(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】マイクロ波加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/64 20060101AFI20230330BHJP
H05B 6/80 20060101ALI20230330BHJP
H05B 6/74 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
H05B6/64 D
H05B6/80 Z
H05B6/74 E
(21)【出願番号】P 2019198861
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】須田 保
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/192062(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0112819(US,A1)
【文献】特開昭61-290722(JP,A)
【文献】特表2019-517707(JP,A)
【文献】特開2001-052852(JP,A)
【文献】特開2000-150137(JP,A)
【文献】特開2019-87410(JP,A)
【文献】特開2006-338895(JP,A)
【文献】特表平11-507476(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第1092861(GB,A)
【文献】特開昭53-131977(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141826(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/64
H05B 6/80
H05B 6/74
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波加熱用の空洞共振器と、マイクロ波加熱対象の収容容器と、前記空洞共振器の励振器と、前記励振器の給電線と、を備えるマイクロ波加熱装置であって、
前記励振器は前記空洞共振器の側壁から離れた内部に固定され、前記マイクロ波加熱装置の入力インピーダンスがマイクロ波発生器の出力インピーダンスと整合するように、前記空洞共振器の磁界方向に対する前記励振器の傾斜角度が調整される
ことを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記マイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化に応じて、前記空洞共振器の磁界方向に対する前記励振器の傾斜角度が調整されることにより、前記マイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化によらず、前記マイクロ波加熱装置の入力インピーダンスが前記マイクロ波発生器の出力インピーダンスと整合するように調整される
ことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記空洞共振器は、TM010モード空洞共振器であり、
前記収容容器は、前記TM010モード空洞共振器の中心軸上に配置される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のマイクロ波加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空洞共振器を用いるマイクロ波加熱技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空洞共振器を用いるマイクロ波加熱技術は、マイクロ波加熱した触媒を用いて、エタノールを反応させ水素を発生させ、水素を燃料電池に供給し、入力電力より大きい出力電力を取得する用途等に適用されている(例えば、特許文献1等を参照。)。
【0003】
従来技術のマイクロ波加熱システムの構成を
図1に示す。従来技術のマイクロ波加熱システムMは、マイクロ波発生器1、整合器2及びマイクロ波加熱装置3から構成される。従来技術のマイクロ波加熱装置の構成を
図2に示す。従来技術のマイクロ波加熱装置3は、マイクロ波加熱用の空洞共振器31、マイクロ波加熱対象の収容容器32、空洞共振器31の励振器33及び励振器33の給電線34から構成される。
【0004】
空洞共振器31は、TM010モード空洞共振器である。収容容器32は、空洞共振器31の中心軸上に配置され、反応物質を流入され生成物質を流出する。よって、空洞共振器31の電界強度は、収容容器32の配置位置で最大となり、収容容器32での反応効率は、マイクロ波発生器1での供給電力に対して最大となる。そして、共振器モードの電磁界強度分布は、単調に変化する単純な分布となる(
図3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、励振器33は、空洞共振器31の側壁に配置される。ここで、空洞共振器31の中心軸に垂直な面内のうち、収容容器32と励振器33とを結ぶ方向に垂直な方向をX軸方向とし、収容容器32と励振器33とを結ぶ方向に平行な方向をY軸方向とする。そして、空洞共振器31の中心軸に平行な方向をZ軸方向とする。
【0007】
従来技術のマイクロ波加熱装置のインピーダンス整合特性を
図3に示す。ここで、空洞共振器31の電界強度Eは、空洞共振器31の側壁に近づくほど低くなり、空洞共振器31の中心軸に近づくほど高くなる。一方で、空洞共振器31の磁界強度Hは、空洞共振器31の側壁に近づくほど高くなり、空洞共振器31の中心軸に近づくほど低くなる。なお、空洞共振器31のTM010モードは、励振器33から1mm程度以内にある位置では乱れているが、励振器33から1mm程度以上離れた位置では乱れていない。
【0008】
よって、空洞共振器31の側壁に配置される励振器33での空間インピーダンスZ0=E/H=√(μ/ε)は、マイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと等しくすることが難しい。つまり、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスは、マイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合することが難しい。そこで、マイクロ波発生器1とマイクロ波加熱装置3との間に、整合器2が必要となる。すると、マイクロ波加熱システムMは、電力効率を高くすることができず、装置寸法を小さくすることができない。
【0009】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、マイクロ波発生器とマイクロ波加熱装置との間に、整合器を不要とすることにより、マイクロ波加熱システムにおいて、電力効率を高くするとともに、装置寸法を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、励振器が、空洞共振器の側壁から離れた内部に固定される。そして、空洞共振器の磁界方向に対する励振器の傾斜角度が、適切な角度に調整される。よって、励振器での実効的な空間インピーダンスは、マイクロ波発生器の出力インピーダンスと等しくすることができる。つまり、マイクロ波加熱装置の入力インピーダンスは、マイクロ波発生器の出力インピーダンスと整合することができる。
【0011】
具体的には、本開示は、マイクロ波加熱用の空洞共振器と、マイクロ波加熱対象の収容容器と、前記空洞共振器の励振器と、前記励振器の給電線と、を備えるマイクロ波加熱装置であって、前記励振器は前記空洞共振器の側壁から離れた内部に固定され、前記マイクロ波加熱装置の入力インピーダンスがマイクロ波発生器の出力インピーダンスと整合するように、前記空洞共振器の磁界方向に対する前記励振器の傾斜角度が調整されることを特徴とするマイクロ波加熱装置である。
【0012】
この構成によれば、空洞共振器の内部で、励振器の傾斜を調整する一方で、マイクロ波発生器とマイクロ波加熱装置との間に、整合器を不要とすることにより、マイクロ波加熱システムにおいて、電力効率を高くするとともに、装置寸法を小さくすることができる。
【0013】
また、本開示は、前記マイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化に応じて、前記空洞共振器の磁界方向に対する前記励振器の傾斜角度が調整されることにより、前記マイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化によらず、前記マイクロ波加熱装置の入力インピーダンスが前記マイクロ波発生器の出力インピーダンスと整合するように調整されることを特徴とするマイクロ波加熱装置である。
【0014】
マイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化に応じて、共振器モードの電磁界強度分布が変化し、マイクロ波加熱装置の入力インピーダンスがマイクロ波発生器の出力インピーダンスと整合しなくなる。この構成によれば、空洞共振器の磁界方向に対する励振器の傾斜角度を調整することにより、励振器での空間インピーダンスを実効的に調整し、マイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化によらず、マイクロ波加熱装置の入力インピーダンスをマイクロ波発生器の出力インピーダンスと整合させることができる。
【0015】
また、本開示は、前記空洞共振器は、TM010モード空洞共振器であり、前記収容容器は、前記TM010モード空洞共振器の中心軸上に配置されることを特徴とするマイクロ波加熱装置である。
【0016】
この構成によれば、空洞共振器の電界強度を収容容器の配置位置で最大とし、収容容器での反応効率をマイクロ波発生器での供給電力に対して最大とすることができる。そして、共振器モードの電磁界強度分布を単調に変化する単純な分布とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本開示は、マイクロ波発生器とマイクロ波加熱装置との間に、整合器を不要とすることにより、マイクロ波加熱システムにおいて、電力効率を高くするとともに、装置寸法を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】従来技術のマイクロ波加熱システムの構成を示す図である。
【
図2】従来技術のマイクロ波加熱装置の構成を示す図である。
【
図3】従来技術のマイクロ波加熱装置のインピーダンス整合特性を示す図である。
【
図4】本開示のマイクロ波加熱システムの構成を示す図である。
【
図5】本開示のマイクロ波加熱装置の構成を示す図である。
【
図6】本開示のマイクロ波加熱装置のインピーダンス整合特性を示す図である。
【
図7】本開示のマイクロ波加熱装置の反射特性及びスミスチャートを示す図である。
【
図8】本開示のマイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化を示す図である。
【
図9】本開示のマイクロ波加熱装置の励振器の傾斜角度の調整機構を示す図である。
【
図10】本開示のマイクロ波加熱装置の励振器の傾斜角度の調整原理を示す図である。
【
図11】本開示のマイクロ波加熱装置の励振器の傾斜角度の調整方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0020】
(本開示のマイクロ波加熱装置のインピーダンス整合)
本開示のマイクロ波加熱システムの構成を
図4に示す。本開示のマイクロ波加熱システムMは、マイクロ波発生器1及びマイクロ波加熱装置3から構成されるが、整合器2を必要としない。本開示のマイクロ波加熱装置の構成を
図5に示す。本開示のマイクロ波加熱装置3は、マイクロ波加熱用の空洞共振器31、マイクロ波加熱対象の収容容器32、空洞共振器31の励振器33及び励振器33の給電線34から構成される。
【0021】
空洞共振器31は、TM010モード空洞共振器である。収容容器32は、空洞共振器31の中心軸上に配置され、反応物質を流入され生成物質を流出する。よって、空洞共振器31の電界強度は、収容容器32の配置位置で最大となり、収容容器32での反応効率は、マイクロ波発生器1での供給電力に対して最大となる。そして、共振器モードの電磁界強度分布は、単調に変化する単純な分布となる(
図6を参照。)。
【0022】
本開示では、励振器33は、空洞共振器31の側壁から離れた内部に固定される。そして、空洞共振器31の磁界方向に対する励振器33の傾斜角度は、適切な角度に調整される。ここで、空洞共振器31の中心軸に垂直な面内のうち、収容容器32と励振器33とを結ぶ方向に垂直な方向をX軸方向とし、収容容器32と励振器33とを結ぶ方向に平行な方向をY軸方向とする。そして、空洞共振器31の中心軸に平行な方向をZ軸方向とする。なお、励振器33は、励振ループ等であり、マイクロ波加熱装置3のインピーダンス整合特性(
図6を参照。)を充足するような半径及び/又は巻数を有する。また、給電線34は、セミリジッドケーブル等であり、その先端にバラン(平衡-不平衡変換器)を有する。
【0023】
本開示のマイクロ波加熱装置のインピーダンス整合特性を
図6に示す。ここで、空洞共振器31の電界強度Eは、空洞共振器31の側壁に近づくほど低くなり、空洞共振器31の中心軸に近づくほど高くなる。一方で、空洞共振器31の磁界強度Hは、空洞共振器31の側壁に近づくほど高くなり、空洞共振器31の中心軸に近づくほど低くなる。なお、空洞共振器31のTM010モードは、励振器33から1mm程度以内にある位置では乱れているが、励振器33から1mm程度以上離れた位置では乱れていない。
【0024】
よって、空洞共振器31の側壁から離れた内部に固定される励振器33での空間インピーダンスZ0=E/H=√(μ/ε)は、空洞共振器31の側壁近傍での空間インピーダンスEmin/Hmaxより大きく、空洞共振器31の中心軸近傍での空間インピーダンスEmax/Hminより小さく、マイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωにほぼ等しくすることはできる。そして、傾斜角度を変更可能な励振器33での実効的な空間インピーダンスZ0’は、励振器33の傾斜角度を適切に調整することにより、マイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωにより等しくすることが可能となる。
【0025】
つまり、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスは、マイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合することができる。そこで、マイクロ波発生器1とマイクロ波加熱装置3との間に、整合器2が不要となる。すると、マイクロ波加熱システムMは、電力効率を高くすることができ、装置寸法を小さくすることができる。
【0026】
本開示のマイクロ波加熱装置の反射特性及びスミスチャートを
図7に示す。
図7の上段に示した反射特性では、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときに、VSWRはほぼ1に等しく、マイクロ波加熱装置3のインピーダンス整合特性(
図6を参照。)は充足される。
図7の下段に示したスミスチャートでは、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときに、スミスチャート上の点P0はスミスチャートの中心近傍にあり、マイクロ波加熱装置3のインピーダンス整合特性(
図6を参照。)は充足される。
【0027】
(本開示のマイクロ波加熱対象の温度変化への対処方法)
本開示のマイクロ波加熱対象の誘電正接の温度変化を
図8に示す。
図8の上段では、空洞共振器31の中心軸近傍での電界強度を示す。(1)マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが0.01から0.001へと変化したときに、ピーク周波数は所望周波数2.45GHzから変化せず、ピーク強度は高くなり、ピーク幅は狭くなる。(2)マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが0.01から0.05へと変化したときに、ピーク周波数は所望周波数2.45GHzから変化せず、ピーク強度は低くなり、ピーク幅は広くなる。
【0028】
図8の下段では、スミスチャートを示す。(1)マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが0.01から0.001へと変化したときに、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの中心近傍の点P1からスミスチャートの容量性領域の点P2へと変化し、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの容量性領域へと半径を広げている。(2)マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが0.01から0.05へと変化したときに、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの中心近傍の点P1からスミスチャートの誘導性領域の点P3へと変化し、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの誘導性領域へと半径を狭めている。
【0029】
このように、マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化に応じて、共振器モードの電磁界強度分布が変化し、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスがマイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合しなくなる。ただし、空洞共振器31の共振周波数は、所望周波数2.45GHzに一致した状態を維持している。
【0030】
本開示のマイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化への対処方法として、本開示のマイクロ波加熱装置の励振器の傾斜角度の調整機構を
図9に示す。空洞共振器31の磁界方向(空洞共振器31の角度座標方向)に対する励振器33の傾斜角度θを調整することにより、励振器33での空間インピーダンスを実効的に調整し、マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化によらず、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスをマイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合させることができる。
【0031】
本開示のマイクロ波加熱装置の励振器の傾斜角度の調整原理を
図10に示す。
図10では、マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδは、マイクロ波加熱対象の温度変化前の0.01であり、マイクロ波加熱対象の比誘電率ε
rは、マイクロ波加熱対象の温度変化前の3.0であり、励振器33の傾斜角度θを0°から変化させている。
【0032】
図10の上段では、反射係数を示す。励振器33の傾斜角度θが0°から20°を経て40°へと変化したときに、ディップ周波数は所望周波数2.45GHzからほぼ変化せず、ディップ強度は低くなり、ディップ幅は広くなる。
【0033】
図10の下段では、スミスチャートを示す。励振器33の傾斜角度θが0°から20°を経て40°へと変化したときに、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの中心近傍の点P4からスミスチャートのいくぶん誘導性領域の点P5を経てスミスチャートのさらなる誘導性領域の点P6へと変化し、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの誘導性領域へと半径を狭めている。
【0034】
このように、励振器33の傾斜角度θの変化に応じて、励振器33(励振ループ等)を通過する磁束が変化し、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスがマイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合しなくなる。ただし、空洞共振器31の共振周波数は、所望周波数2.45GHzに一致した状態をほぼ維持している。
【0035】
このことを利用して、励振器33の傾斜角度θを調整することにより、励振器33を通過する磁束を調整し、励振器33での空間インピーダンスを実効的に調整し、マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化によらず、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスをマイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合させるのである。
【0036】
本開示のマイクロ波加熱装置の励振器の傾斜角度の調整方法を
図11に示す。
図11の上段に示したマイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化前では、励振器33の傾斜角度θはθ
0(0°でない理由は後述。)であり、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの中心近傍の点P7にあり、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの容量性領域と誘導性領域とを分ける線分と接する。
【0037】
図11の中左段に示したマイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが小さくなる温度変化後では、励振器33の傾斜角度θがθ
0のままであれば、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの容量性領域の点P8にあり、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの容量性領域へと半径を広げている。
【0038】
図11の下左段に示したマイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが小さくなる温度変化後でも、励振器33の傾斜角度θがθ
1に大きくなれば、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの中心近傍の点P9にあり、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの容量性領域と誘導性領域とを分ける線分と接する。
【0039】
図11の中右段に示したマイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが大きくなる温度変化後では、励振器33の傾斜角度θがθ
0のままであれば、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの誘導性領域の点P10にあり、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの誘導性領域へと半径を狭めている。
【0040】
図11の下右段に示したマイクロ波加熱対象の誘電正接tanδが大きくなる温度変化後でも、励振器33の傾斜角度θがθ
2に小さくなれば、励振周波数が所望周波数2.45GHzであるときのスミスチャート上の点は、スミスチャートの中心近傍の点P11にあり、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡は、スミスチャートの容量性領域と誘導性領域とを分ける線分と接する。
【0041】
ここで、励振器33の傾斜角度θを最適化するためには、(1)マイクロ波発生器1とマイクロ波加熱装置3との間の方向性結合器を用いて、反射電力を最小化するように、励振器33の傾斜角度θをフィードバック制御してもよく、(2)空洞共振器31の内部のピックアップループを用いて、電界強度を最大化するように、励振器33の傾斜角度θをフィードバック制御してもよく、(3)空洞共振器31の側壁のサーモグラフィーを用いて、励振器33の傾斜角度θをフィードフォーワード制御してもよい。
【0042】
そして、マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化前に、励振器33の傾斜角度θをθ0(≠0°)とした理由は、マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化後に、励振器33の傾斜角度θをθ2(<θ0)とすることにより、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡の半径を広げるためである。さらに、励振周波数が所望周波数2.45GHzの近傍で掃引されたときのスミスチャート上の軌跡の半径を広げるためには、励振器33(励振ループ等)において、半径を大きくすることが望ましく、及び/又は、巻数を多くすることが望ましい。
【0043】
(本開示のマイクロ波加熱システムの補足)
マイクロ波加熱対象の種類に応じて、マイクロ波加熱対象の誘電正接tanδの温度変化範囲は様々である。そこで、マイクロ波加熱対象の種類に応じて、励振器33の傾斜角度θの可変範囲を設計することが望ましい。
【0044】
マイクロ波加熱対象の最適反応温度においてのみ、マイクロ波出力を大きくして、インピーダンス整合を高精度で実現してもよい。一方で、マイクロ波加熱対象の最適反応温度に上げるまで、マイクロ波出力を小さくして、インピーダンス整合を高精度で実現しなくてもよい。すると、励振器33の傾斜角度θを、マイクロ波加熱対象の最適反応温度における最適値に固定すればよい。
【0045】
本実施形態では、共振器モードとしてTM010モードを励振したうえで、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスがマイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合するように、空洞共振器31の磁界方向に対する励振器33の傾斜角度が調整される。変形例として、共振器モードとして他の高次モードを励振したうえで、マイクロ波加熱装置3の入力インピーダンスがマイクロ波発生器1の出力インピーダンス50Ωと整合するように、空洞共振器31の磁界方向に対する励振器33の傾斜角度が調整されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波加熱した触媒を用いて、エタノールを反応させ水素を発生させ、水素を燃料電池に供給し、入力電力より大きい出力電力を取得する用途等のように、マイクロ波加熱を用いる様々な用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
M:マイクロ波加熱システム
1:マイクロ波発生器
2:整合器
3:マイクロ波加熱装置
31:空洞共振器
32:収容容器
33:励振器
34:給電線