(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】RSV F/Gキメラワクチン
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20230329BHJP
C07K 14/135 20060101ALI20230329BHJP
C12N 15/45 20060101ALI20230329BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230329BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230329BHJP
A61K 39/155 20060101ALI20230329BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20230329BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20230329BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230329BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230329BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230329BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/135
C12N15/45
C12N15/62 Z
A61P31/14
A61K39/155
A61K47/62
A61K47/65
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2021502389
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020008187
(87)【国際公開番号】W WO2020175660
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019036206
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】山上 亮
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 悟史
(72)【発明者】
【氏名】松尾 美保子
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 正治
(72)【発明者】
【氏名】森 泰亮
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530504(JP,A)
【文献】特表2011-528222(JP,A)
【文献】国際公開第2009/148194(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166610(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質とGタンパク質とのキメラタンパク質(RSV F/Gキメラタンパク質)であって、RSV Fタンパク質を基本骨格として、当該基本骨格の一部をRSV Gタンパク質のCCD配列
の一部に置換した、又は当該基本骨格に当該CCD配列
の一部を付加してな
るRSV F/Gキメラタンパク質
であって、
ここで、前記Fタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性をもつ配列を含み、かつ
(1)前記置換又は付加するCCD配列の一部が、配列番号2の162~171位の配列、187~197位の配列、配列番号2の162~172位の配列と187~199位の配列とを連結した配列、配列番号2の164~172位の配列と187~197位の配列とを連結した配列、配列番号2の162~172位の配列と187~199位の配列と162~172位の配列とを連結した配列、及び配列番号2の162~172位の配列を2~3個連結した配列よりなる群から選ばれた一の配列を含むか、または
(2)前記置換又は付加するCCD配列の一部が、配列番号11のRSV Gタンパク質の162~171位の配列、164~172位の配列、187~197位の配列、配列番号11の162~172位の配列と187~197位の配列とを連結した配列、配列番号11の164~172位の配列と187~197位の配列とを連結した配列、配列番号11の162~172位の配列と187~199位の配列とを連結した配列、及び配列番号11の162~172位の配列を2~3個連結した配列よりなる群から選ばれた一の配列を含む、RSV F/Gキメラタンパク質。
【請求項2】
当該基本骨格の一部を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~171位に置換した、又は当該基本骨格に当該162~171位を付加してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項3】
当該RSV Fタンパク質のFPドメインの一部を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~171位に置換してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項4】
配列番号1に記載のアミノ酸配列上137~146位に相当するRSV Fタンパク質の配列を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~171位に置換してなる、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項5】
当該RSV Fタンパク質のC末端に配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~171位を付加してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項6】
当該基本骨格の一部を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の187~197位に置換した、又は当該基本骨格に当該187~197位を付加してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項7】
当該RSV Fタンパク質のFPドメインの一部を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の187~197位に置換してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項8】
配列番号1に記載のアミノ酸配列上137~146位に相当するRSV Fタンパク質の配列を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の187~197位に置換してなる、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項9】
当該RSV Fタンパク質のC末端に配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の187~197位を付加してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項10】
当該RSV Fタンパク質のFPドメインの一部を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~172位と187~199位の配列とをリンカーで連結した配列に置換してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項11】
当該RSV Fタンパク質のFPドメインの一部を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~172位と187~199位の配列とをGGGGS(配列番号5)又はEAAAK(配列番号6)によるリンカーで連結した配列に置換してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項12】
当該RSV Fタンパク質のC末端に配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~172位と187~199位の配列とをリンカーで連結した配列を付加してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項13】
当該RSV Fタンパク質のC末端に配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~172位と187~199位の配列とをGGGGS(配列番号5)又はEAAAK(配列番号6)によるリンカーで連結した配列を付加してなる、請求項
1に記載のキメラタンパク質。
【請求項14】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むRSV Fタンパク質のFPドメインの一部を配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~172位と187~199位の配列とを連結した配列に置換してなる、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項15】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むRSV Fタンパク質のC末端に配列番号2に記載のRSV Gタンパク質の162~172位と187~199位の配列とを連結した配列を付加してなる、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項16】
配列番号1に記載のアミノ酸配列上137~146位に相当するRSV Fタンパク質の配列をRSV Gタンパク質の162~171位に置換し、Fタンパク質にK419N、K421T、及びG430Tのアミノ酸改変を加えてなる、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項17】
配列番号1に記載のアミノ酸配列上137~146位に相当するRSV Fタンパク質の配列をRSV Gタンパク質の162~171位に置換し、Fタンパク質にK419N、K421T、及びT434N及びS436Tのアミノ酸改変を加えてなる、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項18】
アミノ酸改変により、Fタンパク質のsiteIV周辺すなわち配列番号1の419~468位に糖鎖付加部位が導入されて
おり、
当該糖付加部位導入のためのアミノ酸改変が、下記(1)~(2)のいずれかである、請求項1~
15のいずれか一項に記載のキメラタンパク質
;
(1)K419N、K421T、及びG430T
(2)K419N、K421T、及びT434N及びS436T
。
【請求項19】
前記Fタンパク質のsiteIVの糖鎖付加部位導入のためのアミノ酸改変が、K419N、K421T、及びG430Tである、請求項
18に記載のキメラタンパク質。
【請求項20】
前記Fタンパク質のsiteIVの糖鎖付加部位導入のためのアミノ酸改変が、K419N、K421T、及びT434N及びS436Tである、請求項
18に記載のキメラタンパク質。
【請求項21】
請求項1~
20のいずれか一項に記載のキメラタンパク質を抗原とするRSVワクチン。
【請求項22】
RSV Fタンパク質よりも低いRSV感染増悪傾向を有する、請求項
21に記載のRSVワクチン。
【請求項23】
RSV Fタンパク質よりも高い補体依存性中和価を有する、請求項
21に記載のRSVワクチン。
【請求項24】
請求項1~
20のいずれか一項に記載のキメラタンパク質をコードするフラグメントDNA。
【請求項25】
請求項
24に記載のフラグメントDNAを含む発現ベクター。
【請求項26】
請求項
24に記載のフラグメントDNA又は請求項
25に記載の発現ベクターをトランスフェクションした細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のワクチンに関する。より詳細には、RSV Fタンパク質を基本骨格として、当該基本骨格の一部をRSV Gタンパク質のConserved Central Domain配列の全体又はその一部で置換、又は当該基本骨格に当該Conserved Central Domain配列の全体又はその一部を付加した組換えF/Gキメラタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
疫学:RSVの感染経路は飛沫感染あるいは接触感染であり、2歳までにほぼ100%のヒトが感染する。通常は鼻水、38~39℃の発熱、咳等のかぜ様症状が現れる。一方で、初感染では細気管支炎・肺炎に進展する場合が多く、特に6か月未満の乳児・高齢者は重症化しやすい。グローバルにおける2015年推定では、5歳未満で3310万人がRSV感染症(RSV-Acute Lower Respiratory Infection)に罹患、そのうち320万人が入院加療を必要とし、11万8200人が死亡しているとされている(非特許文献1)。治療法は支持療法が中心であり、治療薬としては抗ウイルス薬Ribavirin(VIRAZOLE(登録商標))の吸入が米国で認可されているのみである。唯一の予防薬としてRSVのエンベロープ蛋白に結合する抗体医薬品のPalivizumab(Synagis(登録商標))が認可されているが、投与対象者がハイリスク者(早産児、慢性疾患、先天性心疾患等)に限定されている(非特許文献7)。乳幼児期にRSウイルス感染症、特に細気管支炎を起こした子どもは、後年気管支喘息を発症しやすいといわれている。しかしながら、感染しないようにすることは不可能であるため、長年有効なワクチン開発が期待されているものの、世界中に認可されているRSVワクチンは存在していない。
【0003】
RSV Fタンパク質:RSV Fタンパク質はRSVエンベロープ表面に局在し、ウイルスが宿主の細胞に侵入するために重要な機能を持つ。具体的には、RSV Fタンパク質を介して、宿主細胞膜とウイルスエンベロープを融合することで感染が成立する。ウイルス株間で変異が少ないことから、RSV Fタンパク質をワクチン抗原とする研究開発が進んできた。これまでに、RSV Fタンパク質は3つの形態(Prefusogenic F / Prefusion F / Postfusion)をとることが報告されている(特許文献1、4、5)。そのため、それぞれの形態のRSV Fタンパク質をワクチン抗原とする研究開発が実施され、複数の臨床試験が行われている(非特許文献2)。RSV Fタンパク質は約60kDaであり、N末端から順に、Signal Peptide(SP)ドメイン、Fragment2 (F2)ドメイン、p27ドメイン、Fusion Peptide(FP)ドメイン、Fragment1(F1)ドメイン、Transmembrane(TM)ドメイン、Cytoplasmic tail (CT)ドメインと呼ばれる部位から一般的に構成される基本骨格を持つ。
【0004】
RSV Gタンパク質:RSV Gタンパク質はRSVエンベロープ表面に局在し、ウイルスが宿主の細胞に接着するために重要な機能を持つ。具体的には、ウイルス表面のRSV Gタンパク質を介して、宿主細胞のレセプターと接着する。RSV Gタンパク質の配列はウイルス株間で大きく異なり、配列の違いによってAとBのサブグループに大別される。RSV A2 strainのGタンパク質は約30kDaであり、N末端から順に、Intravirion、transmembrane region (TM)、Mucin-like region I、Conserved Central Domain (CCD) 、Mucin-like region IIと呼ばれる部位から構成される。CCDと呼ばれる領域配列(アミノ酸残基158~199)はウイルス株間でも変化が少なく、高度に保存されており、ケモカインCX3Cモチーフを含んでいる。このCX3Cモチーフが、リガンドとなる細胞表面のCX3C Receptor 1(CX3CR1)と結合して、ウイルスと細胞が接着することで感染が促進される(非特許文献3)。その後、RSV Fタンパク質がウイルスエンベロープと細胞膜の融合を促して感染が成立する。RSV Fタンパク質とともにRSV Gタンパク質も感染に重要であるため、RSV Gタンパク質をワクチン抗原とする研究開発が実施され、臨床試験が行われたことがある(特許文献3)。
【0005】
RSV F/Gキメラタンパク質: RSV F/Gキメラタンパク質として、N末端からC末端の方向で、(i)第1のFタンパク質ポリペプチドドメイン、(ii)Gタンパク質のポリペプチドドメイン、及び(iii)第2のFタンパク質ポリペプチドを含むキメラ呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ポリペプチドの公開情報がある(特許文献6)。このキメラ抗原に含まれるGタンパク質は、アミノ酸残基183~203、152~229、149~229、及び128~229のいずれかとなっている(特許文献6)。また、N末端からC末端の方向で、(i)Furin切断サイトで切断されないように第1のFタンパク質と第2のFタンパク質を連結したアミノ酸配列と、(ii)Gタンパク質ポリペプチドの一部を含んでなる、キメラRSVポリペプチドの公開情報もある(特許文献7)。このキメラ抗原に含まれるGタンパク質は、アミノ酸残基183~203、152~229、及び149~229のいずれかとなっている(特許文献7)。いずれもRSV F/Gキメラタンパク質であるものの、RSV野生型F(RSV WT F)タンパク質、RSV Postfusion F(RSV post F)タンパク質及びRSV pre F(RSV Prefusion F)タンパク質との感染防御能の優位性や同等性評価ならびに低用量投与による感染増悪の検証がなされていない。本発明の相違点は、キメラ抗原に含まれるGタンパク質はCCD領域に限定していることである。すなわち、本発明では有効性及び安全性に重要な領域:アミノ酸残基158-199に限定している。
【0006】
RSV F/Gキメラタンパク質として、N末端からC末端の方向で、RSV Fタンパク質のアミノ酸残基1~526とRSV Gタンパク質のアミノ酸残基69~298を連結したタンパク質の報告がある(非特許文献5)。このRSV F/Gキメラタンパク質はホルマリン不活化RSVとの比較にて感染防御能評価及び副作用評価で優位性が認められるものの、RSV WT Fタンパク質、RSV post Fタンパク質及びRSV pre Fタンパク質との比較において、感染防御能での優位性や同等性評価ならびに低用量投与による感染増悪の検証がなされていない(非特許文献5)。RSV F/Gキメラタンパク質としては、基礎研究が行われているものの、いまだ臨床研究が行われたことはない。本発明の相違点は、キメラ抗原に含まれるGタンパク質はCCD領域に限定していることである。すなわち、本発明では有効性及び安全性に重要な領域:アミノ酸残基158-199に限定している。
【0007】
抗RSV F抗体:RSV Fタンパク質特異的な抗体は中和能を持つことが知られている。RSV Fタンパク質の複数エピトープに対して、それぞれモノクローナル抗体が存在する(非特許文献6)。RSV Fタンパク質のsiteIIと呼ばれる部位に対して特異的な抗体の一つは、抗体医薬品のPalivizumab(Synagis(登録商標))として認可されている。この医薬品は予防薬としても認可されているが、投与対象者はハイリスク者(早産児、慢性疾患、先天性疾患等)に限定されている(非特許文献7)。
【0008】
抗RSV G抗体:RSV Gタンパク質特異的な抗体は抗RSV F抗体と同様に中和能を持つ。特に、RSV Gタンパク質のCCDに対する抗体が複数知られている(非特許文献4)。その中でも3D3と呼ばれる抗体は、パリビズマブと異なり感染による気道炎症等の症状増悪を起こさない効果がBALB/cマウスモデルで認められたと報告された(特許文献2、非特許文献8、9)。また、131-2Gと呼ばれる抗体はRSV感染に際し、T helper (Th)2からTh1へのシフトを誘導する効果がBALB/cマウスで得られたとの報告がある(非特許文献10)。
【0009】
ウイルス株間で高度に保存されているRSV Gタンパク質のCCDの配列の中でも、とりわけ高度に保存されている配列領域Central Conserved Region(CCR)が存在し、RSV Gタンパク質のアミノ酸残基164~176に位置している(非特許文献11、19)。このCCRを認識するモノクローナル抗体である、3D3、131-2G及び2B11には、肺の炎症を抑制する効果がBALB/cマウスモデルで認められたと報告された(非特許文献11)。
【0010】
RSV感染症の増悪メカニズム:1960年代にホルマリン不活化RSVワクチンの治験が実施されたが、RSV初感染での入院率が非接種群で2%、ワクチン接種群で80%であり、さらに接種群では2児が死亡している(非特許文献12)。ワクチン接種後のRSV感染によって症状増悪が起きた原因として、RSV Gタンパク質によるTh2への免疫誘導、ホルマリン処理で生成されるカルボニル化タンパク質によるTh2への免疫誘導、ワクチンにより誘導される抗体のアビディティの低さ等が挙げられている(非特許文献13~15)。
【0011】
RSV Gタンパク質と増悪メカニズムとの関連:乳幼児は特にRSV感染で重症化することが知られている。その原因の一つとして、乳幼児の免疫は炎症性細胞が多くなるTh2にシフトしていることが挙げられてきた。また、RSV Gタンパク質のCX3CモチーフのレセプターであるCX3CR1を介して、RSVがneonatal regulatory B lymphocytes(nBreg)に感染すると、IL-10が産生されTh1応答が阻害されるということがRSV感染症のヒトで報告されている(非特許文献16)。
【0012】
低用量投与による症状増悪:先行開発品のRSV post Fタンパク質(アジュバントとしてTh1誘導型のGlucopyranosyl Lipid Adjuvant-stable Emulsionを含む)及びRSV pre Fタンパク質(アジュバントとしてTh2誘導型Aluminium hydroxide hydrate Gelを含む)を抗原としたワクチンを低用量投与した後、RSV感染させると肺胞炎等のVaccine-Enhanced Diseaseがコットンラットモデルで起きたとの報告がある(非特許文献17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第6162751号
【文献】特許第5808536号
【文献】特許第4310184号
【文献】WO2016144675A1
【文献】特表2016-519658
【文献】特表2010-522540
【文献】特表2011-528222
【文献】特許第4150814号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Shi T et al. Lancet. 2017 Sep 2;390(10098):946-958.
【文献】Mazur NI et al. Lancet Infect Dis. 2018 Oct;18(10):e295-e311.
【文献】Johnson SM et al. PLoS Pathog. 2015 Dec 11;11(12):e1005318
【文献】Fedechkin SO et al. Sci Immunol. 2018 Mar 9;3(21). pii: eaar3534.
【文献】Prince GA et al. J Virol. 2000 Nov;74(22):10287-92.
【文献】McLellan JS et al. Science. 2013 May 31;340(6136):1113-7.
【文献】抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体製剤 シナジスR筋注液添付文書
【文献】Han J et al. Am J Respir Cell Mol Biol. 2014 Jul;51(1):143-54.
【文献】http://www.trellisbio.com/pipeline/viruses.html
【文献】Boyoglu-Barnum S et al. J Virol. 2014 Sep;88(18):10569-83.
【文献】Caidi H et al.Antiviral Res. 2018 Jun;154:149-157
【文献】Kim HW et al. Am J Epidemiol. 1969 Apr;89(4):422-34.
【文献】Johnson TR et al. Pediatr Infect Dis J. 2004 Jan;23(1 Suppl):S46-57
【文献】Moghaddam A et al. Nat Med. 2006 Aug;12(8):905-7.
【文献】Delgado MF et al. Nat Med. 2009 Jan;15(1):34-41.
【文献】Zhivaki D et al. Immunity. 2017 Feb 21;46(2):301-314.
【文献】Schneider-Ohrum K et al. J Virol. 2017 Mar 29;91(8). pii: e02180-16.
【文献】N Elango et al. Nucleic Acids Res. 1985 Mar 11; 13(5): 1559-1574.
【文献】Sullender W et al. Virology. 1995 May 10;209(1):70-9.
【文献】Yokoi H et al. Kansenshogaku Zasshi. 2012 Sep;86(5):569-76.
【文献】Wu SJ et al. J Gen Virol. 2007 Oct;88(Pt 10):2719-23.
【文献】McLellan JS et al. J Virol. 2010 Dec;84(23):12236-44.
【文献】Gilman MS et al. Sci Immunol. 2016 Dec 16;1(6).
【文献】Tang A et al. Nat Commun. 2019 Sep 12;10(1):4153.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
2歳までにほぼ100%のヒトがRSVに感染し、通常はかぜ様症状が現れる。一方で、初感染では細気管支炎・肺炎に進展する場合が多く、特に乳児・高齢者は重症化しやすい。予防薬としてPalivizumab(Synagis(登録商標))があるが、投与対象者はハイリスク者(早産児、慢性疾患、先天性疾患等)に限定される。RSVワクチンについては臨床試験段階のものが多数あるのみで、認可されたRSVワクチンはいまだ世界中に存在しない。1960年代の臨床試験おいて、ホルマリン不活化RSVワクチン接種後の自然感染で増悪作用が認められて以来、増悪リスクを回避し得るRSVワクチン開発が求められている。特に、乳幼児では増悪作用が懸念される一方で、このリスクを回避できるRSVワクチン開発は進んでいない。そのような状況下、本発明は、ワクチン接種後の増悪リスクを回避し得るRSVワクチンの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、RSV Fタンパク質を基本骨格として、当該基本骨格の一部をRSV Gタンパク質のCCD配列の全体又はその一部に置換した、又は当該基本骨格に当該CCD配列の全体又はその一部を付加することにより作製したRSV F/Gキメラタンパク質抗原が、post Fタンパク質抗原及びpre Fタンパク質抗原の低用量接種後にRSV感染させた際に認められる感染増悪傾向が生じにくいことを見出した。また、本発明者らは、post Fタンパク質抗原と比較して感染防御能が優れていること、pre Fタンパク質抗原と比較して感染防御能が同等であることを証明した。加えて、本発明者らは、RSV Fタンパク質に糖鎖付加の修飾を加えることにより、RSV Fタンパク質、変異したアミノ酸配列を含むRSV Fタンパク質及びF/Gキメラタンパク質の発現量が向上することを見出した。
【0017】
post Fタンパク質及びpre Fタンパク質をワクチン抗原とする先行開発品では、誘導される抗RSV F抗体が感染防御能を有する。しかしながら、抗RSV F抗体の血中濃度が低くなると中和能が低下すると同時に、抗RSV F抗体を捕捉した細胞を介して感染が助長されるいわゆる抗体依存性感染増強現象が生じ、結果としてVEDが引き起こされると推察される。
【0018】
一方、RSV F/Gキメラタンパク質抗原を投与することにより、抗RSV F抗体に加えて抗RSV G抗体が誘導されると期待できる。過去に報告されたRSV F/Gキメラタンパク質と異なる本発明の特徴は、キメラ抗原に含ませるGタンパク質を有効性及び安全性に重要なCCD領域(アミノ酸残基158-199)に限定したことである。したがって、RSV F/Gキメラタンパク質を免疫することで誘導される抗RSV G抗体は、抗RSV F抗体と同様、感染防御能を有する。また、RSV F/Gキメラタンパク質はGタンパク質に由来するCX3Cモチーフ周辺の配列を組み込んでいるため、免疫誘導される抗RSV G抗体は、ウイルス表面に局在するGタンパク質のCX3Cモチーフ付近に結合する。その結果、ウイルス表面Gタンパク質のCX3Cモチーフは抗RSV G抗体でマスクされた状況となり、宿主細胞表面に局在しているCX3CR1への結合が阻害されると推察される。したがって、CX3C-CX3CR1を介したTh1応答阻害シグナルを抑制すると期待される。つまり、RSV F/Gキメラタンパク質抗原を免疫することで誘導される抗RSV G抗体によって正常なTh1応答が促され、結果として感染増悪を抑制すると示唆される。
【0019】
また、pre Fタンパク質抗原及びRSV F/Gキメラタンパク質抗原をマウスに免疫した際、血中に誘導された抗RSV F抗体のサブクラス解析を実施した。その結果、補体結合能のあるIgG2a量が、pre Fタンパク質抗原と比較してRSV F/Gキメラタンパク質抗原を免疫したマウスの方が増加傾向だった。したがって、pre Fタンパク質抗原と比較してRSV F/Gキメラタンパク質抗原の方が、より有効な補体系による感染防御効果を期待できる。
上記に示したメカニズムのとおり、発明者らが見出したRSV F/Gキメラタンパク質抗原を投与することで、RSV Fタンパク質のみを抗原とするワクチン投与と比べて感染防御能が向上する効果及び/又は感染増悪を防ぐ効果を期待できる。
【0020】
本発明は、以下の〔1〕~〔37〕を提供する。
〔1〕呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質とGタンパク質とのキメラタンパク質(RSV F/Gキメラタンパク質)であって、RSV Fタンパク質を基本骨格として、当該基本骨格の一部をRSV Gタンパク質のCCD配列の全体又はその一部に置換した、又は当該基本骨格に当該CCD配列の全体又はその一部を付加してなるRSV F/Gキメラタンパク質。
〔2〕前記Fタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性をもつ配列を含む、〔1〕に記載のキメラタンパク質。
〔3〕前記Fタンパク質のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、〔1〕に記載のキメラタンパク質。
〔4〕前記CCD配列の全体又はその一部による置換位置、又は前記CCD配列の全体又はその一部の付加位置が、前記Fタンパク質のFPドメインである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔5〕前記CCD配列の全体又はその一部による置換位置が、前記Fタンパク質のFPドメイン及びp27ドメインである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔6〕前記CCD配列の全体又はその一部による置換位置が、前記Fタンパク質の137~146位である、〔5〕に記載のキメラタンパク質。
〔7〕前記CCD配列の全体又はその一部による置換位置、又は前記CCD配列の全体又はその一部の付加位置が、前記Fタンパク質のF1ドメインである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔8〕前記CCD配列の全体又はその一部による置換位置が、前記Fタンパク質の382~393位又は425~436位である、〔7〕に記載のキメラタンパク質。
〔9〕前記CCD配列の全体又はその一部による付加位置が、前記Fタンパク質のC末端である、〔2〕又は〔3〕に記載のキメラタンパク質。
〔10〕前記CCD配列の全体又はその一部のアミノ酸配列が、配列番号2の158~199位、162~197位、164~190位、164~186位、164~176位、173~197位、187~197位、173~186位、162~171位の配列、配列番号2の162~172位の配列と187~199位の配列とを連結した配列、配列番号2の164~172位の配列と187~197位の配列とを連結した配列、配列番号2の162~172位の配列と187~199位の配列と162~172位の配列とを連結した配列、及び配列番号2の162~172位の配列を2~3個連結した配列よりなる群から選ばれた一の配列を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔11〕前記アミノ酸配列の連結にリンカーを使用している、〔10〕に記載のキメラタンパク質。
〔12〕前記CCD配列の全体又はその一部による置換、又は前記CCD配列の全体又はその一部の付加にリンカーを使用している、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔13〕前記リンカーのアミノ酸配列が、GGGGS(配列番号5)又はEAAAK(配列番号6)である、〔11〕又は〔12〕に記載のキメラタンパク質。
〔14〕前記CCD配列の全体又はその一部のアミノ酸配列が、当該アミノ酸配列と75%以上の相同性をもつ、〔10〕~〔13〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔15〕前記CCD配列の全体又はその一部のアミノ酸配列が、当該アミノ酸配列と90%以上の相同性をもつ、〔10〕~〔13〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔16〕アミノ酸改変により、前記Fタンパク質に糖鎖付加部位を導入している、〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔17〕前記糖鎖付加部位が、前記Fタンパク質のsiteIV周辺すなわち配列番号1の419~468位である、〔16〕に記載のキメラタンパク質。
〔18〕前記siteIV周辺の糖鎖付加部位が、配列番号1の419~436位のいずれかである、〔17〕に記載のキメラタンパク質。
〔19〕前記siteIVの糖鎖付加部位導入のためのアミノ酸改変が、下記(1)~(7)のいずれかである、〔18〕に記載のキメラタンパク質。
(1)G430T/S
(2)K419N、及びK421T/S
(3)K427N、及びR429T/S
(4)T434N、及びS436T/S
(5)K419N、K421T/S、及びG430T/S
(6)K419N、K421T/S、及びK427N及びR429T/S
(7)K419N、K421T/S、及びT434N及びS436T/S
〔20〕前記糖鎖付加部位に糖鎖を付加している、〔16〕~〔19〕のいずれかに記載のキメラタンパク質。
〔21〕〔1〕~〔20〕のいずれかに記載のキメラタンパク質を抗原とするRSVワクチン。
〔22〕RSV Fタンパク質よりも低いRSV感染増悪傾向を有する、〔21〕に記載のRSVワクチン。
〔23〕RSV Fタンパク質のアミノ酸改変により糖鎖付加部位を導入して糖鎖を付加することにより、当該Fタンパク質の発現量を向上させる方法。
〔24〕前記Fタンパク質の一部をRSV Gタンパク質のCCD配列の全体又はその一部に置換した、又は当該Fタンパク質に当該CCD配列の全体又はその一部を付加した、〔23〕に記載の方法。
〔25〕前記糖鎖付加部位導入のためのアミノ酸改変が、下記(1)~(7)のいずれかである、〔23〕又は〔24〕に記載の方法。
(1)G430T/S
(2)K419N及びK421T/S
(3)K427N及びR429T/S
(4)T434N及びS436T/S
(5)K419N、K421T/S及びG430T/S
(6)K419N、K421T/S及びK427N及びR429T/S
(7)K419N、K421T/S及びT434N及びS436T/S
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、RSV感染予防効果を有するワクチン、及び/又はワクチン接種後のRSV感染増悪を回避できるワクチン、さらにはRSV感染予防効果を有し、かつワクチン接種後のRSV感染憎悪を回避できるワクチンの提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】RSV F/Gキメラタンパク質の配列概略図である。
【
図2】RSV F/Gキメラタンパク質の一部となるRSV Gタンパク質配列(No.1~9)の概略図である。
【
図3】RSV F/Gキメラタンパク質の一部となるRSV Gタンパク質配列(No.10~14)の概略図である。
【
図4】RSV F/Gキメラタンパク質の一部となるRSV Gタンパク質配列(No.15~18)の概略図である。
【
図5】RSV F/Gキメラタンパク質発現量一覧である。
【
図6】RSV F/Gキメラタンパク質発現量一覧である。
【
図7】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図8】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図9】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図10】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図11】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図12】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図13】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図14】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図15】RSV F/Gキメラタンパク質のウエスタンブロット結果である。
【
図16】RSV F/Gキメラタンパク質の電子顕微鏡像である。
【
図17】RSV F/Gキメラタンパク質のELISA試験結果である。
【
図18】RSV F/Gキメラタンパク質のELISA試験結果である。
【
図19】RSV F/Gキメラタンパク質免疫血清の中和試験結果である。
【
図20】RSV F/Gキメラタンパク質免疫血清の補体依存性中和試験結果である。
【
図21】RSV F/Gキメラタンパク質免疫血清に含まれる抗RSV Fタンパク質抗体のサブクラス解析結果である。
【
図22】RSV F/Gキメラタンパク質免疫によって誘導される抗RSV Gタンパク質抗体の評価である。
【
図23】RSV F/Gキメラワクチンの感染防御試験結果である。
【
図24】RSV F/Gキメラワクチンの感染防御試験結果である。
【
図25】RSV F/Gキメラワクチンの感染防御試験結果である。
【
図26】RSV F/Gキメラワクチンの感染抑制率評価結果である。
【
図27】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図28】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図29】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図30】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図31】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図32】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図33】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図34】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図35】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図36】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図37】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図38】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図39】RSV F/Gキメラタンパク質のSDS-PAGE結果である。
【
図40】RSV F/Gキメラタンパク質のELISA試験結果である。
【
図41】RSV F/Gキメラタンパク質のELISA試験結果である。
【
図42】RSV F/Gキメラタンパク質免疫血清の補体依存性中和試験結果である。
【
図43】RSV F/Gキメラワクチンの感染増悪評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義:
本明細書において、用語「感染増悪」は、抗原を免疫せずRSV感染させたcontrol群と比較して、抗原を免疫後にRSV感染させた場合に感染価あるいはウイルスコピー数が増加することをいう。
【0024】
本明細書において、用語「RSV F/G-W-X-Y Z」はRSV F/Gキメラタンパク質の特徴に基づく名称である。「W」は、RSV Fタンパク質(基本骨格)におけるGタンパク質による置換位置、又はGタンパク質の付加位置をアルファベットA~Dで表したものである(
図1)。アルファベット2文字の場合は、2か所にGタンパク質による置換、又はGタンパク質の付加があることを意味する。例えば“AD”の場合、AとDの位置に置換、又は付加があることを意味する。「X」は、基本骨格を置換、又は基本骨格に付加するRSV Gタンパク質配列を1~18の番号で表したものである(
図2~4)。番号が2つある場合は、該当するGタンパク質配列2つで置換、又は付加があることを意味する。例えば“RSV F/G-AD-9/7”の場合、“Aの位置に9”、“Dの位置に7”の置換、又は付加があることを意味する。Gタンパク質による置換、又はGタンパク質を付加しない場合は0で表す。「Y」は糖鎖修飾を伴うRSV Fタンパク質のアミノ酸改変を0~4の番号で表したものであり、具体的には「0:改変なし、1:K419N、K421T及びG430T、2:K419N、K421T、T434N及びS436T、3:K421N及びG430T、4:K419N、K421T、K427N、及びR429T」を意味する。ここで例えば「K419N」という表記は、RSV Fタンパク質の419位のリジン(K)が、アスパラギン(N)に置換されていることを示す。また、例えば「K421T/S」という表記は、421位のリジン(K)が、スレオニン(T)又はセリン(S)に置換されていることを示す。なお、「Z」はその他の改変あるいはリンカーの個数や種類を表す。具体的には、その他の改変としてRSV Fタンパク質の136アミノ酸を欠損させたものをΔ136aa、136番目のアルギニンをグルタミンに置換したものをR136Qと示す。リンカーの個数は「0個:0、1個:1、2個:2、3個:3、4個:4」として示し、
図3のNo.12及び13のリンカー挿入位置3か所の左側から順にリンカーの個数を示す。例えば、0個4個0個であれば「040」と示す。また、リンカーの種類は「GGGGSリンカー:G、EAAAKリンカー:E」として示し、
図3のNo.14、
図4のNo.17及び18のリンカー挿入位置3あるいは4か所の左側から順に示し、“/”を用いてリンカーとGタンパク質配列との区切りを表して、リンカーの種類を示す。そして、名称末尾にアミノ酸変異、例えば「N191S」という表記があれば、配列番号1の191番目のNがSに置換されていることを示す。また、名称末尾にある「Seq11」は配列号番号11のGタンパク配列であることを示す。
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について以下に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
(RSV F/Gキメラワクチン)
本実施形態に係るワクチン(RSV F/Gキメラワクチン)は、RSV Fタンパク質を基本骨格として、当該基本骨格の一部をRSV Gタンパク質のCCD配列の全体又はその一部で置換、又は当該基本骨格に当該CCD配列の全体又はその一部を付加した組換えRSV F/Gキメラタンパク質を抗原とする製剤である。ここで、「付加」には「挿入」の意味が含まれ、「置換」又は「付加」は、基本骨格との間にリンカーを介したものであってもよい。リンカーのアミノ酸配列の一例として、GGGGS(配列番号5)又はEAAAK(配列番号6)が挙げられる。
【0027】
RSV Fタンパク質(基本骨格)におけるGタンパク質による置換位置、又はGタンパク質の付加位置としては、Fタンパク質のFPドメイン、Fタンパク質のFPドメイン及びp27ドメイン(
図1のRSV F/G-A)、具体的には、Fタンパク質の137~146位、Fタンパク質のF1ドメイン、具体的には、Fタンパク質の382~393位(
図1のRSV F/G-B)又は425~436位(
図1のRSV F/G-C)、Fタンパク質のC末端(
図1のRSV F/G-D)が挙げられる。また、RSV Fタンパク質(基本骨格)におけるGタンパク質による置換位置、又はGタンパク質の付加位置としては、タンパク質の立体構造上、既知エピトープから離れた位置にある場所でも良く、例えばRSV F/G-AやRSV F/G-D等がある。あるいは、タンパク質抗原として目立つ位置(既知エピトープ等)、例えばRSV F/G-B(Antigenic site Iの位置)やRSV F/G-C(Antigenic site IVの位置)等であっても良い。なお、RSV F/G-BやRSV F/G-Cの置換は
図1記載のアミノ酸残基382-393、425-436の全体又はその一部であっても良い。
【0028】
RSV F/Gキメラワクチンは、post Fタンパク質を抗原とするワクチンと比較して優れた感染防御能を有し、pre Fタンパク質を抗原とするワクチンと比較して同等以上の感染防御能を有する。驚くべきことに、post Fタンパク質及びpre Fタンパク質を抗原とするワクチンと比較して、上記RSV F/Gキメラタンパク質ワクチンはワクチン接種後のRSV感染増悪傾向を抑制する。
【0029】
基本骨格とするRSV Fタンパク質の配列は、公知の野生型RSV株あるいは臨床分離株由来の配列が挙げられる。例えば、GenBank、European Bioinformatics Institute(EBI)及びDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のデータベースに登録された配列であってもよい。RSV Fタンパク質の代表的な配列としては、配列番号1に記載の配列が挙げられる。RSV Fタンパク質は、N末端から順に、SPドメイン、F2ドメイン、p27ドメイン、FPドメイン、F1ドメイン、TMドメイン、CTドメインと呼ばれる部位から一般的に構成される。
【0030】
RSV F/Gキメラタンパク質の一部となるRSV Gタンパク質の配列は、公知の野生型RSV株あるいは臨床分離株由来の配列が挙げられる。例えば、GenBank、European Bioinformatics Institute(EBI)及びDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のデータベースに登録された配列であってもよい。RSV Gタンパク質の代表的な配列としては、配列番号2(Human respiratory syncytial virus A2、UniProtKB/Swiss-Prot:Accession No. P03423)に記載の配列が挙げられる。また、RSV B株のGタンパクCCDの代表的な配列としては、配列番号11(Human respiratory syncytial virus B (strain B1)、UniProtKB/Swiss-Prot:Accession No. O36633)に記載の配列等がある。
【0031】
本発明によるRSV F/Gキメラタンパク質は、RSV Fタンパク質の一部をRSV Gタンパク質のCCD配列の全体又はその一部で置換するか、又はRSV Fタンパク質に当該CCD配列の全体又はその一部を付加することにより作製されるが、ここで置換又は付加されるRSV Gタンパク質のCCD配列の全体又はその一部は、RSV株間で高度に保存されているRSV Gタンパク質のCCD(RSV Gタンパク質のアミノ酸残基158~199)の配列の中でも、とりわけ高度に保存されている配列領域central conserved region(CCR)(RSV Gタンパク質のアミノ酸残基164~176)やCX3Cモチーフ(RSV Gタンパク質のアミノ酸残基182~186)を含む領域に由来する配列、例えば、RSV Gタンパク質のアミノ酸残基158~199に由来する配列であってよい。より具体的には、本発明においてCCD配列の全体又はその一部は、例えば、配列番号2の158~199位の配列、162~197位の配列、164~190位の配列、164~186位の配列、164~176位の配列、173~197位の配列、187~197位の配列、173~186位の配列、162~171位の配列、162~172位の配列と187~199位の配列とを連結したもの、164~172位の配列と187~197位の配列とを連結したもの、162~172位の配列を2~3個連結したものを含むものであってよい(
図2~4)。本発明においてCCD配列の全体又はその一部は、前記各種配列を含む配列に対して、75%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性をもつものであってもよい。なお、Fタンパク質の配列は既知の野生株によっては配列番号1と90%程度異なるものもある。また、Gタンパク質のCCD配列はウイルス株間で保存されているものの、CCD配列のうちCCR配列を除く部分は既知の野生株及び臨床分離株間でも配列番号2と比較して75%程度異なるものもある。また、RSV Fタンパク質は、N末端から順に、SPドメイン、F2ドメイン、p27ドメイン、FPドメイン、F1ドメイン、TMドメイン、CTドメインと呼ばれる部位から一般的に構成されるが、C末端側のTM及びCTドメインは細胞外に出ていない領域であることから、これらのドメインを含まないものであってもよい。
【0032】
本発明によるRSV F/Gキメラタンパク質はまた、RSV Fタンパク質に糖鎖付加の修飾をすることにより発現量を向上させることができる。糖鎖付加の修飾は、アミノ酸残基N(Asn)にN型糖鎖が付加、アミノ酸残基T(Thr)/S(Ser)にO型糖鎖が付加するものであってよい。この糖鎖付加の修飾のためにRSV Fタンパク質に改変(変異)を加えることができ、改変後のアミノ酸配列が、N(Asn)-α(Pro以外のアミノ酸)-T(Thr)、又はN(Asn)-α(Pro以外のアミノ酸)-S(Ser)のアミノ酸配列モチーフを含むものであってよい。
【0033】
糖鎖付加の修飾のためにRSV Fタンパク質に改変(変異)を加える位置は、RSV Fタンパク質に対するモノクローナル抗体101F等が特異的に結合するsiteIV spanと呼ばれるRSV Fタンパク質の422~468位(非特許文献21、22、24)の周辺すなわちRSV Fタンパク質の419~468位が好ましく、より好ましい位置はRSV Fタンパク質の419~436位のいずれかのアミノ酸残基である。具体的には、下記(1)~(7)のいずれかのアミノ酸残基に改変(変異)を加えるのが好ましい。
(1)G430T/S
(2)K419N及びK421T/S
(3)K427N及びR429T/S
(4)T434N及びS436T/S
(5)K419N、K421T/S、及びG430T/S
(6)K419N、K421T/S、及びK427N及びR429T/S
(7)K419N、K421T/S、及びT434N及びS436T/S
とりわけ、「K419N、K421T、K427N及びR429T」、「K419N、K421T及びG430T」、及び「K419N、K421T、T434N及びS436T」の変異導入により糖鎖付加の修飾を加えるのが好ましい。
【0034】
RSV F/Gキメラワクチンは、大腸菌、乳酸菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞を宿主とする発現系由来のタンパク質を含む。例えば、大腸菌(Escherichia coli)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア酵母(Pichia pastoris)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、Sf9細胞、Hi-5細胞、Chinese Hamster Ovary(CHO)細胞、Baby hamster kidney(BHK)細胞、C127細胞、NS0細胞、SP2細胞、MDCK細胞、EB66細胞、Vero細胞、GL-37細胞、HT-1080細胞、HEK293細胞、ヒトリンパ芽球及びヒト正常二倍体繊維芽細胞を宿主とする発現系由来のタンパク質であってよい。
【0035】
RSV F/Gキメラワクチンは、アジュバントを含むことも可能である。アジュバントとしては、例えば、poly(I:C)、MPL、RC529、GLA、E6020、フラジェリン、イミキモド、R848、CpG ODN、QS21、TDB、α-Galactosylceramide、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、MF59、AS03、AF03、SE、ビロソーム、AS01、AS02、AS04、AS15、GLA-SE、IC31、CAF01、ISCOMs又はそれらの組み合わせであってよい。
【0036】
RSV F/Gキメラワクチンは、添加剤を含むことも可能である。添加剤としては、例えば、アミノ酸、糖類、界面活性剤又はそれらの組み合わせであってよい。
【0037】
RSV F/Gキメラワクチンの剤型は、例えば、液状、粉末状(凍結乾燥粉末、乾燥粉末)、カプセル状、錠剤又は凍結状態であってよいが、これらに限られない。
【0038】
RSV F/Gキメラワクチンは、医薬として許容されうる担体を含むことも可能である。斯かる担体としては、例えば、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液、乳化剤、pH調整剤又はそれらの組み合わせであってよい。
【0039】
RSV F/Gキメラワクチンの投与方法は、シリンジ、経皮用パッチ、マイクロニードル、移植可能な徐放性デバイス、マイクロニードルを付けたシリンジ、無針装置、経鼻用スプレー、経口、又は舌下によって投与する方法であってよい。
【0040】
RSV F/Gキメラワクチンの接種対象となる哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等が挙げられる。本発明のRSV F/Gキメラワクチンは、ヒトに対して用いるのが最も好ましく、性別を問わない5歳~64歳の人に加えて、妊婦、乳幼児、5歳未満の小児、65歳以上の成人に対しても用いることができる。
【0041】
本発明のRSV F/Gキメラワクチンの投与回数は、投与の目的、投与方法、投与対象の状況(性別、年齢、体重、病状)によって異なるが、ヒトに対して投与される場合、1回、2回あるいは3回投与されてよい。
【0042】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例の材料及び方法)
1.クローニング、プラスミド、発現ベクターの構築
RSV Fタンパク質のアミノ酸残基1~524、flagタグ及びhisタグを含む配列をコードするDNA断片を外注により作成した。このフラグメントDNAを鋳型として、変異導入プライマーあるいはオリゴDNA合成品を用いてアセンブリーPCRを行い、RSV WT F(非特許文献18で報告されたhRSV Fタンパク質のアミノ酸配列(CAA26143)のうち、RSV Fタンパク質1-513アミノ酸残基を用いて作成;配列番号1)、RSV post Fタンパク質(特許文献4に記載のSEC ID No.1のアミノ酸配列のうち、RSV Fタンパク質1-513アミノ酸残基を用いて作成;配列番号3)、RSV pre Fタンパク質(特許文献5に記載のSEC ID No.383のアミノ酸配列のうち、RSV Fタンパク質1-513アミノ酸残基を用いて作成;配列番号4。RSV pre Fについては、同特許文献記載の配列に含まれる3量体化配列、hisタグ配列及びStrepタグ配列を含む配列とした。なお、flagタグ及びhisタグを含む配列を含まない。)及びRSV F/Gキメラタンパク質それぞれを含む配列をコードするフラグメントDNAを調製した(RSV Fタンパク質は配列番号1を骨格として、RSV Gタンパク質の配列番号2のCCDまたは配列番号11に置換または付加。およびRSV Fタンパク質は配列番号1を骨格として、RSV Gタンパク質の配列番号2のCCDの一部改変体に置換または付加)。In-FusionR HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、フラグメントDNAとSalIで開裂したpCAGGS1.dhfr.neoベクター(特許文献8、KMバイオロジクス)を連結させ、動物細胞発現ベクターを作製した。E. coli JM109コンピテントセル(東洋紡)を用いてクローニングを行いプラスミドDNA調製を行った。
【0043】
【0044】
2.発現及び精製
2-1.トランスフェクション
Expi293細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を7.5×107viable cellsになるようチューブに調製して、遠心(1000 rpm, 5分, 室温)した。上清を除去した後、あらかじめ加温したExpi293 Expression Medium 25.5 mLに懸濁して、125 mLフラスコに細胞を移した。30μgのプラスミドDNAをOPTI-MEMに加えてピペッティングにより混合した溶液と、80μLのExpiFectamine293溶液をOpti-MEMに加えて室温で5分間インキュベートした溶液を混合して、室温で20~30分間インキュベートした。上記DNA-Expi293複合体を前述のExpi293細胞を移したフラスコに滴下した。37℃、CO2 8%、125 rpmの条件下でCO2インキュベーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて撹拌培養した。トランスフェクションから16~18時間後、150μLのTransfection Enhancer1、及び1.5 mLのTransfection Enhancer2を加え、37℃、CO2 8%、125 rpmの条件下でCO2インキュベーターを用いて撹拌培養した。2~7日培養後にハーベストして、遠心(2500 rpm, 5分, 4℃)した後、0.22μmフィルトレーションし、上清回収した。
【0045】
2-2.アフィニティ精製
Ni-NTA Agarose(キアゲン)を1 mL分注し、D-PBS(和光純薬) 5 mLで3回洗浄した。上記前処理をしたNi-NTA Agaroseにサンプルを添加して、50 mLチューブに回収した。4℃で16~18時間ローテートしてカラムに移し、D-PBS、Wash buffer 2(50 mM Tris-HCl(pH7.4), 500 mM NaCl, 25mMイミダゾール)で洗浄した。その後、溶出バッファー(50 mM Tris-HCl(pH7.4), 500 mM NaCl, 25~500 mMイミダゾール)を加えて溶出した画分を回収した。タンパク濃度を測定し、タンパク質溶出ピークサンプルをD-PBSで透析処理した。透析回収後、0.22μmフィルターでろ過した。
【0046】
3.アジュバント
リン酸アルミニウムゲルであるAdju-PhosR(BRENNTAG)を6μg/匹となるよう調製して用いた。
【0047】
4.細胞
Vero細胞、Hep-2細胞(CCL-23、ATCC)、Expi293細胞(Expi293FTM、サーモフィッシャーサイエンティフィック)は製造業者推奨の方法にて継代したものを各試験及び抗原調製に用いた。
【0048】
5.マウス
SPFの雌BALB/cマウス(日本エスエルシー)を1週間程度馴化させた後、免疫原性試験ならびに感染防御試験等に用いた。
【0049】
6.ウイルス
RSV A2(VR-1540、ATCC)は製造業者推奨の方法にて増殖させた。調製したウイルスは使用するまでの期間-80℃で保管した。
【0050】
7.SDS-PAGE及びウエスタンブロット
7-1.SDS-PAGE
サンプルバッファーとDTTの混合液に検体を添加し、加熱処理(96℃、3~5 分)後、SDS-PAGE mini(テフコ)又はBoltRBis-Trisゲル(サーモフィッシャーサイエンティフィック)でSDS-PAGEを行った。電気泳動後、Bullet CBB Stain One(ナカライ)で染色し、脱イオン水で適度に脱色した。LAS-3000(富士フィルム)又はWSE-6100 LuminoGraph I(アト―)でゲルを撮影した。
【0051】
7-2.ウエスタンブロット
上記方法にて電気泳動を行った後、メンブレンをメタノールで処理してセミドライブロッティング装置を用いてブロッティングを行った。取り出したメンブレンを5%スキムミルクで30分間ブロッキングした。PBSTで洗浄した後に、希釈した抗RSV F抗体とメンブレンを1時間反応させた。PBSTで洗浄した後に、希釈した抗マウスIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック)とメンブレンを1時間反応させた。PBSTで洗浄した後に、Western BLoT Ultra Sensitive HRP Substrate(タカラバイオ)とメンブレンを反応させた。LAS-3000(富士フィルム)で上記の処理をしたメンブレンを撮影した。
【0052】
8.ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)
サイズ排除クロマトグラフィーを用いて粒子径測定を行った。Agilent 1200 Series(アジレント・テクノロジー)のシステムとSuperdexR 200 Increase 5/150 GL(GEヘルスケア)のカラムを用いて、D-PBSで希釈後0.22μmフィルターでろ過した検体を測定した。スタンダードはGel Filtration Standard(バイオラッド)を用いて、分子量の解析を行った。
【0053】
9.動的光散乱法による粒径測定(DLS)
Zetasizer Nano(Malvern Panalytical)を用いて、各種タンパク質の粒径測定を行った。なお、測定方法はメーカー説明書に従って実施した。
【0054】
10.電子顕微鏡
飽和酢酸ウラン及び2% PTA(リンタングステン酸)によるNegative染色法でTecnaiG2 12 TWIN(FEI Company)を用いて観察を行った。
【0055】
11.ELISA
11-1.サンドイッチELISA
D-PBSで希釈した抗RSV F抗体を96well MAXSORP plate(サーモフィッシャーサイエンティフィック)にアプライし、2~8℃で一晩又は37℃で1時間静置した。抗RSV F抗体を固相化したプレートから抗体希釈液を除去後にPBSで洗浄し、1%BSAをアプライして1時間静置した。ブロッキング液を除去し、検体をアプライして密閉した後に37℃で1時間静置した。検体を除去後にPBSTでプレートを洗浄し、1%BSAで希釈したビオチン化抗RSV F抗体をアプライし密閉した後に37℃で1時間静置した。ビオチン化抗RSV F抗体液を除去後にPBSTでプレートを洗浄し、希釈したHRP標識ストレプトアビジン(VECTOR Laboratories)をアプライして密閉した後に37℃で1時間静置した。HRP標識ストレプトアビジン溶液を除去後にPBSTで洗浄し、3, 3’,5,5’-Tetramethylbenzidine Liquid Substrate, Supersensitive, for ELISA-ready to use solution(シグマアルドリッチ)をアプライし室温で30分静置した。1N H2SO4をプレートにアプライし、発色を停止した後にSPECTRAMAX190(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で測定した。
【0056】
11-2.間接ELISA
D-PBSで希釈したRSV Fタンパク質を96well Pierce Nickel Coated Plate(サーモフィッシャーサイエンティフィック)にアプライし、2~8℃で一晩又は37℃で1時間静置した。RSV Fタンパク質希釈液を除去後にプレートをPBSで洗浄し、1%BSAをアプライして1時間静置した。ブロッキング液を除去し、検体をアプライして密閉した後にプレートを37℃で1時間静置した。検体を除去後にPBSTでプレートを洗浄し、1%BSAで希釈した抗マウスIgG HRP標識抗体あるいは抗ヒトIgG HRP標識抗体をアプライして密閉した後に37℃で1時間静置した。HRP標識抗体希釈液を除去後にプレートをPBSTで洗浄し、3, 3’,5,5’-Tetramethylbenzidine Liquid Substrate, Supersensitive, for ELISA-ready to use solution(シグマアルドリッチ)をアプライし室温で30分間静置した。1N H2SO4をプレートにアプライし、発色を停止した後にSPECTRAMAX190(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で測定した。
【0057】
12.リアルタイムPCR
12-1.RNA抽出及びcDNA合成
感染防御試験にて回収したBALF(気管支肺胞洗浄液;Bronchoalveolar Lavage Fluid)を遠心(300g or 1500 rpm)後、上清を回収した。NucleoSpinR RNA Virus(MACHEREY-NAGEL)を用いて上清150μLからウイルスRNAの分離を行った。なおプロトコールは製造業者推奨方法で行った。High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)を用いて抽出したRNAからcDNA合成を行った。なおプロトコールは製造業者推奨方法で行った。
【0058】
12-2.PCR
sense primer(RSVf-F、配列番号7)、antisense primer(RSVf-R、配列番号8)、MGB probe(RSVfA-TaqPf-FAM、[FAM]及び[MGBEQ]の修飾を含む配列番号9)、Distilled Water(ニッポンジーン)及び検体を混合して検体溶液とし、standard DNA(配列番号10)を用いて102~107 copiesとなるよう調製してスタンダード溶液とした。なお、プライマー、プローブ及びスタンダードDNAは非特許文献20を参考にして外注により作製した。リアルタイムPCRは、〈50℃, 2分〉の後、〈95℃, 10分〉→〈95℃, 30秒〉→〈60℃, 1分〉のサイクルを50回行った。スタンダード溶液の増幅曲線から検量線を作成し、検体のウイルスコピー数を算出した。
【0059】
【0060】
13.免疫原性試験
6~7週齢の雌BALB/cに5μg/匹となるよう調製した検体を3週間隔で2回筋肉内投与した後、3週間後にイソフルラン麻酔下で全採血した。血清分離して血清を回収し、間接ELISAにて免疫原性を評価後、中和試験にて中和能を評価し、補体依存性中和試験にて補体依存性中和能を評価した。
【0061】
14.中和試験
Hep-2細胞を2×105 cells/mLで96 well plateに播種し、37℃、5%CO2条件下で1日培養した。培地で希釈した血清とRSV希釈液を等量混合し、37℃、5%CO2条件下で1時間静置した。プレートの培養上清を除去した後、血清-RSV反応液を添加し、37℃、5%CO2条件下で3~5日培養した。反応液を除去した後、プレートをPBSで洗浄し、メタノールを添加して室温で30分間静置した。メタノールを除去して風乾した後、プレートをPBSで洗浄し、抗RSV F抗体希釈液をアプライした後に37℃で1時間静置した。抗RSV F抗体希釈液を除去した後に抗マウスIgG Alexa488標識抗体(Abcam)希釈液をアプライしてプレートを37℃で1時間静置した。抗マウスIgG Alexa488標識抗体(Abcam)希釈液を除去した後にプレートをPBSで洗浄し、希釈したHoechst 33342 solution(同仁化学)をアプライし暗所で10分間静置した。核染色剤を除去しPBSで洗浄した後、PBSをプレートにアプライしてイメージアナライザーで解析した。RSVのみをアプライしたwellの感染率を基準として、血清希釈系列の感染率をもとにフィッティングガイドに従ってGraphPad Prism 7(GraphPad Software)を用いてカーブフィッティングを行い、中和抗体価(IC50)を算出した。
【0062】
15.補体依存性中和試験
中和試験の要領で細胞を調製した。RSV希釈にはウサギ血清補体(Cedarlane)1/50量を含む培地を用いて調製した。培地で希釈した血清とRSV希釈液を等量混合し、37℃、5%CO2条件下で1時間静置した。血清-RSV反応液を添加し、37℃、5%CO2条件下で1時間培養した後、血清-RSV反応液を除去してプレートをPBSで洗浄し、補体を加えていない培地を加えて、37℃、5%CO2条件下で3~5日培養した。その他の操作及び解析は中和試験の方法に従って行った。
【0063】
16.サブクラス解析
2次抗体として抗マウスIgG1 HRP標識抗体(Abcam)及び抗マウスIgG2a HRP標識抗体(Abcam)を用いた他は間接ELISA法と同様の手順で行った。
【0064】
17.感染防御試験
6~7週齢の雌BALB/cに0.005~15μg/匹となるよう調製した検体を3週間隔で2回筋肉内投与した後、3週間後にイソフルラン麻酔下で1×105 pfu/匹のRSVを経鼻接種した。感染3~4日後、窒素ガスにて安楽死させた後にBALFを回収した。BALFからRNAを抽出してcDNAを合成し、リアルタイムPCRでウイルスコピー数を検出した。
【0065】
18.感染増悪評価
生理食塩水を免疫してRSVチャレンジした群のBALF中のウイルスコピー数の幾何平均値を基準として、感染増悪あるいは感染抑制率を評価した。また、生理食塩水を免疫して得られた血清を移入した群を基準として、RSVチャレンジした群の肺中のウイルスコピー数の幾何平均値を評価した。なお、血清移入は腹腔内投与で400uL/匹、血清はあらかじめ希釈系列を作成して確認した増悪ピークとなる10^8希釈した各種血清を使用した。血清移入1日後に、イソフルラン麻酔下で1×105 pfu/匹のRSVを経鼻接種した。感染3~4日後、窒素ガスにて安楽死させた後に肺を回収した。肺からRNAを抽出してcDNAを合成し、リアルタイムPCRでウイルスコピー数を検出した。
【0066】
19.統計解析
GraphPad Prism 7(GraphPad Software)を用いて統計解析を実施した。
【実施例1】
【0067】
RSV F/Gキメラタンパク質の調製
図1~4に示す各種RSV F/Gキメラタンパク質をExpi293細胞で発現させたのち、アフィニティーカラムで精製した。各タンパク質収量を
図5、6に示した。特定の位置に糖鎖付加するよう変異を加えたタンパク質は、糖鎖付加していないタンパク質と比較して発現量が高い傾向が認められた。具体的には、「K419N、K421T及びG430T」、「K419N、K421T、T434N及びS436T」及び「K419N、K421T、K427N及びR429T」の変異導入により糖鎖付加したF/Gキメラタンパク質の発現量が増加した。
【実施例2】
【0068】
物性評価
1.SDS-PAGE及びウエスタンブロット
各タンパク質をSDS-PAGE及びウエスタンブロットで解析した結果を
図7~15、27~39に示した。SDS-PAGE及びウエスタンブロットの結果を比較して、メインバンドがRSV F/Gキメラタンパク質であることを確認した。
【0069】
RSV F/Gキメラタンパク質のうち、ウイルス株間で相同性が高い領域CCDの配列のうち、特に高度に保存された領域であって、かつCysteine noose(システイン残基173-186間及び176-182間でのジスルフィド結合で形成される特徴的な構造)を含まない領域(164~171)を含むRSV Gタンパク質の10アミノ酸配列(162~171;
図2のNo.9)で置換したRSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2のSDS-PAGEの結果を
図7に示す。野生型RSV Fタンパク質(593 aa)は62 kDaであり、糖タンパク質であるRSV WT Fタンパク質(513 aa)及びRSV post Fタンパク質(513 aa)が推定分子量付近より高い位置にメインバンドが見えることを確認した。また、RSV F/Gキメラタンパク質(513 aa)のメインバンドがWT及びpost Fタンパク質よりも高位置に位置しているのは変異導入により糖鎖付加したことによる影響と示唆される。
【0070】
図8~14に各種RSV F/Gタンパク質のSDS-PAGE(非還元)結果を示した。発現量が少ないためアプライ量が1μg/Lane未満となっているSampleについては、Lane No.及びSampleを灰色で示している。
図1に示す位置に糖鎖付加する変異を加えていないRSV F/Gキメラタンパク質のうち、RSV F/G-A-1-0、RSV F/G-A-2-0、RSV F/G-A-3-0、RSV F/G-A-4-0、RSV F/G-A-8-0、RSV F/G-A-5-0、RSV F/G-A-10-0、RSV F/G-A-11-0及びRSV F/G-A-11/11-0は、メインバンドが確認できない、強度が低い、あるいは発現量が低いという結果であった。また、「K419N、K421T及びG430T」の変異と「K419N、K421T、T434N及びS436T」の糖鎖付加変異を加えたRSV F/G-A-1-1、RSV F/G-A-1-2、RSV F/G-A-2-1、RSV F/G-A-2-2、RSV F/G-A-3-1、RSV F/G-A-3-2、RSV F/G-A-6-1、RSV F/G-A-6-2、RSV F/G-A-7-1、RSV F/G-A-7-2、RSV F/G-A-8-1、RSV F/G-A-8-2、RSV F/G-A-5-1、RSV F/G-A-5-2、RSV F/G-A-9-1、RSV F/G-A-9-2、RSV F/G-A-10-1、RSV F/G-A-10-2、RSV F/G-A-11-1及びRSV F/G-A-11-2はメインバンド及び高い発現量を確認できたが、一方で「K421T及びG430T」の糖鎖付加変異を加えたRSV F/G-A-1-3、RSV F/G-A-2-3、RSV F/G-A-9-3は「K419N、K421T及びG430T」の変異と「K419N、K421T、T434N及びS436T」の糖鎖付加変異と比較してメインバンド強度が低い、あるいは発現量が低いという結果であった。
【0071】
2.ゲルろ過クロマトグラフィー解析(GFC)
ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、各タンパク質のサイズ解析を実施した。表3にGFCの結果を示した。RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2はmain peakとして670kDa以上のサイズ(670kDa以上となる場合は外挿値を示している)、second peakとして約120 kDaのサイズのタンパク質が存在していることが分かった。野生型RSV Fタンパク質は天然型構造として三量体を形成することが知られており、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2も同様に三量体を形成すると仮定した場合、second peakの分子量に近いため、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2も同様に三量体を形成すると示唆された。また、main peakが670kDa以上のサイズを示したことについては、後述の電子顕微鏡像のとおり、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2の三量体がロゼット様構造を形成することに起因すると示唆される。
【0072】
【0073】
3.動的光散乱法による粒径測定(DLS)
各タンパク質を動的光散乱法で粒子径を測定した。各タンパク質の平均粒子径を表4に示した。
【表4】
【0074】
4.電子顕微鏡による解析
RSV F/Gキメラタンパク質の形状を電子顕微鏡で観察した。
図16にRSV F/G-A-9-1、RSV F/G-A-9-2、RSV post F、RSV pre Fの電子顕微鏡像を示した。RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2はRSV post Fと同様のロゼット様構造を形成することが示唆された。
【実施例3】
【0075】
抗RSV F抗体との反応性解析
各タンパク質と抗RSV F抗体との反応性(吸光度で表示)を間接ELISA法で解析した。RSV Fタンパク質のsiteφ、siteI、siteII、siteIII、siteIV(非特許文献23)それぞれの部位に特異的な抗RSV F抗体との解析結果を
図17、18、40、41に示した。置換したRSV Gタンパク質配列及び糖鎖付加の変異により、各種抗体との反応性に違いが認められた。siteIV周辺に糖鎖付加の変異を加えたタンパク質の中には、抗RSV F siteIV抗体との反応性の低減が認められた。偶然にも、RSV Gタンパク質で置換したRSV F/Gキメラタンパク質の中にはRSV WT Fと比較してRSV pre F特異的な抗体との反応性が増加したものが複数認められた。
【実施例4】
【0076】
中和試験
各タンパク質を免疫して血清を取得し、中和試験を実施した。なお、リン酸アラムアジュバントであるAdju-Phos
R (BRENNTAG)を用いた投与群とアジュバントなしの群を設定して中和試験を行った。
図19に中和試験結果を示した。RSV Gタンパク質配列を含むRSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2は、RSV Gタンパク質配列を含まない点のみが異なるRSV F/G-A-0-1及びRSV F/G-A-0-2と比較して中和抗体価(IC50、 幾何平均値)が高い傾向が認められた。また、中和抗体価(IC50、 幾何平均値)はRSV pre Fが最も高く、次いでRSV F/G-A-9-2、WTの順だった。RSV F/G-A-9-1はRSV WT Fと同等程度で、RSV F/G-A-0-1及びRSV F/G-A-0-2はRSV WT Fを下回る中和抗体価(IC50、幾何平均値)を示した。
【実施例5】
【0077】
補体依存性中和試験
実施例4と同様にしてAdju-Phos
Rを用いた投与群の血清を取得し、補体依存性中和試験を実施した。
図19に示すとおり、RSV pre Fの中和抗体価(IC50、 幾何平均値)はRSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2と比較して高い傾向が認められるが、
図20に示す補体存在下の中和抗体価(IC50、幾何平均値)では、逆にRSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2の方が、RSV pre Fよりも高い結果だった。(Dunnの多重比較検定、*:p<0.05、n=)また、
図42に示すとおり、RSV pre Fと比較して中和抗体価が高いRSV F/Gキメラタンパク質が多数認められた。
【実施例6】
【0078】
サブクラス解析
実施例4及び実施例5と同様にしてAdju-Phos
Rを用いた投与群の血清を取得し、RSV pre F、RSV F/G-A-9-1、RSV F/G-A-9-2、及びSaline免疫血清中に存在する抗RSV F抗体のサブクラス解析を行った。
図21にサブクラス解析結果を示した。RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2は補体結合能の高いIgG2aの誘導能が高く、一方でRSV pre Fは補体結合能がないIgG1の誘導能が高いことが分かった。
【実施例7】
【0079】
抗RSV G抗体誘導能評価
実施例4、実施例5及び実施例6と同様にしてAdju-Phos
Rを用いた投与群の血清を取得し、RSV pre F、RSV F/G-A-9-1、RSV F/G-A-9-2、及びSaline免疫血清中に存在する抗RSV G抗体の誘導能を評価した。
図22に抗RSV G抗体誘導能評価結果を示した。RSV pre F免疫血清と比較して、RSV F/G-A-9-1、RSV F/G-A-9-2免疫血清中にRSV Gタンパク質との反応性が高い抗体が存在することが示され、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2によって抗RSV G抗体が誘導されることが示唆された。
【実施例8】
【0080】
感染防御試験
各タンパク質を5μg/匹/回に調製(アジュバントなし)して6週齢の雌BALB/cマウスに3週間隔で2回免疫し、3週間後にRSVに感染させた。RSV接種3日後にBALFを回収し、RNA抽出及びcDNA合成を行い、リアルタイムPCRを用いてウイルスコピー数(幾何平均値)を定量した。
図23にRSV pre F、RSV WT F、RSV F/G-A-0-1及びRSV F/G-A-0-2とRSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2との感染防御試験結果を示した。RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2は、RSV pre Fと同等程度のウイルスコピー数を示したため、RSV pre Fと同程度の感染防御能があると示唆された。また、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2は、RSV Gタンパク質配列を含まないRSV WT F、RSV F/G-A-0-1及びRSV F/G-A-0-2と比較してコピー数が低く、感染防御能が高い傾向があると示唆された(vs RSV pre F;Dunnの多重比較検定、***:p<0.002,*:p<0.05、n=14~16)。
図24(左)にRSV post Fとの比較結果、
図24(右)にFI-RSVとの比較結果を示した。RSV post Fとの比較では15μg/匹/回の免疫条件で実施し、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2がRSV post Fと比較して有意にウイルスコピー数の低減が認められた(Dunnの多重比較検定、***:p<0.002,*:p<0.05、n=8)。FI-RSVとの比較では5μg/匹/回の免疫条件で実施し、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2がFI-RSVと比較して有意にウイルスコピー数の低減が認められた(Dunnの多重比較検定、**:p<0.01,*:p<0.05、n=7~8)。
【実施例9】
【0081】
用量依存性を確認するためRSV post F、RSV F/G-A-9-1、及びRSV F/G-A-9-2の免疫条件を15、5、0.5、0.05、0.005μg/匹の5用量として、その他は実施例8と同様の方法でBALF中のウイルスコピー数(幾何平均値)測定し、
図25に結果を示した。RSV post Fは5μg/匹と15μg/匹でウイルスコピー数が変化しないこと、高用量域(15μg/匹)では、RSV F/G-A-9-1、及びRSV F/G-A-9-2のウイルスコピー数がRSV post Fよりも低減しており、感染防御能がRSV post Fを上回っていること、低用量域(0.05 、0.005μg/匹)においても、RSV F/G-A-9-1、及びRSV F/G-A-9-2の感染防御能がRSV post Fを上回っていることが示された。したがって、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2の最大薬効はRSV post Fを上回り、最小doseでの薬効もRSV post Fを上回ることが示唆された(エラーバー:95%信頼区間、n=8)。
【実施例10】
【0082】
感染抑制率評価
感染防御試験の結果から、Saline群(抗原を免疫しないcontrol群)のウイルスコピー数(幾何平均)を基準として、RSV F/G-A-9-1、RSV F/G-A-9-2、RSV post F、及びRSV pre Fの感染抑制率を算出した(RSV F/G-A-9-1、RSV F/G-A-9-2及びRSV post F の免疫条件は15、5、0.5、0.05、0.005μg/匹の5用量、RSV pre Fの免疫条件は0.5、0.08、0.008μg/匹の3用量で実施)。
図26に感染抑制率の算出結果を示す。増悪傾向を確認するため、低用量免疫群を設定したところ、Salineのウイルスコピー数と比べて、RSV pre Fでは0.08μg/匹以下、RSV post Fでは0.005μg/匹で高いウイルスコピー数が検出され、感染増悪傾向が示された。一方で、RSV F/G-A-9-1及びRSV F/G-A-9-2では感染増悪傾向は認められなかった。(エラーバー:95%信頼区間、n=4~8)
【実施例11】
【0083】
感染増悪評価
免疫血清を移入して受動免疫後の感染増悪を評価した。
図43に示すとおり、RSV preFでは有意に感染増悪が認められたが、RSV F/G-A-9-2では感染増悪が認められなかった。(Dunnの多重比較検定、*:p<0.05、エラーバー:95%信頼区間、n=13)。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は医薬品の分野、特にワクチンの分野において有用である。
【配列表】