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特許7253179脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法
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  • 特許-脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法 図1
  • 特許-脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/16 20060101AFI20230330BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20230330BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20230330BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
A61L31/16 ZNA
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018147211
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020018796
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [掲載年月日] 平成29年12月22日(米国東部時間:平成29年12月21日)[掲載ウェブサイトのアドレス]https://www.cell.com/cell-stem-cell/fulltext/S1934-5909(17)30457-5
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591116380
【氏名又は名称】赤池 敏宏
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】澤本 和延
(72)【発明者】
【氏名】神農 英雄
(72)【発明者】
【氏名】澤田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】味岡 逸樹
(72)【発明者】
【氏名】赤池 敏宏
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】スペイン国特許出願公開第2470495(ES,A1)
【文献】特表2018-510005(JP,A)
【文献】特開2016-021984(JP,A)
【文献】特開2005-213449(JP,A)
【文献】Acta Biomaterialia,2014年,Vol.10,pp.4113-4126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
A61L15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-カドヘリン、N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質からなる群から選ばれる1種以上を、固定またはコーティングした担体を含むことを特徴とする新生児期のヒトの脳障害の治療用材料であって、
前記N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、前記N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質が、N-カドヘリンと同種親和性の結合能を有し、かつ、N-カドヘリンの細胞外ドメイン又はアミノ酸配列がN-カドヘリンの細胞外ドメインと90%以上同一であるタンパク質を含む融合タンパク質であることを特徴とする新生児期のヒトの脳障害の治療用材料
【請求項2】
前記融合タンパク質が、免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質である請求項1記載の新生児期のヒトの脳障害の治療用材料。
【請求項3】
前記担体が、多孔質体である請求項1または2記載の新生児期のヒトの脳障害の治療用材料。
【請求項4】
前記担体が、生体材料、または、生体適合性の高分子の担体である請求項1~のいずれか一項記載の新生児期のヒトの脳障害の治療用材料。
【請求項5】
前記担体が、生体材料の多孔質体である請求項1~のいずれか一項記載の新生児期のヒトの脳障害の治療用材料。
【請求項6】
前記生体材料が、タンパク質、または、多糖である請求項または記載の新生児期のヒトの脳障害の治療用材料。
【請求項7】
前記生体材料が、ゼラチンまたはコラーゲンである請求項のいずれか一項記載の新生児期のヒトの脳障害の治療用材料。
【請求項8】
前記担体が、ゼラチンスポンジである請求項1~のいずれか一項記載の新生児期のヒトの脳障害の治療用材料。
【請求項9】
N-カドヘリン、N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質からなる群から選ばれる1種以上を、固定またはコーティングした担体を含むことを特徴とする新生児期のヒトの脳の神経細胞の再生用材料であって、
前記N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、前記N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質が、N-カドヘリンと同種親和性の結合能を有し、かつ、N-カドヘリンの細胞外ドメイン又はアミノ酸配列がN-カドヘリンの細胞外ドメインと90%以上同一であるタンパク質を含む融合タンパク質であることを特徴とする新生児期のヒトの脳の神経細胞の再生用材料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低酸素虚血のような新生児期の脳障害は、乳幼児の死亡及び生涯にわたる障害の第一要因である。しかしながら、損傷した脳の組織を修復する治療方法がないのが現状である。“脳室-脳室下帯(V-SVZ)”は、出生後の脊椎動物の脳における神経幹細胞(NSC)ニッチであり、新生ニューロン(神経細胞)を継続的に供給している(Kaneko et al.,2017(非特許文献1))。とりわけ、人間の新生児期のV-SVZは並外れたニューロン産生能力を有しており(Paredes et al.,2016(非特許文献2); Sanai et al.,2011(非特許文献3))、このことから、V-SVZが新生児期の脳障害後の内因性の神経の再生の源である可能性が高い。
【0003】
齧歯動物では、新生ニューロンは、移動に様々な足場を使う。障害のある成体の脳では、V-SVZ由来の新生ニューロンは、障害部に向かって血管に沿って移動する(Yamashita et al.,2006(非特許文献4))。血管を模倣した足場を障害のある成体の脳に移植すると、新生ニューロンの障害部に向かう移動が促進される(Ajioka et al.,2015(非特許文献5); Fujioka et al.,2017(非特許文献6))。成体の脳と比較すると、新生児期の脳ではV-SVZから障害部に向かって多くの新生ニューロンが移動する(Covey et al.,2010(非特許文献7))。しかしながら、障害域に向かう新生ニューロンを誘導する新生児期の足場については、まだ十分に研究されていない。
【0004】
放射状グリア(RG:radial glia)は、細胞体は脳室帯に存在して細い突起を脳軟膜表面に伸ばす細胞であり、胎生期に神経幹細胞(NSC:neural stem cells)として機能する(Rakic,1972(非特許文献8))。未発達な大脳皮質では、新生ニューロンが移動のための足場として放射状グリアを用いている(Kawauchi et al.,2010(非特許文献9))。この過程では、放射状グリア突起が、新生ニューロンと共に接着結合(AJ:Adherens Junction)様の構造を形成し、大脳皮質層の形成のために新生ニューロンを適切に誘導する(Franco et al.,2011(非特許文献10); Rakic,1972(非特許文献8))。生後すぐに、放射状グリアはアストロサイト又は上衣細胞に転換する(Kriegstein and Alvarez-Buylla,2009(非特許文献11))。従って、移動性の新生ニューロンが新生児期の脳障害の後にどのようにして誘導されるのかは知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kaneko et al., 2017, J. Neurochem. 141, 835-847.
【文献】Paredes et al., 2016, Science 354, aaf7073.
【文献】Sanai et al., 2011, Nature 478, 382-386.
【文献】Yamashita et al., 2006, J. Neurosci. 26, 6627-6636.
【文献】Ajioka et al., 2015, Tissue Eng. Part A 21, 193-201.
【文献】Fujioka et al., 2017, EBioMedicine 16, 195-203.
【文献】Covey et al., 2010, Dev. Neurosci. 32, 488-498.
【文献】Rakic, 1972, J. Comp. Neurol. 145, 61-83.
【文献】Kawauchi et al., 2010, Neuron 67, 588-602.
【文献】Franco et al., 2011, Neuron 69, 482-497.
【文献】Kriegstein and Alvarez-Buylla, 2009, Annu. Rev. Neurosci. 32, 149-184.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような知見はあるものの、脳障害を治療する方法がないのが現状であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のとおり放射状グリアは通常は生後すぐに消滅するが、本発明者らは、放射状グリア突起が、障害のある新生児期のマウスの脳において存続することができ、出生後の“脳室-脳室下帯(V-SVZ)”由来の新生ニューロンが障害部に移動するための足場となることを発見した。この放射状グリア突起の障害誘導による持続は、生後の限られた時間内に起こるものであり、RhoA活性を促進するN-カドヘリンを介した細胞間接着によって、新生ニューロンの方向性を有する跳躍運動を促進するものであった。そこで、本発明者らは、当該知見から鋭意検討し、障害のある新生児期の脳に、N-カドヘリンを含有する足場を移植すると、同様に、V-SVZ由来の新生ニューロンの移動及び成熟が促進され、歩行挙動障害が機能改善され、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法に関する、以下の[1]~[15]である。
[1]N-カドヘリン、N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質からなる群から選ばれる1種以上を、固定またはコーティングした担体を含むことを特徴とする脳障害の治療用材料。
[2]前記N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、前記N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質が、N-カドヘリンと同種親和性の結合能を有する前記[1]記載の脳障害の治療用材料。
[3]前記N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、前記N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質が、下記(1)~(3)から選択されるタンパク質を含む融合タンパク質である前記[1]または[2]記載の脳障害の治療用材料。
(1)N-カドヘリン、又は、アミノ酸配列がN-カドヘリンと90%以上同一であるタンパク質。
(2)N-カドヘリンの細胞外ドメイン、又は、アミノ酸配列がN-カドヘリンの細胞外ドメインと90%以上同一であるタンパク質。
(3)N-カドヘリンのEC1ドメイン、EC2ドメイン、EC3ドメイン、EC4ドメインおよびEC5ドメインのうち1つ以上を含むタンパク質。
[4]前記融合タンパク質が、免疫グロブリンのFc領域との融合タンパク質である前記[1]~[3]のいずれか一項記載の脳障害の治療用材料。
[5]前記担体が、多孔質体である前記[1]~[4]のいずれか一項記載の脳障害の治療用材料。
[6]前記担体が、生体材料、または、生体適合性の高分子の担体である前記[1]~[5]のいずれか一項記載の脳障害の治療用材料。
[7]前記担体が、生体材料の多孔質体である前記[1]~[6]のいずれか一項記載の脳障害の治療用材料。
[8]前記生体材料が、タンパク質、または、多糖である前記[6]または[7]記載の脳障害の治療用材料。
[9]前記生体材料が、ゼラチンまたはコラーゲンである前記[6]~[8]のいずれか一項記載の脳障害の治療用材料。
[10]前記担体が、ゼラチンスポンジである前記[1]~[9]のいずれか一項記載の脳障害の治療用材料。
[11]N-カドヘリン、N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質からなる群から選ばれる1種以上を、固定またはコーティングした担体を含むことを特徴とする脳の神経細胞の再生用材料。
[12]
前記[1]~[10]のいずれか一項記載の脳障害の治療用材料を脳に移植することを特徴とする脳障害の治療方法。
[13]
多能性幹細胞由来の神経系細胞を前記治療用材料と同時又は前記治療用材料を脳に移植した後に脳に移植することを特徴とする前記[12]記載の脳障害の治療方法。
[14]
前記[11]記載の脳の神経細胞の再生用材料を脳に移植することを特徴とする脳の神経細胞の再生方法。
[15]
多能性幹細胞由来の神経系細胞を前記再生用材料と同時又は前記再生用材料を脳に移植した後に脳に移植することを特徴とする前記[14]記載の脳の神経細胞の再生方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】放射状グリアは、新生児期の脳障害後に、その突起を維持し、V-SVZ由来の新生ニューロンの移動のための足場を提供する。(A)実験スキーム。 (B)7dpiでのGFP(緑)及びネスチン(赤)を染色したDcx-EGFPマウスの皮質の冠状断面。矢頭印は、ネスチン陽性突起と関連性がみられるGFP陽性新生ニューロンを指し示す(B1-B4)。 (C)野生型(WT)のマウスの皮質の冠状断面。EmGFPを発現するプラスミドをV-SVZにエレクトロポレーションし、GFP(緑)、Dcx(赤)、ネスチン(白)を染色した。 (D)Dcx陽性(緑)新生ニューロン(アスタリスク)とネスチン陽性(白)放射状グリア突起(矢印)がN-カドヘリン(赤)を発現。 (E)アデノウイルスを感染させた、障害後の新生児期の放射状グリア突起。DsRed(赤)及びネスチン(白)を染色したR26-tdTomatoマウスの皮質の冠状断面。黄色及び白色の矢印はそれぞれ、V-SVZ及び脳梁(CC)に存在する放射状グリア突起を示す(E’)。 (F-J)放射状グリア突起にDN-N-カドヘリン(F-H)又はN-カドヘリン-KD(I及びJ)を発現させたことによる、新生ニューロンの放射状グリア突起への接着(F、G及びI)及び障害部に向かう移動(F、H及びJ)に与える影響。GFP(緑)、DsRed(赤)及びネスチン(白)を染色したR26-tdTomato;Dcx-EGFPマウスの皮質の冠状断面(F)。(G及びI)放射状グリア突起に沿う新生ニューロンの総量の比率(図S2Fは細胞体全体が接触する)。 (K及びL)新生ニューロン(N、緑)、コントロール(K)及びDN-N-カドヘリン発現(L)放射状グリア突起(RGF、赤)のTEM画像。赤矢印及び青矢頭印はAJ様電子密度構造および不規則な接着をそれぞれ示す。 (M)新生ニューロンと放射状グリア突起間の接着点における不規則な接触域の接触密度及び比率。スケールバーは、10μm(B)、50μm(E)、5μm(C、D及びF)、500nm(K及びL)。 エラーバーは±標準誤差(±SEM)を意味する。
図2】N-カドヘリンは、放射状グリア突起に沿って移動する新生ニューロンのRhoA活性と跳躍運動を促進する。 (A)障害のある皮質切片中で、コントロールの放射状グリア突起とDN-N-カドヘリンを発現するtdTomato陽性突起(紫)に沿って移動するGFP陽性新生ニューロン(緑)の5dpiのタイムラプス画像。矢印及び矢頭印はそれぞれ、新生ニューロンの先導先端及び放射状グリア突起を示す。 (B-G)新生ニューロンの、移動速度(B)、放射状グリア突起接着フェーズに費やす時間の割合(C)、放射状グリア突起に接着していない新生ニューロンの割合(D)、ストライド長(E)、休息フェーズに費やす時間の割合(F)、及び、移動サイクル時間(G)。 (H及びI) 培養新生ニューロンのRhoA活性(疑似カラー)のタイムラプスFRETレシオメトリック画像(H)。拡大像を(I)に示す。 (J)RhoAの活性化。 (K-P) N-カドヘリン-Fcストライプ上の、培養新生ニューロンの移動挙動。(K)tdTomato陽性新生ニューロン(赤)のタイムラプス画像。新生ニューロンの、移動速度(L)、休息フェーズに費やす時間の割合(M)、ストライド長(N)、及び移動サイクル時間(O)。(P)N-カドヘリン-Fcストライプの選好性。破線(H及びK)はストライプ境界を示す。 スケールバーは10μm。エラーバーは±標準誤差(±SEM)を示す。
図3】N-カドヘリンを含有する足場は、新生児期の脳障害後のV-SVZ由来新生ニューロンの移動及び成熟を促進する。 (A及びB)EmGFP(緑)を染色したコントロール(A)及びDN-N-カドヘリン(B)群の皮質の冠状断面。これらは、8つに分かれたフィールド(縦方向に2つ及び横方向に4つのタイル)の複合図である。 (C)障害のある皮質におけるEmGFP・NeuN二重陽性細胞の数。 (D)コントロール及びN-カドヘリンスポンジ(Sp)に沿って移動する、培養新生ニューロンのタイムラプス画像。 (E)培養新生ニューロンの速度。 (F)実験スキーム。 (G)N-カドヘリンスポンジ(橙)内のEmGFP陽性(緑)V-SVZ由来Dcx陽性(赤)新生ニューロン。 (H)Dcx(赤)を染色した、スポンジ(黄緑)処理した野生型マウス(P2、P14及び8wモデル)の皮質の冠状断面。矢印は、スポンジに沿ったDcx陽性細胞。 (I)スポンジ内のDcx陽性細胞の密度。 (J及びJ’)EmGFP(緑)とNeuN(赤)を染色した、スポンジを移植したP30野生型マウスの皮質の冠状断面。矢印はEmGFP・NeuN二重陽性ニューロン。 (K)障害のある皮質のEmGFP・NeuN二重陽性ニューロンの数(左)と分布(右)。 スケールバーは、50μm(A、B、H及びJ)及び10μm(D及びG)。エラーバーは±標準誤差(±SEM)を意味する。
図4】N-カドヘリンを含有する足場は、新生児期の脳障害後にV-SVZ由来のニューロン再生を促進することによって、機能回復を改善する。 (A-C)P30でのキャットウォーク解析。前足の、「最大接地面積」(A)、「プリントエリア(足跡のプリント全体の面積)」(B)及び「ベースオブサポート(左右前肢間距離)」(C)。 (D)踏み外し(foot-fault)試験。P2、P14、8wの障害モデルにおける左足の踏み外しの割合。 (E)実験スキーム。 (F)V-SVZ由来新生ニューロンを除外するための方略。 (G)障害のある皮質におけるEmGFP・NeuN二重陽性新生ニューロンのP30での数。 (H)N-カドヘリンスポンジを移植したAd-Cre;NSE-DTAマウスのFoot-fault試験。 エラーバーは±標準誤差(±SEM)を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の脳障害の治療用材料は、移動性の新生ニューロン、特にV-SVZ(脳室-脳室下帯)由来の新生ニューロンの障害部等の患部への移動及び成熟を促進することができる。本発明の脳障害の治療用材料を脳に移植することによって、脳障害、例えば、脳の障害によって損なわれた運動機能を改善することができる。
【0013】
本発明の脳の神経細胞の再生用材料は、移動性の新生ニューロン、特にV-SVZ(脳室-脳室下帯)由来の新生ニューロンの障害部等の患部への移動及び成熟を促進し、神経細胞を増加させることができる。
【0014】
以下、本発明の脳障害の治療用材料、脳障害の治療方法、脳の神経細胞の再生用材料、及び、脳の神経細胞の再生方法について詳述する。
【0015】
[脳障害の治療用材料及び脳の神経細胞の再生用材料]
本発明の脳障害の治療用材料及び脳の神経細胞の再生用材料は、N-カドヘリン、N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質からなる群から選ばれる1種以上(以下、「N-カドヘリン等」とも略称する)を、固定またはコーティングした担体であることを特徴とするものである。
【0016】
カドヘリンとは、接着結合又はアドヘレンス・ジャンクション(adherens junction)と呼ばれるCa2+依存性の細胞間接着・結合に関与する接着分子であり、E(上皮)型、N(神経)型、P(胎盤)型の3種が例として知られている。これらのカドヘリン分子は、700~750アミノ酸残基からなる膜結合型糖タンパク分子であり、その細胞外領域には、約110アミノ酸残基からなる繰り返し構造、いわゆるExtracellular Cadherin(EC)ドメインと呼ばれる領域が5個存在する。例えば、ヒトN-カドヘリン(そのアミノ酸配列を配列番号1に示す)の場合、EC1、EC2、EC3、EC4、EC5の各ドメインは、それぞれ160~267、268~382、383~497、498~603、604~714に相当する(数値は配列番号1に示すアミノ酸配列内の残基の番号である)。また、マウスN-カドヘリン(そのアミノ酸配列を配列番号2に示す)の場合、EC1、EC2、EC3、EC4、EC5の各ドメインは、それぞれ160~267、268~382、383~497、498~603、604~717に相当する(数値は配列番号2に示すアミノ酸配列内の残基の番号である)。これらのECドメインは、異なるカドヘリン分子種の間で相同性を有しており、特にN末端側に位置するドメイン(EC1、EC2)の相同性が高い。
【0017】
N-カドヘリンは、カルシウム依存性細胞接着分子に属する140kD程度のタンパク質である。N-カドヘリンは同種のカドヘリンの相互作用およびカテニンを介したアクチン細胞骨格との結合により細胞接着において重要な役割を担っており、発生分化段階に関与している。N-カドヘリンは神経、心筋、骨格筋、血管内皮など様々な組織に発現する。N-カドヘリンは、網膜発生、体節形成および神経突起成長などの多くの発生プロセスにおいて、重要な分子シグナルを提供することにより、神経システム発生の重要な制御因子として機能していることが報告されている(Miyatani et al.,Science 1989;245;631-5、Hansen et al.,Cell Mol.Life Sci.2008:65;3809-21)。
【0018】
N-カドヘリン及び前記融合タンパク質を作製する方法としては、特にこれを限定しないが、分子生物学的手法を用いてリコンビナント・タンパク質を作製・精製し、これを使用することが望ましい。その他にも、同様の効果を示す方法であれば、いずれをも用いることができ、例えば、N-カドヘリンを、生体組織・細胞から抽出、精製して使用すること、又は当該ペプチドを化学的に合成して使用することも可能である。
【0019】
N-カドヘリン及び前記融合タンパク質に関し、そのリコンビナント・タンパク質を作製するための方法、及び当該分子をコードする遺伝子を取得する方法は、すでに標準的なプロトコールが確立されており、実施者は、上記で挙げた参考書籍を参照することができるが、特にこれを限定しない。N-カドヘリン遺伝子は、既にヒト、マウス等の動物で単離・同定され、その塩基配列が、NCBI等の公的なDNAデータベースにおいて利用可能である(NCBIアクセス番号:ヒトNM_001792、マウスNM_M31131、M22556等)。そのため、当業者であれば、N-カドヘリン遺伝子に特異的なプライマー又はプローブを設計し、一般的な分子生物学的手法を用いることにより、N-カドヘリン遺伝子のcDNAを取得・使用することが可能である。また、N-カドヘリン遺伝子のcDNAは、OriGene Technologies, Inc.[https://www.origene.com/]等からも購入することができる。使用する遺伝子としては、治療対象と同種の動物由来のものが好ましい。しかし、異種動物由来のものを用いてもよい。
【0020】
N-カドヘリン及び前記融合タンパク質のリコンビナント・タンパク質を作製するための好適な方法の一例は、当該分子をコードする遺伝子を、COS細胞や293細胞、CHO細胞等の哺乳動物細胞に導入し、発現させることを特徴としている。好ましくは、当該遺伝子は、広範な哺乳動物細胞における遺伝子の転写および発現を可能にする核酸配列、いわゆるプロモーター配列と、当該プロモーターの制御下に転写・発現が可能になる様な形で連結される。また、転写・発現させる遺伝子は、さらにポリA付加シグナルと連結されることが望ましい。好適なプロモーターとしては、SV(Simian Virus)40ウイルスやサイトメガロウイルス(Cytomegaro Virus;CMV)、ラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)等のウイルスに由来するプロモーターや、β-アクチン・プロモーター、EF(Elongation Factor)1αプロモーター等が挙げられる。
【0021】
上記のリコンビナント・タンパク質を作製するために用いる遺伝子は、当該分子をコードする遺伝子の全長領域を含むものである必要はなく、部分的な遺伝子配列であっても、その部分配列がコードするタンパク質またはペプチド分子が、本来の当該分子と同程度、又はそれ以上の接着活性を有するものであればよい。例えば、細胞外領域をコードする、EC1~EC5ドメインを含むタンパク質を使用することができる。また、一般的にカドヘリン分子は、最もN末端側に位置するドメイン(EC1)が、当該分子の結合特異性、すなわち、同種親和性を規定している(Nose et al.,Cell 61:147,1990)ため、少なくともEC1を含み、それ以外のドメインの1個又は数個を除いたタンパク質分子を作製、使用することも可能である。
【0022】
前記N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、前記N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質は、N-カドヘリンと同種親和性の結合能を有することが好ましい。
【0023】
また、前記N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、前記N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質が、下記(1)~(3)から選択されるタンパク質を含む融合タンパク質であることが好ましい。
(1)N-カドヘリン、又は、アミノ酸配列がN-カドヘリンと80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)同一であるタンパク質。
(2)N-カドヘリンの細胞外ドメイン、又は、アミノ酸配列がN-カドヘリンの細胞外ドメインと80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)同一であるタンパク質。
(3)N-カドヘリンのEC1ドメイン、EC2ドメイン、EC3ドメイン、EC4ドメインおよびEC5ドメインのうち1つ以上を含むタンパク質。
【0024】
前記融合タンパク質としては、他のタンパク質やペプチドとの融合タンパク質であればよく、例えば、イムノグロブリン(免疫グロブリン)のFc領域やGST(Glutathione-S-Transferase)タンパク質、MBP(Mannnose-Binding Protein)タンパク質、アビジン・タンパク質、His(オリゴ・ヒスチジン)タグ、HA(HemAgglutinin)タグ、Mycタグ、VSV-G(Vesicular Stromatitis Virus Glycoprotein)タグ等との融合タンパク質として作製し、プロテインA/Gカラムや特異的抗体カラム等を用いることにより、リコンビナント・タンパク質の精製を容易に、しかも効率よく行なうことができる。特にFc融合タンパク質は、ポリ乳酸やポリジオキサン等の合成高分子、コラーゲンなどの生体由来材料、アパタイト等のセラミック及びチタン合金やステンレス鋼等の金属などからなる生体材料への吸着に優れるため、本発明の実施において好適である。
【0025】
イムノグロブリンのFc領域をコードする遺伝子は、既にヒトをはじめとする哺乳動物で、多数、単離・同定されている。その塩基配列も数多く報告されており、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のFc領域を含む塩基配列の配列情報は、NCBI等の公的なDNAデータベースにおいて利用可能であり、それぞれ、アクセス番号:AJ294730、AJ294731、AJ294732、及びAJ294733として登録されている。したがって、当業者であれば、Fc領域に特異的なプライマー又はプローブを設計し、一般的な分子生物学的手法を用いることにより、Fc領域部分をコードするcDNAを取得・使用することが可能である。この場合、使用するFc領域をコードする遺伝子としては、動物種やサブタイプは特にこれを限定しないが、プロテインA/Gとの結合性が強いヒトIgG1やIgG2、又はマウスIgG2aやIgG2b等のFc領域をコードする遺伝子が好ましい。また、Fc領域に変異を導入することによりプロテインAとの結合性を高める方法も知られており(Nagaoka et al.,Protein Eng.16:243,2003(非特許文献7)参照)、当該方法により遺伝子改変を加えたFcタンパク質も使用することもできる。
【0026】
なお、当該リコンビナント・タンパク質の作製法の一例として、既報告論文を挙げることができる(Yue XS et al., Biomaterials 2010; 31:5287-96)。
【0027】
また、ヒトのN-カドヘリンの細胞外領域をコードするcDNAに、ヒトのIgGのFc領域部分をコードする配列及びHisタグ配列のcDNAを連結させた融合遺伝子をマウス細胞に導入し、これを発現させて作製した精製リコンビナント・タンパク質(Recombinant Human N-Cadherin Fc Chimera:R&D systems)や、マウスのN-カドヘリンの細胞外領域をコードするcDNAに、マウスのIgGのFc領域部分をコードする配列のcDNAを連結させた融合遺伝子をマウス細胞に導入し、これを発現させて作製した精製リコンビナント・タンパク質(Recombinant マウス N-Cadherin Fc Chimera:R&D systems)が市販されている。
【0028】
前記担体としては、生体材料や生体適合性の高分子であることが好ましい。生体材料としては、特に限定されないが、タンパク質、多糖が挙げられる。タンパク質としては、ゼラチン、コラーゲン等が挙げられる。多糖としては、キトサン、キチン等が挙げられる。生体適合性の高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸等が挙げられる。また、担体として、インジェクタブルゲルに用いられる材料を用いてもよい。
【0029】
また、前記担体の形状や性状は特に限定されないが、例えば、ファイバー、ゲル、及び、多孔質体が挙げられ、特に多孔質体が好ましい。前記多孔質体は、神経細胞が多孔質内を遊走することから、スポンジであることが好ましい。
【0030】
前記担体の製造方法は特に限定されず、多孔質体の場合は、例えば、ゲル状の生体材料を凍結乾燥して得ることができる。ゼラチンスポンジの場合、ゼラチンを凍結乾燥して得ることができる。
【0031】
なお、ゼラチンスポンジの作製法の一例として、本発明者らの既報告論文を挙げることができる(Ajioka et.al.,Tissue Eng. Part A 21,193-201)。
【0032】
多孔質体の大きさは特に限定されないが、脳障害領域に移植できる大きさが望ましい。
【0033】
多孔質体の形状は特に限定されないが、神経細胞が遊走できる形状が望ましい。
【0034】
N-カドヘリン等を担体に固定またはコーティングする方法は特に限定されず、吸着等の物理学的方法や共有結合等の化学的方法を適用することができるが、操作の容易さから吸着による方法が好ましい。接着性分子がタンパク質性やペプチド性の分子、又は糖鎖を含む高分子化合物等である場合、担体に当該分子の溶液を接触させ、一定時間後に溶媒を除去することにより、簡便に当該分子を吸着させることができる。さらに具体的には、例えば、担体が多孔質体の場合、蒸留水やPBS等を溶媒とする接着性分子の溶液を、ろ過、滅菌した後、ゼラチンスポンジ等の多孔質体に接触させ、数時間から一昼夜放置するだけで、当該接着性分子が固定又はコーティングされた多孔質体が得られる。好ましくは、蒸留水やPBS等で数回洗浄し、PBS等の平衡塩溶液等で置換してから使用する。
【0035】
また、接着性分子に前もって人為的に抗原性分子が付加・融合させている場合は、当該抗原性分子に対する特異抗体との結合を利用することもでき、接着性分子を効率的に基材表面に修飾することができるため、より好ましい。この場合、特異抗体を前もって担体に、吸着等の物理学的方法や共有結合等の化学的方法によって固定又はコーティングしておく必要がある。例えば、接着性分子にIgGのFc領域タンパク質を融合させたリコンビナント・タンパク質の場合、担体に前もって修飾しておく抗体としては、IgGのFc領域を特異的に認識するものを使用することができる。接着性分子に各種タンパク質やタグ配列ペプチドを融合させたリコンビナント・タンパク質の場合、融合させた分子に特異的な抗体を、担体に前もって修飾することにより、使用することができる。
【0036】
本発明の実施において、N-カドヘリン、N-カドヘリンの全部または一部の領域を含む融合タンパク質、および、N-カドヘリンと相同性を有するタンパク質の全部または一部の領域を含む融合タンパク質からなる群から選ばれる2種類以上を組み合わせて用いてもよい。その場合、各々のタンパク質の溶液を混合し、その混合溶液を上述の方法に基き、修飾すればよい。
【0037】
上記のN-カドヘリン等の溶液の濃度は、当該タンパク質の吸着量及び/又は親和性、さらには当該タンパク質の物理学的性質によって適宜、検討する必要があるが、0.01~1000μg/mL程度までの濃度範囲とし、好ましくは、0.1~200μg/mL程度、さらに好ましくは1~50μg/mL、そして最も好ましくは3~20μg/mLである。
【0038】
本発明の脳障害の治療用材料で治療する脳障害は特に限定されず、例えば、低酸素性脳症、低酸素性虚血性脳症、虚血性脳障害、物理的な傷害による脳障害等が挙げられる。
【0039】
[脳障害の治療方法及び脳の神経細胞の再生方法]
本発明の脳障害の治療方法及び脳の神経細胞の再生方法は、本発明の上記材料を、脳に移植することを特徴とするものである。移植の方法は特に限定されないが、神経系の細胞、好ましくはV-SVZ(脳室-脳室下帯)由来の新生ニューロンが障害部等の患部に移動できるよう、例えば、新生ニューロンが存在する領域と患部とが繋がれるように本発明の上記材料を移植すればよい。また、本発明の上記材料を事前あるいは多能性幹細胞由来の神経系細胞などと同時に脳内に移植することによって、本発明の上記材料が移植された神経系細胞の足場となり神経系細胞の移動及び障害部等患部の再生を促進することもできる。このとき多能性幹細胞由来の神経系細胞などを上記材料よりも先に脳内に移植すると脳障害部に前記細胞を効率的に移動させることが難しくなるので好ましくない。前記多能性幹細胞としては、例えば、ES細胞、ntES細胞、iPS細胞が挙げられる。前記神経系細胞としては、例えば、神経幹細胞、神経前駆細胞、ニューロン(神経細胞)、グリア細胞が挙げられる。
【0040】
移植する上記材料の量は、障害部の大きさ等に合わせて有効量を移植すればよい。
【0041】
上記材料の脳への移植は、公知慣用の外科的手段を用いればよく、例えば切開によって脳を露出させた後、患部に上記材料を移植すればよい。また、上記材料がインジェクタブルゲルのような注入可能な材料の場合には、患部に局所注入してもよい。
【0042】
また、上記材料は、脳に移植する際に、清潔な状態で移植することが望ましい。
【0043】
移植の対象は脳障害の患者であればよく、ヒトに限らず、ヒト以外の動物、例えば、ほ乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等であってもよい。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されることはない。なお、以下において「%」とあるのは、特に断りのない限り、すべて質量基準である。
【0045】
<実験動物>
生動物に関する実験は全て名古屋市立大学のガイドライン及び規則に従って実施し、名古屋市立大学学長の承認を得た。動物は、特定病原体除去施設内で、制御環境(23±1℃、12時間の明暗周期を8時丁度に変更)下でチップ状の床材を並べたケージ内で、水及び食べ物(MF、オリエンタル酵母工業)へのアクセスは自由にして飼育した。野生型(WT)ICR及びC57BL6/Jマウスは、日本SLC社から購入した。次のトランスジェニックマウス系統を使用した。R26-tdTomatoマウス(ストック番号7914、Jackson Laboratory)、Neurog2-d4Venusマウス(Kawaue et al., 2014, Dev. Growth Differ. 56, 293-304)、NSE-DTAマウス(Imayoshi et al., 2008, Nat. Neurosci. 11, 1153-1161; Kobayakawa et al., 2007, Nature 450, 503-508)、及び、Dcx-EGFPマウス(Gong et al., 2003, Nature 425, 917-925)(MMRRC_000244)。R26-tdTomato及びNSE-DTA系統は、C57BL6/J遺伝的背景がある。Dcx-EGFPマウス系統は、R26-tdTomatoリポーターマウス系統(同系接合体)と相互交配されている。遺伝子型は、マウスのテールカット(tail clipping)でPCRによって確認した。R26-tdTomato系統における、アデノウイルスベクター(Ad-CMV-Cre及びAd-CMV-DN-N-カドヘリン-IRES-Cre)によるlox-stop-loxカセットのCre介在リコンビネーションは、恒久的なtdTomatoの発現を普遍的に引き起こした。NSE-DTA系統における、Ad-CMV-Creによるlox-stop-loxカセットのCre介在リコンビネーションは、NSE遺伝子プロモーターの制御のもと、恒久的なDTAの発現を引き起こした。これはニューロンの子孫を除去する。マウスは各実験において、同齢に合わせた。離乳前に、同腹子をその母マウス又は仮親マウスと共に飼育した。離乳後、性別で分けて、集団で飼育した(1ケージ当たり7匹まで)。成体マウスを使用する実験では、8週齢の健康な雄マウスを使用した。他の動物実験では、健康な雄及び雌のマウスを両方使用した。同腹子を無作為に試験群にあてがった。
【0046】
<V-SVZ細胞の培養>
新生児期のV-SVZを、WT ICR P0-1の子マウスから切り出し、トリプシン-EDTA(Invitrogen)で解離させた。雄及び雌の子マウスを両方用いた。細胞は、40μg/mLのDNaseI(Roche)を含有するL-15培地(GIBCO)で二度洗った後、Amaxa Nucleofector IIシステム(Lonza)を用いて2μgのプラスミドDNAを導入した。前記導入した細胞を、RPMI-1640培地(和光)でけん濁し、15分、37℃でインキュベートし、凝集させて後、凝集体をブロック(直径150~200μm)に切断し、50%マトリゲル(BDバイオサイエンス)のL-15培地と混合し、ディッシュ上に固定した。前記ディッシュを、加湿インキュベータで、37℃、5%COで保存した。前記凝集体を含むゲルを、2%のB-27上清(Invitrogen)、2mMのL-グルタミン(GIBCO)及び50U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(GIBCO)を含む無血清のNeurobasal培地(GIBCO)で48時間培養した。
【0047】
<脳障害>
生後2日目(P2)、P4、P14及び8週齢のマウスに、公知の方法(Ajioka et al., 2015, Tissue Eng. Part A 21, 193-201)で、凍結大脳皮質障害を作製した。簡潔には、マウスをイソフルランの自然吸入によって深麻酔し、頭皮切開で頭頂骨を露出させた。P2及びP4、P14、及び8週齢のマウスそれぞれにおいて、液体窒素で冷却した金属のプローブ(直径1.5mm)を、30、60及び120秒間、右の頭蓋骨に定位的に置いた(ブレグマの0.5mm前と1.2mm横)。頭皮をすぐに縫合し、マウスを飼育ケージに戻した。この工程は、再現性よく、深さ500-600μmの障害を生じさせた。
【0048】
P5マウスに低酸素虚血障害を誘発させた。術中、マウスはイソフルランの自然吸入によって深麻酔であった。解剖顕微鏡下で右の総頚動脈を焼灼した後、1時間の回復時間後に、プラスチック製の箱の中で、37℃で湿気のある環境で全身低酸素(酸素/窒素、8/92%)を20分間行った。この工程後に、マウスを飼育ケージに戻した。
【0049】
<アデノウイルスベクターとRNAi構成>
pENTR4-DN-N-カドヘリン-IRES-Creを作製するために、pLV-CMV-tdTomato-IRES-Cre由来のIRES-Creフラグメント(Robel et al., 2011, J. Neurosci. 31, 12471-12482)とpCAG-MCS2-DN-N-カドヘリン由来のDN-N-カドヘリンフラグメント(Nuriya and Huganir, 2006, J. Neurochem. 97, 652-661)をPCRで増幅し、pENTR4-H1(理研製)のそれぞれBamHI及びSalIサイトにインサートした。アデノウイルスベクターを用いたN-カドヘリンノックダウン(KD)実験のために、マウスのN-カドヘリン遺伝子の標的配列を、EmGFPを含む改変Block-iT Pol II miR RNAi発現ベクター(Invitrogen)にインサートした。コントロールとして、lacZ標的配列を公知の方法(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532)で用いた。pENTR-tdTomato-miR-lacZ及び-N-カドヘリンを生成するために、pENTR-EmGFP-RfAプラスミドにおけるEmGFPをエンコードするフラグメントを、BspMIサイト間に移動させ、PCRで増幅させたptdTomato-N1(Clontech Laboratories)由来のtdTomatoフラグメントを挿入した。Gatewayシステム(Invitrogen)を次のアデノウイルスベクターを生成するために用いた。pAd-CMV-DN-N-cadherin-IRES-Cre、pAd-CMV-tdTomato-miR-N-cadherin、及び、pAd-CMV-tdTomato-miR-lacZ。取扱説明書(Invitrogen)に従って、これらのベクターをHEK293A細胞に導入し、アデノウイルスの粒子を産生した。アデノウイルスの粒子は、超遠心機(himac CP100WX、日立)で、25,000gで2時間、4℃、次いで30,000gで3時間、4℃、塩化セシウム密度勾配遠心して濃縮した。Ad-CMV-DN-N-cadherin-IRES-Creのコントロールとして、Ad-CMV-Cre(Vector BioLabs)を用いた。
【0050】
エレクトロポレーションを用いたN-カドヘリンノックダウン実験のために、DNAカセット(tdTomato-miR-N-cadherin及びtdTomato-miR-lacZ)を、Gatewayシステム(Invitrogen)を用いて、改変pCAGGSベクターに複製した。他のノックダウン実験(FAK-KD及びL1-CAM-KD)のために、マウスのFAK又はL1-CAM遺伝子の標的配列を改変Block-iT Pol II miR RNAi発現ベクターに挿入した。そのDNAカセットを、Gatewayシステム(Invitrogen)を用いて、改変pCAGGSベクターに複製した。全てのプラスミドは、PureLink HiPure Plasmid Maxiprepキット(Invitrogen)を用いて作製し、その配列はDNAシークエンシングで確認した。
【0051】
<アデノウイルスベクターの注入>
放射状グリア細胞は脳室表面に存在し、軟膜表面に向かって長い放射状の突起を伸ばすことから、リポーターマウスの皮質表面への少量のAd-Creの注入によって、突起を介して逆行性感染が引き起こされる。よって、Cre-loxP-介在リコンビネーションは、新生児期の脳内において放射状グリア細胞の特異的かつ継続的なラベリングをもたらす(Merkle et al., 2007, Science 317, 381-384)。放射状グリア細胞を、P0 R26-tdTomato;Dcx-EGFP、Dcx-EGFP、又は、R26-tdTomatoマウスを用いて、公知の方法(Merkle et al., 2007, Science 317, 381-384.)をいくつか改変した方法によって、ラベルした。簡潔には、P0マウスに、低体温法(5分)又はイソフルランの自発吸引によって麻酔をかけ、頭蓋支持器によって定位装置(David Kopf Instruments)のプラットフォームに配置した。頭皮切開で頭頂骨を露出させた後、次の定位座標;ブレグマから前方+0.5mm、側方+1.0mm、及び、頭蓋骨表面から深さ+0.3mm;を用いて、20nLのアデノウイルスの懸濁液を大脳皮質の表面に真上から注入した。注入には、斜角の引張加工したガラスマイクロピペット(Wire Troll 5μl、Drummond Scientific Company)を用いた。注入後、頭皮をすぐに縫合し、母親のもとに戻し、授乳が再開されるまで監視した。ニューロンの成熟を調べるために、60nLのアデノウイルスの懸濁液を、次の定位座標;ブレグマから前方+0.8mm、+0.5mm、+0.2mm、側方+1.0mm、及び、頭蓋骨表面から深さ+0.3mm;を用いて、上記のようにP0マウスに注入し、障害域の範囲を超えて、皮質内の放射状グリア細胞をラベルした。V-SVZ細胞をラベルするために、1μLのアデノウイルスの懸濁液(Ad-CMV-Cre)を、次の定位座標;ラムダ縫合から前方+1.8mm、側方+1.1mm、及び、頭蓋骨表面から深さ+2.0mm;を用いて、上記のようにP0 NSE-DTA又はC57BL6/Jマウスの側脳室に注入した。ラベル効率は、次のものであった。コントロール(Ad-CMV-Cre)はP2でネスチン陽性突起の97.7±0.5%(n=マウス3匹);DN-N-カドヘリンはP2で98.0±0.6%(n=マウス3匹);p>0.05、独立t検定;コントロール(Ad-CMV-Cre)はP9で99.2±0.2%(n=マウス4匹);DN-N-カドヘリンはP9で99.0±0.2%(n=マウス3匹);p>0.05、独立t検定;コントロール(Ad-tdTomato-miR-lacZ)はP9でネスチン陽性突起の98.7±0.4%(n=マウス4匹); N-カドヘリン-KDはP9で97.9± 0.4%(n=マウス4匹);p>0.05、独立t検定。
【0052】
<生後のエレクトロポレーション>
P0 ICR、C57BL6/J、R26-tdTomato、及び、NSE-DTAマウスのV-SVZ細胞を、公知の方法(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532)をいくつか改変した方法でラベルした。簡潔には、マウスに、低体温法(5分)又はイソフルランの自発吸引によって麻酔をかけ、頭蓋支持器によって定位注入装置(David Kopf Instruments)のプラットフォームに固定した。EmGFP発現pCAGGSプラスミド(子ネズミあたり7.5μg/μL)及び0.01%ファストグリーンを含む溶液を右半球の側脳室(ラムダ縫合の前方1.8mm、側方1.25mm、及び、深さ2.0mm)に注入し、エレクトロポレーター(CUY-21SC、ネッパジーン)と鉗子型電極(CUY650P7)を用いて電子パルス(70V、50msec、4回)によってV-SVZ細胞に導入した。V-SVZラベルした子ネズミに、無作為に凍結大脳皮質障害及びスポンジ移植を施した。マウスに同日(P0)にアデノウイルス注入とエレクトロポレーションの両方を実施した場合は、アデノウイルスを先に注入し、その後、少なくとも8時間後にエレクトロポレーションを実施した。pCAGGS-EmGFPエレクトロポレーションによるV-SVZ細胞のラベル効率は、P2での試験群(コントロール、V-SVZ細胞の6.3±1.2%、n=マウス3匹;障害、V-SVZ細胞の6.3±1.7%、n=マウス3匹;p>0.05、独立t試験)又はP30での試験群(Ad-Cre;コントロール、2.7±0.1%、n=マウス3匹;Ad-Cre;NSE-DTA、2.5±0.0%、 n=マウス3匹;p>0.05、独立t試験)で統計的な違いはなかった。pCAGGS-EmGFPエレクトロポレーションによるDCX陽性細胞のラベル効率(GFP・DCX二重陽性/DCX陽性細胞)は、P9での障害のある皮質において、DCX陽性細胞の4.0±0.7%(n=マウス5匹)であった。ノックダウン試験(N-カドヘリン-KD、FAK-KD及びL1-CAM-KD)のために、0.01%ファストグリーンを含有するプラスミド溶液(子マウス当たり7.5μg/μL)を、右半球の側脳室(ラムダ縫合の前方1.8mm、側方1.25mm、及び、深さ2.0mm)に注入し、エレクトロポレーター(CUY-21SC)と鉗子型電極(CUY650P7)を用いて背腹方向に電子パルス(70V、50msec、4回)を発生させた。
【0053】
<免疫ブロット法>
免疫ブロット分析は、公知の方法(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532)で行った。miRNAs(N-カドヘリン、FAK、及び、L1-CAM)のノックダウン効率を確認するために、cDNA(N-カドヘリン、FAK、及び、L1-CAM)を発現するプラスミド、及び、miRNAを、ポリエチレンイミンを用いてHEK293T細胞に共導入した。pCAG-MCS2-HA-N-カドヘリン(Nuriya and Huganir, 2006, J. Neurochem. 97, 652-661)は提供されたものを用いた。pEGFPC1-マウス FAK(Itoh et al., 2010, Cytoskeleton (Hoboken) 67, 297-308.)は提供されたものを用いた。pCMV6-マウス L1-CAMは、OriGene Technologiesから購入した。導入から48時間後に、細胞を溶解バッファー(50mM Tris-HCl、pH8.0、100mM NaCl、1mM EDTA、1% NP-40、0.01% SDS、10μg/mLロイペプチン)に溶解した。ニューレグリン-1α/1β/2の発現を確認するために、皮質組織をWT ICR P6(障害後4日)マウスから切り離し、溶解バッファーでホモジナイズした。その溶解物を手短に超音波処理し、遠心分離できれいにした。タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Millipore)に転写した。その膜を、5%スキムミルクを含む0.01%Tween-20含有のトリス緩衝生理食塩水(TBS)でブロッキングし、一次抗体と共に4℃で一晩中インキュベートし、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(Jackson ImmunoResearch Inc)と共に室温で1時間インキュベートした。シグナルは、冷却CCDカメラ(LAS3000mini、富士フィルム)を用いて、増強ルミナール系化学発光ウエスタンブロッティング試薬(GEヘルスケア)で検出及び測定した。一次抗体は次のものを用いた。ラット抗HA抗体(1:1,000、Roche)、マウス抗L1-CAM抗体(1:1,000、Abcam)、ラット抗GFP抗体(1:1,000、ナカライテスク)、ウサギ抗ニューレグリン-1α/1β/2抗体(1:1000、Santa Cruz Biotechnology)、及び、マウス抗アクチン抗体(1:10,000、Millipore)。シグナル発現強度は、ImageJソフトウェアを用いて算出した。
【0054】
<免疫組織染色>
免疫組織染色は、公知の方法(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532)で実施した。簡潔には、4%パラホルムアルデヒド(PFA)の0.1Mリン酸バッファー(PB)で経心腔的灌流することによって脳を固定し、4℃で一晩中、同じ固定液でポストフィックスした。浮遊の60μm厚の冠状断面を、vibratomeセクショニングシステム(VT1200S、Leica)を用いて作製した。当該断面を、ブロッキング溶液(10%正常ロバ血清(Millipore)及び0.2%トリトンX-100のリン酸緩衝生理食塩水(PBS))中で室温で40分、一次抗体と共に4℃で一晩、その後、Alexa Fluor標識第二抗体(1:500、Invitrogen)と共に室温で2時間インキュベートした。抗ネスチン抗体のために、AffiniPureロバ抗ニワトリIgY二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratory Inc.)を用いた。スポンジ移植試験において(図3J,3K及び4G)、200μm厚の冠状断面を、ブロッキング溶液(10%正常ロバ血清及び0.5%トリトンX-100のPBS)中でインキュベートする前に、100%メタノールで30分、-30℃、アセトンで30分、-30℃、0.3%Hのメタノールで2時間、室温、及び、50%メタノールで15分、室温で処理した。シグナル増幅は、ビオチン標識二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratory Inc.)とVectastain Elite ABC kit(Vector Laboratories)で行い、TSA蛍光システム(PerkinElmer)を用いてシグナルを可視化した。Mash1染色のために、断面をアセトンで60秒、氷上で処理した。抗DsRed抗体を、抗Pax6、抗ErbB4、抗Olig2抗体と併せて二重染色するために、AffiniPure Fabフラグメント ロバ抗ウサギIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.)を用いた。抗NeuN抗体を、抗パルブアルブミン(PV)、抗カルレチニン(CR)、抗GAD67抗体と併せて二重染色するために、AffiniPure Fabフラグメント ロバ抗マウスIgG(H+L)(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.)を用いた。次の一次抗体を用いた。ウサギ抗Dcx(1:200、Cell Signaling Technology)、モルモット抗Dcx(1:3,000、Millipore)、ヤギ抗Dcx抗体(1:500、Santa Cruz Biotechnology)、ラット抗GFP(1:500、Nacalai)、ニワトリ抗ネスチン(1:1,000、Aves Labs)、ウサギ抗DsRed(1:1,000、Clontech)、マウス抗NeuN抗体(1:200、Millipore)、マウス抗CR(1:3,000、Millipore)、マウス抗PV(1:2,000、Sigma)、マウス抗Mash1(1:100、BD)、ウサギ抗Tbr2(1:200、Abcam)、ウサギ抗Pax6(1:100、Covance)、マウス抗N-カドヘリン(1:200、BD)、マウス抗グリア線維性酸性蛋白(GFAP)(1:500、Sigma-Aldrich)、ウサギ抗Olig2(1:200、IBL)、マウス抗GAD67(1:800、Millipore)、ウサギ抗ErbB4(1:300、Abcam)、ウサギ抗FAK(1:100、Millipore)、及び、マウス抗L1-CAM(1:1,000、Abcam)。モルモット抗Dlx2抗体(1:3,000)(Kuwajima et al., 2006, J. Neurosci. 26, 5383-5392)は提供された。核染色のために、Hoechst33342(1:3,000、Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0055】
ニューロン前駆体、放射状グリア突起、成熟ニューロン、及び、放射状グリア突起、スポンジ、又は、ポリエチレンテレフタレート(PET)線維と関連がある移動性新生ニューロンの画像は、LSM700共焦点レーザー走査型顕微鏡(Carl Zeiss)と20×及び40×の対物レンズを用いて、1μm間隔でスキャンすることによって取得した。図3(A及びB)において、8つに分かれたフィールド(縦方向に2つ及び横方向に4つのタイル)の複合画像は、20×の対物レンズで、ZENソフトウェア(Carl Zeiss)のタイル-スキャン機能を用いて取得した。Dcx陽性、CR陽性、PV陽性、GAD67陽性、又は、NeuN陽性ニューロンを特徴づけるため、1μm間隔でスキャンすることによって、皮質内におけるシグナルの共局在を確認した。V-SVZ内のEmGFP陽性細胞、及び、障害のある皮質内の新生ニューロンの量を測定するために、Stereo Investigatorシステム(MBF Bioscience)を用いて、立体解析学的に細胞を数えた。アデノウイルスの注入及びエレクトロポレーション後に、マウスに凍結大脳皮質障害及びスポンジ移植を無作為に施した。ニューロン前駆体及び移動性新生ニューロンの解析のために、6番目ごとに60μm厚の冠状断面内の細胞の実際の数を数え、その後、数えた細胞の総和を6倍にして総量を見積もった。放射状グリア突起の長さ及び形態を調べるために、3つの連続する60μm厚の冠状断面を解析した。新生ニューロン及び放射状グリア突起との関係性を調べるために、先の研究(Shikanai et al., 2011, Commun. Integr. Biol. 4, 326-330)に従って、「関連性」を「新生ニューロンと放射状グリア突起との間が2μm未満」と定義した。成熟ニューロンの解析のために、障害のある感覚及び運動皮質における全てのEmGFP・NeuN二重陽性細胞(M2/M1/S1HL/S1FL/MPtA/LPtA/S1Tr)(Paxinos et al., 2007, J. Comp. Neurol. 145, 61-83.)を解析した。2番目ごとに60μm厚の冠状断面内の細胞の実際の数を数え、その後、数えた細胞の総和を2倍にして総量を見積もった。スポンジ移植試験(図3K及び4G)において、200μm厚の冠状断面を、障害域にスポンジを保存するために用いた。tdTomato陽性放射状グリア細胞の形態を、Neurolucida(MBF Bioscience)を用いて再現及び定量した。
【0056】
<透過型電子顕微鏡>
コントロール又はDN-N-カドヘリン発現アデノウイルスを感染させたP9マウスの脳を、2.5%グルタルアルデヒド(GA)及び2%PFAの0.1M PB(pH7.4)で経心腔的灌流によって固定した。摘出した脳組織を、vibratome(VT1200S、Leica)で200μmの冠状断面に切断した。断面を2%OsOの同じバッファーで2時間、4℃で処理した。その後、脳組織を段階的なエタノール濃度で脱水し、プロピレンオキサイド中に置いて、確実に重合させるため、72時間、60℃でDurcupan樹脂に埋め込んだ。半薄断面(1.5μm厚)を連続して切り出して1%トルイジンブルーで染色し、その後、目的の断面を光学顕微鏡で確認した。その後、高分解能顕微鏡(UC6、Leica)とダイアモンドナイフを用いて、超極薄断面(60-70nm)を半薄断面から切り出し、2%酢酸ウラニルの蒸留水で15分、及び、改変したSatoの鉛溶液で5分、染色した。断面を透過型電子顕微鏡(JEM-1400plus、JEOL)で解析した。AJ様電子密度の吸着構造及び不規則な接着の長さは、ImageJソフトウェアで(National Institutes of Health)定量した。新生ニューロンは、その暗い細胞質と、多くの遊離型リボソームと高電子密度核によって認識し、放射状グリア細胞は、その低電子密度の核、及び、明るい細胞質とグリコーゲン果粒及び多くの中間径フィラメントによって認識した。解析した細胞の数は次のとおりであった。コントロールでは2匹のマウスから21細胞、DN-N-カドヘリンでは、2匹のマウスから17細胞。
【0057】
<障害のある脳切片のタイムラプスイメージング>
タイムラプスイメージングのために、P0のR26-tdTomato;Dcx-EGFPマウスへアデノウイルスベクターを注入し、新生児期の障害後4-5日後に、脳切片を作製した。簡潔には、vibratome(VT1200S、Leica)を用いて、脳を冠状切片(200μm厚)に切り出した。切片はstage-top imaging chamber(Warner Instruments)に置き、イメージング中は、人工脳脊髄液(aCSF; 1mL/min; 125mM NaCl、26mM NaHCO、3mM KCl、2mM CaCl、1.3mM MgCl、1.25mM NaHPO、及び20mM グルコースを含有; pH7.4; 38℃で保存;95%O及び5%COで通気)での連続還流下で保存した。ガリウム砒素リン検出器を備える共焦点レーザー顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss)を用いて、6~16時間、10分毎に、Z-stack画像(3-5μmステップサイズで、4つのzセクション)を保存した。移動性新生ニューロンと放射状グリア突起との接着時間は、移動プロセス時間における突起接着時間の比率として評価した。保存した画像中における放射状グリア突起に沿った新生ニューロンの、スピード、ストライド長、休息フェーズ、及び、移動サイクルを測定するために、皮質中の単極又は双極形の新生ニューロンをImageJソフトウェア(manual trackingプラグイン)を用いてトレースした。突起伸長の速度は、ImageJソフトウェアを用いて解析した。少なくとも60分間連続的に追跡できた新生ニューロンの全てを当該解析に用いた。移動サイクルの評価のために、跳躍運動の少なくとも1サイクルを連続的に追跡できた新生ニューロンの全てを用いた。「休息」フェーズの細胞を、その細胞体が12μm/hよりも遅く移動する細胞と定義した。図2Aにおいて、数字は最初のフレームからの時間(分)を示している。
【0058】
<N-カドヘリン-Fcスポンジの作製>
公知の方法(Ajioka et al., 2015, Tissue Eng. Part A 21, 193-201)を改変して、ゼラチン(GE)スポンジを作製した。50μLの3% GE beMatrix ゼラチンLS-H(新田ゼラチン)を、384ウェルプレートの各ウェルに添加し、-20℃で凍結させた。その後、凍結したGEサンプルを400rpmで遠心分離(VC-96W、タイテック)しながら25℃で凍結乾燥した。その後、凍結乾燥したGEサンプルを、25mMの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(和光)の90%アセトンで、室温で一晩、架橋した。再蒸留水で5回洗った後、GEスポンジをNeurobasal培地(GIBCO)で3時間インキュベートした。その後、GEスポンジをブロック(1.2×1.2×1.2mm)に切断し、10μg/mLのN-カドヘリン-Fc(IgG-FcにマウスN-カドヘリンの細胞外ドメインが結合)又はFc溶液(Yue et al., 2010, Biomaterials 31, 5287-5296)で、4℃、24時間で結合させた。
【0059】
<N-カドヘリンPET線維の作製>
直径24μmのPET線維(Inoue et al., 2009, J. Biomater. Sci. Polym. Ed. 20, 721-736.)を東レ社から入手した。PET線維をN-カドヘリン-Fc(IgG-FcにマウスN-カドヘリンの細胞外ドメインが結合)又はFc溶液(Yue et al., 2010, Biomaterials 31, 5287-5296)で、1時間、37℃で被覆し、その後、PBSで5回濯いだ。
【0060】
<N-カドヘリンスポンジ又は線維の移植>
N-カドヘリン-Fcスポンジ又はコントロールのFc-スポンジ、又は、N-カドヘリンFc-PET線維又はコントロールのFc-PET線維を、公知の方法(Ajioka et al., 2015, Tissue Eng. Part A 21, 193-201)で移植した。簡潔には、凍結障害の導入後3日目又は10日目に、イソフルランの自然吸入によってマウスに麻酔した。障害のある頭頂骨を露出させるために、以前の切れ目を切断して、ピンセットで開いた。N-カドヘリン-Fc又はFcスポンジ(1.2×1.2×1.2mm)を、ピンセットで、穴の中に置いた。PET線維の移植では、約1.2×1.2×1.2mmのN-カドヘリン-Fc又はコントロールのFc線維(長さ1.2mm)の密度の線維を、ピンセットで穴に埋め込んだ。移植後は、スポンジを頭頂骨で覆い、頭皮を閉じた。移植後、マウスは回復のために暖かいヒーターの上に置かれた。
【0061】
<In vitro細胞培養>
ストライプアッセイによって、コントロールのFcストライプとN-カドヘリン-Fcストライプの間の境界と交差する単一の新生ニューロンの移動挙動を解析することができた。第一ストライプのために、10μg/mL N-カドヘリン-Fcと、3μg/mL FITC結合抗ヒトIgG Fc抗体(Sigma)のHank’s平衡塩溶液(HBSS)とを混ぜ合わせた。第二(コントロール)ストライプのために、10μg/mL Fcと、3μg/mL抗ヒトIgG Fc抗体(Sigma)のHBSSとを混ぜ合わせた。両方のストライプ溶液を30分間、4℃で穏やかに攪拌しながらプレインキュベーションした後、100μLの第一ストライプ溶液を、ガラス底35mmのペトリ皿に置かれたシリコンマトリックス(幅50μm)に注入した。37℃で30分インキュベートした後、皿とマトリックスを500μLのHBSSで濯ぎ、マトリックスを慎重に取り除いた。その皿を、100μLの第二ストライプ溶液で被覆した。37℃で30分インキュベートした後、皿をHBSSで3回洗浄した。新生児期のV-SVZを、WT ICR P0-1の子マウスから切り出し、トリプシン-EDTA(Invitrogen)で解離させた。細胞を、40μg/mLのDNase I(Roche)を含有するL-15培地(GIBCO)で2回洗浄し、その後、Amaxa Nucleofector IIシステム(Lonza)を用いて2μgのプラスミドDNA(pCAGGS-tdTomato-miR-N-カドヘリン又は -LacZ miRNA)を導入した。前記導入した細胞を、RPMI-1640培地(和光)でけん濁し、凝集させた後、凝集体をブロック(直径150~200μm)に切断し、50%マトリゲル(BDバイオサイエンス)のL-15培地と混合し、ストライプ上に固定した。
【0062】
N-カドヘリン-Fcスポンジ又はN-カドヘリン-Fc線維と共に神経培養するために、V-SVZ細胞の凝集体を、50%マトリゲル中の、N-カドヘリン-Fcスポンジ又はコントロールのFcスポンジ、又は、N-カドヘリン-Fc線維又はコントロールのFc線維の隣に置いた。前記ディッシュを、加湿インキュベータで、37℃、5%COで保存した。前記凝集体を含むゲルを、2%のB-27上清(Invitrogen)、2mMのL-グルタミン(GIBCO)及び50U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(GIBCO)を含む無血清のNeurobasal培地(GIBCO)で48時間培養した。
【0063】
タイムラプスビデオ録画を、20×の乾燥対物レンズを用いて、Colibri発光ダイオード光システムを備える倒立型光学顕微鏡(Axio-Observer、Carl Zeiss)を用いて得た。画像は24時間で3分ごと(図3D、3E)又は5分ごと(図2K-2P)に自動的に得た。移動速度はImageJソフトウェアを用いて定量した。少なくとも60分間連続的に追跡できたであろう新生ニューロンの全てを当該解析に用いた。移動サイクルの評価のために、跳躍運動の少なくとも1サイクルを連続的に追跡できたであろう新生ニューロンの全てを用いた。「休息」フェーズの細胞を、その細胞体が12μm/hよりも遅く移動する細胞と定義した。図2K,3Dにおいて、数字は最初のフレームからの時間(分)を示している。
【0064】
<免疫細胞化学>
カバーガラス上の培養ニューロンをPBS(pH7.4)で濯ぎ、室温で30分間、4%PFAの0.1M PBで固定した。ブロッキング溶液(10%正常ロバ血清(Millipore)及び0.2%トリトンX-100のPBS)中で40分間プレインキュベートした後、細胞を一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次の一次抗体を用いた。ウサギ抗Dcx(1:200、Cell Signaling Technology)、ウサギ抗DsRed(1:1,000、Clontech)、及び、マウス抗N-カドヘリン(1:200、BD)。マウス抗PSA-NCAM抗体(1:1,000)(Seki and Arai, 1991, Neurosci. Res. 12, 503-513)は東京医科大学石龍徳博士より提供された。核染色のために、Hoechst33342(1:3,000、Thermo Fisher Scientific)を用いた。多重ラベルした培養細胞を、LSM700共焦点レーザー走査型顕微鏡(Carl Zeiss)で解析し、定量のために、各カバーガラスから40×対物レンズ下で、3つよりも多くランダムフィールドを選択した。PSA-NCAM・tdTomato二重陽性新生ニューロンの細胞体を追跡し、N-カドヘリンの発現強度をZENソフトウェア(Carl Zeiss)を用いて算出した。各定量では、少なくとも3回の独立した試験を実施した。
【0065】
<FRETイメージング>
培養した移動性新生ニューロンにおけるRhoA活性のFRETイメージングを、公知の方法(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532)で実施した。RhoA用のFRETプローブ(Raichu-1298X)(Yoshizaki et al., 2003, J. Cell Biol. 162, 223-232)を、Amaxa Nucleofector IIシステムを用いたエレクトロポレーションによって、培養V-SVZ由来新生ニューロンに導入した。FRETプローブを発現する新生ニューロンのタイムラプスイメージングは、40×の水浸対物レンズで、LSM700共焦点レーザー走査型顕微鏡(Carl Zeiss)を用いて実施した。FRET比(FRET/CFP強度)を算出し、最終的な画像は、MetaMorphソフトウェアのratio image機能(Molecular Devices)を用いて生成した。RhoA活性の基準値は、先導シャフト(leading shaft)における基礎活性を平均化し、各細胞の平均を1.0と定義することによって算出した。目的の円領域(ROI)にある近い方の先導突起のRhoA活性の程度(=RhoAprox)は、MetaMorphソフトウェアのRegion measurements機能を用いて測定し、各フレームにおける活性の基準値に基準を合わせた(RhoA活性=RhoAprox-1)。プローブを発現する二極性新生ニューロンの全てを、各実験で解析した。独立した3つの試験を実施した。図2H及び2Iにおいて、数字は最初のフレームからの時間(分)を示している。
【0066】
<行動試験>
マウスに、定量的神経学的行動試験をP30で実施した。試験群では、体重に統計学的な差異はなかった。持ち上げられた六角格子状のワイヤ上での歩行挙動を解析した(Foot-fault試験)。当該試験は、正確に四肢を配置することに関連した運動機能を評価するものであり、足底からの感覚のフィードバックも組み込まれている(Barth et al., 1990, Behav. Brain Res. 39, 73-95)。Foot-fault試験は、23±1℃で実施した。簡潔には、マウスを、持ち上げられた40mm幅の六角格子状のワイヤに置き、自由に歩き回らせた。四肢のいずれか1つが格子の穴に落ちて、マウスが滑る又は落下した場合に、foot-faultとして踏み外しを記録した。5分間、各肢のfoot-faultの数を別々に数えて、その後、障害側(左側)の前肢及び後肢の踏み外しと四肢の踏み外しの合計の比率をパーセンテージで算出した。試験は2回行い、数値を平均化した。
【0067】
歩行解析を、自動歩行解析システムであるNoldus CatWalk XT(Noldus Information Technology)を用いて、説明書に従って実施した。簡潔には、23℃±1℃の暗い環境で、マウスに、緑色の光源で照らしたガラスの通路を歩かせた。マウスの足底がガラス面に接地したとき、接地により圧力のかかった地点以外が完全に内面に反射する。ガラス上の各足の接触点が照らされ、これを高速度ビデオカメラで録画した。各試験において録画された足跡を、CatWalk XT 10.5ソフトウェアを用いて解析し、一連のパラメータを生成した。各解析には、各マウスごとに少なくとも3回の成功した連続性の歩行の録画を用い、その平均を記録した。
【0068】
<実験計画>
マウス、細胞、及び、実験の繰り返しの数は、各図の説明に記載してある。Stereo Investigatorシステムを用いた、V-SVZ内のEmGFP陽性細胞、及び、障害のある皮質中の新生ニューロンの数の立体学的測定を除き、ランダム化のための特別な方策は実施しておらず、盲検化を用いていない。サンプルサイズの見積には、統計学的計算を用いていない。実験においてサンプルサイズは、公知の研究(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532; Fujioka et al., 2017, EBioMedicine 16, 195-203)に従って決定した。解析には、凍結障害により作製された大脳皮質障害の深さが500-600μmの動物を採用した。
【0069】
<定量及び統計学的解析>
全てのデータは±標準誤差(±SEM)を示す。2つの群を、両側検定で対応ある又は独立のt検定、ウィルコクソンの符号順位検定、及び、マン・ホイットニーのU検定を用いて比較した。複数群の比較は、一元配置分散分析の後に、テューキーの多重比較検定又はダネットの検定を実施するか、又は、クラスカル・ウォリス検定の後に、スティール-ドゥワスの多重比較検定又はスティール検定を実施した。正常性の評価には、シャピロ-ウィルク検定を用いた。0.05未満のP値は、統計学的に重要であると見做した。使用した統計学的検定及び統計学的パラメータは下記のとおりである。図1G及び1I、(G)n=それぞれマウス3匹;独立t検定、p<0.05;(I)n=それぞれマウス4匹;独立t検定、***p<0.005. 図1H及び1J、(H)コントロール、n=マウス4匹; DN-N-cad、n=マウス5匹; 対応のある及び独立のt検定、***p<0.005;(J)コントロール、n=マウス4匹;N-cad-KD、n=マウス4匹;対応のある及び独立のt検定、p<0.05、p<0.01. 図1M、コントロール、n=21細胞; DN-N-cad、n=17細胞; 独立t検定、**p<0.01、***p<0.005. 図2B、2E、及び2F、コントロール、n=8匹のマウスから42細胞;DN-N-cad、n=12匹のマウスから60細胞;マン・ホイットニーのU検定、***p<0.005. 図2C、コントロール、n=8匹のマウスから63細胞;DN-N-cad、n=12匹のマウスから107細胞;マン・ホイットニーのU検定、***p<0.005. 図2D、コントロール、n=8匹のマウスから63細胞; DN-N-cad、n=12匹のマウスから107細胞; フィッシャーの正確確率検定、***p<0.005. 図2G、コントロール、n=8匹のマウスから39細胞;DN-N-cad、n=10匹のマウスから37細胞;マン・ホイットニーのU検定、***p<0.005. 図2J、n=9細胞、3回の独立した試験、対象のあるt検定、p<0.05. 図2L、コントロール、n=15細胞(5回の独立した試験); N-cad-KD、n=27細胞 (6回の独立した試験)、対象のあるt検定、***p<0.005. 図2M;コントロール、n=15細胞(5回の独立した試験);N-cad-KD、n=27細胞(6回の独立した試験)、対象のあるt検定及びウィルコクソンの符号順位検定、***p<0.005. 図2N、コントロール、n=16細胞 (5回の独立した試験); N-cad-KD、n=26細胞(6回の独立した試験)、ウィルコクソンの符号順位検定、***p<0.005. 図2O、コントロール、n=16細胞(5回の独立した試験);N-cad-KD、n=23細胞(5回の独立した試験)、ウィルコクソンの符号順位検定、***p<0.005. 図2P、コントロール、n=27細胞(5回の独立した試験); N-cad-KD、n=18細胞(4回の独立した試験)、カイ二乗検定とイエッツの連続修正. p<0.05. 図3C、コントロール、n=マウス6匹; DN-N-cad、n=マウス7匹; 独立t検定、p<0.05. 図3E、コントロール-非接着、n=14細胞; コントロール-接着、n=19細胞; N-cad-非接着、n=19細胞; N-cad-接着、n=28細胞;3回の独立した試験;独立t検定、***p<0.005. 図3I、P2(3dpi)、コントロール、n=マウス7匹、N-cad、n=マウス7匹;P14(3dpi)、コントロール、n=マウス6匹、N-cad、n=マウス5匹; 8w(3dpi)、コントロール、n=マウス7匹、N-cad、n=マウス7匹; P2(10dpi)、コントロール、n=マウス4匹、N-cad、n=マウス5匹; 独立t検定、**p<0.01、***p<0.005; コントロール、P2(3dpi)vsP14(3dpi)又は8w(3dpi)、一元配置分散分析後にテューキーの多重比較検定、###p<0.005; N-cad、(P2[3dpi]vsP14[3 dpi]、8w[3dpi]、又はP2[10dpi]、##p<0.01、###p<0.005)、(P14[3dpi]vs8w[3dpi]、§§p<0.01);一元配置分散分析後にテューキー検定. 図3K、コントロール、n=マウス10匹; N-cad、n=マウス8匹; 左側、独立t検定; 右側、カイ二乗検定、p<0.05. 図4A-4C、n=マウス10匹;一元配置分散分析後にテューキー検定((A)の右側(クラスカル・ウォリス検定の後に、スティール-ドゥワス検定)を除く)、p<0.05、**p<0.01、***p<0.005. 図4D、P2モデル、コントロール、n=マウス11匹; 障害、n=マウス10匹; 障害+コントロール-sp、n=マウス13匹; 障害+N-cad-sp、n=マウス14匹、クラスカル・ウォリス検定の後に、スティール-ドゥワス検定; P14及び8wモデル、n=各マウス7匹、一元配置分散分析後にテューキー検定. p<0.05、***p<0.005. 図4G、コントロール、n=5; NSE-DTA、n=4; 独立t検定、p<0.05. 図4H、コントロール、n=マウス11匹; NSE-DTA、n=マウス7匹;独立t検定、***p<0.005。用いた統計学的試験、標準誤差(±SEM)及びP値を含む全ての統計学的データは、本文中、図の説明、及び図中に示す。エラーバーの値は、±標準誤差(±SEM)を示す。同腹子を無作為に試験群に割り当てた。
【0070】
(結果)
<新生児期の放射状グリア細胞は、脳障害後にその突起を持続する>
凍結大脳皮質障害を生後2日目(P2)に実施し、放射状グリア突起の消失のダイナミクスを解析した。反対側(非障害側)では、ネスチン陽性放射状グリア突起の密度が徐々に低下し、従来の知見(Kriegstein and Alvarez-Buylla, 2009, Annu. Rev. Neurosci. 32, 149-184)と一致した。一方、同側(障害側)の皮質における放射状グリア突起の密度は、障害後(dpi)7日目で最も高く、その後は減少したが、全ての時点で逆側よりも有意に高かった。また、放射状グリア突起は、非障害脳よりも、障害脳の方が長かった。これらの結果は、新生児期の脳障害が、放射状グリア突起の持続を促進することを示唆している。
【0071】
後期に生じた障害が放射状グリア突起に与える影響を調べるために、P4、P14、及び、8週齢(8w、成体)のマウスに凍結大脳皮質障害を作製し、7日後に放射状グリア突起を解析した。ネスチン陽性突起はP4モデルで維持されたが、P4モデルにおける突起密度はP2モデルと比べて有意に低かった。P14及び8w障害モデルでは、はっきりとしたネスチン陽性放射状グリア突起は観察されなかった。これらの結果は、放射状グリア突起が、障害後に維持されるという潜在力を新生児期の期間にのみ有することを示唆している。培養脳切片のタイムラプスイメージングによって、退縮した放射状グリア突起は、障害への応答で再成長し得ることがわかった。一貫して、P14及び8wモデルにおいて、障害脳におけるこれらの突起は、非障害脳の突起と比べて有意に長かった。放射状グリア突起は、低酸素及び虚血性障害後の新生児期のマウスの脳にも見られた。まとめると、これらの結果は、新生児期の脳には、障害後に放射状グリア突起を持続させる潜在力があることを示している。
【0072】
<新生児期の放射状グリア細胞は、脳障害後にV-SVZ由来の新生ニューロンための移動性の足場を与える。>
P2で凍結障害を作製し、障害後のニューロン新生をP9で調査した(図1A)。典型的な移動性新生ニューロンの形態を持ったダブルコルチン(Dcx陽性)細胞の多くは、障害部の周囲に現れた(図1B)。少なくとも一部はV-SVZ由来である(図1C)これらの新生ニューロンは、ネスチン陽性突起と関係していることが観察された(図1B-1D)。放射状グリア突起を特異的に標識するために、Creをエンコードするアデノウイルス(Ad-Cre)を、P0のR26-tdTomato;Dcx-EGFPマウス(Merkle et al., 2007, Science 317, 381-384)の大脳皮質表面に注入した(図1A、1E)。tdTomatoの蛍光発光は、放射状グリア細胞マーカーであるPax6、ネスチン、及び、ErbB4を発現する、突起を持つ細胞をはっきりと標識した(Schmid et al., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 4251-4256)。これらの細胞の細胞体は、アストロサイト及び希突起膠細胞と同様に、V-SVZ及び脳梁(CC)で観察された(図1E’)。Dcx-EGFP陽性新生ニューロンの55.5%±3.1%が(障害部に向かって)放射状に移動し、これらの移動性新生ニューロンの96.0%±0.3%には、tdTomato・ネスチン二重陽性の放射状グリア突起との関連が見られた。特に、Dcx-EGFP陽性新生ニューロンの34.8%±4.7%は、細胞体全体が放射状グリア突起に沿っていた(図1F、1G)。これらの結果は、新生児期の脳障害後に放射状に障害部に向かって移動するV-SVZ由来の新生ニューロンは、放射状グリア突起と関連することを示唆している。
【0073】
細胞間接着の調節に関与するタンパク質であるN-カドヘリンは、胎生期の大脳皮質における放射状グリアで誘導される新生ニューロンの移動に関与している(Kawauchi et al., 2010, Neuron 67, 588-602)。本発明者らは、新生児期の放射状グリア突起及び障害後の移動性新生ニューロンの両方において、N-カドヘリンが発現することを観察した(図1D)。放射状グリアのN-カドヘリンの機能を不活性化するために、放射状グリア突起に、N-カドヘリンの不活性体(dominant negative form)(DN-N-カドヘリン)とCreをエンコードするアデノウイルスベクターをP0で感染させた(図1A及び1F)。放射状グリア内で発現されたDN-N-カドヘリンは、7dpiでは、放射状グリアの形態及び密度に影響を与えなかった。しかしながら、DN-N-カドヘリンを発現した放射状グリア突起と関連する新生ニューロンの比率は、比較対象群と比べて、有意に低かった(図1F、1G)。さらに、コントロールのマウスと比べて、新生ニューロンの密度は、DN-N-カドヘリン-ウイルス感染領域において有意に減少し、非感染領域では増加した(図1H)。このことは、新生ニューロンは、その移動のために、DN-N-カドヘリンが無い放射状グリア突起を好むことを示唆している。アデノウイルスのノックダウン(KD)ベクターを用いて放射状グリアのN-カドヘリン発現を特異的に下方制御したときもまた、放射状グリア突起と関連する新生ニューロンの比率、及び、新生ニューロンの密度は減少した(図1l及び1J)。これらの結果は、放射状グリアのN-カドヘリンは、障害後の放射状グリア突起が関連した新生ニューロンの移動に関与していることを示している。胎生期における放射状グリア突起に関連した新生ニューロンの移動に関与するFAK及びL1-CAMをノックダウン(Tonosaki et al., 2014, PLoS ONE 9, e86186; Valiente et al., 2011, J. Neurosci. 31, 11678-11691)したところ、新生ニューロンと放射状グリア突起との関係に影響を与えなかった。透過型電子顕微鏡(TEM)解析によって、新生ニューロンと放射状グリア突起とが直接的に接着することが明らかとなり、AJ様の電子密度構造があちこちに観察された(図1K-1K”、赤矢印)。放射状グリアにおけるDN-N-カドヘリン発現によって、そのような構造の密度は減少し、新生ニューロンの細胞膜と放射状グリアの細胞膜とが並走しない不規則な接着の比率が増加した(図1L-1M、青矢印)。これらの観察結果は、放射状グリアにおけるN-カドヘリンは、新生児期の脳において、放射状グリア突起と移動性新生ニューロンとの適切な細胞接着を形成することに関与することを示唆している。これらの結果は、新生児期の放射状グリアは、脳障害後に障害部に向かって移動するV-SVZ由来の新生ニューロンと関連していることを示している。
【0074】
<N-カドヘリンは、放射状グリア突起に沿って移動する新生ニューロンのRhoA活性化および跳躍運動を促進する>
新生ニューロンが障害部に向かって移動するための足場として放射状グリア突起を用いるかどうかを調べるために、R26-tdTomato;Dcx-EGFPマウスの培養脳切片において、新生ニューロンを4-5dpiでライブイメージングで観察した。Dcx-EGFP陽性の新生ニューロンは、tdTomato陽性の放射状グリア突起に沿って、その先導突起を伸ばし、その細胞体を跳躍挙動で障害部の方向に移動させた(図2A及び2A’)。DN-N-カドヘリンを発現する放射状グリアに沿って移動する新生ニューロンは、移動速度が有意に遅く(図2A及び2B)、頻繁に放射状グリア突起から離れた(図2A、2A’及び2C)。組織学的解析(図1G、1l)と一致して、突起に接していない新生ニューロンの比率は、DN-N-カドヘリン群において、有意に上昇した(図2D)。これらの結果は、放射状グリアのN-カドヘリンは、放射状グリア突起に沿って障害部に向かう新生ニューロンの効率的かつ連続的な移動に関与していることを示唆している。
【0075】
新生ニューロンの移動速度は、細胞体のストライド長、細胞体のストライド頻度、及び、休止の長さ(休息フェーズ)によって決定される(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532)。放射状グリアにおけるDN-N-カドヘリンの発現によって、細胞体のストライド長は有意に減少し、休息フェーズの期間及び新生ニューロンの移動における1移動周期時間は増加した(図2E-2G)。これらの結果から、障害のある新生児期の脳における放射状グリア突起を足場にしたニューロンの移動は、N-カドヘリンを介してニューロンの細胞体ストライド長及びニューロンの跳躍運動の頻度を増加させることを示唆している。
【0076】
移動性新生ニューロンの細胞体の近位に位置する腫脹部位におけるRhoAシグナリングはその跳躍運動を促進することが知られていることから(Ota et al., 2014, Nat. Commun. 5, 4532)、本発明者らは次に、N-カドヘリン-Fcをコーティングしたストライプアッセイにおいて蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)イメージングを用いて、そのRhoA活性を観察した。移動性新生ニューロンの腫脹部位におけるRhoA活性は、N-カドヘリンを含有する足場上に移動した際に有意に増加した(図2H-2J)。
【0077】
N-カドヘリンは、様々なシグナル分子と相互作用することができる。次に、新生ニューロンのN-カドヘリンもまた、N-カドヘリンを含有する足場上への新生ニューロンの移動に関与するかどうか調べるために、N-カドヘリンノックダウンプラスミドを培養新生ニューロンに導入し、その移動挙動をストライプアッセイで解析した(図2K-2P)。新生ニューロンがN-カドヘリン-Fcストライプに入ると、新生ニューロンの移動速度が有意に増加した(図2K及び2L)。移動速度の増加は、細胞体のストライド長の増加及び各移動サイクルにおける休息フェーズにかかる時間の減少の両方に起因すると考えられる(図2K-2O)。このことは、放射状グリアにおけるDN-N-カドヘリン発現の影響(図2A-2G)と一致していた。新生ニューロンがN-カドヘリン-Fcストライプの境界に到達すると、コントロールの細胞のほとんどはその先導突起の方向を変え、N-カドヘリン-Fcをコーティングした領域に残存した。この挙動を示した細胞の割合は、N-カドヘリンノックダウンによって有意に減少した(図2K及び2P)。このことは、新生ニューロンのN-カドヘリンは、N-カドヘリンを含有する足場上への方向性を持った新生ニューロンの移動を持続するのに役立つことを示唆している。これらの結果は、N-カドヘリンが、放射状グリア突起に沿って移動する新生ニューロンのRhoA活性化及び跳躍運動を促進することを示している。
【0078】
<N-カドヘリンを含有する足場は、新生児期の脳障害後にV-SVZ由来のニューロンの移動及び再生を増加させることによって、神経学的機能の回復を促進する>
新生児期のV-SVZは、新しく産生された成熟ニューロンを生理的条件において大脳皮質に供給し(Le Magueresse et al., 2011, J. Neurosci. 31, 16731-16747)、脳障害後には障害のある線条体及び皮質に供給する(Yang et al., 2007, Ann. Neurol. 61, 199-208; Yang et al., 2008, J. Comp. Neurol. 511, 19-33)。大脳皮質の凍結障害によって、神経前駆細胞の数は増加した。障害後に、Dlx2・Dcx二重陽性であってTbr2・Dcx二重陽性ではない新生ニューロンの数は増加した。このことは、GABA作動性の新生ニューロンは、障害のある皮質に補充されることを示唆している。さらに、新生児期の凍結大脳皮質障害によって、EmGFP・NeuN二重陽性の成熟ニューロンの数が有意に増加し、そのほとんどがGAD67陽性であり、Parvalbumin(PV)陽性又はCalretinin(CR)陽性はそれほど多くはなかった。このことは、これらがV-SVZ由来の皮質介在ニューロンであることを示している。これらのニューロンの60%よりも多くは、皮質層IV-VIに存在した。皮質内のV-SVZ由来の成熟ニューロンの数は、新生児期の放射状グリアにおいてDN-N-カドヘリンを発現することによって有意に減少した(図3A-3C)。このことは、放射状グリア突起が、障害後の新生児期の皮質における、V-SVZ由来の新生ニューロンの移動及び成熟に寄与することを示している。
【0079】
次に、N-カドヘリンを含有する人工足場が、脳障害後のV-SVZ由来のニューロンの移動を促進するかどうかを試験するために、Fc又はN-カドヘリン-Fcを結合したポリエチレンテレフタレート(PET)線維及びゼラチンスポンジ(それぞれコントロール又はN-カドヘリン線維/スポンジ)を開発した。V-SVZ由来の新生ニューロンの移動速度は、in vitroでN-カドヘリン線維及びスポンジと接触させた時に増加した(図3D、3E、3F)。そこで、本発明者らは、N-カドヘリン線維又はスポンジを、障害のある皮質に移植した(図3F)。コントロール繊維とN-カドヘリン線維とでは、Dcx陽性の新生ニューロンの密度に大きな違いはなかったが、N-カドヘリンスポンジで処理したマウスでは、スポンジ内の新生ニューロンの密度が増加した(図3G-3I)。このことは、当該試験条件においては、N-カドヘリンスポンジがin vivoで、N-カドヘリン線維よりも、新生ニューロンの移動をより効率的にサポートすることを示唆している。
【0080】
N-カドヘリンスポンジが、放射状グリアが欠乏する高齢の脳において新生ニューロンの移動を促進するかどうかを調べるために、本発明者らは、P14又は8wで凍結大脳皮質障害を作製し、N-カドヘリンスポンジを移植した(図3F)。コントロールのスポンジの群では、障害部に到達した新生ニューロンの数は、P2と比べてP14及び8wモデルでは有意に少なく、このことは、放射状グリア突起が、新生ニューロンが障害部に向かって移動するための重要な足場であるという考えを支持するものであった(図3H及び3I)。N-カドヘリンスポンジにおける新生ニューロンの絶対数は、P2モデルが最も高く、また、加齢と共に減少したが(図3H及び3I)、新生ニューロンの移動の促進に与えるN-カドヘリンスポンジの影響は、高齢の脳においてより明白であった。
【0081】
さらに、P2の障害モデルに10dpiでN-カドヘリンスポンジを移植し、3dpiの移植群と、スポンジ内の新生ニューロンの数を比較した(図3F)。4dptで、脳内の新生ニューロンの密度は、P5で移植した方がP12で移植した方よりも高くなった(図3I)。このことは、早期のスポンジの移植が、新生児期の脳障害後の新生ニューロンの補充において、もっとも有益な効果があることを示唆している。
【0082】
N-カドヘリンスポンジ移植によるニューロンの再生への影響を調べるために、V-SVZ細胞をエレクトロポレーションによって標識し、その結果を28dpiで解析した(図3F、3J及び3K)。障害部内及びその周囲のV-SVZ由来のNeuN陽性成熟ニューロンの数は、N-カドヘリンスポンジで処理したマウスの方が、コントロールのスポンジで処理したマウスよりも有意に多かった(図3J及び3K)。さらに、皮層の上層におけるV-SVZ由来のNeuN陽性のニューロンの比率は、N-カドヘリンスポンジの移植によって有意に増加した(図3K)。これらの結果は、N-カドヘリンを含有する足場が、新生児期の脳障害後のV-SVZ由来のニューロンの再生を促進することを示唆している。
【0083】
最後に、N-カドヘリンスポンジ移植が機能回復に与える影響を28dpiで調べた。自然な歩行挙動を解析するために、キャットウォーク解析を使用した。脳障害は、前肢の接地面積(「最大接地面積」及び「プリントエリア(足跡のプリント全体の面積)」)の減少と、左右前肢間の幅(「ベースオブサポート」)の増加を引き起こした(図4A-4C)。コントロールのスポンジの移植は、これらの歩行挙動を悪化させなかった(図4A-4C)。このことは、スポンジ移植が悪影響を何も与えないことを示唆している。注目すべきことに、N-カドヘリンスポンジの移植によって、これらの歩行パラメータの不良が改善された(図4A-4C)。このことは、N-カドヘリンスポンジが、新生児期の脳障害後のニューロンの再生に加えて、機能回復も促進することを示唆している。
【0084】
次に、foot-fault試験(Barth et al., 1990, Behav. Brain Res. 39, 73-95)を行った。凍結大脳皮質障害は、P2障害モデルにおいて、28dpiで、踏み外し(foot-fault)率の左右非対称性を引き起こした。これは、N-カドヘリンスポンジの移植で回復したが、コントロールのスポンジでは回復しなかった(図4D)。また、N-カドヘリンスポンジの移植によって、P14モデルでは神経学的スコアが明らかに改善したが、8wモデルでは改善しなかった(図4D)。従って、成体の脳であってもN-カドヘリンスポンジによって新生ニューロンの移動は促進され得るが、機能回復が得られる日齢はより限定されるようである。
【0085】
さらに、V-SVZ由来の内因性のニューロンの再生が機能回復に寄与することを調べるために、P0の神経特異エノラーゼ(NSE)-ジフテリアトキシンフラグメントA(DTA)マウス(Imayoshi et al., 2008, Nat. Neurosci. 11, 1153-1161; Kobayakawa et al., 2007, Nature 450, 503-508)の脳室内にAd-Creを注入し、ニューロン系の子孫が除去された(図4E-4G)。N-カドヘリンスポンジ移植による踏み外し率の改善は、当該Ad-Cre感染NSE-DTAマウスでは見られなかった(図4H)。これらの結果は、N-カドヘリンを含有する足場による新生児期の脳障害後の機能回復の促進は、V-SVZ由来の新生ニューロンの再生が寄与することを示唆している。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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