(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】家屋の耐震性評価システム
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20230330BHJP
E04B 1/00 20060101ALI20230330BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20230330BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G01M7/02 H
E04B1/00 ESW
G01M99/00 Z
G01V1/00 D
(21)【出願番号】P 2019016826
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】596126568
【氏名又は名称】株式会社益田建設
(74)【代理人】
【識別番号】100093986
【氏名又は名称】山川 雅男
(72)【発明者】
【氏名】益田 哲慎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 強
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-122866(JP,A)
【文献】特開2003-042892(JP,A)
【文献】特開昭63-019583(JP,A)
【文献】特開平11-231064(JP,A)
【文献】特開2018-159659(JP,A)
【文献】特開2008-039446(JP,A)
【文献】特開2003-287574(JP,A)
【文献】特開2013-152197(JP,A)
【文献】特開2009-020002(JP,A)
【文献】特開2011-080509(JP,A)
【文献】特開2002-169460(JP,A)
【文献】菅沼 克敏,実大三次元振動破壊実験施設(E-ディフェンス)について,科学技術動向 2004年8月号,日本,2004年08月,25~30頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
G01M 99/00
G01V 1/00
E04B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生地、発生時が異なる複数の過去発生地震の各々の地震観測点における地震動データの振幅成分を該地震観測点における表層地盤増幅率で除した基準地震動データの複数を格納した過去地震動データ格納部と、
家屋の建築地地盤を微動探査して算定された表層地盤増幅率をサイト表層地盤増幅率として格納するサイト増幅率格納部と、
前記過去地震動データ格納部から選択された一の過去発生地震の基準地震動データの振幅成分に前記サイト増幅率格納部内のサイト表層地盤増幅率を乗じてサイト予想地震動を算出するサイト地震動推計部と、
入力された所定の地震動に対する応答が予めプログラミングされ、前記サイト予想地震動を入力値として入力される
実大振動実験装置と、
を有する家屋の耐震性評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋の耐震性評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家屋の耐震性を評価する方法として、従来、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
この従来例は、地震時における木造家屋の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させる木造家屋のシミュレーションプログラムであって、このプログラムを使用することにより、地震時の損壊を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来例は、実際に発生した地震の時刻歴波形を入力して家屋の耐震性を評価するものであるが、地震による揺れは、地盤状態によって変わるために、家屋が実際に建てられている地盤での揺れとは異なり、正確な評価を下せないという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の問題を解決すべくなされたもので、家屋が建てられている地盤を評価要素として加えることにより、評価精度を高めた家屋の耐震性評価システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば上記目的は、
発生地、発生時が異なる複数の過去発生地震の各々の地震観測点における地震動データの振幅成分を該地震観測点における表層地盤増幅率11で除した基準地震動データ1の複数を格納した過去地震動データ格納部3と、
家屋の建築地地盤を微動探査して算定された表層地盤増幅率をサイト表層地盤増幅率14として格納するサイト増幅率格納部4と、
前記過去地震動データ格納部3から選択された一の過去発生地震の基準地震動データ1の振幅成分に前記サイト増幅率格納部4内のサイト表層地盤増幅率14を乗じてサイト予想地震動を算出するサイト地震動推計部5と、
入力された所定の地震動に対する応答が予めプログラミングされ、前記サイト予想地震動を入力値として入力される実大振動実験装置と、
を有する家屋の耐震性評価システムを提供することにより達成される。
また、本システムは、
家屋の建築地地盤を微動探査して該建築地地盤の表層地盤増幅率をサイト表層地盤増幅率14として算定する工程と、
所定の過去発生地震の観測点における地震動データの振幅成分を該過去発生地震の観測点における表層地盤増幅率11で除した基準地震動データ1を算出する工程と、
前記基準地震動データ1に前記サイト表層地盤増幅率14を乗じてサイト予想地震動を算出する工程と、
前記サイト予想地震動を入力値として耐震評価装置2に入力して耐震性能を評価する工程と、
を含んで構成される。
【0008】
本発明において、耐震評価装置2への入力値として、過去に発生した地震の地震動データをもとに、家屋が建てられる建築地(サイト)の地盤を考慮した地震動データを使用するために、当該過去発生地震が建築地で発生した場合の耐震性能を正確に評価することができる。
【0009】
この場合、上記基準地震動データ1の算出工程を別途先行させて、この結果を、
発生地、発生時が異なる複数の過去発生地震の各々の地震観測点における地震動データの振幅成分を該地震観測点における表層地盤増幅率11で除した基準地震動データ1の複数を過去発生地震のインデックス情報6とともに格納した過去地震動データ格納部3を有し、
前記インデックス情報6の入力により対応する基準地震動データ1を出力する過去地震動データ出力装置7に格納し、サイト予想地震動算出工程を、この過去地震動データ出力装置7から提供される基準地震動データ1を使用して実行することもできる。
【0010】
また、本発明は、
家屋の建築地地盤を微動探査して該建築地地盤の表層地盤増幅率をサイト表層地盤増幅率14として算定する工程と、
前記サイト表層地盤増幅率14を所定の過去発生地震の観測点における表層地盤増幅率11で除した揺れやすさ指数を算出する工程と、
所定の過去発生地震の観測点における地震動データの振幅成分に前記揺れやすさ指数を乗じたサイト予想地震動を算出する工程と、
前記サイト予想地震動を入力値として耐震評価装置2に入力して耐震性能を評価する工程と、
を含む家屋の耐震性評価方法として構成することもできる。
【0011】
耐震評価装置2としては、種々の周知のシミュレーションソフトウエアを使用することができるが、実大振動実験装置を使用すると、施主に建築予定地における実際の地震動を体感してもらうことができる。
【0013】
また、上記方法における過去地震の基準地震動データ1は、
発生地、発生時が異なる複数の過去発生地震の各々の地震観測点における地震動データの振幅成分を該地震観測点における表層地盤増幅率11で除した基準地震動データ1の複数を過去発生地震のインデックス情報6とともに格納した過去地震動データ格納部3を有し、
前記インデックス情報6の入力により対応する基準地震動データ1を出力する過去地震動データ出力装置7から取得することができる。
【0014】
過去の地震動データを観測地の表層地盤増幅率11を考慮した基準地震動データ1として集積すると、各々の過去地震を共通の尺度で比較することができる上に、サイトの表層地盤増幅率14を知るだけで同等の地震に対するサイトの揺れを再現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の他の実施の形態による工程図である。
【
図3】家屋の耐震性評価システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示すように、耐震性評価を行うに際して、まず、耐震評価対象である家屋が建てられる地盤(サイト地盤)の特性を知る必要があり、そのために、微動探査を実施し(工程S1)、この結果に基づいてサイト地盤の表層地盤増幅率14を算出する(工程S2)。
【0017】
耐震評価対象家屋は建築済みのものでも、あるいは建築予定のものでも問わず、サイト地盤は、現に家屋が建てられている地盤であることが望ましいが、計測が困難な場合には、近接地の値を採用することもできる。
【0018】
表層地盤増幅率は、地震時の横揺れ波(S波)の速度が遅くなることにより、S波振幅が増幅され、揺れも大きくなることに着目して設定された指標であり、地表から30m等の所定の距離におけるS波平均速度から導かれた地盤の揺れやすさを示す指標として利用される。
【0019】
この表層地盤増幅率の算定は、サイト地盤における常時微動を観測することにより行われ、具体的には、微動探査の手法が利用できる。
【0020】
微動探査は、地盤の常時微動現象を利用したS波速度構造を知るために有効な探査方法で、通常、地表に配置した数台から10台の高精度な上下動地震計から出力される常時微動観測波形から生成される各々の振動数に対する地盤の伝播速度に一致する伝播速度を有する地盤モデルを生成して行われる微動アレー探査を使用することができるが、極小微動アレイを使用した探査法、あるいは、より簡便な微動探査による表層地盤増幅率検査方法である地震eye(地盤ネット総合研究所株式会社所有の登録商標)を利用することができる。
【0021】
また、微動探査においては、常時微動のスペクトル比から地盤の卓越周期等の地盤の振動特性を算出することができるために、必要に応じ、これら振動特性を加えることができる。
【0022】
一方、別途、過去に観測された地震に対する基準地震動データ1を算出する(工程S3)。基準地震動データ算出工程に先立ち、観測点での地震動データは、地震名等のインデックス情報6、観測点における表層地盤増幅率11とともに過去地震動データ格納部3に格納される(
図3参照)。
【0023】
本例において地震動データには観測点における加速度時刻歴波形が使用され、時刻歴波形の振幅成分を観測点における表層地盤増幅率11で除した波形も基準地震動データ1として加えられる。
【0024】
サイトにおける耐震評価は、上記基準地震動データ1の振幅成分とサイトでの表層地盤増幅率14との積で与えられるサイト予想地震動を、適宜の耐震評価装置2に入力値として与えることにより行われる(工程S4)。
【0025】
耐震評価装置2には、従来例として示した木造家屋のシミュレーションプログラム、あるいは出願人の提案による特開2018-100494号公報に記載のシミュレーションプログをはじめとする適宜のシミュレーションプログラムによるシミュレーションの他に、実大振動実験装置を使用することができる。
【0026】
実大振動実験装置を使用することにより、実際の家屋の損傷状況を確認することができるために、より現実的な評価を行うことが可能になる。
【0027】
また、以上においては、過去の地震の地震動データ(地震動観測データ12)から基準地震動データ1を算出した後、サイトの表層地盤増幅率14を掛け合わせて入力値を導出する方法を示したが、この他に、
図2に示すように、過去の地震観測点における表層地盤増幅率11とサイトの表層地盤増幅率14との比を揺れやすさ指数として定義し(工程S3’)、過去の地震動の振幅成分と揺れやすさ指数との積を振幅成分とする地震動データをサイト予想地震動として入力することもできる。
【0028】
なお、
図2において上述した
図1と同一の工程は図中に同一符号を付して説明を省略する。
【0029】
図3に以上の評価方法を実行するための評価システムを示す。この評価システムは、制御部8と、制御部8による制御を受けて動作する過去地震動データ入力部9、過去地震動データ格納部3、および基準地震動演算部10を有する。
【0030】
なお、
図3においては単一の装置、すなわち、評価装置として示されているが、各々の部位、あるいは複数部位の集まりを異なったサーバとして構成することもできる。
【0031】
過去地震動データ格納部3には、地震動観測データ12が地震名、発生日時、最大震度等のインデックス情報6、および観測地の表層地盤増幅率11とともに、過去地震動データ入力部9を経由して格納される。
【0032】
また、上記過去地震動データ格納部3の格納データには、基準地震動データ1が含まれており、制御部8は、地震動観測データ12が入力されると、基準地震動演算部10を起動して該地震動観測データ12から基準地震動データ1を生成する。
【0033】
基準地震動演算部10は、入力された地震動観測データ12の振幅成分、すなわち、地震動データとして加速度時刻歴波形が使用される本例においては、加速度成分を観測地表層地盤増幅率11により除して加速度成分とすることにより、新たな地震動データを生成し、これを基準地震動データ1として過去地震動データ格納部3に格納する。
【0034】
さらに、評価システムは、サイト増幅率格納部4を備える。サイト増幅率格納部4は、極小微動アレイ等を使用して求めた家屋の建設地の表層地盤増幅率14が格納される。
【0035】
耐震評価は、以上の過去地震動データ格納部3、およびサイト増幅率格納部4内の数値を使用して行われ、評価に際して、まず、評価用地震選択部13において、過去地震を選択すると、制御部8は、対応する基準地震動データ1を過去地震動データ格納部3から検索するとともに、サイト増幅率格納部4からサイト表層地盤増幅率14を抽出してサイト地震動推計部5に入力する。
【0036】
サイト地震動推計部5は、過去地震動データ格納部3から抽出された基準地震動データ1の振幅成分とサイト表層地盤増幅率14との積を新たな振幅成分としたサイト予想地震動を生成する。
【0037】
また、サイト地震動推計部5は、振幅成分を変化させることにより波形の乱れが過大になる場合には、卓越周期等に影響を与えない範囲での波形修正を行うことができる。
【0038】
以上のようにして算出されたサイト予想地震動は、地震動入力部を経由して耐震評価装置2に入力される。本例において耐震評価装置2には実大振動実験装置が使用されており、実大振動実験装置上に構築された実大の家屋試験体の状況を観測することにより当該家屋の耐震性能を評価することができる。
【0039】
また、上述したように、評価システムは、単一の装置として構成することも可能であるが、過去地震動データ格納部3を含んだ過去地震動データ出力装置7を構成することもできる。
【0040】
過去地震動データ出力装置7は、評価用地震選択部13を備えており、該評価用地震選択部13に過去の地震を入力すると、指定した地震の基準地震動データ1が出力される。
【符号の説明】
【0041】
1 基準地震動データ
2 耐震評価装置
3 過去地震動データ格納部
4 サイト増幅率格納部
5 サイト地震動推計部
6 インデックス情報
7 過去地震動データ出力装置
11 観測地表層地盤増幅率
14 サイト表層地盤増幅率