(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】固体電解質材料、および、電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20230331BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230331BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230331BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230331BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230331BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2019563955
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018046260
(87)【国際公開番号】W WO2019135345
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2018000427
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】境田 真志
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真也
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】BOHNSACK Andreas et al.,Ternary Chlorides of the Rare-Earth Elements with Lithium, Li3MCl6(M=Tb-Lu, Y, Sc):Synthesis, Crysta,Journal of inorganic and General Chemistry,1997年07月,Vol.623/Issue 7,pp.1067-1073
【文献】BOHNSACK Andreas et al.,The Bromides Li3MBr6(M=Sm-Lu, Y):Synthesis, Crystal Structure, and Ionic Mobility,Journal of inorganic and General Chemistry,1997年09月,Vol.623/Issue 9,pp. 1352-1356
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liと、
Yと、
M(Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Zr、Nb、及びTaからなる群より選択される少なくとも1種
)と、
X(Xは、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種
)と、からな
り、
Li
3
(Y、M)X
6
をベースとする、固体電解質材料であって、
Cu-Kα線をX線源として用いることにより得られた、前記固体電解質材料のX線回折パターンが、回折角2θの値が30°以上33°以下である範囲内、前記回折角2θの値が39°以上43°以下である範囲内、及び前記回折角2θの値が47°以上51°以下である範囲内の各々において、
回折ピークを含む、
固体電解質材料。
【請求項2】
前記X線回折パターンは、さらに、前記回折角2θの値が15°以上18°以下である範囲内に、
回折ピークを含む、
請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項3】
Cl、Br、及びIからなる群より選択される前記少なくとも1種の副格子を含み、
前記副格子が、六方最密充填構造または六方最密充填構造が歪んだ構造を有する、
請求項1または2に記載の固体電解質材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の固体電解質材料と、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられる電解質層と、
を備え、
前記正極、前記負極、及び前記電解質層からなる群から選択される少なくとも1つは、前記固体電解質材料を含む、
電池。
【請求項5】
Liと、
Yと、
M(Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Zr、Nb、及びTaからなる群より選択される少なくとも1種
)と、
X(Xは、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種
)と、からな
り、
Li
3
(Y、M)X
6
をベースとする、固体電解質材料であって、
Cu-Kα線をX線源として用いることにより得られた、前記固体電解質材料のX線回折パターンを、横軸が回折角2θからqとなるように変換することにより得られる、第1の変換パターンが、
前記qの値が2.109Å
-1以上2.315Å
-1以下である範囲内に、
回折由来の第1ピークを含み、
ここで、q=4πsinθ/λであり、λは前記Cu-Kα線の波長であり、
前記X線回折パターンを、横軸が回折角2θからq/q
0となるように変換することにより得られる、第2の変換パターンが、
前記q/q
0の値が1.28以上1.30以下である範囲内、及び前記q/q
0の値が1.51以上1.54以下である範囲内の各々において、
回折由来のピークを含み、
ここで、q
0は、前記第1の変換パターンにおける前記
第1ピークに対応する前記qの値である、
固体電解質材料。
【請求項6】
前記第2の変換パターンは、前記q/q
0の値が0.50以上0.52以下である範囲内に、
回折由来のピークを含む、
請求項5に記載の固体電解質材料。
【請求項7】
Cl、Br、及びIからなる群より選択される前記少なくとも1種の副格子を含み、
前記副格子が、六方最密充填構造または六方最密充填構造が歪んだ構造を有する、
請求項5または6に記載の固体電解質材料。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載の固体電解質材料と、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられる電解質層と、
を備え、
前記正極、前記負極、及び前記電解質層からなる群から選択される少なくとも1つは、前記固体電解質材料を含む、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質材料、および、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硫化物固体電解質を用いた全固体電池が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、Li3YCl6が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、Li3YBr6が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Z.Anorg.Allg.Chem.623(1997)、1067-1073.
【文献】Z.Anorg.Allg.Chem.623(1997)、1352-1356.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術においては、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一様態における固体電解質材料は、Liと、Yと、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Zr、Nb、及びTaからなる群より選択される少なくとも1種と、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種と、からなる。Cu-Kα線をX線源として用いることにより得られた、前記固体電解質材料のX線回折パターンが、回折角2θの値が30°以上33°以下である範囲内、前記回折角2θの値が39°以上43°以下である範囲内、及び前記回折角2θの値が47°以上51°以下である範囲内の各々において、ピークを含む。
【0009】
また、本開示の一様態における固体電解質材料は、Liと、Yと、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Zr、Nb、及びTaからなる群より選択される少なくとも1種と、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種と、からなる。Cu-Kα線をX線源として用いることにより得られた、前記固体電解質材料のX線回折パターンを、横軸が回折角2θからqとなるように変換することにより得られる、第1の変換パターンが、前記qの値が2.109Å-1以上2.315Å-1以下である範囲内に、基準ピークを含み、ここで、q=4πsinθ/λであり、λは前記Cu-Kα線の波長である。前記X線回折パターンを、横軸が回折角2θからq/q0となるように変換することにより得られる、第2の変換パターンが、前記q/q0の値が1.28以上1.30以下である範囲内、及び前記q/q0の値が1.51以上1.54以下である範囲内の各々において、ピークを含み、ここで、q0は、前記第1の変換パターンにおける前記基準ピークに対応する前記qの値である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態3における電池の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、XRDにおけるピークパターンを示す図である。
【
図4】
図4は、イオン伝導度の評価方法を示す模式図である。
【
図5】
図5は、ACインピーダンス測定によるイオン伝導度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1における固体電解質材料は、LiとYとMとXとからなる材料である。
【0014】
Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Zr、Nb、及びTaからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0015】
Xは、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0016】
Cu-Kα線をX線源として用いることにより得られた、実施の形態1における固体電解質材料のX線回折パターンは、回折角2θの値が30°以上33°以下である範囲内、前記回折角2θの値が39°以上43°以下である範囲内、及び前記回折角2θの値が47°以上51°以下である範囲内の各々において、ピークを含む。
【0017】
以上の構成によれば、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料であるハロゲン化物固体電解質材料を実現できる。
【0018】
また、以上の構成によれば、実施の形態1の固体電解質材料を用いることで、充放電特性に優れた全固体二次電池を実現することができる。
【0019】
また、実施の形態1の固体電解質材料を用いることで、硫黄を含まない全固体二次電池を実現することができる。すなわち、実施の形態1の固体電解質材料は、大気に曝露された際に硫化水素が発生する構成(例えば、特許文献1の構成)ではない。このため、硫化水素の発生が無く、安全性に優れた全固体二次電池を実現することができる。
【0020】
なお、実施の形態1における固体電解質材料の前記X線回折パターンは、さらに、回折角2θの値が15°以上18°以下である範囲内に、ピークを含んでいてもよい。
【0021】
以上の構成によれば、より高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【0022】
なお、実施の形態1における固体電解質材料は、第1結晶相を含んでもよい。当該第1結晶相としては、上述の特徴的な回折パターンが得られる結晶相が挙げられる。
【0023】
すなわち、実施の形態1における固体電解質材料は、第1結晶相を含んでもよい。
【0024】
なお、測定強度が十分に得られない場合には、上述の一部のピークが観測されなくともよい。
【0025】
上述の特徴的な回折図形が得られる第1結晶相は、特定の結晶構造に限定されないが、例えば、下記のような結晶構造が挙げられる。
【0026】
一つは、アニオンの副格子の構造が、六方最密充填構造、もしくは、六方最密充填構造が歪んだ原子配列となる構造である。すなわち、アニオンの副格子においては、各アニオンは12個の他のアニオンに配位されている。理想的な六方最密充填構造の場合、それらの12個のアニオンのうち、同一面内に存在し、正六角形を形成する6個のアニオンの組み合わせがある。それらの6個のアニオンと中心元素とが作る面は最密充填面であり、最密充填面においては一層おきに同一面内座標をとる。第1結晶相においては、上述の理想的な六方最密充填構造が歪んだ構造であってもよい。例えば、前述の最密充填面において、任意の三個のアニオン同士が作る角度は、60°±5°程度であってもよい。
【0027】
このような構造の例として、空間群P-3m1に属する結晶構造を有するLi3ErCl6(以下、LECとも表記される)構造または空間群Pnmaに属する結晶構造を有するLi3YbCl6(以下、LYCとも表記される)構造が挙げられる。その詳細な原子配列は、無機結晶構造データベース(ICSD)に掲載されている(LEC構造:ICSD No.50151、LYC構造:ICSD No.50152)。
【0028】
なお、実施の形態1における固体電解質材料は、第1結晶相とは異なる結晶構造を有する異種結晶相を含んでもよい。
【0029】
以上の構成によれば、より高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。具体的には、第1結晶相のような結晶構造をとることで、アニオンは、YまたはMの周辺に、より強く引き付けられ、かつ、MとYの混合によりLiイオンのポテンシャルが不安定となる領域が生じると考えられる。これにより、リチウムイオンが拡散する経路が形成される。又、Liが欠損した組成であることで、非占有サイトが形成され、リチウムイオンが伝導しやすくなる。このため、リチウムイオン伝導度がより向上すると推察される。
【0030】
また、実施の形態1における固体電解質材料の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、針状、球状、楕円球状など、であってもよい。例えば、実施の形態1における固体電解質材料は、粒子であってもよい。複数の粒子を積層した後、加圧によりペレット状もしくは板状に成形してもよい。
【0031】
例えば、実施の形態1における固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)の場合、メジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。
【0032】
また、実施の形態1においては、メジアン径は0.5μm以上かつ10μm以下であってもよい。
【0033】
以上の構成によれば、イオン伝導性をより高めることができる。また、実施の形態1における固体電解質材料と活物質などとのより良好な分散状態を形成できる。
【0034】
また、実施の形態1においては、固体電解質材料は、活物質のメジアン径より小さくてもよい。
【0035】
以上の構成によれば、実施の形態1における固体電解質材料と活物質などとのより良好な分散状態を形成できる。
【0036】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0037】
実施の形態2における固体電解質材料は、LiとYとMとXとからなる材料である。
【0038】
Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Zr、Nb、及びTaからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0039】
Xは、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0040】
Cu-Kα線をX線源として用いることにより得られた、前記固体電解質材料のX線回折パターンを、横軸が回折角2θからqとなるように変換することにより得られる、第1の変換パターンが、前記qの値が2.109Å-1以上2.315Å-1以下である範囲内に、基準ピークを含む。ここで、q=4πsinθ/λであり、λは前記Cu-Kα線の波長である。前記X線回折パターンを、横軸が回折角2θからq/q0となるように変換することにより得られる、第2の変換パターンが、前記q/q0の値が1.28以上1.30以下である範囲内、及び前記q/q0の値が1.51以上1.54以下である範囲内の各々において、ピークを含む。ここで、q0は、前記第1の変換パターンにおける前記基準ピークに対応する前記qの値である。
【0041】
以上の構成によれば、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料であるハロゲン化物固体電解質材料を実現できる。
【0042】
また、以上の構成によれば、実施の形態2の固体電解質材料を用いることで、充放電特性に優れた全固体二次電池を実現することができる。
【0043】
また、実施の形態2の固体電解質材料を用いることで、硫黄を含まない全固体二次電池を実現することができる。すなわち、実施の形態2の固体電解質材料は、大気に曝露された際に硫化水素が発生する構成(例えば、特許文献1の構成)ではない。このため、硫化水素の発生が無く、安全性に優れた全固体二次電池を実現することができる。
【0044】
なお、前記第2の変換パターンは、前記q/q0の値が0.50以上0.52以下である範囲内に、ピークを含んでいてもよい。
【0045】
以上の構成によれば、より高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を実現できる。
【0046】
なお、実施の形態2における固体電解質材料は、実施の形態1と同様に、上述の第1結晶相を含んでもよい。
【0047】
当該第1結晶相としては、上述の特徴的な変換パターンが得られる結晶相が挙げられる。
【0048】
なお、測定強度が十分に得られない場合には、上述の一部のピークが観測されなくともよい。
【0049】
なお、実施の形態2における固体電解質材料は、第1結晶相とは異なる結晶構造を有する異種結晶相を含んでもよい。
【0050】
なお、本開示において、「所定の値Aが、値Bから値Cである範囲」との表記は、「B≦A≦Cである範囲」を意味する。
【0051】
<固体電解質材料の製造方法>
実施の形態1または2における固体電解質材料は、例えば、下記の方法により、製造されうる。
【0052】
目的とする構成元素が得られるよう、二元系ハロゲン化物の原料粉を用意する。例えば、Li、Y、Sr、Clを含む固体電解質材料を作製する場合には、LiClとYCl3とSrCl2を用意する。このとき、原料粉の種類を選択することで、アニオンの組成を決定することができる。原料粉をよく混合した後、メカノケミカルミリングの方法を用いて原料粉同士を混合・粉砕・反応させる。その後、真空中または不活性雰囲気中で焼成してもよい。もしくは、原料粉をよく混合した後、真空中または不活性雰囲気中で焼成してもよい。焼成条件は、例えば、100℃から650℃の範囲内で、1時間以上の焼成を行ってもよい。
【0053】
これにより、前述したような組成を含む固体電解質材料が得られる。
【0054】
なお、固体質材料における結晶相の構成、結晶構造、および、Cu-Kαを線源として用いたX線回折パターンおよび、変換パターンにおける各ピークの位置は、原料比率の調整および原料粉どうしの反応方法および反応条件の調整により、決定することができる。
【0055】
(実施の形態3)
以下、実施の形態3が説明される。上述の実施の形態1または2と重複する説明は、適宜、省略される。
【0056】
実施の形態3における電池は、上述の実施の形態1または2で説明された固体電解質材料を用いて構成される。
【0057】
実施の形態3における電池は、固体電解質材料と、正極と、負極と、電解質層と、を備える。
【0058】
電解質層は、正極と負極との間に設けられる層である。
【0059】
正極と電解質層と負極とのうちの少なくとも1つは、実施の形態1または2における固体電解質材料を含む。
【0060】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を向上させることができる。
【0061】
以下に、実施の形態3における電池の具体例が、説明される。
【0062】
図1は、実施の形態3における電池1000の概略構成を示す断面図である。
【0063】
実施の形態3における電池1000は、正極201と、負極203と、電解質層202とを備える。
【0064】
正極201は、正極活物質粒子204と固体電解質粒子100とを含む。
【0065】
電解質層202は、正極201と負極203との間に配置される。
【0066】
電解質層202は、電解質材料(例えば、固体電解質材料)を含む。
【0067】
負極203は、負極活物質粒子205と固体電解質粒子100とを含む。
【0068】
固体電解質粒子100は、実施の形態1または2における固体電解質材料からなる粒子、または、実施の形態1または2における固体電解質材料を主たる成分として含む粒子である。
【0069】
正極201は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出する特性を有する材料を含む。正極201は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子204)を含む。
【0070】
正極活物質には、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物(例えば、Li(NiCoAl)O2、LiCoO2、など)、遷移金属フッ化物、ポリアニオンおよびフッ素化ポリアニオン材料、および、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物、など、が用いられうる。
【0071】
正極活物質粒子204のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。正極活物質粒子204のメジアン径が0.1μmより小さいと、正極において、正極活物質粒子204とハロゲン化物固体電解質材料とが、良好な分散状態を形成できない可能性が生じる。この結果、電池の充放電特性が低下する。また、正極活物質粒子204のメジアン径が100μmより大きいと、正極活物質粒子204内のリチウム拡散が遅くなる。このため、電池の高出力での動作が困難となる場合がある。
【0072】
正極活物質粒子204のメジアン径は、ハロゲン化物固体電解質材料のメジアン径よりも、大きくてもよい。これにより、正極活物質粒子204とハロゲン化物固体電解質材料との良好な分散状態を形成できる。
【0073】
正極201に含まれる、正極活物質粒子204とハロゲン化物固体電解質材料の体積比率「v:100-v」について、30≦v≦95であってもよい。v<30では、十分な電池のエネルギー密度確保が困難となる可能性がある。また、v>95では、高出力での動作が困難となる可能性がある。
【0074】
正極201の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。なお、正極201の厚みが10μmより薄い場合には、十分な電池のエネルギー密度の確保が困難となる可能性がある。なお、正極201の厚みが500μmより厚い場合には、高出力での動作が困難となる可能性がある。
【0075】
電解質層202は、電解質材料を含む層である。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料である。すなわち、電解質層202は、固体電解質層であってもよい。
【0076】
なお、固体電解質層は、上述の実施の形態1または2における固体電解質材料を、主成分として、含んでもよい。すなわち、固体電解質層は、上述の実施の形態1または2における固体電解質材料を、例えば、固体電解質層の全体に対する重量割合で50%以上(50重量%以上)、含んでもよい。
【0077】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0078】
また、固体電解質層は、上述の実施の形態1または2における固体電解質材料を、例え、固体電解質層の全体に対する重量割合で70%以上(70重量%以上)、含んでもよい。
【0079】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0080】
なお、固体電解質層は、上述の実施の形態1または2における固体電解質材料を主成分として含みながら、さらに、不可避的な不純物、または、上述の固体電解質材料を合成する際に用いられる出発原料、並びに副生成物および分解生成物など、を含んでいてもよい。
【0081】
また、固体電解質層は、実施の形態1または2における固体電解質材料を、例えば、混入が不可避的な不純物を除いて、固体電解質層の全体に対する重量割合で100%(100重量%)、含んでもよい。
【0082】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0083】
以上のように、固体電解質層は、実施の形態1または2における固体電解質材料のみから構成されていてもよい。
【0084】
もしくは、実施の形態1または2における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料のみから構成されていてもよい。実施の形態1または2における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料として、例えば、Li2MgX4、Li2FeX4、Li(Al,Ga,In)X4、Li3(Al,Ga,In)X6、LiI、など(X:F,Cl,Br,I)、が用いられうる。
【0085】
固体電解質層は、実施の形態1または2における固体電解質材料と、上述の実施の形態1または2における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料とを、同時に含んでもよい。このとき、両者が均一に分散していてもよい。実施の形態1または2における固体電解質材料からなる層と、上述の実施の形態1または2における固体電解質材料とは異なる固体電解質材料からなる層とが、電池の積層方向に対して、順に配置されていてもよい。
【0086】
固体電解質層の厚みは、1μm以上かつ1000μm以下であってもよい。固体電解質層の厚みが1μmより薄い場合には、正極201と負極203とが短絡する可能性が高まる。また、固体電解質層の厚みが1000μmより厚い場合には、高出力での動作が困難となる可能性がある。
【0087】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出する特性を有する材料を含む。負極203は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子205)を含む。
【0088】
負極活物質には、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物、など、が使用されうる。金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属、リチウム合金、など、が挙げられる。炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素、など、が挙げられる。容量密度の観点から、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物、錫化合物、を好適に使用できる。平均反応電圧が低い負極活物質を用いた場合に、実施の形態1または2における固体電解質材料による電気分解抑制の効果が、より良く発揮される。
【0089】
負極活物質粒子205のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。負極活物質粒子205のメジアン径が0.1μmより小さいと、負極において、負極活物質粒子205と固体電解質粒子100とが、良好な分散状態を形成できない可能性が生じる。これにより、電池の充放電特性が低下する。また、負極活物質粒子205のメジアン径が100μmより大きいと、負極活物質粒子205内のリチウム拡散が遅くなる。このため、電池の高出力での動作が困難となる場合がある。
【0090】
負極活物質粒子205のメジアン径は、固体電解質粒子100のメジアン径よりも、大きくてもよい。これにより、負極活物質粒子205とハロゲン化物固体電解質材料との良好な分散状態を形成できる。
【0091】
負極203に含まれる、負極活物質粒子205と固体電解質粒子100の体積比率「v:100-v」について、30≦v≦95であってもよい。v<30では、十分な電池のエネルギー密度確保が困難となる可能性がある。また、v>95では、高出力での動作が困難となる可能性がある。
【0092】
負極203の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。負極の厚みが10μmより薄い場合には、十分な電池のエネルギー密度の確保が困難となる可能性がある。また、負極の厚みが500μmより厚い場合には、高出力での動作が困難となる可能性がある。
【0093】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、イオン伝導性または化学的安定性・電気化学的安定性を高める目的で、硫化物固体電解質または酸化物固体電解質が含まれてもよい。硫化物固体電解質として、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-B2S3、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li10GeP2S12、など、が用いられうる。酸化物固体電解質として、LiTi2(PO4)3およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe4O16、Li4SiO4、LiGeO4およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr2O12およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li3NおよびそのH置換体、Li3PO4およびそのN置換体、など、が用いられうる。
【0094】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、有機ポリマー固体電解質が含まれてもよい。有機ポリマー固体電解質として、例えば高分子化合物と、リチウム塩との化合物が用いられうる。高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができ、イオン導電率をより高めることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、など、が使用されうる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。
【0095】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解質液、ゲル電解質、イオン液体が含まれてもよい。
【0096】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩と、を含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、フッ素溶媒、など、が使用されうる。環状炭酸エステル溶媒の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、など、が挙げられる。鎖状炭酸エステル溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、など、が挙げられる。環状エーテル溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、など、が挙げられる。鎖状エーテル溶媒としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、など、が挙げられる。環状エステル溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、など、が挙げられる。鎖状エステル溶媒の例としては、酢酸メチル、など、が挙げられる。フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネート、など、が挙げられる。非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で、使用されうる。もしくは、非水溶媒として、これらから選択される2種以上の非水溶媒の組み合わせが、使用されうる。非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素溶媒が含まれていてもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、など、が使用されうる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5から2mol/リットルの範囲にある。
【0097】
ゲル電解質は、ポリマー材料に非水電解液を含ませたものを用いることができる。ポリマー材料として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、エチレンオキシド結合を有するポリマー、など、が用いられてもよい。
【0098】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級塩類、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6
-、BF4
-、SbF6-
-、AsF6
-、SO3CF3
-、N(SO2CF3)2
-、N(SO2C2F5)2
-、N(SO2CF3)(SO2C4F9)-、C(SO2CF3)3
-などであってもよい。また、イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0099】
正極201と電解質層202と負極203とのうちの少なくとも1つには、粒子同士の密着性を向上する目的で、結着剤が含まれてもよい。結着剤は、電極を構成する材料の結着性を向上するために、用いられる。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、など、が挙げられる。また、結着剤としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体が用いられうる。また、これらのうちから選択された2種以上が混合されて、結着剤として用いられてもよい。
【0100】
また、正極201および負極203のうちの少なくとも一方は、必要に応じて、導電助剤を含んでもよい。
【0101】
導電助剤は、電極抵抗を低減するために、用いられる。導電助剤としては、天然黒鉛または人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維または金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛またはチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物、など、が挙げられる。なお、導電助剤として、炭素導電助剤を用いることで、低コスト化が図れる。
【0102】
なお、実施の形態3における電池は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型、など、種々の形状の電池として、構成されうる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例および比較例を用いて、本開示の詳細が説明される。
【0104】
≪実施例1≫
[固体電解質材料の作製]
露点-60℃以下のアルゴン雰囲気で、409.3mgのLiClと547.3mgのYCl3と49.4mgのSrCl2とを秤量し、混合した。その後、遊星型ボールミルを用い、12時間、600rpmでミリング処理した。
【0105】
[結晶構造の解析]
図2は、XRDパターンを示すグラフである。
【0106】
図2に示される結果は、下記の方法により、測定された。
【0107】
すなわち、固体電解質の結晶構造の解析には、X線回折装置(RIGAKU社MiniFlex600)を用いて、露点-45℃以下のドライ環境でX線回折パターンを測定した。X線源については、Cu-Kα線を用いた。すなわち、Cu-Kα線(波長1.5405Å、および、1.5444Å)をX線として用いて、θ―2θ法でX線回折(XRD)を測定した。
【0108】
実施例1におけるX線回折パターンにおいては、15.72°、31.34°、40.9°、48.72°に比較的強度の高いピークが観測された。
【0109】
これらのピークは、LYC相から観測されるX線回折図形の一部のピーク位置と略一致した。
【0110】
図3は、上述のXRD回折パターンの横軸2θをq=4πsin(θ)/λで変換し、更に、前述のピーク位置2θ=31.34°におけるq値であるq
0=2.201Å
-1で規格化したq/q
0の値を横軸にとった場合の回折図形である。
図3においては、q/q
0=0.506、1.00、1.294、1.527の位置にピークを観測した。これらのピーク位置は、
図3中の矢印で図示される。
【0111】
[リチウムイオン伝導度の評価]
図4は、イオン伝導度の評価方法を示す模式図である。
【0112】
加圧成形用ダイス300は、電子的に絶縁性のポリカーボネート製の枠型301と、電子伝導性のステンレス製のパンチ上部303およびパンチ下部302とから構成される。
【0113】
図4に示す構成を用いて、下記の方法にて、イオン伝導度の評価を行った。
【0114】
露点-30℃以下のドライ雰囲気で、実施例1の固体電解質材料の粉末を加圧成形用ダイス300に充填し、400MPaで一軸加圧し、実施例1の伝導度測定セルを作製した。
【0115】
加圧状態のまま、パンチ上部303とパンチ下部302のそれぞれから導線を取り回し、周波数応答アナライザを搭載したポテンショスタット(Princeton Applied Research社 VersaSTAT4)に接続し、電気化学的インピーダンス測定法により、室温におけるイオン伝導度の測定を行った。
【0116】
インピーダンス測定結果のCole-Cole線図を
図5に示す。
【0117】
図5において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点(
図5中の矢印)のインピーダンスの実数値を実施例1の固体電解質のイオン伝導に対する抵抗値とみなした。
【0118】
電解質の抵抗値を用いて、下記式より、イオン伝導度を算出した。
σ=(RSE×S/t)-1
【0119】
ここで、σはイオン伝導度、Sは電解質面積(
図4中、枠型301の内径)、R
SEは上記のインピーダンス測定における固体電解質の抵抗値、tは電解質の厚み(
図4中、複数の固体電解質粒子100の圧縮体の厚み)である。
【0120】
22℃で測定された、実施例1の固体電解質材料のイオン伝導度は、2.4×10-4S/cmであった。
【0121】
[二次電池の作製]
アルゴングローブボックス内で、実施例1の固体電解質材料と、活物質であるLiCoO2を、70:30の体積比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、合剤を作製した。
【0122】
絶縁性外筒の中で、実施例1の固体電解質材料を700μm厚相当分、上述の合剤を8.54mg、Al粉末を14.7mgの順に積層した。これを300MPaの圧力で加圧成型することで、第1電極と固体電解質層を得た。
【0123】
次に、固体電解質層の第1電極と接する側とは反対側に、金属In(厚さ200μm)を積層した。これを80MPaの圧力で加圧成型することで、第1電極、固体電解質層、第2電極からなる積層体を作製した。
【0124】
次に、積層体の上下にステンレス鋼集電体を配置し、集電体に集電リードを付設した。
【0125】
最後に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性外筒内部を外気雰囲気から遮断・密閉した。
【0126】
以上により、実施例1の二次電池を作製した。
【0127】
[充放電試験]
図6は、初期放電特性を示すグラフである。
【0128】
図6に示される結果は、下記の方法により、測定された。
【0129】
すなわち、実施例1の二次電池を、25℃の恒温槽に、配置した。
【0130】
電池の理論容量に対して0.05Cレート(20時間率)となる電流値で、定電流充電し、電圧3.6Vで充電を終了した。
【0131】
次に、同じく0.05Cレートとなる電流値で、放電し、電圧1.9Vで放電を終了した。
【0132】
以上の測定の結果、実施例1の二次電池の初期放電容量は、455μAhであった。
【0133】
≪実施例2から13≫
以下、実施例2から13の合成および評価方法について説明する。
【0134】
[固体電解質材料の作製]
実施例2から13においては、露点-60℃以下、酸素値5ppm以下のドライ・低酸素雰囲気で保たれるグローブボックス内で、原料粉を秤量した。実施例2から13のそれぞれにおける重量混合比は、後述の表1に示される。
【0135】
実施例6においては、その後、さらに300℃で24時間、アルゴン雰囲気で熱処理を行った。
【0136】
これ以外は、上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から13のそれぞれの固体電解質材料を作製した。
【0137】
[結晶構造の解析]
上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から13のそれぞれの固体電解質材料の結晶構造の測定を行った。
【0138】
実施例2から13のX線回折図形は、
図2に示される。ピークの2θの値は後述の表2に記載される。
【0139】
又、実施例1と同様に、
図2に示されるX線回折図形の横軸2θをq=4πsin(θ)/λで変換し、更に、2θ=30°から33°の範囲内の強度の高いピークのq値をq
0とした際に、q
0で規格化したq/q
0の値を横軸にとった場合の回折図形は
図3に示される。ピークのq/q
0の値は後述の表3に記載される。
【0140】
実施例2から13のそれぞれの固体電解質材料について、得られたX線回折パターンを解析した。その結果、実施例2から13のすべてにおいて、六方最密充填構造が歪んだ構造であるLEC構造、もしくは、LYC構造から観測されるXRD回折パターンの一部のピークと略一致した。このことは、そのアニオンの副格子が、LEC構造、もしくは、LYC構造のアニオンの副格子の構造と同一であることを示す。
【0141】
[リチウムイオン伝導度の評価]
露点-90℃以下、酸素値5ppm以下のドライ・低酸素雰囲気で保たれるグローブボックス内で、上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から13のそれぞれの伝導度測定セルを作製した。
【0142】
これ以外は、上記の実施例1と同様の方法で、イオン伝導度の測定を行った。
【0143】
上述の実施例2から13におけるイオン伝導度は、後述の表2と表3に示される。
【0144】
[二次電池の作製]
露点-90℃以下、酸素値5ppm以下のドライ・低酸素雰囲気で保たれるグローブボックス内で、実施例2から13のそれぞれの固体電解質材料と、正極活物質であるLiCoO2を、30:70の体積比率で秤量した。これらをメノウ乳鉢で混合することで、実施例2から13のそれぞれの正極合剤を作製した。
【0145】
これら以外は、上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から13のそれぞれの二次電池を作製した。
【0146】
[充放電試験]
上記の実施例1と同様の方法で、実施例2から13のそれぞれの二次電池の充放電試験を行った。実施例2から13の初期放電特性は、実施例1と同様の特性を示し、良好な充放電特性を得た。
【0147】
≪比較例1≫
固体電解質の原料粉として、409.3mgのLiClと547.3mgのYCl3と49.4mgのSrCl2を混合した。その後、遊星型ボールミルを用い、13時間、600rpmでミリング処理し、アセトニトリルの溶媒で溶解したのち、100℃の加熱により再析出させた。
【0148】
これ以外は、上記の実施例1と同様の方法で、それぞれの合成、評価および解析を、実施した。
【0149】
22℃で測定されたイオン伝導度は、1×10-8S/cmより低かった。
【0150】
X線回折図形より、2θ=30°から33°の範囲に含まれる2θ=32.34°に比較的高強度のピークが観測されたが、2θ=15°から18°、39°から43°、47°から51°の範囲には、強度の高いピークは観測されず、27.8°から30°の間または、44.49°または54.06°など、異なる2θの範囲にピークが観測された。
【0151】
又、2θ=32.34°に確認されたピークのq値をq0として、q/q0の値を横軸としたX線回折図形においては、q/q0=0.50から0.52、1.28から1.30、1.51から1.54の範囲には強度の高いピークは観測されなかった。
【0152】
≪比較例2≫
固体電解質の原料粉として、63.0mgのLiClと937.0mgのNbCl5を混合した。
【0153】
これ以外は、上記の実施例1と同様の方法で、それぞれの合成、評価および解析を、実施した。
【0154】
22℃で測定されたイオン伝導度は、1×10-7/cmであった。
【0155】
X線回折図形は、
図2に示される。ピークの2θの値は後述の表2に記載される。
【0156】
又、実施例1と同様に、横軸2θをq=4πsin(θ)/λで変換し、更に、2θ=25°から35°の範囲内の二つの強度の高いピークのうち、低角側のピークのq値をq
0とした際に、q
0で規格化したq/q
0の値を横軸にとった場合の回折図形は
図3に示される。ピークのq/q
0の値は後述の表3に記載される。
【0157】
X線回折図形を解析したところ、比較例2のアニオンの副格子は六方最密充填構造であった。
【0158】
上述の実施例1から13および比較例1と2における各構成と各評価結果とが、表1から3に示される。
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
≪考察≫
実施例1から13は、比較例1、2と比較して、室温近傍において、1×10-4S/cm以上の高いイオン伝導性を示すことがわかる。
【0163】
実施例1、2と比較例1とを比較すると、構成元素は同じLi、Y、Sr、Clであっても、実施例1、2、のX線回折図形において、2θ=15°から18°、30°から33°、39°から43°、47°から51°のそれぞれの範囲内にピークが観測されるのに対し、比較例1では、30°から33°以外の上述の範囲内には強度の高いピークは観測されず、一方、上述の範囲外に高強度のピークが観測され、異なる結晶構造であった。結晶構造の相違は、表3または
図3で表される規格化された散乱ベクトルq/q
0を横軸とした回折図形でより顕著に表れる。すなわち、実施例1、2においては、30°から33°の範囲のピークにおけるq
0の値を基準とした際に、q/q
0=0.51、1.00、1.13、1.53の位置にピークが観測されるのに対し、比較例1においては、全く異なる位置にピークが観測され、結晶構造が異なる。
【0164】
一方、実施例1から13と比較例2とを比較すると、回折ピーク位置は同様の関係であることから、結晶構造は同様の結晶構造であることがわかるが、構成元素が異なる。
【0165】
また、室温ではイオン伝導が確認できていなかった非特許文献1のLi3YCl6および非特許文献2のLi3YBr6と比べると、実施例1から13は、格段に伝導度が高い。
【0166】
したがって、構成元素がLi、Y、M、Xからなる固体電解質材料であって、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Zr、Nb、Taからなる群より選択される1種または2種以上の元素であり、Xは、Cl、Br、Iからなる群より選択される1種または2種以上の元素であり、かつ、Cu-Kα線(波長1.5405Å、および、1.5444Å)をX線として用いて、θ―2θ法でX線回折を測定し、十分な強度が得られる場合には、回折角2θの値が、15°から18°、30°から33°、39°から43°、47°から51°のそれぞれの範囲内に比較的強度の高いピークが観測される電解質材料であれば、1×10-4S/cm以上の高いイオン伝導度を示す。
【0167】
また、X線回折図形の横軸として一般的に用いられる2θの値をq=4πsin(θ)/λで定義される散乱ベクトルに変換し、更に、q=2.109Å-1から2.315Å-1の範囲内に存在するピークをq0とし、規格化されたq/q0を横軸として回折図形を作図した際に、q/q0の値が、それぞれ、0.50から0.52、1.28から1.30、1.51から1.54の範囲内に、それぞれピークが観測される固体電解質材料であれば、1×10-4S/cm以上の高いイオン伝導度を示す。
【0168】
また、実施例1から13においては、いずれも室温において電池の充放電動作を示した。一方で、比較例1、2においては、放電容量がほとんど取れず、電池動作の確認ができなかった。さらに、実施例1から13の材料は、構成元素に硫黄を含まないため、硫化水素の発生がない。
【0169】
以上により、本開示による固体電解質材料は、硫化水素の発生が無く、かつ、高いリチウムイオン伝導度を示し、良好な充放電動作をすることができる電解質材料であることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本開示の電池は、例えば、全固体リチウム二次電池などとして、利用されうる。
【符号の説明】
【0171】
100 固体電解質粒子
201 正極
202 電解質層
203 負極
204 正極活物質粒子
205 負極活物質粒子
300 加圧成形用ダイス
301 枠型
302 パンチ下部
303 パンチ上部
1000 電池