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特許7253131断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法
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  • 特許-断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 7/18 20060101AFI20230330BHJP
   F17C 3/08 20060101ALI20230330BHJP
   F17C 3/04 20060101ALI20230330BHJP
   F17C 3/00 20060101ALI20230330BHJP
   E04H 7/04 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
E04H7/18 Z
F17C3/08
F17C3/04 Z
F17C3/00 A
E04H7/04
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018071914
(22)【出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2019183427
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000110011
【氏名又は名称】トーヨーカネツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511003235
【氏名又は名称】有限会社オービタルエンジニアリング
(73)【特許権者】
【識別番号】000134464
【氏名又は名称】株式会社トスカバノック
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】大江 知也
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雅規
(72)【発明者】
【氏名】大西 春奈
(72)【発明者】
【氏名】平井 智行
(72)【発明者】
【氏名】酒井 茂憲
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-078470(JP,A)
【文献】特開2017-116096(JP,A)
【文献】特開2007-239805(JP,A)
【文献】特開2017-160951(JP,A)
【文献】特公昭50-002148(JP,B1)
【文献】特表2016-522364(JP,A)
【文献】米国特許第04140073(US,A)
【文献】特開昭59-088555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/04,7/18
F17C 3/00,3/04,3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四辺を形成する枠材及び該枠材にて囲まれる面を有するベース部と、
前記ベース部の上に配置されたシート状の第1の複数の断熱シート材及び前記第1の複数の断熱シート材を構成する各々の断熱シート材の間にスペーサ材が積層されてなる第1の断熱層部と、
前記第1の断熱層部の上に配置されたシート状の第2の複数の断熱シート材及び前記第2の複数の断熱シート材を構成する各々の断熱シート材の間にスペーサ材が積層されてなる第2の断熱層部であって、前記第1の断熱層部と正面視変位して配置された第2の断熱層部と
前記ベース部に係る前記面、前記第1の断熱層部、前記第2の断熱層部の重合箇所を前記面に略直交する方向に枢支する枢支部と
を具備することを特徴とする断熱パネル構造。
【請求項2】
前記枠材は直線材であり、前記面は平面材にて形成される
ことを特徴とする請求項1記載の断熱パネル構造。
【請求項3】
前記枠材は曲線材であり、前記面は曲面材にて形成される
ことを特徴とする請求項1もしくは2記載の断熱パネル構造。
【請求項4】
前記断熱シート材は低輻射性材にて形成される
ことを特徴とする請求項1~3のうち1項記載の断熱パネル構造。
【請求項5】
前記低輻射性材は両面又は片面にアルミニウム蒸着したPEs(ポリエステル樹脂)から成る
ことを特徴とする請求項4記載の断熱パネル構造。
【請求項6】
前記スペーサ材はPEs不織布から成る
ことを特徴とする請求項1~5のうち1項記載の断熱パネル構造。
【請求項7】
前記ベース部に係る面はメッシュにて形成される
ことを特徴とする請求項1~6のうち1項記載の断熱パネル構造。
【請求項8】
前記枢支部は前記メッシュに係る網目を通る軸部と該軸部と直交して前記軸部の両端部に設けられた留部とを有する
ことを特徴とする請求項7記載の断熱パネル構造。
【請求項9】
前記枢支部は樹脂製からなることを特徴とする請求項1~8のうち1項記載の断熱パネル構造。
【請求項10】
前記枢支部はPEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)から成ることを特徴とする請求項9記載の断熱パネル構造。
【請求項11】
前記メッシュは金属性からなることを特徴とする請求項7もしくは8記載の断熱パネル構造。
【請求項12】
前記メッシュはステンレスから成ることを特徴とする請求項11記載の断熱パネル構造。
【請求項13】
前記枠材に付設され、液化ガス貯蔵容器の内壁もしくは外壁に取り付けるための繋ぎ部をさらに具備することを特徴とする請求項1~12のうち1項記載の断熱パネル構造。
【請求項14】
前記ベース部及び前記第1の断熱層部並びに前記第2の断熱層部が設置される空間は真空であることを特徴とする請求項1~13のうち1項記載の断熱パネル構造。
【請求項15】
液化ガスを内部に貯蔵するための内容器と、
前記内容器を外挿するように配置される外容器と、
前記内容器と前記外容器との間に配置され真空状態にある間隙部と
を有し、前記外容器の内壁真空面もしくは前記内容器の真空状態側外壁には請求項1~14のうち1項記載の断熱パネル構造が密に取り付けられていることを特徴とする液化ガス貯蔵容器。
【請求項16】
シート状に展開できる低輻射性材及び前記低輻射性材と略同様の表面積を有するスペーサ材がそれぞれ1枚以上交互に積層されてなる断熱層部を複数層、四辺を形成する枠材及び該枠材にて囲まれる面を有するベース部の上に、直上下の層が正面視変位するように配設し前記複数層の断熱層部及び前記ベース部を前記面に略直交する方向に枢支部で枢支する第1のステップと、
前記第1のステップにおいて前記ベース部と前記複数層の断熱層部とが前記枢支部で枢支された断熱パネル構造を液化ガス貯蔵容器の施工現場に搬入し、前記枠材に付設された繋ぎ部を介して前記液化ガス貯蔵容器の外容器の内壁面もしくは内容器の外壁面に取り付ける第2のステップと
を具備することを特徴とする断熱パネル構造の製造工法。
【請求項17】
液化ガスを内部に貯蔵するための内容器を施工する第1のステップと、
前記内容器との間に間隙部を設けて前記内容器を外挿するように配置される外容器を施工する第2のステップと、
シート状に展開できる低輻射性材及び前記低輻射性材と略同様の表面積を有するスペーサ材がそれぞれ1枚以上交互に積層されてなる断熱層部を複数層、四辺を形成する枠材及び該枠材にて囲まれる面を有するベース部の上に、直上下の層が正面視変位するように配設し前記複数層の断熱層部及び前記ベース部を前記面に略直交する方向に枢支部で枢支されて予め形成された断熱パネル構造を施工現場に搬入する第3のステップと、
前記第3のステップにおいて搬入された前記断熱パネル構造を位置決めし、前記枠材に付設された繋ぎ部を介して前記外容器の内壁面もしくは内容器の外壁面に取り付ける第4のステップと
を具備することを特徴とする液化ガス貯蔵容器の製造工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは-162℃(参考:窒素ガスでは-196℃)以下の低温で液化し、水素は-253℃以下で液化する。その液化ガスを貯蔵し、又は輸送するために用いられる容器は、この低温を維持することが要求される。この容器は、液化ガスが収容される内容器とその内容器の外側に間隔を隔てて装備される外容器とから成る二重構造とされ、内容器と外容器との間隔は高真空状態にされる。真空状態は熱伝導及び熱対流がなく断熱作用に優れているからである。
【0003】
この容器の構造については、断熱性を高めるため、内容器の外表面をシート状の断熱材で囲み覆うことがなされている。従来、このシート状断熱材の固定は、面ファスナーの使用が一般的とされている。
【0004】
しかしながら、面ファスナーは、正確な取り付けが難しく、断熱材の隙間や位置の修正による断熱材のゆがみが断熱性能の低下をもたらしている。また、面ファスナーは縫製により断熱材へ取付けるため、面ファスナーの適用自体が断熱性能の低下をもたらしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-194166号公報
【0006】
先行技術である特許文献1には、液化ガス保持タンク2が液化ガスを貯留する内槽3と、内槽3との間に真空空間20を確保する外槽4と、外槽4の外側面を覆う非常用断熱層6と、を備えることにより、非常用断熱層6が真空空間20内に配置されていないことから、真空空間20の真空度が時間経過と共に劣化することを抑制することができる、とする技術思想が開示されている。しかし、例えば液体水素の貯蔵のように極低温を要求される貯蔵容器の断熱容器としては十分な機能を発揮し得ていないと指摘せざるを得ない。
【0007】
特に、極低温液である液体水素タンクの断熱については、熱侵入による気化を防ぐために、従来の断熱方法よりも高い断熱が要求されている。断熱材は注意深く製作・施工することで高い断熱性能を示すことができるが、実際には高性能断熱材の断熱性能を劣化なく大型タンクに施工することは非常に難しいのが現状である。
【0008】
断熱材の性能劣化の原因はいろいろと考えられるが、本発明者が考察した結果、次のようにまとめられる。
【0009】
<1.多層断熱材の層間接触の増加>
多層断熱材はフィルム状の赤外線反射層と不織布などの多層構造であるため、柔軟で自由度の高い断熱材となっているが、その反面、組み立てのための縫製や折れ曲がり・引張による層間の接触度合いが悪化し、性能を劣化させる。またタンクへの取り付けは、取付面が鉛直な壁や天井面への取り付けなど様々な施工条件があり、多層断熱材に大きな変形負荷のない状態で取り付けすることは難しい。
【0010】
<2.多層断熱材の隙間の発生>
多層断熱材は、幅1~2m程度のフィルムと不織布で構成されている。このため、大型タンク用断熱材は、分割で製作する必要がある。分割された断熱材はタンクへ隙間なく施工されているのが理想であるが、断熱材の公差やタンクへの施工で発生する誤差で設計外の隙間や重なりが発生してしまい、このことが断熱性能を劣化させてしまう原因となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこうした従来技術上の問題点を解決することを企図したものであり、断熱性能を最も効率的に発揮できる断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法を提供することをその課題とする。また、低温液体ガス貯蔵のための容器本体の製造安全性及び製造作業性を格段に向上させつつ、経済効率も格段に向上させることの可能な断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法を提供することをも課題とする。ここで、「液化ガス貯蔵容器」における「容器」とは、いわゆる可搬性のある容器、貯留タンクのみならず、固定的な容器、貯留タンクを含む概念である(以下同じ)。
【0012】
本発明のさらなる課題は、取り扱い易い断熱材の構造を持ち、液化ガス貯蔵用の容器に断熱材を止着固定が容易であり、かつ精度を確保でき、断熱性能を最も効率的に発揮できる、断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法を提供することである。
【0013】
さらには、断熱材の構造と断熱材の止着固定方法に着目した場合に、特に液化ガスを貯蔵するタンクに対し、内外槽間の真空状態を保持して、収容された液化ガスからの吸熱と、外部からの放熱とを遮断して良好な液化状態を長時間維持することのできる断熱材の構造及び断熱材の止着固定方法が具現化されたものとしての、断熱パネル構造、液化ガス貯蔵容器、及び断熱パネル構造の製造方法、並びに液化ガス貯蔵容器の製造方法を提供することも本願のまた別の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため、本発明に係る断熱パネル構造は、四辺を形成する枠材及び該枠材にて囲まれる面を有するベース部と、前記ベース部の上に配置されシート状に展開できる断熱シート材及び前記断熱シート材と略同様の表面積を有するスペーサ材がそれぞれ1枚以上交互に積層されてなる断熱層部と、前記ベース部に係る前記面と前記断熱層とを前記面に略直交する方向に枢支する枢支部とを具備して構成される。
【0015】
あるいは、本発明に係る断熱パネル構造は、四辺を形成する枠材及び該枠材にて囲まれる面を有するベース部と、前記ベース部の上に配置されたシート状の第1の複数の断熱シート材及び前記第1の複数の断熱シート材を構成する各々の断熱シート材の間にスペーサ材が積層されてなる第1の断熱層部と、前記第1の断熱層部の上に配置されたシート状の第2の複数の断熱シート材及び前記第2の複数の断熱シート材を構成する各々の断熱シート材の間にスペーサ材が積層されてなる第2の断熱層部であって、前記第1の断熱層部と正面視変位して配置された第2の断熱層部と、前記ベース材に係る前記面、前記第1の断熱層、前記第2の断熱層の重合箇所を前記面に略直交する方向に枢支する枢支部とを具備して構成される。
【0016】
ここで、面とは、平面であっても曲面であってもよい。これに応じて、枠材は直線材であっても曲線材であってもよい。なお、本願発明が適用される、たとえば液化ガス貯蔵容器は全体的には円環状の胴部を持つものであるから、巨視的には曲面であるが、微視的には略平面といえる。したがって、本願発明において、「平面」としたものは、厳密には「略平面」であるものも含まれる概念として用いている。
【0017】
ここで、ベース部とは、面部の四周が枠材によって囲まれる構造を有するものが典型として挙げられる。ベース部に係る面は好適にはメッシュにて形成され、より好適には、金属製のメッシュ(網目構造)とし、さらに好ましくはステンレス製のメッシュとする。ベース部に係る面は、メッシュ構造に限定されるわけではなく、一定の剛性及び面応力を備えた材料であれば特に限定はされない。
【0018】
また、断熱シート材は、好適には低輻射性材にて形成され、さらに好適には、この低輻射性材は両面又は片面にアルミニウム蒸着したPEs(ポリエステル樹脂)から成るが、これらに限定されるものではなく、一定の断熱性を有する材であれば採用してよい。また、スペーサ材はPEs不織布から成るのが好ましいが、これに限定されるわけではなく、要は、断熱シート材が積層されたときに熱伝導を遮断できる素材・形状であれば様々なものが採用され得る。
【0019】
断熱層部とは、かかる断熱シート材と同じくシート状のスペーサ材とが交互に一定の層数積層されて構成される。この層数とは、たとえば20層とすることができるが、この数値に限定されるわけでなく、一定の層厚が確保され、それぞれの断熱シート材が熱的に縁切りされていればよい。こうした断熱層部は、たとえば液化ガス貯蔵容器に用いることが可能に構成される。
【0020】
この場合、断熱層部は、前記パネル面の右下方向に適量寸法ずらして固定される。また、断熱層部が複数積層される場合には、パネル面の直上にある第1の断熱層部と該第1の断熱層部に重ねられる第2の断熱層部は、正面視で変位して、すなわちたとえば前記パネル面の左上方向に適量寸法ずらして配置される。
【0021】
このときの固定には、枢支部が用いられる。枢支部はフラット状の面部(上述したように、好適にはメッシュに係る網目)を通る軸部と該軸部と直交して前記軸部の両端部に設けられた留部とを有する構成をとるのが好ましく、より好適には枢支部は樹脂製からなり、さらに好適には、枢支部はPEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)から成るが、枢支部としての素材、形状はこれらに限定されるわけではなく、要は一定の熱遮断性能を持つものであればいずれの素材・形状であってもよい。この枢支部とは、たとえばこの上に第3の断熱層部が配置される場合には、同様に、第2の断熱層部に対して第3の断熱層部は、第2の断熱層部の更に左上方向にずらして固定される。
【0022】
すなわち、断熱性能劣化の対策として、本願に係る技術思想は次の諸点を含む。
<断熱性能劣化対策1>
断熱材は、取付作業の制限の多いタンクへ直接施工するのではなく、多層断熱材の扱いに長けた、断熱材製造メーカーがタンク用準備された取付枠に取り付けるものとする。取付枠は金属フレームなどの剛体であるため、タンクへの取り付けの際はデリケートな多層断熱材を劣化させずに取り扱うことができる。また多層断熱材の組み立てや取付枠への取り付けは、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)から成る枢支部(以下、「PEEK-PIN」ともいう。)を用いることで性能劣化の少ない施工が可能になる。
【0023】
<断熱性能劣化対策2>
取付枠は、断熱材と比較して公差の設定を厳しく設定できる。このため、取付枠につけた穴とタンク壁面のボルトとの関係を適切に設定することで、断熱材間に発生する隙間を従来よりも少ない公差に収めることができる。高性能断熱材を少ない劣化で取り付けるには、設計の意図を理解した訓練された施工者が必要であるが、断熱材を取付枠に取り付けたことにより、タンクへの取付はボルトナットの組み合わせでの施工が中心となり、取付作業誤差と取付工費の縮小を期待することができる。
【0024】
<断熱性能劣化対策3>
様々な種類のタンク向けに、取付枠そのものやスタットボルトの適用において工夫する(さらに誤差縮小のための工夫を含む)。これら断熱性能劣化対策1~3については、後述で詳細に説明する。
【0025】
たとえば、本発明に係る断熱パネル構造を用いて液化ガス貯蔵容器が形成される場合に、パネル面に固定された第1の断熱層部が、このパネル面のたとえば左下方向に適量寸法ずらして固定され、第2の断熱層部が、第1の断熱層部の右上方向に適量寸法ずらして固定され、且つ第2の断熱層部に重ねられる第3の断熱層部が、第2の断熱層部の更に右上方向にずらして固定されるというように、それぞれの断熱層部がその直下の断熱層部もしくはパネル面に対して適量寸法ずらして固定される構造を形成することができる。
【0026】
すなわち、第1の断熱層部と第2の断熱層部とが、ベース材を有する枠体に対して斜め方向逆側に適度にずれて重ねられており、パネル全体として例えば液化ガス貯蔵容器の壁面に密接して並べ設置された場合、お互いの断熱層端部同士の隣接間隙をいずれかの断熱層が覆う構造となることができる。このとき、上記右下及び左上の方向等については、ひとつの方向性の例示であって、これらはある点を中心点として考えた場合に、当該中心点に関してそれぞれの変位が略対称となるようにずれていれば良い。
【0027】
また、上記において、第3の断熱層部を有する場合、当該第3の断熱層部は第2の断熱層部端部の止着機能を持つことの他、上記断熱層の覆いができないパネル四方コーナー端部を覆うことができる。これにより、液体ガス貯蔵容器の壁面は全て多層からなる断熱層部で完全に覆うことができ、断熱機能を著しく向上させることができる。
【0028】
上記断熱層部の上記パネルへの重ね固定は、第1、第2、第3の断熱層部のように計2層、3層に限定されず、それ以上の多層であっても良いことは言うまでもない。また第1、第2、第3の多層からなる断熱層部は各々のシートの4辺及び4頂点端部における隙間を互いに隠しあうための適量寸法ずらした重ね合わせを実現する一態様であるため、重ね合わせの順番を変えても本発明の技術思想内である。
【0029】
上記のあらゆる態様において、上記枠材に付設され、液化ガス貯蔵容器の内壁に取り付けるための繋ぎ部をさらに具備する構成とすることができる。この繋ぎ部とは、好適には金属製のアングル材で一片にたとえばボルトの軸を挿通させる孔が穿設されている構造とするが、この材質・形状に限定されるものではない。この繋ぎ部をさらに備えることにより、液体ガス貯蔵容器の壁面に敷設されたボルトにこの繋ぎ部を取り付けることができるから、これにより、設置の作業性を著しく向上させることができる。この繋ぎ部を設けるべき位置については特に限定されるものではないが、好ましくは枠体の外周であって各枠体のボルト取り付け部が重ならない定位置とする。上記いずれの態様に係る断熱パネル構造に係る構造体が液化ガス貯蔵容器の内壁に取り付けるための施工に便宜となる。
【0030】
上記のあらゆる態様において、上記ベース部及び上記断熱層部が設置される空間は真空であるとすることができる。真空においては伝熱形態が輻射のみとなり断熱性が飛躍的に向上するので、断熱性を高度に求められる場合にはより好適となる。
【0031】
また、上記態様に係る断熱パネル構造は、断熱シート材が好ましくは20枚、スペーサ材が好ましくは20枚交互に重ねられて成る多層断熱層部を有し、上記第3の断熱層部の断熱シート材及び上記スペーサ材は各1枚以上を重ねて成る断熱層部を有する態様とすることもできる。すなわち好ましくは、断熱シート材たとえば低輻射性材20枚とスペーサ材20枚とが交互に重なる20層の多層的断熱層は、第1の層と第2の層が重なる部分においては40層の断熱層を有し、層同士の隣接部の切れ間においても第1の層又は第2の層のいずれか20層の断熱層を有することになる。また、パネル四方コーナー部の各層コーナー点接触部も第3の断熱層がその上部を覆うことになる。
【0032】
つまり、多層的断熱層パネルが敷設された液化ガス貯蔵容器の壁面は一切むき出しにならず全て多層的断熱層で覆われることになり、輻射伝熱を大幅に抑制/防止することができる。それにさらに真空環境を付加することにすれば、輻射伝熱のみとなるため、断熱性を飛躍的に向上させることができる。
【0033】
本発明の一実施態様に係る断熱パネル構造は、液化ガス貯蔵容器が間隙部を真空状態にした内容器と外容器とを備えて構成される場合、上記外容器の真空状態側内壁面もしくは内容器の真空状態側外壁面に当該断熱パネル構造が密に並べ取り付けられるとする、多層的真空断熱構造を採用することができる。低温液化ガスの貯蔵保管においては通常様々な形状の保管タンクが用いられるが、その断熱性能を維持するために二重構造の保管タンクが用いられる。本発明の一実施態様においては、二重構造のタンクは、広義には液化ガス貯蔵容器であり、内側タンクを内容器、外側タンクを外容器と定義する。
【0034】
すなわち、上記課題を解決するための本願発明は、液化ガスを内部に貯蔵するための内容器と、前記内容器を外挿するように配置される外容器と、前記内容器と前記外容器との間に配置され真空状態にある間隙部とを有し、前記外容器の内壁真空面もしくは内容器の外壁真空面には上記いずれかの態様の断熱パネル構造が密に取り付けられている液化ガス貯蔵容器、として実現することもできる。
【0035】
多層断熱層内の伝熱成分は輻射伝熱項と伝導伝熱項が存在し、液化ガス貯蔵容器の内容器の真空状態外壁への伝熱は、輻射伝熱項のみとすることが望ましい。したがって、本発明の上記態様に係る多層的断熱パネル構造を備えた液化ガス貯蔵容器は、液化ガス貯蔵容器の外容器の真空状態側内壁に多層断熱層を敷設することにより、その断熱効果を最大限に発揮することができる構造であると言える。また、常温に近い外容器の真空状態側内壁に敷設することにより、内容器の真空状態外壁への敷設に比べ支持具材料の制約が少なくなる。
【0036】
また、上記課題を解決するため、本願発明の一態様に係る断熱パネル構造の製造工法は、シート状に展開できる低輻射性材及び前記低輻射性材と略同様の表面積を有するスペーサ材がそれぞれ1枚以上交互に積層されてなる断熱層部を複数層、四辺を形成する枠材及び該枠材にて囲まれる面を有するベース部の上に、直上下の層が正面視変位するように配設し前記複数層の断熱層部及び前記ベース部を前記面に略直交する方向に枢支部で枢支する第1のステップと、前記第1のステップにおいて前記ベース部と前記複数層の断熱層部とが前記枢支部で枢支された断熱パネル構造を液化ガス貯蔵容器の施工現場に搬入し、前記枠材に付設された繋ぎ部を介して前記液化ガス貯蔵容器の外容器の内壁面もしくは内容器の外壁面に取り付ける第2のステップとを具備する構成とすることができる。
【0037】
さらにまた、上記課題を解決するため、本願発明の一態様に係る液化ガス貯蔵容器の製造工法は、液化ガスを内部に貯蔵するための内容器を施工する第1のステップと、前記内容器との間に間隙部を設けて前記内容器を外挿するように配置される外容器を施工する第2のステップと、シート状に展開できる低輻射性材及び前記低輻射性材と略同様の表面積を有するスペーサ材がそれぞれ1枚以上交互に積層されてなる断熱層部を複数層、四辺を形成する枠材及び該枠材にて囲まれる面を有するベース部の上に、直上下の層が正面視変位するように配設し前記複数層の断熱層部及び前記ベース部を前記面に略直交する方向に枢支部で枢支されて予め形成された断熱パネル構造を施工現場に搬入する第3のステップと、前記第3のステップにおいて搬入された前記断熱パネル構造を位置決めし、前記枠材に付設された繋ぎ部を介して前記液化ガス貯蔵容器の外容器の内壁面もしくは内容器の外壁面に取り付ける第4のステップとを具備する構成とすることができる。
【0038】
液化ガス貯蔵容器が間隙部を真空状態にする内容器と外容器とを備えて構成される場合、その間隙部の空間は狭く、多層断熱層を緊密且つ密接に敷設(取り付ける)する作業は煩雑で難しい作業となる。本発明の一実施態様に係る多層的断熱パネル構造を用いた工法を採用することにより、多層的断熱パネル構造は予め工場等でユニットパネルとして多数製造し、液化ガス貯蔵容器製造/施工の際には、壁面のボルトに各多層的断熱パネル構造の上記繋ぎ部を挿入し、例えばナット止めするだけで緊密且つ密接に壁面状の多層的断熱層を形成することができる。また、上記のワンタッチ構造で施工が可能なため、作業性は大幅に向上することとなる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば取り扱い易い断熱材の構造を提示することにより、液化ガス貯蔵用の容器にシート状の断熱材が容易に精度よく止着固定され、かつ断熱性能を最も効率的に発揮できる液化ガス貯蔵容器が実現される。
【0040】
本発明によれば、低温液化ガス貯蔵のための容器本体の製造安全性と製造作業性とを格段に向上させつつ、経済効率も格段に向上させる液化ガス貯蔵容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の一実施形態に係る多層真空断熱層パネルを使用する貯蔵容器(タンク)の全体の断面的イメージを示した概念的断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る多層真空断熱層パネルを使用する貯蔵容器(タンク)の外容器(外槽)2の円筒部内壁側の見付面を表した部分的立面図である。
図3】本発明の一実施例として制作された多層真空断熱層パネルの斜視方向からの写真である。
図4図2におけるA部の詳細見付面を示した部分的立面図である。
図5図4のX-X断面図である。
図5A】本発明の一実施例として制作された多層真空断熱層パネルの斜視方向からの写真である。
図5B】本発明の一実施例として制作された多層真空断熱層パネルの取り合いの詳細を斜視方向からの写真である。
図6図2におけるB部の詳細見付面を示した部分的立面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルの基台となるパネル基台構造を正面からの見付で示す概念的正面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルとして、パネル基台構造上に、多層断熱層SIの第1層(下段)11、第2層(上段)12、第3層(最上段)13が所定の位置に重層配置される態様を正面からの見付で示す概念的正面図である。
図9】本発明の一実施形態に係るSIを構成する各多層断熱層の断面を示す概念図である。
図10】本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルとして、パネル基台構造上に、多層断熱層SIの第1層(下段)11、第2層(上段)12、第3層(最上段)13が所定の位置に重層配置される態様を正面からの見付で示す概念的正面図について、特に上記各層の取り合い箇所の詳細を説明するための概念的正面図である。
図11図10のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0043】
本発明の一実施形態に係る多層真空断熱層パネルの多層真空断熱層を以下、「SI」(Super Insulation)と称する。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係る多層真空断熱層パネルを使用する貯蔵容器(タンク)の全体の断面的イメージを示した概念的断面図である。同図において、中央の一点鎖線による中心線を軸に右側が断面、左側が立面を表している。本発明の一実施形態に係る多層真空断熱層パネルを使用する貯蔵容器(タンク)1は、外容器(外槽)2と内容器(内槽)3との二重槽を有して構成される。同図において、外容器(外槽)2、内容器(内槽)3は、それぞれ、一定の厚さを有する微視平板形状で巨視円筒形状をもった材であって、たとえば外容器(外槽)2は鉄筋コンクリート材、内容器(内槽)3は金属板(好適にはたとえばステンレス鋼板)、として形成されるものであるが、素材はこれらに限定されるものではない。なお、同図においては、外容器(外槽)2、内容器(内槽)3それぞれシングルラインで表示されているが、これは模式的な図法であり、実際には板厚分の厚さを持ったものである。このとき、図示はされていないが、本発明の一実施形態に係るSIが、たとえば外容器(外槽)2の内壁側に、後述される態様で取り付けられている。
【0045】
図2は、本発明の一実施形態に係る多層真空断熱層パネルを使用する貯蔵容器(タンク)の外容器(外槽)2の円筒部内壁側の見付面を表した部分的立面図であり、図3は、これらの実施例として制作された多層真空断熱層パネルの斜視方向からの写真である。同両図においては、貯蔵容器(タンク)側面部に施工する多層断熱層パネルの一形態が縦長タイプとして示されており、A部は上部取付け部を示し、Bは下部取付け部を示している。同両図に示されるように、本発明の一実施形態に係る多層真空断熱層パネル100は、枠材9(好適には金属製アングル材。たとえばアングル2t×20mm)によって四周が形成され、この枠材9の前面にシート材8(好適には金属製メッシュ材。たとえば0.4φ×14mmメッシュ)が取り付けられて(好適には溶接されて)形成される。1枚の多層真空断熱層パネル100はたとえばW900mm×H1800mmの平板状構造をもち、面剛性確保のために、リブ材102(好適には金属製フラットバー材。たとえばFB3t×10mm)が、たとえば縦方向に1本、横方向に2本取り付けられて形成される。
【0046】
図4は、図2におけるA部の詳細見付面を示した部分的立面図であり、図5は、図4のX-X断面図である。図5Aは、これらの実施例として制作された多層真空断熱層パネルの斜視方向からの写真であり、図5Bは、これらの実施例として制作された多層真空断熱層パネルの取り合いの詳細を斜視方向からの写真である。これらの図4図5図5A図5Bに示されるように、枠材9の上辺の角部より若干中心よりの位置に、外容器(外槽)2の内壁側に突設するように繋ぎ部材10(好適には金属製アングル材。たとえばアングル2t×20mm)が枠材9と背中合わせに摺接して固定される。固定にはたとえば隅肉溶接が用いられる。この繋ぎ部材10は外容器(外槽)2の内壁側との接合面の略中央付近に穴101が穿設されている。この穴101は、外容器(外槽)2の内壁側の所定位置にたとえば溶接によって取り付けられたスタッドボルト20を挿通させることができる程度の寸法(たとえばφ10mm)を有しており、穴101を挿通したスタッドボルト20はフランジナット21によって繋ぎ部材10と緊結されている。
【0047】
図6は、図2におけるB部の詳細見付面を示した部分的立面図である。断面図は省略する。また、B部における繋ぎ部材10については、図4及び図5の場合と基本構造は共通するので、説明は省略する。
【0048】
図7は、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルの基台となるパネル基台構造を正面からの見付で示す概念的正面図である。同図に示されるように、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルのパネル100は、外周部を枠体9で覆われたベース材(例えば網状体)で、上部及び下部にパネル取付け部である繋ぎ部材10を有する。材質を特に限定するものではないが好ましくはステンレス鋼がよい。これは耐食性及び低ガス放出性等の性質から選択されたものである。
【0049】
図8は、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルとして、パネル基台構造上に、多層断熱層SIの第1層(下段)11、第2層(上段)12、第3層(最上段)13が所定の位置に重層配置される態様を正面からの見付で示す概念的正面図である。同図に示されるように、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルのパネル100には、多層断熱層SIが、枢支部であるタグピン6によって、及び熱制御テープ14によって貼付される。例えば、多層断熱層SIの第1層(下段)11は、同図に下段20層として示されるように、パネル100に対して斜め右下方向に一定寸法ずらした態様で貼付される。また多層断熱層SIの第2層(上段)12は、同図に上段20層として示されるように、パネル100に対して斜め左上方向に一定寸法ずらした態様で貼付される。これに加えて、第3層(最上段)13は、同図に最上段1層として示されるように、第2層12の表面に更に斜め左上方向に一定寸法ずらした態様で貼付される。
【0050】
図9は、本発明の一実施形態に係るSIを構成する各多層断熱層の断面を示す概念図である。なお、同図では、第3層(最上段)13の表記を省略している。層間熱伝導を小さくするため、層間接触圧を極力小さくするべく、多層断熱層SIの第1層(下段)11、第2層(上段)12は、それぞれ、アルミ蒸着シート4及びPEs(ポリエステル)不織布シート5が交互に重ねあわされて積層・構成されている。ここで、アルミ蒸着シート4はPEs(ポリエステル)シートにアルミニウムを蒸着させた断熱シートである。PEs(ポリエステル)不織布シート5をアルミ蒸着シート4―アルミ蒸着シート4間にスペーサ材として介在させることによって、アルミ蒸着シート4同士の接触を避けつつ間隙を設けることにより断熱効果を上げている。
【0051】
図10は、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルとして、パネル基台構造上に、多層断熱層SIの第1層(下段)11、第2層(上段)12、第3層(最上段)13が所定の位置に重層配置される態様を正面からの見付で示す概念的正面図について、特に上記各層の取り合い箇所の詳細を説明するための概念的正面図であり、図11は、図10のA-A断面図である。同図に示されるように、SI端面においては、層方向の温度勾配を揃え、高温側シールドと低温側シールドが接触しない構造とする。
【0052】
同図に示されるように、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルは、各パネルが壁面に左右上下に並列に取付け施工された結果、好適には、それぞれのパネル間隙が一定寸法ずらして貼付された多層断熱層SI(第1層下段(20層)11及び第2層上段(20層)12)が上から覆う形態となる。これにより全ての壁面は、多層断熱層SIにより覆いかぶされる形態となる。また、第3層(最上段)13は、第2層上段(20層)12を隣接パネルにSIの接触圧増加を抑制しつつ止着するとともに、各パネルの四方コーナー部の間隙を上から覆う形態となる。
【0053】
但し、前記右下及び左上の方向については、左右上下方向のひとつの中心点対称の方向性の例示であって、これらは左右上下方向に同様に中心点対称であれば良いことは言うまでもない。また重ね順番を変えても本発明に係る技術思想の範囲内であることに変わりはない。
【0054】
このように本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルは、それが取付けられる壁面を全面的に間隙なく覆うことができるため、著しく高い断熱効果を奏することができる。第1層(下段)11及び第2層(上段)12における単体断熱シートが各々20層を重ね束ねた例を上記で示したが、この層数に限定されるものではなく、また第3層(最上段)13は単体断熱シートが1層以上であってよい。
【0055】
次に、本発明の一実施形態に係るSIを用いた側部・屋根部断熱構造の施工法について説明する。
【0056】
SI層数は、既存の文献から、積層数に対する効果が大きいと考えられる、たとえば40層とする。
【0057】
SI取付けは、内槽・外槽完成後に行う。SI設置位置は外槽内側とする。外槽内側は、ほぼ外気温度であるため、支持具材料の制約が少ない。また、外槽内側にSIを設置することで、内槽への伝熱形態を輻射伝熱のみとすることができる。
【0058】
図10に示されるように、ベース材(網状体)である金網8を張ったパネルにタグピン6でSIを固定したものを工場で製作し、それを現地で取付ける工法を採用する。タグピン6でSIを締結することで、SIの接触圧増加を抑制する。現地でのパネル取付けは、予め外容器に設置したスタッドボルト20にパネル取付け孔を挿入し、フランジナット21で固定する。材質は、パネル枠組及び金網は好ましくはステンレス、タグピン6は好ましくはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)とする。SIは1層+20層+20層をパネルに対して交互にずらしてタグピン6で枢止する。これにより、端部に隙間ができた場合でも、外槽内面から内槽外面が直接見えないようにする。
【0059】
タグピン6とは、商品のタグ付け用に幅広く利用されている樹脂性のピンのことである。本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルでは、SIの層間枢止の手段としてタグピンを用いる。タグピンは図11に示されるように、たとえばI字体形状を有し、片側にパドルと称するT字止めともう片側にTバーと称するT字止めとをフィラメント線で連結したピンである。
【0060】
SI端部をミシンで縫製する従来方法では、縫製部で層間が圧縮されることによる著しい断熱性能劣化が認められ、問題があった。この点を解決するべく、本願では、層間を圧縮することなく相互に枢止することが可能なタグピン構造を採用したものである。タグピンはタグピン打ち込み機(ハンディータイプの専用タグガン)によって簡単に多層断熱層を点結できる点結材となる。
【0061】
タグピンで枢止することにより、アルミ蒸着シートと不織布シートは必要以上に圧縮されず互いのシート間隙を保ち、熱伝導を最小限におさえる多層断熱層が形成される。
【0062】
図6図2図3図4に示されるように、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルの上部パネル取付け部10と下部パネル取付け部10とは、施工の際、重なりを避けるよう位置が配慮されており、連続取付け施工がしやすい形態となっている。また、パネル同士の間隙は、多層断熱層が上部を覆う形態となるため、断熱性能は十分維持される。
【0063】
図5図5A図5Bに示されるように、本発明の一実施形態に係る多層断熱層パネルは、例えばパネル取付け部の開口部を壁側に施工されたスタットボルト(M6)20に挿入し、フランジナット21で締結する。こうした構造を有することにより、施工作業が極めて容易にでき且つ壁面を多層断熱層が密に覆うため、断熱性能を最も発揮し易い。
【0064】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。これらはすべて、本発明に係る技術思想の一部であり、いずれの形態も本技術思想の範囲内のものである。
【0065】
たとえば、上記形態においては、ベース材が平面を形成しこのベース材の四辺を直線材たる枠材が囲む場合を例にとって説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、たとえば、四辺の枠材を曲げて、ベース材を「曲面」とした、(横置き型/縦置き型)タンク内容器用パネルとして、及び容器としても実現され、これらの形態も本技術思想の範囲内のものである。
【0066】
また、上記実施形態では、液化ガス貯蔵容器の外容器の真空状態側内壁面に多層的断熱パネル構造を配設する場合を例にとって説明したが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、たとえば、内容器の外壁面に多層的断熱パネル構造を配設するようにしてもよく、あるいは、外容器の内壁面及び内容器の外壁面に多層的断熱パネル構造を配設するようにしてもよく、すべて本願の技術思想の範囲に包摂される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
上述したように、本願に係る発明によれば、取り扱い易い断熱材の構造、及び液化ガス貯蔵用の容器にシート状の断熱材を容易に精度よく止着固定することができ、かつ断熱性能を最も効率的に発揮できる液化ガス貯蔵容器が実現される。
【0068】
本発明によれば、低温液体ガス貯蔵のための容器本体の製造安全性と製造作業性を格段に向上させつつ、経済効率も格段に向上させることの可能な液化ガス貯蔵容器が実現される。
【0069】
したがって、本発明は、その液体水素の貯蔵における断熱構造に限定されることなく、あらゆる素材の限定低温度保存及び貯蔵用途に対しても、利用・適用可能である。よって、本願は、エネルギー産業をはじめとする各種産業に対して大きな利用可能性をもたらすものである。
【符号の説明】
【0070】
1 液化ガス貯蔵容器(タンク)
2 外容器(外槽)
3 内容器(内槽)
4 アルミ蒸着シート
5 不織布シート
6 タグピン(Tag-pin)
8 ベース材(網状体)
9 枠体
10 パネル取付け部(取付け孔)
11 第1層(下段)
12 第2層(上段)
13 第3層(最上段)
14 熱制御テープ
20 スタッドボルト(M6)
21 フランジナット
100 多層断熱層パネル
図1
図2
図3
図4
図5
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11