(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】土木工事用又は建築工事用水糸及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20230330BHJP
E04G 21/18 20060101ALI20230330BHJP
D02G 3/24 20060101ALI20230330BHJP
D02G 3/44 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G01C15/00 102A
E04G21/18 Z
D02G3/24
D02G3/44
(21)【出願番号】P 2019075294
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】593172326
【氏名又は名称】川島商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 将之
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3104024(JP,U)
【文献】実開平6-80116(JP,U)
【文献】登録実用新案第3118453(JP,U)
【文献】特開2003-82544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
G01C 15/00 - 15/14
E04G 21/18
E04F 21/00 - 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維製マルチフィラメント糸のタスラン加工糸を複数本撚り合わせてなる土木工事用又は建築工事用水糸。
【請求項2】
合成繊維製マルチフィラメント糸が原着糸である請求項1記載の土木工事用又は建築工事用水糸。
【請求項3】
合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維及びポリプロピレン繊維よりなる群から選ばれた合成繊維である請求項1記載の土木工事用又は建築工事用水糸。
【請求項4】
実質的に無撚の合成繊維製マルチフィラメント糸にタスラン加工を施してタスラン加工糸を準備する工程、
前記タスラン加工糸を複数本引き揃えた後に下撚りを施して、下撚り糸を得る工程、及び
前記下撚り糸を複数本引き揃えた後に上撚りを施す工程を具備する土木工事用又は建築工事用水糸の製造方法。
【請求項5】
下撚りをS撚りとし上撚りをZ撚りとするか、又は下撚りをZ撚りとし上撚りをS撚りとする請求項4記載の土木工事用又は建築工事用水糸の製造方法。
【請求項6】
下撚りの際のタスラン加工糸の引き揃え本数を2~3本とし、上撚りの際の下撚り糸の引き揃え本数を2~3本とする請求項4記載の土木工事用又は建築工事用水糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工事又は建築工事において、水平線を示すのに用いる水糸及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木工事や建築工事において、水平線を示すため、支柱間等に水糸を張り渡すことが行われている。従来より、この水糸として、紡績糸、合成樹脂製モノフィラメント糸又は合成樹脂製マルチフィラメント糸が用いられている。しかしながら、これらの水糸は伸縮性に欠けるため、強く緊張して張り渡すと、若干の外力の負荷により水糸が切断するという欠点があった。また、逆に緊張が弱いと、張り渡した中央部分が弛んで、正確な水平線を示しにくくなるという欠点があった。
【0003】
このため、水糸として、ゴム糸を芯部とし、この芯部を被覆する繊維糸よりなる編組体を鞘部としたものが提案されている(特許文献1)。かかる水糸は、ゴム糸の伸縮性により、従来の欠点を解決しうるものである。しかしながら、水糸は屋外で使用することが多いので、ゴム糸が劣化しやすく、水糸の寿命が短いという憾みがあった。
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ゴム糸を使用せずに、伸縮性に優れた土木工事用又は建築工事用水糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、合成樹脂製マルチフィラメント糸に特定の加工を施した加工糸を採用することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、合成繊維製マルチフィラメント糸のタスラン加工糸を複数本撚り合わせてなる土木工事用又は建築工事用水糸及びその製造方法に関するものである。
【0007】
本発明に用いる合成繊維製マルチフィラメント糸としては、従来公知のものが用いられる。一般的には、ポリエチレンテレフタレート繊維製マルチフィラメント糸、ナイロン繊維製マルチフィラメント糸又はポリプロピレン繊維製マルチフィラメント糸が用いられる。特に、ポリエチレンテレフタレート繊維製マルチフィラメント糸は、耐候性に優れており、屋外で使用する水糸の素材としては好適である。合成繊維製マルチフィラメント糸の繊度及びフィラメント数も、従来公知の範囲で用いられ、たとえば、300~2500デシテックス/30~200フィラメントのものが用いられる。
【0008】
合成樹脂製マルチフィラメント糸として、水糸を見やすくするため、所定の色を持つ原着糸を用いるのが好ましい。原着糸を用いる理由は、雨水等によって、色落ちしないためである。染色糸を用いると、雨水等によって、色落ちしやすくなる。色は任意であるが、なるべく鮮やかな色が好ましく、たとえば、黄色、ピンク色、オレンジ色、赤色、青色又は緑色等が採用される。また、原着糸の色は蛍光色であるのが好ましい。蛍光色にしておくと、より見やすくなるし、撮影もしやすい。蛍光色の具体例としては、蛍光黄色、蛍光ピンク色、蛍光オレンジ色又は蛍光赤色等が採用される。
【0009】
合成樹脂製マルチフィラメント糸にタスラン加工を施して、タスラン加工糸とする。タスラン加工とは、実質的に無撚の合成樹脂製マルチフィラメント糸に、圧縮空気を吹き付けて、各フィラメントを攪乱させて、各フィラメントにループを形成すると共に各フィラメント相互間を絡める加工のことである。したがって、タスラン加工糸は嵩高になっており、その表面がざらついている。本発明に係る土木工事用又は建築工事用水糸は、かかるタスラン加工糸を複数本引き揃えた後、撚り合わせてなるものである。
【0010】
タスラン加工糸の撚り合わせは、任意の方法で行うことができる。たとえば、タスラン加工糸に撚りを施して一本の糸条を得た後、この糸条を複数本(一般的に2~3本)引き揃えた後、撚りを施して本発明に係る土木工事用又は建築工事用水糸を得ることができる。この場合は、比較的細い水糸となる。また、タスラン加工糸を複数本引き揃えた後に下撚りを施して、下撚り糸を得た後、この下撚り糸を複数本引き揃えた後に上撚りを施すことにより、本発明に係る土木工事用又は建築工事用水糸を得ることができる。この際、下撚りと上撚りの撚り方向は逆であるのが好ましい。すなわち、下撚りをS撚りとしたとき、上撚りはZ撚りであるのが好ましく、また下撚りをZ撚りとしたときは、上撚りはS撚りであるのが好ましい。かかる撚り合わせ方法により、水糸の形態安定性が向上する。なお、この場合は、比較的太い水糸を得ることができる。
【0011】
下撚りを施す際のタスラン加工糸の引き揃え本数は任意であり、また、上撚りを施す際の下撚り糸の引き揃え本数は任意であるが、一般的に2~3本程度である。たとえば、タスラン加工糸を2本引き揃えて撚り合わせ下撚り糸を得、次いで、下撚り糸を3本引き揃えて撚り合わせて水糸を得ることができる。また、タスラン加工糸を3本引き揃えて撚り合わせ下撚り糸を得、次いで、下撚り糸を2本引き揃えて撚り合わせて水糸を得ることができる。なお、水糸の直径は1.0mm程度である。
【0012】
本発明に係る土木工事用又は建築工事用水糸は、リールに巻き付けられて提供され、従来公知の方法で用いられる。すなわち、各支柱に水糸を結び付けて、水平線を示すために用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る土木工事用又は建築工事用水糸は、タスラン加工糸を構成している各フィラメントがループを形成しているため、長手方向に伸縮しやすく、ゴム糸を使用しなくとも、各支柱間に良好に張り渡すことができるという効果を奏する。また、タスラン加工糸で形成されてなる水糸は嵩高であるため、マルチフィラメント糸で形成されたものに比べて、その直径が太くなり水糸が見易くなるという効果も奏する。さらに、タスラン加工糸で形成された水糸は、その表面がざらついているため、支柱に結んだ場合、解けにくいという効果も奏する。
【実施例】
【0014】
実施例
1100デシテックス/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート製マルチフィラメント糸(黄色の原着糸)を準備した。このマルチフィラメント糸にタスラン加工を施し、タスラン加工糸を得た。このタスラン加工糸を2本引き揃えて、撚り数346回/mでS撚りを施して、下撚り糸を得た。この下撚り糸を3本引き揃えて、撚り数160回/mでZ撚りを施して、土木工事用又は建築工事用水糸を得た。
【0015】
比較例
実施例で用いたポリエチレンテレフタレート製マルチフィラメント糸にタスラン加工を施すことなく、実施例と同一の撚りを施して、土木工事用又は建築工事用水糸を得た。すなわち、ポリエチレンテレフタレート製マルチフィラメント糸を2本引き揃えて、撚り数346回/mでS撚りを施して、下撚り糸を得た。この下撚り糸を3本引き揃えて、撚り数160回/mでZ撚りを施して、土木工事用又は建築工事用水糸を得た。
【0016】
実施例で得られた水糸の50N荷重時の伸び率(JIS L 1013記載の方法に準拠して測定した。なお、試験機は定速伸長形を用い、つかみ間隔20cmで引張速度20cm/minで測定したものである。)は4.5%であり、比較例で得られた水糸の50N荷重時の伸び率は2.8%であった。したがって、実施例で得られた水糸は、比較例で得られたものに比べて、伸縮性に優れていることが分かる。また、実施例で得られた水糸の直径は1.1mmであり、比較例で得られた水糸の直径は0.8mmであった。なお、この直径は、株式会社尾崎製作所製の「PEACOCK DIAL THICKNESS GAUGE」で測定したものである。したがって、実施例で得られた水糸は、比較例で得られたものに比べて、見易いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例で得られた水糸(a)と比較例で得られた水糸(b)の平面写真である。