(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】汗成分センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/28 20060101AFI20230330BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20230330BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230330BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230330BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20230330BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G01N27/28 M
G01N1/10 V
G01N33/50 X
G01N27/416 351K
G01N27/416 351B
G01N27/416 336G
G01N27/327 353J
G01N27/30 A
(21)【出願番号】P 2019006543
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-11-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度よりの、国立研究法人科学技術振興機構の研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム COI拠点「フロンティア有機システムイノベーション拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】長峯 邦明
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088391(WO,A1)
【文献】特表2002-514452(JP,A)
【文献】特表平10-509052(JP,A)
【文献】特表2015-535077(JP,A)
【文献】特開2018-147833(JP,A)
【文献】特開2018-29696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
G01N 1/10
G01N 33/50
A61B 5/00-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の皮膚から汗を抽出するための塩含有水溶液を含む多孔質体から形成され、前記被験者の皮膚が当接されることにより汗を順次抽出する汗抽出部と、
前記汗抽出部内に配置され、前記汗抽出部で抽出される汗と順次反応する汗反応体と、
前記汗反応体の近傍において前記汗抽出部と電気的に接続するように配置され、前記汗反応体の反応により変化する電流あるいは電位を検出する作用電極と、
前記汗抽出部に電気的に接続され、前記作用電極に対する基準電位を示すように形成された参照電極と
を備え、
前記作用電極で検出する電流あるいは電位の変化に基づいて汗の成分を検出
し、
前記作用電極で検出される電流あるいは電位を継続して計測し、被験者の汗と前記汗反応体との反応により連続して増加または減少する計測値が所定の閾値に達したときの値に基づいて汗の成分を検出する汗成分センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、汗成分センサに係り、特に、被験者の汗の成分を検出する汗成分センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば健康診断において、血液に代わる非侵襲な体液サンプルとして汗成分が注目されている。汗は、その90%近くが水であり夾雑物が少なく、体表に出た汗は比較的容易に、非侵襲的に採取可能である。また、近年の網羅的解析技術の進歩により、汗成分と疾患の関連性が示唆されつつある。その一方で、汗成分の定量に要する十分な量の汗を得るために、被験者による運動の実施や高温環境下への暴露、あるいは発汗促進剤(ピロカルピンなど)の投与など、特殊な汗採取法を要するため、いつでも、どこでも、誰でも、簡単に測ることは難しかった。特に、高齢者や患者など、そのような特殊環境下に置くこと自体が危険な場合もある。
【0003】
そこで、汗の成分を簡単に収集する技術として、例えば、特許文献1には、被験者から汗成分のような液体を次工程の分析装置で使用可能に簡単に収集することができる液体収集装置が提案されている。この液体収集装置は、皮膚から汗を収集し、その汗に含まれるグルコースを検出する装置であり、汗収取部であるスポンジ部内に被験者の指が挿入され、汗成分回収剤(アルコール液)が、スポンジ部内の指の皮膚に噴射されて汗成分と共にスポンジに吸収されるため、汗成分を簡単に収集することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の液体収集装置は、指の表面に付着している汗を収集するものであり、外的要因が大きく影響するため、汗の成分を高精度に検出できないおそれがあった。また、特許文献1の液体収集装置は、スポンジから汗成分回収剤を絞り出して、センサチップへ導入し、センサチップを取り外して濃縮・検出工程へと進むため、汗の成分の収集と検出をその場で連続的に行うことが困難であった。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、汗の成分を高精度に検出する汗成分センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る汗成分センサは、被験者の皮膚から汗を抽出するための塩含有水溶液を含む多孔質体から形成され、被験者の皮膚が当接されることにより汗を順次抽出する汗抽出部と、汗抽出部内に配置され、汗抽出部で抽出される汗と順次反応する汗反応体と、汗反応体の近傍において汗抽出部と電気的に接続するように配置され、汗反応体の反応により変化する電流あるいは電位を検出する作用電極と、汗抽出部に電気的に接続され、作用電極に対する基準電位を示すように形成された参照電極とを備え、作用電極で検出する電流あるいは電位の変化に基づいて汗の成分を検出するものである。
【0008】
ここで、作用電極および参照電極は、汗抽出部と接触するように配置することができる。
【0009】
また、参照電極は、Na+イオン、K+イオン、およびCl-イオンの少なくとも1つと反応するイオン選択性電極であり、塩含有水溶液は、参照電極と反応するイオンを100mM以上含むことが好ましい。
【0010】
また、塩含有水溶液は、pH6以上pH8以下の範囲で緩衝能を有することが好ましい。
【0011】
また、汗抽出部は、塩含有水溶液を含むハイドロゲルからなることが好ましい。
【0012】
また、汗反応体は、作用電極に固定され、酵素、抗体、イオノフォア、核酸、アプタマーおよび人工受容体の少なくとも1つからなることが好ましい。
【0013】
また、作用電極で検出される電流あるいは電位を継続して計測し、被験者の汗と汗反応体との反応により連続して増加または減少する計測値が所定の閾値に達したときの値に基づいて汗の成分を検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、汗抽出部が、被験者の皮膚から汗を抽出するための塩含有水溶液を含む多孔質体から形成され、被験者の皮膚が当接されることにより汗を順次抽出し、汗抽出部で抽出される汗と汗反応体が反応して変化する電流あるいは電位に基づいて汗の成分を検出するので、汗の成分を高精度に検出する汗成分センサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る汗成分センサの構成を示す図である。
【
図2】実施の形態2に係る汗成分センサの構成を示す図である。
【
図3】実施の形態2に係る汗成分センサの変形例を示す図である。
【
図4】塩含有水溶液中におけるAg/AgCl参照電極電位の安定性を評価した結果を示す図である。
【
図5】汗成分センサでL-乳酸に対する電位応答を評価した結果を示す図である。
【
図6】多孔質体への人差し指接触時の乳酸応答性作用電極電位の電位応答を評価した結果を示す図である。
【
図7】多孔質体への人差し指接触時のNa
+イオン応答性作用電極電位の電位応答を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1(a)および(b)に、この発明の実施の形態1に係る汗成分センサの構成を示す。この汗成分センサは、基板1を有し、基板1の表面上に支持枠2、汗抽出部3、作用電極4、参照電極5および対極6が配置されている。また、作用電極4、参照電極5および対極6に検出部7が電気的に接続されている。
【0017】
基板1は、絶縁性材料から構成され、例えばガラス、Si(シリコン)、樹脂(シリコーン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))、ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等)、紙等から構成することができる。
【0018】
支持枠2は、汗抽出部3を支持するもので、平板形状を有し、基板1に沿うように配置されている。支持枠2は、円形状の横断面を有すると共に上方に開口した収容部8が形成され、この収容部8に汗抽出部3が収容されている。支持枠2は、電気的絶縁性を有するものが好ましく、例えば、ガラス、Si(シリコン)、樹脂(シリコーン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))、ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等)、紙等を用いることができる。なお、汗抽出部3を自立して設置可能な場合は支持枠2を用いなくてもよい。
【0019】
汗抽出部3は、被験者の皮膚Sが当接されることにより汗を順次抽出するもので、被験者の皮膚Sから汗を抽出するための塩含有水溶液を含む多孔質体から形成されている。汗抽出部3は、収容部8の開口から外部に露出する当接面を有し、この当接面に被験者の皮膚Sが当接される。当接面の形状は円形状に限定されるものではなく、多角形でもよい。また、当接面に当接される被験者の皮膚Sは特定の部位に限定されるものではなく、全身のいずれかの部位の皮膚Sを当接することができる。
【0020】
汗抽出部3の多孔質体は、保水性、生体親和性および機械強度に優れたものが好ましく、例えばゲルを挙げることができ、特にはハイドロゲルを用いることが好ましい。具体的にハイドロゲルを形成する材料としては、アガロース、ゼラチン、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロチウガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、セルロースガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、キトサン、カラギーナン、クインスシード、ガラクタン、マンナン、デンプン、デキストリン、カードラン、カゼイン、ペクチン、コラーゲン、フィブリン、ペプチド、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のコンドロイチン硫酸塩、ヒアルロン酸(ムコ多糖類)及びヒアルロン酸ナトリウム等のヒアルロン酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、並びにこれらの誘導体等の天然高分子;メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体及びこれらの塩;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸・メタクリル酸アルキルコポリマー、等のポリ(メタ)アクリル酸類及びこれらの塩;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの重合体(PPEGDA、PPEGDM)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、無水マレイン酸コポリマー、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸無水物)とポリエチレングリコールとの架橋体、ポリエチレングリコール架橋体、N-ビニルアセトアミド架橋体、アクリルアミド架橋体、デンプン・アクリル酸塩グラフトコポリマー架橋物等の合成高分子を挙げることができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。多孔質体の含水率は、特に限定されるものではないが、60~99.5質量%が好ましく、より好ましくは70~99質量%であり、更に好ましくは80~99質量%である。
【0021】
汗抽出部3の多孔質体は、孔径が0.1μmから1μmと大きいため汗成分の透過性が高く、安全で、かつ電気的に中性で電荷を有する汗成分との静電反発を起こしにくいという点から、アガロースが特に好ましい。
【0022】
また、塩含有水溶液は、参照電極5と反応して安定した基準電位を示す成分濃度を有することが好ましい。例えば、参照電極5がNa+イオン、K+イオンおよびCl-イオンの少なくとも1つと反応するイオン選択性電極である場合には、塩含有水溶液は参照電極5と反応するイオン、すなわちNa+イオン、K+イオンおよびCl-イオンの少なくとも1つを100mM以上含むことが好ましい。ここで、参照電極5の電位は、ネルンスト式E=E0+RT/nF ln (ai)(aiは参照電極5と反応するイオンの活量)で規定され、汗抽出前後の電位変化量ΔEはRT/nFln (ai after/ai before) (aibeforeとai afterはそれぞれ汗抽出前と後の、参照電極5と反応するイオンの活量)で表される。汗抽出前後の、参照電極5と反応するイオンの活量変化量がai beforeの10%以下、例えばイオンの濃度を100mM以上とすれば、ΔEは数mVとなることが想定され、汗成分計測時に作用電極4で検出する電流、あるいは電位にほとんど影響しない程度となる。
【0023】
また、一般的に、汗はpH3~8を有するため、塩含有水溶液は、被験者の皮膚SからpH3~8の汗を抽出した後も、作用電極4の先端部に固定された汗反応体9の活性を維持させる目的から、pH6以上pH8以下の範囲で緩衝能を有することが望ましい。例えば、塩含有水溶液は、リン酸塩、トリス、EDTA、酢酸、ホウ酸、クエン酸、炭酸、重炭酸、2-Morpholinoethanesulfonic acid(MES)、Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane(Bis-Tris)、N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid(ADA)、Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)(PIPES)、N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonicacid(ACES)、3-(N-Morpholino)-2-hydroxypropanesulfonic acid(MOPSO)、コラミン塩酸、N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonicacid(BES)、3-Morpholinopropanesulfonic acid(MOPS)、N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonicacid(TES)、2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)、3-[N-tris(hydroxymethyl)methyl]amino]-2-hydroxypropanesulfonicacid(TAPSO)、Piperazine-N,N’-bis(2-hydroxypropanesulfonic acid(POPSO)、4-(2-Hydroxyethyl)-Piperazine-1-(2-Hydroxy)-PropanesulfonicAcid(HEPSO)、3-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]propanesulfonic acid(EPPS),N-Tris(Hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid(TAPS)、N-Cyclohexyl-2-aminoethanesulfonicacid(CHES)、N-Cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid(CAPS)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等を用いることができる。
【0024】
作用電極4、参照電極5および対極6は、基板1と支持枠2の間を収容部8に向かって延びるように形成され、先端部がそれぞれ収容部8に収容された汗抽出部3内に挿入されている。これにより、作用電極4、参照電極5および対極6は、先端部において汗抽出部3と接触することになる。また、作用電極4の先端部には、汗反応体9が固定されている。
汗反応体9は、汗抽出部3で抽出される汗と順次反応するもので、例えば酵素、抗体、イオノフォア、核酸(DNA,RNA)、アプタマー、人工受容体、細胞、微生物、組織、臓器等を用いることができ、汗成分と選択的に安定して反応する点から、酵素、抗体、イオノフォア、核酸(DNA,RNA)、アプタマー、人工受容体を用いることができる。これらの汗反応体9は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ここで、人工受容体とは、汗成分と化学的相互作用(酸化還元反応、配位結合、水素結合、ファンデルワールス力等)を形成する化合物の総称である。
【0025】
作用電極4は、汗反応体9が汗と反応して変化する電流あるいは電位を検出するもので、導電性材料から構成されている。ここで、作用電極4で検出される電流の変化とは、例えば、汗反応体9と汗が反応して生じた酸化還元物質と作用電極4との電子授受により生じる応答である。また、作用電極4で検出される電位の変化とは、例えば、汗反応体9と相互作用(酸化還元反応、吸着、静電相互作用、配位結合、水素結合等)した汗中イオンあるいは酸化還元物質により、作用電極4と塩含有水溶液の界面、作用電極4と汗反応体9の界面、あるいは汗反応体9と塩含有水溶液の界面に生じる電位の変化である。
【0026】
参照電極5は、作用電極4に対する基準電位を示すもので、汗の影響などにより電位が大きく変動しないように形成されている。参照電極5は、汗抽出部3中の成分と反応して安定した基準電位を示すものが望ましく、特に、Na+イオン、K+イオンおよびCl-イオンの少なくとも1つと反応するイオン選択性電極を用いることが望ましい。ここで、イオン選択性電極とは、例えば、汗抽出部3中のイオンと直接反応する電極(Ag/AgCl等)、あるいは、汗抽出部3中のイオンとイオン対を形成あるいは錯形成する化合物(イオノフォア、及びアニオン性、カチオン性化合物)を有するイオン感応膜を有する電極である。
対極6は、作用電極4と対をなして電流が流れる回路を形成するものであり、参照電極5への通電を極力抑えることで安定した基準電位を示させるものである。
【0027】
作用電極4および対極6は、例えば、カーボン、アルミニウム、金、銀、銅、白金、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、酸化インジウム錫(ITO)、導電性高分子(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリビチオフェン、ポリイソチオフェン、ポリドデシルチオフェン、ポリイソナイトチオフェン、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、ポリアニオン、ポリイソチアナフテン、ポリチアジル、ポリフェニレン、ポリフルオレン、ポリジアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリフェニレスルフィド)等から構成することができる。
【0028】
検出部7は、作用電極4、参照電極5および対極6にリード線10を介して接続されており、作用電極4、参照電極5および対極6に流れる電流または電圧の変化に基づいて汗の成分を検出する。
【0029】
このような汗成分センサは、例えば、フォトリソグラフィ法、蒸着法およびスパッタリング法等のドライプロセス、スピンコート、バーコートおよびスプレーコート等による塗布法、あるいはスクリーン印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法およびインクジェット印刷法等の各種印刷機を用いた印刷法などで製造することができる。
【0030】
次に、この実施の形態1の動作について説明する。
まず、
図1に示すように、収容部8の開口から露出する汗抽出部3に被験者の指の皮膚Sが当接され、皮膚Sから発汗される汗が汗抽出部3内に順次浸透する。ここで、汗抽出部3は、塩含有水溶液を含んでいるため、皮膚Sから継続的に発汗を促すことができ、多くの汗を抽出することができる。また、汗抽出部3は、多孔質体により塩含有水溶液が保持されているため、塩含有水溶液の液量および濃度が変化することを抑制することができ、皮膚Sから汗を安定して抽出することができる。
【0031】
汗抽出部3内に浸透した汗は、作用電極4の先端部に固定された汗反応体9と反応し、この反応に応じて作用電極4に流れる電流、または作用電極4と塩含有水溶液の界面、作用電極4と汗反応体9の界面、あるいは汗反応体9と塩含有水溶液の界面に生じる電位が変化する。そして、検出部7が、作用電極4における電流または電位の変化に基づいて汗抽出部3で抽出された汗の成分を検出する。具体的には、検出部7は、作用電極4の電位の変化を検出する場合は、作用電極4と参照電極5の2極を用い、それらの電極間に生じる電位差を計測する。また、検出部7は、作用電極4に流れる電流の変化を検出する場合は、作用電極4と参照電極5と、必要に応じて対極6を用い、参照電極5に対して作用電極4に任意の電圧を印加しながら、作用電極4に流れる電流を計測する。
【0032】
このように、検出部7は、被験者の皮膚Sから汗抽出部3により順次抽出される汗の成分を検出するため、被験者の皮膚Sに付着した外的成分の影響を抑制することができ、汗の成分を高精度に検出することができる。また、検出部7は、作用電極4に流れる電流または電位を継続して計測し、所定の電流または電位に達したときの値に基づいて汗の成分を検出するため、汗の抽出と検出を別々に行わずに連続して行うことができ、汗の成分の検出を容易に行うことができる。
【0033】
本実施の形態によれば、塩含有水溶液を含む多孔質体から形成された汗抽出部3に被験者の皮膚Sが当接されて汗を順次抽出し、その順次抽出される汗と汗反応体9との反応による電流または電位の変化を検出するため、被験者の皮膚Sに付着した外的成分の影響を抑制することができ、汗の成分を高精度に検出することができる。
【0034】
実施の形態2
上記の実施の形態1では、汗抽出部3は、上方に開口した収容部8に収容されたが、被験者の皮膚Sを当接することができればよく、これに限られるものではない。
例えば、
図2(a)および(b)に示すように、実施の形態1の基板1を除くと共に支持枠2に換えて支持枠21を配置することができる。
【0035】
支持枠21は、円筒形状を有し、内部に汗抽出部3を収容する収容部8が形成されている。汗抽出部3は、塩含有水溶液を含む多孔質体であり、収容部8を全て満たすように収容されている。これにより、汗抽出部3は、支持枠21の先端部から外部に露出する当接面が形成され、この当接面が被験者の皮膚Sに当接される。
また、汗抽出部3内には、支持枠21の後端部から作用電極4、参照電極5および対極6が挿入され、作用電極4の先端部に汗反応体9が固定されている。そして、作用電極4、参照電極5および対極6には、図示しない検出部が接続されている。
【0036】
このような構成により、支持枠21の先端部から露出する汗抽出部3の当接面を被験者の皮膚Sに当接することにより、皮膚Sから発汗される汗を汗抽出部3で順次抽出することができる。汗抽出部3で抽出された汗は汗反応体9と反応し、この反応による電流または電位の変化が検出部で検出される。
【0037】
本実施の形態によれば、支持枠21が筒形状を有するため、汗抽出部3の当接面を被験者の皮膚Sに対して様々な角度から容易に当接することができ、被験者の様々な部位の汗の成分を検出することができる。
【0038】
なお、上記の実施の形態1および2では、作用電極4、参照電極5および対極6は、汗抽出部3内に挿入されたが、汗抽出部3と電気的に接続されていればよく、これに限られるものではない。例えば、
図3に示すように、実施の形態2において、作用電極4、参照電極5および対極6の先端部が汗抽出部3の表面に接触するように配置することもできる。また、作用電極4、参照電極5、および対極6は、基板1の表面、または支持枠2および21の汗抽出部3と接する壁面に配置し、基板1または支持枠2および21を介して汗抽出部3と電気的に接続することもできる。また、作用電極4、参照電極5および対極6は、収容部8とは別に作製された、汗抽出部3と電気的に接続された部位に配置されてもよい。
【0039】
また、上記の実施の形態1および2において、作用電極4、参照電極5および対極6の形状は、円形、多角形、櫛形でもよく、平面形状でも立体形状でもよい。
また、上記の実施の形態1および2では、作用電極4、参照電極5、および対極6は、検出部7とリード線10を介して有線的に接続されたが、Bluetooth(登録商標)、NearField Communication、あるいはRadio Frequency Identification等を用いて無線で検出部7と接続してもよい。
【0040】
また、上記の実施の形態1および2では、作用電極4は、汗反応体9が固定されたが、汗反応体9の反応により変化する電流あるいは電位を検出できる程度に汗反応体9の近傍に配置されていればよく、汗反応体9を固定するものに限られるものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
汗抽出前後において汗抽出部3に含まれる塩含有水溶液のpHの変化を測定した。塩含有水溶液として、ダルベッコリン酸緩衝液(DPBS、2.7mM KCl、137mM NaCl、1.5mM KH2PO4、8.1mM Na2HPO4、pH7.4)を用いた。被験者の人差し指の腹に、50μLのDPBSを10分間接触させ、その前後のpH変化を測定した。その結果、pHは0.2減少した。一方、緩衝能を持たない超純水を用いた場合には、pHが5.4から6.2まで0.8増加した。これにより、pH6以上pH8以下の塩含有水溶液を用いることで、汗抽出時のpHをほぼ一定に保つことができ、測定系を安定して維持できることが分かった。
【0042】
(実施例2)
汗抽出前後において汗抽出部3に含まれる塩含有水溶液のイオン濃度の変化を測定した。被験者の人差し指の腹に50μLのDPBSを10分間接触させ、抽出されたNa+イオンとK+イオンを定量したところ、Na+イオンの濃度は1.2mM前後であり、K+イオンの濃度は0.4mM前後であった。また、汗中のCl-イオン濃度は、Na+イオン濃度と同程度のため(非特許文献 Nature Electronics、2018、1160-171.)、1.2mM前後と予想される。以上の結果とネルンスト式を考慮すると、Na+イオン,K+イオンおよびCl-イオンの少なくとも1つと反応する参照電極5を用いる場合、汗抽出部3に含まれる塩含有水溶液は、参照電極5と反応するイオンを100mM以上含めば、汗抽出中に安定した基準電極を示すことが分かった。
【0043】
図4に、DPBS中でのAg/AgCl参照電極の安定性を評価した結果を示す。作製したAg/AgCl電極と、市販のAg/AgClをDPBSに浸漬し、NaCl濃度を1mMから10mM追加(上記、汗抽出時のCl
-イオン濃度の増加分を想定)した時の電極間電位差を計測した。10mM追加後の電位差の変化量は約1.2mVであり、ネルンスト式から予想される電位変化量とほぼ同程度であった。これより、参照電極5と反応するイオンを100mM以上含む上記のDPBSを塩含有水溶液として用いることで、汗抽出時に塩含有水溶液のCl
-イオン濃度が仮に10mM増加しても参照電極5の電位変化は1.2 mV程度であり、安定した基準電極が得られることが分かった。
【0044】
(実施例3)
乳酸センサの作製と応答性評価
図5に、汗成分センサとして乳酸センサを作製し、その乳酸センサの基礎特性を評価した結果を示す。
図5(a)は乳酸センサの構成を示す図である。乳酸センサの作製方法は、まず基板1であるポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚さ125μm、テオネックス、帝人社製)上に、インクジェットプリンタ(富士フィルム、DiMax DMP2831)により、銀ナノ粒子(Harima Chemicals、NPS-JL)インクを用いて作用電極4および参照電極5の配線パターンを形成した。120℃で30分間ベークすることで焼結し銀配線パターンを得た。作用電極4パターン先端部に、2mmx2mmの面積でプルシンブルー(PB)含有カーボンペースト(C2070424P2、Gwent社製)を塗布し、60℃で30分焼成することでPB電極膜を形成した。また、参照電極5パターン先端部に、2mm×2mmの面積でAg/AgClペースト(C2130809D5、Gwent社製)を塗布し、60℃で30分焼成することでAg/AgCl電極を作製した。作用電極4および参照電極5のリードパターン部はテフロン(登録商標)(5wt%、AF1600、三井・デュポンフロロケミカル社製)で被覆し、60℃で30分ベークすることで絶縁した。
【0045】
続いて、1.4μLの10unit/μLの乳酸オキシダーゼ(TOYOBO社製)を含むDPBSと、10μLの0.1wt%キトサン(純正化学社製)を含む塩酸溶液(pH 5.4 , 0.1 wt%)を混合し、その混合溶液全量をPB電極膜表面に滴下し、30℃で1時間乾燥することで乳酸オキシダーゼ修飾作用電極を得た。シリコーンゴムシート(厚さ0.5mm、ASONE社製)の中央部に直径6mmの円形貫通孔を形成して支持枠2を作製した。作用電極4の酵素修飾部(汗反応体9)とAg/AgCl参照電極5が貫通孔から露出するようにシリコーンゴムシートをPENフィルムに貼付した。0.04gのアガロース粉末(ゲル化温度30~31℃、ナカライテスク社製)を1mLのDPBS溶液に添加し、沸騰させることで溶解させた。このアガロース溶液を35℃付近まで冷却させ、シリコーンゴム貫通孔部(収容部8)に充填・ゲル化させ汗抽出部3を形成した。
【0046】
このようにして得られたセンサチップを検出部7の電圧計(ALS model602E、BAS社製)に接続し、作用電極4と参照電極5の間の電位差を計測した。測定原理としては、
図5(a)右端図に示すように、まず乳酸が、酵素である乳酸オキシダーゼにより酸化され、その過程で過酸化水素を生じる。その過酸化水素でプルシアンブルーが酸化されることで電極電位が変化する。実験は、
図5(a)側面図に示すように、支持枠2の貫通孔の半分までをアガロースゲルで満たし(厚さ0.5mm)、残り上半分にDBPS溶液を添加、そこへ乳酸を滴下したときの応答を計測した。
図5(b)および(c)は、種々の濃度のL-乳酸に対する作用電極4と参照電極5の間の電位差の変化である。L-乳酸の濃度依存的な応答が得られ、アガロースゲル中のL-乳酸濃度を計測可能であることが示された。
【0047】
(実施例4)
上記の乳酸センサのアガロースゲルへ人差し指の腹を30秒間接触させた時の写真を
図6(a)に示し、その時の電位差の変化を
図6(b)に示す。汗反応体9として乳酸オキシダーゼを作用電極4の表面に固定化した場合、Time=100秒の点で指をアガロースゲルに接触させたところ、約20秒のタイムラグの後に電位が連続して増加する変化を示した。このタイムラグは、アガロースゲルの厚みを厚くすると増加したことから、汗成分がアガロースゲルを拡散する速度に依存することが分かった。一方、乳酸オキシダーゼを固定化しない場合は電位応答が得られなかった。つまり、電位応答は、汗から抽出された乳酸に由来することが示された。また、乳酸オキシダーゼが無い場合に電位の変化がなかったことから、乳酸以外の汗成分が作用電極4あるいは参照電極5と直接反応して電位応答を生じることがほとんどなく、高い選択性と、参照電極5の高い電位安定性が示された。また、作用電極4で検出される電位を継続して計測し、被験者の汗と汗反応体9との反応により連続して増加する計測値が所定の閾値、例えば20mVに達したときの値に基づいて汗の成分を検出することで、汗の成分を高精度に検出できることが分かった。
【0048】
(実施例5)
Na+イオンセンサの作製と応答性評価
イオノフォアである1mgSodium Ionophore X(Sigma Aldrich社製)、0.55mg sodium tetrakis[3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl]borate(Sigma Aldrich社製)、33mg ポリ塩化ビニル(Sigma Aldrich社製)、71.9μL bis(2-ethylehexyl)sebacate(東京化成社製)、660μL テトラヒドロフラン(東京化成社製)を混合し、Na+イオン感応膜のプレ溶液を調製した。作用電極4の表面にNa+イオン感応膜プレ溶液を50μL滴下し、室温で一晩乾燥させNa+イオン感応膜を形成した(汗反応体9)。以上の操作によりNa+イオン応答性電極を作製した。参照電極5にはAg/AgCl電極パターンを作製した。0.04gのアガロース粉末(ゲル化温度30~31℃、ナカライテスク社製)を1mLのDPBS溶液に添加し、沸騰させることで溶解させた。このアガロース溶液を35℃付近まで冷却させ、Na+イオン応答性電極とAg/AgCl参照電極の表面を覆うように滴下してゲル化させた(汗抽出部3)。
【0049】
図7は、アガロースゲルへ人差し指の腹を接触させ続けた時の、Na
+イオン応答性電極とAg/AgCl参照電極間の電位差の変化である。時間0秒で皮膚を接触後、約20秒のタイムラグの後に電位が正方向に増加した。これはNa
+イオンの増加を表す応答であり、被験者の皮膚Sから汗を抽出しつつ汗中のNa
+イオンを順次検出可能であることが示された。また、実施例4と同様に、作用電極4で検出される電位を継続して計測し、被験者の汗と汗反応体9との反応により連続して増加する計測値が所定の閾値、例えば20mVに達したときの値に基づいて汗の成分を検出することで、汗の成分を高精度に検出できることが分かった。
【符号の説明】
【0050】
1 基板
2,21 支持枠
3 汗抽出部
4 作用電極
5 参照電極
6 対極
7 検出部
8 収容部
9 汗反応体
10 リード線
S 皮膚