(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】受電設備の異常時対応訓練方法
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20230330BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20230330BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
H02J3/00 170
H02J13/00 N
(21)【出願番号】P 2019116901
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000153340
【氏名又は名称】日本メックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】浅野 卓
(72)【発明者】
【氏名】堀内 豊
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-240113(JP,A)
【文献】特開2015-004845(JP,A)
【文献】特開平07-015861(JP,A)
【文献】特開2017-146868(JP,A)
【文献】特開平11-195186(JP,A)
【文献】特開2016-025749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00-9/56
G09B 17/00-19/26
H02J 3/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個々のビルの実際の受電設備に対応した単線結線図を各機器の設定データを含む画面表示用データとして予め作図し、
上記受電設備の特定の異常時に保守員が操作すべき所定の操作手順に沿った訓練用シナリオをシナリオデータとして予め作成し、
上記画面表示用データおよび上記シナリオデータを含む訓練用プログラムが格納されたコンピュータ
に、上記訓練用プログラムが、上記単線結線図を画面上に表示
させ、かつこの単線結線図上で機器および配線の状態を色もしくは明るさを変えて示
させるとともに、上記訓練用シナリオに沿って保守員による異常時対応を促すメッセージをポップアップウィンドウとして順次表示
させ、上記単線結線図が示された画面上で操作対象となる機器に対して保守員が上記所定の操作手順に沿った一連の操作を正しく行ったかどうかを上記シナリオデータに基づいて判定
させる、
受電設備の異常時対応訓練方法。
【請求項2】
上記訓練用プログラムは、
上記コンピュータに、保守員が誤った操作を行ったときに、上記所定の操作手順に沿った一連の操作を最初から再度行うことを要求
させる、請求項1に記載の受電設備の異常時対応訓練方法。
【請求項3】
複数のシナリオデータが予め作成されており、
上記訓練用プログラムは、上記コンピュータに、いずれかを選択的に実行
させる、請求項1または2に記載の受電設備の異常時対応訓練方法。
【請求項4】
保守員が操作対象となる機器を画面上で選択したときに、
上記訓練用プログラムは、上記コンピュータに、当該機器の操作パネル
をポップアップウィンドウとして表示さ
せ、保守員は、ポップアップウィンドウの中で手元操作に切り換えた上で当該機器の操作を行う、請求項1~3のいずれかに記載の受電設備の異常時対応訓練方法。
【請求項5】
各機器の設定データは、開閉操作のインターロック条件および保護連動動作を含んでおり、上記訓練用プログラム
は、上記コンピュータに、保守員の画面上での操作に対して設定されたインターロック条件および保護連動動作
を機能
させる、請求項1~3のいずれかに記載の受電設備の異常時対応訓練方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビルの受電設備を管理する保守員の異常時に対する対応の訓練をコンピュータを用いて行う訓練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的大きなビルの受電設備にあっては、電力会社からの送電系統の異常などによる停電やビル内での何らかの機器の異常などに対して、受電設備の一部となる制御装置によって自動的な対応がなされるのが一般的である。しかし、この自動的な対応が何らかの原因で正常に機能しない場合には、保守員による人為的な対応が必要となる。ビルの受電設備は一般に数万ボルトといった高圧の電力を受電するので、人為的な操作には危険が伴う。そのため、このような異常時に保守員が行うべき操作の手順は、いわゆる操作手順書として文書化されており、保守員は、この操作手順書に記載された操作手順に従って断路器や遮断器等の種々の機器を操作することとなる。
【0003】
このような保守員の人為的な操作を必要とする異常は頻繁に生じるものではないため、実際に異常が生じたときに操作手順書通りの操作を的確にかつ短時間で行い得るようにするために、保守員の訓練が必要であり、いわゆるシミュレーションにより簡易に保守員の訓練を行う方法が要請されている。
【0004】
特許文献1には、電力会社におけるオペレータの訓練のために、電力系統における電気事故を模擬し、この電気事故に対してオペレータに復旧操作訓練を実施させるシミュレータが開示されている。この特許文献1では、制御所の実機そのものを用いて、オペレータが模擬電気事故に対する復旧操作を行う。
【0005】
また特許文献2には、プラントにおける非常用電源の枯渇などの過酷事象を模擬した訓練を行うシミュレータが開示されている。この特許文献2では、実機の操作盤を模した操作模擬盤を介して訓練を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-253098号公報
【文献】特開2014-202960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ビルの受電設備にあっては、電力会社の電力網から非常に高圧の電力を受電し、例えば200ボルト程度にまで変圧した上で各階へ供給するようになっているが、例えば実際のビルにおける実機を用いて訓練を行ったとしても、訓練中に、どの機器まであるいはどの配線まで電圧がある状態であるのか、あるいは断路器や遮断器等の機器の開閉状態がどうなっているのか、をイメージすることが難しい。そのため、訓練で求められる操作とビルの受電設備の機器や配線の状態(電圧の有無など)とを関連付けて把握することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る受電設備の異常時対応訓練方法は、
個々のビルの実際の受電設備に対応した単線結線図を各機器の設定データを含む画面表示用データとして予め作図し、
上記受電設備の特定の異常時に保守員が操作すべき所定の操作手順に沿った訓練用シナリオをシナリオデータとして予め作成し、
上記画面表示用データおよび上記シナリオデータを含む訓練用プログラムが格納されたコンピュータに、上記訓練用プログラムが、上記単線結線図を画面上に表示させ、かつこの単線結線図上で機器および配線の状態を色もしくは明るさを変えて示させるとともに、上記訓練用シナリオに沿って保守員による異常時対応を促すメッセージをポップアップウィンドウとして順次表示させ、上記単線結線図が示された画面上で操作対象となる機器に対して保守員が上記所定の操作手順に沿った一連の操作を正しく行ったかどうかを上記シナリオデータに基づいて判定させる、ものである。
【0009】
例えば停電時の非常用電源の不作動などの異常に対しては、保守員が操作すべき所定の手順がいわゆる操作手順書として定められているが、シナリオデータとなる訓練用シナリオは、この操作手順書に対応するように作成されている。訓練を受ける保守員は、訓練用プログラムが格納されたコンピュータを用いて、画面上に表示される単線結線図上で、定められた操作手順に沿った一連の操作を行う。例えば、断路器や遮断器を開閉操作すると、単線結線図上の機器の色もしくは明るさが変化し、これにより保守員は開閉状態を視認できる。同様に、単線結線図上で各配線が有電圧状態であるか無電圧状態であるかが配線の色もしくは明るさによって表示され、どの機器まで有電圧状態にあるのかを、訓練を受ける保守員が視認できる。
【0010】
従って、ビルの受電設備の状態をイメージしながら所定の一連の操作を正しく実行できるように訓練することで、効果的な訓練が行える。
【0011】
本発明の好ましい一つの態様では、上記訓練用プログラムは、保守員が誤った操作を行ったときに、上記所定の操作手順に沿った一連の操作を最初から再度行うことを要求する。つまり、誤った箇所からやり直すのではなく最初からやり直すことを強制することで、訓練の効果が高まり、実際の異常時における誤操作の発生を抑制できる。
【0012】
好ましくは、複数のシナリオデータが予め作成されており、いずれかを選択的に実行することができる。
【0013】
本発明の好ましい一つの態様では、保守員が操作対象となる機器を画面上で選択したときに、当該機器の操作パネルがポップアップウィンドウとして表示され、保守員は、ポップアップウィンドウの中で手元操作に切り換えた上で当該機器の操作を行う。
【0014】
すなわち、遮断器等の近時の機器の多くは自動制御装置などによる遠方からの遠隔操作が可能であり、保守員が手動操作を行う場合には、手元操作に切り換える必要がある。従って、訓練時にも同様の手元操作への切換操作を求めることで、より実際に近い訓練が可能である。
【0015】
コンピュータに格納される画面表示用データには各機器の設定データが含まれている。この設定データは、例えば、開閉操作のインターロック条件および保護連動動作を含んでおり、上記訓練用プログラムにおいては、保守員の画面上での操作に対して設定されたインターロック条件および保護連動動作が機能する。これにより、各機器のインターロック条件や保護連動動作を保守員に覚えさせながら訓練を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、ビルの受電設備のどの機器まであるいはどの配線まで有電圧状態であるのか、あるいは断路器や遮断器等の機器の開閉状態がどうなっているのかを、ビルの受電設備を示す単線結線図上で表示しながら異常時対応の訓練を行うので、訓練で求められる操作とビルの受電設備の機器や配線の電圧有無状態とを関連付けて把握することができ、効率のよい訓練を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】このビルにおける受電設備の構成を示す平面図。
【
図4】表示画面を作図している段階のコンピュータ画面を示す図。
【
図5】訓練用シナリオを作成している段階のコンピュータ画面を示す図。
【
図7】遮断器の(a)「切」状態、(b)「入」状態、(c)「断路」状態、の各々の画面表示を示す説明図。
【
図8】遮断器を手元操作状態としたときの画面表示を示す説明図。
【
図9】機器を選択したときのポップアップウィンドウを示す説明図。
【
図10】訓練用シナリオの一例を示すフローチャート。
【
図11】
図10のステップ1におけるメッセージのウィンドウを示す説明図。
【
図12】
図10のステップ4におけるメッセージのウィンドウを示す説明図。
【
図13】
図10のステップ7におけるメッセージのウィンドウを示す説明図。
【
図14】
図10のステップ13とステップ14との間の時点における単線結線図の表示状態を示す説明図。
【
図15】
図10のステップ15におけるメッセージのウィンドウを示す説明図。
【
図16】
図10のステップ17,18におけるメッセージのウィンドウを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、一例として地下階に特別高圧受電室1と電気室2とを備え、屋上に非常用電源となるガスタービン式発電機(GTG)3を備えたある特定のビルの電力系統の概略構成を示している。特別高圧受電室1には、符号L1,L2,L3として示すように、いわゆるスポットネットワーク受電として電力会社から3回線の配電線が接続されている。これらの配電線L1,L2,L3から、例えば、22kVの高圧で受電する。この高圧は、特別高圧受電室1ならびに電気室2の中で200Vにまで変圧した上で、ビルの各階の電気機器(例えば、コンセント、照明、空調機器、医療機器、ポンプ等)へ送電される。
【0020】
図2は、特別高圧受電室1および電気室2の中に配置される多数の盤101~152のレイアウトを平面図として示したものである。また、
図3は、特別高圧受電室1および電気室2の受電設備の単線結線図であり、
図2に示した盤101~152の各々に対応する部分を細い線で囲み、同一の符号を付して示してある。以下では、
図2と
図3とを併せてこのビルにおける受電設備の構成を説明する。
【0021】
配電線L1,L2,L3がそれぞれ接続される引込盤101,102,103は、それぞれ断路器11を含み、各引込盤101,102,103には、変圧器12を含む変圧器盤104,105,106が接続されている。変圧器12によって22kVの高圧が6.6kVに変圧される。変圧器12の出力側に接続される盤107,108,109は、それぞれ、電力計14、電圧センサ15、プロテクタとなる遮断器16、避雷器17を含んでいる。
【0022】
遮断器16を介して変圧器12の出力側に接続されるフィーダー盤110~115は、それぞれ1つあるいは複数の遮断器18を含んでおり、この遮断器18を介して電気室2側の複数の配電盤125~150に6.6kVの電力を供給する。フィーダー盤110,111における母線19とフィーダー盤112~115における母線20とは、母線連絡盤116を介して互いに接続されている。母線連絡盤116は、2つの母線19,20の間に位置する遮断器21と、各々の母線19,20に対して設けられた電圧センサ22,23と、を含んでいる。母線20側のフィーダー盤112~115は、停電時に非常用電源(ガスタービン式発電機)3による電力供給を受ける負荷に対応し、母線19側のフィーダー盤110,111は、停電時に非常用電源(ガスタービン式発電機)3による電力供給を受けない負荷に対応している。また、フィーダー盤115は、ガスタービン式発電機3から母線20へ至る間に位置する遮断器25を含んでいる。
【0023】
エンジン連絡盤117,118は、ガスタービン式発電機3とフィーダー盤115との間で電力を取り出すように後から増設された盤であり、断路器26,27を含んでいる。また、ガスタービン式発電機3とともに屋上に配置された盤153は、遮断器28を含んでいる。
【0024】
コンデンサ盤119~122は、力率改善のために受電設備に付設されたもので、それぞれ遮断器29およびコンデンサ30を含んでいる。
【0025】
さらに、特別高圧受電室1内には、停電時のバックアップ電源となる直流バッテリ123とともに制御盤124が配置されており、この制御盤124に、スポットネットワーク制御スイッチ31および買電・自家発電切換スイッチ32が設けられている。これらスイッチ31,32は、停電時も含め通常は自動制御されているが、後述するように手動でガスタービン式発電機3による電力供給を行う際には、これらスイッチ31,32が手動で切り換えられる。
【0026】
電気室2には、
図2に示すように、多数の配電盤125~150が配置されており、これらの配電盤125~150を介してビルの各階の電気機器に電力が供給される。配電盤125~150は、
図3に示すように、それぞれ断路器(LBS)34と変圧器35を含んでおり、フィーダー盤110~115の遮断器18にそれぞれ接続されている。電気室2は、さらに、停電時における制御用の電源となる制御用バッテリ151と、非常照明用バッテリ152と、を備えている。
【0027】
本発明の異常時対応訓練は、このような個々のビルの実際の受電設備に対応した単線結線図を訓練用の画面として表示するコンピュータを用いて行う。訓練用に表示される単線結線図は、基本的に、
図3に示したビル受電設備の単線結線図と同様のものとなる。
【0028】
図4は、訓練用のコンピュータに表示される画面表示用データをデータ作成用のコンピュータによって作図しているところのコンピュータ画面を示した説明図である。画面表示用データは、例えば、フローチャートやダイヤグラムを作成するための市販のソフトウェアである「Microsoft Visio」(登録商標)を用いて作図される。
図4に示す画面の左側部分に示すように、ケーブルや遮断器、変圧器等の機器要素がステンシルとして予め用意されており、これらのステンシルを用いて、個々の実際のビルの受電設備に対応した単線結線図が作図される。
図4に示す画面の右側部分は、作図中の単線結線図である。このようにステンシルを用いて作図を行うことで、例えば実際のビルの受電設備において何らかの機器(あるいは盤)が増設されたり逆に取り除かれたりした場合に、訓練用表示画面となる単線結線図を容易に変更することができる。
【0029】
作図される単線結線図上の各機器には、さらに各機器の設定データが当該機器の表示にリンクしたものとして与えられている。例えば、実際の遮断器や断路器には、開閉操作のインターロック条件や保護連動動作が設定されるが、作図される単線結線図のデータにおいても、このインターロック条件や保護連動動作等が、機器の設定データとして設定されている。機器の設定データは、デフォルトでは表示されておらず、例えば、マウスを用いて各機器を選択し、かついわゆる右クリック動作を行うことで、単線結線図上にポップアップウィンドウの形で表示される。作図を行うオペレータは、このポップアップウィンドウの中で機器の設定を行うことができる。機器の設定としては、そのほかに、無電圧遮断の有無、無電圧遮断までの動作時間、有電圧に対する自動復帰の有無、自動復帰までの動作時間、などがある。
【0030】
このようにして作図された単線結線図の画面表示用データは、各機器にリンクした機器設定データとともに、訓練用プログラムの一部としてコンピュータの記憶装置に保存される。
【0031】
また、データ作成用のコンピュータを用いて、オペレータによって、訓練用シナリオが作成される。訓練用シナリオは、受電設備の特定の異常時に保守員が操作すべき所定の操作手順に沿ったシナリオであり、
図5に示すような画面を有するシナリオ作成支援プログラムを用いて作成することができる。
図5の例は、
図10にフローチャートとして示すエンジン手動運転の訓練用シナリオを作成しているところを示している。画面のウィンドウ内には、
図10に示したフローチャートの各ステップに相当する処理が順序通りに並べられている。「操作モード」は、「自動」、「手動」、「メッセージ」の3つから選択され、「自動」は自動に進行するステップであり、「手動」は訓練を受ける保守員の手動操作が必要なステップであり、「メッセージ」は画面上にポップアップウィンドウとしてメッセージを表示するステップである。「メッセージ文章」の欄には、メッセージのステップにおいて表示されるメッセージが書き込まれる。「開始待ち時間」の欄の「3」は、自動に処理される最初の3つのステップが、シナリオ開始から3秒後に実行されることを示している。「機器名」の欄は、各ステップでの処理の対象となる機器を示し、「操作選択」は手元操作であるか遠方操作(つまり遠隔操作)であるかを示し、「状態」は、各ステップでの処理の内容を示す。
【0032】
なお、遮断器等の機器は通常は自動制御されており、これを「遠方操作」という。これに対し、盤の機器を手動で操作することを「手元操作」という。高圧受電設備における遮断器等の機器は、一般に、操作の態様を「遠方操作」から「手元操作」に切り換えた上でなければ、手動での開閉操作を行うことができない。
【0033】
訓練用シナリオは、
図5に示すような画面を有するシナリオ作成支援プログラムを用いることで、ステップの追加・削除・変更を容易に行うことができる。従って、全く別個の訓練用シナリオを新たに作成できるのは勿論のこと、前述したように実際のビルの受電設備に変更があり訓練用の単線結線図が修正されたような場合に、既存の訓練用シナリオの修正が容易である。作成された訓練用シナリオは、訓練用プログラムの一部をなすシナリオデータとしてコンピュータの記憶装置に保存される。
【0034】
保守員の訓練は、上記のような画面表示用データおよびシナリオデータを含む訓練用プログラムが格納されたコンピュータを用いて行われる。訓練用コンピュータは、上述したデータ作成用のコンピュータと同じコンピュータであってもよく、別のコンピュータであってもよい。これらコンピュータとしては、ディスプレー、マウスやキーボード等の入力装置、ハードディスク等の記憶装置、などを含む一般的なパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0035】
図6は、訓練用コンピュータにおける画面表示の例を示している。これは、
図1~
図3で説明した特定のビルの保守員に対する訓練に用いられる画面であり、
図4のように作図された受電設備の単線結線図が表示される。このとき、各部の配線(ケーブル)が無電圧状態であるか有電圧状態であるかが、異なる色、例えば緑色と赤色とを用いて表示される。無電圧状態にある配線は緑色となり、有電圧状態にある配線は赤色となる。
【0036】
同様に、遮断器や断路器の開閉状態が、異なる色、例えば緑色と赤色とを用いて表示される。また、機器を物理的に配線経路から切り離した断路状態が存在する遮断器等については、「×」記号を重ねることで、断路状態が示される。
図7(a),(b),(c)は、例えば遮断器18の「切」状態、「入」状態、「断路」状態、の表示をそれぞれ示しており、(a)の「切」状態では矩形の記号内が緑色となり、(b)の「入」状態では矩形の記号内が赤色となる。さらに、(c)の「断路」状態では、緑色の四角の中に「×」記号が表示される。
【0037】
このような色分け表示により、訓練を受ける保守員は、機器の現在の状態ならびに配線のどこまでが電力供給されている状態であるのかを容易に認識することができる。
【0038】
また、前述した手元操作可能な遮断器等の機器については、「手元操作」に切り換えたことが赤色の小さな点の点灯でもって併せて表示される。
図8に示すように、例えば遮断器18が「手元操作」に切り換えられると、矩形の記号に隣接して、赤色の点38が点灯する。これにより、訓練を受ける保守員は、当該機器が「手元操作」状態にあることを認識することができる。
【0039】
なお、電力会社からの電力網が停電していない通常時(換言すれば訓練用シナリオの開始前)には、ガスタービン式発電機3から母線20へ至る系統を除き、基本的にほぼ全体(機器ならびに配線)が赤色となっている。また、遮断器等の機器は、いずれも「遠方操作」状態にある。
【0040】
図9は、遮断器18の1つをマウスで選択し、かついわゆる右クリックすることで、当該遮断器18の操作パネル41をポップアップウィンドウとして表示させた状態を示している。操作パネル41は、単線結線図の上に表示される。図示するように、操作パネル41を開いた状態において、当該機器つまり当該遮断器18の「手元操作」と「遠方操作」の切換、「切」、「入」、「断路」の切換、などの操作が可能である。この操作は、ポップアップウィンドウ内の矩形のボタンをマウスでクリックすることでなされる。切換後の状態は、前述した単線結線図の表示に反映する。
【0041】
仮に連動動作が設定されている場合には、1つの機器の操作によって連動する他の機器の状態が変化し、同様に単線結線図上に表示される。またインターロック条件に反する操作は、操作パネル41においても行うことができない。つまり、インターロック条件に反する場合は、操作パネル41のボタンをクリックしても、機器の状態が変化しない。
【0042】
次に、上記のようなコンピュータを用いた保守員の具体的な訓練の一例を説明する。
【0043】
図10は、訓練用シナリオの一例をフローチャートとして示したものである。この例の訓練用シナリオは、電力会社からの電力供給が停電し、さらに本来は停電に伴って自動に動作すべきであるガスタービン式発電機3が起動しない場合に、保守員がガスタービン式発電機3の手動起動を行う、というものである。このような異常時に必要な対応ないし操作の手順は、一般に操作手順書として文書化されてビルに備えられている。訓練用シナリオは、この操作手順書に対応して作成されている。
【0044】
訓練用シナリオは、ステップ1から開始し、ここでは、
図11に示すように「”エンジン手動運転演習”のシミュレーションを開始してもよろしいですか?」という確認メッセージが画面上に表示される。詳しくは、単線結線図上にポップアップウィンドウとして表示される。ここで、訓練を受ける保守員が「OK」のボタンをクリックすると、シナリオはステップ2へ進み、電力会社からの配電線L1,L2,L3がいずれも停電状態となる。これにより、単線結線図の各部の配線は、無電圧を示す緑色となる。
【0045】
次いで、シナリオはステップ3へ進み、ここで、「受電電圧確認(無電圧)」というメッセージがポップアップウィンドウとして表示される。保守員は、このメッセージに対して、単線結線図を目視して、各部が無電圧であることを確認する。なお、本来は停電時にガスタービン式発電機3が自動に起動し、少なくとも一部の系統が赤色となるので、保守員は、ガスタービン式発電機3に連なる系統が赤色であるか緑色であるかによって、ガスタービン式発電機3が正常に起動しているかどうかを認識することができる。
【0046】
ステップ3のポップアップウィンドウ内の「OK」ボタンを保守員がクリックすると、シナリオはステップ4へ進み、
図12に示すように「停電が発生しましたが、エンジンが自動起動しないようです。エンジンの手動起動を行ってください。」というメッセージが表示される。
【0047】
ステップ4のポップアップウィンドウ内の「OK」ボタンを保守員がクリックすると、シナリオはステップ5へ進む。ステップ5以降が実質的な訓練に相当し、保守員は所定の手順に従った操作を順次行う必要がある。
【0048】
訓練用シナリオとしては、エンジンの手動起動のために、最初にスポットネットワーク制御スイッチ31を「不使用」側に切り換え、次に、買電・自家発電切換スイッチ32を「手動」側に切り換える必要がある。ステップ5では、訓練用プログラムは、保守員が所定の手順通りにスポットネットワーク制御スイッチ31を「不使用」側に切り換えたかどうかを判定する。保守員が「不使用」側に切換操作をすれば、シナリオはステップ6へ進む。ステップ6では、同様に、保守員が所定の手順通りに買電・自家発電切換スイッチ32を「手動」側に切り換えたかどうかを判定する。保守員が「手動」側に切換操作をすれば、シナリオはステップ7へ進む。保守員が誤って他の操作をした場合には、ステップ5もしくはステップ6から後述するステップ17へ進む。
【0049】
ステップ7では、
図13に示すように「プロテクタ遮断器がすべて遮断していることを確認してください。」というメッセージがポップアップウィンドウとして表示される。配電線L1,L2,L3がそれぞれ接続される引込盤101,102,103における遮断器16がプロテクタ遮断器である。保守員は、停電に伴ってこれらの遮断器16が実際に遮断状態にあることを確認した上で、「OK」ボタンをクリックする。このクリックにより、シナリオはステップ7からステップ8へ進む。
【0050】
ステップ8では、同様に「母線連絡B52遮断器が遮断していることを確認。」というメッセージがポップアップウィンドウとして表示される。「母線連絡B52遮断器」とは母線連絡盤116の遮断器21である。保守員は、この遮断器21が実際に遮断状態にあることを確認した上で、「OK」ボタンをクリックする。このクリックにより、シナリオはステップ8からステップ9へ進む。
【0051】
ステップ9では、同様に「フィーダー遮断器がすべて遮断していることを確認。」というメッセージがポップアップウィンドウとして表示される。「フィーダー遮断器」とはフィーダー盤110~115の遮断器18である。保守員は、これらの遮断器18が実際に遮断状態にあることを確認した上で、「OK」ボタンをクリックする。このクリックにより、シナリオはステップ9からステップ10へ進む。
【0052】
なお、実際の非常時においては、ステップ7~9の処理として、保守員が特別高圧受電室1内で実際に各遮断器の状態を確認することとなる。訓練用コンピュータでは、画面に表示されている単線結線図上で模擬的に確認が可能である。
【0053】
操作手順書に定められた所定の手順としては、ステップ7~9の遮断器の遮断状態の確認後に、保守員が手動でガスタービン式発電機3の起動を行う必要がある。ステップ10では、訓練用プログラムは、保守員が所定の手順通りにガスタービン式発電機3を起動したかどうかを判定する。保守員が画面上でガスタービン式発電機3を「運転」側に切換操作すれば、シナリオはステップ10からステップ11以降へ進む。保守員が誤って他の操作をした場合には、ステップ10から後述するステップ18へ進む。
【0054】
なお、実際の非常時においては、保守員は屋上へ上がってガスタービン式発電機3の起動を行うこととなる。訓練用コンピュータでは、画面に表示されている単線結線図上でマウスを用いてガスタービン式発電機3を選択し、右クリックにより前述した操作パネルをポップアップウィンドウとして表示させて模擬的に起動を行う。
【0055】
操作手順書に定められた所定の手順としては、ガスタービン式発電機3の起動後、初めにガスタービン式発電機3に隣接した屋上の盤153の遮断器28を投入し、その次に母線20に至るフィーダー盤115の遮断器25を投入する必要がある。
【0056】
このような所定の手順に対応して、ステップ11では、保守員が所定の手順通りに遮断器28を投入したかどうかを判定する。保守員がマウスで遮断器28を選択してポップアップウィンドウとして操作パネルを表示させ、遮断器28を「入」側に切換操作すれば、シナリオはステップ11からステップ12へ進む。ステップ12では、同様に、保守員が所定の手順通りに遮断器25を投入したかどうかを判定する。保守員がマウスで遮断器25を選択してポップアップウィンドウとして操作パネルを表示させ、遮断器25を「入」側に切換操作すれば、シナリオはステップ12からステップ13へ進む。保守員が誤って他の操作をした場合には、ステップ11もしくはステップ12から後述するステップ18へ進む。
【0057】
遮断器25を投入した後は、母線20と配電盤125~150との間に設けられたフィーダー盤112~115の遮断器18を、所定の順序で順次投入していく必要がある。ステップ13では、保守員が所定の手順通りに最初に投入すべき遮断器18を投入したかどうかを判定する。保守員がマウスで遮断器18を正しく選択してポップアップウィンドウとして操作パネルを表示させ、当該遮断器18を「入」側に切換操作すれば、シナリオはステップ13からステップ14へ進む。ステップ14では、次に投入すべき遮断器18が投入されたかどうかを判定する。以降は、母線20に接続された遮断器18の順次の投入を繰り返し判定する。
図10のフローチャートでは、この繰り返し部分を図示省略してある。
【0058】
母線20に接続された遮断器18が全て所定の順序通りに投入されたら、シナリオはステップ15へ進む。ステップ15では、
図15に示すように「エンジン系統への送電が完了しました。停電復旧までの発電状態を監視してください。」という最後のメッセージがポップアップウィンドウとして表示される。このポップアップウィンドウ内の「OK」ボタンを保守員がクリックすると、シナリオはステップ16へ進んで終了する。
【0059】
一方、ステップ5,6,10~14等で保守員が誤って他の操作を行った場合には、ステップ17もしくはステップ18へ進む。ステップ17,18では、
図16に示すように「手順ミスによりシミュレーションを中断しました。初期状態となるため最初からやり直してください。」というメッセージがポップアップウィンドウとして表示される。このポップアップウィンドウ内の「OK」ボタンを保守員がクリックすると、シナリオはステップ1へ戻る。従って、保守員は、訓練用シナリオの最初から訓練をもう一度行う必要がある。結果として、保守員が正しい手順で全ての処理を完了するまで訓練が繰り返されることとなる。
【0060】
訓練用コンピュータにおいて保守員が行った訓練の結果は、訓練ログとして訓練用コンピュータの記憶装置に保存され、必要に応じて一覧表として表示が可能である。
図17は、訓練用コンピュータの画面に表示される訓練ログの一例を示している。訓練ログには、シナリオ名や訓練を受けた保守員名のほか、所要時間ややり直しの回数が含まれている。この訓練ログに基づき、やり直しの回数を0とすることを目標として訓練を行うことができる。
【0061】
このようにして、保守員の訓練が訓練用シナリオに沿って行われるが、この訓練用シナリオに沿った所定の手順の操作の間、画面上の単線結線図の機器や配線の状態が上述した赤色や緑色等によって逐次表示される。例えば、
図14は、
図10のフローチャートで示す訓練用シナリオの中でステップ13とステップ14との間の時点(
図10に矢印Aで示す)における単線結線図の表示状態を示している。図に太実線で示した配線(ケーブル)および機器は、画面では、赤色に表示される。他の細実線の配線(ケーブル)等は、緑色に表示される。このような表示により、操作の過程の中で、どの機器まで有電圧状態にあるのかを訓練を受ける保守員が視認できる。従って、ビルの受電設備の状態をイメージしながら所定の一連の操作を正しく実行できるように学習することができ、効果的な訓練が行える。
【0062】
なお、上記の例では、1つの訓練用シナリオのみを説明したが、実際には、各ビル毎に複数の訓練用シナリオを作成しておき、訓練用コンピュータにおいていずれかを選択的に実行できるように構成することが好ましい。
【符号の説明】
【0063】
1…特別高圧受電室
2…電気室
3…ガスタービン式発電機
12…変圧器
16,18,21,25…遮断器
19,20…母線
41…操作パネル