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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230329BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230329BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230329BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230329BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230329BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230329BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230329BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230329BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230329BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20230329BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C07K14/705
C12N15/86 Z
C12N5/10
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/17
A61K39/395 T
C07K16/28
C07K16/46
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021164222
(22)【出願日】2021-10-05
(62)【分割の表示】P 2018532485の分割
【原出願日】2016-09-10
(65)【公開番号】P2022017256
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】2015903719
(32)【優先日】2015-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】522033690
【氏名又は名称】バイオセプター (オースト) プロプライエタリー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】クームス,ジャスティン・テイラー
(72)【発明者】
【氏名】バリー,サイモン・チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】サドロン,ティモシー・ジョン
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507118(JP,A)
【文献】特表2013-502204(JP,A)
【文献】特表2013-515013(JP,A)
【文献】特表2010-539103(JP,A)
【文献】特表2014-504294(JP,A)
【文献】特表2010-505426(JP,A)
【文献】国際公開第2010/055657(WO,A1)
【文献】信州医誌,2013年,Vol. 61, No. 4,pp. 197-203
【文献】J. Clin. Cell. Immunol.,2014年,Vol. 5, No. 4,pp. 1-5,ISSN: 2155-9899
【文献】FEBS Lett.,2003年,Vol. 538,pp. 159-162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能障害性P2X受容体を認識するが機能性P2X受容体を認識しない抗原認識ドメインと
ここで機能障害性P2X 受容体は、野生型(機能性)P2X 受容体のATP結合能力と比較して低減されたATPに結合する能力を有し、機能障害性P2X 受容体は、受容体を機能障害性にする立体配置の変化を有し、立体配置の変化は、P2X 受容体のアミノ酸210位のプロリンのトランス配置からシス配置への変化であり、
抗原認識ドメインは、機能障害性P2X 受容体の200位から210位のアミノ酸を含むエピトープを認識する、
膜貫通ドメインと
活性化受容体の細胞内シグナル伝達部分および/または共刺激受容体の細胞内シグナル伝達部分を含むシグナル伝達ドメインと
を含むキメラ抗原受容体。
【請求項2】
抗原認識ドメインが、抗体の抗原結合部位または抗体のフラグメントの抗原結合部位を含む、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
抗原認識ドメインが、少なくとも、抗体の重鎖または抗体の軽鎖由来の相補性決定領域1(CDR1)、CDR2およびCDR3を含む、請求項1または2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体の297位から306位のアミノ酸を含むエピトープを認識する、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
抗原認識ドメインが、配列番号10、32、33または34に示されたアミノ酸配列の3つのCDRを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
抗原認識ドメインが、Fab、scFv、またはsdAbである、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
抗原認識ドメインが、多価である、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
多価が、2価または3価である、請求項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
抗原認識ドメインが、
・配列番号10の30位から35位の残基のアミノ酸配列を含むCDR1、
・配列番号10の50位から67位の残基のアミノ酸配列を含むCDR2、および
・配列番号10の98位から108位の残基のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
抗原認識ドメインが、
・配列番号32の30位から35位の残基のアミノ酸配列を含むCDR1、
・配列番号32の50位から67位の残基のアミノ酸配列を含むCDR2、および
・配列番号32の98位から108位の残基のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項11】
抗原認識ドメインが、
・配列番号33の30位から35位の残基のアミノ酸配列を含むCDR1、
・配列番号33の50位から67位の残基のアミノ酸配列を含むCDR2、および
・配列番号33の98位から108位の残基のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項12】
抗原認識ドメインが、
・配列番号34の30位から35位の残基のアミノ酸配列を含むCDR1、
・配列番号34の50位から67位の残基のアミノ酸配列を含むCDR2、および
・配列番号34の98位から108位の残基のアミノ酸配列を含むCDR3
を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項13】
配列番号26、27、52、53または54のアミノ酸配列を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項15】
宿主細胞のウイルス形質導入のための、請求項14に記載の核酸を含む、ウイルスベクター。
【請求項16】
遺伝子改変された細胞であって、該細胞は、請求項1から13のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、請求項14に記載の核酸分子、または請求項15に記載のウイルスベクターを含、遺伝子改変された細胞。
【請求項17】
白血球、末梢血単核細胞(PBMC)、リンパ球、T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、ナチュラルキラー細胞またはナチュラルキラーT細胞である、請求項16に記載の遺伝子改変された細胞。
【請求項18】
機能障害性P2X受容体を発現する細胞を殺滅させる方法における使用のための、請求項16または17に記載の遺伝子改変された細胞であって、該方法は、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、該遺伝子改変された細胞に曝露するステップを含む、遺伝子改変された細胞。
【請求項19】
機能障害性P2X受容体を発現する細胞が、がん細胞であ、請求項18に記載の遺伝子改変された細胞。
【請求項20】
がん細胞が、脳のがん、食道がん、口腔がん、舌がん、甲状腺がん、肺がん、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がん、上皮細胞がん、皮膚がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、および精巣がんのうちの1つまたは複数から選択される、請求項19に記載の遺伝子改変された細胞。
【請求項21】
請求項16または17に記載の遺伝子改変された細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
[0001]本出願は、2015年9月11日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2015903719号の優先権を主張し、その内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
[0002]本発明は、キメラ抗原受容体、キメラ抗原受容体を発現するT細胞、ならびにキメラ抗原受容体をがんの予防および/または治療に使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]免疫系は、様々な病因から保護する高度に進化した特異的な機序を有する。これらの病因の中でもとりわけ、細菌感染、ウイルス感染した細胞、および重要なことには、悪性新生物(がん)を引き起こし得る変異細胞など、望ましくない病原体を検出および排除することである。免疫系ががんの形成および成長を予防する能力は、「健常な」細胞と「疾患状態の」(例えば、新生物または前新生物)細胞とを区別する免疫系の細胞の能力に依存する。これは、健常な状態から疾患状態への細胞の移り変わりを示す細胞マーカー(抗原)の認識によって達成される。
【0004】
[0004]がん細胞抗原を発現する細胞を標的とするように免疫系を操作または方向付けることによってがんを治療するための免疫療法アプローチを開発しようという試みが多数なされている。免疫療法アプローチは、主に、単離抗体もしくは操作抗体を用いて体液性免疫系を利用すること、またはより最近では、免疫系の細胞アームに重点をおいてきた。
【0005】
[0005]がんの治療に細胞免疫療法を利用しようという初期の試みでは、腫瘍から単離し、エキソビボで増殖させたTリンパ球を用いていた。このアプローチは、初期の調査では当初ある程度の見込みが得られていたが、このアプローチと関連する多数の技術的問題がある。T細胞集団を単離し、臨床的に妥当な数に増殖させる能力が、技術的に問題であり、増殖の性質をうまく制御できないことにより、最終的なT細胞集団は、明らかに不均一となり、含有しているがん抗原特異的T細胞の数もわずかとなり得る。結果として、この方法の有効性は、予測不可能であり、変化しやすい。
【0006】
[0006]エキソビボで増殖させた腫瘍単離T細胞の使用と関連する不十分な点のいくつかに対処するために、キメラ抗原受容体(CARまたは人工T細胞受容体)が、1980年代後半に開発され始めた。キメラ抗原受容体は、所望される抗原に特異的な細胞外領域をシグナル伝達領域に連結させることによって作製され、その結果、T細胞機能を誘導することができる抗原特異的受容体が得られる。
【0007】
[0007]単離T細胞にCARを形質転換することによって、所与の抗原に特異的なT細胞の集団が得られる。結果として、多数の抗原特異的T細胞集団を生成し、免疫療法に使用することができる。
【0008】
[0008]CARを形質転換した、腫瘍関連抗原に特異的なT細胞の初期臨床試験は、有望であった。しかしながら、CARを形質転換したT細胞の有効性は、著しい高サイトカイン血症をもたらし、一部の患者では最終的には死亡を引き起こした。これらの副作用は、主として、健常な非がん性細胞集団におけるCARの同種抗原の内因性発現の結果として誘導される、CARを形質転換したT細胞の、標的は合っているが腫瘍は外れている活性によって誘導されると考えられる。
【0009】
[0009]したがって、がん性細胞によって選択的に発現されるが、非がん性細胞では内因的に発現されない腫瘍関連抗原を標的とするCARを開発する必要性が存在することは明らかである。
【0010】
[0010]文書、動作、材料、デバイス、物品などに関する考察は、単に本発明の文脈を提供する目的で、本明細書に含まれる。これらの問題のいずれかもしくはすべては、本出願のそれぞれの特許請求の優先権の日付よりも前に存在していたため、先行技術の基盤の一部をなしていたこと、または本発明に関連する分野における共通の一般知識であったことは、示唆されるものではなく、またはそのように示されるものでもない。
【発明の概要】
【0011】
[0011]本発明は、CARを発現する免疫細胞の著しい「標的は合っている」が「腫瘍は外れている」活性に起因して、様々な新生物(がん性)または前新生物(前がん性)細胞と特異的に関連するマーカーを標的とする、CARおよびそれを発現する遺伝子改変された細胞を開発する必要性があるという認識に、部分的に基づいている。本発明者らは、機能障害性P2X受容体が、CARを用いて標的化するのに好適なマーカーであることを認識している。
【0012】
[0012]したがって、第1の態様において、本発明は、抗原認識ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体であって、抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体を認識する、キメラ抗原受容体を提供する。
【0013】
[0013]一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位と関連するエピトープを認識する。一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体は、ATP結合部位において、野生型(機能性)P2X受容体のATP結合能力と比較して低減されたATPに結合する能力を有する。一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体は、ATP結合部位でATPに結合することができない。
【0014】
[0014]一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体は、受容体を機能障害性にする立体配置の変化を有する。一部の実施形態において、立体配置の変化は、アミノ酸のトランス配置からシス配置への変化である。一部の実施形態において、トランス配置からシス配置へ変化したアミノ酸は、機能障害性P2X受容体のアミノ酸210位のプロリンである。
【0015】
[0015]一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体のアミノ酸210位のプロリンを含むエピトープを認識する。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体のアミノ酸200位のグリシンからアミノ酸216位のシステイン(両端を含む)にわたる1つまたは複数のアミノ酸残基を含むエピトープを認識する。
【0016】
[0016]CARの抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体と相互作用し、それを特異的に認識することができる、任意の好適な分子であり得る。しかしながら、一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体またはそのフラグメントのアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体の抗原結合フラグメント(Fab)のアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む。一部の実施形態において、抗体は、ヒト化抗体である。
【0017】
[0017]一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する一本鎖可変フラグメント(scFv)または多価scFvのアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む。一部の実施形態において、多価scFvは、二価scFvまたは三価scFvである。
【0018】
[0018]一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する単一抗体ドメイン(sdAb)に対するアミノ酸配列相同性を含む。
[0019]一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体の1つまたは複数のCDR領域に対するアミノ酸配列相同性を含む結合ペプチドを含む。一部の実施形態において、結合ペプチドは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体のV鎖および/またはV鎖のCDR1、2、および3ドメインに対するアミノ酸配列相同性を含む。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号10、32、33、または34に記載される配列の30位から35位、50位から67位、または98位から108位にわたる領域のうちのいずれか1つに少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または94%同一である1つまたは複数のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号10、32、33、または34に記載される配列の30位から35位、50位から67位、または98位から108位にわたる配列のうちの1つまたは複数を含む。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号10、32、33、または34に記載される配列のうちの1つまたは複数を含む。
【0019】
[0020]一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、活性化受容体に由来する部分を含む。一部の実施形態において、活性化受容体は、CD3共受容体複合体のメンバーであるか、またはFc受容体である。一部の実施形態において、CD3共受容体複合体に由来する部分は、CD3-ζである。一部の実施形態において、Fc受容体に由来する部分は、FcεRIまたはFcγRIである。
【0020】
[0021]一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、共刺激性受容体に由来する部分を含む。一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、活性化受容体に由来する部分および共刺激性受容体に由来する部分を含む。一部の実施形態において、共刺激性受容体は、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSからなる群から選択される。
【0021】
[0022]第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。
[0023]第3の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による核酸分子を含む核酸コンストラクトを提供する。一部の実施形態において、核酸分子の発現は、転写制御配列の制御下にある。一部の実施形態において、転写制御配列は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターであり得る。
【0022】
[0024]本発明の第3の態様の一部の実施形態において、核酸コンストラクトは、核酸コンストラクトから発現されると、mRNA内での転写開始を可能にする、内部リボソーム進入部位(IRES)をさらに含む。
【0023】
[0025]本発明の第3の態様の一部の実施形態において、核酸コンストラクトは、ウイルスベクターなどのベクターであり、これを使用して、CARの発現を誘導するようにT細胞を形質転換することができる。
【0024】
[0026]第4の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるCARを含む遺伝子改変された細胞を提供する。一部の実施形態において、この細胞は、2つまたはそれ以上
の異なるCARを含む。
【0025】
[0027]第5の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による核酸分子、または本発明の第3の態様による核酸コンストラクト、またはコンストラクトのゲノム組込み形態を含む、遺伝子改変された細胞を提供する。一部の実施形態において、核酸分子または核酸コンストラクトは、2つまたはそれ以上の異なるCARをコードする。
【0026】
[0028]本発明の第4および第5の態様の一部の実施形態において、2つまたはそれ以上の異なるCARは、異なるシグナル伝達ドメインを有する。
[0029]本発明の第4および第5の態様の一部の実施形態において、細胞は、活性化受容体に由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有する第1のCARと、共刺激性受容体に由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有する第2のCARとを含む。一部の実施形態において、活性化受容体は、CD3共受容体複合体のメンバーであるか、またはFc受容体である。一部の実施形態において、共刺激性受容体は、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSからなる群から選択される。
【0027】
[0030]本発明の第4および第5の態様の一部の実施形態において、細胞は、共刺激性受容体を構成的に発現するように、さらに改変される。一部の実施形態において、細胞は、共刺激性受容体のリガンドを発現し、それによって細胞の自己刺激が促進されるように、さらに改変される。
【0028】
[0031]本発明の第4および第5の態様の一部の実施形態において、細胞は、サイトカインを分泌するように、さらに改変される。一部の実施形態において、サイトカインは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-17、およびIL-21、またはそれらの組合せからなる群から選択される。
【0029】
[0032]本発明の第4および第5の態様の一部の実施形態において、細胞は、白血球である。一部の実施形態において、細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)、リンパ球、T細胞(CD4+T細胞もしくはCD8+T細胞を含む)、ナチュラルキラー細胞、またはナチュラルキラーT細胞である。
【0030】
[0033]第6の態様において、本発明は、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を殺滅させる方法であって、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、キメラ抗原受容体を有する遺伝子改変された細胞に曝露するステップを含み、キメラ抗原受容体は、機能障害性P2X受容体に方向付けられている、方法を提供する。
【0031】
[0034]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、CARは、機能障害性P2X受容体を直接的に認識するか、または仲介物(intermediate)を介して機能障害性P2X受容体を認識する。一部の実施形態において、仲介物は、機能障害性P2X受容体に結合するプローブであり、CARは、プローブを認識する。一部の実施形態において、プローブは、抗体またはアプタマーである。一部の実施形態において、プローブは、タグを含み、CARは、タグを認識する。
【0032】
[0035]第7の態様において、本発明は、機能障害性P2X7を発現する細胞を殺滅させる方法であって、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞に曝露するステップを含む、方法を提供する。
【0033】
[0036]本発明の第6および第7の態様の一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体を発現する細胞は、外因性サイトカインとともに、遺伝子改変された細胞に曝露さ
れる。一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、機能障害性P2X受容体を発現する細胞にとって自己である遺伝子改変された細胞である。
【0034】
本発明の第6および第7の態様の一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体を発現する細胞は、がん細胞である。一部の実施形態において、がんは、脳のがん、食道がん、口腔がん、舌がん、甲状腺がん、肺がん、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がん、上皮細胞がん、皮膚がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、および精巣がんからなる群から選択される。一部の実施形態において、がんは、肺がん、食道がん、胃がん、結腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がん、膣がん、上皮細胞がん、皮膚がん、血液関連のがん、乳がん、子宮内膜がん、子宮がん、および精巣がんからなる群から選択される。
【0035】
[0037]本発明の第6および第7の態様の一部の実施形態において、がんは、転移性である。一部の実施形態において、がんは、ステージIIIのがんであるか、またはステージIVのがんである。
【0036】
[0038]第8の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞をインビトロで増殖させる方法であって、細胞を、CARの抗原に曝露するステップを含む、方法を提供する。一部の実施形態において、本方法は、細胞を、サイトカインに曝露するさらなるステップを含む。
【0037】
[0039]第9の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞をインビトロで増殖させる方法であって、細胞を、CARの抗原に曝露し、同時に、細胞をサイトカインに曝露するステップを含む、方法を提供する。
【0038】
[0040]本発明の第8および第9の態様の一部の実施形態において、サイトカインは、IL-2サブファミリー、インターフェロンサブファミリー、IL-10サブファミリー、IL-1サブファミリー、IL-17サブファミリー、またはTGF-βサブファミリーのメンバーである。
【0039】
[0041]本発明の第8および第9の態様の一部の実施形態において、サイトカインは、IFN-γ、IL-2、IL-5、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、TNF-α、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、およびGM-CSF、またはこれらの組合せからなる群から選択される。
【0040】
[0042]第10の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞をインビトロで増殖させる方法であって、細胞を、固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体に曝露するステップを含む、方法を提供する。本発明の第10の態様の一部の実施形態において、抗体は、ビーズ基板(例えば、「ヒト活性化因子」Dynabeads(商標))に固定化される。本発明の第10の態様の一部の実施形態において、抗体は、培養フラスコ、プレート、またはバイオリアクターの表面など、組織培養容器の表面に固定化される。
【0041】
[0043]第11の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。一部の実施形態において、医薬組成物は、サイトカインからなり得る好適なアジュバントを含む。一部の実施形態において、医薬組成物はまた、本明細書に記載される仲介物を含んでもよい。
【0042】
[0044]本発明の態様および利点のさらなる理解のために、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明への参照がなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】[0045]本発明の実施形態による抗非機能性(nf)P2X受容体キメラ抗原受容体(CAR)の配置を示す概略図である。
図2】[0046]図1の抗nf P2X7受容体CARの発現に使用されるBLIVプラスミドを示す概略図である。
図3】[0047]BLIVプラスミドを形質転換した大腸菌クローンから単離した、BamHIで制限酵素処理したDNAに由来する制限酵素処理フラグメントを示す電気泳動ゲルである。
図4】[0048]BLIVプラスミドを形質導入した選択された大腸菌クローンから単離した、EcoRI、BamHI、およびPstIで制限酵素処理したDNAに由来する制限酵素処理フラグメントを示す電気泳動ゲルである。
図5】[0049]BLIV-CAR-短ヒンジコンストラクトを含有するレンチウイルスベクターの構築に必要とされるプラスミドをトランスフェクト下293T細胞およびレンチウイルスベクターを含有する上清を形質導入した293T細胞の顕微鏡画像を示す図である。
図6】[0050]BLIV-CAR-長ヒンジコンストラクトを含有するレンチウイルスベクターの構築に必要とされるプラスミドをトランスフェクト下293T細胞およびレンチウイルスベクターを含有する上清を形質導入した293T細胞の顕微鏡画像を示す図である。
図7】[0051]RosetteSepヒトCD8+T細胞エンリッチメントキットで精製したT細胞の細胞純度のFACS分析である。
図8】[0052]CD8+T細胞およびBT549細胞の共培養を含む、殺滅アッセイのFACS分析である。
図9】[0053]BLIV-CAR-短ヒンジプラスミドおよびBLIV-CAR-ヒンジプラスミドを含有するレンチウイルスベクターを形質導入したCD8+T細胞の48時間の共培養後に消失した色素標識した標的細胞の割合を、形質導入していないCD8+T細胞および空のBLIVプラスミドを形質導入したCD8+T細胞と比較して図示するグラフである。
図10】[0054]PEP2-2-1-1、PEP2-472-2、およびPEP2-2-12結合ペプチドと、nf-P2X受容体に方向付けられた抗体とのアライメントである。
図11】[0055]本発明のさらなる実施形態による抗nf P2X受容体CARの配置を示す概略図である。
図12】[0056]図11の抗nf P2X受容体CARの発現に使用されるpCDHプラスミドを示す概略図である。
図13】[0057]pCDHプラスミドを形質転換した選択されたSure 2クローンから単離した、EcoRIおよびNot Iで制限酵素処理したDNAに由来する制限酵素処理フラグメントを示す電気泳動ゲルの図である。
図14】[0058]HEK293T細胞のトランスフェクション効率のFACS分析である。
図15】[0059]レンチウイルス形質導入効率のFACS分析の代表的なヒストグラムである。
図16】[0060]GFPを発現する形質転換したCD8細胞の割合のFACS分析である。
図17】[0061]非機能性P2X受容体および機能性P2X受容体の生成のための融合タンパク質の骨格の図である。
図18】[0062]pDONR-107ベクターを含有するEXD2_K193AまたはEXD2_WTを形質転換した選択されたE.cloni(登録商標)10Gクローンから単離した、Bam HIおよびPmeIで制限酵素処理したDNAに由来する制限酵素処理フラグメントを示す電気泳動ゲルの図である。
図19】[0063]pLV-416ベクターを含有するEXD2_K193AまたはEXD2_WTを形質転換した選択されたE.cloni(登録商標)10Gクローンから単離した、Bam HIで制限酵素処理したDNAに由来する制限酵素処理フラグメントを示す電気泳動ゲルの図である。
図20】[0064]HEK293細胞への、pLV-416-EXD2_K193AおよびpLV-416-EXD2_WTのレンチウイルスパッケージングの形質導入のFACS分析である。
図21】[0065]HEK293への、pLV-416-EXD2_K193AコンストラクトまたはpLV-416-EXD2_WTコンストラクトのいずれかを含有するレンチウイルスの形質導入のFACS分析である。
図22】[0066]PEP2-2-1-1、PEP2-472-2 CARを発現するT細胞による、nfP2Xを発現するHEK標的細胞および231乳がん細胞の殺滅を図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[0067]本明細書において言及されるヌクレオチド配列およびポリペプチド配列は、配列識別子番号(配列番号)によって表される。配列識別子の概要を、表1に提供する。配列表はさらに、本明細書の最後に提供される。
【0045】
【表1-1】
【0046】
【表1-2】
【0047】
[0068]本発明者らは、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞の著しい「標的は合っている」が「腫瘍は外れている」活性に起因して、新生物(がん性)細胞または前新生物(前がん性)細胞と特異的に関連するマーカーを標的とする、CARおよびそれを発現する遺伝子改変された細胞を開発する必要性があることを認識している。本発明者らは、機能障害性P2X受容体が、様々ながんにおいて、CARを発現する免疫細胞を用
いて標的化するのに好適なマーカーであることを認識している。
【0048】
[0069]したがって、第1の態様において、本発明は、抗原認識ドメインおよびシグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)であって、抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体を認識する、キメラ抗原受容体を提供する。
【0049】
[0070]キメラ抗原受容体は、細胞の表面上に発現すると、抗原特異的細胞応答を誘導することができる、人工的に構築されたタンパク質である。CARは、少なくとも2つのドメイン、すなわち、抗原を特異的に認識する抗原認識ドメインまたはより具体的には抗原のエピトープ部分である第1のドメイン、ならびに細胞内シグナル伝達経路を誘導することができるかまたはその誘導に関与することができるシグナル伝達ドメインである第2のドメインを含む。
【0050】
[0071]これらの2つのドメインの組合せにより、CARの抗原特異性および所望される細胞応答を誘導するCARの能力が決定され、後者は、CARの宿主細胞にも依存する。例えば、Tヘルパー細胞において発現され、CD3活性化ドメインを含むシグナル伝達ドメインを有する、CARの活性化は、その同種抗原に遭遇することによって活性化されると、様々なサイトカインを分泌するようにCD4+Tヘルパー細胞を誘導することができる。さらなる例において、同じCARは、CD8+細胞傷害性T細胞において発現される場合、同種抗原を発現する細胞によって活性化されると、サイトカインの放出を誘導することができ、これが、最終的には抗原発現細胞のアポトーシスの誘導をもたらす。
【0051】
[0072]抗原認識ドメインおよびシグナル伝達ドメインに加えて、CARは、追加の構成要素または部分をさらに含んでもよい。例えば、CARは、CARのシグナル伝達ドメインの一部分を含み得るかまたはそれと関連し得る、膜貫通ドメインを含んでもよい。膜貫通ドメインは、典型的には、1つまたは複数の疎水性ヘリックスであり、これが、細胞の脂質二重層に及び、CARを細胞膜内に埋め込む。CARの膜貫通ドメインは、細胞と結合したときのCARの発現パターンの1つの決定因子であり得る。例えば、CD3共受容体関連の膜貫通ドメインを使用することにより、ナイーブT細胞におけるCARの発現を可能にすることができ、一方でCD4共受容体由来の膜貫通ドメインの使用により、Tヘルパー細胞におけるCARの発現を誘導することができるが、細胞傷害性T細胞においては誘導し得ない。
【0052】
[0073]CARのさらなる構成要素または部分は、リンカードメインであり得る。リンカードメイン(スペーサーまたはヒンジドメインとしても知られる)は、膜貫通ドメインの細胞外の側から抗原認識ドメインにわたり、それによって、抗原認識ドメインを膜貫通ドメインに連結させることができる。一部の事例においては、機能性CARにリンカードメインは必要ない(すなわち、抗原認識ドメインは、膜貫通ドメインに直接接続することができる)が、一部の状況においては、リンカードメインの使用により、CARの有効性を高めることが可能となる。リンカードメインは、抗原に結合するのに必要なCARの抗原認識ドメインの配向を許容するようなCARの可動性を可能にすることを含む、様々な機能性を有し得る。結果として、リンカードメインは、この機能を行う任意のアミノ酸配列であり得る。リンカードメインの1つの非限定的な例は、IgG抗体のヒンジ領域、例えば、IgG1ヒンジ領域に対するアミノ酸配列相同性を有するドメインである。別の例としては、抗体のCHCH領域、またはCD3共受容体複合体、CD4共受容体もしくはCD8共受容体の部分に対する配列相同性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
【0053】
[0074]P2X受容体(プリン受容体P2X、リガンド開口型イオンチャネル7)は、ヒトを含むいくつかの種において発現されるATP開口型イオンチャネルである。この受容体は、ある遺伝子によってコードされるが、この遺伝子の公式の符号は、P2RX7で
ある。この遺伝子は、P2Xプリン受容体7、ATP受容体、P2Z受容体、P2X7受容体、およびプリン受容体P2X7バリアントAとも称されている。本開示の目的で、この遺伝子およびコードされる受容体は、本明細書において、それぞれ、P2X7およびP2Xと称する。
【0054】
[0075]ヒトP2X7遺伝子のmRNA配列、コーディング(cDNA)配列、およびアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号1から3に記載されている。ヒトP2X7遺伝子のmRNA配列およびアミノ酸配列はまた、それぞれ、GenBank受託番号NM_002562.5およびNP_002553.3によっても表される。P2X7遺伝子はチンパンジー、アカゲザル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ブタ、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、およびカエルにおいて保存されている。ヒトおよび他の種におけるP2X7遺伝子のさらなる詳細は、National Centre for Biotechnology Information(NCBI)(www.ncbi.nlm.nih.gov)において、GenBankデータベースからアクセスすることができる。例えば、ヒトP2X7のGene識別子番号は5027であり、チンパンジーのものは452318であり、サルのものは699455であり、イヌのものは448778であり、ウシのものは286814であり、マウスのものは18439であり、ゼブラフィッシュのものは387298であり、カエルのものは398286である。さらに、少なくとも73種類の生物が、ヒトP2X7遺伝子とのオルソログを有する。
【0055】
[0076]ヒトおよび他の種におけるP2X7遺伝子に関するさらなる詳細は、NCBIのUniGeneポータルにおいても見出すことができる(例えば、ヒトP2XについてはUniGene Hs.729169-http://www.ncbi.nlm.nih.gov/UniGene/clust.cgi?UGID=4540770&TAXID=9606&SEARCHを参照されたい)。あるいは、P2X7遺伝子のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の詳細は、UniProtデータベース(www.uniprot.org)からアクセスすることができ、その場合、ヒトP2X7遺伝子のUniProt識別子は、Q99572である。GenBankおよびUniProtの記録の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
[0077]P2X受容体は、3つのタンパク質サブユニット(モノマー)から形成され、ここで、ヒトにおける天然の受容体においては、これらのモノマーのうちの少なくとも1つが、配列番号3に記載されるアミノ酸配列を有する。本明細書において言及される「P2X受容体」は、スプライスバリアントを含めてこの受容体の天然に存在する変化形、この受容体の天然に存在する切断形態およびアレルバリアントも含むことを理解されたい。P2X受容体はまた、改変されたアミノ酸配列を有するサブユニット、例えば、配列番号3に記載されるアミノ酸の切断、アミノ酸欠失、または修飾を含むものも含み得る。
【0057】
[0078]P2X7遺伝子またはコードされるタンパク質の「バリアント」は、それぞれ、例えば、天然のP2X受容体に少なくとも80%同一である、少なくとも90%同一である、少なくとも95%同一である、少なくとも98%同一である、少なくとも99%同一である、または少なくとも99.9%同一である、核酸配列またはアミノ酸配列を呈し得る。
【0058】
[0079]P2X受容体は、ATPが、受容体のATP結合部位に結合することによって、活性化される。これにより、チャネルの急速な開口(数ミリ秒以内)が引き起こされ、これは、小さなカチオンが膜を横切って移動することを選択的に可能にする。短時間(数秒以内)後に、細胞膜に大きな孔が形成され、これにより、最大で900Daのサイズの分子による細胞膜の透過が可能となる。この孔形成が、最終的に、細胞の脱分極化をもたらし、多くの場合には、細胞傷害性および細胞死滅をもたらす。この役割は、P2X受容体が、様々な細胞型においてアポトーシスに関与しているという考えにつながっている。
【0059】
[0080]Bcl2およびBaxなど、アポトーシスに関与する他の分子と同様に、P2X受容体の機能の低下または消失は、誘導されるアポトーシスに比較的耐性である細胞をもたらし得る。多くの事例において、アポトーシスに対するこの耐性は、正常な「健常」細胞から変異した前がん性細胞またはがん性細胞への移り変わりにおいて重要である。結果として、低下した機能または機能の消失を有する細胞を標的とするP2X受容体の能力が、がん療法の有望な標的をもたらす。
【0060】
[0081]したがって、本発明の第1の態様において、CARは、機能障害性P2X受容体を認識する。P2X受容体に関して、本明細書全体を通じて使用される「機能障害性」という用語は、正常な非腫瘍細胞におけるその相当する機能と比べた、受容体の機能の低下を含む。一部の実施形態において、P2X受容体の機能は、少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または99%を上回って低下している可能性がある。一部の実施形態において、「機能障害性」という用語は、非機能性であるP2X受容体を含み得る。これは、P2X受容体が、細胞膜を横切ったカチオンまたは他の分子の透過を許容するように誘導することができないことを意味する。
【0061】
[0082]P2X機能障害性受容体をもたらす、受容体の野生型または天然形態における任意の変化が、本明細書に包含される。例えば、機能障害性受容体は、受容体へのATPの結合と関連する、受容体の1つまたは複数のアミノ酸における変異または改変の結果であり得る。実際に、P2X受容体は、ATP結合部位においてATPに結合する能力が低減されている場合、またはそれに結合できない場合、機能障害性である。この事例において、キメラ抗原受容体の抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体のATP結合部位と関連するエピトープを認識すると予想される。結果として、本発明の第1の態様の一部の実施形態において、キメラ抗原受容体の抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体のATP結合部位と関連するエピトープを認識する。一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体は、野生型(機能性)P2X受容体のATP結合能力と比較して低減されたATPに結合する能力を有する。一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体は、ATPに結合することができない。
【0062】
[0083]P2X受容体の1つまたは複数のアミノ酸における改変は、この受容体の1つまたは複数のアミノ酸における立体配置の変化を含み得る。したがって、本発明の第1の態様の一部の実施形態において、キメラ抗原受容体は、受容体を機能障害性にする立体配置の変化を有する機能障害性P2X受容体に結合する。具体的には、この立体配置の変化は、P2X受容体の1つまたは複数のアミノ酸の、トランス配置からシス配置への変化であり得る。一部の実施形態において、P2X受容体の210位のプロリンが、トランス配置からシス配置に変化する。この事例において、CARの抗原認識ドメインは、P2X受容体のアミノ酸210位のプロリンを含むエピトープを認識し得る。本発明の第1の態様の一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体のアミノ酸200位のグリシンからアミノ酸216位のシステイン(両端を含む)にわたる1つまたは複数のアミノ酸を含むエピトープを認識する。本発明の第1の態様の一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体の210位のプロリン、および機能障害性P2X受容体のアミノ酸200位のグリシンからアミノ酸216位のシステイン(両端を含む)にわたるアミノ酸残基のうちの1つまたは複数を含む、エピトープを認識する。
【0063】
[0084]理論によって束縛されることを望むものではないが、P2X受容体の210位
のプロリンの立体配置の変化の結果として、受容体の3次元構造が改変され得る。この3次元構造の改変により、CARの抗原認識ドメインが、これまでP2X受容体の天然の3次元構造ではアクセスできなかったアミノ酸またはエピトープに結合することが可能となる。したがって、一部の実施形態において、CARは、配列番号3の210位のプロリンのトランスからシスへの立体配置の変化の結果として抗原認識ドメインに曝露される、P2X受容体の1つまたは複数のエピトープを認識する。これらのエピトープには、P2X受容体の200位から210位、または297位から306位(両端を含む)のアミノ酸のうちの1つまたは複数が含まれ得る。したがって、本発明の第1の態様の一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、P2X受容体の200位から210位および/または297位から306位のアミノ酸のうちの1つまたは複数を含むエピトープを認識する。
【0064】
[0085]本明細書全体を通じて使用される「認識する」という用語は、抗原認識ドメインが機能障害性P2X受容体、その一部分、またはそのエピトープと結合する能力に関連する。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体、またはそのエピトープに直接結合してもよい。他の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体のプロセシングされた形態に結合してもよい。この文脈で使用されるとき、「プロセシングされた形態」という用語は、細胞内プロセシングの結果として切断または消化されているP2X受容体の形態に関連する。結果として、機能障害性P2X受容体の「プロセシングされた形態」の認識は、主要組織適合複合体(MHC)と結合して提示される結果であり得る。
【0065】
[0086]抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体またはそのエピトープを認識することができる、任意の好適なドメインであり得る。本明細書全体を通じて使用される「抗原認識ドメイン」という用語は、CARの機能障害性P2X受容体に対する特異性を提供するCARの部分を指す。抗原認識ドメインは、CARの細胞外領域のすべてであってもよく、または単にその一部であってもよい。好適な抗原認識ドメインとしては、機能障害性P2X受容体に結合する抗体またはそのフラグメントの抗原結合部位に対する配列相同性を有するポリペプチドが挙げられるがこれに限定されない。したがって、本発明の第1の態様の一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体またはそのフラグメントに対する相同性を有するアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、抗原認識ドメインの一部分は、機能障害性P2X受容体に結合する抗体またはそのフラグメントに対する相同性を有するアミノ酸配列を含む。起源となる相同性抗体配列は、P2X受容体に対する親和性を有する抗体の任意の好適な配列であり得る。例えば、配列は、以下の種;ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、フェレット、イヌ、ニワトリ、ネコ、モルモット、ハムスター、ウマ、ウシ、またはブタのうちの1つまたは複数を起源とする抗体と配列相同性を共有し得る。抗原認識ドメインは、ハイブリドーマ細胞株から産生されたモノクローナル抗体の配列と配列相同性を共有し得る。相同性抗体配列の起源となる種が、ヒトでない場合、抗体は、ヒト化抗体であることが好ましい。相同性抗体配列はまた、軟骨魚類などの非哺乳動物種に由来してもよい(例えば、サメIgNAR抗体、国際公開第2012/073048号を参照されたい)。あるいは、抗原結合ドメインは、サメIgNAR抗体に基づく結合部分を有するiボディなど、サメ抗体に類似の機能性を提供する改変されたタンパク質骨格を含み得る(国際公開第2005/118629号を参照されたい)。加えて、抗原認識ドメインは、CARシグナル伝達ドメインを活性化するのに十分な親和性で、機能障害性P2X受容体と選択的に相互作用することができる任意の他の好適な結合分子またはペプチドであってもよく、それに由来してもよく、またはそれと配列相同性を共有してもよい。抗原結合タンパク質を特定するための方法、とりわけ、ファージディスプレイライブラリーのパンニング、タンパク質親和性クロマトグラフィー、共免疫沈降、および酵母ツーハイブリッドシステムなどが、当該技術分野で公知である(Srinivasa Rao,V.ら、Int J Proteomics,2014;論文番号147648を参照されたい)。
【0066】
[0087]一部の実施形態において、CARの抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体の抗原結合フラグメント(Fab)部分のアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む。当該技術分野では理解されるように、抗体のFab部分は、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれの1つの定常領域および1つの可変領域から構成される。Fabは、抗体の抗原決定基領域であり、抗体からFc領域を酵素的に切断することによって生成することができる。
【0067】
[0088]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する一本鎖可変フラグメント(scFv)のアミノ酸配列に相同性のアミノ酸配列を含む。当該技術分野では理解されるように、scFvは、抗体の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)と相同性を共有し得るかまたはそれらと同一であり得る2つの部分を含み、これらの2つの部分が、リンカーペプチドによって一緒に接続された、融合タンパク質である。例えば、scFvは、機能障害性P2X受容体を認識する抗体に由来するVHおよびVLアミノ酸配列を含み得る。この文脈において、「に由来する」という用語は、ポリペプチドの起源そのものに言及するのではなく、むしろ、抗原結合領域の一部分を構成するアミノ酸配列の由来を指すことが理解されると予想される。結果として、「に由来する」という用語は、機能障害性P2X受容体に結合する抗体と配列同一性を共有する、合成により、人工的に、またはそれ以外の方法で作製されたポリペプチドを含む。
【0068】
[0089]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する多価scFvのアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む。一部の実施形態において、多価scFvは、二価scFVまたは三価scFvである。
【0069】
[0090]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する一本鎖抗体ドメイン(sdAb)のアミノ酸配列を有する。
[0091]一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号10、配列番号32、配列番号33、もしくは配列番号34に記載されるアミノ酸配列、またはそれらの機能性バリアントを含む。
【0070】
[0092]一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体の1つまたは複数のCDR領域と相同性のアミノ酸配列を含む、結合ペプチドを含む。一部の実施形態において、結合ペプチドは、機能障害性P2X受容体に結合する抗体のV鎖および/またはV鎖のCDR1、2、および3ドメインと配列相同性を有する1つまたは複数の領域を含む。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号10、32、33、または34に記載される配列の30位から35位、50位から67位、または98位から108位にわたるCDR領域のうちのいずれか1つに少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または94%同一である1つまたは複数の配列を含む。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号10、32、33、または34に記載される配列の30位から35位、50位から67位、または98位から108位にわたる配列のうちの1つまたは複数を含む。配列番号10、32、33、または34に記載される抗原結合ペプチドのCDR領域の間には、CDR領域の適切な形成および配置を可能にする任意の公的な配列が存在し得る。一部の実施形態において、抗原認識ドメインは、配列番号10、32、33、または34に記載される配列のうちの1つに50%、60%、70%、80%、または90%、95%、または99%同一な配列を含む。
【0071】
[0093]好適なアミノ酸配列が由来し得る、機能障害性P2X受容体に方向付けられた抗体、およびそのような抗体を産生するための方法は、当該技術分野で説明されている(例えば、国際公開第2001/020155号、同第2003/020762号、同第2008/043145号、同第2008/043146号、同第2009/033233号、同第2011/020155号、および同第2011/075789号を参照されたい)。特定のエピトープ(前述のものなど)に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を生成するための方法は、当業者には公知であると予想される。概要として、所望されるエピトープ(210位のプロリンを含む機能障害性P2X受容体のセグメントなど)を、適切な免疫原性担体タンパク質およびアジュバントの存在下において、好適な宿主動物に注射する。次いで、血清を、免疫付与した動物から採取し、抗体を、その抗体クラスまたはその抗原特異性に基づいて単離することができる。精製した抗体の適合性および特異性の評価の後に、抗体を、さらにプロセシングして抗原結合フラグメントを単離するか、または配列決定を行って関連するVHおよびVLドメインを特定することができる。機能障害性P2X受容体に方向付けられた抗体の産生に好適なエピトープは、当該技術分野で公知である(例として、国際公開第2008/043146号、同第2010/000041号、および同第2009/033233号を参照されたい)。
【0072】
[0094]CARのシグナル伝達ドメインは、CARの抗原認識ドメインによる抗原の認識の結果として、CARが活性化されると、細胞内シグナル伝達カスケードを誘導することができるか、またはその誘導に関与することができる、任意の好適なドメインであり得る。CARのシグナル伝達ドメインは、CARの活性化後に所望される細胞内結果に応じて、特異的に選択されることになる。可能性のあるシグナル伝達ドメインは多数あるが、免疫療法およびがん療法において使用される場合、シグナル伝達ドメインは、それらが由来する受容体に基づいて、2つの一般的なカテゴリー、すなわち、活性化受容体および共刺激性受容体に分類することができる(以下のさらなる詳述を参照されたい)。したがって、本発明の第1の態様の一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、活性化受容体に由来する部分を含む。一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、共刺激性受容体に由来する部分を含む。
【0073】
[0095]本明細書全体を通じて使用される「部分」という用語は、活性化受容体または共刺激性受容体に関して使用されるとき、受容体とその同種抗原またはリガンドとの相互作用後に細胞内シグナル伝達カスケードの開始/誘導を担うかまたはそれに関与する配列を含む、受容体の任意のセグメントに関連する。CD3を介したT細胞受容体(TCR)の細胞内シグナル伝達カスケードの開始/誘導の例を、以下に概説する。
【0074】
[0096]理論によって束縛されることを望むものではないが、TCRの細胞外部分は、主に、クローン形質のTCRα鎖およびTCRβ鎖(TCRα/β受容体)またはTCRγ鎖およびTCRδ鎖(TCRγδ受容体)のいずれかのヘテロ二量体で構成される。これらのTCRヘテロ二量体は、一般に、本質的なシグナル伝達能力を欠き、したがって、それらは、CD3の複数のシグナル伝達サブユニット(主に、CD3-ゼータ、CD3-ガンマ、CD3-デルタ、およびCD3-イプシロン)と非共有結合で結合する。CD3のガンマ鎖、デルタ鎖、およびイプシロン鎖のそれぞれは、単一の免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む細胞内(細胞質)部分を有し、一方で、CD3-ゼータ鎖は、3つのタンデムITAMを含む。MHCの存在下におけるTCRとその同種抗原との結合、およびCD4またはCD8などの必須共受容体の結合が生じると、シグナル伝達が開始され、その結果、チロシンキナーゼ(すなわち、Lck)によるCD3鎖の細胞内ITAM内の2つのチロシン残基のリン酸化が生じる。結果として、第2のチロシンキナーゼ(ZAP-70、これ自体が、Lckリン酸化によって活性化される)が、ITAMを二リン酸化(biphosphorylate)するように動員される。結果として、複
数の下流標的タンパク質が活性化され、これが、最終的に、細胞内立体配置の変化、カルシウム動員、およびアクチン細胞骨格再構成を引き起こし、こられは、組み合わされると、最終的に、転写因子の活性化およびT細胞免疫応答の誘導を引き起こす。
【0075】
[0097]本明細書全体を通じて使用される「活性化受容体」という用語は、T細胞受容体(TCR)複合体の構成要素を形成するかもしくはTCRの形成に関与する受容体もしくは共受容体、または抗原性刺激もしくは他の免疫原性刺激の認識の結果として免疫細胞の特異的な活性化に関与する受容体に関連する。
【0076】
[0098]そのような活性化受容体の非限定的な例としては、T細胞受容体-CD3複合体の構成要素(CD3-ゼータ、CD3-ガンマ、CD3-デルタ、およびCD3-イプシロン)、CD4共受容体、CD8共受容体、FC受容体、またはLY-49(KLRA1)、天然の細胞傷害性受容体(NCR、好ましくはNKp46、NKp44、NKp30、もしくはNKG2、もしくはCD94/NKG2ヘテロ二量体)などのナチュラルキラー(NK)細胞関連活性化受容体が挙げられる。結果として、本発明の第1の態様の一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、CD3共受容体複合体のメンバー(好ましくは、CD3-ζ鎖もしくはその一部分)、CD4共受容体、CD8共受容体、Fc受容体(FcR)(好ましくは、FcεRIもしくはFcγRI)、またはLY-49などのNK関連受容体のうちのいずれか1つまたは複数に由来する部分を含む。
【0077】
[0099]CD3鎖のそれぞれの具体的な細胞内シグナル伝達部分は、当該技術分野で公知である。例として、CD3ζ鎖の細胞内細胞質領域は、配列番号4に記載される配列のアミノ酸52からアミノ酸164にわたり、3つのITAM領域は、配列番号4のアミノ酸61から89、100から128、および131から159にわたる。さらに、CD3ε鎖の細胞内部分は、配列番号5に記載される配列のアミノ酸153から207にわたり、単一のITAM領域は、配列番号5のアミノ酸178から205にわたる。CD3γ鎖の細胞内部分は、配列番号6に記載される配列のアミノ酸138から182にわたり、単一のITAM領域は、配列番号6のアミノ酸149から177にわたる。CD3δの細胞内部分は、配列番号7に記載される配列のアミノ酸127から171にわたり、単一のITAM領域は、配列番号7のアミノ酸138から166にわたる。
【0078】
[0100]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、CD3(CD3-ζ鎖もしくはその一部分)またはFC受容体(好ましくは、FcεRIもしくはFcγRI)のうちのいずれか1つに由来する部分を含む。一部の実施形態において、CD3-ζ共受容体複合体の部分は、配列番号22に記載されるアミノ酸配列またはその機能性バリアントを含む。
【0079】
[0101]FC受容体の細胞内部分は、当該技術分野で公知である。例えば、FcεR1の細胞内部分は、配列番号8に記載される配列のアミノ酸1から59、118から130、および201から244にわたる。さらに、FcγRIの細胞内部分は、配列番号9に記載される配列のアミノ酸314から374にわたる。
【0080】
[0102]活性化受容体の部分の様々な組合せを用いて、CARの膜貫通(TM)部分および細胞内(IC)部分、例えば、CD3ζ TMおよびCD3ζ IC(Landmeier S.ら、Cancer Res.2007;67:8335-43、Guest RD.ら、J Immunother.2005,28:203-11、Hombach
AA.ら、J Immunol.2007;178:4650-7)、CD4 TMおよびCD3ζ IC(James SE.ら、J Immunol.2008;180:7028-38)、CD8 TMおよびCD3ζ IC(Patel SD.ら、Gene Ther.1999;6:412-9)、ならびにFcεRIγ TMおよびFcε
RIγ IC(Haynes NM.ら、J Immunol.2001;166:182-7、Annenkov AE.ら、J Immunol.1998;161:6604-13)を形成することができる。
【0081】
[0103]本明細書全体を通じて使用される「共刺激性受容体」という用語は、活性化受容体の抗原特異的誘導が起こると、免疫細胞の活性化を補助する受容体または共受容体に関連する。理解されるように、共刺激性受容体は、抗原の存在を必要とせず、抗原特異的でもないが、典型的に、2つのシグナルのうちの1つであり、他方が免疫細胞応答の誘導に必要な活性化シグナルである。免疫応答の文脈において、共刺激受容体は、典型的に、樹状細胞またはマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)の表面上に発現されるそのリガンドの存在によって活性化される。T細胞に関して具体的に述べると、共刺激は、細胞の活性化、増殖、分化、および生存(これらのすべては、通常、T細胞活性化の傘下にあると称される)をもたらすために必要であるが、共刺激の不在下において抗原がT細胞に提示されると、アネルギー、クローン除去、および/または抗原特異的寛容性の発生が生じ得る。重要なことに、共刺激性分子は、T細胞応答を、同時に遭遇した抗原に伝えることができる。一般に、「正の」共刺激性分子の状況において遭遇した抗原は、T細胞の活性化をもたらし、その抗原を発現する細胞を排除することを目的とする細胞免疫応答を引き起こすと予想される。一方で、「負の」共受容体の状況において遭遇した抗原は、同時に遭遇した抗原に対する寛容状態の誘導をもたらすと予想される。
【0082】
[0104]T細胞共刺激性受容体の非限定的な例としては、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、ICOSが挙げられる。具体的には、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSは、すべてが、T細胞応答の活性化を増強させる、「正の」共刺激性分子を表す。したがって、本発明の第1の態様の一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSのうちのいずれか1つまたは複数に由来する部分を含む。
【0083】
[0105]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、CD28、OX40、または4-1BB共刺激性受容体に由来する部分を含む。一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、CD28共刺激性受容体の一部分を含む。一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、OX40共刺激性受容体の一部分を含む。一部の実施形態において、OX40共刺激性受容体の部分は、配列番号20に記載されるアミノ酸配列またはその機能性バリアントを含む。
【0084】
[0106]共刺激性受容体の部分の様々な組合せを用いて、CARの膜貫通(TM)部分および細胞内(IC)部分を形成することができる。例えば、CD8 TMおよびDAP10 ICまたはCD8 TMおよび4-1BB IC(Marin V.ら、Exp Hematol.2007;35:1388-97)、CD28 TMおよびCD28 IC(Wilkie S.ら、J Immunol. 2008;180:4901-9、Maher J.ら、Nat Biotechnol.2002;20:70-5)、ならびにCD8 TMおよびCD28 IC(Marin V.ら、Exp Hematol.2007;35:1388-97)。
【0085】
[0107]上記で言及した活性化受容体および共刺激性受容体の配列の情報は、様々なデータベースにおいて容易にアクセス可能である。例えば、これらの受容体に関するヒトのアミノ酸、遺伝子、およびmRNA配列の実施形態は、表2に提供される。
【0086】
【表2】
【0087】
[0108]表2は、ヒトの活性化受容体および共刺激性受容体に関連して提供されるが、当業者であれば、それぞれの受容体のホモログ形およびオルソログ形が、哺乳動物種および脊椎動物種の大半に存在することを理解すると予想される。したがって、上記で言及した配列は、本発明の第1の態様のCARに含まれ得る受容体配列、ならびに所与の種に好適なCARを生成するために使用され得る任意の所望される種に由来するホモログ配列およびオルソログ配列の非限定的な例として提供されるに過ぎない。
【0088】
[0109]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、シグナル伝達ドメインは、活性化受容体に由来する部分および共刺激性受容体に由来する部分を含む。理論によって束縛
されることを望むものではないが、この文脈において、CARの抗原認識ドメインによる抗原の認識は、細胞内活性化シグナルおよび細胞内共刺激性シグナルの両方を同時に誘導すると予想される。結果として、これにより、共刺激性リガンドを発現するAPCによる抗原の提示が刺激されると予想される。あるいは、CARは、活性化受容体または共刺激性受容体のいずれかに由来する部分を誘導するシグナル伝達ドメインを有してもよい。この代替的な形態において、CARは、活性化細胞内シグナル伝達カスケードまたは共刺激性細胞内シグナル伝達カスケードのいずれかを誘導するだけである。
【0089】
[0110]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、CARは、単一の活性化受容体に由来する1つの部分および複数の共刺激性受容体に由来する複数の部分を含む、シグナル伝達ドメインを有すると予想される。一部の実施形態において、CARは、複数の活性化受容体に由来する複数の部分および単一の共刺激性受容体に由来する1つの部分を含む、シグナル伝達ドメインを有すると予想される。一部の実施形態において、CARは、複数の活性化受容体に由来する複数の部分および複数の共刺激性受容体に由来する複数の部分を含む、シグナル伝達ドメインを有すると予想される。一部の実施形態において、CARは、単一の活性化受容体に由来する1つの部分および2つの共刺激性受容体に由来する複数の部分を含む、シグナル伝達ドメインを有すると予想される。一部の実施形態において、CARは、単一の活性化受容体に由来する1つの部分および3つの共刺激性受容体に由来する複数の部分を含む、シグナル伝達ドメインを有すると予想される。一部の実施形態において、CARは、2つの活性化受容体に由来する複数の部分および1つの共刺激性受容体に由来する1つの部分を含む、シグナル伝達ドメインを有すると予想される。一部の実施形態において、CARは、2つの活性化受容体に由来する複数の部分および2つの共刺激性受容体に由来する複数の部分を含む、シグナル伝達ドメインを有すると予想される。理解されるように、シグナル伝達ドメインが由来し得る活性化受容体および共刺激性受容体の数のさらなる変化形が存在し、上述の例は、本明細書に含まれる可能な組合せを限定しないものとみなされる。
【0090】
[0111]本発明の第1の態様の一部の実施形態において、キメラ抗原受容体は、配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、もしくは配列番号54に記載されるアミノ酸配列、または配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、もしくは配列番号54の機能性バリアントを含む。一部の実施形態において、機能性バリアントは、配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、または配列番号54に少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0091】
[0112]上記に示されるように、本発明は、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちのいずれか1つの機能性バリアントを含む。本発明の文脈において、「機能性バリアント」は、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちのいずれか1つの機能を維持する限り、任意のアミノ酸配列を含み得る。
【0092】
[0113]したがって、機能性バリアントが、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちの1つの機能を維持する限り、機能性バリアントは、例えば、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちの1つに対する1つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失、または置換;配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちの1つの変異体形態またはアレルバリアント;配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちの1つのオルソログ;配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちの1つのホモログ(homeologue);配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちの1つのアナログなどを有し得る。
【0093】
[0114]例えば、配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、または配列番号54に関して、配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、または配列番号54を含むキメラ抗原受容体の機能は、機能性P2X受容体の有意な認識を伴うことなく、機能障害性P2X受容体を認識し、CARを発現するT細胞の活性化をもたらす細胞内シグナルを誘導することである。当業者には理解されるように、配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、または配列番号54に記載されるキメラ抗原受容体のアミノ酸配列の部分に対する変化は、機能障害性P2X受容体の認識および/またはCARを発現するT細胞の活性化の有意な改変を伴わずに行うことができる。そのような変化には、キメラ抗原受容体のヒンジ領域における変化、膜貫通ドメインにおける変化、ならびにキメラ抗原受容体の細胞内ドメインを構成する活性化受容体および/または共刺激性受容体の部分における変化が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0094】
[0115]上記に示されるように、機能性バリアントは、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちの1つと比べて、個別のアミノ酸置換、欠失、または挿入を含み得る。例えば、当業者であれば、任意のアミノ酸が、化学的に(機能的に)類似のアミノ酸と置換され得、ポリペプチドの機能を保持し得ることを認識すると予想される。そのような保存的アミノ酸置換は、当該技術分野で周知である。以下の表3の群は、それぞれ、互いに保存的置換である、アミノ酸を含む。
【0095】
【表3】
【0096】
[0116]さらに、所望される場合、非天然のアミノ酸または化学的アミノ酸アナログを、置換または付加として、本明細書に包含されるポリペプチドに導入することができる。そのようなアミノ酸としては、一般的なアミノ酸のD異性体、2,4-ジアミノ酪酸、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、2-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロ-アミノ酸、デザイナーアミノ酸、例えば、β-メチルアミノ酸、Cα-メチルアミノ酸、Nα-メチルアミノ酸、ならびに一般のアミノ酸アナログが挙げられるがこれらに限定されない。
【0097】
[0117]上述のように、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちのいずれか1つの機能性バリアントは、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちのいずれか1つに少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含み得る。他の実施形態において、機能性バリアントは、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、または配列番号54のうちのいずれか1つに対して、少なくとも85%のアミノ酸配列同一性、少なくとも90%のアミノ酸配列同一性、少なくとも91%のアミノ酸配列同一性、少なくとも92%のアミノ酸配列同一性、少なくとも93%のアミノ酸配列同一性、少なくとも94%のアミノ酸配列同一性、少なくとも95%のアミノ酸配列同一性、少なくとも96%のアミノ酸配列同一性、少なくとも97%のアミノ酸配列同一性、少なくとも98%のアミノ酸配列同一性、少なくとも99%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、もしくは99.9%のアミノ酸配列同一性を含み得る。
【0098】
[0118]アミノ酸配列を比較するとき、配列はポリペプチドの長さによって決定される比較枠にわたって、比較すべきである。例えば、配列番号10、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号26、配列番号27、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号52、配列番号53、もしくは配列番号54のうちのいずれか1つの少なくとも20アミノ酸残基、少なくとも50アミノ酸残基、少なくとも75アミノ酸残基、少なくとも100アミノ酸残基、少なくとも200アミノ酸残基、少なくとも300アミノ酸残基、少なくとも400アミノ酸残基、少なくとも500アミノ酸残基、少なくとも600アミノ酸残基、または全長にわたる比較枠が、奥底される。比較枠は、2つの配列の最適なアライメントのために、基準配列(付加または欠失を含まない)と比較して、約20%またはそれ未満の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。比較枠をアライメントするのに最適な配列のアライメントは、例えば、Altschulら、1997,Nucl.Acids Res.25:3389-3402によって開示されるBLASTファミリーのプログラムなどのアルゴリズムのコンピューターによる実装によって実行することができる。グローバルアライメントプログラムもまた、サイズがほぼ同等の類似の配列をアライメントするのに使用され得る。グローバルアライメントプログラムの例としては、EMBOSSパッケージ(Rice Pら、2000,Trends Genet.,16:276-277)の一部であるNEEDLE(www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/で入手可能)、およびFASTAパッケージ(Pearson WおよびLipman D,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444-2448)の一部であるGGSEARCHプログラム(fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_www.cgi?rm=compare&pgm=gnwで入手可能)が挙げられる。これらのプログラムはいずれも、2つの配列の最適なアライメント(ギャップを含める)をそれらの全長に沿って見出すために使用されるNeedleman-Wunschアルゴリズムに基づく。配列分析の詳細な考察はまた、Ausubelら(“Current Protocols in Molecular Biology”John Wiley&Sons Inc,1994-1998,Chapter 15,1998)のユニット19.3に見出すことができる。
【0099】
[0119]第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。一部の実施形態において、核酸分子は、非天然の核酸分子である。
【0100】
[0120]本発明の第2の態様の一部の実施形態において、核酸分子は、配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、もしくは配列番号54に記載されるアミノ酸配列をコードするか、または配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、もしくは配列番号54の機能性バリアントをコードする、ヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態において、機能性バリアントは、配列番号26、配列番号27、配列番号52、配列番号53、または配列番号54に少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0101】
[0121]核酸分子は、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを含み得、これは、修飾されていなくても修飾されていてもよいRNAまたはDNAであり得る。例えば、核酸分子としては、一本鎖および/または二本鎖のDNA、一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖のRNA、ならびに一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖であってもよく、より典型的には二本鎖であってもよく、または一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であってもよい、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が挙げられる。加えて、核酸分子は、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む、三本鎖領域を含んでもよい。核酸分子はまた、1つもしくは複数の修飾塩基、または安定性もしくは他の理由のために修飾を受けたDNAもしくはRNA骨格を含んでもよい。様々な修飾が、DNAおよびRNAになされ得、したがって、「核酸分子」という用語は、化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態を包含する。
【0102】
[0122]本発明の第2の態様の一部の実施形態において、核酸分子は、配列番号28、配列番号29、配列番号35、配列番号36、または配列番号37に記載されるヌクレオチド配列を含む。
【0103】
[0123]配列番号26、配列番号27、配列番号35、配列番号36、もしくは配列番号37に記載されるアミノ酸配列、または配列番号26、配列番号27、配列番号35、配列番号36、もしくは配列番号37の機能性バリアントを有するキメラ抗原受容体をコードするいずれのヌクレオチド配列も、本発明によって企図されることが、当業者には理解されると予想される。例えば、配列番号28、配列番号29、配列番号35、配列番号36、または配列番号37とは異なる1つまたは複数の核酸を含むが、依然として同一のアミノ酸配列をコードする、配列番号28、配列番号29、配列番号35、配列番号36、または配列番号37のバリアントが、企図される。遺伝子コードの縮重のため、多数の核酸が、任意の所与のタンパク質をコードし得る。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべてが、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、配列番号28、配列番号29、配列番号35、配列番号36、または配列番号37におけるアラニンがコドンによって指定されているすべての位置で、コドンは、コードされるポリペプチドを改変することなく、記載された対応するコドンのいずれかに改変されてもよい。したがって、配列番号26、配列番号27、配列番号35、配列番号36、もしくは配列番号37に記載されるアミノ酸配列、または配列番号26、配列番号27、配列番号35、配列番号36、もしくは配列番号37の機能性バリアントを有するキメラ抗原受容体をコードする本明細書のあらゆるヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列のあらゆる可能性のあるサイレント変化を示す。当業者であれば、核酸のそれぞれのコドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGは除く)を改変して、機能的に同一の分子を得ることができることを理解すると予想される。したがって、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のあらゆるサイレント変化が、それぞれの記載の配列で黙示される。
【0104】
[0124]第3の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による核酸分子を含む核酸コンストラクトを提供する。核酸コンストラクトは、1つもしくは複数の宿主の複製起点、1つもしくは複数の宿主において活性な選択可能なマーカー遺伝子、および/または1つもしくは複数の転写制御配列のうちの1つまたは複数のさらに含んでもよい。
【0105】
[0125]本明細書に使用されるとき、「選択可能なマーカー遺伝子」という用語は、コンストラクトがトランスフェクトまたは形質転換された細胞の特定および/または選択を容易にするように、遺伝子が発現される細胞に、表現型を付与する任意の遺伝子を含む。
【0106】
[0126]「選択可能なマーカー遺伝子」は、コンストラクトが形質転換された細胞によって発現されると、これらの形質転換された細胞の特定および/または選択を容易にする表現型を細胞に付与する、任意のヌクレオチド配列を含む。好適な選択可能なマーカーをコードする様々なヌクレオチド配列が、当該技術分野で公知である(例えば、Mortesen,RM.およびKingston RE.Curr Protoc Mol Biol,2009;Unit 9.5)。選択可能なマーカーをコードする例示的なヌクレオチド配列としては、アデノシンデアミナーゼ(ADA)遺伝子;シトシンデアミナーゼ(CDA)遺伝子;ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子;ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)遺伝子;ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ(PAC)遺伝子;チミジンキナーゼ(TK)遺伝子;キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)遺伝子、または抗生物質耐性遺伝子、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブレオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、およびアンピシリン耐性遺伝子、蛍光レポーター遺伝子、例えば、緑色、赤色、黄色、もしくは青色の蛍光タンパク質コーディング遺伝子;ならびに中でもとりわけ、蛍光活性化細胞分類(FACS)などの技法を使用して細胞の光学的選択を可能にする、発光に基づくレポーター遺伝子、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子が挙げられる。
【0107】
[0127]さらに、選択可能なマーカー遺伝子は、コンストラクト中の異なるオープンリーディングフレームであってもよく、または別のポリペプチド(例えば、CAR)との融合タンパク質として発現してもよいことに留意されたい。
【0108】
[0128]上述のように、核酸コンストラクトはまた、1つまたは複数の転写制御配列を含んでもよい。「転写制御配列」という用語は、作動可能に接続されている核酸の転写を実行する任意の核酸配列を含むと理解されるべきである。転写制御配列には、例えば、リーダー、ポリアデニル化配列、プロモーター、エンハンサーまたは上流活性化配列、および転写終結因子が含まれ得る。典型的には、転写制御配列は、少なくとも、プロモーターを含む。「プロモーター」という用語は、本明細書に使用されるとき、細胞における核酸の発現を付与、活性化、または増強する、任意の核酸を表す。
【0109】
[0129]一部の実施形態において、少なくとも1つの転写制御配列は、本発明の第2の態
様の核酸分子に作動可能に接続されている。本明細書の目的では、転写制御配列が、核酸分子の転写を促進、阻害、またはそれ以外では調節することができる場合に、転写制御配列は、所与の核酸分子に「作動可能に接続されている」と称される。したがって、一部の実施形態において、核酸分子は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターなどの転写制御配列の制御下にある。
【0110】
[0130]「核酸コンストラクト」は、適切な制御エレメントと結合すると複製が可能であり、コンストラクト内に含まれている遺伝子配列を細胞間で移動させることができる、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ベクターといった形態など、任意の好適な形態であり得る。したがって、この用語には、クローニングビヒクルおよび発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターが含まれる。一部の実施形態において、核酸コンストラクトは、ベクターである。一部の実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。
【0111】
[0131]プロモーターは、発現が生じる細胞、組織、または器官に対して、作動可能に接続されている核酸分子の発現を、構成的に、または差次的に、制御することができる。そのため、プロモーターには、例えば、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターが含まれ得る。「構成的プロモーター」は、ほとんどの環境的条件下および生理学的条件下において活性であるプロモーターである。「誘導性プロモーター」は、特定の環境的条件下および生理学的条件下において活性であるプロモーターである。本発明は、目的の細胞において活性である任意のプロモーターの使用を企図する。したがって、広範なプロモーターが、当業者によって容易に確認されると予想される。
【0112】
[0132]哺乳動物の構成的プロモーターとしては、シミアンウイルス40(SV40)、サイトメガロウイルス(CMV)、P-アクチン、ユビキチンC(UBC)、伸長因子-1アルファ(EF1A)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、およびCMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン(CAGG)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0113】
[0133]誘導性プロモーターとしては、化学的誘導性プロモーターおよび物理的誘導性プロモーターを挙げることができるが、これらに限定されない。化学的誘導性プロモーターとしては、アルコール、抗生物質、ステロイド、金属イオン、または他の化合物など、化合物によって制御される活性を有するプロモーターが挙げられる。化学的誘導性プロモーターの例としては、とりわけ、テトラサイクリン制御性プロモーター(例えば、米国特許第5,851,796号および米国特許第5,464,758号を参照されたい);ステロイド応答性プロモーター、例えばグルココルチコイド受容体プロモーター(例えば、米国特許第5,512,483号を参照されたい)、エクジソン受容体プロモーター(例えば、米国特許第6,379,945号を参照されたい)など;ならびに金属応答性プロモーター、例えば、メタロチオネインプロモーター(例えば、米国特許第4,940,661号、米国特許第4,579,821号、および同第4,601,978号を参照されたい)が挙げられる。
【0114】
[0134]上述のように、制御配列はまた、終結因子も含み得る。「終結因子」という用語は、転写の終結をシグナル伝達する、転写単位の最後にあるDNA配列を指す。終結因子は、一般にポリアデニル化シグナルを含む3’非翻訳DNA配列であり、これは、一次転写産物の3’末端へのポリアデニル化配列の付加を促進する。プロモーター配列と同様に、終結因子は、使用が意図される細胞、組織、または器官において作動性である任意の終結因子配列であり得る。好適な終結因子は、当業者に公知であると予想される。
【0115】
[0135]理解されるように、本発明の第3の態様の核酸コンストラクトは、追加の配列、
例えば、発現、細胞質または膜輸送、および位置シグナルの増強を可能にする配列をさらに含み得る。非限定的な具体例としては、内部リボソーム進入部位(IRES)が挙げられる。
【0116】
[0136]本発明は、本質的に本明細書に記載されるように、すべての遺伝子コンストラクトまでに及ぶ。これらのコンストラクトは、真核生物における遺伝子コンストラクトの維持および/もしくは複製、ならびに/または真核生物細胞のゲノムへの遺伝子コンストラクトもしくはその一部の組込みが意図されるヌクレオチド配列をさらに含んでもよい。
【0117】
[0137]本発明の第3の態様の核酸コンストラクトなど、外因性遺伝子材料の、真核生物細胞への導入(トランスフェクション/形質導入)を検討するための方法が、当該技術分野で公知である。理解されるように、核酸コンストラクトを所望される宿主細胞に導入するのに最も適した方法は、多数の要因、例えば、核酸コンストラクトのサイズ、宿主細胞の種類、所望されるトランスフェクション/形質導入の効率、および所望されるかまたは必要であれば、トランスフェクト/形質導入される細胞の最終的な生存率に依存する。そのような方法の非限定的な例としては、カチオン性ポリマーなどの化学物質、リン酸カルシウム、またはリポソームおよびデンドリマーなどの構造体の化学的トランスフェクション;非化学的方法、例えば、エレクトロポレーション、ソノポレーション、熱ショックもしくは光学的トランスフェクション;粒子に基づく方法、例えば、「遺伝子銃」送達、マグネトフェクション、もしくはインペールフェクション(impalefection)、またはウイルス形質導入が挙げられる。
【0118】
[0138]核酸コンストラクトは、所望されるトランスフェクション/形質導入方法に応じて選択されると予想される。本発明の第3の態様の一部の実施形態において、核酸コンストラクトは、ウイルスベクターであり、核酸コンストラクトを宿主細胞に導入するための方法は、ウイルス形質導入である。PBMCにおいてCARの発現を誘起するためにウイルス形質導入を用いる方法(Parker,LL.ら、Hum Gene Ther.2000;11:2377-87)、およびより一般的には、哺乳動物細胞の形質導入のためにレトロウイルス系を用いる方法(Cepko,C.およびPear,W.Curr Protoc Mol Biol.2001,unit 9.9)が、当該技術分野で公知である。他の実施形態において、核酸コンストラクトは、プラスミド、コスミド、人工的染色体などであり、当該技術分野で公知の任意の好適な方法によって、細胞にトランスフェクトすることができる。
【0119】
[0139]第4の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるキメラ抗原受容体を含む遺伝子改変された細胞を提供する。
[0140]本発明の第4の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、2つまたはそれ以上の異なるCARを含む。
【0120】
[0141]第5の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による核酸分子、または本発明の第3の態様による核酸コンストラクト、または核酸コンストラクトのゲノム組込み形態を含む、遺伝子改変された細胞を提供する。
【0121】
[0142]本発明の第5の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、2つまたはそれ以上の異なるCARをコードする核酸分子または核酸コンストラクトを含む。本発明の第5の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、それぞれが異なるCARをコードする、2つもしくはそれ以上の核酸分子または2つもしくはそれ以上の核酸コンストラクトを含む。
【0122】
[0143]本明細書に言及されるとき、「遺伝子改変された細胞」には、本発明によって包
含される、天然に存在しないおよび/もしくは導入された核酸分子または核酸コンストラクトを含む任意の細胞が含まれる。導入された核酸分子または核酸コンストラクトは、細胞において別個のDNA分子として維持され得るか、または細胞のゲノムDNAに組み込まれ得る。
【0123】
[0144]細胞のゲノムDNAは、細胞の遺伝的相補性をなすあらゆる内因性DNAを含む幅広い意味で理解されるべきである。そのため、細胞のゲノムDNAは、染色体、ミトコンドリアDNAなどを含むように理解されるべきである。したがって、「ゲノム組込み」と言う用語は、染色体組込み、ミトコンドリアDNA組込みなどを企図する。コンストラクトの「ゲノム組込み形態」は、コンストラクトのすべてまたは一部であり得る。しかしながら、一部の実施形態において、コンストラクトのゲノム組込み形態とは、少なくとも、本発明の第2の態様の核酸分子を含む。
【0124】
[0145]本明細書に使用されるとき、「異なるCAR」または「異なるキメラ抗原受容体」という用語は、同一でない抗原認識ドメインおよび/または同一でないシグナル伝達ドメインのいずれかを有する任意の2つまたはそれ以上のCARを指す。一実施例において、「異なるCAR」には、同じ抗原認識ドメインを有する(例えば、両方のCARが、機能障害性P2X受容体を認識し得る)が、一方のCARが活性化受容体の一部分を有するシグナル伝達ドメインを有し、他方のCARが共刺激性受容体の一部分を有するシグナル伝達ドメインを有するなど、異なるシグナル伝達ドメインを有する2つのCARが含まれる。理解されるように、この実施形態内の2つまたはそれ以上のCARのうちの少なくとも1つは、機能障害性P2X受容体を認識する抗原認識ドメインを有し、他のCARは、任意の好適な形態をとってもよく、任意の好適な抗原に方向付けられてもよい。
【0125】
[0146]したがって、本発明の第4および第5の態様の一部の実施形態において、2つまたはそれ以上の異なるCARは、異なるシグナル伝達ドメインを有し、同一または異なる抗原認識ドメインを有し得る。具体的には、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞は、活性化受容体に由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有する第1のキメラ抗原受容体と、共刺激性受容体に由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体とを含み得る。
【0126】
[0147]本発明の第4または第5の態様の一部の実施形態において、活性化受容体(シグナル伝達ドメインの一部分が由来する)は、CD3共受容体複合体またはFc受容体である。
【0127】
[0148]本発明の第4または第5の態様の一部の実施形態において、共刺激性受容体(シグナル伝達部分の一部分が由来する)は、CD27、CD28、CD-30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSからなる群から選択される。
【0128】
[0149]本発明の第4または第5の態様の一部の実施形態において、共刺激性受容体(シグナル伝達部分ドメインの一部分が由来する)は、CD28、OX40、または4-1BBからなる群から選択される。
【0129】
[0150]本発明の第4および第5の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、共刺激性受容体を構成的に発現するようにさらに改変される。
[0151]上述のように、細胞の免疫応答は、典型的には、活性化シグナル(典型的には抗原に応答して)および共刺激性シグナルが同時に経験される場合にのみ誘導される。したがって、2つまたはそれ以上のCARが組み合わさって、細胞内活性化シグナルおよび細胞内共刺激シグナルの両方を提供する2つまたはそれ以上のCARを含む、上述の実施形
態の一部による遺伝子改変された細胞を有することにより、十分な免疫応答が、CARによる同種抗原の認識に応答して誘導され得ることを確実にする。あるいは、遺伝子改変された細胞は、機能障害性P2X受容体を認識する抗原認識ドメインを有する1つのCARのみを含み得、共刺激性受容体を構成的に発現し、それによって、CARが活性化されたときに同時に共刺激がもたらされる可能性を増大させてもよい。あるいは、遺伝子改変された細胞は、共刺激性受容体およびそのリガンドの両方を構成的に発現するようにさらに改変してもよい。この場合には、細胞は、共刺激を継続的に受け、細胞の免疫活性化のためには、活性化受容体に由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有するCARの活性化のみが必要となる。
【0130】
[0152]したがって、本発明の第4または第5の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、共刺激性受容体を構成的に発現するようにさらに改変される。さらなる実施形態において、遺伝子改変された細胞は、共刺激性受容体のリガンドを発現し、それによって細胞の自己刺激を促進するように、さらに改変される。共刺激性受容体およびそれらの同種リガンドを両方とも発現する(自己刺激を誘導できるように)CAR発現T細胞の例は、当該技術分野で公知であり、とりわけ、Stephen MT.ら、Nat
Med,2007;13:1440-9に開示されているものが挙げられる。
【0131】
[0153]CARを含む遺伝子改変された細胞の能力は、細胞を、サイトカイン、好ましくは、炎症促進性サイトカインまたは増殖促進性サイトカインを分泌するようにさらに改変することによって、増強することができる。このサイトカインの分泌により、CARを発現する細胞の自己分泌支持をもたらすこと、ならびに免疫系の他の細胞が動員および活性化されるようにCAR発現細胞を取り巻く局所環境を変化させることの両方が行われる。結果として、本発明の第4または第5の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、サイトカインを分泌するようにさらに改変される。この分泌は、構成的であってもよく、またはCARのその同種リガンド抗原認識時に誘導可能なものであってもよい。
【0132】
[0154]任意の1つまたは複数のサイトカインが、所望される免疫応答に応じて選択され得るが、好ましいサイトカインとしては、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-17、およびIL-21、またはこれらの組合せが挙げられる。
【0133】
[0155]本発明の第4または第5の態様の遺伝子改変された細胞は、任意の好適な免疫細胞であり得るか、または均一もしくは不均一な細胞集団であってもよい。一部の実施形態において、細胞は、白血球、末梢血単核細胞(PBMC)、リンパ球、T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、ナチュラルキラー細胞、またはナチュラルキラーT細胞である。
【0134】
[0156]第6の態様において、本発明は、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を殺滅させる方法であって、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、キメラ抗原受容体を有する遺伝子改変された細胞に曝露することを含み、キメラ抗原受容体が、機能障害性P2X受容体に方向付けられている、方法を提供する。
【0135】
[0157]したがって、本発明の第6の態様の一部の実施形態において、CARは、機能障害性P2X受容体を直接的に認識する。他の実施形態において、CARは、機能障害性P2X受容体を間接的に認識する。
【0136】
[0158]本明細書に使用されるとき、「直接的に認識する」という用語は、機能障害性P2X受容体またはそのエピトープがその天然の形態で存在する場合に、CARの抗原認識ドメインが、そこに直接的に結合することを含む。別の非限定的な例において、抗原認
識ドメインは、主要組織適合複合体(MHC)などの抗原提示分子によって提示され得る、機能障害性P2X受容体のプロセシングされた形態に直接的に結合してもよい。
【0137】
[0159]CARによる機能障害性P2X受容体を有する細胞の直接的な認識の代替法として、CARは、間接的な手段で、機能障害性P2X受容体を有する細胞に方向付けられていてもよい。
【0138】
[0160]結果として、本発明の第6の態様の一部の実施形態において、キメラ抗原受容体は、仲介物を介して機能障害性P2X受容体を認識する。仲介物は、機能障害性P2X受容体に直接的に結合するか、またはそれと相互作用する、プローブなどの分子であり得る。そのようなプローブの非限定的な例としては、抗体、抗体のFab、scFv、可溶性操作TCR、またはアプタマーが挙げられる。CARは、プローブを直接的に認識してもよく、またはプローブが、CARによって認識されるタグを有してもよい。いずれにしても、プローブは、標的細胞(すなわち、機能障害性P2X受容体を有する細胞)に対する特異性をもたらし、一方で、CARを有する遺伝子改変された細胞は、有効性をもたらし、免疫応答を標的細胞に方向付ける。あるいは、仲介物は、機能障害性P2X受容体と関連するか、またはその発現が機能障害性P2X受容体と相関する、細胞内因性マーカーであってもよい。マーカーの異常調節は、P2X受容体の機能障害の結果であり得るか、またはその原因であり得る。
【0139】
[0161]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体を有する細胞を殺滅させる方法は、機能障害性P2X受容体を有する細胞を仲介物に曝露するステップをさらに含む。
【0140】
[0162]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、仲介物は、機能障害性P2X受容体に結合するプローブであり、キメラ抗原受容体は、プローブを認識する。好ましくは、プローブは、抗体またはアプタマーである。
【0141】
[0163]本明細書全体を通じて使用される「アプタマー」という用語は、標的(具体的には、機能障害性P2X受容体)に特異的に結合するか、またはそれと優先的に複合体を形成する、任意のオリゴ核酸、ポリ核酸、ペプチド、またはポリペプチドを指す。
【0142】
[0164]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、プローブは、タグを含み、キメラ抗原受容体は、タグを認識する。仲介物を用いて細胞を認識するCARの例は、当該技術分野で公知であり、例えば、欧州特許出願第2651442号がある。
【0143】
[0165]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体を有する細胞は、対象の体内にある。一部の実施形態において、対象は、ヒトである。一部の実施形態において、本方法は、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、外因性サイトカインとともに、遺伝子改変体に曝露するステップをさらに含む。
【0144】
[0166]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、対象に由来する機能障害性P2X受容体を発現する細胞にとって自己である遺伝子改変された細胞である。
【0145】
[0167]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体を発現する細胞は、対象の体内にある。本発明の第6の態様の一部の実施形態において、機能障害性P2X受容体を発現する細胞は、がん細胞である。
【0146】
[0168]第6の態様の一部の実施形態において、本発明は、対象におけるがんを治療また
は予防する方法であって、対象に、キメラ抗原受容体を有する遺伝子改変された細胞を提供するステップを含み、キメラ抗原受容体は、機能障害性P2X受容体を有する標的細胞に方向付けられている、方法を提供する。
【0147】
[0169]「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本明細書に使用されるとき、その範囲内に、以下の結果のうちの1つまたは複数を含むことが理解されるべきである:(i)対象における原発性腫瘍の成長をある程度阻害すること(遅延および完全な成長の停止を含み、切除後に原発性腫瘍の成長を低減することを含む)、(ii)対象における1つまたは複数の二次腫瘍の成長および形成をある程度阻害すること、(iii)対象における腫瘍細胞の数を低減すること、(iv)対象における腫瘍のサイズを低減すること、(v)腫瘍細胞の末梢器官への浸潤の阻害(すなわち、低減、遅延、または完全な停止を含む)、(vi)転移の阻害(すなわち、低減、遅延、または完全な停止を含む)、(vii)対象の余命を、治療されていない状態と比較して改善すること、(viii)対象の生活の質を、治療されていない状態と比較して改善すること、(ix)対象におけるがんの少なくとも1つの症状を緩和、減弱、または軽減すること、(x)対象におけるがんの退縮または寛解をもたらすこと、(xi)がんによって引き起こされる対象における状態を緩和すること、ならびに(xii)対象におけるがんと関連する症状を停止すること。
【0148】
[0170]「予防する」または「予防すること」という用語は、本明細書に使用されるとき、その範囲内に、対象における原発性腫瘍の形成を阻害すること、対象における1つもしくは複数の二次腫瘍の形成を阻害すること、または寛解している対象におけるがんの再発を低減もしくは排除することを含むことが理解されるべきである。
【0149】
[0171]「阻害すること」という用語は、本明細書に使用されるとき、治療されていない細胞または対象など、対照における成長と比較した場合の、がん、がん性細胞、または腫瘍の成長の減少または低減を意味することとする。一部の実施形態において、成長は、治療されていない対照と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少または低減され得る。
【0150】
[0172]がん、腫瘍、またはがん性細胞の成長の阻害は、当該技術分野で公知の広範な方法によって評価することができる。例えば、インビトロでのがん性細胞について、細胞の成長は、好適な増殖アッセイによって、または所与の期間にわたる細胞DNAへのトリチウム化チミジンの組込みの程度を評価する方法によって、判定することができる。インビボで存在する腫瘍細胞またはがん性細胞については、腫瘍または細胞の成長は、例えば、当該技術分野で公知の好適な撮像方法によって、判定することができる。
【0151】
[0173]「対象」という用語は、本明細書に使用されるとき、がんを患い得る任意の動物を指し得る。特に目的となる対象は、ヒト、ならびにマウス、ラット、フェレット、モルモット、ハムスター、非ヒト霊長類、イヌ、ブタ、およびヒツジなどの科学関連種、またはウマ、イヌ、ネコ、および畜牛などの経済関連動物である。本発明の第6の態様の好ましい実施形態において、対象は、ヒトである。
【0152】
[0174]「対象に~を提供する」への参照は、対象に遺伝子改変された細胞を投与することに関連する。あるいは、遺伝子改変された細胞は、対象の内部で生成され得る。例えば、遺伝子改変された細胞は、対象が、遺伝子改変された細胞の内因性集団を有するように、インビボで生成され得る。そのようなインビボ生成に好適な手段は、当該技術分野で公知であり、対象の遺伝子療法を含む。
【0153】
[0175]本明細書全体を通じて使用される、機能障害性P2X受容体を有する標的に「
方向付けられた」CARへの言及は、免疫応答の標的を、機能障害性P2X受容体を有する細胞に基づいて、ある細胞に選択的に定めることを企図する。重要なことに、そのような標的化は、CARによる機能障害性P2X受容体の直接的な認識に限定されない。すなわち、CAR自体は、機能障害性P2X受容体を直接的に認識するかまたはそれに結合することを必要とするのではなく、単純に、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を選択的に認識することができ、それによって活性化され得る必要がある。
【0154】
[0176]したがって、本発明の第6の態様の一部の実施形態において、CARは、機能障害性P2X受容体を直接的に認識する。他の実施形態において、CARは、機能障害性P2X受容体を間接的に認識する。
【0155】
[0177]本明細書に使用されるとき、「直接的に認識する」という用語は、機能障害性P2X受容体またはそのエピトープがその天然の形態で存在する場合に、CARの抗原認識ドメインが、そこに直接的に結合することを含む。別の非限定的な例において、抗原認識ドメインは、主要組織適合複合体(MHC)などの抗原提示分子によって提示され得る、機能障害性P2X受容体のプロセシングされた形態に直接的に結合してもよい。
【0156】
[0178]CARによる機能障害性P2X受容体を有する細胞の直接的な認識の代替法として、CARは、間接的な手段で、機能障害性P2X受容体を有する標的細胞に方向付けてもよい。
【0157】
[0179]結果として、本発明の第6の態様の一部の実施形態において、キメラ抗原受容体は、仲介物を介して機能障害性P2X受容体を認識する。仲介物は、機能障害性P2X受容体に直接的に結合するか、またはそれと相互作用する、プローブなどの分子であり得る。そのようなプローブの非限定的な例としては、抗体、抗体のFab、scFv、可溶性操作TCR、またはアプタマーが挙げられる。CARは、プローブを直接的に認識してもよく、またはプローブが、CARによって認識されるタグを有してもよい。いずれにしても、プローブは、標的細胞(すなわち、機能障害性P2X受容体を有する細胞)に対する特異性をもたらし、一方で、CARを有する遺伝子改変された細胞は、有効性をもたらし、免疫応答を標的細胞に方向付ける。あるいは、仲介物は、機能障害性P2X受容体と関連するか、またはその発現が機能障害性P2X受容体と相関する、細胞内因性マーカーであってもよい。マーカーの異常調節は、P2X受容体の機能障害の結果であり得るか、またはその原因であり得る。
【0158】
[0180]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、対象におけるがんを治療または予防する方法は、対象に仲介物を提供するステップをさらに含む。
[0181]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、仲介物は、機能障害性P2X受容体に結合するプローブであり、キメラ抗原受容体は、プローブを認識する。好ましくは、プローブは、抗体またはアプタマーである。
【0159】
[0182]本明細書全体を通じて使用される「アプタマー」という用語は、標的(具体的には、機能障害性P2X受容体)に特異的に結合するか、またはそれと優先的に複合体を形成する、任意のオリゴ核酸、ポリ核酸、ペプチド、またはポリペプチドを指す。
【0160】
[0183]本発明の第6の態様の一部の実施形態において、プローブは、タグを含み、キメラ抗原受容体は、タグを認識する。仲介物を用いて細胞を認識するCARの例は、当該技術分野で公知であり、例えば、欧州特許出願第2651442号がある。
【0161】
[0184]第7の態様において、本発明は、対象におけるがんを治療または予防する方法であって、対象に、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞を投与する
ステップを含む、方法を提供する。
【0162】
[0185]機能障害性P2X受容体を有する標的細胞に方向付けられたCARを発現する遺伝子改変された細胞の提供が、前がん性細胞またはがん性細胞に対する有効な免疫療法を提供するのに十分であり得るとはいえ、遺伝子改変された細胞とともにアジュバントを提供することにより、免疫応答の誘導をさらに増強することができ、免疫療法を増補することができる。サイトカイン、好ましくは、炎症促進性サイトカインが、CARを有する遺伝子改変された細胞とともに対象に提供するのに特に好適なアジュバントである。
【0163】
[0186]したがって、本発明の第6および第7の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、サイトカインとともに対象に投与される。本明細書全体を通じて使用されるとき、「とともに」という用語は、遺伝子改変された細胞が、サイトカインと同時に投与されること、またはサイトカインと組み合わせて投与されることを含むことを理解されたい。結果として、サイトカインとともに投与される場合、これは、組合せ療法を含むと見なすことができ、その場合、対象の免疫療法は、サイトカインによる治療、および機能障害性P2X受容体を発現する標的細胞に方向付けられたCARを有する遺伝子改変された細胞による治療の両方を含む。一部の形態において、サイトカインは、遺伝子改変された細胞の投与とは別の日(24時間を上回る)に投与される。他の形態において、サイトカインは、遺伝子改変された細胞と同じ日(24時間以内)に投与される。さらなる形態において、サイトカインおよび遺伝子改変された細胞は、互いに18時間、12時間、6時間、4時間、2時間、1時間、45分間、30分間、15分間、10分間、5分間、2分間、または1分間以内に投与される。
【0164】
[0187]遺伝子改変された細胞とともに投与するのに好適なサイトカインとしては、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-9、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IFNα、IFNβ、IFNγ、GM-CSF、TGFβ、およびTNFαが挙げられる。好ましいサイトカインとしては、IL-2およびIFNαが挙げられる。さらに、サイトカインは、組換え形態として、天然の形態として、または遺伝子改変された細胞において発現されるかもしくはポリエチレングリコール(PEG)などのポリマーとコンジュゲートされた核酸配列として送達される、タンパク質との融合体などの送達系を介して、投与され得る。
【0165】
[0188]遺伝子改変しようとする細胞は、任意の好適な供給源から得ることができる。本発明の第6または7の態様の一部の実施形態において、遺伝子改変しようとする細胞は、機能障害性P2X受容体を発現する細胞にとって自己である細胞である、自己細胞である。有利なことに、自己細胞は、対象の免疫系によって「非自己」として認識されず、したがって、対象によって寛容されると予想される。しかしながら、がんの一部の形態において、好適な自己細胞は、容易に利用可能ではない場合がある。したがって、本発明の一部の実施形態において、遺伝子改変しようとする細胞は、同種細胞または異種細胞である。
【0166】
[0189]P2X機能障害は、様々ながんにおける一般的な分子改変である。結果として、本発明の第6または第7の態様の方法は、様々ながんの予防および治療に使用することができる。
【0167】
[0190]本発明の第6または第7の態様の一部の実施形態において、本方法は、脳のがん、食道がん、口腔がん、舌がん、甲状腺がん、肺がん、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がん、上皮細胞がん、皮膚がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、精巣がんのうちの1つまたは複数から選択されるがんの予防または治療に使用される。好ましくは、がんは、肺がん、食道がん、胃がん、結腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がん、膣がん、上皮細胞がん、皮膚がん、血液関連のがん、乳がん、子宮内膜がん、子宮がん、精巣がんのうちの1つまたは複数から選択される。
【0168】
[0191]本発明の第6または第7の態様の一部の実施形態において、がんは、転移性がん、例えば、ステージIIIまたはステージIVのがんである。
[0192]本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞を作製する際、治療において利用可能な細胞の総数を増加させるように、インビトロで細胞集団を増殖させることが望ましい場合がある。これは、細胞を、CARの抗原に曝露するステップを使用して行うことができる。したがって、第8の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞をインビトロで増殖させる方法であって、細胞を、CARの抗原に曝露するステップを含む、方法を提供する。一部の実施形態において、本方法は、細胞を、サイトカインに曝露するさらなるステップを含む。
【0169】
[0193]第9の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞をインビトロで増殖させる方法であって、細胞を、CARの抗原に曝露し、同時に、細胞をサイトカインに曝露するステップを含む、方法を提供する。
【0170】
[0194]本発明の第8または第9の態様において使用される好ましいサイトカインとしては、IL-2サブファミリー、インターフェロンサブファミリー、IL-10サブファミリー、IL-1サブファミリー、IL-17サブファミリー、またはTGF-βサブファミリーのメンバーを含み得る。本発明の第8または第9の態様の一部の実施形態において、サイトカインは、IFN-γ、IL-2、IL-5、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、TNF-α、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、およびGM-CSF、またはこれらの組合せからなる群から選択される。
【0171】
[0195]第10の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞をインビトロで増殖させる方法であって、細胞を、固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体に曝露するステップを含む、方法を提供する。本発明の第10の態様の一部の実施形態において、抗体は、ビーズ基板(例えば、「ヒト活性化因子」Dynabeads(商標))に固定化される。本発明の第10の態様の一部の実施形態において、抗体は、組織培養容器、培養フラスコ、プレート、またはバイオリアクターの表面など、代替的な表面に固定化される。
【0172】
[0196]当業者によって理解されるように、CARのシグナル伝達ドメインに応じて、CARによるその同種抗原の認識は、細胞内シグナル伝達を引き起こし、これが、最終的に、細胞増殖を引き起こし得る。したがって、少数の細胞、または個々の細胞ですら、増殖して(または単一の細胞の場合には、クローン増殖して)、治療的に有意な数を形成することができる。このプロセスは、サイトカインの提供によってさらに増強することができる。
【0173】
[0197]本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞の送達または投与は、細胞の単独での送達もしくは投与であってもよく、または好適な医薬組成物に製剤化された細胞の送達もしくは投与であってもよい。したがって、第11の態様において、本発明は、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0174】
[0198]免疫療法のためのCARを含む細胞を提供するための方法は、当該技術分野で公知である(例えば、Kershaw,MH.ら、Clin Cancer Res.20
06;12(20):6106-15;Parker LL.ら、Hum Gene Ther 2000;11:2337-87を参照されたい)。さらに、哺乳動物のCAR発現細胞の調製、増殖、および評価のためのプロトコールおよび方法は、当該技術分野で公知であり(例えば、Cheadle,EJ.ら、Antibody Engineering:Methods and Protocols,Second Edition,Methods in Molecular Biology,vol.907:645-66)、以下の実施例に概説されている。
【0175】
[0199]医薬組成物はまた、投与しようとする細胞の具体的な物理的特徴および化学的特徴を考慮して、薬学的に許容される塩、アミノ酸、ポリペプチド、ポリマー、溶媒、緩衝液、賦形剤、および増量剤を含む、1つまたは複数の薬学的に許容される添加剤を含み得る。一部の実施形態において、医薬組成物は、等張食塩水などの好適な媒体中の、本発明の第4または第5の態様による遺伝子改変された細胞の懸濁液を含む。一部の実施形態において、医薬組成物は、上述の1つまたは複数のサイトカインなど、好適なアジュバントを含み得る。一部の実施形態において、医薬組成物はまた、上述の仲介物を含んでもよい。
【0176】
[0200]医薬組成物の投与はまた、静脈内、心室内、腹腔内、筋肉内、もしくは頭蓋内の注射、または腫瘍もしくはがんの塊の部位への局所注射を含む非経口手段を介するものであってもよい。
【0177】
[0201]本明細書全体を通じて、文脈により他の意味とすべき場合を除き、「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などの変化形は、示された要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群の包含を意味するが、任意の他の要素もしくは整数または要素もしくは整数の群の除外を意味するものではないことが理解されると予想される。
【0178】
[0202]最後に、本発明によって包含される基本的な技法を実行するための方法を含め、分子生物学の標準的な教本への参照がなされる。例えば、Green MR and Sambrook J,Molecular Cloning:A Laboratory
Manual(第4版),Cold Spring Harbor Laboratory Press,2012を参照されたい。
【0179】
[0203]本発明は、明確さおよび理解の目的である程度詳細に記載されているが、本明細書に記載された実施形態および方法への様々な修正および変更が、本明細書に開示されている発明の概念の範囲から逸脱することなくなされ得ることが、当業者には明らかであると予想される。
【0180】
[0204]本発明は、以下の実施例においてさらに例証される。これらの実施例は、特定の実施形態を説明する目的のためのものにすぎず、上述の説明に限定することを意図するものではない。
【実施例
【0181】
実施例1
PEP2-2-3結合ペプチドキメラ抗原受容体(CAR)の設計および発現についてのプロトコール
[0205]本発明の実施形態による抗非機能性(nf)P2X受容体CARの設計およびその発現のプロセスを詳しく示す例示的なプロトコールを、以下に詳述する。
【0182】
PEP2-2-3(抗nf P2x)キメラ抗原受容体の設計
[0206]抗nfP2xキメラ抗原受容体(CAR)を、図1に図示される概略図に従って設計した。
【0183】
[0207]PEP2-2-3結合ペプチド(アミノ酸配列が配列番号10に記載され、ヌクレオチド配列が配列番号11に記載されている)のアミノ酸配列を含むCARの抗原認識ドメイン1を、生成した。PEP2-2-3配列は、単球またはリンパ球に対する有意な親和性を有することなく、前立腺LNCap細胞などのがん細胞に発現される機能障害性P2X受容体に対して特定の親和性を有することが示された。
【0184】
[0208]CD8aシグナル伝達ペプチド2(配列番号12に記載されるアミノ酸配列および配列番号13に記載されるヌクレオチド配列を有する)を、PEP2-2-3抗原認識ドメイン1のN末端に連結させた。CD8aシグナル伝達ペプチド2は、配列番号13の1位から13位にKozakコンセンサス配列を含む。CD8aシグナル伝達ペプチド2は、Kozak配列を含め、転写されたRNAのリボソームによる認識を促進するように作用し、翻訳開始部位を提供し、それによって、CARの転写されたRNA配列からタンパク質への翻訳を促進する。
【0185】
[0209]CARの抗原認識ドメイン1を、長ヒンジ4および短ヒンジ5と称される2つのヒンジ領域のうちの1つを介して、膜貫通ドメイン3に連結させた。長ヒンジ4を提供することで、抗原認識ドメインがその同種リガンド(機能障害性P2X)と相互作用するのに必要とされ得る抗原認識ドメインの可動性が可能となり得る。長ヒンジ4のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号14および配列番号15に記載されている。短ヒンジ5のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号16および配列番号17に記載されている。
【0186】
[0210]CARの膜貫通ドメイン3および細胞内ドメイン6の一部分は、CD28共刺激性受容体の一部分7(アミノ酸配列が配列番号18に記載され、ヌクレオチド配列が配列番号19に記載されている)によって提供される。細胞内ドメインは、共刺激性受容体OX40の一部分8(アミノ酸配列が配列番号20に記載され、ヌクレオチド配列が配列番号21に記載されている)、および活性化受容体CD3ゼータの一部分9(アミノ酸配列が配列番号22に記載され、ヌクレオチド配列が配列番号23に記載されている)をさらに含む。
【0187】
[0211]P2A配列10(アミノ酸配列が配列番号24に記載され、ヌクレオチド配列が配列番号25に記載されている)を、CARのC末端に付加し、CARのC末端に付加された任意のペプチド配列の翻訳後切除を可能にした。構築された抗nfP2XCAR-長ヒンジおよび抗nfP2XCAR-短ヒンジのアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号26および27に記載されている。
【0188】
レンチウイルスベクターの設計およびアセンブリ
[0212]設計したCARを、図2に図示されるBLIVレンチウイルスプラスミド(System Biosciences、California、USA)に組み込んだが、これは、蛍光および生体発光のレポータータンパク質である緑色蛍光タンパク質(GFP)およびホタルルシフェラーゼ(FLuc)を含む。BLIVプラスミドは、GFPレポータータンパク質のコーディング配列とFLucレポータータンパク質のコーディング配列との間に、T2Aコーディング配列をさらに含み、それによって、FLucタンパク質とGFPタンパク質との翻訳後分離が可能となる。
【0189】
[0213]BLIVベクターのNheI制限部位の上流の配列および下流の配列に対する相同性を有する配列を、設計したCARの5’末端および3’末端に付加して、配列番号2
8(CAR-長ヒンジ)および配列番号29(CAR-短ヒンジ)に記載される最終的なヌクレオチド配列を得た。5’および3’の配列を含めることにより、ギブソンクローニングを使用して抗nf P2XCARをBLIVベクターに組み込むことが可能となった。
【0190】
[0214]抗nf P2XCAR-長ヒンジおよび抗nf P2XCAR-短ヒンジのヌクレオチド配列を、遺伝子ブロック技術(gBlock(商標)Gene Fragments-Integrated DNA Technologies、Iowa、USA)を使用して構築し、ギブソンアセンブリクローニングキット(New England Biolabs inc.Ipswich MA、USA-カタログ番号E5510S)を製造業者の説明書に従って使用して、アセンブルした。
【0191】
[0215]BLIVプラスミドを、NheIクローニング部位で制限酵素処理し、抗nf P2XCARコーディング配列を、ギブソンアセンブリを使用して組み込んだ。
BLIV-CARベクターのクローニングおよび評価
[0216]New England Biolabsの5-アルファコンピテント大腸菌細胞(ギブソンアセンブリクローニングキットで提供される)に、生成したBLIV-CARベクターを、製造業者の説明書に従って形質転換した。概要:
- NEBの5-アルファコンピテント大腸菌細胞のチューブを、10分間氷上で解凍した。
- 1pg~100ngのBLIV-CARプラスミドDNAを含有する1~5μlを、細胞混合物に添加し、チューブを4から5回左右に揺らすことによって、混合した。
- 大腸菌およびプラスミドの混合物を、氷上に30分間、混合することなく静置した。- 細胞およびプラスミドの混合物に、42℃で30秒間熱ショックを与えた後、氷上に5分間、混合することなく静置した。
- 950μlのSOCを混合物に添加した後、60分間37℃に加熱し、激しく振盪させた。
- 選択プレートを調製し、37℃に加熱した。
- 細胞の10倍連続希釈物を、SOC溶液中に調製した。
- 各希釈物50~100μlを、選択プレートに撒き、37℃で終夜インキュベートした。
【0192】
[0217]形質転換した(大腸菌)細胞をインキュベートした後、BLIV-CAR-短ヒンジプラスミドを形質転換した細菌のコロニー10個およびBLIV-CAR-長ヒンジプラスミドを形質転換した細菌のコロニー10個を単離し、プラスミドDNAを精製し、BamHI制限酵素で制限酵素処理した。制限酵素処理したDNAを、適切なサイズの制限酵素処理フラグメントのゲル電気泳動により分析した。図3に示されるように、BLIV-CAR-長ヒンジプラスミドを形質転換した細菌クローンのコロニー2から9は、適切なサイズの制限酵素処理フラグメント(7.8kbおよび2.8kb)を含有していたが、BLIV-CAR-短ヒンジプラスミドを形質転換した細菌クローンでは、適切なサイズの制限フラグメント(7.4kbおよび2.8kb)が得られたのはコロニー4のみであった。
【0193】
[0218]BLIV-CAR-長ヒンジプラスミドを含有する細菌のクローン2から4(L2からL4)、およびBLIV-CAR-短ヒンジプラスミドを含有する細菌のクローン4(S4)を、制限酵素EcoRI、BamHI、およびPstIを使用したプラスミド同一性のさらなる確認に選択した。コロニーはすべてが、表4および図4に記載されるように、予測された長さの制限酵素処理フラグメントを示した。
【0194】
【表4】
【0195】
レンチウイルスベクターの構築および検証
[0219]以下の方法に従って、293T細胞を使用して、3プラスミドプロトコールによりレンチウイルスをパッケージングした。
1日目:293T細胞が、翌日に90~95%コンフルエントになるように、細胞を、T-225フラスコに10%血清を有する35mlのDMEM培地に播種した。
2日目:生成したBLIV-CARプラスミド(または未改変のBLIVプラスミド)のうちのいずれか30ug、30ugのgag-polプラスミドデルタ8.2、および15ugのVSV-Gプラスミド(pMD2.G)を、OptiMEM培地に添加して、最終体積750ulにし、混合した。300ulのPEI溶液を添加し、室温で少なくとも20分間インキュベートした。混合物を、次いで、コンフルエントな293T細胞に添加した後、37℃でインキュベートした。
3日目:プラスミド混合物を添加した24時間後に、上清を293T細胞からデカンテーションし、4℃で保管した。デカンテーションした混合物を、35mlの新しい培地と置き換えた後、37℃でさらにインキュベートした。
4日目:プラスミド混合物を添加した48時間後に、培地を除去し、24時間で採取した上清と合わせた。合わせた上清を、15分間、1500gで回転処理して、残っている細胞残屑をすべて除去した。上清を0.45umのフィルターに通して濾過した後、WX超遠心分離器において17,000rpmで1時間回転処理した。遠心分離した後、上清を、手作業で、チューブに50~200ulを残してデカンテーションした。遠心チューブを、混入および蒸発を防ぐために50mlのネジ蓋のチューブに入れ、ウイルスを4℃で終夜再懸濁させた。
5日目:ウイルスを、遠心チューブの底部から再懸濁させ、新しい1.5mlのチューブに移した。再懸濁したウイルスを、微小遠心チューブにおいて5000rpmで5分間回転処理して、残っている残屑をすべて除去した。
【0196】
[0220]BLIV-CAR-短ヒンジベクターおよびBLIV-CAR-長ヒンジベクターの293T細胞へのトランスフェクションを、GFP蛍光体の存在下において24時間インキュベートした後に評価した(図5Aおよび図6Aを参照されたい)。短ヒンジおよび長ヒンジのBLIV-CARレンチウイルスベクターを含有する5日目に採取した上清(上述のように)を、新しい293T細胞とともにインキュベートし、GFP蛍光に関して視覚化して、形質導入能力を試験した(図5Bおよび図6Bを参照されたい)。
【0197】
CAR T細胞機能に関するスクリーニング
[0221]10個のCD8 T細胞を、RosetteSep(商標)ヒトCD8+T細胞単離キット(Stemcell technologies、Vancouver、Canada)を製造業者の説明書に従って使用して、50mlのヒト血液から単離した。純度の分析により、図7に図示されるように、精製された細胞の76.6%が、CD8+であったことが示された。
【0198】
[0222]CD8+T細胞を、1ウェル当たり10個の細胞で、1:1の比のT細胞増殖(CD3/CD28)ビーズとともにインキュベートした。CD8細胞を、次いで、5またはそれ以上の感染多重度(MOI)で、未改変のBLIVプラスミド、BLIV-CAR-短ヒンジプラスミド、またはBLIV-CAR-長ヒンジプラスミドのいずれかを含有するレンチウイルス調製物とともに終夜インキュベートした。インキュベーション後に、CD8+T細胞を洗浄し、その後、標的細胞とともに共培養した。
【0199】
[0223]非機能性P2X受容体を発現する標的細胞を、哺乳動物のがん細胞株BT549(ATCC HTB-122)によって得た。これらの細胞を、蛍光膜挿入型色素eFluor(商標)670(affymetrix eBioscience)を製造業者の説明書に従って使用して、色素標識した。概要:
- BT549細胞を、単一細胞懸濁液として調製し、PBS中で2回洗浄して、残留血清をすべて除去した。
- 細胞を、室温のPBS中に再懸濁させた。
- 細胞増殖色素eFluor(登録商標)670の10μM溶液を、室温のPBS中に調製した。
- 等量の10μM色素溶液を、調製したBT549細胞に添加して、最終濃度5μMの色素溶液を得た。
- 色素溶液中のBT549細胞を、暗所において37℃で10分間インキュベートした後、10%血清を含有する低温培養培地を4倍量添加することによって標識化を停止した後、暗所において氷上で5分間インキュベートした。
- 最後に、細胞を培養培地中で3回洗浄した後、所望される濃度で培養培地中に再懸濁させた。
【0200】
[0224]色素標識した後に、標的細胞を、調製したCD8+T細胞とともに、10:1、5:1、1:1、および0:1(T細胞:標的)の比で共培養した。
[0225]24時間の共培養後に、細胞を採取し、蛍光活性化細胞分類(FACS)を使用して分析した。膜挿入型色素を含有する標的細胞の数を定量して、共培養したT細胞が、標的細胞の死滅または細胞増殖の停止をもたらしたかどうかを評価した。CD8+T細胞が標的細胞を殺滅させる有効性を定量するために使用したゲーティングおよび分析の戦略は、図8に図示されており、図9に定量されている。図8Aは、標識したCD8+T細胞のゲーティングおよびヒストグラム分析を図示する。図8Bは、標識したBT549標的細胞のゲーティングおよびヒストグラム分析を図示する。図8Cは、対照CD8+T細胞およびBT549標的を24時間共培養した後のゲーティングおよびヒストグラム分析を図示する。図8Dは、BLIV-CAR-長ヒンジを形質導入したCD8+T細胞およびBT549標的細胞を24時間共培養した後のゲーティングおよびヒストグラム分析を図示する。図8Eは、BLIC-CAR-短ヒンジを形質導入したCD8+T細胞およびBT549標的細胞を24時間共培養した後のゲーティングおよびヒストグラム分析を図示する。
【0201】
[0226]図9において見ることができるように、標的細胞を、BLIV-CAR-長ヒンジまたはBLIV-CAR-短ヒンジのいずれかを含有するレンチウイルスを形質導入したCD8 T細胞とともに共培養したときに、標的細胞を非形質導入細胞または対照を形
質導入した(未改変BLIVベクター)CD8 T細胞とともに共培養したときと比較して、消失した(殺滅された)BT549標的細胞の数の増加があった。
【0202】
[0227]図9に提示された結果を考慮すると、抗nfP2XCAR受容体(短ヒンジまたは長ヒンジを有する)を形質導入したCD8+T細胞が、非機能性P2X発現標的細胞に対する細胞傷害活性のレベルの上昇を示すことは、明らかであり、がん細胞標的を殺滅させるCAR-T細胞の能力を示す。
【0203】
実施例2
代替的な抗nfP2X7キメラ抗原受容体の設計
[0228]本発明の実施形態による抗非機能性(nf)P2X受容体CARの設計およびT細胞における発現のプロセスを詳しく示すさらなる例示的なプロトコールを、以下に詳述する。
【0204】
[0229]3つの抗非機能性P2X結合ペプチドを用いて、抗nfP2XCARを設計した。具体的には、ペプチドPEP2-2-1-1、PEP2-472-2、またはPEP2-2-12(それぞれ、配列番号32、33、および34に記載のアミノ酸配列を有する)に対する配列相同性を有する抗原認識ドメインを含むように、CARを設計した。これらの結合ペプチドは、非機能性P2X7受容体に結合することが示されている(Barden,J.A.,Sluyter,R.,Gu,B.J.&Wiley,J.S.2003.Specific detection of non-functional human P2X(7)receptors in HEK293 cells and B-lymphocytes.FEBS Lett 538,159-162)。
【0205】
[0230]上述の結合ペプチドと、非機能性P2X受容体を認識する抗体の重鎖可変領域とのアライメントを、図10に示す。相補性決定領域(CDR1から3)の配列のアライメントを、四角で示す。
【0206】
[0231]PEP2-2-1-1配列を有するCARの構築の具体的な例を、以下に詳述する。同じCAR構造および配列を、PEP2-2-1-1の代わりの代替的な結合ペプチドとして、PEP2-472-2配列またはPEP2-2-12配列を結合ペプチドとして有するCARに使用した。
【0207】
[0232]PEP2-2-1-1結合ペプチドをコードするDNA配列を、他のDNA配列とインフレームで合成し、以下に記載される構造を有するCARを生成した。
[0233]図11を参照すると、ホモサピエンスCD8a分子(CD8A)転写産物バリアント1(配列番号30に記載されるアミノ酸配列および配列番号31に記載されるヌクレオチド配列を有する)のリーダー配列11を、PEP2-2-1-1結合ペプチド12(配列番号32に記載されるアミノ酸配列および配列番号35に記載されるヌクレオチド配列を有する)のN末端に連結させることによって、抗原認識ドメインを調製した。
【0208】
[0234]抗原認識ドメインを、次いで、上述の実施例1に記載される長ヒンジの配列(すなわち、配列番号14に記載されるアミノ酸配列および配列番号15に記載されるヌクレオチド配列)を有する改変されたIgG4ヒンジ-CH2-CH4 13を介して、膜貫通ドメインに連結させた。
【0209】
[0235]CD8リーダー配列11およびPEP2-2-1結合ペプチド12を含む細胞外ドメインを、CD28細胞質ドメインの一部分16も含むヒトCD28の一部分15(配列番号18に記載されるアミノ酸配列および配列番号19に記載されるヌクレオチド配列を有する)によって提供される膜貫通ドメイン14に連結させた。
【0210】
[0236]上述のヒトCD28分子の一部分14およびホモサピエンス腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー4(TNFRSF4/OX40-配列番号20に記載されるアミノ酸配列および配列番号21に記載されるヌクレオチド配列を有する)の細胞質ドメイン18を、ホモサピエンスCD247分子の細胞質ドメイン19(T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ鎖、配列番号22に記載されるアミノ酸配列および配列番号23に記載されるヌクレオチド配列を有する)に連結させることによって、CARの細胞内部分17を提供した。
【0211】
レンチウイルスベクターの設計およびアセンブリ
[0237]設計したPEP2-2-1-1、PEP2-472-2、およびPEP2-2-12 CARのヌクレオチド配列を、遺伝子ブロック技術(gBlock(商標)Gene Fragments-Integrated DNA Technologies、Iowa、USA)を使用して構築し、ギブソンアセンブリクローニングキット(New
England Biolabs inc.Ipswich MA、USA-カタログ番号E5510S)を製造業者の説明書に従って使用して、アセンブルした。クローニングベクター(制限部位を含む)に組み込むためのPEP2-2-1-1、PEP2-472-2、またはPEP2-2-12 CARのヌクレオチドコンストラクトの配列は、それぞれ、配列番号35、36、および37に記載されている。
【0212】
[0238]CARヌクレオチドコンストラクトを、図11に図示されるpCDH-CMV-MCS-T2A(pCDH)ベクター(System Biosciences、California、USA、カタログ番号CD524A-1)に組み込んだが、このベクターは、蛍光レポータータンパク質である緑色蛍光タンパク質(GFP)を含む。pCDHベクターは、さらに、クローニング部位とGFPとの間にT2Aコーディング配列を含み、クローニングされたCARとGFPタンパク質との翻訳後の分離を可能にする。
【0213】
[0239]PEP2-2-12およびPEP2-472-2 CARのヌクレオチドコンストラクトをpCDGベクターに組み込むために、pCDHベクターを、EcoR1およびNotIで制限酵素処理し、ゲル精製した(QIAquickゲル抽出キット、QIAGEN)。PEP2-2-12およびPEP2-472-2 CARヌクレオチドgBlockコンストラクトはまた、EcoRIおよびNotI消化酵素で消化させた。制限酵素処理したgBlockフラグメントを、次いで、QIAquick PCR精製キットで、製造業者の説明書に従って精製した。制限酵素処理したベクターを、インサート対ベクターのモル比3:1で、制限酵素処理したCARコンストラクトにライゲーションした。ライゲーションミックスを、化学的にコンピテントなSURE2細胞(Agilent)に形質転換した。
【0214】
[0240]PEP2-2-1-1 CARコンストラクトは、内部EcoR1制限部位を含有しており、したがって、PEP2-2-12およびPEP2-472-2 CARヌクレオチドコンストラクトとは異なる様式で、pCDHベクターに組み込んだ。pCDHベクターを、EcoR1で制限酵素処理し、得られた5’-オーバーハングに、100uMのdNTPの存在下でT4 DNAポリメラーゼを充填した(12℃で15分間)。反応を終結させ(10mMのEDTAの存在下において75℃で20分間)、制限酵素処理したベクターを、カラム精製した(QIAquick PCR精製キット、QIAGEN)。精製したベクターを、次いで、NotIでさらに制限酵素処理し、ゲル精製した(QIAquickゲル抽出キット、QIAGEN)。PEP2-2-1-1 CARコンストラクトフラグメントを、まず、SmaIで制限酵素処理した後、NotIで消化を行った(いずれも25℃)。制限酵素処理したgBlockフラグメントを、QIAquick PCR精製キットで、製造業者の説明書に従って精製した。制限酵素処理したベクターを、インサートとベクターのモル比3:1で、CARコンストラクトとライゲーションした。
【0215】
pCDH-CARベクターのクローニングおよび評価
[0241]上述の3つのCARコンストラクトのそれぞれのライゲーションミックスを、製造業者の説明書に従って、化学的にコンピテントなSURE2細胞(Agilent)に形質転換した。概要:
- SURE2細胞を、氷上で解凍した。解凍した後、細胞を、緩徐に混合し、100μlの細胞アリコートを、予備冷却した14mlの丸底チューブに入れた。
- 2μlのβ-メルカプトエタノールを、各細胞アリコートに添加した。
- チューブを混合し、氷上で10分間インキュベートし、2分ごとに緩徐に旋回させた。
- 0.1~50ngの各pCDH-CARベクターを、細胞アリコートに添加した。
- アリコートを緩徐に混合した後、氷上で30分間インキュベートした。
- チューブを、水浴において30秒間42℃で熱パルス処理した後、氷上で2分間インキュベートした。
- 0.9mlの予備加熱した(42℃)NZY+培養液を、各チューブに添加した後、225~250rpmで激しく混ぜながら37℃で1時間インキュベートした。
- 最大200μlの形質転換混合物を、抗生物質を含有するLB寒天プレートに入れた後、37℃で終夜インキュベートした。
- コロニーを採取し、さらに終夜培養した。
- プラスミドDNAを、Quicklyseミニプレップキット(QIAGEN)を用いて培養クローンから単離し、EcoRI/Not I消化により消化させて、適切なサイズのCAR-pCDHベクターを有するクローンを特定した。
【0216】
[0242]形質転換した(SURE2)細胞をインキュベートした後、PEP2-2-1-1、PEP2-472-2、またはPEP2-2-12結合ペプチドのそれぞれについて、pCDH-CARを形質転換した細胞のコロニー5~6個を単離し、さらに終夜インキュベートした。Quicklyseミニプレップキット(QIAGEN)を用いて、培養コロニーのそれぞれからプラスミドDNAを単離し、EcoRI/Not I制限酵素で制限酵素処理した。制限酵素処理したDNAを、適切なサイズの制限酵素処理フラグメントのゲル電気泳動により分析した。
【0217】
[0243]図13に示されるように、PEP2-2-1-1 pCDH-CARコンストラクトのコロニー3、PEP2-472-2 pCDH-CARコンストラクトのコロニー1および3、ならびにPEP2-2-12 pCDH-CARコンストラクトのコロニー1、3、および5が、適切なサイズの制限酵素処理フラグメントを含有していた。
【0218】
[0244]選択された各クローンに配列決定を行って、表5から選択される適切なプライマーを使用して、CARの組込みを確認した。
【0219】
【表5】
【0220】
[0245]選択された各コロニーの配列決定データを、コンピューターで導出したPEP2-2-1-1、PEP2-472-2、またはPEP2-2-12 CARコンストラクトのそれぞれの組換えクローンとアライメントし、適切なコンストラクトを、選択したコロニーのそれぞれのうちの少なくとも1つに関して検証した。NucleoBond(登録商標)Xtra Midi EFキット、Macherey-Nagelを製造業者の説明書に従って用いて、検証したクローンの大規模な内毒素除去プラスミド単離を行った。
【0221】
ウイルスベクターの構築および検証
[0246]一過的にトランスフェクトしたHek293T細胞において、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を標準的な研究室プロトコールに従って使用して、レンチウイルスのパッケージングを行った(Brown,C.Y.ら、2010.Robust,reversible gene knockdown using a single lentiviral short hairpin RNA vector.Hum Gene Ther 21,1005-1017)。概要:
- 12.5ugのレンチウイルスベクターDNAを、T75cmフラスコにおいて、トランスフェクション1回当たり、3.75ugのpMD2.g(VSV-Gエンベロープ発現ベクター)、6.25ugのpRSV-Rev、および7.5ugのpCMVdelta8.2と、75ulのリポフェクチンを製造業者のプロトコールに従って使用して混合し、終夜インキュベートした。
- 翌朝、培地を取り替え、ウイルスを含む上清を、48時間後に採取した。
- 採取した上清を、300×gで5分間遠心分離した後、0.45umのフィルターを通して濾過した。
- 濾過した上清からのウイルス粒子を、超遠心分離(68,000×gで90分間、4℃、Beckman SW32ローター)によって濃縮した。上清を除去し、ウイルスペレットを、氷上でDMEM中に緩徐に再懸濁させた。
- 100ulのウイルスアリコートを、必要になるまで-70℃で保管した。
【0222】
[0247]ウイルストランスフェクション率を評価するために、トランスフェクトしたHek293T細胞を採取し、GFP陽性細胞(pCDHベクター含有細胞)の割合を、フローサイトメトリーによって判定した。LV-PEP2-472-2パッケージングミックスをトランスフェクトしたHek293Tの代表的な結果を、図14に示す。
【0223】
[0248]既知の数のHek293T細胞に、濃縮LVストックの連続希釈物(1:50および1:100)を形質導入することにより、ウイルス力価を計算した。形質導入は、8ug/mlのポリブレン(臭化ヘキサジメトリン)の存在下で、終夜行った。翌日、ウイルスおよびポリブレンを含有する培地を、新しい培地と取り替え、細胞を、24時間後に採取し、GFP陽性細胞の割合を、フローサイトメトリーによって判定した。ウイルス力価は、式:形質導入単位/ml(TU)=(FxC/V)xD(式中、F=GFP+細胞の頻度(%GFP+/100)、C=ウイルス添加時の細胞数、V=mL単位の形質導入量、およびD=希釈係数)を使用して、計算した。LV-PEP2-472-2形質導入の代表的なフローデータを、図15に示す。PEP2-2-1-1、PEP2-12-2、およびPEP2-472-2 CARウイルスベクターのそれぞれのTUを、以下の表6に提供する。
【0224】
【表6】
【0225】
nf-P2X CAR T細胞機能に関するスクリーニング
抗nf-P2XCARを発現するCD8 T細胞の産生
[0249]以下の方法に従って、ヒトCD8細胞を精製し、形質導入した。
【0226】
[0250]ヒトCD8 T細胞を、匿名ドナー由来のBuffy Coats(オーストラリア赤十字血液サービス)から単離した単核球(MNC)から精製した。MNCを、Ficoll-Paque(商標)密度勾配培地を使用して単離した。Dynabeads(登録商標)Untouched(商標)ヒトCD8 T細胞キット(Invitrogen)を製造業者の説明書に従って用いて、CD8 T細胞をMNCから精製した。フローサイトメトリーによって評価した単離細胞の純度は、85%以上であった。
【0227】
[0251]2×10個の精製細胞を、CD3/CD28ビーズ(ビーズ対細胞の比3:1)およびIL2(500U/ml)とともに、30分間予備インキュベートした後、1から2の感染多重度(MOI)単位のウイルス含有LV-PEP2-2-1-1、LV-PEP2-472-2、または空のLVベクター(GFP対照ウイルス)を、8ug/mlのポリブレンとともに添加した。細胞を、ウイルスとともに16時間インキュベートした後、ウイルス含有培地を除去した。残った細胞およびビーズを、IL2を含む新しい培地において40時間インキュベートした後、GFP蛍光レベルを分析した。
【0228】
[0252]図16に図示されるように、形質導入の成功を示すGFP+のCD8細胞は、8
%から43%であった。
nf-P2X受容体または野生型(WT)P2X受容体を発現する標的細胞の産生
[0253]抗nf-P2X-CARを発現するCD8細胞の有効性を評価するために、非機能性P2X受容体(K193A変異を有する)または野生型のP2X受容体の細胞外ドメインのいずれかを細胞表面に過剰発現するHek293T細胞を、調製した。
【0229】
[0254]EXD2_K193A(nf-P2X)およびEXD2_WT(機能性P2X)のgBlock遺伝子フラグメント(それぞれ、配列番号47および48)を、Integrated DNA technologies(IDT)から注文した。EXD2ドメインは、pDisplay(Invitrogen、図17)から、IgK-リーダー-HA-MYC-PDGFR-膜貫通ドメインからなる融合タンパク質をコードするDNA配列がインフレームで発現されるように設計した。これらの融合タンパク質は、表面発現するように設計した。EXD2_K193AおよびEXD2_WTの遺伝子フラグメントを、HAとMYC-エピトープタグの間にクローニングして、融合遺伝子ブロックを形成した。LV-416-IRES-puroベクター(Clontech)にクローニングするために、Gateway attB1配列およびattB2配列を、融合遺伝子ブロックの5’末端および3’末端に含んだ。
【0230】
[0255]クローニングは、Gateway(登録商標)(ThermoFisher)を使用して行い、すべてのステップは、製造業者のプロトコールに従って行った。概要:
- まず、attB隣接DNAフラグメント(EXD2_K193A、配列番号47、およびEXD2_WT、配列番号48)と、attP含有pDONR-107ベクターとの間でBP組換え反応を行って、エントリークローンを生成した。BP組換え反応を使用して、化学的にコンピテントなE.cloni(登録商標)10G細胞(Lucigen(登録商標))を製造業者のプロトコールに従って形質転換した。
- 形質転換した細胞を、50ug/mlのカナマイシン(Sigma)を含有するLB寒天プレートに播種し、37℃で終夜インキュベートした。
- 各プレートから2つのクローンを選択して、カナマイシン(SIGMA)(50ug/ml)を有するLB培養液中で微量培養物(2mL)を調製した。37℃で終夜インキュベーションの後、撹拌を行った。
- 翌日、QIAGEN QuickLyseミニプレップキットを使用して、微量培養物からプラスミドDNAを抽出した。
- 診断用Bam H1-HF(NEB)およびPmel(NEB)消化を行って、組換えクローンを特定した。Bam H1およびBam H1/PmeI消化した後、ゲル電気泳動(図18)によって、EXD2_K193AおよびEXD2_WTクローンの両方が、正しく消化されたことを確認した。
【0231】
[0256]各コンストラクトから1つのクローン(EXD2_K193AおよびEXD2_WT)を、EXD2_K193AおよびEXD2_WTコンストラクトを目的のpLV-416ベクターに挿入するために、LR組換え反応(以下に記載される)に選択した。
【0232】
[0257]クローンを選択した後、続いて、LR組換え反応を行って、各EXD2インサートをpDONR-107エントリークローンから目的のpLV-416ベクターに移して、発現ベクターを作製した。最終的なLR組換え反応を使用して、化学的にコンピテントなE.cloni(登録商標)10G細胞(Lucigen(登録商標))を製造業者のプロトコールに従って形質転換した。概要:
- 形質転換した細胞を、100ug/mlのアンピシリン(SIGMA)を含有するLB寒天プレートに播種し、37℃で終夜インキュベートした。
- 各プレートから6個のクローンを選択して、アンピシリン(50ug/ml)を有するLB培養液中に微量培養物(2mL)を調製し、これを、撹拌しながら37℃で終夜イ
ンキュベートした。
- 翌日、プラスミドDNAを単離し、Bam H1消化を行って、組換えクローンを特定した。組換えクローンは、適切なサイズの3つのバンド(3431、1056、および5844bp、図19を参照されたい)の存在によって特定した。図19において見ることができるように、各プレートから選択された6つすべてのクローンで、適切なサイズの制限酵素処理フラグメントが得られた。
- EXD2_K193AまたはEXD2_WTを含有するpLV-416コンストラクトを形質導入した2つのクローンを、表7に記載されるプライマーで配列決定して、コンストラクトが適切であったことを確認した。
【0233】
【表7】
【0234】
[0258]HEK293細胞の形質導入ならびに機能性または非機能性P2X受容体を発現する好適なHEK293細胞株の生成のためのウイルス粒子を産生するために、以下のプロトコールを使用した。
- HEK293細胞を、トランスフェクションの前日に播種した(フラスコ1つ当たり7×10個の細胞)。
- HEK293T細胞に、レンチウイルスパッケージングベクター、ならびにpLV-416-EXD2およびpLV-416-EXD2_WTのいずれかをトランスフェクトした。トランスフェクション効率をモニタリングするために、GFP発現プラスミド(1ug)も含んだ。
- 終夜インキュベートした後、トランスフェクション試薬を含有する培地を除去し、10mlの新しい培地(10%FCSを含むDMEM)と置き換えた。10mlの培地を、24時間後に採取し、必要になるまで-80℃において2mlのアリコートで保管した。別の10mlの新しい培地(10%FCSを含むDMEM)をフラスコに添加し、これを、さらに24時間後に採取した。
- ウイルス粒子を、1200rpmで培地を遠心分離することによって、採取した培地から単離した後、0.45umのフィルターに通して濾過した。ウイルス粒子とともに、濾過した培地を、HEK293細胞のトランスフェクションに使用した。
【0235】
[0259]トランスフェクション効率を評価するために、2回目の10mlの培地を除去した後に、細胞を採取し、GFP陽性細胞の割合を、フローサイトメトリーによって判定した。図20は、HEK293細胞に、97%および85%の効率でpLV-416-EXD2_K193AおよびpLV-416-EXD2_WTがトランスフェクトされたことを図示する。
【0236】
[0260]機能性および非機能性P2Xの細胞外ドメインを細胞表面に過剰発現する安定なHEK293細胞を生成するために。以下のプロトコールを使用した。
- HEK293細胞を、形質導入の前日に、T25フラスコに播種した(フラスコ1つ
当たり7×10個の細胞)。
- 翌日に、培地を各フラスコから除去し、上述のプロトコールに従って生成したウイルス粒子を含有する新しい培地を、表8に記載される比に従って添加した。
- 8ug/mLの最終濃度まで、各フラスコにポリブレンを添加した。
【0237】
【表8】
【0238】
- 形質導入の24時間後に、培地を各フラスコから除去し、1600ug/mLのG418を補充した新しい培地(10%FCSを含むDMEM)を、対照GFP発現レンチウイルス(LV-411-GFP)を入れたフラスコを除くすべてのフラスコに添加した。- 対照pLV-411-GFPウイルスを形質導入したHEK293T細胞を、形質導入後72時間、GFP発現に関してモニタリングした(図21を参照されたい)。
- 形質導入していない細胞は、すべてが、G418補充培地で培養した4日後に死滅した。形質導入した細胞株は、G418を含む培地で正常に成長を続けた。
【0239】
[0261]トランスフェクトしたP2X受容体の細胞外ドメインは、HA-エピトープタグおよびMYC-エピトープタグを含有する。したがって、これらの細胞を、HA-およびMYC-に対するモノクローナル抗体で染色して、フローサイトメトリーによって細胞外ドメインの表面発現を確認することができる。
【0240】
CAR T細胞機能に関するスクリーニング
[0262]nf-P2X7-CARの機能性を評価するために、PEP2-2-1-1またはPEP2-472-2 CARコンストラクト(上述のように調製)のそれぞれを形質導入したCD8細胞を、96ウェルの丸底培養プレートにおいて、nf-P2X受容体を発現する1×10個の標的細胞(上述のように調製)および非機能性P2X受容体を発現するMDA-MB-231乳がん細胞(231 P2X細胞)とともに、1:1の比で4時間共培養した。
【0241】
[0263]細胞傷害性の割合を、CytoTox 96(登録商標)Non-Radioactive Cytotoxicity Assay(Promega、Madison、Wisconsin、USA)において、製造業者の説明書に従って判定した。概要:- 45分前から4時間、100μlの標的細胞につき10μlの溶解溶液(10倍)を各ウェルに添加した。
- さらに45分後、プレートを250×gで4分間遠心分離した。
- 各ウェルから50μlのアリコートを採取し、96ウェルの平底プレートに移した。
- 移したアリコートを含むプレートの各ウェルに、50μlのCytoTox 96(登録商標)試薬を添加し、プレートを、室温で30分間、ホイルで覆った。
- 30分後に、50μlの停止溶液を各ウェルに添加し、490nmでの吸光度を各ウェルから読み取った。
【0242】
[0264]各ウェルの吸光値を、製造業者の説明書に従って補正し、細胞傷害性の割合を、以下の式を使用して計算し、空のベクターを形質導入したT細胞に対して正規化して、細胞殺滅における倍変化を得た。
【0243】
【数1】
【0244】
[0265]図22Aに示されるように、PEP2-2-1-1 CARを発現するCD8 T細胞およびPEP2-472-2 CARを発現するCD8 T細胞の両方が、空のベクターを形質導入したCD8細胞よりも、およそ15倍および11倍(それぞれ)多くの非機能性P2X受容体を発現するHEK細胞を殺滅させた。さらに、図22Bに示されるように、PEP2-2-1-1 CAR発現CD8 T細胞およびPEP2-472-2 CAR発現CD8 T細胞は、空のベクターを形質導入したCD8細胞よりも、およそ2.5倍および2.25倍(それぞれ)多くの231 P2X細胞を殺滅させた。
【0245】
[0266]本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書で別途示されるか、文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実行することができる。本明細書にて提供されるあらゆる例または例示的な語法(例えば、「など」)の使用は、単に、実施形態の例を良好に示すことを意図するものであり、特許請求される本発明の範囲に対して制限を課すものではない。本明細書におけるいずれの語法も、任意の特許請求されていない要素を必須として示すとして解釈されるべきではない。
【0246】
[0267]本明細書に提供される説明は、共通した特性および特徴を共有し得るいくつかの実施形態に関連している。一実施形態の1つまたは複数の特徴が、他の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせ可能であり得ることを理解すべきである。加えて、実施形態の単一の特徴または特徴の組合せが、さらなる実施形態を構成してもよい。
【0247】
[0268]本明細書に使用される題目は、読者の参照の容易さのみのために含まれるものであり、本開示または特許請求の範囲を通じて見出される主題を制限するために使用されるものではない。題目は、特許請求の範囲または特許請求の制限の解釈に使用されるものではない。
【0248】
[0269]当業者であれば、本明細書に記載される本発明が、具体的に記載されたもの以外の変化および修正を受ける可能性を認識すると予想される。本発明が、そのような変化形および修正形を含むことを理解されたい。本発明はまた、個別または集合的に、本明細書に参照されるか、または示されるステップ、特徴、組成物、および化合物のすべて、ならびにステップまたは特徴の任意の2つまたはそれ以上のあらゆる組合せを含む。
【0249】
[0270]さらに、本明細書に使用されるとき、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、既に文脈によりそうでないことが示されない限り、複数形の態様を含むことに留意されたい。
【0250】
[0271]例えば、本出願による優先権を主張すること、分割状態を請求することによって、および/または継続状態を請求することによって、本出願に基づいて、今後の特許出願が出願されてもよい。以下の特許請求の範囲が、任意のそのような今後の出願において特許出願され得る範囲を制限するように意図するものではないことが理解される。
発明の態様
[態様1]抗原認識ドメインとシグナル伝達ドメインとを含むキメラ抗原受容体であって、抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体を認識する、キメラ抗原受容体。
[態様2]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位と関連するエピトープを認識する、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
[態様3]機能障害性P2X受容体が、野生型(機能性)P2X受容体のATP結合能力と比較して低減されたATPに結合する能力を有する、請求項1または2に記載のキメラ抗原受容体。
[態様4]機能障害性P2X受容体が、受容体を機能障害性にする立体配置の変化を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様5]立体配置の変化が、アミノ酸のトランス配置からシス配置への変化である、請求項4に記載のキメラ抗原受容体。
[態様6]トランス配置からシス配置へ変化したアミノ酸が、機能障害性P2X受容体のアミノ酸210位のプロリンである、請求項5に記載のキメラ抗原受容体。
[態様7]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体のアミノ酸210位のプロリンを含むエピトープを認識する、請求項1から6のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様8]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体のアミノ酸200位のグリシンからアミノ酸216位システインにわたる1つまたは複数のアミノ酸残基を含むエピトープを認識する、請求項1から7のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様9]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体に結合する抗体またはそのフラグメントのアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様10]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体に結合する抗体の抗原結合フラグメント(Fab)部分のアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様11]前記抗体が、ヒト化抗体である、請求項9または10に記載のキメラ抗原受容体。
[態様12]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体に結合する一本鎖可変フラグメント(scFv)のアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様13]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体に結合する多価一本鎖可変フラグメント(scFv)のアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様14]多価一本鎖可変フラグメント(scFv)が、二価scFvまたは三価scFvである、請求項13に記載のキメラ抗原受容体。
[態様15]抗原認識ドメインが、機能障害性P2X受容体に結合する単一抗体ドメイン(sdAb)のアミノ酸配列に対するアミノ酸配列相同性を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様16]シグナル伝達ドメインが、活性化受容体に由来する部分を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様17]活性化受容体が、CD3共受容体複合体のメンバーである、請求項16に記載のキメラ抗原受容体。
[態様18]CD3共受容体複合体に由来する部分が、CD3-ζである、請求項17に記載のキメラ抗原受容体。
[態様19]活性化受容体が、Fc受容体である、請求項16に記載のキメラ抗原受容体。
[態様20]Fc受容体に由来する部分が、FcεRIまたはFcγRIである、請求項19に記載のキメラ抗原受容体。
[態様21]シグナル伝達ドメインが、共刺激性受容体に由来する部分を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様22]シグナル伝達ドメインが、活性化受容体に由来する部分と、共刺激性受容体に由来する部分とを含む、請求項1から21のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
[態様23]共刺激性受容体が、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSからなる群から選択される、請求項21または22に記載のキメラ抗原受容体。
[態様24]請求項1から23のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
[態様25]請求項24に記載の核酸分子を含む、核酸コンストラクト。
[態様26]核酸分子の発現が、転写制御配列の制御下にある、請求項25に記載の核酸コンストラクト。
[態様27]転写制御配列が、構成的プロモーターである、請求項26に記載の核酸コンストラクト。
[態様28]転写制御配列が、誘導性プロモーターである、請求項26に記載の核酸コンストラクト。
[態様29]内部リボソーム進入部位(IRES)をさらに含む、請求項25から28のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト。
[態様30]核酸コンストラクトが、ベクターである、請求項25から29のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト。
[態様31]ベクターが、ウイルスベクターである、請求項30に記載の核酸コンストラクト。
[態様32]請求項1から23のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体を含む、遺伝子改変された細胞。
[態様33]2つまたはそれ以上の異なるキメラ抗原受容体を含む、請求項32に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様34]請求項24に記載の核酸分子、または請求項25から31のいずれか一項に記載の核酸コンストラクト、または前記核酸コンストラクトのゲノム組込み形態を含む、遺伝子改変された細胞。
[態様35]核酸分子または核酸コンストラクトが、2つまたはそれ以上の異なるキメラ抗原受容体をコードする、請求項34に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様36]2つまたはそれ以上の異なるキメラ抗原受容体が、異なるシグナル伝達ドメインを有する、請求項33または35に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様37]活性化受容体に由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有する第1のキメラ抗原受容体と、共刺激性受容体に由来する部分を含むシグナル伝達ドメインを有する第2のキメラ抗原受容体とを含む、請求項32から36のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様38]活性化受容体が、CD3共受容体複合体のメンバーであるか、またはFc受容体である、請求項37に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様39]共刺激性受容体が、CD27、CD28、CD30、CD40、DAP10、OX40、4-1BB(CD137)、およびICOSからなる群から選択される、請求項37または38に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様40]共刺激性受容体を構成的に発現するようにさらに改変される、請求項32から36のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様41]共刺激性受容体のリガンドを発現し、それによって細胞の自己刺激が促進されるように、さらに改変される、請求項40に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様42]サイトカインを分泌するようにさらに改変される、請求項32から41のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様43]サイトカインが、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-17、およびIL-21、またはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項42に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様44]白血球である、請求項32から43のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様45]末梢血単核細胞(PBMC)である、請求項32から44のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様46]リンパ球である、請求項32から45のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様47]T細胞である、請求項32から46のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様48]T細胞が、CD4+T細胞である、請求項47に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様49]T細胞が、CD8+T細胞である、請求項47に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様50]ナチュラルキラー細胞である、請求項32から46のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様51]ナチュラルキラーT細胞である、請求項32から46のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞。
[態様52]機能障害性P2X受容体を発現する細胞を殺滅させる方法であって、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、キメラ抗原受容体を有する遺伝子改変された細胞に曝露するステップを含み、キメラ抗原受容体が、機能障害性P2X受容体に方向付けられている、方法。
[態様53]キメラ抗原受容体が、機能障害性P2X受容体を直接的に認識する、請求項52に記載の方法。
[態様54]キメラ抗原受容体が、機能障害性P2X受容体を、仲介物を介して認識する、請求項52に記載の方法。
[態様55]仲介物が、機能障害性P2X受容体に結合するプローブであり、キメラ抗原受容体が、プローブを認識する、請求項54に記載の方法。
[態様56]機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、プローブに曝露するステップをさらに含む、請求項52に記載の方法。
[態様57]プローブが、抗体またはアプタマーである、請求項55または56に記載の方法。
[態様58]プローブが、タグを含み、キメラ抗原受容体が、タグを認識する、請求項55から57のいずれか一項に記載の方法。
[態様59]機能障害性P2X受容体を発現する細胞を殺滅させる方法であって、機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、請求項32から51のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞に曝露するステップを含む、方法。
[態様60]機能障害性P2X受容体を発現する細胞を、外因性サイトカインに曝露するステップをさらに含む、請求項52から59のいずれか一項に記載の方法。
[態様61]遺伝子改変された細胞が、機能障害性P2X受容体を発現する細胞にとって自己である遺伝子改変された細胞である、請求項52から60のいずれか一項に記載の方法。
[態様62]機能障害性P2X受容体を発現する細胞が、対象の体内にある、請求項52から61のいずれか一項に記載の方法。
[態様63]機能障害性P2X受容体を発現する細胞が、がん細胞である、請求項52から62のいずれか一項に記載の方法。
[態様64]がん細胞が、脳のがん、食道がん、口腔がん、舌がん、甲状腺がん、肺がん、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がん、上皮細胞がん、皮膚がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、および精巣がんのうちの1つまたは複数から選択される、請求項63に記載の方法。
[態様65]がん細胞が、肺がん、食道がん、胃がん、結腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がん、膣がん、上皮細胞がん、皮膚がん、血液関連のがん、乳がん、子宮内膜がん、子宮がん、および精巣がんのうちの1つまたは複数から選択される、請求項63に記載の方法。
[態様66]がんが、転移性である、請求項63から65のいずれか一項に記載の方法。
[態様67]がんが、ステージIIIのがんである、請求項63から66のいずれか一項に記載の方法。
[態様68]がんが、ステージIVのがんである、請求項63から66のいずれか一項に記載の方法。
[態様69]請求項32から51のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞を、インビトロで増殖させる方法であって、前記細胞を、キメラ抗原受容体の抗原に曝露するステップを含む、方法。
[態様70]前記細胞を、サイトカインに曝露するステップをさらに含む、請求項69に記載の方法。
[態様71]請求項32から51のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞を、インビトロで増殖させる方法であって、前記細胞を、キメラ抗原受容体の抗原に曝露し、同時に前記細胞をサイトカインに曝露するステップを含む、方法。
[態様72]サイトカインが、IL-2サブファミリー、インターフェロンサブファミリー、IL-10サブファミリー、IL-1サブファミリー、IL-17サブファミリー、またはTGF-βサブファミリーのメンバーである、請求項70または71に記載の方法。
[態様73]サイトカインが、IFN-γ、IL-2、IL-5、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、TNF-α、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、およびGM-CSF、またはこれらの組合せからなる群から選択される、請求項70または71に記載の方法。
[態様74]請求項32から51のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞を、インビトロで増殖させる方法であって、前記細胞を、固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体に曝露するステップを含む、方法。
[態様75]請求項32から51のいずれか一項に記載の遺伝子改変された細胞と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[態様76]サイトカインをさらに含む、請求項75に記載の医薬組成物。
[態様77]サイトカインが、IL-2サブファミリー、インターフェロンサブファミリー、IL-10サブファミリー、IL-1サブファミリー、IL-17サブファミリー、またはTGF-βサブファミリーのメンバーである、請求項76に記載の医薬組成物。
[態様78]サイトカインが、IFN-γ、IL-2、IL-5、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-17、IL-18、TNF-α、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、およびGM-CSF、またはこれらの組合せからなる群から選択される、請求項76に記載の医薬組成物。
[態様79]仲介物をさらに含む、請求項75から78のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[態様80]仲介物が、機能障害性P2X受容体に結合するプローブであり、キメラ抗原受容体が、プローブを認識する、請求項79に記載の医薬組成物。
[態様81]プローブが、抗体またはアプタマーである、請求項80に記載の医薬組成物。
[態様82]プローブが、タグを含み、キメラ抗原受容体が、タグを認識する、請求項80または81に記載の医薬組成物。
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