(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】車両制御システム用の基準信号を取得するための方法およびシステムならびに対応する制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/14 20060101AFI20230330BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
B60W30/14
G01C21/34
(21)【出願番号】P 2019572788
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 IB2018054822
(87)【国際公開番号】W WO2019003187
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】102017000073748
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519464119
【氏名又は名称】ユニベルシタ デッリ スツディ ディ サレルノ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI SALERNO
【住所又は居所原語表記】Via Giovanni Paolo II,132,84084 Fisciano Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドナタントニオ,ファブリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ジアネッティ,フラヴィオ
(72)【発明者】
【氏名】ピアネーゼ,チェーザレ
(72)【発明者】
【氏名】アルシー,イヴァン
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-191456(JP,A)
【文献】特開2008-049738(JP,A)
【文献】国際公開第2012/088537(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
G01C 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって、走行ルートに沿った車両(V)の地理的位置に応じて前記車両(V)を制御するためのシステム用の基準信号を取得するための方法であって、
少なくとも前記車両(V)に関する
第1データ(35)と少なくとも走行ルートに関する
第2データ(30)とを提供する(100)動作ステップと、
前記
第2データ(30)と前記
第1データ(35)に基づいて、前記車両(V)の駆動力Fの少なくとも1つの基準信号と前記車両(V)のための速度νの少なくとも1つの基準信号とを、前記走行ルートに沿った前記車両(V)の位置sに応じて、前記走行ルートに沿って前記駆動力Fを最適化するように構成された第1の最適化プロセスを通して決定する(200)動作ステップと、
前記車両(V)の係合中のギヤγおよび/またはギヤチェンジu
shの少なくとも1つの基準信号を、前記走行ルートに沿った前記車両(V)の前記位置sに応じて、前記走行ルートに沿って前記車両(V)の燃費を最適化するように構成された第2の最適化プロセスを通して決定する(300)動作ステップと、
を含み、
前記第2の最適化プロセスは、前記第1の最適化プロセスの後に行われ、前記第2の最適化プロセスは、前記車両(V)に関する前記
第1データ(35)、走行ルートに関する前記
第2データ(30)、ならびに、前記第1の最適化プロセスを通して決定された、前記駆動力Fの前記少なくとも1つの基準信号および前記速度νの前記少なくとも1つの基準信号、を入力として受付ける、
方法。
【請求項2】
前記車両(V)の前記
第2データ(30)と前記
第1データ(35)は、質量、空力抵抗、および転がり摩擦に関する情報と、エンジンによりもたらされるトルクの曲線と、1つ以上の燃料流量マップと、前記エンジンの速度伝達比とを含み、
前記
第2データ(30)と前記
第1データ(35)は、前記車両(V)および/または前記車両(V)の前記エンジンの寿命の間、一定であっても可変であってもよく、
前記
第2データ(30)と前記
第1データ(35)は更にインラインまたは非インラインで推定可能であってもよい、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記走行ルートの前記
第2データ
(30)は、
出発地の地理的位置および目的地の地理的位置を含む前記走行ルートの旅程と、現在の地理的位置と、前記走行ルートに沿った傾きおよび/または高度とを含み、前記走行ルートに沿って確立された速度制限と、推定到着時刻または所定の最大走行時間と、少なくとも1つの所定の平均速度と、少なくとも1つの所定の最高速度および少なくとも1つの所定の最低速度と、前記所定の平均速度および前記少なくとも1つの所定の最高速度および前記少なくとも1つの所定の最低速度に対する少なくとも1つの固守度合と、に関するデータと;前記走行ルートに沿った交通状態に関するデータと;前記走行ルートに沿った天候状態に関するデータと;からなる群から選択された、1つ以上のデータを含んでもよい、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の最適化プロセスは、質量mを有する前記車両(V)を前記走行ルートに沿って運転させるのに必要な前記駆動力Fのコスト関数J(F)の最小化の解析プロセスである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記駆動力Fの前記コスト関数J(F)の前記最小化は、以下の関係により与えられる:
【数32】
ここで、状態方程式は:
【数33】
制約条件は:
【数34】
であり、
式中、νは前記車両(V)の前記速度であり、sは前記走行ルートに沿って前記車両(V)が走行する長さであり、v
min
は所定の最低速度であり、v
max
は所定の最
高速度であり、F
maxは前記車両(V)の最大利用可能駆動力であり、T
maxは最大走行時間であり、
【数35】
は前記所定の平均速度であり、以下の外因性の力:
【数36】
が考慮され、
式中、mは前記車両(V)の前記質量であり、gは重力加速度であり、αは前記走行ルートに沿っ
た傾きに対応する角度であり、p
airは前記走行ルートに沿った周囲空気密度であり、C
xは空力抵抗係数であり、Aは前記車両(V)の前面面積であり、C
γ0は第1の転がり抵抗係数であり、C
γ1は第2の転がり抵抗係数である、
請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記駆動力Fの前記コスト関数J(F)の最小化
の解析プロセスは、前記駆動力Fの関数である、以下によって与えられるラグランジュ積分:
【数37】
の最小化を行い:
【数38】
式中、関数g
1、g
2、およびg
3は以下の式によって定義され:
【数39】
式中、
Kは前記駆動力Fに伴う運動エネルギーであり、
K
minは前記所定の最
低速度v
min
に伴う運動エネルギーであり、
K
maxは前記所定の最
高速度v
max
に伴う運動エネルギーであり
c
1、c
2、c
3はペナルティ係数であり、
t(s)は前記車両(V)の走行時間であり、
φは二次ペナルティ項の振幅であり、
a(s)は随伴行列フィールドであり、
以下の制約条件が満たされなければならず、
【数40】
前記ラグランジュ積分の前記最小化は、前記ラグランジュ積分(15)の勾配
【数41】
の計算のアルゴリズムによって実行され、
前記車両(V)の前記最大利用可能駆動力F
maxは、各ギヤについての最大駆動力の包絡線を近似する解析関数として表されてもよい、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ラグランジュ積分(15)の前記勾配
【数42】
の計算の前記アルゴリズムは、随伴行列ベースの反復アルゴリズムであり、当該アルゴリズムは、
前記ラグランジュ積分
【数43】
の勾配
【数44】
を計算する(250)ステップと、
前記ラグランジュ積分
【数45】
の前記勾配
【数46】
の最小値を探索する探索方向p
kを決定するために前記ラグランジュ積分
【数47】
の前記勾配
【数48】
を反復的に使用する(260)ステップと、
直線最小化を実行する(270)ステップと、
前記ラグランジュ積分
【数49】
の最小値に到達したことを示す、前記反復を中止する少なくとも1つの基準が満たされる
まで、前記反復を繰り返す(280)ステップと、
を含み、
前記ペナルティ係数c
1、c
2、c
3は、一定であってもよく、連続的反復に対応して進行的に増加させてもよく、前記二次ペナルティ項の前記振幅φは、一定であってもよく連続的反復に対応して動的に変更可能であってもよい、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ラグランジュ積分
【数50】
の前記勾配
【数51】
は、以下によって与えられ:
【数52】
前記随伴行列ベースの反復最適化アルゴリズムのk番目の反復に対応する前記探索方向p
kは、以下により与えられ:
【数53】
式中、β
kは、以下のPolak-Ribiere式によって決定されてもよく、直前の反復に対応する前記探索方向の運動量を表し、
【数54】
前記直線最小化は、以下によって与えられるコスト関数の最大限の低減を確実にする前記駆動力Fのステップ長さh
kを:
【数55】
とし、以下によって与えられる非線形方程式をスカラーhについて反復的に解くことにより計算する、
【数56】
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記反復を中止するための前記少なくとも1つの基準は以下により与えられ:
【数57】
【数58】
は2つの所定の閾値である、
請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の最適化プロセスは、長さSの前記走行ルートの長さΔs
2のi番目のセグメントに沿った前記車両(V)による前記燃費と、上り坂および下り坂区間でのギヤチェンジにペナルティを課すことを目的としたペナルティファクタとの、M個の項(Mは長さs有する前記走行ルートを構成する長さΔs
2を有するセグメントの数)の和として表された、前記走行ルートに沿った前記車両(V)の前記燃費のコスト関数J
2の最小化の動的プロセスである、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記燃費の前記コスト関数J
2の前記最小化は以下の関係によって与えられ:
【数59】
ここで、状態方程式は:
【数60】
制約条件は:
【数61】
であり、
式中、
【数62】
であり、
【数63】
は、セグメントiにおけるギヤチェンジ信号であり、
Mは、前記燃費の前記コスト関数J
2の和をとる項の数であり、
【数64】
は、セグメントiにおける燃料流量であり、
Δs
2は、前記M個のセグメントのそれぞれの長さであり、
【数65】
は、前記車両の前記質量mおよび前記セグメントi
の傾きα
iの関数として可変である第1のペナルティ係数であり、
μ
2は、一定である第2のペナルティ係数であり、
【数66】
は、ギヤのセット
【数67】
に含まれる、セグメントiにおける前記車両のギヤであり、
n
eは、最大値n
e,maxと最小値n
e,minとの間の範囲のエンジン速度である、
請求項4に従属する請求項10または請求項5に従属する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
エンジン速度n
eと前記エンジンによりもたらされ
るトルクT
eとの燃料流量W
f関数は、以下の通り前記係合中のギヤγに応じて表され:
【数68】
式中、i(γ)は、前記係合中のギヤγでのグローバル速度伝達比であり、R
wは前記車両(V)の車輪半径であり、Fおよびνは、前記第1の最適化プロセスを通して決定された、前記駆動力の前記少なくとも1つの基準信号と、速度の前記少なくとも1つの基準信号である、
請求項2に従属する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
走行ルートに沿った車両(V)の地理的位置に応じて前記車両(V)を制御するためのシステム用の基準信号を取得するためのシステム(2)であって、
少なくとも前記車両(V)に関する
第1データと、少なくとも前記走行ルートに関する
第2データとを出力するように構成された、少なくとも1つのデータ収集装置(3)と、
前記車両(V)に関する前記
第1データと前記走行ルートに関する前記
第2データとを前記少なくとも1つのデータ収集装置(3)から受信するように構成された1つ以上の処理部(4、5)であって、請求項1~12のいずれか一項の車両(V)を制御するためのシステム用の基準信号を取得するための前記方法を実行するように構成された、1つ以上の処理部(4、5)と、
を備える、
システム。
【請求項14】
車両(V)の速度を制御するためのシステムであって、
基準信号を取得するための少なくとも1つ
のシステム(2)と、
基準信号を取得するための前記少なくとも1つのシステム(2)から受信した基準信号に基づいて、前記走行ルートに沿って前記車両(V)の速度と前記車両(V)の係合中のギヤγとを制御するように構成された1つ以上の制御装置と、
を備える、
請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記1つ以上の制御装置は、エンジンユニットを制御するように構成されたクルーズコントロールシステムと、前記車両(V)の変速機を制御するユニットと、前記車両(V)の少なくとも1つのブレーキ装置に作用するように構成された装置と、からなる群から選択された1つ以上の装置を含む、
請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
1つ以上のコンピュータプログラムのセットであって、1つ以上の処理部(4、5)によって実行されると、請求項1~12のいずれか一項に記載の車両(V)を制御するためのシステム用の基準信号を取得するための前記方法の、車両(V)の駆動力Fの少なくとも1つの基準信号と前記車両(V)のための速度νの基準信号とを決定する(200)ステップと、前記車両(V)の係合中のギヤγおよび/またはギヤチェンジu
shの少なくとも1つの基準信号を決定する(300)ステップとを、前記1つ以上の処理部(4、5)に実行させる、
1つ以上のコンピュータプログラムのセット。
【請求項17】
請求項16に記載の1つ以上のコンピュータプログラムのセットを記憶した、1つ以上の読取り可能媒体のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム用の基準信号を取得するための方法およびシステムに関する。
【0002】
本発明はまた、基準信号を取得するための方法およびシステムが有利に適用可能な、車両用制御システムに関する。
【背景技術】
【0003】
現在の技術では、車両の巡航速度(クルージングスピード)を制御するためのシステム、いわゆる「クルーズコントロール」システム、が知られている。これは、車両の燃費を低減するために、セットアップ条件と両立可能な車速の自動調整を可能にすることで運転を容易にするものである。
【0004】
そのようなシステムは、例えば輸送車両の更に高度なバージョンにおいては、ガス制御に作用することに加えて設定巡航速度を維持するために、今や標準装備の一部となっており、車両ブレーキ装置(例えばリターダ、従来の摩擦ブレーキまたはエンジンブレーキ)ならびにオートマチックトランスミッションの場合には変速機の制御にまで作用することができる。
【0005】
車両の巡航速度を決定および制御するための従来のシステムは、走行ルート(route to travel)の条件に関する情報を使用しないため、速度調整に関して最適ではない場合がある。
【0006】
しかしながら、他の先行技術のシステムは、走行ルートの特徴を考慮している。例えば、国際公開第2012/088537号、国際公開第2010/144029号、国際公開第2010/144031号、および国際公開第2013/095234号に記載されたシステムなどがある。
【0007】
国際公開第2012/088537号は、走行ルートの特性も考慮して燃費を最小化する、車両の推奨動作条件を決定する方法を教示している。国際公開第2012/088537号に開示された方法は、2つのステップ、すなわち第1のオフラインステップと第2のオンラインステップと、を含む。第1のオフラインステップでは、走行ルートに基づいて車速およびギヤ状態のパターンを粗評価し、第2のオンラインステップでは、第1のオフラインステップで得られた車速およびギヤ状態のパターンの粗評価に基づいて、車速およびギヤ状態のパターンを改良する。上記第1のオフラインステップおよび第2のオンラインステップは同じコスト関数を最適化する。
【0008】
他の文献のシステムは、「水平」な道であるという条件を想定して車両の基準速度を決定することに焦点を置いているが、コンピュータ演算上の視点から見ると、こうしたシステムは非常に重たいものである。
【0009】
したがって、従来の方法における上述した欠点を解消し、これらの代替となる車両制御システム用の基準信号を取得するための方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主たる目的は、一般的な車両業界における従来技術を改良することを目的とし、特に車両の速度制御を行うシステムの分野での改良を目的とする。
【0011】
具体的には、従来の方法に代わる、車両制御システム用の基準信号を取得する方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明のさらなる目的は、早急に実施される、車両制御システム用の基準信号を取得する方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明のさらなる目的は、従来の技術に対してより限定的な計算資源を必要とする、より信頼性と効率性の高い車両制御システム用の基準信号を取得する方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明のさらなる目的は、競争力のあるコストで実施可能な車両制御システム用の基準信号を取得する方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明のさらなる目的は、従来の技術に代わる車両制御システムを提供することを目的とする。
【0016】
本発明の具体的な目的は、特許請求の範囲第1項に係る車両制御システム用の基準信号を取得する方法である。
【0017】
本発明の具体的な目的は、特許請求の範囲第13項に係る車両制御システム用の基準信号を取得するシステムである。
【0018】
本発明のさらに具体的な目的は、特許請求の範囲第14項に係る車両制御システムである。
【0019】
本発明のさらに具体的な目的は、特許請求の範囲第16項に係る1セット以上のコンピュータプログラムである。
【0020】
本発明のさらに具体的な目的は、特許請求の範囲第17項に係る1セット以上のコンピュータ読取可能媒体である。
【0021】
特許請求の範囲における従属項は、本発明の好ましい有利な実施形態を参照する。
【0022】
本発明を、いかなる限定のない具体的な例示を目的として、添付の図面を参照した好ましい実施形態にしたがって以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る方法を示す第1のフロー図である。
【
図2】
図1に示す方法を実施するためのシステムの例示的ブロック図である。
【
図3】
図1に示す方法における第1の最適化プロセスを示す例示的ブロック図である。
【
図4】本発明の方法に係る車両の駆動力の平均化を示す図である。
【
図5】本発明に係る方法における第1の最適化プロセス時に実施される反復最適化プロセスを示す例示的ブロック図である。
【
図6】
図1に示す方法における第2の最適化プロセスを示す例示的ブロック図である。
【
図7】本発明に係る方法を実施する多様なシステムの一つを例示的に示す図である。
【
図8】車両の速度を調整する従来の方法及び
図1に示す方法によって、(a)に示すルートに沿って取得可能な速度プロファイル(b)、燃費(c)、ギヤ切替(d)のそれぞれの動向を示す図である。
【
図9】本発明の有効性を支持するいくつかの実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面、特に
図1および2を参照して、本発明に係る車両の制御システム用の基準信号を取得する方法がまとめて参照符号1で示され、少なくとも以下の動作ステップを含む:
少なくとも前記車両Vに関するデータと少なくとも走行ルートに関するデータとを提供する(100)ステップ(ステップ100)と、
走行ルートに沿った車両自体の位置sに応じて、駆動力F=F(s)の少なくとも1つの基準信号と前記車両Vの速度ν=ν(s)の基準信号とを、第1の最適化プロセス(ステップ200)によって前記データに基づいて決定するステップ(速度ν=ν(s)は一般に一定の巡航速度ではない)と、
走行ルートに沿って前記車両の位置sに応じて、車両Vの係合中のギヤγ(s)(または対応するギヤチェンジu
sh(s))の少なくとも1つの基準信号を、第2の最適化プロセス(ステップ300)によって決定するステップ。
【0025】
第2の最適化プロセス(ステップ300)は第1の最適化プロセス(ステップ200)の後に行われ、車両Vに関するデータおよび走行ルートに関するデータと、第1の最適化プロセス(ステップ200)において処理された、駆動力Fの基準信号および速度基準信号νと、の両方を入力として受信する。
【0026】
本発明に係る方法の好ましい実施形態のステップ100を特に参照すると(
図3参照)、ステップ100は車両に関する情報を提供することを想定している。この情報は、車両の質量と、車両の空力抵抗と、(例えば対応する係数の形での)転がり摩擦と、車両のエンジンによりもたらされる最大トルクのパターンとに関する情報、および、以下の記述から理解されるように、(例えばエンジンからもたらされるトルクおよび同エンジン速度の関数として)燃料流量マップと速度伝達比とに関する情報である。
【0027】
本発明に係る方法のステップ100はまた、車両Vが走行するであろうルートに関する、あるデータを供給する。これには、例えば以下のものが含まれる:
例えば適切な汎地球測位システム(GPS、GLONASS、または他の類似システム)によって提供される車両の現在の地理的位置、
目的地の地理的位置、
車両の出発地の地理的位置(有利には走行ルートの出発地点の地理的位置)と、目的地の地理的位置(走行ルートの道路の小道を含む)との間のルートに関する情報、例えば、車両が走行しなければならない道路の傾きまたは高度などの情報、
ルートに沿った速度制限に対応するデータ、
例えば車両の運転者によって入力される所望の到着時刻、および
他のオプションデータ、例えば、平均速度、運転者が所望する最高速度および最低速度、ならびにそれらの速度を固守する度合などである。
【0028】
運転者によって入力され得る情報は、以下の記述から理解できるように、運転者の運転スタイルおよび走行する道の条件をも考慮して、本発明に係る方法で使用される。
【0029】
これらのデータは、適切な処理(例えば、フィルタリングステップおよびリサンプリングおよび/または他の適切な処理)の後、第1の最適化プロセス(ステップ200)を行うために使用される。第1の最適化プロセスは、ルート走行中の燃費を最適化する車速ν(
図7に参照符号Vで表示)の基準信号と、そのルートに沿った車両の駆動力Fの基準信号と、を決定する。
【0030】
特に、前記第1の最適化プロセスは、グローバル長さSを有するルートに沿って質量mの車両Vを駆動するのに必要とされる駆動力Fのコスト関数J(F)である第1のコスト関数を最小化する解析プロセスを含む。
【0031】
駆動力Fに関するコスト関数J(F)の最小化は以下の関係式により与えられる:
【数1】
このとき、時間領域における状態方程式は:
【数2】
制約条件は:
【数3】
であり、
νは車速であり、Sは上述したように、走行ルートのグローバル長さであり、ν
minは車両の最低速度であり、ν
maxは車両の最高速度であり(運転者により、および/または、速度制限に関するデータなどの、車両Vが走行するであろうルートに関するデータから提供されてもよい)、F
maxは車両の利用可能な最大駆動力であり(最大駆動力F
maxは制御変数)、T
maxは所望の最大走行時間であり(運転者により提供されてもよい)、
【数4】
は、設定された所望の平均速度であり、車両Vの運転者により提供されてもよい。
【0032】
コスト関数J(F)の最小化(1)は、式(3)~(5)において上述した速度ν、最大駆動力F
max、および所望の最大走行時間T
maxに関する状態方程式(2)の制約条件のもとで、有限長さSのルートに沿って質量mを有する車両を駆動するのに使用されるエネルギーを最小化することを目的とする。更に、状態方程式(2)は、車両Vが以下の外因性の力を受けることも考慮する。
【数5】
式中、車両が走行している道の傾きF
grade、空力抵抗F
drag、および転がり摩擦F
rollは、それぞれ、車両Vのグローバル質量mに加えて、重力加速度g、道の傾きに対応する角度α(これは一般にルートに沿って可変であり、その場合、α=α(s)である)、周囲空気密度
【数6】
(一般にルートに沿って可変であり、これは例えば、ルートは異なる高度を通るからであり、その場合、
【数7】
である)、空力抵抗係数C
χ、車両Vの前面面積A、転がり抵抗の第1の係数C
γ0(一般に、例えばタイヤの摩耗の進行および/または異なる種類のアスファルトまたは、土および/または変化し得る天候条件によって、ルートに沿って可変であり、その場合、C
γ0=C
γ0(s)である)、ならびに、転がり抵抗の第2の係数C
γ1(一般に、例えばタイヤの摩耗の進行および/または異なる種類のアスファルト、または土、および/または変化し得る天候条件によって、ルートに沿って可変であり、その場合、C
γ1=C
γ1(s)である)を表す。
【0033】
最小化すべきコスト関数J(F)と適合すべき最大走行時間T
maxに関する制約条件とが、空間領域における両方の対象を反映するので、状態方程式(2)は空間領域において書き換えることができ(下記の式(9)を参照)、状態変数v(すなわち速度)は運動エネルギーKに置き換えられ、式(6)~(8)により与えられる車両Vに作用する外因性の力の定義を利用して、式(2)~(5)を以下のように書き換えることができる。
【数8】
式中、K
minは最低速度ν
minに伴う運動エネルギーであり、K
maxは最大速度ν
maxに伴う運動エネルギーである。
【0034】
適切に処理される積分制約条件(12)は、更なる状態変数t(s)、すなわち空間sを走行するのに必要な時間の導入を必要とする。したがって、更なる制約条件式が追加される。
【数9】
これによれば、積分制約条件(12)は次のように明確に書き換えることができる。
【数10】
【0035】
このように、本発明に係る方法によれば、コスト関数J(F)の最小化は、上記制約条件を考慮しつつ、本発明の方法に従って、以下により与えられる。すなわち、駆動力Fの関数であるラグランジュ積分の最小化により得ることができる。
【数11】
式中、ペナルティ関数g
1、g
2、およびg
3は以下の式により定義される。
【数12】
式中、c
1、c
2、およびc
3はペナルティ係数である。
【0036】
上記式において、本発明の方法による利用可能な最大駆動力F
maxは、例えば、
図4に示すように、以下の関係から3つのガウス関数の和により与えられる、各ギヤについての最大駆動力の包絡線の解析近似関数により、求めることができる。
【数13】
式中、νは車速であり、ζ
1...3、η
1...3、ξ
1...3は9つの定係数である。
【0037】
各ギヤについての最大駆動力の包絡線を表すのに必要なガウス関数(すなわち速度vの関数として)は2以上(例えば2、4、または5)の任意の他の数Pであってよく、定係数ζ1…P、η1…P、ξ1…Pの数はPの3倍に等しいことを、考慮しなければならない。更に、利用可能な最大駆動力Fmaxはガウス関数以外の基本関数、例えば区分線形関数を使用して、解析形式で表現可能であることを考慮すべきである。
【0038】
ラグランジュ積分(15)においては、本発明の方法による式(9)、および(13)の制約条件には、更なるフィールドα(s)およびλを導入する必要がある。更に、ラグランジュ積分(15)においては、φは制約条件(14)を満たすべき二次ペナルティ項の振幅であり、その一方で、b1およびb2はラグランジュ乗数であるが、これらは演算上重要ではない。
【0039】
本発明に係る方法により、ラグランジュ勾配(15)を計算するアルゴリズムを実行する。本発明に係る方法の好ましい実施形態では、
図5に示すように、当該アルゴリズムは、随伴行列ベースの反復法であり、共役勾配法に従う。アルゴリズムは、更なるフィールドを使用してラグランジュ積分(15)の勾配
【数14】
の計算を行い(ステップ250)、実際は、ラグランジュ積分の最小化は、このように計算された勾配
【数15】
を反復的に使用することによって共役勾配法によって行われ、最小値を探索する探索方向を決定する(ステップ260)。特に、式(16)~(18)のc
1、c
2、およびc
3のペナルティ係数は、一定であってもよいし連続的反復を徐々に増加させてもよい。同様に、二次ペナルティ項の振幅φは、一定の値でもよいし連続的反復により動的に変更してもよい。探索方向が決定すると、アルゴリズムは、直線最小化を行い(ステップ270)、反復の少なくとも1つの中止基準が満たされる(ステップ280)まで同反復を繰り返す。この中止基準は、ラグランジュ積分の最小値に到達したことを示すものである。
【0040】
これは反復法であるので、例えば式(9)および(13)を解くことにより、変数F(s)のための初期値K(s)およびt(s)を提供しやすい(ステップ251)。
【0041】
勾配計算のために、次に、以下の更なる式を解くことによって、更なるフィールドλが決定される(ステップ252)。
【数16】
これはラグランジュ積分(15)の第一外乱から導かれるものである。
【0042】
上記異なる式の解は、自明であり、λが一定かつその最終条件に等しくなければならないことを、強調する。
【0043】
次のステップ(ステップ253)において、以下の第2の更なる式を解くことにより、フィールドa(s)が決定される。
【数17】
ここから(ステップ254)以下の関係に基づいてラグランジュ積分の勾配が得られる。
【数18】
そのようにして計算されたラグランジュ積分の勾配は、決定変数の空間において探索方向p
kを決定するステップ(ステップ260)で使用され、k番目の反復において、以下の関係に基づき探索方向p
kが決定される。
【数19】
ここで、
第1の反復(k=1)において、探索方向として、勾配と反対の方向、すなわち最急降下方向、が使用され、
次の反復(k>1)において、共役勾配が決定される。式中、βは、直前の反復における探索方向の運動量を表し、Polak-Ribiereの式によって決定される。
【数20】
【0044】
βは、例えば、Fletcher-ReevesまたはHestenes-Stiefelなどの、他の式によっても決定することが考えられる。
【0045】
探索方向が決定すると、以下のコスト関数を最大限に確実に低減する駆動力Fのピッチ(h
k)の長さを計算することで、直線最小化が行われる(ステップ270)。
【数21】
これは、以下の非線形方程式をスカラーhについて反復して解くことで行われる。
【数22】
これには、例えば、Algorithms for minimization without derivatives, Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall, 1973, ISBN 0-13-022335-2の「Chapter 4: An algorithm with Guaranteed Convergence for finding a zero of a Function」においてR.P.Brentにより説明されているBrentの方法、またはDekkerのアルゴリズムなどの他の方法が用いられる。
【0046】
ピッチの長さhkが決まると、制御変数Fが更新され(ステップ271)、ステップ280において、反復中止のための基準が満たされている否かが確認される。
【0047】
本発明の方法の好ましい実施形態よるアルゴリズムの中止基準は、以下により与えられる。
【数23】
式中、ε
Jおよびε
tは2つの所定の閾値である。
【0048】
上記で示されるように、中止基準は2つの条件によって与えられる。第1の条件は、ある反復とその直前の反復との間のコスト関数J(F)の相対変動がεJ以下であるときに最小化されると考えられる、コスト関数J(F)に関連づけられている。第2の中止基準は(これもまた、反復を中止するためには満たさなければいけない)、全ルートの時間t(S)に関するものであり、この時間t(S)の、ある反復とその直前の反復との間の変動は、εtを超えることはできない。
【0049】
上述した計算に基づき、第1の最適化プロセス(
図1および5のステップ200)は、出力として、車両Vの速度ν(s)の基準信号と駆動力F(s)の基準信号とを、走行ルートに沿った車両位置sの関数として提供する。
【0050】
第1の最適化プロセスから出力された結果に基づき、本発明に係る方法は、第1の最適化プロセスのコスト関数とは異なる、第2のコスト関数の第2の最適化プロセス(
図1のステップ300)を、燃費のコスト関数J
2である、動的プログラミング(動的プログラミングまたは動的最適化としても知られる)の方法により行う。コスト関数J
2は、長さSのルートを構成するM個の長さセグメントΔs
2について、それぞれ長さΔs
2を有するi番目のセグメントに沿った燃費によるコストと、ギヤチェンジにペナルティを課す(ルートの上り坂区間でギヤチェンジを行うと追加のペナルティが課せられる)ことを目的としたペナルティ係数との、和として表される。
【0051】
図6のブロック図は、本発明に係る方法の好ましい実施形態の第2の最適化プロセスを概略で示す。特に、第2の最適化プロセスは、本方法の第1の最適化プロセス(
図1および5のステップ200)から得られた車両の速度ν(s)の基準信号および駆動力F(s)の基準信号と、走行する道路の傾きまたは高度および車両V(質量、燃料流量マップ、速度伝達比など)を特に参照して走行ルートの種類に関する上述したデータに基づいて行われる。
【0052】
更に詳細には、第2の最適化プロセスは、車両の燃費に関連づけられ、以下の関係により与えられる、ギヤチェンジγの関数としてのコスト関数J
2の最小化を実行する。
【数24】
このとき、状態方程式は:
【数25】
制約条件は:
【数26】
であり、
ここで、
【数27】
であり、式中、
u
sh,iは、セグメントiにおけるギヤチェンジ信号であり、制御変数を表し、
Mは、コスト関数J
2の追加数であり(長さSのルートを構成する長さセグメントΔs
2の数に等しい)、
W
f,iはセグメントiにおける燃料流量(質量/時間)であり、
Δs
2は、M個のセグメントのそれぞれの一定の長さであり(本発明に係る方法の他の実施形態において、各セグメントiの長さΔs
2,iが他のセグメントの長さと一般に異なり得る場合にも適用される)、
μ
1,iは、車両の質量mおよびセグメントiの傾きα
iの関数として可変である第1のペナルティ係数であり、
μ
2は、一定である第2のペナルティ係数であり、
γ
iは、ギヤのセット
【数28】
のうちの、セグメントiにおける車両のギヤであり、状態変数(一般には、ギヤのセット
【数29】
は区間ごとに変わり得る)を表し、
n
eは最大値n
e,maxと最小値n
e,minとの間のエンジン速度である。
【0053】
先行技術のシステムと同様に、自動モードと運転者による直接操作との両方において、セット
【数30】
に含まれないギヤの係合またはブレーキ動作を必要とする例外的もしくは緊急の条件が発生した場合には、本発明に係る方法はその実行を中止する(すなわち電源を切る)ということを考慮しなければならない。
【0054】
十分に高い値がペナルティ係数μ1,iおよびμ2に割り当てられなければならず、それにより不要なギヤチェンジには適切なペナルティが課される。
【0055】
なお、式(32)は、可能な動作の設定を、ギヤの維持(0)、ギヤを1段階もしくは2段階上げる(+1,+2)、またはギヤを1段階もしくは2段階下げる(-1,-2)の間で制限する。
【0056】
コスト関数J2の和の追加によって最初にもたらされる項Wf,iは、車両エンジンの燃料流量マップWf(Te,ne)に従い、エンジンによってもたらされるトルクTeおよび当該エンジンの速度neの関数として表すことができる。容易に理解できる通り、当業者にとって全く明らかな方法で、燃料流量Wf,iを決定するために他のエンジンパラメータを代替としてまたは追加で使用してもよい。
【0057】
しかしながら、本発明によれば、エンジンよってもたらされる速度n
eおよびトルクT
eは、以下の関係によりギヤγの関数として表すことができる。
【数31】
ここで、i(γ)は係合中のギヤγでのグローバル速度伝達比であり、R
wは車両Vの車輪半径である。
【0058】
したがって、式(35)および(36)から以下のことが明らかである。すなわち、本発明に係る方法の第1の最適化プロセスにおける出力により供給されるF(s)およびν(s)が分かると、ルート走行中の燃費に関連づけられた、第1の最適化プロセスのコスト関数とは異なるコスト関数J2は、走行ルートの各セグメントにおける係合中のギヤγiのみの関数となる。
【0059】
したがって、本発明に係る方法の第2の最適化プロセスからの出力において、走行ルートに沿った、車両Vの係合中のギヤγ(s)(またはギヤチェンジush(s))の基準信号が得られ、有利には、係合中のギヤγiの信号はセグメントiを指すものの、それにもかかわらず、係合中のギヤγ(s)(またはギヤチェンジush(s))の基準信号は、ある走行距離sにおける制御信号として提供される。
【0060】
これらを鑑みると、上述したように、それぞれ互いに異なるコスト関数に基づく2つの連続する最適化プロセスを行う本発明に係る方法が、全ルート走行に沿った、車両Vの速度ν(s)および係合中のギヤγ(s)(またはギヤチェンジush(s))の基準信号をどのようにして取得できるかが、明らかである。したがって、道路に沿った車両Vの現在位置sが分かれば、速度ν(s)および基準ギヤγ(s)の対応する値を全くユニークな方法で決定することができる。
【0061】
走行ルートに沿った車両Vの地理的位置の関数として、車両Vの制御システム用の基準信号を取得するためのシステムを、一つの例として
図2を参照して説明する。
【0062】
そのようなシステム2は、データを収集するための少なくとも1つの装置3を含む。この装置3は、車両Vおよび走行ルートに関するデータ、ならびに車両Vの運転者が入力し得る任意のデータおよび車両Vのエンジンに関するデータを出力するように構成されている。
図2において、前記少なくとも1つの装置3は、例えば車両Vの全質量m(この値は車両Vの特定の構成部品に配置された重量センサによって更新され得る)、空力抵抗係数Cx、車両Vの前面面積A、車両Vのタイヤの転がり抵抗の第1の係数c
γ0および第2の係数c
γ1(これらはタイヤの摩耗の進行に基づき更新され得る)などの、車両Vに関するデータを記憶するメモリ3aと、例えば、車両の現在位置、地理的目的地の位置、車両Vの位置と目的地との間のルートに関する情報(車両Vが走行しなければならない道路の傾きまたは高度など)、道路に沿った速度制限に対応するデータ、ならびに任意で、交通状態および天候状態に関する情報などの、車両の位置および走行ルートに関するデータを提供する(例えばGPSセンサおよび/またはGLONASSを備える)衛星航法装置3bと、例えば、所望の到着時刻、平均速度、運転者が求める最高速度および最低速度、ならびに任意で、運転者が設定した速度を固守する度合などの、車両の運転者によるユーザデータを入力可能とする入力/出力インターフェース3cと、エンジンに関するデータを出力において提供するシステム3dと、を含む。このシステム3dは、エンジンによりもたらされるトルクおよび/またはエンジン自体の速度に関するデータを出力によって提供するように構成された1つ以上のセンサ3d(そのようなセンサは車両内に既に存在するものであってもよく、データはCAN-BUSなどの通信ボードシステムから検索されてもよい)と、車両のエンジンによりもたらされる最大トルクのパターンと、(例えばエンジンによりもたらされるトルクおよびエンジン速度の関数としての)燃料流量マップと、速度伝達比と、を記憶するメモリと、を任意で含む。本発明に係るシステムの他の実施形態は、例えば周囲空気密度および/または天候状態を検知するための、更なるセンサを含んでよい。
【0063】
システム2はまた、駆動力を最適化するための少なくとも1つの第1のモジュール4を含む。当該少なくとも1つの第1のモジュール4は、前記少なくとも1つの装置3に動作的に接続されており、
図5を参照して上述した第1の最適化プロセスにより、ルートに沿って、車両Vの位置sに基づいて、車両に対する駆動力信号F(s)と速度信号ν(s)とを決定するように構成されている。
【0064】
システム2は更に、燃費を最適化するための少なくとも1つの第2のモジュール5を含む。当該少なくとも1つの第2のモジュール5は、駆動力を最適化するための第1のモジュール4の下流に配置されており、前記第1のモジュール4と、データを収集するための前記少なくとも1つの装置3とに動作的に接続されている。第2の最適化モジュール5は、第2の最適化プロセスを通して、走行ルートに沿って、車両Vの基準ギヤγ(s)(またはギヤチェンジush(s))の基準信号を決定するように構成されている。
【0065】
特に、第1および第2のモジュール4および5は、本発明に係る方法を実行するように構成された、例えば少なくとも1つのマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラを備える、2つの処理部によりそれぞれ構成されてもよいし、例えば少なくとも1つのマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラを備える、単一の処理部により構成されてもよい。
【0066】
前記少なくとも1つの装置3は、
図3、5、および6の最適化プロセスを参照して上述したデータを第1のモジュール4と第2のモジュール5とに提供するように構成されている。
【0067】
第1のモジュール4および第2のモジュール5は、走行ルートに関する情報、すなわちインターフェース入力/出力3cにより運転者が設定したルートである走行ルートに沿った道路の傾きまたは高度と、当該ルートに沿って設けられた速度制限(および任意に交通状態および天候状態に関する情報)とを、衛星航法装置3bから受信する。そして、これらの情報に基づき、第1のモジュール4および第2のモジュール5は、
図3および6に示すように(そのような情報はまとめて参照符号30で示している)、第1の最適化プロセスおよび第2の最適化プロセスをそれぞれ実行する。
【0068】
衛星航法装置3bにより提供される情報30は、当該衛星航法装置に予め記憶されていてもよいし、ケースバイケースで処理されてもよく、任意で1つ以上のリモートサーバーにとって適切な1つの通信プロトコル、またはリモート処理部に従って、無線通信ネットワーク(無線)による接続を介して処理されてもよい。
【0069】
図3および6はまた、(システム3dによって提供される情報35が実際には第2のモジュール5のみに使用される場合であっても)メモリ3aおよびシステム3dによって第1のモジュール4および第2のモジュール5へ供給される情報35を示す。すなわち、当該情報は、質量、空力抵抗、および転がり摩擦に関するデータと、前記車両のエンジンによりもたらされる最大トルクのパターンに関するデータと、対応する燃料流量マップ、燃料流速(すなわち燃料の流量)、およびギヤ比に関するデータと、を含む。
【0070】
以下、容易に想像できるように、上述した1つのシステムは、1つの車両に完全に統合できる、または一部のみを統合できる。いくつかのバージョンが実際に予見でき、それらを以下に
図7を参照して提示する。
【0071】
3つの主なバージョンによれば、最適化モジュール4および5は、車両Vの車内に搭載される、または車両Vの外部にあってもよく、例えば、最適化モジュール4および5が適切な通信プロトコルを介して通信するクラウド内のコンピュータ装置6に、適切なソフトウェアを使用して搭載してもよく;かつ/または、適切な通信インターフェースを使用して当業者に既知である様式でシステムの他の構成要素に動作的に接続された、例えばスマートフォン、タブレット、パーソナルコンピュータなどの外部装置3に搭載してもよい。
【0072】
上記バージョンのうちの少なくとも1つによれば、特にエンジンに関する車両Vのデータが、車両自体、例えば不揮発性タイプの調整済みメモリ7に記憶される。上述したように、そのようなデータは、車両Vおよび/または車両Vのエンジンの製造業者により、車両Vのおよび/またはエンジン自体の仕様の一部として、測定または利用可能とされる。
【0073】
上記バージョンのうちの少なくとも1つによれば、少なくとも車両Vおよび/または車両Vのエンジンの一定のデータ(車両Vおよび/または車両Vのエンジンの寿命の間、変化しない一定のパラメータを有することが意図されている)が、例えばその目的に適した調整済み不揮発性メモリ7によって車内に記憶される。代わりに、車両Vおよび/またはエンジンの寿命の間に変化する、車両Vおよび/または車両Vのエンジンのパラメータが、カルマンフィルタ、状態オブザーバ、状態推定器などの推定技術により、インラインで推定されてもよい。この場合、以下のものが参照される。
車両Vのパラメータ、例えば、空力抵抗係数、転がり摩擦係数、質量、慣性、シャーシの特徴など、
エンジンパラメータ、例えば、もたらされるトルクおよび/またはパワー、燃費マップ、ならびに動作条件の関数としての燃料量の他の指標など、である。
【0074】
あるいは、本発明に係る方法および相対システムによれば、上述したもののうち、車両Vおよび/またはエンジンの寿命サイクルの間に変化する、車両Vおよび/またはエンジンのパラメータは、例えば車両Vおよび/またはエンジンの保守作業の間に外部システム8によりインラインではなく車両外で推定でき、次いで、調整済み不揮発性メモリに車内において、そして任意で例えばスマートフォン、タブレットなどの外部装置3上に、記憶することができる。
【0075】
本発明の方法および対応するシステムの他のバージョンによれば、車両Vおよび/またはエンジンの一定のパラメータおよび一定でないパラメータの両方が、それらが一定またはインラインで推定されたものであるという事実にかかわらず、外部装置3(例えばスマートフォンまたはタブレットなど)に記憶されてもよい。
【0076】
上記を鑑みると、上述したようなシステムは、(本発明の目的でもある)車両の制御システムに統合され得る。制御システムは、とりわけ、車両Vの速度(ν)および係合中のギヤ(γ)(またはギヤチェンジ(ush))を制御するように構成された、システム2の下流に動作的に接続された、1つ以上の制御装置を含む。それらの1つ以上の制御装置は、使用時にシステム2から上述した方法で決定する基準信号を受信する。
【0077】
車両Vの速度νおよび係合中のギヤγ(またはギヤチェンジush)を制御するための前記1つ以上の装置は、例えば、パワートレインを制御するクルーズコントロールシステム、変速機の制御ユニット、または、走行中の燃費の制御、排出ガス低減、安全などに直接的もしくは間接的に寄与する他の制御装置などを含む。
【0078】
上述した基準信号を取得するための方法およびシステムは上記した目的を達成する。
【0079】
上記方法を特に参照して、実験的研究により以下のことが分かった。すなわち、従来の方法と同じ条件下で、本発明に係る方法は、車両Vの速度νの調整を可能とする車両制御システム用の基準信号を提供し、燃費の視点から性能を改善し、同時に、走行時間を低減する。更に、本発明に係る方法により同時ではなく順次行われる2つの最適化プロセスは、計算上の方法の複雑さをかなり低減でき、計算上の視点からもより効率化された方法を提供する。
【0080】
以下、実施したいくつかの試験結果を
図8に示す。
図8は、グラフ(a)に示された高度プロファイルを有するルートを全負荷状態の車両が走行した場合の、上記提案された方法(OPT)と従来の方法(CC)との挙動比較を示す。
【0081】
固定点クルーズコントロールシステム(実線)により実施される従来の方法は、基準速度(一定)と実際の速度との差に基づき、ガス制御に作用する。ギヤチェンジは、毎分回転数(rpm)によるエンジンの最大効率範囲を考慮し、現在の負荷を予測することで作動する。そのような論理では、状況によっては、一連のギヤチェンジを過度に引き起こす可能性があり、クラッチが車輪からエンジンを切り離している間に運動量の損失などの不都合を招き、結果として、ルートの上り坂区間における燃費が上昇し、トランスミッションに係る応力が増加する。
【0082】
他方、本発明に係る方法(
図8の(b)、(c)、および(d)の破線を参照)は、ルートのトポグラフィーに基づいて基準速度とギヤの係合とを動的に変更し、傾きのプロファイルを適合させ、その結果、燃料を節約する。
【0083】
例えば、
図8(b)を参照して、上り坂区間の始まり略3000mで速度がわずかに上昇し、同時にギヤは予測的にシフトダウンしていることに注目されたい(誤記:元の参照符号が見つからない(d))。運動量の増加は、道路の傾きが急激に増加する、より速い速度の次の区間では有利である。更に、予めギヤチェンジしておくと、上り区間での更なるギヤチェンジを回避できる。上り坂区間の終わりでは、従来の方法では基準速度に素早く戻るが、本発明に係る方法では、車両はゆっくりとスローダウンし、次の下りの区間(4500~6000m)を利用して速度を取り戻せるようにしている。
【0084】
スロープの終わりでは、本発明に係る方法は、従来の方法に比べてより高い速度を維持して、直前の区間でロスした時間を補完する。
【0085】
この区間は略平面であるので、本発明に係る方法は、消費した燃料がわずかに上昇するが、これは、走行時間におけるゲインにより補完される。
【0086】
この点について、
図9では、従来の方法(基準速度が一定であり、そのグラフは
図9に「従来のクルーズコントローラ」として示されている)と、本発明に係る方法(そのグラフは
図9に「最適化」として示されている)とについて、全負荷状態で異なる基準速度における44tの車両の燃費(ΔFC)が、走行時間の変動(Δ時間)とともに示されている。
【0087】
グラフに示した変動は、実際に100km以上にわたって延びる道において、80km/hに設定した基準速度で従来の方法により取得した燃費および走行時間に関するものである。
【0088】
本発明の方法によれば、同じ基準速度では燃料と時間が節約できることが分かる。
【0089】
更に、1.37%の燃費の節約を維持しつつ、基準速度を82km/hに上昇させて走行時間の面で約3%節約することもできる。それに対して、82km/hに基準速度を上げると、固定点でのクルーズコントロールとして知られる従来の方法では、約2%走行時間が低減できるが、燃費が2.43%上昇する。
【0090】
他方、基準速度を79km/hに落とすと、本発明に係る方法では、4.04%超の燃料節約ができ、時間の増加はわずか0.70%である。
【0091】
以上、好ましい実施形態を説明し、本発明のいくつかの変形例を示唆したが、当業者ならば添付の請求の範囲の保護範囲を逸脱することなく修正および変更を加えることができることが、理解される。