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特許7252942高い強度を有するAl-Zn-Cu-Mg合金および製造方法
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  • 特許-高い強度を有するAl-Zn-Cu-Mg合金および製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】高い強度を有するAl-Zn-Cu-Mg合金および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20230329BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20230329BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230329BHJP
【FI】
C22C21/10
C22F1/053
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 631A
C22F1/00 640Z
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020515912
(86)(22)【出願日】2018-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2018075820
(87)【国際公開番号】W WO2019063490
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】1758914
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519326703
【氏名又は名称】コンステリウム イソワール
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM ISSOIRE
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ウェルチェル,リッキー
(72)【発明者】
【氏名】ニゼリ,エランベール
(72)【発明者】
【氏名】コシュエル,ディアンナ
(72)【発明者】
【氏名】エルストロム,ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ワルヌー,ティモティ
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0150578(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0006010(US,A1)
【文献】特表2000-504068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0058568(US,A1)
【文献】特表2006-522872(JP,A)
【文献】特開平07-252573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/04- 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50mmの厚みを有し、重量%で、
6.9~7.5のZn、
1.8~2.2のMg、
1.8~2.2のCuであって、ここでCu+Mgの合計は3.8~4.2であり、Cu>2.7×Mg-0.5×Znであり、Cuが2.7×Mg-0.5×Zn+0.3未満であり、かつCu/Mg比が0.95~1.15であり、
0.04~0.14のZr
0~0.1のMn、
0~0.15のTi、
0~0.1のV、
0.15以下のFe、
0.15以下のSi、
各0.05以下で、かつ合計0.15以下の不純物、残分はアルミニウム、
からなる、圧延アルミニウム系合金製品。
【請求項2】
Cuが1.90~2.15である、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
Mgが1.90~2.10である、請求項1または2に記載の製品。
【請求項4】
Znが7.0~7.20である、請求項1から3のいずれか一つに記載の製品。
【請求項5】
前記製品が、
a) ST方向の製品の引張降伏強度の85%の板厚応力レベルの高応力、および温度70℃で85%の相対湿度の湿潤環境という条件下での、環境助長割れ後の少なくとも40日という最短無破損寿命、
b) 板厚中心部においてST方向で測定した場合の、mm単位の該製品の厚みをtとして、少なくとも467-0.27×tMPaという従来の引張降伏強度、
c) 板厚中心部で測定した場合の、mm単位の製品の厚みをtとして、少なくとも26-0.01×tMPa√mというS-L方向のK1C靭性、
という特性を有する、請求項1からのいずれか一つに記載の製品。
【請求項6】
製品が、
d) 4分の1厚みにおいてL方向で測定した場合の、mm単位の製品の厚みをtとして、少なくとも505-0.26×tMPaという従来の引張降伏強度、
e) 4分の1厚みにおいて測定した場合の、mm単位の製品の厚みをtとして、少なくとも36-0.1×tMPa√mというL-T方向のK1C靭性、
という特性を有する、請求項に記載の製品。
【請求項7】
製品の厚みが50~150mmである、請求項1からのいずれか一つに記載の製品。
【請求項8】
Cu含有量が1.95~2.15重量%であり、製品が、
a) ST方向の製品の引張降伏強度の85%の板厚応力レベルの高応力、および温度70℃で85%の相対湿度の湿潤環境という条件下での、環境助長割れの後の少なくとも40日という最短無破損寿命、
b) 板厚中心部においてST方向で測定した場合の、mm単位の製品の厚みをtとして、少なくとも477-0.27×tMPaという従来の引張降伏強度、
c) 板厚中心部で測定した、mm単位の製品の厚みをtとして、少なくとも28-0.01×tMPa√mというS-L方向のK1C靭性、
という特性を有する、請求項1からのいずれか一つに記載の製品。
【請求項9】
製品が、
d) 4分の1厚みにおいてL方向で測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも515-0.26×tMPaという従来の引張降伏強度、
e) 4分の1厚みにおいて測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも42-0.1×tMPa√mというL-T方向のK1C靭性、
という特性を有する、請求項に記載の製品。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一つに記載の製品を含む、航空機の製造に好適な構造部材。
【請求項11】
前記構造部材が、翼小骨、桁、およびフレームで使用される、請求項10に記載の構造部材。
【請求項12】
圧延アルミニウム系合金製品の製造方法において、
a) (重量%で)、
6.9~7.5のZn、
1.8~2.2のMg、
1.8~2.2のCuであって、ここでCu+Mgの合計は3.8~4.2であって、Cu>2.7×Mg-0.5×Znであって、Cuが2.7×Mg-0.5×Zn+0.3未満であって、かつCu/Mg比が0.95~1.15であって、
0.04~0.14のZr、
0~0.1のMn、
0~0.15のTi、
0~0.1のV、
0.15以下のFe、
0.15以下のSi、
各0.05以下で、かつ合計0.15以下の不純物、残分はアルミニウム
構成されているインゴットを鋳造するステップと、
b) 該インゴットを均質化するステップと、
c) 前記均質化されたインゴットを、少なくとも50mmの最終厚みを有する圧延製品に熱間圧延するステップと、
d) 該製品を溶体化熱処理し焼入れするステップと、
e) 該製品をストレッチングするステップと、
f) 155℃において24~70時間の等価時効時間t(eq)での人工時効のステップとを含む方法であって、
155℃における等価時間t(eq)が、
【数1】
なる式によって定義され、式中、Tは焼鈍中の°K単位の瞬時温度であり、Trefは155℃(428°K)に選択された基準温度であり、t(eq)は時間単位で表現されている、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、特に航空宇宙応用のためのアルミニウム系合金、より詳細にはAl-Zn-Cu-Mgアルミニウム系合金に関する。
【背景技術】
【0002】
Al-Zn-Cu-Mgアルミニウム系合金は、長年にわたり航空宇宙産業において広範に使用されてきている。航空機構造が進化し重量とコストの両方の削減という最終目的に努力が傾注されると共に、強度、靭性および耐腐食性などの特性間の最適な妥協が絶えず探求されている。同様に、鋳造、圧延及び熱処理においてプロセスを改良することによって有利にも合金の組成図におけるさらなる制御を得ることができる。
【0003】
例えば、典型的には厚みのある展伸切片から機械加工される翼小骨、桁、フレームといった翼要素などの、航空産業向けの一体的に機械加工された高強度構造部品を生産するために、特に、Al-Zn-Cu-Mgアルミニウム系合金製の厚みのある圧延製品が使用される。
【0004】
静的機械強度、破壊靭性、耐腐食性、焼入れ感受性、疲労抵抗および残留応力レベルなどのさまざまな特性について得られた性能値は、製品の全体的性能、構造設計者がそれを有利な形で使用する能力、ならびに例えば機械加工などのさらなる加工ステップにおけるその使用し易さを決定するものである。
【0005】
以上で列挙した性能のうちいくつかは、多くの場合、事実上相反するものであり、概して妥協を見い出す必要がある。相反する特性とは、例えば静的機械強度と靭性、および強度と耐腐食性である。
【0006】
腐食または環境助長割れ(EAC)特性の中でも、高応力および湿潤環境という条件下でのEACと、典型的に比較的低い応力を用いて、かつNaCl溶液での交番する浸漬および乾燥サイクル(ASTM G44)を用いて標本が試験されるASTM G47などの標準応力腐食割れ(SCC)試験の条件下でのEACとを、区別することができる。標準SCC破損は、局所的な潜在的差異に起因する陽極溶解と水素脆化の両方の混合により発生する可能性があり、一方、高応力および湿潤環境という条件下でのEACでは、水素脆化が最も確率の高い破損モードである(例えば、「Gaseous hydrogen embrittlement of materials in energy technologies」、R.P.GlangloffおよびB.P.Somerday編、Woodhead Publishing 2012年、707~768ページ中の、J.R.SCULLY、G.A.YOUNG JR、S.W.SMITH著、「Hydrogen embrittlement of aluminum and aluminum based alloys」を参照のこと)。
【0007】
高応力および湿潤環境という条件下でEACに対する低い感度を有する高強度7XXX合金の開発は、有意な改良になると思われる。詳細には、AA7010またはAA7050などの公知の合金よりも高い強度を有する一方で、高応力および湿潤環境という条件下でEACに対する同様のまたはそれ以上の耐性を示す合金を得ることが探求されている。
【0008】
先行技術では、高い破壊靭性、高い機械的強度および高い標準SCC耐性を有するAl-Zn-Mg-Cu合金が記述されている。
【0009】
米国特許第5312498号明細書は、本質的に約5.5~10.0重量%の亜鉛、約1.75~2.6重量%のマグネシウム、約1.8~2.75重量%の銅そして残分のアルミニウムおよび他の元素で構成されたアルミニウム系合金組成を提供することを含む、改善された耐剥離性および破壊靭性を有するアルミニウム系合金製品の生産方法を開示している。アルミニウム系合金は、改善された耐腐食性および機械的特性を有する製品を生産するために加工され、熱処理され、焼入れされ、時効される。亜鉛、マグネシウムおよび銅の量は、時効プロセスの結果として沈殿が本質的に完了した後に余剰の元素が全く存在しないように、化学量論的に平衡化される。剥離腐食は、厚みが小さい製品に特異的であり、押出し加工製品について特に感度が高い。
【0010】
米国特許第5560789号明細書は、高い機械的強度を有するAA7000シリーズ合金およびそれらの獲得方法について記述している。合金は、重量で7~13.5%のZn、1~3.8%のMg、0.6~2.7%のCu、0~0.5%のMn、0~0.4%のCr、0~0.2%のZr、各々最大0.05%で、かつ合計0.15%の他の元素そして残余のAlを含有するが、腐食特性については言及されていない。
【0011】
米国特許第5865911号明細書は、本質的に(重量%で)約5.9~6.7%の亜鉛、1.8~2.4%の銅、1.6~1.86%のマグネシウム、0.08~0.15%のジルコニウム、残分のアルミニウムおよび偶発元素ならびに不純物で構成されたアルミニウム合金について記述している。この特許は、静的機械特性と靭性の妥協について詳細に言及している。
【0012】
米国特許第6027582号明細書は、(重量%で)5.7~8.7のZn、1.7~2.5のMg、1.2~2.2のCu、0.07~0.14のFe、0.05~0.15のZrという組成を有し、Cu+Mg<4.1で、Mg>Cuである、厚み60mm超の圧延、鍛造または押出し加工されたAl-Zn-Mg-Cuアルミニウム系合金製品について記述している。この特許は同様に、焼入れ感受性の改善についても記述している。
【0013】
米国特許第6972110号明細書は、好ましくは(重量%で)7~9.5のZn、1.3~1.68のMgおよび1.3~1.9のCuを含有する合金について教示しており、Mg+Cu≦3.5を保つことを推奨している。この特許は、応力腐食割れに対する耐性を改善する目的で3段階時効処理を使用することを開示している。3段階時効は、習熟が困難で時間がかかり、このような熱的処理を必ずしも必要とせずに高い耐腐食性を得ることが望ましいと思われる。
【0014】
PCT特許出願である国際公開第2004/090183号は、本質的に(重量パーセントで)6.0~9.5のZn、1.3~2.4のCu、1.5~2.6のMg、0.25未満のMnおよびZr、ただしより高いZn含有量については好ましくは0.05~0.15の範囲内、そして各々0.05未満で、かつ合計0.25未満の他の元素、残分のアルミニウムを含む合金において、(重量パーセントで)0.1[Cu]+1.3<[Mg]<0.2[Cu]+2.15、好ましくは0.2[Cu]+1.3<[Mg]<0.1[Cu]+2.15である合金について開示している。この特許出願は、15~45mmの厚みの上部翼外皮用のプレートに向けられている。
【0015】
PCT特許出願である国際公開第2005/001149号は、(重量%で)6.7~7.5%のZn、2.0~2.8%のCu、1.6~2.2%のMg、そして、0.08~0.20%のZr、0.05~0.25%のCr、0.01~0.50%のSc、0.05~0.20%のHf、0.02~0.20%のV、Fe+Si<0.20%からなる群の中から選択された1つ以上の元素、各0.05%で、かつ合計0.15%の他の元素、余剰分のアルミニウムを含む、押出し加工、圧延または鍛造されたアルミニウム合金製品に関する。
【0016】
米国特許出願公開第2005/006010号明細書は、改善された疲労亀裂成長耐性および高い損傷許容性を有する高強度Al-Zn-Cu-Mg合金を生産するための方法において、(重量パーセントで)5.5~9.5のZn、1.5~3.5のCu、1.5~3.5のMg、0.25未満のMn、0.25未満のZr、0.10未満のCr、0.25未満のFe、0.25未満のSi、0.10未満のTi、0.25未満のHfおよび/またはV、各々0.05未満で、かつ合計0.15未満の他の元素、残分のアルミニウムという組成を有するインゴットを鋳造するステップ、鋳造後にインゴットを均質化し、かつ/または予熱するステップ、インゴットを熱間加工し任意には厚み50mm超の加工された製品へと冷間加工するステップ、溶体化熱処理ステップ、該熱処理製品を焼入れするステップ、および、該加工され熱処理された製品を人工時効するステップを含む方法であって、該時効ステップには、2時間超で8時間未満にわたる105℃~135℃の範囲内の温度での第1の熱処理、および5時間超で15時間未満にわたる135℃より高いものの170℃より低い温度での第2の熱処理が含まれている方法を開示している。ここでもまた、このような3段階時効は、習熟が困難で時間がかかる。
【0017】
欧州特許第1544315号明細書は、6.7~7.3のZn、1.9~2.5のCu、1.0~2.0のMg、0.07~0.13のZr、0.15未満のFe、0.15未満のSi、各0.05未満でかつ最大で合計0.15の他の元素、残余のアルミニウムというパーセント重量を有する成分を伴うAlZnCuMg合金製の、特に圧延、押出し加工または鍛造された製品を開示している。該製品は好ましくは、溶体化熱処理、焼入れ、冷間加工および人工時効によって処理される。
【0018】
米国特許第8277580号明細書は、2~10インチの厚みを有する圧延または鍛造されたAl-Zn-Cu-Mgアルミニウム系合金の展伸材を教示する。この製品は、溶体化熱処理、焼入れおよび時効により処理されたものであり、(重量%で) 6.2~7.2のZn、1.5~2.4のMg、1.7~2.1のCu、0~0.13のFe、0~0.10のSi、0~0.06のTi、0.06~0.13のZr、0~0.04のCr、0~0.04のMn、各0.05以下の不純物および他の偶発元素を含む。
【0019】
米国特許第8673209号明細書は、溶体化熱処理、焼入れおよび人工時効された場合に、かつ製品から作られた部品の中で、強度、破壊靭性および耐腐食性の改善された組合せを達成する能力を有する厚み約4インチ以下のアルミニウム合金製品において、合金が本質的に約6.8~約8.5重量%のZn、約1.5~約2.00重量%のMg、約1.75~約2.3重量%のCu、約0.05~約0.3重量%のZr、約0.1重量%未満のMn、約0.05重量%未満のCr、残分のAl、偶発元素および不純物で構成されている、アルミニウム合金製品およびその製造方法を開示している。
【0020】
SCC耐性に対する7XXX合金組成の効果は、近年精査されている(N.J.Henry HolroydおよびG.M.Scamans著、「Stress Corrosion Cracking in Al-Zn-Mg-Cu Aluminum Alloys in Saline Environments」、Metall.Mater.Trans.A、44巻、1230~1253ページ、2013年)。塩分環境におけるピークおよび過時効調質についての室温でのSCC成長速度は、Zn/Mg比が2~3の範囲内にあり、化学量論レベルに比べた余剰のマグネシウムが1重量%未満であり、銅含有量が0.2重量%未満であるかまたは1.3~2重量%の範囲内にある場合に、8重量%未満のZnを含むAl-Zn-Mg-Cu合金について最小限に抑えられるという結論が得られた。
【0021】
高強度7xxx合金製品について記述するこれらの文書のいずれも、高応力および湿潤環境という条件下でEACに対する感度が低く、高強度と高靭性特性を同時に有する合金については記述していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】米国特許第5312498号明細書
【文献】米国特許第5560789号明細書
【文献】米国特許第5865911号明細書
【文献】米国特許第6027582号明細書
【文献】米国特許第6972110号明細書
【文献】国際公開第2004/090183号
【文献】国際公開第2005/001149号
【文献】米国特許出願公開第2005/006010号明細書
【文献】欧州特許第1544315号明細書
【文献】米国特許第8277580号明細書
【文献】米国特許第8673209号明細書
【非特許文献】
【0023】
【文献】「Gaseous hydrogen embrittlement of materials in energy technologies」、R.P.GlangloffおよびB.P.Somerday編、Woodhead Publishing 2012年、707~768ページ中の、J.R.SCULLY、G.A.YOUNG JR、S.W.SMITH著、「Hydrogen embrittlement of aluminum and aluminum based alloys」
【文献】N.J.Henry HolroydおよびG.M.Scamans著、「Stress Corrosion Cracking in Al-Zn-Mg-Cu Aluminum Alloys in Saline Environments」、Metall.Mater.Trans.A、44巻、1230~1253ページ、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、高応力および湿潤環境という条件下での、EACに対する耐性と適切なレベルの破壊靭性のための機械的強度の間の改善された妥協を圧延製品について可能にする、特定の組成範囲を有するAl-Zn-Cu-Mg合金を提供することにあった。
【0025】
本発明の別の目的は、高応力および湿潤環境という条件下での、EACに対する耐性と適切なレベルの破壊靭性のための機械的強度の間の改善された妥協を可能にする、圧延アルミニウム製品の製造方法の提供にあった。
【課題を解決するための手段】
【0026】
これらのおよび他の目的を達成するために、本発明は(重量%で)、
6.9~7.5のZn、
1.8~2.2のMg、
1.8~2.2のCuであって、ここでCu+Mgの合計は3.8~4.2であり、
0.04~0.14のZr、
0~0.1のMn、
0~0.15のTi、
0~0.1のV、
0.15以下のFe、
0.15以下のSi、
各0.05以下で、かつ合計0.15重量%以下の不純物、残分はアルミニウム、
を含むか、または有利には本質的にこれらで構成される、少なくとも50mmの厚みを有する圧延アルミニウム系合金製品に向けられている。
【0027】
本発明は同様に、圧延アルミニウム系合金製品の製造方法において、
a) (重量%で)、
6.9~7.5のZn、
1.8~2.2のMg、
1.8~2.2のCu、ここでCu+Mgの合計は3.8~4.2、
0.04~0.14のZr、
0~0.1のMn、
0~0.15のTi、
0~0.1のV、
0.15以下のFe、
0.15以下のSi、
各0.05以下で、かつ合計0.15重量%以下の不純物、残分はアルミニウム、
を含むか、または有利には本質的にこれらで構成されるインゴットを鋳造するステップと、
b) 該インゴットを均質化するステップと、
c) 前記均質化されたインゴットを、少なくとも50mmの最終厚みを有する圧延製品に熱間圧延するステップと、
d) 該製品を溶体化熱処理し焼入れするステップと、
e) 該製品をストレッチングするステップと、
f) 155℃において、24~70時間、好ましくは28~40時間の等価時効時間t(eq)での人工時効ステップとを含む方法であって、
155℃における該等価時間t(eq)が、
【数1】
なる式によって定義され、式中、Tは焼鈍中の°K単位の瞬時温度であり、Trefは155℃(428°K)に選択された基準温度であり、t(eq)は時間単位で表現されている、方法に向けられている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例の合金についての破損に至る平均EAC日数とST TYSの関係である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
別段の指示のないかぎり、合金の化学的組成に関する全ての表示は、合金の総重量に基づく重量による質量百分率として表現されている。Cu×Mgなる表現は、重量%単位のCu含有量に重量%単位のMgを乗じたものを意味する。合金の呼称は、当業者にとって公知のアルミニウム協会の規則にしたがったものである。調質の定義は、EN 515(1993)で制定されている。
【0030】
別段の記載のないかぎり、静的機械特性すなわち最大抗張力UTS、引張降伏応力TYSおよび破壊時伸びEは、NF EN ISO6892-1(2016)規格にしたがった引張試験によって決定され、部片の採取場所およびそれらの方向は、EN 485(2016)規格内に定義されている。
【0031】
別段の規定のないかぎり、EN12258規格の定義が適用される。
【0032】
破壊靭性K1Cは、ASTM規格E399(2012)にしたがって決定される。
【0033】
高応力および湿潤環境という条件下のEACは、85%の相対湿度下で、70℃の温度で、ST方向のTYSの約85%の負荷を用いて、ASTM G47規格中に記述されているように引張試料の板厚中心部における定負荷の下で試験された。破損に至る平均日数は、各プレートについて少なくとも3つの標本から計算された。
【0034】
本明細書中で使用される記号×は、乗算を意味する。
【0035】
「構造部材」なる用語は、当該技術分野で周知の用語であり、静的および/または動的機械特性が構造性能に関して極めて大きな重要性をもち、構造計算が通常規定または実施されている機械的構造物中で使用される構成要素を意味する。これらは、典型的には、構成要素の破断が、機械的構造物、そのユーザまたは第3者の安全性に重大な危険を及ぼし得る構成要素である。航空機の場合、構造部材には、胴体の部材(例えば胴体外皮)、縦通材、隔壁、円周フレーム、翼構成要素(例えば翼外皮、縦通材または補強材、小骨、桁)、尾部(例えば水平および垂直安定板)、床梁、シートトラックおよび扉が含まれる。
【0036】
本発明の合金は、特に適切に設計された時効処理と組合わせた場合に、高応力および湿潤環境という条件下でEACに対し不感性であり、しかも高強度および高靭性特性を同時に有する製品を得ることを可能にする。
【0037】
充分な強度を得るためには、6.9、好ましくは6.95、さらには7.0、さらに好ましくは7.05という最小Zn含有量が必要とされる。しかしながらZn含有量は、特に靭性および伸びである特性の求められるバランスを得るため、7.5、好ましくは7.40、より好ましくは7.30および優先的には7.25、さらに優先的には7.20を上回るべきではない。
【0038】
充分な強度を得るためには、1.8、好ましくは1.85、さらには1.90という最小Mg含有量が必要とされる。しかしながら、Mg含有量は、特に靭性および伸びである特性の求められるバランスを得るため、2.2、好ましくは2.15、さらに好ましくは2.10を超えるべきではない。
【0039】
充分な強度を得るため、および充分なEAC性能を得るためには、1.8、好ましくは1.85または1.90、さらには1.95という最小Cu含有量が必要とされる。Cu含有量が2.7×Mg-0.5×Znより高く、好ましくは2.7×Mg-0.5×Zn+0.1よりも高いことが、概して有利である。しかしながら、特に焼入れ感受性を回避するため、Cu含有量は、2.2、好ましくは2.15、2.13、2.11さらに好ましくは2.10を超えるべきではない。別の実施形態では、Cu含有量は、2.7×Mg-0.5×Zn+0.3未満、好ましくは2.7×Mg-0.5×Zn+0.25未満、より好ましくは2.7×Mg-0.5×Zn+0.2未満である。この実施形態は、少なくとも90mmの厚みのためのいくつかの事例において極めて有利である。
【0040】
高応力および湿潤環境という条件下でEACに対して低感度の製品を得るため、そして焼入れ感受性を回避するために、Cu+Mgの合計は3.8~4.2、好ましくは3.85~4.15の間で注意深く制御される。
【0041】
任意には、Cu/Mg比は少なくとも0.85に制御される。0.90または好ましくは0.95という最小Cu/Mg比が有利である。一実施形態において、最大Cu/Mg比は1.15、好ましくは1.10である。
【0042】
本発明の合金はさらに、0.04~0.14重量%のジルコニウムを含み、これは典型的に粒度調整のために使用される。Zr含有量は再結晶化を制限する目的で、好ましくは少なくとも約0.07重量%、優先的には約0.09重量%を構成すべきであるが、有利には、鋳造中の問題を削減するために約0.12重量%未満にとどまるべきである。
【0043】
ホウ素または炭素のいずれかと結び付いたチタンは、望まれる場合、鋳造中に鋳放し粒径を制限する目的で0.15重量%まで通常、添加され得る。本発明は典型的には、最高約0.06重量%または約0.05重量%のTiまで対応することができる。本発明の好ましい実施形態において、Ti含有量は、約0.02重量%~約0.06重量%、優先的には約0.03重量%~約0.05重量%である。
【0044】
最高0.1重量%までのマンガンを添加することは可能であるが、優先的には回避され、概して約0.05重量%未満、優先的には約0.04重量%未満、より優先的には約0.03重量%未満に保たれる。
【0045】
最高0.1重量%までのバナジウムを添加することは可能であるが、優先的には回避され、概して、約0.05重量%未満、優先的には約0.04重量%、より優先的には約0.03重量%未満に保たれる。
【0046】
クロムは、優先的には回避され、0.05重量%未満、優先的には約0.04重量%未満、より優先的には約0.03重量%未満に保たれる。
【0047】
当該合金は、より少ない程度で、そして一部の実施形態においては、より低い選好性で他の元素をさらに含有することができる。鉄およびケイ素は典型的に、破壊靭性特性に影響を及ぼす。鉄およびケイ素含有量は概して低く保たれるべきであり、鉄について含有量は、多くとも0.15重量%であり、好ましくは約0.13重量%または優先的に約0.10重量%を超えず、ケイ素について含有量は、好ましくは約0.10重量%または優先的には約0.08重量%を超えない。本発明の一実施形態において、鉄およびケイ素の含有量は0.07重量%以下である。
【0048】
他の元素は、最大含有量が各々0.05重量%で、かつ合計0.15重量%以下、好ましくは各々0.03重量%で、かつ合計0.10重量%以下であるべき不純物である。残分はアルミニウムである。
【0049】
本発明に係る圧延製品を生産するための好適な方法には、(i)本発明に係る合金製のインゴットを鋳造すること、(ii)典型的には5~30時間にわたる約460~約510℃または優先的には約470~約500℃の温度で好ましくは少なくとも1つのステップで、インゴットの均質化を行なうこと、(iii)前記均質化されたインゴットを、少なくとも50mmの最終厚みを有する圧延製品に至るまで、好ましくは約380~約460℃、優先的には約400~約450℃の入口温度で、1つ以上の段階で熱間圧延すること、(iv)典型的には厚みに応じて1~10時間にわたり好ましくは460~約510℃、または優先的には約470~約500℃の温度で溶体化熱処理を行なうこと、(v)優先的には室温の水で焼入れを行なうこと、(vi)好ましくは5%未満、優先的には1~4%の圧縮永久歪で、または制御されたストレッチングにより応力除去を行なうこと、および(vii)155℃において24~70時間、優先的には28~40時間の等価時効時間t(eq)で人工時効処理を行うことが含まれており、ここで155℃における等価時間t(eq)は、
【数2】
なる式によって定義され、式中、Tは焼鈍中の°K単位の瞬時温度であり、Trefは155℃(428°K)に選択された基準温度であり、t(eq)は時間単位で表現されている、方法。
【0050】
本発明は、少なくとも50mmの厚いゲージで特に有用である。好ましい実施形態において、本発明の圧延製品は、本発明に係る合金を含む60~200mmまたは有利には75~150mmの厚みを有するプレートである。このようなゲージのプレートについては、プレートが、原初のプレートのST特性に対応する方向を含めた多数の方向で負荷を受ける可能性のある機械加工部品の中で使用されることが多いことから、板厚方向の特性が極めて重要である。このことは、より薄いプレートまたは押出し型材にはあてはまらず、これらについては、関係する部品は概して主としてその平面内、すなわちLまたはLT方向に負荷を受けている。このような理由から、以下の説明においては、ST特性が強調されている。厚いゲージにおいて改善された特性を探求する場合、2つの自然現象に直面する。第1に、製品形状が厚くなるにつれて、この製品の内部横断面が受ける焼入れ速度は当然低下する。この低下はさらに、特に厚みを横断する内側領域において、より厚い製品形状についての強度および破壊靭性の喪失を結果としてもたらす。当業者はこの現象を「焼入れ感受性」と呼ぶ。第2に、強度と破壊靭性の間には同様に周知の反比例関係が存在し、そのため構成要素部品が増々高くなる負荷向けに設計されるにつれて、その相対的靭性性能は低下し、その逆も成立することになる。これらの理由から、小さめの厚みのために使用される組成は、概して厚いゲージにおいて適用されない。
【0051】
時効処理は、有利には2つのステップで実施され、第1のステップは、3~20時間、好ましくは5~12時間にわたり110~130℃の温度で、第2のステップは、5~90時間にわたり140~170℃の温度、好ましくは20~50時間にわたり150~155℃の温度で行なわれる。
【0052】
所与の等価時効時間については、溶液から大部分の溶質を取ることができることを理由として、比較的低い第2のステップの時効温度が有利である。しかしながら、工業的に許容可能な時効時間を保証するために、選択される時効温度は、過度に低いものであってはならない。したがって、工業的時効時間を保ちながら溶液から大部分の溶質を取ることを可能にするということを理由として、155℃という最大温度が有利である。
【0053】
主として強度と靭性の間の妥協のために選択される、本発明に由来する合金の組成範囲は、高応力および湿潤環境という条件下で予想外に高いEAC性能を有する圧延製品を提供した。
【0054】
したがって、本発明に係る製品は、有利にも以下の特性を有する。
a) ST(板厚)方向の該製品の引張降伏強度の85%の板厚(ST)応力レベルでの高応力、および温度70℃で85%の相対湿度の湿潤環境という条件下での、環境助長割れ(EAC)の後の少なくとも40日、好ましくは80日、さらに一層好ましくは120日、という最短無破損寿命、
b) 板厚中心部においてST方向で測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも467-0.27×tMPa、好ましくは477-0.27×tMPa、さらに一層好ましくは487-0.27×tMPa、という従来の引張降伏強度、
c) 板厚中心部で測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも26-0.01×tMPa√m、好ましくは28-0.01×tMPa√m、さらに一層好ましくは30-0.01×tMPa√m、というS-L方向のK1C靭性。
【0055】
有利には、本発明の製品は同様に以下の特性も有する。
d) 4分の1厚みにおいてL方向で測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも505-0.26×tMPa、好ましくは515-0.26×tMPa、さらに一層好ましくは525-0.26×tMPa、という従来の引張降伏強度、
e) 4分の1厚みにおいて測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも36-0.1×tMpa√m、好ましくは37-0.1×tMpa√m、さらに一層好ましくは38-0.1×tMpa√m、というL-T方向のK1C靭性。
【0056】
Cu含有量が1.95~2.15重量%である一実施形態において、本発明に係る製品は、有利には以下の特性を有する。
a) ST方向の該製品の引張降伏強度の85%の板厚(ST)応力レベルの高応力、および温度70℃で85%の相対湿度の湿潤環境という条件下での少なくとも40日、好ましくは80日、さらに一層好ましくは120日、という環境助長割れ(EAC)の後の最短無破損寿命、
b) 板厚中心部においてST方向で測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも477-0.27×tMpa、好ましくは487-0.27×tMpa、さらに一層好ましくは497-0.27×tMpa、という従来の引張降伏強度、
c) 板厚中心部で測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも28-0.01×tMpa√m、好ましくは30-0.01×tMpa√m、さらに一層好ましくは32-0.01×tpa√m、というS-L方向のK1C靭性。
【0057】
有利には、本発明の製品は以下の特性も有する。
d) 4分の1厚みにおいてL方向で測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも515-0.26×tMPa、好ましくは525-0.26×tMPa、さらに一層好ましくは535-0.26×tMPa、という従来の引張降伏強度、
e) 4分の1厚みにおいて測定した場合の、(mm単位の製品の厚みをtとして)少なくとも42-0.1×tMPa√m、好ましくは43-0.1×tMPa√m、さらに一層好ましくは44-0.1×tMPa√m、というL-T方向のK1C靭性。
【0058】
引張降伏強度および靭性は相反する特性であることから、一部の事例において、これらの特性の好ましいバランスは、一方の特性の有利な特徴と他方の特性のより好ましい特徴とを組合わせることによって達成可能である。
【0059】
有利には、本発明の製品は、少なくとも4.7%、好ましくは少なくとも4.9%、より好ましくは少なくとも5.1%の板厚伸びも有している。
【0060】
好ましくは、前記高応力および湿潤環境という条件下での環境助長割れ後の最短無破損寿命は、板厚(ST)方向において少なくとも50日、より好ましくは少なくとも70日、優先的には少なくとも90日である。
【0061】
一実施形態において、高応力条件には、380MPaという板厚(ST)応力レベルが含まれる。
【0062】
好ましくは、ASTM G44にしたがって中性3.5%NaCl溶液中での交番する浸漬および乾燥サイクルを用いて標本が試験される、ASTM G47により提供されている標準応力腐食割れ(SCC)試験を使用することによって決定される応力腐食割れ耐性は、ASTM G49にしたがった「一定ひずみ」タイプの固定具内の応力張力標本を使用することによって、310MPaの適用負荷で、7xxx合金についての20日基準に合格する。
【0063】
好ましくは、本発明の製品は、実質的に再結晶化されておらず、再結晶化された結晶粒の体積分率は35%未満であった。
【0064】
本発明に係る圧延製品は、有利には、航空機製造のための構造部材として使用されるか、またはこれらの構造部材内に一体化される。
【0065】
有利な実施形態において、本発明に係る製品は、翼小骨、桁およびフレーム内で使用される。本発明の実施形態において、本発明に係る圧延製品は他の圧延製品と溶接されて翼小骨、桁およびフレームを形成する。
【0066】
本発明のこれらのならびに他の態様は、以下の例示的かつ非限定的実施例に関連してより詳細に説明される。
【実施例
【0067】
実施例1
4つのインゴットが鋳造され、そのうち一つは本発明に係る製品(D)であり、3つは参照例であり、組成は以下の通りであった(表1)。
【0068】
【表1】
【0069】
次にインゴットをスカルピングし、473℃(合金A)または479℃(合金B~D)で均質化した。インゴットを、厚み120mm(合金A)、100mm(合金B)または102mm(合金CおよびD)のプレートに熱間圧延した。473℃(合金A)または479℃(合金B~D)のソーク温度で、プレートを溶体化熱処理した。プレートを焼入れし、2.0~2.5%の永久伸びでストレッチングした。
【0070】
プレートを、155℃において17~35時間の合計等価時間となるように、まずは120℃で4時間、次に155℃で14~32時間、という2段階時効に付した。
【0071】
試験対象の全ての試料は、実質的に再結晶化されておらず、再結晶化された結晶粒の体積分率は35%未満であった。
【0072】
試料をLおよびLT方向については4分の1厚みで、ST方向については板厚中心部で機械的に試験して、それらの静的機械特性ならびにそれらの破壊靭性を決定した。引張降伏強度、極限強度および破損時伸びが、表2中に提供されている。
【0073】
【表2】
【0074】
本発明に係る試料は、比較例AおよびBに比べて類似の強度、および参照例Cに比べて高い強度を示す。
【0075】
破壊靭性試験の結果が表3に提供されている。KIC測定のための試験用試料は、全てCT40であった。これらは、L-TおよびT-Lについてはt/4で、S-Lについてはt/2で採取された。
【0076】
【表3】
【0077】
高応力および湿潤環境という条件下でのEACは、ASTM G47に記載されているST方向の引張標本を用いて測定された。試験用応力および環境は、ASTM G47とは異なり、70℃の温度で、85%の相対湿度下において、t/2でST方向のTYSの約85%の負荷を使用した。破損に至るまでの平均日数を、各プレートについて3つの標本から計算した。
【0078】
結果は表4に提供されている。
【0079】
【表4】
【0080】
板厚方向での合金D(本発明)のプレートの、高応力および湿潤環境という条件下におけるEACに対する耐性は意外なほどに高く、本質的に同じTYS値について参照例と比べて少なくとも約120日改善した。本発明の合金Dは、高応力および湿潤環境という条件下において、公知の先行技術に比べて傑出したEAC性能を示した。本発明に係るプレートが、先行技術の試料と比較したときに、同等の引張強度および破壊靭性を同時に伴って、より高いEAC耐性レベルを示すということは、極めて印象深く予想外であった。
【0081】
応力腐食割れ耐性は、ASTM G44にしたがって中性3.5%NaCl溶液中での交番する浸漬および乾燥サイクルを用いて標本が試験される、ASTM G47により提供されている標準応力腐食割れ(SCC)試験を使用することによって決定される。155℃で30時間の合計等価時効時間で時効された本発明の製品は、ASTM G49にしたがった「一定ひずみ」タイプの固定具内の応力張力標本を使用することによって、310MPaの適用負荷で、7xxx合金についての20日基準に合格した。
【0082】
実施例2
以下の組成(表5)を有する本発明に係る3つのインゴットを鋳造した。
【0083】
【表5】
【0084】
次にインゴットをスカルピングし、479℃で均質化した。該インゴットを、厚み76mmおよび152mm(合金E)、102mmおよび200mm(合金F)または127mm(合金G)のプレートに熱間圧延した。479℃のソーク温度で、該プレートを溶体化熱処理した。該プレートを焼入れし、2.0~2.5%の永久伸びでストレッチングさせた。
【0085】
プレートを、155℃において22~35時間の合計等価時間となるように、まずは120℃で4時間、次に155℃で14~32時間、という2段階時効に付した。
【0086】
試験対象の全試料は、実質的に再結晶化されておらず、再結晶化された結晶粒の体積分率が35%未満であった。
【0087】
試料をLおよびLT方向については4分の1厚みで、ST方向については板厚中心部で機械的に試験して、それらの静的機械特性ならびにそれらの破壊靭性を決定した。引張降伏強度、極限強度および破断時伸びが、表6中に提供されている。
【0088】
【表6】
【0089】
破壊靭性試験の結果が表7に提供されている。K1C測定のための試験用試料は、CT30であった76mmの場合を除き、全ての厚みについてCT40であった。これらは、L-TおよびT-Lについてはt/4で、S-Lについてはt/2で採取された。
【0090】
【表7】
【0091】
これらの実施例によって例示された実施形態においては、実施例1の合金Dに比較して、同等の靭性で強度が増大している。
【0092】
本明細書中で言及された全ての文書は、全体が参照により特定的に本明細書に組込まれている。
【0093】
本明細書中および以下の特許請求の範囲中で使用される「the」、「a」および「an」などの冠詞は、単数または複数を含意することができる。
【0094】
本明細書中および以下の特許請求の範囲中では、数値が列挙されるかぎりにおいて、このような値は、正確な値、および記載された値からの非実質的な変化になると思われるこの値に近い複数の値を意味するように意図されている。

図1