(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】免疫比濁法によるカルシウム結合タンパク質S100ファミリーメンバーの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230330BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20230330BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230330BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230330BHJP
C07K 14/76 20060101ALN20230330BHJP
C07K 17/08 20060101ALN20230330BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/545 B
G01N33/543 587
G01N33/543 581D
C07K16/18
C07K14/76
C07K17/08
(21)【出願番号】P 2020512913
(86)(22)【出願日】2018-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2018062159
(87)【国際公開番号】W WO2018206737
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-03-03
(32)【優先日】2017-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516353216
【氏名又は名称】イムンディアグノスティック アー ゲー
(73)【特許権者】
【識別番号】519401491
【氏名又は名称】ダイアシス ディアグノスティック システムズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】アルムブルスター、フランツ-パウル
(72)【発明者】
【氏名】グリムラー、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュー、ピア
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー、トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルツァー、フェリックス
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-510895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0318847(US,A1)
【文献】NILSEN, T. et al.,A novel turbidimetric immunoassay for fecal calprotectin optimized for routine chemistry analyzers,J Clin Lab Anal,2016年,Vol.31, No.e22061,p.1-6
【文献】Buhlmann Laboratories AG,Buhlmann fCAL(R) turbo Reagent kit,カタログ,2017年02月14日,[online], [令和3年12月9日検索], インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/545
G01N 33/543
C07K 16/18
C07K 14/76
C07K 17/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定するインビトロの方法であって、
(a)所定量の前記生物試料を採取すること、
(b)(i)5.0~6.0のpH、(ii)150mosmol/kg・H
2O以上の浸透圧、(iii)0.01~0.1重量%の陰イオン界面活性剤を有し、及び(iv)カルシウムイオン及び亜鉛イオンに配位し封鎖する水性有機緩衝液の所定量で前記生物試料を溶解及び抽出して、可溶化状態で存在する基本的にヘテロ二量体のカルプロテクチン(S100A8/A9)を含む試料溶液を得ること、
(c)ヘテロ二量体のカルプロテクチン(S100A8/A9)に特異的に結合する互いに異なるエピトープ及び結合決定基を有するモノクローナル抗体又はその断片が2種類以上固定化されたナノ粒子を含む特定量の試薬と所定量の工程(b)の前記試料溶液とを混合して、カルプロテクチン(S100A8/A9)がヘテロ二量体の状態で存在している、粒子結合抗体と抗原との反応混合物を得ること、
(d)特定の時間にわたって工程(c)の前記反応混合物をインキュベートすること、及び
(e)前記反応混合物の光学特性を取得し、前記反応混合物の前記光学特性に基づいてカルプロテクチン(S100A8/A9)の含有量を示すシグナルを決定すること、
(f)前記含有量を校正後の対照に関連付けることで、患者の生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定すること
を含む前記方法。
【請求項2】
決定された量が完全なリソソームコンパートメントを有する顆粒球から単離され、且つ、ポリクローナル単一特異性抗体によって決定された、カルプロテクチン標準物質に対する計量計測学的なトレーサビリティを有する、請求項1に記載のカルプロテクチン測定方法。
【請求項3】
光学特性を取得する工程(e)が吸光度、透過率、反射率、光散乱、蛍光、又はシンチレーション値を決定することを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
比濁免疫測定法又は比濁分析免疫測定法である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)及び工程(c)が2種類の試薬成分を使用することを含む粒子増強比濁免疫測定法(PETIA)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
感度の向上のために直径が150~350nmであるナノ粒子を使用することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記2種類以上のモノクローナル抗体又はその断片が、測定範囲の向上のため、それぞれ(i)150~200nm及び(ii)250~350nmの範囲内で均一な直径を有する2種類の粒子に結合している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記粒子がカルボキシル化ポリスチレン粒子又はクロロメチル活性化ポリスチレン粒子である、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生物試料が糞便又は糞便抽出物である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水性有機緩衝液中の緩衝剤がポリカルボン酸、トリカルボン酸、アコニット酸、トリカルバリル酸、ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、α-ヒドロキシカルボン酸、β-ヒドロキシカルボン酸、γ-ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、グルコン酸、5-ケトグルコン酸、2-ケトグルコン酸、ジヒドロキシマレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ニトリロ三酢酸、乳酸、及び/又はアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1種類の塩から構成される、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記粒子結合抗体と抗原との反応が5.0~6.0のpHを有し、且つ、陰イオン界面活性剤又はドデシル硫酸ナトリウム及びCa
2+配位緩衝剤分子を含む混合物中で実施される、請求項1~請求項
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)の前記水性有機緩衝液が、カルシウムイオンを封鎖する緩衝剤として、クエン酸塩、酢酸塩、又はマレイン酸塩のうちの少なくとも1種類の塩、プロテアーゼ処理済み血清アルブミン、及び0.01~0.1重量%の陰イオン界面活性剤を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
非特異的なIgM抗血清を添加すること又は非特異的なIgM抗血清が存在することを含む、請求項1~請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記生物試料が血液、血清、又は血漿である、請求項1~請求項8及び請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~請求項14のいずれか一項に記載の方法により生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定するための検査キットであって、
pHが5.0~6.0の範囲内である20~1000mmol/Lの有機緩衝液、
50~300mmol/Lのナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩、
0.1~1.5%のプロテアーゼ処理済み血清アルブミン、及び
0.01~0.1%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウム
を含む第1の水性試薬成分、並びに
ヘテロ二量体のカルプロテクチン(S100A8/A9)に結合する互いに異なるエピトープ及び結合決定基を有する2種類以上の固定化モノクローナル抗体を担持する、直径が150~350nmであるラテックス粒子を0.01~0.5%(w/v)の濃度で含む第2の試薬成分
を含む前記検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は体液及び糞便中のカルシウム結合タンパク質S100ファミリーメンバーを定量的に測定するための比濁方法及び検査系に関する。本検査キットは急性及び慢性の炎症性の疾患及び症状の診断に使用される抗体、緩衝液、及び部分キットを含む。
【背景技術】
【0002】
カルプロテクチンという用語は、相対分子量が36500ダルトンであり等電点がpH6.3及びpH6.5である2種類の顆粒球タンパク質を包含する(米国特許第4,833,074号明細書、Fagerhol et al.,Scand.J.Haematol.24,393-398(1980).Fagerhol et al.,Bull.Europ.Physiopath.Resp.16(suppl),273-281(1980))。別名としては、低分子量S100A8カルシウム結合タンパク質及び低分子量S100A9カルシウム結合タンパク質、骨髄関連タンパク質8(MRP8)、骨髄関連タンパク質14(MRP14)、遊走阻止因子関連タンパク質8/14(MRP8-MRP14)、S100a/b、カルグラニュリンA/B、嚢胞性線維症抗原(CFA)、ヒト白血球タンパク質、白血球L1-タンパク質複合体、60BB抗原、並びに27E10抗原が挙げられる。体液及びマトリックスにおけるカルプロテクチンの濃度が白血球の代謝回転及び組織における白血球の浸潤の指標となるため、カルプロテクチンは好中球活性化に対する実証されたマーカーである。そのため、カルプロテクチンは、感染症、急性及び慢性の炎症性障害、並びに他の疾患についての臨床化学において広く使用されているバイオマーカーになっている。細菌性の感染症を他の原因と区別するため、及び非感染性の全身性炎症の診断のためにカルプロテクチンの測定を用いることができる(Striz,I&Trebichavsky,Calprotectin-apleiotropic molecule in acute and chronic inflammation,Physiological research/Academia Scientiarum Bohemoslovaca(2004)53(3):245-53;Nilsen T et al,A new turbidimetric immunoassay for serum calprotectin for fully automatized clinical analysers,Journal of Inflammation(2015)12:45;Johne B et al,Functional and clinical aspects of the myelomonocyte protein calprotectin,Mol.Pathol.1997;50:113-23;Nielsen T et al,Serum calprotectin levels in elderly males and females without bacterial or viral infections,Clin.Biochem 2014;47(12):1065-8)。さらにカルプロテクチンは心血管疾患(CVD)症状の発症前の無症状対象におけるCVDの可能性についてのマーカーとして提唱されている(欧州特許第1573335(B1)号明細書参照)。
【0003】
しかしながら、ヘテロ二量体に加えて、様々なS100の単量体及び多量体が同時に存在することにより、生物試料(血液、血清、滑液等)及びマトリックス(糞便)中のカルプロテクチンの免疫学的測定が複雑なものになっている。さらにS100A8/A9タンパク質のCa2+結合特性及びZn2+結合特性がそれらのタンパク質の立体構成及びオリゴマー化に対して重要な影響を及ぼす。S100A8及びS100A9にはカルシウムイオン又は亜鉛イオンの存在下で四量体を形成する傾向があるが、カルシウムの非存在下ではヘテロ二量体が一般的な形態のようである(Grabarek Z,Structural basis for diversity of the EF-hand calcium-binding proteins,J Mol Biol(2006),359:509-25参照)。顆粒球によって分泌されるヘテロ二量体のような特性を有するカルプロテクチンは、精製されたS100A8及びS100A9を混合することで自動的に産生されるわけではない。変異型のS100A8及びS100A9を用いた実験から、S100A8及びS100A9のホモオリゴマー化及びヘテロオリゴマー化はまた、機能上及び診断上の関連があることが示唆されている。
【0004】
カルプロテクチンはインビボでは骨髄分化の様々な段階において循環好中球及び単球内で発現するが、通常の組織マクロファージ及びリンパ球には存在せず、且つ、胃がん、食道がん、結腸がん、膵臓がん、膀胱がん、卵巣がん、甲状腺がん、乳がん、及び皮膚がんを含む様々な種類のがん、神経変性障害、並びに炎症性及び自己免疫性の疾患及び病態において上方制御される。乾癬などの慢性の炎症性症状により表皮における発現がもたらされる。カルプロテクチンは、炎症の局所部位、並びに炎症性疾患、リウマチ性関節炎、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患、クローン病、巨細胞性動脈炎、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、及び進行性全身性硬化症の患者の血清(血液)及び糞便に高濃度で見られる。カルプロテクチンはデンプン小体含有物として知られる加齢前立腺におけるアミロイドの形成及び沈着にも関与する。
【0005】
カルプロテクチンには数多くの役割があるとされている。カルプロテクチンは、MAPK依存性機構による好中球の食作用及び/又は脱顆粒の促進により化学走性を誘導して、殺菌活性を向上させ得る(Simard J.C.et al,Induction of neutrophil degranulation by S100A9 via a MAPK-dependent mechanism,J Leukoc Biol.(2010)87(5):905-14)。さらに、抗菌活性、オキシダント除去活性、及びアポトーシス誘導活性、並びに炎症誘発活性(例えば白血球の動員)がカルプロテクチンによるものであるとされており、カルプロテクチンは自己免疫における炎症の増幅因子、並びにToll様受容体4(TLR4)及び終末糖化産物受容体(AGER)などのパターン認識受容体への結合を介した自然免疫細胞の刺激因子であるようだ。他の活性としては、サイトカイン及びケモカインの産生の促進、並びに白血球の接着及び遊走の制御が挙げられる。TLR4及びAGERへの結合によってMAPキナーゼシグナル伝達経路及びNF-κBシグナル伝達経路が活性化され、それにより炎症促進性カスケードが増幅される。細菌及び真菌に対する抗菌活性は、微生物の成長に必須であるZn2+イオン及びMn2+イオンの結合に起因するようである。カルプロテクチンについてのトランスニトロシラーゼ活性も見い出されており、iNOS-S100A8/A9トランスニトロシラーゼ複合体が[IL]-x-C-x-x-[DE]モチーフを含む標的の選択的炎症性刺激依存的S-ニトロシル化を導くと提唱されている。さらにカルプロテクチンはアラーミン又は損傷関連分子パターン(DAMP)分子として作用し得る。
【0006】
診断目的及び患者の療養のため、特に生物学的製剤を使用する急性及び慢性の炎症性障害の治療をモニターするために結果を解釈しなければならない場合には、生物試料及びマトリックス中のカルプロテクチンの適正で正確な測定が必須である。特に一般的な診断の判定値及び臨床研究の知見が適用される場合には結果が比較可能である必要がある。カルプロテクチンの様々なオリゴマー化状態を考慮すると計量計測の問題を測定値のトレーサビリティ、測定不確かさ、及び相互互換性に分けることができる。測定は臨床検査室の中心的活動であるので、トレーサビリティが達成されない場合は他の方法によって結果の比較可能性を実現しなければならない。診断結果の質を改善するために患者の結果が最高度に利用可能な基準に対してトレース可能であることが目標である。
【0007】
カルプロテクチン測定のための従来の方法は、遊離型であるか又は固相に結合しているポリクローナル抗体を使用する(国際公開2012/175616号パンフレット、国際公開2013/132347号パンフレット、国際公開2014/037588号パンフレット、米国特許出願公開第2017/0108507号明細書参照)。しかしながらカルプロテクチンは二量体(S100A8/A9)の形態又は(S100A8/A9)2四量体の形態を採ることができ、又はオリゴマーの形態さえも採ることができる(T.Vogl et al,Poster:Towards a Reference Material for the Standardization of Calprotectin(S100A8/Ag;MRP8/14)Immunoassay、英国、リーズで2017年5月3日~5日に開かれたFOCUS(臨床化学及び臨床検査医学協会)において発表)ので、免疫測定法による(例えば酵素結合免疫吸着測定法、すなわちELISAによる)並行測定、又はUV/VIS、ビュレット、ブラッドフォード、若しくはクマシー・ブルーを使用したスパイク試料溶液中の精製カルプロテクチンの並行測定は、標準の問題に対して何ら最終的な答えを与えない。組換えタンパク質である高親和性又は低親和性のカルシウム結合領域に少なくとも1つの突然変異を有する変異型のS100A8タンパク質及びS100A9タンパク質はオリゴマー化することができないので、それら組換えタンパク質を使用することが示唆されている(国際公開2016/116881号パンフレット)。
【0008】
比濁免疫測定法により簡便な手法及び自動分析装置という利点が提供される。粒子増強比濁免疫測定法(PETIA)では標的特異的抗体が粒子に結合している(「感作粒子」)ので抗体抗原反応により粒子の凝集が生じ、分光測光によりその凝集を測定することができる(欧州特許第0061857号明細書、欧州特許第1205755(B1)号明細書、及びそれらの文献の参照文献を参照)。標的抗原が2個以上のラテックス粒子を架橋している2種類以上の抗体により認識される場合、粒子試薬は1種類で充分である(Methods in Enzymology(1981)74,106-139,Academic Press,New York、欧州特許第1739430(B1)号明細書、欧州特許第1573335(B1)号明細書参照)。粒子試薬と試料との非特異的反応によって凝集が引き起こされ、濁度が上昇することもある(特開平11-023573号公報、特開昭58-144748号公報、欧州特許第1205755(B1)号明細書)。粒子試薬に結合したポリクローナル抗体を使用する場合、又は標的を糞便のような複雑な、若しくは多様なマトリックスから抽出する場合には、非特異的反応の確実で完全な阻害が特に難問である(欧州特許第0038181(B1)号明細書参照)。ヒトマトリックス及び試料、例えば個々の患者から得られた試料、又は凝集法によって得られた試料中の内在性カルプロテクチンの存在を測定する場合、変異型カルプロテクチン(mutS100A8/A9)を有する標準物質を使用することはほとんど無い。現在のところ、カルプロテクチンは、顆粒球によって分泌されるオリゴマー化状態にあるか否かに関係なく、固定化ポリクローナル抗体がカルプロテクチン上の複数のエピトープに結合し、それにより任意の種類のS100タンパク質が凝集し得る粒子増比濁免疫測定法(PETIA)を用いて、生物試料中で測定される。特にポリクローナル抗血清は非特異的凝集を生じやすいので、この測定法により、非診断カットオフ値、測定不確かさ、及び相互互換性の弱体化が引き起こされる。
【0009】
モノクローナル抗体をベースとするELISAとポリクローナル抗体を使用する凝集をベースとするPETIAとの方法比較において観察される隔たり、及び診断カットオフ値の非相互互換性がさらに懸念される。モノクローナル抗体は標準化し、且つ、製品寿命の全体にわたって所定の規準に品質管理することが比較的に簡単であるが、凝集反応の取得、測定感度、及び顆粒球によって分泌されるカルプロテクチンに対する特異性からなる複合的な問題が存在する。そのため、生物試料及びマトリックス中のカルプロテクチンの測定における先行技術が課題を示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題は、請求項1に記載されるようなインビトロ方法によって解決される。本方法の好ましい実施形態が従属請求項1~請求項14に規定されている。本発明の別の態様は、請求項15において規定されるような2種類の反応成分を含むキットであって、例えば比濁免疫測定法又は比濁分析免疫測定法に使用されるキットに関する。
【0011】
したがって、患者の生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定するインビトロ方法であって、(a)所定量の前記生物試料を採取すること、(b)(i)5.0~6.0のpH、(ii)150mosmol/kg・H2O以上の浸透圧、(iii)0.01~0.1重量%の陰イオン界面活性剤を有し、(iv)分子がカルシウムイオン及び亜鉛イオンに配位することができる水性有機緩衝液の所定量で前記生物試料を溶解及び抽出すること、及び(iv)所望により、前記生物試料のマトリックスをホモジナイズ及び抽出した後に存在する場合は粒子物質を除去して所定の可溶化状態で存在する(完全なリソソーム区画を有する)顆粒球によって分泌されたカルプロテクチン(S100A8/A9)を含む試料溶液を得ること、(c)特定量の試薬と所定量の工程(b)の前記試料溶液とを混合して、S100A8及びS100A9のうちのいずれか一方又はカルプロテクチン(S100A8/A9)に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその断片が固定化されたナノ粒子及びカルプロテクチン(S100A8/A9)との粒子結合抗体と抗原との反応を含む混合物を得ること、(d)特定の時間にわたって工程(c)の前記混合物をインキュベートすること、及び(e)前記混合物の光学特性を取得し、前記混合物の前記光学特性に基づいてカルプロテクチン(S100A8/A9)の含有量を示すシグナルを決定すること、(f)前記含有量を校正後の対照に関連付け、前記生物試料中の測定されたカルプロテクチン(S100A8/A9)の存在に基づいて前記患者の臨床状態を評価することを含む前記方法を提供することが一課題である。上記のようにカルプロテクチンを測定する場合、その量は完全なリソソーム区画を有する顆粒球から単離されたカルプロテクチン標準物質の測定値に対する計量計測学的なトレーサビリティを有する。S100ファミリーのカルシウム結合タンパク質の構造、数、及び濃度は様々であるため、カルプロテクチン測定のための初期の方法は、ポリクローナル単一特異性抗体を使用していた。
【0012】
光学特性を取得する工程は、吸光度、透過率、反射率、光散乱、蛍光、又はシンチレーション値を決定することを含む。比濁測定又は比濁分析測定が好ましく、工程(b)及び工程(c)が2種類の試薬成分を使用することを含む粒子増強比濁免疫測定法(PETIA)が最も好ましい。
【0013】
前記ナノ粒子は、感度の向上のため、直径が150~350nmであることが好ましい。より好ましくは、前記抗体が、測定範囲の向上のため、それぞれ(i)150~200nm及び(ii)250~350nmの範囲内で均一な直径を有する2種類の粒子に結合しているPETIAである。前記ナノ粒子は、カルボキシル化ポリスチレン又はクロロメチル活性化ポリスチレンから構成され得る。
【0014】
前記粒子結合抗体と抗原との反応は、5.0~6.0のpHを有し、且つ、陰イオン界面活性剤又はドデシル硫酸ナトリウム及びCa2+配位緩衝剤分子を含む混合物中で実施されることが好ましい。
【0015】
糞便中のカルプロテクチンの測定は炎症性腸疾患の精密検査の不可欠な構成要素になってきているため、前記生物試料は糞便、より正確には糞便抽出物であってもよい。大便中の炎症パラメーター及びカルプロテクチンなどの好中性顆粒球活性マーカーのモニタリングによって寛解達成後の病気の再発の早期認識が容易になる。例えば腎前性及び腎内性の腎臓病、又は心血管系の他の炎症性疾患の診断及び区別のための他の好ましい生物試料は、血液、血清又は血漿及び尿である。
【0016】
前記緩衝液組成物はポリカルボン酸、トリカルボン酸、アコニット酸、トリカルバリル酸、ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、α-ヒドロキシカルボン酸、β-ヒドロキシカルボン酸、γ-ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、グルコン酸、5-ケトグルコン酸、2-ケトグルコン酸、ジヒドロキシマレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ニトリロ三酢酸、乳酸、及び/又はアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1種類の塩から構成されることが好ましい。工程(b)のカルシウム封鎖緩衝液は、クエン酸塩、酢酸塩、又はマレイン酸塩のうちの少なくとも1種類の塩、プロテアーゼ処理済み血清アルブミン、及び0.01~0.1重量%の陰イオン界面活性剤を含むことが好ましい。前記反応成分中への非特異的なIgM抗血清の添加又は非特異的なIgM抗血清が存在することが凝集反応の開始及び促進に必要な場合がある。
【0017】
上記のような粒子増強比濁免疫測定法により生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定するための検査キットを提供することが別の課題である。前記検査キットは
pHが5.0~6.0の範囲内である20~1000mmol/Lの有機緩衝液、
50~300mmol/Lのナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩、
0.1~1.5%のプロテアーゼ処理済み血清アルブミン、
0.01~0.1%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウム、及び
所望により、200mmosM/L以上の浸透圧を達成するためのβ-アルドース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、グルカン、デキストラン、及び/又は糖
を含む第1の試薬成分、並びに
S100A8及びS100A9のうちのいずれか一方又はカルプロテクチン(S100A8/A9)に結合する固定化モノクローナル抗体を担持する直径が150~350nmであるラテックス粒子を0.01~0.5%(w/v)含む第2の試薬成分
を含み得る。
【0018】
カルシウムイオン及び亜鉛イオンを封鎖するための前記反応成分中の緩衝液試薬は、ポリカルボン酸、トリカルボン酸、アコニット酸、トリカルバリル酸、ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、α-ヒドロキシカルボン酸、β-ヒドロキシカルボン酸、γ-ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、グルコン酸、5-ケトグルコン酸、2-ケトグルコン酸、ジヒドロキシマレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ニトリロ三酢酸、乳酸、アスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1種類の有機酸の塩を含んでよい。そのような有機酸は、特に併用された場合、水中でカルシウムイオン及び亜鉛イオンに配位することができる。
【0019】
どのような理論にも捉われることを望むものではないが、前記緩衝液試薬の5.0及び6.0という酸性のpH及びカルシウムイオンの配位は、100A8タンパク質及びS100A9タンパク質のpKIが6.3及び6.5であり、二座配位架橋、一座配位架橋、及び疑似架橋によってカルシウムと強力に結合している、好中性顆粒球中に存在するようなカルプロテクチンに特異的な状態を生み出すようである。ドデシル硫酸ナトリウムなどの少量の陰イオン界面活性剤の存在が粒子結合抗体と標的との反応を阻害することなくタンパク質を溶液中に維持するために必要とされることがある。本願の緩衝液組成物は、pH及び浸透圧に関して、顆粒球内にカルプロテクチンが存在する細胞内環境と類似している。顆粒球は5.0~6.0の内部pHを有し、且つ、環境よりも100~1000倍低いカルシウムイオン濃度を有する。
【0020】
本開示の好ましい態様は、比濁法による測定を支援する2反応成分を含むキットからなる。この態様は工程(b)及び工程(c)を支援する2種類の試薬成分を含む粒子増強比濁免疫測定法(PETIA)であってもよい。最も好ましい実施形態は、例えば、独国特許発明第102012109457(B4)号明細書、独国特許発明第102008057866(B4)号明細書、米国特許第5246669(A)号明細書、特開平10-300642号公報、独国特許発明第10200707760(B3)号明細書において開示されるよう、に大便マトリックスからカルプロテクチンを希釈及び抽出するための緩衝液に所定量の糞便を移すための装置を用いて糞便カルプロテクチンを測定することに関する。
【0021】
当業者はそれらのあり得る変更点も考慮するので、その他の目的、特徴、及び利点は、例示のみを目的としており限定を目的としていない図面及び後続の代表的な実施例の説明を考慮することで明らかになるだろう。本開示の範囲は特許請求の範囲において規定されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】180nmの直径を有するラテックス粒子に共有結合したモノクローナルマウス抗カルプロテクチン(S100A8/A9)抗体を使用する比濁免疫測定法の検量線を示す。
【
図2】カルプロテクチンに対するマウスモノクローナル抗体を使用する比濁測定法の検量線及びその免疫測定法の抗体過剰域限界を示す。
【
図3】完全な酸性区画を有する顆粒球に由来する標準カルプロテクチンの測定のための1種類のモノクローナル抗体を使用する比濁免疫測定法と捕捉抗体及び検出抗体として2種類のモノクローナル抗体を使用する従来のELISAとの相互関係を示すプロットである。
【
図4】完全なリソソーム膜を有する顆粒球から単離された標準カルプロテクチンの測定のための2種類のモノクローナル抗体を使用する比濁測定法と従来のELISA測定法との相互関係を示すプロットである。
【
図5】本発明に係るカルプロテクチンを測定するための2種類のモノクローナル抗体を使用する比濁測定法と1種類のモノクローナル抗体を使用する比濁測定法との測定相関性を示すプロットである。
【
図6】カルプロテクチンの測定のための異なる粒径の2種類の粒子を使用する前記測定法と従来のELISA測定法との測定相関性を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以前は糞便中のカルプロテクチンの特異的診断閾値を確定することが困難であり、抽出方法及び抽出緩衝液が異なるため様々な市販の測定法間で顕著な測定法間差異が存在する(Sipponen T,Kolho KL.Faecal calprotectin in children with clinically quiescent inflammatory bowel disease.Scand J Gastroenterol.2010,45:872-877;Gisbert JP,Bermejo F,Perez-Calle JL,et al.Fecal calprotectin and lactoferrin for the prediction of inflammatory bowel disease relapse.Inflamm Bowel Dis.2009,15:1190-1198;Walkiewicz D,Werlin SL,Fish D,et al.Fecal calprotectin is useful in predicting disease relapse in pediatric inflammatory bowel disease.Inflamm Bowel Dis.2008,14:669-673;D’Inca R,Dal Pont E,Di Leo V,et al.Can calprotectin predict relapse risk in inflammatory bowel disease? Am J Gastroenterol.2008 103:2007-2014 Tibble JA,Sigthorsson G,Bridger S,et al.Surrogate markers of intestinal inflammation are predictive of relapse in patients with inflammatory bowel disease.Gastroenterology.2000;119:15-22)。本記載の方法は、完全なリソソーム膜及び酸性区画を維持したまま顆粒球を破壊した場合に見出される環境に類似した環境が抽出緩衝液及び測定緩衝液によって提供されるという利点を提供する。言い換えると、前記環境は顆粒球がその生理的カルプロテクチンを遊離する環境に生理的に類似している。
【0024】
工程(b)において使用される緩衝液は、クエン酸塩、酢酸塩、又はマレイン酸塩のうちの少なくとも1種類の塩、プロテアーゼ処理済み血清アルブミン、及び0.01~0.1重量%の1種類又は複数種類の陰イオン界面活性剤を含んでいてもよい。凝集の改善及び促進のため、前記反応成分のうちの1種類又は複数種類が凝集を促進する薬剤、例えばリウマトイド因子(RF)である非特異的IgMをさらに含んでよい。RFはIgGアイソタイプ、IgMアイソタイプ、IgAアイソタイプ、及びIgEアイソタイプとして存在し得るが、カルプロテクチンの臨床的測定のためにはIgMクラスのRFが好ましい。
【0025】
第2の試薬成分はナノ粒子上に固定化された1種類又は複数種類のモノクローナル抗カルプロテクチン抗体を含んでよい。2種類以上の異なるモノクローナル抗体が全体的な安全性の理由で好ましい。1種類の特異的なモノクローナル抗体のみが使用される場合、非典型的な免疫反応及び誤診断のリスクが常に存在するが、そのリスクはカルプロテクチンに対する第2の特異的モノクローナル抗体の使用によって改善される可能性がある。また、2種類の特異的抗体が異なるエピトープ及び結合決定基を有するのでそれらの特異的抗体によって凝集反応がより確実になる。
【0026】
前記ナノ粒子は、感度の向上のため、直径が150~350nmであってもよい。均一な直径を有するナノ粒子が好ましい。測定範囲の向上のため、それぞれ(i)150~200nm及び(ii)250~350nmの範囲内で直径を有する2種類の粒子に固定化されたモノクローナル抗カルプロテクチン抗体を使用することが好ましい場合がある。前記単一粒径の粒子又は複数粒径の粒子は、カルボキシル化ポリスチレン粒子又はクロロメチル活性化ポリスチレン粒子であってもよい。
【0027】
別の態様は、粒子増強比濁免疫測定法により体液又は生体試料中のカルプロテクチンを測定するための2種類の試薬成分からなるキットに関する。第1の試薬成分は、上記の通りであり、及び/又はpHが5.0~6.0の範囲内である20~1000mmol/Lの前述の緩衝液試薬の塩、50~300mmol/Lのナトリウムイオン、カリウムイオン、若しくはリチウムイオン、0.1~1.5%のプロテアーゼ処理済み血清アルブミン、0.01~0.1%(w/v)の陰イオン界面活性剤、好ましくはドデシル硫酸ナトリウム、所望により200mosmos/L以上の浸透圧を達成するためのβ-アルドース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、グルカン、デキストラン、及び/又は糖を含む抽出緩衝液であってよい。第2の試薬成分は、5.0~6.0のpHでS100A8及びS100A9のうちのいずれか一方又はカルプロテクチン(S100A8/A9)に結合する固定化モノクローナル抗ヒトカルプロテクチン抗体を担持する、直径が150~350nmであるラテックス粒子を0.01~0.5%(w/v)の濃度で含んでいてもよい。
【0028】
患者の生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定する方法は、(a)糞便、血清又は滑液でありってもよい所定量の生物試料を採取すること、(b)(i)5.0~6.0のpH、(ii)150mmosM/kg・H2O以上の浸透圧、(iii)亜鉛イオン及びカルシウムイオンに配位して封鎖することができる有機酸、及び(iv)0.01~0.1重量%の陰イオン界面活性剤を有する前記有機緩衝液の所定量で前記生物試料を溶解及び抽出すること、及び所望により、前記生物試料のマトリックスをホモジナイズ及び抽出した後に存在する場合は粒子物質を除去してカルプロテクチン(S100A8/A9)を含む試料溶液を得ること、(c)特定量の粒子含有試薬と所定量の工程(b)の前記試料溶液とを混合して(i)5.0~6.0のpH、(ii)150mmosM/kg・H2O以上の浸透圧、(iii)カルシウムイオン及び亜鉛イオンを封鎖する有機塩及び有機酸を有し、且つ、(iv)少なくとも150~350nmの直径を有し、且つ、S100A8タンパク質及びS100A9タンパク質のうちのいずれか一方又はカルプロテクチン(S100A8/A9)に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその断片が固定化されたナノ粒子を含む混合物を形成すること、(d)第1の時間にわたって工程(c)の前記混合物をインキュベートすること、及び(e)前記混合物の光学特性を取得し、前記混合物の光学特性に基づいてカルプロテクチン(S100As/A9)の含有量を示すシグナルを決定すること、(f)前記含有量を同一緩衝溶液中のカルプロテクチンについての校正後の対照に関連付け、前記生物試料中の測定されたカルプロテクチン(S100A8/A9)の存在に基づいて前記患者の臨床状態を評価することを含む。
【0029】
別の態様は、自動分析用の免疫学的ラテックス比濁法試薬セット及びそれらの試薬の使用に関する。前記実施形態は、工程(b)の前記試料溶液中の二量体型カルプロテクチンを安定化するための緩衝液を含む第1の試薬成分、並びにS100A8及びS100A9又はカルプロテクチン(S100A8/A9)に対するモノクローナル抗体が1種類又は複数種類固定化された粒子を含む第2の試薬成分から構成される二試薬系であってもよい。本記載の方法は、存在する任意の固形物を所望により除去した後に、前記第1の試薬成分中の前記生物試料の抽出物を移動させるか、又は希釈することを包含することがある。前記第1の試薬成分は、pHが5.0~6.0の範囲内であり、且つ、カルシウムイオン及び亜鉛イオンを封鎖する有機緩衝液試薬を含む有機緩衝液系中に、プロテアーゼ処理済みのウシ血清アルブミン又はヒト血清アルブミンを好ましくは0.1~1.5%の量で含んでいてもよい。
【0030】
前述のように、使用するナノ粒子は、直径が150~350nm、好ましくは150~200nmの範囲であるカルボキシル化ポリスチレン粒子であってもよい。最も好ましい実施形態では、カルボキシル化ポリスチレンナノ粒子は160~180nmの範囲の直径を有する。最も好ましい実施形態では、前記ナノ粒子は実質的に同じ粒径であり、好ましくは160~180nmの範囲の直径を有する。この粒径によって抗体分子の提示が向上し、且つ、抗原過剰状態での測定におけるピットフォールが最小限になる。そのようなナノ粒子は抗原相互作用表面が広いので必要とされる抗体被覆粒子が少なくなり、その抗体抗原反応は、通常は迅速である表面媒介性免疫反応に匹敵することになる。そのような大きな粒子は、測定値の好適な計量計測学的トレーサビリティについて免疫吸着測定法(例えばELISA)を使用するそれまでのカルプロテクチン測定法よりも好ましく、相互互換性の点でも好ましい。抗体抗原反応が液体中で3次元的であり、且つ、表面非依存的な反応である場合、トレーサビリティ、確実性、及び相互互換性が達成されないことがあり得る。したがって、通常よりも大きい粒子を使用することにより結果の計量計測学的トレーサビリティが改善されると考えられる。結果の比較可能性は実現されなくてはならず、それは臨床検査室の中心的活動である。
【0031】
前記モノクローナル抗体と基本的にヘテロ二量体のカルプロテクチンとの特異的な2次元反応に適切であり、且つ、必要な抗体が比較的に少ないという点で最適化されている粒径のナノ粒子が好ましい。粒子増強免疫反応が促進されるが、立体効果によってカルプロテクチン構造の影響が減少するようである。所与の粒径範囲内であれば、粒径の増加は高い自発的混濁とは無関係である。
【0032】
好ましい実施形態では、ナノ粒子は、(i)250~350nmの直径及び(ii)160~250nmの直径を有する2種類の異なる粒径のナノ粒子であってもよい。異なる粒径の免疫感作粒子の組合せによって正確性及び測定範囲がさらに向上するはずである。
【0033】
カルプロテクチンは白血球のサブグループである顆粒球によって発現され、放出又は分泌の前には細胞質顆粒、おそらくは小胞体及びトランスゴルジ網のある種の区画内に貯蔵されるがこのことはまだ研究中である。しかしながら顆粒球はそれらの細胞質内に顆粒が存在することからその名付けられている。顆粒球はそれらの核が様々な形であることから多形核白血球とも呼ばれている。多形核白血球という用語は通常「好中球顆粒球」を指し、それは顆粒球の約95%を占める。その他の顆粒球は好酸性顆粒球及び好塩基性顆粒球並びに肥満細胞に細分化され、それらの細胞は少数である。顆粒球は骨髄内での顆粒球生成を経て形成され、約6時間にわたって循環し続けてそれらの生物学的機能を発揮する。細胞の細胞質ゾル内のカルシウムイオンレベルは比較的に一定に維持され、細胞内では細胞外よりも100,000倍低い。細胞内カルシウムイオンの増加によって重要な細胞の変化が起こり得ることがよく知られており、そのためにカルシウムイオン及び細胞内カルシウムレベルは第2のメッセンジャーであると言われている。細胞内カルシウムイオンレベルが厳密に制御されていることが顆粒球及びカルプロテクチンなどの顆粒球のカルシウム結合タンパク質の機能にとってきわめて重要である。したがって、カルプロテクチンによる結合に利用可能なカルシウム環境の厳密な制御は、カルプロテクチンの機能及び構造と、体液(血清、滑液等)並びに組織及び糞便などの生物学的マトリックス中の生物学的に有効なカルプロテクチンの再現性のある測定にとって重要であるようだ。
【0034】
他方、カルシウムが存在する場合、界面活性製剤中でリン酸塩、例えばトリポリリン酸ナトリウム(STP)を使用することにより沈殿が生じる場合がある。S100A8及びS100A9は低いpHでは強力なカルシウム結合体であり、pH6.3及びpH6.5の等電点を有する。その結果、これらのタンパク質は既にカルシウムイオンに結合しており、生物試料(血清、糞便、滑液等)中に存在する付加的なカルシウムが定量的測定に干渉する場合がある。理論に捉われることを望むものではないが、pHが等電点以下に変化すること、より正確にはpH6.0以下に変化することによる付加的なカルシウム結合及びオリゴマー化を阻害することが有益であり、カルシウムの沈殿を避けるために弱い封鎖剤が必要であると考えられる。これは、クエン酸緩衝液、マレイン酸緩衝液、又はリンゴ酸緩衝液を使用することにより達成することができる。あるいは、沈殿及びカルシウムイオン誘導性の凝集を抑制するためにアクリル酸とマレイン酸の重合体及び共重合体を添加してもよい。カルシウムの複合体形成は溶液のpHに依存している。クエン酸の場合、3つのカルボン酸基の全脱プロトン化が有効である場合、6.5以上のpHでは複合体化していないカルシウムの濃度が低く、且つ、一定のままである。リンゴ酸及び乳酸の場合であって、後者の脱プロトン化定数よりも高いpHの場合、遊離カルシウムの濃度がより重要であり、且つ、増減する。アセタール官能基を含む多数のポリカルボン酸が検討されており、それらのカルシウム封鎖挙動が比較されている。酸化炭水化物によるカルシウムの封鎖は対応するポリカルボン酸エーテルによる封鎖よりも少ないことが一般的である。
【0035】
大便中のカルプロテクチンが測定される場合、カルプロテクチンが結合するためのカルシウムの量は胃腸(GI)管中のカルシウムレベルに依存し、試料間で大きく異なっている。大半のカルシウム塩、例えばサプリメント及び食品中の天然カルシウム源は、pH依存的な溶解性を有する。4種類の主要なカルシウム塩(シュウ酸カルシウム水和物、クエン酸カルシウム四水和物、リン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム)の溶解性はそれぞれpHと共に上昇する。したがって、少量の遊離カルシウムであっても低分子量のS100A8カルシウム結合タンパク質及びS100A9カルシウム結合タンパク質の非典型的な四量体又はオリゴマーの形成を引き起こす場合があるので、抽出及び測定にとっては低pHが好ましい。
【0036】
第2の試薬成分は固定化抗体を担持するラテックス粒子の懸濁液であってよい。免疫学的ラテックス比濁法試薬の一実施形態は、0.1~1.5%のプロテアーゼ処理済みヒト血清アルブミン、20~1000mmol/Lのクエン酸緩衝液(pH5.0)、50~300mmol/Lの塩化ナトリウム、及び0.1%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウムを含む第1の試薬成分であってもよい。第2の試薬成分は、20~1000mmol/Lのクエン酸緩衝液(pH5.0)、50~300mmol/Lの塩化ナトリウム、並びにS100A8及びS100A9のうちのいずれか一方又はカルプロテクチン(S100A8/A9)ヘテロ二量体に結合する固定化モノクローナル抗体を担持する直径が150~350nmであるラテックス粒子を0.01~0.5%(w/v)の濃度で含んでいてもよい。
【0037】
そのような試薬成分は、カルプロテクチン(MRP8/14、S100A8/A9)に対するモノクローナル抗体、例えばドイツ、ベンスハイムのImmundiagnostik AG社から市販されている抗体(商品番号K6927、K6936)を使用する粒子増強比濁免疫測定法において、カルプロテクチン(S100A8/A9)に対する高い感度及び特異性、並びに改善された診断信頼性を実現する。より正確に言うと、そのような均質な免疫測定法による診断結果、さらに正確に言うと、確立されたELISA方法及び診療現場での免疫クロマトグラフィー検査よる診断結果は比較可能である。炎症の存在については、大便1gに対して50μgの診断カットオフ値を設定することができる。先行技術と比較すると、粒子増強比濁免疫測定法は、150~350nmの範囲内の直径を有する大きなナノ粒子に固定化されたカルプロテクチンヘテロ二量体(S100A8/A9)に対する標準化モノクローナル抗体を使用する。
【0038】
カルプロテクチンは、体液及び糞便中で好ましくはヘテロ二量体として生じるので、凝集により複合体が損なわれてはならない。150~350nmの範囲内の大きなナノ粒子により凝集が動力学的に面依存的(「二次元的」)になるので濁度が均一になり、且つ、標準的ELISAにより測定されるようなカルプロテクチン(S100A8/A9)濃度に対して濁度が計量計測学的にトレース可能になるようだ。よって、診断結果と診断評価には臨床検査室業務にとって必須である互換性がある。したがって、確定された診断カットオフ値を使用することができる。
【0039】
まとめると、比濁免疫測定法は均質な測定法であるばかりではなく、診断結果がモノクローナル抗体を使用する確立されたELISAの診断結果と比較可能であり交換可能である。試料中に存在するカルプロテクチン(S100A8/A9)の量は、標準物質を基準として前記試料の凝集又は不透明度/濁度を測定することにより決定可能である。したがって、分析はHitachi又はCobas(登録商標)などの任意の市販の自動分析装置において実行可能である。必要な抗体の量の観点から、組換え抗体及び組換え断片を使用することが好ましい。
【0040】
糞便からの抽出中及びその後のカルプロテクチンは、抽出緩衝液及び反応緩衝液中のCa2+によって安定化され得る。しかしながら、生物試料(血清、血液、滑液、又は大便)は内在性のカルシウムを含んでいる。カルシウムイオンを穏やかにキレートする緩衝液を使用することが好ましい。糞便カルプロテクチン(S100A8/A9)はカルシウムイオンと結合した場合にはプロテアーゼから保護されているのみであるが、過剰なカルシウムイオンにより四量体及びオリゴマーの形成が引き起こされる。カルシウムを封鎖する酸性緩衝液によってカルプロテクチン(S100A/A9)ヘテロ二量体が安定化され、担持され得るようである。安定化酸性緩衝液はpHが5.0~6.0であり、0.5%以下、好ましくは0.1%のイオン性及び陰イオン性の界面活性剤を有していてもよい。イオン性界面活性剤はSDS及び非イオン性界面活性剤Tween(登録商標)20であってもよい。顆粒球の顆粒内では5.0~6.0のpH及び150mosm/L超のイオン強度が観察されているので、可溶化及び測定のための条件は分泌顆粒内の環境に類似している。
【0041】
本明細書で使用されるいくつかの用語を以下においてさらに説明及び定義する。
【0042】
「生体試料又は体液」という用語は、血液、血清、血漿、糞便、尿、唾液、排泄物、体液、及び組織液を含むヒト材料又は動物材料を表す。生体試料は、診断検査のため、又は医学的状態の評価及び特定のための材料及び試料の抽出物でもある。試料は液体又は固体であってもよい。固体又は半固体マトリックス(糞便試料)である場合、試料は抽出されなければならない。任意の市販の大便試料抽出キットを使用してもよく、例えばIDK Extract(登録商標)(ドイツ、ベンスハイムのImmundiagnostik AG社)を予め充填した、又は本明細書に記載される第1の反応成分を手作業で充填した大便試料調製系(SSPS)を使用してもよい。比濁検査の実施に必要な大便抽出物の量は5~20mgの範囲である。試料は、腸管、肝臓、胆嚢、膵臓、又は腎臓の疾患を試験するためには、尿であってもよい。試料は、心血管疾患を試験するためには、血液、血漿、又は血清であってもよい。
【0043】
校正物質は、既知濃度の分析物(カルプロテクチン)を含む(段階的な)溶液であり、臨床検査室業務の正確な実施に同等に必要である。シグナル強度を解釈し、それによって試料中の分析物(カルプロテクチン)の存在又は濃度を決定するために、生体試料の標本で得られた結果が校正物質の段階希釈物で得られた結果と比較される。
【0044】
検出限界は、測定法において確実に検出可能な分析物の最低の量として定義され、検出限界では全誤差が精度の要件と合致する。本記載の方法によれば大便1g当たり10μg以下のカルプロテクチンという検出限界を得ることができ、その検出限界は炎症の診断のための大便でのカットオフ(大便のグラム重量当たり50μgのカルプロテクチン)よりも当然低い。
【0045】
比濁法は溶液中に懸濁された粒子の散乱効果に起因する透過光強度の低下の計測である。粒子を含む溶液を含んでいるキュベットに既知の波長(nm)の光を透過させ、光電子セルによってその光が収集される。吸収された光の量について測定値(mE)が決定される。現在では直接免疫比濁法及び粒子増強免疫比濁法(PETIA)の2種類の比濁測定法が用いられている。直接免疫比濁法では、抗体は対応する抗原との直接的相互作用によって免疫複合体を形成する。粒子増強免疫比濁法は抗体によるナノ粒子の被覆に基づいており、本願ではカルプロテクチンに対する2種類のマウスモノクローナル抗体によるナノ粒子の被覆に基づいている。粒子増強免疫比濁測定法は、粒子がシグナルを増幅して感度が増強されるので、分析物が低濃度で存在する場合に適切である。
【0046】
通常ナノメートル(nm)単位で測定される平均直径を有するナノ粒子を使用することが一般的である。ナノ粒子の粒径(直径)は、動的光散乱法(DLS)、光子相関分光法(PCS)、又は準弾性光散乱法(QELS)によって確実に測定され得る。本明細書に記載される直径は、Malvern Zetasizer Nano(Malvern Panalaytical社、マルバーン、英国)又はHoriba SZ-100を使用して測定されており、所与の平均値からのガウス偏差は10nm未満である。ナノ粒子の表面には生体分子(HAS)及び当然のこととして免疫グロブリン(Ig)及びモノクローナル抗体が結合しているので、直径を厳密に測定及び制御しなくてはならない。ナノ粒子-Ig生体複合体の大きな表面積対体積比は、免疫グロブリンの標的生体分子との相互作用に有利である。抗体担持ナノ粒子の調製は当技術分野においてよく知られている。粒子上の適切な被覆材に抗体を吸収させることができ、又は架橋剤によって粒子に抗体を化学的に結合させてもよい。ラテックス粒子の重合体自体に抗体を直接的に結合させてもよい。ナノ粒子は、使用前にクエン酸三ナトリウム二水和物、ウシ血清アルブミン、Tween20、ショ糖、アジ化ナトリウムを含む緩衝液(貯蔵緩衝液)中に保管されてもよい。本発明の貯蔵緩衝液を使用することで、カルプロテクチンに対するモノクローナル抗体を有するラテックス免疫粒子は懸濁状態で非常に安定しており、すなわち免疫測定法前に2~8℃で最大12か月の期間にわたって自発的な凝集を起こさずに抗体安定性を維持する。
【0047】
カルプロテクチンは顆粒球によって放出され、放出前には細胞顆粒内に、より正確にはおそらくリソソームではないトランスゴルジの区画に貯留される。細胞質ゾル内及びそれらの酸性区画(pH5.0~6.0)内のカルシウムイオンレベルは比較的に一定に維持されており、カルシウムイオン濃度は細胞外よりも100,000倍低い。細胞内カルシウムイオンレベルが厳密に制御されていることが顆粒球の機能及び他の細胞にとってきわめて重要である。同様にカルプロテクチンの結合に利用可能なカルシウムイオン及びpHの厳密な制御がカルプロテクチンの機能のみならず、生体試料中のカルプロテクチンの計量計測学的にトレース可能な測定のためにも重要である。したがって、低いpHで結合する抗カルプロテクチンモノクローナル抗体を使用しなくてはならない。よって、試料マトリックスからの抽出中、並びに免疫反応及びその後の凝集が起こる測定法溶液中で、可溶型のカルプロテクチンを安定化させる必要がある。0.5%以下、好ましくは0.1%のイオン性及び非イオン性の界面活性剤を添加することによりこれを達成してもよい。好ましい陰イオン界面活性剤はSDSであるが、先行技術では主にTween(登録商標)20などの非イオン性界面活性剤を使用して機能するようである。抽出のためには5.0~6.0のpHが使用され、そのようなpHは顆粒球の酸性区画及び顆粒においても観察される。
【0048】
非特異的免疫反応の抑制のために、試料は抗IgM抗血清を含む緩衝溶液に溶解されてもよい。抗IgM抗血清の存在が免疫測定法におけるIgM干渉効果の補正に寄与することがあり、それによって試料の起源と無関係に一貫した結果を得ることができる。抗IgM抗血清は内在性カルプロテクチンを含むことがあり、そのため抗IgM抗血清の各バッチについてIgM血清関連カルプロテクチン含量を最終的に補正する必要がある。
【0049】
本開示はカルプロテクチンの定量的測定のための検査キットをさらに意図している。キットは、5.0~6.0のpHで結合する少なくとも1種類の抗カルプロテクチンモノクローナル抗体又はその抗体断片で被覆された均質なナノ粒子であって、160~180nmの範囲の直径を有する前記ナノ粒子を含み得る。前記キットは、感度及び測定範囲の向上のため、別の均一な粒径を有する2種類目の均質なナノ粒子を含んでいてもよい。本開示は大便中のカルプロテクチンの定量的検出のための方法であって、(a)5.0~6.0のpH及び150mosm/L以上の浸透圧を有する第1の反応成分で所定量の大便を抽出してカルプロテクチンを溶解し、液体試料を提供すること、(b)前記液体試料をpH5.0~6.0で結合するカルプロテクチン(S100A8/A9)に対するモノクローナル抗体が少なくとも1種類固定化されたナノ粒子と接触させること、及び(c)比濁法により前記試料中のカルプロテクチンの量を評価することを含み、前記ナノ粒子の直径が160~350nmの範囲内にある前記方法にも関する。好ましい実施形態では、前記ナノ粒子はカルボキシル化ポリスチレン粒子であってよく、感度及び検出範囲のために2種類の均一な粒径のナノ粒子が存在してよく、それらの均一な粒径は、(i)150~250nm及び(ii)250~350nmの範囲内にある。前記ラテックス粒子は有機高分子量材料の粒子であってもよく、例えば、ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリル酸共重合体、又はスチレン-スチレンサルフェート共重合体からなるラテックス粒子であってよい。
【0050】
このような検査及び方法を臨床検査室の自動分析装置に適合させることができる。本方法は、ロット特異的ではなく、且つ、1種類のエピトープにのみ結合するモノクローナル抗体の使用による非特異的凝集の抑制を特徴とする。従来の比濁検査は鳥類ポリクローナル抗体(MRP8/MRP14ヘテロ二量体に対するニワトリIgY)を使用するものであり、比濁測定法においては自発的な凝集が引き起こされる。また、先行技術では生理的pHの反応緩衝液(pH7.2の3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液)が使用されており、S100A9タンパク質とS100A9タンパク質のホモ多量体及びヘテロ多量体への凝集は妨げられない(Nilsen T et al,A new turbidimetric immunoassay for serum calprotectin for fully automized clinical analysers,J.Inflammation,2015,12:45)。ビュールマンfCal(登録商標)turboによって使用されるような生理的なpH8の緩衝液(R1:pH7.2;R2、pH8.1)にカルプロテクチンを希釈して同じ鳥類ポリクローナル抗体を使用した場合に同様のことが観察され得る。しかしながら比濁法及び比濁反応は溶液中の標的分子(複合体)の数を決定するのであって、校正のためにビュレット法によって決定されるようにタンパク質(アミノ酸)の量を決定するのではない。したがって、高pH及びポリクローナル抗体を使用するカルプロテクチン測定のための従来の比濁法は、計量計測学的なトレーサビリティを有する結果を出すことができない。従来の方法間の結果の相互互換性は、臨床検査室の日常業務では利用可能ではない(事後の)補正率によってのみ達成可能である。また、異なるバッチで異なるロットのカルプロテクチン抗原を使用して生成及び精製された異なるバッチの抗体間のロット変動が重要である。
【0051】
本発明の一実施形態では、前記ナノ粒子はラテックス粒子であってよい。好ましい実施形態では、ラテックスナノ粒子は、粒径が150~250nm(250~350nm)、表面電荷密度が40~60μC/cm2、すなわち表面電荷密度150~250μΕq/g、固形物含量が10.0(%)であり、0.05%のアジ化ナトリウムによって安定化されているカルボキシル化ポリスチレン粒子である。
【0052】
本発明の比濁法は、一般的な測光分析装置に柔軟に適用可能であるので、専用の分析装置を必要としない。本発明によれば、専用の機器又は消耗品を購入するための追加費用はもはや必要とされない。本願の方法によって多大な時間を要する試料分割を行わない完全な自動化処理が促進され、それにより試料処理能力が高くなり臨床検査室の効率が向上される。本開示に基づいて、正確な定量、計量計測学的トレーサビリティ、結果の相互互換性、及びカットオフ値(例えば大便1g当たり50μgのカルプロテクチン)に基づいた診断の判別が可能である。これらは患者の治療監視に必要である。手作業の検査には使用者及び分析試料に対する高い汚染リスクが伴うので、自動化及び標準化が適用可能であり、好ましい実施形態である。
【0053】
本出願の1つの目的は、ヒトカルプロテクチンに対する哺乳類モノクローナル抗体に基づき、通常は鳥類の抗体で引き起こされるような測定法感度の低下という不利益が回避される粒子増強比濁免疫測定法を提供することである。別の目的は、製造業者を問わず任意の標準的化学分析装置に適用可能なカルプロテクチン測定のための測定法を提供することである。別の態様は、固定化抗体を有し、貯蔵時に自発的に凝集及び沈殿するラテックス粒子の自然な傾向を排除する貯蔵緩衝液である。本記載の反応緩衝液は貯蔵緩衝液としても使用可能である。
【0054】
現在、白血球の計数及び/又はC反応性タンパク(CRP)の測定が抗生物質治療を必要とする細菌感染症の診断に用いられている。そのような症例の約40%が細菌感染症及び他の原因と誤分類されていると推定されている(XuS et al,Lipocalins as biochemical markers of disease,Biochim Biophys Acto 2000,1482:298-307)。好中球活性化マーカーであるHNL/NGALは、急性細菌感染症とウイルス感染症との区別を可能にするが、生体試料中では濃度が非常に低いため実用可能なマーカーではない。現在のカルプロテクチンの測定法は顆粒球の活性化を反映しており、炎症症状で上昇することが示されている。しかしながら、ヒトカルプロテクチン分子は、S100A8(MRP8)及びS100A9(MRP14)のサブユニットを含む24kDaのヘテロ二量体として説明されているが、比濁法による測定は所定の標準物質及び分子を必要とするため、インビボでの実際のカルプロテクチンの構造について一致した意見は存在しない。カルプロテクチンは、カルシウムが存在する場合、ヘテロ二量体、ヘテロ三量体、又はヘテロ四量体であり得ることを見出した。カルプロテクチンは好中性顆粒球内に見出されるカルシウム結合タンパク質であり、白血球の脱落、能動的な分泌、細胞障害、及び細胞死を経て腸管腔内で利用可能になる。腸管炎症時に好中性顆粒球は腸粘膜に移動し、糞便カルプロテクチンレベルを上昇させる。
【0055】
糞便カルプロテクチンレベルはクローン病及び潰瘍性大腸炎の疾患活動度の組織学的評価及び内視鏡評価と相関する。インジウム-111標識好中性顆粒球の糞便中排出が炎症性腸疾患(IBD)の疾患活動性の「至適基準」として提案されてきた。活動性炎症性腸疾患(IBD)の患者では糞便カルプロテクチンレベルが最大で10倍上昇していることがあるので、糞便中カルプロテクチン濃度の上昇の交換可能な測定が必要とされる。糞便カルプロテクチンは、IBDと過敏性腸症候群との区別をするためにも使用される。カルシウムが結合している場合にのみカルプロテクチンは酵素分解に対して耐性であるため、糞便中のカルプロテクチンを抽出及び測定することができる。カルプロテクチンは大腸がん、胃腸炎、及び食物不耐性などの他の炎症性胃腸症状の指標でもあり得るが、カルプロテクチンのレベルは年齢に応じて変化し、個体内でも日々変化する。血清カルプロテクチンは敗血症及び急性虫垂炎の診断に適した価値のある炎症マーカーである。しかしながら国際的なカルプロテクチン標準物質は存在しない。したがって、バッチ毎の変動に起因する不正確な測定を避けるために内部で確立された標準物質が校正のために使用されている。これは、選択される方法に応じて、製造者間で異なるレベルの標準物質が生じることにもなる。
【0056】
しかしながら、開示されるカルプロテクチンの測定によって計量計測学的にトレース可能な結果が提供される。したがって、一方の態様は、異なる生物試料間でのカルプロテクチン含量の大きな変動を克服するために必要である、試料1ml当たり0~2000μgのカルプロテクチン校正物質による比濁測定法の性能の検証である。範囲が広いことによって過剰な実施及び抗原過剰問題が回避され、それは本記載の方法によって達成され得る。
【0057】
図1はマウスモノクローナル抗体被覆ラテックス粒子を使用した検量線を示している。吸光度の値(Y軸)は大便1g当たりのカルプロテクチンのマイクログラム数としてのカルプロテクチン値(X軸)に対応している。これらの結果は0~2000μg/gの範囲内での連続的な挙動を裏付けている。
図2に示されるように、免疫測定法の性能は、試料中のカルプロテクチン濃度が大便1gに対して2000μg超になると直線性が失われる。
【0058】
本発明の免疫粒子はMRP8/MRP14カルプロテクチンに対して生成されたマウスモノクローナル抗体で被覆されている。鳥類抗体はよく知られている誤測定の原因であるリウマチ因子、ヒト抗マウスIgG抗体、又はヒト補体系との反応性は低いが(欧州特許第1573335(B1)号明細書参照)、ポリクローナル鳥類抗体は哺乳類モノクローナル抗体よりも特異性が低い。したがって、本開示による別の課題は、非特異的反応性の不利益を有しない高度に特異的な抗体に基づく比濁カルプロテクチン測定法を提供することである。これは本願の測定法系によって達成される。
【0059】
カルプロテクチンを測定するための感度の高い方法が利用可能である。しかしながら、利用可能なELISA測定法は長い検査所要時間が長く、比濁測定法よりも面倒である。本開示が提供する測定法系は試料が検査室に到着後すぐに試料を処理することができ、それによってカルプロテクチンレベルの上昇に関連する任意の健康状態を適時に診断することができる。比濁法の適合性を36個の大便試料で検査し、基準としての標準的ELISA測定法との相互関係を示した。
図3は1種類のモノクローナル抗体被覆粒子の粒径を使用する比濁測定法とカルプロテクチンの測定のためのELISA測定法との相互関係を示している。比濁測定法のためにHitachi 912分析装置を製造業者に従って使用した。統計分析によって結果が交換可能であることが明らかになり、したがって大便中のカルプロテクチンの測定のための本開示の方法の適合性が確認された(P/B回帰:Y=0.914×X-21.403、md(95)=212.169、n=36、r=0.9018、t=0.7693)。特筆すべきことに、相関係数rは-1(0)~1の範囲である。値1はXとYとの関係が線型方程式によって完全に説明されることを示している。値0は変数間の非線形相関を意味している。
【0060】
単一粒径のラテックス粒子がカルプロテクチンに対する2種類の異なるモノクローナル抗体で被覆されている追加実験において、比濁法を36個の大便試料で検査し、測定結果から基準としての標準的ELISA測定法との相互関係を示した。
図4は1種類及び2種類のモノクローナル抗体を使用する比濁測定法による測定と対応するカルプロテクチンについてのELISAとの相互関係を示している。それらの測定法の統計分析によって1種類の抗体の使用(
図3)と2種類の抗体の使用(
図4)との間に有意差が無いことが明らかになった。2種類の抗体の使用によるわずかな測定法感度の上昇は、抗体負荷の増加に起因したシグナル強度の増大によるようである(P/B回帰:Y=1.063×X-22.849、md(95)=258.068、n=36、r=0.9023、t=0.7781)。
【0061】
さらに、単一粒径のラテックス粒子を(a)2種類のモノクローナル抗体及び(b)1種類のモノクローナル抗体(ドイツ、ベンスハイム、Immundiagnostik AG社のmAB No.1062、No.1067、No.1068、No.1089)で被覆した。39個の大便試料を抽出し、いずれかの条件のラテックス粒子と共にインキュベートした。Hitachi 912分析装置を使用して両方の条件で本発明による比濁法測定法を実施した。
図5は比濁測定法の相関分析を示している(P/B回帰:Y=1.151×X+0.0、md(95)=39.409、n=39、r=0.9989、t=0.9605)。追加の実験によって表1に示される類似の統計値が得られた。
【表1】
【0062】
一種類のモノクローナル抗体で被覆された2種類の異なる粒径の(不均一な)免疫粒子を使用する比濁法測定法の性能を36個の大便試料で検査し、基準としての標準的ELISA測定法との相互関係を示した。比濁測定法のためにHitachi 912分析装置を製造業者に従って使用した。
図6は比濁測定法の相関分析を示している。検査の統計分析によって結果が交換可能であることが明らかになり、したがって大便中のカルプロテクチンの正確な測定のための方法が確認された(P/B回帰:Y=1.102×X-24.963、md(95)=289.067、n=36、r=0.9012、t=0.7847)。
【0063】
2種類の異なる粒径の(不均一な)ラテックス粒子を使用してカルプロテクチン測定を行って、単一粒径の(均一な)粒子を使用するカルプロテクチン測定と比較して比濁法をさらに試験した。250nm及び175nmのラテックス粒子をカルプロテクチンに対する一種類のモノクローナル抗体で被覆した。製造業者の指示に従ってHitachi 912分析装置を使用する比濁測定法のための校正物質として0~2000μg/gの範囲のカルプロテクチン濃度を有する試料を使用した。表2(mE(mA):ミリ吸光度)に示されるように、2種類の異なる粒径のラテックス粒子を使用して行った測定法により、単一粒径の粒子と比較して、測定感度の上昇がもたらされる。したがって、少なくとも2種類の粒径の組合せにより、単一粒径の粒子の使用と比較して、カルプロテクチンの検出範囲の改善がもたらされる場合がある。
【0064】
ラテックスナノ粒子は自己凝集する傾向を有する。本記載の貯蔵緩衝液はクエン酸三ナトリウム二水和物(pH5.0)、ウシ血清アルブミン、1%SDS、ショ糖、アジ化ナトリウムを含み得る。本開示の貯蔵緩衝液は長期間にわたるラテックス免疫粒子の貯蔵安定性の向上に寄与する。本開示の免疫粒子安定性とは、自発的ラテックス粒子凝集(濁度)が低減することで、第2の成分が使用前に2~8℃で最大12か月間保存され得ることを意味する。貯蔵緩衝液は数日間37℃で粒子安定性である。凝集が低減するだけでなく、抗体安定性を延ばすことができ、結果として貯蔵条件と無関係に測定値が良くなる。
【表2】
【0065】
表3は本発明による比濁法測定法において2種類のモノクローナル抗体で被覆された免疫粒子を使用して2~8℃での貯蔵第1日及び第30日に測定された吸光度値(mE)を示している。免疫粒子を(i)2~8℃で30日間保管、及び(ii)37℃で3日間維持した後に2~8℃で30日間保管した。モノクローナル抗体が温度感受性であることを考慮すると、本開示の貯蔵緩衝液が様々なレベルで、すなわち免疫粒子の凝集及び粒子結合抗体の安定性の点でカルプロテクチンの正確な測定に寄与していることが示唆される。
【表3】
【0066】
試料中で分析物がある特定の濃度を超える場合、抗体の飽和が起こり、続いて凝集が減少する。凝集の減少によってシグナル強度の低下が生じる。この効果は「抗原過剰」と記載され、誤った低値の誤解釈及び間違った診断をもたらす場合がある。開示されているように、ナノ粒子は、最適に分散して互いに分離しており、帯電した表面によっても、粒子の表面全体が抗原結合しないままであるので、標的抗原が過剰であることが必ずしも比濁を妨げることにはならない。粒子貯蔵及び検査反応のための本開示の緩衝液によって抗体結合能の上昇が達成される。
【0067】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、150~350nmの範囲の粒径の抗体被覆ナノ粒子を使用して実施される。比濁免疫測定法のためのナノ粒子は、粒径の増加が非特異的凝集、特にラテックス粒子の非特異的凝集と相関するので、140nmを超える直径を有してはならないことが先行技術より教示されている。ただし、この教示は特異性が低い、又は交差反応性のポリクローナル抗体を担持する粒子に言及しているはずである。しかしながら本開示は150~350nmの直径を有するナノ粒子、及びそのような大きな粒子が正確な測定に寄与することを裏付けている。また、モノクローナル抗体と標的抗原(カルプロテクチン)との反応の増強は相互作用面積が増加したこと、及びその反応が部分的に表面依存的であることから達成される。重要なことに、粒径の上昇は自発的濁度の上昇に結び付かない。
【0068】
しかしながら、測定感度を向上させ、免疫学的反応を妨げることなく懸濁ラテックス粒子の分散を促進するための信頼に足る手段が当技術分野には存在しない。本発明の方法は、pH5.0~6.0のクエン酸ナトリウム、150mMのNaCl、ウシ血清アルブミン、SDS/Tween(登録商標)20、ショ糖、アジ化ナトリウムを含む緩衝液組成物(検査緩衝液又は第1の反応成分)を使用することによりこの問題を解決する。前記第1の反応成分R1と混合される場合、市販の大便抽出緩衝液(例えばIDK Extract(登録商標)ドイツ、ベンスハイムのImmundiagnostik AG社)と組み合わせて本方法を使用することができる。比較のために0~2000μg/gの様々な濃度のカルプロテクチン校正物質を開示される検査緩衝液及びIDK Extract(登録商標)緩衝液の中に別々に希釈した。ラテックス粒子に結合した2種類の異なるモノクローナル抗体を使用して免疫比濁法測定法を実施した。表4に示されるように、検出感度の測定可能な上昇を検査緩衝液によって達成することができ(mA:ミリ吸光度値)、それは「利用可能な標的分子がより多いこと」及び多量体形成がより少ないことを意味している。
【0069】
さらに比較のために20個の大便試料を本発明の検査緩衝液及び測定生理的pH7.2を有する市販のビュールマン抽出緩衝液(ビュールマンfCal Turbo(登録商標);Buhlmann Laboratories AG社、バーゼル、スイス)で別々に抽出処理した。製造業者の指示に従ってHitachi 912分析装置を使用して上記のように比濁測定法を実施した。いずれの条件でも吸光度値は互いに相互関係を示した。統計分析によって両方の条件間で相関関係が示された(P/B回帰:Y=1.004×X-1.552、md(95)=30.37、n=20、r=0.9932、t=0.9524)。したがって、本発明の検査緩衝液により少なくとも市販の緩衝液と同様に良好な糞便カルプロテクチン抽出が実現し、非特異的免疫粒子凝集の減少という利点も提供される。
【表4】
【0070】
糞便は約75%の水を含んでおり、残りの固体画分は84~93%が有機固形物である。これらの有機固形物は、25~54%の細菌性バイオマス、2~25%のタンパク質又は窒素含窒物、25%の炭水化物又は未消化植物性物質、及び2~15%の脂質からなる。これらの割合は食事及び体重に応じて大いに変化する。残りの固形物はリン酸カルシウム、リン酸鉄、腸分泌物、上皮細胞、及び粘膜から構成される。生体試料の成分、特に大便由来の成分は、免疫測定法及びPETIAの感度に影響する干渉源であり得る。そのような干渉のために、例えば負の吸光度値が生じる場合がある。本願の方法によって上記大便試料成分による干渉が減少する。
【0071】
免疫グロブリンM(IgM)はB細胞によって生産される基本的な抗体である。IgMはヒトの循環系における最大の抗体であり、抗原への初期暴露に応じて現れる最初の抗体である。IgM抗血清の存在は試料マトリックスに関連した攪乱への対抗に寄与し得る。しかしながら、IgM抗血清は内在性カルプロテクチンを含み得る。IgM抗血清のバッチ毎の分析が推奨される。表5はIgM抗血清を添加した、又は添加していない反応成分中に希釈したカルプロテクチン校正物質及び大便試料の比濁によって得られたmE吸光度値を示している。負の吸光度値が消失し、検出感度及び信頼度が全般的に上昇している。
【表5】
【実施例】
【0072】
実施例1:抗カルプロテクチン免疫粒子の作製
例えばMERCK社、Bangs Laboratories社などのよく知られた製造業者のラテックス粒子を使用した。ラテックスはカルボキシル化ポリスチレン又はクロモメチルラテックスであった。ラテックス粒子は、表面電荷密度62μC/cm
2、重合体1g当たりの表面電荷密度163μΕq、固形物含量9.0%のパラメーターを有し、0.05%のアジ化ナトリウムで安定化された。完全なリソソーム膜を有する顆粒球に由来する精製ヒトカルプロテクチンに対する精製モノクローナルマウス抗体(mAB 1062、1067、1069、1089;第1の反応成分中で結合)を共有結合することにより免疫粒子を調製した。カルボキシル化ポリスチレン粒子の粒径は、好ましくは均一な粒径(175nm)であった。あるいは、2種類の異なる粒径(160~175nm及び250~275nm)のナノ粒子を一種類のモノクローナル抗体で被覆した(
図6参照)。また、単一粒径(175nm)のラテックス粒子を2種類の異なるモノクローナル抗体で被覆した。
【0073】
pH5.0~6.0のクエン酸ナトリウム、50mMのマレイン酸緩衝液(pH5.0)、150mMのNaCl、ウシ血清アルブミン、150mMショ糖、アジ化ナトリウムを含む貯蔵緩衝液の中で使用前に粒子を2~8℃で保管した。
【0074】
実施例2:大便試料の抽出処理
以下のように大便試料を抽出処理した。15mgの大便を1.5mlの緩衝液中にそれぞれ1:100に希釈した。IgM抗血清を添加した、又は添加していない、1.5mlの検査緩衝液、すなわち50mMのマレイン酸(pH5.0)、150mMのNaCl、アジ化ナトリウム、0.1%のドデシル硫酸ナトリウム、ウシ血清アルブミンを空のサンプルチューブに充填した。比較のために調製済みのIDK Extract(登録商標)抽出緩衝液(カタログ番号K6967)及びビュールマンfCal Turbo(商標)抽出緩衝液も室温で使用して試料を抽出した。大便試料を採取し、2~8℃で最大48時間保管した。長期間(最大12か月)については-20℃での保管が推奨される。比濁測定法開始時に凍結試料をゆっくりと、好ましくは2~8℃で融解した。不均質な試料を機械的に均質化する場合もあった。試料採取のためにIDK(登録商標)Stool Sample Application System(SAS)(カタログ番号K6998SAS)を使用した。一定量の原材料を保持する切れ込みを有するSAS試験棒の先端を大便試料の中に差し込んだ。抽出緩衝液を含むチューブ中に試験棒を戻した。棒をチューブ中に入れると余分な材料が剥がれた。その後、試験棒に残っている15mgの大便試料を抽出緩衝液中に希釈した。チューブの蓋をきつく締め、切れ込みに大便試料が残らなくなるまでチューブを十分に振盪した。沈殿物を落ち着かせるために10分間が必要であった。沈殿物が再び分散しないことを確認し、抽出試料を検査緩衝液中に1:25に希釈した。例えば、40μlの抽出大便試料を960μlの検査緩衝液に添加した。
【0075】
実施例3:カルプロテクチン比濁免疫測定法
製造業者に従ってRoche Hitachi 912分析装置を使用する比濁測定のために、上記のようにいずれかの抽出緩衝液で抽出された試料を使用した。200μLの検査緩衝液、並びにpH5.0のクエン酸ナトリウム、ウシ血清アルブミン、Tween20、ショ糖、及びアジ化ナトリウムを含む50μLの貯蔵緩衝液に10μLの抽出試料を添加した。自動分析装置により37℃で5分間インキュベートしながら、抽出試料と免疫粒子を穏やかに混合した。固定化モノクローナル抗体を担持する粒子を含む第2の反応成分を穏やかに振盪しながら添加した。凝集に要する時間は37℃で5分間であり、その間に吸光度を測定した。測定を二連で実施した。570nmの波長で読み取りを行って吸光度値を得た。
【0076】
比濁測定法の校正のために、市販の精製カルプロテクチンを0~2000μg/gの範囲(6校正点)でpH5.4のクエン酸緩衝液中に希釈した。30~2000μg/gの線形範囲を得た。
【0077】
既知量のカルプロテクチンを含む大便試料を対照試料及び被検試料として使用した。カルプロテクチンを含む大便試料を反応緩衝液中に1:100に希釈し、1gの大便中に0.1~20μgのカルプロテクチンの測定範囲を得た。希釈係数を考慮に入れると実際の測定範囲は2000μg/g以下であった。
【0078】
基準範囲1gの大便は1mlに等しい。健康な成人での中央値は大便1g当たり約25μgのカルプロテクチンである。カルプロテクチン濃度が50μg/g未満である試料を陰性と見なした。大便1g当たり50μg~100μgのカルプロテクチン濃度を有する試料を境界線陽性と見なした。大便1g当たり100μg超のカルプロテクチン濃度を有する試料を陽性と見なした。
【0079】
実施例4:カルプロテクチンELISA測定法
本発明の比濁法との比較のためにELISA IDK(登録商標)カルプロテクチン(MRP8/14)を選択した。測定法はヒトカルプロテクチンに結合する2種類の選択されたモノクローナル抗体を使用する2部位サンドイッチ法を利用している。モノクローナル抗ヒトカルプロテクチン抗体で被覆されたマイクロプレートのウェルに校正物質、対照試料、及び希釈済み患者試料を添加する。1回目のインキュベーション工程の間に固定化された抗体分子が試料中のカルプロテクチンに結合する。その後、各ウェルにペルオキシダーゼ標識複合体を添加し、複合体が形成される。ペルオキシダーゼの基質としてテトラメチルベンジジン(TMB)を使用する。最後に酸性停止溶液を添加して反応を停止させる。カルプロテクチンの存在下で色が青色から黄色に変化する。
【0080】
色の強度は前記試料のカルプロテクチン濃度に正比例していた。試料の光学密度を定量した。カルプロテクチン校正物質を使用したマスター検量線を検査毎に作成する。二連実験を実施した。ELISAリーダーを使用して基準としての620nm(又は690nm)に対して450nmで直ちに吸光を測定した。あるいは、最大濃度の標準物質の吸光度が光度計の範囲を超えてしまった場合、基準としての620nmに対して405nmで吸光を測定した。特筆すべきことに、色の強度の変化は温度感受性である。ドイツ、ベンスハイムのImmundiagnostik AG社のELISA IDK(登録商標)カルプロテクチン(MRP8/14)のプロトコールに従った。
【0081】
Excel用のAnalyse-it(Analyse-It Software社、リーズ、英国)を使用して、比較試験の結果を評価した。比濁測定法(及びELISA)の相互互換性分析にはPassing-Bablok回帰近似を使用した。
【0082】
まとめると、カルプロテクチンに対する免疫比濁測定法、特に糞便マトリックス中又は血清及び他の体液並びに生体試料中のカルプロテクチンの測定のための免疫比濁測定法であって、好中性顆粒球の酸性顆粒中に存在するようなカルプロテクチンに特異的な哺乳類モノクローナル抗体に基づく免疫比濁測定法が提供された。そのようなモノクローナル抗体は低pHでカルプロテクチンサブユニットに対して生成され、所与のpHでこれらのサブユニットに結合する。カルプロテクチン分析物は(自己)凝集して、比濁に干渉するカルシウムの存在下で複合体多量体を形成し得るので、この分析物についての特別な校正が必要である。検査室業務では結果の計量計測学的トレーサビリティ及び相互互換性が必要とされる。本記載のマウスモノクローナル抗体は主にヘテロ二量体(S100A8/A9)としてのカルプロテクチンに結合すること、及びカルシウムイオンに配位する有機緩衝液によって多量体形成が抑制され得ることを発見した。カルプロテクチンのサブユニットは6.1及び6.3のpIを有し、pH6.0以下で、好ましくはpH5.0~6.0で免疫比濁反応が行われるので、界面活性剤が存在することが推奨され、陰イオン界面活性剤を添加することが最も好ましい。さらなる凝集のために反応成分は150mosm/kg超の浸透圧を有するべきである。モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を使用する(しかしながら、生理的pHで従来の緩衝液を使用する)様々な従来の免疫測定法に対して結果の計量計測学的トレーサビリティ及び相互互換性が証明された。
本開示に係る態様は以下の態様も含む。
<1>
患者の生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定するインビトロの方法であって、
(a)所定量の前記生物試料を採取すること、
(b)(i)5.0~6.0のpH、(ii)150mosmol/kg・H
2
O以上の浸透圧、(iii)0.01~0.1重量%の陰イオン界面活性剤を有し、(iv)カルシウムイオン及び亜鉛イオンに配位し封鎖する水性有機緩衝液の所定量で前記生物試料を溶解及び抽出すること、及び(iv)所望により、前記生物試料のマトリックスをホモジナイズ及び抽出した後に存在する場合は粒子物質を除去して可溶化状態で存在する基本的にヘテロ二量体のカルプロテクチン(S100A8/A9)を含む試料溶液を得ること、
(c)S100A8及びS100A9のうちのいずれか一方又はカルプロテクチン(S100A8/A9)に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその断片が2種類以上固定化されたナノ粒子を含む特定量の試薬と所定量の工程(b)の前記試料溶液とを混合して、カルプロテクチン(S100A8/A9)が所定の分子状態で存在している、粒子結合抗体と抗原との反応を得ること、
(d)特定の時間にわたって工程(c)の前記混合物をインキュベートすること、及び
(e)前記混合物の光学特性を取得し、前記混合物の前記光学特性に基づいてカルプロテクチン(S100A8/A9)の含有量を示すシグナルを決定すること、
(f)前記含有量を校正後の対照に関連付け、前記生物試料中の前記測定されたカルプロテクチン(S100A8/A9)の存在に基づいて前記患者の臨床状態を評価すること
を含む前記方法。
<2>
決定された量が完全なリソソームコンパートメントを有する顆粒球から単離され、且つ、ポリクローナル単一特異性抗体によって決定された、カルプロテクチン標準物質に対する計量計測学的なトレーサビリティを有する、<1>に記載のカルプロテクチン測定方法。
<3>
光学特性を取得する工程(e)が吸光度、透過率、反射率、光散乱、蛍光、又はシンチレーション値を決定することを含む、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>
比濁免疫測定法又は比濁分析免疫測定法である、<3>に記載の方法。
<5>
工程(b)及び工程(c)が2種類の試薬成分を使用することを含む粒子増強比濁免疫測定法(PETIA)である、<4>に記載の方法。
<6>
感度の向上のために直径が150~350nmであるナノ粒子を使用することを含む、<5>に記載の方法。
<7>
前記抗体が、測定範囲の向上のため、それぞれ(i)150~200nm及び(ii)250~350nmの範囲内で均一な直径を有する2種類の粒子に結合している、<6>に記載の方法。
<8>
前記粒子がカルボキシル化ポリスチレン粒子又はクロロメチル活性化ポリスチレン粒子である、<1>~<7>のいずれか一項に記載の方法。
<9>
前記生物試料が糞便又は糞便抽出物である、<1>~<8>のいずれか一項に記載の方法。
<10>
前記緩衝液組成物がポリカルボン酸、トリカルボン酸、アコニット酸、トリカルバリル酸、ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、α-ヒドロキシカルボン酸、β-ヒドロキシカルボン酸、γ-ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、グルコン酸、5-ケトグルコン酸、2-ケトグルコン酸、ジヒドロキシマレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ニトリロ三酢酸、乳酸、及び/又はアスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも1種類の塩から構成される、<1>~<9>のいずれか一項に記載の方法。
<11>
前記粒子結合抗体と抗原との反応が5.0~6.0のpHを有し、且つ、陰イオン界面活性剤又はドデシル硫酸ナトリウム及びCa
2+
配位緩衝剤分子を含む混合物中で実施される、<1>~<10>のいずれか一項に記載の方法。
<12>
工程(b)の前記カルシウム封鎖緩衝液が、クエン酸塩、酢酸塩、又はマレイン酸塩のうちの少なくとも1種類の塩、プロテアーゼ処理済み血清アルブミン、及び0.01~0.1重量%の陰イオン界面活性剤を含む、<11>に記載の方法。
<13>
非特異的なIgM抗血清を添加すること又は非特異的なIgM抗血清が存在することを含む、<1>~<12>のいずれか一項に記載の方法。
<14>
前記生物試料が血液、血清、又は血漿である、<1>~<8>及び<10>~<13>のいずれか一項に記載の方法。
<15>
<1>~<14>のいずれか一項に記載の粒子増強比濁免疫測定法により生物試料中のカルプロテクチンの存在を測定するための検査キットであって、
pHが5.0~6.0の範囲内である20~1000mmol/Lの有機緩衝液、
50~300mmol/Lのナトリウム塩、カリウム塩、又はリチウム塩、
0.1~1.5%のプロテアーゼ処理済み血清アルブミン、
0.01~0.1%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウム、及び
所望により、200mmosM/L以上の浸透圧を達成するためのβ-アルドース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、グルカン、デキストラン、及び/又は糖
を含む第1の水性試薬成分、並びに
S100A8及びS100A9のうちのいずれか一方又はカルプロテクチン(S100A8/A9)に結合する固定化モノクローナル抗体を担持する直径が150~350nmであるラテックス粒子を0.01~0.5%(w/v)の濃度で含む第2の試薬成分
を含む前記検査キット。