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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】DC/DCコンバータの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
H02M3/155 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020000837
(22)【出願日】2020-01-07
(65)【公開番号】P2021111993
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】庄山 正仁
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 淳史
(72)【発明者】
【氏名】木村 友則
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆弘
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-085424(JP,A)
【文献】特開2010-200517(JP,A)
【文献】特開2012-095521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時比率変更単位周期N×スイッチング周期Tsの度に時比率を変更しながらインダクタ(6)に流す通電電流をスイッチング制御して出力電圧(Vo)を目標電圧に制御するDC/DCコンバータ(1)の制御プログラムであって、
制御装置(9)に、
過去のスイッチング周期における入力電圧(Vi)、前記出力電圧(Vo)、及び前記インダクタに流れるインダクタ電流(I)のサンプリング結果を取得する第1手順と、
前記インダクタ電流のピーク演算値が電流目標設定周期Mにて電流指令値に達するように前記時比率変更単位周期N×スイッチング周期Tsの間の前記時比率を演算する第2手順と、
を実行させるものであり、
前記第2手順では、前記時比率変更単位周期Nの二分の一より後のM≧N/2+1の条件を満たす整数値に前記電流目標設定周期Mを設定するDC/DCコンバータの制御プログラム。
【請求項2】
前記第1手順が取得するサンプリング結果は、過去のそれぞれの前記スイッチング周期毎に一回ずつサンプリングした結果である請求項1記載のDC/DCコンバータの制御プログラム。
【請求項3】
前記第1手順では前記過去の直近二回の前記スイッチング周期におけるサンプリング結果を取得し、前記第2手順では前記直近二回の前記スイッチング周期におけるサンプリング結果に基づいて前記スイッチング周期の時比率を演算する請求項2記載のDC/DCコンバータの制御プログラム。
【請求項4】
前記時比率変更単位周期N=1とし、前記電流目標設定周期M=2とする請求項1記載のDC/DCコンバータの制御プログラム。
【請求項5】
Buckコンバータにより構成される請求項1記載のDC/DCコンバータの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC/DCコンバータの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DC/DCコンバータは、いわゆるピーク電流制御形式によりスイッチング制御を行う手法が注目されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の技術によれば、I-V変換手段によりスイッチング素子に流れる出力電流をI-V変換することで、インダクタの電流を電圧に変換して検出し、インダクタのピーク電流が電流指令値に達するようにフィードバック制御している。ピーク電流モード制御形式は、いわゆる電圧モード、平均電流モードによる制御手法に比較すると、過渡応答特性に優れていることが知られている。
【0003】
他方では、広い入出力条件に対応可能なデジタル制御方式が普及してきている。DC/DCコンバータの制御方式をフルデジタル化できれば、ハードウェアを大幅に簡素化でき、小型化、低コスト化できる。しかし、デジタル制御方式では、電圧、電流を離散的にサンプリングすることになるため、従来のデジタル制御方式をそのまま高周波化したとしても、一制御周期あたりのサンプリング数が少なくなる。前述のピーク電流制御形式では、電流をリアルタイムに検出し続ける必要があるため、デジタル制御方式を適用して高いサンプリング周波数にて電流を検出し続けることが困難になる。
【0004】
特許文献1記載の技術では、ピーク電流制御形式の電流指令値を、デジタル補償器を用いて生成しているものの、D/Aコンバータが指令値をアナログ信号に変換してから電流検出値と比較することでサンプリング不足を回避している。しかし、アナログ回路が余計に必要となるため、回路基板の大型化やコストアップを招く。
【0005】
また、ピーク電流制御形式を採用すると、サブハーモニック発振する虞がある。通常は、スロープ補償することで当該発振を防止するが、スロープ補償値を大きくしすぎると高速応答できなくなるため、最適なスロープ補償値を設定する必要があり工数がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-33200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、スロープ補償することなくサブハーモニック発振を防止できるようにしたDC/DCコンバータの制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、スイッチング周期の整数倍の時比率変更単位周期Nの度に時比率を変更しながらインダクタ(6)に流す通電電流をスイッチング制御して出力電圧(Vo)を目標電圧に制御するDC/DCコンバータ(1)の制御プログラムを対象としている。
【0009】
請求項1記載の発明によれば、制御装置(9)に、過去のスイッチング周期における入力電圧(Vi)、出力電圧(Vo)、及びインダクタに流れるインダクタ電流(I)のサンプリング結果を取得する第1手順と、インダクタ電流のピーク演算値が電流目標設定周期Mにて電流指令値に達するように時比率変更周期の間の時比率を演算する第2手順と、を実行させている。このとき第2手順では、時比率変更単位周期Nの二分の一より後のM≧N/2+1の条件を満たす整数値に電流目標設定周期Mを設定している。これにより、スロープ補償することなくサブハーモニック発振を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係るDC/DCコンバータの電気的構成図
図2】一実施形態に係るデジタル演算処理の内容を説明するフローチャート
図3】一実施形態に係る処理の流れを示すタイミングチャートのその1
図4】一実施形態に係るインダクタに流れる理想的な定常電流と実電流との誤差の説明図
図5】一実施形態に係る処理の流れを示すタイミングチャートのその2
図6】一実施形態に係る処理の流れを示すタイミングチャートのその3
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、DC/DCコンバータ1に適用した一実施形態を説明する。図1に例示したDC/DCコンバータ1は、直流電圧源2から入力される入力電圧Viを電圧変換し負荷3に直流の出力電圧Voを供給するBuckコンバータにより構成される。
【0012】
・DC/DCコンバータ1の構成
DC/DCコンバータ1は、スイッチング素子4、ダイオード5、インダクタ6、及びコンデンサ7、8を用いて構成される。本形態では、スイッチング素子4をNチャネル型のMOSFETにより構成した形態を示すが、このスイッチング素子4の種類は限られるものではない。
【0013】
直流電圧源2はコンデンサ8を介してスイッチング素子4のドレインに印加される。スイッチング素子4のソースとグランドとの間には、ダイオード5のカソード・アノード間が接続されている。スイッチング素子4のソースとダイオード5のカソードの共通接続点は、インダクタ6の一端に接続されており、インダクタ6の他端とグランドとの間にはコンデンサ7が接続されている。コンデンサ7の後段には負荷3が接続されている。
【0014】
制御装置9は、インダクタ6の通電電流をピーク電流モード制御方式により制御し、出力電圧Voを所定の目標電圧に制御する。制御装置9は、スイッチング周期Tsを同一とし、時比率D、いわゆるデューティ比を制御するPWM(Pulse Wide Modulation)制御を実行する。制御装置9は、例えばDSPなどの所定のデジタル演算処理を実行可能なデジタル演算回路10を備える。また制御装置9は、ドライバ11、及びA/D変換器13~15をも備える。
【0015】
インダクタ6の通電経路には電流センサ12が設けられており、電流センサ12はインダクタ6に通電される電流、すなわちインダクタ電流Iを検出する。A/D変換器13は、インダクタ電流IをA/D変換しデジタル演算回路10に出力する。
【0016】
またA/D変換器14は、出力電圧VoをA/D変換しデジタル演算回路10に出力する。A/D変換器15は入力電圧ViをA/D変換しデジタル演算回路10に出力する。
【0017】
デジタル演算回路10は、A/D変換器13~15の出力データを入力し、このデータを用いてピーク電流モード制御方式によりデジタル演算処理し当該演算処理された時比率Dを示すデジタル指令値をドライバ11に出力する。このときデジタル演算回路10は、インダクタ6のインダクタンス値L、インダクタ電流I、及び出力電圧Voに基づいて時比率Dを演算し、この時比率Dを示すデジタル指令値をドライバ11に出力する。
【0018】
ドライバ11は、デジタル演算回路10からデジタル指令値を入力し、所定のスイッチング周期Tsで且つ入力した時比率Dのパルスをスイッチング素子4のゲートに印加する。ドライバ11は、与えられた時比率Dに応じてオン期間中にスイッチング素子4のゲートにオン駆動信号を出力し、オフ期間中にスイッチング素子4のゲートにオフ駆動信号を出力する。
【0019】
・デジタル演算処理の基本的流れ
以下、デジタル演算回路10が実行するデジタル演算処理の内容を説明する。図2に処理手順の流れを簡略化して例示している。デジタル演算回路10は、ステップS1、S2において、過去のスイッチング周期Tsにおける出力電圧Vo、インダクタ電流Iを取得し(第1手順相当)、インダクタ電流Iの傾斜mOFF、mONを演算し、ステップS3において傾斜mOFF、mONに基づいて時比率Dを演算する(第2手順相当)。そして制御装置9は、デジタル演算回路10が演算した時比率Dを用いてスイッチング素子4をスイッチング制御する。
【0020】
傾斜mOFFは、スイッチング素子4がスイッチングオフしている間の傾きを示す。傾斜mONは、スイッチング素子4がスイッチングオンしている間の傾きを示す。A/D変換器13がインダクタ電流Iをサンプリングする回数は、スイッチング周期Tsの1サイクルあたり一回である。A/D変換器15が出力電圧Voをサンプリングする回数もスイッチング周期Tsの1サイクルあたり一回である。
【0021】
・ステップS1における傾斜mOFFの演算方法
オフ期間中の傾斜mOFFは、インダクタ6の両端電圧をvとしたとき、一般式を用いて(1)式のように求めることができる。
【数1】
【0022】
ここで、A/D変換器14がスイッチング周期Ts毎にサンプリングする出力電圧Vo[]を図3に示すように定義する。また演算にかかわるスイッチング数周期の間、インダクタ電流Iの傾斜mOFF、mONを一定と仮定する。出力電圧Vo[n-1]から図3に示したオフ期間中の傾斜mOFF[n](=mOFF[n-1])を求めると(2)式のようになる。
【数2】
【0023】
デジタル演算回路10は、図2のステップS1にて(2)式を用いてインダクタ電流Iの傾斜mOFFを演算する。n-1周期のインダクタ電流I[n-1]を、n-2周期のインダクタ電流I[n-2]との関係で漸化式を用いて示すと(3)式のように表すことができる。
【数3】
【0024】
図3に示したように、サンプリング時間Tsampleは、スイッチ駆動信号がオンするタイミングからA/D変換器14が出力電圧Voをサンプリングするタイミングまでの時間を示している。またD[n-2]は、n-2周期目の時比率D、いわゆるデューティ比を示している。なお、(3)式が成立するためには、インダクタ電流Iをスイッチング素子4のオン期間中にサンプリングする必要があるため、サンプリング時間Tsampleは下記の(4-1)式、(4-2)式を満たすように設定している。
【数4】
【0025】
・ステップS2における傾斜mONの演算方法
また(3)式をオン期間中の傾斜mON[n]について解くと、(5)式のように表すことができる。
【数5】
【0026】
(2)式を(5)式に代入して解くことで、n-2周期目、n-1周期目のインダクタ電流I[n-2]、I[n-1]と、n-2周期目の時比率D[n-2]とを用いてn周期目のオン期間中の傾斜mON[n]を求めることができる。したがって、デジタル演算回路10は、過去直近二回分のインダクタ電流I[n-2]、I[n-1]を用い、式(2)と式(5)の関係式からオン期間中の傾斜mON[n]を演算できる。
【0027】
・ステップS3の時比率D[]の基本的演算方法
この後、デジタル演算回路10は、ピーク電流モード制御方式の所定の演算ロジックに基づいて、電流指令値ILcom[n]を演算し、ステップS3において当該電流指令値ILcom[n]に達するための時比率D[n]を演算する。
【0028】
デジタル演算回路10が時比率D[n]を演算した後、制御装置9は演算された時比率D[n]に基づいてスイッチング素子4を駆動する。その後、デジタル演算回路10は、次回以降のスイッチング周期Tsにおける処理をステップS1から順次繰り返す。これにより制御装置9は、スイッチング素子4のスイッチング制御を継続することで出力電圧Voを目標電圧に制御できる。
【0029】
本実施形態は、時比率D[]の演算方法に特徴を備えるため、以下では、この技術的意義を説明した後、具体例を示して時比率D[]の演算方法を詳細説明する。
・比較技術の説明
一般に、ピーク電流モード制御方式のデジタル制御技術は、過去の出力電圧Vo[]、過去の入力電圧Vi[]のサンプリングデータを用い、P制御方式、PI制御方式、PID制御方式等の所定の制御方式に基づいて、電流指令値ILcom[]を演算する。この後、電流指令値ILcom[]に達する時比率D[]を求めるときには、(6)式に示すように、正の傾斜を示すスロープ補償値msを用いている。そして、インダクタ電流Iのオン期間中の傾斜mON[n]を一時的に大きくし、インダクタ電流Iのピーク演算値が次回の電流指令値ILcom[n]に達するように制御している。
【数6】
【0030】
この(6)式において、右辺第2項はn-1周期目のオン期間中におけるインダクタ電流Iの増加分を示す。右辺第3項はn-1周期目のオフ期間中におけるインダクタ電流Iの減少分を示す。また右辺第4項はn周期目のオン期間中におけるインダクタ電流Iの増加分、を示す。(6)式の右辺第4項において、下記の(7)式を満たすスロープ補償値msを用いてスロープ補償することで、スイッチング制御を長期間周期的に繰り返したとしても単位時間毎に誤差を補償できるようになり、サブハーモニック発振を防止できる。
【数7】
【0031】
しかしながら、背景技術欄に説明したようにスロープ補償値msを大きくしすぎると、実際のオン期間中の傾斜mON[n]との間の乖離が大きくなる場合には高速応答できなくなるため、最適なスロープ補償値msを導出する工数がかかる。
【0032】
・本実施形態の技術的意義
そこで発明者らは、スイッチング制御が繰り返されたときでもスロープ補償値msを用いることなく誤差を収束させることが可能な条件を探索した。発明者らは、時比率変更単位周期N×スイッチング周期Tsの度に時比率D[]を変更するピーク電流モード制御方式を考慮している。時比率変更単位周期Nは、1以上の整数値である。以下では、電流目標設定周期をMとして説明する。
【0033】
図4には定常状態におけるインダクタ6に流れる目標電流を破線で示しており、インダクタ6に流れる実際のインダクタ電流Iの一例を実線で示している。理想的な定常電流は、所定の高電流値IHIと所定の低電流値ILOとの間で上下変動を繰り返すようになる。実際のインダクタ電流Iとインダクタ6の理想的な定常電流との誤差の初期値をΔI(0)とすると、その後のN周期目のスイッチング周期(=N・Ts)を終了した後の誤差ΔI(N・Ts)は、下記の(8)式のように表すことができる。
【数8】
【0034】
(8)式に示すように、スイッチング周期Tsの一回分に生じる電流誤差がN回積算されることで最終的な誤差ΔI(N・Ts)となる。このときの時比率Dの誤差ΔDはN周期の間で一定と仮定している。インダクタ電流Iの誤差の基準値ΔI(0)は、M回目に目標電流値に達するまでの誤差電流積算値に相当し、(9)式のように表すことができる。
【数9】
【0035】
(9)式をΔD・Tsについて解くと(10)式のようになる。
【数10】
(10)式を(8)式に代入すると(11)式のようになる。
【数11】
【0036】
インダクタ6に理想的な定常電流が流れているとき、時比率Dはオン期間中の傾斜mON、オフ期間中の傾斜mOFFとの間で一意に決定される。このため、時比率Dと傾斜mON及びmOFFとの定常状態の関係性に基づいて(11)式を展開すると、下記の(12)式のようになる。
【数12】
【0037】
N周期を経過したときの誤差電流ΔI(N・Ts)の絶対値が(13)式に示すように1未満となるとき、その後も同様のピーク電流モード制御方式を継続することで、理想的な定常電流にいずれ収束することになり、ハーモニック発振を生じることもなくなる。
【数13】
【0038】
この(13)式を時比率Dについて解くと(14)式のようになる。
【数14】
【0039】
時比率Dは1以下であるため(15)式のように表すことができる。
【数15】
【0040】
この(15)式に示す電流目標設定周期M、時比率変更単位周期Nの関係性を満たせば、スロープ補償を不要にできる。すなわち、時比率変更単位周期N=1とすれば、電流目標設定周期M=2以上の整数値とすれば良く、時比率変更単位周期N=2とすれば、電流目標設定周期M=2以上とすれば良い。
【0041】
また時比率変更単位周期N=3とすれば、電流目標設定周期M=3以上とすれば良く、時比率変更単位周期N=4とすれば、電流目標設定周期M=3以上とすれば良い。時比率変更単位周期Nを大きくすれば、単位時間あたりの時比率Dの演算回数を少なくでき、演算量を少なくできる。演算量を少なくできれば、低スペックのデジタル演算回路10を用いても、より高いスイッチング周波数に対応可能になる。例えば、時比率変更単位周期Nを1より大きくすることで、演算時間のボトルネックを回避できる。
【0042】
逆に、出力電圧Voが目標に到達する応答性能を重視すれば、時比率変更単位周期N、及び、電流目標設定周期Mを極力小さくすることが望ましく、時比率変更単位周期N=1にすると良い。このとき(15)式の条件を満たす電流目標設定周期M=2とすることが望ましい。
【0043】
・ステップS3における時比率D[]の演算方法の具体例
上記のように時比率変更単位周期N=1、電流目標設定周期M=2とした場合の具体例を説明する。特に、図2のステップS3における時比率D[]の演算方法の具体例を説明する。デジタル演算回路10は、過去の出力電圧Vo[]のサンプリングデータを用いてP制御方式、PI制御方式又はPID制御方式等の所定の制御方式に基づいて、電流指令値ILcom[]を演算する。デジタル演算回路10は、過去の出力電圧Vo[]のサンプリングデータと共に過去の入力電圧Vi[]のサンプリングデータを用いて電流指令値ILcom[]を演算するようにしても良い。
【0044】
例えば、デジタル演算回路10は、図3のタイミングt0よりも前の例えば過去の直近の出力電圧Vo[n-2]のサンプリングデータを用いて電流指令値ILcom[n-1]を演算する。例えば、出力電圧Vo[n-2]が高ければ電流指令値ILcom[n-1]を低く設定し、出力電圧Vo[n-2]が低ければ電流指令値ILcom[n-1]を高く設定すると良い。
【0045】
図3に例示したように、出力電圧Voは、インダクタ電流Iの変化に応じて位相遅れを生じながら緩やかに変化する。前述したように、時比率変更単位周期N=1、電流目標設定周期M=2とすることで、デジタル演算回路10は、M=2周期目にインダクタ電流Iのピーク演算値が電流指令値ILcom[n-1]に達するように時比率D[n-1]を演算する。制御装置9は、デジタル演算回路10により演算された時比率D[n-1]に基づいてスイッチング素子4を駆動する。
【0046】
その後のタイミングt0~t1のスイッチング周期Tsでも同様に、デジタル演算回路10は、過去直近の出力電圧Vo[n-1]のサンプリングデータを用いて電流指令値ILcom[n]を演算する。
【0047】
図5に例示したように、タイミングt0~t1のスイッチング周期Tsでも同様に、デジタル演算回路10は、M=2周期目にインダクタ電流Iのピーク演算値が電流指令値ILcom[n]に達するように時比率D[n]を演算する。制御装置9は、デジタル演算回路10により演算された時比率D[n-1]に基づいてタイミングt1~t2にてスイッチング素子4を駆動する。
【0048】
その後のタイミングt2以降も同様に、制御装置9がピーク電流モード制御方式に係るスイッチング制御を繰り返す。すると図6に例示したように、インダクタ電流Iが電流指令値ILcom[n+1]に達する。これにより制御装置9は、DC/DCコンバータ1のサブハーモニック発振を防ぎながら、インダクタ電流Iが電流指令値ILcom[]に達するようにスイッチング制御できる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置9によれば、過去のスイッチング周期Tsにおける入力電圧Vi、出力電圧Vo、インダクタ6に流れるインダクタ電流Iのサンプリング結果を取得し、インダクタ電流Iのピーク演算値が電流目標設定周期Mにて電流指令値ILcomに達するように時比率変更単位周期N×スイッチング周期Tsの間の時比率D[]を演算している。このとき、電流目標設定周期Mが、時比率変更単位周期Nの二分の一より後のM≧N/2+1の条件を満たす整数値に設定されているときには、スロープ補償することなくサブハーモニック発振を防ぐことができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、A/D変換器13~15のサンプリング周期は、スイッチング周期Tsの1サイクルに1回としている。このためA/D変換器13~15のサンプリング周期を短縮する必要がなくなり、より高いスイッチング周波数にて動作させる場合でも対応できる。制御装置9のデジタル演算回路10は、過去の二回分のインダクタ電流Iのサンプリング結果に基づいて、インダクタ電流Iがピーク演算値に到達する時比率D[]を演算することで、スイッチング周期Tsの度にサンプリングしながらピーク電流モード制御方式によるスイッチング制御を実現できる。
本実施形態によればフルデジタル化して構成できる。
【0051】
(他の実施形態)
本発明は、前述実施形態の構成例に限定されるものではなく、様々な変形又は拡張が可能である。また例えば、前述の各実施形態の構成を組み合わせて適用することも可能である。
【0052】
DC/DCコンバータ1として、Buckコンバータを例示した形態を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、フォワードコンバータを適用しても良いし、他種類のDC/DCコンバータを適用しても良いし、その種類は限られるものではない。またDC/DCコンバータ1は降圧型でも昇圧型でも適用できる。また、入力電圧Viのサンプリングデータを用いて、傾斜moffを(出力電圧Vo-入力電圧Vi)/インダクタンス値Lの関係式に基づいて算出し、傾斜monの演算を行うようにしてもよい。
【0053】
スイッチング素子4はどのような種類のトランジスタを用いて構成しても良い。スイッチング素子4は、例えばバイポーラ形のNPNトランジスタ、PNPトランジスタなどを用いて構成しても良い。
【0054】
本開示に記載の制御装置9のデジタル演算回路10及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御装置9のデジタル演算回路10及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより実現されてもよい。
【0055】
もしくは、本開示に記載の制御装置9のデジタル演算回路10及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0056】
前述実施形態の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も実施形態と見做すことが可能である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において、考え得るあらゆる態様も実施形態と見做すことが可能である。
【0057】
本発明は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本発明は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0058】
図面中、1はDC/DCコンバータ、6はインダクタ、9は制御装置、Viは入力電圧、Voは出力電圧、Iはインダクタ電流、Mは電流目標設定周期、Nは時比率変更単位周期、を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6