(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】モータ駆動システム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/028 20160101AFI20230329BHJP
【FI】
H02P29/028
(21)【出願番号】P 2019199304
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富澤 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】窪田 翔二
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-264992(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122329(WO,A1)
【文献】特開2018-129995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00-29/68
H02P 5/00-5/753
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれがトルクを出力するモータとして機能する第1アクチュエータ(10)及び第2アクチュエータ(20)を含む複数のアクチュエータを備えるモータ駆動システムであって、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータは、それぞれ、モータ駆動制御に関する演算を行う、冗長的に設けられた複数の制御演算部(161、162、261、262)、及び、対応する前記制御演算部が生成した駆動信号に基づいて駆動しトルクを出力する、冗長的に設けられた複数のモータ駆動部(171、172、271、272)を有し、
各前記アクチュエータ内で互いに対応する前記制御演算部と前記モータ駆動部との組み合わせの単位を系統と定義すると、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータにおける、互いに対をなす系統の前記制御演算部同士は、アクチュエータ間通信により相互に情報を送受信し、
二つの前記アクチュエータのうちいずれかのアクチュエータにおけるいずれかの系統で故障が発生したとき、又は、いずれかの系統の前記アクチュエータ間通信に故障が発生したとき、故障が発生した系統の各前記アクチュエータの前記制御演算部はモータ駆動制御を停止し、両方の前記アクチュエータにおいて正常な系統の前記制御演算部によりモータ駆動制御を継続するモータ駆動システム。
【請求項2】
二つの前記アクチュエータのうちいずれかのアクチュエータにおけるいずれかの系統で故障が発生し、且つ当該系統のアクチュエータ間通信が正常であるとき、
故障が発生した前記アクチュエータにおける故障が発生した系統の前記制御演算部は、他方の前記アクチュエータの対をなす系統の前記制御演算部に異常信号を送信し、前記異常信号を受信した前記制御演算部は、モータ駆動制御を停止する請求項1に記載のモータ駆動システム。
【請求項3】
各前記アクチュエータの各系統の前記制御演算部は、
他方の前記アクチュエータの対をなす系統で故障が発生したこと、又は、自系統のアクチュエータ間通信に故障が発生したことを検知した場合、自身によるモータ駆動制御を停止する請求項1または2に記載のモータ駆動システム。
【請求項4】
前記第1アクチュエータ又は前記第2アクチュエータの少なくとも一方において、
同じ前記アクチュエータ内の複数の前記制御演算部は、系統間通信により相互に情報を送受信する請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項5】
前記系統間通信が故障したとき、各系統の前記制御演算部は、自系統のみの情報に基づいてモータ駆動制御を継続する請求項4に記載のモータ駆動システム。
【請求項6】
前記第1アクチュエータ又は前記第2アクチュエータの少なくとも一方において、各系統の前記制御演算部への情報が冗長的に入力される請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項7】
前記第1アクチュエータ又は前記第2アクチュエータの少なくとも一方において、
正常側系統の前記制御演算部は、故障側系統の前記モータ駆動部の出力を補うように、正常側系統の前記モータ駆動部の出力を、両系統の正常時に対して増加させる請求項1~6のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項8】
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータに加え、
モータ駆動制御に関する演算を行う冗長的に設けられた複数の制御演算部(361、362、461、462)、及び、対応する前記制御演算部が生成した駆動信号に基づき駆動しトルクを出力する冗長的に設けられた複数のモータ駆動部(371、372、471、472)を有する一つ以上の追加のアクチュエータ(30、40)をさらに備え、
前記追加のアクチュエータの前記制御演算部は、前記アクチュエータ間通信により他の前記アクチュエータの前記制御演算部と相互に情報を送受信し、
三つ以上の前記アクチュエータのうちいずれかのアクチュエータにおけるいずれかの系統で故障が発生したとき、又は、いずれかの系統の前記アクチュエータ間通信に故障が発生したとき、
故障が発生した系統の各前記アクチュエータの前記制御演算部はモータ駆動制御を停止し、全ての前記アクチュエータにおいて正常な系統の前記制御演算部によりモータ駆動制御を継続する請求項1~7のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項9】
少なくとも一つの前記アクチュエータにおいて、
複数の前記制御演算部又は複数の前記モータ駆動部は、三系統以上が冗長的に設けられている請求項1~8のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項10】
左輪と右輪とが独立に転舵する車両の転舵システムに適用され、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータは、それぞれ左輪転舵用及び右輪転舵用のアクチュエータである請求項1~7のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項11】
車両のステアバイワイヤシステムに適用され、
一つの前記追加のアクチュエータ(30)は、反力トルクを生成するアクチュエータである請求項8に記載のモータ駆動システム。
【請求項12】
四輪が独立に転舵する車両の転舵システムに適用され、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータは、それぞれ左前輪及び右前輪を転舵させるアクチュエータであり、二つの前記追加のアクチュエータ(30、40)は、それぞれ左後輪及び右後輪を転舵させるアクチュエータである請求項8に記載のモータ駆動システム。
【請求項13】
車両の電動パワーステアリングシステムに適用され、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータは、それぞれコラム及びラックに設けられた2台の操舵アシストモータとして機能する請求項1~7のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般にモータが駆動されるモータ駆動システムにおいて、モータ駆動に関する演算を行う制御演算部や、制御演算部が生成した駆動信号に基づいて駆動するモータ駆動部が冗長的に複数設けられた構成が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された制御システムのフェールセーフ制御装置では、2個のECUのうち1個が失陥すると、失陥したECUを停止し、正常な1個のECUで制御を続行する。また、2個のモータのうち1個が失陥すると、失陥したモータを停止し、正常な1個のモータを用いて制御を続行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の
図8、
図9に開示された実施例3の装置は、それぞれが操舵反力モータの駆動を制御する2個の反力ECU-(A)、(D)、及び、それぞれが転舵モータの駆動を制御する2個の転舵ECU-(B)、(C)を備える。例えば1個の反力ECU-(A)の失陥時には、反力ECU-(A)を停止し、正常な1個の反力ECU-(D)及び2個の転舵ECU-(B)、(C)、操舵反力モータ及び転舵モータの駆動制御を続行する。
【0006】
本明細書では、特許文献1の「反力ECU」及び「操舵反力モータ」を含むものを一般化して「第1アクチュエータ」といい、「転舵ECU」及び「転舵モータ」を含むものを一般化して「第2アクチュエータ」という。また、特許文献1の「反力ECU」及び「操舵反力モータ」を「第1アクチュエータの制御演算部」及び「第1アクチュエータのモータ駆動部」という。特許文献1の「転舵ECU」及び「転舵モータ」を「第2アクチュエータの制御演算部」及び「第2アクチュエータのモータ駆動部」という。
【0007】
すなわち、本明細書における「第1アクチュエータ」及び「第2アクチュエータ」は、どのような用途のアクチュエータであってもよい。また、「アクチュエータ」の用語は、外部からの駆動信号により駆動される機械的要素のみでなく、自身の内部に有する制御演算部が生成した駆動信号によってモータ駆動部がトルクを出力する駆動装置を意味する。なお、アクチュエータ内の制御演算部とモータ駆動部とは物理的に一体に構成されてもよく、信号線を介して別体に構成されてもよい。
【0008】
ここで、特許文献1の従来技術において「第1アクチュエータの一方の制御演算部」である反力ECU-(A)と、「第2アクチュエータの一方の制御演算部」である転舵ECU-(B)とが対をなし、情報を互いに送受信する構成を想定する。第1アクチュエータの一方の制御演算部が故障した場合やアクチュエータ間の通信が故障した場合、対をなす第2アクチュエータの制御演算部に入力される情報も異常値となるか、又は情報が入力されない。そのため、対をなす第2アクチュエータの制御演算部により制御されるモータ駆動部が誤出力し、システムが誤動作するおそれがある。したがって、フェールセーフの視点から問題がある。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、第1アクチュエータもしくは第2アクチュエータのうちいずれか一方の故障、又はアクチュエータ間通信の故障による他方のアクチュエータの誤出力を防止するモータ駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、それぞれがトルクを出力するモータとして機能する第1アクチュエータ(10)及び第2アクチュエータ(20)を含む複数のアクチュエータを備えるモータ駆動システムである。
【0011】
第1アクチュエータ及び第2アクチュエータは、それぞれ、冗長的に設けられた複数の制御演算部(161、162、261、262)、及び、冗長的に設けられた複数のモータ駆動部(171、172、271、272)を有する。複数の制御演算部は、モータ駆動制御に関する演算を行う。複数のモータ駆動部は、対応する制御演算部が生成した駆動信号に基づいて駆動しトルクを出力する。例えば多相ブラシレスモータでは、モータ駆動部は、電圧を供給するインバータ、ステータに巻回された多相巻線、永久磁石を有するロータ等により構成される。なお、多重巻線モータのように、複数のモータ駆動部においてロータ等が共通に設けられてもよい。
【0012】
各アクチュエータ内で互いに対応する制御演算部とモータ駆動部との組み合わせの単位を「系統」と定義する。第1アクチュエータ及び第2アクチュエータにおける、互いに対をなす系統の制御演算部同士は、アクチュエータ間通信により相互に情報を送受信する。
【0013】
二つのアクチュエータのうちいずれかのアクチュエータにおけるいずれかの系統で故障が発生したとき、又は、いずれかの系統のアクチュエータ間通信に故障が発生したとき、故障が発生した系統の各アクチュエータの制御演算部はモータ駆動制御を停止する。そして、両方のアクチュエータにおいて正常な系統の制御演算部によりモータ駆動制御を継続する。
【0014】
これにより本発明では、第1アクチュエータもしくは第2アクチュエータのうちいずれか一方の故障、又は、いずれか一系統のアクチュエータ間通信の故障の場合、当該故障による他方のアクチュエータの誤出力が防止され、システムの誤動作が回避される。また、両方のアクチュエータにおいて正常な系統の制御演算部によりモータ駆動制御が継続されるため、駆動機能を確保することができる。よって、フェールセーフ機能が適切に実現される。
【0015】
特に、二つのアクチュエータのうちいずれかのアクチュエータにおけるいずれかの系統で故障が発生し、且つ当該系統のアクチュエータ間通信が正常であるとき、故障が発生した系統の制御演算部は、他方のアクチュエータの対をなす系統の制御演算部に異常信号を送信する。異常信号を受信した制御演算部は、モータ駆動制御を停止する。これにより、故障が発生した系統と対をなす系統の制御演算部において、モータ駆動制御を迅速に停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態によるモータ駆動システムの全体構成図。
【
図3】故障発生時における異常信号の送信を示す図。
【
図4】故障発生時におけるモータ駆動制御の停止処理のフローチャート。
【
図5】(a)一系統の故障発生時における出力変化を示すタイムチャート、(b)二系統合計電流指令値と電流制限値との関係を示す図。
【
図6】第2実施形態によるモータ駆動システムの模式図。
【
図7】第3実施形態によるモータ駆動システムの模式図。
【
図8】四つのアクチュエータ間での通信の接続形態を説明する図。
【
図9】第4実施形態によるモータ駆動システムの模式図。
【
図10】他の実施形態によるモータ駆動システムの全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のモータ駆動システムの複数の実施形態を図面に基づいて説明する。各実施形態のモータ駆動システムは、それぞれがトルクを出力するモータとして機能する複数のアクチュエータを備える。各アクチュエータは、冗長的に設けられた複数の制御演算部、及び、冗長的に設けられた複数のモータ駆動部を有する。各アクチュエータ内で互いに対応する制御演算部とモータ駆動部との組み合わせの単位を「系統」と定義する。複数の実施形態で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、第1~第4実施形態を包括して「本実施形態」という。
【0018】
(第1実施形態)
図1に、車両の転舵システム901に適用されるモータ駆動システム801を示す。車両としては、ドライバがハンドル操作しない自動運転車両や無人車両が想定される。操舵指令部915は、予め決められたルートプログラムや、ナビゲーション装置による目的地までのルート情報に従って、モータ駆動システム801に転舵指令を出力する。二点鎖線で示すダミーハンドル910が転舵指令に応じて疑似的に回転動作してもよい。
【0019】
この車両は、左輪99Lと右輪99Rとが独立に転舵する。モータ駆動システム801は、左輪転舵用の第1アクチュエータ10と右輪転舵用の第2アクチュエータ20とを備えている。以下の図中、「Act」は「アクチュエータ」を意味する。第1アクチュエータ10は、操舵指令部915からの左輪転舵指令CstLに基づいて左輪99Lの転舵トルクTstLを出力する。第2アクチュエータ20は、操舵指令部915からの右輪転舵指令CstRに基づいて右輪99Rの転舵トルクTstRを出力する。
【0020】
各アクチュエータ10、20は二系統の冗長構成となっている。つまり、第1アクチュエータ10は、冗長的に設けられた二つの制御演算部161、162、及び、冗長的に設けられた二つのモータ駆動部171、172を有している。第2アクチュエータ20は、冗長的に設けられた二つの制御演算部261、262、及び、冗長的に設けられた二つのモータ駆動部271、272を有している。
【0021】
以下、各アクチュエータの二つの系統を「第1系統」及び「第2系統」と表す。例えば第1系統と第2系統との間に主従関係があり、第1系統がメイン(又はマスター)、第2系統がサブ(又はスレーブ)として機能してもよい。或いは、第1系統と第2系統とが対等の関係であってもよい。第1系統の要素には符号の末尾に「1」を付し、第2系統の要素には符号の末尾に「2」を付す。
【0022】
各アクチュエータ10、20の基本的構成は同様であるため、一方の説明で足りる点に関しては、代表として第1アクチュエータ10の構成要素により説明する。第2アクチュエータ20については、対応する符号を読み替えて解釈可能である。制御演算部161、162は、具体的にはマイコンやASICにより構成され、モータ駆動制御に関する演算を行う。なお、制御演算部161、162は、モータ駆動制御以外の制御をあわせて実行してもよいが、本明細書では他の制御について言及しない。後述するように制御演算部が「モータ駆動制御を停止」したとき、他の制御を停止するか否かは問題としない。
【0023】
詳しくは、制御演算部161、162は、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御演算部161、162は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0024】
モータ駆動部171、172は、対応する制御演算部161、162が生成した駆動信号に基づいて駆動し、トルクを出力する。例えば多相ブラシレスモータでは、モータ駆動部171、172は、電圧を供給するインバータ、ステータに巻回された多相巻線、永久磁石を有するロータ等により構成される。二系統のモータ駆動部171、172は、協働してトルクを出力する。例えばモータ駆動部171、172は、二系統の多相巻線が共通のステータに巻回された二重巻線モータとして構成されてもよい。
【0025】
図中、制御演算部161からモータ駆動部171への矢印、及び、制御演算部162からモータ駆動部172への矢印は、各系統の駆動信号を示す。多相ブラシレスモータの場合、駆動信号はインバータのスイッチングパルス信号であり、代表的にはPWM信号等である。図示を省略するが、制御演算部161、162は、操舵指令部915からの転舵指令CstLに加え、フィードバックされた実際の転舵角やその相関量に基づいて駆動信号を生成してもよい。
【0026】
このように、本明細書では、複数の制御演算部と複数のモータ駆動部とを含む一単位の駆動装置として「アクチュエータ」の用語を用いる。例えば特許文献1(特許第4848717号公報)では、駆動信号を演算するECUとは別に、機械的要素であるモータ本体部分のみをアクチュエータとして扱っており、本明細書とは用語の解釈が異なる。本実施形態のアクチュエータは、いわゆる「機電一体式」のモータとして、制御演算部とモータ駆動部とが物理的に一体に構成されてもよい。或いは、いわゆる「機電別体式」のモータとして、制御演算部とモータ駆動部とが信号線を介して別体に構成されてもよい。
【0027】
第1アクチュエータ10の第1系統と、第2アクチュエータ20の第1系統とは互いに対をなす。また、第1アクチュエータ10の第2系統と、第2アクチュエータ20の第2系統とは互いに対をなす。第1アクチュエータ及び第2アクチュエータにおける、互いに対をなす系統の制御演算部同士は、アクチュエータ間通信CL1、CL2により相互に情報を送受信する。なお、アクチュエータ間通信の記号の2文字目の「L」は「ローカル通信」に由来する。
【0028】
アクチュエータ間通信により「相互に送受信される情報」には、少なくとも各アクチュエータ10、20の異常情報が含まれる。制御演算部の異常には、データの異常、演算処理の異常、内部通信異常、同期異常等が含まれる。モータ駆動部の異常には、インバータのスイッチング素子等の異常、及び、回路に設けられたリレーのショート、オープン故障やモータ巻線の断線故障等が含まれる。これらの故障が発生したとき、各アクチュエータ10、20は、その情報を相互に送受信する。
【0029】
図2に、
図1のモータ駆動システム801を簡略化した模式図として示す。
図1では、具体的な適用例として左右独立転舵システムを示したが、本実施形態の第1アクチュエータ10及び第2アクチュエータ20は、どのような用途のモータであってもよい。
図2では、一般に「二系統冗長構成の二つのアクチュエータ10、20を備えたモータ駆動システム801」の構成を示す。第2実施形態以下の各構成図も
図2に従って記載する。
図2では、各アクチュエータ10、20の第1系統及び第2系統に破線枠を示し、「第1系統101、201」、「第2系統102、202」の符号を付す。ただし、以下の説明中、文脈から自明な箇所等では、系統の符号を適宜省略する場合がある。
【0030】
図1の説明と一部重複するが、各アクチュエータ10、20の構成をあらためて記す。第1アクチュエータ10は、第1系統101の制御演算部161及び第2系統102の制御演算部162が冗長的に設けられており、また、第1系統101のモータ駆動部171及び第2系統102のモータ駆動部172が冗長的に設けられている。第2アクチュエータ20は、第1系統201の制御演算部261及び第2系統202の制御演算部262が冗長的に設けられており、また、第1系統201のモータ駆動部271及び第2系統202のモータ駆動部272が冗長的に設けられている。
【0031】
図2の構成では、各アクチュエータ10、20において、転舵指令部915からの指令信号や、実際の転舵角を示すフィードバック信号等の情報が各系統の制御演算部へ冗長的に入力される。つまり、一つの情報信号が分岐されて各系統の制御演算部へ入力されるのでなく、第1系統専用に生成された情報信号が第1系統に入力され、第2系統専用に生成された情報信号が第2系統に入力される。
【0032】
例えば第1アクチュエータ10について、第1系統101の制御演算部161へは情報If11、第2系統102の制御演算部162へは情報If12が冗長的に入力される。また、第2アクチュエータ20について、第1系統201の制御演算部261へは情報If21、第2系統202の制御演算部262へは情報If22が冗長的に入力される。これにより、一方の系統の制御演算部の入力部が故障した場合、他方の系統の制御演算部が正しい情報を取得することができる。
【0033】
また、同じ第1アクチュエータ10内の第1系統101の制御演算部161と第2系統102の制御演算部162とは、系統間通信CM1により相互に情報を送受信する。同じ第2アクチュエータ20内の第1系統201の制御演算部261と第2系統202の制御演算部262とは、系統間通信CM2により、相互に情報を送受信する。なお、系統間通信の記号の2文字目の「M」は「マイコン間通信」に由来する。系統間通信CM1、CM2により相互に送信される情報には、例えば、外部からの入力値、制御演算部が演算した電流指令値、電流制限値、フィードバックされる実電流等が含まれる。また、各系統の異常信号が相互に送受信される。
【0034】
上述の通り、第1アクチュエータ10の第1系統101と第2アクチュエータ20の第1系統201とは互いに対をなし、第1アクチュエータ10の第2系統102と第2アクチュエータ20の第2系統202とは互いに対をなす。つまり、同一番号の系統同士が互いに対をなすものとする。ただし、「第1系統」及び「第2系統」の用語は便宜上割り振られているに過ぎず、二つの系統のどちらを「第1系統」とし、どちらを「第2系統」とするかは自由である。システムによっては、「第1アクチュエータの第1系統」と「第2アクチュエータの第2系統」とが対をなし、「第1アクチュエータの第2系統」と「第2アクチュエータの第1系統」とが対をなすようにしてもよい。
【0035】
第1アクチュエータ10及び第2アクチュエータ20における、互いに対をなす系統の制御演算部同士は、アクチュエータ間通信により相互に情報を送受信する。したがって、各アクチュエータ10、20の第1系統の制御演算部161、261同士は、アクチュエータ間通信CL1により相互に情報を送受信する。各アクチュエータ10、20の第2系統の制御演算部162、262同士は、アクチュエータ間通信CL2により相互に情報を送受信する。
【0036】
次に
図3、
図4及び
図5(a)、(b)を参照し、第1アクチュエータ10の第1系統で故障が発生する場合を例として、モータ駆動システム801の動作について説明する。
図3には、
図2のモータ駆動システム801において故障発生時に異常信号が送信される例が示されている。
図4のフローチャートの説明で、記号「S]はステップを意味する。
【0037】
図5(a)、(b)では、電流フィードバック制御によるモータ駆動を想定し、各系統の制御演算部による制限後の電流指令値により、故障発生時におけるモータ駆動部の出力変化を表す。各アクチュエータ10、20において電流指令値に追従してモータ駆動部のインバータから多相巻線に電流が流れることで、各アクチュエータ10、20のモータ駆動部は所望のトルクを出力する。
【0038】
図5(a)に示すように、時刻tx以前の正常時、第1アクチュエータ10の第1系統及び第2系統のモータ駆動部171、172には、電流制限値I_lim以下の互いに同等の電流I
01が流れている。また、第2アクチュエータ20の第1系統及び第2系統のモータ駆動部271、272には、電流制限値I_lim以下の互いに同等の電流I
02が流れている。第1アクチュエータ10の正常時電流I
01と第2アクチュエータ20の正常時電流I
02との関係は、各アクチュエータ10、20の用途や特性により、相関が有ってもよいし無くてもよい。以下、第1系統と第2系統との間で同等であるという点のみに着目し、アクチュエータ10、20を区別せず、正常時電流を単に「I
0」と記す。
【0039】
そして、時刻txに第1アクチュエータ10の第1系統で故障が発生すると想定し、このとき、
図4のS1でYESと判断されるものとする。また、第1系統のアクチュエータ間通信CL1に故障が発生した場合もS1でYESと判断される。S1でYESの場合、S2で第2アクチュエータ20の第1系統の制御演算部261は、S21またはS22の2通りのステップにより、第1アクチュエータ10の第1系統での故障発生を認識する。なお、S21では、アクチュエータ間通信が正常であることを前提とする。
【0040】
S21では、
図3に示すように、第1アクチュエータ10の第1系統の制御演算部161から第2アクチュエータ20の第1系統の制御演算部261に異常信号を送信する。つまり、「故障が発生したアクチュエータにおける故障が発生した系統の制御演算部」から他方のアクチュエータの同系統の制御演算部に異常信号を送信する。異常信号を受信した第2アクチュエータ20の制御演算部261は、S3でモータ駆動制御を停止する。したがってS3では、両方のアクチュエータ10、20の第1系統の制御演算部161、261がモータ駆動制御を共に停止する。
【0041】
また、S22では、第2アクチュエータ20の第1系統の制御演算部261が第1アクチュエータ10の第1系統の故障を検知する。S3では、第1アクチュエータ10の第1系統の制御演算部161がモータ駆動制御を停止すると共に、故障を検知した第2アクチュエータ20の第1系統の制御演算部261が、自身によるモータ駆動制御を停止する。なお、第1系統のアクチュエータ間通信CL1に故障が発生したことを第2アクチュエータ20の第1系統の制御演算部261が検知した場合も同様に、自身によるモータ駆動制御を停止する。
【0042】
S4では、両方のアクチュエータ10、20において正常な第2系統の制御演算部162、262によりモータ駆動を継続する。S5で、正常側系統である第2系統の制御演算部162、262は、故障側系統である第1系統のモータ駆動部171、271の出力を補うように、第2系統のモータ駆動部172、272の出力を、両系統の正常時に対して増加させる。
【0043】
図5(a)に示すように、時刻txに駆動制御が停止され、第1系統の電流I
0は0になる。そこで第2系統のモータ駆動部172、272により、二点鎖線で示すように正常時の2倍の電流(2I
0)を通電可能であれば、故障前の二系統の合計出力を完全に維持することができる。ただし、正常時の2倍の電流(2I
0)が電流制限値I_limを超える場合、実線で示すように、第2系統の電流を電流制限値I_limまで増加させてもよい。或いは、一点鎖線で示すように、第2系統の電流を正常時電流I
0と電流制限値I_limとの間の値まで増加させてもよい。
【0044】
いずれの例でも「第1系統のモータ駆動部の出力を補うように、第2系統のモータ駆動部の出力を、両系統の正常時に対して増加させる」制御に該当する。すなわち、故障前の二系統の合計出力を完全に維持する場合に限らず、第2系統の電流を正常時電流に対し少しでも増加させることで、第1系統のモータ駆動部の出力の少なくとも一部が補われると解釈する。第2系統のモータ駆動部の出力を適度に増加させることで、過大な電流による発熱を防止することができる。
【0045】
また、
図5(b)に示すように、両系統の正常時における電流制限値I_lim_dに対し、一系統の故障時における正常系統の電流制限値I_lim_sを増加させるようにしてもよい。これにより、二系統合計電流指令値I
*がより大きい領域まで、第2系統の一系統駆動により第1系統のモータ駆動部の出力を補うことができる。
【0046】
続いて、
図4のS1でNOの場合の処理について説明する。S6では、第1アクチュエータ10内又は第2アクチュエータ20内の系統間通信CM1、CM2が故障したか判断される。S6でYESの場合、第1アクチュエータ10の各系統の制御演算部161、162、及び、第2アクチュエータ20の各系統の制御演算部261、262は、S7で、モータ駆動制御を停止することなく、自系統のみの情報に基づいてモータ駆動制御を継続する。系統間通信CM1、CM2も正常の場合、S6でNOと判断され、正常時のモータ駆動制御が継続される。
【0047】
特許文献1の従来技術では、失陥したECUが直接制御するモータのみを停止し、互いに通信して対をなすECUが制御するモータについては、そのまま制御を継続する。この構成では、例えば第1アクチュエータ10の第1系統が故障した場合に第2アクチュエータ20の第1系統の制御演算部261により制御されるモータ駆動部271が誤出力し、システムが誤動作するおそれがある。
【0048】
それに対し、本実施形態では、第1アクチュエータ10もしくは第2アクチュエータ20のうちいずれか一方の故障、又は、アクチュエータ間通信の故障の場合、当該故障による他方のアクチュエータの誤出力が防止され、システムの誤動作が回避される。また、両方のアクチュエータ10、20において正常な系統の制御演算部によりモータ駆動制御が継続されるため、駆動機能を確保することができる。よって、フェールセーフ機能が適切に実現される。
【0049】
ここで、故障が発生した情報を他方のアクチュエータが取得する手段として、故障したアクチュエータ側の制御演算部から異常信号を送信することで、モータ駆動制御を迅速に停止することができる。或いは、正常なアクチュエータ側の制御演算部が故障を検知することで、アクチュエータ間通信が故障の場合にも故障情報を認識することができる。さらに両方の手段を併用することで、より迅速、確実にモータ駆動制御の停止処理を実行することができ、信頼性がより向上する。
【0050】
また、同じアクチュエータ内の二系統の制御演算部が系統間通信により相互に情報を送受信することで、正常時には二系統のモータ駆動部を協調動作させ、出力バランスの良いモータ駆動を実現することができる。ただし、系統間通信のみの故障時には、制御演算部はモータ駆動制御を停止することなく、自系統のみの情報に基づいてモータ駆動制御を継続する。これにより、系統間での出力バランスが多少偏る可能性はあるとしても、二系統の合計出力をできるだけ高く維持することができる。さらに、冗長性も維持することができる。
【0051】
次に、第1実施形態に対しアクチュエータ数、又は系統数の異なる第2~第4実施形態のモータ駆動システムについて、
図2と同様の模式図を参照して説明する。第2~第4実施形態において各制御演算部への情報が冗長的に入力される点は第1実施形態に準ずるものとし、各図における図示を省略する。また、該当する符号が多数の場合等には符号の記載を適宜省略する。なお、第2~第4実施形態にのみ用いられる符号は、[符号の説明]の欄の符号、及び、特許請求の範囲の参照符号としては記載しない。
【0052】
(第2実施形態)
図6に示す第2実施形態のモータ駆動システム802は、冗長二系統構成の三つのアクチュエータ10、20、30を備えている。例えばモータ駆動システム802は、第1実施形態による左右独立転舵用の第1、第2アクチュエータ10、20に加え、ステアバイワイヤシステムにおいて反力トルクを生成する第3アクチュエータ30を「追加のアクチュエータ」として備えている。第3アクチュエータ30は、操舵トルク及び路面反力に応じた反力トルクをハンドル91に付与することで、ドライバに適切な操舵フィーリングを与える。
【0053】
第1アクチュエータ10及び第2アクチュエータ20と同様に、第3アクチュエータ30は、第1系統301の制御演算部361及び第2系統302の制御演算部362が冗長的に設けられている。また、第1系統301のモータ駆動部371及び第2系統302のモータ駆動部372が冗長的に設けられている。また、第3アクチュエータ30内の系統間通信CM3により、第1系統301の制御演算部361と第2系統302の制御演算部362とは相互に情報を送受信する。
【0054】
第3アクチュエータ30の第1系統301の制御演算部361は、第1系統のアクチュエータ間通信CL1により、第1アクチュエータ10及び第2アクチュエータ20の第1系統の制御演算部161、261と相互に情報を送受信する。第3アクチュエータ30の第2系統302の制御演算部362は、第2系統のアクチュエータ間通信CL2により、第1アクチュエータ10及び第2アクチュエータ20の第2系統の制御演算部162、262と相互に情報を送受信する。
【0055】
三つのアクチュエータ10、20、30のうちいずれかのアクチュエータにおけるいずれかの系統で故障が発生したとき、又は、いずれかの系統のアクチュエータ間通信に故障が発生したときを想定する。このとき、故障が発生した系統の各アクチュエータ10、20、30の制御演算部はモータ駆動制御を停止する。そして、全てのアクチュエータ10、20、30において正常な系統の制御演算部によりモータ駆動制御を継続する。第2実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0056】
(第3実施形態)
図7に示す第3実施形態のモータ駆動システム803は、左右前後の四輪が独立に転舵し且つ反力アクチュエータを備えていない車両に適用され、冗長二系統構成の四つのアクチュエータ10、20、30、40を備えている。つまり、モータ駆動システム803は、第3アクチュエータ30及び第4アクチュエータ40を「追加のアクチュエータ」として備えている。例えば第1アクチュエータ10及び第2アクチュエータ20は左前輪及び右前輪を転舵させ、第3アクチュエータ30及び第4アクチュエータ40は左後輪及び右後輪を転舵させる。
【0057】
第1、第2アクチュエータ10、20の構成は第1実施形態に準ずる。同様に第3アクチュエータ30は、第1系統301の制御演算部361及び第2系統302の制御演算部362、並びに、第1系統301のモータ駆動部371及び第2系統302のモータ駆動部372がそれぞれ冗長的に設けられている。第4アクチュエータ40は、第1系統401の制御演算部461及び第2系統402の制御演算部462、並びに、第1系統401のモータ駆動部471及び第2系統402のモータ駆動部472がそれぞれ冗長的に設けられている。
【0058】
また、第3アクチュエータ30内の系統間通信CM3により、第1系統301の制御演算部361と第2系統302の制御演算部362とは相互に情報を送受信する。第4アクチュエータ40内の系統間通信CM4により、第1系統401の制御演算部461と第2系統402の制御演算部462とは相互に情報を送受信する。
【0059】
また、各アクチュエータ10、20、30、40の第1系統の制御演算部161、261、361、461は、第1系統のアクチュエータ間通信CL1により相互に情報を送受信する。各アクチュエータ10、20、30、40の第2系統の制御演算部162、262、362、462は、第2系統のアクチュエータ間通信CL2により相互に情報を送受信する。
【0060】
四つのアクチュエータ10、20、30、40のうちいずれかのアクチュエータにおけるいずれかの系統で故障が発生したとき、又は、いずれかの系統のアクチュエータ間通信に故障が発生したときを想定する。このとき、故障が発生した系統の各アクチュエータ10、20、30、40の制御演算部はモータ駆動制御を停止する。そして、全てのアクチュエータ10、20、30、40において正常な系統の制御演算部によりモータ駆動制御を継続する。第3実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0061】
第3実施形態の変形例として、第2実施形態と同様の反力アクチュエータを第5アクチュエータとしてさらに追加してもよい。その場合も同様に、五つのアクチュエータの同系統の制御演算部は、アクチュエータ間通信により相互に情報を送受信する。故障発生時、故障が発生した系統の各アクチュエータの制御演算部はモータ駆動制御を停止し、全てのアクチュエータにおいて正常な系統の制御演算部によりモータ駆動制御を継続する。
【0062】
ここで
図8を参照し、アクチュエータ間通信の接続形態(トポロジー)について説明する。
図8では、四つのアクチュエータ10、20、30、40を備えるモータ駆動システムを例示する。
図8において各アクチュエータ10、20、30、40のブロックは同系統の制御演算部を表す。
【0063】
図8(a)に、
図7のモータ駆動システム803における接続形態を簡略化して示す。四つのアクチュエータ10、20、30、40の制御演算部は、リング型に接続されている。この例では、第1アクチュエータ10の制御演算部と第4アクチュエータ40の制御演算部、及び、第2アクチュエータ20の制御演算部と第3アクチュエータ30の制御演算部は、他のアクチュエータの制御演算部を介して通信可能である。
図8(b)に直列型の接続形態を示す。各アクチュエータ10、20、30、40の制御演算部は、少なくとも他のアクチュエータの制御演算部を介して全てのアクチュエータの制御演算部と通信可能である。
【0064】
図8(c)にスター型の接続形態を示す。この例で中心にある第1アクチュエータ10の制御演算部は、他の全てのアクチュエータの制御演算部と直接通信する。他のアクチュエータの制御演算部同士は、第1アクチュエータ10の制御演算部を介して通信可能である。
図8(d)にメッシュ型の接続形態を示す。各アクチュエータ10、20、30、40の制御演算部は、他の全てのアクチュエータの制御演算部と直接通信する。
【0065】
各接続形態のメリット、デメリットは通信技術分野における周知技術であるため、説明を省略する。なお、アクチュエータが三つの場合、リング型とメッシュ型とは混同し、直列型とスター型とは混同する。このように、三つ以上のアクチュエータ間におけるアクチュエータ間通信の接続形態は、上記の基本形やそれらの組み合わせにより、適宜設定可能である。
【0066】
(第4実施形態)
図9に示す第4実施形態のモータ駆動システム804は、冗長三系統構成の二つのアクチュエータ10T、20Tを備えている。第1アクチュエータ10Tは、第1実施形態と同様の二系統構成に加え、第3系統103の制御演算部163及びモータ駆動部173がさらに冗長的に設けられている。第2アクチュエータ20Tは、第1実施形態と同様の二系統構成に加え、第3系統203の制御演算部263及びモータ駆動部273がさらに冗長的に設けられている。
【0067】
第1アクチュエータ10T内の系統間通信CM1により、三系統の制御演算部161、162、163は相互に情報を送受信する。第2アクチュエータ20T内の系統間通信CM2により、三系統の制御演算部261、262、263は相互に情報を送受信する。また、第1、第2アクチュエータ10T、20Tの第3系統の制御演算部163、263同士は、アクチュエータ間通信CL3により相互に情報を送受信する。
【0068】
冗長三系統構成のモータ駆動システム804において、例えば第1アクチュエータ10Tの第1系統101及び第2アクチュエータ20Tの第2系統202で同時に故障が発生した時、各アクチュエータ10T、20Tの第1系統の制御演算部161、261及び第2系統の制御演算部162、262はモータ駆動制御を停止する。そして、両方のアクチュエータ10T、20Tにおいて正常である第3系統の制御演算部163、263によりモータ駆動制御を継続する。
【0069】
第4実施形態の変形例として、二つのアクチュエータは四系統以上の冗長構成であってもよい。また、第2、第3実施形態と組み合わせ、三系統以上の冗長構成のアクチュエータを三つ以上備えるモータ駆動システムにも同様の技術的思想が拡張可能である。なお、一部系統が故障し、残る正常系統のみでモータ駆動制御を継続する場合の処理について、例えば故障前後の動作系統数の比に基づき、出力増加程度や上限を切り替えてもよい。
【0070】
また、三系統以上の系統間通信の接続形態(トポロジー)は、
図8に示すアクチュエータ間通信の接続形態を系統間通信に置き換えて解釈すればよい。すなわち、リング型又は直列型の場合、各系統の制御演算部は、少なくとも他系統の制御演算部を介して全ての系統の制御演算部と通信可能である。スター型の場合、一つ系統の制御演算部が、他の全ての系統の制御演算部と直接通信する。メッシュ型の場合、各系統の制御演算部は、他の全ての系統の制御演算部と直接通信する。このように、三系統以上の系統間通信の接続形態は、上記の基本形やそれらの組み合わせにより、適宜設定可能である。
【0071】
(その他の実施形態)
(a)車両の自動転舵システムやステアバイワイヤシステムに適用される上記実施形態とは別の実施形態として、
図10に、電動パワーステアリング(EPS)用ツインモータ駆動システム805の例を示す。一般的に電動パワーステアリングシステムでは、コラム又はラックのいずれか一方に操舵アシストモータが設けられる。ただし、特開2004-82798号公報等に開示されているように、高出力化や操舵性の向上を目的として、コラム及びラックの両方に2台の操舵アシストモータを設ける構成が知られている。
【0072】
図10に示すステアリングシステム905は、
図1に示す自動転舵システム901とは異なり、ドライバが自ら操舵する操舵機構と転舵機構とが機械的に連結されている。ステアリングシステム905は、ハンドル91、ステアリングシャフト93、インターミディエイトシャフト95、ラック97等を含む。ハンドル91は、ステアリングシャフト93を介してインターミディエイトシャフト95と接続されている。インターミディエイトシャフ95の端部では、ラックアンドピニオン機構により回転が往復運動に変換されてラック97に伝達される。ラック97が往復するとナックルアーム98を介して車輪99が転舵される。車輪99は片側のみを図示し、反対側の車輪の図示を省略する。
【0073】
ツインモータ駆動システム805において、冗長二系統構成の第1アクチュエータ10は、コラム92に設けられ、コラム92に内包されたステアリングシャフト93を回転させる。冗長二系統構成の第2アクチュエータ20は、ラック97に設けられ、ラックアンドピニオン機構を介してラック97を往復させる。各アクチュエータ10、20には、操舵トルクセンサ94が検出した操舵トルクTsが入力される。
【0074】
なお、ステアリングシャフト93における操舵トルクセンサ94の位置は、第1アクチュエータ10との接続部に対しハンドル91側でもよい。好ましくは、操舵トルクTsの情報は、第1アクチュエータ10の各系統の制御演算部161、162、及び、第2アクチュエータ20の各系統の制御演算部261、262に冗長的に入力される。
【0075】
この実施形態では、第1アクチュエータ10及び第2アクチュエータ20が協働して操舵アシストトルクを出力することで高出力の操舵アシスト機能が実現される。例えば第1アクチュエータ10の第1系統で故障が発生した時、各アクチュエータ10、20の第1系統の制御演算部161、261はモータ駆動制御を停止する。そして、両方のアクチュエータ10、20において正常である第2系統の制御演算部162、262によりモータ駆動制御を継続する。これにより、一部の故障発生時にも操舵アシスト機能を維持することができる。その他、本発明のモータ駆動システムは、車両に限らず、他の乗り物や一般機械等に適用されてもよい。
【0076】
(b)上記実施形態では、各アクチュエータで系統間通信が行われ、制御演算部への情報が冗長的に入力され、片系統駆動時にモータ駆動部の出力が増加される。しかし他の実施形態では、一方のアクチュエータのみで系統間通信が行われてもよく、一方のアクチュエータのみで制御演算部への情報が冗長的に入力されてもよい。或いは、一方のアクチュエータのみで、片系統駆動時にモータ駆動部の出力が増加されるようにしてもよい。また、システムの要求がない場合、いずれの系統でも系統間通信、情報の冗長入力、一系統駆動時における出力増加処理が行われなくてもよい。上記実施形態では、故障が発生した情報を他方のアクチュエータが取得する手段として、故障したアクチュエータ側の制御演算部から異常情報を送信する。しかし他の実施例として、故障したアクチュエータ側の制御演算部がアクチュエータ間通信を停止してもよい。
【0077】
(c)本発明のモータ駆動システムは、トルクを出力する冗長構成のアクチュエータを二つ以上備え、アクチュエータ間の通信を通じて、各アクチュエータの制御演算部によるモータ駆動制御の停止又は継続を系統単位で切り替えるものである。ただし、この制御の対象となるアクチュエータ以外に、独立して動作する他の電気アクチュエータや油圧又はエア圧のアクチュエータがシステム全体の中に存在してもよい。
【0078】
以上、本発明は上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【0079】
本開示に記載の制御演算部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御演算部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御演算部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10・・・第1アクチュエータ、
161、162・・・(第1アクチュエータの)制御演算部、
171、172・・・(第1アクチュエータの)モータ駆動部、
20・・・第2アクチュエータ、
261、262・・・(第2アクチュエータの)制御演算部、
271、272・・・(第2アクチュエータの)モータ駆動部、
801-805・・・モータ駆動システム。