(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】水系インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20230329BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230329BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2017252510
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-09-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】井上 薫志
(72)【発明者】
【氏名】伊井 智明
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208719(WO,A1)
【文献】特開2017-043653(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071177(WO,A1)
【文献】特開2013-230638(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145882(WO,A1)
【文献】特開2009-275125(JP,A)
【文献】特開2011-127064(JP,A)
【文献】特表2012-504675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00-5/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性ポリマー粒子(A)と、有機溶剤(B)と、水とを含有する水系インクであって、
該水不溶性ポリマー粒子(A)を構成するポリマーが、未架橋のポリマー(a1)をトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルで架橋してなる架橋ポリマー(A1)であり、
該未架橋ポリマー(a1)が、酸価が200mgKOH/g以上320mgKOH/g以下であるアクリル-スチレン系樹脂であり、
該水不溶性ポリマー粒子(A)が、顔料を含有しないポリマー粒子であり、
該水不溶性ポリマー粒子(A)の含有量が、水系インク中、1.5質量%以上8質量%以下であり、
さらに、顔料が、該顔料をポリマー分散剤で分散させた粒子として含まれ、該水不溶性ポリマー粒子(A)の平均粒径が15nm以上90nm以下であり、かつ該顔料をポリマー分散剤で分散させた粒子の平均粒径が80nm以上140nm以下であり、
該顔料の含有量が、水系インク中、3質量%以上5質量%以下であり、
ポリマー分散剤に対する顔料の質量比[顔料/ポリマー分散剤]が、2以上3.5以下であり、
該有機溶剤(B)の含有量が、水系インク中、10質量%以上35質量%以下であり、
該有機溶剤(B)が
多価アルコールエーテルを含み、
該多価アルコールエーテルがジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる1種以上
であり、
該多価アルコールエーテルの含有量が、水系インク中、10質量%以上35質量%以下であり、
有機溶剤(B)中の多価アルコールエーテルの含有量が90質量%以上であり、
該有機溶剤(B)の下記式(1)で表される粘度変化率が140%以下であ
り、
低吸水性印刷媒体へのインクジェット記録用である、水系インク。
粘度変化率(%)=(η
B/η
50)×100 (1)
η
B:有機溶剤(B)の32℃における粘度
η
50:有機溶剤(B)の50質量%水溶液の32℃における粘度
【請求項2】
3価以上の多価アルコールの含有量が、水系インク中、5質量%以下である、請求項1に記載の水系インク。
【請求項3】
有機溶剤(B)の沸点の加重平均値が150℃以上250℃以下である、請求項1又は2に記載の水系インク。
【請求項4】
水系インク中の水不溶性ポリマー粒子(A)に対する顔料の質量比[顔料/ポリマー粒子(A)]が、0.5以上4以下である、請求項1~3のいずれかに記載の水系インク。
【請求項5】
水系インク中の水不溶性ポリマー粒子(A)に対する有機溶剤(B)の質量比[有機溶剤(B)/水不溶性ポリマー粒子(A)]が2以上20以下である、請求項1~4のいずれかに記載の水系インク。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の水系インクを用いて
低吸水性印刷媒体に印刷する印刷方法であって、
該印刷媒体と純水との接触時間100m秒における印刷媒体の表面積あたりの吸水量が0g/m
2以上10g/m
2以下である、印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インク、及び該水系インクを用いる印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業印刷や産業印刷分野では、従来の普通紙、コピー紙と呼ばれる高吸水性印刷媒体への印刷に加えて、オフセットコート紙のような低吸水性のコート紙、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、NY(ナイロン)等の非吸水性の樹脂フィルムを用いた商業印刷向けの印刷媒体への印刷が求められてきている。
低吸水性又は非吸水性の印刷媒体上に印刷を行った場合、液体成分の吸収が遅い、又は吸収されないため、印刷媒体に対するインクの密着性が十分でなく、耐擦過性等が低下するという問題がある。
また、印刷物の耐水性及び耐候性の観点から、着色剤として顔料を用いたインクが提案されている。顔料は、通常、ポリマー分散剤を用いてインクビヒクルに分散させて用いられるが、染料と異なり顔料分子をインクビヒクル中に均一に溶解できない。そのため、顔料の分散状態を維持し、インクジェット記録時の吐出性等を改善するための提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、吐出性に優れ、低吸水性の記録媒体に印刷した場合でも、均一性に優れた画像が得られる水系インク等として、顔料と、水不溶性ポリマーと、HLBが特定の範囲のアセチレングリコール系の非イオン界面活性剤と、特定のポリエーテル変性シリコーンと、有機溶媒とを含有する水系インク等が開示されている。そして、実施例には有機溶媒として、プロピレングリコールやジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル等が開示されている。
特許文献2には、吐出安定性等に優れ、特に低吸水性の記録媒体に画像を形成した際の速乾定着性等に優れるインクジェット記録用水系インク等として、顔料、水不溶性ポリマー、有機溶媒、及び水を含有し、該有機溶媒が、ジエチレングリコールイソプロピルエーテルと、1-オクタノール/水分配係数がジエチレングリコールイソプロピルエーテルよりも小さな値の有機溶媒とを含有するインクジェット記録用水系インク等が開示されている。
特許文献3には、低吸水性の記録媒体上での耐擦過性等に優れるインクジェット記録用水系インクとして、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子と、水不溶性ポリマー粒子と、有機溶媒と、水とを含有し、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーが、特定の親水性ノニオン性モノマー由来の構成単位を、全構成単位中特定の範囲で含有し、有機溶媒が沸点90℃以上の有機溶媒を含有し、有機溶媒の沸点の加重平均値で250℃以下であり、有機溶媒の水系インク中の含有量が特定の範囲である、インクジェット記録用水系インク等が開示されている。そして、実施例には有機溶媒として、グリセリン、プロピレングリコール等が開示されている。
特許文献4には、非多孔質基材上にインクを強固に定着することが可能で、長期停止時においてもノズルの目詰まりの生じないインクジェット記録装置に用いる水性インクとして、着色剤、エマルジョン樹脂、水、及び水溶性溶媒を含有する水性インク等が開示されている。そして、実施例には有機溶媒として、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1,3-ブタンジオール等が開示されている。
特許文献5には、インクの記録媒体に対する定着性が良好で、ノズルヘッドからの吐出安定性や目詰まりといった信頼性等が良好となるインク組成物として、水と、顔料と、樹脂エマルジョンと、水溶性包接化合物とを含み、該水溶性包接化合物の含有量と該樹脂エマルジョンの含有量との比が、質量基準で特定の範囲であるインク組成物等が開示されている。そして、実施例には有機溶媒として、グリセリン、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/104294号
【文献】特開2015-124223号公報
【文献】特開2015-13990号公報
【文献】特開2014-198466号公報
【文献】特開2015-160860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2及び4の水系インクは、水不溶性ポリマー又はエマルジョン樹脂が架橋構造を有しないため、特定の有機溶媒を含有する水系インクにおいて、インクジェット記録時に吐出を一定期間休止した後の吐出安定性(吐出の回復性)が十分でない場合があった。
特許文献3及び5の水系インクは、水不溶性ポリマー粒子又は樹脂エマルジョンが自己架橋ポリマーであり、インク乾燥時に粘度が高くなるため、低吸水性印刷媒体に印刷する際の乾燥性が不十分で、吐出安定性も不十分であり、耐擦過性の向上も求められている。特許文献3の実施例15は、架橋されてなる顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を用いているが、さらなる乾燥性、耐擦過性及び吐出安定性の向上が求められている。
このように、吐出安定性、並びに低吸水性印刷媒体への印刷における乾燥性及び耐擦過性のいずれも満足し得る水系インクが未だ得られていない。
本発明は、吐出安定性に優れ、低吸水性印刷媒体への印刷において優れた乾燥性及び耐擦過性を有する印刷物を得ることができる水系インク、及び該水系インクを用いる印刷方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水不溶性ポリマー粒子と、有機溶剤と、水とを含有する水系インクであって、該水不溶性ポリマー粒子が架橋されたポリマーであり、該有機溶剤が多価アルコールエーテルを含み、該有機溶剤の粘度変化率を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]及び[2]に関する。
[1]水不溶性ポリマー粒子(A)と、有機溶剤(B)と、水とを含有する水系インクであって、
該水不溶性ポリマー粒子(A)を構成するポリマーが架橋されてなり、
該有機溶剤(B)が多価アルコールエーテルを含み、
該有機溶剤(B)の下記式(1)で表される粘度変化率が140%以下である、水系インク。
粘度変化率(%)=(ηB/η50)×100 (1)
ηB:有機溶剤(B)の32℃における粘度
η50:有機溶剤(B)の50質量%水溶液の32℃における粘度
[2]前記[1]に記載の水系インクを用いて印刷媒体に印刷する印刷方法であって、
該印刷媒体と純水との接触時間100m秒における印刷媒体の表面積あたりの吸水量が0g/m2以上10g/m2以下である、印刷方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出安定性に優れ、低吸水性印刷媒体への印刷において優れた乾燥性及び耐擦過性を有する印刷物を得ることができる水系インク、及び該水系インクを用いる印刷方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[水系インク]
本発明の水系インク(以下、単に「インク」ともいう)は、水不溶性ポリマー粒子(A)と、有機溶剤(B)と、水とを含有する水系インクであって、該水不溶性ポリマー粒子(A)を構成するポリマーが架橋されてなり、該有機溶剤(B)が多価アルコールエーテルを含み、該有機溶剤(B)の下記式(1)で表される粘度変化率が140%以下である。
粘度変化率(%)=(ηB/η50)×100 (1)
ηB:有機溶剤(B)の32℃における粘度
η50:有機溶剤(B)の50質量%水溶液の32℃における粘度
なお、「水系」とは、媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。「低吸水性」とは、低吸水性、非吸水性を含む概念であり、印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の表面積あたりの吸水量が0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。前記吸水量は、実施例に記載の方法により測定される。
「水不溶性」の意義については、後述する未架橋ポリマーの説明部分で述べる。
また、「印刷」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念である。
本発明の水系インクは、低吸水性印刷媒体への印刷において優れた乾燥性及び耐擦過性を有するため、フレキソ印刷用、グラビア印刷用、又はインクジェット記録用のインクとして好適に用いることができ、また、インクジェット記録における吐出安定性に優れることから、インクジェット記録用水系インクとして用いることが好ましい。
【0010】
本発明の水系インクは、吐出安定性に優れ、低吸水性印刷媒体への印刷において優れた乾燥性及び耐擦過性を有する印刷物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように推察される。
本発明における粘度変化率とは、有機溶剤を水に溶解した濃度50質量%の水溶液の32℃における粘度に対する、有機溶剤の32℃における粘度の比率である。該粘度変化率は、有機溶剤の水との親和性、すなわち有機溶剤の親水性の程度を示し、インクが乾燥する際に水が蒸発し有機溶剤が残留していくときの粘度変化の程度を示す指標となる。粘度変化率が大きいほど、有機溶剤の親水性が高く、インク乾燥時のインクの粘度上昇が大きいことを示す。
多価アルコールエーテルを含む有機溶剤は、粘度変化率が大きくなりすぎない傾向がある。粘度変化率が140%以下であると、有機溶剤の親水性が高すぎず適当な範囲であるため、インク乾燥時に粘度が上昇し難く、吐出安定性を向上させる。また、印刷媒体にインクが着弾した後もインク粘度が上昇し難いため、水の蒸発が促進され、インクの乾燥性が向上すると考えられる。
また、インク中に含まれる架橋構造を有する水不溶性ポリマー粒子は、該架橋構造により多価アルコールエーテルを含む有機溶剤によるポリマーの膨潤や溶解を抑制でき、ポリマーによるインク粘度の上昇も抑制できるため吐出安定性を向上させる。
その反面、架橋構造によりポリマーの弾性率が高くなり、印刷媒体上での成膜性が低下し、耐擦過性低下を招くと考えられる。しかしながら、本発明においては、粘度変化率が140%以下であるため、有機溶剤の親水性が適当な範囲であり、架橋構造を有する水不溶性ポリマー粒子への有機溶剤の膨潤の程度を調整することができるため、インク粘度の上昇を抑制しつつも、架橋による弾性率の上昇も緩和され、成膜性が高くなり、その結果、耐擦過性が向上すると推察される。
粘度変化率が140%を超えると有機溶剤の親水性が高すぎるため、架橋構造を有する水不溶性ポリマー粒子の膨潤が十分でなく、耐擦過性を改善することができないと考えられる。
さらに、有機溶剤の濃度50質量%の水溶液が作製できないほど疎水的な有機溶剤は架橋構造を有する水不溶性ポリマー粒子の膨潤が進行しすぎるとともに、水への溶解性が低いため水系インクへの使用に不適である。
【0011】
<水不溶性ポリマー粒子(A)>
水不溶性ポリマー粒子(A)(以下、「ポリマー粒子(A)」ともいう)を構成するポリマーは架橋されてなる。これにより、インク粘度の上昇を抑制しつつ、有機溶剤(B)による適度な膨潤により、架橋構造による弾性率の上昇も抑制することができるため、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性が向上すると考えられる。
ポリマー粒子(A)としては、未架橋のポリマーを架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー、多官能性モノマー由来の構成単位を含む架橋ポリマー等が挙げられる。中でも、未架橋のポリマー(a1)を架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(A1)が好ましい。
【0012】
ポリマー粒子(A)は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、顔料を含有しないポリマー粒子であることが好ましい。ポリマー粒子(A)は、水系媒体中に分散した水分散体として用いることが好ましく、必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有していてもよい。該水分散体は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0013】
〔架橋ポリマー(A1)〕
未架橋のポリマー(a1)(以下、「未架橋ポリマー(a1)」ともいう)としては、水溶性ポリマー及び水不溶性ポリマーのいずれも用いることができる。未架橋ポリマー(a1)が水溶性ポリマーである場合には、架橋により水不溶性ポリマーとなるものであればよい。中でも、吐出安定性及び耐擦過性の観点から、水不溶性ポリマーであることが好ましい。
ここで、「水溶性」及び「水不溶性」に関し、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに飽和に達するまで溶解させたときに、その溶解量が10gを超える時は水溶性、10g以下である時は水不溶性と判断する。水不溶性ポリマーの前記溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。水不溶性ポリマーが後述する酸基を有するポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーの酸基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
未架橋ポリマー(a1)は、架橋剤と反応しうる反応性基を有する。該反応性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等の酸基、アミノ基、水酸基、イソシアネート基、エポキシ基等が挙げられる。中でも、酸基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。
【0014】
(酸基を有する未架橋ポリマー)
酸基を有する未架橋ポリマーの酸価は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは50mgKOH/g以上、更に好ましくは100mgKOH/g以上、より更に好ましくは150mgKOH/g以上、より更に好ましくは200mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは320mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは270mgKOH/g以下である。
酸基を有する未架橋ポリマーの酸価は、実施例に記載の方法により測定される。また、構成するモノマーの質量比から算出することができる。
酸基を有する未架橋ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリエステル等の縮合系ポリマー;アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂等のビニル系ポリマーから選ばれる1種以上が挙げられる。中でも、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、モノマーとしてビニル化合物を用いた付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0015】
酸基を有する未架橋ポリマーとしては、ポリマー粒子の分散安定性、並びに吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、(a1-1)カルボン酸モノマー(以下、「(a1-1)成分」ともいう)由来の構成単位と、(a1-2)疎水性モノマー(以下、「(a1-2)成分」ともいう)由来の構成単位とを含有する、カルボキシ基を有する未架橋ポリマーが好ましい。該カルボキシ基を有する未架橋ポリマーは、更に(a1-3)ノニオン性モノマー(以下、「(a1-3)成分」ともいう)由来の構成単位を含有することができる。
【0016】
〔(a1-1)カルボン酸モノマー〕
(a1-1)カルボン酸モノマーは、ポリマー粒子の分散安定性、並びに吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、カルボキシ基を有する未架橋ポリマーのモノマー成分として用いられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
【0017】
〔(a1-2)疎水性モノマー〕
(a1-2)疎水性モノマーは、ポリマー粒子の分散安定性、並びに吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、カルボキシ基を有する未架橋ポリマーのモノマー成分として用いられる。(a1-2)疎水性モノマーとしては、好ましくは脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上が挙げられる。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも1種である。
【0018】
脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数1以上22以下の脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有するものである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の分岐鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、より好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基を有するものであり、更に好ましくは炭素数1以上8以下のアルキル基を有するものである。
【0019】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート、及びスチレン系マクロモノマーから選ばれる1種以上がより好ましい。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましい。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有し、数平均分子量が好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上で、好ましくは100,000以下、より好ましくは10,000以下の化合物である。重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
商業的に入手しうるスチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
(a1-2)疎水性モノマーは、好ましくは芳香族基含有モノマーであり、より好ましくはスチレン系モノマーであり、更に好ましくはスチレン及びα-メチルスチレンから選ばれる1種以上である。
【0020】
〔(a1-3)ノニオン性モノマー〕
カルボキシ基を有する未架橋ポリマーには、ポリマー粒子の分散安定性の観点から、更に、(a1-3)ノニオン性モノマーをモノマー成分として用いることができる。即ち、カルボキシ基を有する未架橋ポリマーは、更に(a1-3)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有することができる。
(a1-3)ノニオン性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシエチル(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(n=2~30、nはオキシプロピレン基の平均付加モル数を示す。以下のnは当該オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
商業的に入手しうる(a1-3)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM-20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE-90、同200、同350等、PME-100、同200、同400等、PP-500、同800、同1000等、AP-150、同400、同550等、50PEP-300、50POEP-800B、43PAPE-600B等が挙げられる。
前記(a1-1)~(a1-3)成分の各成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
以上のとおり、未架橋ポリマー(a1)は、好ましくは酸基を有する未架橋ポリマーであり、より好ましくはカルボキシ基を有する未架橋ポリマーであり、更に好ましくは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上の(a1-1)カルボン酸モノマー由来の構成単位と、アルキル(メタ)アクリレートモノマー及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の(a1-2)疎水性モノマー由来の構成単位とを含有する(メタ)アクリル系樹脂を含むことが好ましく、即ちポリマー粒子(A)を構成するポリマーは、架橋された(メタ)アクリル系樹脂を含むことが好ましい。
本発明において、アクリル酸又はメタクリル酸由来の構成単位を有するものを(メタ)アクリル系樹脂という。
ポリマー粒子(A)を構成するポリマー中の、架橋された(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0023】
(重合性モノマー中又はカルボキシ基を有する未架橋ポリマー中における各成分又は構成単位の含有量)
カルボキシ基を有する未架橋ポリマー製造時における、(a1-1)及び(a1-2)成分の重合性モノマー中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はカルボキシ基を有する未架橋ポリマー中における(a1-1)及び(a1-2)成分に由来する構成単位の含有量は、ポリマー粒子の分散安定性、並びに吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、次のとおりである。
(a1-1)成分の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%未満、より好ましくは60質量%未満、更に好ましくは50質量%未満である。
(a1-2)成分の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%未満、より好ましくは80質量%未満、更に好ましくは75質量%未満である。
【0024】
[(a1-1)成分/(a1-2)成分]の質量比は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上であり、そして、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.0以下、より更に好ましくは0.6以下である。
【0025】
未架橋ポリマー(a1)は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
未架橋ポリマー(a1)の重量平均分子量は、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下である。未架橋ポリマー(a1)の重量平均分子量が前記の範囲であれば、ポリマー粒子の分散安定性を発現することができる。
なお、重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
未架橋ポリマー(a1)の市販品としては、アロンAC-10SL(東亜合成株式会社製、商品名)等のポリアクリル酸;ジョンクリル67、同611、同678、同680、同690、同819(BASFジャパン株式会社製、商品名)等のアクリル-スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0026】
<架橋剤>
本発明で用いられる架橋剤は、効率よく架橋反応させる観点から、該架橋剤の水溶率(質量比)が好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下である。ここで、水溶率%(質量比)とは、室温25℃にて水90質量部に架橋剤10質量部を添加したときの溶解率(%)をいう。
【0027】
架橋剤としては、好ましくは分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、より好ましくはグリシジルエーテル基を有する化合物、更に好ましくは炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
架橋剤の分子量は、反応容易性、並びに吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、好ましくは120以上、より好ましくは150以上、更に好ましくは200以上であり、そして、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下、更に好ましくは1,000以下である。
架橋剤のエポキシ当量は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
架橋剤のエポキシ基の数は、効率よく未架橋ポリマーと反応させて、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性を向上させる観点から、1分子あたり2以上であり、そして、1分子あたり好ましくは6以下、市場入手性の観点から、より好ましくは4以下である。
【0028】
架橋剤の具体例としては、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(水溶率31%)、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27%)、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(水不溶性)、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル及び1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルから選ばれる1種以上が好ましい。
【0029】
ポリマー粒子(A)の架橋度は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上であり、そして、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、更に好ましくは40%以下である。
架橋度は、未架橋ポリマーの酸価と架橋剤の架橋性官能基の当量から計算される見かけの架橋度である。即ち、架橋度は「架橋剤の架橋性官能基のモル当量数/未架橋ポリマーの酸基のモル当量数」である。
【0030】
本発明で用いられるポリマー粒子(A)の水分散体は、未架橋ポリマー(a1)の水分散体と架橋剤とを混合し、未架橋ポリマー(a1)を架橋剤で架橋させ、架橋ポリマー(A1)を形成することにより得ることが好ましい。
本発明においては、未架橋ポリマー(a1)が酸基を有する未架橋ポリマーである場合、該未架橋ポリマーの酸基の一部が後述する中和剤により中和され、更に該未架橋ポリマーの酸基の一部が架橋剤で架橋されてなる架橋構造を有することにより、ポリマー粒子(A)の水分散体として用いることができる。
【0031】
架橋処理の温度は、架橋反応の完結と経済性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下である。
また、架橋処理の時間は、上記と同様の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは1.5時間以上、より更に好ましくは3時間以上であり、そして、好ましくは12時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは8時間以下、より更に好ましくは6時間以下である。
【0032】
水分散体中のポリマー粒子(A)の平均粒径は、粗大粒子を低減し、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは90nm以下である。
なお、ポリマー粒子(A)の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、ポリマー粒子(A)は、膨潤や収縮、該粒子間の凝集が生じないことが好ましく、水系インク中のポリマー粒子(A)の平均粒径は、水分散体中の平均粒径と同じであることが好ましい。水系インク中のポリマー粒子(A)の好ましい平均粒径の態様は、水分散体中の該粒子の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0033】
<有機溶剤(B)>
有機溶剤(B)は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、下記式(1)で表される粘度変化率が140%以下である。
粘度変化率(%)=(ηB/η50)×100 (1)
ηB:有機溶剤(B)の32℃における粘度
η50:有機溶剤(B)の50質量%水溶液の32℃における粘度
なお、ηB及びη50は、実施例に記載の方法により測定される。
【0034】
有機溶剤(B)の粘度変化率は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、好ましくは135%以下、より好ましくは130%以下、更に好ましくは125%以下、より更に好ましくは120%以下、より更に好ましくは115%以下であり、その下限は、吐出安定性の観点から、好ましくは5%以上である。
有機溶剤(B)は、沸点90℃以上の1種以上の有機溶剤を含むことが好ましく、有機溶剤(B)に含まれる全ての有機溶剤の沸点が100℃を超えることがより好ましい。有機溶剤(B)の沸点の加重平均値は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは220℃以下、より更に好ましくは200℃以下である。
有機溶剤(B)の純度は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。
【0035】
本発明において、有機溶剤(B)は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、多価アルコールエーテルを含む。有機溶剤(B)は、さらに多価アルコールエーテル以外の他の有機溶剤を含んでもよく、該他の有機溶剤としては多価アルコール、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。
有機溶剤(B)中の多価アルコールエーテルの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
多価アルコールエーテルとしては、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、好ましくはポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルである。該ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上であり、そして、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。該アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。該ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル及びトリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましい。また、該ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル及びポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましい。
【0036】
多価アルコールエーテルは、好ましくは、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、及びトリエチレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種以上であり、より好ましくはジエチレングリコールモノアルキルエーテル及びジプロピレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはジエチレングリコールモノアルキルエーテルである。
多価アルコールエーテルは、具体的には、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましく、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノイソプロピルエーテルから選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0037】
有機溶剤(B)として、吐出安定性の向上及び乾燥性向上の観点から、多価アルコールを併用してもよい。該多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール;グリセリン等の3価アルコールが挙げられ、吐出安定性の向上及び乾燥性向上の観点から、2価アルコールが好ましい。
【0038】
<顔料>
本発明の水系インクは、色相は特に限定されず、顔料を含有しない透明インク;イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色インク;ブラックの無彩色インクのいずれであってもよい。本発明の水系インクは、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性に優れることから、さらに顔料を含有してもよい。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。また、白色インクにおいては、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられ、酸化チタンが好ましい。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。好ましい有彩色の有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明で用いられる顔料は、水系媒体に分散させてなる水系顔料分散体として用いることが好ましく、顔料の形態は、自己分散型顔料、及び顔料をポリマー分散剤で分散させた粒子から選ばれる1種以上の形態で用いることができる。ポリマー分散剤は、顔料を分散させるために用いられる。
【0039】
〔自己分散型顔料〕
自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接、又は炭素数1以上12以下のアルカンジイル基等の他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。
自己分散型顔料の市販品としては、キャボットジャパン株式会社製のCAB-O-JETシリーズ等が挙げられる。自己分散型顔料は、水系媒体に分散された水系顔料分散体として用いることが好ましい。
【0040】
〔顔料をポリマー分散剤で分散させた粒子〕
顔料をポリマー分散剤で分散させた粒子は、例えば、1)顔料とポリマー分散剤とを混練し、その混練物を水等の媒体中に分散させた粒子、2)顔料とポリマー分散剤を水等の媒体中で撹拌し、顔料を水等の媒体中に分散させた粒子、3)ポリマー分散剤の原料と顔料を機械的に分散させた状態でポリマー分散剤の原料を重合し、得られたポリマー分散剤により顔料が水等の媒体中に分散している粒子、等が挙げられる。
また、吐出安定性及び保存安定性の観点から、顔料をポリマー分散剤で分散させた粒子に対して、架橋剤を添加して該ポリマー分散剤を架橋してもよい。
水系インク中での顔料及びポリマー分散剤の存在形態としては、ポリマー分散剤が顔料に吸着している形態、ポリマー分散剤が顔料を含有している形態等が挙げられる。中でも、顔料の分散安定性の観点から、ポリマー分散剤が顔料を含有しているポリマー粒子の形態が好ましく、顔料を含有している顔料内包のポリマー粒子の形態がより好ましい。
【0041】
(ポリマー分散剤)
ポリマー分散剤としては、ポリエステル、ポリウレタン等の縮合系ポリマー;ビニル系ポリマー等から選ばれる1種以上が挙げられるが、顔料の分散安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。ポリマー分散剤は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
ポリマー粒子(A)が、前述の未架橋ポリマー(a1)を架橋剤で架橋してなる架橋ポリマー(A1)である場合、ポリマー分散剤と未架橋ポリマー(a1)とは、同じであってもよく、異なっていてもよいが、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、同じであることが好ましい。
ポリマー分散剤の重量平均分子量は、顔料の分散性を向上する観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下である。
なお、重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
ポリマー分散剤の市販品例としては、アロンAC-10SL(東亜合成株式会社製)等のポリアクリル酸;ジョンクリル67、同611、同678、同680、同690、同819(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル-スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0042】
〔水系顔料分散体の製造〕
顔料をポリマー分散剤で分散させた粒子(以下、単に「顔料分散ポリマー粒子」ともいう)は、水系顔料分散体(以下、「顔料分散体」ともいう)として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
工程I:ポリマー分散剤、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料分散ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料分散ポリマー粒子の水系顔料分散体を得る工程
【0043】
(工程I)
工程Iでは、まず、ポリマー分散剤を有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られたポリマー分散剤溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。ポリマー分散剤溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
ポリマー分散剤を溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料への濡れ性、ポリマー分散剤の溶解性、及びポリマー分散剤の顔料への吸着性の観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
ポリマー分散剤を溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0044】
(中和)
ポリマー分散剤が酸基を有する場合には、該酸基の少なくとも一部は、中和剤を用いて中和することが好ましい。中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属水酸化物、有機アミン等の塩基性化合物を用いることができるが、得られる顔料分散体及び水系インクの保存安定性、吐出安定性、耐擦過性等の観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。有機アミンとしては、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。また、該酸基を有するポリマー分散剤を予め中和しておいてもよい。
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。
【0045】
中和剤の使用当量は、得られる水系顔料分散体及び水系インクの保存安定性、吐出安定性及び耐擦過性等の観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは25モル%以上であり、また、好ましくは60モル%以下、より好ましくは55モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは45モル%以下である。
ここで中和剤の使用当量は、次式によって求めることができる。中和剤の使用当量が100モル%以下の場合、中和度と同義であり、次式で中和剤の使用当量が100モル%を超える場合には、中和剤がポリマー分散剤の酸基に対して過剰であることを意味し、この時のポリマー分散剤の中和度は100モル%とみなす。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマー分散剤の酸価(mgKOH/g)×ポリマー分散剤の質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
【0046】
(分散処理)
工程Iにおいては、顔料混合物を分散処理して、顔料分散ポリマー粒子の分散体を得る。分散体を得る分散方法に特に制限はない。剪断応力を与える本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程Iにおける温度、とりわけ予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下であり、分散時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.8時間以上であり、また、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0047】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidic社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(淺田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは130MPa以上であり、また、好ましくは250MPa以下、より好ましくは200MPa以下、更に好ましくは180MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3以上、より好ましくは10以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。
【0048】
(工程II)
工程IIでは、工程Iで得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料分散ポリマー粒子の水系顔料分散体(顔料分散体)を得ることができる。得られた顔料分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料分散体は、顔料分散ポリマー粒子が水を主媒体とする水系媒体中に分散しているものである。
【0049】
得られた顔料分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、顔料分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
得られた顔料分散体中の顔料の含有量は、顔料分散体の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
得られた顔料分散体中のポリマー分散剤に対する顔料の質量比[顔料/ポリマー分散剤]は、顔料分散体の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3.5以下である。
顔料分散体中の顔料分散ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは80nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは140nm以下である。
なお、顔料分散ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
[水系インクの製造方法]
本発明の水系インクは、好ましくは、ポリマー粒子(A)を含む水分散体と、有機溶剤(B)と、必要に応じて、水、顔料、界面活性剤等の各種添加剤とを混合することにより、効率的に製造することができる。顔料は、水系媒体に分散させて混合することが好ましい。これらの各成分の混合方法に特に制限はない。
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。これらの中では、非イオン性界面活性剤が好ましい。
水系インクの製造方法に用いられる添加剤としては、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等が挙げられる。
【0051】
本発明の水系インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
水系インク中のポリマー粒子(A)の含有量は、乾燥性及び耐擦過性の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、吐出安定性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下である。
水系インク中のポリマー粒子(A)に対する顔料の質量比[顔料/ポリマー粒子(A)]は、乾燥性及び耐擦過性の観点から、好ましくは0以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、より更に好ましくは1.5以上であり、そして、吐出安定性の観点から、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2.5以下である。
【0052】
水系インク中の有機溶剤(B)の含有量は、吐出安定性及び耐擦過性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、乾燥性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下である。
水系インク中の多価アルコールエーテルの含有量は、吐出安定性及び耐擦過性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、乾燥性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下である。
水系インク中の有機溶剤(B)に多価アルコールを含有する場合、水系インク中の多価アルコールの含有量は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の向上の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。さらに、水系インク中の3価以上の多価アルコールの含有量は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の向上の観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0053】
水系インク中のポリマー粒子(A)に対する有機溶剤(B)の質量比[有機溶剤(B)/水不溶性ポリマー粒子(A)]は、吐出安定性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上であり、そして、乾燥性の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは17以下、更に好ましくは15以下である。
水系インク中の水の含有量は、吐出安定性の向上の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下、より更に好ましくは70質量%以下である。
【0054】
水系インクが顔料を含有する場合、水系インク中の顔料の含有量は、水系インクの印刷濃度の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、吐出安定性及び保存安定性の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく5質量%以下である。
顔料がポリマー分散剤で分散してなる場合、水系インク中のポリマー分散剤に対する顔料の質量比[顔料/ポリマー分散剤]は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3.5である。
【0055】
(水系インク物性)
水系インクの32℃における粘度は、インクの保存安定性の観点から、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上、更に好ましくは4.0mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9.0mPa・s以下、更に好ましくは7.0mPa・s以下である。
水系インクの32℃における粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
水系インクの25℃におけるpHは、インクの保存安定性の観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上であり、そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.5以下である。
水系インクの25℃におけるpHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0056】
[印刷方法]
本発明の印刷方法は、前記水系インクを用いて、印刷媒体に印刷する印刷方法である。前記水系インクは、低吸水性印刷媒体に印刷しても、乾燥性及び耐擦過性に優れる印刷物を得ることができるため、フレキソ印刷用、グラビア印刷用、又はインクジェット記録用の水系インクとして用いることができ、インクジェット記録による印刷においても吐出安定性に優れることから、インクジェット記録用の水系インクとして用いることが好ましい。
前記水系インクを用いるインクジェット記録方法においては、シリアルヘッド方式及びラインヘッド方式等を用いることができるが、ラインヘッド方式の記録ヘッドを有するインクジェット記録装置を用いることが好ましい。ラインヘッド方式の記録ヘッドは、印刷媒体の幅程度の長尺の記録ヘッドであり、記録ヘッドは固定して、印刷媒体を搬送方向に移動させ、この移動に連動して記録ヘッドのノズル開口からインク液滴を吐出させ、印刷媒体に付着させることにより、画像等を記録することができる。
【0057】
印刷媒体としては、アート紙、コート紙、樹脂フィルム等の低吸水性印刷媒体が挙げられる。
コート紙の市販品としては、汎用光沢紙「OKトップコート+」(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m2、接触時間100m秒における吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m2)、多色フォームグロス紙(王子製紙株式会社製、坪量104.7g/m2、吸水量5.2g/m2)、UPM Finesse Gloss(UPM社製、坪量115g/m2、吸水量3.1g/m2)、UPM Finesse Matt(UPM社製、坪量115g/m2、吸水量4.4g/m2)、TerraPress Silk(Stora Enso社製、坪量80g/m2、吸水量4.1g/m2)等が挙げられる。
【0058】
樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等が挙げられる。これらの樹脂フィルムは、必要に応じてコロナ処理等の表面処理を行っていてもよい。
樹脂フィルムの市販品としては、ルミラー(登録商標)T60(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート、吸水量2.3g/m2)、FE2001(フタムラ化学株式会社製、コロナ処理ポリエチレンテレフタレート、吸水量0g/m2)、PVC80B P(リンテック株式会社製、塩化ビニル、吸水量1.4g/m2)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【0059】
本発明の印刷方法は、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性に優れるため、印刷媒体と純水との接触時間100m秒における印刷媒体の表面積あたりの吸水量が0g/m2以上10g/m2以下である印刷媒体を用いることが好ましい。
本発明の印刷方法に用いる印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の表面積あたりの吸水量は、好ましくは0g/m2以上6g/m2以下、より好ましくは0g/m2以上4.5g/m2以下、更に好ましくは0g/m2以上2.5g/m2以下である。
また、普通紙、上質紙等の吸水性印刷媒体を印刷媒体として用いることもできる。
【実施例】
【0060】
以下の調製例、製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0061】
(1)未架橋ポリマーの酸価の測定
未架橋ポリマー1gを、50gのイオン交換水に添加し、0.1Nの水酸化ナトリウム溶液を6ml添加した。そこへ0.1Nの塩酸を徐々に滴下し、pHの変曲点を2か所測定した。2点間の0.1Nの塩酸の滴下量の差から計算される酸のモル数が、未架橋ポリマー中の酸基のモル数に相当し、このモル数を酸価に換算した。
【0062】
(2)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬工業株式会社製、高速液体クロマトグラフィー用)に、リン酸(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)及びリチウムブロマイド(東京化成工業株式会社製、試薬)をそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
【0063】
(3)水不溶性ポリマー粒子(A)、顔料分散ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は5×10-3%(固形分濃度換算)で行い、得られたキュムラント平均粒径を水不溶性ポリマー粒子(A)及び顔料分散ポリマー粒子の平均粒径とした。
【0064】
(4)ηB及びη50の測定
(ηBの測定)
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、使用する有機溶剤の32℃における粘度を測定した。
(η50の測定)
ηBの測定と同様のE型粘度計を用いて、使用する有機溶剤をイオン交換水で50%に希釈した水溶液の32℃における粘度を測定した。
【0065】
(5)固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0066】
(6)水系インクの粘度の測定
E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、水系インクの32℃における粘度を測定した。
(7)水系インクのpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、水系インクの25℃におけるpHを測定した。
【0067】
(8)印刷媒体と純水との接触時間100m秒における印刷媒体の表面積あたりの吸水量
自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100msにおける転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
「Spiral Method」
Contact Time : 0.010~1.0(sec)
Pitch (mm): 7
Length Per Sampling (degree): 86.29
Start Radius (mm): 20 End Radius (mm): 60
Min Contact Time (ms): 10 Max Contact Time (ms): 1000
Sampling Pattern (1-50): 50
Number of Sampling Points (> 0): 19
「Square Head」
Slit Span (mm) : 1 Slit Width (mm) : 5
【0068】
調製例1(水系顔料分散体の調製)
アクリル酸-スチレン系樹脂(ジョンクリル690、BASFジャパン株式会社製、重量平均分子量:16,500、酸価:240mgKOH/g)25部をメチルエチルケトン78.6部と混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9% 和光純薬工業株式会社製 容量滴定用)6.3部を加え、該ポリマーのカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が40%になるように中和した(中和度40モル%)。更にイオン交換水100部を加え、その中にシアン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:3、ディーアイシー株式会社製、商品名TGR-SD)100部を加え、ディスパー(淺田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて、20℃でディスパー翼を7,000rpmで回転させる条件で60分間撹拌した。
得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。得られた分散液にイオン交換水250部を加え、撹拌した後、減圧下で60℃でMEKを除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が20%(顔料75%、ポリマー25%)の水系顔料分散体1(平均粒径108nm)を得た。
【0069】
製造例1(未架橋ポリマー(a1-1)粒子の水分散体の製造)
アクリル酸-スチレン系樹脂(ジョンクリル690)25部をイオン交換水100部と混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%、和光純薬工業株式会社製、容量滴定用)6.3部を加え、ポリマーのカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が40%になるように中和した。得られた溶液を、マグネティックスターラーを用いて90℃で3時間撹拌し、自己乳化させることで、固形分濃度が20%の未架橋ポリマー(a1-1)粒子の水分散体(平均粒径20nm)を得た。
【0070】
製造例2(ポリマー粒子(A1-1)の水分散体の製造)
製造例1で得られた未架橋ポリマー(a1-1)粒子の水分散体100部(固形分濃度20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、架橋剤としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-321L、エポキシ当量129)4.41部とイオン交換水17.6部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら80℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過して、固形分濃度が20%のポリマー粒子(A1-1)の水分散体(平均粒径65nm)を得た。
【0071】
比較製造例1(ポリマー粒子(AC-1)の水分散体の製造)
1000mLセパラブルフラスコ中にメチルメタクリレート(和光純薬工業株式会社製)145部、2-エチルヘキシルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)50部、メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)5部、ラテムルE-118B(商品名、花王株式会社製、乳化剤、有効分26%)18.5部、イオン交換水96部、過硫酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)を仕込み、撹拌羽根で撹拌を行い(300rpm)モノマー乳化液を得た。
反応容器内に、ラテムルE-118B 4.6部、イオン交換水186部、過硫酸カリウム0.08部を入れ窒素ガス置換を十分行った。窒素雰囲気下、撹拌羽根で撹拌(200rpm)しながら80℃まで昇温し、上記モノマー乳化液を滴下ロート中に仕込みのこのモノマー乳液を3時間かけて滴下し、反応させて、ポリマー粒子(AC-1)の水分散体(固形分濃度:42%、平均粒径:100nm)を得た。
【0072】
実施例1
製造例2で得られたポリマー粒子(A1-1)の水分散体(固形分濃度20%)10部(ポリマー粒子(A1-1)2部)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(和光純薬工業株式会社製)25部、調製例1で得られた水系顔料分散体1(固形分濃度20%)27.5部、シリコーン系界面活性剤(商品名「KF-642」、ポリエーテル変性シリコーン、信越化学工業株式会社製)0.5部、合計量が100部となるようイオン交換水を添加して、水系インク1を得た。
【0073】
実施例2、3、7、9~12、参考例4~6、8及び比較例1~8
実施例1と同様にして、表1及び2に示す配合により、実施例又は参考例の水系インク2~12、及び比較例の水系インクC1~C8を得た。
水系インク1~12の、32℃における粘度は4.5mPa・s程度であり、25℃におけるpHは7.5~9.5の範囲であった。
【0074】
なお、表1及び2中の水不溶性ポリマー粒子(A)及び水系顔料分散体は有効分量で示す。また、表1及び2中の各表記は以下のとおりである。
〔有機溶剤(B)〕
MDG:ジエチレングリコールモノメチルエーテル
EDG:ジエチレングリコールモノエチルエーテル
iPDG:ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
iBDG:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル
BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
MFDG:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
PG:プロピレングリコール
Gly:グリセリン
2P:2-ピロリドン
IPA:イソプロパノール
〔界面活性剤〕
KF-642:シリコーン系界面活性剤(ポリエーテル変性シリコーン、信越化学工業株式会社製、商品名)
【0075】
実施例1~3、7、9~12、参考例4~6、8及び比較例1~8の水系インクを用いて、以下の方法で、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0076】
試験1(吐出安定性)
印刷物の調製を行った後、60分間印刷を停止させインクジェット記録ヘッドを大気暴露させた。60分間経過後、再度印刷を再開した際の1枚目の印刷物の吐出状態を観察し、下記式により吐出回復率(%)を算出し、吐出安定性を評価した。
吐出回復率(%)=(60分大気暴露後のベタ印字の吐出面積/試験前のベタ印字の吐出面積)×100
吐出回復率(%)が大きいほど吐出安定性が優れていると判断され、吐出回復率が70%以上であれば実用上使用できる。
【0077】
試験2(乾燥性の評価)
前述の印刷物の調製で得られた印刷物を室温(25℃)にて、印刷直後からx秒後に綿棒を使用し印刷面を擦過した。具体的には、20個の2cm四方のベタ画像を印刷した印刷物を用いて、印刷直後から20秒までは5秒毎、20秒以降は10秒毎、に別のベタ画像の印刷面を順に綿棒で擦過した。擦過した際に、綿棒への転写が見られなくなったときの印刷後の経過時間x(秒)を評価軸とした。実施例及び比較例の経過時間xの数値を表1及び2に示す。経過時間xが短いほど乾燥性が優れていると判断され、数値上70未満であれば実用上使用できる。
【0078】
試験3(耐擦過性の評価)
前述の印刷物の調製で得られた印刷物について、AB-201サザランド型インクラボテスター(テスター産業株式会社製)を用いて擦過試験を行った。印刷物を60℃環境下で10分乾燥し、摩擦材としてセルロース製不織布(BEMCOT M-3、旭化成株式会社製)に錘の底面(底面の面積50cm2)を用いて900gの荷重をかけて、10回(往復)擦過した。擦過した印刷物について、印刷面の状態を目視で確認し、以下の評価基準にて評価を行った。
[評価基準]
3:目視で印刷物の表面の傷が確認できず、擦過前後で印刷面の表面状態に変化は認められなかった。
2:目視で印刷物の表面の傷が確認できるが、印刷媒体の表面の露出はなく、実用上使用できる。
1:目視で印刷物の表面の傷が確認でき、一部印刷媒体の表面が露出され問題である。
0:印刷媒体の表面が全面露出しており、問題である。
【0079】
【0080】
【表2】
*1:比較例8の乾燥性の試験では、180秒後であっても綿棒への転写が確認された。
【0081】
表1及び2から、実施例の水系インクは、参考例及び比較例の水系インクと比べて、吐出安定性(吐出の回復性)、乾燥性及び耐擦過性に優れていることが分かる。
一方、比較例1,2,8は、有機溶剤(B)の粘度変化率が140%超であるため、実施例又は参考例1~12に比べて、吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性が劣ることが分かる。
比較例3,4,6,7は、ポリマー粒子(AC-1)又はポリマー粒子(a1-1)が架橋構造を有しないため、実施例又は参考例1~12に比べて、吐出安定性が劣り、乾燥性又は耐擦過性が劣ることが分かる。
比較例5は、水系インクがポリマー粒子(A)を含有しないため、耐擦過性の効果が発現されなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の水系インクは、吐出安定性に優れ、低吸水性印刷媒体への印刷において、優れた乾燥性及び耐擦過性を達成することができる。