(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】微細繊維状セルロース分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20230329BHJP
D21H 11/20 20060101ALI20230329BHJP
D21B 1/30 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H11/20
D21B1/30
(21)【出願番号】P 2020556684
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2019038677
(87)【国際公開番号】W WO2020095577
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2018209333
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隼人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 芽衣
(72)【発明者】
【氏名】山田 喜威
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515170(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024876(WO,A1)
【文献】特開2018-090738(JP,A)
【文献】特開2000-354749(JP,A)
【文献】特開2015-134873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00-11/22
D21B 1/30
B01F 5/00
C08B 15/04
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分濃度1wt%以上の微細繊維状セルロース分散体を、希釈溶媒とともに撹拌機で予備分散する工程と、
前記予備分散する工程で得られた混合物を、インライン静止型流体混合装置を通過させることにより本分散する工程と
を含む、希釈された微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
【請求項2】
前記インライン静止型流体混合装置は、管体を有し、前記管体内の上流側に乱流撹拌を起こすための交差する少なくとも2枚の板を設けることを特徴とする請求項1に記載の微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも2枚の板の下流側の前記管体内周壁に突起状物を複数設けることを特徴とする請求項1または2に記載の微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
【請求項4】
前記インライン静止型流体混合装置に対して、前記混合物を、流速2m/秒以上で通過させる請求項1~3の何れか一項に記載の微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希釈された微細繊維状セルロース分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース(以下「MFC」という場合がある)及びセルロースナノファイバー(以下「CNF」という場合がある)を包含する。微細繊維状セルロースは、約1nm~数10μm程度の繊維径の微細繊維であり、強度や剛性を高める機能を有するため、補強用途で用いられている。
【0003】
微細繊維状セルロースは、通常、水に分散している状態で得られ、固形分濃度が非常に低い。そのため、微細繊維状セルロースの水分散体をそのまま輸送する際には、大量の水を運ぶこととなり輸送に係る費用が高いという問題がある。そのため、乾燥品とする技術が開発されているが、微細繊維状セルロースは、一旦乾燥させると、高回転数かつ長時間の撹拌により分散処理を行わない限りは、微細繊維状セルロースとして再分散させることが難しかった(特許文献1等)。また、乾燥品とするために熱を加えると、変色してしまうという問題もあった。そのため、乾燥品とせず、高固形分濃度化して輸送することが行われている。
【0004】
しかし、高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体は、粘度が高く固いゲル状であるため、そのまま補強したい材料に対して添加・混合した場合には、当該材料に対して微細繊維状セルロースが均一に分散されず、混合して得られた組成物は、強度等の向上が十分ではなかった。また、高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体を、補強したい材料に対して均一に分散させる目的で、分散体の粘度を下げて柔らかいゲル状とするために従来のアジテータ方式の撹拌装置を用いて希釈すると、均一に希釈ができずゲル粒が残ってしまう。したがって、この方法で希釈された微細繊維状セルロース分散体を、補強したい材料に対して添加・混合した場合には、当該材料に対して微細繊維状セルロースを均一に分散させることが困難であった。また、高剪断力を付与することが可能なホモジナイザーを用いて高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体を希釈する場合には、ゲル粒が残らず均一な希釈が可能であったが、剪断力により微細繊維状セルロースの繊維長が短くなる問題があった。そのため、この方法で希釈された微細繊維状セルロース分散体は、強度や剛性を高める機能が損なわれ、補強効果に劣るものであった。
【0005】
よって、高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体に対して、繊維長の短縮を引き起こさないように希釈を行い、均一に希釈された微細繊維状セルロース分散体を製造する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体に対して、繊維長の短縮を引き起こさないように希釈を行い、均一に希釈された微細繊維状セルロース分散体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の混合装置を用いて分散させることが極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下を提供する。
(1) 固形分濃度1wt%以上の微細繊維状セルロース分散体を、希釈溶媒とともに撹拌機で予備分散する工程と、前記予備分散する工程で得られた混合物を、インライン静止型流体混合装置を通過させることにより本分散する工程とを含む、希釈された微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
(2) 前記インライン静止型流体混合装置は、管体を有し、前記管体内の上流側に乱流撹拌を起こすための交差する少なくとも2枚の板を設けることを特徴とする(1)に記載の微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
(3) 前記少なくとも2枚の板の下流側の前記管体内周壁に突起状物を複数設けることを特徴とする(1)または(2)に記載の微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
(4) 前記インライン静止型流体混合装置に対して、前記混合物を、流速2m/秒以上で通過させる(1)~(3)の何れかに記載の微細繊維状セルロース分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体を、繊維長の短縮を引き起こさないように希釈を行い、均一に希釈された微細繊維状セルロース分散体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の製造方法に用いることができるOHRミキサーの断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0013】
本発明は、希釈された微細繊維状セルロース分散体の製造方法であって、固形分濃度1wt%以上の微細繊維状セルロース分散体を、希釈溶媒とともに撹拌機で予備分散する工程と、前記予備分散する工程で得られた混合物を、インライン静止型流体混合装置を通過させることにより本分散する工程とを含むものである。
【0014】
(予備分散する工程)
本発明の予備分散する工程においては、固形分濃度1wt%以上の微細繊維状セルロース分散体を、希釈溶媒とともに撹拌機で予備分散する。予備分散する工程を設けることにより、本分散する工程におけるインライン静止型流体混合装置の配管内でのサンプルの詰まりを防止することができる。
【0015】
(微細繊維状セルロース)
本発明で用いる、微細繊維状セルロースは、セルロースを原料とする微細繊維である。微細繊維状セルロースの平均繊維径は、特に限定されないが、1nm~10μm程度である。微細繊維状セルロースの平均繊維径および平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長を平均することによって得ることができる。微細繊維状セルロースは、セルロースを解繊することによって製造することができる。
【0016】
本発明に用いる微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0017】
セルロース原料は、セルロースを含んでいればよく、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、晒クラフトパルプ(BKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。セルロース原料としては、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0018】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0019】
セルロースは、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性を行うことが可能である。本発明においては、解繊の進行を促進するという観点から、化学変性して得られたセルロース原料(化学変性セルロース)を解繊して製造された化学変性微細繊維状セルロースを用いることが好ましい。
【0020】
化学変性としては、例えば、酸化(カルボキシル化)、カルボキシメチル化、カチオン化、エステル化等が挙げられる。中でも、酸化(カルボキシル化)、カルボキシメチル化がより好ましい。
【0021】
(化学変性)
(酸化)
本発明において、酸化(カルボキシル化)したセルロースを解繊して得られた酸化微細繊維状セルロースを用いる場合、酸化セルロース(カルボキシル化セルロースとも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法で酸化(カルボキシル化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、酸化の際には、化学変性微細繊維状セルロースの絶乾重量に対して、カルボキシル基の量が0.6~2.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
【0022】
酸化(カルボキシル化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO-)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0023】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
【0024】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度が好ましい。
【0025】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0026】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の使用量としては、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0027】
セルロースの酸化は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱容易性や、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0028】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
【0029】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0030】
酸化(カルボキシル化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100重量部とした際に、0.1~30重量部であることが好ましく、5~30重量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0031】
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。
【0032】
(カルボキシメチル化)
本発明において、カルボキシメチル化したセルロースを解繊して得られたカルボキシメチル化微細繊維状セルロース用いる場合、カルボキシメチル化したセルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01~0.50となるものが好ましい。そのようなカルボキシメチル化したセルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。セルロースを発底原料にし、溶媒として3~20重量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用する。なお、低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60~95重量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍molの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用する。発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍mol添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0033】
なお、本明細書において、微細繊維状セルロースの調製に用いる化学変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化したセルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化したセルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化したセルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0034】
(カチオン化)
本発明において、前記カルボキシル化セルロースをさらにカチオン化したセルロースを解繊して得られたカチオン化微細繊維状セルロースを使用することができる。当該カチオン変性されたセルロースは、前記カルボキシル化セルロース原料に、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライトまたはそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と、触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を、水または炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって得ることができる。
【0035】
グルコース単位当たりのカチオン置換度は0.02~0.50であることが好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.02より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.50より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たカチオン変性されたセルロース原料は洗浄されることが好ましい。当該カチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水または炭素数1~4のアルコールの組成比率によって調整できる。
【0036】
(エステル化)
本発明において、エステル化したセルロースを解繊して得られたエステル化微細繊維状セルロースを使用することができる。当該エステル化セルロースは、前述のセルロース原料にリン酸系化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物Aの水溶液を添加する方法により得られる。
【0037】
リン酸系化合物Aとしては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用できる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩がより好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。リン酸系化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0038】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の一例として以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10重量%のセルロース原料の分散液に、リン酸系化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100重量部とした際に、リン酸系化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2~500重量部であることが好ましく、1~400重量部であることがより好ましい。リン酸系化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるのでコスト面から好ましくない。
【0039】
この際、セルロース原料、リン酸系化合物Aの他に、これ以外の化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよい。化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量はセルロース原料の固形分100重量部に対して、2~1000重量部が好ましく、100~700重量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0040】
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、微細繊維状セルロースとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。
【0041】
(解繊)
本発明において、化学変性セルロースを解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて上記の化学変性セルロースの水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0042】
分散処理においては通常、溶媒に化学変性セルロースを分散する。溶媒は、化学変性セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース原料が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
【0043】
分散体中の化学変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0044】
解繊処理又は分散処理に先立ち、必要に応じて上記の化学変性セルロースに予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0045】
解繊工程を経て得られた化学変性微細繊維状セルロースが塩型の場合は、そのまま用いても良いし、鉱酸を用いた酸処理や、陽イオン交換樹脂を用いた方法等により酸型として用いても良い。また、カチオン性添加剤を用いた方法により疎水性を付与して用いても良い。
【0046】
(微細繊維状セルロース分散体)
本発明において、予備分散する工程に供する、高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体は、上記のようにして製造された微細繊維状セルロースの分散体を脱水・乾燥し、溶媒量を減少させることにより得てもよい。高固形分濃度の微細繊維状セルロースの分散体としては、市販品を用いてもよい。
【0047】
本発明において、予備分散する工程に供する高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体は、CNF固形分濃度が1wt%以上であり、2wt%~20wt%が好ましく、3~15wt%がさらに好ましい。
【0048】
高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体を製造するための脱水・乾燥の方法は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、噴霧乾燥、圧搾、風乾、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥などが挙げられる。乾燥装置も特に制限されず、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
(希釈溶媒)
本発明において、希釈溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、セルロース原料が親水性であるため、分散時に良好な分散状態を取りやすいという観点から水を用いることが好ましい。また、希釈溶媒としては、希釈前の微細繊維状セルロース分散体の溶媒と同じものを用いてもよいし、異なるものを用いても良い。
【0050】
水溶性有機溶媒とは、水に溶解する有機溶媒である。その例として、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、およびこれらの組合せが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数が1~4の低級アルコールが好ましく、安全性および入手容易性の観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
【0051】
混合溶媒とする場合には、混合溶媒中の水溶性有機溶媒の量は、10重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。当該量の上限は限定されないが95重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。また、発明の効果を損なわない程度で、当該水系溶媒は非水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0052】
なお、希釈前の微細繊維状セルロース分散体に対する希釈溶媒の添加量は、希釈された微細繊維状セルロース分散体の固形分濃度が0.01~5wt%となる量であることが好ましく、0.1~3wt%となる量であることがより好ましい。
【0053】
(撹拌機)
本発明の予備分散する工程で用いる撹拌機としては、高いせん断力で微細繊維状セルロースの繊維長を短くすることなく、かつ硬いゲル塊を配管詰りを起こさない大きさまで解砕できる撹拌機を適宜使用することができる。例えば、アジテータ等を用いることができる。また、撹拌機を用いた予備分散の条件は特に制限されないが、例えば、100~1500rpmで、15秒~30分程度である。
【0054】
(本分散する工程)
本発明の本分散する工程においては、前述の予備分散する工程で得られた微細繊維状セルロース分散体と希釈溶媒との混合物を、インライン静止型流体混合装置を通過させることにより行う。
【0055】
(インライン静止型流体混合装置)
本発明で用いるインライン静止型流体混合装置としては、上記の混合物をゲル粒が残らないように均一に希釈できるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、スタティックミキサー、OHRミキサー、MSEスタティックミキサー等が挙げられ、分散性の観点からOHRミキサーを用いることが好ましい。
【0056】
スタティックミキサーとは、管中に、右捻りの螺旋状エレメントと左捻りの螺旋状エレメントとを交互に、かつ一方の端が他方の端に対して直角になるように配列された形の流体混合装置である。
【0057】
OHRミキサーとは、管体内周壁面に複数の突起物を設け、流体中のキャビテーションを増大させることにより、混合・撹拌を促進させる流体混合装置である。
【0058】
MSEスタティックミキサーとは、多数の小貫通孔及び中央に大貫通孔を有する混合エレメントの積層体が管内に配置されている流体混合装置、または、このような混合エレメントを配管内に設置して用いる流体混合装置である。
【0059】
本分散する工程において、インライン静止型流体混合装置に対して混合物を通過させる流速としては、分散性の観点から、2.0~10.0m/秒が好ましく、3.0~10.0m/秒がより好ましい。
【0060】
混合物を所望の流速でインライン静止型流体混合装置に導入するために、十分な送液能力を持つポンプを用いることが好ましい。ポンプとしては、特に制限されないが、渦流ポンプ、モーノポンプ等が挙げられる。
【0061】
混合物をインライン静止型流体混合装置に通す回数は、特に制限されないが、1回でもよく、2回以上でもよい。
【0062】
インライン静止型流体混合装置として、OHRミキサーを用いた場合の例について、
図1を用いて説明する。
図1は、OHRミキサーの断面を示す概略図である。なお、本発明に用いることができるインライン静止型流体混合装置は、
図1に示すものに限られるものではない。
【0063】
図1に示すOHRミキサー2には、混合物を通過させる管体4と、管体4の上流側に、乱流撹拌を起こすための交差する2枚の板6とが設けられており、板6は、管体4の内壁に固定されている。また、板6の下流側の管体4の内周壁には、複数の突起状物8が設けられている。なお、
図1において、混合物の通過方向を矢印で示した。
【0064】
OHRミキサー2に混合物を一定以上の流速で導入すると、2枚の板6の作用で混合物は強いひねりをもった螺旋流となる。このとき、混合物は、2枚の板6による急激な分断と変流により、機械的せん断力を発生させる。そして、乱流撹拌が起こり撹拌される。混合物は、管体をさらに下流方向へ送られ、撹拌されながら突起状物8と衝突することにより、より激しく混合され、分散が促進されて、希釈された微細繊維状セルロースの分散体が得られる。
【0065】
管体4の上流側に設けられた板6は、乱流撹拌を起こすことができればその枚数及び形状に制限はないが、その枚数はせん断回数を増加させるという観点から、2~8枚が好ましく、2枚がより好ましい。また、形状は、撹拌効率の観点から、半楕円形とすることが好ましい。
【0066】
管体4の内周壁の突起状物8の形状は、特に制限されないが、混合効率を高める観点からキノコ状であることが好ましい。
【0067】
本発明の製造方法によれば、高固形分濃度の微細繊維状セルロース分散体に対して、繊維長の短縮を引き起こさないように希釈を行い、均一に希釈された微細繊維状セルロース分散体を製造することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例における各数値の測定/算出方法が特に記載されていない場合には、明細書中に記載されている方法により測定/算出されたものである。
【0069】
(平均繊維長の測定方法)
マイカ切片上に固定したセルロースナノファイバーの原子間力顕微鏡像(3000nm×3000nm)から、繊維長を測定し、数平均繊維長を算出した。繊維長測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事)を用い、長さ100nm~2000nmの範囲で行った。
【0070】
(分散度の測定方法)
実施例および比較例において得られた固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体について、下記の通りCNF分散指数を算出し、下記基準に従って分散度の評価を行った。
実施例および比較例において得られた酸化CNF水分散体1gに、墨滴(株式会社呉竹製、固形分10%)を2適垂らし、ボルテックスミキサー(IUCHI社製、機器名:Automatic Lab-mixer HM-10H)の回転数の目盛りを最大に設定して10秒間撹拌した。次に、墨滴を含有する上記混合物の膜厚が0.15mmになるように二枚のガラス板に挟み、光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープKH-8700(株式会社ハイロックス製))を用いて倍率100倍で観察した。
【0071】
上記観察において、3mm×2.3mmの範囲に存在する凝集物の長径を測定し、観察された凝集物を、特大:150μm以上、大:100μm以上150μm未満、中:50μm以上100μm未満、小:20μm以上50μm未満に分類し、分類した凝集物の個数を数え、下式によりCNF分散指数を算出した。
【0072】
CNF分散指数=(特大の個数×512+大の個数×64+中の個数×8+小の個数×1)÷2×CNF濃度係数
なお、CNF濃度係数を、表1に示した。
【0073】
【0074】
(分散度の評価基準)
◎:CNF分散指数が1600未満
○:CNF分散指数が1600以上、3200未満
△:CNF分散指数が3200以上、6400未満
×:CNF分散指数が6400以上
【0075】
(製造例1)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。これを水でCNF固形分濃度3.0wt%に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、酸化セルロースナノファイバー水分散体を得た。得られた酸化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3nm、平均繊維長が650nmであった。
【0076】
(カルボキシル基量の測定方法)
カルボキシル化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散体)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/カルボキシル化セルロース重量〔g〕
【0077】
(実施例1)
上記製造例1で得られた固形分濃度が3wt%の酸化CNF水分散体を、水とともにアジテータに投入し、予備分散(500rpm、30分間)を行い、固形分濃度が0.5wt%のスラリーを作製した。このスラリーを、ポンプを使用して流速3.0m/秒で送液し、ポンプに接続したインライン静止型流体混合装置であるOHRミキサー(株式会社OHR流体工学研究所製、MX-F8、出口断面積:50.2mm2)を1回通過させることにより本分散を行い、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。得られた酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0078】
(実施例2)
OHRミキサーを2回通過させることにより、本分散を行ったこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。また、この酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0079】
(実施例3)
OHRミキサーを3回通過させることにより、本分散を行ったこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。また、この酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0080】
(実施例4)
スラリーの送液速度を、流速5.5m/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。得られた酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0081】
(実施例5)
OHRミキサーに代えて、スタティックミキサー(ノリタケカンパニーリミテド社製3/8-N30-232-F型を2基連結)を用いたこと、および、スタティックミキサーを2回通過させることにより本分散を行ったこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。得られた酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0082】
(実施例6)
上記製造例1で得られた固形分濃度が3wt%の酸化CNF水分散体を、送風乾燥機で濃縮し、固形分濃度が20wt%の酸化CNF水分散体を得た。これを、水とともにアジテータに投入し、予備分散(500rpm、30分間)を行い、固形分濃度が0.5wt%のスラリーを作製した。このスラリーを、ポンプを使用して流速10.0m/秒で送液し、ポンプに接続したインライン静止型流体混合装置であるOHRミキサー(株式会社OHR流体工学研究所製、MX-F8、出口断面積:50.2mm2)を5回通過させることにより本分散を行い、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。得られた酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。なお、表2に記載した希釈前酸化CNF分散体物性の平均繊維長は、濃縮前の固形分濃度が3wt%の酸化CNF水分散体を用いて測定された値である。
【0083】
(比較例1)
スラリーの送液速度を、流速1.0m/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。得られた酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0084】
(比較例2)
上記製造例1で得られた固形分濃度が3wt%の酸化CNF水分散体を、固形分濃度を0.5wt%とする量の水とともに、予備分散を行うことなく、ポンプを使用して流速3.0m/秒で送液し、ポンプに接続した実施例1と同じOHRミキサーを1回通過させることにより本分散を行ったが、OHRミキサーが詰まったため、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得ることはできなかった。
【0085】
(比較例3)
実施例1と同様にして予備分散を行い、固形分濃度が0.5wt%のスラリーを作製した。このスラリーに対して、本分散を行わずに、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0086】
(比較例4)
上記製造例1で得られた固形分濃度が3wt%の酸化CNF水分散体と水とをホモジナイザーに投入し、8000rpm、30分間の条件で撹拌することにより、固形分濃度が0.5wt%の酸化CNF水分散体を得た。得られた酸化CNF水分散体について、分散度の評価および平均繊維長の測定を行った。結果を表2に示した。
【0087】
【0088】
表2からわかる通り、固形分濃度1wt%以上の微細繊維状セルロース分散体を、希釈溶媒とともに撹拌機で予備分散する工程と、前記予備分散する工程で得られた混合物を、インライン静止型流体混合装置を通過させることにより本分散する工程とを含む、希釈された微細繊維状セルロース分散体の製造方法によれば、得られた分散体は、微細繊維状セルロースの分散度が高く、繊維長の短縮が抑制されたものであった。