(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】車両の前部構造、およびフロント外装部材
(51)【国際特許分類】
B62D 35/00 20060101AFI20230329BHJP
B60K 11/06 20060101ALI20230329BHJP
B60R 19/48 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B62D35/00 B
B60K11/06
B60R19/48 S
(21)【出願番号】P 2020190673
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】青柳 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】畑 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩史
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0272258(US,A1)
【文献】特開2004-338602(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016014497(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 35/00
B60K 11/06
B60R 19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前面に設けられるフロント外装部材を有する車両の前部構造であって、
前記フロント外装部材についての車幅方向の端部に形成される前面導入孔と、
前記フロント外装部材の内側において前記前面導入孔と接続されるダクト構造と、
を有し、
前記ダクト構造は、
前記車体において前記フロント外装部材の後側に位置するホイールハウスへ排気する後方排気孔と、
前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間に形成される分岐排気孔と、
前記ダクト構造についての前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間において、前記ダクト構造の外となる前記フロントバンパーフェース部材の内側へ向かうように形成される分岐ダクト部と、
を有
し、
前記分岐ダクト部の先端に、前記分岐排気孔が形成され、
前記分岐ダクト部は、前記ダクト構造における気流の向きに対して交差するように形成される、
車両の前部構造。
【請求項2】
前記フロント外装部材は、前記車体の前部の外面を構成するフロントバンパーフェース部材であり、
前記ダクト構造は、前記フロントバンパーフェース部材の内面と、前記内面との間にダクト空間を形成するように前記内面と合わせられるダクト部材と、により形成される、
請求項1記載の、車両の前部構造。
【請求項3】
前記前面導入孔は、前記フロント外装部材についての前面視される範囲における車幅方向の縁に沿って、縦長に形成される、
請求項1または2記載の、車両の前部構造。
【請求項4】
前記ホイールハウスへの前記後方排気孔は、前記ホイールハウスの外縁に沿って縦長に形成される、
請求項1から3のいずれか一項記載の、車両の前部構造。
【請求項5】
車両の車体の前面に設けられることになるフロント外装部材であって、
前記フロント外装部材についての車幅方向の端部に形成される前面導入孔と、
前記フロント外装部材の内側において前記前面導入孔と接続されるダクト構造と、
を有し、
前記ダクト構造は、
前記車体において前記フロント外装部材の後側に位置するホイールハウスへ排気する後方排気孔と、
前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間に形成される分岐排気孔と、
前記ダクト構造についての前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間において、前記ダクト構造の外となる前記フロントバンパーフェース部材の内側へ向かうように形成される分岐ダクト部
と、
を有し、
前記分岐ダクト部の先端に、前記分岐排気孔が形成され、
前記分岐ダクト部は、前記ダクト構造における気流の向きに対して交差するように形成される、
フロント外装部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部構造、およびフロント外装部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両は、車体を有する。走行する車体の周囲では、気流が発生する。車体の進行方向側にある空気は、車体の前面に当たった後、車体の前面に沿って車幅方向の左右へ分かれる。前面に沿って車幅方向へ向かう気流は、車体の前面と側面とのコーナ部において、車体の側面の外側の気流と合流する。車体のコーナ部では気圧が高くなり、車体のコーナ部からさらに車幅方向外向きに流れる気流が発生し易くなる。
この気流は、車両の空力性能の改善を、たとえば空力特性や操安性の改善を妨げる一因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-166138号公報
【文献】実開平03-013423号公報
【文献】特開2016-147554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、たとえば特許文献1~3にあるように、車体の前面に、前面導入孔を設けることが考えられる。車体の前面に設けられる前面導入孔が、車体の前面に当たる空気の一部を取り込むことにより、前面に沿って車幅方向へ向かう気流が減り、車両の空力性能を改善できることが期待できる。
しかしながら、単に車体の前面に前面導入孔を設けたとしても、それによる車両の空力性能の改善効果は限定的である。
たとえば特許文献1、3のように前面中央下部に前面導入孔を形成したとしても、前面導入孔より外側において前面に当たる空気流については効果を得ることができない。また、特許文献1、3のように前面導入孔の内側に壁状の部材を設け、その壁状の部材により気流の向きを車体の外装面に沿うように変更させている場合、前面導入孔へ流入可能な流量は大きいものにはなり難い。
特許文献2のように、車体の前面についてのアンダースポイラが設けられる下部のみに前面導入孔を形成したとしても、前面導入孔より上側において前面に当たる空気流については効果を得ることができない。
車両の空力特性や操安性といった空力性能についての改善効果を得ようとして、特許文献1~3にあるような前面導入孔を設けたとしても、良好な改善効果を得ることは難しい。
【0005】
このように車両では、車両の空力特性や操安性といった空力性能について改善することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る車両の前部構造は、車体の前面に設けられるフロント外装部材を有する車両の前部構造であって、前記フロント外装部材についての車幅方向の端部に形成される前面導入孔と、前記フロント外装部材の内側において前記前面導入孔と接続されるダクト構造と、を有し、前記ダクト構造は、前記車体において前記フロント外装部材の後側に位置するホイールハウスへ排気する後方排気孔と、前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間に形成される分岐排気孔と、前記ダクト構造についての前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間において、前記ダクト構造の外となる前記フロントバンパーフェース部材の内側へ向かうように形成される分岐ダクト部と、を有し、前記分岐ダクト部の先端に、前記分岐排気孔が形成され、
前記分岐ダクト部は、前記ダクト構造における気流の向きに対して交差するように形成される。
【0007】
好適には、前記フロント外装部材は、前記車体の前部の外面を構成するフロントバンパーフェース部材であり、前記ダクト構造は、前記フロントバンパーフェース部材の内面と、前記内面との間にダクト空間を形成するように前記内面と合わせられるダクト部材と、により形成される、とよい。
【0008】
好適には、前記前面導入孔は、前記フロント外装部材についての前面視される範囲における車幅方向の縁に沿って、縦長に形成される、とよい。
【0009】
好適には、前記ホイールハウスへの前記後方排気孔は、前記ホイールハウスの外縁に沿って縦長に形成される、とよい。
【0011】
本発明の一形態に係るフロント外装部材は、車両の車体の前面に設けられることになるフロント外装部材であって、前記フロント外装部材についての車幅方向の端部に形成される前面導入孔と、前記フロント外装部材の内側において前記前面導入孔と接続されるダクト構造と、を有し、前記ダクト構造は、前記車体において前記フロント外装部材の後側に位置するホイールハウスへ排気する後方排気孔と、前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間に形成される分岐排気孔と、前記ダクト構造についての前記前面導入孔から前記後方排気孔までの流路区間において、前記ダクト構造の外となる前記フロントバンパーフェース部材の内側へ向かうように形成される分岐ダクト部と、を有し、前記分岐ダクト部の先端に、前記分岐排気孔が形成され、前記分岐ダクト部は、前記ダクト構造における気流の向きに対して交差するように形成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、車体の前面に設けられるフロント外装部材についての車幅方向の端部に、前面導入孔が形成される。そして、フロント外装部材の内側において前面導入孔と接続されるダクト構造は、車体においてフロント外装部材の後側に位置するホイールハウスへ排気する後方排気孔と、前面導入孔から後方排気孔までの流路区間に形成される分岐排気孔と、を有する。
このような構成下におけるダクト構造は、フロント外装部材についての車幅方向の端部から、その後側に位置しているホイールハウスまでを連結するものとなり、基本的に車体の前後方向に沿う流路のダクト構造となる。その結果、前面導入孔から流入する気流は、その流れの向きが大きく曲げられたり、壁状の部材により阻止されたりすることなく、流入時の流れのままにダクト構造の内部を流れて、ホイールハウスへ排気され得る。ダクト内の気流は、車体の外における気流と同等の勢いを維持したまま、排気され得る。
その結果、本発明では、車体の前面に当たる気流の一部を、ダクト構造を通じて後方へ排気でき、前面に沿って車幅方向へ向かってコーナ部に達する気流を効果的に減らし、車両の空力特性や操安性といった空力性能を効果的に改善できる。
しかも、本発明では、前面導入孔からの流入量が増えたとしても、その空気の一部は、前面導入孔との接続部分と後方排気孔が形成される部分との間の部分に形成される分岐排気孔から、ダクト構造の外となるフロントバンパーフェース部材の内側へ向けて排気することができる。前面導入孔から流入可能な量は、後方排気孔から排気可能な量などにより制限されなくなる。したがって、たとえば車両の速度が高くなったとしても、前面導入孔は、その速度に応じた量の気流を吸い込むことができる。前面導入孔は、車両の速度が低い場合でも、または高い場合でも、それぞれの速度に応じた量の気流を吸い込んで、前面に沿って車幅方向へ向かってコーナ部に達する気流を効果的に減らし、車両の空力性能を効果的に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態に係る自動車の平面図である。
【
図5】
図5は、
図4と比べて高速で移動している場合での、左前部構造における気流の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1Aは、本発明の実施形態に係る自動車1の平面図である。
図1Bは、
図1Aの自動車1の左側の側面図である。
自動車1は、車両の一例である。
【0016】
図1Aおよび
図1Bの自動車1は、車体2を有する。自動車1は、乗員の手動操作または自動運転により、前方または後方へ進行するように走行可能である。また、操舵により、右前、左前、右後、または左後の方向へ進行するように走行可能である。
走行する車体2の周囲では、図中に破線矢印で示すように、車体2の形状に沿って流れる気流が発生する。車体2の進行方向側にある空気は、車体2の前面3に当たった後、車体2の左右両側の側面4,5や上面へ向かって分かれて車体2の側面や上面に沿って流れ、車体2の後方において合流する。車体2の後方には、気流の巻き込みによる多少の渦流が発生する。これらの気流は、自動車1の走行を妨げる一因である。
【0017】
車体2の前面3の下部には、フロントバンパーフェース部材10が設けられる。フロントバンパーフェース部材10は、たとえば樹脂材料を成形した部品である。フロントバンパーフェース部材10は、フロント外装部材の一つとして、車体2の前部に設けられる。フロント外装部材は、車体2の前部の外面を構成してよい。
フロントバンパーフェース部材10は、車体2の車幅方向における左右両側が後方へ湾曲して延在する。フロントバンパーフェース部材10についての車体2の左右両側の側面4,5における後端は、ホイールハウス6に達している。
フロントバンパーフェース部材10についての車体2の前面3部分から側面部分にかけてのコーナ部8は、滑らかな曲面形状に形成される。
コーナ部8を曲面形状とすることにより、車体2の進行方向側にある空気は、車体2の前面3にあるフロントバンパーフェース部材10に当たった後、フロントバンパーフェース部材10の外形状に沿って流れて、車体2の左右両側より外側を前から後ろへ流れている気流と合流し得る。
【0018】
図2は、
図1Aの自動車1の左前部の外部構造の正面図である。
図2に示すように、フロントバンパーフェース部材10の左前部には、左側のカバー部材40が配置される。
【0019】
カバー部材40は、垂直部41と、水平部42と、プレート部43、複数のプレート孔44、を有する。
【0020】
垂直部41は、自動車1の車体2の前面3についての左縁に沿って上下方向へ延在する。
【0021】
水平部42は、上下方向に延在する垂直部41の上端から、車体2の内側(中央側)へ向かって延在する。
【0022】
プレート部43は、垂直部41についての車幅方向の内側に設けられる。プレート部43についての車幅方向の外縁は縦長の垂直部41により縁どられ、上縁は水平部42により縁どられる。
【0023】
複数のプレート孔44は、プレート部43において縦に並べて形成される。
そして、複数のプレート孔44は、フロントバンパーフェース部材10の左側の前面導入孔11と重なる。
フロントバンパーフェース部材10の左側の前面導入孔11は、フロントバンパーフェース部材10についての前面視できる範囲における車幅方向の縁に沿って縦長に形成される。左側の前面導入孔11は、フロントバンパーフェース部材10において、たとえばフォグランプが一般的に設けられる位置に形成されてよい。
【0024】
なお、自動車1の右前部の外部構造は、
図2と対称でよく、左側のカバー部材40と対称な右側のカバー部材40が設けられる。
【0025】
図3は、
図2の左前部の内部構造の斜視図である。
図3に示すように、フロントバンパーフェース部材10の左前部の内側には、左側のダクト部材20が配置される。
【0026】
ダクト部材20は、本体ダクト部21、後方排気孔23、内分岐ダクト部24、内分岐排気孔25、上分岐ダクト部26、上分岐排気孔27、を有する。
【0027】
本体ダクト部21は、フロントバンパーフェース部材10の内面と重ね合わされることにより、これらの間にダクト構造30を形成する。本体ダクト部21は、フロントバンパーフェース部材10についての左側の前面導入孔11が開口している前面3部分から側面部分の後端までにかけて、フロントバンパーフェース部材10の内面と重ね合わされてよい。
本体ダクト部21は、たとえば、中空の立方体の一部を、フロントバンパーフェース部材10の内面に沿って切断した形状を有してよい。このような本体ダクト部21は、その周縁がフロントバンパーフェース部材10の内面と接着または融着してよい。本体ダクト部21の周縁とフロントバンパーフェース部材10の内面との間には、シーム部材が挟み込まれてよい。これにより、フロントバンパーフェース部材10の内面に対して本体ダクト部21を重ねてなるダクト構造30は、高い内圧に耐えることができる。
このようなダクト構造30において、フロントバンパーフェース部材10の左側の前面導入孔11は、ダクト構造30へ空気を導入する吸気孔となる。
なお、本体ダクト部21は、それ単体で中空の立方体形状を有してもよい。この場合、本体ダクト部21は、フロントバンパーフェース部材10の左側の前面導入孔11と重なる部位に、ダクト構造30へ空気を導入する吸気孔が形成されてよい。
【0028】
後方排気孔23は、ダクト構造30の空気を排気する排気孔である。後方排気孔23は、本体ダクト部21についての後端部分に形成される。後方排気孔23は、たとえば本体ダクト部21についての後端部分に縦に並ぶ複数の孔により、縦長に形成される。この場合、後方排気孔23は、車体2においてフロントバンパーフェース部材10の後側に位置するホイールハウス6へ排気する。
フロントバンパーフェース部材10の左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入る気流は、ダクト構造30にしたがって車体2の前から後ろへ向かって流れ、後方排気孔23からダクト構造30の外である後方へ排気され得る。
【0029】
内分岐ダクト部24は、本体ダクト部21についての内面部分において、車体2の内前向きに突出するように形成される。これにより、内分岐ダクト部24は、本体ダクト部21についての前面導入孔11から後方排気孔23までの流路区間に形成される。
内分岐ダクト部24の先端には、内分岐排気孔25が形成される。内分岐ダクト部24を通じて内分岐排気孔25へ向かう気流は、ダクト構造30において左側の前面導入孔11から後方排気孔23へ向かう気流の向きに対して鈍角で交差することになる。内分岐ダクト部24の気流は、ダクト構造30の気流と逆向きとなる。ダクト構造30において左側の前面導入孔11から後方排気孔23へ向かう気流は、内分岐ダクト部24へ向けて流れる場合に、大きな抵抗がある。
内分岐排気孔25から排気される気流は、フロントバンパーフェース部材10の内側に設けられるエンジンルールへ排気されることになる。
【0030】
上分岐ダクト部26は、本体ダクト部21についての上面部分において、車体2の上前向きに突出するように形成される。これにより、上分岐ダクト部26は、本体ダクト部21についての前面導入孔11から後方排気孔23までの流路区間に形成される。
上分岐ダクト部26の先端には、上分岐排気孔27が形成される。上分岐ダクト部26を通じて上分岐排気孔27へ向かう気流は、ダクト構造30において左側の前面導入孔11から後方排気孔23へ向かう気流の向きに対して鈍角で交差することになる。上分岐ダクト部26の気流は、ダクト構造30の気流と逆向きとなる。ダクト構造30において左側の前面導入孔11から後方排気孔23へ向かう気流は、上分岐ダクト部26へ向けて流れる場合に、大きな流入抵抗が生じる。
上分岐排気孔27から排気される気流は、フロントバンパーフェース部材10の内側に設けられるエンジンルールへ排気されることになる。
【0031】
自動車1の右前部の内部構造は、
図2と対称でよく、左側のダクト部材20と対称な右側のダクト部材20が設けられる。
【0032】
図4は、
図2および
図3の左前部構造における気流の説明図である。
図4において、左側のダクト部材20の後方排気孔23は、ホイールハウス6の外縁に沿って縦長に位置している。これにより、後方排気孔23からホイールハウス6へ排気される気流AOutは、少なくとも一部が、ホイールハウス6に配置される車輪部材7の外面より外側へ向かって流れる。車輪部材7は、後方排気孔23からホイールハウス6への排気を阻害し難くなる。車輪部材7に当たる気流の圧力やホイールハウス6の後方の不図示のマットガードに当たる気流の圧力が高くなると、CD値が悪化し、操安性能が悪化することがある。
内分岐ダクト部24の気流Adivは、車体2の車幅方向に沿っている。内分岐ダクト部24の気流は、ダクト構造30における左側の前面導入孔11から後方排気孔23へ向かう気流の向きに対して逆向きに交差している。
自動車1の右前部構造における気流は、
図2と対称に現れる。
【0033】
そして、図中に破線矢印で示すように、車体2の進行方向側にある空気は、車体2の前面3に当たった後、車体2の前面3に沿って外向きに流れる。前面3に沿って外へ向かう気流は、フロントバンパーフェース部材10の左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入る。本実施形態では、特に、左側の前面導入孔11についての車幅方向の外側に左側のカバー部材40の垂直部41が突出して設けられているため、前面3に沿って外へ向かう気流は、垂直部41で流れが阻害されて、効率よく左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入ることができる。
左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入った気流Ainは、ダクト構造30に沿って車体2の前から後ろへ向かって流れ、後方排気孔23から排気される。なお、左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入った気流の一部は、基本的に流れ込み難くなっている内分岐ダクト部24を通じて、フロントバンパーフェース部材10の内側にあるエンジンルールへ漏れ出るように排気されてよい。
後方排気孔23から排気された気流Aoutは、ホイールハウス6に配置される車輪部材7の外面より外側へ向かって流れる。
その結果、前面3に沿う気流の殆どは、ダクト構造30を通じて後方へ排気されるため、車体2のコーナ部8を流れ難くなる。
車体2の前面3に沿ってコーナ部8へ向かう気流が減るため、車体2の左側の側面5の外側を流れる気流と合流する気流の量が減る。車体2の左側の側面5の外側を流れる気流(主流)は、車体2の前面3からコーナ部8へ向かう気流により乱れ難くなる。気流による自動車1の走行の妨げを減らすことができる。
【0034】
図5は、
図4と比べて高速で移動している場合での、左前部構造における気流の説明図である。
自動車1の右前部構造における気流は、
図2と対称に現れる。
【0035】
そして、
図4と比べて高速で移動している場合、車体2の前面3に当たる気流の量は、増加する。前面3に沿って流れ、フロントバンパーフェース部材10の左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入る気流Ainの量も増加する。
この場合、左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入った気流Ainは、ダクト構造30に沿って車体2の前から後ろへ向かって流れて後方排気孔23から排気されるとともに、内分岐ダクト部24を通じてエンジンルールへ排気される。内分岐ダクト部24を通じてエンジンルールへ排気される気流Adivの量および比率は、増加する。ダクト構造30において、気流のオーバーフローを生じさせることができる。
これにより、
図4と比べて高速で移動している場合でも、左側の前面導入孔11からダクト構造30へ入ることができる気流Ainの量を増加でき、車体2の前面3に沿って左側の前面導入孔11を通過してコーナ部8へ向かうオーバーフローの気流の量を増加させ難くできる。
その結果、前面3に沿う気流の殆どは、速度の増加により増えたとしても、ダクト構造30を通じて後方へ排気されて、車体2のコーナ部8へ向けて流れ難くなる。
【0036】
ここで、たとえば左側の前面導入孔11の面積S(Ain)と後方排気孔23の面積S(Aout)とは、基本的にほぼ等しくてよい。これに対して、内分岐排気孔25の面積および上分岐排気孔27の面積の総和S(Adiv)は、後方排気孔23の面積S(Aout)の2倍以上、好ましくは3倍とするとよい。
このように後方排気孔23より総和面積が大きくなる分岐排気孔を設けていたとしても、左側の前面導入孔11から分岐排気孔へ向かう気流についての流入抵抗が高いため、左側の前面導入孔11から分岐排気孔への流れが支配的なものとはならず、左側の前面導入孔11から後方排気孔23への流れを確保または維持できる。ただし、左側の前面導入孔11から後方排気孔23への気流の量は、分岐排気孔が無い場合または不足する場合と比べて、大きく増加し難くなる。
また、左側の前面導入孔11から流入可能な気流の量が増えるので、車体2の前面3に沿う気流が、左側の前面導入孔11に入りきらなくなることを抑制でき、左側の前面導入孔11を通過して車体2のコーナ部8へ向かって流れてしまうことを効果的に抑制できる。
本実施形態では、このように
図4および
図5に示す双方の気流関係を実現して、左側の前面導入孔11を通過して車体2のコーナ部8へ向かって流れてしまう気流の量を効果的に抑制できる。
なお、車体2の前面3に沿う気流が車体2のコーナ部8へ向かって流れてしまうと、操安性が悪化し易くなる。特に、速度が高い場合に、操安性の悪化は顕著となる。
本実施形態では、自動車の速度が高くなって流量が増加する場合においてもダクト構造30の機能を維持して、操安性の悪化を抑制できる。その結果、本実施形態では、たとえば、操舵時の手応え、ステアリングの応答性の向上または安定を図ることができる。
【0037】
以上のように、本実施形態では、車体2の前面3に設けられるフロントバンパーフェース部材10についての車幅方向の端部に、前面導入孔11が形成される。そして、フロントバンパーフェース部材10の内側において前面導入孔11と接続されるダクト構造30は、車体2においてフロントバンパーフェース部材10の後側に位置するホイールハウス6へ排気する後方排気孔23と、前面導入孔11から後方排気孔23までの流路区間に形成される分岐排気孔25,27と、を有する。
このような構成下におけるダクト構造30は、フロントバンパーフェース部材10についての車幅方向の端部から、その後側に位置しているホイールハウス6までを連結するものとなり、基本的に車体2の前後方向に沿う流路のダクト構造30となる。その結果、前面導入孔11から流入する気流は、その流れの向きが大きく曲げられたり、壁状の部材により阻止されたりすることなく、流入時の流れのままにダクト構造30の内部を流れて、ホイールハウス6へ排気され得る。ダクト内の気流は、車体2の外における気流と同等の勢いを維持したまま、排気され得る。
その結果、本実施形態では、車体2の前面3に当たる気流の一部を、ダクト構造30を通じて後方へ排気でき、前面3に沿って車幅方向へ向かってコーナ部8に達する気流を効果的に減らし、自動車1の空力特性や操安性といった空力性能を効果的に改善できる。
特に、前面導入孔11を、たとえば、フロントバンパーフェース部材10についての前面視される範囲における車幅方向の縁に沿って縦長に形成することにより、車体2の前面3に当たる気流についての大きな部分を前面導入孔11に吸い込んで、ダクト構造30を通じて後方へ排気できる。
しかも、本実施形態では、前面導入孔11からの流入量が増えたとしても、その空気の一部は、前面導入孔11との接続部分と後方排気孔23が形成される部分との間の部分に形成される分岐排気孔25,27から、ダクト構造30の外となるフロントバンパーフェース部材10の内側へ向けてオーバーフロー排気することができる。前面導入孔11から流入可能な量は、後方排気孔23から排気可能な量などにより制限されなくなる。したがって、たとえば自動車1の速度が高くなったとしても、前面導入孔11は、その速度に応じた量の気流を吸い込むことができる。前面導入孔11は、自動車1の速度が低い場合でも、または高い場合でも、それぞれの速度に応じた量の気流を吸い込んで、前面3に沿って車幅方向へ向かってコーナ部8に達する気流を効果的に減らし、自動車1の空力性能を効果的に改善できる。
【0038】
本実施形態では、フロントバンパーフェース部材10の内面と、その内面との間にダクト空間を形成するように内面と合わせられるダクト部材20とにより、ダクト構造30を形成している。その結果、仮にたとえば筒状のダクト部材20をフロントバンパーフェース部材10の内側に設ける場合のように、車体2内の空間を大きく占有してしまうことはない。しかも、フロントバンパーフェース部材10の内面に対してダクト部材20を重ね合わせることにより、ダクト部材20によりフロントバンパーフェース部材10の剛性を高めることができる。特に、ダクト構造30を縦長とすることにより、フロントバンパーフェース部材10のコーナ部8の剛性は全体的に高まる。
【0039】
本実施形態では、ホイールハウス6への後方排気孔23が、ホイールハウス6の外縁に沿って縦長に形成される。これにより、後方排気孔23は、その少なくとも一部が、ホイールハウス6に配置される車輪部材7の外面より外側に位置できるようになる。後方排気孔23からホイールハウス6へ排気される気流は、ホイールハウス6に配置される車輪部材7の外面の外側へ流れるようになり、車輪部材7の前面3に対して当たり難くなる。車輪部材7の前面3に対して排気をすると、それによりダクト構造30での流速が低下して空力性能が低下する可能性があるが、そのような事態の発生を効果的に抑制できる。
【0040】
本実施形態では、ダクト構造30についての前面導入孔11から後方排気孔23までの流路区間に、ダクト構造30の外となるフロントバンパーフェース部材10の内側へ向かう分岐ダクト部24,25を形成する。この場合、分岐ダクト部24,25の先端に、分岐排気孔25,27が形成される。
しかも、分岐ダクト部24,25の流路は、ダクト構造30における気流の向きに対して逆向きに交差するように形成される。
これにより、たとえば後方排気孔23から十分な排気が可能である状況下では、前面導入孔11からダクト構造30へ吸い込まれた気流は、ダクト構造30の内部をそのまま流れて、主に後方排気孔23から排気される。
これに対し、後方排気孔23から十分な排気が可能でなくなると、ダクト構造30の内部での圧力が上昇する。この圧力上昇により、前面導入孔11からダクト構造30へ吸い込まれた気流の中の過剰な分が、分岐ダクト部24,25を通じて、分岐排気孔25,27からフロントバンパーフェース部材10の内側へ向けて流れるようになる。ダクト構造30の内部での圧力上昇は抑えられる。これにより、前面導入孔11からダクト構造30へ吸い込むことができる気流の量は、減り難くなる。前面導入孔11は、自動車1の速度が低い場合でも、高い場合でも、それぞれの速度に応じた量の気流を吸い込んで、前面3に沿って車幅方向へ向かってコーナ部8に達する気流を効果的に減らし、自動車1の空力性能を効果的に改善できる。
【0041】
このように本実施形態では、自動車1の空力特性や操安性といった空力性能を改善できる。
フロントバンパーフェース部材10についての車幅方向の両端部分にカバー部材40を設けていて、カバー部材40により気流方向に対して凹凸が形成されているにもかかわらず、それによる操安性能の悪化を効果的に抑制できる。
【0042】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…自動車(車両)、2…車体、3…前面、4…右側の側面、5…左側の側面、6…ホイールハウス、7…車輪部材、8…コーナ部、10…フロントバンパーフェース部材(フロント外装部材)、11…前面導入孔、20…ダクト部材、21…本体ダクト部、23…後方排気孔、24…内分岐ダクト部、25…内分岐排気孔、26…上分岐ダクト部、27…上分岐排気孔、30…ダクト構造、40…カバー部材、41…垂直部、42…水平部、43…プレート部、44…プレート孔