(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/00 20060101AFI20230330BHJP
H04W 16/14 20090101ALI20230330BHJP
H04W 72/54 20230101ALI20230330BHJP
【FI】
H04L27/00 A
H04W16/14
H04W72/54 110
(21)【出願番号】P 2021562400
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 CN2020097607
(87)【国際公開番号】W WO2021012859
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】201910659454.2
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】511128206
【氏名又は名称】南通大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 士兵
(72)【発明者】
【氏名】呉 建絨
(72)【発明者】
【氏名】張 碩
(72)【発明者】
【氏名】張 暁格
(72)【発明者】
【氏名】陳 永紅
(72)【発明者】
【氏名】陳 家俊
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-151461(JP,A)
【文献】特開2012-175195(JP,A)
【文献】特開2005-039325(JP,A)
【文献】国際公開第2009/145326(WO,A1)
【文献】村岡 一志 他,コグニティブ無線における最大周期自己相関選択に基づくスペクトルセンシング,電子情報通信学会2008年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2008年09月02日,p.445
【文献】原田 浩樹 他,周期定常性に基づく信号認識技術とコグニティブ無線システムへの応用,電子情報通信学会技術研究報告,2011年02月23日,Vol.110 , No.435,pp.17-22
【文献】成枝 秀介 他,最大周期自己相関選択に基づくスペクトルセンシング法の理論解析,電子情報通信学会技術研究報告,2017年02月22日,Vol.116, No.480,pp.29-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/00
H04W 16/14
H04W 72/54
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法であって、コグニティブネットワークは少なくとも1つのプライマリユーザーと1つのコグニティブユーザーとを含み、コグニティブユーザーが受信する検出信号はy(t)=s(t)+n(t)であり、s(t)はプライマリユーザーが伝送する信号であり、n(t)はチャネルノイズであり、0≦t≦Tであり、Tはコグニティブユーザーのスペクトル検出時間である前記スペクトル検知方法において、
有意水準因子を設定するステップ1であって、
式:
によりコグニティブユーザーが1つの検出周期T内に受信した信号y(t)の周期的自己相関関数を計算し、
式中、τは遅延であり、αは前記検出信号の繰返し周波数であり、「*」は
、*を付される関数が*を付される前の関数に対して共役であることを表し、jは虚数単位であるステップと、
信号検出域を構築するステップ3であって、
ステップ2より得た周期的自己相関関数R
α(τ)からR
α(0)及びR
0(τ)のときの関数の値域を除去して、コグニティブネットワークの信号検出域
であるステップと、
検出信号の特性値を計算するステップ4であって、
信号検出域
から、α=0又はτ=0に関して対称である少なくとも1対の対称なピーク値点R
1
とR
2
が見つからないで、|R
l
|>μ
1
+βσ
1
も|R
l
|>μ
2
+βσ
2
も成り立たない(l=1,2)場合には、プライマリユーザー信号は存在しないと判定するステップと
を含むことを特徴とする前記スペクトル検知方法。
【請求項2】
ステップ1で、有意水準因子βはコグニティブネットワークの誤警報確率P
faに基づいて設定され、有意水準因子βの値が、
を満たしさえすればよく、βが小さいほど、コグニティブネットワークの検出率は高いことを特徴とする請求項1に記載の変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法。
【請求項3】
ステップ2で、周期的自己相関関数はコグニティブユーザーが1つの検出周期T内に受信した信号y(t)のサンプリング信号y(k)に基づいて計算することを特徴とする請求項1に記載の変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法。
【請求項4】
ステップ3で、信号検出域
はステップ2より得た周期的自己相関関数R
α(τ)の値域の全体又はその部分であることを特徴とする請求項1に記載の変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法。
【請求項5】
ステップ3で、信号検出域
は2次元的なガウス過程であることを特徴とする請求項1に記載の変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法。
【請求項6】
ステップ5で、対称なピーク値点を見つけるのは信号検出域
の2次元的空間において行うことを特徴とする請求項1に記載の変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法。
【請求項7】
ステップ5で、対称なピーク値点は1対又は複数対であることを特徴とする請求項1に記載の変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコグニティブ無線通信の分野に関し、具体的には、コグニティブ無線環境におけるスペクトル検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信が日ごとに進歩し、とりわけ5G時代が到来するのに伴い、ますます多くの無線データ伝送サービスが要求されスペクトルリソースがニーズに追いつかなくなる。スペクトル利用率を向上させることが、スペクトルリソースの不足を解決するための効果的な方法の1つである。コグニティブ無線技術は人工知能を利用して無線通信環境を検知し、周りのスペクトルリソースの使用情報を動的に検出して、システム自体の動作パラメータをリアルタイムで適応的に変更して未使用のスペクトルを効果的に利用することによって、スペクトル利用率を高めるものである。
【0003】
コグニティブ無線ネットワークにおけるスペクトル検知方法は、エネルギーによる検出、整合フィルターによる検出、特性値による検出、周期的自己相関特性による検出など様々である。エネルギーによる検出はシンプルな方法で、プライマリユーザー信号の事前情報を必要とせず、受信信号のエネルギー又は電力の大きさに基づいてプライマリユーザー信号の存否を判定するもので、判定閾値がチャネルノイズの影響を受けやすく、信号対ノイズ比が低く又はノイズが変動する環境ではスペクトル検出性能が悪い。整合フィルターによる検出はプライマリユーザー信号の特性に基づいて整合フィルターを構築して最良の検出効果を得るもので、プライマリユーザー信号の事前情報が必須で、通常の環境ではこれは満足できない。特性値による検出は受信信号行列の特性値に基づいてスペクトル検出を行うもので、ノイズの変動に優れたロバスト性がある一方、計算が複雑で、長時間の観測で受信信号行列を得る必要があり、リアルタイムなスペクトル検出とは言えない。周期的自己相関特性による検出はプライマリユーザーの変調信号に固有の周期特性又は周期的自己相関関数に基づいて検出するもので、スペクトル検出性能に対するノイズの変動の影響を効果的に解消できる。しかしながら、どのようにしてコグニティブ通信ネットワークにおけるプライマリユーザーの変調信号の周期的自己相関関数の特性を充分に利用して検出することで、信号対ノイズ比が低く又はノイズが変動する環境におけるスペクトル検知の正確さを一層高めるかは、完全な解決が実現していない課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は従来技術における上記の欠点を解消するためになされたもので、変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法を提供する。当該方法は信号対ノイズ比が低く又はノイズが変動する環境で安定的なスペクトル検出性能を有し、信号対ノイズ比が低く又はノイズが変動する環境におけるコグニティブ無線通信ネットワークのスペクトル検出という従来の課題を効果的に解決している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための本発明の、変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法において、コグニティブネットワークは少なくとも1つのプライマリユーザーと1つのコグニティブユーザーとを含み、コグニティブユーザーが受信する検出信号はy(t)=s(t)+n(t)であり、ここで、s(t)はプライマリユーザーが伝送する信号であり、n(t)はチャネルノイズであり、0≦t≦Tであり、Tはコグニティブユーザーのスペクトル検出時間であり、前記スペクトル検知方法の特徴は、
有意水準因子を設定するステップ1であって、
式:
が成り立つよう、コグニティブネットワークの誤警報確率P
fa要件に基づいて有意水準因子βを設定するステップと、
周期的自己相関関数を計算するステップ2であって、
式:
によりコグニティブユーザーが1つの検出周期T内に受信した信号y(t)の周期的自己相関関数を計算し、
式中、τは遅延であり、αは前記検出信号の繰返し周波数であり、「*」はその共役を表し、jは虚数単位であるステップと、
信号検出域を構築するステップ3であって、
ステップ2より得た周期的自己相関関数R
α(τ)からR
α(0)及びR
0(τ)のときの関数の値域を除去して、コグニティブネットワークの信号検出域
を構築し、即ち
であるステップと、
検出信号の特性値を計算するステップ4であって、
信号検出域関数
の、変数τに対する集合の平均値μ
1及び分散σ
1
2、変数αに対する集合の平均値μ
2及び分散σ
2
2をそれぞれ計算するステップと、
スペクトルを判定するステップ5であって、
信号検出域
から、α=0又はτ=0に関して対称である少なくとも1対の対称なピーク値点R
1とR
2が見つかって、|R
l|>μ
1+βσ
1が成り立ち、又は|R
l|>μ
2+βσ
2が成り立つ(l=1,2)と、プライマリユーザー信号が存在すると判定し、そうでないとプライマリユーザー信号は存在しないと判定するステップとを含むことである。
【0006】
本発明ではさらに、ステップ1で、有意水準因子βはコグニティブネットワークの誤警報確率P
faに基づいて設定され、有意水準因子βの値が
を満たしさえすればよく、βが小さいほど、コグニティブネットワークの検出率は高い。
【0007】
本発明ではさらに、ステップ2で、周期的自己相関関数はコグニティブユーザーが1つの検出周期T内に受信した信号y(t)のサンプリング信号y(k)に基づいて計算してもよい。
【0008】
本発明ではさらに、ステップ3で、信号検出域
はステップ2より得た周期的自己相関関数R
α(τ)の値域の全体でもよいし、その部分でもよい。
【0009】
本発明ではさらに、ステップ3で、信号検出域
は2次元的なガウス過程である。
【0010】
本発明ではさらに、ステップ5で、対称なピーク値点を見つけるのは信号検出域
の2次元的空間において行う。
【0011】
本発明ではさらに、ステップ5で、対称なピーク値点は1対でもよいし、複数対でもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法は変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値という特性をコグニティブネットワークのスペクトル検出に適用するもので、プライマリユーザーの変調信号の周期的自己相関関数のピーク値の対称性を利用して、被検出信号におけるプライマリユーザー信号とチャネルノイズを効果的に見分けることで、信号対ノイズ比が低く又はノイズが変動する環境では信号のスペクトルが検出しにくいという課題を解消する。次の有益な効果が得られる。
(1)受信信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値を認識することで、信号対ノイズ比が低く又はノイズが変動する環境におけるプライマリユーザー信号とチャネルノイズの効果的な見分けを実現している。
(2)受信信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値点の2次元的空間において検索することによって、コグニティブネットワークのスペクトル検出率を向上するとともに、プライマリユーザーとコグニティブユーザーとの競合の確率を低減している。
(3)コグニティブネットワークの誤警報確率に基づいて有意水準因子を設定することによって、スペクトル検出率と誤警報確率の2つのスペクトル検出性能指標に配慮がなされ、コグニティブネットワークの大域的最適化の実現に役立つ。
(4)システムの構造がシンプルで、任意の変調信号のスペクトル検知に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下、図面を参照して本発明のさらなる説明を行う。
【
図1】
図1は本発明に係るコグニティブネットワークシステムのモデル模式図である。
【
図2】
図2は本発明に係るスペクトル検知方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面と具体的な実施例を用いて本発明の一層の説明を行う。
【0015】
1つのコグニティブネットワークは少なくとも1つのプライマリユーザーと1つのコグニティブユーザーとを含み、
図1に示すように、コグニティブユーザーが受信する検出信号はy(t)=s(t)+n(t)であり、ここで、s(t)はプライマリユーザーが伝送する信号であり、本例ではs(t)はビットレートが250Kbits/sで、キャリアが320MHzであるバイナリ位相変調信号であり、n(t)はチャネルノイズであり、0≦t≦Tであり、Tはコグニティブユーザーのスペクトル検出時間であり、本発明に係る変調信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づくスペクトル検知方法は、以下のステップを含む。
有意水準因子を設定するステップ1で、
が成り立つよう、コグニティブネットワークの誤警報確率P
fa要件に基づいて有意水準因子βを設定し、本実施例では、コグニティブネットワークの誤警報確率要件がP
fa≦0.001で、β=4と設定する。
【0016】
周期的自己相関関数を計算するステップ2で、コグニティブユーザーが1つの検出周期T内に受信した信号y(t)の周期的自己相関関数
を計算し、式中、τは遅延であり、αは信号の繰返し周波数であり、「*」はその共役を表し、jは虚数単位である。
【0017】
信号検出域を構築するステップ3で、ステップ2より得た周期的自己相関関数R
α(τ)からR
α(0)及びR
0(τ)のときの関数の値域を除去して、コグニティブネットワークの信号検出域
を構築し、即ち
である。
【0018】
検出信号の特性値を計算するステップ4で、信号検出域関数
の、変数τに対する集合の平均値μ
1及び分散σ
1
2、変数αに対する集合の平均値μ
2及び分散σ
2
2をそれぞれ計算する。
【0019】
スペクトルを判定するステップ5で、信号検出域
から、α=0又はτ=0に関して対称である1対の対称なピーク値点R
1とR
2が見つかって、|R
l|>μ
1+βσ
1又は|R
l|>μ
2+βσ
2が成り立つ(l=1,2)と、プライマリユーザー信号が存在すると判定し、そうでないとプライマリユーザー信号は存在しないと判定する。
【0020】
本実施例のスペクトル検出方法のシミュレーション試験を行ったところ、当該スペクトル検出方法を用いると、受信信号の周期的自己相関関数の対称なピーク値に基づいてプライマリユーザー信号が出現したかどうかを判定することができ、スペクトルの検出精度が向上している。本発明の実施例は従来のスペクトル検出方法に比べてスペクトル検出性能が明らかに向上していることが分かる。本発明はシングルキャリア信号の検知、マルチキャリア信号の検知、そしてシングルキャリア信号とマルチキャリア信号の混合信号の検知に適用される。
【0021】
上記の実施例の他にも、本発明には他の実施形態が可能である。同等な置き換え又は変換と認める技術的解決手段が、本発明の保護範囲に含まれる。