(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】フェニルアラニンを標的とする分子インプリントポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 220/06 20060101AFI20230330BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230330BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20230330BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230330BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230330BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230330BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20230330BHJP
C08F 6/00 20060101ALI20230330BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C08F220/06
A61P3/00
A61P13/02
A61P7/00
A61K47/42
A61K47/32
A61K31/198
C08F6/00
C08F2/44 B
(21)【出願番号】P 2019572052
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2018067539
(87)【国際公開番号】W WO2019002535
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-29
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508248759
【氏名又は名称】ミプサルス エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・ゴレゴリウス
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・オットー・クログ
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515360(JP,A)
【文献】国際公開第2011/071447(WO,A1)
【文献】国際公開第95/001347(WO,A1)
【文献】特表2009-527471(JP,A)
【文献】特表2013-504611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/、220/
A61K9/、31/、47/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-フェニルアラニン(L-Phe)およびL-Phe残基と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)の製造方法であって、該方法が、下記工程
a) 触媒および酸化剤の存在下で
- 2-メチルプロパ-2-エン酸(MAA)、
- 1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン(DAP)、および
- L-Pheまたは少なくとも1つのL-Phe残基を含有するジペプチドまたはトリペプチド形態のフェニルアラニンモチーフを露出するL-Phe誘導体からなる鋳型分子
を含む混合物を重合させて、架橋インプリントポリマーを得る工程、
b) 必要に応じて、続いて架橋インプリントポリマーを断片化して、第1断片化ポリマーを得て、粒子径が63μm未満のMIPを収集する工程、
c) 所望により、工程b)から得られたポリマー画分を洗浄および乾燥する工程、
d) 工程b)またはc)から得られたポリマー画分を断片化し、粒子径が150~250 nmの範囲の第2断片化ポリマーを収集する工程、
e) L-Pheがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに、工程d)から得られた第2断片化ポリマーを供する工程、および
f) 工程e)においてL-Pheに結合するMIPを回収する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程a)における重合混合物が、1.0~4.0のMAA:鋳型分子のモル比でMAAと鋳型分子を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)における重合混合物が、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、
または4.0のMAA:鋳型分子のモル比でMAAと鋳型分子を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
鋳型分子が、
Gly-L-Phe、
Ala-L-Phe、
L-Asp-L-Phe-OMe、
L-Asp-L-Phe、
Gly-Gly-L-Phe、
Ala-Gly-L-Phe、
Gly-Ala-L-Phe、
L-Phe-Gly、
L-Phe-Ala、
L-Phe-L-Phe、
L-Phe-Ala-L-Phe、
L-Phe-Gly-L-Phe
からなる群より選択されるジペプチドまたはトリペプチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
鋳型分子が、Gly-L-Pheである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)における触媒が、テトラメチルエチレンジアミン、およびジメチルピペラジンからなる群より選択される;および/または工程a)における酸化剤が、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)における触媒が、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)である;および/または工程a)における酸化剤が、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)における断片化が、すりつぶし、粉砕、爆発、ハンマー打ち、ボールミル、低温粉砕または衝突均質化を含む;および/または工程d)の断片化が、ボールミルまたはビーズミルで実施される;および/または工程b)において収集されるMIPが、25~63μmの範囲の粒子径を有する;および/または工程b)が、63μmのカットオフを有する篩を通過できるMIPの収集を伴い、必要に応じて、工程b)が、25μmのカットオフを有する篩上に保持されるMIPの収集をさらに伴う、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程c)における洗浄が、有機溶媒で変動pHにて実施される;および/または工程c)において、MIPが、HPLCカラムに充填され、高圧下で洗浄される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程d)におけるMIPの収集が、水性溶媒中にMIPを懸濁させ、超音波浴中でインキュベートし、遠心分離し、150~250 nmのMIPを含有する上清を単離することにより実施される;および/または工程d)が、残存鋳型分子からMIPを単離するための洗浄を伴う、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程e)におけるアフィニティークロマトグラフィーが、固定クロマトグラフィーマトリックスを用いる充填床クロマトグラフィーカラムで、かつ、MIPが緩衝水性溶媒中に懸濁されたところで実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程f)における回収が、クロマトグラフィーマトリックスからのMIPの溶離を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
L-チロシン(L-Tyr)と特異的に結合するMIPの製造方法であって、該方法が、少なくとも1つのL-フェニルアラニンモチーフを含むがL-Tyr残基を含まない分子を、重合および架橋中に鋳型分子として用いて製造されたMIPの初期組成物から、L-チロシンと結合するMIPを回収することを含み、
MIPの初期組成物が少なくとも2画分に分離され、L-Phe含有捕捉プローブと結合するMIPを本質的に含まない画分から、L-Tyr結合MIPを回収し、
該方法が、下記工程
a) 触媒および酸化剤の存在下で
- 2-メチルプロパ-2-エン酸(MAA)、
- 1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン(DAP)、および
- 請求項1、4または5で定義される鋳型分子
を含む混合物を重合させて、架橋インプリントポリマーを得る工程、
b) 必要に応じて、続いて架橋インプリントポリマーを断片化して、第1断片化ポリマーを得て、粒子径が63μm未満のその画分を収集する工程、
c) 所望により、工程b)から得られたポリマー画分を洗浄および乾燥する工程、
d) 工程c)から得られたポリマー画分を断片化し、粒子径が150~250 nmの範囲の第2断片化ポリマーを収集する工程、および
e) 工程d)から得られた第2断片化ポリマーをアフィニティークロマトグラフィーに供する工程であって、
e1) L-Tyrがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに供する工程、または
e2) L-Pheがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに供し、L-Pheに結合していないMIPを回収し、そして、L-Tyrがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに、L-Pheに結合していないMIPをさらに供する工程、および
f) 工程e)においてL-Tyrに結合するMIPを回収する工程
を含む、方法。
【請求項14】
L-フェニルアラニン(L-Phe)またはL-チロシン(L-Tyr)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)であって、該MIPが、1,4-ジアクリロイルピペラジン(DAP)と架橋した重合メタクリル酸(MAA)を含んでなり、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によ
り取得される、分子インプリントポリマー。
【請求項15】
L-PheまたはL-Tyrへの結合についてのK
Dが10
-7未満である、請求項14に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項16】
K
Dが10
-8未満である、請求項15に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項17】
K
Dが5x10
-9未満である、請求項16に記載の分子インプリントポリマー。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか一項に記載の分子インプリントポリマーを含む組成物であって、医薬的に許容される担体および/または希釈液および/または添加剤を含み、経口投与に適用される、組成物。
【請求項19】
1日当たりの有効量のL-フェニルアラニンと結合するMIPを送達するように、L-フェニルアラニンと結合するMIPまたは該MIPを含む組成物を処置を必要とするヒトに投与することを含む、フェニルケトン尿症の処置のための請求項14~17のいずれか一項に記載のMIPまたは請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
1) L-フェニルアラニンと結合するMIPまたは該
MIPを含む組成物を、1日当たりの有効量のL-フェニルアラニンと結合するMIPを送達するように;および/または
2) L-チロシンと結合するMIPまたは該
MIPを含む組成物を、1日当たりの有効量のL-チロシンと結合するMIPを送達するように
処置を必要とするヒトに投与することを含む、チロシン血症および/またはアルカプトン尿症の処置のための請求項14~17のいずれか一項に記載のMIPまたは請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
処置が、アルカプトン尿症またはチロシン血症I型のニチシノン処置に対する補助療法として実施される、請求項20に記載のMIPまたは組成物。
【請求項22】
1日当たりの有効量が、1~35 g/ 70 kg体重である、請求項20または21に記載のMIPまたは組成物。
【請求項23】
1日当たりの有効量が、20~45 g/ 70 kg
体重である、請求項20または21に記載のMIPまたは組成物。
【請求項24】
1日当たりの有効量が、30~35 g/ 70 kg
体重である、請求項23に記載のMIPまたは組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先天性および後天性の代謝の機能不全を標的とする物質および方法、ならびに該物質の製造方法に関する。特に、本発明は、フェニルアラニンまたはチロシンに対する高い結合能を有する分子インプリントポリマーの製造方法、フェニルアラニンまたはチロシンと結合するMIP、ならびにフェニルケトン尿症、アルカプトン尿症および高チロシン血症の処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは以前に、得られた分子インプリントポリマー(MIP)組成物による結合についてそれまで見られなかった能力を提供するMIPの製造方法を提供している。このようにして、本発明者らは、これまで医薬品で対処できなかった特定の代謝異常の新規な処置を提供しており、例えば、フェニルアラニンを胃腸管にとどめる大容量(high-capacity)MIPの連日投与によるフェニルケトン尿症の処置は大きな進歩であった。これらの方法により得られた改善されたMIPの別の利点は、高感度アッセイにおけるそれらの使用である。
【0003】
本発明の基礎を築く技術は、例えばWO2007/095949、WO2011/033021、WO2013/127433およびPCT/EP2017/056059に開示されており、それらの内容は、出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。
【発明の概要】
【0004】
(発明の目的)
代謝異常の処置のための改善された物質を提供することが本発明の実施態様の目的である。他の実施態様の目的は、このような改善された物質の新規な製造方法を提供することである。また、本発明のさらに他の実施態様の目的は、フェニルケトン尿症(PKU)、アルカプトン尿症および高チロシン血症の新規な処置を提供することである。
【0005】
(発明の概要)
慎重に選択されたモノマーの混合物および標的が、MIPが本明細書に記載のスキームに従って精製されるとき結合能および特異性の点で優れた特性を有するMIPを提供することが本発明者らにより見出された。この方法により得られたMIPは、新規の化学物質であると考えられる。
【0006】
本発明者らは、Phe含有鋳型を用いて製造されるMIPが、驚くべきことに高親和性でL-チロシン(Tyr)と結合するMIPのサブポピュレーションを提供することもまた見出し、これは、1つの重合法が、驚くべきことに極めて異なるが有用な結合特性を有する2つの別個の生成物をもたらすことを意味している。
【0007】
最後に、本発明者らは、タンパク質摂取に比例的に依存する35 g/日未満のMIPの投与により、(当局によって)推奨される量のタンパク質を含有する食事を摂取する標準的な成人(70 kg)におけるPKUの有効な処置を達成できるような規模の結合能を、本発明のPhe結合MIPが有することを見出した。
【0008】
したがって、第1態様において、本発明は、L-フェニルアラニン(Phe)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)の製造方法であって、該方法が、下記工程
a) 触媒および酸化剤の存在下で
- 2-メチルプロパ-2-エン酸(MAA)、
- 1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン/1,4-ジアクリロイルピペラジン(DAP)、および
- L-Pheまたはフェニルアラニンモチーフを露出するL-Phe誘導体からなる鋳型分子
を含む混合物を重合させて、架橋インプリントポリマーを得る工程、
b) 必要に応じて(すなわち、重合後の粒子径が十分な量の粒子径が63μm未満のMIPを含まないならば)、続いて工程a)で得られた架橋インプリントポリマーを断片化して、第1断片化ポリマーを得て、粒子径が63μm未満のMIPを収集する工程、
c) 所望により、工程b)から得られたポリマー画分を洗浄および乾燥する工程、
d) 工程c)から得られたポリマー画分をさらに断片化し、粒子径が150~250 nmの範囲の第2断片化ポリマーを収集する工程、
e) Pheがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグ(所望により、より大きい分子の一部として)を構成するアフィニティークロマトグラフィーに、工程d)から得られた第2断片化ポリマーを供する工程、および
f) 工程e)においてPheに結合するMIPを回収する工程
を含む方法に関する。
【0009】
第2態様において、本発明は、L-フェニルアラニン(Phe)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)であって、1,4-ジアクリロイルピペラジン(DAP)と架橋した重合メタクリル酸(MAA)を含んでなる、MIPに関する。
【0010】
第3態様において、本発明は、本発明の第2態様およびその実施態様のMIPを含む組成物であって、医薬的に許容される担体および/または希釈液および/または添加剤を含み、経口投与に適合されている、組成物に関する。
【0011】
第4態様において、本発明は、L-チロシン(Tyr)と特異的に結合するMIPの製造方法であって、少なくとも1つのフェニルアラニンモチーフを含むがTyr残基を含まない分子を重合および架橋中に鋳型分子として用いて製造されたMIPの初期組成物から、L-チロシンと結合するMIPを回収することを含む、方法に関する。
【0012】
第5態様において、本発明は、L-チロシン(Tyr)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)であって、1,4-ジアクリロイルピペラジン(DAP)と架橋した重合メタクリル酸(MAA)を含んでなる、MIPに関する。
【0013】
第6態様において、本発明は、本発明の第5態様およびその実施態様のMIPを含む組成物であって、医薬的に許容される担体および/または希釈液および/または添加剤を含み、経口投与に適合されている、組成物に関する。
【0014】
第7態様において、本発明は、処置を必要とするヒトにおけるフェニルケトン尿症の処置方法であって、1日当たりの有効量の第2態様のMIPを送達するように、第2態様およびその実施態様によるMIPまたは第3態様およびその実施態様の組成物を処置を必要とするヒトに投与することを含む、処置方法に関する。
【0015】
最後に、第8態様において、本発明は、チロシン血症および/またはアルカプトン尿症の処置方法であって、処置を必要とするヒトに
1) フェニルアラニンと結合するMIP、好ましくは第2態様のMIPまたは第3態様の組成物を、1日当たりの有効量の前記のMIPを送達するように投与する;および/または
2) 第5態様およびその実施態様のMIPまたは第6態様およびその実施態様の組成物を、1日当たりの有効量の第5態様およびその実施態様のMIPを送達するように投与する
ことを含む、処置方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、Phe血中濃度に対するPKUマウスへのPhe結合MIP投与の影響を示す。各群は、5匹のPKUマウスを含み、試験開始までフェニルアラニン制限餌で飼育した。各マウスに、20.7 mgタンパク質/投与または20.7 mgタンパク質/投与+Phe結合MIPのいずれかを2日間1日3回投与した。最初の投与前および最後の投与の2時間後に各マウスから血液サンプルを採取し、フェニルアラニンについて分析した。種々の用量で3回試験を実施した。点線/三角形のデータ点は、タンパク質のみを与えられた動物における測定値を表し、実線/四角形のデータ点は、タンパク質とPhe結合MIP(「フェリミン」)の両方を与えられた動物における測定値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(定義)
「分子インプリントポリマー」(MIP)は、重合前のモノマー架橋を含むモノマーマトリックスに組み込まれた1つ以上の鋳型分子に少なくとも部分的に対応する空洞(または空隙)を含むポリマーである。重合後に得られたポリマーは、形状が鋳型分子に対応する多くの空洞を含む。典型的には、MIPは、小さい粒子へ分離(断片化、微細化)され、これにより鋳型の除去を容易にし、鋳型分子と類似または同一の標的分子との相互作用のために部分的な空洞が開いたままになる。本願明細書および特許請求の範囲において、用語MIPは、通常、粒子形態のMIPを指し、これは、用語「MIP」および「MIPs」がそれぞれ1つのMIP粒子および複数のMIP粒子を表して相互交換可能に用いられることを意味する。
【0018】
本発明で使用されるMIPは、十分に小さい場合懸濁液中で安定して見えても、不溶性分子/物質であると理解されたい。MIPは、その不溶性が消化管からの体内へ(例えば循環へ)の通過を制限するかまたは阻止するため、消化管における使用のための医薬として特に適する。言い換えれば、経口投与されるとき、本発明で用いられるMIPは、糞便中に処理されるまで消化管に実質的にとどまったままである。
【0019】
「生のMIP」は、まだアフィニティー精製に供されていないMIPであり、それ故に、例えば、鋳型分子との確認可能な結合がないMIPですらある、種々の親和特性を有するMIPの異種混合物を含む。
【0020】
「微細化」および「断片化」(相互交換可能に用いられる)は、鋳型分子を含有し得るMIPをより小さい粒子に分離するプロセスを指す。この目的に適する任意の方法が用いられ得る。下記参照。
【0021】
「標的分子」は、本明細書において、MIPが結合し得るあらゆる分子または分子モチーフである。
【0022】
「鋳型分子」は、通常標的分子と同一であるが、その模倣体であってもよい(すなわち、少なくとも部分的に同一の3D構造および標的分子と一致するプロファイルを有する分子。模倣体は、例えば、標的分子の断片、または本明細書におけるように意図される標的が重要な部分であるより大きな分子を構成し得る)。鋳型は、MIP構造における空隙の「生成要素」として機能し、これはその後標的分子と結合できる。
【0023】
「フェニルアラニンモチーフを露出するフェニルアラニン誘導体」は、ベンジル基、フェニル環、またはカルボキシル基もしくはアミノ基のいずれかと結合したベンジル基もしくはフェニル環を含む、鋳型分子を指す。したがって、フェニルアラニンを含むあらゆるペプチド(好ましくは、ジ-またはトリペプチド)が、このような鋳型分子として用いられ得る。
【0024】
「アフィニティー精製」は、物質と結合パートナーとの特異的結合を利用した物質のあらゆる精製方法を指す。多くのこのような方法は、物質を捕捉する固体支持体(例えばクロマトグラフィーマトリックス)に結合する捕捉剤を利用する。当該技術分野で公知の典型的な例は、抗体と結合する抗原を精製するためにクロマトグラフィービーズに結合する捕捉剤として抗体を用いるアフィニティー精製である。本発明により適用されるアフィニティー精製方法は、本明細書に記載のサイズを有し、懸濁している不溶性MIP粒子を捕捉できるものであると理解されたい。
【0025】
「固相」は、本明細書において、共有結合または非共有結合によって捕捉剤を固定するために用いられ得るあらゆる物質である。したがって、クロマトグラフィー材料の製造において従来使用されるあらゆる物質(プラスチックポリマー、糖、金属、ガラス、シリカ、ゴムなど)は、固相として機能し得る。固相材料は、問題の材料への補足材の結合を可能にする適切な官能基を含有し得る。このような誘導体化材料は、タンパク質または他の高分子のクロマトグラフィー精製の当業者に公知である。また、固相は、MIPなどの比較的大きく不溶性の粒子(タンパク質などの単一生体分子と比較したとき)の捕捉を可能にするあらゆる物理的形態を有し得る。したがって、固相は、線維(好ましくは中空)、クロマトグラフィーマトリックス、ビーズ(好ましくは電磁気的方法により分離され得るもの)の形態または他の何らかの適切な形態であり得る。下記参照。
【0026】
本明細書においてMIPのサイズを説明するとき、例えば所与の長さX(例えば63μm)より小さいまたは大きいMIPは、本明細書において、粒子径が所定のカットオフ、すなわち篩の孔の直径を有する篩を通過できるかまたはできないようなものであることを意味し、通過する粒子は、Xより「小さく」、保持される粒子は、Xより「大きい」。言い換えれば、分子は、理論的にはある軸に沿って63μより大きくても、63μmの篩を通過できる:この場合、分子は63μmより小さいといわれる。
【0027】
本明細書において特定の略語が使用される:L-PheはL-フェニルアラニンを示し、Glyはグリシンを示し、AlaはL-アラニン、D-アラニン、または両方の混合物のいずれかを示し、L-AspはL-アスパラギン酸を示し、Meはメチルを示し、そしてOMeはO-メチル(-O-CH3)を示す。
【0028】
(本発明の具体的実施態様)
本発明の第1態様に関する実施態様
上記のように、第1態様は、L-フェニルアラニン(Phe)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)の製造方法であって、該方法が、下記工程
a) 触媒および酸化剤の存在下で
- 2-メチルプロパ-2-エン酸(MAA)、
- 1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン(DAP)、および
- L-Pheまたはフェニルアラニンモチーフを露出するL-Phe誘導体からなる鋳型分子
を含む混合物を重合させて、架橋インプリントポリマーを得る工程、
b) 必要に応じて(粒子径が大きいため)、続いて架橋インプリントポリマーを断片化して、第1断片化ポリマーを得て、粒子径が63μm未満のその画分を収集する工程、
c) 所望により、工程b)から得られたポリマー画分を洗浄および乾燥する工程、
d) 工程c)から得られたポリマー画分をさらに断片化し、粒子径が150~250 nmの範囲の第2断片化ポリマーを収集する工程、
e) Pheがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに、工程d)から得られた第2断片化ポリマーを供する工程、および
f) 工程e)においてPheに結合するMIPを回収する工程
を含む方法に関する。
【0029】
工程a)における重合混合物は、好ましくは5~30のMAA:DAPモル比でMAAとDAPを含有する。好ましくは、比は6~27、例えば7~24、8~21、9~18、好ましくは10~15である。
【0030】
正確な重合法は、変化し得る。実施例から明らかなように、バルク重合とそれに続く微細化工程の使用および実施例4の逆相エマルジョン重合法の使用により、同様に良好な結果が得られた。後者の方法は、工程b)の微細化が関係ないような一般的に小さいサイズのMIP粒子について提供され、これは、十分に小さいポリマー粒子の単純な収集が工程b)において直接実施できることを意味する。下記参照。
【0031】
好ましいMAA:鋳型分子のモル比は、1.0~4.0である。値はこの区間で変化し得て、これは約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2.0、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、約3.0、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、および約4.0より選択され得ることを意味している。
【0032】
鋳型分子は、好ましくは、少なくとも1つのL-Phe残基を含有するペプチドの形態のL-Phe誘導体であり、これは、フェニルアラニンモチーフを露出するL-Phe誘導体の典型的な形態である。良好な結果は、ジペプチドまたはトリペプチドを含有するL-Pheで得られ、それ故に特に好ましい鋳型分子である。このようなジ-またはトリペプチドは、例えばGly-L-Phe(グリシル-L-フェニルアラニン)、Ala-L-Phe、L-Asp-L-Phe-OMe、L-Asp-L-Phe、Gly-Gly-L-Phe、Ala-Gly-L-Phe、Gly-Ala-L-Phe、L-Phe-Gly、L-Phe-Ala、L-Phe-L-Phe、L-Phe-Ala-L-Phe、およびL-Phe-Gly-L-Pheからなる群より選択され得る。特に好ましい鋳型分子は、Gly-L-Pheである。
【0033】
工程a)における触媒は、典型的には、水性媒体中でポリアクリルアミドゲル重合を触媒するものより選択される。有用な触媒は、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)およびジメチルピペラジンである。好ましい触媒は、TEMEDである。これらの触媒は、典型的には強力な酸化剤と一緒に使用されなければならない。したがって、工程a)における酸化剤は、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウムからなる群より選択されることが好ましく、好ましくはペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)である。
【0034】
工程b)において利用される断片化方法は、必須ではなく、工程a)から得られた分子インプリントポリマーの粒子径が大きすぎる場合のみ適用される。本質的には、当該技術分野で知られている任意のMIPの小型化方法が用いられ得て、例えば、工程b)における断片化は、すりつぶし(grinding)、粉砕(milling)、爆発、ハンマー打ち、ボールミル、低温粉砕または衝突均質化、およびこれら方法の任意の組合せを含み得る。
【0035】
工程b)において得られたMIP粒子が63μm未満であることを確実にするために、所定のカットオフを有する標準的な金属篩が用いられ得る。例えば、工程b)において収集されるMIPが25~63μmの範囲の粒子径を有することが好ましく、これは、63μmのカットオフを有する篩を利用し、通過できるMIPを収集することにより達成され得る。続いて、25μmのカットオフを有する篩が用いられ得て、保持された材料がその後の工程で用いられる。しかしながら、より小さい粒子がその後の工程に供され得るため、工程b)は、何らかの所定の最小サイズの粒子を単離しなくてもよい。
【0036】
任意の洗浄は、例えば実施例に示すように有機溶媒を用いて変動pH(alternating pH)にて実施される。これは、利用可能な結合鋳型が次の工程の前に効果的に除去されることを確実にする。MIPを洗浄する1つの好都合な方法は、HPLCカラムなどのカラムにそれらを充填することであり、これにより高圧下で溶媒をHPLCカラムを通して洗浄することを容易にする。
【0037】
後続の工程d)(MIP粒子の更なる断片化)は、好都合にはボールミルまたはビーズミルで行われるが、工程b)については、使用される正確な微細化方法は、当該方法が十分な断片化を提供できる限り、その結果を達成するのに重要ではない。したがって、工程b)において上記した好都合な方法は、工程d)の目的に適している。
【0038】
工程d)の後、MIP粒子は、長時間懸濁したままであるような小さいサイズである。したがって、工程d)におけるMIPの単離/収集は、溶媒(好ましくは水性溶媒、例えば水)中にMIPを懸濁させ、続いて超音波浴(それ自体で微細化できる)中でインキュベートし、遠心分離し、そして上清を単離することにより実施され得て、これは150~250 nmのMIPを含有する。また、工程d)後で工程e)前の洗浄工程は、好都合には、いずれかの残存鋳型、例えばさらに微細化のため利用可能となった鋳型を除去するために実施され得る。この洗浄は、典型的には透析工程として実施されるが、超遠心分離も可能である。洗浄工程は、MIPと鋳型を分離する目的を果たすだけでよい。
【0039】
最終工程e)およびf)は、真に可溶性の材料で実施される従来のクロマトグラフィー手順に類似している:工程e)におけるアフィニティークロマトグラフィーは、好都合には、Pheを含む捕捉プローブを有する固定クロマトグラフィーマトリックスを用いる充填床クロマトグラフィーカラムで、MIPが緩衝水性溶媒中に懸濁されたところで、実施される。最後に、MIPは、それ自体既知の溶離方法によりカラムから回収される。実施例に示すように、好ましい溶離液体は、水中エタノール、例えば40%エタノールである。
【0040】
本発明の第2態様に関する実施態様
L-フェニルアラニン(Phe)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)であって、1,4-ジアクリロイルピペラジン(DAP)と架橋した重合メタクリル酸(MAA)を含んでなるMIPは、新規の化学物質であると考えられる。MAAとDAPモノマー残基のモル比は、好ましくは5~30である。しかしながら、比は、好ましくは、6~27、例えば7~24、8~21、9~18、好ましくは10~15である。特に、この本発明のMIPは、本発明の第1態様の方法により取得可能であるかまたは取得されることが好ましい。
【0041】
上記のように、第2態様のMIPおよび第1態様の方法によって得られたMIPは、その標的であるL-フェニルアラニンに対して極めて高い結合能および親和性を示す。MIPのL-Pheへの結合についてのKDは、10-7未満であるが、より低い値:10-8未満、9x10-9未満、8x10-9未満、7x10-9未満、6x10-9未満、5x10-9未満、4x10-9未満、3x10-9未満および2x10-9未満が測定された。約10-9の好ましいKDは、本明細書に記載のL-Phe結合MIPで測定された。
【0042】
本発明の第3態様に関する実施態様
本発明の第3態様の組成物は、従来の製剤技術に従って製造される。有効成分がほぼ無限の保存期間を有するため、MIPは、任意の一般的な経口剤形である錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、薬用ガムおよび懸濁剤(ここで他のすべての成分(防腐剤および他の添加剤)は標準的な選択肢である)に組み込まれ得る。
【0043】
しかしながら、真菌、細菌または藻類の増殖に関する問題を回避するために、医薬的に許容される殺菌剤または防腐剤を、このような増殖が問題を提示する製剤に含めることができる。
【0044】
MIPはまた、食品および飲料に組み込まれるか、または組み込まれ得るように、製剤化され得る。本発明のMIPは味を示さないことが分かっているため、あらゆる種類の摂取可能な製品にそれらを含めることに問題がないことが証明されている。
【0045】
経口摂取のための本発明の組成物の製造の詳細については、概してRemington's "Essentials of Pharmaceutics", Pharmaceutical Press 2012 (2013公開), ISBN 978 0 85711 105 0、特にチャプター30、31および32を参照されたい。
【0046】
本発明の第4態様に関する実施態様
上記のように、驚くべきことに、本発明の第1態様で上記したインプリント方法は、アミノ酸L-チロシンの強力な結合剤であるMIPのサブポピュレーションを提供することを見出した。これは、試験した鋳型分子Gly-L-Pheは、何らTyr官能基を含まないという事実、および第1態様の方法により得られたMIP(精製後)は、L-フェニルアラニンに対し極めて特異的であり、例えば、D-フェニルアラニンと顕著により少なく結合するか、またはL-Tyrより約700倍低い効率で結合するという事実にかかわらずである。これは、Phe含有鋳型との重合から「生」のMIPを製造することは、Tyr結合MIPもまた提供することを証明する。したがって、第4態様の最も広い実施態様は、上記のように、L-チロシン(Tyr)と特異的に結合するMIPの製造方法であって、少なくとも1つのフェニルアラニンモチーフを含むがTyr残基を含まない分子を、重合および架橋中に鋳型分子として用いて製造されたMIPの初期組成物から、L-チロシンと結合するMIPを回収することを含む、方法に関する。特に、鋳型分子は、好ましくは、本発明の第1態様の文脈で説明した鋳型分子である;実施例のセクションに示すように、これは、極めて効果的なインプリント方法を提供する。
【0047】
MIPの初期組成物が少なくとも2画分に分離されること、およびPhe含有捕捉プローブと結合するMIPを実質的に含まない画分から、Tyr結合MIPを回収することもまた好ましい。これは、例えば、高い親和性を有するL-PheまたはPheモチーフと結合するMIPを最初に分離することにより達成され得る。「Pheモチーフ」なる表現は、本文脈において典型的には、L-Phe残基、例えばペプチドまたはポリペプチドにおける内部、N-またはC-末端のPhe残基を意味する。
【0048】
したがって、好ましい実施態様は、下記工程
a) 触媒および酸化剤の存在下で
- 2-メチルプロパ-2-エン酸(MAA)、
- 1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン(DAP)、および
- 本発明の第1態様の文脈で説明した鋳型分子(好ましくはGly-L-Phe)
を含む混合物を重合させて、架橋インプリントポリマーを得る工程、
b) 必要に応じて(上記参照)、続いて架橋インプリントポリマーを断片化して、第1断片化ポリマーを得て、粒子径が63μm未満のその画分を収集する工程、
c) 所望により、工程b)から得られたポリマー画分を洗浄および乾燥する工程、
d) 工程c)から得られたポリマー画分を断片化し、粒子径が150~250 nmの範囲の第2断片化ポリマーを収集する工程、および
e) 工程d)から得られた第2断片化ポリマーをアフィニティークロマトグラフィーに供する工程であって、
e1) Tyrがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに供するか、または
e2) Pheがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに供し、Pheに結合していないMIPを回収し、そして、Tyrがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグ(所望により、より大きい分子の一部として)を構成するアフィニティークロマトグラフィーに、Pheに結合していないMIPをさらに供する工程、および
f) 工程e)においてTyrに結合するMIPを回収する工程
を伴う。
【0049】
この実施態様から明らかなように、工程a)~d)は、本発明の第1態様における工程a)~d)と同一である。したがって、本発明の第1態様のこれらの工程について上記したプロセスパラメーターおよび試薬に関するすべての特徴を第4態様の工程a)~d)に準用する。
【0050】
同様に、残りの工程もまた、第1態様に関して上記で提供された一般的教示に従って実施され得る。経路e1)を選択するとき、Phe結合MIPを除去する工程は実施されず、したがって、潜在的にこの方法により得られたMIPは、Phe結合剤を含み得る。経路e2)に従う場合、Tyrアフィニティークロマトグラフィーまでの工程は、第1態様におけるPhe精製前の工程と同一であり、第1態様のこれらに関するすべての開示を第4態様に準用する。
【0051】
最終工程e)およびf)は、真に可溶性の物質で実施される従来のクロマトグラフィー手順にさらに類似している:工程e)においてアフィニティータグとしてTyrを用いるアフィニティークロマトグラフィーは、好都合には、L-Tyrを含むかまたはL-Tyrである捕捉プローブを有する固定クロマトグラフィーマトリックスを用いる充填床クロマトグラフィーカラムで、MIPが緩衝水性溶媒中に懸濁されたところで、実施される。最後に、MIPは、それ自体既知の溶離方法によりカラムから回収される。実施例に示すように、好ましい溶離液は、水中エタノール、例えば40%エタノールである。
【0052】
本発明の第5態様に関する実施態様
第5態様で記載されるL-チロシン(Tyr)と特異的に結合する本発明の分子インプリントポリマー(MIP)は新規の化学物質と考えられる。その基本的化学組成は、本発明の第2態様のMIPと同一であり、これは、MAA残基とDAP残基のモル比が、好ましくは5~30であることを意味している。しかしながら、比は、好ましくは、6~27、例えば7~24、8~21、9~18、好ましくは10~15である。特に、この本発明のMIPは、本発明の第4態様の方法により取得可能であるかまたは取得されることが好ましい。
【0053】
Tyr結合MIPとL-Tyr間の結合についてのKD値は、好ましくは、L-Pheに結合するPhe結合MIPについて上記したものと同じ値である。
【0054】
本発明の第6態様に関する実施態様
本発明の第5態様の組成物は、従来の製剤技術に従って製造される。有効成分がほぼ無限の保存期間を有するため、MIPは、任意の一般的な経口剤形である錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、薬用ガムおよび懸濁剤(ここで他のすべての成分(防腐剤および他の添加剤)は標準的な選択肢である)に組み込まれ得る。
【0055】
しかしながら、真菌、細菌または藻類の増殖に関する問題を回避するために、医薬的に許容される殺菌剤または防腐剤を、このような増殖が問題を提示する製剤に含めることができる。
【0056】
MIPはまた、食品および飲料に組み込まれるか、または組み込まれ得るように、製剤化され得る。本発明のMIPは味を示さないことが分かっているため、あらゆる種類の摂取可能な製品にそれらを含めることに問題がないことが証明されている。
【0057】
経口摂取のための本発明の組成物の製造の詳細については、概してRemington's "Essentials of Pharmaceutics", Pharmaceutical Press 2012 (2013公開), ISBN 978 0 85711 105 0、特にチャプター30、31および32を参照されたい。
【0058】
本発明の第7態様に関する実施態様
第2態様のMIPおよび本発明の第3態様の組成物は、L-Pheの過剰な血中濃度により特徴付けられる疾患の処置に有用である。処置を必要とするヒトにおけるフェニルケトン尿症の処置方法であって、第2態様のMIPまたは第3態様の組成物を処置を必要とするヒトに投与することを含む処置方法を提供する。この方法は、例えば、WO2011/033021に概して開示されているように実施され得る。
【0059】
上記のように、標準的な食事当たり投与可能な用量の第2態様のMIPを投与することによりPKUに罹患しているヒトにおいてPheを制御することが可能である:食事当たりの有効量は、好ましくは1~35 g/ 70 kg(すなわち体重70 kgあたり1~35 g)である。好ましくは、食事当たりの有効量は、最大でまたは約34 g/ 70 kg、例えば最大でまたは約33、最大でまたは約32、最大でまたは約31、最大でまたは約30、最大でまたは約29、最大でまたは約28、最大でまたは約27、最大でまたは約26、最大でまたは約25、最大でまたは約24、最大でまたは約23、最大でまたは約22、最大でまたは約21、最大でまたは約20、最大でまたは約19、最大でまたは約18、最大でまたは約17、最大でまたは約16、最大でまたは約15、最大でまたは約14、最大でまたは約13、最大でまたは約12、最大でまたは約11、最大でまたは約10、最大でまたは約9、最大でまたは約8、最大でまたは約7、最大でまたは約6、最大でまたは約5、最大でまたは約4、最大でまたは約3、最大でまたは約3、および最大でまたは約2 g/ 70 kgである。実施例に示すように、約11 g/ 70 kg体重の食事当たりの用量は、現在までに有効であることが見出されている。
【0060】
したがって、1日当たりの有効量(3回の食事を含む)の好ましい範囲は、3~105 g/ 70 kg体重であり、より狭い用量区間は、20~45 g/ 70 kg、例えば25~40 g/ 70 kg、および30~35 g/ kg体重である。したがって、1日当たりの有効量は、約4、約5、 約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、約100、約101、約102、約103、約104、および約105 g/ 70 kgであり得る。
【0061】
上記から理解されるように、MIPは、典型的には懸濁液として、食品または飲料の一部として、または固形製剤として、経口投与される。
【0062】
本発明の第8態様に関する実施態様
第7態様と同様に、チロシン血症および/またはアルカプトン尿症の処置方法であって、1)フェニルアラニンと結合するMIP、好ましくは第2態様およびその実施態様のMIPまたは第3態様およびその実施態様の組成物を、1日当たりの有効量の第2態様のMIPを送達するように;および/または2)第5態様のチロシンと結合するMIPまたは第6態様の組成物を、1日当たりの有効量の第5態様およびその実施態様のMIPを送達するように、処置を必要とするヒトに投与することを含む、処置方法を提供する。
【0063】
好ましい実施態様において、これは、アルカプトン尿症のニチシノン処置に対する補助療法としてなされる。下記実施例3参照。
【0064】
上記のように、1日当たりの投与可能な用量のPheおよび/またはTyr結合MIPを投与することによりPKUに罹患しているヒトにおいてTyrを制御することが可能である:有効量は、好ましくは1~35 g/ 70 kg(すなわち体重70 kgあたり1~35 g)である。好ましくは、1日当たりの有効量は、最大でまたは約34 g/ 70 kg、例えば最大でまたは約33、最大でまたは約32、最大でまたは約31、最大でまたは約30、最大でまたは約29、最大でまたは約28、最大でまたは約27、最大でまたは約26、最大でまたは約25、最大でまたは約24、最大でまたは約23、最大でまたは約22、最大でまたは約21、最大でまたは約20、最大でまたは約19、最大でまたは約18、最大でまたは約17、最大でまたは約16、最大でまたは約15、最大でまたは約14、最大でまたは約13、最大でまたは約12、最大でまたは約11、最大でまたは約10、最大でまたは約9、最大でまたは約8、最大でまたは約7、最大でまたは約6、最大でまたは約5、最大でまたは約4、最大でまたは約3、最大でまたは約3、および最大でまたは約2 g/ 70 kgである。
【0065】
したがって、1日当たりの有効量の好ましい範囲は、10~15 g/ 70 kg、例えば約10、約11、約12、約13、約14または約15 g/ 70 kgである。
【0066】
上記から理解されるように、MIPは、典型的には懸濁液として、食品または飲料の一部として、または固形製剤として、経口投与される。
【実施例】
【0067】
実施例1 Phe結合MIPの製造
ポリマーを、モノリスとしても知られるバルクポリマーとして合成する。モノマーであるMAA(2-メチルプロパ-2-エン酸、CAS番号79-41-4)およびDAP(1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン、CAS番号6342-17-2)、ならびに鋳型であるジペプチドGly-L-Phe(GF)を、ガラス管において水に溶解させ、不活性ガスを溶液に通してバブリングすることにより脱気する。APS(ペルオキソ二硫酸アンモニウム、CAS番号7727-54-9)およびTEMED(テトラメチルエチレンジアミン、CAS番号110-18-9)を加え、ガラス管を高温の水浴に入れ、一晩重合させる。
【0068】
ガラス管を機械的に破壊し、ポリマー約10 gを収集し、ローターミルにおいて第1小型化に供する。小型化ポリマーを篩過し、25~63μm画分を収集し、変動pH値および有機溶媒を用いて高圧下でHPLCに充填して、徹底的に洗浄する。
【0069】
その後、洗浄および乾燥されたポリマーを、遊星運動をするボールミルに入れてボールミルすることによる第2小型化に供する。ボールミルした試料から懸濁可能な画分を、ボールミルしたポリマーを水に懸濁させ、超音波浴中でインキュベートし、最後に遠心分離することにより回収する。上清は、粒子径が約150~250 nmであるポリマーの懸濁液を含む。ポリマー懸濁液をpH 8.0の10倍PBSバッファーストックで緩衝化し、クロマトグラフィーの準備が整う。
【0070】
PBSをランニングバッファーとして用いて、ポリマーの懸濁液をアフィニティークロマトグラフィーカラムに適用し、ここでPheは、アフィニティータグとしてクロマトグラフィーマトリックス上に固定されている。ポリマー試料が通過した場合、カラムを洗浄して、カラムにしっかりと結合していないポリマー粒子を除去し、続いて有機溶媒を含めることによってランニングバッファーを交換することによりアフィニティー捕捉ポリマー粒子を溶出させる。
【0071】
溶出したポリマー粒子を、例えば透析またはタンジェンシャルフローろ過により水またはPBSへ移し、最終製造前に濃縮する。
【0072】
特定の実施例において、一般的な手順全体が次のように実施された。
【0073】
1. プレ重合:1.667 gのGly-L-Pheおよび50 mlの水を100 mlフラスコ中で2分間混合および撹拌し、1.301 gのMAAを加える。完全にGly-L-Pheを溶解させるために、さらに2分間撹拌し、室温(RT)の超音波浴(Branson 2510)中に2分間おいた後、38.834 gのDAPを加える。フラスコを40℃の水浴に入れ、5分間連続撹拌し、均一な溶液を得る。その後、フラスコをRTにて1~2時間放置する。
【0074】
2. 重合:17 mlのプレ重合溶液を、100 mgのAPSを含有する培養ガラス管(25x150 mm)に移し、1分間ボルテックスし(2,500 rpm)、5分間超音波浴に入れる。溶液に5分間アルゴンを注入し、新しく調製したTEMEDの25%水溶液75μlを加え、該ガラス管を20秒間2,500 rpmにてボルテックスした。管を蓋で密閉し、すぐに70℃の水浴に入れ、一晩重合させる。
【0075】
3. 小型化:ポリマーを手で約1 cmの断片にし、続いて13,000 rpmにて500μm篩リングを備えたローターミル(Fritsch Pulverisette 14)で粉砕する。
【0076】
25~63μm画分の単離のために、粉砕したポリマーを63および25μmのステンレス篩を篩過させる(乾燥させる)。単離した25~63μm画分をアセトンに懸濁させ、5~10分間沈降させる。
【0077】
上清を除去し、懸濁/沈降/デカントのサイクルを、上清が澄明になるまで繰り返す。沈殿したポリマーを60℃にて一晩乾燥させる。乾燥ポリマーをHPLCカラムに充填し、高圧下(5~15 bar)下記溶媒で洗浄する:
A. エタノール/酢酸 4:1(vol/vol);540 ml
B. エタノール;100 ml
C. エタノール/NaOH(5M)/H2O 5:2:3;200 ml
D. エタノール;100 ml
E. エタノール酢酸/H2O 18:1:1;200 ml
F. エタノール;300 ml
G. アセトン;100 ml
【0078】
洗浄したポリマーを60℃にて一晩乾燥させ、1.5 mmのボールを用いる第1工程および0.5 mmのボールを用いる最終工程の2工程でZrO2ボールを用いて、ZrO2粉砕チャンバーにおいてFritsch Pulverisette 7でボールミルする。両方の工程において、5 gのボールを12 mlの粉砕チャンバーに入れ、1 gのポリマーをボールの上部に置く。粉砕スケジュールは、750 rpmにて30分間粉砕、30分間休止、反転モードで750 rpmにて30分間粉砕などを1工程当たり10サイクルである。
【0079】
4. 安定した懸濁可能な画分の回収:粉砕後、ポリマーを約30 mlの水に懸濁させ、ピペットで粉砕ボールから分離し、50 mlポリプロピレン遠心管に移し、超音波浴(Branson 2510)に約30分間入れる。4,500 Gにて15分間遠心分離後、上清約25 mlを回収し、これは粒子径が150~250 nmの範囲であるポリマー粒子の安定な懸濁液を含む。1 cm石英キュベットにおける254 nmでの吸光度は、約500~1,500 AUである。
【0080】
5. クロマトグラフィーのための試料調製:30.000ダルトンカットオフを有するポリエーテルスルホンフィルターを用いて、回収した画分をタンジェンシャルフローろ過(TFF)により透析する。続いて、ポリマー懸濁液を10倍PBS(リン酸緩衝生理食塩水)により緩衝化し、1倍PBS(pH 8.0、20 mMリン酸、150 mM NaCl)で希釈して、254 nmにて30 AUの最終ポリマー濃度にする。
【0081】
6. アフィニティークロマトグラフィーによるPhe結合MIPの単離および後処理:TFFしたポリマーを、製造業者の推奨に従って、Gly-L-Pheと結合したアフィニティークロマトグラフィーカラム(HiTrap(登録商標)NHS活性化5 mlカラム、GE Healthcare、17-0717-01)にかける。10 mlの試料を1 ml/分にてカラムを通す。カラムを1 ml/分にてさらに50 mlで洗浄し、その後カラムを1 ml/分にて40%エタノール水溶液で溶出させる。ランニングバッファーは、pH 8.0のPBSである。溶出したMIPの画分を水に透析し、TFFにより濃縮し、必要に応じて凍結乾燥させる。
【0082】
実施例2 GlyPheクロマトグラフィーランスルーからのチロシン(Tyr)結合MIPの単離
実施例1の工程6におけるPhe結合MIPの単離方法(Gly-L-Phe結合カラムを用いるアフィニティークロマトグラフィー)からのランスルーを、製造業者の推奨に従って、Tyrと結合したカラム(HiTrap(登録商標)NHS活性化5 mlカラム、GE Healthcare、17-0717-01)に通す。20 mlの試料(Phe結合MIPの単離からのランスルー)を適用する以外、Gly-L-Phe結合カラムの実施と同じ手順を用いる。カラムを1 ml/分にてさらに50 mlで洗浄し、その後カラムを1 ml/分にて40%エタノール水溶液で溶出させる。ランニングバッファーは、pH 8.0のPBSである。溶出したMIPの画分を水に透析し、TFFにより濃縮し、最後に凍結乾燥する。
【0083】
驚くべきことに、これは、大容量で高親和性のTyr結合MIPの単離を提供する。
【0084】
チロシン血症またはアルカプトン尿症のいずれかに罹患し、ニチシノン(CAS番号104206-65-7)での処置を受けている患者は、それらの処置の副作用として血中に不健康な量のチロシンを蓄積することが知られている。
【0085】
この副作用に対する現在知られている唯一の治療は、タンパク質制限食を処方することである。チロシン血症およびアルカプトン尿症いずれの患者もフェニルアラニンのチロシンへの正常な変換を示すため、すなわち過剰なチロシンが、食事性チロシンおよびヒドロキシル化フェニルアラニンに由来するため、Phe結合MIPでの食事性フェニルアラニン摂取の減少は、これらの患者に有益と考えられる。さらに、これらの患者は、Phe結合MIPでのPKU患者の処置と同様の方法で、チロシン結合MIPでの処置による食事性チロシンの減少から利益を得る。
【0086】
実施例3 マウスモデルにおけるPhe結合MIPのヒト用量の確立
各試験群には、試験開始までフェニルアラニン制限餌で飼育された5匹のPKUマウスが含まれた。
【0087】
各マウスに、20.7 mgタンパク質/投与または20.7 mgタンパク質/投与+本発明のPhe結合MIPのいずれかの用量を2日間1日3回投与した。
【0088】
最初の投与前および最後の投与の2時間後に血液サンプルを各マウスから採取し、フェニルアラニンについて分析した。Phe結合MIPの種々の用量(
図1参照;用量は21、18および13 mgのMIPであった)で3回試験を実施した。
【0089】
PKUマウスモデル(フェニルアラニンヒドロキシラーゼが欠損している)において、Phe結合MIP対タンパク質の比(w/w)が0.63(13 mg Phe結合MIP/投与に対応)である比が、マウスに投与されたタンパク質からのPheを中和し、それ故に血中Phe濃度が、MIP処置マウスにおいて2日間1日当たり3回投与した後に同じとなることが見出された(
図1C)。一方、同量のタンパク質を与えられたがPhe結合MIPは与えられていないマウスは、2日間の試験の間に約140μMのPhe血中濃度の増加を示した。
【0090】
より多い用量のPhe結合MIPがマウスに投与される場合、すなわちMIP対タンパク質比を増加させる場合、処置マウスは、2日間の処置後に血中Phe濃度の減少を示した(
図1Aおよび1B)。
【0091】
マウス試験からのMIP対タンパク質比をヒトPKU患者に移行する場合、70 kgのヒトにおける標準的な食事(0.75 g タンパク質/kg体重/日)は、食事性タンパク質から得られたPheを中和するのに本発明のPhe結合MIP 11 gを必要とすることを意味する。血中Pheを低下させたいが、同量のタンパク質を消費したい患者の場合、より高いフェリミン対タンパク質比を用い得る。
【0092】
実施例4 産業スケール合成
産業形式での本発明のポリマーの合成および処理、例えば逆相エマルション重合は、典型的には以下の実施例に記載の工程により実施され、下記工程を含む:
1. 水相の調製
2. 油相の調製
3. W/O型エマルションの調製(水相と油相の混合)
4. 重合
【0093】
ポリマー合成後、ポリマーがビーズミルでの機械的方法による微細化プロセスへと続く前にポリマー粒子から油相を除去するための洗浄工程によりポリマー後処理を実施する。
【0094】
Re 1. 水相の調製
水相は下記を含有する:
【表1】
【0095】
水およびDAPを、肉眼で均一な溶液となるまで単純撹拌により混合した。その後、MAAおよびGly-Pheを加え、撹拌および超音波で室温にて溶解させた。溶液を1μmフィルターによりろ過した。最後に、APSをろ液に加え(99.173 g)、完全に溶解するまで、すなわち約4分間撹拌した。
【0096】
Re 2. 油相の調製
139.98 gのイソパラフィン系炭化水素溶媒(Isopar M(登録商標)、cas番号64742-47-8)および1.068 gの界面活性剤(Hypermer(登録商標)6212、Croda Iberica SA)を混合し、5~10分間撹拌して界面活性剤を完全に溶解させた。
【0097】
Ad 3. W/O型エマルションの調製
60 gの水相を、円柱ガラスにおいて油相に加え(底に沈殿させ)、その後、ウルトラタラックス分散機(Heidolph Diax 900、レベル5)を用いて高せん断撹拌に3分間供し、安定な油中水(W/O)型エマルションが形成された。
【0098】
Ad 4. 重合の開始
エマルションを2口反応フラスコに移し、3分間真空(-0.8 bar真空)および撹拌下3分間アルゴンフラッシングを3回繰り返すスキームで脱気した。脱気したら、0.064 gのTEMED(テトラメチルエチレンジアミン、cas番号110-18-9)を加え、約20~30分間かけて室温から70℃へ変わる水浴中でエマルションを70℃に加熱した。得られたポリマー(>90%)は、1~3μmの規則的な球状粒子の形態であった。その後、遠心分離(ろ過または等しく良好に適する同様の方法)により回収し、タンジェンシャルフローろ過(TFF)を用いてエタノールおよび水で洗浄した。
【0099】
逆相エマルション重合からのポリマー粒子の後処理および試験
最初に0.2 mm ZrO2ビーズ、続いて0.1 mm ZrO2ビーズの2工程で、セラミック(ZrO2)マイクロチャンバーを備えたNetzsch Labstar(登録商標)を用いて、洗浄したポリマービーズを湿式ビーズミルにより粉砕した。液相は、NaOHでpH 10.0に調整した50%エタノール水溶液であった。最後の実施後、動的光散乱(Malvern Nanosizer(登録商標))により決定した平均粒子径は170 nmであった。TFFを用いてナノ粒子を洗浄し、L-フェニルアラニンと結合したアフィニティークロマトグラフィーカラムに適用して、フェニルアラニン結合特性を試験した。逆相エマルション重合からのナノ粒子は、アフィニティークロマトグラフィーでのバルク重合により合成したナノ粒子と同様に行動した。
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1]
L-フェニルアラニン(Phe)およびL-Phe残基と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)の製造方法であって、該方法が、下記工程
a) 触媒および酸化剤の存在下で
- 2-メチルプロパ-2-エン酸(MAA)、
- 1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン(DAP)、および
- L-Pheまたはフェニルアラニンモチーフを露出するL-Phe誘導体からなる鋳型分子
を含む混合物を重合させて、架橋インプリントポリマーを得る工程、
b) 必要に応じて、続いて架橋インプリントポリマーを断片化して、第1断片化ポリマーを得て、粒子径が63μm未満のMIPを収集する工程、
c) 所望により、工程b)から得られたポリマー画分を洗浄および乾燥する工程、
d) 工程b)またはc)から得られたポリマー画分を断片化し、粒子径が150~250 nmの範囲の第2断片化ポリマーを収集する工程、
e) Pheがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに、工程d)から得られた第2断片化ポリマーを供する工程、および
f) 工程e)においてPheに結合するMIPを回収する工程
を含む方法。
[2]
工程a)における重合混合物が、5~30のモル比でMAAとDAPを含有する、[1]に記載の方法。
[3]
工程a)における重合混合物が、1.0~4.0、例えば1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2.0、約2.1、約2.2、約2.3、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、約2.9、約3.0、約3.1、約3.2、約3.3、約3.4、約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、および約4.0のモル比でMAAと鋳型分子を含有する、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
鋳型分子が、少なくとも1つのL-Phe残基を含有するペプチド形態のL-Phe誘導体である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]
鋳型分子が、ジペプチドまたはトリペプチドである、[4]に記載の方法。
[6]
鋳型分子が、
Gly-L-Phe、
Ala-L-Phe、
L-Asp-L-Phe-OMe、
L-Asp-L-Phe、
Gly-Gly-L-Phe、
Ala-Gly-L-Phe、
Gly-Ala-L-Phe、
L-Phe-Gly、
L-Phe-Ala、
L-Phe-L-Phe、
L-Phe-Ala-L-Phe、
L-Phe-Gly-L-Phe
からなる群より選択される、[5]に記載の方法。
[7]
鋳型分子が、Gly-L-Pheである、[6]に記載の方法。
[8]
工程a)における触媒が、テトラメチルエチレンジアミン、ジメチルピペラジンからなる群より選択され、好ましくはテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]
工程a)における酸化剤が、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択され、好ましくはペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]
工程b)における断片化が、すりつぶし、粉砕、爆発、ハンマー打ち、ボールミル、低温粉砕または衝突均質化を含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]
工程b)において収集されるMIPが、25~63μmの範囲の粒子径を有する、[1]~[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]
工程b)が、63μmのカットオフを有する篩を通過できるMIPの収集を伴う、[1]~[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13]
工程b)が、25μmのカットオフを有する篩上に保持されるMIPの収集をさらに伴う、[12]に記載の方法。
[14]
洗浄が、有機溶媒で変動pHにて実施される、[1]~[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15]
MIPが、高圧下での洗浄中に工程c)のHPLCカラムに充填される、[1]~[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16]
工程d)の断片化が、ボールミルまたはビーズミルで実施される、[1]~[15]のいずれか一項に記載の方法。
[17]
工程d)におけるMIPの収集が、水性溶媒、例えば水中にMIPを懸濁させ、超音波浴中でインキュベートし、遠心分離し、150~250 nmのMIPを含有する上清を単離することにより実施される、[1]~[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18]
工程d)が、残存鋳型分子からMIPを単離するための洗浄、例えば透析洗浄工程または超遠心分離での洗浄工程を伴う、[1]~[17]のいずれか一項に記載の方法。
[19]
工程e)におけるアフィニティークロマトグラフィーが、固定クロマトグラフィーマトリックスを用いる充填床クロマトグラフィーカラムで、かつ、MIPが緩衝水性溶媒中に懸濁されたところで実施される、[1]~[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20]
工程f)における回収が、クロマトグラフィーマトリックスからのMIPの溶離を含む、[1]~[19]のいずれか一項に記載の方法。
[21]
L-フェニルアラニン(Phe)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)であって、1,4-ジアクリロイルピペラジン(DAP)と架橋した重合メタクリル酸(MAA)を含んでなる、MIP。
[22]
MAA残基とDAP残基のモル比が、5~30である、[21]に記載のMIP。
[23]
[1]~[20]のいずれか一項に記載の方法により取得可能であるかまたは取得される、[21]~[22]のいずれか一項に記載のMIP。
[24]
L-Pheへの結合についてのKDが、10-7未満、例えば10-8未満、9x10-9未満、8x10-9未満、7x10-9未満、6x10-9未満、5x10-9未満、4x10-9未満、3x10-9未満および2x10-9未満である、[21]~[23]のいずれか一項に記載の分子インプリントポリマー。
[25]
KDが、約10-9である、[24]に記載の分子インプリントポリマー。
[26]
[21]~[24]いずれか一項に記載の分子インプリントポリマーを含む組成物であって、医薬的に許容される担体および/または希釈液および/または添加剤を含み、経口投与に適用される、組成物。
[27]
L-チロシン(Tyr)と特異的に結合するMIPの製造方法であって、少なくとも1つのフェニルアラニンモチーフを含むがTyr残基を含まない分子を、重合および架橋中に鋳型分子として用いて製造されたMIPの初期組成物から、L-チロシンと結合するMIPを回収することを含む、方法。
[28]
鋳型分子が、[1]および[4]~[7]のいずれか一項に定義されるとおりである、[27]に記載の方法。
[29]
MIPの初期組成物が少なくとも2画分に分離されること、およびPhe含有捕捉プローブと結合するMIPを本質的に含まない画分から、Tyr結合MIPを回収することを含む、[27]または[28]に記載の方法。
[30]
下記工程
a) 触媒および酸化剤の存在下で
- 2-メチルプロパ-2-エン酸(MAA)、
- 1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン(DAP)、および
- [1]および[4]~[7]のいずれか一項で定義される鋳型分子
を含む混合物を重合させて、架橋インプリントポリマーを得る工程、
b) 必要に応じて、続いて架橋インプリントポリマーを断片化して、第1断片化ポリマーを得て、粒子径が63μm未満のその画分を収集する工程、
c) 所望により、工程b)から得られたポリマー画分を洗浄および乾燥する工程、
d) 工程c)から得られたポリマー画分を断片化し、粒子径が150~250 nmの範囲の第2断片化ポリマーを収集する工程、および
e) 工程d)から得られた第2断片化ポリマーをアフィニティークロマトグラフィーに供する工程であって、
e1) Tyrがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに供する工程、または
e2) Pheがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに供し、Pheに結合していないMIPを回収し、そして、Tyrがクロマトグラフィーマトリックスにおけるアフィニティータグを構成するアフィニティークロマトグラフィーに、Pheに結合していないMIPをさらに供する工程、および
f) 工程e)においてTyrに結合するMIPを回収する工程
を含む、[27]~[29]のいずれか一項に記載の方法。
[31]
L-チロシン(Tyr)と特異的に結合する分子インプリントポリマー(MIP)であって、1,4-ジアクリロイルピペラジン(DAP)と架橋した重合メタクリル酸(MAA)を含んでなる、MIP。
[32]
MAA残基とDAP残基のモル比が、5~30である、[31]に記載のMIP。
[33]
[27]~[30]のいずれか一項に記載の方法により取得可能であるかまたは取得される、[31]~[32]のいずれか一項に記載のMIP。
[34]
Tyrへの結合についてのKDが、10-7未満、例えば10-8未満、9x10-9未満、8x10-9未満、7x10-9未満、6x10-9未満、5x10-9未満、4x10-9未満、3x10-9未満および2x10-9未満である、[31]~[33]のいずれか一項に記載の分子インプリントポリマー。
[35]
KDが、約10-9である、[34]に記載の分子インプリントポリマー。
[36]
[31]~[34]のいずれか一項に記載の分子インプリントポリマーを含む組成物であって、医薬的に許容される担体および/または希釈液および/または添加剤を含み、経口投与に適用される、組成物。
[37]
処置を必要とするヒトにおけるフェニルケトン尿症の処置方法であって、1日当たりの有効量の[21]~[24]のいずれか一項に記載のMIPを送達するように、[21]~[24]のいずれか一項に記載のMIPまたは[26]に記載の組成物を処置を必要とするヒトに投与することを含む、処置方法。
[38]
チロシン血症および/またはアルカプトン尿症の処置方法であって、
1) フェニルアラニンと結合するMIP、好ましくは[21]~[24]のいずれか一項に記載のMIPまたは[26]に記載の組成物を、1日当たりの有効量の[21]~[24]のいずれか一項に記載のMIPを送達するように;および/または
2) [31]~[34]のいずれか一項に記載のチロシンと結合するMIPまたは[36]に記載の組成物を、1日当たりの有効量の[31]~[34]のいずれか一項に記載のMIPを送達するように
処置を必要とするヒトに投与することを含む、処置方法。
[39]
処置が、アルカプトン尿症またはチロシン血症I型のニチシノン処置に対する補助療法として実施される、[38]に記載の方法。
[40]
1日当たりの有効量が、1~35 g/ 70 kg体重である、[37]~[39]のいずれか一項に記載の方法。
[41]
食事当たりの有効量が、最大でまたは約34 g/ 70 kg、例えば最大でまたは約33、最大でまたは約32、最大でまたは約31、最大でまたは約30、最大でまたは約29、最大でまたは約28、最大でまたは約27、最大でまたは約26、最大でまたは約25、最大でまたは約24、最大でまたは約23、最大でまたは約22、最大でまたは約21、最大でまたは約20、最大でまたは約19、最大でまたは約18、最大でまたは約17、最大でまたは約16、最大でまたは約15、最大でまたは約14、最大でまたは約13、最大でまたは約12、最大でまたは約11、最大でまたは約10、最大でまたは約9、最大でまたは約8、最大でまたは約7、最大でまたは約6、最大でまたは約5、最大でまたは約4、最大でまたは約3、最大でまたは約3、および最大でまたは約2 g/ 70 kgである、[40]に記載の方法。
[42]
1日当たりの有効量が、20~45 g/ 70 kg、例えば25~40 g/ 70 kg、および30~35 g/ kgである、[40]に記載の方法。
[43]
1日当たりの有効量が、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、約100、約101、約102、約103、約104、および約105 g/ 70 kg体重である、[40]に記載の方法。