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  • 特許-死生物用の防腐剤、及びスプレー容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】死生物用の防腐剤、及びスプレー容器
(51)【国際特許分類】
   A01N 33/12 20060101AFI20230330BHJP
   A01N 1/00 20060101ALI20230330BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20230330BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230330BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20230330BHJP
   B05B 9/01 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
A01N33/12 101
A01N1/00
A01N25/00 101
A01P3/00
A61L2/18
B05B9/01
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020020984
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021127296
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2020-11-04
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520049972
【氏名又は名称】株式会社ヒュッゲ
(74)【代理人】
【識別番号】100205523
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 浩也
(72)【発明者】
【氏名】目代 啓祐
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第2555504(US,A)
【文献】特開平9-239012(JP,A)
【文献】特開2011-51963(JP,A)
【文献】特開2000-281553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の死体用の防腐剤であって、
塩化ベンザルコニウムと、
水と、
1,3-ブチレングリコールと、
艶出し剤と、
水溶性有機溶媒と、
を含有し、
防腐剤全体に対する前記塩化ベンザルコニウムの含有率は0.1質量%以上0.2質量%以下、前記1,3-ブチレングリコールの含有率は10質量%以上20質量%以下、及び前記艶出し剤の含有率は5質量%以上20質量%以下であること、
を特徴とした人の死体用の防腐剤。
【請求項2】
請求項1に記載の人の死体用の防腐剤であって、
さらにグリセリンと、
を含有し、
防腐剤全体に対する前記1,3-ブチレングリコールの含有率は10質量%、及びグリセリンの含有率は10質量%であること、
を特徴とした人の死体用の防腐剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人の死体用の防腐剤であって、
さらにアロエエキスと、
を含有し、
防腐剤全体に対する前記アロエエキスの含有率は1質量%であること、
を特徴とした人の死体用の防腐剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、死生物用の防腐剤、及びスプレー容器に関する。
【背景技術】
【0002】
少子・高齢化が進む日本の社会は、2005年を境に人口減少時代に突入している。 厚生労働省によると、2017年の死亡者数は約134万人、この20年間で約40万人増え、かつてない「多死社会」が現実になりつつある。
【0003】
上記のような状況の中、火葬場は老朽化や統廃合などで減少し、この20年で半分近くに減っている。東京都によれば「都市部では火葬が追いつかない」のが現状であり、都市部では近隣の市町村でも火葬が間に合わず、当該地域の住民以外の火葬を受け付けない自治体も出てきた。このような要因から、亡くなってから火葬が行われるまで1週間以上を要する場合も出てきており、故人の腐敗を遅らせる技術が求められている。
【0004】
一方、別の問題として、事故死や孤独死など様々な死因や発見タイミングの遅れから、納棺士が故人の身体を可能な限り洗浄しても死臭が発生、または残ることが確認されている。この臭いのため、葬儀時に家族や関係者と対面がかなわない事案が多数発生している。葬儀場においては、少しでも死臭が感じられた場合、式後に葬儀場内の臭いを消すことが困難となることから、いかに故人への死化粧がきれいにされていたとしても、家族や関係者との対面を行わない対応を取っている。その際の故人は、臭いが漏れないように身体をビニールで覆われるとともに、ビニールテープ等を用いて完全密閉され、家族や関係者と対面することなく火葬場に送られている実態があり、故人の死臭を消す技術も求められている。
【0005】
それに加え、納棺士が故人の湯灌および死化粧の上、故人を家族自宅や葬儀場へ戻した後、化粧崩れ等により再度手直しに行くケースが一定割合発生している。これは、故人の肌が生前に比べ乾燥が早く、肌の状態が悪くなりやすいためであり、故人の肌の保湿する技術も併せて求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005ー52299号公報
【文献】特許第6057444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている発明は、グアニジン系殺菌剤を噴霧することで簡単に遺体搬送車内の殺菌消毒が可能な方法が記載され、殺菌消毒効果が高いことから塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウム塩系殺菌消毒薬が広く使用されていることが記載されているが、金属腐食性があることのみが考慮されており、遺体自体を防腐したり、消臭する効果についての記載はない。
【0008】
特許文献2に記載されている防腐剤には、抗菌作用を有する陽イオン界面活性剤として殺菌性を発揮する塩化ベンザルコニウムが挙げられているが、チューブなどを利用して体内に注入することを前提としており、医療従事者以外の一般の納棺士やご遺族を含む葬儀関係者が扱うことは困難である。また体内に中に有することを前提としているため、遺体の皮膚の乾燥や臭いについては全く考慮されていない。
【0009】
そこで、本発明のいくつかの態様はかかる事情に鑑みてなされたものであり、死生物の腐敗を遅らせるとともに、死生物が腐敗して発する臭いを消臭し、死生物の肌を保湿、艶出しすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、人の死体用の防腐剤であって塩化ベンザルコニウムと、水と、1,3-ブチレングリコールと、艶出し剤と、水溶性有機溶媒と、を含有し、防腐剤全体に対する前記塩化ベンザルコニウムの含有率は0.1質量%以上0.2質量%以下、前記1,3-ブチレングリコールの含有率は10質量%以上20質量%以下、及び前記艶出し剤の含有率は5質量%以上20質量%以下であること、を特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の人の死体用の防腐剤であって、さらにグリセリンと、を含有し、防腐剤全体に対する前記1,3-ブチレングリコールの含有率は10質量%、及びグリセリンの含有率は10質量%であること、を特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の液体であって、さらにアロエエキスと、を含有し、防腐剤全体に対する前記アロエエキスの含有率は1質量%であること、を特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1乃至請求項3の発明によれば、塩化ベンザルコニウムと水の混合により、塩化ベンザルコニウムの殺菌及び消毒の効果で死生物の腐敗を遅らせることができる。
【0014】
請求項1乃至請求項3の発明によれば、水溶性有機溶媒の混合により、混合物を均一にする効果と、死生物の殺菌及び消毒の効果で死生物の腐敗を遅らせることができる。
【0015】
請求項1乃至請求項3の発明によれば、1.3ブチレングリコール又はグリセリンの混合により、死生物の肌を保湿する効果で死生物の肌の乾燥を防ぎ、腐敗を遅らせるとともに、死化粧の化粧崩れを防ぐことができる。
【0016】
請求項1乃至請求項3の発明によれば、艶出し剤の混合により、死生物の肌の艶を出す効果で故人を葬儀で見送る際に故人を良い状態に保持することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、第四級アンモニウム塩や水溶性有機溶媒配合の液体を直接手で触ると殺菌効果で手が荒れてしまうが、アロエエキスの混合により、皮膚を保護する効果で前記液体を故人に塗り込む納官士等の手を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るプッシュ式スプレー容器である。
図2】本発明の実施形態に係るトリガー式スプレー容器である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面、表を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。さらに、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
(実施形態1:第四級アンモニウム塩、及び水)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩は、真菌、アメーバ、エンベロープを持つウイルスに対しても細胞膜を破壊することにより殺菌及び消毒効果があり、死生物内の菌増殖を防ぐことができる。第四級アンモニウム塩は塩化ベンザルコニウムでも良いし、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、セトリモニウム、塩化ドファニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、及び臭化ドミフェン等があげられるが、これらに限定するものではない。
【0021】
本実施形態に含まれる水は第四級アンモニウム塩の濃度を低下させるために使用される。本実施形態に含まれる水は特に不純物の混入、又は微生物の発生を防止するという観点から、精製水、イオン交換水、超純水、蒸留水、限外濾過水が好適に挙げられる。本実施形態による防腐剤の第四級アンモニウム塩の含有率は、殺菌、及び消毒効果、もしくは防腐剤を扱う人の人体に影響が出ない範囲から、0.005質量%以上2質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0022】
(実施形態2:第四級アンモニウム塩、水、及び水溶性有機溶媒)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1と同様であり、第四級アンモニウム塩の含有率も同様である。
【0023】
本実施形態に含まれる水溶性有機溶媒は実施形態1の混合物を均一にする効果と、死生物の殺菌及び消毒する効果のために使用される。本実施形態に含まれる水溶性有機溶媒はエタノール、プロパノールなどのアルコール類を指すが、ジエチレングリコール,グリセリンなどの多価アルコール類,ピロリドン系溶媒等でも良いし、これらに限定するものではない。本実施形態による防腐剤の水溶性有機溶媒の含有率は、殺無水水溶性有機溶媒になる可能性、殺菌効果、もしくは容器の腐食や変形するおそれの範囲から、0.5質量%以上90質量%以下、好ましくは3質量%以上85質量%以下、更に好ましくは5質量%以上80質量%以下である。
【0024】
(実施形態3:第四級アンモニウム塩、水、芳香剤及び水溶性有機溶媒)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と水と、芳香剤と、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1、及び実施形態2と同様であり、第四級アンモニウム塩の含有率、及び水溶性有機溶媒も同様である。
【0025】
本実施形態に含まれる芳香剤は、死生物が発する臭いをマスキングする消臭効果のために使用される。本実施形態に含まれる芳香剤は植物由来の精油が好ましく、ラベンダー油、レモングラス油、及びスイートオレンジ油等があるが、その他の芳香剤でも良い。本実施形態による防腐剤の芳香剤の含有率は、消臭効果、もしくは肌荒れのおそれの範囲から、0.01質量%以上14質量%以下、好ましくは0.05質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。
【0026】
(実施形態4:第四級アンモニウム塩、水、保湿剤及び水溶性有機溶媒)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、保湿剤と、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1、及び実施形態2と同様であり、第四級アンモニウム塩の含有率、及び水溶性有機溶媒も同様である。
【0027】
本実施形態に含まれる保湿剤は、死生物、とりわけ人体の肌の保湿をして、葬儀の際、肌の状態を良い状態に高める効果のために使用される。本実施形態に含まれる保湿剤は多価アルコールを使用し、具体的にはグリセリン、1.3ブチレングリコール、1.2ーヘキサンジオール、ソルビトール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール等があげられるが、これらに限定するものではない。本実施形態による防腐剤の保湿剤の含有率は、保湿効果、もしくは高含有率を起因とする水分蒸発のおそれの範囲から、1質量%以上30質量%以下、好ましくは2質量%以上25質量%以下、更に好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0028】
(実施形態5:第四級アンモニウム塩、水、艶出し剤及び水溶性有機溶媒)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、艶出し剤と、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1、及び実施形態2と同様であり、第四級アンモニウム塩の含有率、及び水溶性有機溶媒も同様である。
【0029】
本実施形態に含まれる艶出し剤は、死生物、とりわけ人体の肌の保湿、艶を出すことにより、葬儀の際、肌の状態を良い状態に高める効果のために使用される。本実施形態に含まれる艶出し剤は植物の実や種子由来のオイルを使用し、具体的には、オリーブオイル、ココナッツオイル、ホホバオイル、スイートアーモンドオイル、アプリコットカーネルオイル、マカデミアナッツオイル等があげられるが、これらに限定するものではない。本実施形態による防腐剤の保湿剤の含有率は、保湿、艶出し効果、もしくは肌のベタつきのおそれの範囲から、0.01質量%以上20質量%以下、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、更に好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0030】
(実施形態6:第四級アンモニウム塩、水、及びアロエエキス)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、アロエエキスと、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1と同様であり、第四級アンモニウム塩の含有率も同様である。
【0031】
本実施形態に含まれるアロエエキスはユリ科植物のアロエの葉や葉汁からとれる、天然植物性エキスである。殺菌作用を有する第四級アンモニウム塩が含まれている本実施形態の防腐剤は、直接死生物、もしくは人の死体に塗布する場合、塗布する人の手が荒れてしまうが、アロエエキスによって塗布する人の肌の組織を回復させて再生させる効果があるため、塗布する人の肌を保護するために使用される。本実施形態による防腐剤のアロエエキスの含有率については特に定めない。
【0032】
(実施形態7:第四級アンモニウム塩、水、芳香剤、保湿剤及び水溶性有機溶媒)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、芳香剤と、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1、実施形態2、実施形態3及び実施形態4と同様であり、第四級アンモニウム塩、芳香剤、保湿剤及び水溶性有機溶媒の含有率も同様である。
【0033】
本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩、芳香剤、保湿剤及び水溶性有機溶媒の効果は実施形態1、実施形態2、実施形態3及び実施形態4と同様であり、本実施形態とすることで、混合物を均一にしながら、殺菌消毒効果、消臭効果、及び人体の肌の保湿をして、葬儀の際、肌の状態を良い状態に高める効果を同時に発揮することが可能となる。
【0034】
(実施形態8:第四級アンモニウム塩、水、芳香剤、保湿剤、艶出し剤及び水溶性有機溶媒)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、芳香剤と、艶出し剤と、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1、実施形態2、実施形態3、実施形態4及び実施形態5と同様であり、第四級アンモニウム塩、芳香剤、保湿剤、艶出し剤及び水溶性有機溶媒の含有率も同様である。
【0035】
本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩、芳香剤、保湿剤、艶出し剤及び水溶性有機溶媒の効果は実施形態1、実施形態2、実施形態3、実施形態4及び実施形態5と同様であり、本実施形態とすることで、混合物を均一にしながら、殺菌消毒効果、消臭効果、人体の肌の保湿効果、及び艶を出すことにより、葬儀の際、肌の状態を良い状態に高める効果を同時に発揮することが可能となる。
【0036】
(実施形態9:第四級アンモニウム塩、水、芳香剤、保湿剤、艶出し剤、アロエエキス及び水溶性有機溶媒)
本実施形態の防腐剤は、第四級アンモニウム塩と、水と、芳香剤と、艶出し剤と、アロエエキスと、水溶性有機溶媒と、を含む。本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩と水は実施形態1乃至実施形態6と同様であり、第四級アンモニウム塩、芳香剤、保湿剤、艶出し剤、アロエエキス及び水溶性有機溶媒の含有率も同様である。
【0037】
本実施形態に含まれる第四級アンモニウム塩、芳香剤、保湿剤、艶出し剤、アロエエキス及び水溶性有機溶媒の効果は実施形態1乃至実施形態6であり、本実施形態とすることで、混合物を均一にしながら、殺菌消毒効果、消臭効果、人体の肌の保湿効果、及び艶を出すことにより、葬儀の際、肌の状態を良い状態に高める効果に加え、塗布する納棺士等の肌を保護する効果を同時に発揮することが可能となる。
【0038】
(実施形態10:防腐剤を収容するスプレー容器と、前記スプレー容器による噴霧)
【0039】
実施形態1乃至実施形態9の防腐剤を、直接死生物、もしくは人の死体に塗布することも可能だが、死生物、及び人の死体の形態や肌が崩れる恐れがある場合、本実施形態では、例として図1に示すスプレー容器1に実施形態1乃至実施形態9の防腐剤を収容して、ノズル11をプッシュして噴霧しても良い。スプレー容器は図1のようなプッシュ式容器でも良いし、図2のようなトリガー12を有するタイプのスプレー容器2でも良いし、噴霧可能であれば市販の他タイプのスプレーでも良い。
【0040】
以上の本実施形態は、限定的に解釈されるものではなく、本発明の要件を満足する範囲内で実現されることは、言うまでもない。
【実施例
【0041】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
<実施形態1の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・精製水:残部
<実施形態2の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・無水エタノール:10質量%
・精製水:残部
<実施形態3の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・無水エタノール:10質量%
・ラベンダー精油:1質量%
・精製水:残部
<実施形態4の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・無水エタノール:10質量%
・グリセリン:10質量%
・精製水:残部
<実験形態5の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・無水エタノール:10質量%
・ホホバオイル:5質量%
・精製水:残部
<実験形態6の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・アロエエキス:1質量%
・精製水:残部
<実験形態7の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・無水エタノール:10質量%
・ラベンダー精油:1質量%
・グリセリン:10質量%
・精製水:残部
<実験形態8の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・無水エタノール:10質量%
・ラベンダー精油:1質量%
・グリセリン:10質量%
・ホホバオイル:5質量%
・精製水:残部
<実験形態9の実施例>
・塩化ベンザルコニウム:0.1質量%
・無水エタノール:10質量%
・ラベンダー精油:1質量%
・グリセリン:10質量%
・ホホバオイル:5質量%
・アロエエキス:1質量%
・精製水:残部
【0043】
<評価1>
(第四級アンモニウム塩の効果の評価)
各実施形態(実施形態1乃至実施形態9)に関して第四級アンモニウム塩の効果を確認するため、納官士による評価実験を行った。なお、この実験においては、図1のタイプのスプレーを用いて評価を行っている。
【0044】
(実験1:臭気測定器による第四級アンモニウム塩の消臭・除菌効果の確認)
芳香剤を含有しない実施形態1、2、4、5及び6において、それぞれの防腐剤を被検体の頭皮にスプレーし、消臭・除菌効果について検証を行った。第四級アンモニウム塩のみの効果を主に確認する目的で、実施形態1をメインに実験を行っている。
ただし、補足的に、実施形態2,4,5、及び6での防腐剤を用いた実験も行った。
対象とした被検体(故人)は、データの信頼性確保のため、病院等で事前に頭皮を洗っていないことが確認できた検体で、頭皮に臭いを感じる検体のみを対象とした。
【0045】
測定は、初期状態および防腐剤吹き付け後24時間後に測定し、本実験では、臭気測定器(新コスモス電機株式会社:XP-329IIIR-臭気の強度を0-2000で表示、数値が高い程、臭気が強い)を使用し、臭気の指数を測定、消臭・除菌効果の確認を行った。
【0046】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表1~表4に一覧にして示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
上記結果から逆性石鹸である第四級アンモニウム塩の臭気の発生源への吸着に伴い、臭気の発生を抑えているものと推察される。故人の場合は基本的に臭いが出てきた部分は増していくことから、第四級アンモニウム塩の殺菌及び消毒による消臭・除菌が一定の効果がある事が確認された。
【0053】
ただし、臭気測定器は外部要因により測定不可能となることが多い。例えば、石油ストーブを隣接する部屋でつけた場合、灯油の臭気が入り、数日は値が高止まりして、テストが不可能となる。よって、芳香剤を含有する実施形態については、芳香剤の臭気により臭気測定器が対象の臭気強度を測定することできないことから、実験2として人の嗅覚による別実験を行っている。
【0054】
(実験2:納官士による第四級アンモニウム塩の消臭・除菌効果の確認)
被検体である故人の内、頭皮にニオイのある検体に対し各実施形態の防腐剤を噴霧し、検証した。第四級アンモニウム塩の濃度は、納官士の健康を考え、当該薬品の使用上の目安とされている含有率を適用している。芳香剤を含有する実施形態3、7、8、及び9において、それぞれの防腐剤を被検体の頭皮にスプレーし、消臭・除菌効果について検証を行った。第四級アンモニウム塩のみの効果を主に確認するため、実施形態3をメインに実験を行っている。
ただし、補足的に、実施形態7乃至9での防腐剤を用いた実験も行った。
【0055】
対象とした被検体(故人)は、データの信頼性確保のため、病院等で事前に頭皮を洗っていないことが確認できた検体で行った。また、頭皮に臭いを感じる検体のみを対象とし、測定は初期状態および防腐剤吹き付け後に測定、判定は納棺士2名以上にて行っている。
【0056】
―消臭・除菌効果の判定の評価基準―
×:効果なし
△:効果薄い
〇:効果あり
【0057】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表6~表9に一覧にして示す。
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
納官士の嗅覚にて臭気の状態の確認を行った結果、明らかに臭気を抑えていることが確認できた。このことから、故人に対しても第四級アンモニウム塩の有効性を確認できたこととなる。
【0063】
<評価2>
(芳香剤効果の評価)
各実施形態(実施形態3、実施形態7、実施形態8、及び実施形態9)に関して芳香剤の効果を確認するため、納官士による評価実験を行った。なお、この実験においては、図1のタイプのスプレーを用いて評価を行っている。
【0064】
(実験3:芳香剤の効果がある濃度の確認)
芳香剤の含有率を変えた防腐剤を使用し、納棺士5名の手にスプレーし、各人が当該芳香成分を嗅ぐことでどう感じるかについて検証を行った。
【0065】
―芳香剤の判定の評価基準―
×:効果なし
△:効果薄い
〇:効果あり
◎:非常に効果あり
□:効果が強すぎる
【0066】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表10~表13に一覧にして示す。
【0067】
【表10】
【0068】
【表11】
【0069】
【表12】
【0070】
【表13】
【0071】
上記結果から芳香剤の感じ方については、感覚によるところが多いものの、概ね0.1質量%以上含めることで効果がある事が確認された。芳香剤の含有率により、人が心地よくも感じることがあれば、不快と感じることもあることから、可能な限り万人が心地よく感じる含有率とすることが求められる。また、芳香剤の成分によっては、強く感じたり弱く感じたりすることもあるため、芳香剤成分を変更する際は、該当の芳香剤毎に感じ方のテストをする必要がある。
【0072】
(実験4:芳香剤のマスキング効果(消臭効果)の確認)
芳香剤の含有率を変えた防腐剤を使用し、故人の臭いが発生しやすい肌(頭皮)へ噴霧し、消臭効果(マスキング効果)を検証した。なお、実験1にて実施形態による芳香効果の差異は確認されなかったため、実施形態9の防腐剤をメインで使用し、実験を行った。ただし、補足的に、実施形態3、7、及び8での防腐剤を用いた実験も行っている。
【0073】
対象とした被検体(故人)は、データの信頼性確保のため、病院等で事前に頭皮を洗っていないことが確認できた検体で行った。また、頭皮に臭いを感じる検体のみを対象とし、初期状態および防腐剤吹き付け後に測定、判定は納棺士2名以上にて行った。
【0074】
―マスキング効果の判定の評価基準―
×:効果なし
△:効果薄い
〇:効果あり
【0075】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表14~表17に一覧にして示す。
【0076】
【表14】
【0077】
【表15】
【0078】
【表16】
【0079】
【表17】
【0080】
上記結果から全ての被検体で初期状態の臭いをマスキング出来たことが確認された。初期状態からの頭皮の臭いを一時的に消臭出来たことになる。故人については、粘膜や内臓、乾燥した皮膚等から腐敗が進み、悪臭が発生されるため、当該マスキング効果による消臭だけでなく、前述の第四級アンモニウム塩による殺菌・消毒効果や後述の保湿剤による肌の乾燥防止等を併せる事で臭いの元を極力減少させることが効果的である。
【0081】
また、本実験においては、臭気測定器を使用していない。臭気測定器は臭気の強度を数値化することから、本実験の様なマスキング効果を利用した消臭効果を測定する場合には、芳香剤の臭気の強度がそのまま数値に現れてしまい、本来測定すべき故人から発生される臭気の変化を正確に把握する事が困難となる。そのため、人の嗅覚において、臭いと感じるか否かの実験を行った。
【0082】
<評価3>
(保湿剤効果の評価)
各実施形態(実施形態4、実施形態7、実施形態8、及び実施形態9)に関して保湿剤の効果を確認するため、納官士による評価実験を行った。なお、この実験においては、図1のタイプのスプレーを用いて評価を行っている。
【0083】
(実験5:納官士の保湿効果確認)
保湿剤の含有率を変えた防腐剤を使用し、納棺士5名の手にスプレーし、各人が当該納棺士自身の手にスプレーし、保湿効果について検証を行った。
【0084】
―保湿剤の判定の評価基準―
×:効果なし
△:効果薄い
〇:効果あり
◎:非常に効果あり
【0085】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表18~表21に一覧にして示す。
【0086】
【表18】
【0087】
【表19】
【0088】
【表20】
【0089】
【表21】
【0090】
上記結果の通り、実施形態4と7において同様の結果となった。また実施形態8と9においても同様の結果となった。実施形態4、及び7の結果と、実施形態8及び9の結果の差がでた要因としては、艶出し剤の成分により防腐剤全体の肌なじみが良くなり、被験者の保湿感につながったものと考えられる。保湿剤の種類によっては、高濃度とした場合に、空気中からのみならず、保湿剤の触れている肌からも水分を吸湿する性質を持つものも存在するため、納棺士の肌への影響を考え、20.0質量%超の実験は、安全を考慮し、実施しないこととした。
【0091】
(実験6:故人の肌の効果の確認)
故人の肌(頬)の水分量(単位:%)を測定し、保湿の効果を検証した。保湿剤の含有率は上記実験3にて効果の確認できた範囲のものを使用した。実験3にて実施形態による保湿効果の差異はそれ程大きくは確認されなかったため、実施形態9の防腐剤をメインで使用し、実験を行った。ただし、補足的に、実施形態4、実施形態7、及び実施形態8での防腐剤を用いた実験も行っている。
【0092】
対象とした被検体(故人)は、データの信頼性確保のため、病院等で化粧水や
ワセリン等を肌に事前に付けていないことが確認できた検体で行った。防腐剤の吹き付けは24時間毎に毎日行い、測定は初期状態および防腐剤吹き付け後24時間後(再吹き付け前)に測定している。
【0093】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表22~表25に一覧にして示す。
【0094】
【表22】
【0095】
【表23】
【0096】
【表24】
【0097】
【表25】
【0098】
上記結果から数値の上昇にばらつきがあるのは、被検体の肌質の違いが影響しているものと推察される。しかし、ほぼ全ての被検体で初期状態からの水分量の上昇・維持が確認できていることから、故人への保湿剤の効果があることが明らかとなった。これにより、各実施形態において、故人の肌の乾燥に伴う腐敗を抑制できていることとなる。
【0099】
安置されている故人は、腐敗防止の観点から、身体全体をドライアイスにて温度の上昇を抑える対応をしている。ドライアイスは温度上昇の抑制が出来る代わりに故人の乾燥を促進するため、初期状態の水分量を保つことは、非常に困難である事が知られている。特に長期間の安置を予定している故人へはドライアイスを多めに使用する傾向があるため、前述の乾燥がより早く進む。
【0100】
本実験においては、道義的責任から、故人の肌へ保水等の処置をせずに放置した場合の測定実験は行わないこととした。また、検体毎に測定期間に差があるのは、安置のタイミングから火葬までの期間に寄るものである。
【0101】
また、男性の故人は、死化粧前に髭を剃る事が多い。生前に髭の処理がされていないケースもあるが、死後に肌の水分量が減ることで肌が縮み、髭が伸びた状態になることが知られている。病院の看護師や納棺士にて、死化粧前に髭を剃る事があるが、肌を傷つけると体液が出て、カサブタ状態のものが顎周りに発生する。納棺士が手直しを求められ再出動する原因の一つとなっているが、保湿剤入りの防腐剤を使用して髭剃りをしたケース(約300事例)では、当該手直しによる再出動は発生しておらず、保湿効果のみならず、肌の保護という観点からも有効と考えられる。
【0102】
<評価4>
(艶出し剤効果の評価)
各実施形態(実施形態5、実施形態8、及び実施形態9)に関して艶出し剤の効果を確認するため、納官士による評価実験を行った。なお、この実験においては、図1のタイプのスプレーを用いて評価を行っている。
【0103】
(実験7:艶出し剤の効果がある含有率の確認)
実施形態5,8及び9において、それぞれに艶出し剤の含有率を変えた防腐剤を使用し、納棺士5名にて被検体である故人へ使用した際の、見た目上の艶出し効果について検証を行った。対象とした被検体(故人)は、データの信頼性確保のため、病院等でワセリン等油分を含むものを肌に事前に付けていないことが確認できた検体で行っている。
【0104】
―艶出し剤の判定の評価基準―
×:効果なし
△:効果薄い
〇:効果あり
◎:非常に効果あり
【0105】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表26 ~表28に一覧にして示す。
【0106】
【表26】
【0107】
【表27】
【0108】
【表28】
【0109】
上記結果から実施形態5、8、及び9のいずれの防腐剤においても同一の結果が得られた。艶出し剤の含有率は3質量%以上において、明確な効果がある事が確認できた。また、5質量%超においては、故人の衣服等への色ジミや汚れ等の懸念があるため、当該濃度を超える測定は行っていない。また、実施形態別で艶出し効果の差異は見られなかったことから、艶出し剤のみによる効果が現れていることが確認できた。
【0110】
(実験8:艶出し剤の油分値による効果の測定)
故人の肌(頬)の油分値(測定範囲:1~5※大きい程油分がある)を測定し、艶出し剤の効果を検証した。艶出し剤の含有率は上記実験7にて効果の確認できた範囲のものを使用している。実験7にて実施形態による艶出し効果の差異は見られなかったため、実施形態9の防腐剤をメインで使用し、実験を行った。
ただし、補足的に実施形態5及び8での防腐剤を用いた実験も行った。対象とした被検体(故人)は、データの信頼性確保のため、病院等でワセリン等油分を含むものを肌に事前に付けていないことが確認できた検体で行った。防腐剤の吹き付けは24時間毎に毎日行い、測定は初期状態および防腐剤吹き付け24時間経過後(再吹き付け前)に測定している。
【0111】
以下、実施例、及び評価結果の詳細について表29 ~表31に一覧にして示す。
【0112】
【表29】
【0113】
【表30】
【0114】
【表31】
【0115】
上記結果から数値の上昇にばらつきがあるのは、被検体の肌質の違いが影響しているものと推察される。しかし、ほぼ全ての被検体で初期状態からの油分量の上昇が確認できていることから、故人への艶出し剤の効果があることが明らかとなった。
【0116】
高齢者が多かったため、初期状態で油分が少ない被検体が多かったものの、防腐剤吹き付け後1日(吹き付け回数1回)または2日(吹き付け回数2回)で効果が出ることが確認出来た。また、実験7の結果同様に、実施形態別で油分値への影響はないものと判断できる。
【0117】
その他、納棺士より、艶出し剤を追加することで、更に化粧のりが良くなったとの声もあった。これは故人の肌に艶出し剤の油分が乗ったことで、ファンデーション等のパウダー状のものが吸着しやすくなった事が影響していると考えられる
【符号の説明】
【0118】
1 プッシュ式スプレー容器
2 トリガー式スプレー容器
11 プッシュ部及び噴射部
12 プッシュ部及び噴射部カバー
21a トリガー
22b 噴射部
図1
図2