)及び高い導電率、活性材料の重量/体積に対するオーバーヘッド(非活性)構成要素の割合の減少、並びに電極活性材料の驚くべき良好な利用率(全てではないにしても、高い導電率のため、ほとんどのSがリチウムイオン貯蔵容量に寄与し、並びに特に高い充電/放電率の条件下で、電極中に乾燥ポケット又は非効果的なスポットがない)。
【0157】
図7(A)は、カソード活性材料としてグラフェン担持S粒子を含む2つのセルのRagoneプロット(重量エネルギー密度に対する重量電力密度)を示す。実験データは、本発明による方法によって用意されたLi-S電池セルと、電極の従来のスラリーコーティングによって用意されたLi-S電池セルとから得られた。
【0158】
これらのデータは、本発明による方法によって用意された電池セルの重量エネルギー密度及び電力密度が、従来の方法によって用意された相当物よりもかなり高いことを示している。ここでも相違は大きい。従来通りに製造されたセルは、433Wh/kgの重量エネルギー密度を示すが、本発明によるセルでは605Wh/kgのエネルギー密度(S3)がそれぞれ得られる。2,021W/kgの高さの電力密度も、リチウム硫黄電池に関しては前例がない。本発明によるセルでは、
図7(B))中に示されるように、はるかに安定な充電/放電サイクル挙動も得られる。
【0159】
これらのエネルギー密度及び電力密度の相違は、主として以下のことによる。本発明によるセルに関連する高い活性材料質量負荷(アノードでは>25mg/cm2、及びカソードでは>45mg/cm2)及び高い電極導電率;活性材料重量/体積に対するオーバーヘッド(非活性)構成要素の割合の減少;並びに活性材料をより良く利用することができる(全ての粒子が液体電解質に接近可能であり、高速のイオン及び電子運動速度)本発明による方法の機能。
【0160】
図8は、従来の電解質のセルと比較した、Siナノ粒子アノード及びコバルト酸リチウム(LiCoO
2)カソードを有し擬固体電解質(S1、S3)を有するセルのRagoneプロット(重量電力密度対重量エネルギー密度)を示している。
図9は、従来の電解質を有する及びSICと比較した、擬固体電解質を有するナトリウムイオンキャパシタ(SIC)のRagoneプロット(重量電力密度対重量エネルギー密度)を示している。
【0161】
多くの研究者が行っているようなRagoneプロット上での活性材料のみの重量当たりのエネルギー及び電力密度の報告は、組み立てられたスーパーキャパシタセルの性能の現実的な状況を示さないことがあることを指摘しておくことは重要であろう。他のデバイス構成要素の重量も考慮に入れなければならない。集電体、電解質、セパレータ、粘結剤、コネクタ、及びパッケージングを含むこれらのオーバーヘッド構成要素は、非活性材料であり、電荷蓄積量に寄与しない。これらの構成要素は、デバイスに重量及び体積を追加するだけである。したがって、オーバーヘッド構成要素の重量の相対比を減少し、活性材料の割合を増加させることが望ましい。しかしながら、従来の電池製造法を使用してこの目的を達成することは可能でなかった。本発明は、リチウム電池の技術分野におけるこの長年にわたる最も重大な問題を克服する。
【0162】
100~200μmの電極厚さを有する市販のリチウムイオン電池では、リチウムイオン電池におけるアノード活性材料(例えば、黒鉛や炭素)の重量比は、典型的には12~17%であり、カソード活性材料の重量比(LiMn2O4など無機材料に関して)は22%~41%であり、又は有機又はポリマー材料に関しては10%~15%である。したがって、活性材料重量のみに基づく特性から、デバイス(セル)のエネルギー又は電力密度を外挿するために、係数3~4が頻繁に使用される。大抵の科学論文では、報告されている特性は、典型的には活性材料重量のみに基づいており、電極は典型的には非常に薄い(<<100μm、及び大抵は<<50μm)。活性材料重量は、典型的には総デバイス重量の5%~10%であり、これは、対応する活性材料重量ベース値を係数10~20で割ることによって実際のセル(デバイス)エネルギー又は電力密度を得ることができることを示唆する。この係数が考慮された後では、これらの論文で報告されている特性は、商用電池の特性よりも良いものとは思えない。したがって、科学論文及び特許出願で報告されている電池の性能データを読んで解釈するに当たっては非常に慎重でなければならない。