(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】アンカットレンズの玉型加工(Formrandung)工程又は固定工程における位置誤差の補整方法及びそのための装置
(51)【国際特許分類】
B24B 9/14 20060101AFI20230329BHJP
B24B 49/02 20060101ALI20230329BHJP
B24B 49/03 20060101ALI20230329BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
B24B9/14 B
B24B9/14 E
B24B49/02 Z
B24B49/03 Z
B23Q17/22 A
(21)【出願番号】P 2020551308
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2019058019
(87)【国際公開番号】W WO2019185871
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】102018204948.3
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503279013
【氏名又は名称】ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】ドゥム, マーティン
(72)【発明者】
【氏名】グラウ, マークス
(72)【発明者】
【氏名】キール, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】メルケルバッハ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】オグット, アーメト
(72)【発明者】
【氏名】ラーン, カール
(72)【発明者】
【氏名】レイク, ジャスミン
(72)【発明者】
【氏名】セゴー, ペーター
(72)【発明者】
【氏名】アーバン, アルネ
(72)【発明者】
【氏名】ワイルド, ホルガ―
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/114781(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0155787(US,A1)
【文献】特開2015-125300(JP,A)
【文献】特開2011-161619(JP,A)
【文献】特開2004-122238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 9/14
B24B 49/02
B24B 49/03
B23Q 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- アンカットレンズの固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生を暗示する芯ずれパラメータの算出、並びに
- 前記算出された芯ずれパラメータを利用した、アンカットレンズの前記位置誤差が補整及び/又は考慮されるような制御情報の変更
を含
み、
前記芯ずれパラメータを算出するステップを前記玉型加工工程よりも前に実行し、前記芯ずれパラメータを利用して変更された前記制御情報を前記玉型加工工程で使用する、アンカットレンズの玉型加工工程又は固定工程における位置誤差の補整方法。
【請求項2】
アンカットレンズの位置誤差の発生が、前記固定工程及び/又は前記後続の玉型加工工程に起因する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アンカットレンズの前記固定工程中の位置誤差の発生が、アンカットレンズの前記固定工程中及び/又は前記後続の玉型加工工程中のシフト及び/又は回転を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記芯ずれパラメータの算出が、所定の芯ずれパラメータの読込みを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記制御情報の変更が、アンカットレンズ上の所定の固定点の局所的変更を含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記制御情報の変更が、アンカットレンズの前記固定工程中及び/又は前記後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生が最小限に抑えられる、代わりの固定点でアンカットレンズが固定されるように所定の固定点が変更されるような、アンカットレンズ上の所定の固定点の局所的変更を含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記制御情報の変更が、前記後続の玉型加工工程用の適切に改変された芯出しデータ及び/又は形状データの読込み及び/又は特定を含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記芯ずれパラメータの算出が、前記固定工程中及び/又は前記後続の玉型加工工程中のアンカットレンズの位置誤差の触覚測定に基づいて行われる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記芯ずれパラメータの算出が、前記固定工程中及び/又は前記後続の玉型加工工程中のアンカットレンズ上の少なくとも1つの彫刻の位置測定を利用した位置誤差の測定に基づいて行われる、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記制御情報の変更が、前記本来の固定工程中及び/又は前記後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生が最小限に抑えられるか又は阻止さえもされるようにアンカットレンズの追加固定をもたらす、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
- 芯ずれパラメータを算出するための算出手段、
- 算出された、アンカットレンズの固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生を暗示する芯ずれパラメータに基づいて制御情報を変更するための制御手段、
- アンカットレンズの位置誤差が補整又は考慮されるようにそれに基づいて固定工程及び/又は後続の玉型加工工程が行われる制御情報を転送するための制御ユニット、
を含
み、
前記算出手段は前記玉型加工工程前に前記芯ずれパラメータを算出し、該芯ずれパラメータを利用して変更された前記制御情報が前記玉型加工工程で使用される、アンカットレンズの玉型加工工程用の、アンカットレンズの位置誤差を補整するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカットレンズの玉型加工工程又は固定工程における位置誤差の補整方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術から、アンカットレンズを玉型加工するために、アンカットレンズをブロッキング又はクランプし、(フライス加工及び/又は研磨)工具を利用してフレーム形状に研磨することが公知である。この工程は、研磨(Einschleifen)、玉型加工又は縁摺り加工(Randbearbeitung)とも呼ばれる。
【0003】
加工には、眼鏡レンズをブロッキングなしにクランプするか、又は1つ若しくは複数のブロックピース及び/若しくは貼付けパッドを利用して固定してもよい。縁摺り加工の際には、レンズをフレーム形状に研磨又はフライス加工するためのフライス加工工具又は研磨工具を使用する。工具の制御には、玉型加工工程用の座標及び形状を設定する芯出しデータ(Zentrierdaten)及び形状データを使用する。
【0004】
その際、例えば、ブロッキング又はクランプの最中のレンズの傾きといった幾何学的影響に起因し、研磨工程中にずれが起こりかねない。
【0005】
しかしながら、特に平滑なレンズ面に対しては、レンズがその把持位置又はブロック位置からずれ得るため、その方法は使用できない。レンズの不正確な位置ゆえ、後続ステップ、例えば玉型加工工程においてレンズが不正確に縁摺り加工されかねない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、レンズを望みの形状に玉型加工できるよう、その位置誤差を考慮又は補整するために適切な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本課題は、主要請求項による方法及び独立請求項による装置を利用して解決される。
【0008】
以下、本発明を(図面に関連付けて)詳細に示す。その際、それぞれ個別に又は組み合わせて使用可能な異なる態様が記載されると注釈する。つまり、純粋な代案として明示されない限り、どの態様も、本発明の異なる実施形態と共に使用可能である。
【0009】
さらに、以下では、便宜上、普通は常に1つの実体にのみ関連付ける。しかしながら、明示されない限り、本発明はそれぞれ、該当する実体の複数を含むことも可能である。その点では、用語「1つ」の使用は、単純な一実施形態では少なくとも1つの実体が使用されるということの指摘とのみ理解される。
【0010】
以下、方法が記載される場合、その関連によって明らかに異なるものが生じない限りは方法の個々のステップは任意の順序で構成可能及び/又は組み合わせ可能である。さらに方法は、明らかに異なる指定がない限り、互いに組み合わせ可能である。
【0011】
数値による指定は、通常、厳密な値と理解されるのではなく、+/-1%から+/-10%までの公差も含む。
【0012】
標準、仕様又は規格への参照は、本出願の時点で有効である、及び/又は優先権が主張される限りは優先権の主張の基礎となる出願の時点で有効であった標準、仕様又は規格への参照と理解される。しかしながら、それは、後続又は代わりとなる標準、仕様又は規格に対する適用性の一般的な除外とは理解されない。
【0013】
隣接とは、以下、直接的な隣接関係を明示的に含むが、それに限られるものではない。中間とは、以下、中間にある部品が周囲の部品に対して直接的な近隣関係を有する位置を明示的に含む。
【0014】
その際、アンカットレンズの玉型加工工程又は固定工程における位置誤差の補整方法は、例示的に、芯ずれ(Zentrierabweichung)パラメータの算出ステップを有する。その際、芯ずれパラメータは、アンカットレンズの((機械的)固定工程中の)移動を暗示する。そのような移動は、位置誤差をもたらす。該(機械的)固定工程は、算出された芯ずれパラメータを考慮しながら、アンカットレンズの移動が補整されるように行ってもよい。機械的固定工程の終了時に、アンカットレンズが、後続の(研磨)工程中にアンカットレンズのさらなる移動が阻止されるように固定されていてもよい。例えば、さらなる1ステップにおいて制御情報を変更してもよい。該制御情報の変更は、算出された芯ずれパラメータを考慮しながら、アンカットレンズの位置誤差が補整又は考慮されるように行ってもよい。
【0015】
それは、高度な平滑面においても低コストかつ迅速にレンズの正確な仕上げ加工、例えば、研磨/玉型加工が可能であるという利点を有する。
【0016】
アンカットレンズの研磨工程/玉型加工工程用の、アンカットレンズの固定及び/又は位置誤差の補整に適切な装置は、例示的に、(芯)ずれパラメータを算出するための算出手段を有する。さらに、本装置は、後続の(研磨)工程中にアンカットレンズがさらに移動するのを阻止できるようにアンカットレンズを固定するための固定手段を有してもよい。さらに、本装置は、算出された(芯)ずれパラメータに基づいて制御情報を変更するための制御手段を有してもよく、ただし、該(芯)ずれパラメータは、アンカットレンズの固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生を暗示する。さらに、本装置は、算出された芯ずれパラメータに基づいて、該固定手段を利用してアンカットレンズの機械的固定工程を開始させる固定機構を有してもよく、ただし、該芯ずれパラメータは、アンカットレンズの該機械的固定工程中の移動を暗示し、かつ該機械的固定工程は、アンカットレンズの移動を補整するために、該算出された芯ずれパラメータを考慮しながら行われる。さらに、本装置は、アンカットレンズの位置誤差が補整又は考慮されるようにそれに基づいて固定工程及び/又は後続の玉型加工工程が行われ得る制御情報を転送するための制御ユニットを有してもよい。
【0017】
それは、高度な平滑面においても低コストかつ迅速にレンズの正確な研磨/玉型加工が可能であるという利点を有する。
【0018】
例示的な第1の形態によると、本方法はさらに、アンカットレンズの機械的固定工程中の移動、特に機械的固定工程の最後での移動が、機械的固定工程に起因する。
【0019】
この形態は、計算の手間がより少なくてすみ得るという利点を有する。なぜなら、チャックによるレンズの物理的接触時にはじめて、又はその直前にレンズの移動が始まるという事情が利用されるからである。
【0020】
例示的な第1の形態によると、本方法はさらに、アンカットレンズの位置誤差の発生が、固定工程及び/又は後続の玉型加工工程に起因する。
【0021】
この形態は、算出の手間がより少なくてすみ得て、かつ発生する位置誤差が完全に補整又は考慮され得るという利点を有する。なぜなら、チャック及び/又は形状加工工具とレンズの物理的接触時にのみ、レンズの位置誤差が生じるという事情が利用されるからである。
【0022】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、アンカットレンズの機械的固定工程中の移動が、アンカットレンズのシフト及び/又は回転(Verdrehen)を含む。
【0023】
この形態は、計算の手間がより少なくてすみ得るという利点を有する。なぜなら、レンズがトレイの上に載っているためレンズの移動の自由度が少ないという事情が利用されるからである。
【0024】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、アンカットレンズの位置誤差の発生が、アンカットレンズの固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中のシフト及び/又は回転を含む。
【0025】
この形態は、算出の手間がより少なくてすみ得るという利点を有する。なぜなら、該当する(芯)ずれが簡単に特定できるという事情が利用されるからである。
【0026】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、アンカットレンズの機械的固定工程中の移動の補整が、機械的固定工程の終了時のアンカットレンズ上の所定の固定点の局所的変更を含む。
【0027】
この形態は、レンズの新しい把持点の算出により、つまり局所的にレンズ上の本来の固定点に相当する、レンズ移動後のレンズの固定点の算出により、従来の芯出しデータを引き続き使用できるため計算の手間がさらに最小限に抑えられるという利点を有する。
【0028】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、芯ずれパラメータの算出が、所定の芯ずれパラメータの読込みを含む。
【0029】
この形態は、芯ずれパラメータの算出をわずかな手間で行えるという利点を有する。
【0030】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、アンカットレンズの機械的固定工程中の移動の補整が、アンカットレンズの機械的固定工程中の移動が最小限に抑えられる、代わりの固定点でアンカットレンズが固定されるように所定の固定点が変更されるような、機械的固定工程の開始時のアンカットレンズ上の所定の固定点の局所的変更を含む。
【0031】
この形態は、従来の芯出しデータを引き続き使用できるため計算の手間がさらに最小限に抑えられるという利点を有する。
【0032】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、制御情報の変更が、アンカットレンズの固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生が最小限に抑えられる、代わりの固定点でアンカットレンズが固定されるように所定の固定点が変更されるような、アンカットレンズ上の所定の固定点の局所的変更を含む。
【0033】
この形態は、後続の玉型加工工程用の本来の芯出しデータ及び/又は形状データを引き続き使用できるため算出の手間が最小限に抑えられるという利点を有する。
【0034】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、芯ずれパラメータの算出が、所定の芯ずれパラメータの読込みを含む。
【0035】
この形態は、固定工程を特に迅速かつ固定工程中のわずかな計算の手間で行えるという利点を有する。
【0036】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、制御情報の変更が、後続の玉型加工工程用の適切に改変された芯出しデータ及び/又は形状データの読込み及び/又は特定を含む。
【0037】
この形態は、制御情報の変更をわずかな計算の手間で行えるという利点を有する。
【0038】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、芯ずれパラメータの算出が、後続の研磨工程用の適切に改変された芯出しデータの読込み及び/又は特定を含む。
【0039】
この形態は、芯出しデータが新たに算出されるため、例えば完全には把握できない移動において柔軟性の上昇を達成でき、さらに正確に研磨できるという利点を有する。
【0040】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、芯ずれパラメータの算出が、アンカットレンズの固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差の触覚測定に基づいて行われる。
【0041】
この形態は、固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中に生じる位置誤差を個別かつ正確に補整又は考慮できるという利点を有する。
【0042】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、芯ずれパラメータの算出が、アンカットレンズの機械的固定工程中の移動に関する触覚測定に基づいて行われる。
【0043】
この形態は、固定工程中の移動を個別かつ正確に行えるという利点を有する。
【0044】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、芯ずれパラメータの算出が、固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中のアンカットレンズ上の少なくとも1つの彫刻(Gravur)の位置測定を利用した位置誤差の測定に基づいて行われる。
【0045】
この形態は、固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中に生じる位置誤差を個別かつ正確に補整又は考慮できるという利点を有する。
【0046】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、芯ずれパラメータの算出が、機械的固定工程中のアンカットレンズ上の少なくとも1つの彫刻の移動の測定に基づいて行われる。
【0047】
この形態は、固定工程中の移動を個別かつ正確に行えるという利点を有する。
【0048】
例示的なさらなる一形態によると、本方法はさらに、制御情報の変更が、本来の固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生が最小限に抑えられるか又は阻止さえもされるようにアンカットレンズの追加固定を含む。
【0049】
この形態は、固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差を阻止できるため、レンズをさらに正確に玉型加工できるという利点を有する。
【0050】
その際、アンカットレンズは従来どおりコーティング可能である。いくつかのいわゆるTopCoatの場合、その際、非常に平滑な表面が生じる。例えば、一定の層厚を有するSuperTopCoatは、9nmであり得る。それにより、再現可能かつ特に平滑な表面が得られる。次いで、そのようなレンズを、従来市販入手可能なブロックレス自動研磨機を利用してクランプ、つまり固定すると、平滑なレンズ面ゆえ、把持位置からのレンズのシフトが起こりかねない。レンズを把持/クランプするためには、自動研磨機中で、該レンズを一定の向きで水平調整しトレイ上に置く。真空吸引器を利用してレンズを上側から吸引してトレイから高く持ち上げる。機械的固定に向けて、いわゆるチャックがレンズ下側から近づくため、レンズは、把持位置において垂直方向に押しつけられ、理想的にはそれによって固定される。レンズの光学効果の存在ゆえ、及び/又は光学効果の、存在する偏芯(Dezentration)との相互作用ゆえ、及び一般的にレンズの湾曲ゆえ、把持点にはくさび、幾何学的プリズムが存在する。押しつけ中にくさびに対して(直角に)作用する力により、レンズ、特に(非常に)平滑な表面を有するレンズは、(例えば水平面において)把持位置から押し出されることがある。押しつけ中にくさびに対して作用する力は、くさびの側面に対して直角、ほぼ直角、又は非直角であり得る。その結果生じる力が、レンズを把持位置から押し出し得る。レンズが押し込まれる方向は、例えば水平面上であり得るが、それに限定はされない。その際、そのシフトの程度は、把持点に存在するプリズムの強度に依存し、さらにはレンズの種類、例えば、レンズのプラス作用又はマイナス作用、接触圧、レンズの材料特性、例えば機械的硬度、レンズの屈折率、レンズの表面特性及び/又は自動研磨機のレンズホルダの特性に依存し得る。
【0051】
把持点に存在するプリズムは、成分ごとに、例えば、プリズムのx方向又はy方向での強度として、P_hor及びP_verによって記載できる(
図1cを参照)。研磨工程/玉型加工工程の際に生じる、x方向及びy方向での設定芯出しデータからのずれ、及び場合によっては軸位置からのずれは、まとめて芯ずれとも呼ばれ、同じく別々に記載及び測定できる。次いで、生じる芯ずれを補整するためには、例えば、第1ステップにおいて把持点でのプリズムを計算してもよい。それは、計算ツールを利用して行うことができる。その際、チャックの広がり、つまりその広がりを介してプリズムを計算する、レンズの把持点でのチャックの接触面積を考慮してもよい。次のステップでは、研磨工程/玉型加工工程の際に生じる、例えば、シフト及び/又は回転に関する芯ずれを、様々な(任意の)プリズムに対して体系的に測定(例えば、計算)してもよい。それは、アンカットレンズを適切な光学効果で玉型加工し、かつ芯ずれの測定から適切な結論を引き出すことによって行われ得る。これにより、レンズの固定時及び/又は後続の玉型加工工程時に生じる位置誤差、例えば(把持点での)レンズの望ましくない移動、つまりシフト及び/又は回転を測定できる。芯ずれは、自動研磨機の工程パラメータが適切であればP_hor及びP_verに依存する。したがって、この関連について十分正確に分かっていれば、制御情報を基準に把持位置を調整/変更できるため、固定時及び/又は後続の玉型加工工程時に見込まれる(例えば、移動に起因する)位置誤差を、相応に補整又は考慮することができる。さらには、実際の位置誤差、つまり実際に生じるレンズの移動を、適切な方法により測定できるため、制御情報を個々のレンズごとに変更できることになり、位置誤差の補整又は考慮の精度が改善され得る。制御情報は、例えば、玉型加工工程用に研磨機に転送され、かつ例えば、縁摺り加工に関する芯出し及び/又は形状を記載する芯出しデータ及び/又は形状データであり得る。さらに、制御情報は、例えば、レンズがそこで固定される把持位置であり得る。それゆえ、前記のように、制御情報の調整により、固定工程中及び/又は玉型加工工程中のレンズの芯ずれを適切に補整又は考慮できる。この方法により、起こり得るレンズの傾きも補整可能である。それゆえ、固定工程中に実際に生じるレンズの移動に応じて、把持位置を補整するシフト及び/又は回転を行うことができる。
【0052】
この方法により、レンズの傾きを補整することも可能である。
【0053】
把持点でのプリズムは任意の表面幾何構造に関して計算可能であるため、この方法は、相応に、レンズの任意の表面幾何構造に関しても使用できる。
【0054】
その結果、研磨不良、例えば、許容公差範囲外の芯ずれ、例えば、x方向及び/若しくはy方向での芯出しデータに関する偏差、並びに/又は軸位置の回転(軸回転としても公知)に関する不良品率が改善され得るため、費用を節約でき、納期を短縮できる。
【0055】
レンズの固定工程中の位置誤差、例えば移動の補整又は考慮は、レンズ移動を最小限に抑えるか又は阻止さえもするためにそこではプリズムが十分に小さい、代わりの把持点を算出することによっても行われ得る。その場合、玉型加工工程用に、無変更の制御情報を使用できる。
【0056】
レンズの固定工程中の位置誤差の補整又は考慮は、レンズが本来使用されるべき把持位置へとずれ込む又は押し込まれるように選択されている、代わりの把持点を算出することによっても行われ得る。その場合、玉型加工工程用に、無変更の制御情報を使用できる。
【0057】
さらに、レンズの固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差、例えば移動を観察/測定するため、かつ例えば制御データ(又は芯出しデータ)をその移動/位置誤差に応じて調整するために、触覚測定を使用することが可能であるため、レンズは引き続き正確に又はより精密に研磨/玉型加工され得ることになる。
【0058】
さらには、光学測定を利用して、例えば、レンズメータを利用して、又はレンズ上に施された不可視彫刻(Funktionsgravur)を利用して位置誤差(例えば移動)の測定を行い得る。
【0059】
レンズの固定工程中の位置誤差の補整又は考慮は、例えば機械的な追加仮固定が、固定工程中及び/又は後続の玉型加工工程中の位置誤差の発生を最小限に抑えるか又は阻止さえもすることによっても行い得る。その場合、玉型加工工程用に、無変更の制御情報を使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図2a】アンカットレンズの玉型加工工程用の、位置誤差を考慮していない無変更の制御情報を示す。
【
図2b】アンカットレンズの玉型加工工程用の、位置誤差を考慮した変更済みの制御情報を示す。
【
図3a】位置誤差のない水平方向芯ずれに関する測定結果を示す。
【
図3b】考慮した場合の水平方向芯ずれに関する測定結果を示す。
【
図4a】位置誤差のない垂直方向芯ずれに関する測定結果を示す。
【
図4b】考慮した場合の垂直方向芯ずれに関する測定結果を示す。
【
図5】2つの代表的な試験に関する良品/不良品率を模範的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1a~
図1cでは、芯出し補正に関する図解が見て取れる。その際、
図1a及び
図1bには、アンカットレンズを円形輪郭(実線)として示す。望みの玉型加工済みレンズは、その輪郭に関して、相応の白色で示された部分として表す。次いで、設定芯出し点から補正されていない芯出し点へのシフトとして示される位置変化が起きると、アンカットレンズが、破線塗りつぶし円形輪郭として示される芯ずれ位置へとずれる。つまり、そこで玉型加工工程が行われると、玉型加工されたレンズは、図示される大きなずれにより、使用不能となるであろう。それに対抗するために、
図1bに示されるように、芯出し点又は芯出しデータが補正されると、位置変化にもかかわらずアンカットレンズは正確に玉型加工できることになる。
【0062】
図2a及び
図2bからは制御情報の変更が見て取れる。
【0063】
図2aには、まずアンカットレンズの玉型加工工程用の、位置誤差を考慮していない無変更の制御情報を示す。その際、アンカットレンズ1及び同一基準系2上の制御情報3(この例では玉型加工工程用の芯出し点及び形状)を示す。
【0064】
アンカットレンズの固定工程中及び/又はアンカットレンズの後続の玉型加工工程中の位置誤差に基づき、ここでは位置誤差を伴うアンカットレンズ5により示される、設定位置に対するレンズのシフト4が起こり得る。芯ずれパラメータの算出及び制御情報の変更を行わないと、制御情報は引き続き、シフトされていないレンズ1の基準系2を基準とするため、位置誤差が補整されない。
【0065】
この例では、玉型加工の際に本来の制御情報3(つまり本来の基準系2に対する芯出し点及び形状)が使用されるため、シフトされたレンズに対して、位置誤差5に由来する不正確な研磨結果形状3(レンズ上の誤った芯出し点位置及び形状)が得られる。
【0066】
図2bには、アンカットレンズの玉型加工工程用の、位置誤差を考慮した変更済みの制御情報を示す。その際、再びアンカットレンズ1及び同一(x,y)基準系2上の制御情報3(この例では玉型加工工程用の芯出し点(x,y)及び形状(x,y))を示す。
【0067】
アンカットレンズの固定工程中及び/又はアンカットレンズの後続の玉型加工工程中の位置誤差に基づき、ここでは位置誤差を伴うアンカットレンズ5により示される、設定位置に対するレンズのシフト4が起こり得る。
【0068】
前記のように、芯ずれパラメータの算出によって制御情報が変更可能であるため、アンカットレンズの位置誤差が補整又は考慮され得ることになる。
【0069】
この例では、芯ずれパラメータ8が、(x,y)基準系上のアンカットレンズのシフト4である。制御情報の変更は、この例では、芯出し点の平行移動(x→x´,y→y´)8及び対応する形状の平行移動(x→x´,y→y´)を含む。変更された制御情報6は、本来の(x,y)基準系2に対してシフトされている、又はシフトされた(x´,y´)基準系7において不動である。
【0070】
この例では、玉型加工工程用の変更済み制御情報の使用によりシフトが補整されるため、シフトされたレンズに対して、位置誤差5にもかかわらず正確な研磨結果形状6(レンズ上の正確な芯出し点位置及び形状)が得られる。
【0071】
この例では、玉型加工工程用の変更済み制御情報の使用によりシフトが補整されるため、シフトされたレンズに対して、位置誤差5にもかかわらず正確な研磨結果形状6(レンズ上の正確な芯出し点位置及び形状)が得られる。
【0072】
図3Aには、位置誤差のない水平方向芯ずれに関する測定結果を示し、
図3Bには、考慮した場合の水平方向芯ずれに関する測定結果を示す。その際、アンカットレンズに対する玉型加工後の芯ずれを把持点でのプリズムに依存して示す。その芯ずれが許容限界外にあるレンズは不良品と見なされる。
図3Aでは、
図2aについて記載したように位置誤差を考慮しなかった。
図3Bでは、
図2bについて記載したように位置誤差を考慮した。不良品率は、位置誤差の考慮により、明らかに低くなる(この場合、両方の実験についてのx偏差に関して具体的には全体で0%)。
【0073】
図4Aには、位置誤差のない垂直方向芯ずれに関する測定結果を示し、
図3Bには、考慮した場合の垂直方向芯ずれに関する測定結果を示す。その際、アンカットレンズに対する玉型加工後の芯ずれを把持点でのプリズムに依存して示す。その芯ずれが許容限界外にあるレンズは不良品と見なされる。
図4Aでは、
図2aについて記載したように位置誤差を考慮しなかった。
図4Bでは、
図2bについて記載したように位置誤差を考慮した。不良品率は、位置誤差の考慮により、明らかに低くなる(この場合、両方の実験についてのy偏差に関して具体的には全体で2.7%)。
【0074】
図5には、2つの代表的な試験に関する良品/不良品率を模範的に示す。両方の試験に対して、アンカットレンズを比較可能な効果により玉型加工した。試験A(
図5左側)では、
図2aについて記載したように位置誤差を考慮しなかった。高い不良品率(27%)が存在する。試験B(
図5右側)では、
図2bで記載したように位置誤差を考慮した。不良品率は明らかに低くなる(2%)。