(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】サインペン用水性インク組成物およびサインペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230330BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02
(21)【出願番号】P 2019126980
(22)【出願日】2019-07-08
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
(72)【発明者】
【氏名】佐川 弥
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071665(JP,A)
【文献】特開2014-105282(JP,A)
【文献】特開2008-163238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、シリコーン・アクリル共重合体粒子及び着色剤を含有しており、シリコーン・アクリル共重合体粒子の平均粒子径が100nm~900nmであ
り、かつ、前記シリコーン・アクリル共重合体粒子の含有率が0.5質量%以上10質量以下である、サインペン用水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サインペン用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ボールペン、サインペン等の、インクを用いた筆記具が広く用いられている。このインクの一態様として、水を主体とする溶媒、染料、顔料等の着色剤を含有する水性インクが存在する。水性インクの性能向上のため、種々の研究が行われている。
【0003】
特許文献1では、水、固形シリコーン粒子及び着色剤を含有しており、かつ動的光散乱法で測定したときの、前記固形シリコーン粒子の平均粒子径が20nm~500nmである、サインペン用水性インク組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2では、水性インキの表面張力が30mN/m以下であり、かつ円盤体の平面部に対する水性インキの接触角が30°以上である直液式筆記具用水性インキ組成物が開示されている。特許文献2では、水性インキ組成物に乳化物を含有している態様、より具体的にはシリコーンエマルションを含有している態様が開示されている。
【0005】
特許文献3では、着色剤、樹脂、溶剤及び添加剤とからなるボールペン用インキにおいて、球状シリコーン樹脂微粒子を含有してなるボールペン用インキが開示されている。特許文献3においては、平均粒子径が1μm未満の場合は目詰まり効果が弱くなり過ぎ、10μmをこえる場合強い目詰まりにより、筆記性が悪化するので、好ましくないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-125097号公報
【文献】特開2012-97153号公報
【文献】特開平8-134391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
筆記の用途によっては、水性インクをサインペンに用いることが求められることがある。この場合、上記の水性インクをサインペンに用いることが考えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献2のように、シリコーンエマルションを含有している水性インクをサインペンに用いた場合、表面に皮膜が形成され、その結果良好な書き味が得られない。
【0009】
また、特許文献3のように、平均粒径1μm以上の球状シリコーン樹脂微粒子を含有している水性インクをサインペンに用いた場合にも、良好な書き味が得られない。
【0010】
このような課題に鑑み、出願人は、特許文献1のような良好な書き味を有する、サインペン用水性インク組成物の発明をするに至った。しかしながら、ペン先を露出した状態を続けると、書き出し時にインクがかすれるという現象がしばしば発生した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈1〉水、シリコーン・アクリル共重合体粒子及び着色剤を含有しており、シリコーン・アクリル共重合体粒子の平均粒子径が100nm~900nmである、サインペン用水性インク組成物。
〈2〉インク貯蔵部、筆記部を少なくとも具備しており、かつ前記インク貯蔵部に上記<1>項に記載のサインペン用水性インク組成物が貯蔵されている、サインペン。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な書き味を有し、かつペン先を露出しても書き出し時のかすれが生じにくい、サインペン用水性インク組成物を提供することができる。
発明を実施するための形態
【0013】
《サインペン用水性インク組成物》
本発明のサインペン用水性インク組成物は、水、シリコーン・アクリル共重合体粒子、及び着色剤、並びに随意の水溶性有機溶剤を含有している。このシリコーン・アクリル共重合体粒子は、動的光散乱法で測定したときの平均粒子径が100nm~900nmである。
【0014】
本発明のサインペン用水性インク組成物は、他の成分を更に含有していてもよい。
【0015】
ここで、本発明において「サインペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味する。
【0016】
本発明者らは、平均粒子径が100nm~900nmのシリコーン・アクリル共重合体粒子をサインペン用水性インク組成物に含有させることにより、このインク組成物を用いたサインペンの書き味が向上し、かつペン先を露出しても、書き出し時のかすれが生じにくいことを見出した。ここで、「書き味が向上する」とは、サインペンで筆記した際の動摩擦係数が低減することを意味するものであり、「書き出し時のかすれが生じにくい」とは、インクの流出量が安定し、描線濃度がほぼ一定であることを意味する。
【0017】
理論に拘束されることを望まないが、この理由としては、シリコーン・アクリル共重合体粒子のアクリル成分がペン先を構成する部材に配向し、一方でシリコーン成分が紙面側に配向することで、紙面との摩擦を低減しているものと考えられる。更に、シリコーン・アクリル共重合体粒子は、水分が揮発して凝集を生じても、その凝集力が弱いため、筆記動作によって凝集が破壊されやすく、結果としてインクの流出を損なわないものと考えられる。
【0018】
シリコーン・アクリル共重合体粒子の含有率は、インク組成物の全量に対して、0.5質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、又は2.5質量%以上であることができ、また10質量%以下、8質量%以下、又は6質量%以下であることができる。特に、インク組成物の粘度を小さくし、それにより良好な書き味を発現させ、強固な凝集を生じさせないという観点から、シリコーン・アクリル共重合体粒子の含有率は上記の範囲であることが好ましい。
【0019】
着色剤の含有率は、インク組成物の全量に対して、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上とすることができ、また30質量%以下、25質量%以下、又は25質量%以下とすることができる。
【0020】
以下では、本発明のサインペン用水性インク組成物の各構成要素について説明する。
【0021】
〈水〉
水は、イオン交換水、蒸留水等であることができる。
【0022】
〈シリコーン・アクリル共重合体粒子〉
シリコーン・アクリル共重合体粒子は、平均粒子径が100nm~900nmである。なお、ここでいう平均粒子径とは、動的光散乱法により検出された散乱強度分布を正規分布に当てはめて平均粒子径を算出するキュムラント解析法により求めたD50の値である。
【0023】
ここで、動的光散乱法による粒径の測定は、例えば大塚電子株式会社の濃厚系粒径アナライザー「FPAR-1000」を用いて行うことができる。
【0024】
また、シリコーン・アクリル共重合体粒子は、主鎖がシリコーン成分、側鎖がアクリル成分からなる構造を有するシリコーン・アクリル共重合体粒子であることが、本発明のサインペンの書き味を向上させ、書き出し時のインクのかすれを抑制する観点から好ましい。
このような化学構造を有するため、それぞれの成分がより配向しやすくなると推測される。
【0025】
シリコーン・アクリル共重合体粒子としては、日信化学工業株式会社が「シャリーヌ」として販売しているシリコーン・アクリル系ハイブリッド樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
シリコーン・アクリル共重合体粒子の平均粒子径は、100nm以上、120nm以上、150nm以上であることができ、また900nm以下、700nm以下、500nm以下であることができる。特に、サインペンの筆記部と紙との間にシリコーン・アクリル共重合体を良好に供給する観点から、シリコーン・アクリル共重合体粒子の平均粒子径は上記の範囲であることが好ましい。
【0027】
〈着色剤〉
着色剤としては、染料、顔料、又は染料と顔料との混合物等、従来のインクに用いることができる種々の着色剤を使用することができる。
【0028】
本発明で使用することができる染料としては、通常の染料インク組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、酒精溶性染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料、造塩染料、樹脂に染料を染着した染料等の中から任意のもの、及びこれらの水溶液を使用することができる。
【0029】
本発明で使用することができる顔料としては、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン顔料等の無機顔科、タルク、シリカ、アルミナ、マイカ、アルミナシリケート等の体質顔科、アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン顔料、キナクドリン顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、各種レーキ顔料等の有機顔料、蛍光顔料、パール顔料、金色、銀色等のメタリック顔料等が挙げられる。
【0030】
本発明で使用する着色剤は、上記した染料、顔料を単独で使用することができ、あるいは上記した染料、顔料を混合して使用することもできる。
【0031】
〈水溶性有機溶剤〉
水溶性有機溶剤としては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等のヒンダードアルコール、グリセリン又はその誘導体(例えば、ポリグリセリンなど)、ソルビタン、蔗糖、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のポリグリコール類等が好ましく使用できる。
【0032】
〈他の成分〉
本発明のサインペン用水性インク組成物は、本発明の作用を損なわない範囲で、他の成分、例えばpH調整剤、防腐剤、顔料分散剤等の添加剤等を含有していてもよい。
【0033】
《サインペン用リフィル》
サインペン用リフィルは、インク貯蔵部を具備している。このインク貯蔵部には、上記のサインペン用水性インク組成物が貯蔵されている。
【0034】
サインペン用リフィルは、サインペンにおける交換可能な部位を意味する。
【0035】
また、サインペン用リフィルは、筆記部を更に具備していてもよい。
【0036】
すなわち、サインペン用リフィルは、インク貯蔵部のみが交換可能な部位となるインクカートリッジであってもよく、インク貯蔵部と筆記部とが一体となって交換可能な部位となるものであってもよい。
【0037】
〈インク貯蔵部〉
インク貯蔵部には、上記のサインペン用水性インク組成物が貯蔵されている。
【0038】
インク貯蔵部は、インクを貯蔵し、かつ筆記部にインクを供給することができる物であれば、任意の物を用いることができる。
【0039】
〈筆記部〉
筆記部は、サインペンの筆記部として用いることができる材料で構成されていればよい。筆記部としては、例えば繊維芯及びプラスチック芯が挙げられる。
【0040】
繊維芯は、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組合せからなる平行繊維束、フェルト等の繊維束を加工又はこれらの繊維束を樹脂加工した芯である。
【0041】
《サインペン》
本発明のサインペンは、インク貯蔵部、筆記部及び保持部を少なくとも具備している。
【0042】
インク貯蔵部及び筆記部としては、サインペン用リフィルに関して挙げたものを用いることができる。また、保持部は、サインペンを使用する使用者が保持する部分であり、樹脂、木材、金属等で形成されており、滑り止めのゴム等で形成されていてもよい。
【0043】
《サインペン用水性インク組成物製造方法》
シリコーン・アクリル共重合体粒子、及びサインペン用水性インク組成物を構成する材料をディスパー等の攪拌機器を用いて混合しながら、従来公知の方法で製造する。
【実施例】
【0044】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0045】
《組成物の作製》
〈実施例1〉
【0046】
着色剤としてのカーボンブラック(8.0質量部)、顔料分散剤としてのスチレンアクリル酸樹脂(1.8質量部)、防腐剤(バイオデン421、大和化学工業株式会社、0.3質量部)、pH調整剤としてのトリエタノールアミン(0.2質量部)、溶剤としてのグリセリン(10.0質量部)、シリコーン・アクリル共重合体粒子(4.0質量部)及びイオン交換水(残部)を用い、実施例6の水性インク組成物を100質量部作製した。
【0047】
〈実施例2〉
実施例1で用いた平均粒子径が230nmであるシリコーン・アクリル共重合体粒子を、平均粒子径が120nmのシリコーン・アクリル共重合体粒子)に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2の水性インク組成物を作製した。
【0048】
〈実施例3〉
実施例1で用いた平均粒子径が230nmであるシリコーン・アクリル共重合体粒子を、平均粒子径が390nmのシリコーン・アクリル共重合体粒子)に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例3の水性インク組成物を作製した。
【0049】
〈実施例4〉
実施例1で用いた平均粒子径が230nmであるシリコーン・アクリル共重合体粒子を、平均粒子径が840nmのシリコーン・アクリル共重合体粒子)に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例4の水性インク組成物を作製した。
【0050】
〈実施例5〉
シリコーン・アクリル共重合体粒子の質量部を、1質量部に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例5の水性インク組成物を作製した。
【0051】
〈実施例6〉
シリコーン・アクリル共重合体粒子の質量部を、8質量部に変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例6の水性インク組成物を作製した。
【0052】
〈比較例1〉
シリコーン・アクリル共重合体粒子を含有させなかったことを除き、実施例1と同様にして、比較例1の水性インク組成物を作製した。
【0053】
〈比較例2〉
シリコーン・アクリル共重合体粒子の代わりに、特開2017-125097実施例6に記載の固形シリコーン粒子添加粒子(固形分換算で10質量部)を用いたことを除き、実施例1と同様にして、比較例1の水性インク組成物を作製した。
【0054】
《評価》
作製した水性インク組成物を、サインペンのインク貯蔵部にそれぞれ充填した。サインペンの筆記部としては、ポリアセタール芯を用いた。
【0055】
<動摩擦係数>
各サインペンについて、表面性測定器(HEIDON-14D、新東化学株式会社)を用い、筆記速度3.3m/分、荷重100g、並びに筆記角度90°の条件で、10cmの直線動作をした際の摩擦抵抗を3回ずつ測定し、その平均値から摩擦係数を求めた。筆記用紙としては、標準紙(しらおい)を用いた。
【0056】
<書き出し時の描線状態>
各サインペンについて、キャップを外した状態で25℃65%RHの環境に24時間保管後、上記筆記用紙に直径5cmの丸を筆記して、描線の状態を下記基準にて評価した。
A:かすれなく良好に筆記できる。
B:書き出しから5mm未満のかすれが発生するが、その後は良好。
C:書き出しから5mm以上のかすれが発生する。
【0057】
結果を表1に示す。
【0058】
なお、表1中の平均粒子径は、実施例1~6及び比較例1~2については上記の動的光散乱法により測定したものである。
【0059】
【0060】
表1から、平均粒子径が100nm~900nmのシリコーン・アクリル共重合体粒子を含有している実施例1~6の水性インク組成物は、比較例1~2の水性インク組成物と比較して、サインペンに用いた場合に良好な書き味が得られ、書き出し時の描線状態も良好であることが理解されよう。なお、比較例2では、書き味は良好(動摩擦係数が低い)であったものの、書き出し時にかすれが生じた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
サインペン用インク組成物及びこれが貯蔵されているサインペンが得られる