(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの設計方法、および眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20230329BHJP
G02C 13/00 20060101ALI20230329BHJP
A61B 3/032 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C13/00
A61B3/032
(21)【出願番号】P 2019527603
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2018022631
(87)【国際公開番号】W WO2019009034
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2017130302
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 好徳
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/055265(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125848(WO,A1)
【文献】特開2012-095694(JP,A)
【文献】国際公開第2014/122834(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/175923(WO,A1)
【文献】特開2017-090729(JP,A)
【文献】特表2010-517088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/06
G02C 13/00
A61B 3/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の顔と表示装置との位置関係を維持しながら前記表示装置に、ゆがみ、ぼやけ、表示位置の少なくともいずれか1つが互いに異なる複数の画像を順次表示することと、
前記被験者の向いている方向を検知することと、
検知した前記方向に対応する風景を前記画像の原画像として、当該原画像から前記画像を作成することにより、前記方向に対応させて前記画像を変化させることと、
前記方向に対応する前記原画像に応じた前記画像を視認した前記被験者の印象に基づいて、前記被験者の視覚に関する感受性を評価した情報を取得することと、
前記感受性を評価した情報に基づいて眼鏡レンズを設計することと、を備える眼鏡レンズの設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像の表示は、それぞれ異なるゆがみを備える複数の前記画像を表示し、
前記感受性の評価は、前記複数の画像を視認した前記被験者の印象に基づいて前記被験者のゆがみに対する前記感受性を評価する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項3】
請求項2に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像は、複数の部分的な領域のそれぞれにおいて、前記ゆがみのゆがみ度合およびゆがみ方向のうち少なくとも一方が異なる眼鏡レンズの設計方法。
【請求項4】
請求項3に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像は、前記画像の中心より一方側の一部の領域と、前記画像の中心より前記一方側とは反対側の一部の領域とのそれぞれに前記ゆがみを有する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項5】
請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像の表示は、互いに異なる範囲のぼやけをそれぞれ備える複数の前記画像を表示し、
前記感受性の評価は、前記複数の画像を視認した前記被験者の印象に基づいて前記被験者のぼやけに対する感受性を評価する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項6】
請求項5に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記複数の画像において、前記ぼやけのぼやけ度合、および/または、前記ぼやけの領域がそれぞれ異なる眼鏡レンズの設計方法。
【請求項7】
請求項6に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像のそれぞれは、互いにぼやけ度合が異なる複数の領域、および/または、前記ぼやけ度合が連続的に変化する前記ぼやけ、を備える眼鏡レンズの設計方法。
【請求項8】
請求項5から7までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像の表示は、前記ぼやけ度合が相対的に大きい領域を、前記ぼやけ度合が相対的に小さいか、ぼやけていない領域よりも下方または上方に配置するように表示し、
前記感受性の評価は、前記被験者が遠距離の対象物を見る際のぼやけに対する感受性を評価する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項9】
請求項5から8までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像の表示は、前記ぼやけ度合が相対的に小さいか、ぼやけていない領域を、前記ぼやけ度合が相対的に大きい領域に囲まれるように表示し、
前記感受性の評価は、前記被験者が中間距離の対象物を見る際のぼやけに対する感受性を評価する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項10】
請求項1に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像の表示は、前記被験者の視野の一部において位置が異なる複数の前記画像を切り替えて表示し、
前記感受性の評価は、前記画像を視認した前記被験者の印象に基づいて前記被験者の予め定められた距離における視線方向に対する感受性を評価する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項11】
請求項10に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像の表示は、それぞれ異なる高さに複数の前記画像を表示し、
前記感受性の評価は、前記画像を視認した前記被験者の印象に基づいて前記被験者の前記定められた距離における視線の高さに対する感受性を評価する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記視野の一部は、累進屈折力レンズの遠用部、近用部、および遠用部と近用部との間の中間領域から選択されたいずれか一つの領域に対応する領域であり、
前記予め定められた距離は、前記選択されたいずれか一つの領域を通して見る距離である眼鏡レンズの設計方法。
【請求項13】
請求項10から12までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記感受性の評価は、前記画像を視認した前記被験者の印象に基づいて前記被験者の近距離における視線方向に対する感受性を評価し、
前記画像は、少なくとも携帯電話、本、新聞、パソコン、タブレット端末、楽譜のいずれかから選択される少なくとも一つの画像である眼鏡レンズの設計方法。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像は、前記被験者の周囲の少なくとも一部を撮像した画像または仮想的な空間を示す画像を加工した、加工画像である眼鏡レンズの設計方法。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
さらに、前記画像を視認した前記被験者の視線方向を検出することを含み、
前記感受性の評価は、前記視線方向に基づいて前記被験者の前記感受性を評価する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法において、
前記画像の表示は、前記被験者の右眼および左眼に対して互いに異なる右眼用画像と左眼用画像とをそれぞれ表示する眼鏡レンズの設計方法。
【請求項17】
請求項1から16までのいずれか一項に記載の眼鏡レンズの設計方法により設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの設計方法、および眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
個々の装用者の特性に適合するような眼鏡レンズを実現するための、種々の設計方法の提案がなされている。例えば、特許文献1では、眼鏡レンズを装用した場合にどのような見え方をするかを合成画像を用いて示す眼鏡レンズ受発注システムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によると、眼鏡レンズの設計方法は、被験者の顔と表示装置との位置関係を維持しながら前記表示装置に、ゆがみ、ぼやけ、表示位置の少なくともいずれか1つが互いに異なる複数の画像を順次表示することと、前記被験者の向いている方向を検知することと、検知した前記方向に対応する風景を前記画像の原画像として、当該原画像から前記画像を作成することにより、前記方向に対応させて前記画像を変化させることと、前記方向に対応する前記原画像に応じた前記画像を視認した前記被験者の印象に基づいて、前記被験者の視覚に関する感受性を評価した情報を取得することと、前記感受性を評価した情報に基づいて眼鏡レンズを設計することと、を備える。
本発明の第2の態様によると、眼鏡レンズの製造方法は、第1の態様の眼鏡レンズの設計方法により設計された眼鏡レンズを製造する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1(A)および1(B)は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法に係る表示装置を示す斜視図であり、
図1(A)は外観の斜視図であり、
図1(B)は内部の構造を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、表示装置の内部の構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、表示装置の機能を模式的に示す概念図である。
【
図4】
図4(A)、4(B)および4(C)は、ゆがみ画像を示す概念図であり、
図4(A)はゆがみのない原画像であり、
図4(B)はゆがみ方向が90度の場合の画像であり、
図4(C)はゆがみ方向が0度の場合の画像である。
【
図5】
図5(A)、5(B)および5(C)は、ゆがみ画像を示す概念図であり、
図5(A)はゆがみのない原画像であり、
図5(B)はゆがみ方向が45度の場合の画像であり、
図5(C)はゆがみ方向が135度の場合の画像である。
【
図6】
図6は、ゆがみ画像の提示位置を説明する概念図である。
【
図7】
図7は、眼鏡レンズ受発注システムの構成を示す概念図である。
【
図8】
図8は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、設計する眼鏡レンズ上の収差分布を模式的に示す図である。
【
図14】
図14(A)および14(B)は、ぼやけ画像を示す概念図であり、
図14(A)はぼやけさせる前の画像であり、
図14(B)はぼやけ度合を変化させた場合のぼやけ画像である。
【
図15】
図15(A)および15(B)は、ぼやけ画像の作成方法を説明するための概念図であり、
図15(A)はぼやけの方向依存性が無い場合であり、
図15(B)はぼやけの方向依存性が有る場合である。
【
図16】
図16は、表示画像の例を説明するための概念図である。
【
図17】
図17(A)、17(B)および17(C)は、表示画像のぼやけの範囲を変化させる例を示す概念図であり、
図17(A)は遠用部の設計、
図17(B)は中間部の設計、
図17(C)は近用部の設計に関する表示画像の例を説明するための概念図である。
【
図18】
図18は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
【
図21】
図21は、設計する眼鏡レンズ上の収差分布を模式的に示す図である。
【
図22】
図22は、表示画像の例を説明するための概念図である。
【
図23】
図23は、表示画像の表示位置を説明するための概念図である。
【
図24】
図24(A)、24(B)、24(C)および24(D)は、表示画像の表示態様を説明するための概念図であり、
図24(A)は最も高い位置、
図24(B)は二番目に高い位置、
図24(C)は三番目に高い位置、
図24(D)は四番目に高い位置に表示画像が表示された場合の態様を示す。
【
図25】
図25は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
【
図27】
図27は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法の流れを示すフローチャートである。
【
図28】
図28(A)および28(B)は、一実施形態の眼鏡レンズの設計方法に係る表示装置を示す斜視図であり、
図28(A)は外観の斜視図であり、
図28(B)は内部の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下の実施形態では、適宜図面を参照しながら、眼鏡レンズの設計方法等について説明する。以下の説明では、眼鏡レンズにおける「上方」、「下方」、「上部」、「下部」、「左側」および「右側」等と表記する場合は、当該眼鏡レンズが装用されたときに装用者から見たレンズ内の位置関係に基づくものとする。
【0007】
-第1の実施形態-
第1の実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、設計する眼鏡レンズの装用者の、視覚におけるゆがみに対する感受性を評価した情報を取得し、当該情報に基づいて眼鏡レンズを設計する。以下では、装用者のゆがみに対する感受性を評価するための検査を、ゆがみ感受性検査と呼ぶ。
【0008】
以下の実施形態において、「ゆがみ」とは、対象物が実際の形状とは異なる形状の像として認識されることを示し、縦横斜め等の任意の方向に対象物の像が伸縮することを主に指す。「ゆがみ」には、歪曲収差(distortion)を含むが、本実施形態では、累進屈折力レンズのレンズ面のように、屈折力や非点収差が変化する面を通して対象物を見ることで起こる対象物の像の伸縮を主に想定している。
なお、本実施形態の眼鏡レンズの設計方法は、歪曲収差等、対象物が実際の形状とは異なる形状の像として認識される場合に広く適用できる。
【0009】
図1(A)は、本実施形態の眼鏡レンズの設計方法における、ゆがみ感受性検査において被験者が着用するヘッドマウントディスプレイ(HMD)型表示装置50の外観を示す斜視図である。表示装置50は、表示画面を含む本体51と、被験者の顔と表示装置50との位置関係を維持するように本体51を被験者の頭部に固定する支持部52とを備える。本体51は、レンズ保持部53と、レンズ保持部53の前面に配置された表示画面保持部54とを備える。
【0010】
図1(B)は、表示装置50の内部の構造を示す斜視図である。表示画面保持部54は、レンズ保持部53とヒンジ等の開閉機構を介して結合されており、レンズ保持部53に対して表示画面保持部54を前方に傾けることで内部の構造を確認したり、内部に配置された装置等を操作することができる。
【0011】
レンズ保持部53は、表示画面を見る被験者の、左眼および右眼からの視線がそれぞれ通過する開口部55L,55Rと、表示画面からの光を被験者の左眼および右眼にそれぞれ結像させるための結像レンズ56L,56Rとを内部に備える。結像レンズは一または複数のレンズを含んで構成される。表示画面保持部54は、着脱可能に配置された携帯型表示装置500を備える。携帯型表示装置500は、以下では、スマートフォン等の携帯端末500として説明する。なお、表示装置50は、本体51が表示画面を有する一体型であってもよい。この場合、後述する携帯端末500が有する機能は、本体51が有する。
【0012】
携帯端末500は、表示画面501を備える。表示画面501は、被験者の左眼および右眼に対してそれぞれ左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rを表示する。左眼用画像501Lと右眼用画像501Rは、レンズ保持部53と表示画面保持部54とが対向して配置されている状態である
図1(A)の場合に、左眼用画像501Lは開口部55Lと対向し、右眼用画像501Rは開口部55Rと対向するように表示される。
【0013】
図2は、表示装置50の本体51のA-A断面(
図1(A))を模式的に示した図である。表示装置50は、被験者の眼Eが結像レンズ56に対向するように、被験者の眼Eの高さに基づいて配置されている。携帯端末500の表示画面501から出射した光は、結像レンズ56を通過し、被験者の眼Eに入射する。結像レンズ56は正の屈折力を有し、これにより被験者はHMDに配置された表示画面501に眼Eを容易に合焦することができる。
【0014】
図3は、表示装置50の各部の機能を模式的に示す概念図である。本実施形態では、上述の支持部52や結像レンズ56等が有する機能以外の、画像表示に関する機能は携帯端末500が有する。
【0015】
携帯端末500は、表示画面501と、角度検出部502と、記憶部503と、入力部504と、通信部505と、制御部510とを備える。制御部510は、表示制御部511を備える。
【0016】
角度検出部502は、加速度センサ、地磁気センサおよび/またはジャイロセンサを備え、携帯端末500の向き、角度および/または角速度等の値を検出する。検出したこれらの値から、後述の制御部510は、被験者が頭部を回転させた角度や、被験者がどの方向を向いているかを算出する。記憶部503は、不揮発性の記憶媒体を含んで構成され、ゆがみ感受性検査で使用される画像表示用のプログラム等の各種プログラムや、表示する画像等を記憶する。
【0017】
入力部504は、ボタンや、表示画面501と一体化したタッチパネル等を含んで構成され、ゆがみ感受性検査で用いる各種パラメータの入力等、携帯端末500の操作を受け付ける。通信部505は、無線通信を行うための通信装置を含んで構成され、ゆがみ感受性検査で使用される画像やプログラムを取得したり、適宜必要な情報の送受信を行う。
なお、ゆがみ感受性検査で使用される画像は、着脱可能な記憶媒体を用いて外部から入手してもよい。
【0018】
携帯端末500の制御部511は、CPU等のプロセッサを含んで構成され、記憶部503に記憶されたプログラムを実行し、携帯端末500の各動作の主体となる。表示制御部511はゆがみ感受性検査の画像表示用プログラムで定められた順序または規則に従って、表示画面501に、以下に説明されるゆがみ画像を表示する。
【0019】
図4は、ゆがみ感受性検査において、表示画面501に表示される、ゆがみを含んだ画像(以下、ゆがみ画像Yと呼ぶ)を説明するための図である。以下では、ゆがみ画像Yを作成する前の原画像Yoを、
図4(A)に示された、黒および白の正方形が互いに隣接することなく交互に並んだパターン(市松模様のパターン)からなる長方形の画像として説明する。
図4(B)および
図4(C)は、ゆがみ画像Yを示す。なお、以下の実施形態では、ゆがみ方向を、原画像Yoが最も引き伸ばされた方向とし、図中右方向を0度とし反時計回りで角度が増加するように定義する。例えば、縦方向に最も引き伸ばされた画像はY90で示し、横方向に最も引き伸ばされた画像をY0で示す。
【0020】
図4(B)は、基準画像を縦方向(90度の方向)に引き伸ばすことにより作成したゆがみ画像Y90の例を示す。ゆがみ画像Y90aは、原画像Yoに対して、縦方向に寸法を引き伸ばすと共に横方向に寸法を縮めることにより作成されている。また、ゆがみ画像Y90bは、ゆがみ画像Y90aに対して、縦方向にさらに寸法を引き伸ばすと共に横方向にさらに寸法を縮めることにより、さらにゆがみ度合の高いゆがみ画像として作成されている。ゆがみ画像Y90aおよびY90bに対して、ゆがみ度合に基づいて「低」および「高」で示した。
【0021】
なお、ゆがみ画像Yは原画像Yoの一方向のみの伸縮により作成されてもよい。すなわち、必ずしも一方向に伸び(または縮み)、かつ、その一方向に垂直な他方向に縮む(または伸びる)ことを必要としない。
【0022】
図4(C)は、基準画像を横方向(0度の方向)に引き伸ばすことにより作成したゆがみ画像Y0の例を示す。ゆがみ画像Y0aは、原画像Yoに対して、横方向に寸法を引き伸ばすと共に縦方向に寸法を縮めることにより作成されている。また、ゆがみ画像Y0bは、ゆがみ画像Y0aに対して、横方向にさらに寸法を引き伸ばすと共に縦方向にさらに寸法を縮めることにより、さらにゆがみ度合の高いゆがみ画像として作成されている。ゆがみ画像Y0aおよびY0bに対して、ゆがみ度合に基づいて「低」および「高」で示した。
【0023】
図5は、ゆがみ感受性検査において、原画像Yoを斜め方向に伸縮して作成したゆがみ画像を説明するための図である。
図5(A)には、比較のため原画像Yoを示した。
【0024】
図5(B)は、ゆがみ方向が45度で、ゆがみ度合が「低」および「高」の2つのゆがみ画像Y45aおよびY45bを示す。ゆがみ画像Y45aは、原画像Yoに対して、45度の方向に寸法を引き伸ばすと共に135度の方向に寸法を縮めることにより作成されている。また、ゆがみ画像Y45bは、ゆがみ画像Y45aに対して、45度の方向にさらに寸法を引き伸ばすと共に135度の方向にさらに寸法を縮めることにより作成されている。
【0025】
図5(C)は、ゆがみ方向が135度で、ゆがみ度合が「低」および「高」の2つのゆがみ画像Y135aおよびY135bを示す。ゆがみ画像Y135aは、原画像Yoに対して、135度の方向に寸法を引き伸ばさすと共に45度の方向に寸法を縮めることにより作成されている。また、ゆがみ画像Y135bは、ゆがみ画像Y135aに対して、135度の方向にさらに寸法を引き伸ばすと共に45度の方向にさらに寸法を縮めることにより作成されている。
なお、上述の例では、ゆがみ画像Yは、原画像Yoを互いに垂直な二方向に伸長または縮小させることで、画像の対称性を持たせているが、画像中の各点を任意に変位させる等して、対称性を持たない不規則なゆがみを有するゆがみ画像Yを作成してもよい。
【0026】
原画像Yoは、どのような画像でもよい。例えば、風景、携帯電話、本、新聞、パソコン、タブレット端末、楽譜等、被験者が日常的に見る対象物の画像とすることができる。
【0027】
表示制御部511(
図3)は、ゆがみ方向および/またはゆがみ度合の異なる複数のゆがみ画像Yを切り替えて表示画面501に表示する。被験者は、表示された異なる複数のゆがみ画像Yを視認し、快適に視認できるか、日常的に許容できるか等、ゆがみ画像Yを視認した印象を回答する。これらの回答を基に、被験者のゆがみに対する感受性が評価され、数値や級により表される。
なお、複数のゆがみ画像Yを動画として構成してもよい。
【0028】
図6は、ゆがみ画像Yを被験者の視野のどの位置に提示するかを説明するための図である。表示制御部511は、ゆがみ画像Yを、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501R(
図1)において、被験者が累進屈折力レンズを着用した際に側方部La1,La2に対応する位置に表示する。ここで、累進屈折力レンズは、遠用部、近用部、および、遠用部と近用部とを屈折度が連続的に変化するよう接続する中間部を備え、中間部の上方に遠用部が、中間部の下方に近用部が配置された眼鏡レンズである。以下の実施形態では、遠用部を通して見る距離を遠距離、近用部を通して見る距離を近距離、中間部を通して見る距離を中間距離と呼ぶ。遠距離、中間距離、近距離に対応する距離の一例は、遠距離が1m以上、中間距離が50cm以上1m未満、近距離が25cm以上50cm未満であるが、状況等により適宜変化する。
なお、表示制御部511は、側方部La1またはLa2に対応する領域の他、左眼用画像501Lおよび/または右眼用画像501Rの任意の位置および範囲の部分的な領域にゆがみ画像Yを表示することができる。
【0029】
図6の視野対応
図V1は、累進屈折力レンズの左側の側方部La1と、右側の側方部La2と、遠用部、近用部、および中間部を含む非側方部Uとを有する。側方部La1,La2は斜線で示す。視野対応
図V1は、ゆがみ等が表示画像のどの位置に配置されるかを眼鏡レンズの輪郭等を用いて説明している。なお、視野対応
図V1は、画像の表示位置を例示し模式的に示す図でもあるが、眼鏡レンズや眼鏡レンズの側方部La1,La2の輪郭を模式的に示す線等は表示画像において適宜省略してもよい。
【0030】
表示制御部511(
図3)は、想定される表示画面501(
図1)と被験者の眼Eとの間の一般的な距離、および、被験者の角膜頂点間距離等に基づいて側方部La1,La2に対応する、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501R上の領域を算出し、当該領域にゆがみ画像Yを配置する。左側方部La1に対応する領域は左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rのそれぞれの画像の中央より左側に配置され、右側方部La2に対応する領域は左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rのそれぞれの画像の中央より右側に配置される。
【0031】
表示制御部511は、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rのそれぞれにおいて、左側方部La1に対応する領域にゆがみ方向が例えば45度であるゆがみ画像Y45bを表示し、右側方部La2に対応する領域にゆがみ方向が例えば135度であるゆがみ画像Y135bを表示する。このように左側方部La1と右側方部La2に対称な方向に傾いたゆがみ方向を有する、すなわちゆがみ方向を示す角度の和が180度となる、2つのゆがみ画像Yを配置することでより実際の累進屈折力レンズの装用時に近いゆがみを被験者の視野に提示することができる。
なお、ゆがみ方向を示す角度の値に関しては、誤差や個人間のばらつきを考慮してプラスマイナス10度以内の差を認めてもよい。ただし、ばらつきを考慮して許容される角度の差はこれに限らない。また、側方部La1,La2のそれぞれ対応する領域に配置される複数のゆがみ画像Yは、ゆがみ方向ではなくゆがみ度合を異ならせてもよく、ゆがみ方向とゆがみ度合との両方を異ならせてもよい。
【0032】
本実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、ゆがみ感受性検査により得られた、被験者、すなわち設計する眼鏡レンズの装用者のゆがみに対する感受性に関する情報に基づいて、設計する眼鏡レンズの一または複数の点における目標収差分布または/および目標度数分布や、許容される収差の上限の値を設定することができる。特に非点収差について目標収差や、許容される収差の上限の値を設定することが好ましい。
【0033】
眼鏡レンズの設計に係る眼鏡レンズ受発注システムについて説明する。本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムは、上述したように装用者の視野におけるゆがみに対する感受性に応じて、収差等の光学特性が適切に設定された眼鏡レンズを提供することができる。
【0034】
図7は、本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システム10の構成を示す図である。眼鏡レンズ受発注システム10は、眼鏡店(発注者)に設置される発注装置1と、レンズメーカに設置される受注装置2、加工機制御装置3、および眼鏡レンズ加工機4と、を含んで構成される。発注装置1と受注装置2とは、例えばインターネット等のネットワーク5を介して通信可能に接続されている。また、受注装置2には、加工機制御装置3が接続されており、加工機制御装置3には眼鏡レンズ加工機4が接続されている。なお、
図7では、図示の都合上、発注装置1を1つのみ記載しているが、実際には複数の眼鏡店に設置された複数の発注装置1が受注装置2に接続されている。
【0035】
発注装置1は、眼鏡レンズの発注処理を行うコンピュータであり、制御部11と、記憶部12と、通信部13と、表示部14と、入力部15と、を含む。制御部11は、CPU等のプロセッサを含んで構成され、記憶部12に記憶されたプログラムを実行することにより、発注装置1を制御する。制御部11は、眼鏡レンズの発注処理を行う発注処理部111を備える。通信部13は、受注装置2とネットワーク5を介して通信を行う。表示部14は、液晶ディスプレイやCRT等の表示装置であり、発注する眼鏡レンズの情報(発注情報)を入力するための発注画面等を表示する。入力部15は、マウスやキーボード等の入力装置を含む。入力部15を介して、発注画面の内容に応じた発注情報等が入力される。
なお、表示部14と入力部15とはタッチパネル等により一体的に構成されていてもよい。
【0036】
受注装置2は、眼鏡レンズの受注処理や設計処理、光学性能の演算処理等を行うコンピュータであり、制御部21と、記憶部22と、通信部23と、表示部24と、入力部25とを含んで構成される。制御部21は、CPU等のプロセッサを含んで構成され、記憶部22に記憶されたプログラムを実行することにより、受注装置2を制御する。制御部21は、眼鏡レンズの受注処理を行う受注処理部211と、眼鏡レンズの設計処理を行う設計部212とを備える。通信部23は、発注装置1とネットワーク5を介して通信を行ったり、加工機制御装置3と通信を行ったりする。記憶部22は、眼鏡レンズ設計のための各種データを読み出し可能に記憶する。表示部24は、液晶ディスプレイやCRT等の表示装置であり、眼鏡レンズの設計結果等を表示する。入力部25は、マウスやキーボード等の入力装置を含んで構成される。
なお、表示部24と入力部25とはタッチパネル等により一体的に構成されていてもよい。また、受注装置2の機能を、受注処理部211を備える受注装置と設計部212を備える設計装置により行ってもよい。
【0037】
次に、眼鏡レンズ受発注システム10において、眼鏡レンズを提供する手順について、
図8に示すフローチャートを用いて説明する。
図8の左側には眼鏡店側で行う手順S11~S13を示し、
図8の右側にはレンズメーカ側で行う手順S21~S23を示す。眼鏡レンズ受発注システム10における眼鏡レンズの製造方法では、上述の眼鏡レンズの設計方法により眼鏡レンズが設計される。
【0038】
ステップS11において、発注者は、装用者の視覚に対する感受性に関する情報を取得する。本実施形態では、
図9に示すように、発注者は、装用者を被験者としてゆがみ感受性検査を行い、装用者のゆがみに対する感受性に関する情報を取得する。
【0039】
図9は、ステップS11をさらに複数の段階に分けて示したフローチャートである。ステップS1111において、発注者は、装用者にHMD等の表示装置50を着用させ、装用者の視野に表示画面501を配置する。ステップS1111が終了したら、ステップS1112に進む。
【0040】
ステップS1112において、発注者は、異なるゆがみを備える複数のゆがみ画像Yを、表示画面501に順次表示して、装用者に視認させ、ゆがみ画像Yを視認した装用者の印象を取得する。発注者は、例えば、
図6で示されたような、累進屈折力レンズの側方部La1,La2に対応する表示画面501の領域にゆがみ画像Yを表示する。発注者は、表示するゆがみ画像Yのゆがみ方向を固定し、ゆがみ度合を増加させていき、装用者が、ゆがみ画像Yを許容できないと回答したゆがみ画像Yを特定する。さらに、ゆがみ方向を変えた状態でゆがみ方向を固定し、ゆがみ度合を増加させていき、装用者が、許容できないと回答したゆがみ画像Yを特定する。このように、1つまたは複数のゆがみ方向について、それぞれゆがみ度合の異なる複数のゆがみ画像Yを表示する。ステップS1112が終了したら、ステップS1113に進む。
なお、異なるゆがみ度合を有するゆがみ画像Yを提示する順番は特に限定されず、ゆがみに対する慣れが生じないように、装用者が十分許容可能な、ゆがみ度合の小さいゆがみ画像Yを少なくとも数画像に一回の割合で提示するようにしてもよい。
【0041】
ステップS1113において、発注者は、ゆがみ画像Yを視認した装用者の視野におけるゆがみに対する感受性を評価する。発注者は、ステップS1112で得られた、ゆがみ画像Yを視認した装用者からの回答に基づいて、装用者のゆがみに対する感受性を、予め定められた基準により数値に変換して記録する。例えば、上述のようにゆがみ画像Yのゆがみ度合を、装用者が許容できないと回答するまで増加させていった場合、装用者が最初に許容できないと回答したゆがみ画像Yのゆがみ度合や、装用者が許容できる限界のゆがみ画像Yのゆがみ度合を、装用者のゆがみに対する感受性を示すパラメータ(以下、感受性パラメータと呼ぶ)として取得する。すなわち、上記の特定したゆがみ画像に基づいて感受性パラメータを決定する。ステップS1113が終了したら、ステップS12に進む。
【0042】
ステップS12において、発注者は、ステップS1113において取得した、感受性パラメータ等の、装用者の視野におけるゆがみに対する感受性に関する情報を含む、眼鏡レンズの発注情報を決定する。そして、発注者は、発注装置1の表示部14に発注画面を表示させ、入力部15を介して発注情報を入力する。
【0043】
図10は、発注画面100aの一例を示す図である。発注画面100aでは、項目に分けられて発注情報が表されている。レンズ情報項目101には、注文するレンズの商品名、球面度数(S度数)、乱視度数(C度数)、乱視軸度、加入度等のレンズ注文度数に関連する項目を入力する。加工指定情報項目102は、注文するレンズの外径を指定する場合や、任意点厚さを指定する場合に入力する。染色情報項目103は、レンズの色を指定する場合に入力する。フィッティングポイント(FP)情報104には、装用者の眼の位置情報を入力する。PDは瞳孔間距離を表す。フレーム情報項目105には、フレームモデル名、フレーム種別等を入力する。感受性情報項目106aには、ゆがみ感受性検査において、感受性パラメータ等の、装用者のゆがみに対する感受性の強さを示す数値を入力する。
【0044】
図10の例では、ゆがみに対する感受性の強さを、各ゆがみ方向について、10段階の数値により表した(0度で「4」、45度で「5」等)。
図10の例では、数字が大きければ大きい程、ゆがみに対する感受性が強くなるようにゆがみに対する感受性の強さを定義している。すなわち、ここでの感受性の強さは、ゆがみに対する耐性の強さを示している。この場合、例えば、感受性パラメータは、以下のように設定される。最小のゆがみ度合で作成したゆがみ画像Yを区分1、最大のゆがみ度合で作成したゆがみ画像Yを区分10とし、各ゆがみ画像Yをゆがみ度合により10段階に区分する。そして、装用者が最大限許容可能であるとしたゆがみ画像Yの区分を感受性の強さの測定値とする。
なお、ゆがみに対する感受性の表し方について、ゆがみに対する感受性が小さい程大きな数値になるように表してもよい。この場合、感受性の強さは、装用者の感度の高さを示しており、少しのゆがみでも許容できない場合は感度が高いため数値が大きくなる。また、感受性の強さの測定値は数値でなく記号で定義してもよいし、ゆがみに対する感受性を、予め定められた基準により定義できれば特にその方法は制限されない。
【0045】
なお、発注画面100aには、上述の項目の他にも、フレームの前傾角、そり角、角膜頂点間距離等のフィッティングパラメータや装用者の調節力に関する情報等、様々な情報を追加することができる。また、装用者のゆがみに対する感受性の強さを示す数値に加え、またはその代わりに、設計する眼鏡レンズの非点収差が小さい範囲を示す指標等の設計パラメータを入力する構成にしてもよい。眼鏡レンズにおいて、非点収差が小さい範囲を示す指標として、例えば、説明を後述する
図12中の破線または一点鎖線の矢印に示すような、遠用部または近用部の所定の高さにおいて、非点収差が所定の値以下となる左右方向の長さ等とすることができる。
【0046】
発注者が、
図10の発注画面100aの各項目を入力し、送信ボタン(不図示)をクリックすると、発注装置1の発注処理部111は、発注画面100aの各項目において入力された情報(発注情報)を取得して、ステップS13(
図8)に進む。ステップS13において、発注装置1は、当該発注情報を、通信部13を介して受注装置2へ送信する。
【0047】
発注装置1において、発注画面100aを表示する処理、発注画面100aにおいて入力された発注情報を取得する処理、当該発注情報を受注装置2に送信する処理については、発注装置1の制御部11が、記憶部12に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
【0048】
ステップS21(
図8)において、受注装置2の受注処理部211は、通信部23を介して、発注装置1から発注情報を受信すると、ステップS22に進む。ステップS22において、受注装置2の設計部212は、受信した発注情報に基づいて眼鏡レンズの設計を行う。
【0049】
図11は、ステップS22に対応する眼鏡レンズの設計の手順を示すフローチャートである。ステップS2211において、受注装置2は、眼鏡レンズの処方データと、装用者のゆがみに対する感受性に関する情報および/または非点収差の小さい範囲を示す指標等の設計パラメータとを取得する。受注装置2は、適宜フレームの前傾角、そり角、角膜頂点間距離等のフィッティングパラメータ等も取得する。ステップS2211が終了したらステップS2212に進む。
【0050】
ステップS2212において、受注装置2の設計部212は、ステップS2211で取得した装用者のゆがみに対する感受性に関する情報および/または設計パラメータに基づいて眼鏡レンズの目標収差分布または/および目標度数分布を設定する。
【0051】
図12は、装用者のゆがみに対する感受性に基づいた、非点収差に関する目標収差の設定の例を示す概念図である。図中央に2つの収差分布
図A1,A2を示し、図の最も右側の部分には、収差分布図で収差の大きさを表すために用いられたパターンに対応する収差の大きさを示した。破線矢印は、上記の通り収差の大きさが所定の値以下の部分の幅を示す。なお、所定の値は予め定められる任意の値であり、例えば0.5ディオプタ―等の値が考えられるが、具体的な値はこれに限らない。各収差分布図において、上側の破線矢印は、遠用部において収差の大きさが所定の値以下の部分の幅を示し、この幅は遠用部を設計する際の指標とし得る。下側の一点鎖線の矢印は近用部において収差の大きさが所定の値以下の部分の幅を示す。この幅は近用部を設計する際の指標とし得る。上下方向における破線矢印および一点鎖線矢印の位置は任意に設定されるが、例えば遠用測定ポイントの位置(遠用度数測定位置)や、近用測定ポイントの位置(近用度数測定位置)を基準に定められる。
【0052】
図12に示した収差分布図の中で、左側の収差分布
図A1は、ゆがみに対する感受性が弱い装用者のためのレンズを示す。このようなレンズでは、非点収差の小さい範囲は狭いが、非点収差の変化が小さいため、ゆがみ度合は小さい。右側の収差分布
図A2は、ゆがみに対する感受性が収差分布
図A1の場合よりも強い装用者のためのレンズを示す。このようなレンズでは、非点収差の変化は大きいものの、遠用部および近用部の非点収差の小さい範囲が収差分布
図A1の場合よりも広く設計されている。ステップS2212が終了したら、ステップS2213に進む。
【0053】
ステップS2213(
図11)において、受注装置2は、設定された目標収差分布または/および目標度数分布に基づいて、眼鏡レンズのレンズ全体の形状を決定する。ステップS2213が終了したら、ステップS2214に進む。ステップS2214において、受注装置2は、眼鏡レンズの屈折力、非点収差等の光学特性が所望の条件を満たすかを判定する。所望の条件とは、装用者の感受性を反映しつつ、全ての処方を満たしている条件をいう。所望の条件を満たす場合、ステップS2214を肯定判定し、設計処理を終了し、ステップS23(
図8参照)に進む。所望の条件を満たさない場合、ステップS2214を否定判定し、ステップS2213に戻る。
【0054】
ステップS23において、受注装置2は、ステップS22で設計した眼鏡レンズの設計データを加工機制御装置3に出力する。加工機制御装置3は、受注装置2から出力された設計データに基づいて、眼鏡レンズ加工機4に加工指示を送る。この結果、眼鏡レンズ加工機4によって、当該設計データに基づく眼鏡レンズが加工され、製造される。眼鏡レンズ加工機4によって製造された眼鏡レンズが眼鏡店に出荷され、眼鏡フレームにはめ込まれて顧客(装用者)に提供される。
【0055】
なお、受注装置2において、発注装置1から発注情報を受信する処理、受信した発注情報に基づいて眼鏡レンズを設計する処理、眼鏡レンズの設計データを加工機制御装置3に出力する処理については、受注装置2の制御部21が、記憶部22に予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって行う。
【0056】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法は、被験者の顔と表示装置50との位置関係を維持しながら表示装置50にゆがみ画像Yを表示することと、ゆがみ画像Yを視認した被験者の印象に基づいて、被験者の視覚に関する感受性を評価した情報を取得することとを備える。これにより、装用者の眼を基準とした所望の位置に画像を提示して正確に装用者の視覚に関する感受性を測定することができ、当該感受性に基づいて装用者に合った眼鏡レンズを設計することができる。
【0057】
(2)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、表示装置50は、被験者の眼の高さに基づいた位置に配置される。これにより、被験者の眼の高さに合わせて所望の位置に画像を提示することができ、正確に装用者の視覚に関する感受性を測定することができる。
【0058】
(3)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、表示装置50による画像の表示は、それぞれ異なるゆがみを備える複数のゆがみ画像Yを表示し、感受性の評価は、複数のゆがみ画像Yを視認した被験者の印象に基づいて被験者のゆがみに対する感受性を評価する。これにより、装用者のゆがみに対する感受性に基づいて、装用者に合った眼鏡レンズを設計することができる。
【0059】
(4)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、表示装置50に表示される複数のゆがみ画像Yは、ゆがみのゆがみ度合およびゆがみ方向のうち少なくとも一方が異なる。これにより、様々なゆがみ画像Yに対する装用者の反応から、より正確に装用者のゆがみに対する感受性を測定することができる。
【0060】
(5)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、ゆがみ画像Yのそれぞれは、1若しくは複数の部分的な領域にゆがみを有する。これにより、累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズの構造に合わせて、装用者の視野の一部におけるゆがみに対する感受性を測定することができる。
【0061】
(6)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、ゆがみ画像Yは、複数の部分的な領域のそれぞれにおいて、ゆがみ度合およびゆがみ方向のうち少なくとも一方が異なる。これにより、累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズの、レンズ内の位置によって現われやすいゆがみの態様に基づき、装用者のゆがみに対する感受性を測定することができる。
【0062】
(7)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、ゆがみ画像Yは、ゆがみ画像Yの中心より左側の一部の領域と、ゆがみ画像Yの中心より右側の一部の領域とのそれぞれにゆがみを有する。これにより、累進屈折力レンズの側方部La1,La2等の、眼鏡レンズ上のゆがみが発生しやすい位置等に基づいて、装用者のゆがみに対する感受性を測定することができる。
【0063】
(8)本実施形態の眼鏡レンズ発注装置1は、被験者の顔と表示装置50との位置関係を維持しながら表示されたゆがみ画像Yを視認した被験者の印象に基づいて評価された被験者の視覚に関する感受性の情報を入力する入力部15と、入力部15を介して入力された当該情報または当該情報に基づいて算出した設計パラメータを眼鏡レンズ受注装置に送信する通信部13と、を備える。これにより、装用者の眼を基準とした所望の位置に画像を提示して正確に測定された感受性に基づいた、装用者に合った眼鏡レンズを発注することができる。
【0064】
(9)本実施形態の眼鏡レンズ受注装置2は、被験者の顔と表示装置50との位置関係を維持しながら表示されたゆがみ画像Yを視認した被験者の印象に基づいて評価された被験者の視覚に関する感受性の情報または当該情報に基づいて算出した設計パラメータを受信する受信部と、当該情報または設計パラメータに基づいて眼鏡レンズを設計する設計部と、を備える。これにより、装用者の眼を基準とした所望の位置に画像を提示して正確に測定された感受性に基づいた、装用者に合った眼鏡レンズを受注することができる。
【0065】
(10)本実施形態の眼鏡レンズ受発注システム2は、上述の眼鏡レンズ発注装置1と上述の眼鏡レンズ受注装置2とを備える。これにより、装用者の眼を基準とした所望の位置に画像を提示して正確に測定された感受性に基づいた、装用者に合った眼鏡レンズを提供することができる。
【0066】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。上述の実施形態と同一の参照符号で示された部分は、同一の機能を有し適宜説明を省略する。
(変形例1)
上述の実施形態では、累進屈折力レンズの側方部La1,La2に対応する表示画面501の領域にゆがみ画像Yを表示する例を説明したが、眼鏡レンズ全体にゆがみ画像を提示してもよい。これにより、装用者のゆがみに対する一般的な感受性を測定することが容易になる。
【0067】
(変形例2)
左眼用画像501Lのゆがみ画像Yと、右眼用画像501Rのゆがみ画像Yは、異なるゆがみを有していてもよい。すなわち、被験者の右眼および左眼に対して互いに異なる左眼用画像501Lと右眼用画像501Rとをそれぞれ表示してもよい。例えば、左眼用画像501Lはゆがみ方向が45度のゆがみを有し、右眼用画像501Rはゆがみ方向が135度のゆがみを有してもよい。これにより、単なる視覚的なゆがみに留まらず、ぐらぐらするような感覚を被験者に与えることができる。このような感覚について、後述の動作検知により、頭部の動きに連動してゆがみ画像Yを変化させて被験者の反応を見ることにより、より正確なゆがみに対する感受性の測定を可能にすることができる。
【0068】
(変形例3)
左眼用画像501Lと右眼用画像501Rとの間には、立体視を可能にするための視差が存在してもよい。左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rにおいて、これらの画像が示す対象物の各部分の奥行に基づいて、左眼用画像501Lと右眼用画像501Rにおける当該各部分に対応する画像の部分を変位させ、立体視を可能にする。これにより、立体視を考慮に入れ、より正確に装用者の視覚に関する感受性を測定することができる。
【0069】
(変形例4)
ゆがみ画像Yは、ゆがみ感受性検査の被験者の周囲の少なくとも一部を撮像した画像を加工した加工画像とすることができる。
【0070】
図13は、外部を撮像した画像を加工して表示する表示装置50aを示す斜視図である。表示装置50aの本体51の表示画面保持部54のカバーにおいて、携帯端末500のカメラ502に対応する位置に開口部541を設置する。携帯端末500は、開口部541を通して撮像した被験者の周囲の画像に、上述の実施形態で示された方法等によりゆがみを加えて表示画面501に表示する。このような方法により、現実の対象物の画像に基づいて、装用者の視覚に関する感受性をより正確に測定することができる。
なお、携帯端末50のカメラ以外の撮像装置を用いて周囲を撮像してもよい。例えば、表示装置50aの本体51自体にカメラが設けられていてもよい。
【0071】
(変形例5)
表示装置50は、三次元仮想現実空間を構築し、角度検出部502が検出した携帯端末500の向き、角度および/または角速度に基づいて算出された被験者の見る方向に対応する三次元仮想現実空間内の風景を原画像Yoとしてゆがみ画像Yを作成し表示してもよい。この場合、ゆがみ画像Yは、仮想的な空間を示す画像を加工した加工画像となる。これにより、眼鏡店のような限られた空間でも、仮想現実空間を利用することにより様々な状況をシミュレートして、装用者の視覚に関する感受性を測定することができる。
【0072】
表示装置50は、角度検出部502が検出した携帯端末500の向き、角度および/または角速度等に基づいて、被験者の頭部の動作を検知する動作検知を行い、検知した被験者の動きに基づいて、表示画面501のゆがみ画像Yを変化させることができる。これにより、日常的な動作等を行い、その間の被験者の印象を取得することができ、より様々な状況で装用者の視覚に関する感受性を測定することができる。
【0073】
-第2の実施形態-
第2の実施形態に係る表示装置50および眼鏡レンズ受発注システム10は、第1の実施形態に係る表示装置50および眼鏡レンズ受発注システム10と同様の構成を有しているが、表示装置50が、ゆがみ画像Yではなく、ぼやけを備える画像を表示する点が、第1の実施形態とは異なっている。第1の実施形態との同一部分については第1の実施形態と同一の符号で参照し、場合に応じ説明を省略する。
なお、光を部分的に透過するとともに映像を表示可能な表示素子を含んで構成された光学透過型のHMDを表示装置として、当該HMDを通してみる風景をぼやかせて表示してもよい。
【0074】
第2の実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、設計する眼鏡レンズの装用者に互いに異なる範囲のぼやけをそれぞれ備える画像(以下、ぼやけ画像と呼ぶ)を視認させ、視覚におけるぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性を評価した情報を取得し、当該情報に基づいて眼鏡レンズを設計する。以下では、装用者のぼやけに対する感受性を評価するための検査を、ぼやけ感受性検査と呼ぶ。
【0075】
以下の実施形態において、「ぼやけ」とは、対象物を、当該対象物を視認するのに適切な分解能よりも低い分解能で認識した際に起こる対象物のディテールの消失を指す。より具体的には、「ぼやけ」は、主に、デフォーカス状態(ピントがずれた状態)で撮像された画像や、対象物からの光の眼光学系の光学的収差による結像面が網膜とずれている際に認識される像で見られる輪郭やパターンの不明瞭化を指す。
【0076】
図14は、原画像Boと、原画像Boを加工したぼやけ画像Bとを示す図である。
図14(A)は、原画像Boの例として、アルファベットの文字“E”からなる画像を示した。
図14(B)は、原画像Boに対して3種類のぼやけを加えて作成した3つのぼやけ画像を、ぼやけの度合(以下、ぼやけ度合と呼ぶ)の小さい順にぼやけ画像B1,B2およびB3として示した図である。ぼやけ度合が大きいぼやけ画像ほど、輪郭の位置および形状が不明瞭であることが分かる。
【0077】
図15は、ぼやけ画像の作成方法を説明するための概念図である。
図15(A)は、ぼやけに方向依存性の無い場合のぼやけ画像B4を作成する際の画像処理を示す概念図である。この場合のぼやけ画像B4は、非点収差がない場合の屈折力エラーによるぼやけに基づいて作成したものである。
【0078】
ぼやけ画像B4は、画像中の各画素の画素値を、点像分布関数(Point Spread Function;PSF)をカーネルとして畳み込み積分することにより取得することができる。丸の中にXが描かれた記号は畳み込み積分を示す。原画像Boを方向依存性の無い点像分布関数PSF1により畳み込み積分すると、ぼやけ画像B4に示すように各点が一様にぼけたような画像が得られる。ぼやけ画像B4は非方向依存的なぼやけ画像B4となる。
【0079】
図15(B)は、ぼやけに方向依存性がある場合のぼやけ画像B5を作成する際の画像処理を示す概念図である。この場合のぼやけ画像B5は、非点収差と屈折力エラーとによるぼやけを模したものである。
【0080】
原画像Boを方向依存性(斜め45度方向)を有する点像分布関数PSF2により畳み込み積分すると、ぼやけ画像B5に示すように各点が斜め方向に向かってより強くぼやけた画像が得られる。以下では、ぼやけ画像B5を適宜、方向依存的なぼやけ画像B5と呼ぶ。方向依存的なぼやけ画像B5の方向依存性は、装用者の乱視軸の方向に基づいて定めてもよい。
なお、ぼやけ画像Bの作成方法は特に限定されず、対象物、眼鏡レンズおよび眼光学系からなる系に光線追跡法を用いることにより計算し、網膜に映るぼやけ画像Bを構築してもよい。
【0081】
原画像Boは、どのような画像でもよい。例えば、風景、携帯電話、本、新聞、パソコン、タブレット端末、楽譜等、被験者が日常的に見る対象物の画像とすることができる。
【0082】
表示制御部511(
図3)は、異なる範囲のぼやけをそれぞれ備える複数のぼやけ画像Bを切り替えて表示画面501に表示する。被験者は、表示された異なる複数のぼやけ画像Bを視認し、快適に視認できるか、日常的に許容できるか等、ぼやけ画像Bを視認した印象を回答する。これらの回答を基に、被験者のぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性が評価され、数値や級により表される。
なお、複数のぼやけ画像Bを動画として構成してもよい。
【0083】
図16は、ぼやけ画像Bにおける、ぼやけを有する範囲を説明するための図である。視野対応
図V2は、眼鏡レンズの輪郭の中に、ぼやけ画像Bにおけるぼやけbの位置を模式的に示している。表示制御部511は、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rにおける、被験者が累進屈折力レンズを着用した際に、遠用部F以外に対応する位置、すなわち中間部、近用部および側方部等に対応する位置にぼやけbを備えるぼやけ画像Bを表示する。遠用部Fに対応する領域は、他の部分よりもぼやけ度合が小さいか、ぼやけていない。
【0084】
図16に示す例では、累進屈折力レンズの装用者である被験者が、遠距離を見る際の、累進屈折力レンズの遠用部F以外の部分に対応する視野におけるぼやけに対する感受性を測定することを想定している。眼鏡レンズ装用者の中には、注視している部分以外の部分で発生しているぼやけに対して敏感な者と、それほど敏感でない者がおり、個人差がある。
図16を用いて説明されたぼやけ画像Bを装用者に提示するぼやけ感受性検査で得た情報は、このような個人差を考慮し、累進屈折力レンズの目標収差分布または/および目標度数分布の設定等に好適に用いられる。
【0085】
同様に、表示制御部511は、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rにおける、被験者が累進屈折力レンズを着用した場合の、中間部以外に対応する位置、すなわち遠用部、近用部および側方部等に対応する位置にぼやけbを備えるぼやけ画像Bを表示することができる。この場合、中間部に対応する領域は、他の部分よりもぼやけ度合が小さいか、ぼやけていない。
【0086】
同様に、表示制御部511は、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rにおける、被験者が累進屈折力レンズを着用した場合の、近用部以外に対応する位置、すなわち遠用部、中間部および側方部等に対応する位置にぼやけbを備えるぼやけ画像Bを表示することができる。この場合、近用部に対応する領域は、他の部分よりもぼやけ度合が小さいか、ぼやけていない。
【0087】
図17は、表示制御部511が、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rにおいて、異なる範囲のぼやけを有する複数のぼやけ画像Bを表示することにより、被験者の視野における、ぼやけの範囲に対する感受性の測定を説明するための図である。複数のぼやけ画像Bのそれぞれは、互いにぼやけ度合が異なる複数の領域を備える。
【0088】
図17(A)は、遠用部Fまたはその周辺においてぼやけの範囲が異なる3つのぼやけ画像Bの例を重ねて模式的に示したものである。3つのぼやけ画像Bは、近用部側すなわち眼鏡レンズの下部に、ぼやけbを有する領域(以下、ぼやけ領域と呼ぶ)、遠用部側すなわち眼鏡レンズの上部に、ぼやけbよりもぼやけ度合が小さいか、ぼやけていない領域(以下、非ぼやけ領域と呼ぶ)を備えている。3つのぼやけ画像Bはともに、ぼやけ領域は、非ぼやけ領域の下方に配置される。3つのぼやけ画像Bのぼやけ領域と、非ぼやけ領域との境界は、境界線L1,L2,L3によりそれぞれ定められている。
図17(A)の例は、遠距離の対象物を見る際の、注視方向以外の方向におけるぼやけに対する感受性を評価する際に用いることができる。
【0089】
図17(B)は、中間部Cまたはその周辺においてぼやけの範囲が異なる3つのぼやけ画像Bの例を重ねて模式的に示したものである。3つのぼやけ画像Bは、眼鏡レンズの中間部Cの外側、すなわち眼鏡レンズの辺縁部等にぼやけ領域を備え、中間部Cに非ぼやけ領域を備えている。3つのぼやけ画像Bでは、非ぼやけ領域が、ぼやけ領域に囲まれて配置されている。3つのぼやけ画像Bのぼやけ領域と、非ぼやけ領域との境界は、境界線L1,L2,L3によりそれぞれ定められている。
図17(B)の例は、中間距離の対象物を見る際の、注視方向以外の方向におけるぼやけに対する感受性を評価する際に用いることができる。
【0090】
図17(C)は、近用部Nまたはその周辺においてぼやけの範囲が異なる3つのぼやけ画像Bの例を重ねて模式的に示したものである。3つのぼやけ画像Bは、遠用部側、すなわち眼鏡レンズの上部にぼやけ領域を備え、近用部側、すなわち眼鏡レンズの下部に非ぼやけ領域を備えている。3つのぼやけ画像Bはともに、ぼやけ領域は、非ぼやけ領域よりも上方に配置されている。3つのぼやけ画像Bのぼやけ領域と、非ぼやけ領域との境界は、境界線L1,L2,L3によりそれぞれ定められている。
図17(C)の例は、近距離の対象物を見る際の、注視方向以外の方向におけるぼやけに対する感受性を評価する際に用いることができる。
【0091】
なお、被験者に表示する異なる範囲のぼやけを有するぼやけ画像Bの個数は、上述の
図17(A),(B)および(C)で示された3つに限らず、任意の数としてよい。また、非ぼやけ領域は、遠用部、中間部、近用部等に限らず、適宜設計する眼鏡レンズの装用者が日常的によく見る方向に合わせる等して、眼鏡レンズの任意の位置、範囲としてもよい。
【0092】
本実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、ぼやけ感受性検査により得られた、被験者、すなわち設計する眼鏡レンズの装用者のぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性に関する情報に基づいて、設計する眼鏡レンズの一または複数の点における目標収差分布または/および目標度数分布や、許容される収差の上限の値を設定することができる。特に非点収差について目標収差や、許容される収差の上限の値設定することが好ましい。
図17を用いて説明されたぼやけ画像Bを装用者に提示するぼやけ感受性検査で得た情報は、累進屈折力レンズの遠用部、中間部または近用部等の所定の高さにおける、目標収差が所定の値以下となる左右方向の幅(
図12参照)の設定等に好適に用いられる。
なお、ぼやけ画像Bにおいて、例えば累進屈折力レンズの側方部等を模して、ぼやけ度合が連続的に変化するようにしてもよい。
【0093】
眼鏡レンズの設計に係る眼鏡レンズ受発注システムについて説明する。本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムは、上述したように装用者の視野におけるぼやけに対する感受性に応じて、収差等の光学特性が適切に設定された眼鏡レンズを提供することができる。本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムの構成は、上述の実施形態における眼鏡レンズ受発注システム10(
図7)と同様の構成を備える。
【0094】
眼鏡レンズを提供する手順については、基本的な流れは上述の実施形態における眼鏡レンズを提供する手順(
図8)と同様である。しかし
図8に示すフローチャートにおけるステップS11、ステップS22の内容およびステップS12で入力される発注情報が異なるため、この点を以下に説明する。
【0095】
図18は、本実施形態における、ステップS11(
図8)の流れを示すフローチャートである。本実施形態では、眼鏡レンズ販売店またはその店員である発注者は、装用者を被験者としてぼやけ感受性検査を行い、装用者のぼやけに対する感受性に関する情報を取得する。
【0096】
ステップS1121において、発注者は、装用者にHMD等の表示装置50を着用させ、装用者の視野に表示画面501を配置する。ステップS1121が終了したら、ステップS1122に進む。
【0097】
ステップS1122において、発注者は、異なる範囲のぼやけを備える複数のぼやけ画像Bを、表示画面501に順次表示して、装用者に視認させ、ぼやけ画像Bを視認した装用者の印象を取得する。発注者は、例えば、
図17(A)で示された、ぼやけ領域と非ぼやけ領域との境界線がL3,L2,およびL1で示されるそれぞれのぼやけ画像Bを、この順に装用者に視認させる。装用者が各ぼやけ画像Bを視認した際に、発注者は装用者が当該ぼやけ画像Bが許容できるか否かを回答してもらい記録する。ステップS1122が終了したら、ステップS1123に進む。
なお、異なるぼやけ度合を有するぼやけ画像Bを提示する順番は特に限定されず、ぼやけに対する慣れが生じないように、装用者が十分許容可能な、ぼやけ範囲の小さいぼやけ画像Bを少なくとも数画像に一回の割合で提示するようにしてもよい。
【0098】
ステップS1123において、発注者は、ぼやけ画像Bを視認した装用者の視野におけるぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性を評価する。発注者は、ステップS1122で得られた、ぼやけ画像Bを視認した装用者からの回答に基づいて、装用者のぼやけに対する感受性を、予め定められた基準により数値に変換して記録する。例えば、上述のように
図17(A)に関して説明されたぼやけ画像Bを、装用者に提示したとする。装用者が、境界線L2を有するぼやけ画像Bは許容できるが境界線L1を有するぼやけ画像Bは許容できないと回答した場合、L2またはL2に対応する数字または記号等を装用者のぼやけまたはぼやけの範囲に対する感受性を示すパラメータ(ぼやけ感受性パラメータ)として取得する。ステップS1123が終了したら、ステップS12(
図8)に進む。
【0099】
ステップS12において、発注者は、ステップS1123において取得した、ぼやけ感受性パラメータ等の、装用者の視野におけるぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性に関する情報を含む、眼鏡レンズの発注情報を決定する。そして、発注者は、発注装置1の表示部14に発注画面を表示させ、入力部15を介して発注情報を入力する。
【0100】
図19は、発注画面の一例を示す図である。本実施形態の発注画面100bは、上述の実施形態における発注画面100aと同様の構成を有しているが、感受性情報項目(106b)が上述の実施形態の発注画面とは異なる。感受性情報項目106bでは、ぼやけ感受性検査において、ぼやけ感受性パラメータ等の、装用者のぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性の強さを示す数値を入力する。
【0101】
図19の例では、ぼやけの範囲に対する感受性の強さを、遠用部Fを通して見る場合(
図17(A))、中間部Cを通して見る場合(
図17(B))および近用部Nを通して見る場合(
図17(C))について、3段階の数値により表した(遠用部Fで「3」、中間部Cで「2」等)。
図19の例では、各数字1,2,3は、
図17(A),(B)および(C)の境界線L1,L2,L3に対応しており、ぼやけの範囲を広くしていったときに、当該境界線に対応するぼやけ画像Bが、装用者の許容限界だったことを示している。
なお、ぼやけまたはぼやけの範囲に対する感受性の表し方は、当該感受性を、予め定められた基準に従って表し伝えることができれば特にその方法は制限されない。
【0102】
なお、発注画面100bでは、装用者のぼやけに対する感受性の強さを示す数値に加え、またはその代わりに、設計する眼鏡レンズの非点収差が小さい範囲を示す指標等の設計パラメータを入力する構成にしてもよい。眼鏡レンズの非点収差が小さい範囲を示す指標としては、例えば、
図12中の破線または一点鎖線の矢印に示すような、累進屈折力レンズにおいて、遠用部または近用部の所定の高さにおいて、非点収差が所定の値以下となる左右方向の長さ等とすることができる。当該設計パラメータは、装用者が許容限界とするぼやけ領域と非ぼやけ領域との境界線の位置等に基づいて定めることができる。
【0103】
次に、ステップS22(
図8)において、受注装置2の設計部212(
図3)が、受信した発注情報(発注画面100b参照)に基づいて眼鏡レンズの設計を行う点を説明する。
【0104】
図20は、ステップS22に対応する眼鏡レンズの設計の手順を示すフローチャートである。ステップS2221において、受注装置2は、眼鏡レンズの処方データと、装用者のぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性に関する情報および/または上述の非点収差の小さい範囲を示す指標等の設計パラメータとを取得する。受注装置2は、適宜フレームの前傾角、そり角、角膜頂点間距離等のフィッティングパラメータ等も取得する。ステップS2221が終了したらステップS2222に進む。
【0105】
ステップS2222において、受注装置2の設計部212は、ステップS2221で取得した装用者のぼやけ、特にぼやけの範囲に対する感受性に関する情報および/または設計パラメータに基づいて眼鏡レンズの目標収差分布または/および目標度数分布を設定する。
【0106】
図21は、装用者のぼやけの範囲に対する感受性に基づいた目標収差の設定の例を示す概念図である。図中央に2つの収差分布図を示し、図の最も右側の部分には、収差分布図で収差の大きさを表すために用いられたパターンに対応する収差の大きさを示した。破線矢印および一点鎖線矢印の定義は
図12と同様である。
【0107】
図21に示した収差分布図の中で、左側の収差分布
図A3は、ぼやけの範囲に対する感受性が弱い装用者のためのレンズを示す。このようなレンズでは、非点収差の小さい範囲は狭いが、非点収差の変化が小さいため、画像のぼやけの度合は小さい。右側の収差分布
図A4は、ぼやけの範囲に対する感受性が収差分布
図A3の場合よりも強い装用者のためのレンズを示す。このようなレンズでは、ぼやけの程度の変化は大きいものの、遠用部および近用部の非点収差の小さい範囲が収差分布
図A3の場合よりも広く設計されている。ステップS2222が終了したら、ステップS2223に進む。
【0108】
ステップS2223(
図20)において、受注装置2は、設定された目標収差分布または/および目標度数分布に基づいて、眼鏡レンズのレンズ全体の形状を決定する。ステップS2223が終了したら、ステップS2224に進む。ステップS2224において、受注装置2は、眼鏡レンズの屈折力、非点収差等の光学特性が所望の条件を満たすかを判定する。所望の条件を満たす場合、ステップS2224を肯定判定し、設計処理を終了し、ステップS23(
図8参照)に進む。所望の条件とは、装用者の感受性を反映しつつ、全ての処方を満たしている条件をいう。所望の条件を満たさない場合、ステップS2224を否定判定し、ステップS2223に戻る。
【0109】
上述の第2の実施形態によれば、第1の実施形態により得られる作用効果の他に、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、表示装置50における画像の表示は、互いに異なる範囲のぼやけbをそれぞれ備える複数のぼやけ画像Bを表示し、感受性の評価では、複数のぼやけ画像Bを視認した被験者の印象に基づいて被験者のぼやけに対する感受性を評価する。これにより、装用者のぼやけの範囲等に対する感受性に基づいて、装用者に合った眼鏡レンズを設計することができる。
【0110】
(2)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、ぼやけ画像Bのそれぞれは、互いにぼやけ度合が異なる複数の領域、および/または、ぼやけ度合が連続的に変化するぼやけ、を備える。これにより、設計する眼鏡レンズの態様や様々な状況に合わせ、より正確に装用者のぼやけに対する感受性を測定することができる。
【0111】
(3)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、表示装置50における画像の表示は、ぼやけ度合が相対的に大きい領域を、ぼやけ度合が相対的に小さいか、ぼやけていない領域よりも下方に配置するように表示し、感受性の評価では、被験者が遠距離の対象物を見る際のぼやけに対する感受性を評価する。これにより、遠距離を見る際のぼやけに対する感受性に基づいて、装用者に合った累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズを設計することができる。
【0112】
(4)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、表示装置50における画像の表示は、ぼやけ度合が相対的に大きい領域を、ぼやけ度合が相対的に小さいか、ぼやけていない領域よりも上方に配置するように表示し、感受性の評価では、被験者が近距離の対象物を見る際のぼやけに対する感受性を評価する。これにより、近距離を見る際のぼやけに対する感受性に基づいて、装用者に合った累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズを設計することができる。
【0113】
(5)本実施形態の眼鏡レンズの設計方法において、表示装置50における画像の表示は、ぼやけ度合が相対的に小さいか、ぼやけていない領域を、ぼやけ度合が相対的に大きい領域に囲まれるように表示し、感受性の評価では、被験者が中間距離の対象物を見る際のぼやけに対する感受性を評価する。これにより、中間距離を見る際のぼやけに対する感受性に基づいて、装用者に合った累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズを設計することができる。
【0114】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。
(変形例1)
上述の実施形態において、ぼやけの範囲が異なる複数のぼやけ画像Bを表示装置50に表示する例を説明したが、さらに、ぼやけ度合を異ならせた複数のぼやけ画像Bを表示装置50に表示する構成にしてもよい。例えば、ぼやけ度合を固定して、異なる複数のぼやけ画像Bを表示装置50に表示し、その後、ぼやけ度合を変えて再び固定し、さらに異なる複数のぼやけ画像Bを表示装置50に表示することができる。これにより、異なるぼやけ度合において、装用者のぼやけの範囲に対する感受性を測定するため、より精密に測定することができる。
なお、ぼやけの範囲を固定し、ぼやけ度合を変化させる等、適宜複数のぼやけ画像Bの構成を設定することができる。
【0115】
(変形例2)
上述の実施形態では、ぼやけ領域と非ぼやけ領域との境界線L1,L2およびL3において、ぼやけ度合が変化する構成にしたが、ぼやけ領域と非ぼやけ領域との間すなわちぼやけ領域の周辺で、ぼやけ度合が段階的または連続的に変化するようにしてもよい。
【0116】
図22は、ぼやけ領域Rbと非ぼやけ領域Roとの境界部において、ぼやけ度合が段階的に変化する場合のぼやけ画像Bを模式的に示す視野対応図である。ぼやけ度合は、非ぼやけ領域Ro、第1中間領域R1、第2中間領域R2、ぼやけ領域Rbの順で高くなっている。このようにぼやけ領域Roと非ぼやけ領域Rbとの境界を段階的または連続的に変化させることにより、累進屈折力レンズ等のぼやけの態様を模したぼやけ画像Bを表示することができ、実際に眼鏡レンズを装用する場合に近い状況でより正確にぼやけに対する感受性を測定することができる。
【0117】
-第3の実施形態-
第3の実施形態に係る表示装置50および眼鏡レンズ受発注システム10は、第1の実施形態に係る表示装置50および眼鏡レンズ受発注システム10と同様の構成を有しているが、表示装置50が、被験者の視野の一部において位置が異なる複数の画像(以下、検査画像と呼ぶ)を切り替えて表示する点が、第1の実施形態とは異なっている。第1の実施形態との同一部分については第1の実施形態と同一の符号で参照し、場合に応じ説明を省略する。
【0118】
第2の実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、設計する眼鏡レンズの装用者である被験者に、異なる位置にある検査画像を視認させ、近距離または中間距離等の予め定められた距離における視線方向に対する感受性を評価した情報を取得し、当該情報に基づいて眼鏡レンズを設計する。以下では、被験者の視線方向に対する感受性を評価するための検査を、視線方向感受性検査と呼ぶ。また、以下では、主に近距離、中間距離における視線方向の感受性を測定する例に基づいて説明するが、長距離について視線方向の感受性を測定してもよい。
【0119】
本実施形態で使用される検査画像は、特に限定されないが、予め定められた距離における視線方向に対する感受性を測定する場合には、当該距離で被験者が日常的に見る対象物の画像等とすることができる。
【0120】
検査画像は、近距離における視線方向に対する感受性を測定する場合には、被験者が日常的に近距離で見る対象物の画像として、携帯電話、本、新聞および雑誌等のいずれかから選択される少なくとも一つとすることができる。検査画像は、中間距離における視線方向に対する感受性を測定する場合には、被験者が日常的に中間距離で見る対象物の画像として、パソコン、タブレット端末および楽譜等のいずれかから選択される少なくとも一つとすることができる。
【0121】
表示制御部511(
図3)は、近用部または中間部等における異なる位置に検査画像が配置された複数の表示画像を切り替えて表示画面501に表示する。被験者は、表示画面501に表示された異なる複数の表示画像を視認し、快適に視認できるか、日常的に許容できるかまたはいずれの位置に検査画像を表示する場合が見やすいか等、当該表示画像を視認した印象を回答する。これらの回答を基に、被験者の視線方向に対する感受性が評価され、数値や級により表される。
なお、複数の表示画像を動画として構成してもよい。
【0122】
図23は、表示画像における、検査画像を配置する位置を示した視野対応図である。検査画像は、累進屈折力レンズの近用部Nにおける高さの異なる複数の位置P1,P2,P3およびP4にそれぞれ表示される。これにより、被験者が近距離にある対象物を見る際の目下げ量についての好みや快適性等を含む、被験者の視線の高さに対する感受性を評価することができる。
【0123】
図24は、近用部Nにおける、
図23のP1(
図24(A)),P2(
図24(B)),P3(
図24(C))およびP4(
図24(D))のそれぞれの位置に検査画像Tを配置した表示画像の例を模式的に示す図である。
図24の例では、検査画像Tとして、スマートフォンの画像を用いている。図中には、累進屈折力レンズおよびその側方部の輪郭が示されているが、検査画像Tが、眼鏡レンズの近用部の各位置P1~P4に対応する表示画面501上の位置に示されていればこれらの輪郭は特に必要ではない。
【0124】
図24(A)~(D)に関して説明された複数の表示画像を被験者に視認させて印象を回答してもらうことにより、被験者が普段スマートフォン等の対象物を見る際に、視野に対してどの位置に対象物を配置しているか等についての情報を取得することもできる。これにより、対象物を見やすいように眼鏡レンズを設計することが可能になる。
【0125】
なお、被験者に対して表示する、異なる位置に検査画像Tを有する表示画像の個数は、上述の
図24で示された4つに限らず、任意の数としてよい。
【0126】
本実施形態の眼鏡レンズの設計方法では、視線方向感受性検査により得られた、被験者、すなわち設計する眼鏡レンズの装用者の視線方向、特に視線の高さに対する感受性に関する情報に基づいて、設計する眼鏡レンズの一または複数の点における目標収差分布または/および目標度数分布や、許容される収差の上限の値を設定することができる。特に非点収差について目標収差や、許容される収差の上限の値設定することが好ましい。
【0127】
眼鏡レンズの設計に係る眼鏡レンズ受発注システムについて説明する。本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムは、上述したように装用者の視線方向に対する感受性に基づいて、収差等の光学特性が適切に設定された眼鏡レンズを提供することができる。本実施形態に係る眼鏡レンズ受発注システムの構成は、上述の実施形態における眼鏡レンズ受発注システム10(
図7)と同様の構成を備える。
【0128】
眼鏡レンズを提供する手順については、基本的な流れは上述の実施形態における眼鏡レンズを提供する手順(
図8)と同様である。しかし
図8に示すフローチャートにおけるステップS11、ステップS22の内容およびステップS12で入力される発注情報が異なるため、この点を以下に説明する。
【0129】
図25は、本実施形態における、ステップS11(
図8)の流れを示すフローチャートである。本実施形態では、眼鏡レンズ販売店またはその店員である発注者は、装用者を被験者として視線方向感受性検査を行い、装用者の視線方向に対する感受性に関する情報を取得する。
【0130】
ステップS1131において、発注者は、装用者にHMD等の表示装置50を装着させ、装用者の視野に表示画面501を配置する。ステップS1131が終了したら、ステップS1132に進む。
【0131】
ステップS1132において、表示装置50に、眼の高さと表示画像の位置との位置関係とを調節するためのキャリブレーション画像を表示し、装用者の眼の高さと表示画像の位置との調整が行われる。表示装置50は、左眼用画像501Lと右眼用画像501Rにおけるフィッティングポイントに対応する位置にマークを表示し、装用者がまっすぐ前方を見た際に当該マークが視線の通過位置になるように、装用者はHMDの着用位置を調節する。
【0132】
ステップS1133において、発注者は、異なる位置に検査画像Tが配置された複数の表示画像を表示し、検査画像Tを視認した装用者の印象を取得する。発注者は、例えば、
図24(A),(B),(C)および(D)で説明された各表示画像を、この順に装用者に視認させる。装用者が全ての表示画像を視認した後、または各表示画像を視認した後に、発注者は装用者がどの位置に検査画像Tがある場合に最も見やすかったかや、各表示画像が許容できるか否か等を回答してもらい記録する。ステップS1133が終了したら、ステップS1134に進む。
なお、異なる位置に検査画像Tを有する表示画像を提示する順番は特に限定されない。
【0133】
ステップS1134において、発注者は、検査画像Tを有する表示画像を視認した装用者の視野における視線方向、特に視線の高さに対する感受性を評価する。発注者は、ステップS1133で得られた、検査画像Tを視認した装用者からの回答に基づいて、装用者の視線方向に対する感受性を、予め定められた基準により数値に変換して記録する。例えば、上述のように
図24に関して説明された複数の表示画像を、装用者に提示したとする。装用者が、
図24(B)で説明された検査画像Tの位置P2が最も見やすいと回答した場合、P2またはP2に対応する数字または記号等を装用者の視線方向または視線の高さに対する感受性を示すパラメータ(視線方向感受性パラメータ)として取得する。ステップS1134が終了したら、ステップS12(
図8)に進む。
【0134】
ステップS12において、発注者は、ステップS1134において取得した、視線方向感受性パラメータ等の、装用者の視野における視線方向、特に視線の高さに対する感受性に関する情報を含む、眼鏡レンズの発注情報を決定する。そして、発注者は、発注装置1の表示部14に発注画面を表示させ、入力部15を介して発注情報を入力する。
【0135】
図26は、発注画面の一例を示す図である。本実施形態の発注画面100cは、第1の実施形態における発注画面100aと同様の構成を有しているが、感受性情報項目(106c)が上述の実施形態の発注画面とは異なる。感受性情報項目106cでは、視線方向感受性検査において、視線方向感受性パラメータ等の、装用者の視線方向、特に視線の高さに対する感受性の強さを示す数値を入力する。
【0136】
図26の例では、視線の高さに対する感受性の強さを、近用部と中間部とについて、4段階の数値により表した(近用部で「2」、中間部で「3」)。
図26の例では、各数字1,2,3および4は、
図23の検査画像Tが配置される位置P1,P2,P3およびP4にそれぞれ対応しており、検査画像Tの位置を変えていったときに、当該位置に配置された場合が、装用者が最も見やすかったことを示している。
なお、視線方向または視線の高さに対する感受性の表し方は、当該感受性を、予め定められた基準に従って表し伝えることができれば特にその方法は制限されない。
【0137】
なお、発注画面100cでは、装用者の視線方向に対する感受性の強さを示す数値に加え、またはその代わりに、設計する眼鏡レンズにおいて、設計の基準となる位置の座標等の設計パラメータを入力する構成にしてもよい。例えば、装用者が最も見やすいと回答した場合の検査画像Tの位置(P1,P2,P3またはP4)を設計の基準となる位置とすることができる。
【0138】
次に、ステップS22(
図8)において、受注装置2の設計部212が、受信した発注情報(発注画面100c参照)に基づいて眼鏡レンズの設計を行う点を説明する。
【0139】
図27は、ステップS22に対応する眼鏡レンズの設計の手順を示すフローチャートである。ステップS2231において、受注装置2は、眼鏡レンズの処方データと、装用者の視線方向、特に視線の高さに対する感受性に関する情報および/または上述の設計の基準となる位置の座標等の設計パラメータとを取得する。受注装置2は、適宜フレームの前傾角、そり角、角膜頂点間距離等のフィッティングパラメータ等も取得する。ステップS2231が終了したらステップS2232に進む。
【0140】
ステップS2232において、受注装置2の設計部212は、ステップS2231で取得した装用者の視線方向、特に視線の高さの範囲に対する感受性に関する情報および/または設計パラメータに基づいて眼鏡レンズの目標収差分布または/および目標度数分布を設定する。設計部212は、例えば、設計パラメータで示された設計の基準となる位置の座標において、非点収差が特に小さくなるように目標収差分布または/および目標度数分布を設定する。ステップS2232が終了したら、ステップS2233に進む。
【0141】
ステップS2233において、受注装置2は、設定された目標収差分布または/および目標度数分布に基づいて、眼鏡レンズのレンズ全体の形状を決定する。ステップS2233が終了したら、ステップS2234に進む。ステップS2234において、受注装置2は、眼鏡レンズの屈折力、非点収差等の光学特性が所望の条件を満たすかを判定する。所望の条件を満たす場合、ステップS2234を肯定判定し、設計処理を終了し、ステップS23(
図8参照)に進む。所望の条件を満たさない場合、ステップS2234を否定判定し、ステップS2233に戻る。
【0142】
上述の第3の実施形態によれば、第1または第2の実施形態により得られる作用効果の他に、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の設計方法は、表示装置50での画像の表示は、被験者の視野の一部において位置が異なる複数の検査画像Tを切り替えて表示し、感受性の評価では、検査画像Tを視認した被験者の印象に基づいて被験者の予め定められた距離における視線方向に対する感受性を評価する。これにより、装用者の眼を基準とした所望の位置に画像を提示して正確に装用者の視線方向に関する感受性を測定することができ、当該感受性に基づいて装用者に合った眼鏡レンズを設計することができる。
【0143】
(2)本実施形態の設計方法において、表示装置50での画像の表示は、それぞれ異なる高さに複数の検査画像Tを表示し、感受性の評価では、検査画像Tを視認した被験者の印象に基づいて被験者の定められた距離における視線の高さに対する感受性を評価する。これにより、正確に装用者の視線の高さに関する感受性を測定することができ、当該感受性に基づいて装用者に合った眼鏡レンズを設計することができる。
【0144】
(3)本実施形態の設計方法において、累進屈折力レンズの遠用部、近用部、および遠用部と近用部との間の中間部から選択されたいずれか一つの領域に対応する領域において、位置が異なる複数の検査画像Tを切り替えて表示し、選択されたいずれか一つの領域を通して見る距離での視線方向に対する感受性を評価する。これにより、遠距離、近距離および中間距離のそれぞれに関し、正確に装用者の視線方向に関する感受性を測定することができ、当該感受性に基づいて装用者に合った眼鏡レンズを設計することができる。
【0145】
(4)本実施形態の設計方法において、表示装置50での画像の表示は、被験者の眼の高さと表示画像の位置との位置関係を調節するためのキャリブレーション画像を表示する。これにより、さらに正確に装用者の視線方向に関する感受性を測定することができる。
【0146】
(5)本実施形態の設計方法において、感受性の評価では、検査画像Tを視認した被験者の印象に基づいて被験者の近距離における視線方向に対する感受性を評価し、検査画像Tは、少なくとも携帯電話、本、新聞のいずれかから選択される少なくとも一つの画像である。これにより、近距離において被験者が日常的に見る対象物を利用して、より実際の状況に合わせて、正確に装用者の視線方向に関する感受性を測定することができる。
【0147】
(6)本実施形態の設計方法において、感受性の評価では、検査画像Tを視認した被験者の印象に基づいて被験者の中間距離における視線方向に対する感受性を評価し、検査画像Tは、少なくともパソコン、タブレット端末、楽譜のいずれかから選択される少なくとも一つの画像である。これにより、中間距離において被験者が日常的に見る対象物を利用して、より実際の状況に合わせて、正確に装用者の視線方向に関する感受性を測定することができる。
【0148】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。
(変形例1)
上述の実施形態では、検査画像Tの表示位置は、予め定められた位置P1~P4として説明した。しかし、対象物と、当該対象物を視認している被験者を撮像し、撮像した画像(以下、位置関係画像と呼ぶ)から、画像処理によって被験者の左眼および右眼に対する対象物の相対位置を算出し、左眼用画像501Lおよび右眼用画像501Rにおける、当該相対位置に対応する位置に対象物の画像を表示してもよい。
【0149】
例えば、被験者に普段と同じような姿勢で、スマートフォンを操作してもらう。スマートフォンを操作している間に被験者の眼部およびスマートフォンを撮像する。被験者の眼とスマートフォンとの相対位置を求めるために、複数の方向から被験者の眼部およびスマートフォンを撮像することが好ましい。撮像した位置関係画像から、被験者の眼とスマートフォンとの位置を三次元データとして算出し、表示画面501が配置される位置にスマートフォンの画像を射影して検査画像Tの画像データを構築することができる。
【0150】
このように、本変形例の設計方法では、被験者と対象物とを含む位置関係画像を撮像することを含み、表示装置50に表示される検査画像Tの表示は、位置関係画像から求めた被験者と対象物との位置関係に基づいて設定した位置に、検査画像Tとして対象物の画像を表示する。これにより、装用者が対象物を見る際に取る姿勢を撮像し、撮像した位置関係画像に基づいて表示装置に検査画像Tを表示するため、装用者にとって好ましいと想定される画像を視認させることができ、より正確に装用者の視線方向に対する感受性を測定することができる。
【0151】
(変形例2)
上述の実施形態の表示装置50に、さらに視線方向検出機能を備えさせ、視線方向感受性検査の際に同時に視線方向を検出してもよい。
【0152】
図28は、視線方向検出器を備えた表示装置50bを示す図である。
図28(A)は、表示装置50bの外観の斜視図である。
図28(B)は、表示装置50bの内部構造を模式的に示すB-B断面図である。表示装置50aの本体51は、上述の実施形態で示した構成に加え、赤外線放射部57と、撮像部58と、ハーフミラー59とを備える。赤外線放射部57と、撮像部58と、ハーフミラー59とは視線方向検出器を構成する。
【0153】
赤外線放射部57は、赤外線を放射する。放射された赤外線はハーフミラー59で反射され被験者の眼Eの眼部を照らし、角膜等から反射した赤外線は再びハーフミラー59で反射され撮像部58により受光される。撮像部58は、撮像した画像から、瞳孔中心の座標や角膜反射の中心座標を求め、事前のキャリブレーション等で得られた当該座標と視線方向とを関連付ける式に基づいて、被験者の視線方向を算出することができる。ハーフミラー59は可視光を透過するため、被験者が表示画面501の画像を見る際には妨げとならない。
【0154】
視線方向感受性検査において、装用者が表示装置50bに表示される検査画像Tを見る際に、同時に視線方向の検出も行うことにより、対象物に対する装用者の視線方向の傾向等を示すデータを取得することができる。本変形例の眼鏡レンズの設計方法は、表示画像を視認した被験者の視線方向を検出することを含み、感受性の評価では、視線方向に基づいて被験者の感受性を評価する。これにより、視線方向のデータも合わせてより精密に装用者の視線方向に対する感受性を測定することができる。
【0155】
なお、上述した実施形態の設計方法では、主に累進屈折力レンズの目標収差分布または/および目標度数分布を設定する例で説明したが、この内容に限定する必要はない。単焦点レンズに関しても装用者の感受性に関する情報を用いて設計を行うことができる。特に、単焦点レンズの設計においては、装用者の感受性に関する情報に基づいて、レンズの周辺部における、球面度数からの屈折力のずれである球面度数エラーと非点収差との設定を行うことが好ましい。
【0156】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。特に、上述の実施形態や変形例で示された事項は適宜組み合わせることができる。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0157】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2017年第130302号(2017年7月3日出願)
【符号の説明】
【0158】
1…発注装置、2…受注装置、10…眼鏡レンズ受発注システム、11…発注装置の制御部、13…発注装置の通信部、21…受注装置の制御部、23…受注装置の通信部、50,50a,50b…表示装置、56…結像レンズ、100a,100b,100c…発注画面、106a,106b,106c…感受性情報項目、500…携帯端末、501…表示画面、501L…左眼用画像、501R…右眼用画像、511…表示制御部、B,B1,B2,B3,B4,B5…ぼやけ画像、Bo,Yo…原画像、C…中間部、F…遠用部、La1,La2…側方部、N…近用部、T…検査画像、U…非側方部、Y,Y0a,Y0b,Y45a,Y45b,Y90a,Y90b,Y135a,Y135b…ゆがみ画像。