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特許7253714生体貼付用膜及び生体貼付用膜を貼り付ける美容方法
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  • 特許-生体貼付用膜及び生体貼付用膜を貼り付ける美容方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】生体貼付用膜及び生体貼付用膜を貼り付ける美容方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20230331BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230331BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q19/00
A61K8/86
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020518974
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004366
(87)【国際公開番号】W WO2019220701
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018095741
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】川島 知子
(72)【発明者】
【氏名】谷池 優子
(72)【発明者】
【氏名】波潟 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴裕
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193604(JP,A)
【文献】特開2012-025704(JP,A)
【文献】特開昭58-089627(JP,A)
【文献】特開2014-227389(JP,A)
【文献】特開2016-124864(JP,A)
【文献】特開2009-091371(JP,A)
【文献】特開2009-073764(JP,A)
【文献】特開2004-123662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/90
A61Q 1/00- 90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
B32B 1/00- 43/00
A61F 13/15- 13/84
A61L 15/00- 33/18
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体貼付用膜を貼り付ける美容方法であって、
前記生体貼付用膜は、再生セルロースと、前記再生セルロースの生体組織への装着を促進する、下記式(A)で表される促進剤とを含み、かつ、20~5000nmの厚みを有する自己支持型であり、
水を含む装着剤を生体組織及び前記生体貼付用膜に付着させて、前記生体組織に前記生体貼付用膜を貼り付ける、
美容方法。
【化2】
[式中、a及びcは、0以上の整数であり、b及びdは、1以上の整数であり、R 1 は、水素原子、アシル基、又はアルキル基であり、R 2 は、水素原子、ヒドロキシル基、アシル基、又はアルキル基である。]
【請求項2】
前記装着剤は、多価アルコールを含有している、請求項1に記載の美容方法。
【請求項3】
請求項1に記載の美容方法に用いられる生体貼付用膜であって、
再生セルロースと、前記再生セルロースの生体組織への装着を促進する促進剤とを含み、
20~5000nmの厚みを有する自己支持型であり、
前記促進剤は、下記式(A)で表される、
生体貼付用膜。
【化1】
[式中、a及びcは、0以上の整数であり、b及びdは、1以上の整数であり、R1は、水素原子、アシル基、又はアルキル基であり、R2は、水素原子、ヒドロキシル基、アシル基、又はアルキル基である。]
【請求項4】
前記再生セルロースは、30,000以上の重量平均分子量を有する、請求項に記載の生体貼付用膜。
【請求項5】
20~1300nmの厚みを有する、請求項又はに記載の生体貼付用膜。
【請求項6】
前記再生セルロースは、150,000以上の重量平均分子量を有する、請求項のいずれか1項に記載の生体貼付用膜。
【請求項7】
当該生体貼付用膜における前記促進剤の含有量が10~90重量%である、請求項のいずれか1項に記載の生体貼付用膜。
【請求項8】
前記促進剤は、2価以上の多価アルコール、ポリグリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つである、
請求項のいずれか1項に記載の生体貼付用膜。
【請求項9】
前記促進剤は、グリセリン、ポリグリセリン、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリスレート、ポリグリセリンカプリレート、及びポリグリセリンミリスレートからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項に記載の生体貼付用膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体貼付用膜及び生体貼付用膜を貼り付ける美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚等の生体組織に貼付される生体貼付用膜が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、顔料等の色材が多量に配合されている、ファンデーション等の化粧料が衣服等に付着しない、いわゆる二次付着レス効果に優れる美容方法が記載され、この美容方法に用いられる薄膜も記載されている。この薄膜は、基材膜と支持体とからなり、基材膜は10~500nmの厚みを有している。特許文献1に記載の美容方法において、基材膜が皮膚に貼付され、貼付された薄膜の支持体が除去される。基材膜の材料は、ポリ乳酸等の材料である。基材膜には、ヒアルロン酸等の成分が担持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/058060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術において、再生セルロースを含む生体貼付用膜については何ら検討されていない。そこで、本開示は、再生セルロースを含むとともに、生体組織への装着に要する時間を短くするのに有利な生体貼付用膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
再生セルロースと、前記再生セルロースの生体組織への装着を促進する促進剤とを含み、
20~5000nmの厚みを有する自己支持型であり、
前記促進剤は、下記式(A)で表される、
生体貼付用膜を提供する。
【化1】

[式中、a及びcは、0以上の整数であり、b及びdは、1以上の整数であり、R1は、水素原子、アシル基、又はアルキル基であり、R2は、水素原子、ヒドロキシル基、アシ
ル基、又はアルキル基である。]
【0007】
開示された実施形態の追加的な効果および利点は、明細書及び図面から明らかになる。効果及び/又は利点は、明細書及び図面に開示された様々な実施形態又は特徴によって個々に提供され、これらの1つ以上を得るために全てを必要とはしない。
【発明の効果】
【0008】
上記の生体貼付用膜は、再生セルロースを含みつつ、生体組織への装着に要する時間を短くするのに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
図2A図2Aは、本開示の生体貼付用膜の使用方法を示す図である。
図2B図2Bは、本開示の生体貼付用膜の使用方法を示す図である。
図2C図2Cは、本開示の生体貼付用膜の使用方法を示す図である。
図3図3は、本開示の積層体の別の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
特許文献1に記載されているように、皮膚等の生体組織に貼り付けられる膜の材料としてポリ乳酸が知られている。しかし、ポリ乳酸は、疎水性を示すので、蒸れ等の問題が生じる可能性があり、ポリ乳酸の膜を生体組織に長期間貼り付けることは必ずしも適切でないと考えられる。一方、セルロースの膜は、高い水蒸気透過度を有しやすく、汗などの水分を通しやすい。このため、セルロースの膜を皮膚に貼りつける場合、蒸れ等の問題に起因する不快感を低減できる。
【0011】
本発明者らは、従来実現されていなかった、再生セルロースで構成された、数μm以下の厚みの自己支持型の生体貼付用膜を開発した。本発明者らは、この生体貼付用膜についてさらに検討を重ねたところ、生体組織への装着に要する時間を短くする余地があることを突き止めた。そこで、本発明者らは、生体貼付用膜の生体組織への装着に要する時間を短くするために、多大な試行錯誤を繰り返した。その結果、再生セルロースを含む生体貼付用膜に所定の成分を含ませることによって、生体組織への装着に要する時間を短くできることを新たに見出した。本発明者らは、この新たな知見に基づいて本開示に係る生体貼付用膜を案出した。
【0012】
本開示に係る態様の概要は、以下の通りである。
【0013】
(項目1)
再生セルロースと、前記再生セルロースの生体組織への装着を促進する促進剤とを含み、
20~5000nmの厚みを有する自己支持型であり、
前記促進剤は、下記式(A)で表される、
生体貼付用膜。
【化2】

[式中、a及びcは、0以上の整数であり、b及びdは、1以上の整数であり、R1は、水素原子、アシル基、又はアルキル基であり、R2は、水素原子、ヒドロキシル基、アシ
ル基、又はアルキル基である。]
【0014】
(項目2)
前記再生セルロースは、30,000以上の重量平均分子量を有する、項目1に記載の生体貼付用膜。
【0015】
(項目3)
20~1300nmの厚みを有する、項目1又は2に記載の生体貼付用膜。
【0016】
(項目4)
前記再生セルロースは、150,000以上の重量平均分子量を有する、項目1~3のいずれか1つに記載の生体貼付用膜。
【0017】
(項目5)
当該生体貼付用膜における前記促進剤の含有量が10~90重量%である、項目1~4のいずれか1つに記載の生体貼付用膜。
【0018】
(項目6)
前記促進剤は、2価以上の多価アルコール、ポリグリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つである、項目1~5のいずれか1つに記載の生体貼付用膜。
【0019】
(項目7)
前記促進剤は、グリセリン、ポリグリセリン、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリスレート、ポリグリセリンカプリレート、及びポリグリセリンミリスレートからなる群から選ばれる少なくとも1つである、項目6に記載の生体貼付用膜。
【0020】
(項目8)
生体貼付用膜を貼り付ける美容方法であって、
前記生体貼付用膜は、再生セルロースと、前記再生セルロースの生体組織への装着を促進する、下記式(A)で表される促進剤とを含み、かつ、20~5000nmの厚みを有する自己支持型であり、
水を含む装着剤を生体組織及び前記生体貼付用膜に付着させて、前記生体組織に前記生体貼付用膜を貼り付ける、
美容方法。
【化3】

[式中、a及びcは、0以上の整数であり、b及びdは、1以上の整数であり、R1は、水素原子、アシル基、又はアルキル基であり、R2は、水素原子、ヒドロキシル基、アシル基、又はアルキル基である。]
【0021】
(項目9)
前記装着剤は、多価アルコールを含有している、項目8に記載の美容方法。
【0022】
(実施形態)
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は例示に過ぎず、本開示の生体貼付用膜及び生体貼付用膜を貼り付ける方法は、以下の実施形態に限定されない。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置、及び接続形態、並びに、ステップ及びステップの順序などの事項は、一例であり、本開示を限定する主旨で記載されたものではない。以下の種々の実施形態は、矛盾が生じない限り互いに組み合わせることが可能である。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、必須の構成要素と理解されるべきではない。以下の説明において、実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略することがある。また、図面が過度に複雑になることを避けるために、一部の要素の図示を省略することがある。
【0023】
図1に示す生体貼付用膜10は、再生セルロースと、促進剤とを含んでいる。促進剤は、再生セルロースの生体組織への装着を促進する。再生セルロースは、典型的には、生体貼付用膜10の骨格(基材)を形成する。生体貼付用膜10は、20~5000nmの厚みを有する自己支持型の膜である。本明細書において、「自己支持型の膜」とは、支持体なしに膜の形態を維持できる膜を意味する。例えば、指又はピンセットを用いて自己支持型の膜の一部をつまんで自己支持型の膜を持ち上げたときに、自己支持型の膜を破損させることなく、支持体なしに自己支持型の膜の全体を持ち上げることが可能である。促進剤は、下記式(A)で表される。
【化4】

[式中、a及びcは、0以上の整数であり、b及びdは、1以上の整数であり、R1は、水素原子、アシル基、又はアルキル基であり、R2は、水素原子、ヒドロキシル基、アシ
ル基、又はアルキル基である。]
【0024】
促進剤は、例えば、炭素鎖に結合した遊離ヒドロキシル基を有する。また、再生セルロースはヒドロキシル基を豊富に有する。このため、促進剤は、生体貼付用膜10の装着のために生体貼付用膜10と生体組織との間に後述のような水を含む装着剤を介在させた場合に、再生セルロース及び装着剤との双方に対し、前述のようなヒドロキシル基等を利用して水素結合等の相互作用を生じる。さらに、促進剤同士の間もヒドロキシル基等を利用して水素結合等の相互作用を生じうる。その結果、促進剤は、再生セルロースの生体組織への装着を促進する。上記の促進剤は、ポリ乳酸の膜等の高い疎水性を示す膜とは、相互作用しにくく、高い疎水性を示す膜の生体組織への装着を促進しにくいと考えられる。
【0025】
式(A)において、a及びcは、例えば0~5であり、bは、例えば1~10であり、dは、例えば1~100である。これにより、促進剤が、再生セルロースの生体組織への装着を促進する観点から、有利な親水性を有する。その結果、再生セルロースの生体組織への装着がより確実に促進される。式(A)において、a、b、及びcが1であり、dが100以下であってもよい。この場合、促進剤が、再生セルロースの生体組織への装着を促進する観点から、より有利な親水性を有する。
【0026】
式(A)において、R1又はR2がアシル基である場合、アシル基中に炭化水素鎖又は(ポリ)エチレングリコール鎖等の炭素原子を含有する分子鎖を含んでもよい。アシル基が炭素原子を含有するアルキル鎖又はアルキル基で構成される場合、この分子鎖の長さは特に限定されない。この分子鎖は、例えば、1以上30以下の原子で構成されている。このような分子鎖を有する物質は、生体において例えば皮脂等の物質としてよく存在する。仮に、促進剤のR1又はR2の部分が加水分解により促進剤から脱離しても、R1又はR2の脱離により生成された脂肪酸は、生体適合性を有しやすく、生体にとって害を及ぼしにくい。この分子鎖は、例えば、1以上14以下の原子で構成されている。この場合、促進剤が良好な親水性を有し、生体貼付用膜10が生体組織へ装着されやすい。なお、アシル基中の炭化水素鎖は飽和炭化水素鎖及び不飽和炭化水素鎖のいずれであってもよい。また、アシル基が(ポリ)エチレングリコール鎖を含有する分子鎖で構成される場合、この分子鎖の長さは特に限定されない。この分子鎖は、例えば、1以上100以下の原子で構成されている。100以下の場合、粘度が低いためべたつきが少なく、後述のように、生体貼付用膜10のべたつきが抑制され、生体貼付用膜10の取り扱いやすさの観点から有利である。
【0027】
促進剤は、例えば、2価以上の多価アルコール、ポリグリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つである。2価以上の多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、グリセリン、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、グルシトール、マンニトール、ボレミトール、ベルセイトール、ブタントリオール、ヘプタントリオール、ヘプタンテトラオール、ペンタントリオール、ペンタンテトラオール、ペンタンペンタオール、ヘキサントリオール、ヘキサンテトラオール、ヘキサンペンタオール、ヘプタトリオール、ヘプタテトラオール、ヘプタペンタオール、又はヘプタヘキサオールである。ポリグリセリンは、ジグリセリンでありうる。グリセリン脂肪酸エステルは、例えば、グリセリンカプリレート、グリセリンラウレート、グリセリンパルミチネート、グリセリンリノレート、グリセリンステアレート、グリセリンオレイネート、グリセリンベヘネート、又はグリセリンミリスレートである。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、例えば、ポリグリセリンカプリレート、ポリグリセリンラウレート、ポリグリセリンパルミチネート、ポリグリセリンリノレート、ポリグリセリンステアレート、ポリグリセリンオレイネート、ポリグリセリンベヘネート、又はポリグリセリンミリスレートである。
【0028】
促進剤は、グリセリン、ポリグリセリン、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリスレート、ポリグリセリンカプリレート、及びポリグリセリンミリスレートからなる群から選ばれる少なくとも1つでありうる。この場合、促進剤と再生セルロース及び装着剤との相互作用が良好な状態になり、再生セルロースが生体組織により装着されやすい。促進剤が、ポリグリセリン、ポリグリセリンカプリレート、又はポリグリセリンミリスレートであると、促進剤の1分子におけるヒドロキシル基の数が多く、促進剤がより適切に再生セルロースと相互作用しやすいと考えられる。
【0029】
生体貼付用膜10における促進剤の含有量は、例えば、10~90重量%である。生体貼付用膜10における促進剤の含有量が10%重量以上であれば、生体貼付用膜10の生体組織への装着の促進の観点から有利である。生体貼付用膜10における促進剤の含有量90重量%以下であれば、生体貼付用膜10のべたつきが抑制され、生体貼付用膜10の取り扱いやすさの観点から有利である。生体貼付用膜10における促進剤の含有量は、15~50重量%でありうる。生体貼付用膜10における促進剤の含有量が15%重量以上であれば、生体貼付用膜10の生体組織への装着の促進の観点からより有利である。生体貼付用膜10における促進剤の含有量が90重量%以下であれば、生体貼付用膜10のべたつきがさらに抑制され、生体貼付用膜10の取り扱いやすさの観点からより有利である。
【0030】
生体貼付用膜10における促進剤は、生体貼付用膜10の厚み方向において、均一に分布していてもよい。促進剤は、生体貼付用膜10において、特定の箇所に集中して存在していてもよい。例えば、生体貼付用膜10において、促進剤が高濃度に存在する複数の領域が、所定の間隔で存在していてもよい。促進剤は、生体貼付用膜10の表面において、層状に存在していてもよい。この場合、促進剤の層は、再生セルロースによって構成された基材の全体を覆っていてもよいし、基材の一部を覆っていてもよい。
【0031】
生体貼付用膜10において、促進剤は、生体貼付用膜10の表面に存在していてもよいし、厚み方向において生体貼付用膜10の表面以外に存在していてもよい。例えば、生体貼付用膜10における促進剤の少なくとも一部は、生体貼付用膜10の厚み方向において、生体貼付用膜10の表面から再生セルロースの間に連続的に存在している。この場合、前述のように、促進剤がより多く相互作用することで、再生セルロース及び装着剤の双方と相互作用しやすく、生体貼付用膜10の生体組織への装着がより確実に促進される。
【0032】
再生セルロースは分子内または/および分子間で水素結合を形成しやすく、生体貼付用膜10は密な構造を有しやすい。このため、生体貼付用膜10は、後述のように、高い強度を有し、かつ、適度な柔軟性を有し、破れにくい。さらに、セルロースは、両親媒性を示すので、親水性の有効成分及び疎水性の有効成分を適切に担持でき、生体貼付用膜10は高い汎用性を有する。
【0033】
再生セルロースの原料は、特に限定されない。例えば、再生セルロースの原料は、植物由来の天然セルロース、生物由来の天然セルロース、セロハン等の再生セルロース、又はセルロースナノファイバー等の加工されたセルロースでありうる。再生セルロースの原料における不純物の濃度が10重量%以下であることが有利である。
【0034】
再生セルロースは、例えば、実質的に以下の式(I)で表されるセルロースである。ここで、「実質的に式(I)で表されるセルロース」とは、式(I)で表されるセルロースにおけるグルコース残基のヒドロキシル基が90%以上残っているセルロースを意味する。式(I)で表されるセルロースにおけるグルコース残基のヒドロキシル基の数に対する、生体貼付用膜10に含まれるセルロース中のグルコース残基のヒドロキシル基の数の割合は、例えばX線光電子分光(XPS)等の公知の方法で定量できる。なお、生体貼付用膜10に含まれる再生セルロースは、場合によっては、分岐構造を含んでいてもよい。人工的に誘導体化されたセルロースは、典型的には、「実質的に式(I)で表されるセルロース」には該当しない。一方、「実質的に式(I)で表されるセルロース」からは、誘導体化を経て再生されたセルロースが排除されるわけではない。誘導体化を経て再生されたセルロースであっても、「実質的に式(I)で表されるセルロース」に該当することがある。
【0035】
【化5】
【0036】
本開示の実施形態では、生体貼付用膜10が再生セルロースで構成されている。天然セルロースのファイバーを水などに分散させた懸濁液から形成された膜の強度は、セルロースのファイバーを構成するナノファイバー間の水素結合が担う。そのため、脆いセルロース膜しか得られない。これに対し、再生セルロースで構成された膜では、ナノファイバーが分子鎖の単位までほぐされているので、再生セルロースで構成された膜の強度は、セルロース分子鎖間の水素結合が担うことになる。すなわち、再生セルロースで構成された膜では、ナノファイバーよりも小さい単位同士の水素結合が均一に形成される。そのため、天然セルロースのファイバーを水などに分散させた懸濁液から膜を形成した場合と比較して、高い強度を有し、かつ、脆さを抑制して、適度な柔軟性を有し、かつ、破れにくいセルロース膜を提供することができる。ここで、「ナノファイバー」は、「ナノフィブリル(またはマイクロフィブリル)」とも呼ばれ、セルロース分子が集合した最も基本となる単位であり、約4nmから約100nm程度の幅を有し、例えば約1μm以上の長さを有する。
【0037】
本明細書において、「再生セルロース」は、天然セルロースに特有の結晶構造Iを持たないセルロースを意味する。セルロースの結晶構造は、XRDパターンによって確認することが可能である。天然セルロースはCuKα線を用いたXRDパターンにおいて、結晶構造Iに特有の、14-17°および23°付近のピークが現れるが、再生セルロースは、結晶構造IIであることが多く、12°、20°および22°付近にピークを有し、14-17°および23°付近のピークを有しない。
【0038】
例えば、生体貼付用膜10に含まれる再生セルロースの質量基準で90%以上が、化学修飾及び誘導体化がなされていない再生セルロースである。望ましくは、生体貼付用膜10に含まれる再生セルロースの質量基準で98%以上が、化学修飾又は誘導体化がなされていない再生セルロースでありうる。この場合、生体貼付用膜10には、化学修飾及び誘導体化がなされていないセルロースが多く含まれ、セルロースの1分子鎖あたりにより多くの水酸基が含まれると考えられる。このため、セルロースの分子間により多くの水素結合が形成され、生体貼付用膜10が高い強度を有しやすいと考えられる。生体貼付用膜10に含まれる再生セルロースは、未架橋であってもよい。
【0039】
生体貼付用膜10に含まれるセルロースは、例えば、0~12%の結晶化度を有する。この場合、結晶構造の形成に関わる水酸基の量が適度に少なく、生体貼付用膜10の生体への密着性が高くなりやすい。なお、水酸基が存在すべきサイトにおいて所定の化学修飾がなされることにより、生体貼付用膜10が様々な機能を発現しうる。
【0040】
生体貼付用膜10に含まれるセルロースの結晶化度は、例えば、Park et al. "Cellulose crystallinity index: measurement techniques and their impact on interpreting cellulase performance" Biotechnology for Biofuels 2010, 3 10に報告されている13C-NMRを利用した手法によって決定できる。この手法によれば、固体13C-NMR測定により取得されたスペクトルにおける、87~93ppm付近のピークを結晶構造由来とみなし、80~87ppm付近のブロードなピークを非結晶構造由来とみなして、前者のピーク面積をX、後者のピーク面積をYと表すとき、下記の式により結晶化度が決定される。下記の式において、「×」は、乗算を表す。
(結晶化度)%=(X/(X+Y))×100
【0041】
上記の通り、生体貼付用膜10は、20~5000nmの厚みを有する。生体貼付用膜10の厚みが20nm以上であれば、生体貼付用膜10は、高い強度を有し、取り扱いやすい。このため、生体貼付用膜10が生体組織に貼り付け可能な自己支持型の膜として機能しうる。生体貼付用膜10の厚みが5000nm以下であれば、生体貼付用膜10を生体組織に装着するときに生体貼付用膜10が剥離しにくい。また、生体貼付用膜10の厚みがこのような範囲であると、例えば、流水によって生体貼付用膜10を生体組織から容易に剥離させることができる。生体貼付用膜10の厚みは、例えば、生体貼付用膜10の厚みを複数箇所測定し、平均することによって決定される。各箇所における厚みは、例えば、ブルカー ナノ インコーポレイテッド製 触針式プロファイリングシステム DEKTAK(登録商標)を用いて測定できる。
【0042】
生体貼付用膜10の厚みは、100nm以上であってもよい。生体貼付用膜10の厚みが100nm以上であると、生体貼付用膜10の強度が高まり、生体貼付用膜10が取り扱いやすい。生体貼付用膜10の厚みは、300nm以上であってもよい。生体貼付用膜10の厚みが300nm以上であると、生体貼付用膜10の強度がより高まり、生体貼付用膜10が破れにくく容易に使用できる。生体貼付用膜10の厚みは、500nm以上であってもよい。生体貼付用膜10の厚みが500nm以上であると、より多くの美容成分等の有効成分を生体貼付用膜10に保持させることができる。生体貼付用膜10の厚みは、2000nm以下であってもよい。生体貼付用膜10の厚みが2000nm以下であると、生体貼付用膜10の生体組織への密着性が高く、皮膚等の生体組織の表面に生体貼付用膜10を安定的に貼り付けることができる。生体貼付用膜10の厚みは、1300nm以下であってもよい。生体貼付用膜10の厚みが1300nm以下であると生体貼付用膜10の生体組織への密着性がより高く、皮膚等の生体組織の表面に生体貼付用膜10を長時間安定的に貼り付けた状態を維持することができる。
【0043】
再生セルロースは、例えば、30,000以上の重量平均分子量を有する。この場合、生体貼付用膜10の厚みが5000nm以下のシートを作製できる。再生セルロースの重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定できる。
【0044】
再生セルロースは、150,000以上の重量平均分子量を有していてもよい。この場合、生体貼付用膜10の厚みが1300nm以下の厚みに調整されても、生体貼付用膜10を自己支持型の膜として作製できる。
【0045】
生体貼付用膜10を平面視したとき生体貼付用膜10の形状は特に限定されない。生体貼付用膜10は、平面視で、円形、楕円形、又は多角形でありうる。生体貼付用膜10は、平面視で、不定形であってもよい。
【0046】
生体貼付用膜10は、単層膜であってもよいし、複数の層が積層された積層構造を有する膜であってもよい。生体貼付用膜10が積層構造を有する膜である場合、複数の層に保持される有効成分は、同一であってもよいし、層毎に異なっていてもよい。なお、生体貼付用膜10は、再生セルロースを含む層と、再生セルロース以外の材料で形成された層とが積層された積層構造を有していてもよい。
【0047】
生体貼付用膜10は、美容用途の場合、例えば、(i)美白、保湿、及びシワ対策等のスキンケア、(ii)育毛、増毛、脱毛、及びヘアスタイリング等のヘアケア、又は(iii)ファンデーション、フェイスパウダー、及びネイルアート等のメイクアップに用いられる。生体貼付用膜10は、医薬用途の場合、例えば、鎮痛消炎薬、抗炎症薬、強心薬、抗真菌薬、副腎皮質ホルモン薬、及び血行促進薬等の医薬の生体への投与に利用されてもよい。
【0048】
生体貼付用膜10は、再生セルロース及び促進剤以外の成分を含んでいてもよい。例えば、生体貼付用膜10は、所定の有効成分を含みうる。促進剤は、有効成分を兼ねていてもよい。有効成分は、例えば、美白成分、紫外線防御成分、保湿成分、育毛成分、及び化粧料等の美容成分又は薬効成分でありうる。美容成分は、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、サクシノグルカン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、ムチン、コンドロイチン硫酸、キシリトール、マルチトース、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、レチノール、レチナール、及びレチノイン酸等のビタミンA、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ピリドキサミン、及び葉酸等のビタミンB、アスコルビン酸(ナトリウム)等のビタミンC、エルゴカルシフェロール及びコレカルシフェロール等のビタミンD、α-トコフェロール等のビタミンE、フィロキノン及びメナキノン等のビタミンK、トレチノイン及びパルミチン酸レチノール等のビタミンA誘導体、フルスルチアミン等のビタミンB誘導体、グリセリルアスコルビン酸及びテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等のビタミンC誘導体、ジヒドロタキステロール等のビタミンD誘導体、酢酸α-トコフェロール、α-トコフェリルキノン、及びコハク酸α-トコフェロール等のビタミンE誘導体、ハイドロキノン、4-メトキシサリチル酸カリウム、ルシノール、アントシアニン等のポリフェノール、3-サクシニルオキシグリチルレチン酸二ナトリウム、プラセンタ、ジオキシベンゾン、4-メトキシけい皮酸2-エチルヘキシル、各種アミノ酸、ケラチン、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス、キチン、キトサン、アルブチン、エラグ酸、コウジ酸、トラネキサム酸、グリセロール、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸、セラミド、ミノキシジル、フィナステリド、コラーゲン、エラスチン、各種エキス、クエン酸、レシチン、カルボマー、キサンタンガム、デキストラン、パルミチン酸、ラウリン酸、ワセリン、酸化チタン、酸化鉄、合成色素、染料、フェノキシエタノール、フラーレン、アスタキサンチン、コエンザイム、ヒトオリゴペプチド、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、ピロリドンカルボン酸、脂肪酸ポリグリセリル、ポリグリセリン、ホホバオイル、トリメチルグリシン、マンニトール、トレハロース、グリコシルトレハロース、プルラン、エリスリトール、エラスチン、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチルヘキサン酸エチル、アクリル酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、スクワラン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸グリセリン、エタノール、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、又はエクトインである。薬効成分は、例えば、セファランチン、ルチン、硝酸イソソルビド、インドメタシン、ジフルコルトロン吉草酸エステル、アシクロビル、ケトコナゾール、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、デキサメタゾンプロピオン酸エステル、フェルビナク、クロベタゾールプロピオン酸エステル、ロキソプロフェン、サリチル酸メチル、又はタクロリムスである。これらの有効成分は、固体、溶液、分散液、又はエマルジョンの状態で生体貼付用膜10に含まれうる。
【0049】
生体貼付用膜10の少なくとも一部は、着色されていてもよい。例えば、生体貼付用膜10の少なくとも一部は、皮膚の色に近い色に着色されていてもよい。この場合、皮膚におけるシミ、ほくろ、及び傷痕を生体貼付用膜10で覆って、これらを目立たなくすることができる。
【0050】
生体貼付用膜10は、例えば、顔及び腕等の部位において皮膚又は爪に貼り付けられて使用される。このため、生体貼付用膜10は、典型的には、7mm2以上の面積を有する。これにより、生体貼付用膜10を皮膚に貼り付けるときに広い領域を覆うことができる。なお、生体貼付用膜10は、臓器等の皮膚以外の生体組織の表面に貼り付けられてもよい。生体貼付用膜10を臓器の表面に貼り付けることによって、臓器の治癒を促すことができる。また、臓器同士の癒着を防止できる。
【0051】
装着剤は、水を含む限り特に制限されない。装着剤は、例えば、純水、蒸留水、生理食塩水、水を含む化粧水、水を含む乳液、水を含む美容液、及び水を含むクリームからなる群から選ばれる1つである。装着剤の質量に対する水の質量の比は、特に制限されない。この比は、例えば、1%以上である。この場合、生体貼付用膜10を生体組織に装着しやすい。より望ましくは、10%以上である。この場合、生体貼付用膜10を生体組織により装着しやすい。また、装着剤は、例えば、水、油脂、アルコール、又は乳化剤などを含有し、前述の、1種以上の有効成分をさらに含有していてもよい。
【0052】
生体貼付用膜10を貼り付ける美容方法の一例において、水を含む装着剤を生体組織及び生体貼付用膜10に付着させて、生体組織に生体貼付用膜10を貼り付ける。装着剤の供給と、生体貼付用膜10を生体組織に近づける作業との順番は特に限定されない。例えば、生体貼付用膜10を生体組織に接触させた状態で、装着剤を、生体貼付用膜10及び生体組織に向かって滴下してもよい。また、装着剤を生体組織に向かって滴下した後に、生体組織に付着した装着剤に生体貼付用膜10を接触させてもよい。
【0053】
装着剤は、多価アルコールを含有していてもよい。この場合、生体貼付用膜10を生体組織により装着しやすい。多価アルコールは、特に制限されない。多価アルコールは、例えば、グリセリン及びプロパンジオールの少なくとも1つである。この場合、生体貼付用膜10の生体組織への密着性が高く、生体貼付用膜10を短時間で生体組織に装着できる。装着剤の質量に対するプロパンジオールの質量の比は、例えば5~15質量%である。装着剤の質量に対するグリセリンの質量の比は、例えば5~10%である。装着剤がこのような比でプロパンジオール又はグリセリンを含むと、生体貼付用膜10の生体組織への密着性がより向上し、より短時間で生体貼付用膜10を生体組織に装着できる可能性が高まる。
【0054】
図1に示す通り、生体貼付用膜10は、例えば、積層体50aの状態で提供される。積層体50aは、生体貼付用膜10と、第一保護層21とを備えている。生体貼付用膜10は、第一主面11及び第二主面12を有する。第二主面12は、生体貼付用膜10において第一主面11の反対側に位置する。第一保護層21は、第一主面11上に配置されている。第一保護層21は、第一主面11から取り外し可能な層である。第一保護層21は、例えば第一主面11に接触している。
【0055】
第一保護層21は、例えば、(i)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリウレタン、合成ゴム、セルロース、テフロン(登録商標)、アラミド、及びポリイミド等の高分子材料のシート、織布、不織布、若しくはメッシュ、(ii)シート状の金属、又は(iii)シート状のガラスでありうる。第一保護層21の表面の全体又は一部には、化学的又は物理的な表面処理が施されていてもよい。なお、第一保護層21は、平面視で、生体貼付用膜10の形状と同一又は異なる形状を有し、生体貼付用膜10の大きさと同一又は異なる大きさを有する。例えば、単一の第一保護層21の上に複数の生体貼付用膜10が配置されていてもよい。なお、生体貼付用膜10は、第一保護層21なしでもその形状を維持できる。このため、第一保護層21が第一主面11から取り外されても、生体貼付用膜10はその形状を維持できる。
【0056】
図2Aに示す通り、例えば、生体貼付用膜10の第二主面12を生体の特定の部位(例えば、皮膚)に向けて積層体50aを近づけ、生体貼付用膜10の第二主面12を生体の特定の部位に接触させる。このとき、生体の特定の部位又は生体貼付用膜10に装着剤が供給される。次に、図2Bに示す通り、生体貼付用膜10の第一主面11から第一保護層21を剥離する。このとき、生体貼付用膜10は、生体組織に密着しており、生体貼付用膜10が生体組織に貼り付いた状態が保たれる。第一保護層21が完全に剥離されると、図2Cに示す通り、生体貼付用膜10の第一主面11の全体が露出する。
【0057】
積層体50aは、図3に示す積層体50bのように変更されてもよい。積層体50bは、特に説明する場合を除き、積層体50aと同様に構成されている。積層体50aの構成要素と同一又は対応する積層体50bの構成要素には、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。積層体50aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、積層体50bにも当てはまる。
【0058】
図3に示す通り、積層体50bは、第二保護層22をさらに備えている。第二保護層22は、第二主面12上に配置されている。第二保護層22によって、第二主面12を保護できる。また、第二保護層22によって、積層体50bのハンドリングが容易になる。
【0059】
第二保護層22の材料は、第一保護層21の材料と同一であってもよいし、第一保護層21の材料と異なっていてもよい。第二保護層22は、平面視で、生体貼付用膜10の形状と同一又は異なる形状を有し、生体貼付用膜10の大きさと同一又は異なる大きさを有する。第二保護層22は、平面視で、第一保護層21の形状と同一又は異なる形状を有し、第一保護層21の大きさと同一又は異なる大きさを有する。
【0060】
第二保護層22は、典型的には、第二主面12から取り外し可能である。積層体50bを使用するときには、例えば、先ず、第二保護層22が生体貼付用膜10から剥離される。これにより、第二主面12が露出する。その後、第二主面12を生体の特定の部位に近づけ、積層体50aの使用方法と同様にして、生体貼付用膜10が生体の特定の部位に貼り付けられる。
【0061】
従来、皮膚に貼付するシートの材料として、ポリ乳酸が提案されている。しかしながら、ポリ乳酸は、疎水性材料であり、ムレなどが懸念されるために、長時間の使用には不適である。したがって、皮膚に貼付するような用途では、接着剤が皮膚に与える刺激および接着剤の水蒸気透過度を考慮する必要がある。
【0062】
これに対し、生体貼付用膜10は、その厚みが1300nm以下である場合、接着剤を要することなく皮膚200に貼りつけることが可能である。厚みが500nm以上であっても接着剤なしに皮膚に貼付可能である理由としては、生体貼付用膜10は、500nm以上の厚さを有する場合でもしなやかさを示し、凹凸(例えば頬、腕などの曲面)に追従しやすく、そのため、ポリ乳酸膜と比較して、セルロース膜表面の官能基およびファンデルワールス力の影響が大きくなり、密着性が向上するからであると推測される。接着剤なしに皮膚に貼付可能であるので、ムレなどを軽減して生体貼付用膜10を長時間使用することができる。さらに、セルロースは、生体適合性を有し、直接皮膚に貼付した場合であっても、皮膚に対して物理的または化学的なストレスを与えにくく、また、両親媒性で、親水性の特性を持ちながら水には溶けないという性質を有するので、汗などの水分によって溶解される心配がなく、耐久性に優れている。
【0063】
生体貼付用膜10の製造方法の一例を説明する。まず、溶媒にセルロースを溶解させてセルロース溶液を調製する。30,000以上の重量平均分子量の再生セルロース膜を得るために、重量平均分子量が少なくとも30,000以上のセルロースを用いる。これにより、5000nm以下の厚み有する自己支持型の生体貼付用膜を作製できる。150,000以上の重量平均分子量の再生セルロース膜を得るために、重量平均分子量が少なくとも150,000以上のセルロースを用いてセルロース溶液を調製してもよい。この場合、1300nm以下の厚み有する自己支持型の生体貼付用膜を作製できる。このように、セルロース溶液の調製において使用されるセルロースの重量平均分子量を大きくすることにより、1分子鎖において、より多くの水酸基が含まれることにより、多くの分子間水素結合を形成することが可能となることで、より薄い生態貼付用膜を安定に作製することができる。セルロース溶液の調製に使用するセルロースは、所望の重量平均分子量を有する限り、特に制限されない。セルロース溶液の調製に使用するセルロースは、例えば、パルプ及び綿花等の植物由来のセルロース、又は、バクテリア等の生物が生成したセルロースでありうる。セルロースの原料における不純物濃度は、例えば10重量%以下である。再生セルロースの重量平均分子量は、2,000,000以下であると取り扱いが容易となるため有用である。更に望ましくは再生セルロースの重量平均分子量は1,000,000以下である。
【0064】
溶媒は、例えば少なくともイオン液体を含有している溶媒(第1溶媒)である。第1溶媒を用いることにより、セルロースを比較的短時間で溶解させることができる。イオン液体は、アニオンとカチオンとから構成される塩であり、150℃以下の温度において液体状態を示しうる。第1溶媒に含まれるイオン液体は、例えば、アミノ酸又はアルキルリン酸エステルを含むイオン液体である。第1溶媒がこのようなイオン液体を含有していることにより、セルロースの分子量の低下を抑制しながらセルロースを溶解させることができる。特に、アミノ酸は、生体内に存在する成分であるこので、アミノ酸を含むイオン液体は、生体に対してより安全な生体貼付用膜10を形成するのに有利である。
【0065】
セルロースを析出させない溶媒によって予め希釈されたイオン液体を用いてセルロースを溶解してもよい。例えば、第1溶媒として、非プロトン性極性溶媒とイオン液体との混合物を用いてもよい。非プロトン性極性溶媒は、水素結合を形成しにくく、セルロースを析出させにくい。
【0066】
第1溶媒に含まれるイオン液体は、例えば、下記の式(II)で表されるイオン液体である。式(II)で表されるイオン液体において、アニオンがアミノ酸である。式(II)に記載の通り、このイオン液体において、アニオンは、末端カルボキシル基及び末端アミノ基を含んでいる。式(II)で表されるイオン液体のカチオンは、第四級アンモニウムカチオンであってもよい。
【化6】
【0067】
式(II)中、R1~R6は、独立して、水素原子又は置換基を表す。置換基は、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はフェニル基でありうる。置換基は、炭素鎖に分岐を含んでいてもよい。置換基は、アミノ基、ヒドロキシル基、又はカルボキシル基等の官能基を含んでいてもよい。nは、例えば、4又は5である。
【0068】
第1溶媒に含まれるイオン液体は、下記の式(III)で表されるイオン液体であっても
よい。式(III)中、R1、R2、R3、及びR4は、独立して、水素原子又は1~4個の炭
素原子を有するアルキル基を表す。
【化7】
【0069】
セルロース溶液を調製する工程において、第2溶媒をさらに加えてもよい。例えば、所定の重量平均分子量を有するセルロースと第1溶媒との混合物に第2溶媒をさらに加えてもよい。第2溶媒は、例えば、セルロースを析出させない溶媒である。第2溶媒は、非プロトン性極性溶媒でありうる。
【0070】
セルロース溶液のセルロースの濃度は、典型的には、0.2~15重量%である。セルロース溶液のセルロースの濃度が0.2重量%以上であれば、生体貼付用膜10の厚みを薄くしつつ、その形状を保つのに必要な強度を有する生体貼付用膜10が得られる。また、セルロース溶液のセルロースの濃度が15重量%以下であれば、セルロース溶液におけるセルロースの析出を抑制できる。セルロース溶液のセルロースの濃度は、1~10重量%であってもよい。セルロース溶液のセルロースの濃度が1重量%以上であると、より高い強度を有する生体貼付用膜10が得られる。セルロース溶液のセルロースの濃度が10重量%以下であると、セルロースの析出がより低減された安定したセルロース溶液を調製できる。
【0071】
次に、基板の表面にセルロース溶液を塗布して、基板の表面上に液膜を形成する。基板の表面の水に対する接触角は、例えば70°以下である。この場合、セルロース溶液の基板に対する濡れ性が適切であり、基板の表面に沿って広がりのある液膜を安定的に形成できる。基板の材料は、特に限定されない。基板は、典型的には、平滑な表面を有する非多孔構造を有する。この場合、基板の内部にセルロース溶液が入り込むことを防止でき、後工程において生体貼付用膜10を基板から分離しやすい。
【0072】
基板は、化学的又は物理的な表面改質がなされていてもよい。基板として、例えば、紫外線(UV)照射又はコロナ処理等の表面改質処理がなされたポリマー材料の基板を用いてもよい。表面改質の方法は特に限定されない。例えば、表面改質剤の塗布、表面修飾、プラズマ処理、スパッタリング、エッチング、又はブラストが適用されうる。
【0073】
基板にセルロース溶液の液膜を形成する方法は、例えば、アプリケータなどにより基板の表面との間に所定のギャップを形成するギャップコーティング、スロットダイコーティング、スピンコーティング、バーコーターを用いたコーティング(Metering rod coating)、及びグラビアコーティング等の方法である。ギャップの厚み又はスロットダイの開口の大きさと塗工スピード、スピンコートの回転数、又はバーコーターやグラビアコートの溝の深さや塗工スピードなどにより調整した液膜の厚みと、セルロース溶液の濃度を調整することによって、生体貼付用膜の厚みを調整可能である。なお、基板にセルロース溶液の液膜を形成する方法は、キャスティング法、スキージを用いたスクリーン印刷、吹付塗装、又は静電噴霧であってもよい。
【0074】
基板にセルロース溶液の液膜を形成するときに、セルロース溶液及び基板の少なくとも一方を加熱してもよい。この加熱は、例えば、セルロース溶液を安定に保つことができる温度範囲(例えば、40~100℃)で実施されてもよい。
【0075】
基板に形成されたセルロース溶液の液膜は、加熱されてもよい。液膜の加熱は、例えば、第1溶媒に含まれるイオン液体の分解温度よりも低い温度(例えば、50~200℃)でなされてもよい。このような温度で液膜の加熱を実行することにより、イオン液体以外の溶媒(例えば、第2溶媒など)を適度に除去でき、生体貼付用膜10の強度が高くなりやすい。液膜の加熱は、減圧環境下で実行されてもよい。この場合、溶媒の沸点よりも低い温度でイオン液体以外の溶媒をより短時間で適度に除去できる。
【0076】
基板にセルロース溶液の液膜を形成した後に、液膜はゲル化されてもよい。例えば、イオン液体に溶解可能であり、かつ、セルロースを溶解させない液体の蒸気に液膜を曝すことにより、液膜をゲル化させ、高分子ゲルシートを得ることができる。例えば、30~100%RHの相対湿度の環境下に液膜を放置すると、液膜中のイオン液体が水と接触することにより、液膜におけるセルロースの溶解度が低下する。これにより、セルロース分子の一部が析出し、3次元構造が形成される。その結果、液膜がゲル化する。ゲル化点の有無は、ゲル化した膜を持ち上げることが可能か否かによって判断できる。
【0077】
なお、液膜の加熱は、液膜のゲル化の前に行われてもよいし、液膜のゲル化の後に行われてもよいし、液膜のゲル化の前後で行われてもよい。
【0078】
次に、セルロースを溶解させない液体であるリンス液に、基板及び高分子ゲルシートを浸漬させる。この工程において、高分子ゲルシートからイオン液体が除去される。この工程は、高分子ゲルシートの洗浄の工程と理解されうる。この工程において、イオン液体に加えて、セルロース溶液に含まれていた成分のうち、セルロース及びイオン液体以外の成分(例えば、第2溶媒)の一部が除去されてもよい。リンス液は、典型的には、イオン液体に溶解可能な液体である。このような液体の例は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、トルエン、キシレン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドである。
【0079】
次に、高分子ゲルシートを促進剤の溶液に浸漬させる。このとき、促進剤の溶液は、上記の有効成分をさらに含んでいてもよい。促進剤の溶液における溶媒は、例えば、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、グリセリン、プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、及びジメチコンからなる群から選択される少なくとも1つである。促進剤の溶液への高分子ゲルシートの浸漬に代えて、噴霧法、蒸着、又は塗工によって高分子ゲルシートに促進剤を付着させてもよい。高分子ゲルシートは、促進剤の溶液への浸漬とは別に、上記の有効成分を含む溶液、分散液、又はエマルジョンに浸漬されてもよい。
【0080】
次に、高分子ゲルシートから溶媒等の不要な成分を除去する。換言すると、高分子ゲルシートを乾燥させる。高分子ゲルシートの乾燥方法として、自然乾燥、真空乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥、及び超臨界乾燥等の乾燥方法を適用できる。高分子ゲルシートの乾燥方法は真空加熱であってもよい。高分子ゲルシートの乾燥の条件は、特に限定されない。高分子ゲルシートの乾燥の条件として、第2溶媒及びリンス液の除去に十分な時間及び温度が選択される。高分子ゲルシートから溶媒が除去されることによって、生体貼付用膜10が得られる。
【0081】
高分子ゲルシートを乾燥させる工程において、例えば、凍結乾燥を適用する場合、凍結可能であり、かつ、100~200℃付近の沸点を有する溶媒が用いられる。例えば、水、tert-ブチルアルコール、酢酸、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、又はジメチルスルホキシド等の溶媒を利用して凍結乾燥を行うことができる。
【0082】
上記の方法では、高分子ゲルシートの乾燥に先立って、促進剤の溶液への高分子ゲルシートの浸漬が行われているが、高分子ゲルシートの乾燥の後に促進剤を付着させる工程が行われてもよい。例えば、高分子ゲルシートの乾燥により得られた高分子シートを促進剤の溶液に浸漬させてもよい。このとき、促進剤の溶液は、上記の有効成分をさらに含んでいてもよい。その後、浸漬後の高分子シートをさらに乾燥させる。なお、この場合も、噴霧法、蒸着、又は塗工によって高分子ゲルシートに促進剤を付着させてもよい。
【実施例
【0083】
実施例により、本開示の生体貼付用膜をより詳細に説明する。なお、本開示の生体貼付用膜は、以下の実施例に限定されない。まず、各実施例及び各比較例に係る生体貼付用膜の評価試験について説明する。
【0084】
<装着試験>
化粧水又は乳液等である各種の装着剤を前腕の内側の皮膚に滴下した。使用した装着剤の概要を表1~表3に示す。装着剤の滴下の直後に各実施例及び各比較例に係る積層体の生体貼付用膜を滴下した装着剤に接触させ、計時を開始した。計時開始から所定時間経過毎に、生体貼付用膜が皮膚に装着されているかどうかを確認し、生体貼付用膜が皮膚に装着された状態になるまでに要した時間(装着時間)を計測した。なお、生体貼付用膜が皮膚に装着された状態では、生体貼付用膜が皮膚に貼り付いたまま、積層体の不織布を剥がすことができた。
【0085】
(実施例1A)
90%以上の純度を有する、木材を原料とした漂白パルプ由来のセルロースをイオン液体で溶解させ、セルロース溶液を調製した。イオン液体としては、式(III)においてR1がメチル基、R2、R3、及びR4がエチル基であるイオン液体を用いた。基板上にセルロース溶液を塗布して塗膜を形成した。生体貼付用膜の厚みが400nmとなるように、塗膜の厚みを調整した。その後、セルロース溶液の塗膜をゲル化させて高分子ゲルシートを形成した。その後、基板および高分子ゲルシートを所定のリンス液を用いて洗浄した。次に、グリセリン水溶液に洗浄した高分子ゲルシートを浸漬させ、その後高分子ゲルシートを乾燥させて、実施例1Aに係る生体貼付用膜を得た。生体貼付用膜を基板から取り外し、不織布に重ねて、実施例1Aに係る積層体を得た。生体貼付用膜は、平面視で、概ね5cm四方の四角形状であり、透明な外観を有していた。また、実施例1Aに係る生体貼付用膜の構造をX線回折法(XRD)によって解析した。その結果、生体貼付用膜は、天然セルロースを含まないことが確認された。GPC測定によって生体貼付用膜の再生セルロースの重量平均分子量を決定した。再生セルロースの重量平均分子量は、224,000であった。
【0086】
ここで、生体貼付用膜に含まれるグリセリンの濃度を以下に記載の方法で決定した。予め、グリセリンを水に溶解させ、異なるグリセリン濃度を有する複数のグリセリン水溶液を調製した。その後、各グリセリン水溶液の屈折率を屈折率計(アタゴ社製、製品名:RX-5000α-Plus)で測定した。各グリセリン水溶液の濃度及び屈折率から検量線を作成し、検量線の傾きaを求めた。実施例1Aに係る生体貼付用膜を、水に1時間浸漬させ、超音波処理を行うことで、生体貼付用膜に含まれるグリセリンを抽出し、グリセリンの抽出液を得た。この抽出液の屈折率nを上記の屈折率計で測定した。屈折率n及び検量線の傾きaに基づいて、抽出液に含まれるグリセリンの質量を決定した。抽出液に含まれるグリセリンの質量を生体貼付用膜に含まれるグリセリンの質量とみなした。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるグリセリンの質量の比は、20%であった。
【0087】
(実施例1B)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例1Bに係る生体貼付用膜及び実施例1Bに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ジグリセリン水溶液を用いた。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるジグリセリンの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるジグリセリンの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0088】
(実施例1C)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例1Cに係る生体貼付用膜及び実施例1Cに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリン水溶液を用いた。ポリグリセリンの重量平均分子量は1,000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0089】
(実施例1D)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例1Dに係る生体貼付用膜及び実施例1Dに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、グリセリンモノカプリレート水溶液を用いた。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるグリセリンモノカプリレートの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるグリセリンモノカプリレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0090】
(実施例1E)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例1Eに係る生体貼付用膜及び実施例1Eに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリンモノカプリレート水溶液を用いた。ポリグリセリンモノカプリレートの重量平均分子量は900であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノカプリレートの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノカプリレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0091】
(実施例1F)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例1Fに係る生体貼付用膜及び実施例1Fに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、グリセリンモノミリスレート水溶液を用いた。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるグリセリンモノミリスレートの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるグリセリンモノミリスレートの質量は、実施例1Fに記載の方法に準じて決定した。
【0092】
(実施例1G)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例1Gに係る生体貼付用膜及び実施例1Gに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリンモノミリスレート水溶液を用いた。ポリグリセリンモノミリスレートの重量平均分子量は1000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノミリスレートの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノミリスレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0093】
(比較例1A)
洗浄した高分子ゲルシートをグリセリン水溶液に浸漬させずにそのまま乾燥させた以外は、実施例1Aと同様にして、比較例1Aに係る生体貼付用膜及び比較例1Aに係る積層体を作製した。
【0094】
(比較例2A)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、比較例2Aに係る生体貼付用膜及び比較例2Aに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリエチレングリコール水溶液を用いた。ポリエチレングリコールの重量平均分子量は約1000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリエチレングリコールの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリエチレングリコールの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0095】
(比較例2B)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、比較例2Bに係る生体貼付用膜及び比較例2Bに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリエチレングリコールモノカプリレート水溶液を用いた。ポリエチレングリコールモノカプリレートの重量平均分子量は約1000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリエチレングリコールモノカプリレートの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリエチレングリコールモノカプリレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0096】
(比較例3A)
250,000の重量平均分子量を有するポリ乳酸をクロロホルムに溶解させ、ポリ乳酸のクロロホルム溶液(ポリ乳酸の濃度:2.4質量%)を調製した。約500の重量平均分子量を有するポリビニルアルコールで形成された表面を有する基板上に、スピンコーティングによって、ポリ乳酸のクロロホルム溶液を塗布し、塗膜を形成した。この塗膜からクロロホルムを揮発させ、ポリ乳酸のシートを形成した。その後、ポリ乳酸のシートを水に浸漬させてポリビニルアルコールを溶解させ、ポリ乳酸のシートに付着した水を乾燥させて、ポリ乳酸膜を作製した。ポリ乳酸膜をグリセリンの水溶液中に浸漬し、その後ポリ乳酸膜を乾燥させて比較例3Aに係る生体貼付用膜を得た。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるグリセリンの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。比較例3Aに係る生体貼付用膜を不織布に重ねて、比較例3Aに係る積層体を得た。生体貼付用膜に含まれるグリセリンの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0097】
(比較例3B)
下記の点以外は、比較例3Aと同様にして、比較例3Bに係る生体貼付用膜及び比較例3Bに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリン水溶液を用いた。ポリグリセリンの重量平均分子量は1,000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0098】
(比較例3C)
下記の点以外は、比較例3Aと同様にして、比較例3Cに係る生体貼付用膜及び比較例3Cに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、グリセリンモノカプリレート水溶液を用いた。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるグリセリンモノカプリレートの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるグリセリンモノカプリレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0099】
(比較例3D)
下記の点以外は、比較例3Aと同様にして、比較例3Dに係る生体貼付用膜及び比較例3Dに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリンカプリレート水溶液を用いた。ポリグリセリンカプリレートの重量平均分子量は1,000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンカプリレートの質量の比が20%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンカプリレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0100】
(実施例2A)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例2Aに係る生体貼付用膜及び実施例2Aに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリン水溶液を用いた。ポリグリセリンの重量平均分子量は1,000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量の比が15%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0101】
(実施例2B)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例2Bに係る生体貼付用膜及び実施例2Bに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリン水溶液を用いた。ポリグリセリンの重量平均分子量は1,000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量の比が10%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0102】
(実施例3A)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例3Aに係る生体貼付用膜及び実施例3Aに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリンモノカプリレート水溶液を用いた。ポリグリセリンモノカプリレートの重量平均分子量は1,000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノカプリレートの質量の比が15%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノカプリレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0103】
(実施例3B)
下記の点以外は、実施例1Aと同様にして、実施例3Bに係る生体貼付用膜及び実施例3Bに係る積層体を作製した。グリセリン水溶液の代わりに、ポリグリセリンモノカプリレート水溶液を用いた。ポリグリセリンモノカプリレートの重量平均分子量は1,000であった。生体貼付用膜の質量に対する生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノカプリレートの質量の比が10%となるように浸漬条件を調整した。生体貼付用膜に含まれるポリグリセリンモノカプリレートの質量は、実施例1Aに記載の方法に準じて決定した。
【0104】
表1~表3に各実施例及び各比較例に係る生体貼付用膜に対する装着試験の結果(装着時間)を示す。なお、全ての実施例において、装着してから少なくとも30分以上継続して装着できることを確認した。表1及び表2によれば、実施例1A~1Gと比較例1Aを比較すると、生体貼付用膜に、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、グリセリンモノカプリレート、ポリグリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリスレート、又はポリグリセリンモノミリスレートが含まれると、装着時間が劇的に短縮できることが示された。比較例2A及び2Bによれば、炭素鎖中にヒドロキシル基が存在しないポリエチレングリコール等の成分が生体貼付用膜に含まれていても、装着時間の短縮は確認されなかった。加えて、ポリ乳酸膜にグリセリン等の成分を含ませても装着時間の短縮は確認されなかった。以上より、生体貼付用膜が再生セルロース及び所定の促進剤を含むことによって、生体貼付用膜の生体への装着時間が短くなることが示された。
【0105】
表3によれば、生体貼付用膜の質量に対するポリグリセリン及びポリグリセリンモノカプリレート等の成分の質量の比が、10%以上であると、装着時間が短縮されることが示された。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【符号の説明】
【0109】
10 生体貼付用膜
11 第一主面
12 第二主面
21 第一保護層
22 第二保護層
50a、50b 積層体
図1
図2A
図2B
図2C
図3