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特許7253202軟磁性扁平粉を酸化アルミニウム微粒子の集まりで絶縁化し、該酸化アルミニウム微粒子同士の摩擦接合で軟磁性扁平粉同士を結合した圧粉磁心の製造方法
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  • 特許-軟磁性扁平粉を酸化アルミニウム微粒子の集まりで絶縁化し、該酸化アルミニウム微粒子同士の摩擦接合で軟磁性扁平粉同士を結合した圧粉磁心の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】軟磁性扁平粉を酸化アルミニウム微粒子の集まりで絶縁化し、該酸化アルミニウム微粒子同士の摩擦接合で軟磁性扁平粉同士を結合した圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20230330BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20230330BHJP
   H01F 3/08 20060101ALI20230330BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230330BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230330BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230330BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/24
H01F3/08
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
C22C38/00 303S
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019209199
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021082717
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-11-15
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087621(JP,A)
【文献】特開2019-129046(JP,A)
【文献】特開2019-137882(JP,A)
【文献】特開2019-041068(JP,A)
【文献】特開2009-188270(JP,A)
【文献】国際公開第2009/057675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/24
H01F 3/08
B22F 3/00
B22F 1/00
B22F 1/16
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性扁平粉の扁平面同士の間隙に析出させるとともに、該軟磁性扁平粉を覆う酸化アルミニウム微粒子の集まりを圧縮し、該酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合されることで前記軟磁性扁平粉同士が結合された該軟磁性扁平粉の集まりからなる圧粉磁心の製造方法は、
熱分解で酸化アルミニウム微粒子を析出するアルミニウム化合物を、該酸化アルミニウム微粒子が析出する重量が、軟磁性扁平粉の集まりの重量の1/100より少ない重量として析出する該アルミニウム化合物をメタノールに分散し、該アルミニウム化合物のメタノール分散液を作成し、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点がメタノールの沸点より高く、かつ、前記アルミニウム化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、前記メタノール分散液に混合して混合液を作成する、この後、加熱機能が併設された混合機を加振台の上に配置し、該混合機に前記混合液と前記軟磁性扁平粉の集まりを充填し、該混合機を回転および揺動させ、前記軟磁性扁平粉の集まりを前記混合液中に分散させる、さらに、加振機によって上下、左右、前後の3方向の振動を繰り返し発生させ、最後に上下方向の振動を発生させ、該加振機に依る振動を、前記加振台を介して前記混合機に伝え、該混合機内の前記軟磁性扁平粉の集まりを、前記混合液中で前記振動方向に繰り返し移動させ、該混合液中で前記軟磁性扁平粉の配列を進め、最後に上下方向の振動が加わることで、該軟磁性扁平粉の扁平面同士が前記混合液を介して重なり合い、前記混合機の底面に該底面の形状からなる前記軟磁性扁平粉の集まりが形成される、この後、前記混合機をメタノールの沸点に昇温する、これによって、前記アルミニウム化合物の微細結晶の集まりが前記有機化合物中に一斉に析出し、該アルミニウム化合物の微細結晶が析出した有機化合物が前記軟磁性扁平粉に付着し、該アルミニウム化合物の微細結晶が析出した有機化合物を介して前記軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った該軟磁性扁平粉の集まりが、前記混合機の底面に該底面の形状として形成される第一の工程と、
前記第一の工程で作成した軟磁性扁平粉の集まりを金型に充填し、該金型を前記アルミニウム化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に、前記有機化合物が気化し、次に、前記アルミニウム化合物の微細結晶が熱分解し、前記軟磁性扁平粉の表面に酸化アルミニウム微粒子の集まりが一斉に析出し、該酸化アルミニウム微粒子の集まりが前記軟磁性扁平粉を覆う、この後、連続的に増大する加圧圧力を、プレス機によって前記軟磁性扁平粉の集まりに加え、該プレス機が受ける反発力が継続して増大した時点で該プレス機に依る加圧圧力を停止する、これによって、最初に、前記軟磁性扁平粉の集まりが前記金型の形状に成形され、次に、該軟磁性扁平粉の扁平面同士の間隙に酸化アルミニウム微粒子の集まりが析出し、さらに、前記酸化アルミニウム微粒子が継続して移動し、前記軟磁性扁平粉の集まりにおける空隙を埋め、該酸化アルミニウム微粒子が移動できなくなると、前記軟磁性扁平粉の表面と接触する前記酸化アルミニウム微粒子が該軟磁性扁平粉の表面に摩擦熱で接合し、また、互いに接触する前記酸化アルミニウム微粒子同士が接触部位で摩擦熱によって接合し、該酸化アルミニウム微粒子同士の接合で前記軟磁性扁平粉同士が結合され、該結合された軟磁性扁平粉の集まりからなる圧粉磁心が前記金型内に製造される第二の工程とからなり、
前記2つの工程を連続して実施することで、軟磁性扁平粉の扁平面同士の間隙に析出させるとともに、該軟磁性扁平粉を覆う酸化アルミニウム微粒子同士の接合で軟磁性扁平粉同士が結合された該軟磁性扁平粉の集まりからなる圧粉磁心が製造される、圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した圧粉磁心の製造方法において、求項1に記載したアルミニウム化合物が、安息香酸アルミニウムないしはナフテン酸アルミニウムであり、請求項1に記載した有機化合物が、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれか1種類のエステル類、ないしは、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれか1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーであり、これらの物質を用い、請求項1に記載した圧粉磁心の製造方法に従って圧粉磁心を製造する、圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解で酸化アルミニウムを析出するアルミニウム化合物の微細結晶の集まりを有機化合物中に析出させ、該有機化合物を金属ないしは合金からなる軟磁性扁平粉の表面に付着させ、さらに、有機化合物を気化させた後に、アルミニウム化合物を熱分解し、軟磁性扁平粉の表面に酸化アルミニウム微粒子の集まりを析出させる。この後、軟磁性扁平粉の集まりを金型に充填し、プレス機で軟磁性扁平粉の集まり圧縮し、プレス機が受ける反発力が継続して増加した際に、プレス機に依る圧縮を停止する。これによって、酸化アルミニウム微粒子が軟磁性扁平粉の表面に摩擦熱で接合するとともに、該酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合することで前記軟磁性扁平粉同士が結合され、該軟磁性扁平粉の集まりからなる圧縮成形体が金型内に製造される圧粉磁心の製造方法である。本製造方法は、軟磁性扁平粉が圧縮される直前にプレス機に依る圧縮を停止させるため、軟磁性扁平粉が塑性変形しない。このため、軟磁性扁平粉に加工歪が発生せず、圧縮成形体の形成後に、軟磁性扁平粉の保持力を元に戻す焼鈍処理が不要になる。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、表面を絶縁処理した軟磁性粉の集まりを金型に充填して圧縮し、この後、圧縮時に発生した軟磁性粉の加工歪を除去するため、圧縮成形体を焼鈍処理し、軟磁性粉の保持力を元に戻し、圧粉磁心を製造する。こうした圧粉磁心は、モータにおけるステーターやローターを構成する磁心や、電源回路におけるリアクトルやノイズフィルターやチョークコイルなどを構成する磁心として用いられている。これらの電気製品はいずれも汎用的な製品であり、圧粉磁心の製造費用が安価であることが求められる。
なお、表面が絶縁された軟磁性粉は、交流磁界での動作に際し、渦電流が軟磁性粉の内部に閉じ込められる。すなわち、渦電流は、軟磁性粉内に流れる渦電流と、軟磁性粉同士の間隙に流れる渦電流とが存在し、軟磁性粉の表面を絶縁物で絶縁化すると、絶縁物の絶縁性が高いほど、後者の渦電流が低減する。渦電流損失が交流磁界の周波数の2乗に比例するため、高い周波数ほど渦電流損失の低減効果が大きい。この渦電流損失は、電磁変換時のエネルギー損失となり、このエネルギー損失によって圧粉磁心が発熱する。従って、軟磁性粉の表面を絶縁化することで、圧粉磁心の発熱が低減される。
また、軟磁性粉を圧縮する際に、軟磁性粉が塑性変形し、軟磁性粉の加工歪によって保持力が増大する。これによって、軟磁性粉のヒステリシス損失が増大し、このヒステリシス損失は、電磁変換時のエネルギー損失となり、このエネルギー損失によって圧粉磁心が発熱する。このため、圧縮成形体を焼鈍して軟磁性粉の保持力を元に戻し、圧縮成形体からなる圧粉磁心の発熱を低減する。このように、電磁変換時のエネルギー損失は、渦電流損失とヒステリシス損失とからなり、両者を合わせて圧粉磁心の鉄損という。この鉄損によって圧粉磁心が発熱するため、軟磁性粉を絶縁化する処理と、圧縮成形体を焼鈍する処理とが必要になる。
ところで、軟磁性粉の透磁率が大きいほど軟磁性粉が磁化されやすく、圧粉磁心に磁気エネルギーが取り込まれやすい。また、軟磁性粉の飽和磁束密度が大きいほど、磁化された圧粉磁心の磁気エネルギーは大きい。しかしながら、透磁率と飽和磁束密度との双方が大きい軟磁性粉は存在せず、相対的な大きさの比較になる。いっぽう、圧粉磁心の多くは、動作周波数が1-500kHzで、動作磁束密度が0.3-1.3テスラで用いられている。このため、圧粉磁心の動作周波数領域における飽和磁束密度に応じて、電気製品に適応する圧粉磁心を用いる。いっぽう、圧粉磁心の性能は、軟磁性粉の透磁率の周波数特性と、軟磁性粉の飽和磁束密度とに依存するため、圧粉磁心の適応範囲を広げるには、全ての軟磁性粉を原料として用いることができる圧粉磁心の製造方法が好ましい。
例えば、コバルト基アモルファスからなる軟磁性材料は、透磁率が大きいが、飽和磁束密度はMn・Zn系フェライトに近い小さな値を持つ。いっぽう、鉄基アモルファスからなる軟磁性材料は、飽和磁束密度が大きいが、透磁率は小さい。また、鉄粉は、軟磁性材料の中で飽和磁束密度が最も大きいが、透磁率は最も小さい。さらに、ニッケル・鉄系合金であるパーマロイの中で、Ni77質量%、Fe14質量%、Cu5質量%、Mo4質量%の組成からなる合金は、パーマロイの中で最も透磁率が大きいが、透磁率と飽和磁束密度とは、軟磁性材料の中間的な値を持つ。また、鉄・シリコーン・アルミニウム系合金の中で最も透磁率が大きいセンダスト(Fe9.6質量%、Si5.6質量%、その他がAlからなる合金で東北大学の登録商標)は、透磁率と飽和磁束密度との双方が、軟磁性材料の中間的な値を持つ。なお、最も安価な材料であるMn・Zn系フェライトは、透磁率が大きいが、飽和磁束密度は最も小さい。
こうした軟磁性材料に加え、アモルファス合金を急冷させた薄帯の新たな材料開発が行われている。例えば、鉄を主成分とし、シリコーンとボロンとを加え、さらに、微量の銅とニオブとを加え、これらの組成からなる高温溶解液を100万℃/秒の速度で急冷させたアモルファス合金薄帯が開発されている。このアモルファス急冷薄帯は、透磁率と飽和磁束密度との双方が相対的に大きい材料である(特許文献1を参照)。さらに、透磁率の値がセンダストに近く、飽和磁束密度の値がケイ素鋼に近い、アモルファス合金からなる薄帯が開発されている。この材料は、高濃度の鉄に、ケイ素、ホウ素、リン、銅を加えた合金からなる材料である(特許文献2を参照)。
いっぽう、軟磁性材料の中で、Mn-Zn系フェライトとNi-Zn系フェライトは、延性と展性とを持たず、衝撃に弱い脆い材料であるため、焼結体で磁心を形成する。いっぽう、体積抵抗率は、Mn・Zn系フェライトが1×10Ω・cmで、Ni-Zn系フェライトが1×10Ω・cmからなる絶縁体である。従って、焼結体内に流れる渦電流は小さい。その他の軟磁性材料はいずれも導電性の金属ないしは合金であり、軟磁性粉の内部を流れる渦電流は大きく、軟磁性粉を絶縁化し、渦電流を軟磁性粉の内部に閉じ込める。また、金属ないしは合金は、延性と展性とを持ち、圧縮応力によって弾性変形及び塑性変形する。従って、金属ないしは合金からなる軟磁性粉の表面を絶縁化し、該表面が絶縁化された金属ないしは合金からなる軟磁性粉の集まりを金型内で圧縮し、塑性変形した軟磁性粉同士の絡み合いで圧縮成形体に機械的強度をもたらし、圧粉磁心とする。本発明における圧粉磁心は、軟磁性粉の集まりを金型内で圧縮させるため、金属ないしは合金からなる軟磁性粉を用いる。
【0003】
前記したように、圧粉磁心の製造に当たり、表面を絶縁化した軟磁性粉の集まりを金型内に充填し、該軟磁性粉の集まりを金型内で単純に圧縮し、塑性変形した軟磁性粉同士の絡み合いで一定の機械的強度を持つ圧粉磁心を金型に製造する。つまり、軟磁性粉の集まりを単純に圧縮すると、軟磁性粉が塑性変形する現象と、軟磁性粉が塑性変形することで空隙が形成され、この空隙を埋めるように軟磁性粉が再配列する現象とが起こる。軟磁性粉の再配列は比較的小さな圧縮圧力で終了するが、圧縮圧力の増大と共に、軟磁性粉の塑性変形は進み、軟磁性粉の集まりの空隙が低減され、圧縮密度が高まる。これによって、磁化された圧粉磁心の磁気エネルギーが増大する。また、軟磁性粉の集まりは一定の粒度分布を持つため、粒径が異なる軟磁性粉が同時に塑性変形し、該塑性変形した粒径が異なる軟磁性粉が隣接することで、軟磁性粉同士が絡み合い、該軟磁性粉同士の絡み合いが進むことで、軟磁性粉同士の結合が進み、圧粉磁心の機械的強度が実現する。従って、圧粉磁心は、軟磁性粉の集まりを単純に圧縮し、塑性変形が進んだ軟磁性粉によって構成される。しかし、軟磁性粉の塑性変形が進むほど、軟磁性粉の加工歪が増大し、これによって、軟磁性粉の保持力が増大し、軟磁性粉のヒステリシス損失が増大する。これによって、圧粉磁心が発熱する。このヒステリシス損失は、軟磁性粉内の渦電流損失より大きい。このため、塑性変形の進行度に応じて、圧縮成形体を還元雰囲気の500-800℃で焼鈍し、軟磁性粉の加工歪を除去し、軟磁性粉の保持力を元の値に戻す必要がある。いっぽう、軟磁性粉の硬度が高いほど、また、軟磁性粉の集まりにおける空隙を少なくするほど、大きな圧縮圧力が必要になり、軟磁性粉の加工歪が増大し、歪取り焼鈍の温度が高まる。従って、軟磁性粉の保持力を元の値に戻すには、耐熱性の高い無機材料からなる絶縁物質によって、軟磁性粉を絶縁化させる必要がある。従って、軟磁性粉を絶縁化させる材料の耐熱性によって、軟磁性粉の保持力の復元が左右される。例えば、耐熱性が低い合成樹脂に依って軟磁性粉を絶縁化させた圧粉磁心では、200℃前後の樹脂硬化を兼ねた熱処理であるため、保持力の復元効果は殆どない。
いっぽう、耐熱性の高い無機材料で軟磁性粉を絶縁化させ、歪取り焼鈍の温度を高めると、軟磁性粉を絶縁化させる処理費用と焼鈍費用とが増大する。このように、歪取り焼鈍の処理が、圧粉磁心の性能と製造コストとを大きく左右する。従って、歪取り焼鈍が不要な圧粉磁心の製造方法であれば、ヒステリシス損失が少ない圧粉磁心が製造され、かつ、安価な圧粉磁心が製造される。
例えば、アトマイズ鉄粉はビッカース硬度が75-87HVで、軟磁性粉の中で最も硬度が低く、圧縮成形体の圧縮密度は鉄の密度の90%に近い。また、保持力を元に戻す焼鈍温度は、500-600℃と低い。しかし、アトマイズ鉄粉は、1kHzを超えた周波数において飽和磁束密度が急激に低下する。
これに対し、センダスト(東北大学の登録商標)は、不純物を取り除く処理を兼ねた1100℃にも及ぶ磁気焼鈍を行うが、ビッカース硬度が410-480HVと高い。いっぽう、飽和磁束密度は、鉄粉のように1kHzを超えた比較的低い周波数帯域で低減しない。しかし、保持力を元に戻す焼鈍温度が600-700℃と高く、センダストを絶縁化させる処理費用と焼鈍費用とが増大する。
さらに、アモルファス合金からなる薄帯は、10万-100万℃/秒の速度で急冷させるため硬度がさらに高い。例えば、前記した鉄を主成分とし、シリコーンとボロンとを加えたアモルファス合金薄帯のビッカース硬度は720HVと高く、焼鈍処理によっても硬度が著しく下がらない。従って、保持力を元に戻す焼鈍温度はセンダストより高く、アモルファス合金を絶縁化させる処理費用と焼鈍費用とがセンダストよりさらに高価になる。
従って、圧粉磁心を製造する際に、軟磁性粉が塑性変形しなければ、加工歪が発生せず、歪取り焼鈍が不要になる。また、軟磁性粉のヒステリシス損失が増大しない。しかし、圧縮成形体の機械的強度を実現するために、また、圧縮成形体の圧縮密度を高めるために、軟磁性粉の塑性変形以外の手段が必要になる。このため、第一に、軟磁性粉の配列を進め、高密度に集積した軟磁性粉の集まりを作成する必要がある。また、軟磁性粉を絶縁性が高い絶縁物で被覆できれば、軟磁性粉同士の間隙に流れる渦電流が低減する。第二に、絶縁物で覆われた軟磁性粉の集まりを圧縮する際に、軟磁性粉を覆う絶縁物同士が接合し、この絶縁物同士の接合で、軟磁性粉同士が結合すれば、圧縮成形体が形成できる。これによって、軟磁性粉を塑性変形させる必要がなくなる。従って、軟磁性粉の硬度に関わらず、軟磁性粉の表面を絶縁性の高い絶縁物で絶縁化し、該軟磁性粉の集まりを再配列させて高密度に集積させ、該軟磁性粉を圧縮した際に、絶縁物同士が接合し、絶縁物同士の接合で、軟磁性粉同士が結合すれば、鉄損が少なく安価な圧粉磁心が製造できる画期的な圧粉磁心の製造方法になる。
従って、新たな圧粉磁心の製造方法は、第一に、軟磁性粉の硬度に関わらず、全ての軟磁性粉を用い、第二に、絶縁性の高い物質で軟磁性粉を絶縁化し、第三に、軟磁性粉の集まりを高密度に集積させ、第四に、軟磁性粉の集まりを圧縮すると、絶縁物同士が接合し、絶縁物同士の接合で軟磁性粉同士が結合する、これら4つの特徴を持つ圧粉磁心の製造方法になる。こうした画期的な圧粉磁心の製造方法は、今までのところ存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-300697号公報
【文献】特開2016-094651号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】山陽特殊鋼技報、Vol.7(2000)No.1、ページ29-34
【文献】粉体および冶金、47巻、7号、ページ711-716
【文献】川崎製鉄技報、33(2001)4、ページ184-187
【文献】粉体および冶金、32巻、7号、ページ9-13
【文献】神戸製鋼技報、Vol.48、No.3(1998)、ページ25-28
【文献】神戸製鋼技報、Vol.50、No.3(2000)、ページ38
【文献】神戸製鋼技報、Vol.60、No.2(2010)、ページ82
【文献】第42回日本磁気学会学術講演概要集(2018)、13aC-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、新たな圧粉磁心の製造方法を実現する上での課題を整理する。
前記したように、第一に絶縁性の高い物質で軟磁性粉を絶縁化し、第二に軟磁性粉の集まりを高密度に集積させ、第三に軟磁性粉の集まりを圧縮する際に、絶縁物同士が接合し、該絶縁物同士の接合で、軟磁性粉同士が結合する、第四に軟磁性粉の硬度に関わらず、全ての軟磁性粉を用いて圧粉磁心が製造できれば、従来の圧粉磁心より、第一に渦電流損失が少なく、第二に飽和磁束密度が高く、第三にヒステリシス損失の増大がなく、第四に軟磁性粉の磁気特性が反映された圧粉磁心が製造できる。このため、新たな製造方法は、次の4つの要件を備える必要がある。
第一の要件は、絶縁性の高い物質で軟磁性粉を満遍なく覆う。
第二の要件は、軟磁性粉の集まりを再配列させ、集積密度が高く、軟磁性粉の面同士が重なり合った軟磁性粉の集まりとする。すなわち、軟磁性粉の集まりの隙間に、相対的に粒径が小さい軟磁性粉が入り込む配列を進め、この後、軟磁性粉の面同士を重ね合わせる。さらに、軟磁性粉の面同士が重なり合った軟磁性粉の表面を絶縁物で覆う。また、絶縁物の重量を軟磁性粉の重量の1%より低くする。こうした集積密度が高い軟磁性粉の集まりを圧縮すると、圧粉成形体の密度は軟磁性粉の密度に近づく。これによって、圧粉磁心が磁化されると、磁化された圧粉磁心の磁気エネルギーが大きい。いっぽう、軟磁性粉の面方向が軟磁性粉の磁化容易軸方向であるため、全ての軟磁性粉を面同士で重ね合わせると、圧粉磁心の透磁率が増大し、磁化されやすくなる。この結果、磁化されやすくなった圧粉磁心の磁気エネルギーは大きい。
第三の要件は、圧縮成形体を作成する条件に関わる。すなわち、絶縁被覆された軟磁性粉の集まりを金型に充填し、プレス機で軟磁性粉の集まりを圧縮すると、第一に、絶縁被覆された軟磁性粉の集まりが金型の形状に成形される。第二に、軟磁性粉を覆う絶縁物が継続して移動し、軟磁性粉の集まりの空隙を埋め、絶縁物の継続した移動で隣接する軟磁性粉も移動して再配列が進み、軟磁性粉の集積度がさらに高まる。第三に、絶縁物が移動できなくなると絶縁物同士が接触し、接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱で絶縁物同士が接合される。さらに、絶縁物同士の接合することで、軟磁性粉同士が結合され、軟磁性粉の集まりからなる圧粉磁心が金型内に製造される。第四に、絶縁物同士が接触して摩擦熱で結合する際に、プレス機が受ける反発力が継続して増大し、この時点でプレス機に依る圧縮を停止する。これによって、軟磁性粉が圧縮される直前で圧縮が停止され、軟磁性粉は塑性変形しない。このため、圧粉磁心のヒステリシス損失が増大しない。
第四に、軟磁性粉の硬度に関わらず、全ての軟磁性粉を用い、前記3つの要件を満たして圧粉磁心を製造する。
上記の4つの要件を実現する軟磁性粉の処理方法と絶縁物に関わる条件を検討する。
第一の条件は、軟磁性粉の集積度を高めることである。すなわち、軟磁性粉の集まりを液体中で前後、左右、上下の3方向に繰り返し移動させ、軟磁性粉の配列を液体中で進め、軟磁性粉の集まりの集積密度を高める。つまり、液体中では軟磁性粉同士が直接接触しないため、軟磁性粉が容易に移動する。従って、軟磁性粉の集まりを液体中で前後、左右、上下の3方向に繰り返し移動させると、相対的に粒径の小さい軟磁性粉が軟磁性粉の集まりの隙間に入り込む配列と、相対的に粒径の小さい軟磁性粉が軟磁性粉の集まりの上方に移動する配列が進む。最後に、軟磁性粉の集まりを上下方向に移動させると、軟磁性粉の面同士が重なり合う。
第二の条件は、絶縁物に関わる。絶縁物は、絶縁性が高く、耐熱性が高く、軟磁性粉より硬度が高く、大きさが、軟磁性粉の平均粒径より3桁小さく、軟磁性粉の厚みより2桁小さい微粒子とし、微粒子の集まりの重量が軟磁性粉の集まりの重量の1%より少なくする。こうした性質を兼備する微粒子で軟磁性粉を覆い、軟磁性粉の集まりを圧縮する。微粒子が圧縮応力を受けると継続して移動し、軟磁性粉同士の空隙を微粒子が埋める。また、微粒子が継続して移動すると、隣接する軟磁性粉が移動して再配列が進み、軟磁性粉の集積度がさらに高まる。さらに、微粒子が移動できなくなると微粒子同士が接触し、接触部に摩擦熱が発生し、該摩擦熱で微粒子同士が接合される。微粒子同士の接合によって軟磁性粉が結合され、軟磁性粉の集まりからなる圧粉磁心が金型内に製造される。いっぽう、微粒子同士が接触して摩擦熱で結合する際に、微粒子の数が極めて多いため、プレス機が受ける反発力が継続して増大し、この時点でプレス機に依る圧縮を停止する。これによって、軟磁性粉が圧縮される直前で圧縮が停止され、軟磁性粉は塑性変形しない。
つまり、上記の性質を兼備する微粒子の集まりで軟磁性粉を満遍なく覆い、該軟磁性粉の集まりを金型に充填し、該軟磁性粉の集まりをプレス機で圧縮する。この際、第一に、微粒子の集まりで覆われた軟磁性粉の集まりが金型の形状に成形される。第二に、微粒子が軟磁性粉の集まりの空隙を埋めるように継続して移動する。第三に、微粒子に隣接する軟磁性粉も移動して再配列し、軟磁性粉の集積度が高まる。第四に、微粒子が移動できる空隙がなくなると、微粒子同士が接触する。微粒子は、耐熱性が高く硬いため、微粒子は接触によって破壊されず、微粒子同士が接触する部位に過大な摩擦熱が発生し、接触部の異物ないしは不純物が気化した後に、清浄化された接触部で微粒子同士が摩擦熱で強固に接合する。また、軟磁性粉の表面と接触する微粒子は、軟磁性粉の表面と接触する部位に過大な摩擦熱が発生し、接触部の異物ないしは不純物が気化した後に、清浄化された軟磁性粉の接触部に摩擦熱で強固に接合する。第五に、微粒子同士が摩擦熱で接合する反応と、微粒子が軟磁性粉の表面に摩擦熱で接合する反応とが起こる際に、微粒子の数が極めて多いため、加圧圧力に対する反発力がプレス機に継続して発生し、この時点でプレス機に依る圧縮を停止する。これによって、軟磁性粉が圧縮される直前に加圧圧力が停止され、軟磁性粉は塑性変形しない。
第三の条件は、全ての軟磁性粉を用いて圧粉磁心を製造する。
ところで、従来の圧粉磁心の製造方法では、軟磁性粉の集まりを単純に圧縮して、軟磁性粉の塑性変形を進ませ、これによって、塑性変形した軟磁性粉同士の絡み合いが進み、圧縮成形体に必要となる機械的強度を持たせた。従って、前記した第一の条件に記載した、軟磁性粉の面同士が重なり合った集積度が高い軟磁性粉の集まりとし、軟磁性粉の集まりを圧縮すると、軟磁性粉同士が絡み合わない。このため、従来の圧粉磁心の製造方法では、軟磁性粉の集積度を高める処理は不要であり、軟磁性粉の集まりを単純に圧縮した。これに対し、新たな圧粉磁心の製造方法では、面同士で重なり合った軟磁性粉を、微粒子同士の接合で軟磁性粉を結合させる。微粒子の数が極めて多いため、摩擦熱による微粒子同士の接合によって、圧粉磁心は一定の機械的強度を持つ。
従って、上記の3つの条件を新たな圧粉磁心の製造方法に反映し、製造した圧粉磁心が、従来の圧粉磁心より、飽和磁束密度と透磁率とが増大し、渦電流損失が少なく、ヒステリシス損失の増大がなく、圧粉磁心が一定の機械的強度を持ち、安価な圧粉磁心が製造でき、また、製造する圧粉磁心の形状と大きさに制約がなければ、理想的な圧粉磁心の製造方法になる。さらに、硬度に関わらず全ての軟磁性粉が使用できれば、軟磁性粉の磁気特性が反映された圧粉磁心が形成できる。特に、透磁率の周波数特性が軟磁性粉の材質ごとに異なるため、高い周波数帯域でも、磁化されやすく、磁気エネルギーが取り込みやすい圧粉磁心が製造できる。この理想的な製造方法を実現するには幾つかの課題があり、これらの課題は、本発明が解決しようとする課題である。以下に本発明の課題を記載する。
第一の課題は、全ての軟磁性粉を原料として用い、液体中で軟磁性粉の集まりを処理し、軟磁性粉の配列を進め、集積密度が高く、面同士が重なり合った軟磁性粉の集まりを液体中に作成する。第二の課題は、軟磁性粉より硬度が高く、絶縁性に優れ、耐熱性が高く、大きさが、軟磁性粉の平均粒径より3桁小さく、軟磁性粉の厚みより2桁小さい微粒子の集まりを、軟磁性粉の表面に析出させる。第三の課題は、微粒子の集まりで覆われた軟磁性粉の集まりを圧縮し、互いに接触する微粒子同士を摩擦熱で接合させ、微粒子同士の接合で軟磁性粉同士を結合させる。第四の課題は、軟磁性粉の集まりを圧縮する際に、軟磁性粉が塑性変形しない。第五の課題は、軟磁性粉の液体中での処理から圧粉磁心の形成に至るまでの工程が、簡単な処理を連続して実施する製法である。第六の課題は、圧粉磁心の形状と大きさに制約がない。この結果、従来の圧粉磁心より優れた性能を持ち、従来の圧粉磁心に準じる機械的強度を持ち、より安価な費用で圧粉磁心が製造でき、製造される圧粉磁心の形状と大きさに制約がない。本発明の課題は、6つの課題を同時に解決する圧粉磁心の製造方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
軟磁性扁平粉の扁平面同士の間隙に析出させるとともに、該軟磁性扁平粉を覆う酸化アルミニウム微粒子の集まりを圧縮し、該酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合されることで前記軟磁性扁平粉同士が結合された該軟磁性扁平粉の集まりからなる圧粉磁心の製造方法は、
熱分解で酸化アルミニウム微粒子を析出するアルミニウム化合物を、該酸化アルミニウム微粒子が析出する重量が、軟磁性扁平粉の集まりの重量の1/100より少ない重量として析出する該アルミニウム化合物をメタノールに分散し、該アルミニウム化合物のメタノール分散液を作成し、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点がメタノールの沸点より高く、かつ、前記アルミニウム化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、前記メタノール分散液に混合して混合液を作成する、この後、加熱機能が併設された混合機を加振台の上に配置し、該混合機に前記混合液と前記軟磁性扁平粉の集まりを充填し、該混合機を回転および揺動させ、前記軟磁性扁平粉の集まりを前記混合液中に分散させる、さらに、加振機によって上下、左右、前後の3方向の振動を繰り返し発生させ、最後に上下方向の振動を発生させ、該加振機に依る振動を、前記加振台を介して前記混合機に伝え、該混合機内の前記軟磁性扁平粉の集まりを、前記混合液中で前記振動方向に繰り返し移動させ、該混合液中で前記軟磁性扁平粉の配列を進め、最後に上下方向の振動が加わることで、該軟磁性扁平粉の扁平面同士が前記混合液を介して重なり合い、前記混合機の底面に該底面の形状からなる前記軟磁性扁平粉の集まりが形成される、この後、前記混合機をメタノールの沸点に昇温する、これによって、前記アルミニウム化合物の微細結晶の集まりが前記有機化合物中に一斉に析出し、該アルミニウム化合物の微細結晶が析出した有機化合物が前記軟磁性扁平粉に付着し、該アルミニウム化合物の微細結晶が析出した有機化合物を介して前記軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った該軟磁性扁平粉の集まりが、前記混合機の底面に該底面の形状として形成される第一の工程と、
前記第一の工程で作成した軟磁性扁平粉の集まりを金型に充填し、該金型を前記アルミニウム化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に、前記有機化合物が気化し、次に、前記アルミニウム化合物の微細結晶が熱分解し、前記軟磁性扁平粉の表面に酸化アルミニウム微粒子の集まりが一斉に析出し、該酸化アルミニウム微粒子の集まりが前記軟磁性扁平粉を覆う、この後、連続的に増大する加圧圧力を、プレス機によって前記軟磁性扁平粉の集まりに加え、該プレス機が受ける反発力が継続して増大した時点で該プレス機に依る加圧圧力を停止する、これによって、最初に、前記軟磁性扁平粉の集まりが前記金型の形状に成形され、次に、該軟磁性扁平粉の扁平面同士の間隙に酸化アルミニウム微粒子の集まりが析出し、さらに、前記酸化アルミニウム微粒子が継続して移動し、前記軟磁性扁平粉の集まりにおける空隙を埋め、該酸化アルミニウム微粒子が移動できなくなると、前記軟磁性扁平粉の表面と接触する前記酸化アルミニウム微粒子が該軟磁性扁平粉の表面に摩擦熱で接合し、また、互いに接触する前記酸化アルミニウム微粒子同士が接触部位で摩擦熱によって接合し、該酸化アルミニウム微粒子同士の接合で前記軟磁性扁平粉同士が結合され、該結合された軟磁性扁平粉の集まりからなる圧粉磁心が前記金型内に製造される第二の工程とからなり、
前記2つの工程を連続して実施することで、軟磁性扁平粉の扁平面同士の間隙に析出させるとともに、該軟磁性扁平粉を覆う酸化アルミニウム微粒子同士の接合で軟磁性扁平粉同士が結合された該軟磁性扁平粉の集まりからなる圧粉磁心が製造される、圧粉磁心の製造方法。
【0008】
本発明は、液体中にある軟磁性扁平粉の集まりに3方向の振動を繰り返し加え、最後に、上下方向の振動を加え、液体中で軟磁性扁平粉の配列を進め、この後、軟磁性扁平粉の扁平面同士を重ね合わせる。次に、軟磁性扁平粉の平均粒径より3桁小さく、軟磁性扁平粉の厚みより2桁小さい40-60nmの大きさからなる粒状の酸化アルミニウムの微粒子の集まりを、軟磁性扁平粉の表面に析出させる。さらに、軟磁性扁平粉の集まりを金型に充填し、プレス機で軟磁性扁平粉の集まりを圧縮し、プレス機が受ける反発力が継続して増大した時点で、プレス機に依る圧縮を停止する。これによって、酸化アルミニウム微粒子が摩擦熱で軟磁性扁平粉の表面に接合し、該軟磁性扁平粉が絶縁化され、また、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合し、これによって、軟磁性扁平粉同士が結合し、該軟磁性扁平粉の集まりからなる圧粉磁心が金型内に製造される。極めて多数の酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で強固に接合するため、圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。また、プレス機が受ける反発力が継続して増大した時点で、プレス機に依る圧縮を停止するため、軟磁性扁平粉が圧縮される直前で軟磁性扁平粉の圧縮が停止され、軟磁性扁平粉が塑性変形しない。このため、金型内に製造した圧粉磁心の歪取り焼鈍処理が不要になる。また、軟磁性扁平粉を塑性変形させないため、軟磁性扁平粉の硬度にかかわらず、全ての軟磁性扁平粉を圧粉磁心の原料として用いることができる。
いっぽう、軟磁性粉を磁化容易軸方向である面方向に扁平化すると、反磁場係数が小さくなり、扁平率が大きいほど扁平粉の透磁率が増大する。従って、扁平粉を用いて圧粉磁心を製造すると、全ての扁平粉が扁平面同士で重なり合うとともに、磁化容易軸方向である扁平面方向に揃って結合されるため、圧粉磁心は磁化されやすくなる。この結果、透磁率が増大し、扁平粉の飽和磁束密度に近い飽和磁束密度を持つ圧粉磁心が金型内に形成される。この圧粉磁心は、軟磁性粉の硬度にかかわらず、磁化されやすく、取り込んだ磁気エネルギーが大きい。なお、軟磁性粉の扁平処理は、ボールミルに依る長時間のバッチ処理に依らず、メディア撹拌型ミルに依ってアトライタ処理すると、短時間で連続して扁平粉が得られ、安価な費用で製造される。いっぽう、扁平処理によって発生した加工歪は、磁気焼鈍で解消させる。
ところで、軟磁性扁平粉の表面を覆う酸化アルミニウムAlは、次の優れた性質を圧粉磁心にもたらす。第一に、酸化アルミニウムが優れた絶縁体であり、体積抵抗率が1015Ω・cmと大きく、絶縁破壊電圧も15kV/mmと高く、絶縁性の周波数依存性がない。このため、高周波数領域でも圧粉磁心の渦電流損失は小さい。第二に、酸化アルミニウムの融点が2072℃と高く、耐熱性は軟磁性扁平粉より優れ、従来の圧粉磁心より耐熱性に優れる。また、微粒子同士が接触する部位に過大な摩擦熱が発生するが、該摩擦熱で微粒子同士が接合する。第三に、酸化アルミニウムはモース硬度が9と大きく、ダイアモンドに次ぐ硬い物質で、全ての軟磁性扁平粉より硬く、全ての軟磁性扁平粉を圧粉磁心に用いることができる。また、酸化アルミニウム微粒子が応力を受けると、空隙を埋めるように継続して移動する。移動できる空隙がなくなると、微粒子同士が接触し、接触部に摩擦応力が発生するが、微粒子は破壊しない。第四に、酸化アルミニウムは酸やアルカリに侵されにくく、軟磁性扁平粉より耐薬品性に優れ、従来の圧粉磁心より耐薬品性に優れる。なお、酸化アルミニウムの密度は、3.95g/cmで、鉄の密度の1/2である。
ここで、本発明の圧粉磁心を製造する製造方法を説明する。圧粉磁心を製造する製造方法は、以下の7つの工程からなる。
原料が安価で、熱分解という簡単な処理で酸化アルミニウムが析出し、熱分解温度が300℃程度と低い、これら3つの性質を兼備するアルミニウム化合物を、酸化アルミニウムの原料として用いた。いっぽう、酸化アルミニウム微粒子の集まりで軟磁性扁平粉を覆うため、第一の工程は、アルミニウム化合物をメタノールに分散し、アルミニウム化合物を液相化する。
酸化アルミニウム微粒子の集まりで軟磁性扁平粉を覆うには、アルミニウム化合物のメタノール分散液を軟磁性扁平粉の表面に付着させる必要がある。従って、第二の工程は、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点がメタノールの沸点より高く、かつ、前記アルミニウム化合物の熱分解温度より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、メタノール分散液に混合し混合液を作成する。
第三の工程は、前記混合液と軟磁性扁平粉の集まりを、加振台の上に配置した混合機に充填し、該混合機を回転および揺動させ、アルミニウム化合物が、メタノールと有機化合物との混合液に均一に分散し、この混合液に軟磁性扁平粉が均一に分散した混合物を作成する。従って、混合液が有する粘度によって、混合液は軟磁性粉に付着する。
第四の工程は、加振機に依る振動を、加振台を介して混合機に伝え、混合物の全体を振動させる。この際、軟磁性扁平粉は、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が一定の値を持つ粉体であり、軟磁性扁平粉の密度が混合液の密度の10倍に近いため、軟磁性扁平粉は扁平面を上に向けて混合液中を振動方向に移動する。また、相対的に粒径が小さい軟磁性扁平粉ほど質量が小さいため、粒径が小さい軟磁性扁平粉ほど混合液中での移動量が大きい。従って、混合物の全体に前後、左右、上下の3方向の振動を繰り返し加えると、軟磁性扁平粉が混合液中で3方向に繰り返し移動する。この際、相対的に粒径が小さい軟磁性扁平粉は、軟磁性扁平粉の集まりの空隙に入り込む配列と、軟磁性扁平粉の集まりの上方に移動する配列とが進み、軟磁性扁平粉の集まりの集積度が高まる。最後に、上下方向の振動を加えると、扁平面を上に向けて軟磁性扁平粉同士が混合液を介して重なり合う。この結果、軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った集積度が高い軟磁性扁平粉の集まりが、混合機の底面に該底面の形状として形成される。なお、混合物に加える振動加速度は、充填する軟磁性扁平粉の量に依存するが、混合液の粘度が低く、軟磁性扁平粉の密度が混合液の密度の10倍と高いため、0.2-0.4G程度である。これによって、6段落に記載した第一の課題が解決される。
第五の工程は、混合機をメタノールの沸点に昇温する。この際、アルミニウム化合物の微細結晶が有機化合物中に一斉に析出し、該アルミニウム化合物の微細結晶が析出した有機化合物が軟磁性扁平粉に付着し、該アルミニウム化合物の微細結晶が析出した有機化合物を介して軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った軟磁性扁平粉の集まりが、混合機の底面に該底面の形状として形成される。なお、気化したメタノールは、回収機で回収して再利用する。
第六の工程は、軟磁性扁平粉の集まりを混合機から金型に移し、該金型を前記アルミニウム化合物が熱分解する温度に昇温する。この際、最初に有機化合物が気化し、次にアルミニウム化合物の微細結晶が熱分解し、軟磁性扁平粉の表面に酸化アルミニウム微粒子の集まりが一斉に析出し、該酸化アルミニウム微粒子の集まりで軟磁性扁平粉が覆われる。アルミニウム化合物の熱分解で析出した酸化アルミニウムは、40-60nmの大きさからなる粒状微粒子で、軟磁性扁平粉の平均粒径より3桁小さく、軟磁性扁平粉の厚みより2桁小さい。これによって、6段落に記載した第二の課題が解決される。なお、気化した有機化合物は回収して再利用する。
第七の工程は、プレス機によって連続的に増大する加圧圧力を、軟磁性扁平粉の集まりに加え、プレス機が受ける反発力が継続して増大した時点で圧縮を停止する。つまり、加圧圧力を軟磁性扁平粉の集まりに加えた時点では、酸化アルミニウム微粒子同士が接合していないため、また、酸化アルミニウム微粒子が軟磁性扁平粉に接合していないため、軟磁性扁平粉の集まりは金型の形状に成形される。この後、加圧圧力が増大すると、軟磁性扁平粉の集まりに空隙が存在するため、空隙を埋めるように酸化アルミニウム微粒子が継続して移動する。また、酸化アルミニウム微粒子の継続した移動に伴い、隣接した軟磁性扁平粉も移動し、軟磁性扁平粉の集積度がさらに高まる。さらに、加圧圧力が増大すると、酸化アルミニウム微粒子が移動できる空隙がなくなり、酸化アルミニウム微粒子同士が互いに接触し、接触部位に過大な摩擦熱が発生し、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合する。この際、酸化アルミニウムが硬く融点が高いため、微粒子同士の摩擦でも微粒子は破壊しない。酸化アルミニウム微粒子同士が接合することで、軟磁性扁平粉同士が結合される。同様に、軟磁性扁平粉の表面と接触する酸化アルミニウム微粒子が移動できなくなると、接触部位に過大な摩擦熱が発生し、酸化アルミニウム微粒子が摩擦熱で軟磁性扁平粉の表面に接合する。この結果、酸化アルミニウム微粒子同士の接合を介して軟磁性扁平粉同士が結合した圧粉磁心が、金型内に製造される。いっぽう、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合する反応と、酸化アルミニウム微粒子が摩擦熱で軟磁性扁平粉の表面に接合する反応とが起こる際に、酸化アルミニウムの微粒子の数が極めて多いため、これらの反応を起こすには一段と大きな加圧圧力が必要になり、プレス機が受ける反発力が継続して増大する。この時点、すなわち、摩擦熱による酸化アルミニウム微粒子の接合が起きた直後にプレス機に依る圧縮を停止する。このため、軟磁性扁平粉が圧縮される直前に加圧圧力が停止され、軟磁性扁平粉は塑性変形しない。これによって、6段落に記載した第三と第四の課題が解決される。また、軟磁性扁平粉の集まりを充填する金型の大きさと形状の制約はない。これによって、6段落に記載した第六の課題が解決される。
以上に説明した7つの工程からなる圧粉磁心の製造方法は、簡単な処理を連続して実施する方法である。これによって、6段落に記載した第五の課題が解決される。この結果、6段落に記載した本発明が解決すべき全ての課題が解決された。
上記した製造方法で製造した圧粉磁心は、次の作用効果をもたらす。
第一に、圧粉磁心における軟磁性扁平粉の充填率が高いため、圧粉磁心の飽和磁束密度は、軟磁性扁平粉の飽和磁束密度に近づく。このため、磁化された圧粉磁心の磁気エネルギーが大きい。つまり、軟磁性扁平粉の配列を進め、軟磁性粉の扁平面同士が混合液を介して重なり合った集積度が高い軟磁性扁平粉の集まりを、混合機内に形成した。さらに、酸化アルミニウム微粒子で覆われた軟磁性扁平粉を、軟磁性扁平粉の扁平面同士が重なり合った集積度が高い軟磁性扁平粉の集まりとした。この軟磁性扁平粉の集まりをプレス機で圧縮すると、圧縮成形体の圧縮密度が軟磁性扁平粉の密度に近づく。つまり、プレス機で軟磁性扁平粉の集まりを圧縮すると、最初に、軟磁性扁平粉の集まりが金型の形状に成形され、次に、酸化アルミニウム微粒子が継続して移動し、軟磁性扁平粉の集まりの空隙を埋め、また、酸化アルミニウム微粒子が継続して移動すると、隣接した軟磁性扁平粉も移動し、軟磁性扁平粉が再配列し、軟磁性扁平粉の集まりの集積度が高まる。さらに、酸化アルミニウム微粒子が移動できなくなると、酸化アルミニウム微粒子同士が接触し、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合され、酸化アルミニウム微粒子同士の接合によって軟磁性粉扁平同士が結合される。また、酸化アルミニウム微粒子の重量は、軟磁性扁平粉の集まりの重量の1%より少ない。この結果、圧縮成形体の圧縮密度が軟磁性扁平粉の密度に近づく。従って、圧粉磁心の飽和磁束密度は、軟磁性扁平粉の飽和磁束密度に近づく。また、アルミニウム化合物がメタノールと有機化合物との混合液に分散した分散液に、軟磁性扁平粉の集まりを混合させるため、原料として用いる軟磁性扁平粉の形状、大きさ、粒径分布の制約はない。
第二に、歪取り焼鈍処理が不要になる。このため、圧粉磁心を構成する軟磁性扁平粉の保持力は変わらず、圧粉磁心におけるヒステリシス損失の増大がない。さらに、軟磁性扁平粉を塑性変形させないため、硬度の如何に関わらず、全ての軟磁性扁平粉を原料として用いることができる。つまり、硬度が高い軟磁性扁平粉ほど、圧縮成形体を形成する加圧圧力が増大する。これによって、軟磁性扁平粉の塑性変形が進み、軟磁性扁平粉の歪が増大し、圧縮成形体の焼鈍温度が高まり、軟磁性扁平粉の保持力の復元が困難になる。あるいは、焼鈍費用が高まる。従って、歪取り焼鈍処理が不要になる効果は大きい。つまり、軟磁性扁平粉の集まりを圧縮する際に、酸化アルミニウム微粒子が移動できなくなると、酸化アルミニウム微粒子同士が接触し、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合する反応が起きる。また、酸化アルミニウム微粒子が軟磁性扁平粉の表面と接触し、摩擦熱で軟磁性扁平粉の表面に酸化アルミニウム微粒子が接合する反応が起きる。この摩擦反応が起きた際に、酸化アルミニウム微粒子の数が極めて多いため、プレス機が受ける反発力が継続して増大し、この時点、すなわち、摩擦反応が起きた直後に、プレス機に依る圧縮を停止する。このため、軟磁性扁平粉が圧縮される直前で、軟磁性扁平粉への加圧圧力が停止され、軟磁性粉は塑性変形せず、軟磁性粉の保持力が増大しない。また、軟磁性粉を塑性変形させないため、軟磁性扁平粉の硬度に左右されず、全ての軟磁性扁平粉を圧粉磁心の原料として用いることができる。この結果、歪取り焼鈍処理が不要になり、圧粉磁心の製造費用が安価で済む。
つまり、従来の圧粉磁心の製造方法は、過大な加圧圧力を軟磁性粉に加え、硬度が高い軟磁性粉を十分に塑性変形させ、軟磁性粉の集まりの空隙を塑性変形した軟磁性粉で埋めるとともに、塑性変形した軟磁性粉同士が絡み合う。この結果、圧縮成形体の圧縮密度が軟磁性粉の密度に近づき、また、圧縮成形体に必要な機械的強度を発生させた。これに対し、本製造方法では、酸化アルミニウムの微粒子が、集積密度の高い軟磁性扁平粉の集まりの空隙を埋めるとともに、摩擦熱によって酸化アルミニウム微粒子同士を接合させ、この酸化アルミニウム微粒子同士の接合で、軟磁性扁平粉同士を結合させた。このため、軟磁性扁平粉を塑性変形させる必要がない。
第三に、従来の圧粉磁心より絶縁抵抗が大きい絶縁体で軟磁性粉が絶縁化され、従来の圧粉磁心より渦電流損失が小さい。すなわち、アルミニウム化合物の熱分解で析出した酸化アルミニウムは、40-60nmの大きさからなる粒状微粒子で、この粒状微粒子の集まりが積層して軟磁性扁平粉を絶縁化する。酸化アルミニウム微粒子が粒状であるため、酸化アルミニウム微粒子より体積が小さいが、酸化アルミニウム微粒子の数に近い空孔が、酸化アルミニウム微粒子に隣接して多数存在する。この空孔は、体積抵抗率が酸化アルミニウムよりさらに2桁大きい、1017Ω・cmを超える空気が占める。従って、積層した酸化アルミニウム微粒子の集まりが形成する絶縁抵抗は、酸化アルミニウム微粒子からなる抵抗体と、空気からなる空孔の抵抗体とが直列接続して絶縁抵抗を形成する。さらに、酸化アルミニウム微粒子と空孔との数が極めて多い。従って、軟磁性扁平粉を絶縁化する絶縁抵抗は、バルクからなる酸化アルミニウムが、体積抵抗率が1015Ω・cmに基づいて形成する絶縁抵抗より3桁増大する。この結果、軟磁性粉を、体積抵抗率が1014-1015Ω・cmからなる高分子材料で絶縁化させた圧粉磁心より、絶縁性が3桁増大する。また、酸化アルミニウムと空気との双方の絶縁抵抗の周波数依存性が小さい。従って、圧粉磁心の渦電流損失は、高い周波数領域においても極めて小さい。これによって、圧粉磁心の複素透磁率の虚部が増大する。
第四に、全ての軟磁性扁平粉を扁平面方向に揃え、酸化アルミニウム微粒子の集まりを介して、軟磁性扁平粉が扁平面同士で重ね合って結合する。軟磁性扁平粉の扁平面方向は、軟磁性扁平粉の磁化容易軸方向であり、全ての軟磁性扁平粉が扁平面方向に揃った圧粉磁心は、磁化されやすく、透磁率が増大する。このため、圧粉磁心は磁化されやすく、磁気エネルギーを取り込みやすくなる。
第五に、安価な手段で軟磁性扁平粉が絶縁化される。つまり、酸化アルミニウムの原料が安価なアルミニウム化合物であり、有機化合物も汎用的な工業用薬品である。また、大気雰囲気の300℃程度の温度で熱分解させて酸化アルミニウム微粒子が生成されるため、安価な原料を用い、安価な処理費用で軟磁性扁平粉が絶縁化される。
第六に、圧粉磁心を製造する製造方法が、前記したように7つの工程からなる簡単な処理を連続して実施する製造方法である。また、歪取り焼鈍が不要になる。この結果、安価な製造費用で圧粉磁心が製造できる。
第七に、製造する圧粉磁心の形状と大きさに制約がない。つまり、軟磁性扁平粉の集まりを充填する金型の大きさと形状に制約がないため、圧粉磁心の形状と大きさに制約がない。
第八に、従来の圧粉磁心に近い機械的強度を持つ圧粉磁心が製造される。つまり、軟磁性扁平粉の全ての扁平面に酸化アルミニウム微粒子が摩擦接合し、接触する全ての酸化アルミニウム微粒子同士が互いに摩擦接合する、ミクロな接合で圧粉磁心を形成するが、酸化アルミニウム微粒子の数が極めて多いため、従来の軟磁性粉の塑性変形によるマクロな接合に近い機械的強度が得られる。つまり、極めて多数の酸化アルミニウム微粒子が軟磁性扁平粉の表面に食い込む際に摩擦熱が発生し、両者の接触部に存在する異物が全て気化し、接触部が清浄化された後に、酸化アルミニウム微粒子が軟磁性扁平粉の表面に摩擦熱で強固に接合する。また、極めて多数の酸化アルミニウム微粒子同士が接触した際に接触部に摩擦熱が発生し、接触部に存在する異物が全て気化し、接触部が清浄化された後に、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で強固に接合する。従って、軟磁性扁平粉を塑性変形させる必要がない。
以上に説明したように、本製造方法に依れば、従来の圧粉磁心より、飽和磁束密度と絶縁性と透磁率とが増大し、渦電流損失が少なく、ヒステリシス損失が増大しない圧粉磁心が製造できる。この結果、従来の圧粉磁心より優れた性能を持ち、従来の圧粉磁心より安価な費用で圧粉磁心が製造できる。
【0009】
7段落に記載した圧粉磁心の製造方法において、段落に記載したアルミニウム化合物が、安息香酸アルミニウムないしはナフテン酸アルミニウムであり、7段落に記載した有機化合物が、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれか1種類のエステル類、ないしは、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれか1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーであり、これらの物質を用い、7段落に記載した圧粉磁心の製造方法に従って圧粉磁心を製造する、圧粉磁心の製造方法。
【0010】
分解で金属酸化物を析出するカルボン酸金属化合物を説明する。カルボン酸金属化合物の中に、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物がある。このカルボン酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンが酸素イオン近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。これによって、金属イオンに配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属酸化物とカルボン酸に分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した後に、金属酸化物が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物の中で、300℃程度の比較的低い温度で熱分解が完了するカルボン酸金属化合物として、カルボン酸の沸点が低い順に、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物がある。従って、酢酸金属化合物、カプリル酸金属化合物、安息香酸金属化合物及びナフテン酸金属化合物は、比較的低い温度の熱分解で金属酸化物を析出する金属化合物である。
いっぽう、カルボキシラートアニオンが金属イオンに共有結合するカルボン酸金属化合物は、イオン同士の結合の中で、酸素イオンと金属イオンとの結合部が最も長いため、熱分解で金属を析出する。
熱分解で酸化アルミニウムを析出するカルボン酸アルミニウム化合物において、酢酸アルミニウムとカプリル酸アルミニウムは、熱分解で無定形アルミナを析出する。このため、熱分解で酸化アルミニウムを析出させる原料として、安息香酸アルミニウムとナフテン酸アルミニウムが存在する。なお、安息香酸の沸点は249℃で、安息香酸アルミニウムは、大気雰囲気の310℃で熱分解が完了し、酸化アルミニウムを析出する。また、ナフテン酸アルミニウムの熱分解温度より340℃で熱分解が完了し、酸化アルミニウムを析出する。従って、7段落に記載した圧粉磁心の製造方法において、アルミニウム化合物として安息香酸アルミニウムないしはナフテン酸アルミニウムを用いる。なお、カルボン酸アルミニウム化合物の熱分解は、大気雰囲気のほうが窒素雰囲気より、熱分解が完了する温度が50-60℃低いため、大気雰囲気での熱処理は、熱処理費用が安価で済む。
次に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点が65℃より高く340℃より低い第三の性質を兼備する有機化合物を、7段落に記載した有機化合物として用いる。
このような有機化合物として、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれか1種類のエステル類、ないしは、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれか1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーが存在する。従って、7段落に記載した圧粉磁心の製造方法において、有機化合物としてこれらの有機化合物のいずれかを用いる。
従って、段落に記載したアルミニウム化合物として安息香酸アルミニウムないしはナフテン酸アルミニウムを用い、7段落に記載した有機化合物として、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれか1種類のエステル類、ないしは、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれか1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーを用い、7段落に記載した製造方法に従って圧粉磁心を製造すると、磁化されやすく、取り込んだ磁気エネルギーが大きい圧粉磁心が金型内に製造される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】圧粉磁心の切断面の一部を拡大して模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態1
本実施形態は、7段落に記載した圧粉磁心の製造方法における有機化合物に関わり、該有機化合物はメタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、粘度がメタノールの粘度より高い第二の性質と、沸点がメタノールの沸点である65℃より高く340℃より低い第三の性質を兼備する。
このような有機化合物として、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれかのエステル類、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれかに属する1種類の有機化合物、ないしは、スチレンモノマーからなる液状モノマーがある。
カルボン酸ビニルエステル類は、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピパリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、クロトン酸ビニル、安息香酸ビニルなどからなるカルボン酸ビニル類である。
例えば、沸点が低いカルボン酸ビニルエステル類に酢酸ビニルがあり、化学式がCHCOO-CH=CHで示され、メタノールに溶解し、メタノールより高い粘度を持ち、沸点が72.7℃である。酢酸ビニルは、酢酸とビニルアルコールとを反応させたエステルで、ポリ酢酸ビニルの合成に用いる原料として用いられている安価な有機化合物である。なお、酢酸ビニルは光や熱で容易に重合するため、微量の重合禁止剤(重合防止剤ともいう)が添加されている。
さらに、モノクロロ酢酸ビニルは、化学式がCl-CHCOO-CH=CHで示され、メタノールに溶解し、沸点が136℃である。モノクロロ酢酸ビニルは、アクリルゴムの架橋サイトとして用いられている安価な有機化合物である。
また、アクリル酸エステル類は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシルなどからなるアクリル酸エステル類である。
例えば、沸点が低いアクリル酸エステル類にアクリル酸メチルがあり、化学式がCH=CH-COOCHで示され、メタノールに溶解し、沸点が80℃である。アクリル酸メチルは、アクリル樹脂の原料として用いられている安価な有機化合物である。なお、アクリル酸メチルは、重合しやすい物質であるため、微量の安定剤が添加されている。
さらに、アクリル酸ブチルは、化学式がCH=CH-COOCで示され、メタノールに溶解し、沸点が148℃である。アクリル酸ブチルは、アクリル酸とn-ブタノールを反応させたエステルで、繊維処理剤、粘接着剤、塗料、合成樹脂、アクリルゴム、エマルションの原料として使用される安価な有機化合物である。なお、アクリル酸メチルは重合しやすい物質であり、微量の安定剤が添加されている。
また、メタクリル酸エステル類は、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどからなるメタクリル酸エステル類である。
例えば、沸点が低いメタクリル酸エステル類にメタクリル酸エチルがあり、化学式がHC=C(CH)COOCで示され、メタノールに溶解し、沸点が117℃である。メタクリル酸エチルは、顔料、塗料、接着剤、繊維処理剤、成形材料、歯科用材料の原料として用いられている安価な有機化合物である。なお、メタクリル酸エチルは、重合しやすい物質であり、微量の安定剤が添加されている。
さらに、メタクリル酸nブチルは、化学式がCHC(CH)COO(CHCHで示され、メタノールに溶解し、沸点が163.5℃である。メタクリル酸nブチルは、塗料、分散剤、繊維処理剤の原料として用いられている安価な有機化合物である。なお、メタクリル酸nブチルは、光や熱で容易に重合するため、微量の重合防止剤が添加されている。
また、グリコール類はアルコールの一種で、鎖式脂肪族炭化水素の2つの炭素原子に1つずつヒドロキシ基が置換している構造を持つ化合物である。沸点が低いグリコール類にエチレングリコールがあり、化学式がC(OH)で示され、メタノールと混和し、沸点が197.3℃である。エチレングリコールは、溶媒、不凍液、合成原料などとして広く用いられている安価な有機化合物である。
さらに、化学式がO(CHCHOH)で示されるジエチレングリコールは、メタノールと混和し、沸点が244.3℃である。ジエチレングリコールは不凍液の他に、ブレーキ液、潤滑剤、インキ、たばこの保湿剤、織物の柔軟剤、コルクの可塑剤、接着剤、紙、包装材料、塗料などに使われている安価な有機化合物である。
また、化学式がCHCHOHCHOHで示されるプロピレングリコールは、メタノールと混和し、沸点が188.2℃である。プロピレングリコールは、保湿剤、潤滑剤、乳化剤、不凍液、プラスチックの中間原料、溶媒などとして用いられている他に、保湿性や防カビ性に富むことから医薬品や化粧品、麺やおにぎりなどの品質改善剤等、広範囲で用いられている安価な有機化合物である。
さらに、ジプロピレングリコールは、化学式が[CHCH(OH)CHOで示され、メタノールと混和し、沸点が232.2℃である。ジプロピレングリコールは、ポリエステル樹脂の中間原料や水圧機器の作動油、不凍液、印刷インキ原料などに用いられている安価な有機化合物である。
また、トリプロピレングリコールは、化学式が[CHCH(OH)CHOで示され、メタノールと混和し、沸点が265℃である。トリプロピレングリコールは、潤滑油・カッティングオイルの原料、ポリウレタン・アクリル酸エステル中間体の原料、塗料・インキ溶剤、不凍液、飼料添加剤、ポリエステル樹脂の中間原料、水溶性油剤の溶剤などに用いられている安価な有機化合物である。
さらに、グリコールエーテル類は、一分子内にエーテル基と水酸基の両方を有し、水や多くの有機溶剤、さらに、樹脂の溶解性も高い溶剤で、殆どのグリコールエーテル類がメタノールに溶解する。次の3種類のグリコールエーテル類がある。エチレングリコール系エーテルと、プロピレングリコール系エーテルとは、塗料、インキ、染料、写真複写液、洗浄剤、電解液、ソリュブルオイル、作動油、ブレーキ液、冷媒、凍結防止剤等に使用されている安価な有機化合物である。また、ジアルキルグリコールは、さらに、反応溶剤、分離抽出剤、重合溶剤、分解防止及び安定剤、電池やコンデンサーの電解液等に使用されている安価な有機化合物である。
例えば、沸点が低いエチレングリコール系エーテルに、エチレングリコールモノメチルエーテルがあり、化学式がCHO-(CHCHO)-Hで示され、メタノールに溶解し、沸点が124.5℃である。また、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルは、化学式が(CHCHO-(CHCHO)-Hで示され、メタノールに溶解し、沸点が141.8℃である。
また、沸点が高いエチレングリコール系エーテルに、トリエチレングリコールモノブチルエーテルがあり、化学式がCO-(CHCHO)-Hで示され、メタノールに溶解し、沸点が271.2℃である。また、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルは、化学式がC-CCHCHO-(CHCHO)-Hで示され、メタノールに溶解し、沸点が272℃である。
さらに、沸点が低いプロピレングリコール系エーテルに、プロピレングリコールモノメチルエーテルがあり、化学式がCH-CHO-(CHCHO)-Hで示され、メタノールに溶解し、沸点が121℃である。
また、沸点が高いプロピレングリコール系エーテルに、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルがあり、化学式がCH-C-(CHCHO)-Hで示され、メタノールに溶解し、沸点が274℃である。
さらに、沸点が低いジアルキルグリコールに、エチレングリコールジメチルエーテルがあり、化学式がCHO-(CHCHO)-CHで示され、メタノールに溶解し、沸点が85.2℃である。
また、沸点が高いジアルキルグリコールに、ジエチレングリコールジブチルエーテルがあり、化学式がCO-(CHCHO)-Cで示され、メタノールに溶解し、沸点が274℃である。
さらに、スチレンモノマーは化学式がCCH=CHで示され、メタノールと混和し、沸点が145℃の液状モノマーである。スチレンモノマーは、ポリスチレンを始めとして、発泡ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、不飽和ポリエステルなどの合成樹脂材料の原料となる安価な有機化合物である。スチレンモノマーは容易に重合するため、微量の重合禁止剤が添加されている。
以上に説明したように、カルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類からなるいずれか1種類のエステル類、ないしは、グリコール類、グリコールエーテル類のいずれかに属する1種類の有機化合物に、前記した3つの性質を兼備する有機化合物が存在する。また、スチレンモノマーは、前記した3つの性質を兼備する。従って、これらの有機化合物は、7段落に記載した圧粉磁心の製造方法における有機化合物として用いられる。
【0013】
実施形態2
本実施形態は、圧粉磁心の原料として用いる軟磁性粉に関わる。圧粉磁心が実装された電気製品の動作周波数領域と、この周波数領域における圧粉磁心の磁束密度の大きさから、軟磁性粉が選択される。いっぽう、圧粉磁心の飽和磁束密度を高めるには、圧粉磁心における軟磁性粉の充填率を高める必要がある。軟磁性粉の充填率を高めるには、軟磁性粉の集まりに大きな加圧圧力を加え、軟磁性粉の塑性変形を進める必要がある。従って、多くの軟磁性粉の硬度が高いため、予め軟磁性粉を焼鈍し、軟磁性粉の硬度を下げる。また、塑性変形が進んだ軟磁性粉は保持力が増大するため、圧粉磁心の磁気焼鈍によって、軟磁性粉の保持力を元に戻し、圧粉磁心の鉄損を下げている。
モータにおけるステーターやローターを構成する圧粉磁心は、動作周波数は低いが、飽和磁束密度が高い。こうした用途には、軟磁性粉の中で飽和磁束密度が最も高い純鉄粉が用いられる。これとは反対に、電源回路におけるリアクトルやノイズフィルターやチョークコイルなどを構成する圧粉磁心は、動作周波数が高いが、飽和磁束密度は低い。こうした用途には、Fe-Si系合金粉、Fe-Si-Al系合金粉、Fe-Ni系合金粉が用いられる。なお、アモルファス系の合金粉は多種多様の磁気特性を持ち、合金の組成によって個別の特性を持つため、ここでは取り上げない。
純鉄粉は、飽和磁束密度が2.2テスラで、軟磁性粉の中で最も飽和磁束密度が高く、さらに、硬度が相対的に低く、水素焼鈍した純鉄粉は塑性変形しやすいため、圧粉磁心における充填密度が高く、圧粉磁心の飽和磁束密度がさらに高まる。このため、磁気エネルギーを必要とするモータのステーターやローターを構成する圧粉磁心に用いられる。例えば、ビッカース硬度が75-87HVの値を持つアトマイズ鉄粉は、軟磁性粉の中では硬度が最も低く、水素焼鈍したアトマイズ鉄粉を用いた圧縮成形体の圧縮密度は鉄の密度の90%に近い。いっぽう、還元鉄粉のビッカース硬度は160-210HVで、アトマイズ鉄粉の硬度の2倍を超えるが、多くの空隙を持つ多孔質体であるため塑性変形しやすい。しかし、圧粉磁心の製造に当たっては、水素焼鈍によって硬度を低下させる。いっぽう、純鉄粉は、透磁率が軟磁性粉の中で最も小さく、圧粉磁心に磁気エネルギーが取り込みにくいという欠点を持つ。また、保持力が80A/mと大きく、ヒステリシス損失が大きい。まさらに、体積抵抗率が1×10-5Ω・cmからなる導電体である。
いっぽう、鉄にケイ素を含有させると透磁率が増大するが、ケイ素の含有量が5質量%を超えると著しく脆くなり、Fe-Si系合金の多くは、ケイ素の含有量は5質量%未満である。また、鉄にケイ素を含有させると電気抵抗が増えるが、3質量%のFe-Si系合金の体積抵抗率は5×10-5Ω・cmと導電性である。また、3質量%のFe-Si系合金の保持力は、65A/mと大きくヒステリシス損失も大きいが、飽和磁束密度は1.3テスラと高い。また、ビッカース硬度が180-205HVであり、焼鈍によって硬度を低下させて圧粉磁心の原料に用いる。このようにFe-Si系合金の磁気特性は還元鉄粉に近いが、還元鉄粉より腐食しにくいため、Fe-Si系合金は純鉄粉と同様に、モータのステーターやローターを構成する圧粉磁心に用いられる。
さらに、鉄にニッケルを含有させたFe-Ni系合金のパーマロイは、鉄に比べると透磁率は著しく増大するが、飽和磁束密度は小さい。また、ニッケルの含有量が多いほど高価になり、ニッケルの含有量は50質量%以下に抑制される。また、水素雰囲気の1100℃で3時間ほど磁性焼鈍を行い、不純物を除去し、パーマロイの磁気特性を整える。ここで、ニッケルが45質量%のパーマロイを代表させて性質を示す。直流磁気特性は、初透磁率が3000で、飽和磁束密度が1.4テスラで、保持力は16A/mで、純鉄粉に比べると飽和磁束密度は小さいが、他の軟磁性粉より大きい。また、交流磁気特性は、板厚が0.1mmのパーマロイで、1kHzにおける実効透磁率が3000で、3kHzで2500である。また、物理的性質は、密度が8.25g/cmで鉄より5%ほど高く、体積抵抗率が5×10-5Ω・cmと導電性で、磁気キュリー点が420℃で鉄より350℃低く、硬度はロックウェル硬度で60-90HRB(ビッカース硬度で110-190HVに相当する)である。従って、パーマロイは、交流の透磁率特性と飽和磁束密度に優れるためトランスコア、モータコアやリレー用鉄心に用いられる。
また、鉄にケイ素とアルミニウムとを加えたFe-Si-Al系合金は、硬度が高くて脆いため、容易に粉体化される。特に、Fe-10質量%Si-6質量%Alの組成からなるセンダスト(東北大学の登録商標)は、透磁率が1.2×10と大きく磁化されやすく、保持力が0.1A/mと小さいためヒステリシス損失が少なく、飽和磁束密度は1テスラでパーマロイに近い。また、体積抵抗率が8×10-5Ω・cmからなる導電体である。いっぽう、ビッカース硬度が410HVと高く、焼鈍によって硬度を下げるが、純鉄粉ほどの充填率は得られない。また、センダストからなる圧粉磁心を80-120℃で使用すると、鉄損が常温より増大し、鉄損に依る発熱がさらに鉄損の増大をもたらし、大出力のトランスでは熱暴走する危険性があった。しかし、最近、Fe-8.8質量%Si-6.0質量%Alの組成とすることで、鉄損が下がるとともに、鉄損の温度係数が負になることが分かった(非特許文献1参照)。
さらに、鉄にクロムとアルミニウムとモリブデンと加えた電磁ステンレス鋼の中で、Fe-13質量%Cr-0.2質量%Al-1質量%Moからなる電磁ステンレス鋼は、透磁率は大きいが、保持力が85A/mと大きくヒステリシス損失が大きい。いっぽう、磁束密度は1.35テスラでパーマロイ並みである。また、ロックウェル硬度が70HRB(ビッカース硬度で130HVに相当する)で、アトマイズ鉄粉より硬く、還元鉄粉より柔らかい。また、耐食性に優れる。このため、電磁ステンレス鋼は、パルス磁場に対する応答性に優れることから、自動車の電磁弁に用いられている。また、体積抵抗率が6.5×10-5Ω・cmの導電体である。
以上に様々な種類の軟磁性粉について、代表的な組成からなる軟磁性粉の特性を記載した。いずれの軟磁性粉も導電体であるため、軟磁性粉の絶縁化が必要になる。本発明における耐熱性と絶縁性とが高い酸化アルミニウム微粒子の集まりで、軟磁性粉を絶縁化すれば、渦電流損失が著しく低減する。また、800℃を超える温度での焼鈍が可能になり、圧粉磁心のヒステリシス損失が低減できる。また、圧粉磁心の密度を軟磁性粉の密度に近づけるため、軟磁性粉を予め焼鈍によって硬度を下げる。従って、本発明における集積度を高めた軟磁性粉を面同士で重ね合わせ、該軟磁性粉の集まりを圧縮し、軟磁性を塑性変形させずに圧粉磁心を製造する効果は大きい。
【0014】
実施形態3
本実施形態は、軟磁性粉の中で最も安価な材料であるアトマイズ鉄粉および還元鉄粉を用いて作成した圧粉磁心の実施形態であり、非特許文献2に記載されている。また、2種類の圧粉磁心の実施形態から、本発明の圧粉磁心を製造する方法の優位性を説明する。なお、非特許文献2で用いたアトマイズ鉄粉のビッカース硬度が100で、還元鉄粉のビッカース硬度が60と双方の硬度が、研磨剤などで用いる鉄粉に比べ硬度が低い。このため、製造された鉄粉を、さらに水素焼鈍によって硬度を低下させたと考えられる。
なお、鉄粉の初透磁率は、鉄粉の製造条件によって不純物濃度が変わり、ケイ素とマンガンとの不純物濃度によって、初透磁率が変わる。非特許文献2で用いた還元鉄粉は、ケイ素の濃度が0.05質量%で、マンガンの濃度が0.25質量%である。これに対し、非特許文献2で用いたアトマイズ鉄粉は、ケイ素の濃度は0.01質量%と低く、マンガンの濃度も0.04質量%と低い。このため、初透磁率は、還元鉄粉のほうがアトマイズ鉄粉より大きい。
圧粉磁心の製作は、双方の鉄粉に、絶縁材料としてエポキシ樹脂の0.75質量%と、潤滑材料としてステアリン酸亜鉛の0.5質量%とを加え、490MPaと686MPaとの2種類の加圧圧力を加え、外径が38mmで内径が25mmで厚みが6.2mmのリング形状に成形した。この後、圧粉体を大気中の180℃で熱処理し、エポキシ樹脂を硬化し、圧粉磁心を製作した。なお、ステアリン酸亜鉛は融点が140℃であり、エポキシ樹脂を重合する際に液化し、潤滑剤としての機能を発揮する。
なお、エポキシ樹脂は、体積抵抗率が1015Ω・cmと絶縁性に優れるが、耐熱性が200℃より低い。また、ステアリン酸亜鉛は、420℃で熱分解し、有毒な一酸化炭素、二酸化炭素、酸化亜鉛のガスと固体粒子になる。従って、製作した圧粉磁心は、耐熱性が200℃より低く、保持力を元に戻す焼鈍処理ができないまた。また、加圧圧力の大きさから、双方の鉄粉は塑性変形が進んでいる。しかし、180℃の熱処理では焼鈍効果がないため、圧粉磁心のヒステリシス損失は大きい。
490MPaの加圧圧力を加えた還元鉄粉からなる圧粉磁心は、密度が6.74g/cmで、充填率が85.8%に相当し、直流の初透磁率が71.1である。686MPaの加圧圧力を加えた還元鉄粉からなる圧粉磁心は、密度が6.95g/cmで、充填率が88.4%に相当し、直流の初透磁率が75.7である。これに対し、490MPaの加圧圧力を加えたアトマイズ鉄粉からなる圧粉磁心は、密度が6.87g/cmで、充填率が87.4%に相当し、直流の初透磁率が64.2である。686MPaの加圧圧力を加えたアトマイズ鉄粉からなる圧粉磁心は、密度が7.06g/cmで、充填率が89.8%に相当し、直流の初透磁率が68.7である。
還元鉄粉からなる圧粉磁心の交流の初透磁率は、10kHzにおいて74で、周波数が高まるほど初透磁率が緩やかに低下し、300kHz付近から低下率が増える。これに対し、アトマイズ鉄粉からなる圧粉磁心の交流の初透磁率は、還元鉄粉の圧粉磁心の交流の初透磁率の周波数特性を、10だけ初透磁率を下方に移動した周波数特性を示している。
さらに、2種類の鉄粉を加圧した際の鉄粉の圧密化の挙動は、加圧圧力に対して空隙率が減少する割合は、2種類の鉄粉において同様の特性を示している。なお、空隙率の減少は、鉄粉の塑性変形と再配列とに依る。2種類の鉄粉は、100MPaの圧力において鉄粉の再配列が終了し、また、50MPa付近の加圧圧力から塑性変形が開始されている。従って、50MPa付近までの圧力では、鉄粉の再配列によって空隙が減少し、100MPaまでの圧力では、鉄粉の再配列と鉄粉の塑性変形とによって空隙が減少し、100MPa以上の圧力では、鉄粉の塑性変形によって空隙が減少する。従って、490MPaの加圧圧力を加えて製作した圧粉磁心は、鉄粉の塑性変形が十分に進んでいる。このため、圧粉磁心のヒステリシス損失が増大している。
ここで、2種類の圧粉磁心の測定結果について検討する。
第一に、圧縮成形体の圧縮密度は、同一の加圧圧力に対し、アトマイズ鉄粉のほうが圧縮密度は高い。しかし、圧縮密度の差は僅か2%に過ぎない。いっぽう、使用した還元鉄粉のビッカース硬度は、使用したアトマイズ鉄粉の0.6倍で塑性変形しやすい。しかし、双方の鉄粉が、50MPa付近の圧力から塑性変形が開始され、490MPaの加圧圧力では、双方の鉄粉は塑性変形が十分に進んでいる。このため、鉄粉の硬度の違いが、圧縮密度の違いに与える影響は小さい。いっぽう、還元鉄粉は、多くの空隙を持つ多孔質体で、加圧圧力に対して潰れやすいが、塑性変形した鉄粉における空隙率が高い。従って、圧縮密度の違いは、塑性変形後の還元鉄粉の空隙率が高いことに依ると考える。
第二に、還元鉄粉における直流の初透磁率は、アトマイズ鉄粉における直流の初透磁率より10%も大きい。さらに、10kHzから1MHzにおける交流の初透磁率は、還元鉄粉からなる圧粉磁心は、アトマイズ鉄粉からなる圧粉磁心より、15%も大きい。前記したように、還元鉄粉はケイ素とマンガンとの不純物濃度が高いため、初透磁率が大きい。さらに、還元鉄粉の扁平効果に依って、初透磁率が増大した。つまり、アトマイズ鉄粉は、輪郭が不定形であり、加圧すると等方的に変形する。これに対し、還元鉄粉も輪郭が不定形であるが、多孔質体であるため、還元鉄粉は加圧方向に潰れやすく、加圧方向に垂直な方向に変形しやすい。つまり、磁化の容易軸方向である面方向に還元鉄粉が変形し、反磁場係数が小さくなり、還元鉄粉の初透磁率が増大した。この現象は、軟磁性粉を扁平処理すると、透磁率が増大する現象に類似している。
第三に、2種類の鉄粉の塑性変形は、50MPa付近から開始されるため、490MPaの加圧圧力では、2種類の鉄粉の塑性変形が進み、保持力が増加した鉄粉で圧粉磁心が形成される。しかし、圧粉磁心の熱処理は、エポキシ樹脂の硬化処理温度である180℃である。従って、180℃の熱処理では、保持力を元に戻す焼鈍効果はない。また、2種類の鉄粉の輪郭が不定形で、形状異方性を持たない。このような鉄粉の集まりを圧縮し、圧縮成形体として必要な機械的強度を実現させるには、490MPaの加圧圧力が必要になる。この加圧圧力によって鉄粉の塑性変形が進み、鉄粉同士の絡み合いで、圧縮成形体に必要な機械的強度が実現する。しかし、圧粉磁心のヒステリシス損失は増大する。
ここで、2種類の圧粉磁心の結果に対する、本発明の圧粉磁心の製造方法の優位性を説明する。
第一に、酸化アルミニウム微粒子の集まりで鉄粉を絶縁化すれば、耐熱性が鉄粉の耐熱性より高いため、歪取り焼鈍が可能になり、鉄粉の保持力が元に戻る。また、酸化アルミニウム微粒子の集まりが、鉄粉同士の間隙と還元鉄粉の空隙を埋め、圧縮密度が増大するとともに、間隙と空隙を埋め尽くした酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合し、圧粉磁心としての機械的強度の実現に貢献する。また、鉄粉の間隙と空隙とを摩擦熱で接合した酸化アルミニウム微粒子が埋めるため、鉄粉同士の間隙を流れる渦電流が減少する。
第二に、鉄粉が不定形であっても、鉄粉の集まりを面同士で重なり合った鉄粉の集まりとし、鉄粉の集まりを圧縮すると、面同士で重なり合った鉄粉同士の間隙が狭まり、圧縮密度が高まる。また、全ての鉄粉が面同士で重なり合い、磁化の容易軸方向が面方向であるため、圧粉磁心が磁化されやすくなり、鉄粉の初透磁率が増大する。
第三に、鉄粉が塑性変形する前に加圧圧力を停止し、酸化アルミニウム微粒子同士の接合を介して鉄粉同士を結合すれば、圧粉磁心におけるヒステリシス損失は増加せず、また、圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。
この結果、アトマイズ鉄粉および還元鉄粉を用い、本発明の圧粉磁心の製造方法に従って製造した圧粉磁心は、初透磁率が増大し、渦電流損失が低減し、ヒステリシス損失が増大しない。
【0015】
実施形態4
本実施形態は、還元鉄粉を用いて製作した圧粉磁心と、扁平還元鉄粉を用いて製作した圧粉磁心との性能を比較する実施形態であり、非特許文献3に記載されている。また、2種類の圧粉磁心の実施形態から、本発明の圧粉磁心を製造する方法の優位性を説明する。
双方の鉄粉に、絶縁材料としてのエポキシ樹脂を1質量%として加え、潤滑材料としてのステアリン酸亜鉛を0.1質量%として加え、490MPaと686MPaとの加圧圧力を加え、外径が38mmで内径が25mmで厚みが6.2mmのリング形状に成形し、この後、圧粉体を大気中の180℃で30分間熱処理し、エポキシ樹脂を硬化させて圧粉磁心を製作した。なお、180℃で30分間熱処理しても、還元鉄粉の保持力を元に戻すことができず、圧粉磁心におけるヒステリシス損失が大きい。
490MPaの加圧圧力で製作した圧粉磁心において、扁平還元鉄粉では、圧縮密度が6.93g/cmで充填率が88.0%で直流の初透磁率が94.9である。これに対し、還元鉄粉では、圧縮密度が6.74g/cmで充填率が85.7%で直流の初透磁率が72.1である。また、686MPaの加圧圧力で製作した圧粉磁心において、扁平還元鉄粉では、圧縮密度が7.09g/cmで充填率が90.0%で直流の初透磁率が99.1である。これに対し、還元鉄粉では、圧縮密度が6.97g/cmで充填率が88.5%で直流の初透磁率が78.1である。いずれの還元鉄粉も、圧縮応力を高めると圧縮密度と直流の初透磁率とが高まる。
また、686MPaの加圧圧力で圧縮した圧粉磁心は、10-200kHzにおける交流の初透磁率は、扁平還元鉄粉の圧粉磁心の初透磁率が100で、還元鉄粉の圧粉磁心の初透磁率が80で、初透磁率が20%増加している。なお、200kHz-1MHzにおいては周波数が高くなるほど、初透磁率の差が徐々に少なくなる。
また、50mTの磁束密度における鉄損は、扁平還元鉄粉を用いた圧粉磁心の鉄損は、還元鉄粉を用いた圧粉磁心の鉄損より小さく、周波数が高まるほど、両者の差が広がる。つまり、同一の物質と同一の質量数で双方の鉄粉を絶縁化しているにもかかわらず、扁平還元鉄粉を用いた圧粉磁心のほうが鉄損は小さい。
ここで、2種類の圧粉磁心の測定結果について検討する。
第一に、扁平還元鉄粉を用いた圧縮成形体における扁平還元鉄粉同士の間隙が、還元鉄粉を用いた場合に比べ、相対的に狭くなり、圧縮密度が増大した。しかし、圧縮密度の差は僅かに2ないし3%に過ぎない。また、686MPaの加圧圧力で製作した圧粉磁心に於ける充填率と、490MPaの加圧圧力で製作した圧粉磁心に於ける充填率との比率は、扁平還元鉄粉を用いた圧粉磁心では1.023であるに対し、還元鉄粉を用いた圧粉磁心では1.033である。全ての扁平還元鉄粉が扁平面同士で重なり合っていれば、前記した圧粉密度の差が2ないし3%より広がり、また、扁平還元鉄粉を用いた場合の充填率の比率が1.023より大きくなる。従って、扁平面同士で重なり合った扁平還元鉄粉は一部に留まっている。いっぽう、全ての扁平還元鉄粉が扁平面同士で重なり合うと、圧粉磁心に必要な機械的強度が実現できない問題点が現れる。このため、扁平還元鉄粉の集まりを単純に圧縮した。
第二に、扁平還元鉄粉を用いた圧粉磁心では、還元鉄粉を用いた圧粉磁心に比べ、直流の初透磁率が、490MPaの加圧圧力で31%増加し、686MPaの加圧圧力で27%増大した。また、686MPaの加圧圧力で作成した圧粉磁心において、10-200kHzの周波数で、初透磁率が20%増加した。つまり、扁平還元鉄粉に加圧圧力を加えると、扁平還元鉄粉が潰れ、一定の割合からなる扁平還元鉄粉が、扁平面方向に変形し、扁平率が増大する。この扁平面方向が磁化容易軸方向であるため、扁平効果に依って初透磁率が増加した。このため、扁平還元鉄粉を用いた圧粉磁心と、還元鉄粉を用いた圧粉磁心との間に、初透磁率の差が表れた。
第三に、圧粉磁心における鉄損の結果は、還元鉄粉の形状は不定形で、扁平還元鉄粉の形状は面方向に扁平化されていることに依る。つまり、扁平還元鉄粉からなる圧縮成形体における扁平還元鉄粉同士の間隙が狭くなり、圧縮密度が増大した。扁平還元鉄粉同士の間隙が狭くなると、隣接する扁平還元鉄粉間の絶縁性が高くなり、扁平還元鉄粉同士の間隙を流れる渦電流が少なくなり、扁平還元鉄粉を用いた圧粉磁心の渦電流損失が、還元鉄粉を用いた圧粉磁心の渦電流損失より小さくなった。
ここで、2種類の圧粉磁心の結果に対する、本発明の圧粉磁心の製造方法の優位性を説明する。
第一に、耐熱性が還元鉄粉より高い酸化アルミニウム微粒子の集まりで、還元鉄粉を絶縁化すれば、歪取り焼鈍が可能になり、保持力が元に戻り、圧粉磁心のヒステリシス損失が減少する。また、大きさがエポキシ樹脂のペレットより3桁小さい酸化アルミニウム微粒子の集まりが、還元鉄粉同士の間隙と還元鉄粉の空隙を酸化アルミニウム微粒子が埋め尽くし、圧縮密度が増大する。また、間隙と空隙を埋め尽くした酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合し、圧粉磁心としての機械的強度が実現する。これによって、還元鉄粉および扁平還元鉄粉の塑性変形が不要になり、圧粉磁心のヒステリシス損失は小さい。
第二に、還元鉄粉が不定形であっても、還元鉄粉の集まりを面同士で重なり合った集積度が高い鉄粉の集まりとし、還元鉄粉の集まりを圧縮すると、全ての還元鉄粉について、面同士で重なり合った還元鉄粉の間隙が狭まり、圧縮密度が高まる。扁平還元鉄粉では、扁平面同士が重なり合った扁平還元鉄粉の集まりを圧縮するため、圧縮密度がさらに高まる。また、全ての還元鉄粉ないしは全ての扁平還元鉄粉が、扁平面の方向に揃っているため、圧粉磁心の初透磁率がさらに増える。また、還元鉄粉同士の間隙ないしは扁平還元鉄粉同士の間隙がより狭くなり、より狭くなった間隙が、絶縁性の高い酸化アルミニウム微粒子で埋め尽くされ、間隙を流れる渦電流はさらに減少する。この結果、初透磁率が増加する。
第三に、双方の鉄粉が塑性変形する前に加圧圧力を停止し、酸化アルミニウム微粒子同士の接合を介して双方の鉄粉同士を結合すれば、圧粉磁心におけるヒステリシス損失は増加せず、また、圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。
この結果、還元鉄粉および扁平還元鉄粉を用い、本発明の圧粉磁心の製造方法に従って製造した圧粉磁心は、初透磁率が増大し、渦電流損失が低減し、ヒステリシス損失が増大しない。
【0016】
実施形態5
本実施形態は、アトマイズ鉄粉を用いて製作した圧粉磁心の実施形態であり、非特許文献4に記載されている。また、圧粉磁心の実施形態から、本発明の圧粉磁心を製造する方法の優位性を説明する。
アトマイズ鉄粉に0.5重量%のエポキシ樹脂粉末を添加し、フローティングダイ方式の金型で、196-686MPaからなる4種類の加圧圧力を加え、外径が38mmで内径が25mmで高さが6.5mmのリングに成形し、この後、150℃で1時間キュアリングして4個の圧粉磁心を製作した。なお、150℃でのキュアリングでは、アトマイズ鉄粉の保持力を元に戻す焼鈍効果はない。
196MPaの加圧圧力で成形した圧粉磁心は、充填率が76%で、直流の初透磁率が49である。294MPaの加圧圧力で成形した圧粉磁心は、充填率が81%で、直流の初透磁率が60である。490MPaの加圧圧力で成形した圧粉磁心は、充填率が87%で、直流の初透磁率が72である。686MPaの加圧圧力で成形した圧粉磁心は、充填率が91%で、直流の初透磁率が78である。
いっぽう、非特許文献2に記載されたアトマイズ鉄粉からなる圧粉磁心は、490MPaの加圧圧力を加えた圧粉磁心の充填率が87.4%で、直流の初透磁率が64.2であった。686MPaの加圧圧力を加えた圧粉磁心の充填率が89.8%で、直流の初透磁率が68.7であった。非特許文献4に記載された圧粉磁心に比べると、同一の加圧圧力において、充填率の値は近いが、直流の透磁率は小さい。この理由は、不純物の濃度に依る。非特許文献2におけるケイ素の濃度が0.01質量%で、マンガンの濃度が0.04質量%である。これに対し、非特許文献4では、ケイ素の濃度が0.029質量%と高く、マンガンの濃度が0.069質量%と高い。非特許文献4のアトマイズ鉄粉は、ケイ素とマンガンとの濃度が高いため、初透磁率が大きくなった。
また、非特許文献2に記載された圧粉磁心に用いたアトマイズ鉄粉は、非特許文献4に記載された圧粉磁心に用いたアトマイズ鉄粉に比べ粒径が小さい。例えば、非特許文献2に記載されたアトマイズ鉄粉は、粒径が180μmより大きいアトマイズ鉄粉は存在しない。また、粒径が45μm以下のアトマイズ鉄粉が23%を占める。これに対し、非特許文献4に記載されたアトマイズ鉄粉は、粒径が200-250μmのアトマイズ鉄粉は11.2%を、粒径が250-325μmのアトマイズ鉄粉は20.1%を、粒径が325μm以上のアトマイズ鉄粉が23.2%を占める。また、粒径が80μm以下のアトマイズ鉄粉が僅か0.1%である。
さらに、加圧圧力を増大させるほど、複素透磁率の実部と虚部の値が少しずつ増大するとともに、複素透磁率の実部と虚部の値の低下が始まる周波数が、少しずつ低周波数側にずれる結果が示されている。294MPaの加圧圧力では、500kHz付近まで実部が80の値を持つ。また、周波数が500kHzより増大するにつれ実部が徐々に減少する。これに対し、複素透磁率の虚部は、60kHz付近から徐々に増大し、1MHzを超えた周波数領域でピーク値の20を持ち、200MHzを超えた周波数で実部に重なる。
ここで、圧粉磁心の測定結果について検討する。
第一に、圧縮密度の結果について検討する。圧粉磁心に用いるアトマイズ鉄粉の粒径が小さいほど、圧縮密度が増大すると予想される。非特許文献2で用いたアトマイズ鉄粉は、非特許文献4で用いたアトマイズ鉄粉に比べ、明らかに粒径が小さい。粒径の大きさに明らかに違いがあるにもかかわらず、圧粉磁心の充填率の差は殆どない。いっぽう、アトマイズ鉄粉は50MPa付近の加圧圧力から塑性変形が開始され、490MPaの加圧圧力では、アトマイズ鉄粉の塑性変形が相当進んでいる。従って、鉄粉の塑性変形が進み、鉄粉の粒径分布の違いにも関わらず、鉄粉の充填率は変わらない結果になった。つまり、圧粉磁心として必要な機械的強度を得るために、490MPa程度の加圧圧力でアトマイズ鉄粉を圧縮した。しかしながら、塑性変形が進んだ鉄粉は、鉄粉の保持力が増大し、ヒステリシス損失が増大する。さらに、150℃での1時間のキュアリングでは、鉄粉の保持力は元に戻らない。
第二に、複素透磁率の結果について検討する。アトマイズ鉄粉は、還元鉄粉と同様に、輪郭が不定形であるが、還元鉄粉のように多孔質体ではない。絶縁化されたアトマイズ鉄粉の集まりを加圧する圧力を高めるほど、アトマイズ鉄粉同士の間隙が狭まり、間隙に流れる渦電流が小さくなり、渦電流損失が減少する。この結果、複素透磁率の実部と虚部の値が、加圧圧力を高めるほど増大した。また、アトマイズ鉄粉は、多孔質体ではないが、加圧圧力を高めるほどアトマイズ鉄粉の扁平化が進み、扁平率が増大する。この結果、複素透磁率の実部と虚部の値が増大した。つまり、磁化の容易軸方向である面方向に変形したアトマイズ鉄粉の割合が増大し、また、扁平率が増大し、アトマイズ鉄粉の複素透磁率の実部と虚部の値が増大した。
ここで、2種類の圧粉磁心の結果に対する、本発明の圧粉磁心の製造方法の優位性を説明する。
第一に、塑性変形が進んだアトマイズ鉄粉で、圧粉磁心が構成された。これによって、アトマイズ鉄粉の保持力が、塑性変形の進行度に応じて増大し、保持力の増大に応じて、ヒステリシス損失が増大する。アトマイズ鉄粉の保持力を元に戻すためには、500℃より高い水素雰囲気での焼鈍が必要になり、アトマイズ鉄粉を絶縁化する材料は、500℃より高い耐熱性が必要になる。本発明における酸化アルミニウム微粒子で、アトマイズ鉄粉を絶縁化すれば、耐熱性がアトマイズ鉄粉の耐熱性より高いため、歪取り焼鈍が可能になり、保持力が元に戻り、圧粉磁心のヒステリシス損失が減少する。
第二に、本発明における酸化アルミニウム微粒子で絶縁材料を構成すれば、微粒子の大きさがエポキシ樹脂のペレットより3桁小さいため、アトマイズ鉄粉同士の間隙がさらに狭まり、狭まった間隙を、絶縁性が高い酸化アルミニウム微粒子で埋め尽くされ、間隙を流れる渦電流がさらに少なくなる。これによって、複素透磁率の実部と虚部の値が、さらに増大する。また、圧縮密度も増え、圧粉磁心の飽和磁束密度が高まる。
第三に、本発明の圧粉磁心の製造法では、アトマイズ鉄粉の集まりを、集積度が高く、面同士で重なり合ったアトマイズ鉄粉の集まりとし、該アトマイズ鉄粉の集まりを圧縮する。このため、面同士が重なり合って圧縮され、アトマイズ鉄粉同士の間隙が狭まり、狭くなった間隙が絶縁性の高い酸化アルミニウム微粒子で埋め尽くされる。これによって、間隙を流れる渦電流がさらに減少し、複素透磁率の実部と虚部の値がさらに増大する。
第四に、アトマイズ鉄粉が塑性変形する前に加圧圧力を停止し、酸化アルミニウム微粒子同士の接合を介してアトマイズ鉄粉同士を結合すれば、圧粉磁心におけるヒステリシス損失は増加せず、また、圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。
この結果、アトマイズ鉄粉を用い、本発明の圧粉磁心の製造方法に従って製造した圧粉磁心は、初透磁率が増大し、渦電流損失が低減し、ヒステリシス損失が増大しない。
【0017】
実施形態6
本実施形態は、扁平アトマイズ鉄粉を用いて製作した圧粉磁心の実施形態であり、非特許文献5に記載されている。また、圧粉磁心の実施形態から、本発明の圧粉磁心を製造する方法の優位性を説明する。
扁平アトマイズ鉄粉を用い、また、3種類の絶縁材料で絶縁化した扁平アトマイズ鉄粉を用い、いずれも490MPaの加圧圧力を加え、外径が36mm、内径が24mm、厚さが5mmのリング形状からなる4種類の圧粉磁心を製作した。第一の絶縁化した扁平アトマイズ鉄粉は、鉄粉に合成樹脂を0.8重量%で加えた。第二の絶縁化した扁平アトマイズ鉄粉は、リン酸・ホウ酸・酸化マグネシウムの水溶液と、扁平アトマイズ鉄粉とを混合し、その後、乾燥させた。第三の絶縁化した扁平アトマイズ鉄粉は、第二の絶縁化した扁平アトマイズ鉄粉に、さらに、合成樹脂を0.8重量%で加え、二重の絶縁層で鉄粉を絶縁化した。
なお、扁平アトマイズ鉄粉の絶縁化に用いたリン酸は融点が42.35℃で、200℃で二リン酸Hに、300℃以上でメタリン酸(HPOに変化する。また、ホウ酸は100℃でメタホウ酸HBOに、140℃で四ホウ酸Hに変化し、300℃でガラス状の酸化ホウ酸Bになる。いっぽう、酸化マグネシウムは融点が2852℃で耐熱性に優れる。また、4種類の圧粉磁心は、扁平アトマイズ鉄粉の集まりに、490MPaの加圧圧力を加えて製作しているため、アトマイズ鉄粉が50MPa付近の加圧圧力から塑性変形が開始されるため、4種類の圧粉磁心を構成する扁平アトマイズ鉄粉の塑性変形は進んでいる。いっぽう、酸化マグネシウムの耐熱性から、圧粉磁心を500℃より高い温度で水素焼鈍を行うことが可能である。しかし、4種類の圧粉磁心の水素焼鈍を行っていないため、4種類の圧粉磁心のヒステリシス損失は大きい。
最初に、圧縮密度の結果について説明する。扁平アトマイズ鉄粉で製作した圧粉磁心の密度は7.10g/cmで、充填率が90%である。この充填率は、非特許文献4に記載されたアトマイズ鉄粉を用い、同じ490MPaの加圧圧力を加えて製作した圧粉磁心より3%充填率が高い。この結果は、アトマイズ鉄粉の扁平効果が圧縮密度の増大に表れた。また、非特許文献3に記載され扁平還元鉄粉を用い、同じ490MPaの加圧圧力を加えて製作した圧粉磁心より2%充填率が高い。この結果は、扁平アトマイズ鉄粉を水素焼鈍した温度が、非特許文献3に記載され扁平還元鉄粉の水素焼鈍の温度より高く、扁平アトマイズ鉄粉の硬度が、扁平還元鉄粉の硬度より低いことに依ると思われる。さらに、第一の絶縁化した鉄粉で製作した圧粉磁心の密度は6.90g/cmであり、第二の絶縁化した鉄粉で製作した圧粉磁心の密度は7.04g/cmであり、第三の絶縁化した鉄粉で製作した圧粉磁心の密度は6.83g/cmである。
次に、4種類の圧粉磁心の比抵抗の結果について説明する。絶縁物に依る絶縁化の効果は、第一の絶縁物では絶縁効果はなく、第二の絶縁物では僅かな絶縁効果が得られ、第三の絶縁物で絶縁化効果が得られている。
さらに、4種類の圧粉磁心の渦電流損失の結果について説明する。鉄粉のみからなる圧粉磁心、第一の絶縁物からなる圧粉磁心、第三の絶縁物からなる圧粉磁心、第二の絶縁物からなる圧粉磁心の順で渦電流損失が大きい。なお、第三の絶縁物からなる圧粉磁心と、第二の絶縁物からなる圧粉磁心とにおける渦電流損失の差は小さいが、鉄粉のみからなる圧粉磁心と、第一の絶縁物からなる圧粉磁心とに比べると、渦電流損失の差が大きい。
ここで、圧粉磁心の結果について検討する。
第一に、圧縮密度の結果について検討する。扁平アトマイズ鉄粉を絶縁化した3種類の圧粉磁心の密度は、鉄粉のみで製作した圧粉磁心の密度より低下している。つまり、塑性変形した扁平アトマイズ鉄粉が形成する間隙を、絶縁物が十分に埋めていない。扁平アトマイズ鉄粉の輪郭は不定形で、全ての扁平アトマイズ鉄粉が扁平面同士で重なっていないため、また、扁平アトマイズ鉄粉が様々な大きさの粉体からなるため、加圧すると圧縮成形体に、多くの空隙が形成される。いっぽう、3種類の絶縁材料の各々が一定の大きさを持つため、空隙を埋めることができず、圧縮密度が低下した。また、第二の絶縁化した鉄粉で製作した圧粉磁心の密度の低下は、第一の絶縁化した鉄粉で製作した圧粉磁心と、第三の絶縁化した鉄粉で製作した圧粉磁心との圧縮密度の低下より小さい。この理由は、酸化マグネシウムの粉体の粒径より、破砕した樹脂のペレットのほうが大きく、破砕した樹脂のペレットが空隙を埋める障害になっている。
第二に、比抵抗の結果について検討する。第一の絶縁物は、鉄粉に合成樹脂を0.8重量%で加えだけであり、合成樹脂のペレットが一定の大きさを持つため、破砕された合成樹脂のペレットが、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙を埋め尽くさず、一部の扁平アトマイズ鉄粉同士が直接接触することで、絶縁効果が得られなかった。これに対し、二重の絶縁層で覆われた扁平アトマイズ鉄粉を圧縮すると、合成樹脂のペレットより硬度が高い酸化マグネシウムの粉体が、合成樹脂のペレットと接触し、合成樹脂のペレットを微細に粉砕し、第一の絶縁物より小さくなった合成樹脂のペレットの細片と、酸化マグネシウムの粉体とが、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙に入り込む。両者の絶縁性が高いため、絶縁化が進んだ。
第三に、渦電流損失の結果について検討する。第一の絶縁物からなる圧粉磁心は、圧縮密度の結果と同様に、樹脂のペレットが大きいため、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙を埋め尽くすに至らず、一部の扁平アトマイズ鉄粉同士が直接接触することで、鉄粉のみからなる圧粉磁心に近い渦電流損失になった。これに対し、第三の絶縁物からなる圧粉磁心と、第二の絶縁物からなる圧粉磁心とは、体積抵抗率が2×1016Ω・cmと絶縁性が高く、平均粒径が1.3μmである酸化マグネシウムの粉末と、合成樹脂のペレットの細片とが鉄粉同士の間隙に存在し、渦電流損失が低下した。
ここで、2種類の圧粉磁心の結果に対する、本発明の圧粉磁心の製造方法の優位性を説明する。
第一に、前記した圧縮密度の結果から、扁平アトマイズ鉄粉を絶縁化する絶縁物の大きさが小さいほど、アトマイズ鉄粉同士の間隙が絶縁物で埋め尽くされ、圧縮密度の低下が抑制された。従って、本発明における40-60nmからなる酸化アルミニウム微粒子の大きさは、平均粒径が1.3μmである酸化マグネシウムの粉末より2桁小さいため、圧縮密度の低下が抑制できる。また、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙が確実に絶縁化され、間隙を流れる渦電流が減少する。この結果、複素透磁率の実部と虚部の値が増大する。
第二に、本発明のように、40-60nmからなる粒状の酸化アルミニウム微粒子の集まりで、扁平アトマイズ鉄粉を絶縁化すれば、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙が酸化アルミニウム微粒子で埋め尽くせされ、圧縮密度が増大するとともに、莫大な数からなる粒状の酸化アルミニウム微粒子と空孔とによって、間隙の絶縁抵抗が著しく増大する。これによって、間隙を流れる渦電流が著しく減少し、圧粉磁心の渦電流損失が低下する。また、渦電流損失の低下の度合いに応じて、複素透磁率の実部と虚部の値が増大する。
第三に、本発明のように、面同士で重なり合った扁平アトマイズ鉄粉の集まりを圧縮すれば、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙が確実に絶縁化され、間隙を流れる渦電流が減少し、また、圧縮密度が高まる。また、全ての扁平アトマイズ鉄粉が、扁平面同士で重なり合い、磁化の容易軸方向である面方向に揃うため、圧粉磁心は磁化されやすくなり、圧粉磁心の透磁率が増大する。
第四に、本発明のように、扁平アトマイズ鉄粉が塑性変形する前に加圧圧力を停止し、酸化アルミニウム微粒子同士の接合を介して扁平アトマイズ鉄粉同士を結合すれば、圧粉磁心におけるヒステリシス損失は増加せず、また、圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。
この結果、扁平アトマイズ鉄粉を用い、本発明の圧粉磁心の製造方法に従って製造した圧粉磁心は、初透磁率が増大し、渦電流損失が低減し、ヒステリシス損失が増大しない。
【0018】
アトマイズ鉄粉、扁平アトマイズ鉄粉、還元鉄粉および扁平還元鉄粉を用いて製作した4種類の圧粉磁心の実施形態を説明した。実施形態の圧粉磁心は、耐熱性の低い絶縁材料で鉄粉を絶縁化しため、鉄粉の水素焼鈍が不可能である。また、塑性変形を進めた鉄粉によって圧粉磁心を形成したため、圧粉磁心のヒステリシス損失が増大した。さらに、熱処理温度が180℃と低く、塑性変形した鉄粉の焼鈍効果はない。このような圧粉磁心に対し、本発明の圧粉磁心の製造方法で製造した圧粉磁心は、下記の2点で優位性を持つ。
第一に、鉄粉の表面を酸化アルミニウムの微粒子の集まりで絶縁化した。これによって、次の4つの作用効果がもたらされる。第一に、酸化アルミニウムの融点が、鉄粉の融点より高く、圧粉磁心の耐熱性が鉄粉の耐熱性となる。これによって、圧粉磁心の水素焼鈍が可能になり、鉄粉の保持力が元に戻り、圧粉磁心のヒステリシス損失が減少する。第二に、酸化アルミニウムが40-60nmからなる粒状の微粒子であり、酸化アルミニウムの微粒子で覆われた鉄粉の集まりを圧縮すると、酸化アルミニウム微粒子が移動して鉄粉の集まりの空隙を埋める。さらに、酸化アルミニウム微粒子同士が接触部で摩擦熱によって接合し、極めて多数からなる酸化アルミニウム微粒子同士の接合で、圧粉磁心は必要な機械的強を持つ。第三に、酸化アルミニウムが優れた絶縁体で、極めて多数の酸化アルミニウム微粒子と空孔との抵抗体が、鉄粉同士の間隙を埋め尽くし、間隙の絶縁抵抗が著しく増大する。これによって、鉄粉同士の間隙に流れる渦電流が著しく減少し、圧粉磁心の交流の透磁率が増え、該当する周波数帯域で圧粉磁心が磁化されやすくなる。第四に、酸化アルミニウムがダイアモンドに次ぐ硬い物質で、また、融点が極めて高いため、酸化アルミニウム微粒子同士が接触すると、微粒子が破壊されずに、接触部に過大な摩擦熱が発生し、微粒子同士が摩擦熱で接合する。圧縮する鉄粉の集まりには、極めて多数の酸化アルミニウム微粒子が存在するため、酸化アルミニウム微粒子同士が接合する際に、鉄粉の集まりを圧縮する反発力が増大し、この時点で圧縮を停止することができる。これによって、鉄粉は塑性変形せず、圧粉磁心のヒステリシス損失が増えない。
第二に、鉄粉の集まりに対し、鉄粉の面同士が重なり合った鉄粉の集まりとする処理を行うことである。これによって、次の3つの作用効果がもたらされる。第一に、鉄粉同士の間隙が狭まり、これによって、圧縮成形体の圧縮密度が高まり、圧粉磁心の飽和磁束密度が高まる。第二に、狭まった鉄粉同士の間隙は、酸化アルミニウム微粒子の集まりで埋め尽くされ、鉄粉同士の間隙に流れる渦電流が減少し、圧粉磁心の渦電流損失が減少する。これによって、交流の初透磁率が増大し、該当する周波数帯域で圧粉磁心が磁化されやすくなる。第三に、面同士が重なり合った鉄粉の集まりを圧縮すると、面と垂直な磁化容易軸方向に鉄粉が変形するため、交流の初透磁率が増大し、該当する周波数帯域で圧粉磁心が磁化されやすくなる。
【0019】
ここで、軟磁性材料の複素透磁率について説明する。圧粉磁心に巻線を施し、交流を流して圧粉磁心を励磁すると、圧粉磁心を構成する軟磁性材料に基づくヒステリシス損失が発生する。この圧粉磁心の構成を電気回路で示すと、巻線がL成分を形成し、圧粉磁心がR成分を形成するため、インピーダンスはR+jωLで表わされる。この関係を透磁率に当てはめると、透磁率は式1で表わされる。この際、μ´が複素透磁率の実部でインダクタンス成分を、μ´´が複素透磁率の虚部で抵抗成分を表わす。
(式1) μ=μ´-jμ´´
いっぽう、圧粉磁心に周波数の高い交流を流すと、軟磁性材料の透磁率は、磁界Hの変化に磁束密度Bが追従できなくなり、位相の遅れが発生する。この際、L成分(μ´)が減少し、R成分(μ´´)が増大する。この事例は、前記の扁平粉における複素透磁率の挙動で説明した。
なお、磁界の強さHと磁束密度Bとの関係で表わされる透磁率μの定義であるB=μHにおける透磁率と複素透磁率との関係は式2になる。このため、実部μ´と虚部μ´´の少なくともいずれか一方が増加すれば透磁率μは増加する。透磁率μの増加によって、圧粉磁心が磁化されやすくなり、飽和磁束密度と印加された磁界との積に基づく磁気エネルギーが圧粉磁心に取り込まれる。
(式2) μ={(μ´)+(μ´´)1/2
【0020】
実施例1
本実施例は、アトマイズ鉄粉を扁平処理した扁平アトマイズ鉄粉を、酸化アルミニウムの微粒子の集まりで絶縁化させ、絶縁化された扁平アトマイズ鉄粉の集まりを金型内で圧縮し、圧粉磁心を金型内に製造する実施例である。
扁平アトマイズ鉄粉として、株式会社神戸製鋼の290PC-2を用いた。この扁平鉄粉は、アトマイズ鉄粉(株式会社神戸製鋼の300M)を扁平加工したものである。なお、アトマイズ鉄粉(300M)の不純物濃度は、ケイ素が0.01重量%で、マンガンが0.19重量%であり(非特許文献6に依る)、前記した非特許文献2に記載されたアトマイズ鉄粉の不純物濃度に比べるとマンガンの濃度が高い。このため、初透磁率は、アトマイズ鉄粉(300M)のほうが若干大きい。
また、酸化アルミニウムの原料として、安息香酸アルミニウムAl(CCOO)(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。さらに、有機化合物として、沸点が244℃で、25℃の粘度がメタノールの粘度の50倍に近い30mPasであるジエチレングリコール(例えば、純正化学株式会社の製品)を用いた。また、混合機として、遠赤外線によるヒータが内蔵され、回転による拡散混合と、揺動による移動混合とを同時に行う装置(例えば、愛知電機株式会社のロッキングミキサーRMH-HT)を用い、さらに、混合機の下部に加振機を併設させた。
安息香酸アルミニウムの31g(0.08モルに相当する)を1リットルのメタノールに分散し、このメタノール分散液にジエチレングリコールの200ccを混合し、混合液を作成した。従って、混合液の粘度はメタノールの粘度の10倍に近い。次に、混合機を加振台の上に配置させ、混合機に混合液と扁平アトマイズ鉄粉の1kgとを投入し、混合機によって混合と揺動とを繰り返し、混合物を作成した。従って、混合物におけるメタノールが占める体積は、扁平アトマイズ鉄粉が占める体積の8倍である。また、安息香酸アルミニウム31gを熱分解すると、酸化アルミニウムの8gが析出し、扁平アトマイズ鉄粉の重量に対する酸化アルミニウムの重量の比率は0.008に相当する。次に、0.3Gからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加振機によって繰り返し発生し、加振台を介して混合機内の混合物に振動を伝え、最後に、0.3Gからなる上下方向の振動加速度を混合物に加えた。さらに、混合機をメタノールの沸点である65℃に昇温し、メタノールを気化させた。なお、気化したメタノールは回収して再利用する。この後、混合機内のカプセルを外し、カプセルからメタノールが気化した混合物を取り出し、金型に充填した。金型は外径が40mm、内径が25mm、厚さが6mmのリング形状の成形体が成形される形状を持つ。
次に、金型を20℃/分の昇温速度で310℃まで昇温し、1分間保持した。これによって、最初にジエチレングリコールが気化し、次に安息香酸アルミニウムが熱分解した。気化したジエチレングリコールは回収して再利用する。この後、10MPa/分の速度で増加する加圧圧力をプレス機によって発生させ、該加圧圧力を金型内の混合物に加え、プレス機が受ける反発力が継続して増加した時点で圧縮を停止し、圧粉磁心を金型内に製作した。この後、金型から圧粉磁心を取り出した。
次に、作成した圧粉磁心の性能を測定した。この結果を、非特許文献5に記載された2種類の圧粉磁心と比較する。第一の圧粉磁心は、扁平アトマイズ鉄粉(290PC-2)を、490MPaの加圧圧力を加えて製作したリング形状の圧粉磁心である。第二の圧粉磁心は、扁平アトマイズ鉄粉(290PC-2)の表面を、リン酸、ホウ酸、酸化マグネシウムで絶縁し、さらに、合成樹脂を0.8重量%加え、2種類の絶縁物で絶縁化した扁平アトマイズ鉄粉の集まりを、490MPaの加圧圧力で成形した圧粉磁心である。
最初に、圧粉磁心の重量を測定し、圧粉磁心の体積から圧粉磁心の密度を求めた。密度は7.3g/cmであった。いっぽう、非特許文献5に記載された第一の圧粉磁心の密度は、7.1g/cmで、第二の圧粉磁心の圧縮密度は、6.84g/cmである。作成した圧粉磁心の密度は、非特許文献5に記載された2種類の圧粉磁心の密度より高い。この理由は、全ての扁平アトマイズ鉄粉を扁平面同士で重ね合わせることで、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙が狭くなった効果と、酸化アルミニウム微粒子が、扁平アトマイズ鉄粉の集まりの空隙を埋め尽くした効果と、酸化アルミニウム微粒子の移動に伴って、扁平アトマイズ鉄粉の集積度が高まった効果とに依る。
さらに、圧粉磁心の比抵抗を測定した。圧粉磁心の双方の平面に導電性ペーストを介して銅板を貼り付け、銅板を加圧して比抵抗を測定した。作成した圧粉磁心の比抵抗は38Ω・cmであった。いっぽう、非特許文献5に記載された第二の圧粉磁心の比抵抗は21Ω・cmである。作成した圧粉磁心の比抵抗は、非特許文献5に記載された第二の圧粉磁心の比抵抗より高い。この理由は、絶縁抵抗が極めて高い酸化アルミニウム微粒子と空孔との集まりによって、扁平同士で重なり合った扁平アトマイズ鉄粉の表面を覆い、該扁平アトマイズ鉄粉の集まりを圧縮することで、扁平同士で重なり合った僅かな間隙を、酸化アルミニウム微粒子と空孔との集まりが埋め尽くし、また、隣り合う扁平アトマイズ鉄粉の空隙を、酸化アルミニウム微粒子と空孔との集まりが埋め尽くしたことに依る。
次に、B-Hアナライザである岩崎通信機株式会社の製品SY-8218/SY-8218を用い、作成した圧粉磁心の渦電流損失を求めた。磁束密度50mTにおける渦電流損失は、10kHzにおいて1kW/mで、100kHzにおいて100kW/mであった。この値は、非特許文献5に記載された第二の圧粉磁心の渦電流損失の1/8である。この理由は、絶縁抵抗が極めて高い酸化アルミニウム微粒子と空孔との集まりが、扁平面同士が重なり合った僅かな間隙を埋め尽くし、また、隣り合う扁平アトマイズ鉄粉の空隙を埋め尽くし、扁平アトマイズ鉄粉の間隙を流れる渦電流が減少したことに依る。
さらに、磁性体測定システムでキーコム株式会社のModel No.perを用い、透磁率の周波数特性を測定した。8A/mの磁界において、作成した圧粉磁心の初透磁率は、10kHz付近まで80で、100kHz付近で65あった。これに対し、非特許文献5に記載された第一の圧粉磁心の初透磁率は、8A/mの磁界において、10kHz付近まで82で、100kHz付近で68である。第二の圧粉磁心の初透磁率は、8A/mの磁界において、10kHz付近で65の値を持ち、100kHz付近で63の値である。圧粉磁心の初透磁率は、非特許文献5に記載された2種類の圧粉磁心の初透磁率より大きい。この理由は、全ての扁平アトマイズ鉄粉を、磁化容易軸方向である扁平面方向に揃えた効果と、絶縁抵抗が極めて高い酸化アルミニウム微粒子と空孔との集まりが、扁平面同士が重なり合った僅かな間隙を埋め尽くし、また、隣り合う扁平アトマイズ鉄粉の空隙を埋め尽くし、扁平アトマイズ鉄粉同士の間隙を流れる渦電流が減少したことに依る。
また、東英工業株式会社の簡易鉄損測定器によって、励磁磁束密度が1Tで励磁周波数が100-800Hzからなる測定条件における作成した圧粉磁心の鉄損を測定した。鉄損は100Hzで6W/kgで、200Hzで13W/kgで、400Hzで28W/kgで、800Hzで56W/kgであった。
いっぽう、非特許文献7に、アトマイズ鉄粉(神戸製鋼所の300NH)を、リン酸系無機絶縁皮膜とシリコーン樹脂による2層被膜で絶縁化し、この粉末を130℃に加熱し、金型潤滑成形法により1176MPaでリング形状の圧粉磁心を成形した後に、窒素雰囲気の500℃で30分間磁気焼鈍を行った圧粉磁心が記載されている。焼鈍温度は、絶縁物の耐熱性で550℃に制約される。非特許文献7に依ると、圧縮密度は、加圧圧力が1176MPaと高いため、7.61g/cmで、充填率が97%に及ぶ。いっぽう、1176MPaで加圧したアトマイズ鉄粉は、十分に塑性変形が進んでいる。このため、500℃での磁気焼鈍では、圧粉磁心のヒステリシス損失の低減は一部に留まる。また、励磁磁束密度が1.5Tで励磁周波数が200-700Hzからなる測定条件における圧粉磁心の鉄損は、50Hzで5W/kgで、100Hzで12W/kgで、200Hzで23W/kgで、400Hzで50W/kgで、700Hzで100W/kgである。
製作した圧粉磁心の鉄損は、非特許文献7に記載された圧粉磁心の約1/2である。この理由は、製作した圧粉磁心は、扁平アトマイズ鉄粉の間隙を流れる渦電流が、非特許文献7に記載されたアトマイズ鉄粉同士の間隙を流れる渦電流より少なく、また、扁平アトマイズ鉄粉が塑性変形せず、扁平アトマイズ鉄粉の保持力が増大していないことに依る。
次に、作成した圧粉磁心を2mの高さから床面に落下させたが、圧粉磁心は破壊しなかった。このため、作成した圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。この理由は、極めて多数からなる酸化アルミニウム微粒子同士が、摩擦熱で接合したことに依る。
さらに、製作した圧粉磁心の観察と分析を行なった。製作した圧粉磁心を厚み方向に2つに切断し、切断面を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料が観察できる特徴を有する。
最初に、反射電子線の900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、切断面を観察した。扁平アトマイズ鉄粉が扁平面同士で重なり合い、40-60nmの大きさからなる粒状の微粒子が13-17層を形成して積層し、扁平面同士が重なり合った間隙を満遍なく埋め尽くしていた。次に、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。アルミニウム原子と酸素原子の双方が均一に分散して存在し、特段に偏在する箇所が見られなかった。このため、酸化アルミニウムの粒状微粒子が、扁平面同士で重なり合った扁平アトマイズ鉄粉の間隙を満遍なく埋め尽くしていることが確認できた。図1に、切断面の一部を拡大した様子を模式的に示す。1は扁平アトマイズ鉄粉で、2は酸化アルミニウムの微粒子である。
以上に説明したように、扁平アトマイズ鉄粉を用いて作成した圧粉磁心は、扁平アトマイズ鉄粉を用い従来の製造方法で作成した圧粉磁心より、圧縮密度が高く、絶縁抵抗が増大し、渦電流損失が少なく、初透磁率が増大し、扁平アトマイズ鉄粉の保持力が増大せず、必要な機械的強度を持った。
【0021】
実施例2
本実施例は、還元鉄粉を扁平処理した扁平還元鉄粉を、酸化アルミニウムの微粒子の集まりで絶縁化させ、絶縁化された扁平還元鉄粉の集まりを金型内で圧縮し、圧粉磁心を金型内に製造する実施例である。
扁平還元鉄粉として、JFEスチール株式会社のMG150Dを用いた。この扁平還元鉄粉は、還元鉄粉(JFEスチール株式会社のMG270H)を扁平加工したもので、非特許文献3に記載された扁平還元鉄粉である。
また、実施例1と同様に、酸化アルミニウムの原料として、安息香酸アルミニウムを用い、有機化合物としてジエチレングリコールを用い、混合機として同一の装置を用い、混合機の下部に加振機を併設させた。
さらに、実施例1と同様に、安息香酸アルミニウムの31gを1リットルのメタノールに分散し、このメタノール分散液にジエチレングリコールの200ccを混合し、混合液を作成した。次に、混合機を加振台の上に配置させ、混合機に混合液と扁平還元鉄粉の1kgとを投入し、混合機によって混合と揺動とを繰り返し、混合物を作成した。次に、0.3Gからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加振機によって繰り返し発生し、最後に、0.3Gからなる上下方向の振動加速度を混合物に加えた。さらに、混合機を65℃に昇温し、メタノールを気化させた。この後、混合機内のカプセルを外し、カプセルからメタノールが気化した混合物を取り出し、実施例1と同一の金型に充填した。
次に、実施例1と同様に、金型を310℃まで昇温し、1分間保持した。この後、実施例1と同様に、10MPa/分の速度で増加する加圧圧力をプレス機によって発生させ、該加圧圧力を金型内の混合物に加え、プレス機が受ける反発力が継続して増加した時点で圧縮を停止し、圧粉磁心を金型内に製作した。この後、金型から圧粉磁心を取り出した。
次に、作成した圧粉磁心の性能を測定した。この結果を、非特許文献3に記載された圧粉磁心と比較する。なお、双方の圧粉磁心が扁平還元鉄粉としてMG150Dを用いた。
最初に、圧粉磁心の重量を測定し、圧粉磁心の体積から圧粉磁心の密度を求めた。密度は7.2g/cmであった。いっぽう、非特許文献3に記載された圧粉磁心の密度は、6.93g/cmである。作成した圧粉磁心の密度が、非特許文献3に記載された圧粉磁心の密度より高い理由は、実施例1と同様に、全ての扁平還元鉄粉を扁平面同士で重ね合わせることで、扁平還元鉄粉同士の間隙が狭くなった効果と、酸化アルミニウム微粒子が、扁平還元鉄粉の集まりの空隙を埋め尽くした効果と、酸化アルミニウム微粒子の移動に伴って、扁平還元鉄粉の集積度が高まった効果とに依る。さらに、非特許文献3に記載された圧粉磁心は、扁平還元鉄粉が多孔質体であるため、硬化したエポキシ樹脂が全ての扁平還元鉄粉の空隙を埋めることができず、圧粉磁心の密度が低下した。
次に、電子磁気工業株式会社のBHアナライザを用い、直流での初透磁率を測定した。作成した圧粉磁心の直流での初透磁率は100であった。これに対し、非特許文献3に記載された圧粉磁心の直流での初透磁率は、94.9である。
また、実施例1の装置を用い、交流での初透磁率を測定した。製作した圧粉磁心は、200kHz付近までは100であり、200kHzを超えると徐々に低下し、1MHzで67であった。これに対し、非特許文献3に記載された圧粉磁心は、200kHz付近までは94.9であり、200kHzを超えると徐々に低下し、1MHzで63であった。
作成した圧粉磁心の初透磁率が、非特許文献3に記載された初透磁率より高い理由は、実施例1と同様に、全ての扁平還元鉄粉を、磁化容易軸方向である扁平面方向に揃えた効果と、絶縁抵抗が極めて高い酸化アルミニウム微粒子と空孔との集まりが、扁平面同士が重なり合った僅かな間隙を埋め尽くし、また、隣り合う扁平還元鉄粉の空隙を埋め尽くし、扁平還元鉄粉同士の間隙を流れる渦電流が減少したことに依る。
また、実施例1の装置を用い、励磁磁束密度が50mTで励磁周波数が20-100kHzからなる測定条件における圧粉磁心の鉄損を測定した。製作した圧粉磁心の鉄損は、20kHzで非特許文献3に記載された圧粉磁心の鉄損の約1/2で、50kHzで非特許文献3に記載された圧粉磁心の鉄損の約1/4で、100kHzで非特許文献3に記載された圧粉磁心の鉄損の約1/5であった。なお、非特許文献3に記載された鉄損は、扁平還元鉄粉の集まりを加圧する圧力が、490MPaでなく686MPaである。
鉄損の結果は、実施例1の結果と比べると、周波数が高くなるほど、非特許文献3に記載された圧粉磁心の鉄損との差が拡大する。この理由は、非特許文献3に記載された扁平還元鉄粉を絶縁化させるエポキシ樹脂が扁平還元鉄粉同士の間隙を埋め尽くさず、一部の扁平還元鉄粉が直接接触し、扁平還元鉄粉同士の間隙を渦電流損失が流れることに依る。つまり、全ての扁平還元鉄粉が扁平面同士で重なり合うと、圧粉磁心に必要な機械的強度が実現できないため、扁平還元鉄粉の集まりを単純に圧縮した。これによって、一部の扁平還元鉄粉が直接接触する。この結果、渦電流損失が周波数の2乗に比例するため、周波数が高くなるほど、非特許文献3に記載された圧粉磁心の渦電流損失が増大する結果になった。また、20kHzでの鉄損が、非特許文献3に記載された圧粉磁心の鉄損の約1/2であるため、圧粉磁心を製造する際に扁平還元鉄粉のヒステリシス損失が増大しなかった効果に依る。つまり、非特許文献3に記載された圧粉磁心は、180℃で30分間熱処理を実施しているが、180℃では686MPaの加圧圧力で塑性変形が進んだ扁平還元鉄粉の加工歪は解消できず、扁平還元鉄粉の保持力の増大によって、圧粉磁心のヒステリシス損失が増大している。
次に、実施例1と同様に、圧粉磁心を2mの高さから床面に落下させたが、圧粉磁心は破壊しなかった。このため、圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。この理由は、極めて多数からなる酸化アルミニウム微粒子同士が、摩擦熱で接合したことに依る。
さらに、実施例1と同様に、製作した圧粉磁心を厚み方向に2つに切断し、切断面を電子顕微鏡で観察した。実施例1と同様に、酸化アルミニウムの粒状微粒子が、扁平面同士で重なり合った扁平還元鉄粉の間隙を満遍なく埋め尽くしていることが確認できた。
以上に説明したように、扁平還元鉄粉を用いて作成した圧粉磁心は、扁平還元鉄粉を用い従来の製造方法で作成した圧粉磁心より、圧縮密度が高く、絶縁抵抗が増大し、渦電流損失が少なく、初透磁率が増大し、扁平アトマイズ鉄粉の保持力が増大せず、必要な機械的強度を持った。
【0022】
実施例3
本実施例は、硬度の高い扁平軟磁性粉として扁平センダスト粉を用い、扁平センダスト粉を酸化アルミニウムの微粒子の集まりで絶縁化させ、絶縁化された扁平センダスト粉の集まりを金型内で圧縮し、圧粉磁心を金型内に製造する実施例である。
扁平センダスト粉(株式会社トーキンの製品)は、水アトマイズ・センダスト紛を扁平加工し、この後、650℃のアルゴンガス雰囲気で2時間焼鈍処理を行い、扁平加工に依る歪を取り除いた。平均長径が40μmで、平均厚みが1.5μmであり、厚みが前記した扁平鉄粉より薄く扁平率は高い。なお、扁平センダスト粉は硬度が高く、扁平センダスト粉を塑性変形させるには、前記した扁平鉄粉を塑性変形させる加圧圧力より大きい加圧圧力を加える。これによって、圧粉磁心のヒステリシス損失が増大する。
また、実施例1と同様に、酸化アルミニウムの原料として、安息香酸アルミニウムを用い、有機化合物としてジエチレングリコールを用い、混合機として同一の装置を用い、混合機の下部に加振機を併設させた。
さらに、実施例1と同様に、安息香酸アルミニウムの31gを1リットルのメタノールに分散し、このメタノール分散液にジエチレングリコールの200ccを混合し、混合液を作成した。次に、混合機を加振台の上に配置させ、混合機に混合液と扁平センダスト粉の1kgとを投入し、混合機によって混合と揺動とを繰り返し、混合物を作成した。次に、0.3Gからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加振機によって繰り返し発生し、最後に、0.3Gからなる上下方向の振動加速度を混合物に加えた。さらに、混合機を65℃に昇温し、メタノールを気化させた。この後、混合機内のカプセルを外し、カプセルからメタノールが気化した混合物を取り出し、実施例1と同一の金型に充填した。
次に、作成した圧粉磁心の性能を測定した。この結果を、非特許文献8に記載された扁平センダスト粉を用いた圧粉磁心と比較する。なお、非特許文献8に記載された圧粉磁心は、扁平粉にシリコーンレジンと増粘剤と溶剤を混合して得たスラリーをシート状に成形し、得られたシートに加圧成型と熱処理を施し、圧粉磁心を製作した。なお、シリコーンレジンは、エポキシ樹脂と同様に絶縁性に優れるが、耐熱性が250℃より低く、熱処理によって、扁平センダスト粉の保持力を元に戻すことができず、圧粉磁心におけるヒステリシス損失は大きい。
最初に、圧粉磁心の重量を測定し、圧粉磁心の体積から圧粉磁心の充填率を求めた。充填率は82重量%であった。いっぽう、非特許文献8に記載された圧粉磁心の充填率は70重量%である。充填率の大きな差異は、以下の理由に依る。
非特許文献8に掲載された圧粉磁心の断面写真をみると、多くの空隙が形成されている。さらに、空隙の多くは、相対的に粒径が大きい扁平センダスト粉の上下に形成されている。従って、スラリーをシート状に成形した際に、シートに空隙が形成され、この後、シートを加圧成形したため、空隙がさらに拡大した。この結果、圧粉磁心の充填率が低くなった。つまり、シート状に成形しただけでは、扁平センダスト粉の集まりが再配列していないため、扁平センダスト粉の集まりの集積度は低く、相対的に粒径が大きい扁平センダスト粉の上下に空隙ができやすい。また、圧粉磁心の断面写真では、殆どの扁平センダスト粉が、扁平面を上下方向にして、うねるように変形している。つまり、扁平センダスト粉は硬度が高く、圧粉磁心を製作する際に大きな加圧圧力を加え、扁平センダスト粉を十分に塑性変形させ、塑性変形した扁平センダスト粉の絡み合いで、圧粉磁心の機械的強度が発生する。従って、空隙が形成された扁平センダスト粉の集まりに、大きな加圧圧力を加えて圧縮したため、殆どの扁平センダスト粉が、扁平面を上下方向にして、うねるように変形した。これによって、空隙がさらに拡大した。いっぽう、絶縁材料の耐熱性が250℃より低く、圧粉磁心の熱処理によって、扁平センダスト粉の保持力を元に戻すことができず、非特許文献8に掲載された圧粉磁心のヒステリシス損失は大きい。いっぽう、実施例3のように、全ての扁平軟磁性粉を扁平面方向に揃えると、塑性変形した扁平センダスト粉の絡みにくくなるため、圧粉磁心の必要となる機械的強度が実現しない。
これに対し、実施例3の圧粉磁心では、扁平センダスト粉の集まりと混合液との混合物に、3方向の振動を繰り返し加え、最後に上下方向の振動を加えた。このため、相対的に粒径が小さい扁平センダスト粉が扁平面を上にして、扁平センダスト粉の集まりの空隙に入り込む配列と、扁平センダスト粉の集まりの上方に移動する配列とが進み、扁平センダスト粉の集まりの集積度が高まる。最後に、上下方向の振動を加えると、全ての扁平センダスト粉が、面を上に向けて扁平面同士が重なり合う。この結果、実施例3の圧粉磁心の充填率が高まった。
次に、実施例1の装置を用い、交流での複素透磁率を測定した。製作した圧粉磁心は、実部が10MHz付近までは400の値を持ち、10MHzを超えると徐々に低下し、300MHz付近で210の値まで低下し、虚部と重なった。虚部は、3MHz付近から増大し、300MHz付近でピーク値の210となり、300MHzから徐々に減少した。なお、センダストの導電率は1.25×10S/mであり、10MHzで比透磁率が400のセンダストの表皮の厚みは、2.25μmとなる。この値は、扁平センダスト粉の平均厚みの1.5μmに、50nmからなる酸化アルミニウム微粒子を、7層ないし8層で近い厚みで積層して絶縁化させた値に相当する。従って、実施例3では、酸化アルミニウム微粒子の集まりで絶縁化した全ての扁平センダスト粉を、扁平面同士で重ね合わせたため、縮減された渦電流が絶縁性の高い扁平面同士の間隙を流れる。また、渦電流が縮減されることで、複素透磁率の虚部が増大した。また、全ての扁平センダスト粉を、磁化容易軸方向である扁平面方向に揃えたため、複素透磁率の実部が一定の値を持った。
これに対し、非特許文献8に掲載された圧粉磁心は、5MHz付近までは280の値を持ち、5MHzを超えると徐々に低下し、500MHz付近で130の値まで低下し、虚部と重なった。虚部は、2MHz付近から増大し、500MHz付近で130の値まで増加し、実部と重なった。つまり、非特許文献8に掲載された圧粉磁心は、前記したように、多くの空隙が形成され、また、殆どの扁平センダスト粉が、扁平面を上下方向にして、うねるように変形している。また、扁平センダスト粉に加えたシリコーンレジンと増粘剤と溶剤とは、増粘剤の濃度に応じた接着力で、扁平センダスト粉に吸着する。なお、熱処理後に、シリコーンレジンが硬化し、増粘剤と溶剤とは揮発する。従って、より大きな空隙が形成された部位においては、扁平センダスト粉がうねるように変形する際に、絶縁物の一部が扁平センダスト粉から剥離し、扁平センダスト粉同士が直接接触する。これによって、扁平センダスト粉同士の間隙に渦電流が流れる。この結果、非特許文献8に掲載された圧粉磁心における複素透磁率の虚部の値は、実施例3における圧粉磁心の複素透磁率の虚部の値の0.6倍となった。また、非特許文献8に掲載された圧粉磁心は、全ての扁平センダスト粉がうねるように変形し、かつ、扁平センダスト粉同士の間隙に多くの空隙が形成された。これに対し、実施例3における圧粉磁心は、全ての扁平センダスト粉を、磁化容易軸方向である扁平面方向に揃えたため、複素透磁率の実部の値が、非特許文献8に掲載された圧粉磁心の複素透磁率の実部の値の1.4倍になった。
次に、実施例1と同様に、圧粉磁心を2mの高さから床面に落下させたが、圧粉磁心は破壊しなかった。このため、圧粉磁心は必要な機械的強度を持つ。この理由は、極めて多数からなる酸化アルミニウム微粒子同士が、摩擦熱で接合したことに依る。
さらに、実施例1と同様に、製作した圧粉磁心を厚み方向に2つに切断し、切断面を電子顕微鏡で観察した。実施例1と同様に、酸化アルミニウムの粒状微粒子が、扁平面同士で重なり合った扁平センダスト粉の間隙を満遍なく埋め尽くしていることが確認できた。
以上に説明したように、扁平センダスト粉を用いて作成した圧粉磁心は、扁平センダスト粉を用い従来の製造方法で作成した圧粉磁心より、圧縮密度が高く、絶縁抵抗が増大し、渦電流損失が少なく、初透磁率が増大し、扁平アトマイズ鉄粉の保持力が増大せず、必要な機械的強度を持った。
【0023】
以上の3つの実施例における圧粉磁心の性能と、従来の製造方法で作成した圧粉磁心の性能とを比較した。実施例における圧粉磁心は、従来の製造方法で作成した圧粉磁心より下記の項目で優れる。
第一に、実施例における圧粉磁心の密度が、従来の製造方法で作成した圧粉磁心の密度より高い。この理由は、全ての扁平軟磁性粉を扁平面同士で重ね合わせ、扁平軟磁性粉同士の間隙を狭め、また、酸化アルミニウム微粒子が、扁平軟磁性粉の集まりの空隙を埋め尽くし、さらに、扁平軟磁性粉の集まりを圧縮した際に、酸化アルミニウム微粒子が移動し、該微粒子の移動に伴って、扁平軟磁性粉の集積度がさらに高まったことに依る。これによって、実施例における圧粉磁心の飽和磁束密度が、従来の製造方法で作成した圧粉磁心の飽和磁束密度より高くなり、磁化された圧粉磁心の磁気エネルギーは大きい。
第二に、実施例における圧粉磁心の透磁率が、従来の製造方法で作成した圧粉磁心の透磁率より高い値を持った。この理由は、全ての扁平軟磁性粉を、磁化容易軸方向である扁平面方向に揃え、また、絶縁抵抗が極めて高い酸化アルミニウム微粒子と微細な空孔との集まりが、扁平軟磁性粉同士の間隙を埋め尽くし、間隙を流れる渦電流が減少したことに依る。これによって、実施例における圧粉磁心は、従来の製造方法で作成した圧粉磁心より磁化されやすくなる。
第三に、実施例における圧粉磁心の鉄損が、従来の製造方法で作成した圧粉磁心の鉄損より少ない。この理由は、圧粉磁心を製造する際に、扁平軟磁性粉を塑性変形させないため、扁平軟磁性粉のヒステリシス損失が増大せず、また、扁平軟磁性粉同士の間隙を流れる渦電流が減少したことに依る。これによって、実施例における圧粉磁心は、従来の製造方法で作成した圧粉磁心より発熱しにくい。つまり、実施例における圧粉磁心は、極めて多数の酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦接合することで、圧粉磁心に機械的強度をもたらした。これに対し、従来の製造方法における圧粉磁心は、扁平軟磁性粉を十分に塑性変形させ、塑性変形した扁平軟磁性粉同士が絡み合うことで、圧粉磁心に機械的強度をもたせた。さらに、従来の製造方法における圧粉磁心は、耐熱性が低い絶縁物で扁平軟磁性粉を絶縁したため、圧粉磁心を磁気焼鈍し、塑性変形した扁平軟磁性粉の保持力を元に戻すことができない。
以上に説明したように、本発明における圧粉磁心の製造方法は、第一に、軟磁性粉の硬度に関わらず、全ての軟磁性粉を用い、第二に、絶縁性の高い酸化アルミニウム微粒子の集まりで軟磁性粉を絶縁化し、第三に、軟磁性粉の集まりを面同士で重なり合うように高密度に集積させ、第四に、軟磁性粉の集まりを圧縮すると、酸化アルミニウム微粒子同士が摩擦熱で接合し、また、酸化アルミニウム微粒子同士の摩擦熱の接合で、軟磁性粉同士が結合する、画期的な圧粉磁心の製造方法である。
【符号の説明】
【0024】
1 扁平アトマイズ鉄粉 2 酸化アルミニウムの微粒子
図1