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特許7252856検査装置の評価システムおよび検査装置の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】検査装置の評価システムおよび検査装置の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230329BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019141918
(22)【出願日】2019-08-01
(65)【公開番号】P2021025808
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-146774(JP,A)
【文献】特開2007-298505(JP,A)
【文献】特開昭48-087885(JP,A)
【文献】特開平07-294578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一構造の複数の検査装置の相互の等価性を評価する検査装置の評価システムであって、
同一の入力によって同一の検体を検査或いは無負荷で検査する際の前記検査装置の出力を検知するセンサと、
前記センサで検知した前記複数の検査装置の前記出力を処理する処理装置とを備え、
前記処理装置は、
前記入力が指示する前記検査装置の理想的な出力である理想出力と前記入力に対する前記検査装置の実際の出力である実出力とに基づいて出力の歪率を前記検査装置毎に求める歪率算出部と、
前記検査装置の出力を繰り返し変化させた際に得られる前記実出力のばらつき度合を前記検査装置毎に求めるばらつき度合算出部と、
前記検査装置の前記実出力の相互の相関係数を求める相関係数算出部とを有する
ことを特徴とする検査装置の評価システム。
【請求項2】
前記歪率算出部は、前記入力を前記検査装置の前記出力を所定周期の正弦波で変化させる指令とし、前記入力が指示する前記理想出力の波形である理想波形のパワースペクトル密度の積分値と、前記入力に対する前記検査装置の前記実出力の波形である実出力波形のパワースペクトル密度の積分値との差分を歪成分とし、前記実出力波形の前記パワースペクトル密度の積分値と前記歪成分とに基づいて前記歪率を求める
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置の評価システム。
【請求項3】
前記歪率算出部は、前記実出力波形のドリフト成分を取り除き、前記実出力波形のパワースペクトル密度を求める
ことを特徴とする請求項2に記載の検査装置の評価システム。
【請求項4】
前記歪率算出部は、前記実出力波形の初期値と最終値とが同じ値でない場合、前記実出力波形中で前記初期値と同値となるとともに前記初期値から前記所定周期の整数倍の地点の近傍にある点で前記実出力波形の終端側を切り落とす処理を行ってから前記実出力波形のパワースペクトル密度を求める
ことを特徴とする請求項2または3に記載の検査装置の評価システム。
【請求項5】
前記ばらつき度合算出部は、前記入力を前記検査装置の前記出力を所定周期の正弦波で変化させる指令とし、前記入力を複数回与えた際の前記検査装置の実際の出力の波形である実出力波形の位相毎の標準偏差或いは分散に基づいて前記ばらつき度合を求める
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の検査装置の評価システム。
【請求項6】
前記相関係数算出部は、前記複数の検査装置の出力の度数分布同士の相関係数を求める
ことを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の検査装置の評価システム。
【請求項7】
前記歪率、前記ばらつき度合および前記相関係数と、これらに対応する閾値とを比較し、比較結果に基づいて検査装置の不良を判断する不良判断部を備えた
ことを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の検査装置の評価システム。
【請求項8】
同一構造の複数の検査装置の相互の等価性を評価する検査装置の評価方法であって、
同一の入力によって同一の検体を検査或いは無負荷で検査する際の前記検査装置の出力を得る過程と、
前記入力が指示する前記検査装置の理想的な出力である理想出力と前記入力に対する前記検査装置の実際の出力である実出力とに基づいて出力の歪率を前記複数の検査装置毎に求める歪率算出過程と、
前記検査装置の出力を繰り返し変化させた際に得られる前記実出力のばらつき度合を前記検査装置毎に求めるばらつき度合算出過程と、
前記検査装置の前記実出力の相互の相関係数を求める相関係数算出過程とを備えた
ことを特徴とする検査装置の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置の評価システムおよび検査装置の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査装置は、コントローラと、コントローラからの入力に応じて検体へ出力を与える出力部とを備え、検体の性能や耐久性などを検査する。コントローラは、出力部の出力をフィードバックして検体に予め決められた検査条件通りに検査装置を制御して検体に出力を与える。
【0003】
このような検査装置としては、たとえば、振動検査装置があり、振動検査装置は、出力部として加振器を備えており、機械部品やダンパといった検体に対して加振器で振動を与える。この場合、振動検査装置の出力は、検体に与える荷重、速度や変位といった物理量となり、コントローラから操作量を指示する入力が与えられると、振動検査装置は、検体に検査条件通りの荷重、速度或いは変位を与える(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-032261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような検査装置では、入力が指示する出力にコントローラの入力に対する実際の出力である実出力を精度よく追従させるために、コントローラにおける制御や検査装置の改良が行われている。
【0006】
ここで、検査装置で検体の検査を行う際に、検体や検査装置によっては検査の準備に時間がかかったり、検査そのものが長時間を要したりする場合、作業時間の短縮や効率化のため、複数の同一の検査装置で同時に複数の検体の検査を行うことがある。
【0007】
このような場合、検査装置単体の精度も要求される一方、同一の検査装置であっても検査装置間で入力に対する出力にばらつきがあると、同一の検体を別々の検査装置で検査すると検査結果が全く異なったものとなってしまうことがある。
【0008】
従来、検査装置のセルフチェックは行われていたものの、複数の同一の検査装置で並行して同一の検体の検査を行う場合に、各検査装置の性能が等価であるか正しく評価することができなかったので、検体の検査結果について正しいか否か判断することができなかった。
【0009】
そこで、本発明は、複数の検査装置の相互の等価性を評価できる検査装置の評価システムおよび検査装置の評価方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明の検査装置の評価システムは、同一構造の複数の検査装置の相互の等価性を評価する検査装置の評価システムであって、同一の入力によって同一の検体を検査する際の各検査装置の出力を検知するセンサと、複数の検査装置の実出力を処理する処理装置とを備え、処理装置が、入力が指示する検査装置の理想的な出力である理想出力と入力に対する検査装置の実際の出力とに基づいて出力の歪率を複数の検査装置毎に求める歪率算出部と、検査装置の出力を繰り返し変化させた際に得られる出力のばらつき度合を複数の検査装置毎に求めるばらつき度合算出部と、複数の検査装置の実出力の相互の相関係数を求める相関係数算出部とを備えて構成されている。
【0011】
また、本発明の検査装置の評価方法は、同一構造の複数の検査装置の相互の等価性を評価する検査装置の評価方法であって、同一の入力によって同一の検体を検査する際の各検査装置の出力を得る過程と、入力が指示する検査装置の理想的な出力である理想出力と入力に対する検査装置Tの実際の出力とに基づいて出力の歪率を複数の検査装置毎に求める歪率算出過程と、検査装置の出力を繰り返し変化させた際に得られる出力のばらつき度合を複数の検査装置毎に求めるばらつき度合算出部過程と、複数の検査装置の実出力の相互の相関係数を求める相関係数算出過程とを備えて構成されている。
【0012】
このように構成された検査装置の評価システムおよび検査装置の評価方法では、同一の検体を検査した際の同一の入力による検査装置の出力から歪率、ばらつき度合と相関係数とを求めるので、歪率によって各検査装置の動的な挙動が一致しているかを把握でき、ばらつき度合によって検査装置の出力を変化させる際に入力に対する繰り返し精度が一致しているか把握でき、さらには、検査装置間の出力の相関度合を把握できる。
【0013】
また、検査装置の評価システムは、歪率算出部が入力を検査装置Tの出力を所定周期の正弦波で変化させる指令とし、入力が指示する理想出力の波形である理想波形のパワースペクトル密度の積分値と、入力に対する検査装置の実出力の波形である実出力波形のパワースペクトル密度の積分値との差分を歪成分とし、実出力波形のパワースペクトル密度の積分値と歪成分とに基づいて歪率を求めてもよい。このように構成された検査装置の評価システムによれば、最大荷重に対する理想波形と実荷重波形の歪だけでなく、全周波数領域の両者の差を加味した歪率が得られるので、各検査装置の実際の動的な挙動をより正確に把握できる。したがって、検査装置の評価システムによれば、より正確に検査装置の等価性を評価できる。
【0014】
さらに、検査装置の評価システムは、歪率算出部が実出力波形のドリフト成分を取り除き、実出力波形のパワースペクトル密度を求めてもよい。このように構成された検査装置の評価システムによれば、実荷重波形からドリフト成分を取り除いてから、パワースペクトル密度を算出するので、パワースペクトル密度から低周波ノイズを除去でき、歪成分が実際よりも大きくなるのが防止されて歪率を精度よく求め得る。したがって、検査装置の評価システムによれば、より正確に検査装置の等価性を評価できる。
【0015】
また、検査装置の評価システムは、歪率算出部において、実出力波形の初期値と最終値とが同じ値でない場合、実出力波形中で初期値と同値となるとともに初期値から所定周期の整数倍の地点の近傍にある点で実出力波形の終端側を切り落とす処理を行ってから実出力波形のパワースペクトル密度を求めてもよい。このように構成された検査装置の評価システムによれば、パワースペクトル密度から高周波ノイズを除去でき、歪成分が実際よりも大きくなるのが防止されて歪率を精度よく求め得る。したがって、検査装置の評価システムによれば、より正確に検査装置の等価性を評価できる。
【0016】
さらに、検査装置の評価システムは、ばらつき度合算出部において、検査装置の出力を所定周期の正弦波で変化させる入力を複数回与えた際の検査装置の実出力の波形である実出力波形の位相毎の標準偏差或いは分散に基づいてばらつき度合を求めてもよい。このように構成された検査装置の評価システムによれば、評価対象の検査装置が実際に長期間に亘って使用される場合において動的な荷重変動の大きさを示めすばらつき度合を求めることができ、評価対象の検査装置の動的な出力変動の大きさを把握できる。したがって、検査装置の評価システムによれば、より正確に検査装置の等価性を評価できる。
【0017】
そして、検査装置の評価システムは、相関係数算出部が複数の検査装置の出力の度数分布同士の相関係数を求めてもよい。このように構成された検査装置の評価システムによれば、相関係数を求める対象である二つの検査装置の実出力波形に位相ずれがあっても両者の正しい相関関係を求めることができる。したがって、検査装置の評価システムによれば、より正確に検査装置の等価性を評価できる。
【0018】
さらに、検査装置の評価システムは、歪率、ばらつき度合および相関係数と、これらに対応する閾値とを比較し、比較結果に基づいて検査装置の不良を判断する不良判断部を備えてもよい。このように構成された検査装置の評価システムによれば、歪率、ばらつき度合および相関係数の3つの指標から全ての検査装置のなかに不良な検査装置があれば、不良な検査装置を抽出できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検査装置の評価システムおよび検査装置の評価方法によれば、歪率、ばらつき度合および相関係数を通じて各検査装置の出力が均一であるか把握できるので、検査装置が相互の等価性を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施の形態における検査装置の評価システムの構成図である。
図2】検査装置の側面図である。
図3】理想荷重と実荷重波形を示したグラフである。
図4】処理装置の構成図である。
図5】理想荷重のパワースペクトル密度と実荷重波形のパワースペクトル密度を示したグラフである。
図6】歪成分を説明する図である。
図7】実荷重波形のパワースペクトル密度と実荷重波形のパワースペクトル密度から推定される基底周波数との誤差を説明するグラフである。
図8】ドリフト成分を含んだ実荷重波形を示したグラフである。
図9】ドリフト成分を含んだ実荷重波形のパワースペクトル密度を示したグラフである。
図10】初期値と最終値とが異なる実荷重波形を示したグラフである。
図11】高周波ノイズを含んだ実荷重波形のパワースペクトル密度を示したグラフである。
図12】ばらつき度合算出部における処理を説明する図である。
図13】実荷重波形に対して区分を設定したグラフである。
図14】実荷重の出現頻度を示したグラフである。
図15】処理装置における歪率、ばらつき度合および相関係数を求める手順の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態における検査装置Tの評価システム1は、同一の入力によって同一の検体としてのダンパDを検査する際の各検査装置Tの出力を検知するセンサ2と、複数の検査装置Tの出力を処理する処理装置3とを備え、同一の複数の検査装置Tの相互の等価性を評価する。
【0022】
以下、検査装置Tの評価システム1の各部について詳細に説明する。検体としてのダンパDは、複数の検査装置Tを評価システム1で評価する際に検査装置Tの検査に供される基準となるダンパである。
【0023】
本実施の形態における検体であるダンパDは、シリンダ5と、シリンダ5内に出入りするロッド6とを備えたテレスコピック型のダンパとされており、シリンダ5に対してロッド6が軸方向に変位する伸縮時に減衰力を発揮する。
【0024】
他方、複数の検査装置Tは、同一部品および同一構造で構成されていて、互いに同一となっている。検査装置Tは、図2に示すように、コントローラCと加振器Eとを備えている。加振器Eは、架台10と、架台10に設けられて図2中左右方向へ移動可能であってダンパDの一端を保持する保持部11と、架台10に設けられてダンパDの他端に接続されてダンパDに振動を与えるアクチュエータ13とを備えている。
【0025】
アクチュエータ13は、シリンダ13aと、シリンダ13a内に移動自在に挿入されてシリンダ13a内を図示しない伸側室と圧側室とに区画する図外のピストンと、シリンダ13a内に移動自在に挿入されて前記ピストンに連結されるロッド13bと、図外のポンプから供給される圧油を前記伸側室と前記圧側室とに選択的に送り込むサーボ弁13cとを備えている。
【0026】
サーボ弁13cは、詳細には図示はしないが、中空なハウジングと、ハウジング内に移動自在に挿入されるスプールと、スプールを駆動するソレノイドと、スプールを中立位置に位置決めするばねと、外部からの入力を受け取ってソレノイドを駆動する駆動回路とを備えている。ソレノイドは、駆動回路から供給される電流量に応じてスプールに与える推力を変更でき、スプールの位置を調節できる。そして、サーボ弁13cは、スプールの位置に応じて、前記伸側室へ圧油を供給するポジションと、前記圧側室へ圧油を供給するポジションと、両者への圧油の供給を遮断するポジションとに切り替わり、前記伸側室或いは前記圧側室へ圧油を供給するポジションではソレノイドへ供給される電流量に応じて流量を調節する。
【0027】
本実施の形態では、サーボ弁13cは、入力として電流指令Iを受けとるとソレノイドの推力を調整して、スプールのハウジングに対する位置を調節して、前記伸側室と前記圧側室のうち入力が指示する室に対して入力が指示する流量の圧油を供給する。アクチュエータ13は、伸側室と圧側室のうちサーボ弁13cから圧油の供給を受けた室を拡大させるとともに圧油の供給のない室を縮小させて、伸縮駆動する。このように、加振器Eは、コントローラCから入力を受けるとアクチュエータ13を伸縮駆動させてダンパDの一端を加振して、ダンパDに振動を与える。なお、駆動回路は、ソレノイドに流れる電流を検知する電流センサを備えており、電流センサで検知する電流をフィードバックして、コントローラCから入力される電流指令I通りにソレノイドへ電流を与える。なお、駆動回路は、サーボ弁13c側ではなく、コントローラCに内包されていてもよい。
【0028】
コントローラCは、検査装置Tの評価にあたって、加振器Eにおけるアクチュエータ13を所定周期の正弦波で伸縮させる電流指令Iを入力としてアクチュエータ13へ繰り返し与える。このように、検査装置Tは、アクチュエータ13を駆動して検体であるダンパDへ繰り返し正弦波の振動を与えるようになっており、本実施の形態では、検査装置Tの出力は、検体であるダンパDへ与える荷重、速度および変位とされている。したがって、電流指令Iが指示する加振器Eの理想的な出力(理想出力)としての理想荷重、理想速度および理想変位の各波形、つまり、理想波形Waは、図3に示すように、所定周期の正弦波で変化する波形となる。このような所定周期の正弦波で検査装置Tの出力を変化させる電流指令Iは、予めコントローラCに格納しておくか、検査の際にコントローラCに記憶させてもよい。なお、所定周期は、任意に設定できる。なお、検査装置Tの出力は、本実施の形態では、荷重、速度および変位とされているが、これらに限定されるものではなく、また、荷重、速度および変位のうちいずれか一つまたは二つとされてもよい。
【0029】
つづいて、センサ2は、コントローラCからの入力としての電流指令IによってダンパDを検査する際の検査装置Tの出力を検知する。本実施の形態では、検査装置Tの出力は、荷重、速度および変位とされているので、センサ2は、アクチュエータ13とダンパDとの間に設置されてアクチュエータ13が発揮する荷重を検知するロードセル2aと、アクチュエータ13のロッド13bに装着されてロッド13bの速度を検知する速度センサ2bと、アクチュエータ13の伸縮変位を検知するストロークセンサ2cとを備えている。そして、センサ2は、検知した検査装置Tの実際の出力(実出力)である実荷重F、実速度Vおよび実変位Xを処理装置3に入力する。なお、速度センサ2bは、ロッド13bの加速度を検知し、検知し加速度を積分することで検査装置Tの実速度Vを検知するが、ストロークセンサ2cが検知した実変位Xを微分して実速度Vを検知するようにしてもよい。また、速度の検知に当たり、加速度センサで検知したロッド13bの加速度を処理装置3に入力して、処理装置3にて加速度を積分してロッド13bの実速度Vを検知してもよい。
【0030】
処理装置3は、図4に示すように、コンピュータシステムであり、演算処理装置3aと、処理装置3の制御と処理に必要なプログラムを記憶するとともに演算処理装置3aが当該プログラムの実行に必要となる記憶領域を提供する記憶装置3bと、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cからの信号を受け取るインターフェース3cと、キーボードやマウスといった入力装置3dと、表示装置3eと、補助記憶装置3fと、印刷装置としてのプリンタ3gと、これら装置を互いに通信可能に接続するバス3hとを備えている。
【0031】
演算処理装置3aは、演算処理を行うCPU等であって、オペレーティングシステムおよび他のプログラムの実行によって処理装置3の各部の制御を行うとともに、複数の各検査装置Tの出力としての実荷重F、実速度Vおよび実変位Xに基づいて歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rとを求める処理を行う。記憶装置3bは、ROMおよびRAMを備える他、ハードディスクを備えている。インターフェース3cは、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cから入力されるアナログ信号を演算処理装置3aで読み取り可能なデジタル信号へ変換する。表示装置3eは、演算処理装置3aが処理したデータ等を表示する画面を備えており、たとえば、液晶ディスプレイ等である。補助記憶装置3fは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体と記憶媒体のドライブ装置とで構成されており、記憶媒体は、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等である。また、処理装置3は、ロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが検知した実荷重F、実速度Vおよび実変位Xの値や値をプロットしたグラフ、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを表示装置3eの画面上に表示して閲覧を可能とするとともに、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めるためのアプリケーションプログラムを記憶装置3bに記憶している。
【0032】
そして、本実施の形態では、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めるプログラムを処理装置3の演算処理装置3aが実行して実行することで、歪率εを求める歪率算出部3a1とばらつき度合Sdを求めるばらつき度合算出部3a2と相関係数Rを求める相関係数算出部3a3とを実現している。また、処理装置3の演算処理装置3aは、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rに基づいて検査装置Tが不良か否かを判断するプログラムを実行して、不良判断部3a4を実現している。処理装置3は、複数の検査装置Tの全てについて、各検査装置Tの荷重、速度および変位に係る歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求め、求めた歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rから各検査装置Tが不良か否かを判断する。
【0033】
以下、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの算出について詳しく説明する。なお、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rは、複数の各検査装置Tの出力としての荷重、速度および変位についてそれぞれ求められるが、荷重、速度および変位の歪率εの算出過程は同一であり、荷重、速度および変位のばらつき度合Sdの算出過程は同一であり、荷重、速度および変位の相関係数Rの算出過程も同一である。よって、説明が重複するので、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの算出の説明では、荷重の歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの算出について説明をし、速度および変位についての歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの算出については詳しい説明を省略する。
【0034】
まず、歪率算出部3a1について詳細に説明する。図3に示すように、実線で示した理想波形Waに対して、電流指令Iを検査装置Tに与えた場合において、検査装置Tの実際の出力である実荷重Fが描く実荷重波形Wb(図中破線)とでは差が生じる。このことは、実速度が描く実速度波形および実変位が描く実変位波形でも同様であり、実速度が描く実速度波形と理想波形とで差が生じるとともに、実変位波形と理想波形とで差が生じる。実荷重波形Wbは、縦軸に荷重、横軸に時間をとって、所定のサンプリング周期で検知された実荷重Fの値を時系列にプロットして得られる波形であり、理想波形Waは、縦軸に荷重、横軸に時間をとり、電流指令Iが制御周期毎に指示する検査装置Tの出力である実荷重Fの値を時系列にプロットして得られる波形であり、理想波形Waの任意の値に対応して実荷重波形Wbの値が存在する。図3のグラフから理解できるように、コントローラCが所定周期の正弦波で出力を増減させる電流指令Iを検査装置Tに入力した場合、電流指令Iが指示する検査装置Tの理想出力である理想荷重と、電流指令Iの入力に応じて検査装置Tが実際に出力する実荷重Fとでは差が生じる。
【0035】
そこで、歪率算出部3a1は、理想荷重と実荷重Fの差に基づいて歪率εを求める。歪率εは、実荷重波形Wbが理想波形Waに対してどの程度歪んでいるかを把握するための尺度となる値である。歪率εが大きくなればなるほど電流指令Iが指示する荷重に対して検査装置Tの動的な挙動が乱れて実荷重Fが大きく変動することを示し、歪率εは、検査装置Tの動特性を評価する一つの指標である。
【0036】
理想荷重は、電流指令Iが指示する荷重であるから、処理装置3は、予めコントローラCが検査装置Tへ与える電流指令Iが指示する荷重のデータ群でなる理想波形Waを記憶しておき、歪率算出部3a1でこれを利用してもよいし、検査装置Tの評価を行う度にコントローラCから電流指令Iを受け取って、歪率算出部3a1で電流指令Iを理想波形Waに変換して利用してもよい。また、ロードセル2aが検知した検査装置Tの実荷重Fは、所定のサンプリング周期で取得されて処理装置3に入力されるので、実荷重Fのデータ群でなる実荷重波形Wbはロードセル2aから得られ、歪率算出部3a1、ばらつき度合算出部3a2および相関係数算出部3a3で利用される。速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが検知する実速度Vおよび実変位Xも実荷重Fと同様に、歪率算出部3a1、ばらつき度合算出部3a2および相関係数算出部3a3で利用され、実速度Vおよび実変位Xに係る歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rがそれぞれ求められる。
【0037】
本実施の形態では、歪率算出部3a1は、図5に示すように、理想波形Waをフーリエ変換して理想波形Waのパワースペクトル密度Pa(図5中実線)を求めるとともに、検査装置Tの荷重を所定周期の正弦波で変化させる電流指令Iを与えた際に検知された実荷重波形Wbをフーリエ変換して実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pb(図5中破線)を求める。理想波形Waのパワースペクトル密度Paは、電流指令Iが所定周期の正弦波の荷重を指示するものであるから、図5に示すように、所定周期の逆数の周波数(所定周波数)f1においてピークが立つ波形となる。これに対して、実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbは、図5に示すように、検査装置Tにおけるアクチュエータ13におけるサーボ弁13cの構造に起因するオーバーラップ特性、アンダーラップ特性或いはブリッジ特性といった特性に起因する振動やノイズに起因する振動が実荷重波形Wbに重畳するために、所定周波数より高周波側にこれら振動の成分が現れる。
【0038】
歪率算出部3a1は、図6に示したように、このようにして求めた実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbを周波数軸上で積分して求めたパワースペクトル密度Pbの積分値から理想波形Waのパワースペクトル密度Paを周波数軸上で積分して求めたパワースペクトル密度Paの積分値を差し引きして、両者の差である歪成分Pab(図6中の斜線部分の面積)を求める。
【0039】
そして、歪率算出部3a1は、実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbを周波数軸上で積分して求めた図6中の斜線部分の面積である積分値Zbで歪成分Pabを割った値を歪率εとして求める。つまり、歪率算出部3a1は、歪率εをε=Pab/Zbを演算して求める。このように歪率εは、理想荷重(理想出力)のパワースペクトル密度Paの積分値と実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値Zbの差である歪成分Pabを求め、歪成分Pabを実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値Zbで割って求められる。
【0040】
歪率算出部3a1は、荷重を所定周期の正弦波で変化させた際の検査装置Tの実荷重Fが理想荷重から逸脱する振動成分を全周波数に亘って含む歪成分Pabを利用して歪率εを求める。よって、歪率εから理想荷重に対して全体的に検査装置Tの実荷重Fがどの程度ずれを生じているかを客観的に判断でき、歪率εから検査装置Tの実際の挙動を把握できる。
【0041】
なお、検査装置Tの実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbから零交叉法、自己相関法、ピリオドヒストグラム等を用いて基底周波数を推定して、パワースペクトル密度Pbから理想波形Waのパワースペクトル密度Paを推定してもよいが、このようにすると、図7に示すように、図7中実線で示す推定されたパワースペクトル密度Pbの基底周波数と、図7中破線で示す実荷重波形Wbがピークとなる周波数とに誤差λが生じて、歪成分Pabの値が大きくなってしまう。実荷重波形Wbには、ノイズやドリフト成分が重畳しているため、基底周波数を推定すると、どうしても理想波形Waの周波数とずれてしまうので、このような現象が生じてしまう。これに対して、本実施の形態の処理装置3における歪率算出部3a1は、電流指令Iが指示する荷重の波形を理想波形Waとしてパワースペクトル密度Paを求めて、理想波形Waのパワースペクトル密度Paの積分値を実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値から差し引きして歪成分Pabを求めている。このようにすると、理想波形Waから求めたパワースペクトル密度Paがピークを迎える周波数と、実荷重波形Wbから求めたパワースペクトル密度Pbがピークを迎える周波数とを精度よく一致させることができ、歪成分Pabが実際よりも過大となってしまうのを防止できる。
【0042】
なお、歪率算出部3a1は、実荷重Fの実荷重波形Wbが低周波ノイズによってドリフトしている場合、実荷重波形Wbからドリフト成分を取り除いてから、パワースペクトル密度Pbを算出している。具体的には、歪率算出部3a1は、実荷重波形Wbを濾波する図示しないハイパスフィルタを備えており、実荷重波形Wbをハイパスフィルタ処理してからパワースペクトル密度Pbを求める。図8に示すように、たとえば、実荷重波形Wbが低周波のドリフト成分の重畳によってオフセットされているような場合、実荷重波形Wbからドリフト成分を取り除かずにパワースペクトル密度Pbを求めると、図9に示すように、求めたパワースペクトル密度Pbに低周波ノイズが現れてしまい、そのまま、歪成分Pabを求めると歪成分Pabの値が実際よりも大きくなって、歪率εが大きくなってしまう。これに対して、歪率算出部3a1が実荷重Fの実荷重波形Wbが低周波ノイズによってドリフトしている場合、実荷重波形Wbからドリフト成分を取り除いてから、パワースペクトル密度Pbを算出するので、パワースペクトル密度Pbから低周波ノイズを除去でき、正確な歪率εを求めることができる。このように歪率算出部3a1が実荷重波形Wbを処理するので、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1では、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度よく求め得る。
【0043】
なお、ドリフト成分を除去するには、ハイパスフィルタで処理するほかにも、たとえば、実荷重波形Wbの一周期毎に最大値と最小値の中央値を求め、これら中央値の平均値をドリフト成分と看做して実荷重波形Wbから当該中央値の平均値を差し引いてもよいし、実荷重Fの値の平均値をドリフト成分としても実荷重波形Wbから差し引いてもよい。
【0044】
また、図10に示すように、ロードセル2aで観測された実荷重波形Wbの初期値と最終値が異なる場合、そのまま実荷重波形Wbをフーリエ変換すると図11に示すように、パワースペクトル密度Pbに高周波ノイズが現れて歪成分Pabが実際よりも大きくなって歪率εが大きくなってしまう。そこで、本実施の形態の歪率算出部3a1は、観測された実荷重波形Wbの初期値と最終値とが同じ値でない場合、図10に示すように、実荷重波形Wb中で初期値W1と同値となるとともに初期値W1から所定周期の整数倍の地点の近傍の点W2で実荷重波形Wbの終端側を切り落とす処理を行ってから実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbを求める。前記地点は、初期値W1である1番目のデータから単位波形中に含まれるデータ数の整数倍の値を加算した番号の点とすればよく、この地点の前後で一番近い点をF2とすればよい。検査装置Tへ与える電流指令Iは、荷重を所定周期の正弦波で変化させるものであるため、実荷重波形Wbの点W2以降を切り落とすと、初期値W1から初期値W1と同じ値の点W2までに丁度所定周期の整数倍の波が存在する波形を抽出でき、このようにして抽出した実荷重波形Wbの初期値W1と点W2における値が同じ値となる。なお、初期値W1と同じ値の点は、実荷重波形Wb中でいくつか存在するが、前述した条件を満たす点のうち実荷重波形Wbの最終に出現した点をF2に選べば、実荷重波形Wbに含まれる波形数が多くなるので好ましい。また、初期値W1と完全に一致する値がない場合には、初期値W1の端数処理を行って得た値と同様の端数処理によって同じ値となる点をF2としたり、初期値W1の有効数字と一致する値の点をF2としたりして、これを初期値W1と同じ値の点として取り扱ってよい。このような処理を行っても初期値W1と同じ値の点W2を見いだせない場合、実荷重波形Wbの最終のデータから遡って初期値W1から所定の閾値内に入る値のうち初期値W1に一番近い値を持つ点をF2に選べばよい。
【0045】
このようにして、歪率算出部3a1が実荷重波形Wbを処理した後に実荷重波形Wbをフーリエ変換してパワースペクトル密度Pbを求めると、得られるパワースペクトル密度Pbから前述した高周波ノイズを除去できる。このように歪率算出部3a1が実荷重波形Wbを処理するので、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1では、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度よく求め得る。
【0046】
なお、歪率εを求めるに際して、たとえば、理想波形Waの最大値と実荷重波形Wbの最大値との差を実荷重波形Wbの最大値で割って求めたり、理想波形Waと実荷重波形Wbのすべての値について、理想波形Waの値とこの値に対応する実荷重波形Wbの値の差を求めて積分して得た差の平均値を実荷重波形Wbの最大振幅で割って求めたりしてもよい。これに対して、前述のように理想波形Waのパワースペクトル密度Paの積分値と実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値とを差し引きして歪成分Pabを求めて、歪成分Pabを実荷重波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値で割って歪率εを求めると、最大荷重に対する理想波形Waと実荷重波形Wbの歪だけでなく、全周波数領域の両者の差を加味した歪率εが得られるので、検査装置Tの実際の動的な挙動をより正確に把握できる。
【0047】
歪率算出部3a1は、ロードセル2aで検知した実荷重Fから得られる実荷重波形Wbと電流指令Iが指示する理想出力である理想荷重の波形である理想波形Waを処理して、荷重に係る歪率εを全ての検査装置Tについて求める。同様に、歪率算出部3a1は、速度センサ2bで検知した実速度Vから得られる実速度波形と電流指令Iが指示する理想出力である理想速度の波形である理想波形を前述した実荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、速度に係る歪率εを全ての検査装置Tについて求める。さらに、歪率算出部3a1は、ストロークセンサ2cで検知した実変位Xから得られる実変位波形と電流指令Iが指示する理想出力である理想変位の波形である理想波形を前述した実荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、変位に係る歪率εを全ての検査装置Tについて求める。
【0048】
つづいて、ばらつき度合算出部3a2について詳細に説明する。コントローラCから荷重を所定周期の正弦波で変化させる電流指令Iを繰り返して検査装置Tへ与えると、サーボ弁13cの構造に起因するオーバーラップ特性、アンダーラップ特性或いはブリッジ特性といった特性に起因して実荷重波形Wbにランダムにスパイク波形や振動が重畳して波形が乱れる場合がある。そして、このような波形の乱れは、実荷重波形Wb中に含まれる一周期分の波形(単位波形)間で異なる箇所に現れて、各単位波形中で特定箇所に現れない場合がある。また、検査装置Tの荷重の乱れは、最大荷重で生じるとは限らないので、最大荷重のばらつきのみに着目しても検査装置Tの動特性を把握できない。
【0049】
そこで、検査装置Tのばらつき度合Sdを算出するのに充分な回数の電流指令Iを繰り返し与えて、順次、ロードセル2aで実荷重Fを検知して、ばらつき度合算出部3a2は、検知した実荷重Fの値のばらつき度合Sdを求める。
【0050】
ばらつき度合Sdは、検査装置Tが出力としての荷重を繰り返し増減する際に、検査装置Tの荷重が繰り返して電流指令Iが指示する荷重通りとなっているかを把握するための尺度となる値である。つまり、ばらつき度合Sdは、検査装置Tが荷重変動を繰り返した場合における繰り返して荷重を電流指令I通りに出力できるかという繰り返し精度の視点から検査装置Tの動特性を評価する指標であって、値が大きくなると検査装置Tの挙動が乱れて繰り返し精度が悪化することを示す。
【0051】
ばらつき度合Sdを求めるために、ばらつき度合算出部3a2は、具体的には、検査装置Tの実荷重波形Wbの単位波形毎に同じ位相の値を抽出して同位相の値の分散を得る。実荷重波形Wbは、縦軸に荷重、横軸に時間をとって、所定のサンプリング周期で処理装置3に取り込まれた実荷重Fの値を時系列にプロットして得られる波形であるので、単位波形に含まれる値の数だけ分散が求められる。たとえば、所定周期が1秒であって、電流指令Iを100回検査装置Tに与えた場合であって、サンプリング周期が0.01秒である場合、実荷重波形Wbの単位波形に含まれるデータ数は100個となり、実荷重波形Wbに含まれる単位波形は100個となる。
【0052】
ばらつき度合算出部3a2は、図12に示すように、100個の単位波形のうち、同じ位相の値を抽出して100個の各単位波形中の同位相の値を得て、これら100個の値の分散σを求める。実荷重波形Wbの100個の単位波形中のn番目(n=1,2,3・・100)のデータの値をFとすると、ばらつき度合算出部3a2は、単位波形中のN番目の分散σ を求める場合、全ての単位波形中のN番目のデータを抽出して、抽出した100個の値から平均値を求め、各データの値から平均値を引いた値の二乗値を総和して分散σ を求める。ばらつき度合算出部3a2は、実荷重波形Wbに含まれる全データについて、分散σ を求めて合計100個の分散σ (n=1,2,3・・100)を求める。
【0053】
分散σ は、実荷重波形Wb中の各単位波形における同位相同士の値の分散となっている。そして、ばらつき度合算出部3a2は、分散σ の平均値を求めて3倍した値をばらつき度合Sdとして求める。つまり、ばらつき度合算出部3a2は、ばらつき度合SdをD=(3/100)×(σ +σ +σ +・・・+σ100 )を演算して求める。
【0054】
これを一般化して、実荷重波形Wbに含まれる単位波形がM個であって、一周期分の波形中のデータ数がN個である場合、m番目の単位波形中のn番目のデータの値をFmnと表現する。まず、ばらつき度合算出部3a2は、単位波形中のN番目のデータについての分散を得る場合、M個の単位波形からN番目のデータのみを抜き出し、番目のデータの平均値μを求め、以下の式(1)を演算して分散σN を得る。ばらつき度合算出部3a2は、順次、各単位波形中に含まれるN個のデータについて式(1)を演算して、合計N個の分散σ (n=1,2,3・・・N)を求める。
【0055】
【数1】
つづいて、ばらつき度合算出部3a2は、以下の式(2)の通り、N個の分散の平均値を3倍して、ばらつき度合Sdを求める。
【0056】
【数2】
ここで、ばらつき度合算出部3a2が求める分散、分散を求めるために算出する平均値は、実荷重波形Wb中のデータから求めたものであり、検査装置Tを実際に長期間に亘って使用した際に得られるデータを母集団とするならば、実荷重波形Wb中のデータは標本としてみなせる。母集団が正規分布に従うとして仮定すると、標本の数が十分に多ければ、前述のようにして求めた分散σ は、母集団の分散と看做せる。なお、前述した分散σ ではなく、不偏分散を求めて、この不偏分散を母集団の分散として取り扱ってもよい。したがって、ばらつき度合算出部3a2は、以下の式(3)を演算して不偏分散S を求めて、分散σ の代わりに不偏分散S を式(2)に代入してばらつき度合Sdを求めてもよい。
【0057】
【数3】
母集団が正規分布に従う場合、母集団の標準偏差をσとし、母集団の平均値をμとすると、母集団のデータが確率99.73%でμ±3σの範囲に存在する。ばらつき度合Sdは、N個の分散σ の総和の平均値を3倍して得た値であり、しかも、検査装置Tが繰り返し荷重を増減させた際に、荷重の増減が繰り返される中で最大荷重のみではなく単位波形全体におけるばらつきが勘案された値となっている。このように、ばらつき度合Sdは、評価対象の検査装置Tが実際に長期間に亘って使用される場合において動的な荷重変動の大きさを示しており、ばらつき度合Sdから評価対象の検査装置Tの繰り返し精度における荷重変動の大きさを把握できる。なお、母集団がカイ二乗分布等ほかの確率分布に従うと仮定する場合には、従うと仮定される確率分布における分散を求めてばらつき度合Sdを求めればよい。
【0058】
また、分散σ の代わりに、標準偏差σを求めて、3σの総和の平均値をばらつき度合Sdとしてもよい。標準偏差σは、分散σ と同様に荷重のばらつきを示す尺度であるから分散σ を利用して得られるばらつき度合Sdと同様に検査装置Tの動的な荷重変動の大きさを把握できる。ただし、分散σ の方が標準偏差σよりもピーキーであるので、分散σ を利用してばらつき度合Sdを求めた方が、検査装置Tの荷重にばらつきがある場合にばらつき度合Sdの値に顕著に現れるので、より検査装置Tの繰り返し精度を把握しやすくなる。
【0059】
ばらつき度合算出部3a2は、ロードセル2aで検知した実荷重Fから得られる実荷重波形Wbを処理して、荷重に係るばらつき度合Sdを全ての検査装置Tについて求める。同様に、ばらつき度合算出部3a2は、速度センサ2bで検知した実速度Vから得られる実速度波形を前述した実荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、速度に係るばらつき度合Sdを全ての検査装置Tについて求める。さらに、ばらつき度合算出部3a2は、ストロークセンサ2cで検知した実変位Xから得られる実変位波形を前述した実荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、変位に係るばらつき度合Sdを全ての検査装置Tについて求める。
【0060】
つづいて、相関係数算出部3a3について詳細に説明する。検査装置Tの長年の使用による経年劣化、或いは、検査装置Tの個体差による特性の違い等により、コントローラCから同じ電流指令Iを入力として検査装置Tに与えて同一の検体であるダンパDに荷重を与えても、検査装置T間でダンパDに与える出力としての荷重にばらつきがみられる。このことは、同一のダンパDに速度或いは変位を与えても同様であり、複数の検査装置T間でダンパDに与える速度或いは変位にばらつきがみられる。検査装置T間の出力のばらつきが大きいと、複数の検査装置Tで同一構造の異なる検体に平行して出力を与えて検査しても、各検体に均一な荷重、速度或いは変位を与えられない。他方、検査装置T間の出力に一定の相関が認められれば、複数の検査装置Tを利用しても異なる検体にそれぞれ均一な荷重、速度或いは変位を与えられる。
【0061】
相関係数算出部3a3は、二つの検査装置T間の出力としての実荷重Fの相関係数Rを求める。相関係数Rは、二つの検査装置T間の出力としての実荷重F同士が互いに相関しているかを示す尺度となる値であり、値が1に近づくほど各検査装置Tの実荷重Fの相関が高いことを示す。
【0062】
本実施の形態では、相関係数算出部3a3は、電流指令Iの入力によってダンパDに一の検査装置Tが与える荷重を増減した際に検知される実荷重波形Wb中の実荷重Fの度数分布と、電流指令Iの入力によってダンパDに他の検査装置Tが与える荷重を増減した際に検知される実荷重波形Wb中の実荷重Fの度数分布との相関係数Rを求める。この相関係数Rの算出に当たり、コントローラCは、電流指令Iを繰り返し検査装置Tに与えて、十分な数の単位波形が含む実荷重波形Wbを得る。
【0063】
縦軸に荷重、横軸に時間をとって、荷重に対して所定の幅の区間を定めて、各検査装置Tの実荷重Fの各区間に属するデータ数をカウントして、度数分布を得る。相関係数算出部3a3は、たとえば、荷重に対して同一幅の20の区間を定め、図13に示すように、20個の各区間中の実荷重波形Wbのデータが属するデータ数をカウントする。すると、図14に示すように、検査装置T毎に、各区間における各検査装置Tの実荷重Fの出現頻度である度数分布が求められる。各区間の度数は、その区間の中央値を持つデータの数として取り扱われ、たとえば、図14中の3番目の区間における中央値が75kNで、3番目の区間の度数が1250である場合、値75kNのデータが1250個あると取り扱われる。
【0064】
そして、相関係数算出部3a3は、各検査装置Tの度数分布から相関係数Rを求める。具体的には、一の検査装置Tにおける区分毎の度数個の中央値でなるデータの全区分の集合となるデータ群Jの標準偏差をσとし、他の検査装置Tにおける区分毎の度数個の中央値でなるデータの全区分の集合となるデータ群Kの標準偏差をσとし、データ群Jとデータ群Kの共分散をSJKとすると、相関係数算出部3a3は、相関係数RをR=SJK/(σ×σ)を演算して求める。なお、共分散を得るには、データ群Jとデータ群Kのデータ数が同じである必要があるが、予め、相関係数Rを求めるために使用するデータ数を決めておけばよい。
【0065】
各検査装置Tの実荷重Fの相関係数Rを求める場合、度数分布を求めずに、実荷重Fの値をそのまま利用して各検査装置Tの実荷重Fの相関係数Rを求めることも可能である。ただし、各検査装置Tで検知される実荷重Fの実荷重波形Wbの位相がずれてしまうと、両者の波形が位相を除き一致している場合でも、相関係数Rの値が小さくなってしまい相関が弱くなってしまう。
【0066】
これに対して、荷重に区分を設定して、実荷重Fの度数分布を求めると、度数分布には位相が反映されることはないが、各検査装置Tで検知される実荷重Fの実荷重波形Wbとが一致している場合、同じ度数分布が得られる。したがって、相関係数算出部3a3が前述のように相関係数Rを求めると、各検査装置Tの実荷重Fを検知して得られた実荷重波形Wbとに位相ずれがあっても、実荷重波形Wb同士が近似する形状となっている限り、相関係数Rの値が1に近い値を採ることになる。よって、相関係数算出部3a3が前述のように各検査装置Tで検知される実荷重Fの度数分布を求めて、同数分布同士の相関係数Rを求めれば、位相を無視して両者の正しい相関係数Rを求めることができる。
【0067】
なお、相関係数算出部3a3は、二つの検査装置Tについて相関係数Rを求めるが、全て検査装置Tから二つの検査装置Tを選ぶ場合の二つの検査装置Tのすべての組み合わせについて相関係数Rを求める。また、相関係数算出部3a3は、ロードセル2aで検知した実荷重Fを処理して、荷重に係る相関係数Rを求めるほか、速度センサ2bで検知した実速度Vを前述した実荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、速度に係る検査装置T間の相関係数Rを求める。さらに、相関係数算出部3a3は、ストロークセンサ2cで検知した実変位Xを前述した実荷重Fについて行った処理と同様の処理を行って、変位に係る検査装置T間の相関係数Rを求める。前述したところでは、相関係数算出部3a3は、二つの検査装置Tの実出力同士の相関係数Rを算出しているが、検査装置Tの規範となる実出力のデータが存在する場合、規範データに対して実際に検査装置Tから得れる実出力のデータとの相関係数Rを求めるようにしてもよい。
【0068】
また、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの算出にあたり、参照する出力としての実荷重F、実速度Vおよび実変位Xのデータは、同一のデータであってよく、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの算出のために実荷重F、実速度Vおよび実変位Xの各データを別々に採取しなくともよい。よって、コントローラCから電流指令Iを繰り返し与えて得られた各検査装置Tの実荷重F、実速度Vおよび実変位Xから歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを算出すればよい。
【0069】
つづいて、不良判断部3a4について詳細に説明する。歪率算出部3a1が全ての検査装置Tの歪率εを求め、ばらつき度合算出部3a2が全ての検査装置Tのばらつき度合Sdを求め、相関係数算出部3a3が二つの検査装置Tの全組み合わせにおける検査装置Tの出力間の相関係数Rを求めると、不良判断部3a4が歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを利用して検査装置Tが不良であるか否かを判断する。
【0070】
不良判断部3a4は、閾値αと全ての検査装置Tの歪率εとを都度比較して、歪率εが閾値α以上であった検査装置Tを不良と判断する。歪率εに設定される閾値αは、検査装置Tの実出力波形の理想波形に対する偏差が大きく、電流指令Iが指示する通りに検査装置Tが出力できない程度の歪率εの値に設定される。そして、不良判断部3a4は、全検査装置Tについて歪率εと閾値αとを比較して、前述の判断を行い、全ての検査装置Tの歪率εが閾値α未満であれば、歪率εに関しては全検査装置Tを正常と判断する。このように、全ての検査装置Tの歪率εが閾値α未満であれば、全検査装置Tの実出力波形と理想波形とのずれが小さく、全検査装置T相互の実出力波形同士の偏差も小さいことが分かるので、歪率εにおける不良判断においては全検査装置Tの相互の等価性が肯定される。よって、全検査装置Tが正常であれば、これら検査装置Tでダンパ(検体)Dの検査を行う場合、入力としての電流指令Iに対して各検査装置Tは均一な出力を発生して均一な検査を行える。他方、或る検査装置Tの歪率εが閾値α以上となる場合、この或る検査装置Tの実出力波形と理想波形との偏差が大きく、或る検査装置Tと他の検査装置Tとの相互の実出力波形同士の偏差が大きくなる。よって、この或る検査装置Tと他の検査装置Tとでは等価な検査が行えないので、この或る検査装置Tについては不良と判断され、他の検査装置Tとの等価性が否定される。
【0071】
また、不良判断部3a4は、閾値βと全ての検査装置Tのばらつき度合Sdとを都度比較して、ばらつき度合Sdが閾値β以上であった検査装置Tを不良と判断する。ばらつき度合Sdに設定される閾値βは、検査装置Tの実出力波形の動的な繰り返し精度が悪く、電流指令Iが指示する通りに検査装置Tが出力できない程度のばらつき度合Sdの値に設定される。そして、不良判断部3a4は、全検査装置Tについてばらつき度合Sdと閾値βとを比較して、前述の判断を行い、全ての検査装置Tのばらつき度合Sdが閾値β未満であれば、ばらつき度合Sdに関しては全検査装置Tを正常と判断する。このように、全ての検査装置Tのばらつき度合Sdが閾値β未満であれば、全検査装置Tの実出力波形中の単位波形同士のばらつきが小さく、全検査装置T相互の実出力波形中の単位波形同士の偏差も小さいことが分かるので、ばらつき度合Sdにおける不良判断においては全検査装置Tの相互の等価性が肯定される。よって、全検査装置Tが正常であれば、これら検査装置Tでダンパ(検体)Dの検査を行う場合、入力としての電流指令Iに対して各検査装置Tは均一な出力を発生して均一な検査を行える。他方、或る検査装置Tのばらつき度合Sdが閾値β以上となる場合、この或る検査装置Tの実出力波形中の単位波形同士の偏差が大きく、或る検査装置Tと他の検査装置Tとの相互の実出力波形の偏差が大きくなる。よって、この或る検査装置Tと他の検査装置Tとでは等価な検査が行えないので、この或る検査装置Tについては不良と判断され、他の検査装置Tとの等価性が否定される。
【0072】
さらに、不良判断部3a4は、閾値γと全組み合わせにおける検査装置Tの出力間の相関係数Rとを都度比較して、相関係数Rが閾値γ以下であった検査装置Tの組み合わせのうち、全ての組み合わせ中に存在する検査装置Tを不良と判断する。相関係数Rに設定される閾値γは、検査装置T間の相関が弱く、同じ電流指令Iに対して各検査装置Tの出力差が大きくなる程度の相関係数Rの値に設定される。そして、不良判断部3a4は、全組み合わせについて検査装置Tの出力間の相関係数Rと閾値γとを比較して、前述の判断を行い、各相関係数Rが閾値γを超える値であれば、相関係数Rに関しては全検査装置Tを正常と判断する。このように、全ての組み合わせについて検査装置Tの出力間の相関係数Rが閾値γを超える値であれば、検査装置T間の相関が強く、検査装置T相互の実出力波形の偏差も小さいことが分かるので、相関係数Rにおける不良判断においては全検査装置Tの相互の等価性が肯定される。よって、全検査装置Tが正常であれば、これら検査装置Tでダンパ(検体)Dの検査を行う場合、入力としての電流指令Iに対して各検査装置Tは均一な出力を発生して均一な検査を行える。或る検査装置Tが不良である場合、不良な検査装置Tと他の正常な検査装置Tとの組み合わせに係る検査装置Tの出力間の相関係数Rの値が小さくなり、閾値γ以下となる。たとえば、5つの検査装置Tの評価を行う場合、二つの検査装置Tの組み合わせは、10通りとなる。5つの検査装置Tのうち、或る1つの検査装置Tが不良で残り4つの検査装置Tが正常である場合、不良の検査装置Tと正常な検査装置Tとの組み合わせは4通りで、この4通りの組み合わせにおける検査装置Tの出力間の相関係数Rは閾値γ以下となる。他方、正常な4つの検査装置Tから二つの検査装置Tを選ぶ場合、この組み合わせは6通りで、この6つの組み合わせにおける検査装置Tの出力間の相関係数Rは、必ず閾値γを超える値となる。相関係数Rは閾値γ以下となった4通りの組み合わせの全てにおいて、存在する検査装置Tが不良となるはずであるから、不良判断部3a4は、相関係数Rは閾値γ以下となった組み合わせの全てにおいて存在する検査装置Tを不良と判断できる。検査装置T中で複数の検査装置Tが不良である場合であっても、不良な検査装置Tが含まれる組み合わせの検査装置Tの出力間の相関係数Rが閾値γ以下となるから、不良判断部3a4は、不良な検査装置Tを特定できる。また、不良判断部3a4は、相関係数Rを利用した検査装置Tの不良判断において、歪率εを利用した不良判断とばらつき度合Sdを利用した不良判断の一方または両方の判断結果を利用して不良な検査装置Tの目星をつけてもよい。
【0073】
不良判断部3a4は、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの3つの指標を利用してそれぞれ検査装置Tの不良判断をそれぞれ独立して行うので、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを利用した不良判断でいずれか一つ不良と判断した場合、他の指標では正常と判断した場合であっても当該検査装置Tが不良であると判断する。
【0074】
そして、処理装置3は、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを表示装置3eに表示させるとともに、検査装置Tを不良と判断する場合、表示装置3eに不良と判断された検査装置Tを特定する情報、たとえば、検査装置Tの番号等と、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rのうちいずれが不良と判断されたかが処理装置3のオペレータが視認できる態様で表示装置3eに表示する。たとえば、歪率εが検査装置Tの不良を示している場合、処理装置3は、表示装置3e上の「歪率εが不良値である」といった表示やオペレータの注意を惹く色で歪率εを表示する等とすればよい。
【0075】
また、処理装置3は、オペレータの要求により、或いは、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの演算が終了したことをトリガとしてプリンタ3gから紙媒体に歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの値を印刷してもよい。その際に、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを得るためにロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが観測したデータ、これらデータをプロットしたグラフ、さらには、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの演算過程において求められる値についても印刷してもよい。また、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを得るためにロードセル2a、速度センサ2bおよびストロークセンサ2cが観測したデータ、これらデータをプロットしたグラフ、さらには、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの演算過程において求められる値は、表示装置3eに表示させてもよい。
【0076】
以上までの検査装置Tの評価システム1の処理を図15に示したフローチャートに即して説明する。検査装置Tに検体であるダンパDを取り付け、ダンパDへ荷重、速度および変位を負荷すべくコントローラCから電流指令Iを繰り返し入力してアクチュエータ13を駆動し、検査装置Tの出力としての荷重、速度および変位を変化させ(ステップF1)、検査装置Tの出力である実荷重F、実速度Vおよび実変位Xをそれぞれロードセル2a,速度センサ2bおよびストロークセンサ2cで検知する(ステップF2)し、処理装置3の演算処理装置3aへ入力する。
【0077】
処理装置3は、実荷重F、実速度Vおよび実変位Xのデータから歪率εを求める(ステップF3)。また、処理装置3は、実荷重F、実速度Vおよび実変位Xのデータからばらつき度合Sdを求める(ステップF4)。さらに、処理装置3は、実荷重F、実速度Vおよび実変位Xのデータから相関係数Rを求める(ステップF5)。なお、処理装置3は、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求める順番は任意に変更できる。なお、処理装置3は、評価対象となる複数の検査装置Tの全てについて、実荷重F、実速度Vおよび実変位Xを検知して、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求める。
【0078】
歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めた後、処理装置3は、得られた歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rに基づいて前述の通り検査装置Tが不良であるか否かを判断する処理を行う(ステップF6)。
【0079】
処理装置3は、ステップF6の処理を行った後、求めた歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを表示装置3eの画面に表示させる(ステップF7)。その際、処理装置3は、検査装置Tが不良と判断されている場合、不良と判断された検査装置Tの番号と、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rのうち不良と判断される値を特定する情報を表示する。
【0080】
検査装置Tの評価システム1は、以上のように動作して、複数の検査装置Tを評価する指標として歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めて、検査装置Tによる検査の等価性が疑われる不良な検査装置Tがあるか否かを判断し、表示装置3eにこれらの指標と不良な検査装置Tがあれば当該検査装置Tを特定する情報を表示し、或いは、プリンタ3gで紙媒体に印刷してオペレータによるこれらの指標等を視認できるようにする。
【0081】
このように本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、同一構造の複数の検査装置Tの相互の等価性を評価する検査装置Tの評価システム1であって、同一の電流指令(入力)Iによって同一のダンパ(検体)Dを検査する際の各検査装置Tの実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xを検知するセンサ2と、複数の検査装置Tの実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xを処理する処理装置3とを備え、処理装置3が、電流指令(入力)Iが指示する検査装置Tの理想的な出力である理想出力と電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの実際の実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xに基づいて出力の歪率εを複数の検査装置T毎に求める歪率算出部3a1と、検査装置Tの出力を繰り返し変化させた際に得られる実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xのばらつき度合Sdを複数の検査装置T毎に求めるばらつき度合算出部3a2と、複数の検査装置Tの出力の相互の相関係数Rを求める相関係数算出部3a3とを備えて構成されている。
【0082】
また、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、同一構造の複数の検査装置Tの相互の等価性を評価する検査装置Tの評価方法であって、同一の電流指令(入力)Iによって同一のダンパ(検体)Dを検査する際の各検査装置Tの実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xを得る過程と、電流指令(入力)Iが指示する検査装置Tの理想的な出力である理想出力と電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの実際の実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xに基づいて出力の歪率εを複数の検査装置T毎に求める歪率算出過程と、検査装置Tの出力を繰り返し変化させた際に得られる実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xのばらつき度合Sdを複数の検査装置T毎に求めるばらつき度合算出部過程と、複数の検査装置Tの実荷重(出力)F、実速度(出力)Vおよび実変位(出力)Xの相互の相関係数Rを求める相関係数算出過程とを備えて構成されている。
【0083】
このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法では、同一のダンパ(検体)Dを検査した際の同一の入力による検査装置Tの出力から歪率ε、ばらつき度合Sdと相関係数Rとを求めるので、歪率εによって各検査装置Tの動的な挙動が一致しているかを把握でき、ばらつき度合Sdによって検査装置Tの出力を変化させる際に電流指令(入力)Iに対する繰り返し精度が一致しているか把握でき、さらには、検査装置T間の出力の相関度合を把握できる。このように、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法では、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを通じて各検査装置Tの出力が均一であるか把握できるので、検査装置Tが相互の等価性を評価できる。また、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、検体の検査に使用される複数の検査装置Tの等価性を評価できるので、等価であると評価された複数の検査装置Tでは均一な検査が行え、どの検査装置Tで検査しても正しい検査結果が得られる。
【0084】
また、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、歪率算出部3a1が電流指令(入力)Iを検査装置Tの出力を所定周期の正弦波で変化させる指令とし、電流指令(入力)Iが指示する理想荷重(理想出力)の波形である理想波形Waのパワースペクトル密度Paの積分値と、電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの実出力の波形である実出力波形Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値との差分を歪成分Pabとし、実荷重波形(実出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値と歪成分Pabとに基づいて歪率εを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、歪率算出過程において電流指令(入力)Iを検査装置Tの荷重(出力)を所定周期の正弦波で変化させる指令とし、電流指令(入力)Iが指示する理想荷重(理想出力)の波形である理想荷重(理想波形)Waのパワースペクトル密度Paの積分値と、電流指令(入力)Iに対する検査装置Tの実荷重(実出力)Fの波形である実荷重波形(実出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値との差分を歪成分Pabとし、実荷重波形(実出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbの積分値と歪成分Pabとに基づいて歪率εを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、最大荷重に対する理想波形Waと実荷重波形Wbの歪だけでなく、全周波数領域の両者の差を加味した歪率εが得られるので、各検査装置Tの実際の動的な挙動をより正確に把握できる。したがって、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、より正確に検査装置Tの等価性を評価できる。
【0085】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、歪率算出部3a1が実荷重波形(実出力波形)Wbのドリフト成分を取り除き、実荷重波形(実出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、歪率算出過程において実荷重波形(実出力波形)Wbのドリフト成分を取り除き、実荷重波形(実出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、実荷重波形Wbからドリフト成分を取り除いてから、パワースペクトル密度Pbを算出するので、パワースペクトル密度Pbから低周波ノイズを除去でき、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度よく求め得る。したがって、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、より正確に検査装置Tの等価性を評価できる。
【0086】
また、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、歪率算出部3a1において、実荷重波形(実出力波形)Wbの初期値W1と最終値とが同じ値でない場合、実荷重波形(実出力波形)Wb中で初期値W1と同値となるとともに初期値W1から所定周期の整数倍の地点の近傍にある点W2で実荷重波形(実出力波形)Wbの終端側を切り落とす処理を行ってから実荷重波形(実出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、歪率算出過程において、実荷重波形(実出力波形)Wbの初期値W1と最終値とが同じ値でない場合、実荷重波形(実出力波形)Wb中で初期値W1と同値となるとともに初期値W1から所定周期の整数倍の地点の近傍にある点W2で前記実出力波形の終端側を切り落とす処理を行ってから実荷重波形(実出力波形)Wbのパワースペクトル密度Pbを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、パワースペクトル密度Pbから高周波ノイズを除去でき、歪成分Pabが実際よりも大きくなるのが防止されて歪率εを精度よく求め得る。したがって、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、より正確に検査装置Tの等価性を評価できる。
【0087】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、ばらつき度合算出部3a2において、検査装置Tの荷重(出力)を所定周期の正弦波で変化させる電流指令(入力)Iを複数回与えた際の検査装置Tの実荷重(実出力)Fの波形である実荷重波形(実出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σ或いは分散σ に基づいてばらつき度合Sdを求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、ばらつき度合算出過程において検査装置Tの荷重(出力)を所定周期の正弦波で変化させる電流指令(入力)Iを複数回与えた際の検査装置Tの実荷重(実出力)Fの波形である実荷重波形(実出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σ或いは分散σ に基づいてばらつき度合Sdを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、評価対象の検査装置Tが実際に長期間に亘って使用される場合において動的な荷重変動の大きさを示めすばらつき度合Sdを求めることができ、評価対象の検査装置Tの動的な出力変動の大きさを把握できる。したがって、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、より正確に検査装置Tの等価性を評価できる。
【0088】
また、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、実荷重波形(実出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σ或いは分散σ の平均値の3倍の値をばらつき度合Sdとして求めてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、ばらつき度合算出過程において実荷重波形(実出力波形)Wbの位相毎の標準偏差σ或いは分散σ の平均値の3倍の値をばらつき度合Sdとして求めてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、検査装置Tが実際に長期間に亘って使用される場合において実際に生じ得る検査装置Tの動的な出力変動を客観的に示すばらつき度合Sdを得ることができるので、検査装置Tの動的な出力変動の大きさをより正確に把握し得る。したがって、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、より正確に検査装置Tの等価性を評価できる。
【0089】
そして、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、相関係数算出部3a3が複数の検査装置Tの出力の度数分布同士の相関係数Rを求めてもよい。また、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、相関係数算出過程において複数の検査装置Tの出力の度数分布同士の相関係数Rを求めてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、相関係数Rを求める対象である二つの検査装置Tの実荷重波形(実出力波形)Wbに位相ずれがあっても両者の正しい相関係数Rを求めることができる。したがって、検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、より正確に検査装置Tの等価性を評価できる。
【0090】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rと、これらに対応する閾値α,β,γとを比較し、比較結果に基づいて検査装置Tの不良を判断する不良判断部3a4を備えてもよい。そして、本実施の形態の検査装置Tの評価方法は、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rと、これらに対応する閾値α,β,γとを比較し、比較結果に基づいて検査装置Tの不良を判断する不良判断過程を備えてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1および検査装置Tの評価方法によれば、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rの3つの指標から全ての検査装置Tのなかに不良な検査装置Tがあれば、不良な検査装置Tを抽出できる。
【0091】
さらに、本実施の形態の検査装置Tの評価システム1は、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを表示する表示装置3eと、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rとを印刷するプリンタ(印刷装置)3gとの一方または両方を備えていてもよい。このように構成された検査装置Tの評価システム1によれば、歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを処理装置3のオペレータに認知させて、検査装置Tの等価性の判断指標をオペレータへ知らせることができる。
【0092】
なお、前述した実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重、速度、変位としているが、荷重、速度、変位のうちいずれか一つ或いは二つを出力として取り扱って歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めてもよい。本実施の形態では、検査装置Tの出力を荷重、速度、変位の複数のパラメータとしているので、各検査装置Tの相互の等価性をより正確に評価できる。また、本実施の形態では、検査装置Tが振動検査機であるので、出力に加速度を加えてもよい。
【0093】
さらに、前述した実施の形態では、同一のダンパDを検体として検査した際の同一の入力による検査装置Tの出力から歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めているが、検体を検査装置Tに取付せずに検体無しの無負荷にて同一の入力を検査装置Tに与えた際の検査装置Tの出力から歪率ε、ばらつき度合Sdおよび相関係数Rを求めてもよい。この場合、検査装置Tに検体が取り付けられていないので荷重については検知できないが、アクチュエータ13が伸縮するので、速度と変位は検知できるから、速度と変位を検査装置Tの出力とすればよい。また、本実施の形態の検査装置Tであれば、検体は、ダンパDの他、弾性体、機械部品等とされてもよい。
【0094】
また、前述した実施の形態では、検査装置Tは、検体をダンパDとした振動検査装置とされているが、入力によって検体に出力を与える検査装置であればよいので、振動検査機に限定されるものではない。したがって、検査装置Tは、出力として検体に、荷重、速度、変位の他、圧力、衝撃、温度等といった負荷を作用させる検査装置であってもよく、検体も検査内容に応じて適宜変更できる。
【0095】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【符号の説明】
【0096】
1・・・評価システム、2・・・センサ、3・・・処理装置、3a1・・・歪率算出部、3a2・・・ばらつき度合算出部、3a3・・・相関係数算出部、3a4・・・不良判定部
図1
図2
図3
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