(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】集電摺動材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60L 5/08 20060101AFI20230330BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20230330BHJP
C04B 35/52 20060101ALI20230330BHJP
C04B 35/83 20060101ALI20230330BHJP
D01F 9/12 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
B60L5/08 A
C01B32/05
C04B35/52
C04B35/83
D01F9/12
(21)【出願番号】P 2019113310
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2021-10-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000220435
【氏名又は名称】株式会社ファインシンター
(73)【特許権者】
【識別番号】512064893
【氏名又は名称】株式会社CFCデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 喜雄
(72)【発明者】
【氏名】宮平 裕生
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】吉井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】天野 怜
(72)【発明者】
【氏名】児玉 遊
(72)【発明者】
【氏名】亀崎 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 友香
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-281446(JP,A)
【文献】特開昭57-198232(JP,A)
【文献】特公昭60-004254(JP,B2)
【文献】特開2003-136221(JP,A)
【文献】特開2017-008272(JP,A)
【文献】特開昭49-116109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 47/00-49/14
B60L 5/00- 5/42
C04B 35/83
C04B 35/52
D01F 9/12
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を15~30容量%含み、前記炭素繊維及びマトリックスからなる炭素複合繊維を含んで構成される炭素基材に、
それぞれ純度99質量%以上の銅
粉体及びチタン
粉体を銅
粉体:チタン
粉体=85:15~70:30の質量比で含む金属材料を溶浸させてなる、集電摺動材料。
【請求項2】
前記金属材料の溶浸率が50~95%である、請求項1に記載の集電摺動材料。
【請求項3】
集電摺動材料の製造方法であって、
炭素繊維を15~30容量%含み、前記炭素繊維及びマトリックスからなる炭素複合繊維を含んで構成される炭素基材に、
それぞれ純度99%以上の銅
粉体及びチタン
粉体を銅
粉体:チタン
粉体=85:15~70:30の質量比で含む金属材料を900~1100℃の温度条件で溶浸させる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電摺動材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両において、一般的に、パンタグラフなどの集電装置を介して架線から電気エネルギーを取り込み、駆動するスタイルが採用されている。
【0003】
鉄道の走行時、パンタグラフは架線に接触し摺動する状態となることから、パンタグラフにおける架線との接触部には、耐摩耗性などに優れるすり板(以下、集電摺動材料という。)を設けることが一般的である。
【0004】
かかる集電摺動材料に求められる性質として、優れた耐摩耗性に加えて、架線の摩耗を極力抑制するための潤滑性、そして架線から電力を効率よく取り込むための優れた電気伝導性を挙げることができる。
【0005】
このような集電摺動材料として、特許文献1に開示される炭素材料を好適に利用することができる。当該炭素材料は、材料の潤滑性が高いことから、架線に対する攻撃性が低い。また、炭素材料は電気伝導性が高く、極めて高い耐摩耗性を有することもあり、特許文献1に開示される炭素材料を母材とすれば、高性能の集電摺動材料を得ることができると考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される炭素材料は、高額な炭素繊維を多く含むことから製造コストが高く、費用対効果の面で課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、炭素繊維を使用した従来の集電摺動材料と同等の性能を有しつつも、炭素繊維の使用量の少ない集電摺動材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素繊維及びマトリックスからなる炭素複合繊維に、銅及びチタンを含む金属材料を溶浸させた集電摺動材料とすることにより、炭素繊維を使用した従来の集電摺動材料と同等の性能を有しつつも、炭素繊維の使用量の少ない集電摺動材料を提供することができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の集電摺動材料を提供する。
項1.
炭素繊維及びマトリックスからなる炭素複合繊維を含んで構成される炭素基材に、銅及びチタンを含む金属材料を溶浸させてなる、集電摺動材料。
項2.
前記金属材料は、銅及びチタンを銅:チタン=90:10~70:30の質量比で含有する、項1に記載の集電摺動材料。
項3.
前記金属材料の溶浸率が50~95%である、項1又は2に記載の集電摺動材料。
項4.
集電摺動材料の製造方法であって、
炭素繊維及びマトリックスからなる炭素複合繊維を含んで構成される炭素基材に、銅及びチタンを含む金属材料を900~1100℃の温度条件で溶浸させる、製造方法。
項5.
前記金属材料は、銅及びチタンを銅:チタン=90:10~70:30の質量比で含有する、項4に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炭素繊維を使用した従来の集電摺動材料と同等の性能を有しつつも、炭素繊維の使用量の少ない集電摺動材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1~11で使用した炭素基材の模式図。
【
図2】実施例12~14で使用した炭素基材の模式図。
【
図3】実施例15~18で使用した炭素基材の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(集電摺動材料)
本発明の集電摺動材料は、炭素基材に、銅及びチタンを含む金属材料を溶浸させた集電摺動材料である。当該炭素基材は、炭素繊維及びマトリックスからなる炭素複合繊維を含んで、構成される。
【0014】
炭素繊維の材料としては、公知の炭素繊維材料を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、レーヨン系、及びピッチ系の炭素繊維を何れも好適に採用可能である。さらに、耐炎化処理糸、炭化処理糸、及び黒鉛化処理糸の何れでも好適に採用可能である。
【0015】
炭素繊維の具体的な態様としては、連続炭素繊維トウとすることが好ましい。連続炭素繊維トウとは、好ましくは平均直径7μmの炭素繊維を束ねた長繊維フィラメントの束であり、好ましくは1000本~24000本の、より好ましくは3000~12000本のフィラメントを束ねて構成される。
【0016】
連続炭素繊維トウ以外の炭素繊維の具体的な態様としては、短繊維炭素繊維を採用することも好ましい。短繊維炭素繊維とは1~50mmの長さを有する炭素繊維であることが好ましい。ただし、炭素繊維の長さはこれに限定されるものではない。
【0017】
また、後述するマトリックスとの接着性を良好なものとするために、炭素繊維表面に、電解表面処理などの表面酸化処理を施したり、炭素繊維を繊維束として集束させるために、エポキシ基、水酸基、アクリレート基、メタクリレート基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基などの官能基を有するサイジング剤を炭素繊維表面に付着させたりすることも好ましい。
【0018】
マトリックスを構成するマトリックス成分は、硬化することにより炭素繊維を強化可能な成分であれば特に限定はなく、公知のものを広く採用することが可能である。具体的には、軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末と、軟化性を有しない石油及び/又は石炭系コークス粉末との混合物であることが好ましい。
【0019】
軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末としては、60~320℃の範囲の軟化温度を有し、キノリン不溶分が0~80質量%、及び揮発分が10~60質量%の石油及び/又は石炭から得られる等方性、潜在的異方性、又は異方性のバインダーピッチを用いることができる。
【0020】
かかるバインダーピッチとして、石油の常圧残油、減圧残油、接触分触オイル等の石油系重質油あるいは石炭タール、オイルサンド油等の石炭系重質油を高温下(350~500℃)で加熱処理した際に得られるピッチ類を挙げることができる。また、当該ピッチ類から得られるメソフェーズ小球体、あるいはそれが合体成長したバルクメソフェーズ等も、好適に使用可能である。
【0021】
軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末は、強化繊維(炭素繊維)と、骨材としての後述する軟化性を有しない石油及び/又は石炭系コークス粉末と、を結合させるために用いられるものであることが好ましく、その平均粒径は0.5~60μmであることが好ましく、3~20μmであることがより好ましい。
【0022】
軟化性を有しない石油及び/又は石炭系コークス粉末は、骨材的役割を持たせるためのものであることが好ましく、軟化点を有しておらず、揮発分が10質量%以下、好ましくは2質量%以下のものを好適に使用することができる。コークス粉末としては、石油系あるいは石炭系のいずれも好適に使用することが可能であり、平均粒径は0.5~30μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。
【0023】
軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末と、軟化性を有しない石油及び/又は石炭系コークス粉末との配合比は特に限定されないが、質量比でバインダーピッチ/コークス=90/10~10/90であることが好ましく、70/30~30/70であることがより好ましい。
【0024】
なお、バインダーピッチ粉末、コークス粉末、および粘結剤とからなる混合物に転化する溶剤としては、アルコール等の有機溶剤または水を使用することができる。
【0025】
炭素繊維及びマトリックスからなる炭素複合繊維として、具体的には、特開2017-8272号公報に開示される炭素/炭素複合材料を例示することができる。中でも、当該公報の明細書段落[0027]~[0028]に開示されるプリフォームドヤーン製法により得られる中間材料であることが、特に好ましい。
【0026】
かかる炭素複合繊維として具体的には、ポリプロピレンやナイロンの如き熱可塑性樹脂フィルムでできたスリーブの中に、軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末、軟化性を有しない石油及び/又は石炭系コークス粉末の混合物、並びに、連続炭素繊維トウを封入し、多数の炭素繊維の間に軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末並びに軟化性を有しない石油及び/又は石炭系コークス粉末の混合物が分散配置された状態の中間材料を、例示することができる。
【0027】
炭素基材における炭素繊維量は、炭素基材100容量%中に炭素繊維が15~50容量%であることが好ましく、15~40容量%であることがより好ましい。炭素基材中におけるマトリックス量は、炭素基材100容量%中にマトリックスが30~75容量%であることが好ましく、45~70容量%であることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、炭素複合繊維中に充分量の空孔を形成することが可能となり、金属材料の溶浸時に、炭素基材の気孔に充分な金属材料を溶浸でき、集電摺動材料としての優れた特性を得ることができる。
【0028】
炭素複合繊維により炭素基材を構成する態様としては特に限定は無い。例えば、上記したプリフォームドヤーン製法により得られる炭素複合繊維を熱可塑性樹脂繊維糸で編んでシート化した炭素繊維シートとする態様を挙げることができる。
【0029】
炭素繊維シートは、集電摺動材料に必要とされる強度等に応じ、複数を積層した積層体とすることが好ましい。
【0030】
炭素基材を、炭素繊維シートの積層体とする場合、X-Y方向の強度を等方性にするという理由から、炭素繊維シートに含まれる炭素繊維の配列方向が交互にX-Y配向(換言すると、90°で交差する。)となるように積層することが好ましい。
【0031】
積層数に関しては、必要とされる製品寸法に応じて適宜設定すればよく、特に限定はない。具体的には、5~150層とすることが好ましく、50~100層とすることがより好ましい。
【0032】
炭素繊維シートの厚みは、後工程であるホットプレスでの成形性並びに作業性が良くなるという観点から、0.5~10mmとすることが好ましく、1~5mmとすることがより好ましい。
【0033】
炭素繊維シートの積層体を形成して炭素基材とする場合、炭素繊維シートの積層に短繊維炭素繊維不織布を介在させることも好ましい。かかる構成を有することにより、板平面方向の強度をより等方性にすることができる。
【0034】
短繊維炭素繊維に使用される短繊維は、一般的に短寸と認識されうる炭素繊維であれば特に限定は無い。具体的には平均長が1~100mmの、より具体的には1~50mmの炭素繊維を使用することができる。短繊維炭素繊維の太さについては特に限定はなく、例えば平均直径5~10μmとすることが好ましい。
【0035】
本発明の集電摺動材料は、上述した炭素基材に、銅及びチタンを含む金属材料が溶浸されたものである。中でも、上述したプリフォームドヤーン製法により得られる炭素複合繊維を用いて製造される炭素基材を使用すれば、中間材料同士の間に連続的な空孔が形成され、溶浸時に金属材料が当該空孔に入り組む余地が生じ、その結果、集電摺動材料製造時における歩留まりが改善される。
【0036】
炭素基材に銅チタン合金を溶浸させるに際しては、溶浸工程を経て、炭素基材に銅チタン合金が複合化される。溶浸に使用する金属材料としては、銅チタン合金を使用してもよいし、銅及びチタンの混合物を使用してもよい。中でも、溶浸する金属材料の体積をなるべく小さくして生産性を上げるために、溶浸に使用する金属材料として、銅粉体及びチタン粉体を含む混合物を圧縮成形した圧粉体を使用することが好ましい。
【0037】
上記金属材料は、金属材料100質量%中に、銅及びチタンを90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましい。金属材料中に含まれる銅及びチタンの上限値としては特に限定されず、例えば100質量%とすることが好ましい。
【0038】
また、炭素基材の良好な濡れ性を確保することにより、金属材料の良好な溶浸率を得るために、銅とチタンとの合計100質量%中に、チタンが10質量%以上含まれることが好ましい。さらに、集電摺動材料としてのコストメリットを考慮し、銅とチタンとの合計100質量%中のチタン量は30質量%以下であることが好ましい。以上から、銅及びチタンを、銅:チタン=90:10~70:30の質量比で含むことが好ましく、銅:チタン=85:15~75:25の質量比で含むことがより好ましい。かかる構成を採用することにより、炭素基材に充分な金属材料を溶浸出来、集電摺動材料としての、優れた集電特性及び摩耗特性を得ることができる。
【0039】
また、金属材料中に含まれる銅及びチタンの配合比は、溶浸工程の前後で変化しない。
【0040】
金属材料は、上記した銅粉体及びチタン粉体以外にも、本発明の効果を損なわない範囲内で、銅と合金化する成分として、Sn、Zn、Al、Ni及びMnからなる群より選択される少なくとも一種を含むことも好ましい。
【0041】
溶浸工程を経て得られる本発明の集電摺動材料における、炭素基材への銅チタン合金の溶浸率は、50~95%であることが好ましく、70~90%であることがより好ましい。かかる構成を有することにより、集電摺動材料としての、優れた集電特性や摩耗特性を得ることができる。
【0042】
本明細書において、溶浸率の算出方法は下記の通り、定義される。まず、JISR1634より計算した炭素基材の真密度と、炭素基材の密度より気孔の容量%とを、下記式(1)より求める。次いで、同一の炭素基材に金属材料を溶浸し出来た集電摺動材料の密度を求める。集電摺動材の密度、炭素基材の密度並びに溶浸した金属材料の真密度より、実際に溶浸された金属材料の容量%を式(2)より求める。得られた炭素基材気孔の容量%と溶浸された金属材料の容量%より、溶浸率%が式(3)より得られる。
式(1): 気孔の容量%(V0)=(1-ρ0/ρt0)×100
ρ0:炭素基材の密度(g/cm3) ρt0:炭素基材の真密度(g/cm3)
式(2): 溶浸された金属材料の容量%(V1)=(ρ1-ρ0)×100/pt1
ρ1:集電摺動材の密度(g/cm3) ρt1:金属材料の真密度(g/cm3)
式(3): 溶浸率%=(V1/V0)×100
【0043】
(集電摺動材料の製造方法)
本発明は、集電摺動材料の製造方法に関する発明を包含する。本発明の集電摺動材料の製造方法は、上述した炭素基材に、銅及びチタンを含む金属材料を溶浸させるものである。
【0044】
炭素基材及び金属材料としては、上述のものを使用することができる。中でも、金属材料として、銅粉体及びチタン粉体を含む混合物を圧縮成形した圧粉体を採用することにより、溶浸する金属材料の体積をなるべく小さくして生産性を上げることができる。圧縮する圧力としては、面圧で3~6ton/cm2程度が好ましい。また、ハンドリングを考慮し、圧粉体の密度は4.5g/cm3以上とすることが好ましい。圧粉体の密度の上限値としては特に制限はないが、例えば、7.0g/cm3とすることが好ましい。
【0045】
既述の如く、炭素基材としては、炭素繊維シートの積層体を使用することが好ましく、さらに、当該積層体に短繊維炭素繊維不織布を介在させたものを使用することも好ましい。つまり、炭素繊維シートはX-Y配向した積層体又は、炭素繊維シートに短繊維炭素繊維不織布を一定割合ではさみ込んだ積層体を、ホットプレス等で加圧加熱することで、炭素/炭素複合材の中間積層体を形成することができる。この中間積層体を炭化温度あるいは黒鉛化温度まで焼成することで、炭素/炭素複合材の積層体からなる炭素基材を得ることができる。
【0046】
また、短繊維炭素繊維を使用した不織布は、炭素繊維を織らずに短繊維を絡み合わせたシート状のものをいい、従来公知の抄紙技術を利用し、炭素繊維を水中に分散し、網状のネット上に漉き上げて乾燥させる方法で得ることができる。
【0047】
圧粉体の形状は、炭素基材全体に銅チタン合金が良好に溶浸されるために、炭素基材の面と略同一形状とすることが好ましい。圧粉体の厚みに関しては特に限定はなく、炭素基材の厚み並びに気孔の体積%に応じ、適宜設定することが好ましい。
【0048】
銅粉体及びチタン粉体は、純度99質量%以上のものが好ましい。また、銅粉体はJISZ2510で規定されるふるい分析で測定した粒径が150μm未満であることが好ましく、チタン粉体は粒径45μm未満であることが好ましい。銅粉体及びチタン粉体の粒径の下限値としては特に制限は無く、上記ふるい分析により測定して得られる粒径が、それぞれ5μm及び1μmとすることが好ましい。配合比に関しては、銅粉体及びチタン粉体を、銅粉体:チタン粉体=90:10~70:30の質量比で含むことが好ましく、銅粉体:チタン粉体=85:15~75:25の質量比で含むことがより好ましい。かかる構成を採用することにより、炭素基材に充分な金属材料を溶浸出来、集電摺動材料としての、集電特性や摩耗特性を満足することができる。
【0049】
銅粉体及びチタン粉体の使用量は、炭素基材100質量部に対し、銅及びチタンを合計量で30~60質量部含むことが好ましく、35~50質量部含むことがより好ましい。かかる構成を有することにより、架線の摩耗を極力抑制するための潤滑性を維持しつつ、優れた電気伝導性を有する、高性能の集電摺動材を得るという効果がある。
【0050】
金属材料は、上記した銅粉体及びチタン粉体以外にも、本発明の効果を損なわない範囲内で、Sn、Zn、Al、Ni及びMnからなる群より選択される少なくとも一種を含むことも好ましい。
【0051】
溶浸させる際の温度条件は、900~1100℃であり、920~1050℃とすることがより好ましい。溶浸温度が900℃未満であると、銅とチタンからなる金属材料の融点に達しないため、炭素材料に溶浸が行えない。一方、溶浸温度が1100℃を超えると、銅とチタンからなる金属材料の溶融が進みすぎ、炭素材料から金属材料が流れ落ちてしまい、炭素材料への溶浸がなされない。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0054】
(実施例1-11用の炭素基材)
ポリアクリロニトリル系(PAN系)炭素繊維(平均直径7μm)12000本の炭素繊維束にマトリックス成分として、石炭系バインダーピッチ粉末及び石炭系コークス粉末の混合物を付着させ、プリフォームドヤーンを得た。このプリフォームドヤーンを経糸として一方向に引き揃え、緯糸として熱可塑性樹脂繊維を使用しシート化した。得られた炭素繊維シートを、
図1に示すように、炭素繊維シートに含まれる炭素繊維の配列方向が交互にX-Y配向となるように積層して積層体(サイズ250×250×100mm)を得た。積層数は、全ての実施例において50層とした。積層体を、ホットプレスで熱成形を行い、バッチ式の炉で炭化処理を行う事で、炭素/炭素複合材の積層体からなる炭素基材を得た。得られた炭素基材を機械加工により200×25×25mmのサイズに切り出した。
【0055】
(実施例12-14用の炭素基材)
実施例12~14に関しては、短繊維炭素繊維により構成される不織布を介在させた。つまり、上記実施例1~11で得たものと同じプリフォームドヤーンを、炭素繊維の配列方向がX-Y方向となるように積層し、次いで、短繊維不織布を積層し、以下、同様の繰り返しで積層数50となるように積層し、炭素基材を得た(
図2)。尚、上記短繊維不織布は、平均直径約7μm、平均長さ25mmの炭素繊維を水中に分散し、網状のネット上で漉き上げて乾燥させる方法で得た。
【0056】
(実施例15-18用の炭素基材)
ポリアクリロニトリル系(PAN系)炭素繊維(平均直径7μm、)12000本の炭素繊維束を熱可塑性樹脂繊維で編んでシート化した。得られた炭素繊維シートにマトリックス成分(石炭系バインダーピッチ粉末及び石炭系コークス粉末の分散液)を塗布し、炭素繊維シートに含まれる炭素繊維の配列方向が交互にX-Y配向となるように積層して積層体(サイズ250×250×50mm)を得た(
図3)。積層数は、50層とした。積層体を、ホットプレスで熱成形を行い、バッチ式の炉で炭化処理を行う事で、炭素/炭素複合材の積層体からなる炭素基材を得た。得られた炭素基材を機械加工により200×25×25mmのサイズに切り出した。
【0057】
平均粒径40μmの銅粉体及び平均粒径20μmのチタン粉体を、下記表1に示す配合比で混合し、金型に充填し、4ton/cm2で成形することにより、圧粉体(サイズ200×25×5mm)を得た。圧粉体を上記の各炭素基材上に置き、還元性雰囲気下で下記表1に示される温度条件にて溶浸し、各実施例の集電摺動材料(サイズ200×25×25mm)を得た。
【0058】
(溶浸率測定)
各実施例の溶浸率は、上述の方法に基づき、算出した。
【0059】
(電気抵抗率評価)
集電摺動材料より60×10×10mmの試験片を切り出し、定電流発生装置を使用し試験片の長手方向に2.0Aの定電流を導通させる。端子間距離1.5mmの端子を試験片に押し当て、数点の端子間電圧を測定することにより平均電圧を測定し、試験片の断面積を乗じ、端子間距離と電流で割ることで、電気抵抗率を計算した。
【0060】
(耐摩耗試験)
実施例並びに比較例の集電摺動材料について、25×25×10mmの試験片サイズに機械加工した。円盤型の支持ディスクに幅6mmのタフピッチ銅をはめ込み、直径380mmで円形の模擬トロリ線を準備した。
支持ディスクを回転させて速度を25km/hに設定し、試験片を49Nで押し付けた。
また摺動中は試験片に200Aの直流電流を加えた。
摺動時間は400秒間として摺動時間1秒、休止時間1秒のサイクルを400サイクル行った。耐摩耗性の評価は、試験前後の試験片重量を測定し、事前に測定しておいた試験片密度より体積摩耗量を計算し、押付力と摺動距離で割る事で比摩耗量とした。
【0061】