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特許7252753ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
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  • 特許-ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/28 20060101AFI20230329BHJP
   B29B 7/20 20060101ALI20230329BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B29B7/28
B29B7/20
C08J3/20 B CEQ
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018241515
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020100116
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-018890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00-7/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカおよびシランカップリング剤の反応が抑制されるように、少なくともゴム、前記シリカおよび前記シランカップリング剤を、混練り温度を制御しながらローターを備える密閉式混練機で混練りする工程と、
前記反応がすすむように、混練り温度を制御しながら前記密閉式混練機で混練りする工程とを含
前記反応が抑制されるように混練りする前記工程では、混練り温度を目標温度とするためにProportional Integral Differential制御で前記ローターの回転速度を制御し、
前記反応がすすむように混練りする前記工程では、混練り温度を目標温度とするためにProportional Integral Differential制御で前記ローターの回転速度を制御する、
ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム組成物の製造方法でゴム組成物を作製する工程と、
前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む、
タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムの補強用充填剤として使用されるシリカは、シラノール基を有するため、水素結合によって凝集する傾向がある。よって、シリカをうまく分散させることは容易ではない。特に、シリカを高充てんする場合や、小粒径のシリカを使用する場合は、シリカをうまく分散させることが難しい。
【0003】
シリカをうまく分散させることで、タイヤにとって重要な性能である低発熱性や、湿潤路面での制動性(以下、「湿潤路面制動性」という。)を改善し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-18890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、タイヤの低発熱性と、タイヤの湿潤路面制動性とを改善することが可能なゴム組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示におけるゴム組成物の製造方法は、シリカおよびシランカップリング剤の反応が抑制されるように、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら混練りする工程と、シリカおよびシランカップリング剤の反応がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りする工程とを含む。
【0007】
本開示におけるタイヤの製造方法は、本開示におけるゴム組成物の製造方法でゴム組成物を作製する工程と、ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1で使用することが可能な密閉式混練機の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示における一態様に係るゴム組成物の製造方法は、シリカおよびシランカップリング剤の反応(以下、「シラン反応」という。)が抑制されるように、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら混練りする工程(以下、「工程K1」という。)と、シラン反応がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りする工程(以下、「工程K3」という。)とを含む。なお、工程K1と工程K3との間に、混練り温度を上昇させながら混練りする工程(以下、「工程K2」という。)を、本態様のゴム組成物の製造方法は含んでいてもよい。
【0010】
本態様のゴム組成物の製造方法は、タイヤの低発熱性を改善することができる。このような効果を奏するに至る機序は、次のように推測される。
【0011】
シラン反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)が抑制されるように、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら混練りするため、シラン反応が活発にすすむ前に、シリカを効果的に分散させることができる。よって、シラン反応が活発にすすむ前に、シリカが分散した状態を作り出すことができる。その後、シラン反応がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りするため、シリカが分散した状態でシラン反応を活発にすすめることができる。よって、シラン反応の効率を上げることが可能であり、シリカの凝集力を効果的に低下させることができる。その結果、シリカが微分散し、タイヤの低発熱性が改善すると考えらえる。
【0012】
本態様のゴム組成物の製造方法は、タイヤの湿潤路面制動性を改善することもできる。これは、本態様のゴム組成物の製造方法がシリカを微分散できることによると考えられる。
【0013】
本態様のゴム組成物の製造方法は、ムーニー粘度を下げることができる。これも、本態様のゴム組成物の製造方法がシリカを微分散できることによると考えられる。
【0014】
混練り温度が一定に保持されるように混練りすることを、工程K1は含んでいてもよい。この構成によれば、混練りの進行にともなう混練り温度の上昇を抑制することができるため、シラン反応を効果的に抑制することができる。よって、工程K1で、シリカを、いっそう効果的に分散させることができる。
【0015】
混練り温度が一定に保持されるように混練りすることを、工程K3は含んでいてもよい。この構成によれば、混練りの進行にともなう混練り温度の上昇を抑制することができるため、ゲル化を抑制しつつ、シラン反応をすすめることができる。
【0016】
工程K1では密閉式混練機で混練りし、工程K3でも密閉式混練機で混練りしてもよい。
【0017】
《実施形態1》
ここからは、本態様の一例である実施形態1について説明する。
【0018】
<1.密閉式混練機>
まず、実施形態1で使用することが可能な密閉式混練機について説明する。
【0019】
図1に示すように、密閉式混練機1は、ケーシング2およびローター3を有する混練部4と、混練部4の上方に位置し、内部に筒状の空間を有するネック部5と、ネック部5に設けられた投入口6と、ネック部5の筒状の空間を上下に移動可能なラム7と、混練部4の下面に位置するドロップドア9とを備える。
【0020】
ケーシング2の上面中央部には、開口部2aが設けられている。開口部2aの上方には、内部に筒状の空間を有するネック部5が設けられている。ネック部5の側面には、ゴムや配合剤を投入可能な投入口6が設けられている。ゴムと配合剤とを別々の投入口から投入するために、投入口6を2つ以上設けても良い。投入口6から投入されたゴムおよび配合剤は、ネック部5の筒状の空間内を通って、ケーシング2の開口部2aからケーシング2内に投入される。
【0021】
ラム7は、ケーシング2の開口部2aを閉塞可能な形状をなす。ラム7は、その上端に連結されたシャフト8によって、ネック部5の筒状の空間を上下方向に移動することができる。ラム7は、その自重またはシャフト8からの押圧力によって、ケーシング2内に存在するゴムを押付・加圧することができる。
【0022】
ドロップドア9は、混練中は閉じている。混練終了後にはドロップドア9は開かれる。
【0023】
ローター3を回転させるモーター(不図示)の回転速度は、制御部11からの制御信号に基づいて調整される。制御部11は、温度センサー13から送られる混練部4内の温度情報(具体的には実測温度Tp)に基づき、モーターの回転速度の制御をおこなう。モーターは、制御部11によって回転速度を自在に変化させることができる。モーターは、たとえばインバータモーターであることができる。
【0024】
モーターの回転速度を決定するために、制御部11の内部に設けられたPID演算処理部は、温度センサー13が検出する混練部4内の実測温度Tpと目標温度Tsとの偏差から、比例(P)、積分(I)および微分(D)の演算をおこなう。具体的には、PID演算処理部は、実測温度Tpおよび目標温度Tsの差(偏差e)に比例して制御量を算出する比例(P)動作と、偏差eを時間軸方向に積分した積分値により制御量を算出する積分(I)動作と、偏差eの変化の傾きすなわち微分値より制御量を算出する微分(D)動作とによって得られる各制御量の合算値により、モーターの回転速度を決定する。なお、PIDは、Proportional Integral Differentialの略である。
【0025】
<2.ゴム組成物の製造方法の各工程>
次に、実施形態1におけるゴム組成物の製造方法が含む工程のいくつかを説明する。
【0026】
実施形態1におけるゴム組成物の製造方法は、ゴム混合物を作製する工程(以下、「工程S1」という。)と、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る工程(以下、「工程S2」という。)とを含む。
【0027】
<2.1.工程S1(ゴム混合物を作製する工程)>
工程S1は、シラン反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)が抑制されるように、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を、混練り温度を制御しながら混練りする工程K1と、次いで、混練り温度を上昇させながら混練りする工程K2と、次いで、シラン反応がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りする工程K3とを含む。
【0028】
<2.1.1.工程K1(シラン反応が抑制されるように混練りする工程)>
工程K1では、少なくともゴム、シリカおよびシランカップリング剤を密閉式混練機1に投入し、シラン反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)が抑制されるように、混練り温度を制御しながらこれらを混練りする。
【0029】
ゴムとして、たとえば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどを挙げることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。ゴムは、ジエン系ゴムであることが好ましい。
【0030】
ゴムとして、変性ゴムを使用してもよい。変性ゴムとして、変性SBR、変性BRを挙げることができる。変性ゴムは、ヘテロ原子を含む官能基を有することができる。官能基は、ポリマー鎖の末端に導入されてもよく、ポリマー鎖中に導入されてもよいが、好ましくは末端に導入されることである。官能基としては、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、シアノ基、ハロゲン基などが挙げられる。なかでも、アミノ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基が好ましい。変性ゴムは、例示した官能基のうち少なくとも1種を有することができる。アミノ基としては、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基などが挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。例示した官能基は、シリカのシラノール基(Si-OH)と相互作用する。ここで、相互作用とは、たとえば、シリカのシラノール基との間で化学反応による化学結合または水素結合することを意味する。工程K1で使用するゴム100質量%中の変性ゴムの量は、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。工程K1で使用するゴム100質量%中の変性ゴムの量は、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
【0031】
シリカとして、たとえば、湿式シリカ、乾式シリカを挙げることができる。なかでも、湿式シリカが好ましい。湿式シリカとして、沈降法シリカを挙げることができる。シリカの窒素吸着法による比表面積は、たとえば、80m/g以上であってもよく、120m/g以上であってもよく、140m/g以上であってもよく、160m/g以上であってもよい。シリカの比表面積は、たとえば、300m/g以下であってもよく、280m/g以下であってもよく、260m/g以下であってもよく、250m/g以下であってもよい。ここで、シリカの比表面積は、JIS K-6430に記載の多点窒素吸着法(BET法)に準じて測定される。
【0032】
工程K1において、シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。シリカの量は、30質量部以上であってもよく、40質量部以上であってもよく、60質量部以上であってもよい。シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは160質量部以下、より好ましくは140質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。シリカの量は、100質量部以下であってもよく、90質量部以下であってもよい。
【0033】
シランカップリング剤として、たとえば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランを挙げることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0034】
工程K1において、シランカップリング剤の量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。シランカップリング剤量の上限は、シリカ100質量部に対して、たとえば20質量部、15質量部である。
【0035】
工程K1では、ゴム、シリカおよびシランカップリング剤とともに、カーボンブラック、老化防止剤、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、オイルなどを混練りすることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0036】
カーボンブラックとしては、たとえばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどのファーネスブラックのほか、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0037】
老化防止剤として、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。
【0038】
工程K1では、混練り温度が、一定に保持されるように混練りする。「混練り温度が、一定に保持される」とは、混練り温度が、一定の範囲内に保持されることを含む。工程K1では、具体的には、実測温度Tpが、目標温度Tsに保持されるように混練りする。このとき、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃内に保持され得る。目標温度Tsは、140℃未満であってもよく、138℃以下であってもよく、135℃以下であってもよく、132℃以下であってもよく、130℃以下であってもよい。目標温度Tsは、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上がさらに好ましく、120℃以上がさらに好ましい。これが低すぎると、シリカを分散させるために時間がかかる傾向がある。なお、目標温度Tsは、配合を考慮して、特にシランカップ剤の種類を考慮して適宜設定することができる。
【0039】
工程K1では、10秒以上、混練り温度が一定の範囲内に保持されるように混練りする。20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましくは、40秒以上がさらに好ましい。1000秒以下であってもよく、800秒以下であってもよく、600秒以下であってもよく、400秒以下であってもよく、200秒以下であってもよく、100秒以下であってもよい。
【0040】
混練り温度の保持は、ローター3の回転速度の調整によっておこなわれる。具体的には、ローター3の回転速度が、PID制御で調整されることによって、混練り温度の保持がおこなわれる。ここでは、ローター3の回転速度が、実測温度Tpを目標温度TsとするためのPID制御で調整される。PID制御は、混練りの当初から開始してもよく、実測温度Tpが、所定の温度に到達することをもって、開始してもよい。
【0041】
<2.1.2.工程K2(混練り温度を上昇させながら混練りする工程)>
工程K2では、混練り温度を上昇させながら混練りする。工程K2では、混練り温度を、シラン反応が活発にすすむ温度(たとえば140℃以上)まで上昇させる。具体的には、混練り温度を、工程K3の目標温度Tsまで上昇させる。
【0042】
<2.1.3.工程K3(シラン反応がすすむように混練りする工程)>
工程K3では、シラン反応(シリカおよびシランカップリング剤の反応)がすすむように、混練り温度を制御しながら混練りする。
【0043】
工程K3では、混練り温度が、一定に保持されるように混練りする。「混練り温度が、一定に保持される」とは、混練り温度が、一定の範囲内に保持されることを含む。工程K3では、具体的には、実測温度Tpが、目標温度Tsに保持されるように混練りする。このとき、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃内に保持され得る。目標温度Tsは、140℃以上であってもよく、142℃以上であってもよく、145℃以上であってもよく、148℃以上であってもよく、150℃以上であってもよい。これが低すぎると、シラン反応をすすめるために時間がかかり過ぎる傾向がある。目標温度Tsは、170℃以下が好ましく、165℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、155℃以下がさらに好ましく、153℃以下がさらに好ましい。これが高すぎると、ゲルが発生することがある。
【0044】
工程K3では、20秒以上、混練り温度が一定の範囲内に保持されるように混練りする。40秒以上が好ましく、60秒以上がより好ましく、80秒以上がさらに好ましい。2000秒以下であってもよく、1500秒以下であってもよく、1000秒以下であってもよく、500秒以下であってもよく、300秒以下であってもよく、200秒以下であってもよい。
【0045】
なお、混練り温度の保持は、工程K1と同じように、ローター3の回転速度の調整によっておこなわれる。
【0046】
その後、必要に応じて、所定の排出温度まで混練りを続け、ドロップドア9を開け、ゴム混合物を排出する。
【0047】
<2.1.4.そのほか>
ゴム混合物は、必要に応じて、さらに混練をおこなうことができる。たとえば、ゴム混合物に、シリカおよびシランカップリング剤を必要に応じて追加し、さらに混練することができる。この段階で追加するシリカは、工程K1で投入するシリカと同種であってもよく、異種であってもよい。この段階で追加するシランカップリング剤は、工程K1で投入するシランカップリング剤と同種であってもよく、異種であってもよい。
【0048】
以上のような手順で、ゴム混合物を得ることができる。
【0049】
<2.2.工程S2(ゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る工程)>
工程S2では、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る。加硫系配合剤として硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などを挙げることができる。加硫系配合剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。硫黄として粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを挙げることができる。硫黄は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などを挙げることができる。加硫促進剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。混練りは、混練機でおこなうことができる。混練機として密閉式混練機、オープンロールなどを挙げることができる。密閉式混練機としてバンバリーミキサー、ニーダーなどを挙げることができる。
【0050】
ゴム組成物において、シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。シリカの量は、30質量部以上であってもよく、40質量部以上であってもよく、60質量部以上であってもよい。シリカの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは160質量部以下、より好ましくは140質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。シリカの量は、100質量部以下であってもよく、90質量部以下であってもよい。
【0051】
ゴム組成物において、シランカップリング剤の量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。シランカップリング剤量の上限は、シリカ100質量部に対して、たとえば20質量部、15質量部である。
【0052】
ゴム組成物は、カーボンブラック、老化防止剤、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、オイル、硫黄、加硫促進剤などをさらに含むことができる。これらのうち、一つまたは任意の組み合わせをゴム組成物は含むことができる。硫黄の量は、ゴム100質量部に対して、硫黄分換算で好ましくは0.5質量部~5質量部である。加硫促進剤の量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~5質量部である。
【0053】
ゴム組成物は、タイヤの作製に使用できる。具体的には、タイヤを構成するタイヤ部材の作製に使用可能である。たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムなどの作製にゴム組成物を使用できる。これらのタイヤ部材のうち、一つまたは任意の組み合わせを作製するためにゴム組成物を使用できる。
【0054】
<3.タイヤの製造方法の各工程>
次に、実施形態1におけるタイヤの製造方法が含む工程のいくつかを説明する。なお、これらの工程のうち、ゴム組成物の作製工程はすでに説明した。
【0055】
実施形態1におけるタイヤの製造方法は、ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程を含む。この工程は、ゴム組成物を含むタイヤ部材を作製すること、およびタイヤ部材を備える未加硫タイヤを作製することを含む。タイヤ部材として、たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムを挙げることができる。なかでも、トレッドゴムが好ましい。
【0056】
実施形態1におけるタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫成型する工程をさらに含むことができる。実施形態1の方法で得られたタイヤは、空気入りタイヤであることができる。
【0057】
<実施形態1には種々の変更を加えることができる>
実施形態1におけるゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、実施形態1に変更を加えることができる。
【0058】
上述の実施形態1では、工程K1にて、ローター3の回転速度で混練り温度を制御する、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。たとえば、密閉式混練機1のジャケット(不図示)を流れる加熱冷却媒体の温度で混練り温度を制御してもよく、ラム7の押圧力で混練り温度を制御してもよい。これらの任意の組み合わせで混練り温度を制御してもよい。
【0059】
上述の実施形態1では、工程K1にて、混練り温度をPID制御に基づいて制御する、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。PID制御以外の制御方法に基づいて混練り温度を制御してもよい。
【0060】
上述の実施形態1では、工程K3にて、ローター3の回転速度で混練り温度を制御する、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。たとえば、密閉式混練機1のジャケット(不図示)を流れる加熱冷却媒体の温度で混練り温度を制御してもよく、ラム7の押圧力で混練り温度を制御してもよい。これらの任意の組み合わせで混練り温度を制御してもよい。
【0061】
上述の実施形態1では、工程K3にて、混練り温度をPID制御に基づいて制御する、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。PID制御以外の制御方法に基づいて混練り温度を制御してもよい。
【0062】
上述の実施形態1では、ゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る、という構成を説明した。しかしながら、実施形態1は、この構成に限定されない。たとえば、ゴム混合物をゴム組成物とみなしてもよい。
【実施例
【0063】
以下に、本開示の実施例を説明する。
【0064】
実施例で使用した原料および薬品を次に示す。
SBR 「SBR1502」JSR社製
変性溶液重合SBR 「HPR350」JSR社製
シリカ 「ニプシールAQ」東ソー社製
シランカップリング剤 「Si75」デグッサ社製
ステアリン酸 「ルナックS20」花王社製
カーボンブラック 「N339シーストKH」東海カーボン社製
オイル 「プロセスNC140」JX日鉱日石社製
酸化亜鉛 「酸化亜鉛2種」三井金属鉱業社製
老化防止剤 「アンチゲン6C」住友化学社製
硫黄 「5%油処理硫黄」鶴見化学工業社製
加硫促進剤1 「サンセラーDM-G」三新化学工業社製
加硫促進剤2 「ソクシノールCZ」住友化学社製
【0065】
【表1】
【0066】
比較例1における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、PID制御なしで混練りし、160℃で排出し、第一混合物を得た(第一混練工程)。次いで、第一混合物と、残りの配合剤(シリカおよびシランカップリング剤)とをB型バンバリーミキサーに投入し、PID制御なしで混練りし、160℃で排出し、第二混合物を得た(第二混練工程)。第二混合物を再練りした後、硫黄と加硫促進剤とを添加し、混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0067】
比較例2における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表2にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第一混合物を得た(第一混練工程)。次いで、第一混合物と、残りの配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、PID制御なしで混練りし、160℃で排出し、第二混合物を得た(第二混練工程)。第二混合物を再練りした後、硫黄と加硫促進剤とを添加し、混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0068】
比較例3における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表2にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第一混合物を得た(第一混練工程)。次いで、第一混合物と、残りの配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表2にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第二混合物を得た(第二混練工程)。第二混合物を再練りした後、硫黄と加硫促進剤とを添加し、混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0069】
比較例4における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表2にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第一混合物を得た(第一混練工程)。次いで、第一混合物と、残りの配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表2にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第二混合物を得た(第二混練工程)。第二混合物に、硫黄と加硫促進剤とを添加し、混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0070】
実施例1における未加硫ゴムの作製
表1にしたがってゴムと配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表2にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=130℃で混練りし、次いで、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第一混合物を得た(第一混練工程)。次いで、第一混合物と、残りの配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表2にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=130℃で混練りし、次いで、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第二混合物を得た(第二混練工程)。第二混合物を再練りした後、硫黄と加硫促進剤とを添加し、混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0071】
実施例2における未加硫ゴムの作製
第二混合物の再練りをおこなわなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で、未加硫ゴムを得た。
【0072】
実施例3における未加硫ゴムの作製
第一混練工程のPID制御条件を変更するとともに、第二混練工程のPID制御条件を変更したこと以外は、実施例2と同じ方法で、未加硫ゴムを得た。
【0073】
加硫ゴムの作製
未加硫ゴムを150℃、30分間で加硫し、加硫ゴムを得た。
【0074】
生産性
第一混練工程から最終混練工程までの総混練り時間を求めた。比較例1の総混練り時間を100とした指数で、各例の総混練り時間を表2に示す。指数が小さいほど総混練り時間が短く、生産性に優れる。
【0075】
ムーニー粘度
未加硫ゴムのムーニー粘度を、東洋精機製作所製のロータレスムーニー測定機を用いて、JIS K-6300に準じて測定した。ムーニー粘度を測定するために、未加硫ゴムを100℃で1分間予熱した後にローターを回転させ、ローターの回転開始から4分後のトルク値をムーニー単位で記録した。比較例1のムーニー粘度を100とした指数で、各例のムーニー粘度を表2に示す。指数が小さいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。
【0076】
湿潤路面制動性
リュプケ式反発弾性試験機を使用し、23℃の条件でJIS K6255に準じて、反発弾性(%)を測定した。比較例1における反発弾性の逆数を100とした指数で、各例の逆数(反発弾性の逆数)を表2に示す。指数が大きいほど湿潤路面制動性に優れる。
【0077】
低燃費性
加硫ゴムのtanδを、東洋精機社製の粘弾性試験機を使用し、JIS K-6394に準じて測定した。tanδは、周波数10Hz、動歪み1.0%、温度60℃、静歪み(初期歪み)10%の条件で測定した。比較例1のtanδを100とした指数で、各例のtanδを表2に示す。指数が小さいほどtanδが低く、低燃費性に優れる。
【0078】
【表2】
【0079】
表2、および後述の表4において、第一温度制御とは、実測温度Tpが目標温度Tsに到達した時点で開始されるPID制御を意味する。第一温度制御時間は、第一温度制御をおこなった時間(時の長さ)である。第二温度制御も、実測温度Tpが目標温度Tsに到達した時点で開始されるPID制御を意味する。第二温度制御時間は、第二温度制御をおこなった時間(時の長さ)である。
【0080】
実施例1~3の第一温度制御において、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃の範囲内におさまった。実施例1~3の第二温度制御においても、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃の範囲内におさまった。比較例2および比較例3の温度制御においても、目標温度Tsのプラスマイナス5℃の範囲内におさまった。
【0081】
シランカップリング剤(「Si75」デグッサ社製)は、130℃ではシリカとの反応がほとんどすすまず、150℃ではシリカとの反応がすすむところ、130℃保持(第一温度制御)で混練し、次いで150℃保持(第二温度制御)で混練することによって、低発熱性、湿潤路面制動性を改善することができた(比較例1、比較例3、実施例1参照。比較例4、実施例2参照)。また、ムーニー粘度を下げることもできた(比較例1、比較例3、実施例1参照。比較例4、実施例2参照)。
【0082】
比較例5における未加硫ゴムの作製
表3にしたがってゴムと配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表4にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第一混合物を得た(第一混練工程)。次いで、第一混合物を再練りした後、硫黄と加硫促進剤とを添加し、混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0083】
実施例4における未加硫ゴムの作製
表3にしたがってゴムと配合剤とをB型バンバリーミキサーに投入し、表4にしたがってPID制御で混練りし(すなわち、目標温度Ts=130℃で混練りし、次いで、目標温度Ts=150℃で混練りした)、160℃で排出し、第一混合物を得た(第一混練工程)。次いで、第一混合物を再練りした後、硫黄と加硫促進剤とを添加し、混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0084】
加硫ゴムの作製と評価
未加硫ゴムを150℃、30分間で加硫し、加硫ゴムを得た。各項目(生産性、ムーニー粘度、湿潤路面制動性、低燃費性)を上述の方法で評価し、その結果を表4に示す。生産性に関しては、比較例5の総混練り時間を100とした指数で、実施例4の総混練り時間を表4に示す。指数が小さいほど総混練り時間が短く、生産性に優れる。比較例5のムーニー粘度を100とした指数で、実施例4のムーニー粘度を表4に示す。指数が小さいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。比較例5における反発弾性の逆数を100とした指数で、実施例4の逆数(反発弾性の逆数)を表4に示す。指数が大きいほど湿潤路面制動性に優れる。比較例5のtanδを100とした指数で、実施例4のtanδを表4に示す。指数が小さいほどtanδが低く、低燃費性に優れる。
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
実施例4の第一温度制御において、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃の範囲内におさまった。実施例4の第二温度制御においても、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃の範囲内におさまった。比較例5の温度制御においても、実測温度Tpが、目標温度Tsのプラスマイナス5℃の範囲内におさまった。
【0088】
第一温度制御(130℃保持)で混練し、次いで第二温度制御(150℃保持)で混練することによって、低発熱性、湿潤路面制動性を改善することができた(比較例5、実施例4参照)。また、ムーニー粘度を下げることもできた(比較例5、実施例4参照)。
図1