(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】掘削装置及び掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21B 11/00 20060101AFI20230330BHJP
E02D 7/20 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
E21B11/00 Z
E02D7/20
(21)【出願番号】P 2019114644
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】100169199
【氏名又は名称】石本 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】北村 精男
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076742(JP,A)
【文献】特開2003-027876(JP,A)
【文献】実開昭56-068098(JP,U)
【文献】特開平08-136418(JP,A)
【文献】特開2002-212951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 11/00
E02D 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転圧入用の杭材の内側に配置されて地盤を掘削する掘削装置であって、
第1円筒部材の一端に地盤を掘削する複数の刃が設けられた第1掘削手段と、
前記第1円筒部材に比べて径が小さい第2円筒部材の一端に地盤を掘削する複数の刃が設けられた第2掘削手段と、
前記第1掘削手段と前記第2掘削手段とを回転させる遊星歯車機構と、
を備え
、
前記杭材は、一端に地盤を掘削する回転圧入用の刃が設けられている鋼管であり、
前記第1掘削手段と前記第2掘削手段と前記杭材との三重管によって掘削を行う、
掘削装置。
【請求項2】
前記遊星歯車機構は、内歯車又は遊星キャリアに前記第1掘削手段が連結され、太陽歯車に前記第2掘削手段が連結される請求項1記載の掘削装置。
【請求項3】
前記第1掘削手段と前記第2掘削手段とは、互いに回転方向が逆向きとなるように前記遊星歯車機構に連結される請求項1又は請求項2記載の掘削装置。
【請求項4】
前記遊星歯車機構に回転軸が連結される回転駆動手段と、
前記第1掘削手段、前記第2掘削手段、及び前記回転駆動手段を前記杭材の内側に保持するために、前記杭材の内側を把持する把持手段と、
を備える請求項1から請求項3の何れか1項記載の掘削装置。
【請求項5】
前記把持手段に対して前記第1掘削手段及び前記第2掘削手段を昇降させる昇降手段を備える請求項4記載の掘削装置。
【請求項6】
前記第1掘削手段、前記第2掘削手段、前記回転駆動手段、及び前記把持手段を前記杭材の内側から吊り上げるケーブルを備える請求項4又は請求項5記載の掘削装置。
【請求項7】
前記杭材は、圧入機によって地盤に圧入されながら、前記第1掘削手段及び前記第2掘削手段によって内側が掘削される請求項1から請求項6の何れか1項記載の掘削装置。
【請求項8】
圧入機によって
回転圧入用の杭材を地盤に埋設しながら、請求項1から請求項
7の何れか1項記載の掘削装置によっ
て地盤を掘削する第1工程と、
前記杭材の埋設を中断し、前記掘削装置によって掘削された掘削物を除去するために前記掘削装置を前記杭材から取り外す第2工程と、
前記掘削物を除去した後に前記杭材の内側に前記掘削装置を戻す第3工程と、
を有し、
前記第1工程から前記第3工程を繰り返しながら行う掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削装置及び掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管や矢板等の杭材を地盤に埋設するために、杭材の内側の地盤を掘削しながら杭材を埋設する工法が従来から行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、管体内に現れる地盤を掘削する掘削装置が開示されている。この掘削装置は、オーガスクリューとした掘削用ヘッドと、掘削用ヘッドを回転駆動するモータと、掘削用ヘッドをモータに対して上下方向(管体の軸方向)に移動させるための移動用シリンダと、管体の内周部分を把持することでモータを管体内で保持し、掘削用ヘッドを回転させる反力を得るための保持用シリンダを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている掘削装置は、オーガスクリューによって地盤を掘削するため、杭材の内側全面の地盤を掘削することになる。このため、特許文献1に開示されている掘削装置では、地盤から受ける抵抗が大きく、必ずしも効率の良い掘削を行うものではない。
【0006】
そこで本発明は、杭材の内側を掘削する際に地盤から受ける抵抗をより小さくし、より効率良く杭材を埋設できる、掘削装置及び掘削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の掘削装置は、杭材の内側に配置されて地盤を掘削する掘削装置であって、第1円筒部材の一端に地盤を掘削する複数の刃が設けられた第1掘削手段と、前記第1円筒部材に比べて径が小さい第2円筒部材の一端に地盤を掘削する複数の刃が設けられた第2掘削手段と、前記第1掘削手段と前記第2掘削手段とを回転させる遊星歯車機構と、を備える。
【0008】
本構成によれば、オーガスクリューのように杭材の内側全面の地盤を掘削するのではなく、円筒状に回転する刃が設けられた2つの掘削手段によって杭材内壁部の地盤のみを掘削する。従って、本構成の掘削装置によれば、杭材の内側を掘削する際に掘削時に地盤から受ける抵抗をより小さくし、より効率良く杭材を埋設できる。
【0009】
本発明の掘削装置は、前記遊星歯車機構の内歯車又は遊星キャリアに前記第1掘削手段が連結され、太陽歯車に前記第2掘削手段が連結される。本構成によれば、遊星歯車機構を用いた簡易な構成により第1掘削手段及び第2掘削手段を同軸で回転させることができる。
【0010】
本発明の掘削装置は、前記第1掘削手段と前記第2掘削手段とが、互いに回転方向が逆向きとなるように前記遊星歯車機構に連結されてもよい。本構成によれば、第1掘削手段と第2掘削手段とを逆回転とすることにより、逆回転としない場合に比べて第1掘削手段と第2掘削手段との相対速度を倍近くにできるので、より効率良く地盤を掘削できる。
【0011】
本発明の掘削装置は、前記遊星歯車機構に回転軸が連結される回転駆動手段と、前記第1掘削手段、前記第2掘削手段、及び前記回転駆動手段を前記杭材の内側に保持するために、前記杭材の内側を把持する把持手段と、を備えてもよい。本構成によれば、掘削装置を小型化して杭材の内側に配置できる。
【0012】
本発明の掘削装置は、前記把持手段に対して前記第1掘削手段及び前記第2掘削手段を昇降させる昇降手段を備えてもよい。本構成によれば、地盤の状態に応じて杭材の下端部に対する掘削手段の刃の位置を調整して掘削できる。
【0013】
本発明の掘削装置は、前記第1掘削手段、前記第2掘削手段、前記回転駆動手段、及び前記把持手段を前記杭材の内側から吊り上げるケーブルを備えてもよい。本構成によれば、掘削装置を簡易に杭材の内側に出し入れできる。なおケーブルは回転駆動手段や把持手段に電力を供給する電力ケーブルや作動油を供給する油圧ケーブルと兼用されても良い。
【0014】
本発明の掘削装置は、前記杭材が圧入機によって地盤に圧入されながら、前記第1掘削手段及び前記第2掘削手段によって内側が掘削されてもよい。本構成によれば、杭材の圧入と杭材の内側の掘削を同時に行うので、より効率良く杭材を埋設できる。
【0015】
本発明の掘削装置は、前記杭材が一端に地盤を掘削する回転圧入用の刃が設けられている鋼管であってもよい。本構成によれば、杭材自身でも地盤の掘削を行うので、硬質地盤等に対してより効率良く杭材を埋設できる。
【0016】
本発明の掘削方法は、圧入機によって前記杭材を地盤に埋設しながら、上記記載の掘削装置によって前記杭材の内側の地盤を掘削する第1工程と、前記杭材の埋設を中断し、前記掘削装置によって掘削された掘削物を除去するために前記掘削装置を前記杭材から取り外す第2工程と、前記掘削物を除去した後に前記杭材の内側に前記掘削装置を戻す第3工程と、を有し、前記第1工程から前記第3工程を繰り返しながら行う。本構成によれば、杭材の内側を掘削する際に地盤から受ける抵抗をより小さくし、より効率良く杭材を埋設できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、杭材の内側を掘削する際に地盤から受ける抵抗をより小さくし、より効率良く杭材を埋設できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態の掘削装置を用いた圧入機の外観図である。
【
図2】本実施形態の掘削装置の概略構成図であり、(A)は遊星歯車機構の内歯車を固定した場合を示し、(B)は遊星歯車機構の遊星キャリアを固定した場合を示す。
【
図3】本実施形態の遊星歯車機構及びドラムカッタの概略上面図であり、(A)は
図2のA-A断面図であり、(B)は
図2のB-B断面図である。
【
図4】本実施形態の圧入杭の内側に配置された掘削装置のドラムカッタの上下移動を示した概略構成図であり、(A)はドラムカッタのビットと圧入杭のビットが同位置にある場合を示し、(B)はドラムカッタのビットが圧入杭のビットよりも掘削方向へ突き出ている場合を示す。
【
図5】本実施形態の掘削装置によって、圧入杭の端部よりも先に圧入杭の内側の地盤が掘削された状態を示す概略図である。
【
図6】本実施形態の掘削装置を矢板の埋設に適用する場合の例を示す上面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。なお、本実施形態の圧入機は、施工が完了した杭(完成杭)をクランプすることで反力を得ながら、完成杭の頭部上を自走して杭を順次圧入する。この工法により、硬質地盤やコンクリート構造物などの地中構造部への圧入施工が可能となり、仮設桟橋も必要としないため、工期を短縮し、環境にやさしい施工が可能となる。
【0020】
図1は、本実施形態の圧入機10の外観側面図である。
図1に示すように、圧入機10は、杭材である圧入杭12を地盤A上に立てた状態で、圧入杭12内に現れる地盤Aに対して掘削等の処理を施しながら、圧入杭12を地盤Aに圧入するものである。なお、本実施形態の圧入杭12及び完成杭14は一例として鋼管とする。
【0021】
圧入機10は、サドル20とサドル20に対し前後方向(図中では左右方向)にスライドするスライドフレーム22と、スライドフレーム22に立設されたマスト24とを備えている。マスト24の前方には、圧入杭12を着脱可能に把持するチャック26が適宜のガイドで案内されて昇降可能に取付けられる。このような構成の圧入機10は、チャック26により圧入杭12を把持した状態で、マスト24に対してチャック26を地盤Aに向けて移動させることで、圧入杭12を地盤Aに圧入又は圧入杭12を回転させながら地盤Aに圧入する。
【0022】
また、サドル20は、サドル20から垂下する複数(
図1の例では3つ)のクランプ28を有している。クランプ28は、完成杭14の上端の内側に挿入された状態で、完成杭14を内側から保持及び解放するように構成される。そして、圧入機10は、複数が配列される完成杭14上をその配列方向に沿って移動(自走)する。
【0023】
さらに、本実施形態の圧入杭12の内側には地盤Aを掘削する掘削装置30が配置される。掘削装置30は、詳細を後述するように、圧入杭12の内側を把持することでその位置が圧入杭12の端部近辺に固定される。そして、圧入杭12は、圧入機10によって地盤Aに圧入されながら、掘削装置30によってその内側が掘削される。これにより、圧入杭12は、圧入機10による圧入又は回転圧入と圧入杭12の内側の掘削とを同時に行うので、より効率良く圧入杭12を埋設できる。
【0024】
次に
図2,3を参照して、本実施形態の掘削装置30を説明する。
図2は、本実施形態の掘削装置30の概略構成図であり、
図2(A),(B)は固定される歯車の違いを示している。
図3は、本実施形態のドラムカッタ32及び遊星歯車機構34の概略上面図であり、
図3(A)は
図2のA-A断面図を示し、
図3(B)は
図2のB-B断面図を示す。
【0025】
本実施形態の掘削装置30は、主として、ドラムカッタ32A,32B、遊星歯車機構34、回転駆動部36、把持部38、及び昇降部40を備える。ドラムカッタ32Aは本発明の第1掘削手段に相当し、ドラムカッタ32Bは本発明の第2掘削手段に相当し、回転駆動部36は本発明の回転駆動手段に相当し、把持部38は本発明の把持手段に相当し、昇降部40は本発明の昇降手段に相当する。なお、
図2では、ドラムカッタ32A,32Bを明確にするために、その断面を斜線で示している。
【0026】
ドラムカッタ32Aは、円筒部材42Aの一端に地盤Aを掘削する複数の刃(以下「ビット」という。)44が設けられ、ドラムカッタ32Bは、円筒部材42Aに比べて径が小さい円筒部材42Bの一端に地盤Aを掘削する複数のビット44が設けられる。ドラムカッタ32Aの円筒部材42Aの外径は、圧入杭12の内径よりも若干小さく、ビット44が圧入杭12の内壁に当接しない程度が好ましい。また、ドラムカッタ32Bの外径は、ドラムカッタ32Aのビット44とドラムカッタ32Bのビット44とが可能な限り近接する大きさとされる。これにより、ドラムカッタ32A,32Bは、圧入杭12の内壁近傍の地盤Aを掘削できる。
【0027】
なお、以下の説明において、ドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bとを区別して説明しない場合には、単にドラムカッタ32といい、円筒部材42Aと円筒部材42Bとを区別して説明しない場合には、単に円筒部材42という。
【0028】
遊星歯車機構34は、太陽歯車34A、遊星歯車34B、遊星キャリア34C、内歯車34Dで構成され、ドラムカッタ32A,32Bがその下方に連結され、ドラムカッタ32A,32Bを回転させる。より具体的には、遊星歯車機構34は、内歯車34D又は遊星キャリア34Cにドラムカッタ32Aが連結され、太陽歯車34Aにドラムカッタ32Bが連結される(
図2参照)。これにより、掘削装置30は、遊星歯車機構34を用いた簡易な構成によりドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bとを同軸で回転させることができる。なお、遊星歯車機構34は、その上方及び側方が歯車ケース46に覆われており、歯車ケース46に対して内歯車34D又は遊星キャリア34Cを固定するための固定具48が接続される。
【0029】
回転駆動部36は、一例として、遊星歯車機構34の太陽歯車34Aに回転軸が連結される。すなわち、回転駆動部36は、遊星歯車機構34を介して、円筒部材42の中心軸を回転軸としてドラムカッタ32を回転駆動させる。本実施形態の回転駆動部36は、一例として、電動モータとするが、これに限らず、回転駆動部36は油圧モータでもよい。なお、ドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bとを同軸で回転させることができれば、回転駆動部36の回転軸は、太陽歯車34Aに限らず遊星歯車機構34を構成する他の歯車に連結されてもよい。
【0030】
なお、回転駆動部36は、歯車ケース46の上部に配置される。換言すると、歯車ケース46は、回転駆動部36及び遊星歯車機構34を介してドラムカッタ32を支持する支持部材である。
【0031】
把持部38は、ドラムカッタ32及び回転駆動部36を圧入杭12の内側に保持するために、圧入杭12の内側を把持する。本実施系形態の把持部38は、一例として、複数のパッド50を圧入杭12の内側に当接させることで、圧入杭12の内側を把持する。パッド50は、パッドカバー52に覆われ、圧入杭12の周方向(回転方向)や鉛直方向(上下方向)に対して複数設けられる。
【0032】
パッド50は、例えば、ピストン機構やカム機構、クサビ機構によって圧入杭12の内側に当接又は離間される。このピストン機構やカム機構、クサビ機構は、油圧又は電動によって駆動される。なお、把持部38は、掘削装置30を圧入杭12の内側に着脱自在に固定できればその機構は限定されず、例えば、圧入杭12の内側に引っ掛かる構造であっても良い。
【0033】
このように本実施形態の掘削装置30は、ドラムカッタ32及び回転駆動部36を圧入杭12の内側に保持するための把持部38を備える。この構成により、掘削装置30を小型化して圧入杭12の内側に着脱自在に配置できる。
【0034】
昇降部40は、把持部38に対してドラムカッタ32を昇降させるものである。本実施形態の昇降部40は、一例として、昇降シリンダ54と昇降ガイド56によって構成される。昇降シリンダ54は、上部が把持部38(パッドカバー52)に接続され、ピストンロッドが歯車ケース46に接続され、ピストンロッドが上下動すると把持部38に対してドラムカッタ32が上下動する。なお、昇降シリンダ54は、一例として、油圧により駆動するが、これに限らず、電動により駆動してもよい。掘削装置30は、昇降部40を備えることで、地盤Aの状態に応じて圧入杭12の下端部に対するドラムカッタ32のビット44の位置を調整して掘削できる。
【0035】
また、昇降ガイド56は、昇降シリンダ54のピストンロッドの上下動に応じて、歯車ケース46を上下方向に揺動させずに滑らかに移動させるための部材であり、このような機能を有していれば構造は限定されない。
【0036】
さらに、掘削装置30は、掘削装置30を簡易に圧入杭12の内側に出し入れするために、ドラムカッタ32、回転駆動部36及び把持部38を圧入杭12の内側から吊り上げるケーブル58を備える。本実施形態のケーブル58は、一例として、回転駆動部36や把持部38に電力を供給する電力ケーブルや作動油を供給する油圧ケーブルと兼用される。
【0037】
また、本実施形態の掘削装置30のケーブル58は、一例として、
図1に示されるように、圧入杭12の上方に配置されたフック60に吊り下げられた滑車62を介して、マスト24の上部に配置されたリール64によって巻き取り、繰り出しが行われる。このような構成により、掘削装置30は、圧入杭12の内側を把持していない状態で、リール64によるケーブル58の巻き取り、繰り出しによって圧入杭12の内側を上下移動可能とされる。なお、圧入杭12は、回転圧入されるため、圧入杭12の内側に把持されている掘削装置30自体も回転する。このため、掘削装置30は、上部に設けられたロータリージョイント66を介してケーブル58が接続され、回転によるケーブル58のねじれを防止する。
【0038】
以上説明した掘削装置30の構成によれば、円筒部材42A,42Bの一端に地盤Aを掘削する複数のビット44が設けられたドラムカッタ32A,32Bが回転することで圧入杭12の内側の掘削を行う。すなわち、本実施形態の掘削装置30は、オーガスクリューのように圧入杭12の内側全面の地盤Aを掘削するのではなく、円筒状に回転するビット44が設けられたドラムカッタ32A,32Bによって圧入杭12内壁部の地盤Aのみを円筒状に掘削する。従って、本実施形態の掘削装置30によれば、圧入杭12の内側を掘削する際に地盤Aから受ける抵抗をより小さくし、より効率良く杭材を埋設できる。
【0039】
また、本実施形態のドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bとは、互いに回転方向が逆向きとなるように遊星歯車機構34に連結される。本実施形態では
図2に示されるように、内歯車34D又は遊星キャリア34Cを固定することで、ドラムカッタ32の回転方向を定める。なお、
図2(A)は内歯車34Dを固定具48によって固定することで、ドラムカッタ32A,32Bの回転方向を逆方向とする場合を示している。また、
図2(B)は遊星キャリア34Cを固定具48によって固定することで、ドラムカッタ32A,32Bの回転方向を逆方向とする場合を示している。
【0040】
このように、ドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bとを逆回転とすることにより、逆回転としない場合に比べてドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bとの相対速度を倍近くにできるので、より効率良く地盤Aを掘削できる。
【0041】
また、ドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bの回転数が同じであると、相対的に径の大きいドラムカッタ32Aのビット44はドラムカッタ32Bのビット44よりも単位時間当たりに移動する距離が長くなり、ドラムカッタ32Aのビット44はドラムカッタ32Bのビット44に比べて損耗が大きくなる。ドラムカッタ32Aのビット44とドラムカッタ32Bのビット44の損耗度合いが異なると、ドラムカッタ32A,32Bのメンテナンスの時期が異なることになり、メンテナンス作業が繁雑となる。
【0042】
そこで、本実施形態の掘削装置30は、遊星歯車機構34を構成する歯車のギヤ比を調整することで、内歯車34D又は遊星キャリア34Cに連結されるドラムカッタ32Aと太陽歯車34Aに連結されるドラムカッタ32Bとの周速(m/sec)を同じにしてもよい。これによれば、ドラムカッタ32A,32Bに設けられるビット44は単位時間当たりの移動距離が同じになるので、損耗の度合いが同じになり、ビット44に対するメンテナンス作業の煩雑さが抑制される。
【0043】
次に、
図4を参照して圧入杭12の内側に配置された掘削装置30のドラムカッタ32の上下移動について説明する。なお、
図4における圧入杭12は一端に地盤Aを掘削する回転圧入用のビット70が設けられている。すなわち、本実施形態では、掘削を行う管が圧入杭12自身とドラムカッタ32Aとドラムカッタ32Bの三重管となるので、より効率良く圧入杭12を埋設できる。
【0044】
なお、掘削装置30は、回転駆動部36の回転方向を制御することにより、圧入杭12とドラムカッタ32Bとの回転方向を同じにすることができる。そして掘削装置30は、圧入杭12とドラムカッタ32Bとに対してドラムカッタ32Aの回転方向が逆向きとなるように、ドラムカッタ32の回転方向を調整することが好ましい。これにより、圧入杭12、ドラムカッタ32A、ドラムカッタ32Bの回転方向が互い違いとなり、互い違いとしない場合に比べて各々の相対速度が速くなるので、より効率よく地盤Aを掘削できる。
【0045】
図4(A)はドラムカッタ32のビット44と圧入杭12のビット70が同位置にある場合を示している。一方、
図4(B)はドラムカッタ32のビット44が圧入杭12のビット70よりも掘削方向へ突き出ている場合を示している。
図4(B)に示されるように、ドラムカッタ32のビット44が圧入杭12のビット70よりも突き出される場合は、把持部38の位置は変わらずに昇降部40が伸びることでドラムカッタ32が掘削方向に移動する。
【0046】
そして、ドラムカッタ32のビット44が圧入杭12のビット70よりも突き出された状態で掘削が行われ、ドラムカッタ32が上方へ移動すると、
図5の概略図のように、圧入杭12の内側にドラムカッタ32の周方向に沿った空間72が生じる。そして、圧入杭12のビット70が掘削を行うと、圧入杭12の内側である空間72へ掘削された地盤Aが崩れることになるので、圧入杭12による掘削が行い易くなる。
【0047】
次に、本実施形態の掘削装置30を用いた掘削方法の工程について具体的に説明する。
【0048】
第1工程:圧入機10によって圧入杭12を地盤Aに埋設しながら、掘削装置30によって圧入杭12の内側の地盤Aを掘削する。
【0049】
第2工程:圧入杭12の埋設を中断し、掘削装置30によって掘削された土砂等の掘削物(地中障害物、
図5に示される掘削装置30の掘削により残ったコア73等)を除去するために、掘削装置30を圧入杭12から取り外す。掘削装置30を圧入杭12から取り外すためには、把持部38による圧入杭12の内側の把持を解除し、リール64によってケーブル58を巻き取る。
【0050】
掘削物の除去方法としては、例えば、ドラムカッタ32Bの内部に収納されたコア73ごと掘削装置30を圧入杭12から取り外す。このようなコア73は、例えば、岩等ある一定の長さになると折れ、切削粉と共にドラムカッタ32B内に収まるようなコアである。また掘削物の他の除去方法としては、掘削装置30を圧入杭12から取り外した後に圧入杭12の上方から内部へバケットやハンマーグラブを降下させ、これらによって掘削物を掬ったり把持して、圧入杭12の内部から上方へ持ち上げて除去する。なお、バケットやハンマーグラブ等の降下及び上昇は、掘削装置30に用いたリール64や滑車62を用いて行われてもよい。
【0051】
第3工程:圧入杭12の内側に掘削装置30を戻す。そして第1工程から第3工程を繰り返すことにより、圧入機10によって圧入杭12を地盤Aに埋設しながら、掘削装置30によって圧入杭12の内側の地盤Aを掘削する。
【0052】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0053】
例えば、上記実施形態では、圧入する杭材を鋼管とする形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、杭材は矢板等、鋼管以外のものでもよい。
図6は、杭材を矢板74とする場合における掘削装置30の配置を示す上面概略図である。
図6では、掘削装置30の把持部38は、一例として、矢板74の内側に引っ掛かる引掛部76とされ、矢板74の圧入後に矢板74の内側から外れる。
【符号の説明】
【0054】
10 圧入機
12 圧入杭(杭材)
30 掘削装置
32A ドラムカッタ(第1掘削手段)
32B ドラムカッタ(第2掘削手段)
34 遊星歯車機構
36 回転駆動部(回転駆動手段)
38 把持部(把持手段)
42A 円筒部材(第1円筒部材)
42B 円筒部材(第2円筒部材)
44 ビット(刃)