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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019104491
(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公開番号】P2020198731
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/102761(WO,A1)
【文献】特開平6-38500(JP,A)
【文献】特開2008-61458(JP,A)
【文献】特開平9-47009(JP,A)
【文献】特開2013-38824(JP,A)
【文献】特開平9-266661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のコアと、前記コアの外周に設けられる複数のスロットに装着される巻線とを有する電機子と、
筒状であって内方に前記電機子が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁と、
前記コアの軸方向の両端に配置される前記スロット内のみに前記巻線とともに挿入される非磁性体で形成されるスペーサとを備え、
前記スペーサは、環状であって前記スロットの底部に収容され、
前記巻線は、前記スロット内であって前記スペーサの外周に配置され、
前記コアの軸方向の両端に配置される前記スロット内に装着される前記巻線は、他の前記スロット内に装着される前記巻線よりも巻数が少ない
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記スペーサは、アルミニウムよりも線膨張係数が小さい硬質プラスチックである
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、たとえば、筒状のヨークとヨークの外周に軸方向に並べて配置される複数のティースを備えたコアとティース間のスロットに装着されるU相、V相およびW相の巻線を有する電機子と、電機子の外周に設けられた円筒形のベースと軸方向にS極とN極とが交互に並ぶようにベースの内周に取付けられた複数の永久磁石とでなる可動子とを備えるものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このように構成された筒型リニアモータでは、電機子のU相、V相およびW相の巻線へ適宜通電すると、可動子の永久磁石が吸引されて可動子が電機子に対して軸方向へ駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-253130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような筒型リニアモータでは、端効果によるコギング推力の低減のために界磁の軸方向両端における永久磁石の長さをそれ以外の永久磁石よりも短くしている。従来の筒型リニアモータでは、界磁側が短く電機子側が長いために前述のように界磁の両端の永久磁石を短くしてコギング推力の低減を図っているが、図5に示すように、電機子20が界磁21よりも短い場合には、電機子20の両端のスロット20aに巻回する巻線22の巻数をそれ以外のスロット20bの巻線22の巻数よりも少なくして端効果によるコギング推力の低下を抑制する方法がとられる。
【0006】
しかしながら、電機子の両端のスロットの巻線の巻数を少なくすると、前記両端のスロットにおける巻線が界磁から遠ざかってしまうので、筒型リニアモータの質量推力密度が低下してしまう問題がある。ここで、質量推力密度とは、筒型リニアモータの最大推力を質量で割った数値であり、質量推力密度が良化すれば、筒型リニアモータの質量当たりの推力が大きくなる。
【0007】
そこで、本発明は、質量推力密度の低下を招くことなくコギング推力を低減できる筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、筒状のコアとコアの外周に設けられる複数のスロットに装着される巻線とを有する電機子と、筒状であって内方に電機子が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁と、コアの軸方向の両端に配置されるスロット内のみに巻線とともに挿入される非磁性体で形成されるスペーサとを備え、コアの軸方向の両端に配置されるスロット内に装着される巻線は、他のスロット内に装着される巻線よりも巻数が少なくなっている。このように構成された筒型リニアモータでは、スペーサをスロットに収容して巻線をスロットに装着しているので、電機子の端効果によるコギング推力の低減のためにコアの軸方向両端のスロット内の巻線の巻数を他のスロットの巻線の巻数より少なくしても、スロットの巻線を他のスロットの巻線と同様に界磁へ接近させ得る。
【0009】
また、本発明の筒型リニアモータでは、スペーサを環状としてスロットの底部に収容し、巻線をスロット内であってスペーサの外周に配置している。このように構成された筒型リニアモータによれば、巻線の界磁に対向する最外周の幅が広くなるので、質量推力密度の低下を効果的に抑制できる。
【0010】
さらに、スペーサがアルミニウムよりも線膨張係数が小さい硬質プラスチックで形成されてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、巻線を傷めずに長期間に亘って安定した推力を発揮でき推力低下を招く心配もない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の筒型リニアモータによれば、質量推力密度の低下を招くことなくコギング推力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
図2】一実施の形態の筒型リニアモータの電機子の拡大縦断面図である。
図3】一実施の形態の第一変形例における筒型リニアモータの電機子の拡大縦断面図である。
図4】一実施の形態の第二変形例における筒型リニアモータの電機子の拡大縦断面図である。
図5】従来の筒型リニアモータの電機子と界磁の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、図1に示すように、筒状のコア2とコア2の外周に設けられるスロット2c,2dに装着される巻線3とを有する電機子Eと、筒状であって内方に電機子Eが軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6と、コア2の軸方向の両端に配置されるスロット2c内に巻線3とともに挿入される非磁性体で形成されるスペーサ10とを備えて構成されている
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。本実施の形態では、界磁6は、軸方向に交互に積層されて挿入される環状の主磁極の永久磁石6aと環状の副磁極の永久磁石6bとを備えて構成されている。また、界磁6の外周には筒状のバックヨーク8が装着されている。界磁6とバックヨーク8は、円筒状の非磁性体のアウターチューブ7と、アウターチューブ7内に挿入される円筒状の非磁性体のインナーチューブ9との間に形成される環状隙間に収容されている。
【0014】
なお、図1中で主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石6aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石6bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bは、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。
【0015】
また、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1は、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くなっており、本実施の形態では、0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が設定されている。主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くすればコア2との間の主磁極の永久磁石6aとの間の磁気抵抗を小さくできコア2へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の質量推力密度を向上できる。
【0016】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2が短くなると主磁極の永久磁石6aの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2の短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石6bの軸方向長さL2よりも長くするとともに永久磁石6a,6bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の質量推力密度を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石6aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0017】
なお、副磁極の永久磁石6bは、主磁極の永久磁石6aより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石6bには減磁方向に大きな磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石6bの保磁力を高くして減磁を抑制し、大きな磁界をコア2に作用させ得るようにしている。対して、コア2に対して作用する磁界の強さは、主磁極の永久磁石6aの磁力線数に左右される。そのため、主磁極の永久磁石6aに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して大きな磁界をコア2に作用させるようにしている。本実施の形態では、副磁極の永久磁石6bを主磁極の永久磁石6aよりも保磁力を高くするのに際して、副磁極の永久磁石6bの材料を主磁極の永久磁石6aの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bの組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、主磁極の永久磁石6aは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石6bは、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0018】
また、固定子の内周側には、コア2が挿入されており、界磁6は、コア2に磁界を作用させている。なお、界磁6は、コア2の可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、コア2の可動範囲に応じて永久磁石6a,6bの設置範囲を決定すればよい。したがって、アウターチューブ7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、コア2に対向し得ない範囲には、永久磁石6a,6bを設置しなくともよい。なお、界磁6は、本実施の形態ではハルバッハ配列で積層される永久磁石6a,6bで構成されているが、内周にN極とS極とが交互に現れればよいので、ハルバッハ配列以外の配列で積層される永久磁石で構成されてもよい。
【0019】
また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の図1中左端はキャップ14によって閉塞されており、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の図1中右端は環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。
【0020】
電機子Eは、コア2および巻線3を備えて構成されて、インナーチューブ9内に軸方向移動自在に挿入されている。つまり、電機子Eは、界磁6の内周側に配置されており、界磁6に対して軸方向に相対移動できる。
【0021】
コア2は、円筒状のヨーク2aと、環状であってヨーク2aの外周に軸方向に間隔を空けて設けられる複数のティース2bと、ティース2b,2b間に設けたスロット2c,2dとを備えて構成されて可動子とされている。
【0022】
ヨーク2aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積はコア2の軸線を中心とした円筒でティース2bの内周から外周までのどこを切っても、ティース2bを前記筒で切断した際にできる断面の面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0023】
本実施の形態では、図1および図2に示すように、ヨーク2aの外周に13個のティース2bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、ティース2b,2b間に巻線3が装着される環状溝でなるスロット2c,2dが形成されている。なお、本実施の形態では、ティース2bの形状は、軸方向幅が一定の円板形状とされているが、コア2の両端に配置されたティース2bを除いて、軸方向において内周端の幅より外周端の幅が狭い等脚台形状とされてもよいし、他の形状とされてもよい。
【0024】
本実施の形態では、図1中で隣り合うティース2b,2b同士の間には、環状溝でなるスロット2c,2dが合計で12個設けられている。スロット2c,2dは、コア2の周方向に沿って複数設けられており、コア2の外周に軸方向に等ピッチで並べて設けられている。また、コア2の軸方向両端に配置されるスロット2cとそれ以外のスロット2dの断面形状はすべて等しくなっており、各スロット2c,2dの容積がすべて等しくなっている。
【0025】
そして、このスロット2c,2dには、巻線3が巻き回されて装着されている。巻線3は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。各相の巻線3は、12個のスロット2c,2dに界磁6の磁極配置に応じて適した配置となるように装着される。
【0026】
また、図1および図2において、コア2の軸方向両端に配置される二つのスロット2c内には、巻線3の他に非磁性体で形成されるスペーサ10が収容されており、他のスロット2d内にはスペーサ10を収容することなく巻線3が装着されている。本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子Eの端効果によるコギング推力を低減するためにコア2の軸方向両端に配置されるスロット2c内に装着される巻線3の巻数を他のスロット2d内に装着される巻線3の巻数よりも少なくしている。そのため、コア2の軸方向両端に配置されるスロット2c内の巻線3の体積は、スロット2d内の巻線3の体積よりも少なくなる。スペーサ10は、環状であって幅寸法がスロット2cの軸方向幅とほぼ等しくスロット2cの底部、つまり、コア2のヨーク2aの外周に嵌合されている。スペーサ10は、本実施の形態では、アルミニウムよりも線膨張係数が小さい非磁性体である硬質のプラスチックで形成されており、スロット2cで巻線3の体積が他のスロット2d内の巻線3の体積に較べて不足する体積をスロット2c内で穴埋めするためにスロット2cに挿入されている。
【0027】
そして、スペーサ10をスロット2cに収容して巻線3をスロット2cに装着すると、巻数の少ないスロット2c内の巻線3の最外周から界磁6までの距離は他のスロット2dに装着される巻線3の最外周から界磁6までの距離と同等にすることができる。つまり、スペーサ10をスロット2c内に収容したので巻数の少ないスロット2c内の巻線3を他のスロット2d内の巻線3と同様に界磁6へ接近させ得るのである。
【0028】
よって、コア2の軸方向両端のスロット2c内の巻線3の巻数を少なくしてコア2の端効果によるコギング推力を低減しつつも、スロット2c内の巻線3を界磁6の至近に配置できるので筒型リニアモータ1の質量推力密度の低下を抑制できる。
【0029】
なお、巻数の少ない巻線3が装着されるスロット2cにスペーサ10を収容すれば、巻線3を界磁6の至近に配置させ得るので、スペーサ10の形状は任意である。よって、スペーサ10は、たとえば、図3に示すように、平たい円環状とされてティース2bに積層される態様でスロット2c内に収容されてもよい。このようにしても、スロット2cに装着される巻数の少ない巻線3の最外周を他のスロット2dに装着される巻線3の最外周と同様に界磁6に接近させ得る。よって、コア2の軸方向両端のスロット2c内の巻線3の巻数を少なくしてコア2の端効果によるコギング推力を低減しつつも、スロット2c内の巻線3を界磁6の至近に配置できるので筒型リニアモータ1の質量推力密度の低下を抑制できる。
【0030】
ただし、本実施の形態のようにスペーサ10を環状としてスロット2cの底部に収容し、巻線3をスロット2c内であってスペーサ10の外周に配置すると、巻線3の界磁6に対向する最外周の幅が広くなるので、筒型リニアモータ1の質量推力密度の低下を効果的に抑制できる。
【0031】
なお、詳しくは図示しないが、コア2は、ティース2b,2b間で軸方向に分割された構造となっており、コア2を組み立てる際にスペーサ10をスロット2c内に収容できる。また、スペーサ10は、完全な環でなくC型であってコア2の側方からスロット2cに装着できるものでもよい。また、スロット2c,2d内に巻線3を巻回して装着する際に巻線3がコア2に直接触れないように巻線3とコア2との間に絶縁膜を挿入することがあるが、この絶縁膜はコア2の軸方向両端に配置されるスロット2c内の巻数の少ない巻線3を界磁6の至近へ配置させる目的で挿入されるものではないので本願で言うスペーサには該当しない。
【0032】
スロット2cに2相の巻線3が装着される場合であって、スペーサ10をスロット2cの底部に配置する場合、図4に示すように、スペーサ10の軸方向幅をスロット2cの軸方向幅の二分の一にしてコア2の軸方向両端側に配置される相の巻線3のみをスペーサ10の外周に配置して、コア2の中心側に配置される相の巻線3についてはスペーサ10と径方向で対向しないようにしてもよい。このようにしても、スロット2c内の全巻線3の巻数を少なくしてコギング推力を低減できるとともに各巻線3の最外周を界磁6の至近に配置できる。
【0033】
そして、このように構成された電機子Eは、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の先端の外周に装着され、ロッド11とともに界磁6内に移動自在に挿入される。ロッド11は、アウターチューブ7の図1中右端に取り付けられたヘッドキャップ15内を通して筒型リニアモータ1外へ突出している。また、ロッド11の電機子Eの図1中左右にはインナーチューブ9の内周に摺接するスライダ12,13が装着されており、スライダ12,13によって電機子Eは界磁6内で軸ぶれせずに軸方向へ移動でき、電機子Eがインナーチューブ9に干渉する心配もない。
【0034】
このように、インナーチューブ9は、コア2の外周と界磁6の内周との間のギャップを形成するとともに、スライダ12,13と協働してコア2の軸方向移動を案内する役割を果たしている。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の推力密度向上効果が高くなる。インナーチューブ9を非磁性体の金属で製造すると、電機子Eが軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子Eの移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0035】
なお、ロッド11は、図示はしないが、筒状とされており、ロッド11内に通される図外の電線を通じて筒型リニアモータ1の外方に設置される外部電源から巻線3へ電力供給できる。
【0036】
そして、たとえば、巻線3の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線3の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子Eの移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。また、電機子Eと界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線3への通電、あるいは、巻線3に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0037】
以上のように、本発明の筒型リニアモータ1は、筒状のコア2とコア2の外周に設けられるスロット2c,2dに装着される巻線3とを有する電機子Eと、筒状であって内方に電機子Eが軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6と、コア2の軸方向の両端に配置されるスロット2c内に巻線3とともに挿入される非磁性体で形成されるスペーサ10とを備えている。このように構成された筒型リニアモータ1では、スペーサ10をスロット2cに収容して巻線3をスロット2cに装着しているので、電機子Eの端効果によるコギング推力の低減のためにコア2の軸方向両端のスロット2c内の巻線3の巻数を他のスロット2dの巻線3の巻数より少なくしても、スロット2cの巻線3を他のスロット2dの巻線3と同様に界磁6へ接近させ得る。以上より、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、スペーサ10をスロット2cに収容して巻線3をスロット2cに装着しているので、コギング推力を低減しつつも質量推力密度の低下を抑制できる。
【0038】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、スペーサ10が環状であってスロット2cの底部に収容されており、巻線3がスロット2c内であってスペーサ10の外周に配置されている。このように構成された筒型リニアモータ1によれば、巻線3の界磁6に対向する最外周の幅が広くなるので、質量推力密度の低下を効果的に抑制できる。
【0039】
さらに、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、スペーサ10がアルミニウムよりも線膨張係数が小さい硬質プラスチックで形成されている。硬質プラスチックは、熱による収縮が少なく磁界中を移動しても渦電流を発生せず、弾性変形しにくいので巻線3のずれも防止できる。よって、このように構成された筒型リニアモータ1によれば、スペーサ10の熱による体積変化によって巻線3に与えられる負荷が小さく、巻線3の位置ずれを生じさせにくいとともに、渦電流の発生の心配もないので、巻線3を傷めず長期間に亘って安定した推力を発揮でき推力低下を招く心配もない。なお、スペーサ10は、非磁性体であればよいので、合成樹脂やアルミニウムやステンレスであってもよいが、金属であると磁界中を移動する際に渦電流が発生して筒型リニアモータ1の推力が低下する可能性があるので硬質プラスチック或いは合成樹脂で形成される方が好ましい。また、スペーサ10に金属よりも軽量な硬質プラスチックを用いれば、筒型リニアモータ1の質量推力密度をより向上させ得る。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・コア、2c,2d・・・スロット、3・・・巻線、6・・・界磁、10・・・スペーサ、E・・・電機子
図1
図2
図3
図4
図5