(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】原子炉炉心溶融物局在化装置
(51)【国際特許分類】
G21C 9/016 20060101AFI20230329BHJP
G21C 13/02 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
G21C9/016
G21C13/02 200
(21)【出願番号】P 2020572860
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 RU2018000900
(87)【国際公開番号】W WO2020067920
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-12-24
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】516233088
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー アトムエネルゴプロエクト
【氏名又は名称原語表記】JOINT STOCK COMPANY ATOMENERGOPROEKT
【住所又は居所原語表記】ul. Bakuninskaya,7,str.1 Moscow,105005 Russia
(73)【特許権者】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】シドロフ アレクサンドル スタレヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ズバノフスカヤ タチアナ ヤロポルコフナ
(72)【発明者】
【氏名】ロシチン ミハイル アレクサンドロヴィチ
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-271261(JP,A)
【文献】特表平06-503885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/00-9/06
G21C 11/00-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の炉心溶融物を閉じ込める原子炉炉心溶融物局在化装置であって、
原子炉容器底部の下方に設置され、多層容器の形態の冷却された容器を有するメルトトラップと、
前記多層容器内に配され、炉心溶融物を希釈するためのフィラーと、
上部支持部と、
底部支持部と、を備え、
前記底部支持部は、
原子炉ピットのコンクリート内の前記多層容器の下方に配された水平断面が中実または分割された埋め込みプレートを含み、
前記埋め込みプレートは、放射状支持部材を有し、
前記メルトトラップは、前記埋め込みプレートの放射状支持部材上に設置される水平断面が中実または分割された放射状支持部材を備え、
前記埋め込みプレートにおける放射状支持部材と、前記メルトトラップ底部における放射状支持部材が、クランプ部材を介して締結具により連結され、
前記埋め込みプレートおよび前記メルトトラップの各放射状支持
部材およびクランプ部材は、楕円形状の穴を有し、
前記上部支持部は、
メルトトラップ本体の上部に対となってメルトトラップ本体に対して接線方向に配され、メルトトラップ本体を原子炉ピットの垂直壁に
プルロッドを介して連結する締め金具を備え、
メルトトラップの底部支持部の各放射状支持部材の縦軸が、各対の締め金具の取り付け位置を
前記底部支持部に向けて鉛直下方に投影した位置から等距離の位置を通過するように配されており、
前記
プルロッドには、内面が双曲面形状である穴が設けられている
ことを特徴とする原子炉炉心溶融物局在化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核エネルギーの分野、特に、原子力発電所(NPP)の安全を保証するシステムに関する。炉心の溶融、原子炉容器の破壊、密閉されたNPP格納容器外の空間への溶融物の流出につながる重大な事故に適用できる。
【背景技術】
【0002】
最大の放射線危険は、能動的および受動的安全システムと通常の運転システムの障害(機器要素の破壊)のさまざまな組み合わせ、またはNPPの完全な電源切断の状態、およびNPP設計によって炉心の緊急冷却を確実にするために確立された時間間隔内に電力を供給できない状態で発生する可能性があるコアメルトダウンの事故によって引き起こされる。
【0003】
このような事故では、炉心溶融物(コリウム、原子炉の構造物及び原子炉容器の溶融物)が限界を超えて流出し、その残留熱放出のために、密閉されたNPP格納容器の完全性を損なう可能性がある。NPP格納容器は、放射性生成物の環境への放出に対する最後の障壁である。
【0004】
これを回避するには、反応容器から流出したコリウムを閉じ込めて局在化し、コリウムのすべての成分が完全に結晶化するまで、継続的な冷却を確保する必要がある。この機能は、原子炉の炉心溶融物の局在化および冷却システムによって実行される。これにより、NPP格納容器の損傷が防止され、原子炉の重大な事故での放射線被曝から人口と環境が保護される。
【0005】
特許文献1に示される公知の装置においては、原子炉容器底部の下方に設置され、多層容器の形態を有する被冷却容器を備えたメルトトラップ(melt trap:溶融物捕捉器)と、前記多層容器内に配置され、炉心溶融物を希釈するためのフィラー(filler:充填材)と、原子炉ピットのコンクリート内の多層容器の下方に配され、水平断面が中実または分割された埋め込みプレートと、メルトトラップの本体を上記埋め込みプレートにクランプ部材(clamp)を介して固定具(fastener)で締結する垂直円筒パイプとからなる底部支持部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】ロシア特許第2398294号明細書
【文献】特開2010-271261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記装置の欠点は、溶融物が非軸対称の状態で一斉にメルトトラップ本体に流出されると、メルトトラップが衝撃荷重の影響下で移動し、原子炉ピットの垂直壁に転倒する可能性があるため、信頼性が低いことである。これにより、溶融物がメルトトラップ外に放出されてしまう。
【0008】
また、特許文献2に開示されている公知のメルトトラップシステムにおいては、支持面と側壁とからなる原子炉ピットに配された溶融物を収容する容器(メルトトラップ)が、その上部の支持体を介して、原子炉ピットの側壁に設けられた突部に設置される構成が開示されている。
【0009】
このシステムの欠点は、溶融物が一斉にメルトトラップの本体に放出されると、上記支持体が変形し、これによりメルトトラップが原子炉ピットの底面に落下して、その垂直壁に転倒して溶融物がメルトトラップ外に放出されてしまうおそれがあるため、信頼性が低いことである。
【0010】
本発明の技術的結果は、原子炉炉心溶融物局在化装置の信頼性を増すことである。
【0011】
本発明によって解決されるべき課題は、非軸対称の衝撃荷重にさらされたときの原子炉炉心溶融物局在化装置におけるメルトトラップの転倒を回避し、当該メルトトラップ外への溶融物の漏出を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
原子炉炉心溶融物局在化装置において、原子炉容器の底部の下方に設置された多層容器の形態であって冷却された容器であるメルトトラップと、前記多層容器内に設置された溶融物希釈用のフィラー(filler:充填剤)と、上部支持部と、底部支持部とを備えている。
【0013】
前記底部支持部は、水平断面が中実または分割され、原子炉ピットのコンクリート内の前記多層容器の下方に設置された埋め込みプレートを有し、前記埋め込みプレートは、放射状支持体を含み、前記メルトトラップには、前記埋め込みプレートの放射線状支持体上に設置される放射線状支持体が設けられている。
【0014】
前記埋め込みプレートの放射線状支持体とメルトトラップ本体の放射線状支持体は、クランプ部材によって接続されており、当該放射状支持体とクランプ部材には楕円形状の穴が形成されている。
【0015】
前記上部支持部は、メルトトラップの本体上部に当該メルトトラップの本体の接線方向において対で取り付けられ、原子炉ピットの垂直壁に接続する締め金具(turnbuckle)を備えており、メルトトラップの底部支持部の前記各放射状支持体の縦軸が、前記対となる締め金具の取り付け位置から等距離の位置に投影されるように配されている。
【0016】
前記締め金具の連結部分には、内面が双曲線面の形状の穴が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明における原子炉炉心溶融物局在化装置の構成を示す図である。
【
図2】上記原子炉炉心溶融物局在化装置における上部支持部における一対の締め金具の配置状態を示す平面図である。
【
図3】締め金具によるメルトトラップ本体と原子炉ピットとの連結状態を示す一部断面図である。
【
図4】締め金具の連結部分に形成された穴の内面形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における1つの際立った特徴は、メルトトラップの外側本体に対で取り付けられた締め金具を備える上部支持部であり、底部支持部における放射状支持体の縦軸が、上記対で取り付けられた締め金具の取り付け位置の投影位置から等距離の位置を通過するように配されていることである。
【0019】
もう1つの特徴的な機能は、締め金具がメルトトラップの本体の接線方向に取り付けられていることである。
【0020】
また、本発明の別の特徴は、締め金具の連結部分に内面が双曲線面状の形態で形成された穴を有することである。
【0021】
締め金具の配置は以下を提供する。
【0022】
・締め金具の含まれる平面(水平面内)において、メルトトラップ本体のラグ(lug)に締め金具が接線方向に取り付けられているため、メルトトラップ本体の半径方向における自由熱膨張による半径方向の拡張は、メルトトラップ本体の外周ラインに対する締め金具の正接位置の平面角度の変化を招くだけである。これにより、締め金具の性能が低下するリスクや、メルトトラップの本体にひびが入ったり破壊されたりするリスクが排除される。
【0023】
・すべての締め金具間で半径方向の衝撃荷重が分散されることにより、コンクリート製の原子炉ピットの埋め込み部品に対する半径方向の引き抜き強度が過剰にならない(負荷が規制される)。この場合、締め金具が含まれる平面内で、一部の締め金具には圧縮力が作用し、一部の締め金具には引っ張り力が作用する。これにより水平方向の衝撃荷重により、メルトトラップ本体のフランジに平面振動が発生し、平面振動が減衰するまで、すべての締め金具がその弾性変形範囲内で張力と圧縮を交互に繰り返す。
【0024】
・軸方向の衝撃荷重が、全締め金具間に分散されるため、フランジ領域での本体の非軸対称(垂直)衝撃荷重下でのメルトトラップ本体の底部支持部に対する非軸対称衝撃が低減される。この場合、非軸対称の軸方向衝撃荷重の作用が現れた領域における締め金具は、メルトトラップ本体のフランジの変形に対して機械的抵抗を付与しない。したがって軸方向の衝撃が現れた領域にあるメルトトラップ本体のフランジにより、当該軸方向の衝撃荷重が、方位角方向(本体周囲に沿った方向)及び半径方向(平面)振動の成分に再配分される。メルトトラップ本体の軸方向弾性振動の形での衝撃作用の一部は、締め金具に影響を与えず、方位角方向の振動は、締め金具の弾性変形によって減衰され、締め金具の含まれる平面内を伝播する半径方向の振動は、締め金具によって交互に減衰される。
【0025】
・メルトトラップ本体への地震衝撃時に、メルトトラップ本体のフランジの側面からの締め金具の引張りおよび圧縮の交互作用により、コンクリート原子炉ピットの埋め込み部品に対する方位角方向における引き抜き力の作用を超えない(ハウジングフランジのねじり振動の減衰)。振動の減衰は、締め金具の弾性変形によりエネルギーが吸収されて、ねじれ振動が減衰するまで提供される。
【0026】
・メルトトラップ本体が、軸方向(鉛直方向)に熱膨張する際に、メルトトラップ本体のフランジや、上部支持部、原子炉ピットに埋め込まれた部分の完全性を維持する。これは、軸方向(鉛直方向)平面内での締め金具の取付部での旋回性を確保することにより得られる。上記の旋回性は、メルトトラップ本体へ締め金具を取り付けるための穴、または原子炉ピットに設置された垂直埋め込みプレートの取付部に設けられた穴の内面を双曲線面状に形成することにより提供される。取り付け穴の双曲面の形成は、メルトトラップ本体および埋め込みプレートの双方において実施されてもよい。
【0027】
図1は、本発明に係る原子炉炉心溶融物を閉じ込めるための装置(以下、「炉心溶融物局在化装置」という。)の構成を示しており、以下のように機能する。
【0028】
図1に示すように、炉心溶融物局在化装置(1)は、原子炉容器(18)の底部下方に設置され、多層容器の形態の、冷却された容器を備えるメルトトラップ(2)と、溶融物(3)を希釈するため前記多層容器内に配されたフィラー(4)と、メルトトラップ(2)の本体(7)の底部外側に配され、水平埋め込みプレート(9)の放射状支持体(radial support)(8)にクランプ部材(clamp)(10)を介して連結された放射状支持体(6)からなる底部支持部(5)と、メルトトラップ(2)の本体(7)の上部に対で取り付けられた締め金具(12)を含む上部支持部(11)と、を備える。
【0029】
締め金具(12)は、メルトトラップ(2)の本体(7)上部に、接線方向に対で取り付けられており、その対となる締め金具(12)の炉心ピットの垂直壁(14)との取り付け位置(13)の投影位置から等距離の位置を、メルトトラップ(2)の本体(7)の底部支持部(5)の放射状支持体(6)の長手方向の軸が通過するように配置される。
【0030】
図3および
図4に示されるように、締め金具(12)のプルロッド(PUL ROD)(15)は、内面が双曲面形状である穴(16)を有しており、その中に上部支持部(11)における固定具(20)の軸(19)が、挿通されるようになっている。
【0031】
メルトトラップ(2)の本体(7)と、一対の締め金具(12)のプルロッド(15)との取り付け位置が鉛直方向に変化しても、プルロッド(15)は、各締め金具(12)を通過する軸平面内で回転する。
【0032】
原子炉格納容器が破損したとき、炉心溶融物(3)は、流体静力学的および過剰圧力の作用下で、メルトトラップ(2)の二重本体(7)に流出し始め、フィラー(4)と接触する。
【0033】
炉心溶融物(3)は、一斉に非軸対称で、例えば、30秒間で60トンもの過熱した鋼が流出し、炉心溶融物(3)のメイン衝撃荷重は、メルトトラップ(2)の本体(7)の内壁側面に当たる。
【0034】
図2に示すように、この場合、締め金具(12a)は、非軸対称の軸衝撃荷重の影響が現れた領域において、本体(7)のフランジ(17)の形状に対して機械的抵抗を与えない。
【0035】
したがって、本体のフランジ(17)は、軸方向衝撃が現れた領域において、その周囲に沿って衝撃荷重を2つの追加成分に再配分し、軸方向衝撃を方位角方向(本体(7)の周囲に沿った方向)の振動および半径方向(平面)振動を形成する。
【0036】
本体(7)の軸方向弾性振動の形態での衝撃の一部は、締め金具(12a)に影響を及ぼさず、本体(7)の方位角方向の振動は、締め金具(12b)の弾性変形によって減衰され、締め金具(12a)の平面内を伝播する半径方向振動は、半径方向衝撃荷重が減衰される場合と同じように、それらの締め金具によって交互に減衰される。
【0037】
上記の半径方向衝撃荷重は次のようにして減衰される。
【0038】
締め金具(12a)の一部は、圧縮のために作用し、一部は、締め金具(12)平面内で延伸するために作用する。
【0039】
この場合、水平衝撃荷重は、本体(7)のフランジ(17)の平面振動を惹起させ、全ての締め金具(12)は、平面振動が減衰するまで、締め金具(12)の弾性変形の領域で張力及び圧縮を交互に繰り返す。
【0040】
炉心溶融物局在化装置において、底部支持部と共に上部支持部を使用することにより、非軸対称衝撃荷重に曝された場合であっても、その転倒を排除することができ、これにより溶融物がメルトトラップ本体の外側に放出される可能性を完全に排除することが可能になった。