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  • 特許-太陽電池モジュールの処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールの処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/35 20220101AFI20230330BHJP
   B09B 101/15 20220101ALN20230330BHJP
【FI】
B09B3/35
B09B101:15
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022160566
(22)【出願日】2022-10-04
(62)【分割の表示】P 2021033955の分割
【原出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022183202
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2022-10-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】森田 宜典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寿
(72)【発明者】
【氏名】田畑 奨太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140353(JP,A)
【文献】特開2003-001632(JP,A)
【文献】特開2018-118223(JP,A)
【文献】特開平10-057927(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111790738(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
B29B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールからガラス基板及びフレーム部材が取り除かれ、少なくとも、太陽電池セルと、前記太陽電池セルから配線される金属パターンと、これらを封止する樹脂製の封止材と、前記封止材の一方の面に設けられる樹脂製の保護部材と、を備える太陽電池シート状構造物を準備する準備工程と、
前記太陽電池シート状構造物を一軸破砕機によりせん断破砕することで、各部材をその材質に応じた大きさに破砕し、各部材に由来する粉体を含む破砕物を形成する破砕工程と、
前記破砕物に対して静電選別および風力選別を施し、前記粉体を金属および樹脂の種類ごとに分離する分離工程と、を有し、
前記破砕物は、前記太陽電池セルに由来する半導体材料を含む粉体、前記金属パターンに由来する金属粉体、前記封止材に由来するエチレン‐酢酸ビニル共重合体及びポリエチレンの少なくとも1種を含む樹脂粉体、および前記保護部材に由来するポリエチレンテレフタレート及びフッ素樹脂の少なくとも1種を含む樹脂粉体を含み、各粉体がその材質に応じた大きさを有し、
前記分離工程では、前記破砕物にそのまま風力選別を施し、前記破砕物に含まれる粉体を風力選別により重量に応じて重量物と、前記封止材に由来する樹脂粉体と前記保護部材に由来する樹脂粉体とを含む軽量物とに分離した後、前記軽量物をコロナ放電による静電選別を行うことで、前記封止材に由来する樹脂粉体と前記保護部材に由来する樹脂粉体とを帯電性および導電性の差に応じて分離する、
太陽電池モジュールの処理方法。
【請求項2】
前記分離工程では、前記破砕物に含まれる粉体を風力選別により重量物とそれ以外の軽量物とに分離した後、前記軽量物を静電選別することにより、体積抵抗率の小さい低絶縁粉体と体積抵抗率の比較的大きな高絶縁粉体とに分離する、
請求項1に記載の太陽電池モジュールの処理方法。
【請求項3】
前記分離工程では、風速を5m/s以上20m/s以下で風力選別を行う、
請求項1又は2に記載の太陽電池モジュールの処理方法。
【請求項4】
前記分離工程では、電極に印加する電圧を10kV以上30kV以下として静電選別を行う、
請求項1~3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールの処理方法。
【請求項5】
前記破砕工程では、前記太陽電池シート状構造物を前記破砕物の粒径が20mm以下となるように破砕する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールの処理方法。
【請求項6】
前記分離工程では、接地金属ドラム電極を備える静電選別装置を用いる、
請求項1~5のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池発電は、太陽光というクリーンエネルギーを利用し、環境負荷が小さいことから、再生可能エネルギーとして着目されている。この太陽電池発電に使用される太陽電池モジュールは、例えば、ガラス基板と、太陽電池セルを封止する封止材と、保護部材(いわゆるバックシート)と、太陽電池セルから配線される金属パターンと、封止材の周囲に設けられるフレーム部材と、を備えて構成される。
【0003】
これまで太陽電池モジュールは、一定期間、使用された後に廃棄処分されていたが、近年、リサイクルの観点から有価金属を回収することが求められている。有価金属としては、金属パターンに含まれる銅や銀などがある。
【0004】
そこで、太陽電池モジュールから有価金属を回収する方法として、例えば特許文献1が開示されている。特許文献1では、太陽電池モジュールを加熱して封止材や保護部材を除去したうえで、太陽電池セルを回収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-71162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、太陽電池モジュールのリサイクル処理においては、金属リサイクルを目的とした有価金属の回収とともに、樹脂リサイクルを目的として異なる樹脂成分から形成される保護部材と封止材とを分別してそれぞれ回収することも求められている。この点、特許文献1の方法では、封止材や保護部材を熱処理でまとめて除去するため、これらを分別して回収並びにリサイクルすることは考慮されていない。
【0007】
また、特許文献1の方法では、熱処理が必要であるため、処理プロセスが煩雑となるばかりか、太陽電池モジュールを連続的にリサイクル処理することはコストの面から実施困難であった。
【0008】
本発明は、太陽電池モジュールから有価金属を回収するとともに異なる樹脂成分を種類ごとに分別して回収することを簡易なプロセスで行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、熱処理などを伴わない処理方法について検討を行い、太陽電池モジュールを一部分解した中間体である太陽電池シート状構造物を処理対象とし、破砕処理を行うことに着目した。破砕処理で得られる破砕物には、太陽電池セルや金属パターンに由来する粉体、封止材や保護部材に由来する樹脂の粉体などが含まれることになる。これらの粉体は、由来する部材によって重さや帯電のしやすさや導電性がそれぞれ異なる。このことから、これらの粉体を部材の種類ごとに分離するには、破砕物に対して風力選別および静電選別を行うことが有効であることを見出した。
【0010】
以上の知見に基づいて創出されたのが以下の各態様である。
【0011】
本発明の第1の態様は、
太陽電池モジュールからガラス基板及びフレーム部材が取り除かれ、少なくとも、太陽電池セルと、前記太陽電池セルから配線される金属パターンと、これらを封止する樹脂製の封止材と、前記封止材の一方の面に設けられる樹脂製の保護部材と、を備える太陽電池シート状構造物を準備する準備工程と、
前記太陽電池シート状構造物を破砕し、各部材に由来する粉体を含む破砕物を形成する破砕工程と、
前記破砕物に対して静電選別および風力選別を施し、前記粉体を金属および樹脂の種類ごとに分離する分離工程と、を有する、
太陽電池モジュールの処理方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記分離工程では、前記破砕物に含まれる粉体を風力選別により重量物とそれ以外の樹脂の軽量物とに分離した後、前記軽量物を静電選別することにより、体積抵抗率の小さい低絶縁粉体と体積抵抗率の比較的大きな高絶縁粉体とに分離する。
【0013】
本発明の第3の態様は、
太陽電池モジュールからガラス基板及びフレーム部材が取り除かれ、少なくとも、太陽電池セルと、前記太陽電池セルから配線される金属パターンと、これらを封止する樹脂製の封止材と、前記封止材の一方の面に設けられる樹脂製の保護部材と、を備える太陽電池シート状構造物を準備する準備工程と、
前記太陽電池シート状構造物を破砕し、各部材に由来する粉体を含む破砕物を形成する破砕工程と、
前記破砕物を静電選別することにより、導電性粉体と、体積抵抗率の小さい低絶縁粉体と、体積抵抗率の比較的大きな高絶縁粉体とに分離する分離工程と、を有する、
太陽電池モジュールの処理方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、
前記分離工程後、前記低絶縁粉体および前記高絶縁粉体のそれぞれを風力選別により重量物と軽量物とに分離する。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1、第2、第4のいずれかの態様において、
前記分離工程では、風速を5m/s以上20m/s以下で風力選別を行う。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれかの態様において、
前記封止材がエチレン‐酢酸ビニル樹脂を含み、前記保護部材がポリエチレンテレフタレートを含む。
【0017】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれかの態様において、
前記分離工程では、電極に印加する電圧を10kV以上30kV以下として静電選別を行う。
【0018】
本発明の第8の態様は、第1~第7のいずれかの態様において、
前記破砕工程では、前記太陽電池シート状構造物を前記破砕物の粒径が20mm以下となるように破砕する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、太陽電池モジュールから有価金属を回収するとともに異なる樹脂成分を種類ごとに分別して回収することを簡易なプロセスで連続的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、太陽電池モジュールの断面概略図である。
図2図2は、太陽電池シート状構造物の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態に係る太陽電池モジュールの処理方法について説明する。本実施形態の処理方法は、準備工程、破砕工程および分離工程を有する。以下、各工程について詳述する。
【0022】
(準備工程)
まず、処理対象である太陽電池シート状構造物(以下、単にシート状構造物ともいう)を準備する。シート状構造物は、太陽電池モジュールからガラス基板およびフレーム部材を取り除いたものである。
【0023】
太陽電池モジュール1は、例えば図1に示すように、複数の太陽電池セル11と、太陽電池セル11から配線される金属パターン12と、太陽電池セル11および金属パターン12を封止する樹脂製の封止材13と、封止材13の一方の面に設けられる樹脂製の保護部材14と、封止材13の他方の面に設けられるガラス基板15と、封止材13やガラス基板15などの積層体の周囲を囲むフレーム部材16と、を備えて構成される。
【0024】
太陽電池モジュール1において、太陽電池セル11は、例えばケイ素などを含む半導体から形成される。金属パターン12は、太陽電池セル11から配線される金属部材であって、例えば太陽電池セル11の表面に設けられる表面電極や太陽電池セル11の間を電気的に接続するバスバー電極を備えて構成される。金属パターン12は、例えば銅(Cu)や銀(Ag)などの有価金属を含み、表面電極は主にAgから形成され、バスバー電極は主にCuから形成される。封止材13は、例えばエチレン‐酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリエチレンなどの樹脂から形成される。保護部材14は、封止材13とは異なる樹脂から形成され、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やフッ素樹脂などの樹脂から形成される。ガラス基板15は例えばガラスから形成される。フレーム部材16は、例えば金属や樹脂などから形成される。
【0025】
シート状構造物10は、太陽電池モジュール1からガラス基板15およびフレーム部材16が取り除かれて、図2のように構成される。具体的には、太陽電池セル11と、太陽電池セル11から配線される金属パターン12と、これら太陽電池セル11および金属パターン12を封止する封止材13と、封止材13の一方の面に設けられる保護部材14と、を備えて構成される。
【0026】
なお、太陽電池モジュール1からのガラス基板15やフレーム部材16の除去方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。ガラス基板15の除去としては、例えばホットナイフ法やロール破砕法、ショットブラスト法などを用いることができる。
【0027】
(破砕工程)
続いて、シート状構造物10を破砕する。これにより、各部材に由来する粉体を含む破砕物を得る。破砕物に含まれる粉体としては、太陽電池セル11に由来する半導体材料を含む粉体、金属パターン12に由来する有価金属を含む金属粉体、封止材13に由来する樹脂粉体、保護部材14に由来する樹脂粉体などがある。また場合によっては、封止材13と保護部材14とが接する箇所が破砕されて、封止材13の樹脂と保護部材14の樹脂とが接着した粉体などが混在することもある。
【0028】
シート状構造物10の破砕においては、例えば樹脂のような軟質で粘りのある材料から形成される部材ほど、粗く破砕され、金属やSiのような硬くて脆い材料から形成される部材は、細かく破砕される傾向がある。具体的には、ケイ素を含む太陽電池セル11や有価金属を含む金属パターン12は細かく破砕されやすい。一方、樹脂から形成される封止材13や保護部材14などは、軟質であるため、粗く破砕される。つまり、シート状構造物10を構成する各部材は、その材質ごとに粒径の異なる粉体に破砕されることになる。このような破砕物によれば、後述の静電選別や風力選別で帯電差や比重差から各粉体を分別しやすくできる。
【0029】
破砕物の大きさ(粒径)は、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。破砕物をこのような大きさとすることにより、後述する分離工程で風力選別および静電選別を行うときに、粉体を比重差や帯電差で選別しやすくできる。なお、破砕物の大きさは、破砕方法により異なるが、処理コストを考慮した上で可能な限り小さくすることがよい。
【0030】
破砕方法としては、シート状構造物10を構成する各部材を、その材質に応じた大きさとなるように破砕する観点からは、シート状構造物10にせん断作用を与えることができるせん断破砕が好ましい。使用する破砕機としては、例えば一軸破砕機や二軸破砕機など公知の破砕機を用いることができるが、一軸破砕機が好ましい。二軸破砕機では、破砕条件によっては破砕物が一様に細かく破砕されて、粒径が均一となりやすい。一方、一軸破砕機では、破砕が粗く、得られる破砕物の粒径が不均一で、粒度分布が広くなるように、破砕しやすい。そのため、一軸破砕機によれば、樹脂からなる封止材13や保護部材14を過度に細かく破砕することなく、太陽電池セル11、金属パターン12、封止材13および保護部材14を、それぞれの材質に応じた粒径に破砕させやすい。これにより、後述の分離工程で破砕物を各部材ごとに分別しやすくできる。
【0031】
一軸破砕機としては、刃の形状によって一軸カッターミルや一軸ハンマーミルなどがあるが、せん断破砕する観点から、一軸カッターミルが好ましい。
【0032】
なお、破砕条件は、特に限定されず、破砕物の粒度分布が広くなるように、破砕機における刃の数、刃のクリアランス、および刃の回転数などを適宜調整するとよい。また、シート状構造物は一段階で破砕してもよく、一次破砕、二次破砕といったように多段階で徐々に破砕してもよい。
【0033】
(分離工程)
続いて、破砕物に含まれる粉体を金属や樹脂の種類ごとに分離する。本実施形態では、破砕物に対して風力選別および静電選別を行う。以下では、破砕物に風力選別を行った後に静電選別を行う場合を例として説明する。
【0034】
(風力選別)
まず、破砕物に風力選別を行う。破砕物には重量の異なる粉体が含まれるので、破砕物に風を吹き付けることにより、重量物とそれよりも軽い軽量物とに分離することができる。ここでは、重量物として、太陽電池セル11に由来するケイ素などを含む粉体や金属パターン12に由来する有価金属を含む金属粉体が採取される。軽量物としては、封止材13や保護部材14に由来する樹脂粉体が採取される。
【0035】
風力選別において、風速は特に限定されないが、金属粉体と樹脂粉体とを分離する観点からは、5m/s以上20m/s以下であることが好ましい。このような風速で風力選別を行うことにより、有価金属を多く含む粉体などを重量物として、樹脂粉体を軽量物としてより確実に分離することができる。なお、風速とは、粉体に当たる空気の速度を示す。
【0036】
使用する風力選別機としては、特に限定されず、循環式、エアナイフ式、吹き上げ式、吸引式もしくは密閉式など公知の選別機を用いることができる。重量物を選択的かつ効率的に捕集する観点からは、循環式、吹上式および密閉式が好ましい。風力選別の代わりに重力や慣性力、遠心力などを用いた乾式または湿式分級(比重により選別する処理)を用いることもできるが、処理能力やコストの観点から風力選別が好ましい。
【0037】
(静電選別)
次に、風力選別で得られた軽量物に静電選別装置を用いて静電選別を行う。本実施形態では、軽量物が樹脂を含むため、軽量物をコロナ放電により帯電させた後、軽量物に含まれる樹脂の帯電性や導電性の違いから、軽量物を樹脂の種類ごとに分別する。
【0038】
静電選別装置としては、従来公知の装置を用いることができる。例えば、回転可能に支持される接地金属ドラム電極と、接地金属ドラム電極に対向して設けられる針状または刃状の高電圧電極と、接地金属ドラム電極の回転方向において高電圧電極の下流側に、接地金属ドラム電極に対向して設けられる静電電極と、接地金属ドラム電極に付着する粉体を取り除くブラシと、選別された粉体を別々に収容する分離容器と、を備える静電選別装置を用いることができる。
【0039】
静電選別装置において、まず、接地金属ドラム電極と高電圧電極との間に電圧を印加してコロナ放電を発生させる。続いて、選別する対象物(ここでは軽量物)を接地金属ドラム電極上に供給して搬送する。対象物を高電圧電極下の領域に搬送し、高電圧電極と同じ符号に帯電させる。帯電した対象物は、接地金属ドラムの回転に伴い気体イオンの付与領域から離れたときに、対象物の導電性に応じた速度で接地金属ドラムに電荷を放出する。導電性の対象物は素早く電荷を放出し、電気的に中性となり接地金属ドラム電極から脱離して落下する。対象物が高い導電性を有する場合は、対象物は接地金属ドラムの有する反対符号に帯電し、接地金属ドラムと同じ符号同士の反発により接地金属ドラムから接地金属ドラムの回転方向に跳躍し、跳躍方向に設置した高電圧の静電電極に吸引されながら落下する。一方、非導電性の対象物は接地金属ドラムへの電荷の放出が起こりにくく、接地金属ドラムの有する反対符号に引き付けられ、接地金属ドラムに付着したまま接地金属ドラムとともに回転する。接地金属ドラムとともに回転した対象物は接地金属ドラムに取り付けられたブラシによって物理的に取り除かれる。
【0040】
具体的には、軽量物には、主に、封止材13に由来する樹脂粉体と、保護部材14に由来する樹脂粉体が含まれる。封止材13に由来する樹脂粉体と、保護部材14に由来する樹脂粉体とは、異なる樹脂から構成されているので、体積抵抗率が異なり、帯電のしやすさ並びに導電性が異なる。そのため、軽量物を静電選別することにより、封止材13に由来する樹脂粉体と保護部材14に由来する樹脂粉体とを、帯電性の差並びに導電性の差から、体積抵抗率の小さな低絶縁粉体と、体積抵抗率の比較的大きな高絶縁粉体とに分離することができる。つまり、軽量物を、封止材13や保護部材14の樹脂の種類ごとに分離することができる。なお、封止材13の樹脂と保護部材14の樹脂とが接着した粉体は、低絶縁粉体と高絶縁粉体の双方に分類される。もしくは、低絶縁粉体と高絶縁粉体の中間の性質を有する粉体として、これらとは別に分離回収してもよい。
【0041】
低絶縁粉体および高絶縁粉体は、封止材13および保護部材14を形成する樹脂の種類によって変化する。例えば封止材13がEVA、保護部材14がPETからなる場合、PETはEVAよりも帯電しやすく導電性が低い(高絶縁である)ため、保護部材14に由来する粉体は高絶縁粉体として、封止材13に由来する粉体は低絶縁粉体として、分離されることになる。
【0042】
静電分離できる樹脂粉体としては、体積抵抗率が1.0×10[Ω・cm]以上1.0×1019[Ω・cm]以下のものである。また、低絶縁粉体と高絶縁粉体とを効率よく静電選別する観点からは、高絶縁粉体の体積抵抗率が低絶縁粉体の1.0×10倍以上であることが好ましい。これらの粉体の体積抵抗率が乖離するほど、効率よく静電分離することができためである。なお、封止材13や保護部材14に使用される樹脂の体積抵抗率は以下のとおりである。EVAは1.5×10[Ω・cm]、ポリエチレン樹脂は1.0×1016[Ω・cm]、PETは1.0×1019[Ω・cm]、フッ素樹脂は2.0×1014[Ω・cm]である。
【0043】
静電選別の際に印加する電圧は、封止材13に由来する樹脂粉体と保護部材14に由来する樹脂粉体とを帯電性や導電性の差(体積抵抗率の差)で高絶縁粉体と低絶縁粉体とに分離できるように適宜設定すればよく、特に限定されない。電極間でコロナ放電を十分に発生させて、選別する対象物に十分に電荷を付与する観点からは電極間に印加する電圧は5kV以上とすることが好ましい。一方、印加電圧が過度に高くなるとスパークが発生するおそれがあり、かつ高絶縁粉体も低絶縁粉体も接地金属ドラムに付着してしまうため選別の効率の観点から好ましくないが、接地金属ドラムと高電圧電極との距離を延ばしたり、選別する対象物の性状や形状が変化することにより、印加電圧の最大値の許容範囲は変動する。封止材13や保護部材14を構成する樹脂に由来する粉体を選別するには、印加電圧としては10kV以上30kV以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、針状または刃状の高電圧電極並び高電圧静電電極の接地金属ドラム電極からの距離や設置角度、接地金属ドラム電極の回転速度は特に限定されず、適宜変更することができる。例えば、接地金属ドラム電極の回転速度は10rpm~60rpm、針状または刃状の高電圧電極と接地金属ドラム電極との距離は0.5cm~5cm、高電圧静電電極と接地金属ドラムとの距離は3cm~20cm、針状または刃状の高電圧電極並びに高電圧静電電極の設置角度は接地金属ドラムの水平方向を軸の基準として+90度~-90度の範囲で調整が可能である。なお、電極に印加する電圧を10kV以上30kV以下とした本静電選別の実施においては、回転ドラム電極の回転速度は10rpm~30rpm、針状または刃状の高電圧電極と接地金属ドラム電極との距離は1cm~2cm、高電圧静電電極と接地金属ドラムとの距離は5cm~10cm、針状または刃状の高電圧電極の設置角度は接地金属ドラムの水平方向を軸の基準として+40度~+50度、高電圧静電電極の設置角度は接地金属ドラムの水平方向を軸の基準として0度~+30度の範囲に調整するとよい。なお電極に印加する電圧を変更した場合は各最適条件も変更となる。
【0045】
また、静電選別は、操作を1回だけでなく、複数回行ってもよい。例えば、静電選別で得られた、低絶縁粉体および高絶縁粉体をそれぞれ静電選別してもよい。複数回の実施を行う上では、静電選別装置の下部に設置した複数の分離容器を使用する。接地金属ドラム電極から跳躍し、高電圧静電電極に吸引されながら落下する粉体を回収する分離容器、接地金属ドラム電極から脱離して落下する粉体を回収する分離容器、接地金属ドラム電極に付着したまま接地金属ドラムとともに回転し、接地金属ドラムに取り付けられたブラシによって物理的に取り除かれて落下する粉体を回収する分離容器を使用することで、静電選別後の粉体を分離して回収することが可能となる。なお、接地金属ドラム電極から脱離して落下する粉体を回収する分離容器と接地金属ドラムに取り付けられたブラシによって物理的に取り除かれて落下する粉体を回収する分離容器の間にも分離容器を設置し、封止材13の樹脂と保護部材14の樹脂とが接着した粉体で、帯電しやすく非導電性の粉体と帯電しにくく導電性の粉体の双方に分類される粉体を回収することが可能である。
【0046】
以上により、太陽電池モジュール1に含まれる有価金属と、封止材13を形成する樹脂と、保護部材14を形成する樹脂とを、種類ごとに分別して回収することができる。
【0047】
<本実施形態に係る効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0048】
本実施形態では、ガラス基板15やフレーム部材16を除去したシート状構造物10を破砕し、その破砕物に風力選別および静電選別を行っている。まず、処理対象をシート状構造物10とすることにより、ガラス基板15やフレーム部材16に由来する成分を分離している。続いて、破砕物を風力選別することにより、太陽電池セル11に由来するケイ素や金属パターン12に由来する有価金属を重量物として回収することができる。また、風力選別で得られる軽量物を静電選別することにより、少なくとも封止材13に由来する樹脂粉体と保護部材14に由来する樹脂粉体とを、帯電性の差並びに導電性の差により、低絶縁粉体および高絶縁粉体として分離することができる。このように、本実施形態の処理方法によれば、太陽電池モジュール1から有価金属を回収するとともに、封止材13と保護部材14とを分別して回収することができる。
【0049】
また、本実施形態の処理方法によれば、シート状構造物10を破砕して破砕物を風力選別や静電選別することで有価金属と樹脂とを機械的に分離することができる。そのため、熱処理や化学処理を使用する処理方法と比べてプロセスを簡略にすることができる。しかも、破砕・風力選別・静電選別を連続的に行うことができるので、多量のシート状構造物10を連続的に効率よく処理することができる。
【0050】
また、静電選別で印加する電圧は、10kV以上30kV以下とすることが好ましい。この電圧の範囲内で、コロナ放電を生じさせつつも、過度な印加電圧によるスパークの発生を抑制することができる。しかも、軽量物を静電選別したときに、低絶縁粉体と高絶縁粉体とを好適に分離することができる。また、このような印加電圧によれば、EVAを含む樹脂粉体を低絶縁粉体として、PETを含む樹脂粉体を高絶縁粉体として、より確実に分離することができる。
【0051】
また、風力選別で破砕物に吹き付ける風の風速を5m/s以上20m/s以下とすることが好ましい。このような風速とすることにより、有価金属を含む重量物と、封止材13や保護部材14に由来する樹脂を含む軽量物とを、より確実に分離することができる。
【0052】
また、シート状構造物10は、破砕物の粒径が20mm以下となるように破砕することが好ましい。このような粒径とすることにより、風力選別や静電選別の際に粉体の比重差や帯電性の差並びに導電性の差でより確実に分離することができる。
【0053】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0054】
上述の実施形態では、太陽電池シート状構造物10が封止材13および保護部材14を備え、2種の樹脂を含む場合について説明したが、これら以外に樹脂製の部材を備えてもよい。例えば、保護部材14が単一の樹脂ではなく、2種以上の樹脂層を積層させて構成され、破砕物に3種以上の樹脂粉体が混在することがある。このような場合、破砕物に含まれる3種以上の樹脂を分別するために、印加する電圧などの静電選別の条件を適宜変更して静電選別を2回以上行ってもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、分離工程として、まず風力選別を行い、その後、静電選別を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、破砕物をそのまま静電選別してもよい。好ましくは静電選別により分離された粉体のそれぞれに風力選別を行ってもよい。この点につき、以下に具体的に説明する。
【0056】
破砕物には、上述したように、太陽電池セル11、金属パターン12、封止材13および保護部材14に由来する粉体が混在している。この破砕物について、少なくとも封止材13に由来する樹脂粉体と保護部材14に由来する樹脂粉体とを分離できるように電極間の電圧を設定して静電選別を行う。これにより、まず、太陽電池セル11や金属パターン12に由来する粉体群は、特に導電性が高いことから、接地金属ドラム電極から跳躍し、静電電極に吸引されながら落下し、分離される。続いて、封止材13に由来する樹脂粉体を含む粉体群と保護部材14に由来する樹脂粉体を含む粉体群のうち、導電性が比較的高く低絶縁のものが低絶縁粉体として分離される。
最後に、高絶縁のものが高絶縁粉体として分離されることになる。具体的には、封止材13がEVAからなり、保護部材14がPETからなる場合であれば、まず、金属粉体が分離され、続いて、封止材13に由来する樹脂粉体が低絶縁粉体として分離され、最後に、保護部材14に由来する樹脂粉体が高絶縁粉体として分離される。このように、破砕物をそのまま静電選別することにより、導電性粉体と低絶縁粉体と高絶縁粉体とを分離することができる。
【0057】
続いて、静電選別で分離された低絶縁粉体と高絶縁粉体のそれぞれを風力選別することが好ましい。静電選別により太陽電池セル11や金属パターン12に由来する粉体は、上述の静電選別により分離されるが、低絶縁粉体や高絶縁粉体へと混入することがあるためである。低絶縁粉体および高絶縁粉体のそれぞれに風力選別をすることにより、金属パターン12に由来する粉体などを重量物として、樹脂からなる粉体を軽量物として、それぞれ分離することができる。以上のように、上述の実施形態と同様に、有価金属を回収しつつ、封止材13と保護部材14とを分別して回収することができる。
【実施例
【0058】
次に、本発明について実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0059】
(実施例1)
処理対象として、太陽電池モジュールからガラス基板およびフレーム部材を取り除いた太陽電池シート状構造物(PVシート)を準備した。PVシートにおいて、封止材はEVA樹脂製であり、保護部材はPET製であった。続いて、ナゲット機を用いてPVシートを破砕した。このとき、破砕物が3mmスクリーンを通過するまで破砕を行い、通過しない場合は繰り返し処理した。なお、ナゲット機としては、一軸カッターミルの「SKC-25-540L」を用いた。破砕条件として、刃の数は45個、クリアランスは2mm程度、刃の回転数は630rpmに調整した。また、風力選別機としては「APS-250RB」を用いた。
【0060】
続いて、粒径が3mm以下のPVシート破砕物に対して風速20m/sで風力選別を行った。これにより、重量物と軽量物とに分離した。重量物には、主に、有価金属や太陽電池セルに由来する粉体が含まれていた。軽量物には、封止材に由来するEVA粉体(黒色)や保護部材に由来するPET粉体(白色)などが含まれていた。
【0061】
続いて、樹脂粉体が含まれる軽量物に静電選別を行った。具体的には、静電選別装置を用いて、印加電圧19kV、ドラム回転数20rpmの条件で静電選別を行った。これにより、まず、帯電しにくく導電性の粉体、つまり低絶縁粉体としてEVA粉体を接地金属ドラム電極から脱離させて落下させることで、接地金属ドラム電極の下方に設置した分離容器で分離回収した。続いて、帯電しやすく非導電性の粉体、つまり高絶縁粉体としてPET粉体を接地金属ドラムに付着したまま接地金属ドラムとともに回転させ、接地金属ドラムに取り付けられたブラシによって物理的に取り除き、ブラシの下方に設置した分離容器で分離回収した。また、各分離容器に回収した粉体に静電選別を行うことを3回繰り返し、低絶縁粉体および高絶縁粉体をそれぞれ捕集した。
【0062】
本実施例において樹脂を種類ごとに分離できることを確認すべく、以下のような評価を行った。具体的には、静電選別前の軽量物、軽量物を静電分離した際に接地金属ドラム電極から落下した落下サンプル、接地金属ドラム電極に付着したままでブラシにより回収された付着サンプルのそれぞれについて、低絶縁粉体であるEVA粉体と、高絶縁粉体であるPET粉体との比率を求めた。この比率は、各サンプルに画像解析を行い、白色であるPET粉体を白色領域とし、黒色であるEVA粉体を黒色領域とみなして、各領域の面積の比率から算出した。
【0063】
その結果、静電選別前の軽量物には、単位面積当たりに、PET粉体が6%、EVA粉体が94%の比率で存在していることが確認された。また落下サンプルには、単位面積当たりに、PET粉体が1%、EVA粉体が99%の比率で存在していることが確認された。また付着サンプルには、単位面積当たりに、PET粉体が8%、EVA粉体が92%の比率で存在していることが確認された。PET粉体の比率について、落下サンプルで1%と低くする一方で、付着サンプルで8%と高くできること、また、付着サンプルでの比率を静電分離前の軽量物に含まれる比率(6%)よりも高くして、PET粉体を濃縮できていることから、PET粉体を高絶縁粉体として効率よく分離できることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 太陽電池モジュール
10 太陽電池シート状構造物
11 太陽電池セル
12 金属パターン
13 封止材
14 保護部材
15 ガラス基板
16 フレーム部材

図1
図2