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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-29
(45)【発行日】2023-04-06
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/43 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
E02F3/43 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022509509
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021009082
(87)【国際公開番号】W WO2021192969
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020056505
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 和也
(72)【発明者】
【氏名】石田 一雄
(72)【発明者】
【氏名】川原 章禄
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-054055(JP,A)
【文献】特開2011-196457(JP,A)
【文献】特開昭63-226416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0254793(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪が設けられた車体と、
前記車体の前部に上下方向に回動可能に取り付けられたアーム部材および前記アーム部材の先端部にダンプ動作およびチルト動作可能に取り付けられたバケットを有する作業装置と、
前記バケットを駆動するバケットシリンダと、
前記バケットシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出されて前記バケットシリンダに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、
前記方向制御弁を制御する電磁比例弁と、
前記電磁比例弁を制御するコントローラと、を備えた作業車両において、
前記車体の傾斜角度を検出する傾斜センサを有し、
前記コントローラは、
前記バケットが所定の高さよりも高く位置した場合であって、前記車体が後傾した状態にある場合には、前記傾斜センサにより検出された前記車体の傾斜角度に応じて、前記バケットがダンプする側に前記バケットの角度を補正し、
前記バケットが前記所定の高さ以下である場合には、前記バケットの角度を補正しない
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両において、
前記コントローラは、
前記傾斜センサで検出された前記車体の傾斜角度が、前記アーム部材が水平姿勢よりも高い位置にある状態で前記バケット内の積荷がこぼれ始める時の前記車体の傾斜角度に基づいて設定された所定の角度閾値以上である場合に、前記傾斜センサにより検出された前記車体の傾斜角度に応じて前記バケットがダンプする側に前記バケットの角度を補正する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両において、
前記バケットの高さに対応する前記アーム部材の高さを検出する高さセンサをさらに備え、
前記コントローラは、
前記高さセンサで検出された前記アーム部材の高さが、前記アーム部材の前記水平姿勢での高さよりも高い場合に、前記傾斜センサにより検出された前記車体の傾斜角度に応じて前記バケットがダンプする側に前記バケットの角度を補正する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項1に記載の作業車両において、
前記バケットを操作するための電気式の操作装置をさらに備え、
前記コントローラは、
前記傾斜センサにより検出された前記車体の傾斜角度に応じて前記バケットがダンプする側に前記バケットの角度を補正している場合に前記操作装置の操作量に応じた操作信号が入力されると、前記操作信号に基づいた指令信号を前記電磁比例弁に対して出力する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1に記載の作業車両において、
前記コントローラにおける補正処理を有効にするためのスイッチをさらに備え、
前記コントローラは、
前記スイッチからの有効信号が入力された場合に、前記傾斜センサにより検出された前記車体の傾斜角度に応じて前記バケットがダンプする側に前記バケットの角度を補正する
ことを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂や鉱物といった作業対象物を掘削してダンプトラックやホッパーなどの積込み先へ積み込む荷役作業を行う作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両の代表例であるホイールローダでは、バケット内に積まれた積荷を例えばダンプトラックに積み込む際、ダンプトラックの荷台の上方にバケットが位置するよう、リフトアームを上昇させながらダンプトラックに向かって前進する。このとき、バケットは、リフトアームやベルクランクとのリンク機構によって地面に対する角度が常に一定にならず、チルト方向に傾きやすくなって積荷がこぼれ落ちることがある。
【0003】
そこで、積込み作業時における荷こぼれを防止するために、例えば特許文献1に記載のホイールローダでは、バケットの基準面に対する傾き角度が予め設定された閾値に達した場合、バケットをダンプ方向に回動させるための圧油をバケット用アクチュエータに強制的に供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-224511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のホイールローダでは、バケットの基準面に対する傾き角度の判定において、地面の傾斜角度が考慮されず、バケットの操作に基づく制御であるため、例えば、バケットに荷を積んだ状態での平地走行から傾斜地走行に切り換わる場面では、バケットの角度を変更する操作をし忘れると、バケットからの荷こぼれが発生する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、平地走行から傾斜地走行へ切り換わる場面において、バケットの角度調整を行わずとも、バケットからの荷こぼれを抑制することが可能な作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、前輪および後輪が設けられた車体と、前記車体の前部に上下方向に回動可能に取り付けられたアーム部材および前記アーム部材の先端部にダンプ動作およびチルト動作可能に取り付けられたバケットを有する作業装置と、前記バケットを駆動するバケットシリンダと、前記バケットシリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出されて前記バケットシリンダに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、前記方向制御弁を制御する電磁比例弁と、前記電磁比例弁を制御するコントローラと、を備えた作業車両において、前記車体の傾斜角度を検出する傾斜センサを有し、前記コントローラは、前記バケットが所定の高さよりも高く位置した場合であって、前記車体が後傾した状態にある場合には、前記傾斜センサにより検出された前記車体の傾斜角度に応じて、前記バケットがダンプする側に前記バケットの角度を補正し、前記バケットが前記所定の高さ以下である場合には、前記バケットの角度を補正しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、平地走行から傾斜地走行へ切り換わる場面において、バケットの角度調整を行わずとも、バケットからの荷こぼれを抑制することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るホイールローダの外観を示す側面図である。
図2】ホイールローダによるVシェープローディングについて説明する説明図である。
図3】ホイールローダのダンプアプローチ動作を説明する説明図である。
図4】ホイールローダが平地を走行しながら積荷の入ったバケットを上昇させた場合について説明する説明図である。
図5】ホイールローダが登坂しながら積荷の入ったバケットを上昇させた場合について説明する説明図である。
図6】バケットシリンダの駆動回路を示す回路図である。
図7】コントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図8】コントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図9】コントローラで補正処理が実行された場合におけるバケットの動作について説明する説明図である。
図10図8に示すステップS605においてNOとなる場合のバケットの状態について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る作業車両の一態様として、例えば土砂や鉱物を掘削してダンプトラックなどへ積み込む荷役作業を行うホイールローダについて説明する。
【0011】
<ホイールローダ1の全体構成>
まず、ホイールローダ1の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るホイールローダ1の外観を示す側面図である。
【0013】
ホイールローダ1は、車体が中心付近で中折れすることにより操舵されるアーティキュレート式の作業車両である。具体的には、車体の前部となる前フレーム1Aと車体の後部となる後フレーム1Bとが、センタジョイント10によって左右方向に回動自在に連結されており、前フレーム1Aが後フレーム1Bに対して左右方向に屈曲する。
【0014】
車体には、4つの車輪11が設けられており、2つの車輪11が前輪11Aとして前フレーム1Aの左右両側に、残り2つの車輪11が後輪11Bとして後フレーム1Bの左右両側に、それぞれ設けられている。なお、図1では、左右一対の前輪11Aおよび後輪11Bのうち、左側の前輪11Aおよび後輪11Bのみを示している。
【0015】
前フレーム1Aの前部には、荷役作業に用いられる油圧駆動式の作業装置2が取り付けられている。作業装置2は、土砂や鉱物といった作業対象物を掬って排出するバケット21と、バケット21を駆動するバケットシリンダ22と、バケット21が先端部に取り付けられたアーム部材としてのリフトアーム23と、リフトアーム23を駆動する2つのリフトアームシリンダ24と、リフトアーム23に回動可能に連結されてバケット21とバケットシリンダ22とのリンク機構を構成するベルクランク25と、を有している。なお、2つのリフトアームシリンダ24は車体の左右方向に並んで配置されているが、図1では、左側に配置されたリフトアームシリンダ24のみを破線で示している。
【0016】
バケット21は、バケットシリンダ22に作動油が供給されてロッド220が伸縮することにより、リフトアーム23に対して上下方向に回動する。より具体的には、バケット21は、バケットシリンダ22のロッド220が伸びることによりチルト動作(リフトアーム23に対して上方向に回動)し、ロッド220が縮むことによりダンプ動作(リフトアーム23に対して下方向に回動)する。
【0017】
バケット21におけるリフトアーム23との連結部の近くには、リフトアーム23に対するバケット21の角度(以下、単に「バケット角度」とする)を検出するバケット角度センサ31が取り付けられている。
【0018】
リフトアーム23は、基端部が前フレーム1Aに取り付けられており、2つのリフトアームシリンダ24に作動油が供給されて各ロッド240が伸縮することにより、前フレーム1Aに対して上下方向に回動する。より具体的には、リフトアーム23は、2つのリフトアームシリンダ24の各ロッド240が伸びることにより前フレーム1Aに対して上方向に回動し、各ロッド240が縮むことにより前フレーム1Aに対して下方向に回動する。
【0019】
リフトアーム23における前フレーム1Aとの連結部の近くには、前フレーム1Aに対するリフトアーム23の角度(以下、単に「リフトアーム角度」とする)を検出するアーム角度センサ32が取り付けられている。このアーム角度センサ32は、リフトアーム23の高さを検出する高さセンサの一態様であり、リフトアーム角度からリフトアーム23の高さを検出することが可能である。なお、リフトアーム23の高さは、バケット21の高さ(位置)に対応するため、アーム角度センサ32を用いてバケット21の高さを検出することも可能である。
【0020】
また、前フレーム1Aには、車体の傾斜角度(以下、単に「傾斜角度」とする)を検出する傾斜センサ33が取り付けられている。なお、本実施形態では、傾斜センサ33は、作業装置2が取り付けられた前フレーム1Aの左側部に配置されているが、配置場所については特に制限はなく、例えば、運転室12内における運転席の下方や後フレーム1Bに配置されていてもよい。
【0021】
後フレーム1Bには、オペレータが搭乗する運転室12と、ホイールローダ1の駆動に必要な各機器を内部に収容する機械室13と、車体が傾倒しないように作業装置2とのバランスを保つためのカウンタウェイト14と、が設けられている。後フレーム1Bにおいて、運転室12は前部に、カウンタウェイト14は後部に、機械室13は運転室12とカウンタウェイト14との間に、それぞれ配置されている。
【0022】
<荷役作業時におけるホイールローダ1の動作>
次に、荷役作業時のホイールローダ1の動作について、図2~5を参照して説明する。
【0023】
図2は、ホイールローダ1によるVシェープローディングについて説明する説明図である。図3は、ホイールローダ1のダンプアプローチ動作を説明する説明図である。図4は、ホイールローダ1が平地を走行しながら積荷の入ったバケット21を上昇させた場合について説明する説明図である。図5は、ホイールローダ1が登坂しながら積荷の入ったバケット21を上昇させた場合について説明する説明図である。
【0024】
荷役作業を行うにあたって、ホイールローダ1は、まず、掘削対象である地山101に向かって前進し、バケット21を地山101に突入させて掘削作業を行う(図2に示す矢印X1)。掘削作業が終わると、ホイールローダ1は、元の場所に一旦後退する(図2に示す矢印X2)。
【0025】
次に、ホイールローダ1は、積込み先であるダンプトラック102に向かって前進し、ダンプトラック102の手前で停止するダンプアプローチ動作を行う(図2に示す矢印Y1)。なお、図2では、ダンプトラック102の手前で停止している状態のホイールローダ1を破線で示している。
【0026】
ダンプアプローチ動作では、具体的には、図3に示すように、オペレータはアクセルペダルをいっぱいまで踏み込む(フルアクセル)と共に、リフトアーム23の上げ操作を行う(図3に示す右側の状態)。次に、オペレータは、フルアクセルの状態のままにしてリフトアーム23をさらに上昇させながら、同時にブレーキペダルを少し踏み込んでダンプトラック102に衝突しないよう車速を調整する(図3に示す中央の状態)。そして、オペレータはブレーキペダルをいっぱいまで踏み込んでダンプトラック102の手前で停止し、バケット21をダンプさせてバケット21内の積荷(作業対象物)をダンプトラック102へ排出する(図3に示す左側の状態)。
【0027】
ダンプトラック102への積込み作業が終わると、図2に示すように、ホイールローダ1は、元の場所に後退する(図2に示す矢印Y2)。このように、ホイールローダ1は、地山101とダンプトラック102との間でV字状に往復走行する「Vシェープローディング」という方法により掘削作業および積込み作業を行う。
【0028】
図3に示すダンプアプローチ動作では、前述したように、ホイールローダ1は、ダンプトラック102の荷台の上方にバケット21が位置するようにリフトアーム23を上昇させながらダンプトラック102に向かって走行するため、リフトアーム23やベルクランク25とのリンク機構によって地面に対するバケット21の角度が一定にならず、バケット21内の積荷がこぼれ落ちる場合がある。
【0029】
そこで、バケット21内に積荷が積まれた状態でリフトアーム23を上昇させる場合には、オペレータは、バケット21内の積荷がこぼれ落ちないように、バケット角度を調整する。しかしながら、このようなバケット角度の調整には、オペレータによる高度な技量が必要である。そのため、ホイールローダ1には、経験の浅いオペレータに対する操作支援として、バケット角度を自動で制御する制御システムが搭載されている。
【0030】
ここで、ホイールローダ1の積込み作業は、必ずしも図4に示すような平地で行われるとは限らず、図5に示すような上り坂で行われる場合がある。上り坂を走行しながら積込み作業を行う場合としては、例えば、登坂しながらバケット21に土砂を掬い込むと共にリフトアーム23を上昇させて掬い込んだ土砂を高く積み上げる作業や、登坂しながらホッパーなどに積荷を投入する作業などがある。
【0031】
図4に示すホイールローダ1のバケット角度と、図5に示すホイールローダ1のバケット角度とは同じであるが、登坂しながらの積込み作業(図5の場合)では、平地を走行しながらの積込み作業(図4の場合)と比べて、車体の後部側が車体の前部側に比べて低くなって後傾している分バケット21がチルト方向により傾きやすくなる。したがって、平地を走行しながらの積込み作業時において、バケット21内から荷こぼれが発生しないようにバケット角度を制御した場合であっても、上り坂を走行しながらの積込み作業時には荷こぼれが発生することがある。
【0032】
なお、ホイールローダ1の積込み作業は、上り坂に限らず下り坂で行われる場合もある。その場合、車体の前部側が車体の後部側に比べて低くなって前傾している分、バケット21は、平地を走行しながらの積込み作業時と比べて、ダンプ方向に傾きやすくなり、上り坂と同様、荷こぼれが発生することがある。
【0033】
<バケット21の駆動システム>
次に、バケット21の駆動システムについて、図6を参照して説明する。
【0034】
図6は、バケットシリンダ22の駆動回路を示す回路図である。
【0035】
バケット21の駆動システムは、バケットシリンダ22と、バケットシリンダ22に作動油を供給する油圧ポンプであるメインポンプ41と、メインポンプ41とバケットシリンダ22との間に設けられた方向制御弁42と、メインポンプ41と方向制御弁42との間に設けられてメインポンプ41への作動油の逆流を防止するチェック弁43と、作動油を貯留するタンク44と、を含んで構成されている。
【0036】
方向制御弁42は、第1切換位置42Lと、第2切換位置42Rと、中立位置42Nと、を有し、内部に設けられた軸状のスプールが変位して第1切換位置42Lと第2切換位置42Rと中立位置42Nとが切り換わることでメインポンプ41からバケットシリンダ22に供給される作動油の流れ(方向および流量)を制御する。
【0037】
第1切換位置42Lは、メインポンプ41から吐出された作動油を第1接続管路401を介してバケットシリンダ22のロッド室22Aに導き、バケットシリンダ22のボトム室24Bから排出された作動油を第2接続管路402を介してタンク44に導く。これにより、バケットシリンダ22のロッド220が縮んでバケット21はダンプする。
【0038】
第2切換位置42Rは、メインポンプ41から吐出された作動油を第2接続管路402を介してバケットシリンダ22のボトム室22Bに導き、バケットシリンダ22のロッド室22Aから排出された作動油を第1接続管路401を介してタンク44に導く。これにより、バケットシリンダ22のロッド220が伸びてバケット21はチルトする。
【0039】
中立位置42Nは、メインポンプ41から吐出された作動油をそのままセンタバイパス回路403を介してタンク44に導く。この場合、バケットシリンダ22のロッド220が駆動せずバケット21は停止する。
【0040】
第1切換位置42L、第2切換位置42R、および中立位置42Nは、スプールの軸方向の一側から他側に向かって第1切換位置42L、中立位置42N、第2切換位置42Rの順に並んでいる。そして、方向制御弁42には、第1パイロット油室420Lが第1切換位置42L側に、第2パイロット油室420Rが第2切換位置42R側に、それぞれ設けられている。
【0041】
第1パイロット油室420Lは、第1パイロット管路501によってパイロットポンプ50に接続されている。そして、第1パイロット管路501上には、すなわち第1パイロット油室420Lとパイロットポンプ50との間には、第1電磁比例弁51が設けられている。第1電磁比例弁51は、コントローラ6から出力された信号にしたがって、パイロットポンプ50から吐出されて第1パイロット油室420Lに作用されるパイロット圧を制御する。
【0042】
同様にして、第2パイロット油室420Rは、第2パイロット管路502によってパイロットポンプ50に接続されている。そして、第2パイロット管路502上には、すなわち第2パイロット油室420Rとパイロットポンプ50との間には、第2電磁比例弁52が設けられている。第2電磁比例弁52は、コントローラ6から出力された信号にしたがって、パイロットポンプ50から吐出されて第2パイロット油室420Rに作用されるパイロット圧を制御する。
【0043】
このように、方向制御弁42は、第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52により制御され、コントローラ6から出力される信号に比例して内部のスプールが変位する。そして、このスプールの変位量に比例してバケット角度が変化する。したがって、スプールが中立位置42Nから第1切換位置42Lに向かって移動すると、その変位量に応じた角度だけバケット21はダンプ方向に回動し、スプールが中立位置42Nから第2切換位置42Rに向かって移動すると、その変位量に応じた角度だけバケット21はチルト方向に回動する。
【0044】
なお、第1パイロット油室420Lおよび第2パイロット油室420Rはいずれも、タンク44に接続されている。コントローラ6から第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52に対してそれぞれ出力される信号の大きさが、第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52のそれぞれに設けられたばねの付勢力よりも小さい場合には、第1パイロット油室420Lおよび第2パイロット油室420R内のパイロット圧油はタンク44に排出される。
【0045】
<コントローラ6の構成>
次に、コントローラ6の構成について、図7を参照して説明する。
【0046】
図7は、コントローラ6が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0047】
コントローラ6は、CPU、RAM、ROM、HDD、入力I/F、および出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成される。そして、コントローラ6における後述の補正処理を有効にするためのスイッチ121や、バケット21を操作するための電気式の操作装置としての操作レバー122といった各種の操作装置、ならびにバケット角度センサ31、アーム角度センサ32、および傾斜センサ33といった各種のセンサなどが入力I/Fに接続され、第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52などが出力I/Fに接続されている。
【0048】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD若しくは光学ディスク等の記録媒体に格納された制御プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された制御プログラムを実行することにより、制御プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ6の機能を実現する。
【0049】
なお、本実施形態では、コントローラ6をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって構成されるコンピュータとして説明しているが、これに限らず、例えば他のコンピュータの構成の一例として、ホイールローダ1の側で実行される制御プログラムの機能を実現する集積回路を用いてもよい。
【0050】
コントローラ6は、データ取得部61と、傾斜判定部62と、アーム角度判定部63と、対地角度算出部64と、補正角度算出部65と、記憶部66と、信号出力部67と、を含む。
【0051】
データ取得部61は、スイッチ121から出力された信号、操作レバー122から出力された操作信号、傾斜センサ33で検出された傾斜角度θ、アーム角度センサ32で検出されたリフトアーム角度α、およびバケット角度センサ31で検出されたバケット角度βに関するデータをそれぞれ取得する。
【0052】
傾斜判定部62は、データ取得部61で取得された傾斜角度θに基づいて、車体が傾斜しているか否かを判定する。本実施形態では、傾斜判定部62は、データ取得部61で取得された傾斜角度の絶対値|θ|が、所定の傾斜角度閾値θth(>0)(以下、単に「傾斜角度閾値θth」とする)以上であるか否かを判定する。
【0053】
ホイールローダ1が登坂する場合、すなわち、傾斜判定部62において、車体の後部側が車体の前部側に比べて低くなって車体が後傾した状態にあると判定される場合には、データ取得部61で取得された傾斜角度θは「正」となる(θ>0)。他方、ホイールローダ1が降坂する場合、すなわち、傾斜判定部62において、車体の前部側が車体の後部側に比べて低くなって車体が前傾した状態にあると判定される場合には、データ取得部61で取得された傾斜角度θは「負」となる(θ<0)。したがって、傾斜判定部62は、データ取得部61で取得された傾斜角度の絶対値|θ|を用いて車体の傾斜具合(後傾状態あるいは前傾状態)を判定している。
【0054】
この「傾斜角度閾値θth」は、リフトアーム23が水平姿勢よりも高い位置にある状態で、バケット21内の積荷がこぼれ始める時の車体の傾斜角度に基づいて設定された所定の角度閾値であり、例えば5°程度に設定される。ここで、「リフトアーム23の水平姿勢」とは、例えば、運搬作業時におけるリフトアーム23の姿勢であり、フルチルト状態のバケット21が地面に接触しない高さとなる時のリフトアーム23の姿勢である。このとき、2つのリフトアームシリンダ24は、前フレーム1Aから前方に向かって水平に延びた状態となっている。
【0055】
アーム角度判定部63は、データ取得部61で取得されたリフトアーム角度αが、所定のアーム角度閾値αth(以下、単に「アーム角度閾値αth」とする)よりも大きいか否かを判定する。この「アーム角度閾値αth」は、リフトアーム23の水平姿勢でのリフトアーム角度に相当する値である。
【0056】
すなわち、アーム角度判定部63では、データ取得部61で取得されたリフトアーム角度αに対応するリフトアーム23の高さが、リフトアーム23の水平姿勢での高さよりも高いか否かについて判定される。換言すれば、アーム角度判定部63では、データ取得部61で取得されたリフトアーム角度αに対応するバケット21の高さ位置が、所定高さよりも高いか否かについて判定される。本実施形態では、「所定高さ」は、リフトアーム23が水平姿勢である場合のバケット21の高さとなるが、これに限らず、作業現場の環境やホイールローダ1の仕様に応じて任意に設定することが可能である。
【0057】
対地角度算出部64は、データ取得部61で取得されたバケット角度βおよび傾斜角度θに基づいて、前輪11Aの接地面に対するバケット21の角度γ(以下、「バケット対地角度γ」とする)を算出する。
【0058】
補正角度算出部65は、対地角度算出部64において算出されたバケット対地角度γが、ホイールローダ1の傾斜地走行の開始時の平地におけるバケット対地角度である基準対地角度γthとなるような補正角度γcを算出する。
【0059】
記憶部66はメモリであり、傾斜角度閾値θth、アーム角度閾値αth、および基準対地角度γthがそれぞれ記憶されている。
【0060】
信号出力部67は、補正角度算出部65において算出された補正角度γcに係る補正信号を第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52のそれぞれに対して出力する。これにより、バケット21がダンプ動作するようにバケットシリンダ22が自動で伸長し、バケット21の角度が補正角度γcに補正される。また、この場合において、操作レバー122から操作量に応じた操作信号がデータ取得部61に入力されると、信号出力部67は、その操作信号に基づいた指令信号を第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52のそれぞれに対して出力する。
【0061】
<コントローラ6内での処理>
次に、コントローラ6内で実行される具体的な処理の流れについて、図8を参照して説明する。また、コントローラ6の処理によって奏する作用および効果について、図9および図10を参照して説明する。
【0062】
図8は、コントローラ6で実行される処理の流れを示すフローチャートである。図9は、コントローラ6で補正処理が実行された場合におけるバケット21の動作について説明する説明図である。図10は、図8に示すステップS605においてNOとなる場合のバケット21の状態について説明する説明図である。
【0063】
図8に示すように、まず、コントローラ6は、データ取得部61にスイッチ121からの有効信号が入力されてたか否か、すなわちスイッチ121が有効になったか否かを判定する(ステップS601)。このように、本実施形態では、オペレータがスイッチ121を操作することにより、コントローラ6における補正を有効にするか無効にするかを任意に選択することが可能となっている。
【0064】
ステップS601においてスイッチ121が有効になったと判定された場合(ステップS601/YES)、続いて、データ取得部61は、傾斜センサ33で検出された傾斜角度θを取得する(ステップS602)。一方、ステップS601においてスイッチ121が無効のままであると判定された場合(ステップS601/NO)、コントローラ5における処理が終了する。
【0065】
次に、傾斜判定部62は、ステップS602で取得された傾斜角度の絶対値|θ|が傾斜角度閾値θth以上であるか否かを判定する(ステップS603)。ステップS603において傾斜角度の絶対値|θ|が傾斜角度閾値θth以上である(|θ|≧θth)と判定された場合(ステップS603/YES)、データ取得部61は、アーム角度センサ32で検出されたリフトアーム角度αを取得する(ステップS604)。
【0066】
次に、アーム角度判定部63は、ステップS604で取得されたリフトアーム角度αがアーム角度閾値αthよりも大きいか否かを判定する(ステップS605)。ステップS605においてリフトアーム角度αがアーム角度閾値αthよりも大きい(α>αth)と判定された場合(ステップS605/YES)、データ取得部61は、バケット角度センサ31で検出されたバケット角度βを取得する(ステップS606)。
【0067】
続いて、対地角度算出部64は、ステップS602で取得された傾斜角度θおよびステップS606で取得されたバケット角度βに基づいて、バケット対地角度γを算出する(ステップS607)。そして、補正角度算出部65は、ステップS607で算出されたバケット対地角度γおよび記憶部66に記憶されている基準対地角度γthに基づいて、補正角度γcを算出する(ステップS608)。
【0068】
次に、コントローラ6は、データ取得部61に操作レバー122からの操作信号が入力されたか否かを判定する(ステップS609)。ステップS609において操作レバー122からの操作信号が入力されたと判定された場合(ステップS609/YES)、信号出力部67は、入力された操作信号に基づく指令信号を第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52に対してそれぞれ出力して(ステップS610)、ステップS601に戻る。
【0069】
一方、ステップS609において操作レバー122からの操作信号が入力されていないと判定された場合(ステップS609/NO)、信号出力部67は、ステップS608で算出された補正角度γcに係る補正信号を第1電磁比例弁51および第2電磁比例弁52に対してそれぞれ出力して(ステップS611)、ステップS601に戻る。
【0070】
このように、コントローラ6でバケット21の角度補正を行っている場合において、操作レバー122からデータ取得部61に操作信号が入力されると、操作レバー122の操作が優先される。ホイールローダ1がダンプトラックやホッパーなどの積込み先の手前に到着してバケット21内の積荷を排出したい場合に、バケット21の角度補正を無効にしてオペレータによるバケット21のダンプ操作を行うことができるようにしている。
【0071】
図9に示すように、ホイールローダ1がリフトアーム23を上昇させながら登坂している場合、前述の通り、車体が後傾することによってバケット21はチルト方向に傾きやすくなる(図9において破線で示す状態)。例えば、上り坂の傾斜角度が10°であって(θ=10°)基準対地角度γthが30°であった(γth=30°)場合、コントローラ6は、バケット対地角度γが常に基準対地角度γth(=30°)に維持されるよう、バケットシリンダ22を伸長方向に自動で制御してバケット21をダンプ動作させることで(図9において矢印で示す)、特に、平地走行から傾斜地走行に切り換わる場面において、オペレータがバケット21の角度を調整しなくとも、バケット21からの荷こぼれを抑制することができる。
【0072】
なお、ホイールローダ1が傾斜地において積込み作業を行うとしては、上り坂が多いため、傾斜地が上り坂である場合について主に説明しているが、必ずしも上り坂である必要はない。作業現場の環境によっては、例えば、ホイールローダ1が登坂した後に降坂することもあり、降坂時には、コントローラ6の補正によってバケット21をチルト方向に制御して、バケット21からの荷こぼれを抑制したり、オペレータのチルト操作忘れを防止したりすることが可能である。
【0073】
また、本実施形態では、ステップS603において傾斜角度の絶対値|θ|が傾斜角度閾値θthよりも小さい(|θ|<θth)と判定された場合(ステップS603/NO)、バケット角度の補正処理は行われず、ステップS601に戻る。このように、車体が小石などに乗り上げて傾斜してしまった場合など軽微な傾斜の場合については、コントローラ6はバケット角度の補正を行わない。
【0074】
同様に、本実施形態では、ステップS605においてリフトアーム角度αがアーム角度閾値αth以下である(α≦αth)と判定された場合(ステップS605/NO)についても、バケット角度の補正処理は行われず、ステップS601に戻る。
【0075】
図10に示すように、傾斜角度の異なる2つの第1上り坂Z1および第2上り坂Z2が連続し、ホイールローダ1から見てより前方に位置する第1上り坂Z1の傾斜の角度θ1が手前に位置する第2上り坂Z2の傾斜の角度θ2よりも急であって(θ1>θ2)、リフトアーム23の高さが水平姿勢時の高さ以下である(すなわち、α≦αth)場合、コントローラ6の補正によりバケット21がダンプ方向に制御されてしまうと、バケット21が第1上り坂Z1に突き刺さってしまう可能性がある(図10において一点鎖線で示す)。このような事態を回避すべく、車体が傾斜しており、リフトアーム23の高さが水平姿勢時の高さ以下である場合については、コントローラ6はバケット角度の補正を行わない。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0077】
例えば、上記実施形態では、コントローラ6は、スイッチ121が有効となり、傾斜角度の絶対値|θ|が傾斜角度閾値θth以上であり(|θ|≧θth)、かつリフトアーム角度αがアーム角度閾値αthよりも大きい(α>αth)場合にバケット21の角度を補正しているが、これに限らず、少なくともバケット21が所定高さ以上に位置した場合に、車体の傾斜角度θに応じてバケット21の角度を補正すればよい。
【0078】
また、上記実施形態では、バケット角度センサ31には、リフトアーム23に対するバケット21の角度を検出するものを用いており、コントローラ6は、バケット角度センサ31で検出されたバケット角度βおよび傾斜センサ33で検出された傾斜角度θに基づいてバケット対地角度γを算出しているが、これに限らず、バケット対地角度γを直接的に検出可能なバケット角度センサ31を用いてもよく、その場合には、コントローラ6は、バケット角度センサ31で検出されたバケット対地角度γから補正角度γcを算出すればよい。
【0079】
また、上記実施形態では、作業車両の一態様としてホイールローダ1について説明したが、これに限らず、バケット21を備えた他の作業車両に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1:ホイールローダ(作業車両)
6:コントローラ
11A:前輪
11B:後輪
21:バケット
22:バケットシリンダ
23:リフトアーム(アーム部材)
32:アーム角度センサ(高さセンサ)
33:傾斜センサ
41:油圧ポンプ
42:方向制御弁
51:第1電磁比例弁
52:第2電磁比例弁
121:スイッチ
122:操作レバー(操作装置)
θth:傾斜角度閾値(所定の角度閾値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10