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特許7252985黒酸化鉄の水分散体およびそれを使用した液状化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】黒酸化鉄の水分散体およびそれを使用した液状化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20230329BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20230329BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20230329BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q1/10
A61K8/19
A61K8/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020572254
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005215
(87)【国際公開番号】W WO2020166576
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2019025622
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592106155
【氏名又は名称】ジェイオーコスメティックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-266503(JP,A)
【文献】特開2000-327948(JP,A)
【文献】特開2004-244334(JP,A)
【文献】特開2006-232674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C09D 11/00-13/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルトリエトキシシランで表面シリル化された黒酸化鉄と、水と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとを有する水分散体を、前記黒酸化鉄の量として0.1~40質量%で含む、液状化粧料。
【請求項2】
前記水分散体は表面シリル化された黒酸化鉄を黒酸化鉄の量として1~30質量%含み、黒酸化鉄100質量部に対し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの量が0.1~10質量部であり、及び、アルキルトリエトキシシランの量が0.5~20質量部である、請求項1に記載の液状化粧料
【請求項3】
アルキルトリエトキシシランで表面シリル化された黒酸化鉄と、水と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとを有する水分散体を、前記黒酸化鉄の量として0.1~40質量%で含む液状化粧料の製造方法であって、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを含む水中で、黒酸化鉄とアルキルトリエトキシシランと反応させて、表面シリル化された黒酸化鉄を含む水分散体を得る工程を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項4】
前記水分散体は表面シリル化された黒酸化鉄を黒酸化鉄の量として1~30質量%含み、該水分散体中、黒酸化鉄100質量部に対し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの量が0.1~10質量部であり、及び、アルキルトリエトキシシランの量が0.5~20質量部である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
25℃での粘度1~300mPa・sを有する、請求項1または2に記載の液状化粧料。
【請求項6】
前記液状化粧料は更に皮膜形成性ポリマーを含み、液状化粧料の全質量に対し皮膜形成性ポリマーの量が1~30質量%である、請求項1または2記載の液状化粧料。
【請求項7】
液状化粧料がアイライナーである、請求項1、2、5及び6のいずれか1項に記載の液状化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧料用黒酸化鉄顔料の水分散体、及び、該水分散体を含む液状化粧料に関する。特には、ペン型容器に充填して用いる化粧料として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
化粧品用顔料の黒色着色剤として代表的なものとしてカーボンブラック及び黒酸化鉄が使われる。カーボンブラックは発色に優れた黒色顔料であり、少量で強い黒色が出せるが、使用許可されていない国がある。一方、黒酸化鉄は、安全性に問題がなく世界中で使用されているが、分散性については問題がある。
【0003】
黒酸化鉄の分散性が困難である理由として、黒酸化鉄は強い磁性を有する上に、比重が大きいために、分散性に乏しく、いったん分散させることができても、粗大粒子が多く存在する為に時間の経過とともに沈降して固化しやすい。そのため、ペン容器に充填する化粧料に黒酸化鉄を配合すると、経時的に目詰まりを起こしやすいという問題がある。
【0004】
上記問題を解決するために様々な提案がなされている。例えば、特許文献1は黒酸化鉄に赤酸化鉄及び/又は黄色酸化鉄およびアニオン分散剤とを組み合わせて含む化粧料用顔料分散液が記載されている。該分散液は、黒酸化鉄の磁性による凝集を防ぐが、分散安定性は十分ではなく、色は黒色ではなくブラウン系になる。特許文献2には、黒酸化鉄に赤酸化鉄を混合してαオレフィンスルホン酸塩と硫酸ナトリウムを分散剤として含む分散体が記載されている。このような低分子量界面活性剤は目の刺激の問題が懸念されることからアイメークにはあまり適していない。
【0005】
また、例えば特許文献3には黒酸化鉄を安定に水分散させるために非イオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤と、アルコール系溶剤とを含む液状化粧料が開示されている。しかし、該液状化粧料は耐水性(撥水性)に劣り、アイメークなどとして使用した際、汗などによって脱落してしまうという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-330222号公報
【文献】特開2012-184181号公報
【文献】特開2014-214103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、黒酸化鉄を含む水分散体であって、アイライナーに使用した場合、ペン型容器に充填し長期間目詰まりを起こさず、且つ耐水性を付与できる水分散体の開発が要求されている。本発明は当該事情に鑑み、黒酸化鉄を含む化粧料用水分散体であって、分散安定性に優れ、ペン型容器に充填して使用しても長期間目詰まりを起こし難く、且つ液状化粧料として使用した時に発色が良く、得られる塗膜に耐水性を付与できる水分散体、及び該水分散体を含む液状化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、黒酸化鉄表面をアルキルトリエトキシシランでシリル化すること、及び、該表面シリル化処理された黒酸化鉄を含む水分散体の製造において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを分散剤として使用することにより、長期間凝集せず分散安定性に優れ、且つ耐水性を有する塗膜を与える水分散体が得られることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、アルキルトリエトキシシランで表面シリル化された黒酸化鉄と、水と、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとを有する、水分散体を提供する。更に本発明は、アルキルトリエトキシシランで表面シリル化された黒酸化鉄を含む水分散体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水分散体は、分散安定性に優れており、ペン型容器に充填して使用しても長期間目詰まりを起こし難く、且つ液状化粧料に耐水性を付与できる。特には耐水性を有するとともに発色に優れるアイライナーとして好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は黒酸化鉄を含む水分散体、及びその製造方法に関する。該水分散体は、黒酸化鉄の表面がアルキルトリエトキシシランでシリル化されていることを特徴の一つとする。黒酸化鉄表面をシリル化することにより、黒酸化鉄の凝集を抑制し、長期安定性を有する水分散体を与える。さらに、該表面シリル化処理された黒酸化鉄を含む水分散体の製造方法において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを分散剤として含むことを特徴とする。
【0012】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートは黒酸化鉄を水中に分散させるために有効に機能する。また、シリル化反応後にヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートをクエン酸などの酸で中和することにより、得られる水分散体は塗膜の撥水性を向上するため、該水分散体を含む液状化粧料は良好な耐水性(撥水性)を有することができる。さらに、該ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを含む液状化粧料は石鹸などで容易に落とすことができる。
【0013】
本発明に用いる黒酸化鉄は四酸化三鉄(Fe)であり、黒色顔料として従来公知のものであればよい。該黒酸化鉄は微粒子であることが好ましく、平均一次粒子径0.01~1.0μm、好ましくは0.05~0.5μm、より好ましくは0.07~0.2μmを有するのがよい。該平均一次粒子径を有することが発色性の観点から好ましい。本発明において、該平均一次粒子径は、試料の走査電子顕微鏡写真から任意の100個について、個数平均径として算出することが出来る。個々の一次粒子径の算出には、最小外接円の直径を使用する。該平均粒子径を有するものであれば粒子形状は特に制限されるものでない。例えば球状乃至略球状、針状、紡錘状、板状、六角板状、八面体状、無定形状等が挙げられ、例えば、特開2016-000763号公報に記載された製造方法により得られる、八面体形状の黒酸化鉄が、着色力、黒色度の点から好ましく用いられる。尚、黒酸化鉄は、鉄以外の無機元素を含有又は、鉄以外の無機化合物により表面被覆されていても良い。特に特開2016-000763号公報に記載された製造方法により得られる無機化合物により被覆された黒酸化鉄が、黒色度が高く好適に用いられる。被覆する無機化合物としては、アルミニウムまたはケイ素の酸化物、水酸化物であることが好ましい。その場合、本発明における黒酸化鉄の量とは、これら無機化合物を含まない量である。
【0014】
本発明の水分散体は表面シリル化された黒酸化鉄を黒酸化鉄の量として1~30質量%含む。ここで黒酸化鉄の量とは、表面にあるシリルを含まない黒酸化鉄の量を意味する。該水分散体中の黒酸化鉄の量は、水分散体全体の質量に対し1~30質量%であり、好ましくは10~27質量%であり、より好ましくは15~23質量%であるのがよい。該範囲内であることにより良好な分散安定性を有することができる。
【0015】
アルキルトリエトキシシランはシリル化剤として知られている化合物である。アルキルは炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5を有するのがよい。例えば、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。アルキルトリエトキシシランは黒酸化鉄と反応しやすく、且つ、副生するエタノールは安全であり留去しやすいため、黒酸化鉄のシリル化剤として扱いやすく、好ましい。
【0016】
シリル化反応に付するアルキルトリエトキシシランの量は、黒酸化鉄100質量部に対して0.5~20質量部、好ましくは1~15質量部、より好ましくは3~10質量部となる量であればよい。該範囲内となる量で黒酸化鉄表面をシリル化することにより、黒酸化鉄の凝集を効果的に抑制し、長期安定性を有する水分散体を与える。アルキルトリエトキシシランの量が上記下限値未満では当該効果が十分に得られず、上記上限値超えでは粒子間凝集が起きて発色性が悪くなるため好ましくない。また、上記範囲内の量でシリル化に付することにより、アルキルトリエトキシシランのほぼ全量が黒酸化鉄の表面に付着するが、本発明の水分散体はシリル化反応しなかったアルキルトリエトキシシランを含んでいてもよい。従って、本発明の水分散体においても、アルキルトリエトキシシランの量は、黒酸化鉄100質量部に対して0.5~20質量部、好ましくは1~15質量部、より好ましくは3~10質量部であればよい。
【0017】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの粘度は、適宜選択すればよいが、成分1%水溶液で20℃にて10~200mPa・sが好ましく、さらに好ましくは10~100mPa・sである。尚、本発明において該ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの粘度はB型粘度計により測定されるものである。ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートは市販品であればよく、例えば、信越化学工業株式会社製のHP-55等が挙げられる。
【0018】
水分散体中のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの量は、黒酸化鉄100質量部に対して0.1~10質量部となる量が好ましく、さらに好ましくは0.2~5質量部となる量である。含有量が上記下限値未満では、得られる分散体の分散性が著しく低下するおそれがあるため好ましくない。また含有量が上記上限値を超えると、水分散体の粘度が大幅に増加しアイライナーから出てこないという不具合が生じる場合がある。
【0019】
なお、本発明の水分散剤には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートと併せてヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを使用してもよい。この場合、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの配合量は、黒酸化鉄100質量部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとの合計で好ましくは0.1~10質量部であるのがよい。ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートは粘度(20℃)1~200mPa・sを有するのが好ましい。例えば、市販品Shin-Etsu AQOAT(信越化学工業社製)が使用できる。
【0020】
以下、水分散体の製造方法について、より詳細に説明する。
本発明の黒酸化鉄含有水分散体は、水中で、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの存在下で黒酸化鉄とアルキルトリエトキシシランとをシリル化反応させることにより得られる。反応溶液のpHは塩基性であるのが好ましく、pHを塩基性にするために炭酸ソーダ等を添加してもよい。また、該反応にはアルカリ触媒を添加するのが好ましい。すなわち、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートと黒酸化鉄を、アンモニア水中にてホモジナイザーなどの攪拌機で攪拌しながら、アルキルトリエトキシシランを滴下して黒酸化鉄とシリル化反応させ、水中に分散させる。反応温度は適宜調整すればよく、好ましくは室温~80℃で行うとよい。次いで、アンモニアと副生するエタノールを留去した後、クエン酸などの酸で中和して水分散体を得る。得られる水分散体のpHは6~8であるのが好ましい。必要に応じて湿式微粒化装置(スターバースト)などで解砕する工程を含んでも良い。また得られた水分散体には必要に応じて防腐剤や抗菌剤を加えてもよい。
【0021】
本発明の水分散体において分散媒は水(イオン交換水、精製水、蒸留水、純水など)が好ましく、必要により有機溶媒を配合しても構わない。上記本発明の製造方法により得られる黒酸化鉄は表面がシリル化されることにより疎水化し、黒酸化鉄の凝集が抑制されるため、水中での分散安定性が向上する。尚、黒酸化鉄の表面がシリル化されていることは、例えば塗膜の撥水性が向上することにより確認することができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)等によって表面構造を観察することによっても確認できる。
【0022】
水分散体の製造方法の一態様について以下に例示する。
まず、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートをイオン交換水に混合溶解し、水溶液を調製する。このとき、pHを塩基性にするために炭酸ソーダ等を添加してもよい。次いで、イオン交換水に上記水溶液を加え、ホモミキサーで攪拌しながら、黒酸化鉄、必要があればさらにイオン交換水を追加する。このとき、アルカリ触媒としてアンモニア水を加えるとよい。そして、攪拌しながら、アルキルトリエトキシシランを滴下し、シリル化する。その後、アンモニアとエタノールを含む水を留去して、pHを調整し、必要に応じて湿式微粒化装置(スターバースト)などで解砕する工程を経て、水分散体を得ることができる。
【0023】
本発明はさらに、上記水分散体を含有する液状化粧料を提供する。液状化粧料に含まれる本発明の水分散体の配合量は、黒酸化鉄の含有量として化粧料中に0.1~40質量%となる量が好ましく、さらに好ましくは2~20質量%である。該範囲内で水分散体を含有することにより、長期間保存安定性に優れ、且つ、撥水性に優れる液状化粧料を与えることができる。含有量が上記下限値未満では、発色が薄くて化粧料として十分な機能を発揮しない。また上記上限値超では粘度が高くなりすぎて好ましくない場合がある。
【0024】
また、本発明の液状化粧料には、さらに皮膜形成性ポリマーエマルジョンを配合することができる。皮膜形成性ポリマーエマルジョンの配合量は、液状化粧料に対して固形分(すなわち、皮膜形成性ポリマーの量)で1~30質量%であることが好ましい。皮膜形成性ポリマーエマルジョンを配合することにより、耐水性にすぐれ、汗などで崩れることのない持続性に優れたアイライナー等の液状化粧料を提供できる。より好ましくは、皮膜形成性ポリマー量が、液状化粧料に対して2~25質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%であるのがよい。上記下限値未満では、液状化粧料の耐水性が十分ではなくなり、好ましくない。上記上限値超では、液状化粧料の粘度が上昇し、ペン型容器で使用する場合かすれ等が生じるため好ましくない。
【0025】
本発明に用いる皮膜形成性ポリマーエマルジョンは化粧料に使用される公知の物であればよい。例えば、アクリル酸アルキル共重合体エマルション、メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、スチレン・アクリル酸アルキル共重合体エマルション、スチレン・メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、酢酸ビニル重合体エマルション、ビニルピロリドン・スチレン共重合体エマルション、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルション、メタクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルション、アクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体エマルション、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、メタクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体エマルション、メタクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体エマルション、アクリル酸アルキルジメチコン共重合体エマルション等が挙げられる。
【0026】
上記アクリル酸アルキル共重合体エマルションとしては、例えば、INCI(International Nomenclature Cosmetic Ingredient labeling names)においてACLYLATES COPOLYMER(アクリレーツコポリマー)と命名されているものを挙げることができ、その市販品例としては、ヨドゾールGH800F(アクゾノーベル社製)等が挙げられる。また、上記アクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体エマルションとしては、例えば、INCIにおける名称がACLYLATES/ETHYLHEXYLACRYLATE COPOLYMER((アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル)コポリマー)のポリマーを挙げることができ、その市販品例としては、ダイトゾール5000SJ(大東化成工業社製)等が挙げられる。また上記スチレン・アクリル酸アルキル共重合体エマルションとしては、例えば、INCIにおける名称がSTYLENE/ACLYLATES COPOLYMER((スチレン/アクリレーツ)コポリマー)のポリマーを挙げることができ、その市販品例としては、ダイトゾール5000STY(大東化成工業社製)等が挙げられる。これらのポリマーエマルションは、単独で使用してもよく、また、2種以上を併用することもできる。
【0027】
本発明の液状化粧料には性能を損なわない範囲で、液状化粧料に配合されるその他の成分をさらに含むことができる。例えば、pH中和剤、防腐剤、増粘剤などが挙げられる。さらに溶剤としての多価アルコール、黒酸化鉄以外の粉体、及び、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート以外の分散剤を含むこともできる。pH中和剤としては例えばクエン酸、アスコルビン酸、炭酸ナトリウム、AMPなどが挙げられる。防腐剤としては例えばフェノキシエタノール、ペンチレングリコール、エタノールなどが挙げられる。増粘剤としては例えばカルボマー、キサンタンガム、などが挙げられる。これらの含有量は特に制限されるものでなく、本発明の効果を損ねない範囲において適宜調整されればよい。
【0028】
多価アルコールは、化粧品に一般的に用いられているものであれば、特に限定されず、いずれのものも使用できる。多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、及びテトラグリセリンなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で使用しても良いしまた、2種類以上を組み合わせて用いることができる。多価アルコールは化粧料全量に対して0.1~20質量%が好ましく、より好ましくは1~15質量%である。多価アルコールを含むことにより、防腐力が向上するとともに、ペン型容器で使用する場合、ペン先や筆先の乾燥を防止することが出来る。
【0029】
上記表面シリル化された黒酸化鉄以外の粉体は、化粧料に使用されるものであれば特に限定されない。例えば、板状、紡錘状、針状等の形状、粒子径、多孔質、及び無孔質等の粒子構造等を有するものであってよい。例えば、無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、及び複合粉体類等が挙げられる。より詳細には、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化セリウム、無水ケイ酸、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、カオリン、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素等の無機粉体類、オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、無水ケイ酸被覆雲母チタン、有機顔料処理雲母チタン、酸化チタン被覆ガラス末、酸化チタン・酸化鉄被覆ガラス末、酸化チタン・無水ケイ酸被覆ガラス末、アルミニウムパウダー等の光輝性粉体類、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、N- アシルリジン、ナイロン等の有機粉体類、有機タール系顔料、有機色素のレーキ顔料等の色素粉体類、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末、ポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層フィルム末等が挙げられる。これらを1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート以外の分散剤としては、主に黒酸化鉄以外の粉体の分散のために用いられるものが好ましい。例えば、ポリアスパラギン酸、ポリアクリル酸塩、及び水溶性のアクリル酸系ポリマーおよびその塩類が用いられる。
【0031】
該液状化粧料の製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の方法に従えばよい。例えば、本発明の水分散体を容器に入れ、プロペラ式撹拌機などの公知の攪拌方法によって攪拌しながら、水(純水またはイオン交換水)、多価アルコール(例えば、グリコール)、pH中和剤、防腐剤、増粘剤、及び皮膜形成剤等を加えて、一定時間混合する。攪拌時間は任意に設定すればよいが、30分間~60分間攪拌混合すればよい。
【0032】
本発明の液状化粧料は所望の化粧品容器に挿入し、例えば容器に接合されているペン先、筆穂等により使用することができる。本発明の液状化粧料の25℃における粘度は、1~300mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、1~100mPa・s、さらに好ましくは2~20mPa・sである。また液状化粧料がペン型容器で使用される場合には、粘度は2~15mPa・sであることが好ましく、さらに好ましくは、4~10mPa・sである。液体化粧料がペン型容器で使用されるアイライナー等の場合、液状化粧料の粘度が高い場合には、ペン先から出てこなくなるため好ましくない。液状化粧料の粘度は、エー・アンド・ディー社製音叉振動式粘度計SV-100を用いて測定することができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0034】
[実施例1] 水分散体1の製造
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(信越化学工業株式会社製 商品名HP-55 20℃溶液粘度40mPa・s(成分1%水溶液として))1g、炭酸ソーダ1gとイオン交換水98gを混合溶解して1質量%のHP-55水溶液をあらかじめ作製した。
イオン交換水150gに上記1質量%HP-55水溶液を62.5g加え、ホモミキサー(回転数5000rpm)で攪拌しながら、微粒子黒酸化鉄(チタン工業株式会社製商品名ABL-412HP Fe:98%,Al(OH):2% 平均一次粒子径0.1μm)70.2gとイオン交換水53gと25%アンモニア水22.5gを加えた。25℃で攪拌しながら、メチルトリエトキシシラン9gを30分間かけて連続滴下する事でシリル化した。ついで、60℃に昇温して1時間熟成反応したのちに60~70℃に保ちながら真空にして系からアンモニアとエタノールを含む水80mlを留去して系外へ抜き出し、約330gの水性分散液を得た。なお洗浄用に50質量部のイオン交換水を使用した。スターバーストにて100MPaで2回解砕処理した後、ここに10%クエン酸水溶液を12g加えpHを6.0~8.0に中和し、フェノキシエタノール3.3g、ペンチレングリコール13.2gを加え固形分約21質量%(黒酸化鉄約19質量%)の水分散体1を得た。なお、水分散体1中のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートは0.2質量%(計算値)である。なお、黒酸化鉄の表面がシリル化されていることはTEMにより観察した。
【0035】
[実施例2]水分散体2の製造
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(信越化学工業株式会社製 商品名HP-55)1g、炭酸ソーダ1gとイオン交換水98gを混合溶解して1質量%のHP-55水溶液をあらかじめ作製した。
イオン交換水20gに上記1質量%HP-55水溶液187.5gを加え、ホモミキサー(回転数5000rpm)で攪拌しながら、微粒子黒酸化鉄(チタン工業株式会社製商品名ABL-412HP)70.2gとイオン交換水53gと25%アンモニア水22.5gを加えた。25℃で攪拌しながら、メチルトリエトキシシラン9gを30分間かけて連続滴下した。ついで、60℃に昇温して1時間熟成反応したのちに60~70℃に保ちながら真空にして系からアンモニアとエタノールを含む水80mlを留去して系外へ抜き出し、約330gの水性分散液を得た。なお洗浄用に50質量部のイオン交換水を使用した。ここに10質量%クエン酸水溶液を12g加えpHを6.0~8.0に中和し、フェノキシエタノール3.3g、ペンチレングリコール13.2gを加え固形分約22質量%(黒酸化鉄約19質量%)の水分散体2を得た。なお、水分散体2中のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートは0.5質量%(計算値)である。
【0036】
[比較例1]水分散体3の製造
実施例1においてメチルトリエトキシシランを使用しなかった他は実施例1の工程を繰り返して、水分散体3を調製した。調製直後に黒酸化鉄の凝集と沈降が見られ、均一な分散体を得ることができなかった。
【0037】
[比較例2]水分散体4の製造
イオン交換水202gにポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液(固形分38%)1.6gを加え、ホモミキサー(回転数5000rpm)で攪拌しながら、微粒子黒酸化鉄(チタン工業株式会社製商品名ABL-412HP)70.2gと1時間攪拌後、約330gの水性分散液を得た。なお洗浄用に50gのイオン交換水を使用した。ここに10質量%クエン酸水溶液を6g加えpHを6.0~8.0に中和し、フェノキシエタノール3.3g、ペンチレングリコール13.2gを加え固形分約21質量%(黒酸化鉄約20質量%)の水分散体4を得た。
【0038】
[比較例3]水分散体5の製造
イオン交換水210gにポリアスパラギン酸ナトリウム水溶液(固形分38%)1.6gを加え、ホモミキサー(回転数5000rpm)で攪拌しながら、微粒子黒酸化鉄(チタン工業株式会社製商品名ABL-412HP)70.2gとイオン交換水53gと25%アンモニア水22.5gを加えた。25℃で攪拌しながら、メチルトリエトキシシラン9gを30分間かけて連続滴下した。ついで、60℃に昇温して1時間熟成反応したのちに60~70℃に保ちながら真空にして系からアンモニアとエタノールを含む水80mlを留去して系外へ抜き出し、約330gの水性分散液を得た。なお洗浄用に50gのイオン交換水を使用した。ここに10質量%クエン酸水溶液を12g加えpHを6.0~8.0に中和し、フェノキシエタノール3.3g、ペンチレングリコール13.2gを加え固形分約21質量%(黒酸化鉄約19質量%)の水分散体5を得た。
【0039】
上記の通り、黒酸化鉄にメチルトリエトキシシランを反応させなかった比較例1の水分散体3は、凝集が激しく化粧料として使用不可能であった。従って、以下の評価試験は行わなかった。
【0040】
塗膜の撥水性(耐水性)評価
上記実施例1及び2並びに比較例2及び3の各水性分散液2milを、バーコーターを使用してスライドガラスに塗布し、25℃×2h乾燥させて塗膜を作成した。該塗膜に0.1μLの水滴を滴下してから30秒後の接触角を協和界面化学社製自動接触角計DCA-VZにて測定した。結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示す通り本発明の水分散体から得られる膜は撥水性に優れ、本発明の水分散体が良好な耐水性を与え得ることがわかる。また、実施例1と実施例2の対比でわかるように、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの含有量を調整することにより、塗膜に所望の撥水性(耐水性)を付与することができる。
【0043】
黒発色の良さ
上記実施例1及び2並びに比較例2及び3の水性分散液を用い、表2に示す処方に基づき、アイライナー組成物を調製した。該アイライナー組成物をペン型容器に詰めてアイライナーとした。該アイライナーの筆先よりコピー紙に2cm角となるようにアイライナー組成物を塗布し、簡易分光色差計(日本電色社工業社製NF-333)を用いて黒発色の良さ(塗膜のL*値)を測定した。結果を表2に示す。尚、L*値は42以下が好ましい。
【0044】
上記により得られたアイライナー組成物(液状化粧料)について25℃での粘度およびpHを測定した。結果を下記表2に示す。粘度は、エー・アンド・ディー社製音叉振動式粘度計SV-100により測定した。
【0045】
【表2】
※1;ヨドゾールGH810F(固形分46質量%、アクゾノーベル社製)
※2;ダイトゾール5000STY(固形分50質量%、大東化成工業社製)
【0046】
表2に示す通り、黒酸化鉄の分散剤としてポリアスパラギン酸ナトリウムを用いた比較例2の水分散体を含むアイライナー組成物は、黒発色性の初期値が劣り、また経時でさらに劣化した。これは分散安定性に劣ることを意味する。また、比較例2の組成にメチルトリエトキシシランを添加した比較例3の水分散体を含むアイライナー組成物も分散安定性が劣った。これに対し、本発明の水分散体を含む実施例1及び2のアイライナーは、黒発色が良好であった。また、かすれずに吐出性もよく、40℃1か月保管後でも化粧液が吐出できる状態であり分散安定性に優れた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の水分散体は分散安定性に優れる。該水分散体は、液状化粧料に耐水性を付与でき、またペン型容器に充填して使用しても長期間目詰まりを起こし難いため、耐水性を有するアイライナーとして特に好適である。