(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】アンテナおよび回路基板
(51)【国際特許分類】
H01P 5/08 20060101AFI20230330BHJP
H01P 5/16 20060101ALI20230330BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
H01P5/08 Z
H01P5/16 C
H01Q13/08
(21)【出願番号】P 2021212021
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2022-07-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】水野 浩年
(72)【発明者】
【氏名】小和板 和博
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/140738(WO,A1)
【文献】特開2010-021630(JP,A)
【文献】特開2010-021631(JP,A)
【文献】特開2002-033635(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0347143(US,A1)
【文献】特開平05-315834(JP,A)
【文献】特開平10-150320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0051599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/08
H01P 5/16
H01Q 13/08
H01Q 21/24
H03H 7/18
H03H 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナエレメントから互いに異なる位相差で入力された複数の入力信号を同相になるように変換して1つの合成信号として出力する回路基板であって、
前記複数の入力信号の各々をそれぞれ隣り合う入力信号とシフト方向を逆にして位相シフトするとともに位相シフトした前記複数の入力信号を合成する位相回路部を有し、
前記位相回路部は、それぞれ所定量の位相シフトを行う複数のシングル型移相器が直列に接続されたカスケード型移相器を含んで構成される、回路基板。
【請求項2】
前記複数の入力信号は、第1入力信号と、前記第1入力信号に対して90度位相が異なる第2入力信号と、第2入力信号に対して90度位相が異なる第3入力信号と、前記第3入力信号に対して90度位相が異なる第4入力信号であり、
前記位相回路部は、前記第1入力信号をA度位相シフトさせ、前記第2入力信号をB度位相シフトさせるとともに、前記第3入力信号をC度位相シフトさせ、前記第4入力信号をD度位相シフトさせて、当該A度位相シフトした第1入力信号と当該B度位相シフトした第2入力信号を合成した第1合成信号と、当該C度位相シフトした第3入力信号と当該D度位相シフトした第4入力信号を合成した第2合成信号を出力する第1位相回路部と(ただし、A+B+C+D=0)、
前記第1位相回路部から出力された前記第1合成信号をE度位相シフトさせる第1のカスケード型移相器と、前記第1位相回路部から出力された前記第2合成信号をF度位相シフトさせる第2の前記カスケード型移相器と、を有する第2位相回路部と(ただし、E+F=-10以上+10以下)、を備える、請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記複数の入力信号は、第1入力信号と、前記第1入力信号に対して90度位相が異なる第2入力信号と、第2入力信号に対して90度位相が異なる第3入力信号と、前記第3入力信号に対して90度位相が異なる第4入力信号であり、
前記位相回路部は、前記第1入力信号をA度位相シフトさせ、前記第2入力信号をB度位相シフトさせるとともに、前記第3入力信号をC度位相シフトさせ、前記第4入力信号をD度位相シフトさせて、当該A度位相シフトした第1入力信号と当該B度位相シフトした第2入力信号を合成した第1合成信号と、当該C度位相シフトした第3入力信号と当該D度位相シフトした第4入力信号を合成した第2合成信号を出力する第1位相回路部と(ただし、A+B+C+D≠0)、
前記第1位相回路部から出力された前記第1合成信号をE度位相シフトさせる第1のカスケード型移相器と、前記第1位相回路部から出力された前記第2合成信号をF度位相シフトさせる第2の前記カスケード型移相器と、を有する第2位相回路部と(ただし、E+F=-10以上+10以下)、を備える、請求項1に記載の回路基板。
【請求項4】
前記第1位相回路部は、それぞれ位相シフトした前記第1入力信号と前記第2入力信号、および/又は、それぞれ位相シフトした前記第3入力信号と前記第4入力信号をダイレクトに合成する、請求項2又は3に記載の回路基板。
【請求項5】
前記第2位相回路部は、それぞれ位相シフトした前記2つの合成信号をダイレクトに合成する、請求項2又は3に記載の回路基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の回路基板と、
パッチ電極を有するアンテナエレメントと、を備える、アンテナ。
【請求項7】
請求項1に記載の回路基板と、
パッチ電極を有するアンテナエレメントを有し、
前記パッチ電極は、給電位相が90度異なっている2つ以上の給電端子が形成されている、アンテナ。
【請求項8】
前記アンテナベースの同一面上に、前記アンテナエレメントおよび前記回路基板の組が複数組配置されている、請求項6又は7に記載のアンテナ。
【請求項9】
アンテナエレメントから互いに異なる位相差で入力された4つの入力信号を同相になるように変換して1つの合成信号として出力する回路基板であって、
前記4つの入力信号の各々をそれぞれ隣り合う入力信号とシフト方向を逆にして位相シフトするとともに、位相シフトした前記4つの入力信号を2つずつ合成して2つの第1混合信号を出力する第1位相回路部と、
前記2つの第1合成信号の各々をそれぞれシフト方向を逆にして位相シフトするとともに、位相シフトした前記2つの第1合成信号を合成して前記1つの信号を出力する第2位相回路部と、を含み、
前記第1位相回路部と前記第2位相回路部の少なくとも一方が、それぞれ所定量の位相シフトを行う複数のシングル型移相器が直列に接続されたカスケード型移相器を含んで構成される、回路基板。
【請求項10】
請求項9に記載の回路基板と、
パッチ電極を有するアンテナエレメントと、を備える、アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、ロボットのほか、小型軽量化が望まれるドローンのような移動体に搭載可能なアンテナに関する。より詳しくは、例えば、アンテナエレメントから互いに異なる位相差をもって入力される複数の信号の位相差をゼロに近づけて統合する際の位相を合わせる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星放送用のアンテナとして4点給電式アンテナが使用されている。4点給電式アンテナは右旋又は左旋の円偏波アンテナの一種であり、受信時は、隣り合う信号とそれぞれ90度の位相差をもつ4つの受信信号の位相シフトと合成とを行うことで同相になるように変換して1つの合成信号を受信回路へ入力する。送信時は、合成が分配に代わる以外は受信時と逆の流れになる。すなわち、1つの信号を複数の経路に分配し、各経路で位相シフトを行って隣り合う信号と90度の位相差をもつ4つの送信信号を生成し、これらの送信信号を4点給電式アンテナの各給電点に給電する。
【0003】
このような位相シフトを行う回路のうち、給電用の回路として、特許文献1に開示された4点給電円偏波アンテナ用給電回路が知られている。この給電回路は、第1給電回路、第2給電回路および180度合成分配部を有する。第1給電回路は、送信用信号を同相且つ同振幅で2つの経路に分配する。そして、分配された2つの経路と円偏波アンテナの4つの給電点のうち2つの給電点へ給電するための、位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する。第2給電回路も同様にして、送信用信号を円偏波アンテナの4つの給電点のうち残りの2つの給電点へ給電するための、位相差が90度となる信号をそれぞれ出力する。180度合成分配部は、位相差が180度となる信号をそれぞれ2つの経路に出力する。
【0004】
特許文献2には、偏波信号受信用のアンテナシステムが開示されている。このアンテナシステムは、それぞれ4つの給電ピンが設けられた二重マイクロストリップパッチ積層構造を有する点で特許文献1のものと異なるが、位相シフトを行う回路の構成は、概ね同一となる。この位相シフトを行う回路は、例えば放射素子11の4つの給電点で受信された信号S11、S12、S13、S14を、それぞれ90度位相ステップ及び-90度位相ステップに従って合成し、右旋円偏波信号S21と左旋円偏波信号S22を出力する合波ブリッジ21を有する。この合波ブリッジ21の出力が、低雑音増幅器31-34に入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-111813号公報
【文献】中国特許出願公開第110994199号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2における給電回路および位相シフトを行う回路(以下、「給電回路等」)は、2つの信号の一方を-90度位相シフトし、2つの信号の他方を+90度位相シフトして180度の位相差で分配し、もしくは0度の位相差で合成する。信号の位相シフトを行う場合、シフトする位相量が大きくなるにつれて,当該信号の通過電力の損失も大きくなる。例えば,対象となる2つの信号のうち一方の位相シフト量を0度とし、他方の信号の位相シフト量を180度として,これらの信号を合成したとする。この場合、位相シフト量0の信号については通過電力の損失が生じないことから振幅の減衰が少ないのに対し,位相シフト量180度の信号については、通過電力が損失する影響で、振幅の減衰が著しいものとなる。そのため、2つの信号間の振幅差が極端に大きくなり、所望のアンテナ利得が得られる周波数の帯域幅が狭くなってしまう。
【0007】
例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)用の周波数帯として、L1バンド(1560MHz~1605MHz)、L2バンド(1197MHz~1260MHz)、L5バンド(1150MHz~1210MHz)が使用されている。1つのアンテナエレメントと1つの給電回路等とでL1バンドあるいはL5バンドだけを受信するのであれば、特許文献1,2に開示された回路で充分対応が可能である。しかし、1つのアンテナエレメントと1つの給電回路等でL1バンドとL2バンド、あるいはL1バンドとL5バンドの2つのバンドを受信しようとすると、高域側のL1バンドか低域側のL5バンドあるいはL2バンドの一方の利得を犠牲にしなければならなくなる。
このような問題は、円偏波用のアンテナエレメントで受信した複数の信号を合成する場合のみならず、送信信号を円偏波用のアンテナエレメントに給電する際の信号を分配する場合においても同様に生じる。
【0008】
本発明の目的の一例は、アンテナエレメントから入力された信号を位相シフトする際の通過電力の損失を広い周波数帯域にわたって抑制することができる位相シフト技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様は、アンテナエレメントと、前記アンテナから所定の位相差をもって入力された複数の入力信号を同相となるように変換して1つの信号として出力する回路基板とを備え、前記回路基板は、前記複数の入力信号の各々を隣り合う入力信号とシフト方向を逆にして位相シフトするとともに位相シフトした前記複数の入力信号を合成する位相回路部を有し、前記位相回路部は、それぞれ所定量の位相シフトを行う複数のシングル型移相器が直列に接続されたカスケード型移相器を含んで構成されるアンテナである。
【0010】
本発明の他の態様は、アンテナエレメントから互いに異なる位相差で入力された4つの入力信号を同相になるように変換して1つの信号として出力する回路基板であって、前記4つの入力信号の各々をそれぞれ隣り合う入力信号とシフト方向を逆にして位相シフトするとともに、位相シフトした前記4つの入力信号を2つずつ合成して2つの第1合成信号を出力する第1位相回路部と、前記2つの第1合成信号の各々をそれぞれシフト方向を逆にして位相シフトするとともに、位相シフトした前記2つの第1合成信号を合成して前記1つの信号を出力する第2位相回路部と、を含み、前記第1位相回路部と前記第2位相回路部の少なくとも一方が、それぞれ所定量の位相シフトを行う複数のシングル型移相器が直列に接続されたカスケード型移相器を含んで構成される回路基板である。
【0011】
複数のシングル型移相器を直列に接続することにより入力された信号に対する位相シフトが分担して徐々に行われる。そのため、1つのシングル型移相器で同量の位相シフトする場合に比べて信号の通過電力の損失を広い周波数帯域にわたって抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態におけるアンテナの部品構造例を示す図。
【
図3】給電回路が回路基板の裏面に設けられた状態を示す斜視図。
【
図8】-90度の位相シフトを行う場合の、π型1段PS、π型2段PS、π型3段PSの回路構成の例示図。
【
図9】-90度の位相シフトを行う場合の、T型1段PS、T型2段PS、T型3段PSの回路回路の例示図。
【
図10】+90度の位相シフトを行う場合の、π型1段PS、π型2段PS、π型3段PSの回路回路の例示図。
【
図11】+90度の位相シフトを行う場合の、T型1段PS、T型2段PS、T型3段PSの回路回路の例示図。
【
図12】-90度π型2段のカスケードPSと+90度π型2段のカスケードPSの例における設計値と基板ストリップラインのリアクタンスとの関係例を示す図。
【
図13】基板ストリップラインに調整用リアクタンスを接続した構成例を示す図。
【
図14】-90度π型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図15】-90度T型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図16】+90度π型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図17】+90度T型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図18】-90度π型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図19】-90度T型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図20】+90度π型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図21】+90度T型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図。
【
図22】-90度π型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図。
【
図23】-90度T型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図。
【
図24】+90度π型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図。
【
図25】+90度T型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図。
【
図26】-90度π型1~3段PSの帯域幅比較図。
【
図27】-90度T型1~3段PSの帯域幅比較図。
【
図28】+90度π型1~3段PSの帯域幅比較図。
【
図29】+90度T型1~3段PSの帯域幅比較図。
【
図32】第1COMと第2COMとを省略した給電回路の例示図。
【
図33】初段のシングルPSをカスケードPSに置き換えた給電回路の例示図。
【
図34】すべてのCOMを備えた給電回路の通過電力の損失の特性図。
【
図35】第2COMを省略した給電回路の通過電力の損失の特性図。
【
図36】第1COMを省略した給電回路の通過電力の損失の特性図。
【
図37】すべてのCOMを省略した給電回路の通過電力の損失の特性図。
【
図39】第2実施形態におけるアンテナの構造例を示す側部断面図。
【
図40】第3実施形態におけるアンテナの構造例を示す側部断面図。
【
図41】第4実施形態におけるアンテナの構造例を示す側部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本発明の実施の形態例を説明する。第1実施形態では、本発明を、GNSSのL1バンドとL5バンド、あるいは、L1バンドとL2バンドを同時に受信可能な衛星測位システムのアンテナ(以下、単にアンテナと称する)に適用した場合の例について説明する。便宜上、X軸、Y軸及びZ軸の直交三次元軸を図面上に記載する。X軸はアンテナの長さ方向、Y軸はアンテナの幅方向、Z軸はアンテナの天頂(鉛直上方)方向を表す。
【0014】
第1実施形態におけるアンテナの部品構造例を
図1に示す。
図1は、アンテナ1の分解組立図である。
図1を参照すると、アンテナ1は、アンテナケース10内に、パッキン11で気密及び水密に封止されたGNSS基板アッセンブリ12を収容して構成される。
【0015】
アンテナケース10は、トップカバー10aとベースカバー10bとで構成される電波透過性の筐体である。トップカバー10aは、若干の丸みを持つ側部と、略正方形状の開口部とを有し、上底部が略正方形となる有底筒状の硬質樹脂箱、例えばプラスチック箱であり、開口部の4つの角部が均等に切り欠かれている。また、各角部の内端部には、それぞれネジ101に対応するネジ穴が螺刻されている。ベースカバー10bは、外形が略正方形の環状体であって、4つの角部には、トップカバー10aとの位置決めに用いると共にネジ101を貫通させる孔が形成された突起部111が形成されている。
【0016】
突起部111は、ベースカバー10bにトップカバー10aを被せたときに、トップカバー10aの4つの角部を封止する形状・サイズに成形されている。ベースカバー10bの角部間の4つの辺部の内側にはGNSS基板アッセンブリ12を支持するためのリブ112が形成され、1つの辺部には、窪みを有するケーブルガイド113が形成されている。ケーブルガイド113の窪みは、後述する給電ケーブル124の外径以下の径で成形されている。つまり、給電ケーブル124を押し込んで保持するように成形されている。
【0017】
GNSS基板アッセンブリ12は、表裏面を有する薄い絶縁板から成る回路基板121と、回路基板121の表面のほぼ中央部に設置される誘電体122と、誘電体122の表面に取り付けられたアンテナエレメントの一例となるパッチ電極123と、給電ケーブル124と、ゴム、シリコンなどの軟質絶縁体で構成されるパッキン11とを含んで構成される。
【0018】
回路基板121の裏面には,給電回路20が設けられている。給電ケーブル124の一端は給電回路20の出力端子と導通接続されており、他端はベースカバー10bのケーブルガイド113に支持されてアンテナケース10の外部に露出する。また、給電ケーブル124の一端は、パッキン11によって気密性と水密性が保持されている。なお、GNSS基板アッセンブリ12は、この形状に限ることはない。取付テープ13は、ネジ101をベースカバー10bの突起部111の孔に貫通させるための4つの角部が内側に弧状に切り欠かれており、ベースカバー10bの裏面に貼り付けられている。なお、図示していないが、回路基板121の裏面側には、給電回路20の全部または一部を覆うようにシールドカバーが設けられている。
【0019】
パッチ電極123は、地導体(例えば車両ルーフ)と略平行となる所定形状,例えば正方形状の金属板であってよい。パッチ電極123は、誘電体122の表面の外周から僅かに内側寄りに固着することができる。パッチ電極123の構造例を
図2に示す。
図2の例では、パッチ電極123には、その中心点から等距離、等間隔、かつ点対称となる位置に、後述する回路基板121の4つの基板端子部と1対1に対応する4つの給電端子部p11,p12,p13,p14が形成されている。パッチ電極123の中心点と各給電端子部p11,p12,p13,p14の位置との距離は、例えば、使用する周波数帯でパッチ電極123のインピーダンスの整合(例えば、50オーム)がとれる距離に設定される。
【0020】
パッチ電極123には、その外周の内側で、各給電端子部p11,p12,p13,p14に対しては外側に、正方形の各辺に沿って4つのスロットSL1、SL2、SL3、SL4が形成されている。「スロット」は金属板が切り欠かれた部分をいう。各スロットSL1、SL2、SL3、SL4は、パッチ電極123の中心点を通る対称軸に対して線対称で、かつ、中心点に対して点対称に位置する。
【0021】
また、4つのスロットSL1、SL2、SL3、SL4のうち、各辺と平行となる直線部分の略中間位置にはミアンダ(蛇行)部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mが形成されている。給電端子部p11,p12,p13,p14は、直近のミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mのほぼ中央部に形成されている。ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mは、それが無い場合よりも電気長を長くし、送受信周波数を低くするために形成される。そのため、ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mのサイズを製造後又は製造前に適宜調整することで送受信可能周波数の微調整が可能になり、設計の自由度が増し、要求される送受信帯域に柔軟に対応可能となる。
【0022】
第1実施形態では、4つの給電端子部p11,p12,p13,p14が、パッチ電極123の中心点から等距離で1つずつ存在する。そして、各給電端子部p11,p12,p13,p14における給電位相(給電時の位相、以下同じ)が隣り合う他の給電端子部p11,p12,p13,p14の給電位相と90度ずつ異なっている。そのため、パッチ電極123は、一辺の長さ及び誘電体122の誘電率に起因する共振条件を満たす周波数の電波を送受信するアンテナ動作と、スロットSL1、SL2、SL3、SL4、ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4mの電気長をも考慮した共振条件を満たす周波数の電波を送受信するスロット動作とを行う。
【0023】
共振条件を満たす周波数は、アンテナ動作においては、パッチ電極123の一辺の長さ及び誘電体122の誘電率から定まる電気長が略1/2波長(及びその整数倍)となる周波数である。スロット動作においては、ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4m及びスロットSL1、SL2、SL3、SL4の全長及び誘電体122の誘電率から定まる電気長が略1/2波長(及びその整数倍)となる周波数である。ミアンダ部SL1m、SL2m、SL3m、SL4m及びスロットSL1、SL2、SL3、SL4の全長は、例えば、スロットの一端から他端までの縁の長さ及びミアンダ部の一端から他端までの縁の長さである。
【0024】
線対称及び点対称の位置で、等振幅で順次隣り合う給電端子部との間に90度の位相をシフトしながら4点給電を行うため、パッチ電極123で受信される電波は円偏波となる。位相のシフト量が、パッチ電極123の上面から見て右回りに大きくなる場合は右旋円偏波となり、左回りに大きくなる場合は左旋円偏波となる。つまり、第1実施形態によれば、GNSSの2周波数帯(例えばL1バンドとL5バンド、あるいは、L1バンドとL2バンド)の円偏波の受信を1つのアンテナ1で実現することが容易になる。
【0025】
なお、第1実施形態では、パッチ電極123の正方形の各辺に沿って、ミアンダ部を形成したスロットを設けたことについて説明したが、スロットは、パッチ電極123の中心点を通る対称軸に対して線対称で、かつ、中心点に対して点対称に位置していれば、いずれの形状(例えば、ミアンダ部を設けない形状)でも、いずれの箇所(例えば、パッチ電極の正方形の各角部に沿った箇所)でもよい。
【0026】
次に、回路基板121について説明する。回路基板121は、低通過損失の位相シフトを行う給電回路20を有する。
図3は、給電回路20が回路基板121の裏面に設けられた状態を示す斜視図である。
図3ではその詳細を省略しているが、給電回路20は、回路基板121の裏面にプリント形成された分布定数線路(導体パターン群)と受動素子を含む集中定数回路で構成することができる。あるいは、すべて分布定数線路で給電回路20を構成することもできる。
【0027】
給電回路20の回路構成例を
図4に示す。また、給電回路20を
図4のように構成したときの信号状態を
図5に示す。給電回路20は、4つの基板端子部p21,p22,p23,p24と、第1位相回路部200Aと、第2位相回路部200Bと、1つの出力端子s31と、を有する。基板端子部p21,p22,p23,p24は、それぞれパッチ電極123に形成された4つの給電端子部p11,p12,p13,p14と1対1に導電ピン等で導通接続される。出力端子s31は、回路基板121内にある増幅部(AMP)に接続された後上述の給電ケーブル124を介して外部装置と導通接続される。
【0028】
基板端子部p21には、給電端子部p11から基準位相となる第1入力信号s1が入力される。基準位相は、他の第1入力信号s2~s4に対する位相差の起点となる位相角であり、0度あってもよいが,0度以外であってもよい。基板端子部p22には、給電端子部p12から第1入力信号s1に対して90度位相がずれた第2入力信号s2が入力される。基板端子部p23には給電端子部p13から第2入力信号s2に対して90度位相がずれた第3入力信号s3が入力される。基板端子部p24には給電端子部p14から第3入力信号s3に対して90度位相がずれた第3入力信号s3が入力される。
【0029】
パッチ電極123の円偏波信号の受信タイミングにより生じる上記基準位相が0度である場合、第2入力信号s2の位相差は-90度、第3入力信号s3の位相差は-180度、第4入力信号の位相差は-270度となる。また、図示の例は右旋円偏波信号の例であり、左旋円偏波信号の場合、第2入力信号s2の位相差「s1-90度」は「s1+90度」となる。第3入力信号s3、第4入力信号s4についても同様である。このように、隣り合う給電点の各入力信号s1~s4は、隣り合う給電点の入力信号に対して90度の位相差を持つものとなる。
【0030】
第1位相回路部200Aは、基板端子部p21~p24と各々1対1に対応するMC(マッチング回路の略、以下同じ)211,212,213,214を有する。MC211~214は、パッチ電極123と給電回路20との間のインピーダンス整合を行う回路であり、4つの回路がすべて同じ形状・面積の導体パターン及び配置関係で、集中定数回路、分布定数回路あるいはこれらの組み合わせにより実装することができる。
【0031】
MC211には、第1入力信号s1に対してA度の位相シフトを行う第1シングルPS(シングルPSはシングル型の移相器ないし位相シフト回路、以下同じ)221が接続されている。MC212には第2入力信号s2に対してB度の位相シフトを行う第2シングルPS222が接続されている。MC213には第3入力信号s3に対してC度の位相シフトを行う第3シングルPS223が接続されている。MC214には第4入力信号s4に対してD度の位相シフトを行う第4シングルPS224が接続されている。
なお、MC211~214は,適宜省略することができる。MC211~214を省略することで給電回路20の構成が簡略化され、回路基板121の小型化、ひいてはアンテナ1の小型軽量化を図ることができる。
【0032】
位相差が0度となるように位相シフトされた2つの信号sf11、sf12は、第1COM(COMは合成部、以下同じ)231で合成され、1つの第1合成信号m11として第1カスケードPS(カスケードPSはカスケード型の移相器ないし位相シフト回路、以下同じ)241に入力される。位相差が0度となるように位相シフトされた他の2つの信号sf13、sf14は、もう1つの第1COM232で合成され、1つの第1合成信号m12として第2カスケードPS242に入力される。
【0033】
第1カスケードPS241は、所定量の位相シフトを行う複数のシングルPSを直列に接続し、第1合成信号m11に対して合計でE度の位相シフトを行って、信号sf21を出力する。第2カスケードPS242も同様に、所定量の位相シフトを行う複数のシングルPSを直列に接続し、もう1つの第1合成信号m12に対して合計でF度の位相シフトを行って、信号sf22を出力する。このようにして位相シフトされた2つの信号sf21,sf22は、第2COM251で合成され、1つの第2合成信号m21として出力端子s31から後段のAMP等に向けて出力される。
【0034】
なお、位相シフト量であるA度とB度、C度とD度、E度とF度は、それぞれ一方と他方のシフト方向(極性表記)が逆となる。各シングルPS221~224と各カスケードPS241,242が、それぞれ理想素子を伝送時の位相変化を無視できる伝送線路で接続して構成されると仮定すると、ある態様での設計値(理想値)は、AとCが+45、BとDが-45、Eが+90、Fが-90となる。この場合、E度とF度との位相差は180度となる。しかし、実際の各シングルPS221~224、各カスケードPS241,242には、後述する通り、位相シフト量が必ずしも設計値どおりにならない事情がある。そのため、例えば以下に示される様々なパターンを適宜採用することができるが、いずれもほぼ当該数字に近似する位相シフト量となる。
【0035】
・第1パターン:A=C=+45、B=D=-45、
E=+90、F=-90。
・第2パターン:A=+60、B=-30、C=+60、D=-30、
E=+90、F=-90。
・第3パターン:A=+60、B=-30、C=+50、D=-40、
E=+90、F=-80。
これらのパターンは一例であり、これらに限ることはない。
なお、本発明は、基板端子部p21~p24にそれぞれ位相差をもって入力された入力信号s1~s4が第1カスケードPS241と第2カスケード242の出力で位相差0度になっていれば実施が可能なので、A~Fは、上記3つのパターンに限られない。また、各入力信号s1~s4が左旋円偏波信号の場合、上記A~Fの極性は、上記と逆になる。
【0036】
次に、第1カスケードPS241および第2カスケードPS242の具体的な構成例について説明する。各カスケードPS241,242は、それぞれ所定量の位相シフトを行う複数のシングルPSを直列に接続して構成される。
【0037】
図6は2段接続のカスケードPSの例示図であり、
図7は3段接続のカスケードPSの例示図である。
図4および
図5と同じ部品、信号については同一符号を付してある。
【0038】
図6の例では、第1カスケードPS241が、位相シフト量N度の初段シングルPS611と位相シフト量M度の次段シングルPS612とを直列に接続して構成される。また、第2カスケードPS242が、位相シフト量P度の初段シングルPS621と位相シフト量Q度の次段シングルPS622とを直列に接続して構成される。N,M,P,Qの関係は下記の通りである。ただし、各入力信号s1~s4が左旋円偏波信号の場合、N,M,P,Qの極性は上記と逆になる。
・+N+M=E
・+P+Q=F
【0039】
図7の例では、第1カスケードPS241を、位相シフト量X度の初段シングルPS711と、位相シフト量Y度の次段シングルPS712と、位相シフト量Z度の三段シングルPS713とを直列に接続して構成される。また、第2カスケードPS242を、位相シフト量U度の初段シングルPS721と位相シフト量V度の次段シングルPS722と、位相シフト量W度の三段シングルPS723とを直列に接続して構成される。X,Y,Z,U,V,Wの関係は下記の通りである。ただし、各入力信号s1~s4が左旋円偏波信号の場合、X,Y,Z,U,V,Wの極性は上記と逆になる。
・+X+Y+Z=E
・+U+V+W=F
【0040】
各カスケードPS241,242は、それぞれカットオフ周波数(遮断周波数)がGNSS周波数帯のバンドエッジ近傍となる周波数に設定されたπ型回路あるいはT型回路で構成することができる。π型回路、T型回路は、インダクタとコンデンサとをπ型あるいはT型で組み合わせた公知の回路構成である。複数のシングルPS611,612,621,622,711~713,721~723をすべてπ型回路あるいはT型回路で構成してもよいが、両者を組み合わせてもよい。
【0041】
以下、説明の便宜上、上記の位相シフト量E度を+90度、位相シフト量F度を-90度とし、第1カスケードPS241および第2カスケードPS242のように2段又は3段のシングルPSで分担して信号の位相をシフトした場合の通過電力の損失の特性について説明する。便宜上、π型回路で構成されたシングルPSを「π型1段」、T型回路で構成されたシングルPSを「T型1段」と称することがある。また、直列接続された2つのπ型回路で構成されたカスケードPSを「π型2段」、直列接続された3つのπ型回路で構成されたカスケードPSを「π型3段」、直列接続された2つのT型回路で構成されたカスケードPSを「T型2段」、直列接続された3つのT型回路で構成されたカスケードPSを「T型3段」と称することがある。
【0042】
まず、回路構成例について説明する。
図8は、-90度の位相シフトを行う場合の、π型1段PS、π型2段PS、π型3段PSの回路構成例である。π型1段PSは、それぞれ他端が接地されている2つのコンデンサC
101、C
102の一端間にインダクタL
101が接続される。π型2段PSは、それぞれ他端が接地されている2つのコンデンサC
201、C
202の一端間にインダクタL
201が接続され、さらに、それぞれ他端が接地されている2つのコンデンサC
202、C
203の一端間にインダクタL
202が接続される。真ん中のコンデンサC
202は、直列接続された際に並列となる2つのコンデンサを1つにして素子数を減らしたものである。π型3段PSは、それぞれ他端が接地されている2つのコンデンサC
301、C
302の一端間にインダクタL
301が接続され、それぞれ他端が接地されている2つのコンデンサC
302、C
303の一端間にインダクタL
302が接続され、さらに、それぞれ他端が接地されている2つのコンデンサC
303、C
304の一端間にインダクタL
303が接続される。コンデンサC
302,C
303は、それぞれ直列接続された際に並列となる2つのコンデンサを1つにして素子数を減らしたものである。
【0043】
図9は、-90度の位相シフトを行う場合の、T型1段PS、T型2段PS、T型3段PSの回路構成例である。T型1段PSは、直列接続された2つのインダクタL
111,L
112の間に、他端が接地されているコンデンサC
111が接続される。T型2段PSは、2つのインダクタL
211,L
212の間に他端が接地されているコンデンサC
211が接続され、2つのインダクタL
212,L
213の間に、他端が接地されているコンデンサC
212が接続される。真ん中のインダクタL
212は、直列接続された際に直列接続となる2つのインダクタを1つにして素子数を減らしたものである。T型3段PSは、2つのインダクタL
311,L
312の間に他端が接地されているコンデンサC
311が接続され、もう1組の2つのインダクタL
312,L
313の間に、他端が接地されているコンデンサC
312が接続され、さらにもう1組の2つのインダクタL
313,L
314の間に、他端が接地されているコンデンサC
313が接続される。インダクタL
312,L
313は、それぞれ直列接続された際に直列となる2つのインダクタを1つにして素子数を減らしたものである。
【0044】
図10は、+90度の位相シフトを行う場合の、π型1段PS、π型2段PS、π型3段PSの回路構成例である。π型1段PSは、それぞれ他端が接地されている2つのインダクタL
121、L
122の一端間にコンデンサC
121が接続される。π型2段PSは、それぞれ他端が接地されている2つのインダクタL
221、L
222の一端間にコンデンサC
221が接続され、さらに、それぞれ他端が接地されている2つのインダクタL
222、L
223の一端間にコンデンサC
222が接続される。真ん中のインダクタL
222は、直列接続された際に並列となる2つのインダクタを1つにして素子数を減らしたものである。π型3段PSは、それぞれ他端が接地されている2つのインダクタL
321、L
322の一端間にコンデンサC
321が接続され、それぞれ他端が接地されている2つのインダクタL
322、L
323の一端間にコンデンサC
322が接続され、さらに、それぞれ他端が接地されている2つのインダクタL
323、L
324の一端間にコンデンサC
323が接続される。インダクタL
322,L
323は、それぞれ直列接続された際に並列となる2つのインダクタを1つにして素子数を減らしたものである。
【0045】
図11は、+90度の位相シフトを行う場合の、T型1段PS、T型2段PS、T型3段PSの回路構成例である。T型1段PSは、直列接続された2つのコンデンサC
131,C
132の間に、他端が接地されているインダクタL
131が接続される。T型2段PSは、2つのコンデンサC
231,C
232の間に他端が接地されているインダクタL
231が接続され、2つのコンデンサC
232,C
233の間に、他端が接地されているインダクタL
232が接続される。真ん中のコンデンサC
232は、直列接続された際に直列となる2つのコンデンサを1つにして素子数を減らしたものである。T型3段PSは、2つのコンデンサC
331,C
332の間に他端が接地されているインダクタL
331が接続され、もう1組の2つのコンデンサC
332,C
333の間に、他端が接地されているインダクタL
332が接続され、さらにもう1組の2つのコンデンサC
333,C
334の間に、他端が接地されているインダクタL
333が接続される。コンデンサC
332,C
333は、それぞれ直列接続された際に直列となる2つのコンデンサを1つにして素子数を減らしたものである。
【0046】
ここで、
図8~11に示した回路構成を具現化する際に考慮しなければならない事情について触れる。インダクタやコンデンサには同じメーカによる同じ規格品であっても電気的特性にバラツキがあり、理想素子の電気的特性と一致しない場合がある。また、誘電体製の基板に実装する場合、基板の誘電率や伝送線路の長さ等によっては基板ストリップラインのリアクタンスが大きくなり、それが原因で位相シフト量が設計値から大きくずれてしまうことがある。
【0047】
例えば、
図12は、上述した-90度π型2段のカスケードPSと+90度π型2段のカスケードPSの例における設計値と基板ストリップラインのリアクタンスとの関係例を示す。実線で囲まれたコンデンサC
201、C
202、C
203、C
221,C
222、インダクタL201、L202、L221、L222、L223が設計値であり、破線で示されているL
1~L
10が基板ストリップラインのリアクタンスである。この基板ストリップラインのリアクタンスL
1~L
10は、L1,L2,L5バンドの周波数帯では、設計値に対して約30度程度の位相のずれを生じさせることがある。そのため、位相シフト量の設計値が例えば+90度であっても実際は約+60度程度しか位相がシフトしないことがある。
【0048】
第1実施形態では、
図6又は
図7に例示される通り、例えばE度又はF度の位相シフトを直列接続された複数のシングルPSの分担で行う。そのため、いずれかのシングルPSの電気的特性にバラツキがあっても他のシングルPSの電気的特性を逆にすることでそれを補うことができる。また、例えば
図6に示すカスケードPS241の初段シングルPS611と次段シングルPS612とを接続する伝送線路の分布定数とカスケードPS242の初段シングルPS621と次段シングルPS622とを接続する伝送線路の分布定数とが互いに相殺しあう長さや面積にすることで、基板ストリップラインのリアクタンスL
1~L
10の影響を解消ないし緩和することができる。
【0049】
例えば、設計値で90度の第1カスケードPS241の位相シフト量が基板ストリップラインのリアクタンスL
1~L
10の影響で60度に変化したとする。この場合、誘電体が同じで伝送線路の長さも同じであれば、第2カスケードPS242の位相シフト量も基板ストリップラインのリアクタンスL
1~L
10の影響で-90度から-120度になる。その結果、2つの第1位相シフト信号sf21,sf22の位相差は設計値と変わらないものとなる。つまり、基板ストリップラインのリアクタンスL
1~L
10を相殺することができる。
図7の例でも同じことがいえる。そのため、第1カスケードPS241および第2カスケードPS242のように、インダクタおよびコンデンサの数を多くし、いずれかの素子にバラツキがあっても他の素子でそれをカバーすることで、素子のバラツキを解消ないし緩和することができる。また、伝送線路の合計長を等しくすることで、基板ストリップラインのリアクタンスL
1~L
10を相殺させ易くなる。
【0050】
なお、実際の製造に際しては、基板ストリップラインを一旦形成した後にその長さや面積を変える作業は容易でないことから、調整リアクタンスを基板ストリップラインに挿入することで、簡易に基板ストリップラインのリアクタンスL
1~L
10を相殺することができる。
図13は、調整リアクタンスの例として、調整用コンデンサC
501、C
502を、12に示した基板ストリップラインに挿入した例である。なお、調整用コンデンサC
501、C
502の挿入位置は、
図13の例に限らず、他の位置であってもよい。また、調整リアクタンスは、調整用インダクタあるいは、調整コンデンサと調整リアクタンスとの組み合わせてあってもよい。また、予め任意の位置に素子接続用の一対の導電性パッドを設けておき、導電性パッドに調整用リアクタンスの一対の端子を事後に接続するようにしてもよい。
【0051】
次に、
図14~
図26を参照して、第1カスケードPS241および第2カスケードPS242の通過電力の損失(電力ロス)について説明する。
図14~
図25はシミュレーションからの計算値であり、縦軸は通過電力の損失[dB]、横軸は周波数[MHz]である。共振周波数(通過電力の損失がゼロになるときの周波数)は、いずれも約1400MHz(L2,L5バンドの下限周波数とL1バンドの上限周波数のほぼ中間の周波数)に設定されている。
【0052】
図14は、-90度π型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。また、
図15は、-90度T型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。1段PSは、上記のシングルPSである。これらの例では、位相シフト量を-10度から-90度まで10度ずつ変化させた場合の通過電力の損失の大きさが示されている。
図14および
図15から明らかな通り、絶対値が30度以下、特に20度未満の位相シフト量では、通過電力の損失が殆どないのに対し、位相シフト量の絶対値が30度を超えて大きくなり、あるいは周波数が高くになるにつれて通過電力の損失が急激に大きくなり、共振周波数が合わせづらくなる。
【0053】
図16は、+90度π型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。また、
図17は、+90度T型1段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。これらの例では、位相シフト量を+10度から+90度まで10度ずつ変化させた場合の通過損失の大きさが示されている。
図16および
図17から明らかな通り、絶対値が30度以下、特に20度未満の位相シフト量では、殆ど通過電力の損失がないのに対し、位相シフト量が30度を超えて大きくなり、あるいは周波数が高くなるにつれて通過電力の損失が急激に大きくなり、共振周波数が合わせづらくなる。
【0054】
図18は、-90度π型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。また、
図19は、-90度T型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。比較の便宜上、
図18には、
図14に示した-90度π型1段PSの通過電力の損失、
図19には
図15に示した-90度T型1段PSの通過電力の損失が、それぞれ-90度(1段)として併記されている。なお、2段PS及び後述する3段PSは、上記のカスケードPSである。(-10-80)度は、
図6に示したした「N」が-10で「M」が-80であることを示す。他の位相シフト量の組み合わせについても同様である。
図18および
図19から明らかな通り、-90度2段PSにすることで、それがπ型回路であってもT型回路であっても、高域側のL1バンドの上限周波数から低域側のL5バンドあるいはL2バンドの下限周波数までの広い周波数範囲で、-90度1段PSよりも格段に小さい通過電力の損失を維持できることがわかる。
【0055】
図20は、+90度π型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。また、
図21は、+90度T型2段PSの位相シフト量別通過電力の損失の特性図である。比較の便宜上、
図20には、
図16に示した+90度π型1段PSの通過電力の損失、
図21には
図17に示した+90度T型1段PSの通過電力の損失が、それぞれ90度(1段)として併記されている。(10+80)度は、
図6に示した「N」が10で「M」が80であることを示す。他の位相シフト量の組み合わせについても同様である。
図20および
図21から明らかな通り、+90度2段PSにすることで、それがπ型回路であってもT型回路であっても、高域側のL1バンドの上限周波数から低域側のL5バンドあるいはL2バンドの下限周波数までの広い周波数範囲で、+90度1段PSよりも格段に小さい通過電力の損失を維持できることがわかる。
【0056】
図22は、-90度π型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図である。また、
図23は、-90度T型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図である。1段は-90度1段PS、2段は-90度2段PS、3段は-90度3段PSを表す。2段および3段は、便宜上、
図6に示した位相量N,Mは共に45、
図7に示した位相量X,Y,Zはいずれも30である場合の例である。
図22および
図23から明らかな通り、それがπ型回路であってもT型回路であっても、合成位相シフト量が同じであれば、段数が多いほど高域側のL1バンドの上限周波数から低域側のL5バンドあるいはL2バンドの下限周波数までの広い周波数範囲で小さい通過電力の損失を維持できることがわかる。
【0057】
図24は、+90度π型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図である。また、
図25は、+90度T型PSの段数別通過電力の損失の特性比較図である。1段は+90度1段PS、2段は+90度2段PS、3段は+90度3段PSを表す。2段および3段は、便宜上、
図6に示した位相量N,Mは共に45、
図7に示した位相量X,Y,Zはいずれも30である場合の例である。
図24および
図25から明らかな通り、それがπ型回路であってもT型回路であっても、合成位相シフト量が同じであれば、段数が多いほど高域側のL1バンドの上限周波数から低域側のL5バンドあるいはL2バンドの下限周波数までの広い周波数範囲で小さい通過電力の損失を維持できることがわかる。
【0058】
次に、
図26~
図29を参照して、回路構成別および段数別の帯域幅について説明する。
図26~
図29において、縦軸は-0.01dB以内の帯域幅[MHz]、横軸は位相シフト量が±90度のときの段数である。
図26は、-90度π型1~3段PSの帯域幅比較図である。「90度1段」は-90度π型1段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.3678[dB]で帯域幅は201[MHz]である。「90度2段」は(-45-45)度π型2段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.0063[dB]で-帯域幅は932[MHz]である。「90度3段」は(-30-30-30)度π型3段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.0010[dB]で帯域幅は1001[MHz]である。
【0059】
図27は、-90度T型1~3段PSの帯域幅比較図である。「90度1段」は-90度T型1段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.4622[dB]で帯域幅は176[MHz]である。「90度2段」は(-45-45)度T型2段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.0063[dB]で帯域幅は935[MHz]である。「90度3段」は、(-30-30-30)度T型3段の場合の例であり、通過損失の平均は-0.0009[dB]で帯域幅は1001[MHz]である。
【0060】
図28は、+90度π型1~3段PSの帯域幅比較図である。「90度1段」は+90度π型1段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.1873[dB]で帯域幅は201[MHz]である。「90度2段」は(45+45)度π型2段の場合の例で通過電力の損失の平均は-0.0047[dB]で帯域幅は990[MHz]である。「90度3段」は(30+30+30)度π型3段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.0008[dB]で帯域幅は1001[MHz]である。
【0061】
図29は、+90度T型1~3段PSの帯域幅比較図である。「90度1段」は+90度T型1段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.2286[dB]で帯域幅は180[MHz]である。「90度2段」は、(45+45)度T型2段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.0048[dB]で帯域幅は1001[MHz]である。「90度3段」は(30+30+30)度T型3段の場合の例であり、通過電力の損失の平均は-0.0008[dB]で-0.01dB以内帯域は、1001[MHz]である。
【0062】
図26~
図29から明らかな通り、それがπ型回路であってもT型回路であっても、合成位相シフト量が同じであれば、直列接続する段数が多いほど、-0.01dB以下の低通過電力の損失を維持する帯域幅が格段に拡がることがわかる。そのため、1つのパッチ電極123とカスケードPS141、142を用いた1つの給電回路20だけで、GNSSの高域側であるL1バンドと低域側であるL5バンドあるいはL2バンドでの使用をカバーすることができる。
【0063】
<変形例1>
第1実施形態では、本発明を実施する上でMC211~214を省略できることを説明したが、その他にも様々な構成の変形が可能である。
図30は第2COM251を省略した構成の例示図である。
図31は2つの第2つの第1COM231,232を省略した構成の例示図である。
図32は、第2つの第1COM231,232と第2COM251とを省略した構成の例示図である。また、
図33は、4つのシングルPS221,222,223,224をそれぞれカスケードPS321,322,323,324に置き換えた構成の例示図である。
図33のように、シングルPSをカスケードPSに置き換えたことの効用については、上述の通りである。
【0064】
一方、
図30~
図32のようにCOMを省略することにより位相シフトされた2つの信号がダイレクトに後段のカスケードPSに入力される。そのため、省略の態様が通過電力の損失の程度にどのような影響を及ぼすについて、以下に説明する。
【0065】
図34は、第1COM231,232、第2COM251をすべて設けた場合の通過電力の損失の特性図である。
図35は、
図30の構成例による通過電力の損失の特性図である。
図36は、
図31の構成例による通過電力の損失の特性図である。
図37は、
図32の構成例による通過電力の損失の特性図である。それぞれ縦軸は通過電力の損失量(dB)、横軸は周波数である。また、図中、S12は、パッチ電極123に形成された4つの給電端子部p11,p12,p13,p14のうち、給電端子部p11と給電回路20の出力端子p31との間の通過電力の損失量である。S13は、給電端子部p12と出力端子p31との間の通過電力の損失量である。S14は給電端子部p13と出力端子p31との間の通過電力の損失量である。S15は、給電端子部p14と出力端子p31との間の通過電力の損失量である。
【0066】
図35~
図37の構成例では、
図34の構成例に比べて周波数に応じた損失量(dB)の変動が大きいものの、L1,L5,L2バンドだけに着目すると、第1COM231,232、第2COM251をすべて省略した
図37の構成例であっても、これらをすべて設けた
図34の構成例に比較してバンド内総損失量の差分が僅か(1dB前後)であり、アンテナトータルで考えると、これらを省略したことによる給電回路20の簡略化、小型化、アンテナ1の小型軽量化に対する貢献度の方が大きいことがある。
【0067】
なお、
図33の構成例において、前述の第2パターンにおいて、例えば、Aが60となるシングルPS221と、Cが-60となるシングルPS224だけ、つまり位相シフト量の絶対値が相対的に大きいシングルPSだけをカスケードPSに置き換えてもよい。ただし、この例の場合、Bが-30となるシングルPS222と、Dが+30となるシングルPS224については、基板ストリップラインのリアクタンスが、対となるシングルPS221、224と同じになるように、伝送線路長を長くすることが望ましい。また、第2位相回路部200BをシングルPSとし、第1位相回路部200Aの各シングルPS221~224だけをカスケードPSに置き換えることもできる。
【0068】
また、第3パターンにおいて、例えば、Aが60となるシングルPS221と、Cが-50となるシングルPS224だけ、つまり位相シフト量の絶対値が相対的に大きいシングルPSだけをカスケードPSに置き換えてもよい。ただし、この例の場合、Bが-30となるシングルPS222と、Dが+40となるシングルPS224については、基板ストリップラインのリアクタンスが、対となるシングルPS221、224と同じになるように、伝送線路長を長くすることが望ましい。また、第3パターンも第2パターンと同様に、第2位相回路部200BをシングルPSとし、第1位相回路部200Aの各シングルPS221~224だけをカスケードPSに置き換えることもできる。
【0069】
<変形例2>
第1実施形態では、アンテナエレメントが4つの給電端子部p11,p12,p13,p14を有する4給電式のパッチ電極123である場合の例を説明したが、立体状のアンテナエレメント、あるいは、2つの給電端子部を有する2給電式のパッチ電極のアンテナエレメントについても同様に適用が可能である。
【0070】
例えば、2つの給電端子部は、パッチ電極の中心点から等距離、等間隔で1つずつ存在する。そして、一方の給電端子部における給電位相(給電時の位相、以下同じ)が隣り合う他方の給電端子部の給電位相と90度異なっている。2つの給電端子部のうちの一方の給電端子部から基準位相となる入力信号が入力される。基準位相は、他方の入力信号に対する位相差の起点となる位相角であり、0度あってもよいが,0度以外であってもよい。他方の給電端子部には、一方の給電端子部から入力信号に対して90度位相がずれた入力信号が入力される。そして、それらの入力信号の各々が、例えば、一方の入力信号が
図4の第1シングルPSでA度の位相シフトが行われ、他方の入力信号が第2シングルPSでB度の位相シフトが行われ、位相差が0度となるように位相シフトされた2つの信号を、第1COM231で合成して1つの合成信号としてAMPに出力されるという形態が実現可能となる。
【0071】
2つの給電端子を有する2給電式のパッチ電極における給電回路の回路構成は、例えば、
図4に示す給電回路20の第1シングルPS221、第2シングルPS222、第1COM231で構成される。その他の構成は省略される。第1COM231は出力端子p31を介してAMPに接続される。そして、第1シングルPS221でA度の位相シフトが行われた入力信号と第2シングルPS222でB度の位相シフトが行われた入力信号が第1COM231で合成され、1つ合成信号としてAMPに出力される。ここで、第1シングルPS221と第2シングルPS222は、
図6や
図7で示すカスケードPS241やカスケードPS242に変更してもよい。2つの給電端子部を有する2給電式のパッチ電極のアンテナエレメントについても、例えば以下に示される様々なパターンを適宜採用することができる。
・第1パターン:A=0、B=-90。
・第2パターン:A=+45、B=-45。
・第3パターン:A=+60、B=-30。
【0072】
また、例えば、
図38は立体形状のアンテナエレメントの例示図である。このアンテナエレメントは、4つの給電端子部p11,p12,p13,p14が形成された面状電極160と、各給電端子部p11,p12,p13,p14からそれぞれ螺旋状にZ方向に延びる4本の線状導電素子161,162,163,164を備える。各線状導電素子161,162,163,164は、隣り合う線状導電素子と接触することなく、互いに90度の位相差で信号を受信する。
【0073】
<変形例3>
第1実施形態では、GNSSのL1,L2,L5バンドの受信時に用いる給電回路20について説明したが、送信時に用いる給電回路等としての実施も可能である。この場合、信号の流れは、第1実施形態で説明した流れと逆の方向となる。すわち、出力端子s31に入力される信号が入力信号となり、第2COM251、第1COM231、232が分配回路となる。また、各入力信号s1~s4がそれぞれ隣り合う信号と90度の位相差をもつ信号となる。
【0074】
<第2実施形態>
図39を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態と同機能の部品については、便宜上、同じ符号を付してある。第2実施形態では、GNSS用基板アセンブリ12のほか、XM用基板アセンブリ13と、TEL用基板14とを1つのアンテナケース内に混載したアンテナ2の例について説明する。
【0075】
アンテナケースは、電波透過性部材から成るシャークフィン形状のアンテナカバー10cと、GNSS用基板アセンブリ12、XM用基板アセンブリ13、および、TEL用基板14を収容するための窪みが形成された樹脂製のアンテナベース10dとで構成される。GNSS用基板アセンブリ12は、回路基板121,誘電体122、パッチ電極123、給電回路20を有する点については第1実施形態のアンテナ1と同じであるが、第2実施形態では、回路基板121の面積がアンテナベース10dのサイズが大きい。また、回路基板121の周囲にある送信アンテナや他のアンテナからの放射性ノイズからシールドするために、給電回路20は実施形態1のシールドより強固なシールドが得られるシールドカバー126を装着している。
【0076】
XM用基板アセンブリ13は、XMパッチアンテナ130と回路基板131とシールドカバー132を含んで構成される。各々の構成、構造については、GNSS用基板アセンブリ12と同じである。ただし、XM用基板アセンブリ13の使用周波数帯は2.3GHz帯である。XM用基板アセンブリ13は、GNSS用基板アセンブリ12との干渉が抑制される距離で配置されている。
【0077】
TEL用基板アセンブリ14は、遠距離通信(Telecommunication)用のアセンブリであり、TEL用エレメント140と回路基板141とシールドプレート142とを含んで構成される。TEL用エレメント140で送受信可能な周波数帯は、例えば600MHz~6GHzの電話周波数帯である。回路基板141は、受信時にはアンテナを広帯域にするためのマッチング回路である。シールドプレート142は動作時に接地電位となる金属板であり、ノイズ発生源と回路基板141との間に、アンテナベース10dの窪みに沿って設けられている。
【0078】
TEL用エレメント140は、先端部の高さがGNSS用基板アセンブリ12およびXM用基板アセンブリ13よりも高く、かつ先端部付近の面積が基端部付近よりも相対的に大きく形成されている。先端部付近の形状は長方形であるが、この形状は他の形状であってもよい。TEL用基板アセンブリ14は、GNSS用基板アセンブリ12およびXM用基板アセンブリ13とのアイソレーションを確保できる距離だけ離して配置されている。
【0079】
このように構成されるアンテナ2は、GNSSバンドだけでなく、XMバンドやTEL帯までも1つのケースに配置するアンテナ2だけで移動通信も可能になるので、車載通信機器の高機能化に対しても柔軟に対応することができる。
【0080】
<第3実施形態>
次に、
図40を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。第2実施形態と同機能の部品については、便宜上、同じ符号を付してある。第3実施形態では、GNSS用基板アセンブリ12のほか、2つのTEL用基板アセンブリ15A,15BをZ方向の厚みが20mm以下となるフラット型のアンテナケースに収容したアンテナ3の例について説明する。このアンテナ3は、電波透過性部材から成るアンテナカバー10aと中空箱状で+Z方向の表面が平面となる樹脂製のアンテナベース10dとを有する。アンテナカバー10aは、アンテナベース10dの上表面と平行に対向する主面部と、主面部の周縁からそれぞれ-Z方向に屈曲してアンテナ取付面に向かって延び、アンテナベース10dの側面部外周に接合される側面部とを有する。
【0081】
アンテナベース10dの上表面には、開口部が形成されている。GNSS用基板アセンブリ12のうち回路基板121は、アンテナベース10dの上表面の裏面側に取り付けられており、回路基板121の略中央部に固定された誘電体122およびパッチ電極123がアンテナベース10dの開口部から露出している。給電回路20が回路基板121の裏面側に取り付けられている点は第1実施形態と同じであるが、第3実施形態では、第2実施形態のように、給電回路20をシールドカバー126が覆っている。
【0082】
2つのTEL用基板アセンブリ15A,15Bは、それぞれ同じ周波数帯での同時期または送受を切り替えた通信を可能にする移動通信用エレメントを備えたアセンブリである。移動通信用エレメントは、使用周波数によって様々な形状およびサイズを採用し得る。一つの態様では、TEL用基板アセンブリ15Aの移動通信用エレメントは、アンテナカバー10aの4つの角部のうち1つ角部を含む主面裏側の一部と隣り合う2つの側面部内壁の一部とに貼り付く立体金属板である。4つの角部のうち2の角部付近に跨がって延びる形状であってもよい。TEL用基板アセンブリ15Bの移動通信用エレメントも同様であるが、アンテナカバー10a内で、TEL用基板アセンブリ15Aの移動通信用エレメントと最も離れた部位に設けることが望ましい。これにより、実用上充分なアイソレーション(10dB~15dB)を確保することができる。
【0083】
このように構成されるアンテナ3は、高さが約20mmの低いアンテナケースに、GNSS用基板アセンブリ12と2つのTEL用基板アセンブリ15A,15Bとが併設されているので、小型低背でありながら、車両側通信機器が多機能化されても柔軟に対応することができる。
【0084】
なお、第3実施形態では、2つのTEL用基板アセンブリ15A,15Bが示されているが、アンテナカバー10aの4つの角部付近にそれぞれ1つずつ、合計で4つのTEL用基板アセンブリを設けるようにしてもよい。このように2つ以上のTEL用基板アセンブリを設けることにより、1つのアンテナ3でMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)通信を行うことができる。
【0085】
<第4実施形態>
図41を参照して、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態では、第3実施形態のアンテナ3の厚みをさらに薄くしたアンテナ4の例を説明する。第3実施形態と同機能の部品については、便宜上、同じ符号を付してある。
アンテナ4は、GNSS用基板アセンブリ12のうち給電回路20およびシールドカバー126を誘電体122の表面上に配置したものである。具体的には回路基板121の表面に、誘電体122と給電回路20とを配置し、シールドカバー126で給電回路20を覆って構成される。アンテナ4の他の構成および作用等については、第3実施形態のアンテナ3と同じである。
【0086】
このアンテナ4は、その表面にパッチ電極123が設けられた誘電体122と給電回路20とが回路基板121の同一面上に配されているので、Z方向のアンテナベース10dの厚みを薄くすることができる。そのため、アンテナ4全体の高さを第3実施形態のアンテナ3よりもさらに低くすることができる。
【0087】
第1~第4実施形態のアンテナは、それ自体でロボット、ドローンのような移動体に搭載可能であるが、近年、様々な周波数帯のアンテナ部を1つのケースに混載した車載用のアンテナ装置においても使用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1・・・アンテナ、10・・・アンテナケース、12・・・GNSS基板アッセンブリ、121,141・・・回路基板、122・・・誘電体、123・・・パッチ電極、126・・・シールドカバー、20・・・給電回路、p11,p12,p13,p14・・・給電端子部、p21,p22,p23,p24・・・基板端子部、200A・・・第1位相回路部、200B・・・第2位相回路部、241,242 321,322,323,324・・・カスケードPS、221~224,611,612,621,622,711~713,721~723・・・シングルPS、160・・・面状電極,161,162,163,164・・・線状導電素子,13・・・XM用基板アセンブリ,14・・・TEL用基板、TEL用エレメント140,142・・・シールドプレート142,15A,15B・・・TEL用基板アセンブリ。
【要約】 (修正有)
【課題】アンテナエレメントから入力された信号を位相シフトする際の通過損失の増加を広い周波数帯域にわたって抑制するアンテナ及び回路基板を提供する。
【解決手段】アンテナは、アンテナエレメントから90度ずつ異なる位相差で入力された4つの入力信号を同相になるように変換して1つの合成信号として出力端子p31から出力する給電回路20を備える。給電回路20は、4つの入力信号を位相シフトして2つずつ合成し、2つの第1合成信号を出力する第1位相回路部200Aと、2つの第1合成信号の各々をそれぞれシフト方向を逆にして90度ずつ位相シフトして合成する第2位相回路部200Bと、を備える。第2位相回路部200Bは、2つの45度移相器または3つの30度移相器が直列に接続されたカスケード型移相器241、242を含む。
【選択図】
図4