(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】構造物の診断システムおよび診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230330BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2020036955
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2021-12-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会名:レジリエンス、リライアビリティおよびアセットマネジメント世界会議2019(2019 WORLD CONGRESS ON RESILIENCE,RELIABILITY AND ASSET MANAGEMENT) 開催日:令和元年7月30日 2.集会名:修士論文発表会 開催日:令和2年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 智基
(72)【発明者】
【氏名】橋本 勝文
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
【審査官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011092(JP,A)
【文献】国際公開第2013/153845(WO,A1)
【文献】特開2019-215203(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194375(WO,A1)
【文献】特開2020-008293(JP,A)
【文献】特開2019-109217(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0218824(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
G01H 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置され、前記構造物の振動量
に応じて電力を発生する振動発電素子、または前記構造物の振動量を表す物理量を検出する振動検出センサを有する振動検出装置と、
前記振動検出装置によって検出された前記構造物の振動量の変化に基づいて、前記構造物の健全性を診断する診断装置と、を備え
、
前記診断装置は、健全な状態における前記構造物の振動量に基づく第1発電量のデータを予め記憶する記憶部を有し、前記健全な状態における前記第1発電量に対する、前記振動発電素子によって検出された前記構造物の振動量に基づく、または前記振動検出センサによって検出された物理量を用いて算出される第2発電量の変化を検出することにより、前記構造物の健全性を診断し、
前記振動検出装置は、複数の部分からなる前記構造物に設置されて前記複数の部分のそれぞれの振動量を検出し、
前記記憶部は、健全な状態における前記構造物の前記複数の部分の振動量に基づく複数の前記第1発電量の基準値と、前記複数の第1発電量を前記基準値に変換するための補正係数とを記憶し、
前記診断装置は、前記振動検出装置によって検出された前記構造物の前記複数の部分の振動量に基づく複数の前記第2発電量に、前記記憶部に記憶された前記補正係数をそれぞれ乗算して複数の第3発電量を算出し、前記記憶部に記憶された前記基準値と前記複数の第3発電量とを比較することにより、前記複数の部分のうち、どの部分が劣化しているかを診断する、構造物の診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の構造物の診断システムを用いて前記構造物の健全性を診断する、構造物の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の診断システムおよび診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物の状態を監視する技術として、構造物より発生した弾性波を検出するAE(Acoustice Emission)センサを用いる手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構造物評価システムのようにAEセンサを用いると、AEセンサは高額であるので構造物毎に設置するには非常に高額になってしまう。一方、計測のためにAEセンサを一時的に設置する場合、計測するたびに設置が必要となって手間がかかり、コストの増大につながってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によると、構造物の診断システムは、構造物に設置され、前記構造物の振動量に応じて電力を発生する振動発電素子、または前記構造物の振動量を表す物理量を検出する振動検出センサを有する振動検出装置と、前記振動検出装置によって検出された前記構造物の振動量の変化に基づいて、前記構造物の健全性を診断する診断装置と、を備え、前記診断装置は、健全な状態における前記構造物の振動量に基づく第1発電量のデータを予め記憶する記憶部を有し、前記健全な状態における前記第1発電量に対する、前記振動発電素子によって検出された前記構造物の振動量に基づく、または前記振動検出センサによって検出された物理量を用いて算出される第2発電量の変化を検出することにより、前記構造物の健全性を診断し、前記振動検出装置は、複数の部分からなる前記構造物に設置されて前記複数の部分のそれぞれの振動量を検出し、前記記憶部は、健全な状態における前記構造物の前記複数の部分の振動量に基づく複数の前記第1発電量の基準値と、前記複数の第1発電量を前記基準値に変換するための補正係数とを記憶し、前記診断装置は、前記振動検出装置によって検出された前記構造物の前記複数の部分の振動量に基づく複数の前記第2発電量に、前記記憶部に記憶された前記補正係数をそれぞれ乗算して複数の第3発電量を算出し、前記記憶部に記憶された前記基準値と前記複数の第3発電量とを比較することにより、前記複数の部分のうち、どの部分が劣化しているかを診断する。
本発明の第2の態様によると、構造物の診断方法は、第1の態様による構造物の診断システムを用いて前記構造物の健全性を診断する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高額のセンサを用いずに、安いコストで構造物の健全性を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態における構造物の診断システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、振動検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、振動発電素子の一例を示す概念図である。
【
図4】
図4は、診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、1径間の床版のモデルを示す図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、床版の各パネルの振動モード1~3の例を示す図である。
【
図7】
図7は、構造物の診断方法の流れを説明するフローチャートである。
【
図8】
図8(a)~(c)は、健全な状態の床版のパネルP1~P6に対し、パネルP1、P2,P3がそれぞれ劣化した場合の発電電力のグラフを示す図である。
【
図9】
図9は、健全な状態の床版のパネルP1~P6の振動モード3による発電量比のグラフを示す図である。
【
図10】
図10は、健全な状態の各パネルP1~P6の発電量比、基準値、補正係数を示す表である。
【
図11】
図11(a)、(b)は、パネルP1が劣化した場合の発電量比のグラフと、補正係数を用いて補正した補正後の発電量比のグラフを示す図である。
【
図12】
図12は、第2の実施の形態における振動検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施の形態による構造物の診断システムおよび診断方法は、橋梁等の構造物の振動量(例えば、振幅や振動のエネルギー)が構造物自体の劣化によって変化することを利用し、振動量の変化に基づいて構造物が健全であるか劣化しているかといった構造物の健全性を診断するものである。換言すると、時間経過とともに現れる構造物の材料特性の変化や構造条件としての境界条件の変化を振動量の変化として検出し、その検出結果に基づいて診断を行う。
【0009】
構造物が健全であるとは、構造物の機能に支障が生じていない状態をいう。したがって、建設したばかりの新しい構造物だけでなく、建設してからある程度の時間が経過した既存の構造物であっても機能に支障が生じていないものは健全な構造物といえる。構造物が劣化しているとは、構造物の構成部材であるコンクリートのひび割れ、鉄筋やPC鋼材等の亀裂、ボルトの変形やさび、等の損傷が発生し、構造物の機能に支障が生じている、または生じる可能性がある状態をいう。
【0010】
なお、構造物は橋梁に限定されず、道路標識、照明施設等の道路の附属物など、健全性の変化により振動量が変化し得るあらゆる構造物が含まれる。以下に、本発明の各実施の形態における構造物の診断システムおよび診断方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
-第1の実施の形態-
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、第1の実施の形態における構造物の診断システムの概略構成を示すブロック図である。構造物の診断システム1は、橋梁等の構造物に設置され、構造物の振動量を検出する振動検出装置10と、振動検出装置10の検出結果に基づいて構造物の健全性を診断する診断装置20とを備えている。
【0012】
図2は、振動検出装置10の概略構成を示すブロック図である。振動検出装置10は、振動を利用して発電を行う振動発電素子11と、電源回路12と、無線回路13とを備えている。振動発電素子11は、振動発電素子11が設置された橋梁等の構造物の振動のエネルギーを採取して電力を得ることができる。電源回路12は振動発電素子11により発電された交流を直流に変換する変換部、コンデンサやバッテリ等の蓄電部等を備え、振動発電素子11で発電された電力を無線回路13に供給する。
【0013】
振動発電素子11は、構造物の振動量に応じた電力を発電することから、構造物の振動量を検出する振動検出センサとしても機能する。振動検出装置10は、構造物の振動量に応じて発電した振動発電素子11の発電量(電圧、電力)のデータを、振動発電素子11により発電された電力を利用して無線回路13を介して診断装置20に送信するように構成されている。
【0014】
図3は、振動発電素子11の一例を示す概念図である。振動発電素子11は、面外振動するカンチレバー型の振動発電素子であり、振動を電気に変換する部分にエレクトレット膜を用いた静電方式である。ベース部200には、可動櫛歯電極201と固定櫛歯電極202とが形成されている。可動櫛歯電極201および固定櫛歯電極202の少なくとも一方には、エレクトレット膜が形成されている。可動櫛歯電極201は弾性変形するカンチレバー203を介してベース部200に固定されている。
【0015】
振動発電素子11に外部から振動が加わるとカンチレバー203がz方向に撓み、可動櫛歯電極201が固定櫛歯電極202に対して振動し、電力が発生する。振動発電素子11の共振周波数は、例えばカンチレバー203のバネ定数を調整することで所望の値に設定することができる。可動櫛歯電極201および固定櫛歯電極202は、配線204a,204bにより電源回路12に接続される。
【0016】
図4は、診断装置20の概略構成を示すブロック図である。診断装置20は、振動検出装置10の無線回路13からインターネットや専用回線等を介して発電量(第2発電量)のデータが入力される入力部21と、予め健全な状態における構造物の振動量に基づく発電量(第1発電量)のデータが記憶された記憶部22と、構造物の健全性を診断する診断部23とを備えている。記憶部22は、半導体メモリやハードディスク等の記憶装置により構成されている。診断部23は、不図示のCPU、ROM,RAM等を有し、予め格納された診断プログラムを実行することにより健全性の診断を行うように構成されている。診断部23は、入力部21に入力された発電量と、記憶部22に記憶された健全な状態の構造物の発電量とに基づいて、後述するように構造物の健全性を診断する。
【0017】
診断システム1は、振動検出装置10によって振動量検出し、診断装置20によって振動量の変化に基づいて構造物が健全な状態であるか劣化しているかを診断する。本発明の第1の実施の形態においては、構造物の一例として橋梁の振動量の変化を検出し、その健全性を診断する。具体的には、交通などによる荷重が直接かかる橋梁の床版に振動検出装置10を設置し、床版の振動量を検出することで健全性を判定する。なお、橋梁は、河川、渓谷、運河などの上に架け渡されたものだけでなく、鉄道線路、道路などの上に架け渡された構造物も含む。
【0018】
ここでは、床版が複数の部分(パネル)から構成されていると想定し、
図5に示す1径間の床版のモデルを用いて構造物の診断方法を説明する。6枚のコンクリート製のパネルP1~P6が並列に配置された構造を、床版の1径間(1つのユニット)とする。
図6(a)~(c)は、床版の各パネルの振動モード1~3の例を示す図であり、
図6(a)に示す振動モード1は1次の曲げ、
図6(b)に示す振動モード2は1次のねじり、
図6(c)に示す振動モード3は2次の曲げに相当する。
図6(a)~(c)に示すように、実際の橋梁では床版の各パネルはさまざまなモードが組み合わさって振動するが、ここでは、振動数が高いため環境振動として最もエネルギー効率が高いと考えられる
図6(c)の振動モード3に着目する。
【0019】
健全な状態、すなわち劣化していない状態のパネルP1~P6の固有振動数(共振周波数)は、各パネルP1~P6を振動モード3で振動させ、類型化等によりモデル化を行うことで予め規定しておく。
【0020】
床版のパネルP1~P6にはそれぞれ振動検出装置10が設置される。各振動検出装置10は、その共振周波数が、予め規定された健全な状態の床版のパネルP1~P6の固有振動数(共振周波数)に概ね合致するように、調整される。なお、構造物の固有振動数は、通常、構造物の劣化により変動するので、各振動検出装置10共振周波数は、あまり狭帯域化されたものではなく、健全な状態および劣化した状態のパネルP1~P6の共振周波数に対応する広帯域の特性を有するものでよい。調整後の振動検出装置10を用いて健全な状態の各パネルP1~P6の振動モード3における振動量を検出した場合の、振動検出装置10の発電量のデータは、健全な状態の発電量として、診断装置20の記憶部22に記憶される。
【0021】
建設してからある程度の時間が経過した既存の橋梁であって、機能に支障がないと考えられるものに対しては、床版の各パネルに振動検出装置10を実際に設置して、上記モデルと同様に振動モード3における振動量を検出する。そして、振動検出装置10から得られた発電量のデータを健全な状態の発電量として、診断装置20の記憶部22に記憶する。
【0022】
以下に、第1の実施の形態における構造物の診断方法について、
図7のフローチャートを用いて説明する。
【0023】
ステップS10では、床版の各パネルP1~P6に設置された振動検出装置10によって振動モード3における各パネルP1~P6の振動量を検出する。振動検出装置10は、振動発電素子11によって振動量に応じた電力を発電し、発電量のデータを無線回路13を介して診断装置20に送信する。無線回路13は、例えば定期的にスリープ状態から自動起動して、発電量のデータを送信してもよいし、診断装置20からの指令に応じて発電量のデータを送信するように構成してもよい。
【0024】
ステップS20では、診断装置20の診断部23により、振動検出装置10から送信された発電量と、記憶部22に記憶された健全な状態の発電量とに基づいて、床版の各パネルP1~P6の健全性を診断する。床版のパネルP1~P6の振動量による発電量は、パネルの材料や構造上の境界の状態にも依存するため、パネルP1~P6同士の発電量のデータを直接、比較しても、どのパネルが劣化しているかを判断することは不可能である。そこで、健全な状態における床版の各パネルP1~P6の発電量と、振動検出装置10で検出した床版の各パネルP1~P6の発電量とをそれぞれ比較し、健全な状態における振動量に基づく発電量に対する変化を検出することにより、どのパネルがどの程度、劣化しているかを判断する。
【0025】
図8(a)~(c)に、健全な状態の床版のパネルP1~P6に対し、パネルP1が劣化した場合の振動検出装置10による発電電力のグラフ、パネルP2が劣化した場合の発電電力のグラフ、パネル3が劣化した場合の発電電力のグラフを示す。
【0026】
図8(a)に示すように、パネルP1が劣化している場合は、健全な状態のパネルP1の発電量に対し、劣化したパネルP1の発電量が増加している。これは、劣化によりパネルP1の振動量が変化したことにより、振動発電素子11による発電量が増加したためである。同様に、
図8(b)に示すように、パネルP2が劣化している場合は、健全な状態のパネルP2の発電量に対し、劣化したパネルP2の発電量が増加している。
図8(c)に示すように、パネルP3が劣化している場合は、健全な状態のパネルP3の発電量に対し、劣化したパネルP3の発電量が増加している。
【0027】
このように、劣化前後の発電量を比較することで、パネルP1~パネルP3のいずれが劣化したかを判断することができる。また、健全な状態のパネルの発電量に対する変化量から、構造物がどの程度、劣化しているか、も推定できる。例えば、健全な状態のパネルP1の発電量を初期値とし、この初期値に対する、劣化したパネルP1の発電量の変化量が大きいほど、損傷が進行し、劣化が進んでいると推定できる。
【0028】
なお、上述した第1の実施の形態においては、1つの振動発電素子11を備える振動検出装置10を、各パネルP1~P6に設置する例を説明した。ただし、これには限定されず、振動検出装置10が複数の振動発電素子11を有し、各パネルP1~P6に1つずつ振動発電素子11を設置するように構成してもよい。この場合、電源回路12には複数の振動発電素子11が接続される。
【0029】
以上説明した第1の実施の形態によれば、以下の作用効果が得られる。
(1)構造物の診断システムは、橋梁等の構造物に設置され、構造物の振動量、具体的には振幅と振動数、を検出する振動検出装置10と、振動検出装置10によって検出された構造物の振動量の変化に基づいて、構造物の健全性を診断する診断装置20と、を備える。構造物の振動量の変化に基づいて健全性を診断するように構成することにより、AEセンサ等の高額なセンサを用いずに安いコストで診断を行うことができる。AEセンサを用いて構造物の損傷位置を検出するためには、高額な装置一式とAE波形の分析による高度な分析ノウハウが必要となるが、上記第1の実施の形態によれば、振動量の変化に着目することで、構造物の健全性としての損傷程度と損傷位置の検出を容易に行うことが可能となる。
【0030】
(2)診断装置20は、健全な状態における構造物の振動量に基づく第1発電量のデータを記憶する記憶部22を有し、健全な状態における第1発電量に対する、振動検出装置10によって検出された構造物の振動量に基づく第2発電量の変化を検出することにより、構造物の健全性を診断する。構造物の振動量は劣化によって変化するため、健全な状態の振動量に基づく発電量からの変化を検出することにより、構造物が劣化しているか否かを診断することができる。
【0031】
(3)振動検出装置10は、構造物の振動量を検出し、振動量に応じて電力を発生する振動発電素子11を有する。振動発電素子11で振動により発電を行うことができるので、振動検出装置10を無給電で作動させることができる。したがって、振動検出装置10を一旦、構造物に設置すれば、半永久的に健全性を監視することができる。
【0032】
-第2の実施の形態-
上述した第1の実施の形態においては、健全な状態における床版の各パネルP1~P6のそれぞれの発電量と、振動検出装置10で検出した床版の各パネルP1~P6の対応するいずれかの発電量のデータとを比較することにより、どのパネルが劣化しているかを判断した。これに対し、第2の実施の形態では、各パネルP1~P6の発電量を平均化する補正係数を利用し、どのパネルがどの程度、劣化しているかを容易に診断できるようにする。
【0033】
図9に、健全な状態の床版のパネルP1~P6の振動モード3による発電量比のグラフを示す。ここで、発電量比は、振動検出装置10で検出された床版の各パネルP1~P6の発電電力の比であり、検出された発電電力の最大値を1として正規化することにより算出される。
図9に示すように、各パネルP1~P6の発電量はパネルの材料や構造上の理由により、健全な状態であってもそれぞれが異なる値を示す。そこで、健全な状態の各パネルP1~P6の発電量比(第1発電量)に基づいて基準値を設定することにより、基準値を参照してパネルの健全性を判断する。
【0034】
発電量を基準値に変換するための補正係数Ijは、健全な状態の各パネルP1~P6の発電量比Pを用いて、以下の式(1)により算出できる。
【数1】
・・・(1)
図10の表に、健全な状態の各パネルP1~P6の発電量比、基準値、補正係数Ijを示す。算出された基準値および補正係数Ijは、診断装置20の記憶部22に記憶される。
【0035】
診断部23は、振動検出装置10で検出した床版の各パネルP1~P6の発電量比(第2発電量)に、それぞれ補正係数Ijを乗算し、各パネルP1~P6について補正後の発電量比(第3発電量)を算出する。
図11(a)、(b)に、振動検出装置10で検出したパネルP1が劣化した場合の発電量比のグラフと、補正係数Ijを用いて補正した補正後の発電量比のグラフを示す。
【0036】
図11(b)に示すように、劣化したパネルP1の補正後の発電量比が健全な状態の基準値を超えている。このように、パネルP1~P6の発電量の相対的な関係を発電量比として定義し、補正後の発電量比を健全な状態の基準値と比較することにより、パネルP1~P6のうち、パネルP1が劣化していることを容易に検出することができる。また、健全な状態の基準値に対する補正後の発電量比の乖離から、損傷の程度を推定することができる。すなわち、健全な状態の基準値に対して補正後の発電量比が大きいほど、パネルP1の損傷が進行し、劣化が進んでいると判断できる。
【0037】
以上説明した第2の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態による作用効果に加えて以下の作用効果が得られる。
(1)振動検出装置10は、複数の部分(パネル)からなる床版に設置されて複数のパネルのそれぞれの振動量を検出する。診断装置20の記憶部22は、健全な状態における床版の複数のパネルの振動量に基づく複数の第1発電量の基準値と、複数の第1発電量を基準値に変換するための補正係数Ijとを記憶している。診断装置20は、振動検出装置10によって検出された床版の複数のパネルの振動量に基づく複数の第2発電量に、記憶部22に記憶された補正係数Ijをそれぞれ乗算して複数の第3発電量を算出し、記憶部22に記憶された基準値と複数の第3発電量とを比較することにより、複数のパネルのうち、どのパネルが劣化しているかを診断する。補正係数Ijを用いることにより、健全な状態における複数の第1発電量の基準値と、振動検出装置10によって検出された、あるパネルの振動量に基づく第2発電量の補正後の第3発電量との比較結果から、そのパネルが劣化しているか否か、さらにはどの程度、劣化しているかを判断することができ、容易に診断を行うことができる。
【0038】
-第3の実施の形態-
上述した実施の形態においては、振動検出装置10の振動発電素子11が、振動発電による電力供給の機能に加えて、構造物の振動量を検出する振動検出センサとしても機能するように構成した。第3の実施の形態においては、振動量を検出するセンサを振動発電素子11とは別に設け、振動発電素子11は電力供給のために用いる。
【0039】
図12に、第3の実施の形態における振動検出装置10Aの概略構成を示すブロック図を示す。振動検出装置10Aは、振動発電素子11と、電源回路12と、無線回路13とに加えて、構造物の振動量を表す物理量を検出する振動検出センサとして機能する加速度センサ14を備えている。加速度センサ14は、振動発電素子11で発電された電力が電源回路12を介して供給されることにより、作動する。加速度センサ14で得られた加速度のデータは、無線回路13を介して診断装置20に送信される。
【0040】
診断装置20は、振動検出装置10Aから送信された加速度のデータを用いて発電量を算出し、上述した第1、第2の実施の形態と同様に構造物の健全性を診断する。
【0041】
なお、第3の実施の形態では、振動検出センサ11から電力を供給されて作動する振動検出センサとして加速度センサ14を用いた。ただし、これには限定されず、構造物の健全性を判断するための物理量を検出することができれば、どのようなセンサを用いてもよい。
【0042】
以上説明した第3の実施の形態においても、上述した第1、第2の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0043】
なお、上述した実施の形態においては、振動発電素子11の一例として、
図3に示す構造を有するものを説明したが、振動発電素子11の構造は、これには限定されず、構造物の振動に応じて発電を行うものであれば、異なる構造であってもよい。
【0044】
上述した実施の形態においては、橋梁の床版の各パネルP1~P6に1つずつ振動検出装置10または振動発電素子11を設置する例を説明した。ただし、これには限定されず、診断システム1による健全性の評価分解能(例えば、検出したい損傷範囲の大きさや位置)に応じて、動検出装置10または振動発電素子11の個数や設置位置を任意に設定するようにしてもよい。
【0045】
上述した実施の形態においては、振動検出装置10が無線回路13を有し、振動発電素子11の発電量のデータを無線回路13を介して診断装置20に送信するように構成した。無線回路13に代えて、あるいは無線回路13に加えて、振動検出装置10が発電量の変化を報知する報知部を備えるように構成してもよい。例えば、報知部として、構造物の健全性の変化により振動量に基づく発電量が変化した場合に点灯する照明部材を設けることができる。この場合、診断装置20は省略してもよい。
【0046】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。また、上述した実施の形態および変形例を組み合わせて用いても良い。
【符号の説明】
【0047】
1:診断システム、10,10A:振動検出装置、11:振動発電素子、14:加速度センサ、20:診断装置、22:記憶部