(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】密封構造
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230329BHJP
F16C 19/28 20060101ALI20230329BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230329BHJP
F16J 15/3212 20160101ALI20230329BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/28
F16J15/3232 201
F16J15/3212
(21)【出願番号】P 2019088582
(22)【出願日】2019-05-08
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 諭史
(72)【発明者】
【氏名】井形 幸夫
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-80828(JP,A)
【文献】特開2012-17019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72-33/82
F16J 15/3204-15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の部分を有する第1部材と、
前記円筒状の部分の径方向内方に位置する本体部を有すると共に、前記第1部材と同心状に配置され当該第1部材と相対回転する第2部材と、
前記第1部材に取り付けられ、当該第1部材と前記第2部材との間であって潤滑剤が充填される空間を密封する環状のシール部材と、を備え、
前記第2部材は、更に、前記本体部の軸方向一方側から径方向外方に延びている第1延長部と、当該第1延長部の径方向外側から軸方向他方に延び径方向内方に向くシール面が設けられている第2延長部と、を有し、
前記シール部材は、
前記第1部材に固定されている固定部と、
当該固定部から軸方向一方に延びている基部、当該基部の径方向外方側に間隔をあけて設けられ前記シール面に接触する接触部、及び、前記基部の軸方向一方側と前記接触部の軸方向一方側とを繋ぐ接続部を有するゴム製のリップ部と、
前記基部と前記接触部との間に設けられ当該接触部を前記シール面側へ押圧する押圧部材と、
前記基部に沿って設けられ当該基部よりも剛性の高い支持部と、を有
し、
前記固定部は、前記第1部材に取り付けられている金属部材を有し、
前記支持部は、前記金属部材と別体となって設けられていて、
前記支持部は、前記基部に沿って軸方向に延びて設けられている筒状の支持本体部と、当該支持本体部と一体であって前記金属部材の一部に軸方向に接触する補助部と、を有し、
前記補助部は、前記支持本体部の軸方向他方側の端部から径方向内方に延びて設けられていて、
前記円筒状の部分と前記本体部と間の空間の軸方向他方側から、当該空間に、潤滑剤が供給され、
供給される前記潤滑剤の圧力によって、前記空間の潤滑剤は、前記第1延長部と前記接続部との間を経て、前記第2延長部の前記シール面と前記接触部との間から排出される、密封構造。
【請求項2】
前記金属部材は、前記第1部材に取り付けられる円筒部と、当該円筒部から径方向内方に延びている円環部と、を有し、
前記補助部は、筒状である前記支持本体部の軸方向他方側の端部から径方向内方に延びて設けられ円環形状を有していて、
当該補助部の径方向内側の端部は、前記円環部の径方向内側の端部よりも、更に径方向内方に突出している、請求項
1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記接触部は、前記シール面に対向する対向面を有し、
前記対向面は、前記空間の外部側となる軸方向他方側に設けられ前記シール面に全周で接触する全接触領域と、前記空間側となる軸方向一方側に設けられ前記シール面に周方向について不連続に接触する部分接触領域と、を有する、請求項1
又は請求項2に記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば十字軸継手における軸部と軸受カップのように互いに相対回転する二つの部材の間に設けられる密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼用圧延機のスピンドル装置や自動車のドライブシャフトには、軸と軸との連結部にユニバーサルジョイントとして十字軸継手が用いられる。十字軸継手は、4本の軸部を十字状に配置した十字軸と、各軸部に被せられる有底円筒状の軸受カップと、軸部の外周面と軸受カップの内周面との間に転動自在に配設される複数の針状ころとを備える。軸受カップに、各軸の端部に設けられたヨークが連結される。軸部の基端部と軸受カップの端部との間には、密封構造が設けられる。これにより、軸部と軸受カップとの間に形成される針状ころの収容空間への水等の浸入が防止されると共に、当該収容空間から外部への潤滑剤の漏出が抑制される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている密封構造は、
図11に示すように、軸受カップ111に取り付けられかつスリンガ106に摺接する環状のシール部材107を備える。スリンガ106は、径方向内方に向くシール面141を有する。シール部材107は、軸受カップ111に固定される金属部材134と、金属部材134に接着されシール面141に接触するリップ部131と、リップ部131をシール面141側へ押圧するガータスプリング151と、を備える。
【0005】
スリンガ106と軸受カップ111との間の空間(潤滑空間)を潤滑剤(グリース)で潤滑する場合、メンテナンスの際などに、潤滑空間内の潤滑剤を新しい潤滑剤に入れ替える作業が行われる。そのために、新しい潤滑剤を給脂孔から供給し、これに伴って、古い潤滑剤を、リップ部131とシール面141との間から外部へ排出する必要がある。しかしながら、
図11に示す密封構造の場合、新たな潤滑剤を潤滑空間に供給すると、
図12に矢印cで示すように、潤滑剤の内圧によって、リップ部131をシール面141へ押し付ける力が作用する。すると、シール面141に対向するリップ部131の側面131c2の略全体がシール面141に強く接触する。そのため、リップ部131とシール面141との間を通じて潤滑空間外部に潤滑剤を排出することが困難となる。
【0006】
そこで、本開示の発明は、潤滑剤が充填される空間(潤滑空間)を密封する密封構造において、新たな潤滑剤を供給する際の古い潤滑剤の排出性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の密封構造は、円筒状の部分を有する第1部材と、前記円筒状の部分の径方向内方に位置する本体部を有すると共に、前記第1部材と同心状に配置され当該第1部材と相対回転する第2部材と、前記第1部材に取り付けられ、当該第1部材と前記第2部材との間であって潤滑剤が充填される空間を密封する環状のシール部材と、を備え、前記第2部材は、更に、前記本体部の軸方向一方側から径方向外方に延びている第1延長部と、当該第1延長部の径方向外側から軸方向他方に延び径方向内方に向くシール面が設けられている第2延長部と、を有し、前記シール部材は、前記第1部材に固定されている固定部と、当該固定部から軸方向一方に延びている基部、当該基部の径方向外方側に間隔をあけて設けられ前記シール面に接触する接触部、及び、前記基部の軸方向一方側と前記接触部の軸方向一方側とを繋ぐ接続部を有するゴム製のリップ部と、前記基部と前記接触部との間に設けられ当該接触部を前記シール面側へ押圧する押圧部材と、前記基部に沿って設けられ当該基部よりも剛性の高い支持部と、を有する。
【0008】
前記密封構造では、ゴム製であるリップ部の基部に沿って剛性の高い支持部が設けられている。このため、第1部材と第2部材との間の空間に供給された潤滑剤の圧力によってリップ部がシール面を強く押し付けるのを防ぐことが可能となる。このため、新しい潤滑剤を供給する際の古い潤滑剤の排出性能を高めることができる。
【0009】
また、好ましくは、前記固定部は、前記第1部材に取り付けられている金属部材を有し、前記支持部は、前記金属部材と別体となって設けられている。
金属部材と支持部との内の一方又は双方が、曲がり部を有する形状であっても、金属部材と支持部とを別々に製造することができ、製造が容易となる。
【0010】
また、好ましくは、前記支持部は、前記基部に沿って軸方向に延びて設けられている筒状の支持本体部と、当該支持本体部と一体であって前記金属部材の一部に軸方向に接触する補助部と、を有する。
この場合、ゴム製のリップ部、支持部、及び金属部材を含むシール部材が一体となるように成形される際、支持部を金属部材の一部に軸方向に接触させることで、支持部と金属部材との軸方向についての位置決めが容易となる。
【0011】
また、好ましくは、前記金属部材は、前記第1部材に取り付けられる円筒部と、当該円筒部から径方向内方に延びている円環部と、を有し、前記補助部は、筒状である前記支持本体部の軸方向他方側の端部から径方向内方に延びて設けられ円環形状を有していて、当該補助部の径方向内側の端部は、前記円環部の径方向内側の端部よりも、更に径方向内方に突出している。
この場合、ゴム製のリップ部、支持部、及び金属部材を含むシール部材が一体となるように、金型を用いて成形される際、その金型の一部を、径方向内方に突出している補助部の前記端部に接触させることができる。このため、支持部の径方向についての位置決めが容易となる。
【0012】
また、好ましくは、前記接触部は、前記シール面に対向する対向面を有し、前記対向面は、前記空間の外部側となる軸方向他方側に設けられ前記シール面に全周で接触する全接触領域と、前記空間側となる軸方向一方側に設けられ前記シール面に周方向について不連続に接触する部分接触領域と、を有する。
この構成によれば、前記空間内に供給された潤滑剤によってリップ部がシール面に押し付けられたとしても、対向面の部分接触領域では、シール面に接触していない部分が存在する。このため、当該部分に潤滑剤が入り込み、その潤滑剤が全接触領域を押し上げて前記空間の外部に排出される。したがって、新しい潤滑剤を供給する際の古い潤滑剤の排出性能を、より一層、高めることができる。また、対向面が全接触領域を備えていることによってシール性は確保される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の密封構造によれば、潤滑剤が充填される空間を密封する密封構造において、新たな潤滑剤を供給する際の、古い潤滑剤の排出性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】密封構造が適用された十字軸継手の部分分解斜視図である。
【
図5】シール部材の第1リップ部の作用を示す断面図である。
【
図6】(a)は
図5のE矢視図、(b)は
図5のF矢視図である。
【
図7】(a)は、潤滑剤の供給圧が付与されていない第1リップ部を示す断面図、(b)は、潤滑剤の供給圧が付与されている第1リップ部を示す断面図である。
【
図8】密封構造の第1シール面に対する全接触領域の面圧の変化を示す説明図である。
【
図9】第1リップ部の溝の変形例を示す
図6に相当する図面である。
【
図10】支持部が金型に固定される様子を示す説明図である。
【
図12】従来技術の密封構造において、潤滑剤の供給圧が付与されているリップ部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔密封構造及び十字軸継手について〕
図1は、密封構造が適用された十字軸継手の部分分解斜視図であり、
図2は、十字軸継手の側面図(一部断面図)である。十字軸継手20は、例えば鉄鋼用圧延機のスピンドル装置(図示省略)に用いられる。
図1に示すように、十字軸継手20は、4本の軸部4を有する十字軸2と、各軸部4に配設されたころ軸受部5と、一対のヨーク17とを備える。
【0016】
十字軸2は、中央に設けられた基部3と、基部3から互いに直交する軸心X及び軸心Zに沿って四方向に延びる4本の軸部4とを有する。十字軸2は、ヨーク17と共に、基部3の中心を通過し、かつ、軸部4の軸心X及び軸心Zと直交する中心軸C回りに回転可能である。十字軸2には、ころ軸受部5の内部に潤滑剤を供給するための給脂路13が軸心X及び軸心Zに沿って十字状に形成されている。
【0017】
図2に示すように、十字軸2の基部3と、後述するころ軸受部5の軸受カップ11とには、給脂路13に接続される給脂孔3a,11aがそれぞれ形成されている。これらの給脂孔3a,11a及び給脂路13を介して、ころ軸受部5内に潤滑剤が供給される。本実施形態では、潤滑剤としてグリースが使用される。また、グリースの供給は、十字軸継手20を備えた装置の運転中に行われてもよいし、定期的(例えば、1~3か月毎)に行われてもよい。
【0018】
ころ軸受部5は、前述の軸部4と、複数の針状ころ9と、軸受カップ11とを備える。針状ころ9は、各軸部4の外周面に沿って転動自在に配置されている。軸受カップ11は、有底筒状に形成されている。つまり、軸受カップ11は、円筒状の部分14と、底を構成する円板状の部分15とを有する。軸受カップ11は、針状ころ9を介して軸部4の外周面に嵌合されている。針状ころ9は、軸受カップ11(円筒状の部分14)の内周面を外輪軌道とし、軸部4の外周面を内輪軌道として転動する。これにより、軸受カップ11は軸部4の軸心Z回りに揺動可能となる。また、その隣の軸受カップ11は軸心X回りに揺動可能となる。
【0019】
図1に示すように、軸部4の先端面と軸受カップ11の底面との間には座金10が設けられる。針状ころ9の軸心Z方向内側には、ころガイド8、シール部材7及びスリンガ6が配設される。シール部材7、スリンガ(第2部材)6、及び軸受カップ(第1部材)11によって、本開示に係る密封構造1が構成される。スリンガ6と軸受カップ11とは同心状に配置されていて相対回転する。
【0020】
〔密封構造1について〕
図3は、密封構造1の断面図である。
図4は、シール部材7がスリンガ6に接触していない状態、すなわち自然状態のシール部材7を示す断面図である。軸部4と軸受カップ11の円筒状の部分14との間に、針状ころ9が配置される空間であって潤滑剤としてのグリースが充填される潤滑空間が形成されている。密封構造1は、潤滑空間内への水等の浸入を防止し、また、当該潤滑空間から外部への潤滑剤の漏出を防止するために設けられている。なお、本開示では、
図3における下を「軸方向一方」とし、上を「軸方向他方」としている。また、
図3における右を「径方向一方」とし、左を「径方向他方」としている。ただし、これらは軸方向における絶対的な特定の方向を指すものではなく、相対的な方向を指すものである。このため、一方と他方とを入れ替えて読んでもよい。「径方向一方」及び「径方向他方」についても同様である。
【0021】
スリンガ6は環状に形成され、軸部4の基端部における外周面に嵌合して取り付けられている。スリンガ6は、軸受カップ11の円筒状の部分14の径方向内方に位置する円筒状の本体部を有する。前記本体部を「スリンガ本体6a」と称する。スリンガ本体6aは、軸部4の外周面に沿って筒形状に形成されている。スリンガ6には、シール部材7が有するリップ部31,32,33が接触するシール面41,42,43が形成されている。また、スリンガ6は、前記スリンガ本体6aの他に、スリンガ本体6aの軸方向一方側(
図3の下側)から径方向外方に延びている第1延長部6bと、第1延長部6bの径方向外側の先端側から軸方向他方(
図3の上方)に延びる第2延長部6cとを有する。スリンガ本体6aと第1延長部6bと第2延長部6cとは、単一部の部材により構成されていて、一体となっている。
【0022】
スリンガ本体6aの外周面に、第2及び第3シール面42,43が軸方向他方側から順に軸方向に並べて形成されている。第2延長部6cは円筒状であり、その内周面に第1シール面41が形成されている。つまり、第2延長部6cに、径方向内方に向く第1シール面41が設けられている。この第1シール面41は、軸方向に沿った円筒面形状とされている。つまり、本開示においては、第1シール面41の中心線に沿う方向と軸方向とが一致している。
【0023】
スリンガ6には、第2延長部6cから更に径方向外方へ延びる第3延長部6dが設けられている。第2延長部6cの外周面及び第3延長部6dの軸方向他方側の側面は、それぞれ軸受カップ11の円筒状の部分14の端部に隙間をあけて対向している。この隙間は、スリンガ6と軸受カップ11の円筒状の部分14との間から水等が浸入するのを防止するシール隙間とされる。
【0024】
シール部材7は、全体として環状であり、軸受カップ11の円筒状の部分14に取り付けられている。シール部材7は、軸受カップ11とスリンガ6との間であってグリース(潤滑剤)が充填される空間を密封する。そのために、シール部材7は、金属部材34を有して構成されている固定部と、ゴム製のリップ部31,32,33と、ガータスプリング(第1押圧部材)51と、支持部45とを備える。
【0025】
金属部材(固定部)34は、軸受カップ11の円筒状の部分14に、その内周面に嵌合することによって、固定されている。金属部材34は、第1金属部材34aと、第2金属部材34bとを有する。第1金属部材34aは、第1円筒部34a1と、第1円筒部34a1の軸方向他方側の端部から径方向内方へ屈曲する第1円環部34a2とを有する。第2金属部材34bは、第2円筒部34b1と、第2円筒部34b1の軸方向一方側の端部から径方向内方へ屈曲する第2円環部34b2とを有する。第1円筒部34a1は、軸受カップ11の円筒状の部分14の内周に嵌合することによって固定されている。第2円筒部34b1は、第1円筒部34a1の径方向内側に重ね合わされ、第1円筒部34a1の軸方向一方側の端部をカシメることによって、第2金属部材34bが第1金属部材34aに固定される。
【0026】
リップ部31,32,33は、金属部材34に接着された第1リップ部31、第2リップ部32、及び第3リップ部33からなる。第1リップ部31及び第3リップ部33は、第2金属部材34bの第2円環部34b2に固定され、第2リップ部32は、第1金属部材34aの第1円環部34a2に固定されている。
【0027】
〔第1リップ部31について〕
第1リップ部31は、基部(第1部分)31aと、接続部(第2部分)31bと、接触部(第3部分)31cとを備える。基部31aは、略円筒状であり、金属部材(固定部)34から軸方向一方に延びている。より具体的に説明すると、基部31aは、第2円環部34b2の軸方向一方側の側面から軸方向一方へ延伸している。接続部31bは、略円環状であり、基部31aの延伸端(軸方向一方側端部)から径方向外方へ延伸する。接続部31bは、基部31aの軸方向一方側と接触部31cの軸方向一方側とを繋ぐ。接触部31cは、略円筒状であり、接続部31bの延伸端(径方向外端部)から軸方向他方側へ延伸する。接触部31cは、基部31aの径方向外方側に間隔をあけて設けられていて、スリンガ6の第1シール面41に接触する。
【0028】
接触部31cの径方向外側の側面(外周面)は、第1シール面41に対向する対向面31c2とされ、その少なくとも一部が第1シール面41に接触する。第1シール面41を基準とすると、基部31aは、接触部31cを挟んで第1シール面41と反対側に配置されている。
【0029】
基部31aと接触部31cとの間にガータスプリング(第1押圧部材)51が設けられている。より具体的に説明すると、基部31aと、接続部31bと、接触部31cとによって囲まれた空間(収容空間)Sに、ガータスプリング51が収容されている。基部31aと接触部31cとの間には、ガータスプリング51を収容空間Sに挿入するための開口Aが形成されている。開口Aは、軸方向他方側に開放している。ガータスプリング51は、コイルスプリングをリング状に形成したものである。ガータスプリング51は、収縮する方向に弾性変形させた状態で収容空間Sに収容され、伸張する方向に弾性復帰することにより接触部31cを第1シール面41側へ押圧する。
【0030】
〔支持部45及び金属部材34について〕
ここで、本開示の金属部材34は、前記のとおり、第1金属部材34aと第2金属部材34bとにより構成されている。第1金属部材34aの第1円筒部34a1と、第2金属部材34bの第2円筒部34b1とにより、金属部材34の円筒部35が構成される。この円筒部35の一部である第2円筒部34b1の軸方向一方側から、径方向内方に向かって第2円環部34b2が延びて設けられている。以上より、金属部材34は、軸受カップ11の円筒状の部分14に取り付けられる円筒部35と、円筒部35の一部(第2円筒部34b1)から径方向内方に延びている第2円環部34b2とを有する。金属部材34は、シール部材7を軸受カップ11に固定するための芯材として機能する。
【0031】
支持部45は、シール部材7の内の第1リップ部31の芯材として機能する。つまり、支持部45は、第1リップ部31の基部31aに沿って設けられていて、基部31aが径方向外方へ変形するのを抑制する。本開示の支持部45は、金属部材34と別体である金属部材により構成されている。支持部45は、芯材として機能するために、ゴム製である第1リップ部31(基部31a)よりも剛性の高い素材により構成されていればよい。
【0032】
支持部45は、支持本体部46と補助部47とを有する。支持本体部46は、基部31aに沿って軸方向に延びて設けられている筒状の部分である。支持本体部46は、基部31aの略全体に沿って設けられている。具体的に説明すると、支持本体部46は、第2円環部34b2から軸方向に延びて設けられ、その軸方向一方側の端部が、ガータスプリング51の径方向内方に位置している。
【0033】
補助部47は、支持部45の位置決めのために用いられる。そのために、補助部47は、筒状である支持本体部46の軸方向他方側の端部46aから径方向内方に延びて設けられている。つまり、補助部47は円環形状を有する。補助部47は、支持本体部46と一体であって、金属部材34の一部に軸方向に面で接触している。支持部45は、全体として環状であり、密封構造1の中心線を含む断面においてL字形を有する。
【0034】
補助部47の径方向内側の端部47aは、金属部材34が有する第2円環部34b2の径方向内側の端部48aよりも、更に径方向内方に突出している。この構成は、シール部材7が金型により成形される際に、支持部45の位置決めが正確に行われるようにするためである。この金型による成形については、後に説明する。
【0035】
〔第2リップ部32及び第3リップ部33について〕
第2リップ部32は、第1円環部34a2から軸方向一方へ延伸している。第2リップ部32の径方向内側の側面は、スリンガ6の第2シール面42に接触する。第2リップ部32の径方向外側の側面には、凹部32aが形成されている。凹部32aに、ガータスプリング(第2押圧部材)52が設けられている。ガータスプリング52は、コイルスプリングをリング状に形成したものである。ガータスプリング52は、伸長する方向に弾性変形させた状態で凹部32aに収容され、収縮する方向に弾性復帰することによって第2リップ部32を第2シール面42側へ押圧する。
【0036】
第3リップ部33は、第2円環部34b2の径方向内側の端部から軸方向一方側へ延伸している。第3リップ部33の径方向内側の側面は、スリンガ6の第3シール面43に接触する。第3シール面43は、軸方向一方側から他方側へ向けて徐々に外径が小さくなる傾斜面(円すい面)に形成されている。なお、この第3リップ部33は、省略されていてもよい。また、本実施形態では、第3シール面43が円錐形状に形成されているが、例えば、第3シール面43は軸方向に平行な円筒面であってもよい。
【0037】
〔密封構造1及びシール部材7について〕
図3に示すように、本実施形態のシール部材7では、第1リップ部31が径方向内側に向けて配置された第1シール面41に接触し、第2リップ部32及び第3リップ部33が径方向外側に向けて配置された第2,第3シール面42,43に接触する。そのため、軸部4が軸受カップ11に対して軸方向に移動したとしてもシール性が低下することがない。
【0038】
軸部4が軸受カップ11に対して径方向(例えば、
図3では右側)に移動した場合、軸部4の径方向の一方側(
図3に示す部分)では、第1リップ部31が第1シール面41から離れる方向に移動するが、第2,第3リップ部32,33は第2,第3シール面42,43に近づく方向へ移動する。軸部4を挟んで反対となる径方向の他方側では、第2,第3リップ部32,33が第2,第3シール面42,43から離れる方向に移動するが、第1リップ部31は第1シール面41に近づく方向へ移動する。そのため、シール部材7の径方向の両側においてシール性を確保することが可能となる。
【0039】
スリンガ6において、第2,第3シール面42,43がスリンガ本体6aの外周面に形成され、第2,第3シール面42,43よりも径方向外方に位置する第1シール面41が第2延長部6cの内周面に形成されている。したがって、第2、第3シール面42,43と第1シール面41とは、互いに径方向に間隔をあけて略対向した配置となり、両者の間に、シール部材7(リップ部31,33)を配置するためのスペースが形成される。当該スペースにシール部材7が設けられることによって、径方向に関して互いに逆向きに配置された第1シール面41及び第2,第3シール面42,43にリップ部31~33が接触する。第1シール面41の径方向内方に第3シール面43が設けられているので、密封構造1の軸方向の寸法を可及的に小さくすることができる。
【0040】
前述したように、本開示の密封構造1は、グリース潤滑されるころ軸受部5の内部空間(潤滑空間)を密封する。以下、
図3に示すように、第1シール面41に沿う方向(軸方向)に関して、第1リップ部31よりもころ軸受部5の内部側を「潤滑空間側」ともいい、第1リップ部31よりも外側を「潤滑空間外部側」ともいう。
【0041】
図7(a)は、グリースの供給前の状態であって、第1シール面41に接触した第1リップ部31の接触部31cを示している。この状態で、接触部31cの対向面31c2では、その軸方向他方側(潤滑空間外部側)の一部が第1シール面41に接触し、軸方向一方側(潤滑空間側)の一部が第1シール面41から隙間sをあけて僅かに浮いた状態となっている。
【0042】
図7(b)は、潤滑空間にグリースを供給しているときの第1リップ部31を示す。潤滑空間にグリースが供給されると、当該グリースの供給圧(内圧)によって、ゴム製である第1リップ部31が矢印c方向に押圧される。このため、接触部31cの対向面31c2のうち、第1シール面41から浮いていた部分が第1シール面41に接触しようとする。
【0043】
そこで、本開示の密封構造1では、第1リップ部31の基部31aに沿って剛性の高い支持部45が設けられている。このため、潤滑空間に供給されたグリースの圧力によって第1リップ部31がシール面41を強く押し付けるのを防ぐことが可能となる。接触部31cの対向面31c2のうち、第1シール面41から浮いていた部分が第1シール面41に面で接触することが抑制される。このため、グリースは、その供給圧によって接触部31cを押し上げ、接触部31cと第1シール面41との間から排出される(矢印d参照)。したがって、潤滑空間内で新しいグリースと古いグリースとの入れ替えを好適に行うことができる。
【0044】
前記のとおり、メンテナンスの際などに、潤滑空間内のグリースを新しいグリースに入れ替える作業が行われ、本開示の密封構造1によれば、支持部45によって、接触部31cと第1シール面41との間からグリースが排出され易くなる構成が得られる。本開示の密封構造1では、前記のような支持部45による機能の他に、第1リップ部31における接触部31cに溝61が形成されることで、グリースの排出性を更に高めることが可能となる。以下、その説明を行う。
【0045】
〔第1リップ部31の溝61による機能について〕
図5に示すように、第1リップ部31における接触部31cは、第1シール面41に対向する側面(以下、「対向面」ともいう)31c2を有する。対向面31c2には、溝61が形成されている。溝61は、接触部31cの潤滑空間側の端部から潤滑空間外部側へ向けて軸方向に延びている。また、
図6に示すように、溝61は、第1リップ部31の周方向に間隔をあけて複数箇所に形成されている。例えば、溝61は、周方向に等間隔で16個所に形成されている。本実施形態の溝61の底面の横断面(軸心に直交する方向の断面)は、略円弧状に形成されている。
【0046】
溝61は、潤滑空間側の深溝部61aと、潤滑空間外部側の浅溝部61bとを備える。深溝部61a及び浅溝部61bは、共に軸方向に関して潤滑空間側が深くなるように底面が第1シール面41に対して傾斜している。また、深溝部61aの底面の傾斜は、浅溝部61bの底面の傾斜よりも急となっている。
図6に示すように、深溝部61aと浅溝部61bの周方向の幅W3は略同一とされている。以上より、溝61は、潤滑空間側において横断面積がより大きく、潤滑空間外部側において横断面積がより小さくなっている。
【0047】
前記のとおり、
図7(a)は、第1シール面41に接触した第1リップ部31の接触部31cを示している。この状態で、接触部31cの対向面31c2は、その軸方向他方側(潤滑空間外部側)の一部が第1シール面41に接触し、軸方向一方側(潤滑空間側)の一部が第1シール面41から隙間sをあけて僅かに浮いた状態となっている。
【0048】
前記のとおり、
図7(b)は、潤滑空間にグリースを供給しているときの第1リップ部31を示す。潤滑空間にグリースが供給されると、当該グリースの供給圧(内圧)によって第1リップ部31が矢印c方向に押圧される。なお、支持部45によって第1リップ部31の変形が抑制される。しかし、ここでは、接触部31cの対向面31c2のうち、第1シール面41から浮いていた部分が第1シール面41に接触したと仮定する。
【0049】
このとき、
図6(b)にも示すように、接触部31cの対向面31c2では、溝61の軸方向他方側(潤滑空間外部側)の端部の位置Lよりも更に軸方向他方側の領域が、第1シール面41に対して全周(全面)で接触する全接触領域R1となっている。また、前記位置Lよりも軸方向一方側の領域が、溝61によって、第1シール面41に周方向に不連続(断続的)に接触する部分接触領域R2となっている。つまり、接触部31cの対向面31c2は、全接触領域R1と部分接触領域R2とを有する。
【0050】
したがって、
図7(b)に示すように第1リップ部31がグリースによって矢印c方向に押圧されたとしても、部分接触領域R2の溝61は第1シール面41に接触しない。そのため、潤滑空間内のグリースは、溝61に入り込むと共に、供給圧によって接触部31cを押し上げ、接触部31cの全接触領域R1と第1シール面41との間から排出される(矢印d参照)。したがって、潤滑空間内で新しいグリースと古いグリースとの入れ替えを好適に行うことができる。
【0051】
前記のとおり、溝61は、潤滑空間側の横断面積が潤滑空間外部側の横断面積よりも広いため、溝61内へグリースが流入し易くなり、グリース供給時のグリースの排出性能をより高めることができる。
【0052】
図7(b)に示すように、接触部31cの対向面31c2において、全接触領域R1と部分接触領域R2との境界Lは、ガータスプリング51の軸方向一方側(潤滑空間側)の端部51bと、ガータスプリング51の中心51aとの間の軸方向の範囲D1に位置している。これは、次の理由による。つまり、境界Lが、端部51bよりも軸方向一方側に配置されていると、溝61内に入り込んだグリースによって対向面31c2の全接触領域R1を押し上げることが困難となる。境界Lが、中心51aよりも軸方向他方側(潤滑空間外部側)に配置されていると、全接触領域R1の面圧の関係より、接触部31cによるシール性能が低下する。
【0053】
図8は、グリースの供給圧が第1リップ部31に作用しているときの、第1シール面41に対する全接触領域R1の面圧の変化を示す。
図8(a)に示すように、全接触領域R1と部分接触領域R2との境界Lが、ガータスプリング51の中心51aと一致している場合、第1シール面41に対する全接触領域R1の面圧が、潤滑空間側の端部でピーク(点P1参照)となる。そのため、潤滑空間外部側から水等が浸入しやすくなる。
【0054】
図8(b)に示すように、境界Lが、ガータスプリング51の中心51aよりも潤滑空間側にある場合、第1シール面41に対する全接触領域R1の面圧が、潤滑空間外部側の端部でピーク(点P2参照)となっている。そのため、潤滑空間外部側からの水等の浸入を好適に防止することができ、シール性能を好適に維持することができる。
【0055】
図9は、第1リップ部31の溝61の変形例を示す
図6に相当する図面である。この変形例に係る溝61は、深溝部61aの周方向の幅W4が、浅溝部61bの幅W3よりも大きく形成されている。深溝部61aの横断面形状は略円弧状に形成されている。本変形例によれば、深溝部61aにおける横断面形状をより大きくすることができ、溝61内へのグリースの流入をより促進することができる。
【0056】
〔シール部材7の金型による成形について〕
シール部材7は(
図4参照)、ゴム製であるリップ部31,32,33と、リップ部31,32,33を固定するための金属製の金属部材(固定部)34と、第1リップ部31の芯材として機能する支持部45とを有する。この構成を有するシール部材7は金型によって成形される。具体的に説明すると、第1金属部材34aが金型の一部に固定された状態で、その金型によって第2リップ部32は加硫成形され、第1金属部材34aと第2リップ部32とは一体となる。また、第2金属部材34bが別の金型の一部に固定された状態で、その金型によって第1リップ部31及び第3リップ部33は加硫成形され、第2金属部材34bと第1リップ部31及び第3リップ部33とは一体となる。第1リップ部31の加硫成形の際に、支持部45が前記金型に固定される。
【0057】
図10は、支持部45が金型に固定される様子を示す説明図である。
図10に示すように、支持部45が有する補助部47の径方向内側の端部47aに、金型の一部65が接触する。これにより、支持部45は、第1リップ部31に埋もれるが、支持部45の径方向の位置決めがされる。なお、金型の一部65は、補助部47の端部47aに対して、周方向で部分的に接触する。このため、前記一部65以外の部分にはゴム部が成形される。
【0058】
また、ゴム製のリップ部31,33、支持部45、及び第2金属部材34bを含むシール部材7が一体となるように、金型を用いて成形される際、補助部47を、第2金属部材34bの一部に軸方向に面で接触させる。これにより支持部45と第2金属部材34bとの軸方向についての位置決めが容易となる。更に、金型の別の一部66が、補助部47の軸方向一方側の面に接触する。これにより、支持部45の軸方向についての位置決めが確実となる。なお、金型の前記別の一部66は、補助部47の面に対して、周方向で部分的に接触する。このため、前記一部66以外の部分にはゴム部が成形される。
【0059】
〔その他について〕
前記のとおり、支持部45は、密封構造1の中心線を含む断面においてL字形を有する。金属部材34は、全体として略U字形であるが、第1金属部材34a及び第2金属部材34bとが重ねられることで構成されている。支持部45、第1金属部材34a、及び第2金属部材34bそれぞれが、密封構造1の中心線を含む断面においてL字形を有する。このように、本開示では、支持部45は、金属部材34と別体となって設けられている。また、金属部材34において、第1金属部材34aと第2金属部材34bとは別となっている。本開示では、第1金属部材34a、第2金属部材34b、及び、支持部45が、曲がり部を有する形状であるが、それぞれを別々に製造することができ、製造が容易となる。
【0060】
本発明は、上記の実施形態に限定されることなく特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において変更することが可能である。
例えば、支持部45は、金属部材34(第2金属部材34b)と一体であってもよい。
第1リップ部31の接触部31cに形成される溝61の数、軸方向の長さ、周方向の幅、横断面形状等は、適宜変更することができる。
本開示の密封構造1は、十字軸継手20における軸部4と軸受カップ11との間以外にも適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
6:スリンガ(第2部材) 6a:スリンガ本体(本体部)
6b:第1延長部 6c:第2延長部
7:シール部材 11:軸受カップ(第1部材)
14:円筒状の部分 31:第1リップ部(リップ部)
31a:基部 31b:接続部
31c:接触部 31c2:対向面
34:金属部材(固定部) 34b2:第2円環部(円環部)
35:円筒部 41:第1シール面(シール面)
45:支持部 46:支持本体部
46a:端部 47:補助部
47a:端部 48a:端部
51:ガータスプリング(押圧部材) R1:全接触領域
R2:部分接触領域