(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230329BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C09K3/14 520L
F16D69/02 C
(21)【出願番号】P 2019235677
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【氏名又は名称】船越 巧子
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【氏名又は名称】後藤 圭次
(72)【発明者】
【氏名】下崎 晶彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 武
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170560(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/052022(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/069954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、前記摩擦材組成物は、前記無機摩擦調整材として平均粒子径が100~300μmの球状の
非晶質アルミナ粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~6重量%含むことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記有機摩擦調整材としてフッ素系ポリマー粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~5重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車の制動装置としてディスクブレーキが使用されており、その摩擦部材として金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
近年においてはブレーキの静寂性が求められており、繊維基材としてスチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維を含まないNAO(Non-Asbestos-Organic)材の摩擦材を使用したディスクブレーキパッドが広く使用されるようになってきている。
【0004】
従来のNAO材の摩擦材には、要求される性能を確保するため、銅や銅合金の繊維又は粒子等の銅成分が必須成分として摩擦材組成物全量に対し、5~20重量%程度添加されている。
【0005】
しかし近年、このような摩擦材は制動時に摩耗粉として銅を排出し、この排出された銅が河川、湖、海洋に流入することにより水域を汚染する可能性があることが示唆されており、銅成分を削減したNAO材の摩擦材が求められている。
【0006】
銅成分を削減したNAO材の摩擦材として、特許文献1には、結合材、有機充填材、無機充填材、および繊維基材を含有する摩擦材組成物であり、前記摩擦材組成物として、銅を含まない、または摩擦材組成物全体に対する銅の含有量が0.5質量%以下であり、無機充填材として非針状のチタン酸塩を摩擦材組成物全体に対し25~30質量%含み、無機充填材として平均粒子径が0.4~0.6μmで最大粒子径が1.1μmの珪酸ジルコニウムを摩擦材組成物全体に対し3~6質量%含有し、更に平均粒子径が20~200μmのγアルミナを摩擦材組成物全体に対し0.5~2.0質量%含有する摩擦材組成物及び該摩擦材組成物を成形してなる摩擦材が記載されている。
【0007】
NAO材の摩擦材には要求される摩擦係数を確保するため、無機充填材として硬質の無機粒子が添加されることがあり、硬質の無機粒子としては酸化アルミニウム粒子が使用されている。
【0008】
特許文献2には、粒径1~10μmで真球度が0.95~1の球状酸化アルミニウム粒子を3~7体積%含む乗用車用ディスクパッド材が記載されている。
【0009】
特許文献2記載の発明によれば、摩擦係数が高く、耐摩耗性及び耐相手材摩耗性に優れ、しかもブレーキ鳴きが著しく少ない乗用車用ディスクパッドを提供できる。
【0010】
特許文献2の乗用車用ディスクパッドに添加される粒径1~10μmで真球度が0.95~1の球状酸化アルミニウム粒子は高速高温領域での研削作用が十分でないため、高速高温領域での十分なブレーキの効きが得られないという問題がある。
【0011】
特許文献3には、結晶粒を有し、前記結晶粒の平均結晶粒サイズが150~1000nmであり、平均粒子径が5~400μmである球状のα-アルミナ(酸化アルミニウム)粒子を含む摩擦材が記載されている。
【0012】
特許文献3記載の発明によれば、ブレーキの制動時にα-アルミナ粒子の構造が崩壊し、摩擦面に広がることで、摩擦面に安定な摩耗粉被膜を形成することができ、特に低速度域における摩擦係数の安定性を維持しながら、相手材に対する攻撃性を緩和して優れた耐摩耗性を付与することができる。
【0013】
特許文献3の摩擦材に添加される結晶粒の平均結晶粒サイズが150~1000nmであり、平均粒子径が5~400μmである球状のα-アルミナ(酸化アルミニウム)粒子はブレーキの制動によりその構造が崩壊する。
そのため高速高温領域においてα-アルミナの持つ研削作用が発揮されず、高速高温領域での十分なブレーキの効きが得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2018-131479号公報
【文献】特開平10-259837号公報
【文献】特開2017-149866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、高速高温領域での優れたブレーキの効き、優れた耐摩耗性を持つ摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、無機摩擦調整材として平均粒子径が従来よりも大幅に大きな球状の非晶質アルミナ粒子を特定量含有する摩擦材組成物を使用することにより、高速高温領域でのブレーキの効きが向上することを知見し、更に有機摩擦調整材としてフッ素系ポリマー粒子を特定量添加することにより、耐摩耗性がより向上することを知見し、本発明を完成した。
【0017】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0018】
(1)ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、前記摩擦材組成物は、前記無機摩擦調整材として平均粒子径が100~300μmの球状の非晶質アルミナ粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~6重量%含む摩擦材。
(2)前記有機摩擦調整材としてフッ素系ポリマー粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~5重量%含む(1)の摩擦材。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、高速高温領域での優れたブレーキの効き、優れた耐摩耗性を持つ摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含み、銅成分を含まないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、無機摩擦調整材として平均粒子径が100~300μmの球状の非晶質アルミナ粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~6重量%含む摩擦材組成物を使用する。
【0021】
無機摩擦調整材として平均粒子径が100~300μmの球状の非晶質アルミナ粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~6重量%添加することにより、高速高温領域でのブレーキの効きが向上する。
球状の非晶質アルミナ粒子の平均粒子径が100μm未満であると、非晶質アルミナ粒子の研削作用が得られず、高速高温領域での十分なブレーキの効きを得られず、平均粒径が300μmを超えると非晶質アルミナ粒子の研削作用が過剰となり、摩擦材が異常摩耗するという問題が生じる。球状の非晶質アルミナ粒子の平均粒子径は150~250μmがより好ましい。
なお、本発明において、平均粒子径はレーザー回折粒度分布法により測定した50%粒子径の数値である。
【0022】
また、球状の非晶質アルミナ粒子の含有量が摩擦材組成物全量に対し0.5重量%未満であると、非晶質アルミナ粒子の研削作用が得られず、高速高温領域での十分なブレーキの効きを得られず、含有量が摩擦材組成物全量に対し6重量%を超えると非晶質アルミナ粒子の研削作用が過剰となり、摩擦材が異常摩耗するという問題が生じる。
球状の非晶質アルミナ粒子の添加量は摩擦材組成物全量に対し1~5重量%がより好ましい。
【0023】
本発明の摩擦材は、更に有機摩擦調整材としてフッ素系ポリマー粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~5重量%含有させる。
潤滑作用を有するフッ素系ポリマー粒子を摩擦材組成物全量に対し0.5~5重量%含有させことにより、耐摩耗性がより向上する。
【0024】
フッ素系ポリマー粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
中でも、耐熱性の観点からポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粉末を単独で用いることが好ましい。
【0025】
本発明の摩擦材は、上記の球状の非晶質アルミナ粒子、フッ素系ポリマー粒子の他に、通常摩擦材に使用される結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含む摩擦材組成物から成る。
【0026】
結合材としては、ストレートフェノール樹脂、カシューオイル変性フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、ニトリルゴム(NBR)変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、フェノール・アラルキル樹脂(アラルキル変性フェノール樹脂)、フルオロポリマー分散フェノール樹脂等の摩擦材に通常用いられる結合材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
結合材の含有量は摩擦材組成物全量に対して5~15重量%とするのが好ましく、摩擦材組成物全量に対して6~10重量%とするのがより好ましい。
【0027】
繊維基材としては、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、アクリル繊維等の摩擦材に通常使用される有機繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
繊維基材の含有量は摩擦材組成物全量に対して1~8重量%とするのが好ましく、摩擦材組成物全量に対して3~5重量%とするのがより好ましい。
【0028】
無機摩擦調整材としては、上記の球状の非晶質アルミナ粒子の他に、二硫化モリブデン、硫化亜鉛、硫化タングステン、硫化ビスマス、硫化鉄、硫化スズ、複合金属硫化物、人造黒鉛、天然黒鉛、薄片状黒鉛、弾性黒鉛化カーボン、石油コークス、活性炭、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、金雲母、白雲母、タルク、四三酸化鉄、ケイ酸カルシウム水和物、ガラスビーズ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、γ―アルミナ、炭化ケイ素、非ウィスカー状(板状、鱗片状、柱状、複数の凸部を持つ不定形状)のチタン酸塩(チタン酸塩は、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等)、ウォラストナイト、セピオライト、バサルト繊維、ガラス繊維、生体溶解性人造鉱物繊維、ロックウール等の摩擦材に通常使用される無機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
無機摩擦調整材の含有量は、上記の球状の非晶質アルミナ粒子と合わせて摩擦材組成物全量に対して70~90重量%とするのが好ましく、摩擦材組成物全量に対して75~85重量%とするのがより好ましい。
【0029】
有機摩擦調整材として、上記のフッ素系ポリマー粒子の他に、カシューダスト、タイヤトレッドゴム粉砕粉や、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常使用される有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機摩擦調整材の含有量は摩擦材組成物全量に対して4~15重量%とするのが好ましく、摩擦材組成物全量に対して6~12重量%とするのがより好ましい。
【0030】
本発明のディスクブレーキに使用される摩擦材は、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、粉体塗料を塗装する静電粉体塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗料焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
【0031】
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物、混練工程で得られた混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施され、加熱加圧成型工程の後にスコーチ工程が実施される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0033】
[実施例1~13・比較例1~4の摩擦材の製造方法]
表1、表2に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、成型金型内で30MPaにて10秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、研磨して摩擦面を形成し、乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した(実施例1~13、比較例1~4)。
【0034】
【0035】
【0036】
得られた摩擦材において、高速高温領域でのブレーキ効き、耐摩耗性を評価した。
評価方法および評価基準を表3に、評価結果を表4、表5に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
各表より見てとれるように、本発明の組成を満足する組成物は、高速高温領域でのブレーキの効き、耐摩耗性で良好な評価結果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材を含むNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、高速高温領域での優れたブレーキの効き、優れた耐摩耗性を持つ摩擦材を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。