(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】電解液及びそれを含むレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20230329BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20230329BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
(21)【出願番号】P 2019175293
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】海寳 篤志
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-534708(JP,A)
【文献】特表2016-533613(JP,A)
【文献】特開2013-254685(JP,A)
【文献】国際公開第2019/159633(WO,A1)
【文献】特開昭62-153383(JP,A)
【文献】特表2007-514952(JP,A)
【文献】特公昭47-014353(JP,B1)
【文献】米国特許第03294588(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物及び水を含む電解液、を備えるレドックスフロー電池。
【化1】
(式(1)中、nはそれぞれ独立に1~3の整数を表す。ベンゼン環a及びベンゼン環bは、それぞれ独立に、スルホ基以外の置換基をさらに有していても良い。)
【請求項2】
上記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【化2】
(式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、C1~C4のアルキル基を表す。ベンゼン環a及びベンゼン環bは、それぞれ独立に、スルホ基以外の置換基をさらに有していても良い。)
【請求項3】
上記電解液中における水の含有率が、1質量%~99.9質量%である請求項1または2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
上記電解液中における水の含有率が、10質量%~99質量%である請求項1または2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
さらに、電極及び隔膜を含む請求項1~4のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池用電解液及びレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーによる設備容量の増加に伴い、系統電力安定化のために大型蓄電池の導入が進められている。大型蓄電池として期待されるレドックスフロー電池の電解液には水系と非水系があるが、安全性やコストの面で水系電解液が優れている。そのため、活物質には水への溶解度が求められ、且つ高いエネルギー密度を達成するために適切な酸化還元電位を有することが望まれる。非特許文献1に記載されている通り、水系電解液におけるセル電圧は1.1-1.5Vが求められている。非特許文献2では、アントラキノンを負極とするレドックスフロー電池を報告しているが、理論的なセル電圧は0.76Vと低く、セル電圧の向上が課題となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Kyle C.Smith et al.,Journal of Power Sources 330(2016)261-272
【文献】S.R.Narayanan et al.,Journal of The Electrochemical Society,161(9)A1371-A1380(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水系電解液を用いたレドックスフロー電池の高電圧化とサイクル特性向上を可能とする、水系電解液及びそれを備えたレドックスフロー電池の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、式(1)で表される化合物及び水を含む電解液、を備えるレドックスフロー電池が、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち本発明は、以下の1)~5)に関する。
1)
下記式(1)で表される化合物及び水を含む電解液、を備えるレドックスフロー電池。
【0007】
【0008】
(式(1)中、nはそれぞれ独立に1~3の整数を表す。ベンゼン環a及びベンゼン環bは、それぞれ独立に、スルホ基以外の置換基をさらに有していても良い。)
2)
上記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、1)に記載のレドックスフロー電池。
【0009】
【0010】
(式(2)中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、C1~C4のアルキル基を表す。ベンゼン環a及びベンゼン環bは、それぞれ独立に、スルホ基以外の置換基をさらに有していても良い。)
3)
上記電解液中における水の含有率が、1質量%~99.9質量%である1)または2)に記載のレドックスフロー電池。
4)
上記電解液中における水の含有率が、10質量%~99質量%である1)または2)に記載のレドックスフロー電池。
5)
さらに、電極及び隔膜を含む1)~4)のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【発明の効果】
【0011】
本願発明は、高い電圧とサイクル特性を兼ね備えるレドックスフロー電池用電解液及びそれを用いたレドックスフロー電池を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書においては実施例等を含めて、特に断りの無い限り「部」及び「%」は、いずれも質量基準である。
【0014】
上記電解液は、上記式(1)で表される化合物と水を含む。
【0015】
[式(1)で表される化合物]
上記式(1)中、nはそれぞれ独立に1~3の整数を表し、1~2の整数であることが好ましく、2つのnがそれぞれ1であることが特に好ましい。
【0016】
上記式(1)中、ベンゼン環a及びベンゼン環bは、それぞれ独立に、スルホ基以外の置換基をさらに有していても良い。
【0017】
上記、スルホ基以外の置換基としては、例えば、アルキル基、芳香族基、シアノ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、水酸基等が挙げられる。
【0018】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-オクチル基等の直鎖アルキル基、iso-プロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の分鎖アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、iso-プロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のC1~C4のアルキル基であることが好ましく、C1~C4の直鎖アルキル基であることがさらに好ましく、n-ブチル基であることが特に好ましい。
【0019】
上記芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0020】
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0021】
上記式(1)で表される化合物が有する水酸基、スルホ基、あるいは任意で有していても良いカルボキシ基は、それぞれ、遊離酸体であっても、塩であっても良く、全て同じであっても良く、また、一部が異なる組合せであっても良く、目的に応じ、それら比率を任意で設定し用いても良い。
【0022】
上記塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラ-n-ブチルアンモニウム塩等のアンモニウム塩などが挙げられる。
【0023】
上記式(1)で表される化合物は、1種単独で用いても、あるいは2種以上を組合せて用いても良い。2種以上を組合せて用いる場合は任意の割合で配合して良い。
【0024】
上記電解液は、上記式(1)で表される化合物以外に、上記式(1)以外の構造を有する化合物をさらに含むことも可能である。
【0025】
上記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0026】
上記式(2)中、R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、C1~C4のアルキル基を表す。ベンゼン環a及びベンゼン環bは、それぞれ独立に、スルホ基以外の置換基をさらに有していても良い。C1~C4のアルキル基、スルホ基以外の置換基としてはそれぞれ式(1)で述べたものと同じで良い。
【0027】
上記電解液は水を含む。使用する水はイオン交換水、ミリポア水等を用いることが可能であり、好ましくはミリポア水であることが好ましい。
【0028】
上記電解液中における水の含有率は任意で設定可能であるが、1質量%~99.9質量%であることが好ましく、10質量%~99質量%であることがさらに好ましく、75質量%~95質量%であることが特に好ましい。
【0029】
上記電解液中における上記式(1)で表される化合物の濃度は任意で設定可能であるが、0.01mol/L~0.1mol/Lの範囲であることが好ましく、0.02mol/L~0.07mol/Lの範囲であることがさらに好ましい。
【0030】
上記電解液を含むレドックスフロー電池も本願発明に含まれる。
【0031】
上記レドックスフロー電池は、上記電解液、電極及び隔膜を含むことが好ましい。
【0032】
上記電極としては、電極として機能するものであれば任意で選択し用いることができるが、例えば、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスを用いることが好ましく、カーボンフェルトであることがさらに好ましい。
【0033】
上記隔膜としては、電極間の隔膜として機能するものであれば任意で選択し用いることができるが、例えば、イオン交換膜、多孔質膜等を用いることが好ましく、イオン交換膜を用いることがさらに好ましい。
【0034】
上記レドックスフロー電池は、正極と負極とで、同じ、あるいは異なる電解液を用いることが可能である。正極と負極とで異なる電解液を用いる場合、上記電解液と、対電解液とを組合せて用いる。
【0035】
上記レドックスフロー電池において、正極と負極とで異なる電解液を用いる場合、上記電解液を負極側、上記対電解液を正極側、にそれぞれ用いることが好ましい。
【0036】
上記レドックスフロー電池に用いる、上記電解液、上記対電解液は、それぞれ、さらに電解質を含むことができる。電解質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸、酢酸、ギ酸などを用いることができ、好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0037】
上記対電解液としては、正極として機能するものであれば特に限定はないが、例えば、フェロシアン化カリウム、フェロセン、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)、バナジウム等を用いることが可能であり、フェロシアン化カリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0038】
上記レドックスフロー電池は、さらに上記電解液及び任意で含む上記対電解液、上記電極、上記隔膜等の部材を含み、必要に応じこれら部材を電池として構成するために、容器、シール剤、ねじ、双極板等の組み立て部材をさらに含んでいても良い。
【0039】
本発明の電解液及びそれを備えるレドックスフロー電池は、平均放電電圧が高く、サイクル特性にも優れる。特に、水系電解液を用いたレドックスフロー電池として高い電圧を得ることを可能とするため、有機溶剤等を用いたものと比較し、安全性が高く、レドックスフロー電池作製時や電解液交換時等における取り扱い易さやメンテナンス性に優れる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
電解液1の作製
下記式(1-1)で示される化合物を0.05mol/LになるようNaOH(純正化学株式会社、特級)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し、電解液1を作製した。
【0042】
【0043】
[実施例2]
レドックスフロー電池1の作製
上記実施例1で得た電解液1を負極電解液とし、フェロシアン化カリウム(関東化学株式会社、特級)を0.1mol/LになるようNaOH(純正化学株式会社、特級)の水溶液(1.0mol/L)で溶解し作製した対電解液1を正極電解液とし、隔膜としてイオン交換膜(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社、Nafion(登録商標)NRE-212)、電極としてカーボンフェルト(東洋紡株式会社製、AAF304ZS、10mm×50mm×4mm)を用いた。シリコン製ガスケット(厚さ3mm)の10mm×50mmの穴に上記のカーボンフェルトを入れ、集電板/電極/隔膜/電極/集電板の順になるよう組合せ、レドックスフロー電池1を作製した。
【0044】
評価
上記で得たレドックスフロー電池1中の正極電解液及び負極電解液を、該電池外部に配管接続したペリスタポンプで正極電解液及び負極電解液をそれぞれ循環させ、マルチ電気化学計測システム(北斗電工、HZ-Pro)にて試験を行った。正極電解液及び負極電解液の液量はそれぞれ5mlとし、95mAの一定電流で、上限電圧1.3V、加減電圧を0.9Vの条件で充放電試験を行った。
図1に5サイクルまでの充放電曲線を示す。2サイクル目のクーロン効率は68%、電圧効率88%、エネルギー密度は0.26Wh/Lであり、良好なサイクル特性が得られることがわかった。また、平均放電電圧1.1Vであり、水溶系電解液を用いたレドックスフロー電池の中でも高い電圧が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の電解液及びそれを用いたレドックスフロー電池は、高い電圧が得られ、かつ、良好なサイクル特性を提供しうる。また、水系電解液であるため、有機溶剤系電解液と比べ、安全かつ取り扱いが容易であり、広範な用途への応用も可能となる。