(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】チタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20230329BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
H01M4/485
C01G23/00 B
(21)【出願番号】P 2019176813
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000109255
【氏名又は名称】チタン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】関 敏正
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/024353(WO,A1)
【文献】特開2011-086464(JP,A)
【文献】特開2008-130560(JP,A)
【文献】特開2009-080979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/485
C01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル型構造のチタン酸リチウムを主成分とし、酸化亜鉛に換算して0.8g/kg以上5.0g/kg以下の量で亜鉛を含む電極用活物質であって、粉末X線回折測定において、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度が2.0以下であり、かつ、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度が4.0以下である、電極用活物質。
【請求項2】
粉末X線回折測定において、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、同チタン酸リチウムの(220)面の回折線強度が1.0を超えて2.0以下である請求項1に記載の電極用活物質。
【請求項3】
比表面積が3.0m
2/g以上15.0m
2/g以下である請求項1または請求項2に記載の電極用活物質。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極用活物質を用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電極に使用される電極用活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、開発以来スマートフォン、ノートパソコン、タブレットパソコン等のモバイル機器の電源として重用され、さらに、電気自動車、ハイブリッド自動車、電動アシスト自転車等の電動車両、電動アシスト車両の電源や、電気鉄道車両における停電時用の電源としても幅広く使用されるようになってきた。加えて、太陽光発電、風力発電、波力発電等の自然エネルギーから得た電力の蓄電用としても利用され始めている。
【0003】
これらの多種多様な分野、用途において利用されるようになってきたリチウムイオン二次電池であるが、リチウムイオン二次電池に対する性能向上の要求は、各分野、各用途とも共通であり、主に以下の二点と安全性能の向上である。一つには、二次電池の質量当たりの電気容量あるいは体積当たりの電気容量の増大であり、もう一つは充放電速度の向上である。電気自動車を例に取ると、質量当たりの電気容量あるいは体積当たりの電気容量が増大すれば、電気自動車の満充電当たりの走行距離は向上する。一方、充電速度が向上すれば、充電の所要時間を縮めることができる。電気自動車の普及にあたっては、充電の所要時間が内燃機関搭載車の燃料補給時間と比較して長いことが課題となっているため、充電速度が向することは電気自動車を普及させる上で大きな効果がある。また、充電速度が大きければ、充電待ちの解消に繋がるため、充電器を中心とするインフラを効率的に利用することができ、インフラ整備の投資効率が向上する。更に、放電速度が向上すれば、最大出力が大きくなり、加速性能が向上する。
【0004】
充放電速度を大きくするために重要な特性が、電極活物質内のリチウムイオンの拡散速度である。リチウムイオン二次電池が充放電される際に電極活物質内をリチウムイオン及び電子が移動する。リチウムイオンのイオン半径は電子より圧倒的に大きいため、拡散速度が電子の拡散速度と比較して小さい。このためリチウムイオンの拡散速度が充放電速度の律速となる。
【0005】
ここで近年リチウムイオン二次電池の負極活物質として、チタン酸リチウムが注目されている。チタン酸リチウムは、結晶構造が隙間の大きいスピネル型構造のため、リチウムイオンの拡散速度は炭素系や合金系の材料と比較して大きい。このため、炭素系や合金系の電池と比較して充放電速度が大きく、また幅広いリチウムの挿入率で使用することができる。しかし近年は電気自動車の本格普及、省エネ要求の激化に伴い、従来のチタン酸リチウムよりも、リチウムイオンの拡散速度がより大きい負極用活物質が要求されるようになった。
【0006】
リチウムイオンの拡散速度を大きくする手段としては、チタン酸リチウムを主成分とする活物質内部を均一にする方法や、チタン酸リチウムに結晶の格子定数が大きい物質を固溶することでチタン酸リチウム中の隙間を更に広げ、リチウムの拡散を容易にする方法が挙げられる。
特許文献1では、一般的なスピネル型構造のチタン酸リチウムの粒径を制御することで、高レートにおけるリチウム挿入能力が大きいことが報告されている。
【0007】
非特許文献1では、亜鉛が固溶したスピネル型構造のチタン酸リチウム(化学式Li
4-xZn
XTi
5O
12、xは0.25、0.5、または1)が報告されている。当該化合物は、1時間で放電が終了する電流量を1Cとした場合、0.5C以上4C以下の範囲において放電容量の変化が小さく、良好な負荷特性を示している。しかしながら、例えば、
図2(d)に示されるLi
3.5Zn
0.5Ti
5O
12の電気容量は、0.5Cの低負荷においても130mAh/g以下と容量が小さく、実用的とはいえない。
【0008】
特許文献2では、スピネル型構造のチタン酸リチウムであって、モル比率でチタンが5に対して、リチウムと亜鉛の合計が4を超え4.1以下になるように亜鉛を添加した化合物は、小さい比表面積で高い充放電容量が得られることが報告されている。当該発明の亜鉛添加は、比表面積を小さくしても放電容量の低下を抑制することに主眼を置いたものであり、前述の課題に対する解決策を示したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4153192号公報
【文献】国際公開第2011/024353号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Electrochemical and Solid-State Letters,13(4)A36-A38(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、リチウムイオンの拡散速度が大きいチタン酸リチウムを主成分とするリチウムイオン二次電池用の電極用活物質及びそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的について鋭意検討を重ねた結果、スピネル型構造のチタン酸リチウムを主成分とするが、ここに、非常に少量の亜鉛、詳細には、酸化亜鉛に換算して、0.8g/kg以上5.0g/kg以下の量の亜鉛を含有させることにより、リチウムイオンの拡散速度が大きい電極用活物質が得られることを見出した。また、この電極用活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、幅広いリチウム挿入率で電圧が安定であることを見出した。電極用活物質は、粉末X線回折測定において、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度が2.0以下であり、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度が4.0以下であることが必要である。また、好ましくは、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度が1.0を超えて2.0以下である。また、さらに好ましくは、比表面積が3.0m2/g以上15.0m2/g以下である。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
〈態様1〉
亜鉛を含有するスピネル型構造のチタン酸リチウムを主成分とし、亜鉛を、酸化亜鉛に換算して0.8g/kg以上5.0g/kg以下の量で含む電極用活物質であって、粉末X線回折測定において、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度が2.0以下であり、かつ、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度が4.0以下である、電極用活物質。
〈態様2〉
粉末X線回折測定において、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、同チタン酸リチウムの(220)面の回折線強度が1.0を超えて2.0以下である態様1に記載の電極用活物質。
〈態様3〉
比表面積が3.0m2/g以上15.0m2/g以下である態様1または態様2に記載の電極用活物質。
〈態様4〉
態様1から態様3のいずれか1項に記載の電極用活物質を用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明で提供するチタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質はリチウムイオンの拡散速度が大きく、これを用いたリチウムイオン二次電池は、幅広いリチウム挿入率で電圧が安定である。本発明の電極用活物質は、リチウムイオン二次電池の材料として有用である。
【0014】
本発明の電極用活物質である亜鉛を含有したスピネル構造のチタン酸リチウムは、一般的なスピネル型構造のチタン酸リチウムと同様に5モルのTiに対して、おおよそ3モルのリチウムを挿入することが理論的に可能である。本明細書で述べるリチウムの挿入率とは、チタン酸リチウム中に挿入されたリチウムの物質量の目安を示し、具体的には、従来技術のチタン酸リチウム或いは本発明のチタン酸リチウムについて、金属リチウムを対極にしたコイン電池を作製し、活物質1gあたり35mAで1.0V~3.0Vで充放電を繰り返し、3サイクル目において放電電圧が3.0Vから1.0Vに達した時点の放電容量をリチウム挿入率100%とし、前記放電容量に基づいてリチウム挿入率を計算して得る。例えば、前記の放電容量に基づいて容量が50%の時をリチウム挿入率50%、容量が90%の時をリチウム挿入率90%と呼ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1と比較例1で得られた電極用活物質のX線回折図である。
【
図2】実施例及び比較例における電池評価に用いた、正極活物質としてチタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質を、負極活物質にリチウム金属を用いたコイン電池の模式図である。
【
図3】実施例1の電極用活物質を用いたコイン電池の3サイクル目の充放電曲線である。
【
図4】比較例1の電極用活物質を用いたコイン電池の3サイクル目の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のチタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質について詳しく説明する。
少量の亜鉛を含有したチタン酸リチウムのリチウムイオンの拡散速度が大きくなる理由は定かではないが、少量の亜鉛を含有することによって、チタン酸リチウムの結晶格子が広げられるためと考えられる。チタン酸リチウムはスピネル型構造であり、亜鉛はスピネル型構造のチタン酸亜鉛リチウムとして、チタン酸リチウムに固溶していると考える。チタン酸リチウムの格子定数が8.36Åであるのに対して、チタン酸亜鉛リチウムの格子定数は8.39Åであるため、本発明のチタン酸リチウムは従来のチタン酸リチウムよりも僅かに結晶格子が伸張すると推測される。過去の研究で、チタン酸亜鉛リチウムにおける亜鉛の固溶比率が本発明の範囲より大きい場合に格子定数が増加した。但し、本発明の亜鉛の含有量では格子定数の変化は小さいため、一般的なX線回折装置の分解能では格子定数の変化を検出することは難しい。
【0017】
ここで、格子定数の違い以外でリチウムイオンの拡散速度を評価する指標として、リチウムの挿入率が大きい状態での電圧の推移を挙げることができる。リチウムの挿入率が大きい状態での電圧の推移を調べるために、チタン酸リチウムを電極材料に用いた電池を作製して評価する。一般的なリチウムイオン二次電池においては、チタン酸リチウムは負極に用いられ、マンガン、コバルト及びニッケル酸化物は正極に用いられるが、チタン酸リチウムの電極材料としての性能評価を行う際に上記のような正極材料と組み合わせて評価を行うと、電池特性に正極材料の性能が加わってしまうため、チタン酸リチウム単体の評価として適切ではない。そこで、リチウム金属を負極に、チタン酸リチウムを正極にした単極評価を行う。単極評価においてチタン酸リチウムは、リチウムの挿入率が小さい放電の初期における電圧が約1.55Vである。リチウムの挿入率が大きい放電の終盤においては、リチウムイオンの拡散速度が低下して、電池の内部抵抗が大きくなり,電圧損失を生じる。この結果、外部の電気回路の電圧が低下する。従って、外部回路の電圧低下を測定することによって、電極用活物質内のリチウムイオンの拡散速度を評価することができる。リチウムイオンの拡散速度が大きい電極用活物質を使用した電池は、リチウムの挿入率が大きい状態、特にリチウムが90%以上挿入された状態で、リチウムの挿入率が小さい状態と同程度の電圧が維持される。本発明の電極用チタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質は、リチウムの挿入率が90%の状態において、挿入率が50%の場合の0.990倍以上の電圧が維持されていることが特長である。リチウムの挿入率が90%の状態における電圧をV90、挿入率が50%時の電圧をV50とした場合に、V90をV50で除した値を電圧維持率とする。
【0018】
なお、リチウム挿入率100%における放電容量に対して、放電容量が50%及び90%の点を、それぞれリチウム挿入率50%及びリチウム挿入率90%とした。ちなみに、チタン酸リチウムを負極に使用した場合では、リチウム挿入過程が充電となる。電圧維持率が大きいことは、充電速度が大きいことを示す。
【0019】
亜鉛を含む電極用スピネル型構造のチタン酸リチウムの亜鉛含有量は、酸化亜鉛(ZnO)に換算して0.8g/kg以上5.0g/kg以下である。上記の亜鉛含有量が0.8g/kg未満では格子の結晶伸張が十分ではないためリチウム挿入率が90%以上の領域におけるリチウムイオンの拡散速度が大きくならない。一方で、上記の亜鉛含有量が5.0g/kgを超えると、電気容量の小さいチタン酸亜鉛リチウムの比率が大きくなることから、放電容量が160mAh/gよりも小さくなり、電極用活物質として実用的ではない。
【0020】
本発明の電極用チタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質において、亜鉛はリチウム及びチタンと結合し、チタン酸リチウムと同じスピネル型構造の結晶構造であるチタン酸亜鉛リチウムを形成しており、同化合物はチタン酸リチウムと固溶している。そのため、粉末X線回折測定において、亜鉛を含んだ化合物の回折パターンを観察することはできない。一方でチタン酸リチウムの(220)面の回折線は、上記のスピネル型構造のチタン酸亜鉛リチウムの(220)面のピークの重なりにより、亜鉛を含有しないものと比較して強度が大きい。亜鉛を含有しないチタン酸リチウムの(220)面のピーク強度は、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、1.0以下なのに対し、亜鉛を含有するものは1.0より大きく2.0以下のピーク強度を有する。
【0021】
本発明のチタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質は、亜鉛を含有するスピネル型構造のチタン酸リチウムのみで構成されることが理想であるが、実際にはルチル型二酸化チタンおよび/または岩塩型チタン酸二リチウム(化学式Li2TiO3)が生成する。これらの存在は少なければ少ないほど、電気容量が理論容量175mAh/gに近づく。本発明の電極用活物質の粉末X線回折測定においては、ルチル型二酸化チタン若しくは岩塩型チタン酸二リチウムの回折線は小さいほど望ましい。同材料における電気容量の許容範囲である160mAh/gを満たすためには、チタン酸リチウムの最も強い(111)面のX線回折線強度を100とした場合に、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度及び岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度の上限は、それぞれ2.0以下及び4.0以下である。より好ましくは、それぞれ1.0以下及び3.0以下である。
【0022】
本発明の電極用活物質は粉末の状態で得られるため、一般的には溶剤、樹脂及び添加剤を加えて塗料を作製し、電極に加工される。電極に加工するためには、比表面積が3.0m2/g以上15.0m2/g以下であることが好ましい。比表面積が15.0m2/gを超える場合、一次粒子が小さく粒子内の移動距離は小さくなり、リチウムイオンの拡散速度は大きくくなるものの、塗膜作製において多くの樹脂を使用する必要があり、電気容量が小さくなる傾向がある。また、そのような比表面積の大きい粒子は結晶性が悪く、粒子表面が不活性化しやすいため、リチウムイオン二次電池用途に不適となるおそれがある。一方で、比表面積が3.0m2/gよりも小さいと、一次粒子径が大きいため粒子内のリチウムの移動距離が長くなり、急速充電時に電池の内部構造を損傷するリスクが大きくなる。比表面積は、より好ましくは、3.0m2/g以上12.0m2/g以下であり、さらに好ましくは、4.0m2/g以上11.0m2/g以下である。
【0023】
本発明のチタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質は、以下の工程(1)から(3)を備える製造方法により作製することができる。
(1)亜鉛の含有量が、混合物全体の質量に対して、酸化亜鉛に換算して0.8g/kg以上5.0g/kg以下になるように、亜鉛成分源、チタン成分源、及びリチウム成分源の3種を混合するか、或いは酸化亜鉛を含有する二酸化チタンのような亜鉛を含有するチタン成分源とリチウム成分源の2種を混合する工程。
(2)(1)からの混合物を焼成温度800℃以上950℃以下で焼成する工程。この際、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面のX線回折線強度を100とした場合に、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度及び岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度がそれぞれ2.0以下及び4.0以下となるように調整する。また、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度が1.0を超えて2.0以下となるように調整することが好ましい。
(3)(2)で得た焼成物を粉砕する工程。この際、粉砕物の比表面積が3.0m2/g以上15.0m2/g以下になるように粉砕することが好ましい。
【0024】
[原料]
チタン成分源としては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型とルチル型の2相を有する二酸化チタン、及びメタチタン酸が挙げられる。チタン成分源として二酸化チタンを用いる場合、アナターゼ型とルチル型どちらを使用しても、生成物の物性には影響しない。チタン成分源は、表面がアルミナやシリカで処理されていないものが望ましい。予め酸化亜鉛等の亜鉛を含む二酸化チタンも使用することができる。最終的な電極用活物質における亜鉛の効果は、二酸化チタンに予め含有された亜鉛を用いた場合でも、二酸化チタンとは別に添加された亜鉛を用いた場合でも差はない。予め亜鉛を含む二酸化チタンを使用する場合は、含有量が目標値になるように亜鉛成分源の添加量を適宜調整すれば良い。リチウム成分源としては、炭酸リチウム及び水酸化リチウムが挙げられる。亜鉛成分源としては、酸化亜鉛、炭酸亜鉛及び水酸化亜鉛が挙げられる。いずれも、各々試薬グレード或いは工業グレードのような一般的に販売されているものを使用することができる。
【0025】
[混合]
チタン成分源、リチウム成分源、及び亜鉛成分源を、一般的な混合機或いは粉砕混合機を使用して混合する。亜鉛の量は、二酸化チタンが含有する亜鉛の量も含めて、混合物全体に対して、酸化亜鉛(ZnO)換算で、0.8g/kg以上5.0g/kg以下になるように添加する。混合の強度及び混合時間は、少量サンプリングしたものを先行で焼成し、X線回折測定により評価して、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合にルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線の強度が2.0以下となり、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線の強度が4.0以下となるように適宜調整することが好ましい。
【0026】
[焼成]
上記により得られた混合物を、大気雰囲気下で800℃以上950℃以下の温度で焼成する。この際、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面のX線回折線強度を100とした場合の、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度及び岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度が、それぞれ、2.0以下及び4.0以下となるように、焼成温度、保持時間及び仕込み量を調整する。ただし、炉内の温度が高くなり過ぎると比表面積が小さくなり易く、更に高温安定相である三チタン酸二リチウムが生成して目的の物質が得にくくなるため、好ましくない。
【0027】
[粉砕]
次いで、焼成物を粉砕する。この際、電極用活物質として使用するのに適した比表面積となるように粉砕することが好ましい。粉砕機としては、ハンマーミル、気流式粉砕機、振動ミル、ビーズミル、及びローラーコンパクターといった一般的な粉砕混合器が使用できる。二種類以上の粉砕機を組み合わせて使用しても良い。粉砕物(電極用活物質)の比表面積は、3.0m2/g以上15.0m2/g以下が好ましい。
【0028】
[リチウムイオン二次電池]
得られた電極用活物質を、正極用活物質または負極用活物質として用い、慣用される方法を用いてリチウムイオン二次電池を形成することができる。リチウムイオン二次電池の作製方法、用いる材料、電池の形状などは、特に限定されず、公知の方法及び材料を用いればよい。例えば、電極用活物質を導電助剤及び結合剤と混合し、有機溶媒または水を加えて電極用活物質のスラリーを形成し、このスラリーを電極集電体上に任意の方法で塗工し、乾燥することで電極を形成することができる。本発明の電極用活物質を用いて形成した電極の対極における電極用活物質としては、特に限定されず、正極用または負極用として公知の任意の活物質を用いることができる。結合剤も特に限定されず、例えば、これらに限定されないが、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース等を用いることができる。有機溶剤も特に限定されず、例えば、これらに限定されないが、ジメチルスルホキシト、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトン、メタノール、エタノール等を用いることができる。
【0029】
こうして得られた正極及び負極を、例えば、ケース内でセパレーターと組み合わせ、電解質を注入し、ガスケットを周縁に配してリチウムイオン二次電池とすることができる。電解質の種類は特に限定されず、例えば、六フッ化リンリチウム(化学式LiPF6)のような電解質塩を含む電解液等を用いることができる。
【0030】
電池の形状も特に限定されず、例えば、これらに限定されないが、コイン型、円筒型、角型、シート型等を挙げることができる。
次に、電極用活物質の評価方法を説明する。
【0031】
[亜鉛含有量の測定方法]
亜鉛含有量は、ICP分析或いは蛍光X線分析装置で測定可能である。蛍光X線装置を用いる場合は、予めICP分析した試料を標準として用いて測定し、強度と含有量の関係の検量線を作成することで、より正確な分析が可能である。なお、本明細書において、亜鉛含有量は、酸化亜鉛(ZnO)の量に換算して表示した。
【0032】
[スピネル型構造のチタン酸リチウム、ルチル型二酸化チタン、及び岩塩型チタン酸二リチウムの分析]
試料をCuをターゲットにしたX線回折装置リガク製RINT TTRIII X線回折装置で測定し、平滑化、バックグランド除去、Kα2線除去を実施した後、2θが18.4°プラスマイナス0.2°のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合の、2θが27.4°プラスマイナス0.2°のルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度、2θが43.6°プラスマイナス0.2°の岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度、及び2θが30.2°プラスマイナス0.2°のスピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度をそれぞれ求める。
【0033】
[比表面積]
本明細書において、比表面積は、BET法による比表面積をいう。比表面積は、例えば、MICROMETORICS INSTRUMENT CO.製ジェミニ2390を用いて、BET法で求めることができる。
【0034】
[放電容量及び電圧維持率]
本明細書において、電極用活物質を用いたリチウムイオン二次電池の放電容量及び電圧維持率は、以下の方法で求める:
電極用活物質820g/kg、アセチレンブラック90g/kg、及びポリフッ化ビニリデン90g/kgを混合後、固形分濃度300g/kgとなるようにN-メチル-2-ピロリドンを加え、ハイシェアーミキサーにより15分間混練し、塗料を作製する。この塗料をアルミ箔上にドクターブレード法で塗布する。110℃で真空乾燥後、初期電極合剤の厚みに対して80%となるようにロールプレスする。これを95mm
2の円形に打ち抜いた後、
図2に示すコイン電池の正極とする。
図2において負極には金属リチウム板を、電解液にはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの等容量混合物に六フッ化リンリチウムを1mol/Lで溶解したものを、セパレーターにはグラスフィルターを使用している。上記により作製したコイン電池を、ナガノ製充放電試験器を用いて、活物質1g当たり35mAで1.0Vまで放電した後、同一定電流で3.0Vまで充電する。この放電及び充電を3サイクル行い、3サイクル目の放電容量を求める。3サイクル目の放電容量を100%とした場合に、容量50%の時の電圧をV50、容量90%の時の電圧をV90とし、V90をV50で除して、電圧維持率を算出する。なお、本評価では、対極の活物質に金属リチウムを用いているため、本発明の電極用活物質を正極に用いている。通常のリチウムイオン二次電池に本発明の電極用活物質を用いる場合には、負極に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。以下に挙げる例は単に例示のために記すものであり、発明の範囲がこれによって制限されるものではない。
[実施例1]
酸化亜鉛を含有しないアナターゼ型二酸化チタン264g、炭酸リチウム100g、及び酸化亜鉛0.26gを秤量し、株式会社石川工場製石川式擂潰機22号(以下、「22号擂潰機」と略す)で30分間粉砕混合した。混合物をモトヤマ製高速昇温炉に入れ、900℃で4時間焼成した。焼成物を22号擂潰機で1時間粉砕して、試料1を得た。
【0036】
試料1の亜鉛の含有量は酸化亜鉛に換算して0.8g/kgで、粉末X線回折測定ではスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は1.2、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は0.6、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は1.3であった。試料1の比表面積は4.3m2/gであった。3サイクル目の放電容量は166mAh/g、電圧維持率は0.995であった。
【0037】
[実施例2]
酸化亜鉛を1.0g/kg含有するルチル型二酸化チタン264g、炭酸リチウム100g、及び酸化亜鉛0.26gを混合する以外は、実施例1と同様の操作で試料2を作製した。
【0038】
試料2の亜鉛含有量は酸化亜鉛に換算して1.8g/kg、粉末X線回折測定ではスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、スピネル構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は1.3、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は0.9、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は1.8、比表面積は4.2m2/gであった。また、3サイクル目の放電容量は164mAh/g、電圧維持率は0.992であった。
【0039】
[実施例3]
酸化亜鉛を1.0g/kg含有するルチル型二酸化チタン264g、炭酸リチウム100g、及び酸化亜鉛0.53gを混合する以外は、実施例1と同様の操作で試料3を作製した。
【0040】
試料3の亜鉛含有量は酸化亜鉛に換算して2.6g/kg、粉末X線回折測定ではスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は1.5、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は0.5、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は1.8、比表面積は4.5m2/gであった。また、3サイクル目の放電容量は166mAh/g、電圧維持率は0.995であった。
【0041】
[実施例4]
酸化亜鉛を1.0g/kg含有するルチル型二酸化チタン264g、炭酸リチウム100g、及び酸化亜鉛1.32gを混合する以外は、実施例1と同様の操作で試料4を作製した。
【0042】
試料4の亜鉛含有量は酸化亜鉛に換算して4.3g/kg、粉末X線回折測定ではスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合に、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は1.8、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は0.6、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は1.8、比表面積は4.8m2/gであった。また、3サイクル目の放電容量は163mAh/g、電圧維持率は0.995であった。
【0043】
[実施例5]
22号擂潰機で5.0h粉砕する以外は、実施例3と同様の操作で、試料5を作製した。
【0044】
試料5の亜鉛含有量は酸化亜鉛に換算して2.6g/kg、粉末X線回折測定によるスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合のスピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は1.5、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は0.8、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は2.6、比表面積は10.6m2/gであった。また、3サイクル目の放電容量は166mAh/g、電圧維持率は0.995であった。
【0045】
[比較例1]
酸化亜鉛を含有しないアナターゼ型二酸化チタン264g及び炭酸リチウム100gを混合する以外は、実施例1と同様の操作で試料6を作製した。
【0046】
試料6の亜鉛含有量は酸化亜鉛に換算して0.0g/kg、粉末X線回折測定によるスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合のスピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は0.8、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は0.6、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は1.4であった。比表面積は4.3m2/gであった。また、3サイクル目の放電容量は165mAh/g、電圧維持率は0.986であった。
【0047】
[比較例2]
酸化亜鉛を1.0g/kg含有するルチル型二酸化チタン264g、炭酸リチウム100g、及び酸化亜鉛23.8gを混合する以外は、実施例1と同様の操作で試料7を作製した。
【0048】
試料7の亜鉛含有量は酸化亜鉛に換算して8.7g/kg、粉末X線回折測定によるスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合のスピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は2.5、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は0.7、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は1.9であった。比表面積は4.7m2/gであった。また、3サイクル目の放電容量は159mAh/g、電圧維持率は0.980であった。
【0049】
[比較例3]
22号擂潰機を用いて30分間粉砕混合した混合物を850℃で焼成する以外は、実施例3と同様の操作で試料8を作製した。
【0050】
試料8の亜鉛含有量は酸化亜鉛に換算して2.6g/kg、粉末X線回折測定によるスピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面の回折線強度を100とした場合のスピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度は1.5、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度は4.0、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度は2.8であった。比表面積は4.5m2/gであった。また、3サイクル目の放電容量は158mAh/g、電圧維持率は0.983であった。
【0051】
表1は実施例及び比較例の試料の作製条件を、表2は実施例及び比較例で得られたチタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質の評価結果を示す。
実施例1から実施例5で得られたチタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質は、いずれも亜鉛の含有量が酸化亜鉛に換算して0.8g/kg以上5.0g/kg以下、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(111)面のX線回折強度を100とした場合のスピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度が1.0より大きく2.0以下、ルチル型二酸化チタンの(110)面の回折線強度が2.0以下、岩塩型チタン酸二リチウムの(-133)面の回折線強度が4.0以下であり、比表面積が3.0m2/g以上15.0m2/g以下を満たす。これらの電極用活物質を用いて作製したコイン電池は放電容量が160mAh/g以上、電圧維持率が0.990以上であった。
【0052】
比較例1は亜鉛の含有量が本発明の下限値より小さく、スピネル型構造のチタン酸リチウムの(220)面の回折線強度が1.0よりも小さい。比較例1で得られる電極用活物質を用いて作製した電池は、電圧維持率が0.986と、本発明で得られる電極用活物質を用いて作製した電池よりも小さかった。比較例2は、亜鉛の含有量が本発明の上限値より大きい。比較例2で得られる電極用活物質を用いて作製した電池は、放電容量が160mA/g未満となった。比較例3は、ルチル型二酸化チタンと岩塩型チタン酸二リチウムを多く含む。比較例3で得られる電極用活物質を用いて作製した電池は、放電容量が160mA/g未満となった。
【0053】
以上より、本発明により、リチウムイオンの拡散速度が大きい、チタン酸リチウムを主成分とする電極用活物質を得ることができることがわかる。本活物質は、充放電速度の大きいリチウムイオン二次電池の材料として有用である。
【0054】
【0055】