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特許7253054磁性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-28
(45)【発行日】2023-04-05
(54)【発明の名称】磁性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230329BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20230329BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20230329BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230329BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230329BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/14
C22C38/16
C21D8/12 A
C21D9/46 501A
H01F1/147 175
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021531070
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-21
(86)【国際出願番号】 KR2019015193
(87)【国際公開番号】W WO2020111570
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152973
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン-ス
(72)【発明者】
【氏名】シン,ス-ヨン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-104144(JP,A)
【文献】特開2018-021242(JP,A)
【文献】特表2018-508646(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111549(WO,A1)
【文献】特開2012-036454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00-8/12
C21D 9/00-9/44;9/50
C21D 1/02-1/84
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.72.0%、Mn:0.2~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、N:0.0038%以下(0%を除く)、Nb:0.0029%以下(0%を除く)、Ti:0.004%以下(0%を除く)、V:0.0033%以下(0%を除く)、Ta:0.0005~0.0025%、残部はFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
重量%で、Cu:0.025%以下(0%を除く)、B:0.002%以下(0%を除く)、Mg:0.005%以下(0%を除く)およびZr:0.005%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、20~100nmの直径を有する炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物のうち1種以上を含み、
前記炭化物系析出物、窒化物系析出物および硫化物系析出物それぞれの分布密度が0.9個/mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記鋼板の厚さが0.1~0.3mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
平均結晶粒直径が40~100μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
15/50鉄損でヒステリシス損が1.0W/kg以下であり、W10/400鉄損でヒステリシス損が3.8W/kg以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.72.0%、Mn:0.2~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、N:0.0038%以下(0%を除く)、Nb:0.0029%以下(0%を除く)、Ti:0.004%以下(0%を除く)、V:0.0033%以下(0%を除く)、Ta:0.0005~0.0025%、残部はFeおよび不可避不純物かなるスラブを準備する段階、
前記スラブを加熱する段階、
前記加熱したスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍して電磁鋼板を製造する段階、
を含むことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記スラブは、重量%で、Cu:0.025%以下(0%を除く)、B:0.002%以下(0%を除く)、Mg:0.005%以下(0%を除く)およびZr:0.005%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延板を製造する段階、以後、
前記熱延板を熱延板焼鈍する段階、をさらに含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関し、より具体的には、モータ、発電機など回転機器の鉄心材料として使用され、磁性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は電気エネルギを機械的エネルギに変換させるモータに主に使用されるが、その過程で高い効率を発揮するために無方向性電磁鋼板の優れた磁気的特性が求められる。特に最近では環境に優しい技術が注目されるに伴い全体電気エネルギ使用量の過半を占めるモータの効率を増加させることが大変重要であり、これによって優れた磁気的特性を有する無方向性電磁鋼板の需要も増加している。
無方向性電磁鋼板の磁気的特性は主に鉄損と磁束密度により評価する。鉄損は特定の磁束密度と周波数で発生するエネルギ損失を意味し、磁束密度は特定の磁場下で得られる磁化の程度を意味する。鉄損が低いほど同じ条件でエネルギ効率が高いモータを製造することができ、磁束密度が高いほどモータを小型化でき、銅損失を減少させるので、低い鉄損と高い磁束密度を有する無方向性電磁鋼板を作ることが重要である。
【0003】
モータの作動条件によって考慮すべき無方向性電磁鋼板の特性も変わる。モータに使用される無方向性電磁鋼板の特性を評価するための基準として多数のモータが商用周波数50Hzで1.5T磁場が印加されたときの鉄損であるW15/50が最も重要とされている。しかし、多様な用途のモータのすべてにおいてW15/50鉄損が最も重要であるのではなく、主な作動条件によって他の周波数や印加磁場での鉄損を評価する場合もある。特に最近の電気自動車の駆動モータに使用される厚さ0.35mm以下の無方向性電磁鋼板では1.0Tまたはその以下の低磁場と400Hz以上の高周波で磁気的特性が重要である場合が多いので、W10/400などの鉄損で無方向性電磁鋼板の特性を評価する。
【0004】
無方向性電磁鋼板の磁気的特性を増加させるために通常使用される方法はSiなどの合金元素を添加することである。このような合金元素の添加により鋼の比抵抗を増加させるが、比抵抗が高まるほど渦電流損失が減少して全体鉄損を低くできる。反面、Si添加量が増加するほど磁束密度が劣位になり、脆性が増加する短所があり、一定量以上添加すると冷却圧延が不可能であるため商業的生産が不可能になる。特に電磁鋼板は厚さを薄くするほど鉄損が低減する効果が見られるが、脆性による圧延性低下は致命的な問題になる。商業的生産が可能なSiの最大含有量は概ね3.5~4.0%程度であると知られており、追加的な鋼の比抵抗の増加のためにAl、Mnなどの元素を添加して磁性に優れる最高級無方向性電磁鋼板を生産することができる。
【0005】
鉄損を分離するとヒステリシス損(Hysteresis loss)、古典的渦電流損(Classical eddy current loss)、異常渦電流損(Anomalous eddy current loss)の三つに分類することができる。この際、鋼の比抵抗増加により得られる効果は渦電流損失の減少であるが、比抵抗が65μ・Ω・cm以上に増加すると鉄損低減効果が顕著に減少すると知られている。そのため、高比抵抗成分系で鉄損を減少させるためにはヒステリシス損を低減することが重要である。ヒステリシス損を低減する方法としては磁壁移動を妨げる析出物および非金属介在物の影響を抑制する方法、残留応力を低下させる方法または磁性に有利な集合組織を発達させる方法などがある。
【0006】
析出物や非金属介在物を制御して無方向性電磁鋼板の鉄損を低減させる方法は以前から持続的に提案されてきた。従来技術の一つとしては、鋼中のAl含有量を低減して微細なAlNの析出を抑制することによって低い鉄損を得る技術がある。また、他の従来技術の一つとしては、低いAl含有量に追加でSi、Al、Mnの複合酸化物から形成される介在物の組成を制御して低い鉄損を得る技術がある。
しかし、このような方法は実際に実現することが難しいか、非常に制限的な条件でのみその効果が奏され、実際の磁性を悪化させる析出物の大きさに対する理解が十分ではなく鉄損低減効果に限界を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、モータ、発電機など回転機器の鉄心材料として使用でき、磁性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.5~2.5%、Mn:0.2~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、Nb:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.004%以下(0%を除く)、V:0.004%以下(0%を除く)、Ta:0.0005~0.0025%、残部はFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする。
【0009】
鋼板は、重量%で、Cu:0.025%以下(0%を除く)、B:0.002%以下(0%を除く)、Mg:0.005%以下(0%を除く)およびZr:0.005%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
鋼板は、20~100nmの直径を有する炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物のうち1種以上を含み、炭化物系析出物、窒化物系析出物および硫化物系析出物それぞれの分布密度が0.9個/μm以下であることを特徴とする。より具体的には分布密度は0.5個/μm以下である。
【0011】
鋼板の厚さが0.1~0.3mmであることを特徴とする。
【0012】
鋼板の平均結晶粒直径が40~100μmでることを特徴とする。
【0013】
鋼板は、W15/50鉄損でヒステリシス損が1.0W/kg以下であり、W10/400鉄損でヒステリシス損が3.8W/kg以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.5~2.5%、Mn:0.2~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、Nb:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.004%以下(0%を除く)、V:0.004%以下(0%を除く)、Ta:0.0005~0.0025%、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを準備する段階、スラブを加熱する段階、加熱したスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍して電磁鋼板を製造する段階、を含むことを特徴とする。
【0015】
前記スラブは、重量%で、Cu:0.025%以下(0%を除く)、B:0.002%以下(0%を除く)、Mg:0.005%以下(0%を除く)およびZr:0.005%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする。
【0016】
前記鋼板は、20~100nmの直径を有する炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物のうち1種以上を含み、炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物それぞれの分布密度が0.9個/μm以下であることを特徴とする。より具体的には分布密度は0.5個/μm以下である。
【0017】
前記熱延板を製造する段階の以後に、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分に高い比抵抗を有するようにSi、Al、Mn含有量を限定し、C、N、S、Nb、Ti、V含有量を制限し、Taの最適含有量の範囲を提示し、磁性に害になる20~100nmの直径を有する炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物の形成を抑制することによって、ヒステリシス損が低い磁性に優れる無方向性電磁鋼板を提供することができる。
したがって、ヒステリシス損が低い磁性に優れる最高級無方向性電磁鋼板を使用するモータおよび発電機の効率向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、特に記載がない限り、他の構成要素を除くものではないとする。本明細書では、単数形は、複数形も含むとする。また、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。本発明の一実施例で、追加元素をさらに含む場合、追加量だけ残部である鉄(Fe)に代って含むとする。
【0020】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。本発明は様々な異なる形態で実現することができ、この実施例に限定されるものではない。
【0021】
無方向性電磁鋼板において、20~100nmの直径を有する炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物は、磁壁移動を妨げて、電磁鋼板の磁気的特性を劣化させる。一方、鋼に含有される様々な成分に加えてTaを適正量添加すると、20~100nmの直径の析出物の形成を抑制することができる。したがって、結果的に磁性に優れる無方向性電磁鋼板を製造できることに注目する。
【0022】
先ず、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.5~2.5%、Mn:0.2~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、Nb:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.004%以下(0%を除く)、V:0.004%以下(0%を除く)、Ta:0.0005~0.0025%、残部はFeおよび不可避不純物を含む。
【0023】
より具体的には、Cu:0.025%以下(0%を除く)、B:0.002%以下(0%を除く)、Mg:0.005%以下(0%を除く)およびZr:0.005%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含む。
より具体的には、鋼板は20~100nmの直径を有する炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物のうち1種以上を含み、炭化物系析出物、窒化物系析出物および硫化物系析出物それぞれの分布密度が0.9個/μm以下である。より具体的には分布密度は0.5個/μm以下である。
【0024】
先に、無方向性電磁鋼板の成分を限定した理由について説明する。
【0025】
Si:2.5~3.8重量%
Siは材料の比抵抗を高めて鉄損を低くする役割をし、過度に少なく添加される場合、高周波鉄損改善効果が不足する。逆に過度に多く添加される場合、材料の脆性が増加して冷間圧延性が極度に悪化して生産性および打抜性が急激に低下する。したがって、前述した範囲でSiを添加する。より具体的にはSiを2.7~3.7重量%含む。さらに具体的にはSiを3.0~3.6重量%含む。
【0026】
Al:0.5~2.5重量%
Alは材料の比抵抗を高めて鉄損を低くする役割をし、過度に少なく添加されると、微細窒化物を形成して磁性改善効果を得ることが難しい。逆に過度に多く添加される場合、窒化物が過多に形成されて磁性を劣化させ、製鋼と連続鋳造などのすべての工程上に問題を発生させて生産性を大きく低下させる。したがって、前述した範囲でAlを添加し得る。より具体的にはAlを0.5~2.3重量%含む。さらに具体的にはAlを0.7~2.0重量%含む。
【0027】
Mn:0.2~4.5重量%
Mnは材料の比抵抗を高めて鉄損を改善して硫化物を形成させる役割をし、過度に少なく添加されると、硫化物が微細に形成されて磁性劣化を起こす。逆に過度に多く添加されるとMnSが過多に析出されて磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が急激に減少する。したがって、前述した範囲でMnを添加する。より具体的にはMnを0.3~4.0重量%含む。さらに具体的にはMnを0.7~2.0重量%含む。
【0028】
C:0.005重量%以下(0%を除く)
Cは磁気時効を起こし、その他不純物元素と結合して炭化物を生成して磁気的特性を低下させるので、低いほど好ましく、より具体的には0.003重量%以下で管理される。
【0029】
N:0.005重量%以下(0%を除く)
Nは母材の内部に微細でかつ長いAlN析出物を形成するだけでなく、その他不純物と結合して微細な窒化物を形成して結晶粒成長を抑制して鉄損を悪化させるので、低いほど好ましく、より具体的には0.003重量%以下で管理される。
【0030】
S:0.005重量%以下(0%を除く)
Sは微細な析出物であるMnSおよびCuSを形成して磁気特性を悪化させ、熱間加工性を悪化させるので低く管理した方が良いが、鋼中に必要不可欠に存在する元素として、より具体的には0.003重量%以下で管理すべきである。
【0031】
Nb、Ti、V:各0.004重量%以下(0%を除く)
Nb、Ti、Vは鋼内析出物形成の傾向が非常に強い元素であり、母材の内部に微細な炭化物または窒化物または硫化物を形成して結晶粒成長を抑制することにより鉄損を劣化させる。特に20~100nm直径を有するNb、Ti、Vを含有した炭、窒、硫化物系析出物は磁性を大きく劣化させ、Nb、Ti、V含有量が各0.004重量%を超えると20~100nm直径の析出物形成が助長される。したがって、Nb、Ti、V含有量は各0.004%以下、より具体的には0.002%以下に管理すべきである。この際、析出物の直径とは、析出物が占有する面積と同じ面積の仮想の円で、その円の直径を意味する。
【0032】
Ta:0.0005~0.0025重量%
Taは鋼内に微量添加されると炭化物を形成する元素として知られているが、一般的にNb、Ti、Vなどと共に複合炭化物を形成する。鋼内Ta含有量が0.0005~0.0025重量%であるとき炭化物の大きさを100nm以上に粗大化させる効果があるので、磁性に有害な20~100nm直径を有する炭化物の形成を抑制する。それだけでなく20~100nm大きさの窒化物と硫化物の形成も抑制させる。Ta含有量が過度に多いと20~100nm大きさの析出物分率が増加して磁性に有害であり、逆に過度に少ないと20~100nmの析出物抑制効果が現れない。
【0033】
その他不純物元素
前記の元素の他にもCu、B、Mg、Zrなどの不可避に混入される不純物が含まれる。これらの元素は微量であるが鋼内介在物の形成などによる磁性悪化を引き起こすので、Cu:0.025重量%以下(0%を除く)、B:0.002重量%以下(0%を除く)、Mg:0.005重量%以下(0%を除く)、Zr:0.005重量%以下(0%を除く)で管理されるべきである。
前記成分以外に、本発明はFeおよび不可避不純物を含む。不可避不純物は当該技術分野で広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施例では前記成分以外に有効な成分の添加を排除しない。
【0034】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、鋼板の厚さが0.1~0.3mmである。また、平均結晶粒直径が40~100μmである。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、W15/50鉄損でヒステリシス損が1.0W/kg以下であり、W10/400鉄損でヒステリシス損が3.8W/kg以下である。より具体的にはW15/50鉄損でヒステリシス損が1.0W/kg以下であり、W10/400鉄損でヒステリシス損が3.8W/kg以下である。
【0035】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、磁束密度(B50)が鋼板厚さ0.1μmでは1.63T以上、厚さ0.15mmでは1.65T以上、0.25mmでは1.67T以上、0.27mmでは1.67T以上、0.30mmでは1.68T以上である。磁束密度は厚さが薄くなるほど低くなる値であり、磁束密度が高いとき自動車モータとして使用時、出発および加速する時のトルクに優れる特徴がある。
【0036】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.5~2.5%、Mn:0.2~4.5%、C:0.005%以下(0%を除く)、S:0.005%以下(0%を除く)、N:0.005%以下(0%を除く)、Nb:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.004%以下(0%を除く)、V:0.004%以下(0%を除く)、Ta:0.0005~0.0025%、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを準備する段階、スラブを加熱する段階、加熱したスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍して電磁鋼板を製造する段階、を含む。
【0037】
より具体的には、スラブは、Cu:0.025%以下(0%を除く)、B:0.002%以下(0%を除く)、Mg:0.005%以下(0%を除く)およびZr:0.005%以下(0%を除く)のうち1種以上をさらに含む。
より具体的には、鋼板は、20~100nmの直径を有する炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物のうち1種以上を含み、炭化物系析出物、窒化物系析出物または硫化物系析出物それぞれの分布密度が0.9個/μm以下である。より具体的には分布密度は0.5個/μm以下である。
【0038】
また、熱延板を製造する段階の以後に、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含む。以下では各段階別に具体的に説明する。
先に、前述した組成を満足するスラブを準備する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は前述した無方向性電磁鋼板の組成限定理由と同様であるため、説明は省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成は実質的に同一である。
【0039】
次に、製造されたスラブを加熱する。加熱することによって後続される熱間圧延工程を円滑に行って、スラブを均質化処理する。より具体的には、加熱は再加熱を意味する。この時、スラブ加熱温度は1100~1250℃である。スラブの加熱温度が過度に高いと析出物が再溶解されて熱間圧延以後微細に析出される。次に、加熱したスラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱間圧延の仕上げ圧延温度は750℃以上である。
熱延板を製造する段階以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含む。この時熱延板焼鈍温度は850~1150℃である。熱延板焼鈍温度が過度に低いと組織が成長しないかまたは微細に成長して磁束密度の上昇効果が少なく、逆に熱延板焼鈍温度が過度に高いと磁気特性がかえって劣化し、板形状の変形により圧延作業性が悪くなる。さらに具体的には温度範囲は950~1125℃である。さらに具体的には熱延板の焼鈍温度は900~1100℃である。熱延板焼鈍は必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われ、省略することも可能である。
【0040】
次に、熱延板を酸洗して所定の板厚みになるように冷間圧延して冷延板を製造する。熱延板厚さによって異にして適用できるが、70~95%の圧下率を適用することができ、最終厚さが0.1~0.6mmになるように冷間圧延して冷延板を製造することができる。より具体的には最終厚さが0.1~0.3mmになるように冷間圧延して冷延板を製造することができる。
次に、冷延板を最終焼鈍して電磁鋼板を製造する。最終焼鈍温度は800~1050℃である。最終焼鈍温度が過度に低いと再結晶が十分に発生できず、最終焼鈍温度が過度に高いと結晶粒の急激な成長が発生して磁束密度と高周波鉄損が劣位になる。さらに具体的には900~1000℃の温度で最終焼鈍する。最終焼鈍過程で前段階である冷間圧延段階で形成された加工組織がすべて(すなわち、99%以上)再結晶される。
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。。
[実施例]
実験室で真空溶解して表1のような成分で鋼塊を製造した。これを1150℃で再加熱して780℃の仕上げ温度で熱間圧延し、板厚み2.0mmの熱延板を製造した。熱間圧延された熱延板は1030℃で100秒間熱延板焼鈍後、酸洗および冷間圧延して厚さを0.15、0.25、0.27、0.30mmに作って1000℃で110秒間再結晶焼鈍を施した。
各試験片に対する炭化物分布密度、窒化物分布密度、硫化物分布密度、W15/50鉄損、W10/400鉄損、W15/50のヒステリシス損(W15/50)、W10/400のヒステリシス損(W10/400)、B50磁束密度を表2に示した。ここで炭化物、窒化物、硫化物はいずれも直径20~100nmの析出物を意味する。磁束密度、鉄損などの磁気的特性はそれぞれの試験片に対して幅60mm×長さ60mm×枚数5枚の試験片を切断してSingle sheet testerで圧延方向と圧延垂直方向に測定して平均値を示した。この時、W10/400は400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起したときの鉄損であり、W10/50は50Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起したときの鉄損であり、B50は5000A/mの磁場で誘導される磁束密度である。
【0042】
15/50とW10/400はそれぞれの試験片に対して幅60mm×長さ60mm×枚数5枚の試験片を切断してDC磁性測定器で1.5Tと1.0Tでの損失エネルギ量をmJ/kg単位で測定し、周波数50Hzと400Hzをそれぞれ乗じた後5枚の測定値を平均して結果を得た。この時の測定速度は50mT/sを適用した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1および表2に示すように、合金成分が適宜制御されたA3、A4、B3、B4、C3、C4、D3、D4、E3、E4は20~100nm直径の炭化物、窒化物、硫化物の分布密度がいずれも0.9個/μm以下で良好であったので、いずれも磁気的特性に優れた。これに対し、A1、A2はC含有量が多量であるため磁性に有害な大きさの炭化物の分布密度が増加したので、ヒステリシス損の増加によって鉄損が不良で磁束密度も劣位であった。B1、B2はS含有量、C1、C2はN含有量が本発明の範囲を超えてそれぞれ磁性に有害な大きさの硫化物と窒化物の分布密度が増加したので鉄損と磁束密度が劣位であった。D1、D2、E1はそれぞれNb、Ti、Vが本発明の範囲を超えて磁性に有害な大きさの炭化物の分布密度が0.9個/μmを超えて増加したので鉄損と磁束密度が劣位であった。E2はTa含有量が本発明の範囲を超えて磁性に有害な大きさの炭化物分布が増加して鉄損と磁束密度が劣位であった。
【0046】
本発明は、互いに異なる多様な形態で製造できる。また、本発明の実施例は、例示的なもので、限定的なものではない。