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特許7253223無線給電システム、送電装置、及びコントローラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】無線給電システム、送電装置、及びコントローラ
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20230330BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
H02J50/12
H02J7/00 301D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018195710
(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公開番号】P2020065359
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-10-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年2月20日,立命館大学大学院2017年度後期理工学研究科修士論文公聴会 平成30年3月4日,Proceedings of RISP International Workshop on Nonlinear Circuits,Communications and Signal Processing 2018,信号処理学会(RISP) 平成30年3月6日,RISP International Workshop on Nonlinear Circuits,Communications and Signal Processing 2018 平成30年7月25日,Journal of Signal Processing,Vol.22,No.4,p.161-164,信号処理学会
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】福井 正博
(72)【発明者】
【氏名】本多 由宇人
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-021786(JP,A)
【文献】特開2014-090633(JP,A)
【文献】国際公開第2018/146786(WO,A1)
【文献】平松敏幸ほか,ワイヤレス給電における送電側による最大効率と受電側による所望受電電力の独立制御,電気学会論文誌D,Vol.135 No.8,日本,一般社団法人 電気学会,2015年08月01日,847-854
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線給電回路の一次回路を含む送電回路と、
前記無線給電回路の二次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路と、
前記送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて前記無線給電回路の入力インピーダンスを演算し、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算するコントローラと、
を備え
前記送電回路は、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを更に含み、
前記受電回路は、充電制御される蓄電池を含み、前記負荷変動は、前記充電制御によって生じる負荷変動であり、
前記コントローラは、前記電圧及び前記負荷推定値に基づいて、前記受電回路の受電電力推定値を演算し、前記受電電力推定値の減少に基づいて、前記送電回路による送電電力不足を検知した場合、前記第1コンバータを制御し、送電電力を大きくする
無線給電システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記無線給電回路の伝送効率改善のため前記入力インピーダンスが最適化されるよう前記第1コンバータを制御する
請求項1に記載の無線給電システム。
【請求項3】
前記第1コンバータは、DC/DCコンバータである
請求項又はに記載の無線給電システム。
【請求項4】
無線給電回路の一次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路と、
前記送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて前記無線給電回路の入力インピーダンスを演算し、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算するコントローラと、
を備え
前記送電回路は、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを更に含み、
前記受電回路は、充電制御される蓄電池を含み、前記負荷変動は、前記充電制御によって生じる負荷変動であり、
前記コントローラは、前記電圧及び前記負荷推定値に基づいて、前記受電回路の受電電力推定値を演算し、前記受電電力推定値の減少に基づいて、前記送電回路による送電電力不足を検知した場合、前記第1コンバータを制御し、送電電力を大きくする
送電装置。
【請求項5】
無線給電回路の一次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路のためのコントローラであって、
前記送電回路は、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを更に含み、
前記受電回路は、充電制御される蓄電池を含み、前記負荷変動は、前記充電制御によって生じる負荷変動であり、
前記コントローラは、
前記受電回路へ無線給電する前記送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて、前記無線給電のための回路の入力インピーダンスを演算する処理と、
前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算する処理と、
前記電圧及び前記負荷推定値に基づいて、前記受電回路の受電電力推定値を演算し、前記受電電力推定値の減少に基づいて、前記送電回路による送電電力不足を検知した場合、前記第1コンバータを制御し、送電電力を大きくする処理と、
を実行するコントローラ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線給電システム、送電装置、及びコントローラに関する。
【背景技術】
【0002】
無線給電には、電磁誘導方式のほか、特許文献1に開示の磁界共振方式がある。無線給電は、例えば、電気自動車などに搭載された蓄電池への充電への活用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-117451号公報
【発明の概要】
【0004】
無線給電においては、受電側において負荷変動が生じることがある。負荷変動は、例えば、受電側が蓄電池を有している場合に生じる。蓄電池、特にリチウムイオン蓄電池への充電は、蓄電池の状態に応じた充電電流又は充電電圧の最適化が求められる。充電電流又は充電電圧の最適化が、受電側における負荷変動を引き起こす。
【0005】
負荷変動は、無線給電の効率低下等の原因となるため、受電側の負荷変動への対処が望まれる。受電側の負荷変動への対処を送電側で行おうとした場合、送電側が、受電側の状態を把握する必要がある。送電側が、受電側の状態を把握するには、例えば、受電側が、受電側の状態を通信によって送電側へ通知することが考えられる。この場合、送受電間での通信機能が必須となる。このため、通信を行うことなく、送電側が、受電側の負荷変動へ対処できることが望まれる。
【0006】
本開示のある側面は、無線給電システムに関する。開示の無線給電システムは、無線給電回路の一次回路を含む送電回路と、前記無線給電回路の二次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路と、前記送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて前記無線給電回路の入力インピーダンスを演算し、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算するコントローラと、を備える。
【0007】
本開示において他の観点からみた無線給電システムは、無線給電回路の一次回路を含む送電回路と、前記無線給電回路の二次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路と、コントローラと、を備え、前記送電回路は、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを更に含み、前記コントローラは、前記電圧及び前記電流から演算される前記無線給電回路の入力インピーダンスが、無線給電の伝送効率改善のため最適化されるよう前記第1コンバータを制御する。
【0008】
本開示の他の側面は、送電装置である。開示の送電装置は、無線給電回路の一次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路と、前記送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて前記無線給電回路の入力インピーダンスを演算し、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算するコントローラと、を備える。
【0009】
本開示において他の観点からみた送電装置は、無線給電回路の一次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路と、コントローラと、を備え、前記送電回路は、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを更に含み、前記コントローラは、前記電圧及び前記電流から演算される前記無線給電回路の入力インピーダンスが、無線給電の伝送効率改善のため最適化されるよう前記第1コンバータを制御する。
【0010】
本開示のさらに他の側面は、コントローラである。開示のコントローラは、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて、前記無線給電のための回路の入力インピーダンスを演算する処理と、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算する処理と、を実行する。
【0011】
本開示において他の観点からみたコントローラは、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて、前記無線給電のための回路の入力インピーダンスを演算する処理と、前記入力インピーダンスが、無線給電の伝送効率改善のため最適化されるよう、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを制御する処理と、を実行する。
【0012】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、無線給電システムの回路図である。
図2図2は、無線給電回路の等価回路図である。
図3図3は、見せかけの負荷の説明図である。
図4図4は、入力インピーダンスから見せかけの負荷を演算するための説明図である。
図5図5は、充電状態停止検知の説明図である。
図6図6は、最適入力インピーダンスの説明図である。
図7図7は、実験結果を示す図である。
図8図8は、動作フローチャートである。
図9図9は、動作フローチャートである。
図10図10は、最適点追従の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.無線給電システム、送電装置、及びコントローラの概要>
【0015】
(1)実施形態に係る無線給電システムは、無線給電回路の一次回路を含む送電回路と、前記無線給電回路の二次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路と、前記送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて前記無線給電回路の入力インピーダンスを演算し、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算するコントローラと、を備える。この無線給電システムによれば、送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて受電回路の負荷推定値を演算することができる。したがって、受電回路において負荷変動が生じても、送電側において、負荷状態を把握することができる。よって、送受電回路間で通信を行うことなく、送電側が、受電側の負荷変動へ対処できる。
【0016】
(2)前記コントローラは、前記入力インピーダンス及び前記負荷推定値に基づいて、前記受電回路の受電電力推定値を演算することができる。
【0017】
(3)前記送電回路は、前記電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを備え、前記コントローラは、前記無線給電回路の伝送効率改善のため前記入力インピーダンスが最適化されるよう前記第1コンバータを制御することができる。
【0018】
(4)実施形態に係る無線給電システムは、無線給電回路の一次回路を含む送電回路と、前記無線給電回路の二次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路と、コントローラと、を備え、前記送電回路は、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを更に含み、前記コントローラは、前記電圧及び前記電流から演算される前記無線給電回路の入力インピーダンスが、無線給電の伝送効率改善のため最適化されるよう前記第1コンバータを制御することができる。この無線給電システムによれば、受電回路において負荷変動が生じても、送受電回路間で通信を行うことなく、伝送効率を改善することができ、受電側の負荷変動に対処できる。
【0019】
(5)前記第1コンバータは、DC/DCコンバータであるのが好ましい。
【0020】
(6)前記受電回路は、充電制御される蓄電池を含み、前記負荷変動は、前記充電制御によって生じる負荷変動であってもよい。
【0021】
(7)前記受電回路は、前記充電制御のため、前記電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第2コンバータを備え、前記負荷変動は、前記第2コンバータによって生じてもよい。
【0022】
(8)前記第2コンバータは、DC/DCコンバータであるのが好ましい。
【0023】
(9)実施形態に係る送電装置は、無線給電回路の一次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路と、前記送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて前記無線給電回路の入力インピーダンスを演算し、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算するコントローラと、を備える。
【0024】
(10)他の観点からみた実施形態に係る送電装置は、無線給電回路の一次回路を含み、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路と、コントローラと、を備え、前記送電回路は、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを更に含み、前記コントローラは、前記電圧及び前記電流から演算される前記無線給電回路の入力インピーダンスが、無線給電の伝送効率改善のため最適化されるよう前記第1コンバータを制御する。
【0025】
(11)実施形態に係るコントローラは、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて、前記無線給電のための回路の入力インピーダンスを演算する処理と、前記入力インピーダンスに基づいて前記受電回路の負荷推定値を演算する処理と、を実行する。
【0026】
(12)他の観点からみた実施形態に係るコントローラは、負荷変動が生じる受電回路へ無線給電する送電回路において計測される電圧及び電流に基づいて、前記無線給電のための回路の入力インピーダンスを演算する処理と、前記入力インピーダンスが、無線給電の伝送効率改善のため最適化されるよう、前記送電回路における電圧及び電流の少なくとも一方を変換する第1コンバータを制御する処理と、を実行する。
【0027】
<2.無線給電システム、送電装置、及びコントローラの例>
【0028】
図1は、実施形態に係る無線給電システム10を示している。無線給電システム10は、例えば、電気自動車又はモバイル機器のように蓄電池を備えた装置に対して、充電のために給電する。なお、給電は、蓄電池を備えていない装置に対して行われてもよい。
【0029】
無線給電システム10は、送電回路20と受電回路30とを備える。送電回路20は、無線給により、受電回路30へ無線給電する。また、無線給電システム10は、無線給電回路40を含む。無線給電回路40は、送電回路20に設けられた一次回路41と、受電回路30に設けられた二次回路46と、を含む。無線給電は、例えば、電磁誘導方式又は共鳴方式である。図1に示す無線給電回路40においては、共鳴方式の一種である磁界共鳴方式が採用されている。磁界共鳴方式の無線給電回路40は、一次回路41及び二次回路46のコンデンサ44,48が共振することで、一次回路41及び二次回路46のコイル43,47間の相互誘電において結合に関与しないエネルギーを保存する。これにより、エネルギーの損失を抑制し、電磁誘導方式よりも長い距離の伝送をすることが可能となる。なお、無線給電は、マイクロ波を用いた方式又はレーザーを用いた方式などであってもよい。
【0030】
実施形態の無線給電システム10は、送電回路20等を備える送電装置200と、受電回路30等を備える送電装置200と、を備える。実施形態の送電装置200は、コントローラ26を備える。コントローラ26は、送電装置200における制御・演算などの様々な処理を実行する。コントローラ26は、例えば、マイクロコンピュータによって構成される。マイクロコンピュータは、記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより、送電装置200における制御・演算などの様々な処理を実行する。
【0031】
実施形態の送電回路20は、直流電源22と第1コンバータとしてのDC/DCコンバータ24とを備える。直流電源22は、DC/DCコンバータ24に対して、直流電力を出力する。DC/DCコンバータ24は、直流電圧を変換する回路である。DC/DCコンバータ24から出力される電圧は、デューティ(Duty)比の調整により制御される。デューティ比は、コントローラ26によって調整される。DC/DCコンバータ24は、無線給電回路40の一次回路41に含まれるフルブリッジ回路42に対して直流電力を出力する。フルブリッジ回路42は、与えられた直流電力から高周波を生成し、出力する。
【0032】
高周波は、コイル43,47を介して、無線給電回路40の二次回路46に伝送される。二次回路46に含まれる整流器49は、高周波を整流する。実施形態の受電回路30は、第2コンバータであるDC/DCコンバータ32と、蓄電池34と、を備える。整流器49は、整流により得られた直流電力を、DC/DCコンバータ32に出力する。DC/DCコンバータ32のデューティ比の調整は、受電装置300が備える充電コントローラ(Charging IC)36によって行われる。蓄電池34は、DC/DCコンバータ32から出力された充電電流により蓄電される。
【0033】
蓄電池34は、例えば、リチウムイオン電池である。実施形態において、充電コントローラ36は、最適充電のため、蓄電池34の状態に応じた充電制御を行う。充電制御のため、充電コントローラ36は、DC/DCコンバータ32のデューティ比を調整する。充電制御の結果、蓄電池への充電電圧(Vout)及び充電電流(Iout)が変動する。充電電圧(Vout)及び充電電流(Iout)の変動により、蓄電池34の状態に応じて、負荷である蓄電池34の抵抗(充電負荷Rcharge)が変動する。すなわち、受電回路30において負荷変動が生じる。
【0034】
無線給電において、受電側の負荷変動は、無線給電の効率の低下と伝送電力(受電電力)の変化とを生じさせる。図2は、負荷変動による伝送効率の低下と伝送電力の変化を示している。図2に示す回路は、磁界共鳴方式の無線給電回路40の等価回路を示している。図2において、HFは、高周波源である。Cはコンデンサ44の容量を示し、Lはコイル43の自己インダクタンスを示し、Rはコイル43の寄生抵抗を示す。Lは、コイル43,47の相互インダクタンスを示す。Cはコンデンサ48の容量を示し、Lはコイル47の自己インダクタンスを示し、Rはコイル47の寄生抵抗を示す。Rは、終端負荷を示す。
【0035】
図2に示す式(1)は、無線給電回路40の伝送効率ηを示す。また、図2に示す式(2)は、無線給電回路40の伝送電力(受電電力)Pを示す。式中のωは、無線給電回路40の駆動周波数の角周波数である。なお、式(1)及び(2)中のX及びYは、それぞれ、図2中の式(3)及び式(4)によって表される。
【0036】
式(1)及び式(2)には、それぞれ、終端負荷Rが含まれている。したがって、終端負荷Rの負荷変動が生じると、伝送効率η及び伝送電力Pが変動する。なお、式(1)及び式(2)において、終端負荷R以外のパラメータは、無線給電回路40の設計時に決まる固定パラメータである。したがって、伝送効率η及び伝送電力(受電電力)Pの変動は、専ら、終端負荷Rの負荷変動によって生じる。
【0037】
図2に示す無線給電の終端負荷Rは、受電回路30においては、二次回路46の出力からみた出力インピーダンスに相当する。実施形態においては、二次回路46と蓄電池34との間には、DC/DCコンバータ32が設けられているため、無線給電の終端負荷Rは、DC/DCコンバータ32の入力側からみた負荷に対応する。以下では、DC/DCコンバータ32の入力側からみた負荷を、見せかけの負荷Zplという。
【0038】
終端負荷Rに対応する見せかけの負荷Zplは、図3の式(5)によって表される。式(5)に示すように、負荷Zplは、蓄電池34の負荷Rcharge(式(6)参照)と、DC/DCコンバータ32のDuty(式(7)参照)と、によって決まる。
【0039】
受電側のDC/DCコンバータ32による充電制御を行うと、DC/DCコンバータ32のDuty(式(7)参照)が調整され、充電電圧(Vout)及び充電電流(Iout)が変動する。充電電圧(Vout)及び充電電流(Iout)が変更すると、式(6)に基づき、蓄電池34の負荷Rchargeが変動する。また、受電側のDC/DCコンバータ32による充電制御を行うと、DC/DCコンバータ32のデューティ比Dutyも変動する。したがって、受電側のDC/DCコンバータ32による充電制御を行うと、式(5)に基づき、負荷Zplが変動することがわかる。負荷Zplの変動により、伝送効率η及び伝送電力(受電電力)Pが変動する。この結果、充電の最適化のため充電制御を行うと、伝送効率ηが変動し、伝送効率ηを最適に維持することができない。
【0040】
一方、伝送効率ηを最適にするには、受電側のDC/DCコンバータ32を、伝送効率ηを最適にする伝送効率制御に用いることが考えられる。伝送効率ηは、負荷Zplによって決まり、式(5)に示すように、負荷Zplは、DC/DCコンバータ32のDutyによって決まる。したがって、負荷Zplを最適化することにより、伝送効率ηを最適化することができる。しかし、DC/DCコンバータ32のDutyを、伝送効率制御のために最適化すると、充電を最適化できなくなる。すなわち、伝送効率制御と充電制御において、デューティ比の最適条件は異なるため、受電側のDC/DCコンバータ32において伝送効率制御を行うと、充電を最適化できない。このように、受電側のDC/DCコンバータ32による制御だけでは、伝送効率改善と最適充電とは両立しない。
【0041】
そこで、本実施形態では、伝送効率改善と最適充電とを両立させる。具体的には、受電側のDC/DCコンバータ32による充電制御を許容しつつ、送電側において伝送効率改善のための伝送効率制御を行う。ここで、伝送効率制御を送電側において行うには、送信側において、受電電力を把握することが考えられる。例えば、受電装置300が、受電電力を計測し、計測した受電電力を、無線通信によって送電装置200へ送信することが考えられる。送電装置200において送電電力は把握可能であるから、送電装置200は、(受電電力/送信電力)の演算を行うことで、伝送効率ηを算出することができる。送電装置200は、例えば、算出された伝送効率ηを最大効率点追従(MEPT)により、最大化させることができる。しかし、送電側が受電電力を把握するには、送電装置200及び受電装置300それぞれが通信機能を持つ必要がある。
【0042】
これに対して、送電装置200及び受電装置300それぞれが通信機能を持っていなくても、送電装置200において、伝送効率制御を行うことができる。送電装置200及び受電装置300それぞれが通信機能を持たないことで、無線給電システム10全体の簡素化が可能である。なお、本実施形態においても通信は行ってもよいが、通信の非必須化は、特に受電装置300が、IoT向け小型センサデバイスなど、小型化・低コスト化が求められる装置である場合に有効である。
【0043】
ただし、送電装置200が、受電装置300の状態(受電電力など)を通信によって把握することができない場合、MEPTの適用による伝送効率最適化は行えない。すなわち、MEPTにより伝送効率ηを最適化するには、伝送効率ηの算出のため受電電力の把握が必要であるが、通信を行わない場合いは、伝送効率ηの直接算出が困難である。また、送電装置200が、受電装置300の状態を通信によって把握することができない場合、受電側の充電停止状態を検知が困難になる。すなわち、無線給電システムを利用した給電では、送電電力不足により、受電側において充電停止が起きることがある。しかし、送電装置200が、受電装置300の状態を把握できなければ、送電装置200は、そのような充電停止状態を検知することができない。本実施形態では、これらの課題に対処することができる。
【0044】
本実施形態では、送電装置200単独で伝送効率改善を行うため、送電装置200のコントローラ26は、送電回路20において計測される電圧及び電流を用いる。本実施形態では、送電回路20において計測される電圧及び電流によって、受電側の見せかけの負荷Zplが算出される。
【0045】
実施形態の送電回路20においては、計測可能な電圧及び電圧としては、例えば、図4に示すように、直流電源22の出力電圧Vin1及び出力電流Iin1、DC/DCコンバータ24の出力電圧Vin2及び出力電流Iin2、及びフルブリッジ回路の出力電圧及び出力電流がある。フルブリッジ回路の出力電圧及び出力電流は高周波であるのに対して、直流電源22の出力電圧Vin1及び出力電流Iin1、及び、DC/DCコンバータ24の出力電圧Vin2及び出力電流Iin2は直流であるため、計測が容易である。また、見せかけの負荷Zplを演算するに際して、直流電源22の出力電圧Vin1及び出力電流Iin1を用いると、DC/DCコンバータ24のフィルター的効果を考慮した演算が必要となって演算が複雑になる。これに対して、DC/DCコンバータ24の電圧Vin2及び電流Iin2を用いると、見せかけの負荷Zplの演算が容易となる。そこで、コントローラ26は、DC/DCコンバータ24の電圧Vin2及び電流Iin2を演算に用いる。電圧Vin2及び電流Iin2は、図示しない電圧センサ及び電流センサによって計測され、コントローラ26に与えられる。
【0046】
コントローラ26は、計測された電圧Vin2及び電流Iin2から、無線給電回路40への入力電力を演算するほか、無線給電回路40の入力インピーダンスZin2を、図4の式(8)に従って計算する。無線給電回路40においては、入力インピーダンスZin2は、出力インピーダンスと相関関係があり、図4の式(9)のように表される。したがって、コントローラ26は、式(9)に従って、入力インピーダンスZin2から、無線給電回路40の出力インピータンスに対応する見せかけの負荷Zplの推定値を演算することができる。なお、式(9)において、ωは、共振角周波数である。式(9)において、入力インピーダンスZin2以外のパラメータは、無線給電回路40の設計時又は事前測定により決まる既知パラメータであるため、入力インピーダンスZin2が決まれば、負荷Zplの推定値を演算することができる。
【0047】
このように、実施形態のコントローラ26は、受電回路30における負荷Zplの推定値を、送電回路20において計測されたパラメータVin2,Iin2によって演算できる。したがって、受電回路30において充電制御を行うことにより負荷Zplが変動しても、変動した負荷Zplを送電側で把握することができる。
【0048】
また、コントローラ26は、図4の式(10)に従い、負荷Zplの推定値に基づいて、受電電力(伝送電力)Pの推定値を演算することができる。式(10)において、負荷Zpl及び電圧Vin2以外のパラメータは、無線給電回路40の設計時に又は事前測定により決まる既知パラメータであるため、負荷Zpl及び電圧Vin2が決まれば、受電電力Pの推定値を演算することができる。
【0049】
このように、実施形態では、送電側で計測可能なパラメータVin2,Iin2に基づいて、送受間で通信を行わなくても、負荷Zpl又は受電電力Pなどの受電側の状態値を推定することができる。
【0050】
受電電力Pは、例えば、送電側のコントローラ26が、送電電力不足による蓄電池34への充電停止状態を検知するために用いられる。図5は、受電電力Pにより、受電電力Pを推定した結果を示している。図5において、縦軸は、受電電力Pを示し、横軸は、直流電源22の出力電圧Vin1を示す。図5において、太線は受電電力Pの推定値を示し、細線は受電電力Pの真値を示す。
【0051】
図5に示すように、電圧Vin1が10Vよりも大きい範囲では、受電電力Pは、推定値及び真値ともに約0.2Wであり、受電電力Pを正しく推定できている。また、受電電力Pの真値は、電圧Vin1が10Vよりもやや低い値から0Vへ向かって急激に減少している。受電電力Pが小さいということは送電電力不足を示しており、受電側において充電停止が生じる。受電電力Pの推定値も、同様に、電圧Vin1が10Vよりもやや低い値において、急激に減少しており、真値と同様の傾向を示している。したがって、コントローラ26は、受電電力Pの推定値に基づいて、受電側の要求電力に対する送電電力不足の領域(図5では、電圧Vin1が10Vよりもやや低い値から0Vまでの領域)を検知することができる。コントローラ26は、送電電力不足を検知した場合、DC/DCコンバータ24のデューティ比Duty1を調整し、送電電力を大きくする制御をすることができる。
【0052】
ここで、無線給電の伝送効率を最適化するための、無線給電の終端負荷の最適条件Zoptは、図6の式(11)によって表される。また、図4に示す式(9)を、無線給電回路40の入力インピーダンスZin2の式として表すと、図6の式(12)のとおりである。本発明者らは、式(11)に示す終端負荷の最適条件Zoptを、式(12)の負荷Zplに代入することで、無線給電の伝送効率を最適化するための最適入力インピーダンスが、図6の式(13)のように表されることを見出した。
【0053】
図6は、入力インピーダンスZin2と伝送効率との関係を示している。図において、縦軸は、伝送効率ηを示し、横軸は、入力インピーダンスZin2を示している。図6に示すように、入力インピーダンスの値を最適化する(入力インピーダンスの値を最適インピーダンスにする)ことで、伝送効率ηを向上させることができる。すなわち、コントローラ26は、入力インピーダンスZin2の値を調整することで、伝送効率ηを最大にする出力インピーダンスを得ることができる。その結果、入力インピーダンスの値を最適化することで、伝送効率ηを最適化することができる。
【0054】
図7は、伝送効率改善のための実験結果を示している。実験においては、図1に示す無線給電システム10を実施例とした。実施例においては、コイル43,47のインダクタンスを5.8μFとした、一次側及び二次側の寄生容量は0.08nFである。共振用コンデンサ44,48は、81pFとした。コイル43,47のコイル径は180mmとし、コイル43,47のワイヤ径は1mmとした。無線給電による伝送距離は50mmとし、共振周波数は6.78MHzとした。
【0055】
また、実験においては、図1の無線給電システム10において、送電側のDC/DCコンバータ24を省略し、受電側のDC/DCコンバータ32で充電制御だけを行うものを、比較例とした。比較例における各パラメータ値は、実施例と同様である。
【0056】
実験では、受電側のDC/DCコンバータ32によって充電電流を切り替えた際に生じる伝送効率低下量を、実施例と比較例とで比較した。図7において、横軸は、充電電流を示し、縦軸は、伝送効率を示している。なお、図7に示す実験結果では、実施例を、Proposed method又はPの表記で示し、比較例を、Conventional method又はCの表記で示した。
【0057】
図7A及び図7Bは、同じ実験結果を示している。図7Aに示すように、比較例では、充電電流が0.05Aである場合に比べて、伝送効率が最大26%も低下する。なお、図7Aにおいて、伝送効率の最も大きな低下は、充電電流が0.25Vのときに生じている。
【0058】
これに対して、図7Bに示すように、実施例では、伝送効率は、最大8%の低下にすぎない。すなわち、比較例では、伝送効率が最大で26%低下するのに対して、実施例では、伝送効率の低下は最大8%に抑えられている。このように、実施例では、充電制御に伴う充電電流の変化による伝送効率低下を大幅に抑制できる。したがって、実施例によれば、受電側で充電制御を行いつつ、送電側での充電効率改善制御を行うことで、充電の最適化と伝送効率の両立が可能である。
【0059】
<3.無線給電システムの動作例>
【0060】
図8及び図9は、図1に示す無線給電システム10における動作例のフローチャートを示している。まず、ステップS11において、受電装置300の充電コントローラ36が、受電側の充電制御を開始する。ステップS12において、充電コントローラ36は、蓄電池34の状態(蓄電池状態)を充電電流等から計算し、蓄電池状態から、目標充電電流Ioutを決定する。このとき、充電電圧Voutが固定であるため、充電負荷Rchargeが決まる。
【0061】
ステップS21において、送電装置200のコントローラ26は、DC/DCコンバータ24の出力電圧Vin2をリファレンス値(例えば、20V)に調整する。コントローラ26は、DC/DCコンバータ24の出力電圧Vin2及び出力電流Iin2の計測値を常時取得している。コントローラ26は、ステップS22において、出力電圧Vin2及び出力電流Iin2の計測値から、入力インピーダンスZin2を演算し、入力インピーダンスZin2から出力インピーダンスZplを演算する。
【0062】
ステップS23において、コントローラ26は、出力インピーダンスZplから、受電装置300の要求電力Pdを推定する。
【0063】
ステップS24において、コントローラ26は、DC/DCコンバータ24のデューティ比Duty1を調整した場合に、送電電力不足にならないかをチェックする。チェックのため、コントローラ26は、Duty1_limit<Duty1+ΔDuty1を満たすか否かの判定をする。ここで、Duty1_limitは、要求電力Pdを満足可能な一次側デューティ比Duty1の限界値である。ΔDuty1は、一次側デューティ比の調整量である。
【0064】
デューティ比Duty1を調整しても、Duty1_limit<Duty1+ΔDuty1が満たされる場合、ステップS25において、コントローラ26は、一次側デューティ比Duty1を調整する。一次側デューティ比Duty1の調整に伴い、Vin2,Iin2,Vout,Ioutが変化する(ステップS26)。
【0065】
outの変化に伴い、充電コントローラ36は、ステップS14において、充電電流Ioutを目標値にするため、DC/DCコンバータ32のデューティ比Duty2を調整し、ステップS27へ続く。
【0066】
ステップS24において、Duty1_limit<Duty1+ΔDuty1が満たされないと判断された場合、すなわち、送電電力不足になる場合、ステップS24からステップS27へジャンプする。
【0067】
ステップS27において、コントローラ26は、出力電圧Vin2及び出力電流Iin2の計測値から、入力インピーダンスZin2を演算する。続いて、コントローラ26は、ステップS28において、入力インピーダンスZin2から出力インピーダンスZplを演算する。
【0068】
ステップS29において、コントローラ26は、出力インピーダンスZplから、伝送電力(受電電力)Pを推定する。
【0069】
ステップS30において、コントローラ26は、伝送電力(受電電力)Pが、受電装置300の要求電力Pdを上回っているか判定する。すなわち、P>Pdを満たすか否かを判断する。
【0070】
伝送電力(受電電力)Pが、受電装置300の要求電力Pdを上回っている場合、ステップS32へ進み、そうでない場合には、ステップS31へ進む。
【0071】
ステップS31において、コントローラ26は、要求電力Pdを満足可能な一次側デューティ比Duty1の限界値Duty1_limitを更新する。更新は、現在の一次側デューティ比Duty1を、限界値Duty1_limitに代入することで行われる。ステップS31の後、ステップS21に戻る。
【0072】
ステップS32において、コントローラ26は、最適入力インピーダンスZoptと現在の入力インピーダンスZin2との差分Zsubを求める。
【0073】
ステップS33において、コントローラ26は、現在の入力インピーダンスZin2が、最適入力インピーダンスZoptであるか否かを判断する。現在の入力インピーダンスZin2が、最適入力インピーダンスZoptではない場合、ステップS34,S35,S36の処理によって、入力インピーダンスZin2が、最適入力インピーダンスZoptに近づくよう調整される。
【0074】
すなわち、ステップS34において、コントローラ26は、現在の入力インピーダンスZin2が、最適入力インピーダンスZoptに近づく方向へ調整されているか否かを判断する。この判断は、現在の差分Zsubが、1ループ前の差分Zsub_preよりも小さいか否かの判断によって行われる。現在の差分Zsubが、1ループ前の差分Zsub_preよりも小さければ、現在の入力インピーダンスZin2が、最適入力インピーダンスZoptに近づく方向へ調整されていると判断される。すなわち、図10に示す動作点から、最適点に近い動作点Aへ調整されている、と判断される。
【0075】
ステップS34において、現在の入力インピーダンスZin2が、最適入力インピーダンスZoptに近づく方向へ調整されていない(すなわち、図10の動作点Bのように遠ざかる方向へ調整されている)と判断された場合、コントローラ26は、一次側デューティ比Duty1の調整量ΔDuty1の正負を判定させる。
【0076】
ステップS36において、コントローラ26は、現在の差分Zsubを、差分Zsub_preに代入することで、差分Zsub_preを更新する。その後、ステップS24に戻る。
【0077】
以上の処理を繰り返すことにより、入力インピーダンスZin2が、最適入力インピーダンスZoptに近づく方向へ調整され、伝送効率を改善することができる。
【0078】
<4.付記>
【0079】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 :無線給電システム
20 :送電回路
22 :直流電源
24 :DC/DCコンバータ(第1コンバータ)
26 :マイクロコンピュータ(コントローラ)
30 :受電回路
32 :DC/DCコンバータ(第2コンバータ)
34 :蓄電池
36 :充電コントローラ
40 :無線給電回路
41 :一次回路
42 :フルブリッジ回路
43 :コイル
44 :コンデンサ
46 :二次回路
47 :コイル
48 :コンデンサ
49 :整流器
200 :送電装置
300 :受電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10