(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】エアゾール容器用アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B65D 83/24 20060101AFI20230329BHJP
B05B 9/04 20060101ALI20230329BHJP
B65D 83/22 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B65D83/24
B05B9/04
B65D83/22
(21)【出願番号】P 2018114864
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222129
【氏名又は名称】東洋エアゾール工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】山田 益男
(72)【発明者】
【氏名】清水 広和
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-105342(JP,A)
【文献】特開2007-297101(JP,A)
【文献】特開平11-278563(JP,A)
【文献】特開2009-143592(JP,A)
【文献】特表2001-526583(JP,A)
【文献】特開2006-069629(JP,A)
【文献】米国特許第06302302(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 9/04
B65D 83/22
B65D 83/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール容器本体の容器口部の上部に設けられたステムを囲んで取付けられる肩カバーと、前記ステムに接続して前記ステムを下方に押圧可能な押ボタンと、前記肩カバー上に前記押ボタンを囲んで取付けられるボタンカバーと、前記押ボタン上に前記押ボタンを下方に押圧可能に設けられたボタンキャップとを有するエアゾール容器用アクチュエータであって、
前記ボタンカバーと前記押ボタンは、回動することによって係合する回動係合機構を有し、
前記ボタンカバーと前記ボタンキャップは、前記ボタンキャップが移動することによって係合するキャップ係合機構を有し、
前記回動係合機構が、係合したときに前記押ボタンの押し下げる前の位置から下方への移動を阻止するように形成され、
前記キャップ係合機構が、係合したときに前記押ボタンの押し下げた位置から上方への移動を阻止するように形成され、
前記押ボタンが下部に円筒状の脚部を有し、当該脚部には下方に開放されたスリットが形成され、
前記回動係合機構が、前記ボタンカバーの下部の前記押ボタンを収容するリング部から径方向内方に突出する押下制止突起と、前記押ボタンの前記脚部とにより構成され、
前記ボタンカバーは、前記肩カバーに対して回動可能に設けられ、
前記肩カバーには、前記ボタンカバーの一方向への回転による前記押下制止突起の移動を制限する規制部材が設けられ
、
前記キャップ係合機構が、平板状の前記ボタンキャップの外周縁部の一部よりなる耳部と、前記ボタンカバーの上部において径方向内方に張り出した係合突起とから構成され、
前記ボタンカバーの前記係合突起が、前記リング部の一部から上方に立ち上がり前記押ボタンの一部を開放して囲うハウジング部の上部に形成されていることを特徴とするエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項2】
前記ボタンキャップには、耳部と異なる部位に操作用突起が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項3】
前記ボタンキャップが、前記押ボタン上に回動可能に設けられた略円盤状のものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項4】
前記ボタンキャップが、前記押ボタンが前記ステムを下方に押し下げていない位置において前記ボタンカバーの回動に伴って一体的に回動するものであることを特徴とする請求項3に記載のエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項5】
前記ボタンカバーの前記ハウジング部が、前記回動係合機構によって前記押ボタンの下方への移動が阻止されたときに前記押ボタンのノズル部の噴射口を隠すものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項6】
前記ハウジング部が、前記押ボタンがステムを下方に押し下げているときに前記押ボタンのノズル部の正面方向から見て左右非対称となる位置に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項7】
前記肩カバーには、前記ボタンカバーの他方向への回転による前記押下制止突起の移動を制限する規制部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項8】
前記肩カバーの規制部材の少なくとも一方に、前記押ボタンの周方向への移動を禁止する係合スリットが形成されていることを特徴とする請求項7に記載のエアゾール容器用アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のエアゾール容器用アクチュエータを備えることを特徴とするエアゾール製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール容器用アクチュエータに関する。特に、簡単な操作で通常噴射状態、誤噴射防止(ロック)状態、および噴射維持状態(ガス抜き状態)のそれぞれの状態に切り替え可能なエアゾール容器用アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、使用済みのエアゾール容器をゴミとして廃棄する際、容器内部に残存するガスを放出しなければならず、そのため、種々のエアゾール容器用ガス抜き機構が提案されている。
例えば、エアゾール容器用アクチュエータにおいて、容器のステムに接続されるノズル付きの押ボタンの上面にストッパが設けられ、押ボタンを押し下げながらストッパを移動させることによりストッパがカバーと係合して、押ボタンから指を離しても押ボタンの押し下げ状態が維持されてガスが噴出し続け、容器内部の残存ガスを放出するものが知られている(特許文献1等参照。)。
一方、上記のようなガス抜きのための構成の他に、エアゾール容器用アクチュエータにおいて、使用者が誤って押ボタンを押した場合のステムの押し下げを制限する誤噴射防止機構を備えたものが知られている(特許文献2等参照。)。特許文献2に開示されたエアゾール容器においては、スライド可能な移動部材がノズルの倒れ方向にスライドすることにより、固定部材の傾動規制部が移動部材の貫通孔の内周面に嵌合し、その結果ノズルの倒れを防止する邪魔部材となり、これにより内容物が噴射されないように構成されている。
また、これらのガス抜き状態および誤噴射防止状態を、通常噴射状態からそれぞれワンタッチで切り替えることができるエアゾール容器用アクチュエータも提案されている(特許文献3等参照。)。特許文献3に開示されたエアゾール容器用アクチュエータにおいては、操作ボタンを押し下げずにカバーに対して前後方向の一方にスライドすることによりこのカバーに係合されて操作ボタンの下方への移動が阻止されて内容物が噴射されない誤噴射防止状態とされる一方、操作ボタンを押し下げながらカバーに対して前後方向の他方にスライドすることによりカバーに係合されて操作ボタンの上方への移動が阻止されてガスが噴出し続けるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-297101号公報
【文献】特開2005-34709号公報
【文献】特許第5938225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2、特許文献3等で公知のガス抜き機構および誤噴射防止機構の両方を備えたエアゾール容器用アクチュエータでは、ガス抜きは通常エアゾール容器の廃棄前のみに限って行われる動作であるところ、ガス抜き状態に移行する操作が誤噴射防止状態に移行する操作に近似(スライドする方向が前後方向の違いのみ等)しており、通常噴射状態と誤噴射防止状態との切り替え時に誤ってガス抜きを行ってしまうおそれがある。
また、ガス抜き機構および誤噴射防止機構の両方を備えたエアゾール容器用アクチュエータにおいては、ガイドレール等を使用して多機能を実装する都合上、デザイン性に大きな制約があった。
このように、エアゾール容器用アクチュエータとして、デザインの自由度が高いもの、例えば左右非対称のものなどが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであって、その目的は、デザイン設計の自由度が高く、簡単な構成でガス抜き機構および誤噴射防止機構を実現することができ、さらに、簡単な操作で通常噴射状態および誤噴射防止状態を切り替えることができ、かつ、通常噴射状態と誤噴射防止状態との切り替え操作とは別個の操作によりガス抜き状態(噴射維持状態)に切り替え可能として誤操作を抑制することにより高い利便性が得られるエアゾール容器用アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエアゾール容器用アクチュエータは、エアゾール容器本体の容器口部の上部に設けられたステムを囲んで取付けられる肩カバーと、前記ステムに接続して前記ステムを下方に押圧可能な押ボタンと、前記肩カバー上に前記押ボタンを囲んで取付けられるボタンカバーと、前記押ボタン上に前記押ボタンを下方に押圧可能に設けられたボタンキャップとを有するエアゾール容器用アクチュエータであって、
前記ボタンカバーと前記押ボタンは、回動することによって係合する回動係合機構を有し、
前記ボタンカバーと前記ボタンキャップは、前記ボタンキャップが移動することによって係合するキャップ係合機構を有し、
前記回動係合機構が、係合したときに前記押ボタンの押し下げる前の位置から下方への移動を阻止するように形成され、
前記キャップ係合機構が、係合したときに前記押ボタンの押し下げた位置から上方への移動を阻止するように形成され、
前記押ボタンが下部に円筒状の脚部を有し、当該脚部には下方に開放されたスリットが形成され、
前記回動係合機構が、前記ボタンカバーの下部の前記押ボタンを収容するリング部から径方向内方に突出する押下制止突起と、前記押ボタンの前記脚部とにより構成され、
前記ボタンカバーは、前記肩カバーに対して回動可能に設けられ、
前記肩カバーには、前記ボタンカバーの一方向への回転による前記押下制止突起の移動を制限する規制部材が設けられ、
前記キャップ係合機構が、平板状の前記ボタンキャップの外周縁部の一部よりなる耳部と、前記ボタンカバーの上部において径方向内方に張り出した係合突起とから構成され、
前記ボタンカバーの前記係合突起が、前記リング部の一部から上方に立ち上がり前記押ボタンの一部を開放して囲うハウジング部の上部に形成されていることにより、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエアゾール容器用アクチュエータおよび本発明のエアゾール製品によれば、押ボタンおよびボタンカバーに回動係合機構を設けると共にボタンカバーおよびボタンキャップにキャップ係合機構を設けるという簡単な構成によってガス抜き機構および誤噴射防止機構の両方を実現することができる。また、キャップ係合機構は押ボタン上に設けられたボタンキャップと押ボタンの側周面の一部のみを囲うボタンカバーとによって実現可能であるため、ボタンカバーの形状や押ボタンの大きさに対する規制が小さく、高いデザイン設計の自由度が得られる。
さらに、ボタンカバーを回動させるだけで通常噴射状態と誤噴射防止状態を切り替えることができ、また、ボタンキャップを移動させるだけで通常噴射状態と噴射維持状態(ガス抜き状態)とを切り替えることができるために、操作者による操作が容易である。また、通常噴射状態から誤噴射防止状態への切り替えと、通常噴射状態から噴射維持状態への切り替えとが、別個の部材を操作することによって行われるので、誤操作の発生を抑制することができて意図せずガス抜き状態に移行されることを抑止することができ、高い利便性が得られる。
【0008】
本発明の請求項1に記載の構成によれば、ボタンカバーの回動により押下制止突起の周方向の位置が脚部のスリットに対応する位置から変位して押ボタンの脚部のスリット以外の部分の下に挿入され、これにより押ボタンの下方への移動を阻止することができるところ、スリット以外の部分であれば脚部の下のいずれの位置に挿入されても押ボタンの下方への移動が阻止されるので、操作者による操作がより容易となり、利便性がさらに向上する。
また、ボタンキャップの移動により耳部がボタンカバーの上部に張り出した係合突起に係合され、これにより押ボタンの上方への移動を阻止することができる。従って、ボタンカバーの上部に係合突起が設けられた簡易な構成によって確実にガス抜き状態を得ることができるため、係合突起と耳部との係合が可能であれば、製作の際に緻密な位置合わせや寸法合わせが必要ではなく、エアゾール容器用アクチュエータを簡易な製造工程で安価に作製することができる。
本発明の請求項2に記載の構成によれば、ボタンキャップの移動をより安定して行うことができ、操作者による操作がより容易となり、利便性がさらに向上する。
本発明の請求項3に記載の構成によれば、ボタンキャップの移動を回動により行うことができ、操作者による操作がより容易となり、利便性がさらに向上する。
本発明の請求項4に記載の構成によれば、回動係合機構の動作時にボタンキャップがボタンカバーに従動して回動するので、誤操作の発生をより抑制することができ、高い利便性が得られる。
本発明の請求項1に記載の構成によれば、ハウジング部が押ボタンの一部のみを囲うものであるため、押ボタンの露出部分について高いデザイン設計の自由度が得られる。
本発明の請求項5に記載の構成によれば、誤噴射防止状態とされていることを視認することができるため、利便性がさらに向上する。
【0009】
本発明の請求項6に記載の構成によれば、正面方向から見て左右非対称の高いデザイン性が得られる。
本発明の請求項1および請求項7に記載の構成によれば、ボタンカバーの一方向および他方向への回動範囲が肩カバーの規制部材が邪魔部材となることによって制限され、ボタンカバーの過度の回動が自動的に抑止されるので、操作者が通常噴射状態から誤噴射防止状態または噴射維持状態(ガス抜き状態)に切り替えられたことを認識し易く、利便性がさらに向上する。
本発明の請求項8に記載の構成によれば、押ボタンの周方向への移動が肩カバーによって禁止されるので、操作者によるボタンカバーの回動やボタンキャップの移動の操作がより容易となり、利便性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエアゾール容器用アクチュエータの通常噴射状態の未噴射時における(a)斜視図、(b)正面図、(c)背面図、(d)平面図、(e)A-A線断面図、(f)B-B線断面図である。
【
図2】肩カバーの(a)斜視図、(b)正面図、(c)平面図、(d)底面図、(e)A-A線断面図である。
【
図3】押ボタンの(a)斜視図、(b)正面図、(c)平面図、(d)底面図、(e)A-A線断面図である。
【
図4】ボタンカバーの(a)斜視図、(b)正面図、(c)背面図、(d)平面図、(e)底面図、(f)A-A線断面図である。
【
図5】ボタンキャップの(a)斜視図、(b)平面図、(c)底面図、(d)A-A線断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るエアゾール容器用アクチュエータの通常噴射状態の噴射時における(a)斜視図、(b)正面図、(c)背面図、(d)平面図、(e)A-A線断面図である。
【
図7】肩カバー、押ボタンおよびボタンカバーの位置関係の(a)通常噴射状態の底面図、(b)誤噴射防止(ロック)状態の底面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るエアゾール容器用アクチュエータの誤噴射防止(ロック)状態における(a)斜視図、(b)正面図、(c)背面図、(d)右側面図、(e)平面図、(f)A-A線断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るエアゾール容器用アクチュエータの噴射維持状態(ガス抜き状態)における(a)斜視図、(b)正面図、(c)平面図、(d)A-A線断面図、(e)B-B線断面図のエアゾール容器本体を除いて示す図、(f)C-C線断面図、(g)D-D線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔エアゾール容器用アクチュエータ〕
本発明のエアゾール容器用アクチュエータ110は、
図1に示されるように、エアゾール容器本体101の上部のマウンティングカップ103に、その中心部に設けられたステム102を囲んで取付けられる肩カバー130と、このステム102に接続されステム102を下方に押圧可能な押ボタン150と、肩カバー130上に押ボタン150を囲んで取付けられるボタンカバー120と、押ボタン150上に当該押ボタン150を下方に押圧可能に設けられたボタンキャップ160とから構成されている。
ボタンカバー120は、肩カバー130に対し周方向に回動可能に構成されている。
ボタンキャップ160は、押ボタン150がステム102を押し下げていない位置においてボタンカバー120の回動に伴って一体的に移動可能に構成されている。
押ボタン150は、ステム102に接続されてステム102と一体に上下方向のみに移動可能に構成されている。
なお、この明細書および特許請求の範囲に記載された「上方」および「下方」は、操作者が一般的に認識する方向であり、「上下方向」はエアゾール容器本体のステム側を「上」とする方向である。また、「周方向」は「上下方向」を軸として周回する方向である。また、「前方」はステムに押ボタンを嵌合した際のノズル部からの内容物の噴射方向である。
【0012】
押ボタン150がボタンカバー120に対して上下方向に移動可能な位置が通常噴射状態であり、押ボタン150の上面に設けられたボタンキャップ160の上面を下方に押圧することでステム102が下方に押し下げられ、エアゾール製品100の内容物がステム102から押ボタン150のノズル部159内を通過して外部に噴射され、押ボタン150の押圧を解除すると、ステム102が上方に復帰して押ボタン150が上方に自動的に押し上げられ、内容物の噴射が停止する。
そして、本発明のエアゾール容器用アクチュエータ110にはボタンカバー120および押ボタン150に回動係合機構が設けられている。回動係合機構においては、通常噴射状態、かつ、押ボタン150が上方に位置する(ステム102が押圧されず内容物の噴射が停止している)状態において、ボタンカバー120が押ボタン150に対して周方向に回動可能であり、周方向に回動させた位置において押ボタン150の下方への押し下げが阻止され、ステム102の押圧が阻止される誤噴射防止(ロック)状態となる。
一方、ボタンカバー120およびボタンキャップ160にキャップ係合機構が設けられている。キャップ係合機構においては、通常噴射状態、かつ、押ボタン150が下方に位置する(ステム102を下方に押圧し内容物が噴射している)状態において、ボタンキャップ160が押ボタン150に対して回動可能であり、回動係合させた位置で押ボタン150の上方への押し上げが阻止され、ステム102が押圧されたままの噴射維持状態(ガス抜き状態)となる。
【0013】
このように構成されることで、押ボタン150およびボタンカバー120に回動係合機構を設けると共にボタンカバー120およびボタンキャップ160にキャップ係合機構を設けるという簡単な構成によってガス抜き機構および誤噴射防止機構の両方を実現することができる。また、キャップ係合機構は押ボタン150上に設けられたボタンキャップ160と押ボタン150の側周面の一部のみを囲うボタンカバー120とによって実現可能であるため、ボタンカバー120の形状や押ボタン150の大きさに対する規制が小さく、高いデザイン設計の自由度が得られる。また、ボタンカバー120を回動させるだけで通常噴射状態と誤噴射防止状態を切り替えることができ、ボタンキャップ160を移動させるだけで通常噴射状態と噴射維持状態(ガス抜き状態)とを切り替えることができるために、操作者による操作が容易である。さらに、通常噴射状態から誤噴射防止状態への切り替えと、通常噴射状態から噴射維持状態への切り替えとが、別個の部材を操作することによって行われるので、誤操作の発生を抑制することができ、高い利便性が得られる。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態であるエアゾール容器用アクチュエータ110の詳細な構成および動作について、図面に基づいて説明する。
本発明の一実施形態に係るエアゾール容器用アクチュエータ110は、
図1に示されるように、エアゾール容器本体101の上部のマウンティングカップ103に、その中心部に設けられたステム102を囲んで取付けられる肩カバー130と、このステム102に接続されステム102を下方に押圧可能な押ボタン150と、肩カバー130上に押ボタン150を囲んで取付けられるボタンカバー120と、押ボタン150上に当該押ボタン150を下方に押圧可能に設けられたボタンキャップ160とからなる。
【0015】
肩カバー130は、
図2に示されるように、下方に延びマウンティングカップ103に嵌合する嵌合筒部133と、嵌合筒部133の上端に設けられたリング状の突条よりなる回転ガイドレール131と、嵌合筒部133と回転ガイドレール131との間に介在されて径方向内方に水平に突出する、中央に押ボタン150を収容可能な円環状の内方顎部134とを備えている。
内方顎部134の内周縁には、2箇所にボタンカバー120の回動範囲を制限する第1の規制部材136および第2の規制部材137がそれぞれ径方向内方に突出するよう設けられている。第1の規制部材136および第2の規制部材137はお互いの間に平面視で約250度の開き角が形成されるよう離間して形成されている。
内方顎部134における第1の規制部材136および第2の規制部材137の広角端部(約250度の開き角に面した側の端部)136a,137a側には、それぞれ、後述するボタンカバー120の押下制止突起124a,124bの幅に適合した間隔をあけて径方向内方にわずかに突出するクリック片139a,139bがそれぞれ形成されている。
第2の規制部材137には、その先端から上方に延びる係止用リブ137bが形成されており、当該係止用リブ137bには、後述する押ボタン150の係止用突条155を係止する、上下方向に延びる係合スリット137cが形成されている。
【0016】
押ボタン150は、
図3に示されるように、円盤状の天井部151と、天井部151の外周縁から下方に延びる円筒状の脚部152と、脚部152の内部に設けられたエアゾール製品100の内容物を外部に噴射するノズル部159とを備えている。
脚部152には、下方に開放された上下方向に延びる2つのスリット153a,153bが形成されている。スリット153a,153bは、一方のスリット153aがノズル部159に近接した位置に形成されていると共に、他方のスリット153bが、一方のスリット153aと平面視で約115度の開き角が形成されるよう離間して形成されている。
天井部151には、その中央にボタンキャップ160の嵌合突起161と係合する嵌合受部154が形成されている。
また、天井部151の表面には、上方に突出して一方の規制突起156がノズル部159の噴射口159dに近接した位置に形成されると共に、上方に突出して他方の規制突起157が一方の規制突起156と平面視で約90度の開き角が形成されるよう離間して形成されている。このように規制突起156,157が形成されることにより、ボタンキャップ160の最大回転角度が約90度に規制される。
脚部152には、その内周面に、肩カバー130の第2の規制部材137の係止用リブ137bに形成された係合スリット137cと係合する、上下方向に延びる係止用突条155が形成されている。係止用突条155は、スリット153aとは約115度、スリット153bとは約130度の開き角が形成されるよう離間して形成されている。
【0017】
押ボタン150のノズル部159は、ステム102に嵌合する外形円筒状のステム用孔159aと、このステム用孔159aから前方に延びる吐出部159bと、吐出部159bを取り囲み、前方に変位するに従って径大となり、脚部152の開口152aと一体に連続して外部に露出するテーパー状の包囲壁159cとを有している。
吐出部159bの先端には噴射口159dが設けられ、ステム用孔159aと吐出部159bの内部には、ステム102の先端から噴出する内容物を噴射口159dまで導く導通孔159eが形成されている。
ステム用孔159aは、ステム102と嵌合して上下褶動可能に前後左右にはガタつきなく案内される形状(本実施例では円筒形状)に形成されている。
【0018】
ボタンカバー120は、
図4に示されるように、中央に押ボタン150を収容可能な下部リング部121と、この下部リング部121の一部(通常噴射状態において前方から見たとき押ボタン150の噴射口159dの左側部)から上方に立ち上がって押ボタン150の側周面の一部を開放して囲うことが可能なハウジング部125とを備えている。
下部リング部121の裏側には、肩カバー130の回転ガイドレール131に係合してボタンカバー120を肩カバー130に対して周方向に回動可能な回転ガイド溝122が形成されている。
下部リング部121の通常噴射状態において押ボタン150の噴射口159dに接近する領域には、所定の噴射角が得られるよう凹み部127が形成されている。
下部リング部121には、径方向内方に突出すると共に下方に延びる2つの押下制止突起124a,124bが、通常噴射状態において押ボタン150の脚部152の2つのスリット153a,153bとそれぞれ適合する位置(スリット153a,153bの直下の位置)に形成されている。
ハウジング部125の上部には、径方向内方に張り出して押ボタン150が押し下げられた位置にある時のみにボタンキャップ160の耳部167をその直下に嵌入可能な係合突起123が形成されている。
【0019】
ボタンキャップ160は、
図5に示されるように、押ボタン150上に回転可能に設けられた略円盤状のものであり、中央の裏側に嵌合突起161が形成された回転天板162と、この回転天板162の外周縁から押ボタン150を包囲可能に下方に突出された手指で操作可能な操作用突起163とを備えている。
回転天板162には、押ボタン150が押し下げられていない位置においてボタンカバー120のハウジング部125の上部に形成された係合突起123の外形形状に適合した切り欠き166が形成されている。回転天板162の外周縁における切り欠き166に隣接する領域(
図5(b)における斜線部)が、ハウジング部125の係合突起123の下に嵌入可能な耳部167とされる。耳部167は、回転天板162の回転方向の下流側の領域である。耳部167における切り欠き166と連続する突端167aは、ボタンカバー120の係合突起123との係合時に容易に当該係合突起123の下に嵌入されるよう鈍角に形成されている。
操作用突起163は、耳部167の突端167aと150度の開き角が形成される位置に形成されている。
回転天板162には、嵌合突起161の外周縁から操作用突起163と同じ方向に径方向外方に突出して回転規制部材164が形成されている。
【0020】
以上のように構成された本発明の一実施形態に係るエアゾール容器用アクチュエータ110の動作および作用について説明する。
エアゾール容器用アクチュエータ110は、
図1に示されるように、肩カバー130がエアゾール製品100のエアゾール容器本体101の上部のマウンティングカップ103に固定的に取付けられ、押ボタン150が、ステム用孔159aをマウンティングカップ103から上方に延びるステム102の上部に嵌合させることにより当該ステム102に接続され、ボタンカバー120が、下部リング部121の回転ガイド溝122を肩カバー130の回転ガイドレール131上に回転可能に取り付けられ、ボタンキャップ160が、嵌合突起161が押ボタン150の嵌合受部154に嵌合されることによって押ボタン150上に取り付けられ、これにより使用可能状態に構成される。
押ボタン150は、係止用突条155が肩カバー130の第2の規制部材137の係合スリット137cに係止されることにより、周方向への移動が禁止される。
この時、前方から見てボタンカバー120のハウジング部125が押ボタン150の左方のみに位置する状態となる。また、ボタンキャップ160の切り欠き166にボタンカバー120のハウジング部125の係合突起123が水平方向に噛み合った状態となる。また、押ボタン150の噴射口159dは前方から視認することができる。
【0021】
〔通常噴射状態〕
操作者がエアゾール製品100の内容物を通常の使用で噴射、噴射停止を行う際は、押ボタン150とボタンカバー120との回動位置関係を、
図1および
図6に示される通常噴射状態(噴射可能状態および噴射状態)として使用される。
図6は、押ボタン150が下方に押圧された噴射時の状態を示し、
図1は、押ボタン150が上方に復帰した噴射停止時の状態を示す。
この通常噴射状態の回動位置関係において、
図7(a)に示されるように、肩カバー130の第1の規制部材136の広角端部136aにボタンカバー120の押下制止突起124aが当接した状態とされている。この押下制止突起124aは、押ボタン150を下方に移動したときに一方のスリット153aと嵌合する位置にあり、同時に、他方の押下制止突起124bが他方のスリット153bと嵌合する位置にあり、これにより、押ボタン150の上下方向への移動が阻止されないようになっている。
また、この通常噴射状態の回動位置関係において、ボタンキャップ160の回転規制部材164は、押ボタン150の一方の規制突起156の狭角端部156a(約90度の開き角に面した側の端部)に当接した状態とされている(
図1(f)参照)。
【0022】
この通常噴射状態の回動位置関係において、操作者が押ボタン150を下方に押し下げると、ステム102が下方に押圧されることにより、マウンティングカップ103の内部に備えられたバルブ機構(図示せず)が開弁され、ノズル部159の噴射口159dから内容物が外部に噴射される。操作者が押ボタン150の押し下げを停止すると、バルブに内蔵されるバネの弾性力によって押ボタン150は自動的に
図1の中立位置まで復帰することになる。
【0023】
〔誤噴射防止(ロック)状態〕
操作者が、誤操作等でエアゾール製品100の内容物が噴射することを防止する際は、押ボタン150に対するボタンカバー120の回動位置関係を、
図8に示される誤噴射防止(ロック)状態として使用される。
この誤噴射防止(ロック)状態は、
図7(b)に示されるように、前述した
図1に示される押ボタン150が上方に復帰した噴射停止時の状態からボタンカバー120を右方(上方から見て反時計方向)に回転させることによって移行することができ、この回動位置関係において、ボタンカバー120の押下制止突起124a,124bの位置がスリット153a,153bに対応する位置から変位して押ボタン150の回動係合機構を構成する脚部152のスリット153a,153b以外の部分の下に入り込み、この押下制止突起124a,124bが邪魔部材となることで押ボタン150が下方に移動することが阻止される。この時、押ボタン150の脚部152の下端面が、ボタンカバー120の押下制止突起124a,124bの上端面に当接している。
このことで、誤って押ボタン150を押圧しても下方に移動することはなく、内容物が予期せずに噴出することが防止される。
ボタンカバー120は、通常噴射状態から右方(上方から見て反時計方向)に約90度回転すると、押下制止突起124bが肩カバー130の第2の規制部材137の広角端部137aに当接して移動が制止される。このとき、ボタンカバー120の押下制止突起124bが第2の規制部材137の広角端部137aに当接したことが、その途上のクリック片139bを乗り越えることによって操作者にクリック感として感触的に伝達される。
ボタンキャップ160は、当該ボタンキャップ160の回転天板162の切り欠き166にボタンカバー120のハウジング部125の上部の係合突起123が形状適合により水平方向に噛み合っているので、押ボタン150がステム102を下方に押し下げていない位置においてボタンカバー120の回転に伴って一体的に回転する。
この誤噴射防止(ロック)状態の回動位置関係において、ボタンキャップ160の回転規制部材164は、押ボタン150の他方の規制突起157の狭角端部157aに当接した状態とされる。ボタンカバー120は約90度まで回転しない状態でも、押下制止突起124a,124bが脚部152の下端面に当接する状態であれば誤噴射防止(ロック)状態とされる。
この誤噴射防止(ロック)状態の回動位置関係において、ボタンカバー120のハウジング部125はノズル部159の噴射口159dを覆っており、噴射口159dが前方から視認することはできなくなる。
【0024】
誤噴射防止(ロック)状態を解除するためにボタンカバー120を左方(上方から見て時計方向)に約90度回転すると、押下制止突起124aが肩カバー130の第1の規制部材136の広角端部136aに当接して移動が制止される。このとき、ボタンカバー120の押下制止突起124aが第1の規制部材136の広角端部136aに当接したことが、その途上のクリック片139aを乗り越えることによって操作者にクリック感として感触的に伝達される。
【0025】
〔噴射維持(ガス抜き)状態〕
操作者が、使用済みのエアゾール容器本体101の内部に残存するガスを放出する際は、押ボタン150がステム102を押し下げた位置において、ボタンカバー120とボタンキャップ160との位置関係を、
図9に示される噴射維持(ガス抜き)状態として使用される。
この噴射維持(ガス抜き)状態は、前述した
図6に示される押ボタン150が下方にステム102を押圧した噴射時の状態から、ボタンキャップ160を右方(上方から見て反時計方向)に回転させることによって移行することができ、この回動位置関係において、ボタンキャップ160のキャップ係合機構を構成する耳部167がボタンカバー120のハウジング部125の係合突起123の下方に挿入されて係合し、押ボタン150が上方に移動することが阻止される。ボタンキャップ160の回転規制部材164は、噴射時の状態(回転規制部材164が押ボタン150の天井部151上の一方の規制突起156の狭角端部156aに当接した状態)から右方(上方から見て反時計方向)に約90度回転すると、押ボタン150の天井部151上の他方の規制突起157の狭角端部157aに当接して移動が制止される。ボタンキャップ160は約90度まで回転しない状態でも、耳部167がある程度ボタンカバー120の係合突起123に係合する状態であれば噴射維持(ガス抜き)状態とされる。
以上のことで、操作者が手を離しても、押ボタン150によりステム102が下方に押圧されて内容物(残存ガス)が噴出する状態を持続できるため、容易にエアゾール容器本体101の内部の残存ガスを放出することができる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態に係るエアゾール容器用アクチュエータ110およびエアゾール製品100について具体的に説明したが、エアゾール容器用アクチュエータ110およびエアゾール製品100の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、上述した実施形態では、ボタンキャップが水平移動(スライド)するものとして構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のエアゾール容器用アクチュエータは、上記実施形態の図示したような形状以外の様々な変形が可能であり、様々な用途のエアゾール製品に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
100 エアゾール製品
101 エアゾール容器本体
102 ステム
103 マウンティングカップ
110 エアゾール容器用アクチュエータ
120 ボタンカバー
121 下部リング部
122 回転ガイド溝
123 係合突起
124a,124b 押下制止突起
125 ハウジング部
127 凹み部
130 肩カバー
131 回転ガイドレール
133 嵌合筒部
134 内方顎部
136 第1の規制部材
136a 広角端部
137 第2の規制部材
137a 広角端部
137b 係止用リブ
137c 係合スリット
139a,139b クリック片
150 押ボタン
151 天井部
152 脚部
152a 開口
153a,153b スリット
154 嵌合受部
155 係止用突条
156 規制突起
156a 狭角端部
157 規制突起
157a 狭角端部
159 ノズル部
159a ステム用孔
159b 吐出部
159c 包囲壁
159d 噴射口
159e 導通孔
160 ボタンキャップ
161 嵌合突起
162 回転天板
163 操作用突起
164 回転規制部材
166 切り欠き
167 耳部
167a 突端